説明

加熱ロール及び加熱ロールの製造方法

【課題】簡易な構造であるにも拘わらず、加熱ロール表面を設定温度にするまでの昇温時間が短く、消費電力効率に優れ、製作が容易な加熱ロール及び加熱ロールの製造方法を提供する。
【解決手段】回転軸11と、該回転軸11の表面に成層された多孔質セラミックス断熱層12と、該断熱層12の表面に成層された多孔質セラミックス抵抗発熱体13とを有し、該断熱層12と該抵抗発熱体13に含まれる無機バインダーは同一物であることを特徴とする加熱ロール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、電子写真式画像形成装置に用いられるトナー定着用加熱ロール及び加熱ロールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真式画像形成装置の定着工程では、定着用加熱ローラや定着ベルトを介して圧力と熱エネルギーをトナー像に付与し、トナーを半溶融状態にして記録紙へ浸透させ、これを定着する方法をとっている。
【0003】
従来、定着用加熱体としては、アルミニウム等の金属製円筒体の内部にハロゲンランプ等の発熱体を付設し、発生する熱を熱伝達又は熱輻射により円筒体を加熱する加熱体、あるいは、ロール体自体を発熱体とし、これに通電することでロール体を直接発熱させて昇温させる加熱ローラが知られている。ロール体が直接発熱する加熱ローラは昇温時間が短く、エネルギー効率が高い点で多用されている。
【0004】
電子写真式画像形成装置は、使用時、定着用加熱体の表面が一定の温度になっていることが必要である。電子写真式画像形成装置を新たに使用開始する場合、電源を入れた後、定着用加熱体の表面がその設定温度になるまで待機する必要があるが、この昇温時間が長い場合、仕事の効率が悪いばかりでなく、使用者のいらいらを募らせるという問題がある。
【0005】
これらの問題を解決するものとして、特開2004−22285号公報には、抵抗発熱性の多孔質セラミックス基体部と、基体部に電力を供給する電極部と、基体部の最外周表面に形成され、耐熱性、絶縁性かつ非粘着性の性質を有する被覆層とを主要構成要素とする加熱体が開示されている。この加熱体によれば、抵抗発熱体の基体部分が、一定の設定温度に急速に昇温でき且つ消費電力効率が優れる。
【0006】
また、特開平2−137871号公報には、互いに密着して回転する加熱ロールと圧着ロールとの間に被転写手段を通過させ、被写体の写像を前記被転写手段に定着させるための電子写真装置の熱定着ロール装置であって、前記加熱ローラが、回転軸と、前記回転軸表面に成層された断熱層と、前記断熱層の表面に積層された抵抗発熱層とを有し、前記断熱層内に中空もしくは多孔質の硬質粒子が分散されている電子写真装置の熱定着ロール装置が開示されている。この熱定着ロール装置によれば、断熱層の剛性を向上させることができ、加熱ロールの温度変化による変形、劣化を防止でき、加熱ロールの耐久性が向上する。
【特許文献1】特開2004−22285号公報(請求項1)
【特許文献2】特開平2−137871号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特開2004−22285号公報記載の加熱体は、軸シャフト又は軸パイプと抵抗発熱体の間に絶縁層が存在するものの、断熱の効果がないものである。このため、加熱体を急速に加熱するには十分であるとは言えない。また、特開平2−137871号公報記載の熱定着ロール装置は、回転軸と抵抗発熱層の間に断熱層を有するものの、この断熱層はシリコンゴムあるいは耐熱性樹脂をベースとしてガラス製あるいはセラミック製の多数の中空球体状粒子を混合し、分散させて成型したものであるため、ベースと粒子の混合の際、粒子割れを生じる恐れがあるか、あるいは多数の接着剤層を形成する工程が必要となる等、製作上の問題を残している。
【0008】
従って、本発明の目的は、簡易な構造であるにも拘わらず、加熱ロール表面を設定温度にするまでの昇温時間が短く、消費電力効率に優れ、製作が容易な加熱ロール及び加熱ロールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、中空円筒状の多孔質セラミックス断熱層と、該断熱層の表面に成層された多孔質セラミックス抵抗発熱体とを有し、該断熱層と該抵抗発熱体に含まれる無機バンインダーを同一物とした加熱ロールは、加熱ロール表面を設定温度にするまでの昇温時間が短く、消費電力効率に優れ、製作が容易であること、更に断熱層と抵抗発熱体は接着剤を用いなくとも一体化でき、強度的にも優れることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、回転軸と、該回転軸の表面に成層された多孔質セラミックス断熱層と、該断熱層の表面に成層された多孔質セラミックス抵抗発熱体とを有し、該断熱層と該抵抗発熱体に含まれる無機バンインダーは同一物である加熱ロールを提供するものである。
