説明

加工装置及び加工方法

【課題】レーザ光を使用して被加工物を加工する際に、切断品位を向上させる。
【解決手段】大きな加工能力を有するレーザ光11と熱影響が小さいレーザ光12とを重畳させて、加工用レーザ光15を発生させる。加工用レーザ光15を被加工物1に照射してその被加工物1を加工する。被加工物1において、レーザ光11は照射領域32を照射し、レーザ光12は照射領域32を内包する照射領域33を照射する。また、レーザ光11はレーザ光12よりも長波長である。これらによって、大きな加工能力を有するレーザ光11による被加工面36を、熱影響が小さいレーザ光12を使用して加工する。したがって、レーザ光11による熱影響に起因して被加工面36において発生した微小な凹凸、焼け焦げ等が、レーザ光11よりも小さな熱影響を有するレーザ光12によって除去される。これにより、優れた外観品位が得られる加工が実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物にレーザ光を照射してその被加工物を加工する加工装置及び加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来行われていたレーザ光による加工について説明する。レーザ光による加工は、照射によって被加工物を加熱溶融させることによって行われる熱加工である。このことに起因して、照射することによって生じた溶融物が飛散して、被加工物の表面に付着物(スパッタ)として残留するという問題がある。また、溶融物が凝集して再凝固し、切断部の端面等に付着物(ドロス)として残留するという問題もある。加えて、切断面が粗いこと、及び、焼け焦げ等の熱影響が発生するおそれがあることという問題もある。ここで、スパッタとドロスとを吹き飛ばすために、レーザ光を照射して被加工物を加工する際に加工点にアシストガスを吹き付ける方式が採用されている(例えば、特許文献1参照)。この方式は、一定の効果を奏するものである。
【0003】
しかし、近年、異種材料から構成される複合材料を加工する場合や、光学系部材を加工する場合等に、外観品位に代表される加工品位として高いレベルが要求されることが増えてきた。そして、次の場合には、加工点にアシストガスを吹き付ける従来の方式では不十分とされている。例えば、メモリチップからなるチップ状素子(以下適宜「チップ」という。)を樹脂封止して樹脂封止体を形成し、これを切断してメモリカードを製造する場合である。メモリカードについては、ユーザーが直接指で持って取り扱うことから、高い外観品位が要求されている。また、透光性樹脂によってLEDチップを樹脂封止して樹脂封止体を形成し、これを切断してLEDパッケージを製造する場合である。また、透光性樹脂を使用して樹脂成形体を形成し、これを切断してレンズ等の光学系部材を製造する場合である。
【0004】
【特許文献1】特開平11−254169号公報(第2−4頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、レーザ光を照射して被加工物を加工する際に、加工後の物品における外観品位等が低下することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、「課題を解決するための手段」と「発明の効果」と「発明を実施するための最良の形態」との説明におけるかっこ内の符号は、説明における用語と図面に示された構成要素とを対比しやすくする目的で記載されたものである。また、これらの符号等は、「図面に示された構成要素に限定して、説明における用語の意義を解釈すること」を意味するものではない。
【0007】
上述の課題を解決するために、本発明に係る加工装置は、被加工物(1)を固定する固定手段(27)と、複数のレーザ光(11、12)を発生させるレーザ光発生手段(10)と、被加工物(1)に向かって加工用レーザ光(15)を照射する照射ノズル(22)と、照射ノズル(22)の開口(23)から被加工物(1)に向かってアシストガス(25)が噴射されるように照射ノズル(22)にアシストガス(25)を供給する供給手段(24)と、被加工物(1)と加工用レーザ光(15)とを相対的に移動させる移動手段(27)とを備え、加工用レーザ光(15)を照射することによって被加工物(1)を加工する加工装置であって、複数のレーザ光(11、12)を重畳することによって加工用レーザ光(15)を発生させる重畳手段(16)を備えるとともに、被加工物(1)において複数のレーザ光(11、12)によって照射される照射領域(32、33)の各々は互いに包含する関係、部分的に重複する関係、又は、互いに外接する関係にあり、複数のレーザ光(11、12)のうち第1の照射領域(32)を照射するレーザ光(11)の加工能力は第1の照射領域(32)を内包する第