説明

力覚付与型のシフト装置

【課題】シフトレバーを介して操作者が受ける節度感等の操作荷重の最適化を電子的な力覚制御で容易に行えるようにして、操作性の向上や疲労の低減等を図る力覚付与型のシフト装置を提供する。
【解決手段】シフト装置(1)は、シフトレバー(2)に反力を生じさせる駆動手段としてのXモータ(31)及びYモータ(36)とを備える。力覚制御部(50)に接続されるメモリ(51)には、シフトレバーの往路操作と復路操作とで特性が異なるヒステリシスを有する力覚パターン(52)が予め記憶される。例えばホームポジション(65)からシフトアップポジション(64)への往路操作のときには節度感を生じさせる力覚パターンが選択され、ホームポジションへ戻す復路操作のときにはトルクを単調に減少させる力覚パターンが選択される。シフトレバーの操作方向に応じて力覚パターンを適宜変更することで、操作性の向上や疲労の低減等が図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジョイスティック等からなるシフトレバーに反力としての力覚を付与する力覚付与型のシフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遠隔操作が求められる多くの分野で、操作感覚を疑似的に再現して操作性能を向上させる力覚付与型デバイスが注目されている。力覚付与型の入力装置は、機械的な入力機構に換えて操作部の操作状態を電気信号に変換して出力する、いわゆるバイワイヤ方式の入力装置において、操作状態の検出信号に基づく反力を操作部にフォースフィードバック制御することにより、所与の条件に応じた力覚を操作者に与えるものである。
【0003】
一方で自動車の分野においては、走行性能に加え、安全性、快適性及び環境等の観点から車両内の電子化が進み、エアコン、カーナビ、オーディオ等の様々な操作対象機器類が搭載されるのが一般的となっている。このような多種に渡る機器類を操作する操作者の負担を軽減するため、操作入力を運転席内の1つの入力装置で一元化できるジョイスティックタイプの力覚付与型入力装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような力覚付与型入力装置によれば、ジョイスティックに例えば疑似的な節度感(クリックフィーリング)を生じさせ、または次にすべき操作を反力で促すような操作の支援制御といった多様な操作感を力覚として付与することが可能となる。また、操作対象機器の動作や操作の目的に応じて力覚パターンを適宜変更することで、多用途、多目的の入力装置として共有することができる。
【0005】
また、車両の自動変速機を切り換えるバイワイヤ方式のシフト装置(SBW:Shift By Wire)において、一方向のみ往復傾倒操作可能なシフト装置に上述の力覚付与の技術を応用したものが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−258782号公報
【特許文献2】特開2003−176870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のバイワイヤ方式のシフト装置(SBWシフター)では、シフトポジションにおける節度感を、節度山に対するディテントピンの係合等により機械的に生じさせているため、シフトレバーの操作荷重を変更することが困難であった。シフト操作に伴う節度感やシフトレバーのモーメンタリ動作による復帰力等の操作荷重が操作者によっては過度に感じられたりする場合もあり、これらの操作荷重を変更して最適化できれば、シフト装置における操作性の向上や疲労感の低減等が期待される。
【0008】
そこで、本発明の目的は、シフトレバーを介して操作者が受ける節度感等の操作荷重の最適化を電子的な力覚制御で容易に行えるようにして、操作性の向上や疲労の低減等を図る力覚付与型のシフト装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]上記目的を達成するため本発明に係る力覚付与型のシフト装置は、操作者により操作されるシフトレバーと、前記シフトレバーに力を付与する駆動手段と、前記シフトレバーの操作状態を検出する検出手段と、前記シフトレバーの一つの操作経路における操作量に対する前記力との連続的な関係を対応付けた力覚パターンにヒステリシス特性を持たせてデータ化した力覚パターンデータを記憶する記憶手段と、前記検出手段が検出する前記シフトレバーの操作方向に応じて前記力覚パターンデータとして記憶された予め定められた一方の力覚パターンを選択する操作荷重変更手段と、前記操作荷重変更手段が選択した前記力覚パターンに従って、前記シフトレバーの操作状態に基づく前記駆動手段の力制御を行う力覚制御手段と、を備える。
