説明

加熱剤、加熱剤の製造方法及び加熱機能付き食品容器

【課題】 加水により発熱する粉体が収容された加熱剤の発熱時における容器の破れを有効に防止すること。
【解決手段】 加熱剤は、加水によって発熱可能な発熱粉体(3)と、発熱粉体を封入した封入容器(5)とを含めて構成してある。封入容器は熱融着性繊維を含む透水性の織布又は不織布によって構成してあり、織布又は不織布同士を熱融着することによって形成された熱融着部位(7)を有する。熱融着部位は、外郭に位置する外郭部位(13)と、外郭部位に隣接包囲された内郭に位置する内郭部位(15)とによって構成してある。外郭部位及び内郭部位について、加水発熱粉体の発熱によって発生した蒸気圧によって内郭部位が剥離可能であり、かつ、外郭部位の少なくとも一部が剥離不能であることによって封入容器内外を連通不能に構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を加えることによって発熱する加熱剤、同加熱剤の製造方法及び加熱機能付き食品容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで知られている加熱剤として、特許文献1に記載された加熱剤(以下、「従来の加熱剤」という。)がある。従来の加熱剤は、熱融着繊維を含む透水性不織布中に加水発熱性の粉体を封入してなるものである。透水性不織布は、これを重ね合わせた上から加熱融着させることによって四角枠状をなす熱融着部位が形成されるようになっている。この加熱剤によれば、不織布を通過した水が粉体と接触すると発熱し、その熱により、加えられた水が水蒸気となる。
【特許文献1】特開2005−248383号公報(段落番号0010、0032、図1及び2参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述した従来の加熱剤を含めた加熱剤で問題となっているのが、加熱剤の容器(袋)に破れの恐れがあるということである。この破れは、加水発熱によって発生した水蒸気圧が熱融着部位の一方の布と他方の布とを剥離方向に引っ張り、この引っ張り力が融着力を上回ったときに生じる。この破れを防ぐためには、熱融着部位の融着をより強力にする必要があるが、それは必ずしも易しいことではない。たとえば、融着の際の温度を高めれば融着力を高められるようにも思えるが、そのようなわけにはいかない。融着温度は、融着させようとする素材特有のものであるから、特有の融着温度を超えて高めたとしても素材を単に変質させるだけであって融着力を高めることにはならないからである。熱融着部位を縫合することによって補強する方法も考えられる。しかし、縫合すれば針穴を熱融着部位に残すことになり、その針穴周縁に加わった引っ張り力により針穴が広がって破れや粉体漏出を引き起こす恐れがあるため適切でない。さらに、熱融着部位を他の方法で補強することによって強度を高める方法もある。しかし、補強すれば熱融着部位自体の剥離は防止できても、補強した部分としない部分との境目に加わった力が過大であるとその境目部分の不織布自体が破れる恐れがなお存在する。したがって、他の補強もまた有効な破れ防止対策とは言えない。本発明が解決しようとする課題は、上述した容器の破れを有効に防止しようとする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述した容器の破れを有効防止するために鋭意研究を重ねた発明者は、熱融着部位の補強だけでは限界があると考え、発想の転換を行った。すなわち、熱融着部位の補強とともに、又は、この補強に代え、蒸気圧の働きにより熱融着部位に加わる力を緩和させることを思いついた。本発明は、そのような発想転換の結果なされたものである。本発明の詳しい内容については、項を改めて説明する。なお、いずれかの請求項に係る発明の説明を行うに当たって行う用語の定義等は、その発明のカテゴリーや記載順等に関わらず、その性質上可能な範囲において他の請求項に係る発明にも適用があるものとする。
【0005】
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載の発明に係る加熱剤(以下、適宜「請求項1の加熱剤」という。)は、加水によって発熱可能な発熱粉体と、発熱粉体を封入した封入容器と、を含めて構成してある。ここで、当該封入容器が、熱融着性繊維を含む透水性の織布又は不織布によって構成してあり、当該織布又は不織布同士を熱融着することによって形成された熱融着部位が、外郭に位置する外郭部位と、当該外郭部位に隣接包囲された内郭に位置する内郭部位と、によって構成してある。加水発熱粉体の発熱によって発生した蒸気圧によって当該内郭部位が剥離可能、かつ、当該外郭部位の少なくとも一部が剥離不能であることによって当該封入容器内外を連通不能に構成してある。熱融着性繊維を含む織布とは、たとえば、熱融着性繊維のみで織られた織布、熱融着性繊維と熱融着性繊維以外の繊維とで織られた織布のことをいう。また、熱融着性繊維を含む不織布とは、たとえば、含まれる繊維が熱融着繊維のみである不織布、含まれる繊維が熱融着繊維以外の繊維を含む不織布のことをいう。
【0006】
請求項1の加熱剤によれば、封入容器に封入された発熱粉体がその封入容器を構成する織布又は不織布を透過した水と接触して発熱する。発熱粉体の発熱によって発熱に供した水が気化して水蒸気となる。水蒸気の発生は蒸気圧を発生させ、この蒸気圧がエネルギーとなって封入容器を内側から押し広げようとする。この蒸気圧エネルギーが、熱融着部位を構成する内郭部位を剥離する。この内郭部位を剥離するためには相応のエネルギーが消費されるが、その消費された分、蒸気圧エネルギーは小さくなる。また、内郭部位の剥離に伴って封入容器の体積が増大するところ、これによって蒸気圧が減少する。さらに、一部の水蒸気は織布又は不織布を介して封入容器外部に流出する。水蒸気流出も蒸気圧を小さくする一因でもある。小さくなった蒸気圧エネルギーは外郭部位を剥離する方向に働くが、外郭部位を剥離するのに充分な大きさではない。この結果、外郭部位の一部又は全部が剥離されずに残り、これによって、封入容器内外の連通、すなわち、封入容器の破れが有効に防止される。なお、熱融着度合いに基づく融着力のバラツキや蒸気圧の高低(水蒸気発生量の多少)等により、内郭部位に多少の未剥離部位が残存し、また、外郭部位に多少の剥離が生じる場合が想定されるが、そのような場合も本発明の範囲内である。すなわち、剥離を意図的に行わせる部位が内郭部位であり、本来であれば剥離を予定していないが内郭部位の剥離だけでは蒸気圧を抑えきれない場合に予備的な剥離を行わせる部位が外郭部位である。最終的に、封入容器内外の連通が防止されればよい。
