力覚付与型入力装置及びこれを用いたシフト装置
【課題】想定外の操作による危険性を回避する対策を講じたことにより、車両のシフト装置としても用いることができる汎用性の高い力覚付与型入力装置及びこれを用いたシフト装置を提供する。
【解決手段】ジョイスティックタイプのシフトレバー(2)の移動操作可能な全領域(69)内において、各シフトポジションが配列される操作許容エリア(67)と、シフトレバーの傾倒操作を禁止する操作規制エリア(68)を区分けして設定する。シフトレバーの軌道に沿う操作許容エリアの外縁部に力覚付与制御による「反力の壁」を生じさせることにより、所定の軌道を逸脱するシフトレバーの危険な操作を防止する。また、シフトレバーの軌道の分岐点であるホーム(65)ないしはニュートラル(62)ポジションへのシフト操作の経由を前提に、リバース(61)及びドライブ(63)等へのシフト操作が有効と判定される。逆に、所定の軌道を飛び越えるような想定外の操作を無効とすることで、異常操作に対する安全性を確保する。
【解決手段】ジョイスティックタイプのシフトレバー(2)の移動操作可能な全領域(69)内において、各シフトポジションが配列される操作許容エリア(67)と、シフトレバーの傾倒操作を禁止する操作規制エリア(68)を区分けして設定する。シフトレバーの軌道に沿う操作許容エリアの外縁部に力覚付与制御による「反力の壁」を生じさせることにより、所定の軌道を逸脱するシフトレバーの危険な操作を防止する。また、シフトレバーの軌道の分岐点であるホーム(65)ないしはニュートラル(62)ポジションへのシフト操作の経由を前提に、リバース(61)及びドライブ(63)等へのシフト操作が有効と判定される。逆に、所定の軌道を飛び越えるような想定外の操作を無効とすることで、異常操作に対する安全性を確保する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジョイスティック等の操作部に反力としての力覚を付与する力覚付与型入力装置及びこれを用いたシフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遠隔操作が求められる多くの分野で、操作感覚を疑似的に再現して操作性能を向上させる力覚付与型デバイスが注目されている。この力覚付与型入力装置は、機械的な入力機構に換えて操作部の操作状態を電気信号に変換して出力する、いわゆるバイワイヤ方式の入力装置において、操作状態の検出信号に基づく反力を操作部にフォースフィードバック制御することにより、操作に応じた力覚を操作者に与えるものである。
【0003】
一方で自動車の分野においては、走行性能に加え、安全性、快適性及び環境等の観点から車両内の電子化が進み、エアコン、カーナビ、オーディオ等の様々な操作対象機器類が搭載されるのが一般的となっている。このような多種に亘る機器類を操作する操作者の負担を軽減するため、操作入力を運転席内の1つの入力装置で一元化できるジョイスティックタイプの力覚付与型入力装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような力覚付与型入力装置によれば、ジョイスティックに例えば疑似的な節度感(クリックフィーリング)を生じさせ、または次にすべき操作を反力で促すような操作の支援制御といった多様な操作感を力覚として付与することが可能となる。また、操作対象機器の動作や操作の目的に応じて力覚パターンを適宜変更することで、多用途、多目的の入力装置として共有することができる。
【0005】
また、車両の自動変速機を切り換えるバイワイヤ方式のシフト装置(SBW:Shift By Wire)において、一方向のみ往復傾倒操作可能なシフト装置に上述の力覚付与型技術を応用したものが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−258782号公報
【特許文献2】特開2003−176870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、バイワイヤ方式のシフト装置において、上述したジョイスティックタイプの入力装置のように二次元上の任意の位置へのシフト操作を許容することにより、多用途、多目的の操作入力に対応させた構成は見当たらない。車両のシフト装置は、シフトレバーの軌道に沿ってR(リバース)、N(ニュートラル)又はD(ドライブ)等のシフトポジションが予め設定されており、例えばDポジションからRポジションへシフトレンジが直接切り換わるような想定外の危険なシフト操作を禁止する必要がある。つまり、従来のシフト装置は、ジョイスティックをベースにするものであったとしても、シフトレバーの操作を一定の軌道上に機械的に規制するためのゲート等の強度部材が必要となり、汎用性を確保することができなかった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、想定外の操作による危険性を回避する対策を講じたことにより、車両のシフト装置としても用いることができる汎用性の高い力覚付与型入力装置及びこれを用いたシフト装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]上記目的を達成するため本発明に係る力覚付与型入力装置は、二次元上の任意の位置に操作可能なジョイスティック操作部と、前記ジョイスティック操作部に力を付与する駆動手段と、前記ジョイスティック操作部の操作状態を検出する検出手段と、前記検出手段で検出される前記ジョイスティック操作部の操作状態に基づいて、当該ジョイスティック操作部の軌道からの逸脱を阻止する方向に当該ジョイスティック操作部に対し前記力が生じるように前記駆動手段を制御する軌道制御手段と、を備える。
【0010】
[2]また、前記ジョイスティック操作部の前記軌道には複数の切換位置が設定されており、前記検出手段が検出する一つの前記切換位置への操作の有効性を、当該一つの切換位置とは前記軌道を介して直線で接続される他の切換位置への操作を経由してなされたことを当該検出手段が検出することを条件に判定する切換位置判定手段を、更に備える。
【0011】
[3]また、前記他の切換位置への操作を経由せずに前記一つの切換位置に前記ジョイスティック操作部が操作されたことを前記切換位置判定手段が判定したとき、当該一つの切換位置への操作を無効とする異常処理を行う異常処理手段を、更に備える。
【0012】
[4]また、前記切換位置判定手段による前記一つの切換位置への操作の有効性の判定のための前提条件とされる前記他の切換位置は、前記ジョイスティック操作部の前記軌道の分岐点に存在する。
【0013】
[5]上記目的を達成するため本発明に係るシフト装置は、二次元上の任意の位置に操作可能なジョイスティック操作部と、前記ジョイスティック操作部に力を付与する駆動手段と、前記ジョイスティック操作部の操作状態を検出する検出手段と、前記検出手段で検出される前記ジョイスティック操作部の操作状態に基づいて、当該ジョイスティック操作部の軌道からの逸脱を阻止する方向に当該ジョイスティック操作部に対し前記力が生じるように前記駆動手段を制御する軌道制御手段と、を備え、前記ジョイスティック操作部は、車両に搭載される変速機のシフトポジションを手動で切り換えるためのシフトレバーである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、想定外の操作を回避して安全性を確保できるとともに、車両のシフト装置にも応用できる汎用性の高い力覚付与型入力装置及びこれを用いたシフト装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の実施の形態による力覚付与型のシフト装置の構成を示す分解斜視図である。
【図2】図2は、力覚付与型のシフト装置のシステム構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、力覚付与型のシフト装置において設定されるシフトポジションの配列とシフトレバーの軌道との位置関係を示す図である。
【図4】図4は、力覚付与型のシフト装置において、ホーム(H)ポジションを傾倒操作の原点としてシフトレバーに作用する力覚パターンを例示する図である。
【図5】図5は、力覚付与型のシフト装置におけるシフトレバーの操作許容エリアを横切る2つの代表的な横断線において、シフトレバーに作用する力覚パターンを例示する図である。
【図6】図6は、力覚付与型のシフト装置において、シフトアップ(+)ポジションの操作の有効性を判定するフローチャートである。
【図7】図7は、力覚付与型のシフト装置において、シフトダウン(−)ポジションへの操作の有効性を判定するフローチャートである。
【図8】図8は、力覚付与型のシフト装置において、ニュートラル(N)ポジションへの操作の有効性を判定するフローチャートである。
【図9】図9は、力覚付与型のシフト装置において、リバース(R)ポジションへの操作の有効性を判定するフローチャートである。
【図10】図10は、力覚付与型のシフト装置において、ドライブ(D)ポジションへの操作の有効性を判定するフローチャートである。
【図11】図11は、シフトレバーの種々の操作経路を示す操作パターン図(a)〜(f)である。
【図12】図12は、力覚付与型のシフト装置において、ホーム(H)ポジションを傾倒操作の原点としてシフトレバーに作用する力覚パターンを例示するものであって、シフトレバーのステーショナリ動作を制御するための力覚パターンの例示図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る力覚付与型入力装置の好適な実施の形態として、車両の自動変速機を切り換えるための、力覚付与型のシフト装置1について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