2の照射領域(33)を照射するレーザ光(12)の加工能力よりも大きく、複数のレーザ光(11、12)のうち第2の照射領域(33)を照射するレーザ光(12)が被加工物(1)に与える熱影響は第1の照射領域(32)を照射するレーザ光(11)が被加工物(1)に与える熱影響よりも小さいことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る加工装置は、上述の加工装置において、複数のレーザ光(11、12)のうち第1の照射領域(32)を照射するレーザ光(11)の波長は第2の照射領域(33)を照射するレーザ光(12)の波長よりも大きいことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る加工装置は、上述の加工装置において、複数のレーザ光(11、12)のうち少なくとも1つはファイバーレーザ発振器(8)、CO2レーザ発振器、YAGレーザ発振器(9)、又はYVOレーザ発振器のいずれかによって発生したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る加工装置は、上述の加工装置において、照射ノズル(22)は、開口(23)付近において、レーザ光発生手段(10)の側から開口(23)に向かって断面積が小さくなっていく絞り部(28)と、絞り部(28)と開口(23)との間に設けられ開口(23)に向かって断面積が大きくなっていく拡張部(29)とを有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る加工方法は、照射ノズル(22)の開口(23)から被加工物(1)に向かって加工用レーザ光(15)を照射する工程と、開口(23)から被加工物(1)に向かってアシストガス(25)を噴射する工程と、被加工物(1)と加工用レーザ光(15)とを相対的に移動させる工程とを備え、加工用レーザ光(15)を照射することによって被加工物(1)を加工する加工方法であって、レーザ光発生手段(10)を使用して発生させた複数のレーザ光(11、12)を重畳することによって加工用レーザ光(15)を発生させる工程を備えるとともに、照射する工程では被加工物(1)において複数のレーザ光(11、12)によって照射される照射領域(32、33)の各々が互いに包含する関係、部分的に重複する関係、又は、互いに外接する関係にあり、複数のレーザ光(11、12)のうち第1の照射領域(32)を照射するレーザ光(11)の加工能力は第1の照射領域(32)を内包する第2の照射領域(33)を照射するレーザ光(12)の加工能力よりも大きく、複数のレーザ光(11、12)のうち第2の照射領域(33)を照射するレーザ光(12)が被加工物(1)に与える熱影響は第1の照射領域(32)を照射するレーザ光(11)が被加工物(1)に与える熱影響よりも小さいことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る加工方法は、上述の加工方法において、複数のレーザ光(11、12)のうち第1の照射領域(32)を照射するレーザ光(11)の波長は第2の照射領域(33)を照射するレーザ光(12)の波長よりも大きいことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る加工方法は、上述の加工方法において、複数のレーザ光(11、12)のうち少なくとも1つはファイバーレーザ発振器(8)、CO2レーザ発振器、YAGレーザ発振器(9)、又はYVOレーザ発振器のいずれかによって発生したことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る加工方法は、上述の加工方法において、アシストガス(25)を噴射する工程では、レーザ光発生手段(10)の側から開口(23)に向かって断面積が小さくなっていく絞り部(28)と、絞り部(28)と開口(23)との間に設けられ開口(23)に向かって断面積が大きくなっていく拡張部(29)とを、開口(23)付近において有する照射ノズル(22)を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、大きな加工能力を有し第1の照射領域(32)を照射するレーザ光(11)と、熱影響が小さく第1の照射領域(32)を内包する又は第1の照射領域(32)と部分的に重複する第2の照射領域(33)を照射するレーザ光(12)とを重畳させて、加工用レーザ光(15)を発生させ、その加工用レーザ光(15)を使用して被加工物(1)を加工する。これにより、優れた外観品位が得られる加工を実現することができる。この効果は、第1の照射領域(32)を照射するレーザ光(11)による熱影響に起因して被加工面(36)において発生した微小な凹凸、焼け焦げ等が、レーザ光(11)よりも小さな熱影響を有し第1の照射領域(32)を内包する第2の照射領域(33)を照射するレーザ光(12)によって除去されることによって得られる。
