説明

剥離方法、および剥離液

【課題】短時間で容易に基板から支持板を剥離する剥離方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る剥離方法は、厚さ方向に貫通した貫通孔が設けられている支持板に接着剤によって貼着された基板を、該支持板から剥離する方法であって、貫通孔を介して剥離液を接着剤に接触させて、接着剤を溶解する工程を含んでいる。接着剤は、炭化水素樹脂を粘着成分とする接着剤である。剥離液は、粘度が1.3mPa・s以下であり、かつ接着剤に対する溶解速度が30nm/sec以上である炭化水素系溶剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持板が貼着された基板から、当該支持板を剥離する剥離方法、およびその剥離方法に用いられる剥離液に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルAV機器およびICカード等の高機能化に伴い、搭載される半導体シリコンチップ(以下、チップ)を小型化および薄板化することによって、パッケージ内にチップを高集積化する要求が高まっている。パッケージ内のチップの高集積化を実現するためには、チップの厚さを25〜150μmの範囲にまで薄くする必要がある。
【0003】
しかしながら、チップのベースとなる半導体ウエハ(以下、ウエハ)は、研削することにより薄化され、その強度は弱くなり、ウエハにクラックまたは反りが生じやすくなる。また、薄板化することによって強度が弱くなったウエハを自動搬送することは困難であるため、人手によって搬送しなければならず、その取り扱いが煩雑であった。
【0004】
そのため、研削するウエハにサポートプレートと呼ばれる、ガラスまたは硬質プラスチック等からなるプレートを貼り合わせることによって、ウエハの強度を保持し、クラックの発生およびウエハの反りを防止するウエハサポートシステムが開発されている。ウエハサポートシステムによりウエハの強度を維持することができるため、薄板化した半導体ウエハの搬送を自動化することができる。
【0005】
ウエハとサポートプレートとは、粘着テープ、熱可塑性樹脂および接着剤等を用いて貼り合わせられている。サポートプレートが貼り付けられたウエハを薄板化した後、ウエハをダイシングする前にサポートプレートを基板から剥離する。例えば、接着剤を用いてウエハとサポートプレートとを貼り合わせた場合、接着剤を溶解させてウエハをサポートプレートから剥離する。
【0006】
従来、接着剤を溶解させてウエハをサポートプレートから剥離するときに、接着剤への溶剤の浸透、接着剤の溶解等に時間を要し、結果としてウエハからサポートプレートを剥離するのに長時間要していた。このような問題を解決するために、容易に剥離することが可能な接着剤を用いる方法が特許文献1に記載されている。
【0007】
特許文献1においては、第1の粘着材料の粘着力を低下させる離型剤を内包し、熱により溶融するマイクロカプセルが分散された第1の粘着材料を有する第1の粘着剤層上に、熱により膨張する熱膨張性粒子が分散された第2の粘着材料を有する第2の粘着剤層を有する粘着剤を用いて、ワークを貼り合わせることが記載されている。
【0008】
そして、この粘着剤によりワークを貼り合わせた場合、粘着剤を加熱することによって、離型剤がマイクロカプセルから第1の粘着剤層内に放出され、さらに熱膨張性粒子の熱膨張による押圧力によって第1および第2の粘着剤層に亀裂が生じる結果、粘着剤の残渣をワークに残すことなく剥離することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−94957号公報(2008年4月24日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