【0010】
[2]また、前記シフトレバーが一つのホームポジションから他のシフトポジションへ操作される往路の操作方向のときに選択される一方の前記力覚パターンは、前記シフトレバーの操作に伴って前記他のシフトポジションにおいて知覚される節度感に対応して前記力が変化する特性を有し、前記シフトレバーが前記他のシフトポジションから前記一つのホームポジションへ操作される復路の操作方向のときに選択される他方の前記力覚パターンは、前記力が単調に減少する特性を有している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、力覚パターンにヒステリシス特性を持たせ、操作荷重変更手段がシフトレバーの操作方向に応じて力覚パターンを変更するようにした。これにより、シフトレバーに生じる節度感等の操作荷重を操作状態に合せてきめ細かく最適化することができ、シフト装置における操作性の向上や疲労の低減等を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施の形態によるシフト装置の構成を示す分解斜視図である。
【図2】図2は、シフト装置のシステム構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、シフト装置において設定されるシフトポジションの配列とシフトレバーの軌道との位置関係を示す図である。
【図4】図4は、シフト装置において、ホーム(H)ポジションを傾倒操作の原点としてシフトレバーに作用するトルク特性である力覚パターンを例示する図である。
【図5】図5は、ホーム(H)ポジションからシフトアップ(+)ポジション間の傾倒操作に関連して、ヒステリシスを有する力覚パターンを例示する図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態による操作荷重変更手段の動作を示すフローチャートである。
【図7】図7は、シフトレバーの種々の操作経路を示す操作パターン図(a)〜(f)である。
【図8】図8は、力覚付与型のシフト装置において、ホーム(H)ポジションを傾倒操作の原点としてシフトレバーに作用する力覚パターンを例示するものであって、シフトレバーのステーショナリ動作を制御するための力覚パターンの例示図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態として、車両の自動変速機を切り換えるための、力覚付与型のシフト装置1について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
(シフト装置の構成)
図1は、本発明の実施の形態によるシフト装置1の構成を示す分解斜視図である。このシフト装置1は、シフトレバー2と、ジョイスティック機構部3と、ジョイスティック機構部3を収納するケース部材4とを備えている。
【0015】
シフトレバー2は、二次元(XY面)上の任意の方向への傾倒操作(シフト操作)が可能なジョイスティック操作部であり、操作者が手動で操作する把持部2aと、皿状で下面が凹状に湾曲する被案内面を有する支持摺動部2bと、把持部2a及び支持摺動部2bを連結する支柱部2cとにより一体形成されている。
【0016】
ジョイスティック機構部3は、シフトレバー2が先端部に固定されるシャフト11と、シャフト11の傾倒動作を一定の範囲に規制するゲートブロック20とを備えている。シャフト11は、例えば、柱状の棒状部材からなり、互いに直交するように設けられた第1キャリッジ12及び第2キャリッジ13の各長孔を貫通している。
【0017】
第1キャリッジ12は、四角形の管状の部材からなり、シャフト11をその長孔の長手方向(X方向)に沿って傾倒可能に枢着させるX軸14と、X軸14に直交する方向(Y方向)に突出するY軸15とを備えている。各Y軸15は、第1キャリッジ12の両外壁に一体に形成され、Y軸15の各両端部にはベアリング16が嵌着されている。ベアリング16がベアリングホルダ17を介してジョイスティック機構部3の図示しないフレームに固定されることにより、第1キャリッジ12は、当該フレームに対しY軸15を中心に揺動可能とされている。