(力覚付与型のシフト装置の構成)
図1は、本発明の実施の形態による力覚付与型のシフト装置1の構成を示す分解斜視図である。この力覚付与型のシフト装置1は、シフトレバー2と、ジョイスティック機構部3と、ジョイスティック機構部3を収納するケース部材4とを備えている。
【0018】
シフトレバー2は、二次元(XY面)上の任意の方向への傾倒操作(シフト操作)が可能なジョイスティック操作部であり、操作者が手動で操作する把持部2aと、皿状で下面が凹状に湾曲する被案内面を有する支持摺動部2bと、把持部2a及び支持摺動部2bを連結する支柱部2cとにより一体形成されている。
【0019】
ジョイスティック機構部3は、シフトレバー2が先端部に固定されるシャフト11と、シャフト11の傾倒動作を一定の範囲に規制するゲートブロック20とを備えている。シャフト11は、例えば、柱状の棒状部材からなり、互いに直交するように設けられた第1キャリッジ12及び第2キャリッジ13の各長孔を貫通している。
【0020】
第1キャリッジ12は、四角形の管状の部材からなり、シャフト11をその長孔の長手方向(X方向)に沿って傾倒可能に枢着させるX軸14と、X軸14に直交する方向(Y方向)に突出するY軸15とを備えている。各Y軸15は、第1キャリッジ12の両外壁に一体に形成され、Y軸15の各両端部にはベアリング16が嵌着されている。ベアリング16がベアリングホルダ17を介してジョイスティック機構部3の図示しないフレームに固定されることにより、第1キャリッジ12は、当該フレームに対しY軸15を中心に揺動可能とされている。
【0021】
第2キャリッジ13は、シャフト11が貫通している長孔が形成される平板部と、当該平板部と直交するアーム部とが一体形成される外形U字状の部材から構成されている。第2キャリッジ13の長孔は、Y方向に沿って長く形成され、シャフト11のY方向への傾倒動作を許容する一方で、X方向の傾倒に対しては第2キャリッジ13を揺動させるように形成されている。
【0022】
ゲートブロック20は、上面部に四角形の開口を有する箱状の強度部材であり、シャフト11の傾倒動作を所定の範囲に制限するために設けられている。すなわち、ゲートブロック20の開口内部には、シャフト11の基端部が挿入され、シャフト11が最大ストローク傾倒する位置で当該基端部がゲートブロック20の内壁に当接することにより、それ以上のシャフト11の傾倒動作が規制される。
【0023】
また、ジョイスティック機構部3は、2つのセクターギア21,26と、シフトレバー2及びシャフト11の傾倒状態を検出する検出手段としての2つの回転センサ32,37と、シャフト11を介してシフトレバー2に力を付与する駆動手段としてのXモータ31及びYモータ36とを備えている。セクターギア21,26は、それぞれ扇状の基端部に揺動軸が設けられ、その揺動軸を中心とする同一半径の周面部にギア歯21a,26aが形成されている。
【0024】
第1のセクターギア21は、ジョイスティック機構部3の図示しないフレームにその揺動軸が枢着されて揺動可能であるとともに、第2キャリッジ13のアーム部が同軸に連結している。第1のセクターギア21のギア歯21aには、Xモータ31のモータギア31aが噛合している。また、回転センサ32は、例えば、モータギア31aに連結して回転する回転エンコーダ部とその回転数をカウントして回転角度あるいは回転位置を検出する光検出器等により構成されている。
【0025】
第2のセクターギア26は、その揺動軸が第1キャリッジ12の一方のY軸15に連結している。また、第2のセクターギア26のギア歯26aには、Yモータ36のモータギア36aが噛合している。また、回転センサ37は、例えば、モータギア36aに連結して回転する回転エンコーダ部とその回転数をカウントして回転角度あるいは回転位置を検出する光検出器等により構成されている。
【0026】
ここで、2つの回転センサ32,37は、フォトディテクタを用いた光検出方式のエンコーダで構成されている。また、回転センサ32,37は、磁気抵抗効果素子(MR素子)を用いた磁気検出方式のエンコーダであってもよい。回転センサ32,37は、Xモータ31及びYモータ36の回転に応じて位相の異なる2つのパルスを出力する。これにより、Xモータ31及びYモータ36の回転方向と回転量が検出される。また、回転センサ32,37の出力に基づいて、セクターギア21,26等を介して連結されているシャフト11及びシフトレバー2のXY面における傾倒方向とその傾倒角度が同時に検出される。
【0027】
ケース部材4は、ジョイスティック機構部3を内部に収容する箱状のケースフレーム4aと、ケースフレーム4aの上面部において突出する案内ドーム4bとを有して一体に形成される。また、案内ドーム4bの頂部には、略四角形の開口4cが形成されている。
【0028】
ジョイスティック機構部3に備えられるシャフト11は、その先端部がケース部材4の内側から案内ドーム4bの開口4cに挿入されてシフトレバー2の支柱部2cに固定される。このとき、シフトレバー2は、支持摺動部2bの下面である被案内面が案内ドーム4bの上面に支持され、かつ、その上面に対してXYの方向に摺動するように取り付けられる。
【0029】
シフトレバー2がX方向に傾倒操作されシャフト11が傾倒すると、これに連動して第2キャリッジ13及び第2キャリッジ13に軸を一にして連結するセクターギア21が揺動する。これに伴いセクターギア21のギア歯21aに噛合するモータギア31aが回転するので、その回転角に基づいて回転センサ32によりシャフト11のX方向における傾倒動作が検出される。同様に、シフトレバー2がY方向に傾倒操作されると、シャフト11に係合する第1キャリッジ12及びこれに連結するセクターギア26が揺動する。これに伴いセクターギア26のギア歯26aに噛合するモータギア36aが回転し、その回転角に基づいて回転センサ37によりシャフト11のY方向における傾倒動作が検出される。
【0030】
さらに、Xモータ31に駆動電流が供給されると、モータギア31a、セクターギア21及び第2キャリッジ13を介してシャフト11及びシフトレバー2にX方向に傾倒させるトルクが伝達される。同様にYモータ36に駆動電流が供給されると、モータギア36a、セクターギア26及び第1キャリッジ12を介してシャフト11及びシフトレバー2にY方向に傾倒させるトルクが伝達される。次に説明する力覚制御部50は、Xモータ31及びYモータ36に駆動電流を供給し、回転センサ32,37が検出するシフトレバー2の操作状態に基づきフィードバック制御することにより、所望の反力をシフトレバー2に付与する力覚制御を行う。
【0031】
図2は、本実施の形態による力覚付与型のシフト装置1のシステム構成を示すブロック図である。力覚制御部50は、CPU、ROMやRAMからなるメモリ、各種センサやスイッチが接続される入出力ポート、車載LANコントローラ等をハードウエア回路として備え、CPUが予めROMに記憶されたプログラムに従って演算制御処理を実行する電子制御のマイコンユニットとして構成される。力覚制御部50には、Xモータ31、回転センサ32、Yモータ36、回転センサ37が接続されている。力覚制御部50は、回転センサ32,37の出力に基づいて、シフトレバー2の操作状態(XY面における傾倒方向とその傾倒角度)を演算して求め車両の自動変速機に出力する。また、力覚制御部50は、シフトレバー2が所定の軌道を逸脱するような想定外の異常操作がされたときに、車両の安全管理装置(ブザーやランプ等の警報手段を含む)70やエンジンECU(Electronic Control Unit)(図示せず)等にエラー信号を出力するようにも構成されている。
【0032】
また、力覚制御部50には、不揮発性のメモリ51が接続されている。メモリ51には、シフトレバー2の操作状態に応じて反力を付与する力覚制御、ホームポジションへの自動復帰制御及びシフトレバー2の操作を所定の軌道のみに規制する軌道制御をするための参照テーブルデータである力覚パターンデータ52が予め記憶されている。力覚制御部50は、次に具体的に説明する力覚パターンが電子データ化された力覚パターンデータ52を参照し、回転センサ32,37の出力から演算されるシフトレバー2の操作状態に基づいてXモータ31及びYモータ36のトルクを制御する。これにより、力覚パターンデータ52に応じた反力がシフトレバー2に付与される。
【0033】
図3は、本実施の形態による力覚付与型のシフト装置1において設定される複数の切換位置であるシフトポジションの配列とシフトレバー2の軌道との位置関係(シフトパターン)を示す図である。シフトレバー2のXY方向における物理的に移動操作可能な領域69の限界は、ゲートブロック20で画される。その全領域69内に、本実施の形態では、シフトレバー2の操作許容エリア67(第1〜第3の操作許容エリア67a,67b,67c)と、それ以外の操作規制エリア68とが、互いに排他的に区分けされて設定されている。操作許容エリア67は、シフトレバー2の軌道に沿うエリアであり、後述するように本実施の形態では、操作許容エリア67の外縁部に力覚付与制御によるシフトレバー2への「反力の壁」が作られて、操作許容エリア67に沿う軌道からシフトレバー2が逸脱するような異常操作を防止している。
【0034】