サポートプレートを薄板化したウエハから剥離するとき、薄板化したウエハが破損しないように注意する必要がある。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、加熱および熱膨張性粒子の熱膨張による押圧力によって、ウエハが破損する可能性が高い。また、離型剤によるウエハの汚染、および熱膨張性粒子の含有による接着性の低下の問題も生じる。そのため、ウエハを破損および汚染することなく、より短時間で容易にウエハをサポートプレートから剥離することができる新たな剥離方法および剥離液の開発が求められている。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、より短時間で容易にウエハからサポートプレートを剥離することが可能な剥離方法、および剥離液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る剥離方法は、上記課題を解決するために、厚さ方向に貫通した貫通孔が設けられている支持板に接着剤によって貼着された基板を、該支持板から剥離する剥離方法において、剥離液を上記貫通孔を介して上記接着剤に接触させて、上記接着剤を溶解する工程を含んでおり、上記接着剤は、炭化水素樹脂を粘着成分とする接着剤であり、上記剥離液は、粘度が1.3mPa・s以下であり、かつ上記接着剤に対する溶解速度が30nm/sec以上である炭化水素系溶剤である構成である。
【0013】
また、本発明に係る剥離液は、上記課題を解決するために、支持板に基板を貼着させている接着剤を溶解する剥離液であって、粘度が1.3mPa・s以下であり、かつ上記接着剤に対する溶解速度が30nm/sec以上であり、単一または複数の炭化水素化合物からなる構成である。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明に係る剥離方法では、粘度が1.3mPa・s以下であり、かつ接着剤に対する溶解速度が30nm/sec以上である炭化水素系溶剤を剥離液として用いている。そのため、基板と支持板とを貼着させている接着剤の溶解に要する時間が短縮され、その結果、基板と支持板との剥離に要する時間を短縮することができる。
【0015】
また、本発明に係る剥離液は、粘度が1.3mPa・s以下であり、かつ接着剤に対する溶解速度が30nm/sec以上である炭化水素化合物からなる構成である。そのため、これを用いて基板と支持板とを剥離する際に、基板と支持板とを貼着させている接着剤の溶解に要する時間が短縮され、その結果、基板と支持板との剥離に要する時間を短縮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について説明すれば以下の通りである。
【0017】
本発明の剥離方法は、接着剤によって支持板に貼着された基板を当該支持板から剥離する用途に用いるのであれば、その具体的な用途は特に限定されるものではない。本実施の形態では、ウエハサポートシステムのために接着剤によってサポートプレート(支持板)に一時的に貼着したウエハ(基板)をサポートプレートから剥離する用途に用いた場合を例に挙げて説明する。
【0018】
なお、本明細書における「サポートプレート」とは、半導体ウエハを研削するときに、半導体ウエハに貼り合せることによって、研削により薄化した半導体ウエハにクラックおよび反りが生じないように保護するために一時的に用いられる支持板のことである。
【0019】
本願発明者らは、接着剤を溶解してサポートプレートをウエハから剥離することができるまでに要する時間(剥離時間)の時間短縮について鋭意検討を行なった結果、サポートプレートの貫通孔から剥離液を供給して接着剤を迅速に溶解させるには、剥離液の浸透性および接着剤に対する溶解速度の何れもが重要であることを見出し、剥離液の浸透性には剥離液の粘度が影響することを見出し、本願発明を完成させるに至った。
【0020】
本発明に係る剥離方法は、厚さ方向に貫通した貫通孔が設けられているサポートプレートに接着剤によって貼着されたウエハを、サポートプレートから剥離する剥離方法において、剥離液を、貫通孔を介して接着剤に接触させて、当該接着剤を溶解する工程を含んでおり、接着剤は、炭化水素樹脂を粘着成分とする接着剤であり、剥離液は、粘度が1.3mPa・s以下であり、かつ上記接着剤に対する溶解速度が30nm/sec以上である炭化水素系溶剤である構成である。なお、本明細書において、「ウエハをサポートプレートから剥離する」とは、剥離によってウエハとサポートプレートとを分離することを意味しており、「サポートプレートを(ウエハから)剥離する」、「ウエハとサポートプレートとを剥離する」と交換可能に使用される。