【0016】
また、レーザ光(11)よりも短波長であって熱影響が小さく第1の照射領域(32)を内包する第2の照射領域(33)を照射するレーザ光(12)を使用して照射することにより、第1の照射領域(32)を照射するレーザ光(11)によって加工された被加工面(36)に対する仕上げ加工が行われる。これによって、被加工物(1)の厚さ方向において切断幅が一定になる。したがって、得られた被加工面(37)における垂直度と直線性とが向上するので、優れた外観品位が得られる加工が可能になる。
【0017】
また、レーザ光(11)とレーザ光(12)とを重畳させることによって、加工速度が向上する。したがって、優れた加工効率を有する加工が可能になる。
【0018】
また、複数のレーザ光(11、12)のうち少なくとも1つのレーザ光(11、12)を、ファイバーレーザ発振器(8)、YAGレーザ発振器(9)、又はYVOレーザ発振器の中から選択したレーザ光発生手段(10)を使用して照射することができる。
【0019】
また、開口(23)付近において、レーザ光発生手段(10)の側から開口(23)に向かって断面積が小さくなっていく絞り部(28)と、絞り部(28)と開口(23)との間に設けられ開口(23)に向かって断面積が大きくなっていく拡張部(29)とを有する照射ノズル(22)を使用する。このような照射ノズル(22)を使用することによって、開口(23)から噴射されるアシストガス(25)の拡散が抑制される。したがって、スパッタとドロスとを吹き飛ばすという効果が増大する。
【0020】
また、加工用レーザ光(15)を使用して被加工物(1)を加工する。したがって、メモリカードのように被加工物(1)における境界線(6)に曲線又は折れ線が含まれている場合においても、被加工物(1)を加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
大きな加工能力を有するレーザ光(11)と熱影響が小さいレーザ光(12)とを重畳させて、加工用レーザ光(15)を発生させる。加工用レーザ光(15)を被加工物(1)に照射することによって、その被加工物(1)を加工する。被加工物(1)において、レーザ光(11)は第1の照射領域である照射領域(32)を照射し、レーザ光(12)は照射領域(32)を内包する第2の照射領域である照射領域(33)を照射する。また、レーザ光(11)はレーザ光(12)よりも長波長である。これらによって、大きな加工能力を有するレーザ光(11)による被加工面(36)を、熱影響が小さいレーザ光(12)を使用して加工する。したがって、レーザ光(11)による熱影響に起因して被加工面(36)において発生した微小な凹凸、焼け焦げ等が、レーザ光(11)よりも小さな熱影響を有するレーザ光(12)によって除去される。これにより、優れた外観品位が得られる加工が実現される。
【実施例1】
【0022】
本発明に係る加工装置及び加工方法の実施例1について、図1を参照して説明する。図1(1)は本実施例に係る加工装置の概略を示す部分断面図、図1(2)はその加工装置に使用される照射ノズルの例を示す拡大断面図である。なお、以下に示されるいずれの図についても、わかりやすくするために、適宜省略し又は誇張して模式的に描かれている。また、以下の説明では、切断対象としてメモリカード用の樹脂封止体を例に挙げて説明する。
【0023】
図1(1)に示されているように、樹脂封止体1は、ガラス織布にエポキシ樹脂を含浸させた基材を有するプリント基板2と、複数のチップ3と、封止樹脂4とを有する。チップ3は、プリント基板2においてほぼ格子状に設けられた複数の領域5において、それぞれ1個又は複数個装着されている。複数の領域5は、仮想的に設けられた境界線6によって区切られている。樹脂封止体1は、境界線6に沿って切断されることによってメモリカードからなる電子部品のパッケージ7に個片化される。
【0024】
図1(1)に示されているように、本実施例に係る加工装置は、ファイバーレーザ発振器8とSHG:YAGレーザ発振器9(SHG:Second-Harmonic Generation:第2高調波発生)とからなるレーザ光発生手段10を有する。ファイバーレーザ発振器8は、第1のレーザ光11を発生させる。SHG:YAGレーザ発振器9は、第2のレーザ光12を発生させる。第1のレーザ光11の波長は1060nm、第2のレーザ光12の波長は532nmである。
【0025】