【0018】
第2キャリッジ13は、シャフト11が貫通している長孔が形成される平板部と、当該平板部と直交するアーム部とが一体形成される外形U字状の部材から構成されている。第2キャリッジ13の長孔は、Y方向に沿って長く形成され、シャフト11のY方向への傾倒動作を許容する一方で、X方向の傾倒に対しては第2キャリッジ13を揺動させるように形成されている。
【0019】
ゲートブロック20は、上面部に四角形の開口を有する箱状の強度部材であり、シャフト11の傾倒動作を所定の範囲に制限するために設けられている。すなわち、ゲートブロック20の開口内部には、シャフト11の基端部が挿入され、シャフト11が最大ストローク傾倒する位置で当該基端部がゲートブロック20の内壁に当接することにより、それ以上のシャフト11の傾倒動作が規制される。
【0020】
また、ジョイスティック機構部3は、2つのセクターギア21,26と、シフトレバー2及びシャフト11の傾倒状態を検出する検出手段としての2つの回転センサ32,37と、シャフト11を介してシフトレバー2に力(反力)を生じさせる駆動手段としてのXモータ31及びYモータ36とを備えている。セクターギア21,26は、それぞれ扇状の基端部に揺動軸が設けられ、その揺動軸を中心とする同一半径の周面部にギア歯21a,26aが形成されている。
【0021】
第1のセクターギア21は、ジョイスティック機構部3の図示しないフレームにその揺動軸が枢着されて揺動可能であるとともに、第2キャリッジ13のアーム部が同軸に連結している。第1のセクターギア21のギア歯21aには、Xモータ31のモータギア31aが噛合している。また、回転センサ32は、例えば、モータギア31aに連結して回転する回転エンコーダ部とその回転数をカウントして回転角度あるいは回転位置を検出する光検出器等により構成されている。
【0022】
第2のセクターギア26は、その揺動軸が第1キャリッジ12の一方のY軸15に連結している。また、第2のセクターギア26のギア歯26aには、Yモータ36のモータギア36aが噛合している。また、回転センサ37は、例えば、モータギア36aに連結して回転する回転エンコーダ部とその回転数をカウントして回転角度あるいは回転位置を検出する光検出器等により構成されている。
【0023】
ここで、2つの回転センサ32,37は、フォトディテクタを用いた光検出方式のエンコーダで構成されている。また、回転センサ32,37は、磁気抵抗効果素子(MR素子)を用いた磁気検出方式のエンコーダであってもよい。回転センサ32,37は、Xモータ31及びYモータ36の回転に応じて位相の異なる2つのパルスを出力する。これにより、Xモータ31及びYモータ36の回転方向と回転量が検出される。また、回転センサ32,37の出力に基づいて、セクターギア21,26等を介して連結されているシャフト11及びシフトレバー2のXY面における傾倒方向とその傾倒角度が同時に検出される。
【0024】
ケース部材4は、ジョイスティック機構部3を内部に収容する箱状のケースフレーム4aと、ケースフレーム4aの上面部において突出する案内ドーム4bとを有して一体に形成される。また、案内ドーム4bの頂部には、略四角形の開口4cが形成されている。
【0025】
ジョイスティック機構部3に備えられるシャフト11は、その先端部がケース部材4の内側から案内ドーム4bの開口4cに挿入されてシフトレバー2の支柱部2cに固定される。このとき、シフトレバー2は、支持摺動部2bの下面である被案内面が案内ドーム4bの上面に支持され、かつ、その上面に対してXYの方向に摺動するように取り付けられる。
【0026】
シフトレバー2がX方向に傾倒操作されシャフト11が傾倒すると、これに連動して第2キャリッジ13及び第2キャリッジ13に軸を一にして連結するセクターギア21が揺動する。これに伴いセクターギア21のギア歯21aに噛合するモータギア31aが回転するので、その回転角に基づいて回転センサ32によりシャフト11のX方向における傾倒動作が検出される。同様に、シフトレバー2がY方向に傾倒操作されると、シャフト11に係合する第1キャリッジ12及びこれに連結するセクターギア26が揺動する。これに伴いセクターギア26のギア歯26aに噛合するモータギア36aが回転し、その回転角に基づいて回転センサ37によりシャフト11のY方向における傾倒動作が検出される。