【0021】
〔剥離液〕
本発明の剥離方法における剥離液は、サポートプレートとウエハとを貼着させている接着剤を溶解するために用いられるものである。
【0022】
剥離液は、粘度が1.3mPa・s以下である炭化水素系溶剤であり、1.1mPa・s以下である炭化水素系溶剤であることが好ましく、0.5mPa・s以下である炭化水素系溶剤であることがさらに好ましい。本明細書において「粘度」とは、毛管粘度計VMC―252(離合社製)を用い、25℃の恒温曹にて、キャノンフェンスケ粘度管に15mlサンプリングを行い、細い管の中を自重で通過する速度(時間)によって測定した結果に基づいている。炭化水素系溶剤の粘度は1.3mPa・s以下であればよく、その下限に特に制限はないが、例えば、0.3mPa・s以上の炭化水素系溶剤を剥離液として用いることができる。炭化水素系溶剤の粘度が1.3mPa・s以下であれば、サポートプレートの貫通孔から供給される剥離液におけるサポートプレートと接着剤の層(以下、接着剤層)との界面への浸透性、および剥離液の接着剤への浸透性がより向上し、そのため、接着剤の溶解を迅速に行なうことができ、それにより、サポートプレートとウエハとの剥離を短時間で行なうことができる。
【0023】
剥離液である炭化水素系溶剤は、単一の炭化水素化合物からなる溶剤であってもよく、複数の炭化水素化合物の混合物であってもよい。なお実際の使用に際しては、本発明の本質的な特性を損なわない範囲において、不純物等の他の成分が炭化水素系溶剤に混在しているものを剥離液とすることができる。本発明の本質的な特性を損なわない限り、不純物の含有量に制限はないが、剥離時間の短縮という効果を十分に得る観点から、剥離液に占める炭化水素化合物の含量は80重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましい。
【0024】
複数の炭化水素化合物の混合物は、複数の炭化水素化合物が混合した状態で調製または入手し得る炭化水素系溶剤でもよく、または、それぞれ独立に調製または入手した複数の炭化水素系溶剤を混合したものであってもよい。
【0025】
炭化水素系溶剤を構成する炭化水素としては、直鎖状、分岐状および環状の何れであってもよく、例えば、テルペン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、脂肪族系炭化水素、イソパラフィン系炭化水素などが挙げられる。単一の炭化水素化合物からなる炭化水素系溶剤としては、例えば、p−メンタン、d−リモネン、シクロヘキサン、ヘキサン、オクタン、ノナンなどが挙げられる。複数の炭化水素化合物が混合した状態で調製または入手し得る炭化水素系溶剤としては、例えば、二重結合の位置の異なるp−メンタジエン類の異性体混合物、ジペンテンなどが挙げられる。複数の炭化水素化合物が混合した状態の炭化水素系溶剤の市販品としては、例えば、p−メンタジエン類の異性体混合物である日本テルペン化学社製の「ジペンテンT」(商品名)、ナフテン系炭化水素の混合物であるExxon Mobil社製の「EXXSOL」(商品名)および丸善石油化学社製の「スワクリーン」(商品名)、ならびに脂肪族系炭化水素の混合物であるExxon Mobil社製の「PEGASOL」(商品名)などが挙げられる。
【0026】
剥離液が、独立に調製または入手した複数の炭化水素系溶剤を混合した混合物である場合には、混合した結果得られる炭化水素系溶剤の粘度が上記範囲内にあればよい。例えば、最終的に得られる混合物における粘度が上記範囲内にあるのであれば、混合する前の複数の炭化水素系溶剤の中に、粘度が1.3mPa・sより大きい炭化水素系溶剤が含まれていてもよい。すなわち、最終的に得られる混合物における粘度が上記範囲内にあるのであれば、テレビン油(粘度:1.31mPa・s)等を混合して得られる炭化水素系溶剤を剥離液とすることも可能である。剥離液が、複数の炭化水素系溶剤を混合した混合物である場合、複数の炭化水素系溶剤の少なくとも何れかが、粘度が0.5mPa・s以下である炭化水素系溶剤であることがより好ましい。複数の炭化水素系溶剤の混合物において、粘度が0.5mPa・s以下である炭化水素系溶剤を含ませることにより、混合物における粘度をより小さくすることができ、本発明の剥離方法に用いられる剥離液とすることができる。例えば、安全性、環境面およびコスト等の観点から使用が望ましい炭化水素系溶剤であるものの粘度が1.3mPa・sより大きい炭化水素系溶剤に対して、粘度が0.5mPa・s以下である炭化水素系溶剤を混合することにより、本発明の剥離方法における剥離液として用いることができる炭化水素系溶剤を調製することができる。