第1のレーザ光11の光路には、第1のレーザ光11を図の上方向に反射するベンディングミラー13が設けられている。第2のレーザ光12の光路には、ダイクロイックミラー14が設けられている。ダイクロイックミラー14は、第2のレーザ光12を透過させるとともに、ベンディングミラー13によって反射された第1のレーザ光11を図の左方向に反射する。そして、このことによって第1のレーザ光11と第2のレーザ光12とが重畳されて加工用レーザ光(重畳されたレーザ光)15が生成される。ベンディングミラー13とダイクロイックミラー14とは、併せて重畳手段16を構成する。この重畳手段16は、2つのレーザ光、すなわち第1のレーザ光11と第2のレーザ光12とを重畳することによって、加工用レーザ光15を発生させる。
【0026】
加工用レーザ光15の光路には、光軸修正用ミラー17とベンディングミラー18とが設けられている。加工用レーザ光15は、光軸修正用ミラー17を透過し、ベンディングミラー18によって図の下方向に反射する。ベンディングミラー18によって反射した加工用レーザ光15の光路には、集光レンズ19と上部保護ガラス20とが、加工ヘッド21の内部に順次位置するようにして設けられている。
【0027】
また、加工用レーザ光15の光路における加工ヘッド21の下部には、照射ノズル22が取り付けられている。そして、集光レンズ19によって集光された加工用レーザ光(集光されたレーザ光)15は、上部保護ガラス20を透過して、照射ノズル22が有する開口23から樹脂封止体1に向かって照射される。なお、加工ヘッド21の内部には位置合わせピン、スペーサ、シール材等が設けられている(いずれも図示なし)。
【0028】
加工ヘッド21の側面には、アシストガス配管24が設けられている。アシストガス配管24は、加工ヘッド21の内部にアシストガス25を供給する。このアシストガス25は、樹脂封止体1において加工用レーザ光15によって照射される部分である被照射部26に向かって、照射ノズル22の開口23から噴射される。
【0029】
また、本実施例に係る加工装置には固定手段27が設けられている。固定手段27は、吸着や粘着等によって樹脂封止体1を固定するとともに、X−Y−Z方向に移動する。すなわち、固定手段27は、照射ノズル22に対して、言い換えれば加工用レーザ光15に対して樹脂封止体1を移動させる移動手段としても機能する。
【0030】
照射ノズル22について、図1(1)と図1(2)とを参照して説明する。照射ノズル22は、図1(2)に示された2つの例のような断面形状を有することが好ましい。その断面形状とは、照射ノズル22において加工用レーザ光15が照射される出口である開口23付近において、集光レンズ19の側に設けられた絞り部28と開口23の側に設けられた拡張部29とを有するような断面形状である。ここで、絞り部28とは、集光レンズ19の側から開口23に向かって断面積が小さくなっていく部分をいう。また、拡張部29とは、絞り部28と開口23との間に設けられ開口23に向かって断面積が大きくなっていく部分をいう。
【0031】
また、図1(2)の右側に示された例のように、絞り部28と拡張部29との間に円筒状の空間である同径部30が設けられていてもよい。また、開口23につながるようにして同径部30が設けられていてもよい。上述した断面形状を有する照射ノズル22を使用することによって、開口23から噴射されるアシストガス25の拡散が抑制される。したがって、被照射部26が冷却される効率が向上するとともに、スパッタとドロスとを吹き飛ばすという効果が増大する。
【0032】
以下、図1(1)と図2とを参照して、本実施例において加工用レーザ光が被加工物を照射する状態を説明する。図2(1)は本実施例の加工用レーザ光によって被加工物が照射されている状態を示す平面図、図2(2)は加工用レーザ光が被加工物を加工し始めた状態を、図2(3)は加工用レーザ光が被加工物を加工している状態をそれぞれ示す部分断面図である。
【0033】
図2(1)と図2(2)とに示されているように、加工用レーザ光15による照射領域31は照射領域32と照射領域33とから構成される。照射領域32は、ファイバーレーザ発振器8が発生した第1のレーザ光11によって照射される領域である。照射領域33は、SHG:YAGレーザ発振器9が発生した第2のレーザ光12によって照射される領域である。そして、平面視した場合に照射領域32は照射領域33に内包されている。本出願書類では、2つの照射領域のうち一方が他方に内包されている場合に、これら2つの照射領域は互いに包含する関係にあるという。
【0034】
ところで、ファイバーレーザ発振器8が発生した第1のレーザ光11と、SHG:YAGレーザ発振器9が発生した第2のレーザ光12とは、次のような特徴を持っている。第1の特徴は、第1のレーザ光11は、第2のレーザ光12よりも高いビーム品質を有しており、第2のレーザ光12よりも小さな径に集光することができることである。したがって、第1のレーザ光11は、第2のレーザ光12よりも小さい照射範囲で被加工物を加工することができる。また、第2のレーザ光12は第1のレーザ光11よりも高い平行度を有する。