【0027】
更に、Xモータ31に駆動電流が供給されると、モータギア31a、セクターギア21及び第2キャリッジ13を介してシャフト11及びシフトレバー2にX方向に傾倒させるトルクが伝達される。同様にYモータ36に駆動電流が供給されると、モータギア36a、セクターギア26及び第1キャリッジ12を介してシャフト11及びシフトレバー2にY方向に傾倒させるトルクが伝達される。次に説明する力覚制御部50は、Xモータ31及びYモータ36に駆動電流を供給し、回転センサ32,37が検出するシフトレバー2の操作状態に基づきフィードバック制御することにより、所望の反力をシフトレバー2に付与する力覚制御を行う。
【0028】
図2は、本実施の形態によるシフト装置1のシステム構成を示すブロック図である。力覚制御部50は、CPU、ROMやRAMからなるメモリ、各種センサやスイッチが接続される入出力ポート、車載LANコントローラ等をハードウエア回路として備え、CPUが予めROMに記憶されたプログラムに従って演算制御処理を実行する電子制御のマイコンユニットとして構成される。力覚制御部50には、Xモータ31、回転センサ32、Yモータ36、回転センサ37が接続されている。力覚制御部50は、回転センサ32,37の出力に基づいて、シフトレバー2の操作状態(XY面における傾倒方向とその傾倒角度)を演算して求め車両の自動変速機に出力する。また、力覚制御部50は、シフトレバー2が所定の軌道(経路)を逸脱するような想定外の異常操作がされたときに、車両の安全管理装置(ブザーやランプ等の警報手段を含む)70やエンジンECU(図示せず)等にエラー信号を出力するようにも構成されている。
【0029】
また、力覚制御部50には、不揮発性のメモリ51が接続されている。このメモリ51には、シフトレバー2の操作状態に応じて反力を付与する力覚制御、ホームポジションへの自動復帰制御及びシフトレバー2の操作を所定の軌道のみに規制する軌道制御をするための参照テーブルデータである力覚パターンデータ52が予め記憶されている。力覚制御部50は、次に具体的に説明する力覚パターンが電子データ化された力覚パターンデータ52を参照し、回転センサ32,37の出力から演算されるシフトレバー2の操作状態に基づいてXモータ31及びYモータ36のトルクを制御する。これにより、力覚パターンデータ52に応じた反力がシフトレバー2に付与される。
【0030】
図3は、本実施の形態によるシフト装置1において設定される複数のシフトポジションの配列とシフトレバー2の軌道(経路)との位置関係(シフトパターン)を示す図である。シフトレバー2のXY方向における物理的に移動操作可能な領域69の限界は、図1に示したゲートブロック20で画される。その全領域69内に、本実施の形態では、シフトレバー2の操作許容エリア67(第1〜第3の操作許容エリア67a,67b,67c)と、それ以外の操作規制エリア68とが、互いに排他的に区分けされて設定されている。操作許容エリア67は、シフトレバー2の軌道に沿って設定されている。
【0031】
図3に示されるように、右側の縦の第1の操作許容エリア67aには、車両の自動変速機のリバース(「R」と略して表記する。)、ニュートラル(「N」と略して表記する。)及びドライブ(「D」と略して表記する。)に対応するシフトポジションであるRポジション61、Nポジション62及びDポジション63が順に配列して設定されている。また、左側の縦の第2の操作許容エリア67bには、シフトアップポジション(「+」と表記する。)64と、ホームポジション65(「H」と略して表記する。)と、シフトダウンポジション(「−」と表記する。)66が順に配列して設定されている。更に、Hポジション65と、Nポジション62とを横方向に連結する第3の操作許容エリア67cが設定されている。
【0032】
(シフトレバーの自動復帰制御手段)
次に、シフト装置1に備えられるシフトレバー2の自動復帰制御手段を説明する。なお、自動復帰の動作(モーメンタリ動作)は、力覚制御部50のCPUが回転センサ32,37から得られるシフトレバー2の操作状態に基づいて、メモリ51に記憶された力覚パターンデータ52を参照しながらXモータ31及びYモータ36のトルクをフィードバック制御することで実行される。