【0027】
本発明の剥離方法において、ウエハをサポートプレートに貼着させている接着剤に対する剥離液の溶解速度は、30nm/sec以上であり、より好ましくは50nm/sec以上である。剥離液の溶解速度は、溶解させる接着剤によって変化するものであるが、従来公知の方法によって、各接着剤に対する剥離液の溶解速度を、予め容易に測定することができる。剥離液の溶解速度に特に上限はないが、例えば、1,000nm/sec以下の剥離液を用いることが可能である。剥離液である炭化水素系溶剤が、複数の炭化水素化合物の混合物である場合には、混合物における溶解速度が30nm/sec以上であればよい。したがって、例えば、複数の炭化水素系溶剤を混合した混合物を剥離液として用いる場合に、最終的に得られる混合物における溶解速度が30nm/sec以上であれば、接着剤に対する溶解速度が30nm/secより小さい炭化水素系溶剤が含まれているものであってもよい。粘度が1.30mPa・s以下であって、そのうえ接着剤に対する溶解速度が30nm/sec以上である場合に、剥離時間の短縮を実現することができる。
【0028】
複数の炭化水素系溶剤を混合して剥離液とする場合に、炭化水素系溶剤の組み合わせに特に制限はないが、粘度がより小さい炭化水素系溶剤を含ませることがより好ましく、例えば、粘度が0.5mPa・s以下である炭化水素系溶剤が混合されていることがより好ましい。また、この場合に、混合する複数の炭化水素系溶剤について、各炭化水素系溶剤の粘度が何れも1.3mPa・s以下であり、溶解すべき接着剤に対する溶解速度が何れも30nm/sec以上であることがさらに好ましい。また、各炭化水素系溶剤の粘度が何れも1.0mPa・s以下であり、溶解すべき接着剤に対する溶解速度が何れも30nm/sec以上であり、かつ複数の炭化水素系溶剤の少なくとも何れかの粘度が0.5mPa・s以下であることが特に好ましい。
【0029】
また、粘度が0.5mPa・s以下である炭化水素系溶剤と別の炭化水素系溶剤とを組み合わせて用いる場合に、接着剤に対する溶解速度がより大きい炭化水素系溶剤と組み合わせることによっても、溶解時間をより短縮することができる。
【0030】
また、粘度が0.5mPa・s以下である炭化水素系溶剤と別の炭化水素系溶剤とを混合して剥離液とする場合に、混合比に特に制限はないが、それぞれの炭化水素系溶剤における利点を十分に得るために、混合物における、粘度が0.5mPa・s以下である炭化水素系溶剤の割合は、5重量%〜95重量%であることがより好ましく、25重量%〜75重量%であることがさらに好ましく、45重量%〜55重量%であることが特に好ましい。
【0031】
以上から、サポートプレートにウエハを貼着させている接着剤を溶解する剥離液であって、粘度が1.3mPa・s以下であり、かつこの接着剤に対する溶解速度が30nm/sec以上であり、単一または複数の炭化水素化合物からなる剥離液もまた、本発明に含まれる。
【0032】
〔接着剤〕
本発明の剥離方法における剥離液が溶解する接着剤は、サポートプレートとウエハとを貼着させている接着剤であり、炭化水素樹脂を粘着成分とする接着剤である。
【0033】
炭化水素樹脂としては、シクロオレフィン系樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂および石油樹脂等が挙げられるが、これらに限定されない。シクロオレフィン系樹脂としては、シクロオレフィンモノマーを含む単量体成分を重合してなる樹脂である。具体的には、シクロオレフィンモノマーを含む単量体成分の開環(共)重合体、シクロオレフィンモノマーを含む単量体成分を付加(共)重合させた樹脂などが挙げられる。
【0034】