【0035】
第2の特徴は、小さな径に集光された第1のレーザ光11は、第2のレーザ光12よりも高いエネルギー密度を有していることである。これにより、第1のレーザ光11は第2のレーザ光12よりも大きな加工能力を有するとともに、被加工物に与える熱影響については第1のレーザ光11のほうが第2のレーザ光12よりも大きい。ここでいう「熱影響」は、被加工物に向かってレーザ光を照射する際に発生した熱によってその被加工物が受ける悪影響のことを意味する。具体的には、被加工面の粗さ(微小な凹凸)、被加工面における焼け焦げの発生等が熱影響に相当する。
【0036】
第3の特徴は、小さな照射領域32を照射する第1のレーザ光11の波長(1060nm)が、大きな照射領域33を照射する第2のレーザ光12の波長(532nm)よりも大きいことである。
【0037】
以下、図2(2)と図2(3)とを参照して、被照射部26に向かって加工用レーザ光15が照射された場合において樹脂封止体1が加工される状況を説明する。被照射部26に向かって加工用レーザ光15が照射されると、まず、第2のレーザ光12よりも大きな加工能力と小さな照射領域32とを有する第1のレーザ光11によって小径の凹部34が形成される。そして、小径の凹部34の深さは一定の加工速度で深くなっていく。
【0038】
小径の凹部34が形成されることに並行して、第1のレーザ光11よりも小さな加工能力と大きな照射領域33とを有する第2のレーザ光12によって、大径の凹部35が形成される。そして、大径の凹部35の深さは一定の加工速度で深くなっていく。
【0039】
重畳されたレーザ光からなる加工用レーザ光15によって樹脂封止体1を加工することは、次の特徴を有する。第1の特徴は、小径の凹部34が形成される加工速度は、大径の凹部35が形成される加工速度よりも大きいことである。その理由は、第1のレーザ光11が第2のレーザ光12よりも大きな加工能力を有するからである。また、小径の凹部34に対応する照射領域32が第1のレーザ光11と第2のレーザ光12との双方によって照射されていることも、小径の凹部34が形成される加工速度のほうが大きいことに寄与している。
【0040】
第2の特徴は、小径の凹部34が形成されることに並行して形成される大径の凹部35において、優れた加工品位が得られることである。その理由は、第1のレーザ光11よりも小さな熱影響を有する第2のレーザ光12によって、大径の凹部35が形成されるからである。これにより、大きな加工能力を有する第1のレーザ光11によって形成された小径の凹部34における被加工面36において、第1のレーザ光11により照射されることによって発生した微小な凹凸、焼け焦げ等が除去される。したがって、大径の凹部35においては仕上がりの程度が良好な被加工面37が得られる。言い換えれば、第2のレーザ光12によって照射することにより、被加工面36に対する仕上げ加工が行われる。
【0041】
本実施例に係る加工装置について、図1(1)を参照してその動作を説明する。まず、照射ノズル22とプリント基板2とが対向するようにして、吸着や粘着等によって樹脂封止体1を固定手段27に固定する。その後に、固定手段27をX−Y方向に移動させて、切断する場所である境界線6が照射ノズル22の真下に位置するようにして、照射ノズル22と境界線6とを位置合わせする。更に、加工用レーザ光15が樹脂封止体1における被照射部26に対して焦点が合う位置まで固定手段27をZ方向に移動させて、照射ノズル22と樹脂封止体1とを位置合わせする。
【0042】
次に、加工ヘッド10が有する照射ノズル22にアシストガス25を供給する。これにより、樹脂封止体1における被照射部26に向かって照射ノズル22の開口23からアシストガス25を噴射する。そして、加工用レーザ光15を樹脂封止体1に照射しながら、固定手段27によって樹脂封止体1をY方向に移動させる。これにより、樹脂封止体1の底面(図では上面)における被照射部26に対して、照射ノズル22の開口23から、加工用レーザ光15を照射するとともにアシストガス25を噴射する。したがって、熱加工によって切断されている被照射部26に向かってアシストガス25を噴射しながら、境界線6に沿って樹脂封止体1を切断することができる。
【0043】
次に、図1(1)において切断されている境界線6に沿って樹脂封止体1を切断し終わったら、固定手段27を使用して樹脂封止体1を+X方向に移動させる。これにより、照射ノズル22と別の境界線6(図1(1)において切断されている境界線6の左隣にある境界線6)とを位置合わせする。その後に、その境界線6に沿って樹脂封止体1を切断する。そして、Y方向に沿うすべての境界線6において樹脂封止体1を切断した後に、固定手段27をθ方向に90°回動させる。その後に、新たにY方向に沿うことになったすべての境界線6において樹脂封止体1を切断する。以上の工程によって、樹脂封止体1を各パッケージ7に個片化することができる。