図3に示されるように、右側の縦の第1の操作許容エリア67aには、車両の自動変速機のリバース(「R」と略して表記する。)、ニュートラル(「N」と略して表記する。)及びドライブ(「D」と略して表記する。)に対応するシフトポジションであるRポジション61、Nポジション62及びDポジション63が順に配列して設定されている。また、左側の縦の第2の操作許容エリア67bには、シフトアップポジション(「+」と表記する。)64と、ホームポジション65(「H」と略して表記する。)と、シフトダウンポジション(「−」と表記する。)66が順に配列して設定されている。さらに、Hポジション65と、Nポジション62とを横方向に連結する第3の操作許容エリア67cが設定されている。すなわち、本実施の形態では、シフトレバー2がシフト操作される軌道が、Hポジション65及びNポジション62を分岐点とするH字状に予め定められている。
【0035】
(シフトレバーの自動復帰制御動作)
次に、力覚付与型のシフト装置1に備えられるシフトレバー2の自動復帰制御手段による動作を説明する。なお、自動復帰の動作(モーメンタリ動作)は、力覚制御部50のCPUが回転センサ32,37から得られるシフトレバー2の操作状態に基づいて、メモリ51に記憶された力覚パターンを参照しながらXモータ31及びYモータ36のトルクをフィードバック制御することで実行される。
【0036】
図4は、Hポジション65を傾倒操作の原点としてシフトレバー2に作用する力覚パターンを例示する図である。これらの力覚パターンは、力覚パターンデータ52として電子化されてメモリ51に記憶されている。ここで、図4(a)に示されるように、Hポジション65を中心とし第2の操作許容エリア67bに沿うY方向への傾倒操作(YH+〜YH−)と、第3の操作許容エリア67cに沿うX方向への傾倒操作(XH+〜XH−)を考える。
【0037】
図4(b)は、Y方向へのシフトレバー2の傾倒操作量であるYストローク(YH+〜YH−)を縦軸として、これに対するYモータ36に生じさせるトルクとの関係(YH軸における力覚パターン)を示すグラフである。
【0038】
図4(b)の力覚パターンによると、シフトレバー2のストロークがYH+側にあるとき、これとは逆向き(下方向)の反力がシフトレバー2に作用するようにYモータ36のトルクが制御される。また、シフトレバー2のストロークがYH−側にあるとき、これとは逆向き(上方向)の反力がシフトレバー2に作用するようにYモータ36のトルクが制御される。したがって、第2の操作許容エリア67bにあるシフトレバー2には、Hポジション65を中心に自動復帰する方向に力が作用する。
【0039】
また、図4(b)によれば、シフトレバー2が+ポジション64よりもYH+側、または−ポジション66よりもYH−側への傾倒操作に対しては、Yモータ36のトルクが最大(YnmaxまたはYpmax)まで急激に立ち上がるように力覚パターンが設定されている。これにより、操作者が+ポジション64から更に上へ、または−ポジション66から更に下へシフトレバー2を傾倒させようとしても、シフトレバー2を介して知覚される「反力の壁」により、第2の操作許容エリア67bを逸脱するような傾倒操作が防止される。
【0040】
図4(c)は、X方向へのシフトレバー2の傾倒操作量であるXストローク(XH+〜XH−)を横軸として、これに対するXモータ31に生じさせるトルクとの関係(XH軸における力覚パターン)を示すグラフである。図4(c)によれば、シフトレバー2のストロークがXH+側にあるとき、これとは逆向き(左方向)の反力がシフトレバー2に作用するようにXモータ31のトルクが制御される。したがって、第3の操作許容エリア67cにあるシフトレバー2には、Hポジション65に自動復帰する方向に反力が作用する。
【0041】
また、シフトレバー2がNポジション62よりもXH+側、またはHポジション65よりもXH−側への傾倒操作に対しては、Xモータ31のトルクが最大(XpmaxまたはXnmax)まで急激に立ち上がるように力覚パターンが設定されている。これにより、操作者がシフトレバー2をNポジション62から更に右へ、またはHポジション65から更に左へ傾倒させようとしても、シフトレバー2を介して知覚される「反力の壁」により、第3の操作許容エリア67cから逸脱するような傾倒操作が防止される。
【0042】
(シフトレバーの軌道制御動作)
次に、力覚付与型のシフト装置1に備えられるシフトレバー2の軌道制御手段による動作を説明する。なお、軌道制御の動作(トラッキング動作)は、力覚制御部50のCPUが回転センサ32,37から得られるシフトレバー2の操作状態に基づいて、メモリ51に記憶された力覚パターンを参照しながらXモータ31及びYモータ36のトルクをフィードバック制御することで実行される。
【0043】
図5は、シフトレバー2の軌道に設定される第1、第2及び第3の操作許容エリア67を横切る2つの代表的な横断線において、シフトレバー2に作用する力覚パターンを例示する図である。なお、これらの力覚パターンは、力覚パターンデータ52として電子化されてメモリ51に記憶されている。ここでは、図5(a)に示されるように、第3の操作許容エリア67cを縦方向に横切るY1横断線と、第1及び第2の操作許容エリア67a,67bを横方向に横切るX1横断線とについて考える。なお、座標上の原点は、図4と同様にHポジション65に設定されるものとする。
【0044】
図5(b)は、Y1横断線に沿う方向へのシフトレバー2の傾倒操作量であるYストローク(Y1+〜Y1−)を縦軸として、これに対するYモータ36に生じさせるトルクとの関係(Y1横断線における力覚パターン)を示すグラフである。図5(b)によると、シフトレバー2の傾倒位置が第3の操作許容エリア67cにあるときは、そのエリアの中心にシフトレバー2が常に向うようにシフトレバー2に力がフィードバック制御される。また、第3の操作許容エリア67cの外縁部では、Yモータ36のトルクが最大(YnmaxまたはYpmax)まで急激に立ち上がるように力覚パターンが設定されている。これにより、第3の操作許容エリア67cの上下の外縁部にシフトレバー2に対する「反力の壁」が存在することなり、第3の操作許容エリア67cに設定される軌道を逸脱するようなシフトレバー2の異常操作を防止している。
【0045】
図5(c)は、X1横断線に沿う方向へのシフトレバー2の傾倒操作量であるXストローク(X1+〜X1−)を横軸として、これに対するXモータ31に生じさせるトルクとの関係(X1横断線における力覚パターン)を示すグラフである。図5(c)によると、シフトレバー2の傾倒位置が第1の操作許容エリア67aにあるときは、その第1の操作許容エリア67aの中心にシフトレバー2が常に向うようにシフトレバー2に力がフィードバック制御される。同様に、シフトレバー2の傾倒位置が第2の操作許容エリア67bにあるときは、その第2の操作許容エリア67bの中心にシフトレバー2が常に向うようにシフトレバー2に力がフィードバック制御される。
【0046】
また、第1の操作許容エリア67aの外縁部では、Xモータ31のトルクが最大(XpmaxまたはXnmax)まで急激に立ち上がるように力覚パターンが設定されている。同様に、第2の操作許容エリア67bの外縁部にも、Xモータ31のトルクが最大(XpmaxまたはXnmax)まで急激に立ち上がるように力覚パターンが設定されている。すなわち、第1及び第2の操作許容エリア67a,67bのそれぞれの左右の外縁部には、シフトレバー2に対する「反力の壁」が存在することとなり、第1及び第2の操作許容エリア67a,67bに設定される軌道を逸脱するようなシフトレバー2の異常操作を防止している。
【0047】
(シフトポジションの判定動作)
次に、力覚制御部50のCPU(以下、単に「CPU」という。)が回転センサ32,37の出力から得られるシフトレバー2の操作状態に基づいて、各シフトポジションへのシフト操作の有効性を判定する切換位置判定手段の動作を説明する。
【0048】
図6は、+ポジション64へのシフト操作の有効性を判定するフローチャートである。CPUは、常時、シフトレバー2がHポジション65にあるか否かを検出する(ステップS10)。CPUは、シフトレバー2の軌道の分岐点であるHポジション65を検出したことを前提に(ステップS10:YES)、シフトレバー2が+ポジション64にあるか否かを検出する(ステップS11)。そして、CPUは、+ポジション64であることを検出したとき(ステップS11:YES)、+ポジション64への操作が有効であるとしてシフトアップ信号を出力する(ステップS12)。+ポジション64が検出されないときは、操作状態出力は変化しない(ステップS13)。なお、CPUは、Hポジション65を経由せずに+ポジション64を検出したときは、+ポジション64への操作を無効にして車両の安全管理装置70等にエラー信号を出力する。
【0049】
図7は、−ポジション66へのシフト操作の有効性を判定するフローチャートである。CPUは、常時、シフトレバー2がHポジション65にあるか否かを検出する(ステップS20)。CPUは、シフトレバー2の軌道の分岐点であるHポジション65を検出したことを前提に(ステップS20:YES)、シフトレバー2が−ポジション66にあるか否かを検出する(ステップS21)。そして、CPUは、−ポジション66であることを検出したとき(ステップS21:YES)、−ポジション66への操作が有効であるとしてシフトダウン信号を出力する(ステップS22)。−ポジション66が検出されないときは、操作状態出力は変化しない(ステップS23)。なお、CPUは、Hポジション65を経由せずに−ポジション66を検出したときは、−ポジション66への操作を無効にして車両の安全管理装置70等にエラー信号を出力する。
【0050】