【0011】
また、本発明は、無機質バインダーを含有する第1原料混合物と、無機質バインダー及び導電性フィラーを含有する第2原料混合とを成形して2層構造の成形体を得る工程と、乾燥工程と、焼成工程を有するものであって、該第1原料混合物及び該第2原料混合物で用いる無機質バインダーは同一物であることを特徴とする加熱ロールの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の加熱ロールは、回転軸と抵抗発熱体の間に断熱層を設けたため、加熱ロール表面を所定の設定温度にする昇温時間が短く、消費電力効率に優れる。また、断熱層と抵抗発熱体は、同じ無機バインダーが配合されているため、接着剤を用いなくとも一体化でき、強度的にも優れる。また、断熱層が絶縁機能を奏するため、回転軸表面に絶縁層を形成する別途の工程を省略できる。また、第1原料混合物と第2原料混合物を2層押出成形する方法によれば、1工程で一挙に2層構造一体化物を容易に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態における加熱ロールは、回転軸と、該回転軸の表面に成層された多孔質セラミックス断熱層と、該断熱層の表面に成層された多孔質セラミックス抵抗発熱体とを有し、該断熱層と該抵抗発熱体に含まれる無機バンインダーは同一物であり、この加熱ロールは、無機質バインダーを含有する第1原料混合物と、無機質バインダー及び導電性フィラーを含有する第2原料混合物とを成形して2層構造の成形体を得る工程と、乾燥工程と、焼成工程を有する製造方法により得られる。
【0014】
第1原料混合物は焼成後、多孔質セラミックス断熱層を形成するものである。また、第1原料混合物で用いる無機質バインダーは、焼成後、セラミックス成分となり、且つ耐熱性無機質材料を相互に結合する機能を奏するものである。該無機質バインダーとしては、特に制限されないが、例えばガラスフリット、コロイダルシリカ、シリカゾル、アルミナゾル、珪酸ソーダ及び水ガラス等が挙げられ、このうち、ガラスフリットが強度も高く、2層の接着性が良い点で好ましい。また、これら無機質バインダーは、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
第1原料混合物には、強度及び耐熱性を高めるために、必要に応じて耐熱性無機質材料が含有される。耐熱性無機質材料は、混練、成形及び焼成の各工程で実質的に溶融変形しない繊維状又は粒子状の材料を言う。繊維状耐熱性無機質材料としては、特に制限されないが、例えば、アルミナシリカ繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、カーボンファイバー、シリカ繊維、ジルコニア繊維、石膏ウイスカー、スラグウール、炭化珪素繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、溶融シリカファイバー、ロックウールなどが挙げられ、このうち、アルミナシリカ繊維及びガラス繊維が、強度も高く、低コストである点で好ましい。これら繊維状耐熱性無機質材料は1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、繊維状耐熱性無機質材料の長さ及び径としては、特に制限されないが、長さは混合物又は混練物中の分散性を考慮して、3mm以下のものが好ましく、径は1〜15μm程度のものが、焼成後の多孔質セラミックス断熱層の気孔率をより大きくすることができる点で好ましい。
【0016】
粒子状耐熱性無機質材料としては、特に制限されないが、例えばクレー、タルク、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、ジルコニア、チタニア、カオリン、ゼオライト、窒化珪素、窒化アルミニウム、アルミノボロシリケート、アルミノシリケート等の粒子状のものが挙げられる。なお、これら粒子状耐熱性無機質材料は1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。粒子状耐熱性無機質材料の最大長さとしては、特に制限されないが、混合物又は混練物中の分散性を考慮して、3mm以下のものが好ましく、径は1〜15μm程度のものが、焼成後の多孔質セラミックス断熱層の気孔率をより大きくすることができる点で好ましい。