【0044】
本実施例によれば、大きな加工能力を有する第1のレーザ光11と熱影響が小さな第2のレーザ光12とを重畳させて発生させた加工用レーザ光15を使用して、樹脂封止体1を切断する。このことによって、次の効果が得られる。第1に、優れた外観品位が得られる加工を実現することができる。この効果は、第1のレーザ光11による熱影響に起因して被加工面36において発生した微小な凹凸、焼け焦げ等が、第1のレーザ光11よりも小さな熱影響と広い照射領域33とを有する第2のレーザ光12によって除去されることに基づいて得られる。したがって、高い外観品位を有するメモリカードを製造することが可能になる。
【0045】
第2に、第1のレーザ光11よりも小さい熱影響と高い平行度とを有する第2のレーザ光12によって照射することにより、被照射部26における仕上げ加工が行われる。このことによって、樹脂封止体1の厚さ方向において切断幅がほぼ一定になる。したがって、被加工面37からなるパッケージ7の側面における垂直度と直線性とが向上する。このことによっても、優れた外観品位が得られる加工が可能になる。
【0046】
第3に、第1のレーザ光11と第2のレーザ光12とを重畳させることによって、加工速度が向上する。したがって、優れた加工効率を有する加工が可能になる。
【0047】
第4に、加工用レーザ光15を使用して被加工物である樹脂封止体1を加工する(本実施例では切断する)。したがって、メモリカードのように被加工物における境界線6に曲線又は折れ線が含まれている場合においても、被加工物を加工することができる。
【実施例2】
【0048】
本発明の実施例2として、加工用レーザ光の重畳について、図3に示された2つの態様を説明する。図3(1)は本実施例の1番目の態様において加工用レーザ光が被加工物を加工し始めた状態を示す平面図及び部分断面図、図3(2)は2番目の態様において加工用レーザ光が被加工物を加工し始めた状態を示す平面図及び部分断面図である。
【0049】
ここでいう「重畳」には、「複数のレーザ光が、同軸ではない状態で被加工物に対して照射されること」が含まれる。そして、「同軸ではない状態」については、複数のレーザ光11、12が被加工物を照射する角度(照射角度)が異なる場合が考えられる。この場合には、図3(1)に示されている1番目の態様のように、被加工物において複数のレーザ光11、12による照射領域32、33を互いに包含関係にすることができる。なお、一方のレーザ光の照射角度が被加工物の表面に対して90°であってもよい。
【0050】
また、図3(2)に示されている2番目の態様のように、被加工物において複数のレーザ光による照射領域32、33が部分的に重複するような関係にあってもよい。なお、この態様では、被加工物と複数のレーザ光との相対的な移動方向が図の太い矢印(かっこ内の矢印を含む)の方向であることが必要になる。言い換えれば、大きな加工能力と小さな照射領域32とを有する第1のレーザ光11が、加工用レーザ光15が相対的に移動する行き先の側に位置する必要がある。
【0051】
また、図示されてはいないが、3番目の態様として、照射領域32と照射領域33とが互いに外接する場合が考えられる。この場合には、2番目の態様の場合と同様に、大きな加工能力と小さな照射領域32とを有する第1のレーザ光11が、加工用レーザ光15が相対的に移動する行き先の側に位置する必要がある。
【0052】
なお、上述した各実施例においては、ファイバーレーザ発振器8及びSHG:YAGレーザ発振器9からなる2種類のレーザ発振器と、重畳手段16とを使用して、加工用レーザ光15を発生させた。これに限らず、3種類以上のレーザ発振器と重畳手段16とを使用して、重畳された加工用レーザ光15を発生させてもよい。また、別の変形例として、1種類のレーザ発振器を使用して、波長変換によって異なる複数の波長を有するレーザ光を発生させ、これらのレーザ光を重畳して加工用レーザ光を発生させることもできる。例えば、YAGレーザ発振器やYVOレーザ発振器等を使用して基本波及び高調波のレーザ光を発生させてそれらを使用し、又は、それら同士を適宜重畳して使用することができる。また、ファイバーレーザ発振器8を使用して、高調波のレーザ光を発生させてこれを使用してもよい。
【0053】
また、実施例1において複数のレーザ光を重畳して加工用レーザ光を発生させる場合には、複数のレーザ光の光軸が実質的に同軸であればよい。言い換えれば、複数のレーザ光の光軸に多少のずれが生じていても加工に支障がない程度のずれであればよい。