【0033】
図4は、Hポジション65を傾倒操作の原点としてシフトレバー2に作用する力覚パターンを例示する図である。これらの力覚パターンは、力覚パターンデータ52として電子化されてメモリ51に記憶されている。ここで、図4(a)に示されるように、Hポジション65を中心とし第2の操作許容エリア67bに沿うY方向への傾倒操作(Y〜Y)と、第3の操作許容エリア67cに沿うX方向への傾倒操作(X〜X)を考える。
【0034】
図4(b)は、Y方向へのシフトレバー2の傾倒操作量であるYストローク(Y〜Y)を縦軸として、これに対するYモータ36に生じさせるトルクとの関係(Y軸における力覚パターン)を示すグラフである。
【0035】
図4(b)の力覚パターンによると、シフトレバー2のストロークがY側にあるとき、これとは逆向き(下方向)の反力がシフトレバー2に作用するようにYモータ36のトルクが制御される。また、シフトレバー2のストロークがY側にあるとき、これとは逆向き(上方向)の反力がシフトレバー2に作用するようにYモータ36のトルクが制御される。したがって、第2の操作許容エリア67bにあるシフトレバー2には、Hポジション65を中心に自動復帰する方向に力が作用する。
【0036】
また、図4(b)によれば、シフトレバー2が+ポジション64よりもY側、または−ポジション66よりもY側への傾倒操作に対しては、Yモータ36のトルクが最大(YnmaxまたはYpmax)まで急激に立ち上がるように力覚パターンが設定されている。これにより、操作者が+ポジション64から更に上へ、または−ポジション66から更に下へシフトレバー2を傾倒させようとしても、シフトレバー2を介して知覚される「反力の壁」により、第2の操作許容エリア67bを逸脱するような傾倒操作が防止される。
【0037】
図4(c)は、X方向へのシフトレバー2の傾倒操作量であるXストローク(X〜X)を横軸として、これに対するXモータ31に生じさせるトルクとの関係(X軸における力覚パターン)を示すグラフである。図4(c)によれば、シフトレバー2のストロークがX側にあるとき、これとは逆向き(左方向)の反力がシフトレバー2に作用するようにXモータ31のトルクが制御される。したがって、第3の操作許容エリア67cにあるシフトレバー2には、Hポジション65に自動復帰する方向に反力が作用する。
【0038】
また、シフトレバー2がNポジション62よりもX側、またはHポジション65よりもX側への傾倒操作に対しては、Xモータ31のトルクが最大(XpmaxまたはXnmax)まで急激に立ち上がるように力覚パターンが設定されている。これにより、操作者がシフトレバー2をNポジション62から更に右へ、またはHポジション65から更に左へ傾倒させようとしても、シフトレバー2を介して知覚される「反力の壁」により、第3の操作許容エリア67cから逸脱するような傾倒操作が防止される。
【0039】
図5は、第2の操作許容エリア67bに沿ってY方向へのシフトレバー2の傾倒操作量(Yストローク)に対するYモータ36に生じさせるトルクとの関係(Y軸における力覚パターンP,P)を示すグラフである。なお、図5では、特にモーメンタリ動作(自動復帰動作)するHポジション65から+ポジション64間のシフト操作に関連して、Hポジション65から+ポジション64への往路操作における操作荷重に対応づけられる力覚パターンPを実線で示し、+ポジション64からHポジション65への復路操作における操作荷重に対応づけられる力覚パターンPを破線で示している。なお、かかるヒステリシスを有する力覚パターンは、ここでは説明を省略するが、Hポジション65から−ポジション66へのシフト操作経路等のモーメンタリ動作が適用される他の操作経路にも同様に設定されている。
【0040】
(シフト装置における操作荷重変更手段の動作)
次に、力覚制御部50のCPU(以下、単に「CPU」という。)が回転センサ32,37の出力から得られるシフトレバー2の操作状態に基づいて、操作荷重を変更する操作荷重変更手段の動作を説明する。なお、ここでは代表例として、Hポジション65から+ポジション64間のシフト操作経路において、図5に示した力覚パターンに基づく操作荷重を変更する動作について説明する。