【0017】
耐熱性無機質材料の使用量としては、特に制限されないが、無機質バインダー100質量部に対して0〜500質量部が好ましく、特に0〜200質量部が好ましく、更に30〜100質量部が好ましい。使用量が500質量部を超えると、焼成後の多孔質セラミックス断熱層の強度が十分でなくなる。
【0018】
第1原料混合物には、更に混練及び成形段階での混合物の可塑性の調節、強度向上等の取扱い性を改善するために、必要に応じて有機バインダーが含有され、また、内部気孔率を向上させるために、必要に応じて耐水性有機質材料が含有される。有機質バインダーは、通常増粘剤と呼ばれるものも含む。有機質バインダー及び耐水性有機質材料は焼成工程において焼失する。
【0019】
有機質バインダーとしては、特に制限されないが、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸ソーダ、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などが挙げられる。これらの有機質バインダーは1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
有機質バインダーの使用量は、無機質バインダー100質量部に対して通常0〜100質量部が好ましく、特に10〜50質量部、更に15〜25質量部が好ましい。使用量が100質量部を越える場合は、不必要な有機分が多くなり、強度がでなくなる。
【0021】
耐水性有機質材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、フェノール樹脂等の耐水性合成樹脂、木材、竹材及びその他の天然有機物などが挙げられる。耐水性有機質材料の形状としては、特に限定されず、繊維状又は粒子状であってもよい。これらの耐水性有機質材料は内部発泡しているものであってもよい。また、これら耐水性有機質材料は1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
耐水性有機質材料の繊維状物の直径及び粒子状物の直径としては、通常1〜2000μmの範囲であり、好ましくは5〜1000μm、さらに好ましくは10〜500μmである。
【0023】
耐水性有機質材料の使用量としては、目的とする多孔質セラミックス断熱層の目標とする内部気孔率を考慮して必要に応じて適宜決定されるが、例えば無機質バインダー100質量部に対して、通常0〜300質量部、好ましくは0〜150質量部、更に好ましくは0〜100質量部である。耐水性有機質材料の使用量が300質量部を超える場合は、多孔質セラミックスの強度が著しく低くなる点で好ましくない。但し、耐水性有機質材料の使用量は、無機質材料の使用量との関係で決められ、耐水性有機質材料と無機質材料の合計量は無機質バインダー100質量部に対して0〜500質量部の範囲が好ましい。
【0024】
第1原料混合物は、そのまま成形工程で用いることができるが、成形工程前に混練工程により混練物を得ることが好ましい。混練工程は、耐熱性無機質材料、無機質バインダー、有機質バインダー、耐水性有機質材料及びその他の添加物の所定量を水と混合し、該混合物を均一な塑性物とする工程である。混練工程において使用される水の量は、混合物が後工程である成形工程に適するように適宜調整されるが、各固形成分の全質量に対して概ね50〜200質量%である。混練工程で使用される混練装置としては、特に制限されず、公知のものが使用できる。具体的には例えば、加圧型ニーダー、双腕型ニーダー、高速ミキサー等が挙げられる。
【0025】
第2原料混合物は焼成後、多孔質セラミックス抵抗発熱体を形成するものである。第2原料混合物において、第1原料混合物と異なる点は、導電性フィラーを更に含有する点にある。すなわち、第2原料混合物において使用される材料は、第1原料混合物で使用される原料と同様のものが挙げられ、このうち、無機質バインダーは、第1原料混合物で使用される無機質バインダーと同一物が使用される。
【0026】
第2原料混合物で使用される導電性フィラーとしては、特に制限されないが、例えば黒鉛、カーボンブラック、鉄、銅、アルミニウム、ステンレス、亜鉛、金、銀、白金、窒化珪素及びそれらの合金、酸化チタン、酸化亜鉛及び酸化スズ等の金属酸化物、あるいは非導電性物質の粒子の表面に金属粒子や金属メッキ層を被覆したもの等が挙げられ、このうち、黒鉛が導電性に優れ、強度も高くできる点で好ましい。これらの導電性フィラーは、粉体、球形、繊維状であってもよい。また、これら導電性フィラーは1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