【0054】
また、同一波長を有する加工用レーザ光15を使用することもできる。この場合には、大きい加工能力を有する加工用レーザ光15によって小さな照射領域32を照射し、小さい加工能力を有する加工用レーザ光15によって大きな照射領域33を照射すればよい。この方式によっても、各実施例と同様の効果が得られる。
【0055】
なお、ここまでの説明では、レーザ光発生手段10として、ファイバーレーザ発振器8とSHG:YAGレーザ発振器9とを使用した。これに限らず、被加工物の特性に応じて他のレーザ光発生手段を使用してもよい。他のレーザ光発生手段として、例えば、CO2レーザ発振器、THG:YAGレーザ発振器、YVOレーザ発振器等を使用することもできる。また、ここまで説明したレーザ光発生手段を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
また、メモリカード用の樹脂封止体1を被加工物とした。この樹脂封止体1は、プリント基板2と、該プリント基板2に設けられている複数の領域5に各々装着された1又は複数のチップ3と、該1又は複数のチップ3を一括して樹脂封止する封止樹脂4とを有している。これに限らず、メモリカード用の樹脂封止体1以外の被加工物に対して本発明を適用することができる。そのような被加工物としては、例えば、プリント基板やセラミックス基板等を有するLEDパッケージ用の樹脂封止体、レンズ、導光板、光コネクタ等の光学系部材を製造する場合の樹脂成形体等が挙げられる。
【0057】
また、垂直方向に異種材料が積層された樹脂封止体1に対して本発明を適用する場合について説明した。これに限らず、水平方向に組み合わされた異種材料からなる部材に対して本発明を適用することができる。
【0058】
また、加工用レーザ光15を樹脂封止体1に照射しながら、固定手段27によって樹脂封止体1をX−Y方向に移動させることとした。これに限らず、加工用レーザ光15を樹脂封止体1に照射しながら、加工ヘッド21をX−Y方向に移動させることもできる。要は、被加工物に加工用レーザ光15を照射しながら、加工用レーザ光15と被加工物とが相対的に移動できるようになっていればよい。また、ここでいう「移動」には、ガルバノミラーを使用してレーザ光を走査(スキャン)させることによって、被加工物に対してレーザ光を相対的に移動させることが含まれる。
【0059】
また、「加工」には、切断加工の他に次の加工が含まれる。それは、切削、溝の形成、貫通穴の形成(穴あけ)、止り穴の形成、被加工物の表面における微細な凹凸の形成等の加工である。
【0060】
また、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、必要に応じて、任意にかつ適宜に組み合わせ、変更し、又は選択して採用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1(1)は実施例1に係る加工装置の概略を示す部分断面図、図1(2)はその加工装置に使用される照射ノズルの例を示す拡大断面図である。
【図2】図2(1)は実施例1の加工用レーザ光によって被加工物が照射されている状態を示す平面図、図2(2)は加工用レーザ光が被加工物を加工し始めた状態を、図2(3)は加工用レーザ光が被加工物を加工している状態をそれぞれ示す部分断面図である。
【図3】図3(1)は実施例2の1番目の態様において加工用レーザ光が被加工物を加工し始めた状態を示す平面図及び部分断面図、図3(2)は2番目の態様において加工用レーザ光が被加工物を加工し始めた状態を示す平面図及び部分断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 樹脂封止体(被加工物)
2 プリント基板
3 チップ
4 封止樹脂
5 領域
6 境界線
7 パッケージ
8 ファイバーレーザ発振器
9 SHG:YAGレーザ発振器
10 レーザ光発生手段
11 第1のレーザ光
12 第2のレーザ光
13 ベンディングミラー
14 ダイクロイックミラー
15 加工用レーザ光
16 重畳手段
17 光軸修正用ミラー
18 ベンディングミラー
19 集光レンズ
20 上部保護ガラス
21 加工ヘッド
22 照射ノズル
23 開口
24 アシストガス配管(供給手段)
25 アシストガス
26 被照射部
27 固定手段(固定手段、移動手段)
28 絞り部
29 拡張部
30 同径部
31 照射領域
32 照射領域(第1の照射領域)
33 照射領域(第2の照射領域)
34 小径の凹部
35 大径の凹部