シクロオレフィン系樹脂を製造するための単量体成分に含まれるシクロオレフィンモノマーとしては、特に限定されるものではないが、ノルボルネン系モノマーであることが好ましい。ノルボルネン系モノマーとしては、ノルボルネン環を有するものであれば特に制限されないが、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロキシペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセンなどの四環体、シクロペンタジエン三量体などの五環体、テトラシクロペンタジエンなどの七環体、またはこれら多環体のアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチルなど)置換体、アルケニル(ビニルなど)置換体、アルキリデン(エチリデンなど)置換体、アリール(フェニル、トリル、ナフチルなど)置換体等が挙げられる。具体的には、下記一般式(1)で示されるような、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、またはこれらのアルキル置換体からなる群より選ばれるノルボルネン系モノマーが挙げられる。
【0035】
【化1】

【0036】
(一般式(I)中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、nは0または1である。)
シクロオレフィン系樹脂を製造するために用いられる単量体成分は、シクロオレフィンモノマーのほかに、シクロオレフィンモノマーと共重合可能な他のモノマーを含有していてもよい。他のモノマーとしては、例えば、下記一般式(II)で表されるオレフィンモノマーを含有することができる。
【0037】
【化2】

【0038】
(一般式(II)中、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。)
オレフィンモノマーは、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。オレフィンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、および1−ヘキセンなどのα−オレフィンが挙げられる。
【0039】
シクロオレフィン系樹脂として用いることのできる市販品としては、例えば、ポリプラスチックス社製の「TOPAS」(商品名)、三井化学社製の「APEL」(商品名)、日本ゼオン社製の「ZEONOR」(商品名)および「ZEONEX」(商品名)、およびJSR社製の「ARTON」(商品名)などが挙げられる。
【0040】
テルペン系樹脂としては、例えば、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂および水添テルペンフェノール樹脂等が挙げられる。ロジン系樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジン、水添ロジンエステル、重合ロジン、重合ロジンエステルおよび変性ロジン等が挙げられる。石油樹脂としては、例えば、脂肪族または芳香族石油樹脂、水添石油樹脂、変性石油樹脂、脂環族石油樹脂およびクマロン・インデン石油樹脂等が挙げられる。これらの中でも、水添テルペン樹脂および水添石油樹脂が好ましい。
【0041】
また、シクロオレフィン系樹脂と、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂および石油樹脂等との混合物が接着剤として用いられていてもよい。
【0042】
ウエハをサポートプレートに貼着するために用いられる接着剤は、上記した炭化水素樹脂を有機溶剤に溶解したものである。有機溶剤は、炭化水素樹脂が溶解するものであれば特に制限されないが、例えば、炭化水素系溶剤が用いられ、テルペン系溶剤が好適に用いられる。
【0043】
〔サポートプレート〕