導電性フィラーの使用量としては、多孔質セラミックス抵抗発熱体の体積抵抗率を考慮して適宜決定されるが、無機質バインダー100質量部に対して、通常5〜500質量部が好ましく、特に10〜100質量部が好ましい。導電性フィラーが5質量部未満では、体積抵抗率が高くなり過ぎ、500質量部を超えると、体積抵抗率が必要以上に低くなり且つ強度も低下するため好ましくない。多孔質セラミックス抵抗発熱体の体積抵抗率は、通常0.01〜100,000Ω・cmである。
【0028】
第2原料混合物は、そのまま成形工程で用いることができるが、成形工程前に混練工程により混練物を得ることが好ましい。混練工程は、導電性フィラー、耐熱性無機質材料、無機質バインダー、有機質バインダー及びその他の添加物の所定量を水と混合し、該混合物を均一な塑性物とする工程である。混練工程において使用される水の量及び混練装置は、第1原料混合物の混練工程と同様である。
【0029】
成形工程は、第1原料混合物と第2原料混合物から2層構造の成形体を得る工程であり、第1原料混合物と第2原料混合物とを2層押出成形して2層構造の成形体を得る方法、混練工程を経た第1原料混練物と混練工程を経た第2原料混練物とを2層押出成形して2層構造の成形体を得る方法、第1原料混合物又は混練工程を経た第1原料混練物を押出成形して成形体を得、次いで該成形体の表面に第2原料混合物又は第2原料混練物を積層して押出成形する方法、あるいは第1原料混合物又は混練工程を経た第1原料混練物を押出成形して成形体を得、次いで該成形体の表面に第2原料混合物又はこれをスラリー化したものを浸漬又は塗布して2層構造の成形体を得る方法等が挙げられ、このうち、混練工程を経た第1原料混練物と混練工程を経た第2原料混練物とを2層押出成形して2層構造の成形体を得る方法が、1つの工程により、一挙に2層構造の一体化物を容易に作製できる点で好ましい。また、成形工程においては、成形と同時に回転軸を一体的に組み込んでもよく、また、成形工程の後工程で回転軸が嵌め込まれるよう、中空部を残した成形体を得るようにしてもよい。
【0030】
混練工程を経た第1原料混練物と混練工程を経た第2原料混練物とを2層押出成形して2層構造の成形体を得る方法としては、公知の2層押出機を用いて行うことができる。2層押出機は、2重ノズル部を先端に有するクロスヘッド構造のものが使用できる。すなわち、第2原料混練物は2重ノズルの軸方向から供給され、第1原料混練物は軸方向に直交する側から供給され、当該2つの原料が交差する部分から第1原料混練物の表面に第2原料混練物が積層された2層構造の成形体が先端の2重ノズル部を通って押し出されるものである。この場合、回転軸(シャフト)を2層押出機の中心に配設して、該回転軸と成形体を一体的に組み込むことができる。
【0031】
成形工程後、乾燥工程に移る。乾燥工程は、通常、常温または加熱温度下に乾燥して、水分を除去するとともに成形体を硬化させてその形状を得る工程である。乾燥工程における加熱温度は、通常、200℃以下、好ましくは水分が穏やかに且つ蒸発し易い100℃程度で行われる。また、乾燥時間は、成形体の形状及び加熱温度等により適宜決定されるが、通常0.5〜12時間である。
【0032】
乾燥工程後、焼成工程に移る。焼成工程は、予備焼成工程と最終焼成工程を分けて行うことが好ましい。予備焼成工程は、高温での最終焼成工程で粒子状有機物の急激な消失による亀裂の発生などを防止するために行われ、通常、大気中、150〜400℃の温度で行われる。また、予備焼成時間は、成形体の形状及び加熱温度等により適宜決定されるが、通常12〜72時間である。
【0033】
最終焼成工程は、通常400〜1000℃の高温において行われ、残存している粒子状有機物、有機質バインダーを完全に消失させ、更に無機質バインダーを溶融させて全体を一体化する工程である。なお、導電性フィラーとしてカーボンブラック、金属粒子、その他400℃以上で酸化または変質の可能性がある素材を使用する場合は、還元雰囲気下において行うのが好ましい。最終焼成工程の加熱時間は、成形体の形状、加熱温度、使用材料成分及び配合比などにより適宜決定されるが、通常0.5〜24時間である。
【0034】