図8は、Nポジション62へのシフト操作の有効性を判定するフローチャートである。CPUは、常時、シフトレバー2がHポジション65にあるか否かを検出する(ステップS30)。CPUは、シフトレバー2の軌道の分岐点であるHポジション65を検出したことを前提に(ステップS30:YES)、シフトレバー2がNポジション62にあるか否かを検出する(ステップS31)。そして、CPUは、Nポジション62であることを検出したとき(ステップS31:YES)、Nポジション62への操作が有効であるとしてNポジション信号を出力する(ステップS32)。Nポジション62が検出されないときは、操作状態出力は変化しない(ステップS33)。なお、CPUは、Hポジション65を経由せずにNポジション62を検出したときは、Nポジション62への操作を無効にして車両の安全管理装置70等にエラー信号を出力する。
【0051】
図9は、Rポジション61へのシフト操作の有効性を判定するフローチャートである。CPUは、常時、シフトレバー2がHポジション65にあるか否かを検出する(ステップS40)。CPUは、Hポジション65を検出したことを前提に(ステップS40:YES)、シフトレバー2がNポジション62にあるか否かを検出する(ステップS41)。Nポジション62が検出されないときは、操作状態出力は変化しない(ステップS42)。CPUは、シフトレバー2の軌道の分岐点であるNポジション62を検出したことを前提に(ステップS41:YES)、シフトレバー2がRポジション61にあるか否かを検出する(ステップS43)。CPUは、Rポジション61であることを検出したとき(ステップS43:YES)、Rポジション61への操作が有効であるとしてRポジション信号を出力する(ステップS44)。Rポジション61が検出されないときは、そのまま、Nポジション信号を出力する(ステップS45)。なお、CPUは、Nポジション62を経由せずにRポジション61を検出したときは、Rポジション61への操作を無効にして車両の安全管理装置70等にエラー信号を出力する。
【0052】
図10は、Dポジション63へのシフト操作の有効性を判定するフローチャートである。CPUは、常時、シフトレバー2がHポジション65にあるか否かを検出する(ステップS50)。CPUは、Hポジション65を検出したことを前提に(ステップS50:YES)、シフトレバー2がNポジション62にあるか否かを検出する(ステップS51)。Nポジション62が検出されないときは、操作状態出力は変化しない(ステップS52)。CPUは、シフトレバー2の軌道の分岐点であるNポジション62を検出したことを前提に(ステップS51:YES)、シフトレバー2がDポジション63にあるか否かを検出する(ステップS53)。CPUは、Dポジション63であることを検出したとき(ステップS53:YES)、Dポジション63への操作が有効であるとしてDポジション信号を出力する(ステップS54)。Dポジション63が検出されないときは、そのまま、Nポジション信号を出力する(ステップS55)。なお、CPUは、Nポジション62を経由せずにDポジション63を検出したときは、Dポジション63への操作を無効にして車両の安全管理装置70等にエラー信号を出力する。
【0053】
(実施の形態による効果)
本実施の形態によれば、以下の技術的な効果が奏される。
[1]ジョイスティック操作部であるシフトレバー2の操作可能範囲内において、各シフトポジションが配列されるシフトレバー2の軌道に沿って操作許容エリア67を設定した。操作規制エリア68との境界である操作許容エリア67の外縁部に、Xモータ31及びYモータ36のトルクが最大となる、シフトレバー2に対する「反力の壁」を力覚付与制御により生じさせたことにより、シフトレバー2の軌道を逸脱するような異常な操作を防止することができる。
[2]力覚制御部50は、シフトレバー2の軌道の分岐点であるHポジション65の経由を条件に+ポジション64及び−ポジション66へのシフト操作を有効と判定する。また、力覚制御部50は、シフトレバー2の軌道の分岐点であるNポジション62の経由を条件にRポジション61及びDポジション63へのシフト操作を有効と判定する。これに反し、上述の「反力の壁」を無理やり超えて軌道を飛び越えるような想定外の危険な操作に対しては、当該操作を無効とし及び警告等の異常処理で対処することができる。これにより、異常操作に対する安全性を確保することができる。
[3]力覚付与型のシフト装置1において、かかる異常操作に対する危険性を回避し安全性を確保する対策を講じた上では、ジョイスティックの操作を許容するエリア(軌道)を電子的な制御により任意に定めることは容易であるため、本実施の形態に係る技術的思想をシフト装置以外にも様々な用途及び目的のものに応用することができる。したがって、力覚付与型入力装置の汎用性を大きく高めることができる。
【0054】
以上、本発明に好適な実施の形態を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で種々の変形、応用が可能である。例えば、本実施の形態に示したH形状のパターンだけでなく、種々の操作パターンに対応できる。図11は、シフトレバーの種々の操作経路を示す操作パターン図(a)〜(f)である。これによれば、車種等に応じて、H形状のパターン、I形状のパターンや、これらの組合せとして種々の操作経路を有する操作パターンに対応できる。さらに、図示は省略するが、任意の角度で交差する操作パターンを含む操作経路を有する操作パターン等にも対応可能である。
【0055】
また、これらの操作形状パターンを力覚制御する力覚パターンは、本実施の形態に示した力覚パターンに限られず種々の制御パターンに変更可能である。本実施の形態に示した図4に示す力覚パターンは、YH+側においてRポジション61の位置でもYモータトルクが常に下方向側に作用する。また、Dポジション63の位置でもYモータトルクが常に上方向側に作用する。従って、シフトレバー2は、Rポジション61、Dポジション63にシフト操作された後、それらの位置に留まらずに、Hポジション65に戻ってくる。すなわち、シフトレバーへの操作力を解除した後にHポジション65に自動復帰するモーメンタリ動作を制御するための力覚パターンである。
【0056】
これに対して、本実施の形態において、シフトレバーをステーショナリ動作で制御することも可能である。図12は、力覚付与型のシフト装置において、ホーム(H)ポジションを傾倒操作の原点としてシフトレバーに作用する力覚パターンを例示するものであって、シフトレバーのステーショナリ動作を制御するための力覚パターンの例示図である。図12(b)のYH+側においてYモータトルクはRポジション61の付近で上下反転する。また、Dポジション63の付近でも上下反転する。従って、シフトレバー2は、Rポジション61にシフト操作された後、Yモータトルクが上方向から下方向に反転するゼロクロス点ZC1に留まる。同様に、シフトレバー2は、Dポジション63にシフト操作された後、Yモータトルクが下方向から上方向に反転するゼロクロス点ZC2に留まる。よって、図4で示す力覚パターンを図12に示すような力覚パターンに変更することにより、シフトレバー2のステーショナリ動作での制御も対応可能である。
【符号の説明】
【0057】
1…シフト装置、2…シフトレバー、2a…把持部、2b…支持摺動部、2c…支柱部、3…ジョイスティック機構部、4…ケース部材、4a…ケースフレーム、4b…案内ドーム、4c…開口、11…シャフト、12…第1キャリッジ、13…第2キャリッジ、14…X軸、15…Y軸、16…ベアリング、17…ベアリングホルダ、20…ゲートブロック、21…セクターギア、21a…ギア歯、26…セクターギア、26a…ギア歯、31…Xモータ、31a…モータギア、32…回転センサ、36…Yモータ、36a…モータギア、37…回転センサ、50…力覚制御部、51…メモリ、52…力覚パターンデータ、61…リバース(R)ポジション、62…ニュートラル(N)ポジション、63…ドライブ(D)ポジション、64…シフトアップ(+)ポジション、65…ホーム(H)ポジション、66…シフトダウン(−)ポジション、67,67a,67b,67c…操作許容エリア、68…操作規制エリア、69…シフトレバーの操作可能な全領域、70…安全管理装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジョイスティック等の操作部に反力としての力覚を付与する力覚付与型入力装置及びこれを用いたシフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遠隔操作が求められる多くの分野で、操作感覚を疑似的に再現して操作性能を向上させる力覚付与型デバイスが注目されている。この力覚付与型入力装置は、機械的な入力機構に換えて操作部の操作状態を電気信号に変換して出力する、いわゆるバイワイヤ方式の入力装置において、操作状態の検出信号に基づく反力を操作部にフォースフィードバック制御することにより、操作に応じた力覚を操作者に与えるものである。
【0003】
一方で自動車の分野においては、走行性能に加え、安全性、快適性及び環境等の観点から車両内の電子化が進み、エアコン、カーナビ、オーディオ等の様々な操作対象機器類が搭載されるのが一般的となっている。このような多種に亘る機器類を操作する操作者の負担を軽減するため、操作入力を運転席内の1つの入力装置で一元化できるジョイスティックタイプの力覚付与型入力装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような力覚付与型入力装置によれば、ジョイスティックに例えば疑似的な節度感(クリックフィーリング)を生じさせ、または次にすべき操作を反力で促すような操作の支援制御といった多様な操作感を力覚として付与することが可能となる。また、操作対象機器の動作や操作の目的に応じて力覚パターンを適宜変更することで、多用途、多目的の入力装置として共有することができる。