【0041】
図6は、操作荷重変更手段の動作を示すフローチャートである。CPUは、常時、シフトレバー2がHポジション65にあるか否かを検出する(ステップS10)。CPUは、シフトレバー2がHポジション65にあると検出すると(ステップ10:YES)、メモリ51から往路操作荷重に対応づけられる力覚パターンPの力覚パターンデータ52を読み取って選択する(ステップS11)。
【0042】
そして、CPUは、回転センサ37から得られるシフトレバー2の操作状態に基づいて、力覚パターンPを参照しながらYモータ36のトルクをフィードバック制御することで、シフトレバー2のY方向への往路における力覚制御を行う(ステップS12)。このとき、+ポジション64付近では、力覚パターンPのトルクが変化することにより、シフトレバー2に節度感が生じることとなる。
【0043】
なお、シフトレバー2のX方向への傾倒操作に対しては、第2の操作許容エリア67bの両側に「反力の壁」を作ることで所定の操作軌道から逸脱させないような力覚制御がXモータ31を介して同時にされる。
【0044】
CPUは、シフトレバー2が+ポジション64に傾倒操作されたのを検出すると(ステップS13:YES)、メモリ51から復路操作荷重に対応づけられる力覚パターンPの力覚パターンデータ52を読み取って選択する(ステップS14)。そして、CPUは、回転センサ37から得られるシフトレバー2の操作状態に基づいて、力覚パターンPを参照しながらYモータ36のトルクをフィードバック制御することで、シフトレバー2のY方向への復路における力覚制御を行う(ステップS15)。
【0045】
シフトレバー2が復路において選択される力覚パターンPは、図5に示すように原点(Hポジション65)に向けてトルクが単調に減少する特性を有している。したがって、ステップS15の復路における力覚制御においては、往路のような節度感が生じない。
【0046】
(実施の形態による効果)
[1]本実施の形態のシフト装置1によれば、Hポジション65から他のシフトポジションへのシフトレバー2の往路と復路の操作に分けて力覚パターンを変更するようにしたので、操作者にシフトポジションへ操作がされたことを力覚で認識させることができる。これにより、操作性を向上させることができる。
[2]シフトレバー2の往路と復路の操作で力覚パターンにヒステリシスを持たせたことにより、Hポジション65へのシフトレバー2の自動復帰動作やその復帰速度から視覚的にもシフトポジションへ操作がされたことを操作者に認識させることができる。
[3]また、シフトレバー2の往路操作では、シフトポジション近辺のトルク変化により節度感を生じさせる一方で、復路の操作ではトルクを単調に減少させて節度感を生じさせないようにした。これにより、無駄な操作荷重をなくして、操作者の疲労を低減させることができる。
[4]以上のように、本実施の形態のシフト装置1では、電子的な力覚制御によりシフトレバー2に生じさせる節度感等の操作荷重を操作状態(ストローク及び操作方向)に合せてきめ細かく最適化することができ、これにより、操作性の向上や疲労の低減等を図ることができる。
【0047】
以上、本発明に好適な実施の形態を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で種々の変形、応用が可能である。例えば、車両においてエアコンやカーナビ等を一元的に操作するための、一般的なジョイスティックタイプの入力装置等に広く応用され得る。
【0048】
また、例えば、本実施の形態に示したH形状のパターンだけでなく、種々の操作パターンに対応できる。図7は、シフトレバーの種々の操作経路を示す操作パターン図(a)〜(f)である。これによれば、車種等に応じて、H形状のパターン、I形状のパターンや、これらの組合せとして種々の操作経路を有する操作パターンに対応できる。さらに、図示は省略するが、任意の角度で交差する操作パターンを含む操作経路を有する操作パターン等にも対応可能である。
【0049】