【0007】
(請求項2記載の発明の特徴)
請求項2記載の発明に係る加熱剤(以下、適宜「請求項2の加熱剤」という。)では、好ましい態様として、請求項1の加熱剤の基本構成を備えさせた上で、前記外郭部位の融着力が前記内郭部位の融着力よりも強く設定してある、又は、前記外郭部位のみを補強してある。
【0008】
請求項2の加熱剤によれば、請求項1の加熱剤の作用効果に加え、外郭部位の融着力を内郭部位の融着力よりも強く設定することによって、あるいは外郭部位のみの補強によって、封入容器が加水発熱粉体の発熱によって発生した蒸気圧が作用したときに、当該内郭部位が剥離可能、かつ、当該外郭部位の少なくとも一部が剥離不能であることによって当該封入容器内外を連通不能にする。つまり、蒸気圧の作用に伴うエネルギーにより内郭部位が先に剥離され、剥離によってもなお残るエネルギーは外郭部位の一部又は全部に打ち負かされ、その結果、封入容器の破れが有効防止される。
【0009】
(請求項3記載の発明の特徴)
請求項3記載の発明に係る加熱剤(以下、適宜「請求項3の加熱剤」という)には、請求項1又は2の加熱剤の基本構成を備えさせた上で、前記熱融着性繊維には、ポリエステル(polyester)繊維、すなわち、多価アルコールと多価カルボン酸の重縮合により得られる高分子化合物によって構成した繊維を含めてある。繊維径は略一定である場合が一般的ではあるが、異なる繊維径が混在する場合があることを妨げない。
【0010】
請求項3の加熱剤によれば、請求項1又は2の加熱剤の作用効果に加え、次の作用効果を奏することができる。すなわち、ポリエステル繊維の融点は、主として繊維径によって異なりはあるが、概ね165℃〜240℃である。水蒸気が発生するときの温度は100℃を超えるので、融点は少なくとも100℃を超えるものでなくてはならない。この点、ポリエステル繊維の融点は、上記値であるから封入容器の構成物として極めて都合がよい。これが、ポリエステル繊維を選択したことによる利点である。さらに、比較的安価で入手が容易である点も、ポリエステル繊維選択の一要因となり得る。もっとも、ポリエステル繊維のみを選択しなければならないという趣旨ではなく、ポリエステル以外の熱融着性繊維をも選択可能であることは言うまでもない。
【0011】
(請求項4記載の発明の特徴)
請求項4記載の発明に係る加熱剤(以下、適宜「請求項4の加熱剤」という)には、請求項1又は2の加熱剤の基本構成を備えさせた上で、前記織布が、1平方インチ(2.54cm×2.54cm)当たり300乃至1200本のポリエステル繊維糸によって構成してある。
【0012】
請求項4の加熱剤によれば、織布からなる封入容器からの発熱粉体の漏れを防止することができ、このため、加熱剤を食品の加温、加熱に供することができる。また、ポリエステル繊維糸の本数の選択により、水が織布を通過するのに要する時間、したがって発熱粉体の発熱に要する時間を調整することができる。発明者らの行った実験によれば、1平方インチ当たりに300本前後のポリエステル繊維で織布を構成した場合の水は、即座に浸透して封入容器内に浸透する。同様にして、500本前後の場合の水は5秒前後で浸透する。同じく800本前後の場合の水は、60秒前後で浸透する。さらに、1200本前後の場合の水を浸透させるには、1週間程度は必要である。上記した浸透時間の長短は、そのまま加水から発熱までの所要時間に置き換えることができる。つまり、繊維の本数を調整することによって上述した発熱に要する時間の調整を行うことができる。300本未満又は1200を超える場合を排除する趣旨ではないが、一般に、300本未満の場合は織布の目が粗くなりすぎて発熱粉体の漏れが生じ易く、1200本を越える場合は目が細かすぎて通水性が充分に確保できないおそれがあるので、好ましい本数から一応除外した。
【0013】
(請求項5記載の発明の特徴)
請求項5記載の発明に係る加熱剤(以下、適宜「請求項5の加熱剤」という。)は、加水によって発熱可能な発熱粉体と、発熱粉体を封入した封入容器と、を含めて構成してある。ここで、当該封入容器が、透水性の織布又は不織布によって構成してあり、当該織布又は不織布同士を接着剤で接着することによって形成された接着部位が、外郭に位置する外郭部位と、当該外郭部位に隣接包囲された内郭に位置する内郭部位と、によって構成してある。加水発熱粉体の発熱によって発生した蒸気圧によって当該内郭部位が剥離可能、かつ、当該外郭部位の少なくとも一部が剥離不能であることによって当該封入容器内外を連通不能に構成してある。本発明において、前記「不織布」とは、和紙をも含む概念である。
【0014】
請求項5の加熱剤によれば、封入容器に封入された発熱粉体がその封入容器を構成する織布又は不織布を透過した水と接触して発熱する。発熱粉体の発熱により、発熱に供した水が気化して水蒸気となる。水蒸気の発生は蒸気圧を発生させ、この蒸気圧がエネルギーとなって封入容器を内側から押し広げようとする。この蒸気圧エネルギーが、接着部位を構成する内郭部位を剥離する。この内郭部位を剥離するためには相応のエネルギーが消費されるが、その消費された分、蒸気圧エネルギーは小さくなる。また、内郭部位の剥離に伴う封入容器の体積増大は蒸気圧の減少に寄与する。さらに、一部の水蒸気は織布又は不織布を介して封入容器外部に流出する。水蒸気流出も蒸気圧を小さくする一因でもある。小さくなった蒸気圧エネルギーは外郭部位を剥離する方向に働くが、外郭部位を剥離するのに充分な大きさではない。この結果、外郭部位の一部又は全部が剥離されずに残り、これによって、封入容器内外の連通、すなわち、封入容器の破れが有効に防止される。なお、接着度合いに基づく接着力のバラツキや蒸気圧の高低(水蒸気発生量の多少)等により、内郭部位に多少の未剥離部位が残存し、また、外郭部位に多少の剥離が生じる場合が想定されるが、そのような場合も本発明の範囲内である。すなわち、剥離を意図的に行わせる部位が内郭部位であり、本来であれば剥離を予定していないが内郭部位の剥離だけでは蒸気圧を抑えきれない場合に予備的な剥離を行わせる部位が外郭部位である。最終的に、封入容器内街の連通が防止されればよい。
【0015】
(請求項6記載の発明の特徴)