【0005】
また、車両の自動変速機を切り換えるバイワイヤ方式のシフト装置(SBW:Shift By Wire)において、一方向のみ往復傾倒操作可能なシフト装置に上述の力覚付与型技術を応用したものが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−258782号公報
【特許文献2】特開2003−176870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、バイワイヤ方式のシフト装置において、上述したジョイスティックタイプの入力装置のように二次元上の任意の位置へのシフト操作を許容することにより、多用途、多目的の操作入力に対応させた構成は見当たらない。車両のシフト装置は、シフトレバーの軌道に沿ってR(リバース)、N(ニュートラル)又はD(ドライブ)等のシフトポジションが予め設定されており、例えばDポジションからRポジションへシフトレンジが直接切り換わるような想定外の危険なシフト操作を禁止する必要がある。つまり、従来のシフト装置は、ジョイスティックをベースにするものであったとしても、シフトレバーの操作を一定の軌道上に機械的に規制するためのゲート等の強度部材が必要となり、汎用性を確保することができなかった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、想定外の操作による危険性を回避する対策を講じたことにより、車両のシフト装置としても用いることができる汎用性の高い力覚付与型入力装置及びこれを用いたシフト装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]上記目的を達成するため本発明に係る力覚付与型入力装置は、二次元上の任意の位置に操作可能なジョイスティック操作部と、前記ジョイスティック操作部に力を付与する駆動手段と、前記ジョイスティック操作部の操作状態を検出する検出手段と、前記検出手段で検出される前記ジョイスティック操作部の操作状態に基づいて、当該ジョイスティック操作部の軌道からの逸脱を阻止する方向に当該ジョイスティック操作部に対し前記力が生じるように前記駆動手段を制御する軌道制御手段と、を備える。
【0010】
[2]また、前記ジョイスティック操作部の前記軌道には複数の切換位置が設定されており、前記検出手段が検出する一つの前記切換位置への操作の有効性を、当該一つの切換位置とは前記軌道を介して直線で接続される他の切換位置への操作を経由してなされたことを当該検出手段が検出することを条件に判定する切換位置判定手段を、更に備える。
【0011】
[3]また、前記他の切換位置への操作を経由せずに前記一つの切換位置に前記ジョイスティック操作部が操作されたことを前記切換位置判定手段が判定したとき、当該一つの切換位置への操作を無効とする異常処理を行う異常処理手段を、更に備える。
【0012】
[4]また、前記切換位置判定手段による前記一つの切換位置への操作の有効性の判定のための前提条件とされる前記他の切換位置は、前記ジョイスティック操作部の前記軌道の分岐点に存在する。
【0013】
[5]上記目的を達成するため本発明に係るシフト装置は、二次元上の任意の位置に操作可能なジョイスティック操作部と、前記ジョイスティック操作部に力を付与する駆動手段と、前記ジョイスティック操作部の操作状態を検出する検出手段と、前記検出手段で検出される前記ジョイスティック操作部の操作状態に基づいて、当該ジョイスティック操作部の軌道からの逸脱を阻止する方向に当該ジョイスティック操作部に対し前記力が生じるように前記駆動手段を制御する軌道制御手段と、を備え、前記ジョイスティック操作部は、車両に搭載される変速機のシフトポジションを手動で切り換えるためのシフトレバーである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、想定外の操作を回避して安全性を確保できるとともに、車両のシフト装置にも応用できる汎用性の高い力覚付与型入力装置及びこれを用いたシフト装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の実施の形態による力覚付与型のシフト装置の構成を示す分解斜視図である。
【図2】図2は、力覚付与型のシフト装置のシステム構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、力覚付与型のシフト装置において設定されるシフトポジションの配列とシフトレバーの軌道との位置関係を示す図である。
【図4】図4は、力覚付与型のシフト装置において、ホーム(H)ポジションを傾倒操作の原点としてシフトレバーに作用する力覚パターンを例示する図である。
【図5】図5は、力覚付与型のシフト装置におけるシフトレバーの操作許容エリアを横切る2つの代表的な横断線において、シフトレバーに作用する力覚パターンを例示する図である。
【図6】図6は、力覚付与型のシフト装置において、シフトアップ(+)ポジションの操作の有効性を判定するフローチャートである。
【図7】図7は、力覚付与型のシフト装置において、シフトダウン(−)ポジションへの操作の有効性を判定するフローチャートである。
【図8】図8は、力覚付与型のシフト装置において、ニュートラル(N)ポジションへの操作の有効性を判定するフローチャートである。
【図9】図9は、力覚付与型のシフト装置において、リバース(R)ポジションへの操作の有効性を判定するフローチャートである。
【図10】図10は、力覚付与型のシフト装置において、ドライブ(D)ポジションへの操作の有効性を判定するフローチャートである。
【図11】図11は、シフトレバーの種々の操作経路を示す操作パターン図(a)〜(f)である。
【図12】図12は、力覚付与型のシフト装置において、ホーム(H)ポジションを傾倒操作の原点としてシフトレバーに作用する力覚パターンを例示するものであって、シフトレバーのステーショナリ動作を制御するための力覚パターンの例示図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る力覚付与型入力装置の好適な実施の形態として、車両の自動変速機を切り換えるための、力覚付与型のシフト装置1について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
(力覚付与型のシフト装置の構成)
図1は、本発明の実施の形態による力覚付与型のシフト装置1の構成を示す分解斜視図である。この力覚付与型のシフト装置1は、シフトレバー2と、ジョイスティック機構部3と、ジョイスティック機構部3を収納するケース部材4とを備えている。
【0018】
シフトレバー2は、二次元(XY面)上の任意の方向への傾倒操作(シフト操作)が可能なジョイスティック操作部であり、操作者が手動で操作する把持部2aと、皿状で下面が凹状に湾曲する被案内面を有する支持摺動部2bと、把持部2a及び支持摺動部2bを連結する支柱部2cとにより一体形成されている。
【0019】
ジョイスティック機構部3は、シフトレバー2が先端部に固定されるシャフト11と、シャフト11の傾倒動作を一定の範囲に規制するゲートブロック20とを備えている。シャフト11は、例えば、柱状の棒状部材からなり、互いに直交するように設けられた第1キャリッジ12及び第2キャリッジ13の各長孔を貫通している。
【0020】
第1キャリッジ12は、四角形の管状の部材からなり、シャフト11をその長孔の長手方向(X方向)に沿って傾倒可能に枢着させるX軸14と、X軸14に直交する方向(Y方向)に突出するY軸15とを備えている。各Y軸15は、第1キャリッジ12の両外壁に一体に形成され、Y軸15の各両端部にはベアリング16が嵌着されている。ベアリング16がベアリングホルダ17を介してジョイスティック機構部3の図示しないフレームに固定されることにより、第1キャリッジ12は、当該フレームに対しY軸15を中心に揺動可能とされている。
【0021】
第2キャリッジ13は、シャフト11が貫通している長孔が形成される平板部と、当該平板部と直交するアーム部とが一体形成される外形U字状の部材から構成されている。第2キャリッジ13の長孔は、Y方向に沿って長く形成され、シャフト11のY方向への傾倒動作を許容する一方で、X方向の傾倒に対しては第2キャリッジ13を揺動させるように形成されている。
【0022】
ゲートブロック20は、上面部に四角形の開口を有する箱状の強度部材であり、シャフト11の傾倒動作を所定の範囲に制限するために設けられている。すなわち、ゲートブロック20の開口内部には、シャフト11の基端部が挿入され、シャフト11が最大ストローク傾倒する位置で当該基端部がゲートブロック20の内壁に当接することにより、それ以上のシャフト11の傾倒動作が規制される。
【0023】
また、ジョイスティック機構部3は、2つのセクターギア21,26と、シフトレバー2及びシャフト11の傾倒状態を検出する検出手段としての2つの回転センサ32,37と、シャフト11を介してシフトレバー2に力を付与する駆動手段としてのXモータ31及びYモータ36とを備えている。セクターギア21,26は、それぞれ扇状の基端部に揺動軸が設けられ、その揺動軸を中心とする同一半径の周面部にギア歯21a,26aが形成されている。
【0024】
第1のセクターギア21は、ジョイスティック機構部3の図示しないフレームにその揺動軸が枢着されて揺動可能であるとともに、第2キャリッジ13のアーム部が同軸に連結している。第1のセクターギア21のギア歯21aには、Xモータ31のモータギア31aが噛合している。また、回転センサ32は、例えば、モータギア31aに連結して回転する回転エンコーダ部とその回転数をカウントして回転角度あるいは回転位置を検出する光検出器等により構成されている。