36、37 被加工面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を固定する固定手段と、複数のレーザ光を発生させるレーザ光発生手段と、前記被加工物に向かって加工用レーザ光を照射する照射ノズルと、前記照射ノズルの開口から前記被加工物に向かってアシストガスが噴射されるように前記照射ノズルに前記アシストガスを供給する供給手段と、前記被加工物と前記加工用レーザ光とを相対的に移動させる移動手段とを備え、前記加工用レーザ光を照射することによって前記被加工物を加工する加工装置であって、
前記複数のレーザ光を重畳することによって前記加工用レーザ光を発生させる重畳手段を備えるとともに、
前記被加工物において前記複数のレーザ光によって照射される照射領域の各々は互いに包含する関係、部分的に重複する関係、又は、互いに外接する関係にあり、
前記複数のレーザ光のうち第1の照射領域を照射するレーザ光の加工能力は前記第1の照射領域を内包する第2の照射領域を照射するレーザ光の加工能力よりも大きく、
前記複数のレーザ光のうち前記第2の照射領域を照射するレーザ光が前記被加工物に与える熱影響は前記第1の照射領域を照射するレーザ光が前記被加工物に与える熱影響よりも小さいことを特徴とする加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載された加工装置において、
前記複数のレーザ光のうち前記第1の照射領域を照射するレーザ光の波長は前記第2の照射領域を照射するレーザ光の波長よりも大きいことを特徴とする加工装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された加工装置において、
前記複数のレーザ光のうち少なくとも1つはファイバーレーザ発振器、CO2レーザ発振器、YAGレーザ発振器、又はYVOレーザ発振器のいずれかによって発生したことを特徴とする加工装置。
【請求項4】
請求項1−3のいずれかに記載された加工装置において、
前記照射ノズルは、前記開口付近において、前記レーザ光発生手段の側から前記開口に向かって断面積が小さくなっていく絞り部と、前記絞り部と前記開口との間に設けられ前記開口に向かって断面積が大きくなっていく拡張部とを有することを特徴とする加工装置。
【請求項5】
照射ノズルの開口から被加工物に向かって加工用レーザ光を照射する工程と、前記開口から前記被加工物に向かってアシストガスを噴射する工程と、前記被加工物と前記加工用レーザ光とを相対的に移動させる工程とを備え、前記加工用レーザ光を照射することによって前記被加工物を加工する加工方法であって、
レーザ光発生手段を使用して発生させた複数のレーザ光を重畳することによって前記加工用レーザ光を発生させる工程を備えるとともに、
前記照射する工程では前記被加工物において前記複数のレーザ光によって照射される照射領域の各々が互いに包含する関係、部分的に重複する関係、又は、互いに外接する関係にあり、
前記複数のレーザ光のうち第1の照射領域を照射するレーザ光の加工能力は前記第1の照射領域を内包する第2の照射領域を照射するレーザ光の加工能力よりも大きく、
前記複数のレーザ光のうち前記第2の照射領域を照射するレーザ光が前記被加工物に与える熱影響は前記第1の照射領域を照射するレーザ光が前記被加工物に与える熱影響よりも小さいことを特徴とする加工方法。
【請求項6】
請求項5に記載された加工方法において、
前記複数のレーザ光のうち前記第1の照射領域を照射するレーザ光の波長は前記第2の照射領域を照射するレーザ光の波長よりも大きいことを特徴とする加工方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載された加工方法において、
前記複数のレーザ光のうち少なくとも1つはファイバーレーザ発振器、CO2レーザ発振器、YAGレーザ発振器、又はYVOレーザ発振器のいずれかによって発生したことを特徴とする加工方法。
【請求項8】
請求項5−7のいずれかに記載された加工方法において、
前記アシストガスを噴射する工程では、前記レーザ光発生手段の側から前記開口に向かって断面積が小さくなっていく絞り部と、前記絞り部と前記開口との間に設けられ前記開口に向かって断面積が大きくなっていく拡張部とを、前記開口付近において有する照射ノズルを使用することを特徴とする加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−226475(P2009−226475A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78095(P2008−78095)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(390002473)TOWA株式会社 (192)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】