焼成工程において、第1原料混合物と第2原料混合物の無機質バインダーが同じであるため、焼成体は、多孔質セラミックス断熱層とその表面に成層された多孔質セラミックス抵抗発熱体との界面部分では熱溶融した無機質バインダーが、双方の耐熱性無機質材料と共に一体化している。このため、多孔質セラミックス断熱層と多孔質セラミックス抵抗発熱体は、接着剤を使用することなく、強固に接合されている。また、焼成工程を経た焼成体の多孔質セラミックス抵抗発熱体の表面には、更に塗装、表面コーティング、およびその他の二次加工を行うことができる。
【0035】
内層の多孔質セラミックス断熱層及び外層の多孔質セラミックス抵抗発熱体の半径方向の厚さとしては、特に制限されないが、外層の多孔質セラミックス抵抗発熱体のリング状断面の片側の厚みは、通常0.5〜5.0mmであり、内層の多孔質セラミックス断熱層と外層の多孔質セラミックス抵抗発熱体との断面部分における厚みの比としては、外層:内層で1:1〜10である。外層:内層比が1:1未満であると、断熱効果が不十分となり、また、外層:内層比が1:10を超えると、製造が困難となる点で好ましくない。
【0036】
焼成工程を経て得られた多孔質セラミックス断熱層及び多孔質セラミックス抵抗発熱体の内部気孔率は、共に20〜90%、好ましくは40〜85%である。多孔質セラミックス抵抗発熱体の内部気孔率が20%未満では、電力効率及び昇温速度の点で十分なものが得られず、90%を超えると十分な強度を維持することが困難となる。多孔質セラミックス断熱層の内部気孔率が20%未満では、十分な断熱効果を得られず、90%を十分な強度を維持することが困難となる。
【0037】
また、多孔質セラミックス断熱層及び多孔質セラミックス抵抗発熱体の嵩密度は、共に0.2〜1.95g/cmであり、好ましくは0.4〜1.5g/cmである。多孔質セラミックス抵抗発熱体の嵩密度が1.95g/cmを超えると、電力効率及び昇温速度の点で十分なものが得られず、0.2g/cm未満では強度が十分でない。また、多孔質セラミックス断熱層の嵩密度が1.95g/cmを超えると、断熱効果が不十分であり、0.2g/cm未満では十分な強度を維持することが困難となる。
【0038】
多孔質セラミックス抵抗発熱体は導電性であり、その体積抵抗率は、通常0.01〜100,000Ω・cm、好ましくは0.1〜10,000Ω・cmであり、より好ましくは0.1〜1000Ω・cmである。体積抵抗率が0.01Ω・cm未満の場合は抵抗が小さいため所定温度への温度制御が困難となり、かつ、消費電力が大きくなる。また、100,000Ω・cmを超える場合は、抵抗が大きいため必要な発熱量が得られない。
【0039】
回転軸を一体成形しない方法で得られた焼成体の中空部分には回転軸を貫通して装着する。回転軸を装着する方法としては、特に制限されず、公知の方法で行うことができる。また、本発明の加熱ロールにおいて、ロール状多孔質セラミックス抵抗発熱体は抵抗発熱性であり、多孔質セラミックス抵抗発熱体に電流を通すことにより発熱させて昇温することができる。通電は多孔質セラミックス抵抗発熱体の長さ方向に電流を通じさせて行う。また、多孔質セラミックス抵抗発熱体は負の温度係数を有するNTC特性を有するため、加熱対象物と接触しない部分の昇温を抑制することができ、通紙部と非通紙部の温度差が無い加熱ロールを得ることができる。
【0040】
多孔質セラミックス抵抗発熱体の長さ方向に電流を通す方法としては、ロール状の多孔質セラミックス抵抗発熱体の両側端面または抵抗発熱体の内側で且つ両側端近傍に導電性ペースト等を塗布し、焼成し、該導電性ペースト部分と金属電極板を接触させて電極を設け、この電極に電源を接続すればよい。
【0041】
外層である多孔質セラミックス抵抗発熱体の最外周表面には、通常、被覆層が形成される。この被覆層としては、耐熱性、絶縁性、非粘着性など加熱ロールとしての表面適性を具備したものが好ましい。被覆層を形成する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、PFA、PTFE等のフッ素樹脂、フッ素ゴム、シリコンゴム等を主成分とするシート状物を貼付する方法、あるいはガラス、アルミナ等の無機絶縁体をコーティングする方法等が挙げられる。無機絶縁体をコーティングする方法としては、最外周表面に多孔質セラミックス抵抗発熱体を有する焼成体に無機絶縁体を塗布し、更に焼成する方法あるいは成形体の状態で無機絶縁体を塗布し、同時に焼成を行う方法等が挙げられる。被覆層の厚みはロール状の加熱体を使用する用途により適宜設定されるが、例えば数十μm〜5mm程度である。
【0042】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【実施例1】