【0025】
第2のセクターギア26は、その揺動軸が第1キャリッジ12の一方のY軸15に連結している。また、第2のセクターギア26のギア歯26aには、Yモータ36のモータギア36aが噛合している。また、回転センサ37は、例えば、モータギア36aに連結して回転する回転エンコーダ部とその回転数をカウントして回転角度あるいは回転位置を検出する光検出器等により構成されている。
【0026】
ここで、2つの回転センサ32,37は、フォトディテクタを用いた光検出方式のエンコーダで構成されている。また、回転センサ32,37は、磁気抵抗効果素子(MR素子)を用いた磁気検出方式のエンコーダであってもよい。回転センサ32,37は、Xモータ31及びYモータ36の回転に応じて位相の異なる2つのパルスを出力する。これにより、Xモータ31及びYモータ36の回転方向と回転量が検出される。また、回転センサ32,37の出力に基づいて、セクターギア21,26等を介して連結されているシャフト11及びシフトレバー2のXY面における傾倒方向とその傾倒角度が同時に検出される。
【0027】
ケース部材4は、ジョイスティック機構部3を内部に収容する箱状のケースフレーム4aと、ケースフレーム4aの上面部において突出する案内ドーム4bとを有して一体に形成される。また、案内ドーム4bの頂部には、略四角形の開口4cが形成されている。
【0028】
ジョイスティック機構部3に備えられるシャフト11は、その先端部がケース部材4の内側から案内ドーム4bの開口4cに挿入されてシフトレバー2の支柱部2cに固定される。このとき、シフトレバー2は、支持摺動部2bの下面である被案内面が案内ドーム4bの上面に支持され、かつ、その上面に対してXYの方向に摺動するように取り付けられる。
【0029】
シフトレバー2がX方向に傾倒操作されシャフト11が傾倒すると、これに連動して第2キャリッジ13及び第2キャリッジ13に軸を一にして連結するセクターギア21が揺動する。これに伴いセクターギア21のギア歯21aに噛合するモータギア31aが回転するので、その回転角に基づいて回転センサ32によりシャフト11のX方向における傾倒動作が検出される。同様に、シフトレバー2がY方向に傾倒操作されると、シャフト11に係合する第1キャリッジ12及びこれに連結するセクターギア26が揺動する。これに伴いセクターギア26のギア歯26aに噛合するモータギア36aが回転し、その回転角に基づいて回転センサ37によりシャフト11のY方向における傾倒動作が検出される。
【0030】
さらに、Xモータ31に駆動電流が供給されると、モータギア31a、セクターギア21及び第2キャリッジ13を介してシャフト11及びシフトレバー2にX方向に傾倒させるトルクが伝達される。同様にYモータ36に駆動電流が供給されると、モータギア36a、セクターギア26及び第1キャリッジ12を介してシャフト11及びシフトレバー2にY方向に傾倒させるトルクが伝達される。次に説明する力覚制御部50は、Xモータ31及びYモータ36に駆動電流を供給し、回転センサ32,37が検出するシフトレバー2の操作状態に基づきフィードバック制御することにより、所望の反力をシフトレバー2に付与する力覚制御を行う。
【0031】
図2は、本実施の形態による力覚付与型のシフト装置1のシステム構成を示すブロック図である。力覚制御部50は、CPU、ROMやRAMからなるメモリ、各種センサやスイッチが接続される入出力ポート、車載LANコントローラ等をハードウエア回路として備え、CPUが予めROMに記憶されたプログラムに従って演算制御処理を実行する電子制御のマイコンユニットとして構成される。力覚制御部50には、Xモータ31、回転センサ32、Yモータ36、回転センサ37が接続されている。力覚制御部50は、回転センサ32,37の出力に基づいて、シフトレバー2の操作状態(XY面における傾倒方向とその傾倒角度)を演算して求め車両の自動変速機に出力する。また、力覚制御部50は、シフトレバー2が所定の軌道を逸脱するような想定外の異常操作がされたときに、車両の安全管理装置(ブザーやランプ等の警報手段を含む)70やエンジンECU(Electronic Control Unit)(図示せず)等にエラー信号を出力するようにも構成されている。
【0032】
また、力覚制御部50には、不揮発性のメモリ51が接続されている。メモリ51には、シフトレバー2の操作状態に応じて反力を付与する力覚制御、ホームポジションへの自動復帰制御及びシフトレバー2の操作を所定の軌道のみに規制する軌道制御をするための参照テーブルデータである力覚パターンデータ52が予め記憶されている。力覚制御部50は、次に具体的に説明する力覚パターンが電子データ化された力覚パターンデータ52を参照し、回転センサ32,37の出力から演算されるシフトレバー2の操作状態に基づいてXモータ31及びYモータ36のトルクを制御する。これにより、力覚パターンデータ52に応じた反力がシフトレバー2に付与される。
【0033】
図3は、本実施の形態による力覚付与型のシフト装置1において設定される複数の切換位置であるシフトポジションの配列とシフトレバー2の軌道との位置関係(シフトパターン)を示す図である。シフトレバー2のXY方向における物理的に移動操作可能な領域69の限界は、ゲートブロック20で画される。その全領域69内に、本実施の形態では、シフトレバー2の操作許容エリア67(第1〜第3の操作許容エリア67a,67b,67c)と、それ以外の操作規制エリア68とが、互いに排他的に区分けされて設定されている。操作許容エリア67は、シフトレバー2の軌道に沿うエリアであり、後述するように本実施の形態では、操作許容エリア67の外縁部に力覚付与制御によるシフトレバー2への「反力の壁」が作られて、操作許容エリア67に沿う軌道からシフトレバー2が逸脱するような異常操作を防止している。
【0034】
図3に示されるように、右側の縦の第1の操作許容エリア67aには、車両の自動変速機のリバース(「R」と略して表記する。)、ニュートラル(「N」と略して表記する。)及びドライブ(「D」と略して表記する。)に対応するシフトポジションであるRポジション61、Nポジション62及びDポジション63が順に配列して設定されている。また、左側の縦の第2の操作許容エリア67bには、シフトアップポジション(「+」と表記する。)64と、ホームポジション65(「H」と略して表記する。)と、シフトダウンポジション(「−」と表記する。)66が順に配列して設定されている。さらに、Hポジション65と、Nポジション62とを横方向に連結する第3の操作許容エリア67cが設定されている。すなわち、本実施の形態では、シフトレバー2がシフト操作される軌道が、Hポジション65及びNポジション62を分岐点とするH字状に予め定められている。
【0035】
(シフトレバーの自動復帰制御動作)
次に、力覚付与型のシフト装置1に備えられるシフトレバー2の自動復帰制御手段による動作を説明する。なお、自動復帰の動作(モーメンタリ動作)は、力覚制御部50のCPUが回転センサ32,37から得られるシフトレバー2の操作状態に基づいて、メモリ51に記憶された力覚パターンを参照しながらXモータ31及びYモータ36のトルクをフィードバック制御することで実行される。
【0036】
図4は、Hポジション65を傾倒操作の原点としてシフトレバー2に作用する力覚パターンを例示する図である。これらの力覚パターンは、力覚パターンデータ52として電子化されてメモリ51に記憶されている。ここで、図4(a)に示されるように、Hポジション65を中心とし第2の操作許容エリア67bに沿うY方向への傾倒操作(YH+〜YH−)と、第3の操作許容エリア67cに沿うX方向への傾倒操作(XH+〜XH−)を考える。
【0037】
図4(b)は、Y方向へのシフトレバー2の傾倒操作量であるYストローク(YH+〜YH−)を縦軸として、これに対するYモータ36に生じさせるトルクとの関係(YH軸における力覚パターン)を示すグラフである。
【0038】
図4(b)の力覚パターンによると、シフトレバー2のストロークがYH+側にあるとき、これとは逆向き(下方向)の反力がシフトレバー2に作用するようにYモータ36のトルクが制御される。また、シフトレバー2のストロークがYH−側にあるとき、これとは逆向き(上方向)の反力がシフトレバー2に作用するようにYモータ36のトルクが制御される。したがって、第2の操作許容エリア67bにあるシフトレバー2には、Hポジション65を中心に自動復帰する方向に力が作用する。
【0039】
また、図4(b)によれば、シフトレバー2が+ポジション64よりもYH+側、または−ポジション66よりもYH−側への傾倒操作に対しては、Yモータ36のトルクが最大(YnmaxまたはYpmax)まで急激に立ち上がるように力覚パターンが設定されている。これにより、操作者が+ポジション64から更に上へ、または−ポジション66から更に下へシフトレバー2を傾倒させようとしても、シフトレバー2を介して知覚される「反力の壁」により、第2の操作許容エリア67bを逸脱するような傾倒操作が防止される。
【0040】
図4(c)は、X方向へのシフトレバー2の傾倒操作量であるXストローク(XH+〜XH−)を横軸として、これに対するXモータ31に生じさせるトルクとの関係(XH軸における力覚パターン)を示すグラフである。図4(c)によれば、シフトレバー2のストロークがXH+側にあるとき、これとは逆向き(左方向)の反力がシフトレバー2に作用するようにXモータ31のトルクが制御される。したがって、第3の操作許容エリア67cにあるシフトレバー2には、Hポジション65に自動復帰する方向に反力が作用する。
【0041】