請求項6記載の発明に係る加熱剤(以下、適宜「請求項6の加熱剤」という。)は、加水によって発熱可能な発熱粉体と、発熱粉体を封入した封入容器と、を含めて構成してある。ここで、当該封入容器部が、透水性の織布又は不織布と、耐熱封鎖部材と、によって構成してあり、当該織布又は不織布と当該耐熱封鎖部材とを接着剤で接着することによって形成された接着部位が、外郭に位置する外郭部位と、当該外郭部位に隣接包囲された内郭に位置する内郭部位と、によって構成してある。加水発熱粉体の発熱によって発生した蒸気圧によって当該内郭部位が剥離可能、かつ、当該外郭部位の少なくとも一部が剥離不能であることによって当該封入容器内外を連通不能に構成してある。本発明において、前記「不織布」とは、和紙をも含む概念である。
【0016】
請求項6の加熱剤によれば、封入容器に封入された発熱粉体がその封入容器の一部を構成する織布又は不織布を透過した水と接触して発熱する。耐熱封鎖部材は、織布又は不織布と協同して発熱粉体を封入容器内に封入する。発熱粉体の発熱により、発熱に供した水が気化して水蒸気となる。水蒸気の発生は蒸気圧を発生させ、この蒸気圧がエネルギーとなって封入容器を内側から押し広げる。この蒸気圧エネルギーが、接着部位を構成する内郭部位を剥離する。この内郭部位を剥離するためには相応のエネルギーが消費されるが、その消費された分、蒸気圧エネルギーは小さくなる。また、内郭部位の剥離に伴う封入容器の体積増大は蒸気圧の減少に寄与する。さらに、一部の水蒸気は織布又は不織布を介して封入容器外部に流出する。水蒸気流出も蒸気圧を小さくする一因でもある。小さくなった蒸気圧エネルギーは外郭部位を剥離する方向に働くが、外郭部位を剥離するのに充分な大きさではない。この結果、外郭部位の一部又は全部が剥離されずに残り、これによって、封入容器内外の連通、すなわち、封入容器の破れが有効に防止される。すなわち、封入容器の破れが有効防止される。なお、接着度合いに基づく接着力のバラツキや蒸気圧の高低(水蒸気発生量の多少)等により、内郭部位に多少の未剥離部位が残存し、また、外郭部位に多少の剥離が生じる場合が想定されるが、そのような場合も本発明の範囲内である。すなわち、剥離を意図的に行わせる部位が内郭部位であり、本来であれば剥離を予定していないが内郭部位の剥離だけでは蒸気圧を抑えきれない場合に予備的な剥離を行わせる部位が外郭部位である。最終的に、封入容器内外の連通が防止されればよい。
【0017】
(請求項7記載の発明の特徴)
請求項7記載の発明に係る加熱剤(以下、適宜「請求項7の加熱剤」という)には、請求項5又は6の加熱剤の基本構成を備えさせた上で、前記外郭部位の接着力が前記内郭部位の接着力よりも強く設定してある、又は、前記外郭部位のみを外部補強してある。
【0018】
請求項7の加熱剤によれば、請求項5又は6の加熱剤の作用効果に加え、外郭部位の接着力を内郭部位の接着力よりも強く設定することによって、封入容器が加水発熱粉体の発熱によって発生した蒸気圧によって当該内郭部位が剥離可能、かつ、当該外郭部位の少なくとも一部が剥離不能であることによって当該封入容器内外を連通不能にする。つまり、蒸気圧エネルギーにより内郭部位が先に剥離され、剥離によってもなお残るエネルギーは外郭部位の一部又は全部に打ち負かされ、その結果、封入容器の破れが有効防止される。
【0019】
(請求項8記載の発明の特徴)
請求項8記載の発明に係る加熱剤(以下、適宜「請求項8の加熱剤」という)には、請求項1乃至7いずれかの加熱剤の基本構成を備えさせた上で、前記発熱粉体が、粉体アルミニウム及び粉体生石灰を含めて構成してある。
【0020】
請求項8の加熱剤によれば、請求項1乃至7のいずれかの加熱剤の作用効果に加え、加えられる水が透水性の織布又は不織布を透過し、封入容器内の粉体アルミニウム及び粉体生石灰に触れるとこれらが発熱し、水が気化する。発生した水蒸気は、織布又は不織布をその内側から押し広げ、又、水蒸気の一部が織布又は不織布をその外部に透過する。
【0021】
(請求項9記載の発明の特徴)
請求項9記載の発明に係る加熱剤の製造方法(以下、適宜「請求項9の製造方法」という)は、加水によって発熱可能な発熱粉体と、発熱粉体を封入した封入容器と、を含めて構成してある加熱剤の製造方法である。請求項9の製造方法は、熱融着性繊維を含む透水性の織布又は不織布を調達する素材調達工程と、当該素材調達工程で調達した織布又は不織布を折り重ね、折り重ねられた織布又は不織布同士を熱融着することにより、又は、織布又は不織布同士を熱融着することにより、発熱粉体を封入容器内に封入する容器形成工程と、を含めてなるものである。ここで、織布又は不織布同士を熱融着することによって形成される熱融着部位が、温度Tの環境下で外郭に形成される外郭部位と、温度t(<T)の環境下で当該外郭部位に隣接包囲された内郭に形成される内郭部位と、によって構成してあり、前記温度Tと温度tが、加水発熱粉体の発熱によって発生した蒸気圧によって当該内郭部位が剥離可能、かつ、当該外郭部位の少なくとも一部が剥離不能であることによって当該封入容器内外を連通不能となるように設定してある。
【0022】
請求項9の製造方法によれば、熱融着性繊維を含む透水性の織布又は不織布を折り重ねて、又は2枚の織布又は不織布を向かい合わせにして、これらを熱融着してなる熱融着部位を形成することにより、発熱粉体を封入して成る容器が形成される。熱融着部位は、温度Tの環境下で形成された外郭部位と、温度Tより低い温度tの環境下で形成された内郭部位とからなり、内郭部位は、加水発熱粉体の発熱によって発生した蒸気圧によって封入容器内外が連通不能となるように剥離可能の融着力を付与され、また、外郭部位はその少なくとも一部が剥離不能の融着力を付与される。
【0023】
(請求項10記載の発明の特徴)
請求項10記載の発明に係る加熱剤の製造方法(以下、適宜「請求項10の製造方法」という。)には、請求項9の製造方法の基本手順を備えさせた上で、前記熱融着部位が、対向する複数対の加熱シーラーによって織布又は不織布同士を両側から押圧することによって形成され、各対の加熱シーラーの一方又は双方と熱融着によって内郭部位となる部位との間には、押圧の際に熱伝達抑制層が介在されるようにしてある。
【0024】
請求項10の製造方法によれば、封入容器の熱融着部位は織布又は不織布に対する各対の加熱シーラーの押圧により形成され、このときに熱伝達層を介在させ、加熱シーラーからの織布又は不織布に対する熱伝達を部分的に抑制することにより、比較的熱融着度の低い内郭部位と熱融着度の高い外郭部位とが形成される。
【0025】
(請求項11記載の発明の特徴)