本発明の剥離方法に係る本実施形態におけるサポートプレートは、ウエハに反りおよびクラックが生じるのを防ぐためのものであって、ウエハサポートシステムのために接着剤によってウエハに一時的に貼着するものであり、その厚さ方向に貫通した貫通孔が設けられている。厚さ方向に貫通した貫通孔がサポートプレーとに設けられていることにより、サポートプレートの外部から供給される剥離液が、貫通孔を介して、サポートプレートとウエハとを貼着させている接着剤層に到達でき、ここから接着剤を溶解できる。剥離時間をより短縮するために、貫通孔は複数形成されていることが好ましい。なお、本明細書において「厚さ方向」とは、接着剤層に面しているサポートプレートの面と垂直な方向をいう。剥離液は、接着剤層との接触部分を溶解するとともに、サポートプレートと接着剤層との界面にも浸透し、各貫通孔の間の領域、すなわちサポートプレートの貫通孔が設けられていない部分に接触している接着剤も溶解する。なお、ここで、接着剤の溶解とは、接着剤が完全に溶解している場合以外に、部分的に溶解している場合をも含む意味である。
【0044】
貫通孔の孔間距離に特に制限はないが、サポートプレートと接着剤層との界面における、貫通孔が設けられていない部分への剥離液の到達をより早くするという観点から、隣り合う貫通孔どうしの孔間距離は500μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることがさらに好ましく、200μm以下であることが特に好ましい。また、各貫通孔のサイズに特に制限はないが、サポートプレートの強度および接着剤に剥離液を供給できる量の観点から、例えば、直径300μmの貫通孔とすることができる。本サポートプレートが貼着されたウエハに対して上記した剥離液を使用することにより、サポートプレートと接着剤層との界面への剥離液の浸透性が向上し、剥離時間をより短縮することができる。
【0045】
〔剥離方法〕
本発明に係る剥離方法は、厚さ方向に貫通した貫通孔が設けられているサポートプレートに接着剤によって貼着されたウエハを、サポートプレートから剥離する方法であって、剥離液を、貫通孔を介して接着剤に接触させて、接着剤を溶解する工程を含んでおり、接着剤が炭化水素樹脂を粘着成分とする接着剤であり、剥離液は、粘度が1.3mPa・s以下であり、かつ接着剤に対する溶解速度が30nm/sec以上である炭化水素系溶剤であればよく、その他の具体的な工程、条件および使用装置等は特に限定されるものではない。
【0046】
貫通孔を介して剥離液を接着剤に接触させて、接着剤を溶解する工程では、まず、剥離処理の対象となる、接着剤によってサポートプレートに貼着されたウエハ(処理対象)を準備する。次いで、上記した剥離液を処理対象に供給する。供給された剥離液は、サポートプレートの貫通孔を介して接着剤層に到達する。接着剤層に到達した剥離液は、貫通孔に面している部分の接着剤を溶解する。さらに溶解された部分から接着剤内部に剥離液が侵入し、溶解が進行する。貫通孔を介して接着剤層に到達した剥離液は、サポートプレートと接着剤層との界面にも浸透し、各貫通孔の間の領域、すなわちサポートプレートの貫通孔が設けられていない部分に接触している接着剤も溶解する。接着剤層が溶解した後、治具等を用いてサポートプレートをウエハから剥離させる。なお、接着剤の溶解は、接着剤層が完全に溶解する場合に限らず、サポートプレートが剥離できるくらいの状態に溶解するものであってもよい。その後、ウエハの表面に残留する接着剤を洗浄により取り除いてもよい。
【0047】
本発明の剥離方法では、上記した剥離液を用いていることにより、サポートプレートと接着剤層との界面への剥離液の浸透性が向上している。これにより、各貫通孔の間の領域にある接着剤に対しても速やかに溶解を開始することができるとともに、より多くの剥離液がこの領域に供給される。その結果、接着剤層の溶解を迅速に行なうことができ、剥離に要する時間を従来よりも短縮することができる。
【0048】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0049】
〔実施例1〕
(接着剤の調製)
ノルボルネンとエチレンとをメタロセン触媒にて共重合したシクロオレフィンコポリマー(ポリプラスチックス社製の「TOPAS(商品名)8007」、ノルボルネン:エチレン=65:35(重量比)、重量平均分子量:98,200、Mw/Mn:1.69、ガラス転移点(Tg):70℃)をp−メンタンに溶解して固形分濃度30重量%の接着剤を得た。これを接着剤1とした。また、「TOPAS8007」と水添テルペン樹脂(ヤスハラケミカル社製「クリアロン(商品名)P135」、重量平均分子量:820、軟化点:135℃)とを65/35(TOPAS8007/クリアロンP135)の割合(重量比)でp−メンタンに溶解して固形分濃度30重量%の接着剤を得た。これを接着剤2とした。