また、シフトレバー2がNポジション62よりもXH+側、またはHポジション65よりもXH−側への傾倒操作に対しては、Xモータ31のトルクが最大(XpmaxまたはXnmax)まで急激に立ち上がるように力覚パターンが設定されている。これにより、操作者がシフトレバー2をNポジション62から更に右へ、またはHポジション65から更に左へ傾倒させようとしても、シフトレバー2を介して知覚される「反力の壁」により、第3の操作許容エリア67cから逸脱するような傾倒操作が防止される。
【0042】
(シフトレバーの軌道制御動作)
次に、力覚付与型のシフト装置1に備えられるシフトレバー2の軌道制御手段による動作を説明する。なお、軌道制御の動作(トラッキング動作)は、力覚制御部50のCPUが回転センサ32,37から得られるシフトレバー2の操作状態に基づいて、メモリ51に記憶された力覚パターンを参照しながらXモータ31及びYモータ36のトルクをフィードバック制御することで実行される。
【0043】
図5は、シフトレバー2の軌道に設定される第1、第2及び第3の操作許容エリア67を横切る2つの代表的な横断線において、シフトレバー2に作用する力覚パターンを例示する図である。なお、これらの力覚パターンは、力覚パターンデータ52として電子化されてメモリ51に記憶されている。ここでは、図5(a)に示されるように、第3の操作許容エリア67cを縦方向に横切るY1横断線と、第1及び第2の操作許容エリア67a,67bを横方向に横切るX1横断線とについて考える。なお、座標上の原点は、図4と同様にHポジション65に設定されるものとする。
【0044】
図5(b)は、Y1横断線に沿う方向へのシフトレバー2の傾倒操作量であるYストローク(Y1+〜Y1−)を縦軸として、これに対するYモータ36に生じさせるトルクとの関係(Y1横断線における力覚パターン)を示すグラフである。図5(b)によると、シフトレバー2の傾倒位置が第3の操作許容エリア67cにあるときは、そのエリアの中心にシフトレバー2が常に向うようにシフトレバー2に力がフィードバック制御される。また、第3の操作許容エリア67cの外縁部では、Yモータ36のトルクが最大(YnmaxまたはYpmax)まで急激に立ち上がるように力覚パターンが設定されている。これにより、第3の操作許容エリア67cの上下の外縁部にシフトレバー2に対する「反力の壁」が存在することなり、第3の操作許容エリア67cに設定される軌道を逸脱するようなシフトレバー2の異常操作を防止している。
【0045】
図5(c)は、X1横断線に沿う方向へのシフトレバー2の傾倒操作量であるXストローク(X1+〜X1−)を横軸として、これに対するXモータ31に生じさせるトルクとの関係(X1横断線における力覚パターン)を示すグラフである。図5(c)によると、シフトレバー2の傾倒位置が第1の操作許容エリア67aにあるときは、その第1の操作許容エリア67aの中心にシフトレバー2が常に向うようにシフトレバー2に力がフィードバック制御される。同様に、シフトレバー2の傾倒位置が第2の操作許容エリア67bにあるときは、その第2の操作許容エリア67bの中心にシフトレバー2が常に向うようにシフトレバー2に力がフィードバック制御される。
【0046】
また、第1の操作許容エリア67aの外縁部では、Xモータ31のトルクが最大(XpmaxまたはXnmax)まで急激に立ち上がるように力覚パターンが設定されている。同様に、第2の操作許容エリア67bの外縁部にも、Xモータ31のトルクが最大(XpmaxまたはXnmax)まで急激に立ち上がるように力覚パターンが設定されている。すなわち、第1及び第2の操作許容エリア67a,67bのそれぞれの左右の外縁部には、シフトレバー2に対する「反力の壁」が存在することとなり、第1及び第2の操作許容エリア67a,67bに設定される軌道を逸脱するようなシフトレバー2の異常操作を防止している。
【0047】
(シフトポジションの判定動作)
次に、力覚制御部50のCPU(以下、単に「CPU」という。)が回転センサ32,37の出力から得られるシフトレバー2の操作状態に基づいて、各シフトポジションへのシフト操作の有効性を判定する切換位置判定手段の動作を説明する。
【0048】
図6は、+ポジション64へのシフト操作の有効性を判定するフローチャートである。CPUは、常時、シフトレバー2がHポジション65にあるか否かを検出する(ステップS10)。CPUは、シフトレバー2の軌道の分岐点であるHポジション65を検出したことを前提に(ステップS10:YES)、シフトレバー2が+ポジション64にあるか否かを検出する(ステップS11)。そして、CPUは、+ポジション64であることを検出したとき(ステップS11:YES)、+ポジション64への操作が有効であるとしてシフトアップ信号を出力する(ステップS12)。+ポジション64が検出されないときは、操作状態出力は変化しない(ステップS13)。なお、CPUは、Hポジション65を経由せずに+ポジション64を検出したときは、+ポジション64への操作を無効にして車両の安全管理装置70等にエラー信号を出力する。
【0049】
図7は、−ポジション66へのシフト操作の有効性を判定するフローチャートである。CPUは、常時、シフトレバー2がHポジション65にあるか否かを検出する(ステップS20)。CPUは、シフトレバー2の軌道の分岐点であるHポジション65を検出したことを前提に(ステップS20:YES)、シフトレバー2が−ポジション66にあるか否かを検出する(ステップS21)。そして、CPUは、−ポジション66であることを検出したとき(ステップS21:YES)、−ポジション66への操作が有効であるとしてシフトダウン信号を出力する(ステップS22)。−ポジション66が検出されないときは、操作状態出力は変化しない(ステップS23)。なお、CPUは、Hポジション65を経由せずに−ポジション66を検出したときは、−ポジション66への操作を無効にして車両の安全管理装置70等にエラー信号を出力する。
【0050】
図8は、Nポジション62へのシフト操作の有効性を判定するフローチャートである。CPUは、常時、シフトレバー2がHポジション65にあるか否かを検出する(ステップS30)。CPUは、シフトレバー2の軌道の分岐点であるHポジション65を検出したことを前提に(ステップS30:YES)、シフトレバー2がNポジション62にあるか否かを検出する(ステップS31)。そして、CPUは、Nポジション62であることを検出したとき(ステップS31:YES)、Nポジション62への操作が有効であるとしてNポジション信号を出力する(ステップS32)。Nポジション62が検出されないときは、操作状態出力は変化しない(ステップS33)。なお、CPUは、Hポジション65を経由せずにNポジション62を検出したときは、Nポジション62への操作を無効にして車両の安全管理装置70等にエラー信号を出力する。
【0051】
図9は、Rポジション61へのシフト操作の有効性を判定するフローチャートである。CPUは、常時、シフトレバー2がHポジション65にあるか否かを検出する(ステップS40)。CPUは、Hポジション65を検出したことを前提に(ステップS40:YES)、シフトレバー2がNポジション62にあるか否かを検出する(ステップS41)。Nポジション62が検出されないときは、操作状態出力は変化しない(ステップS42)。CPUは、シフトレバー2の軌道の分岐点であるNポジション62を検出したことを前提に(ステップS41:YES)、シフトレバー2がRポジション61にあるか否かを検出する(ステップS43)。CPUは、Rポジション61であることを検出したとき(ステップS43:YES)、Rポジション61への操作が有効であるとしてRポジション信号を出力する(ステップS44)。Rポジション61が検出されないときは、そのまま、Nポジション信号を出力する(ステップS45)。なお、CPUは、Nポジション62を経由せずにRポジション61を検出したときは、Rポジション61への操作を無効にして車両の安全管理装置70等にエラー信号を出力する。
【0052】
図10は、Dポジション63へのシフト操作の有効性を判定するフローチャートである。CPUは、常時、シフトレバー2がHポジション65にあるか否かを検出する(ステップS50)。CPUは、Hポジション65を検出したことを前提に(ステップS50:YES)、シフトレバー2がNポジション62にあるか否かを検出する(ステップS51)。Nポジション62が検出されないときは、操作状態出力は変化しない(ステップS52)。CPUは、シフトレバー2の軌道の分岐点であるNポジション62を検出したことを前提に(ステップS51:YES)、シフトレバー2がDポジション63にあるか否かを検出する(ステップS53)。CPUは、Dポジション63であることを検出したとき(ステップS53:YES)、Dポジション63への操作が有効であるとしてDポジション信号を出力する(ステップS54)。Dポジション63が検出されないときは、そのまま、Nポジション信号を出力する(ステップS55)。なお、CPUは、Nポジション62を経由せずにDポジション63を検出したときは、Dポジション63への操作を無効にして車両の安全管理装置70等にエラー信号を出力する。
【0053】
(実施の形態による効果)
本実施の形態によれば、以下の技術的な効果が奏される。
[1]ジョイスティック操作部であるシフトレバー2の操作可能範囲内において、各シフトポジションが配列されるシフトレバー2の軌道に沿って操作許容エリア67を設定した。操作規制エリア68との境界である操作許容エリア67の外縁部に、Xモータ31及びYモータ36のトルクが最大となる、シフトレバー2に対する「反力の壁」を力覚付与制御により生じさせたことにより、シフトレバー2の軌道を逸脱するような異常な操作を防止することができる。