請求項11記載の発明に係る加熱剤の製造方法(以下、適宜「請求項11の製造方法」という)には、請求項10の製造方法の基本手順を備えさせた上で、前記熱伝達抑制層が、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))製のシートによって構成されるようにしてある。
【0026】
請求項11の製造方法によれば、ポリテトラフルオロエチレン製のシートが有する熱遮断性能によって加熱シーラーからの織布又は不織布への熱伝達が効果的に抑制され、比較的熱融着度の低い内郭部位が確実に形成される。
【0027】
(請求項12記載の発明の特徴)
請求項12記載の発明に係る加熱剤の製造方法(以下、適宜「請求項12の製造方法」という)は、加水によって発熱可能な発熱粉体と、発熱粉体を封入した封入容器と、を含めて構成してある加熱剤の製造方法である。請求項12の製造方法は、透水性の織布又は不織布を調達する素材調達工程と、当該織布調達工程で調達した織布又は不織布を折り重ね、折り重ねられた織布又は不織布同士を接着剤で接着することにより、又は、織布又は不織布同士を接着剤で接着することにより、発熱粉体を封入容器内に封入する容器形成工程と、を含めてなるものである。ここで、織布又は不織布同士を接着剤で接着することによって形成される接着部位が、接着力Pをもって外郭に形成される外郭部位と、接着力p(<P)をもって当該外郭部位に隣接包囲された内郭に形成される内郭部位と、によって構成してあり、前記接着力Pと接着力pとが、加水発熱粉体の発熱によって発生した蒸気圧が作用したときに、当該内郭部位のみが剥離可能、かつ、当該外郭部位の少なくとも一部が剥離不能であることによって当該封入容器内外を連通不能となるように設定してある。
【0028】
請求項12の製造方法によれば、熱融着性繊維を含む透水性の織布又は不織布を折り重ねて、又は2枚の織布又は不織布を向かい合わせにして、これらを接着剤で接着してなる接着部位を形成することにより、発熱粉体を封入して成る容器が形成される。接着部位は、接着力Pをもって形成された外郭部位と、接着力Pより小さい接着力pをもって形成された内郭部位とからなり、内郭部位は、加水発熱粉体の発熱によって発生した蒸気圧によって封入容器内外が連通不能となるように剥離可能の融着力を付与され、また、外郭部位はその少なくとも一部が剥離不能の融着力を付与される。
【0029】
(請求項13記載の発明の特徴)
請求項13記載の発明に係る加熱機能付き食品容器(以下、適宜「請求項13の食品容器」という)は、請求項1乃至8いずれか記載の加熱剤が、食品が配置される空間と同一の空間内に配してある。
【0030】
請求項13の食品容器によれば、加熱剤への加水によって発生する加熱水蒸気が食品の配置空間を満たし、これにより食品が加温又は加熱される。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、容器(袋)に破れの恐れがない加熱剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
(加熱剤の第1の実施形態)
図1を参照すると、本発明に係る加熱剤全体が符号1で示されている。加熱剤1の全体形状は、図1に示すように、平面視したときに矩形であることが一般的であるが、この形状に限定する必要はない。後述する加熱剤の製造方法から理解できるように矩形が最も製造し易い形状ではあるが、その加熱剤が使用される場所や設置されるときの便宜等に応じて、種々の形状を選択し得る。たとえば、三角形や一部の辺が曲線に形成された形等が、矩形以外の形状として挙げられる。
【0033】
加熱剤1は、発熱粉体3(図2参照)と、該発熱粉体を封入した封入容器5とを含めてある。加熱剤1は加水(水没、水散布等を含む)が可能である限り用途は様々であり、後述する食品の加温、加熱のほか、たとえば、プールや簡易風呂内への放り込みによる貯留水の水温上昇等に用いることができる。特に、後者の簡易風呂については、たとえば、野営地や被災地において本格的な風呂を設置できない場合に、水を貯留可能なものを風呂桶として使用し、その貯留水の中に加熱剤1を1個又は必要個数だけ投入することによって火を焚かずとも入浴可能な環境を作ることができる。
【0034】
発熱粉体3は、加水によって発熱可能な性質、すなわち加えられた水に接触して発熱反応を起こし、熱を発する性質を有する。発熱粉体3は、粉状のほかに粒状のものを含み、たとえば粉体アルミニウム及び粉体生石灰の混合物から構成することができる。ここで、粉体アルミニウム及び粉体生石灰の混合物により発熱粉体を構成した理由は、上記混合物であれば、発熱時に臭気をほとんど発しないこと、熱発生効率が比較的よいこと、とされていることにある。そのような発熱粉体を紹介した文献として、たとえば、特開平11−146835号公報がある。
【0035】
本実施形態に係る封入容器5は、熱融着性繊維を含む透水性の織布によって構成されてあり、全体に袋状を呈する。封入容器5を袋状に形成するためには、部分的に熱融着部位を形成する必要がある。織布を製造する段階で袋状に形成することはできないから、シート状に形成した1枚の布を折り曲げ、折り曲げによって重なった部分を熱融着させる必要があるからである。折り曲げを行わずに2枚の布を熱融着のみによって袋状に形成することも可能である。封入容器5の製造方法については、後ほど改めて説明する。
【0036】
前記熱融着性繊維を含む織布には、たとえば、熱融着性繊維のみで織られた織布、熱融着性繊維と熱融着性繊維以外の繊維とで織られた織布がある。また、前記封入容器は熱融着性繊維を含む透水性の不織布で形成することができる。前記熱融着性繊維を含む不織布には、たとえば、含まれる繊維が熱融着繊維のみである不織布、含まれる繊維が熱融着繊維以外の繊維を含む不織布がある。前記熱融着性繊維は、たとえばポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維のような合成繊維から成り、熱を加えると軟化、溶融する性質(すなわち、熱融着性)を有する。織布と不織布のいずれを選択するかは使用者・製造者の好みによるが、本実施形態では前記したように織布を採用した。織布であれば、不織布が必要とするバインダー等が不要となるし、バインダー等も熱融着性のものを選択すれば別であるが融点の違い等によりそのような選択は一般に難しいからバインダーを不要とする分だけ熱融着の効率がよりよいと考えられるからである。
【0037】