また、これらの操作形状パターンを力覚制御する力覚パターンは、本実施の形態に示した力覚パターンに限られず種々の制御パターンに変更可能である。本実施の形態に示した図4に示す力覚パターンは、Y側においてRポジション61の位置でもYモータトルクが常に下方向側に作用する。また、Dポジション63の位置でもYモータトルクが常に上方向側に作用する。従って、シフトレバー2は、Rポジション61、Dポジション63にシフト操作された後、それらの位置に留まらずに、Hポジション65に戻ってくる。すなわち、シフトレバーへの操作力を解除した後にHポジション65に自動復帰するモーメンタリ動作を制御するための力覚パターンである。
【0050】
これに対して、本実施の形態において、シフトレバーをステーショナリ動作で制御することも可能である。図8は、力覚付与型のシフト装置において、ホーム(H)ポジションを傾倒操作の原点としてシフトレバーに作用する力覚パターンを例示するものであって、シフトレバーのステーショナリ動作を制御するための力覚パターンの例示図である。図8(b)のY側においてYモータトルクはRポジション61の付近で上下反転する。また、Dポジション63の付近でも上下反転する。従って、シフトレバー2は、Rポジション61にシフト操作された後、Yモータトルクが上方向から下方向に反転するゼロクロス点ZC1に留まる。同様に、シフトレバー2は、Dポジション63にシフト操作された後、Yモータトルクが下方向から上方向に反転するゼロクロス点ZC2に留まる。よって、図4で示す力覚パターンを図8に示すような力覚パターンに変更することにより、シフトレバー2のステーショナリ動作においてヒステリシス特性を持たせた制御にも対応可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…シフト装置、2…シフトレバー、2a…把持部、2b…支持摺動部、2c…支柱部、3…ジョイスティック機構部、4…ケース部材、4a…ケースフレーム、4b…案内ドーム、4c…開口、11…シャフト、12…第1キャリッジ、13…第2キャリッジ、14…X軸、15…Y軸、16…ベアリング、17…ベアリングホルダ、20…ゲートブロック、21…セクターギア、21a…ギア歯、26…セクターギア、26a…ギア歯、31…Xモータ、31a…モータギア、32…回転センサ、36…Yモータ、36a…モータギア、37…回転センサ、50…力覚制御部、51…メモリ、52…力覚パターンデータ、61…リバース(R)ポジション、62…ニュートラル(N)ポジション、63…ドライブ(D)ポジション、64…シフトアップ(+)ポジション、65…ホーム(H)ポジション、66…シフトダウン(−)ポジション、67,67a,67b,67c…操作許容エリア、68…操作規制エリア、69…シフトレバーの操作可能な全領域、70…安全管理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作者により操作されるシフトレバーと、
前記シフトレバーに力を付与する駆動手段と、
前記シフトレバーの操作状態を検出する検出手段と、
前記シフトレバーの一つの操作経路における操作量に対する前記力との連続的な関係を対応付けた力覚パターンにヒステリシス特性を持たせてデータ化した力覚パターンデータを記憶する記憶手段と、
前記検出手段が検出する前記シフトレバーの操作方向に応じて前記力覚パターンデータとして記憶された予め定められた一方の力覚パターンを選択する操作荷重変更手段と、
前記操作荷重変更手段が選択した前記力覚パターンに従って、前記シフトレバーの操作状態に基づく前記駆動手段の力制御を行う力覚制御手段と、を備える力覚付与型のシフト装置。
【請求項2】
前記シフトレバーが一つのホームポジションから他のシフトポジションへ操作される往路の操作方向のときに選択される一方の前記力覚パターンは、前記シフトレバーの操作に伴って前記他のシフトポジションにおいて知覚される節度感に対応して前記力が変化する特性を有し、
前記シフトレバーが前記他のシフトポジションから前記一つのホームポジションへ操作される復路の操作方向のときに選択される他方の前記力覚パターンは、前記力が単調に減少する特性を有している、請求項1に記載の力覚付与型のシフト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−56425(P2012−56425A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200999(P2010−200999)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】