【0050】
(溶解速度の測定)
1cm×2cmの大きさにカットしたシリコンウエハ上に、接着剤1または接着剤2を塗布し、110℃で3分間、次いで150℃で3分間、次いで200℃で3分間の条件で乾燥させて、層厚25μmの接着剤層を形成した。接着剤層が形成されたシリコンウエハを、23℃に保持した剥離液に浸漬させ、接着剤層が完全に溶解するまでの時間を測定し、この溶解時間(T(sec))と、予め測定しておいた接着剤層の厚さ(L(nm))とから溶解速度(L/T(nm/sec))を算出した。剥離液としては、ヤスハラケミカル社製の「ウッディリバー#10(商品名)」(純度96.0%のp−メンタン)、「ウッディリバー#8(商品名)」(純度98.5%のd−リモネン)、日本テルペン化学社製の「テレビン油(商品名)」、「ピナン(商品名)」および「ジペンテンT(商品名)」、Exxon Mobil社製の「EXXSOL(商品名)D40」、「EXXSOL(商品名)D80」、「EXXSOL(商品名)DSP80/100」、「EXXSOL(商品名)D30」、「PEGASOL(商品名)3040」および「PEGASOL(商品名)AN45」、ならびに丸善石油化学社製の「スワクリーン(商品名)」を用いた。接着剤1に対する溶解速度の測定結果を表1に示し、接着剤2に対する溶解速度の測定結果を表2に示す。
【0051】
(粘度の測定)
剥離液として使用する炭化水素系溶剤の粘度を、毛管粘度計VMC―252(離合社製)を用い、25℃の恒温曹にて、キャノンフェンスケ粘度管に15mlサンプリングを行い、細い管の中を自重で通過する速度(時間)によって測定した。その結果を表1および表2に示す。
【0052】
(剥離時間の測定)
1cm×2cmの大きさにカットしたシリコンウエハ上に、接着剤1または接着剤2を塗布し、110℃で3分間、次いで150℃で3分間、次いで200℃で3分間の条件で乾燥させて、層厚25μmの接着剤層を形成した。次いで、貫通孔の直径が300μm、各貫通孔の孔間距離が200μmである貫通孔を有する1cm×2cmの大きさのガラスのサポートプレートを、シリコンウエハ上の接着剤層に、シリコンウエハと交差するように接着させた。サポートプレートをシリコンウエハに貼り付けるための貼り付け条件は、0.3kg/cm、200℃で、30秒または15秒である。
【0053】
サポートプレートに貼り付けたシリコンウエハを、23℃に保持した剥離液に、サポートプレートを上にして、サポートプレートを治具で固定して完全に浸漬させた。サポートプレートに貼り付けたシリコンウエハを剥離液に浸漬させてから、シリコンウエハがサポートプレートから剥がれて自重によって落下し始めるまでの時間を剥離時間として測定した。接着剤1によって接着した場合の剥離時間の結果を表1に示し、接着剤2によって接着した場合の剥離時間の結果を表2に示す。なお、使用した剥離液は、表1および表2に示されている。剥離時間は60min以下であることが生産性の点で望ましい。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
表1および表2に示すように、溶解すべき接着剤に対する溶解速度が30nm/sec以上であり、粘度が1.30mPa・s以下である剥離液を用いて、ウエハとサポートプレートとを剥離させた場合(表中に実施例として分類)には、剥離時間が何れも60min以下であった。すなわち剥離時間の短縮化が実現されている。一方、溶解すべき接着剤に対する溶解速度が30nm/secより小さいか、粘度が1.30mPa・sよりも大きいか、またはその両方である場合(表中に比較例として分類)には、ウエハのサポートプレートからの剥離時間が60minよりも遅かった。
【0057】
〔実施例2〕