封入容器5を構成する織布は、これを構成する熱融着性繊維が好ましくはポリエステル繊維のみから構成される。つまり、ポリエステル繊維以外の繊維を混入させるよりは、混入させないほうがよい。異なる繊維を混在させると融点の調整が難しくなる等の不都合が予想されるからである。また、封入容器5を構成する織布の織密度は、該織布の1平方インチ(2.54cm×2.54cm)当たりのたて糸及びよこ糸の本数を、300乃至1200本とすることが望ましい。これによれば、封入容器5からの発熱粉体3の漏れを、その発熱粉体3の粒径にもよるが、おおむね抑制することができるからである。300本未満の織密度を除外した理由は、300本を下回ると織布の目が粗くなりすぎて発熱粉体3が封入容器5から漏れ出す恐れがあるため、そのような恐れをなくすためである。他方、1200本を越える織密度を除外した理由は、1200本を超えると織布の目が細かすぎて通水性が充分に確保できないおそれがあるので、そのような恐れをなくすためである。繊維径を上記範囲から外れる範囲に設定することを妨げるものではないが、繊維径を上記範囲に設定した理由はこれらの点にある。さらに、上記範囲内における織密度の選択により、水が織布に浸透するのに要する時間、したがって水が発熱粉体3に接し、これが発熱するのに要する時間を調整することができる。発明者の実験によれば、織密度が、300本前後の場合は加水後即座に、500本前後の場合は加水後5秒前後経過後に、800本前後の場合は加水後60秒前後経過後に、さらに、1200本前後の場合は加水後1週間前後経過後に、それぞれ発熱粉体3が発熱することが分かった。なお、発熱粉体3は吸湿性であるため、加熱剤1は防湿袋Eに入れて脱気保存することが望ましい。
【0038】
封入容器5には透水性が求められるが、この透水性があるがゆえに、たとえば水につけることによって、加熱剤1に水をかけることによって、あるいは加熱剤1を濡れた保水シートで包む等によって、封入容器5(織布9,11)を通して発熱粉体3に加水することができる。特に、加熱剤1を濡れた保水シートで包む場合やスポンジのような保水材を載せておく場合には、たとえば高密度でありこのために水が浸透しにくい織物からなる封入容器5を湿気にさらし続け、水を徐々に浸透させることができる。さらに、上述した範囲内の、たとえば、1000本前後の高密度繊維により構成した封入容器5は、通水性こそあるものの、撥水性も併せ持っている。このため、かけた水が弾かれて発熱に寄与させられない場合が考えられる。このような場合に、上記した保水シートや保水材から水を供給可能に設定しておくことにより、かけた水が弾かれずに封入容器5と接触させた状態を作り出すことができるから、かけた水の加熱に対する効率を低下させずに済むので、たいへん便利である。このように、織密度による加熱までの時間調整の手法に加え、保水シートや保水部材の併用による時間調整の手法も存在する。
【0039】
織布9,11を介して発熱粉体3に加えられ該発熱粉体に触れた水は、発熱粉体3を発熱させ、その発熱に伴って加熱、気化され、水蒸気となる。この水蒸気は封入容器5にその内部からその外部に向けて蒸気圧を及ぼし、その一部が封入容器5を構成する織布9,11の目を抜けて内部から外部に漏出する。漏出水蒸気の熱と加熱剤1自体が持つ熱が、直接又は空気等を介して間接に他の物質に伝達して加温又は加熱作用を及ぼす。
【0040】
封入容器5は熱融着部位7を有する。熱融着部位7は、織布9,11同士をこれらの間に発熱粉体3の封入空間が生じるように熱融着することによって形成される。熱融着部位7を有する封入容器5は、図1に示す例のように、一枚の細長い矩形状の織布を折り重ねることにより生じた2枚の織布9,11のコ字形の周縁を熱融着することにより、あるいは、たとえば互いに重ねあわされた2枚の織布を矩形の四辺に沿って熱融着すること等により形成することができる(図9参照)。折り重ねを行った場合に折れ曲がりの部分には熱融着部位は形成されない。
【0041】
熱融着部位7は、外郭に位置する外郭部位13と、該外郭部位に包囲されこれに隣接する内郭部位15とを有し、発熱粉体3の前記封入空間は内郭部位15により直接に区画されている。このため、内郭部位15は、発熱粉体3に直接触れることになる。
【0042】
外郭部位13と内郭部位15とは、外郭部位13の融着力が内郭部位15の融着力よりも強いものであるように設定されている。また、外郭部位13の融着力の程度及び内郭部位15における融着力の程度は、織布9,11が発熱粉体3への加水により発生した水蒸気の圧力(蒸気圧)を受けるとき、織布9,11が内郭部位15において剥離可能であり、かつ外郭部位13の少なくとも一部において剥離不能であり、これにより封入容器5内外すなわち前記封入空間内外を連通不能であるように設定されている。なお、内郭部位15自体を内から外に向かって段階的に融着力を高めておくこと、これと併せ、又は、これに代わり、外郭部位13自体を内から外に向かって段階的(たとえば、2段階に)に融着力を高めておくこともできる。一気に剥離されるよりも段階的に剥離されるほうが、封入容器5の破れをより生じづらくすることができると考えられるからである。
【0043】
これによれば、織布9,11を押し広げようとする蒸気圧エネルギーの一部が内郭部位15の剥離のために消費され、前記蒸気圧が低下する。つまり、内郭部位15は、外郭部位13に強い圧力が加わらないようにするための緩衝部位としての機能を有している。また、内郭部位15の剥離により、発熱粉体3の前記封入空間の容積が増大し、これによっても前記蒸気圧の低下が生じる。さらに、発生水蒸気の一部が前記織布9,11を通して封入容器5外に流出し、これによっても前記蒸気圧が低下する。低下した蒸気圧は、内郭部位15に連なる外郭部位13に剥離力を及ぼすが、外郭部位13の全部を剥離するのに充分な大きさではない。この結果、外郭部位13の少なくとも一部が剥離されずに残り、これにより封入容器5内外の連通、すなわち封入容器5の破れが防止される。
【0044】
なお、外郭部位13の幅寸法及び内郭部位15の幅寸法、これらの部位の熱融着の程度等は、発熱粉体3の量、前記織布9,11の引っ張り強度等を考慮して、適宜に定められる。前述したように織布の折り重ねを行った場合には折れ曲がり部分には熱融着部位は形成されないから、その部分について緩衝機能を期待することができない。形成されない分だけ形成された内郭部位15に余計な負担が掛かるから、内郭部位15の設計に当たって、その余計な負担を考慮した設定が必要である。また、図示の例では、加熱剤1が全体に矩形の平面形状を有するが、これに代えて他の任意の平面形状を有するものとすることができる。さらに、熱融着部位7の形状を他の任意の平面形状を有するものとすることができる。たとえば、前記コ字形とする図示の例に代えて半円形とし、前記矩形とする例に代えて円形とすることができる。