【0043】
(第1原料混合物及び混練物の製造)
耐熱性無機質材料としてアルミナシリカ繊維及びガラス繊維100質量部、無機質バインダーとしてガラスフリット75質量部、有機質バインダーとしてメチルセルロース14質量部及び耐水性有機質材料としてポリエチレン43質量部の混合物に、水90質量部を加えた水系混合物を約20分、双腕型ニーダで混練して可塑性混練物を得た。
【0044】
(第2原料混合物及び混練物の製造)
耐熱性無機質材料としてアルミナシリカ繊維及びガラス繊維50質量部、無機質バインダーとしてガラスフリット100質量部、有機質バインダーとしてメチルセルロース18質量部、耐水性有機質材料としてポリエチレン60質量部及び導電性フィラーとして黒鉛25質量部の混合物に、水90質量部を加えた水系混合物を約20分、双腕型ニーダで混練して可塑性混練物を得た。
【0045】
(成形、乾燥及び焼成工程)
この2つの可塑性混練物を2層押出成形装置を使用して断面が外径16mm×内径8mm×長さ220mmの第1原料混合物由来の内層12及び外径20mm×内径16mm×長さ230mmの第2原料混合物由来の外層13、長さ230mmの中空2層構造のロール状成形体を2層押出し成形し、100℃で3時間乾燥して硬化した成形体を得た。この成形体を600℃で48時間加熱して、メチルセルロース、ポリエチレンを焼失させ、無機質バインダーを融着させて、無機質成分を一体化させたロール状の加熱体を得た。
【0046】
(加熱ロールの評価方法)
得られたロール状の加熱体とは別に、外層の抵抗発熱体、内層の多孔質セラミックス断熱層単体で押出し成形、焼成を行い、それぞれの円筒体を得た。抵抗発熱体は、両端面に導電性塗料(藤倉化成(株)製 ドータイトD−550)を塗布して体積抵抗率測定用試験体を作製し、下記試験方法により20℃での試験体の体積抵抗率を測定した。次いで、嵩密度及び気孔率を測定した。また、内層の多孔質セラミックス断熱層についても同様に嵩密度及び気孔率を測定した。それらの結果を表1に記載した。
【0047】
得られたロール状の加熱体一本について、ロール状の加熱体の中空部に、外径8mm、長さ260mmのSUS製回転軸11を圧入し、ロール状の加熱体10の外層13の内面であって、且つ両端から5mmの部分に銀ペーストを塗布し、両端部の外層13のみの部分にリン青銅製の電極15を密着して配設した。なお、電極15周りはPPS樹脂で封止した。また、ロール状の加熱体の外周表面に厚さ30μmのPFA製被覆層14を吹き付けコーティングにより形成し、加熱ロールを作製した。なお、符号は図1を参照のこと。
【0048】
ミノルタ製A4モノクロコピー機を用いて、通紙速度13ppm、定着温度200℃の条件下、下記方法により、昇温速度、消費電力、抵抗値、通紙部と非通紙部の温度差を測定した。その結果を表1に記載した。
【0049】
・嵩密度(g/cm):試験片の質量と形状寸法から算出される体積とから算出した。
・気孔率(%):所定寸法の試験片を切り出し、試験片の形状寸法から算出される体積と空気比較式比重計1000型(東京サイエンス株式会社製)を使用して得られる気孔体積とから100分率値として算出した。
・体積抵抗率(Ω・cm、20℃):試験体の寸法と抵抗値からJIS H0505に準じて平均断面積法により算出した。
・ 抵抗値(Ω、20℃):試験体の電極間の抵抗値を測定した。
・昇温速度(秒):印加電圧650Wを印加したときの200℃まで昇温に要した時間を測定した。
・消費電力:加熱ロールに650Wの電圧を印加して室温から200℃に昇温し、昇温を含めて合計60秒間温調保持するサイクルを10回繰り返し、それに要する消費電力の1サイクル当たりの平均値を求めた。
・通紙部と非通紙部の温度差:A4サイズに対して、ハガキサイズ(小サイズ紙)を通紙した場合の通紙部と非通紙部の温度差
・2層結合強度:得られた加熱体の外層の抵抗発熱体、内層の多孔質セラミックス断熱層の強度を、実機評価でも問題ないものを○、2層が空回転するものを×とした。
【0050】
実施例2及び3
第2原料混合物において、表1に示す組成とした以外は、実施例1と同様にして行った。その結果を表1に示す。
【0051】
比較例1
第2原料混合物において、表1に示す組成とした以外は、実施例1と同様にして行った。すなわち、多孔質セラミックス断熱層で使用するガラスフリット75質量部に代えて、コロイダルシリカを固形分量として70質量部を使用した以外は、実施例1と同様に行ったものである。その結果を表1に示す。
【0052】
比較例2