剥離液として2種類の炭化水素系溶剤を混合した混合物を用いた場合について評価を行なった。組み合わせる炭化水素系溶剤としては、一方を、Exxon Mobil社製の「EXXSOL(商品名)DSP80/100」とし、他方を、ヤスハラケミカル社製の「ウッディリバー#10(商品名)」(純度96.0%のp−メンタン)、「ウッディリバー#8(商品名)」(純度98.5%のd−リモネン)、または日本テルペン化学社製の「テレビン油(商品名)」とした。組み合わせた炭化水素系溶剤の混合比を表3および表4に示している。各混合物における粘度、溶解すべき接着剤に対する溶解速度、および剥離時間の測定は実施例1と同様にして行なった。接着剤1に対する各測定結果を表3に示し、接着剤2に対する各測定結果を表4に示す。
【0058】
表3および表4に示すように、剥離液が複数の炭化水素系溶剤の混合物であっても、混合物における、溶解すべき接着剤に対する溶解速度が30nm/sec以上であり、粘度が1.30mPa・s以下であれば、ウエハとサポートプレートとを剥離させる時間は60min以下であった。また、混合物中に、粘度が1.30より大きい炭化水素系溶剤であるテレビン油(粘度:1.31)が含まれていても、最終的に得られる混合物の粘度が1.30以下であれば、ウエハとサポートプレートとを剥離させる時間は60min以下であった。
【0059】
さらに、p−メンタンよりも溶解速度が大きく、粘度が小さいD−リモネンと、EXXSOL DSP80/100とを組み合わせた剥離液は、p−メンタンと、EXXSOL DSP80/100とを組み合わせた剥離液よりも、ウエハとサポートプレートとを剥離させる時間が短縮されており、何れの接着剤を用いた場合であっても、その剥離時間は30min以下であった。
【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る剥離方法によれば、短時間で容易に基板から支持板を剥離することができるため、例えば、微細化された半導体装置の製造に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に貫通した貫通孔が設けられている支持板に接着剤によって貼着された基板を、該支持板から剥離する剥離方法において、
剥離液を上記貫通孔を介して上記接着剤に接触させて、上記接着剤を溶解する工程を含んでおり、
上記接着剤は、炭化水素樹脂を粘着成分とする接着剤であり、
上記剥離液は、粘度が1.3mPa・s以下であり、かつ上記接着剤に対する溶解速度が30nm/sec以上である炭化水素系溶剤であることを特徴とする剥離方法。
【請求項2】
上記炭化水素系溶剤が、単一の炭化水素化合物からなることを特徴とする請求項1に記載の剥離方法。
【請求項3】
上記炭化水素系溶剤が、複数の炭化水素化合物の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の剥離方法。
【請求項4】
上記炭化水素系溶剤には、粘度が0.5mPa・s以下である炭化水素系溶剤が混合されていることを特徴とする請求項3に記載の剥離方法。
【請求項5】
上記炭化水素系溶剤は、粘度が1.3mPa・s以下でありかつ上記接着剤に対する溶解速度が30nm/sec以上である複数の炭化水素系溶剤が混合されてなるものであることを特徴とする請求項4に記載の剥離方法。
【請求項6】
上記複数の炭化水素系溶剤のそれぞれは、粘度が1.0mPa・s以下であることを特徴とする請求項5に記載の剥離方法。
【請求項7】
上記貫通孔が上記支持板に複数形成されており、隣り合う上記貫通孔どうしの距離が500μm以下であることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の剥離方法。
【請求項8】
支持板に基板を貼着させている接着剤を溶解する剥離液であって、
粘度が1.3mPa・s以下であり、かつ上記接着剤に対する溶解速度が30nm/sec以上であり、単一または複数の炭化水素化合物からなることを特徴とする剥離液。

【公開番号】特開2011−222562(P2011−222562A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86425(P2010−86425)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】