【0045】
(加熱剤の第2の実施形態)
熱融着部位7の熱融着の強さの程度を外郭部位13と内郭部位15とで異なるものとする図1に示す例に代えて、図2に示すように、熱融着部位7全体の熱融着の程度を一様なものとし、かつ外郭部位13のみを補強したものとすることができる。外郭部位13の補強は、外郭部位13にたとえばその周囲に沿って伸び、かつ、これを覆うコ字形の横断面形状を有するプラスチック製のカバー14を外郭部位13に固定することにより行うことができる。
【0046】
図2に示す加熱剤21によれば、加水された発熱粉体3の発熱に伴って織布9,11が蒸気圧を受けて膨らみ、織布9,11を通して水蒸気Vが外部に発散されるとき、内郭部位15に剥離が生じ(想像線で示す)、前記したと同様、内郭部位15の剥離のために蒸気圧エネルギーの一部が消費され、これにより前記蒸気圧が低下する。このとき、内郭部位15への剥離作用がこれに隣接する外郭部位13に及ぼうとするが、外郭部位13をその周囲から覆うカバー14が外郭部位13への前記剥離作用の伝達を止める働きをなすため、外郭部位13に剥離作用が及ばず、このため、外郭部位13が剥離せずに残り、封入容器5の破れが防止される。
【0047】
(第1の実施形態に係る加熱剤の製造方法)
図1に示す加熱剤1は、次のようにして製造することができる。まず、前記熱融着性繊維を含む透水性の織布を調達する(素材調達工程)。次に、調達した前記織布を折り重ね、重ね合わされた織布同士を熱融着することにより、発熱粉体3を封入容器5内に封入する(容器形成工程)。発熱粉体3の封入には、たとえば、一部未融着の封入容器5を形成し、その未融着部分(開口部)を介して発熱粉体3を充填した後に未融着部分を熱融着する方法や、発熱粉体3を載せた一方の織布の上に他方の織布を重ねて発熱粉体3を挟み、挟んだ発熱粉体3を囲むように重ね合わせた織布同士を熱融着する方法などがある。
【0048】
前記素材調達工程においては、たとえば、細長いストリップ状の織布16を準備する。ストリップ状の織布16に前記容器形成工程を適用することにより、互いに連なる複数の加熱剤1を連続的に製造することができる。得られた複数の加熱剤1は、必要に応じて、このままの状態ですなわち連続した状態で、あるいはこれを切断して単体にして、前記した用途に供することができる。
【0049】
図3を参照すると、前記容器形成工程を行うための装置が示されている。この装置は、織布16の長手方向(上下方向)に伸びる一対の加熱シーラー17,17と、該加熱シーラー17,17の下方位置にあって織布16の横断方向(横方向)へ伸びる一対の加熱シーラー19,19とが配置され、さらに織布16をその長手方向へ送るための一対の送りローラ20,20とを備える。
【0050】
織布16を一対の加熱シーラー17,17間に通し、該加熱シーラー17,17で両側から挟持し、押圧すると、織布16が2つに折り重ねられ、折り重ねにより生じた2枚の織布23,25がこれらの縁部において互いに熱融着される。この熱融着は、織布16を送りローラ20,20で移動させる間に行われる。
【0051】
織布16が予め定められた距離を移動された後、送りローラ20,20の作動を停止し、加熱シーラー19,19により2枚の織布23,25の縁部を両側から挟持、押圧し、熱融着する(図3(a))。その後、融着された2枚の織布23,25間に所定量の発熱粉体3が充填される。
【0052】
次に、加熱シーラー17,19をそれぞれ開いて、すなわち2枚の織布23,25の縁部から離し(図3(b))、送りローラ20,20を作動させることにより、加熱シーラー17,17が未熱融着箇所に相対することとなるまで、織布16が移動される。その後、前記したと同様にして、加熱シーラー17,19による2枚の織布23,25の縁部の熱融着が行われ、これにより1つの加熱剤1が形成される。
【0053】
このとき、図4に示すように、2枚の織布23,25の縁部に、熱融着の程度が異なる2つの部位13,15が前記縁部の外郭及びその内郭に生じるように、各対の加熱シーラー17,19の互いに相対する両面に2つの熱伝達抑制層27が配置されている。熱伝達抑制層27は、たとえばポリテトラフルオロエチレン製のシートからなり、両加熱シーラー17,19からこれらに挟まれた2枚の織布23,25の縁部の前記内郭への熱の伝達を制限する。
【0054】
これによれば、加熱シーラー17,19から2枚の織布23,25の縁部の内郭への熱の移動が抑制され、これにより熱融着の程度が異なる2つの部位、すなわち外郭に融着度の高い外郭部位13が形成され、外郭部位13に隣接包囲された内郭に融着度の低い内郭部位15が形成される。
【0055】
外郭部位13を形成するために加熱シーラー17,19から2枚の織布23,25の縁部に付与される温度(T)と、内郭部位15を形成するために熱伝達抑制層27を介して加熱シーラー17,19から2枚の織布23,25の縁部に付与される温度(t)(<T)とは、外郭部位13及び内郭部位15における熱融着の度合いが、加水された発熱粉体3の発熱によって発生した蒸気圧によって内郭部位15の剥離を可能とし、かつ、外郭部位13の少なくとも一部が剥離不能であることによって封入容器5の内外を連通不能とするように、設定されている。たとえば、前記織布として、織密度が500乃至750本のポリエステル繊維糸からなる織物を用いる場合における前記温度Tおよびtの値は、それぞれ、165乃至170℃及び130乃至150℃が適当であり、また前記織物に対する前記加熱シーラーの押し付け時間は0.5乃至1.5秒が適当である。
【0056】
互いに重ねあわされた2枚の織布を矩形の四辺に沿って熱融着することにより形成される熱融着部位を有する加熱剤の製造は、図3に示す装置にさらに他の一対の加熱シーラーを追加してなる装置を用いて行うことができる。前記他の一対の加熱シーラーは、加熱シーラー17と同様のものからなり、加熱シーラー17と平行に配置される。これによれば、加熱シーラー17及び追加の加熱シーラーにより前記矩形の熱融着部位のうちの互いに平行な2辺に沿って伸びる2つの部分を同時に形成することができ、また、加熱シーラー19により前記矩形の熱融着部位のうちの他の平行な2辺に沿って伸びる2つの部分を順次に形成することができる。
【0057】
(加熱剤の第3の実施形態)