[2]力覚制御部50は、シフトレバー2の軌道の分岐点であるHポジション65の経由を条件に+ポジション64及び−ポジション66へのシフト操作を有効と判定する。また、力覚制御部50は、シフトレバー2の軌道の分岐点であるNポジション62の経由を条件にRポジション61及びDポジション63へのシフト操作を有効と判定する。これに反し、上述の「反力の壁」を無理やり超えて軌道を飛び越えるような想定外の危険な操作に対しては、当該操作を無効とし及び警告等の異常処理で対処することができる。これにより、異常操作に対する安全性を確保することができる。
[3]力覚付与型のシフト装置1において、かかる異常操作に対する危険性を回避し安全性を確保する対策を講じた上では、ジョイスティックの操作を許容するエリア(軌道)を電子的な制御により任意に定めることは容易であるため、本実施の形態に係る技術的思想をシフト装置以外にも様々な用途及び目的のものに応用することができる。したがって、力覚付与型入力装置の汎用性を大きく高めることができる。
【0054】
以上、本発明に好適な実施の形態を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で種々の変形、応用が可能である。例えば、本実施の形態に示したH形状のパターンだけでなく、種々の操作パターンに対応できる。図11は、シフトレバーの種々の操作経路を示す操作パターン図(a)〜(f)である。これによれば、車種等に応じて、H形状のパターン、I形状のパターンや、これらの組合せとして種々の操作経路を有する操作パターンに対応できる。さらに、図示は省略するが、任意の角度で交差する操作パターンを含む操作経路を有する操作パターン等にも対応可能である。
【0055】
また、これらの操作形状パターンを力覚制御する力覚パターンは、本実施の形態に示した力覚パターンに限られず種々の制御パターンに変更可能である。本実施の形態に示した図4に示す力覚パターンは、YH+側においてRポジション61の位置でもYモータトルクが常に下方向側に作用する。また、Dポジション63の位置でもYモータトルクが常に上方向側に作用する。従って、シフトレバー2は、Rポジション61、Dポジション63にシフト操作された後、それらの位置に留まらずに、Hポジション65に戻ってくる。すなわち、シフトレバーへの操作力を解除した後にHポジション65に自動復帰するモーメンタリ動作を制御するための力覚パターンである。
【0056】
これに対して、本実施の形態において、シフトレバーをステーショナリ動作で制御することも可能である。図12は、力覚付与型のシフト装置において、ホーム(H)ポジションを傾倒操作の原点としてシフトレバーに作用する力覚パターンを例示するものであって、シフトレバーのステーショナリ動作を制御するための力覚パターンの例示図である。図12(b)のYH+側においてYモータトルクはRポジション61の付近で上下反転する。また、Dポジション63の付近でも上下反転する。従って、シフトレバー2は、Rポジション61にシフト操作された後、Yモータトルクが上方向から下方向に反転するゼロクロス点ZC1に留まる。同様に、シフトレバー2は、Dポジション63にシフト操作された後、Yモータトルクが下方向から上方向に反転するゼロクロス点ZC2に留まる。よって、図4で示す力覚パターンを図12に示すような力覚パターンに変更することにより、シフトレバー2のステーショナリ動作での制御も対応可能である。
【符号の説明】
【0057】
1…シフト装置、2…シフトレバー、2a…把持部、2b…支持摺動部、2c…支柱部、3…ジョイスティック機構部、4…ケース部材、4a…ケースフレーム、4b…案内ドーム、4c…開口、11…シャフト、12…第1キャリッジ、13…第2キャリッジ、14…X軸、15…Y軸、16…ベアリング、17…ベアリングホルダ、20…ゲートブロック、21…セクターギア、21a…ギア歯、26…セクターギア、26a…ギア歯、31…Xモータ、31a…モータギア、32…回転センサ、36…Yモータ、36a…モータギア、37…回転センサ、50…力覚制御部、51…メモリ、52…力覚パターンデータ、61…リバース(R)ポジション、62…ニュートラル(N)ポジション、63…ドライブ(D)ポジション、64…シフトアップ(+)ポジション、65…ホーム(H)ポジション、66…シフトダウン(−)ポジション、67,67a,67b,67c…操作許容エリア、68…操作規制エリア、69…シフトレバーの操作可能な全領域、70…安全管理装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次元上の任意の位置に操作可能なジョイスティック操作部と、
前記ジョイスティック操作部に力を付与する駆動手段と、
前記ジョイスティック操作部の操作状態を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出される前記ジョイスティック操作部の操作状態に基づいて、当該ジョイスティック操作部の軌道からの逸脱を阻止する方向に当該ジョイスティック操作部に対し前記力が生じるように前記駆動手段を制御する軌道制御手段と、を備える力覚付与型入力装置。
【請求項2】
前記ジョイスティック操作部の前記軌道には複数の切換位置が設定されており、
前記検出手段が検出する一つの前記切換位置への操作の有効性を、当該一つの切換位置とは前記軌道を介して直線で接続される他の切換位置への操作を経由してなされたことを当該検出手段が検出することを条件に判定する切換位置判定手段を、更に備える請求項1に記載の力覚付与型入力装置。
【請求項3】
前記他の切換位置への操作を経由せずに前記一つの切換位置に前記ジョイスティック操作部が操作されたことを前記切換位置判定手段が判定したとき、当該一つの切換位置への操作を無効とする異常処理を行う異常処理手段を、更に備える請求項2に記載の力覚付与型入力装置。
【請求項4】
前記切換位置判定手段による前記一つの切換位置への操作の有効性の判定のための前提条件とされる前記他の切換位置は、前記ジョイスティック操作部の前記軌道の分岐点に存在する、請求項2又は3に記載の力覚付与型入力装置。
【請求項5】
二次元上の任意の位置に操作可能なジョイスティック操作部と、
前記ジョイスティック操作部に力を付与する駆動手段と、
前記ジョイスティック操作部の操作状態を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出される前記ジョイスティック操作部の操作状態に基づいて、当該ジョイスティック操作部の軌道からの逸脱を阻止する方向に当該ジョイスティック操作部に対し前記力が生じるように前記駆動手段を制御する軌道制御手段と、を備え、
前記ジョイスティック操作部は、車両に搭載される変速機のシフトポジションを手動で切り換えるためのシフトレバーであるシフト装置。
【請求項1】
二次元上の任意の位置に操作可能なジョイスティック操作部と、
前記ジョイスティック操作部に力を付与する駆動手段と、
前記ジョイスティック操作部の操作状態を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出される前記ジョイスティック操作部の操作状態に基づいて、当該ジョイスティック操作部の軌道からの逸脱を阻止する方向に当該ジョイスティック操作部に対し前記力が生じるように前記駆動手段を制御する軌道制御手段と、を備える力覚付与型入力装置。
【請求項2】
前記ジョイスティック操作部の前記軌道には複数の切換位置が設定されており、
前記検出手段が検出する一つの前記切換位置への操作の有効性を、当該一つの切換位置とは前記軌道を介して直線で接続される他の切換位置への操作を経由してなされたことを当該検出手段が検出することを条件に判定する切換位置判定手段を、更に備える請求項1に記載の力覚付与型入力装置。
【請求項3】
前記他の切換位置への操作を経由せずに前記一つの切換位置に前記ジョイスティック操作部が操作されたことを前記切換位置判定手段が判定したとき、当該一つの切換位置への操作を無効とする異常処理を行う異常処理手段を、更に備える請求項2に記載の力覚付与型入力装置。
【請求項4】
前記切換位置判定手段による前記一つの切換位置への操作の有効性の判定のための前提条件とされる前記他の切換位置は、前記ジョイスティック操作部の前記軌道の分岐点に存在する、請求項2又は3に記載の力覚付与型入力装置。
【請求項5】
二次元上の任意の位置に操作可能なジョイスティック操作部と、
前記ジョイスティック操作部に力を付与する駆動手段と、
前記ジョイスティック操作部の操作状態を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出される前記ジョイスティック操作部の操作状態に基づいて、当該ジョイスティック操作部の軌道からの逸脱を阻止する方向に当該ジョイスティック操作部に対し前記力が生じるように前記駆動手段を制御する軌道制御手段と、を備え、
前記ジョイスティック操作部は、車両に搭載される変速機のシフトポジションを手動で切り換えるためのシフトレバーであるシフト装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−58871(P2012−58871A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199543(P2010−199543)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】
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