回転軸を装着した加熱ロールの代わりに、アルミニウム製軸パイプの表面に厚さ30μmのPFA被膜層を塗布により形成した。この軸パイプの中空部にハロゲンランプ熱源を装着した後、固定してロール状の加熱体を作製した以外は、実施例1と同様の方法で行った。このハロゲンランプの両電極に100ボルト電源を接続し、実施例1と同様にして昇温速度、消費電力及び通紙部と非通紙部の温度差を測定した。その結果を表1に記載した。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から明らかなように、実施例1〜3は、加熱ロール表面を所定の設定温度にする昇温時間が短く、消費電力効率に優れる。また、断熱層と抵抗発熱体は、同じ無機バインダーが配合されているため、接着剤を用いなくとも一体化できた。また、断熱層が絶縁機能を奏するため、回転軸表面に絶縁層を形成する別途の工程を省略できた。また、第1原料混合物と第2原料混合物を2層押出成形したため、1工程で一挙に2層構造一体化物を容易に作製することができた。また、本発明の加熱体はNTC特性を有するため、連続して通紙した際、小サイズの紙でも非通紙部の温度上昇が抑制され、加圧ローラや定着ベルトなどに熱ダメージを与えることがないことが判った。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例で得られた加熱ロールの概略構成図を示す。
【符号の説明】
【0056】
10 加熱ロール
11 回転軸
12 多孔質セラミックス断熱層
13 多孔質セラミックス抵抗発熱体
14 被覆層
15 電極
16 封止材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、該回転軸の表面に成層された多孔質セラミックス断熱層と、該断熱層の表面に成層された多孔質セラミックス抵抗発熱体とを有し、該断熱層と該抵抗発熱体に含まれる無機バインダーは同一物であることを特徴とする加熱ロール。
【請求項2】
更に、前記抵抗発熱体の表面に成層された被覆層を有することを特徴とする請求項1記載の加熱ロール。
【請求項3】
前記無機バインダーが、ガラスフリットであることを特徴とする請求項1又は2記載の加熱ロール。
【請求項4】
前記断熱層は、無機質バインダー100質量部と、耐熱性無機質材料0〜500質量部とを主成分として含有する焼成体であって、内部気孔率が20〜90%、嵩密度が0.2〜1.95g/cmの多孔質セラミックスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の加熱ロール。
【請求項5】
前記抵抗発熱体は、無機質バインダー100質量部と、耐熱性無機質材料0〜500質量部と、導電性フィラー5〜300質量部とを主成分として含有する焼成体であって、内部気孔率が20〜90%、体積抵抗率が0.01〜100,000Ω・cm、嵩密度が0.2〜1.95g/cmの多孔質セラミックスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の加熱ロール。
【請求項6】
前記抵抗発熱体の抵抗温度特性はNTC特性を有し、加熱電流が該抵抗発熱体の長さ方向に通電されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の加熱ロール。
【請求項7】
無機質バインダーを含有する第1原料混合物と、無機質バインダー及び導電性フィラーを含有する第2原料混合物とを成形して2層構造の成形体を得る工程と、乾燥工程と、焼成工程を有するものであって、該第1原料混合物及び該第2原料混合物で用いる無機質バインダーは同一物であることを特徴とする加熱ロールの製造方法。
【請求項8】
前記第1原料混合物は、無機質バインダー100質量部及び耐熱性無機質材料0〜500質量部とを主成分として含有するものであり、前記第2原料混合物は、前記無機質バインダー100質量部、耐熱性無機質材料0〜500質量部及び導電性フィラー5〜300質量部を主成分として含有するものであることを特徴とする請求項7記載の加熱ロールの製造方法。
【請求項9】
前記成形が、2層押出成形であることを特徴とする請求項7又は8の加熱ロールの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−202583(P2006−202583A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−12269(P2005−12269)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】