他の例の加熱剤として、図1に示す第1の実施形態に係る加熱剤1の封入容器5における熱融着部位7の代わりに、接着剤で接着してなる接着部位を有するもの(図示せず)がある。前記接着部位を有する封入容器を構成する織布については、透水性を有するものであれば、前記熱融着性繊維を含むものであるか否かを問わない。前記熱融着部位を有しないためである。また、前記織布に代えて、透水性を有する不織布とすることができる。前記不織布には和紙も含まれる。
【0058】
前記接着部位は、図1に示す加熱剤1におけると同様、外郭に位置する外郭部位と、当該外郭部位に隣接包囲された内郭に位置する内郭部位とによって構成してあり、前記外郭部位の接着力は前記内郭部位の接着力より強く設定されている。前記外郭部位の接着力及び前記内郭部位の接着力については、加水された発熱粉体の発熱によって発生した蒸気圧によって前記内郭部位が剥離可能、かつ、前記外郭部位の少なくとも一部が剥離不能であることによって前記封入容器内外を連通不能であるように設定されている。なお、前記した融着部位と同様、前記内郭部位自体を内から外に向かって段階的に接着力を高めておくと共に、又はこれに代えて、前記外郭部位自体を内から外に向かって段階的(たとえば、2段階に)に接着力を高めておくこともできる。
【0059】
(加熱剤の第4の実施形態)
前記接着部位の接着力の程度、すなわち接着力の大きさを前記外郭部位と前記内郭部位とで異なるものとする前記第3の実施形態の例に代えて、前記接着部位全体の接着力の程度を一様なものとし、前記したと同様、前記外郭部位のみを、図2に示した例におけると同様、前記外郭部位の周囲を覆うコ字形横断面形状のプラスチック製のカバーにより、補強することができる。
【0060】
(第3の実施形態に係る加熱剤の製造方法)
前記接着部位を有する加熱剤の製造方法は、透水性の織布を調達する素材調達工程と、該素材調達工程で調達した織布を折り重ね、折り重ねにより生じた2枚の織布同士を接着剤で接着することにより、又は、2枚の織布同士を接着剤で接着することにより、前記発熱粉体を前記封入容器内に封入する容器形成工程とを含めてなる。なお、素材調達工程においては、前記織布を調達することに代えて、前記透水性の不織布を調達し、該不織布を用いて前記容器形成工程を行うことができる。
【0061】
前記容器形成工程において、前記織布を接着剤で接着することにより接着部位が形成される。前記接着部位は、比較的大きい接着力(P)をもって外郭に形成される外郭部位と、比較的小さい接着力(p)(<P)をもって前記外郭部位に隣接包囲された内郭に形成される内郭部位とによって構成してある。前記接着力(P)と前記接着力(p)とは、加水された前記発熱粉体の発熱によって発生した蒸気圧によって当該内郭部位が剥離可能、かつ、当該外郭部位の少なくとも一部が剥離不能であることによって当該封入容器内外を連通不能となるように設定してある。
【0062】
(加熱剤の第5の実施形態)
図5に他の例の加熱剤を全体に符号31で示す。加熱剤31にあっては、発熱粉体3を封入した封入容器33が、前記織布同士の接着ではなく、透水性の織布35とプラスチック製、木製等の耐熱性の封鎖部材37とを接着剤で接着することにより形成されている。封鎖部材37は、図示の例では板部材からなるが、織布35と協同して封鎖空間、すなわち発熱粉体3のための封入空間を形成しうるものであれば、その形状を問わない(図8参照)。この加熱剤31についても、前記織布に代えて、透水性の不織布を用いることができる。
【0063】
加熱剤31は、織布35と封鎖部材37とを接着剤で接着することによって形成された接着部位39を有する。接着部位39は平面で見て矩形、円形等の閉曲線に沿って伸びている。発熱粉体3は、前記閉曲線で囲まれた範囲において、織布35と封鎖部材37との間に封入され、織布35を通して、発熱粉体3への加水が行われる。
【0064】
接着部位39は、外郭に位置する外郭部位41と、該外郭部位に隣接包囲された内郭に位置する内郭部位43とによって構成してあり、外郭部位41の接着力が内郭部位43の接着力よりも強いもの(大きいもの)に設定されている。これにより、加水された発熱粉体3の発熱によって発生した水蒸気Vの圧力(蒸気圧)を受ける内郭部位43において織布35が封鎖部材37から剥離可能であり、かつ、外郭部位41における織布の少なくとも一部が封鎖部材37から剥離不能であることによって封入容器33内外を連通不能に構成してある。
【0065】
これによれば、織布35を押し広げようとする蒸気圧エネルギーの一部が内郭部位43の剥離すなわち内郭部位43における織布35の剥離のために消費される。これによって前記蒸気圧の低下が生じる。また、内郭部位43の剥離により、発熱粉体3の前記封入空間の容積が増大し、これによっても前記蒸気圧の低下が生じる。さらに、発生水蒸気の一部が前記織布を通して封入容器33外に流出し、さらに前記蒸気圧の低下が生じる。低下した蒸気圧は、内郭部位43に連なる外郭部位41に剥離力を及ぼすが、外郭部位41の全部を剥離するのに充分な大きさではない。この結果、外郭部位41の少なくとも一部が剥離されずに残り、封入容器33内外の連通、すなわち封入容器33の破れが防止される。
【0066】
(加熱剤の第6の実施形態)
接着部位39を接着力の大きさの異なる外郭部位41と内郭部位43とで構成する図5に示す例に代えて、接着部位全体の接着力を、たとえば内郭部位における接着力と同じ大きさのものとし、外郭部位のみを補強したものとすることができる(図示せず)。外郭部位の補強は、図2に示す例におけると同様、外郭部位にその周囲を覆うコ字形断面のプラスチック製のカバー(図示せず)を前記外郭部位に固定することにより行うことができる。
【0067】
これによれば、加水された発熱粉体の発熱に伴って織布が蒸気圧を受けて膨らむとき、内郭部位が剥離力を受けて剥離する。しかし、外郭部位は前記カバーによる補強のために剥離せず、これにより封入容器の破れが防止される。なお、この例においても、前記織布に代えて、透水性の不織布を用いることができる。
【0068】
(加熱機能付き食品容器の実施の形態)
図6及び図7を参照すると、本発明に係る加熱機能付き食品容器が全体に符号45で示されている。食品容器45はプラスチック製、木製、紙製等の箱状の本体47と、その蓋49とを備える。本体47は、複数の食品を盛り付けるための上方に開放する複数の区画51を有する。複数の区画51は、本体47を蓋49で覆ったとき、これらの上方空間において互いに連通する。
【0069】
食品容器45の区画51の一つに、すなわち食品が配置される空間と同一の空間に、図1に示す加熱剤1が配置されている。これによれば、たとえば、食品容器45の本体47内の加熱剤1に水をかけ、本体47を蓋49で覆うと、加熱剤1から発生した加熱水蒸気が区画51の上方空間を伝って他の区画51に周り込み、各区画51の食品を加温又は加熱する働きをなす。
【0070】
本体47内に配置される加熱剤は、前記第1の実施形態に係る加熱剤1のほか、前記第2〜6の実施形態に係る加熱剤とすることができる。ただし、図5に示す第5の実施形態に係る加熱剤31は、他の実施形態に係る加熱剤と異なり、食品容器の本体47の一部を構成要件とする。すなわち、図8に示すように、加熱剤31の耐熱封鎖部材が、食品容器の本体47の区画51(一区画51)を規定する周側壁53及びこれに連なる底壁55により構成されている。加熱剤31の織布35は、一区画51の開放上端を覆うように配置され、かつ、その周側壁53の開放上端部に接着され、これにより接着部位39(外郭部位41及び内郭部位43)が形成されている。一区画51の周側壁53及び底壁55と織布35とに囲まれた空間に発熱粉体3が封入されている。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第1の実施形態に係る加熱剤の斜視図である。
【図2】第2の実施形態に係る加熱剤の部分縦断面図である。
【図3】(a)は第1の実施形態に係る加熱剤の熱融着部位を形成している状態の加熱シーラーを示す概略図であり、(b)は熱融着部位を形成した後の状態の加熱シーラーを示す概略図である。
【図4】(a)は熱伝達抑制層が設けられた加熱シーラーと、熱融着部位が形成される織布又は不織布の周縁部とを示すこれらの部分断面図であり、(b)は熱融着部位が形成された加熱剤の部分縦断面図である。
【図5】第5の実施形態に係る加熱剤の縦断面図である。
【図6】食品容器の分解斜視図である。
【図7】食品容器の斜視図である。
【図8】食品容器に適用された加熱剤の縦断面図である。
【図9】矩形の四辺に沿った熱融着部位を有する封入容器を備える加熱剤の斜視図である。
【符号の説明】
【0072】
1,21,31 加熱剤
3 発熱粉体
5,33 封入容器
7 熱融着部位
9,11 織布
13 外郭部位
15 内郭部位
14 カバー
16 織布
17,19 加熱シーラー
20 送りローラ
23,25 織布
27 熱伝達抑制層
35 織布
37 耐熱封鎖部材
39 接着部位
41 外郭部位
43 内郭部位
45 加熱機能付き食品容器
47 本体
49 蓋
51 区画(一区画)
53 周側壁
55 底壁
E 防湿袋
P,p 接着力
T,t 温度
V 水蒸気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水によって発熱可能な発熱粉体と、
発熱粉体を封入した封入容器と、を含めて構成してあり、
当該封入容器が、熱融着性繊維を含む透水性の織布又は不織布によって構成してあり、
当該織布又は不織布同士を熱融着することによって形成された熱融着部位が、外郭に位置する外郭部位と、当該外郭部位に隣接包囲された内郭に位置する内郭部位と、によって構成してあり、
加水発熱粉体の発熱によって発生した蒸気圧によって当該内郭部位が剥離可能、かつ、当該外郭部位の少なくとも一部が剥離不能であることによって当該封入容器内外を連通不能に構成してある
ことを特徴とする加熱剤。
【請求項2】
前記外郭部位の融着力が前記内郭部位の融着力よりも強く設定してある、又は、前記外郭部位のみを補強してある
ことを特徴とする請求項1記載の加熱剤。
【請求項3】
前記熱融着性繊維には、ポリエステル繊維を含めてある
ことを特徴とする請求項1又は2記載の加熱剤。
【請求項4】
前記織布が、1平方インチ当たり300乃至1200本のポリエステル繊維糸によって構成してある
ことを特徴とする請求項1又は2記載の加熱剤。
【請求項5】
加水によって発熱可能な発熱粉体と、
発熱粉体を封入した封入容器と、を含めて構成してあり、
当該封入容器が、透水性の織布又は不織布によって構成してあり、
当該織布又は不織布同士を接着剤で接着することによって形成された接着部位が、外郭に位置する外郭部位と、当該外郭部位に隣接包囲された内郭に位置する内郭部位と、によって構成してあり、
加水発熱粉体の発熱によって発生した蒸気圧によって当該内郭部位が剥離可能、かつ、当該外郭部位の少なくとも一部が剥離不能であることによって当該封入容器内外を連通不能に構成してある
ことを特徴とする加熱剤。
【請求項6】
加水によって発熱可能な発熱粉体と、
発熱粉体を封入した封入容器と、を含めて構成してあり、
当該封入容器が、透水性の織布又は不織布と、耐熱封鎖部材と、によって構成してあり、
当該織布又は不織布と当該耐熱封鎖部材とを接着剤で接着することによって形成された接着部位が、外郭に位置する外郭部位と、当該外郭部位に隣接包囲された内郭に位置する内郭部位と、によって構成してあり、
加水発熱粉体の発熱によって発生した蒸気圧によって当該内郭部位が剥離可能、かつ、当該外郭部位の少なくとも一部が剥離不能であることによって当該封入容器内外を連通不能に構成してある
ことを特徴とする加熱剤。
【請求項7】
前記外郭部位の接着力が前記内郭部位の接着力よりも強く設定してある、又は、前記外郭部位のみを補強してある
ことを特徴とする請求項5又は6記載の加熱剤。
【請求項8】
前記発熱粉体が、粉体アルミニウム及び粉体生石灰を含めて構成してある
ことを特徴とする請求項1乃至7いずれか記載の加熱剤。
【請求項9】
加水によって発熱可能な発熱粉体と、
発熱粉体を封入した封入容器と、を含めて構成してある
加熱剤の製造方法において、
熱融着性繊維を含む透水性の織布又は不織布を調達する素材調達工程と、
当該素材調達工程で調達した織布又は不織布を折り重ね、折り重ねられた織布又は不織布同士を熱融着することにより、又は、織布又は不織布同士を熱融着することにより、発熱粉体を封入容器内に封入する容器形成工程と、を含めてなり、
織布又は不織布同士を熱融着することによって形成される熱融着部位が、温度Tの環境下で外郭に形成される外郭部位と、温度t(<T)の環境下で当該外郭部位に隣接包囲された内郭に形成される内郭部位と、によって構成してあり、
前記温度Tと温度tとが、加水発熱粉体の発熱によって発生した蒸気圧によって当該内郭部位が剥離可能、かつ、当該外郭部位の少なくとも一部が剥離不能であることによって当該封入容器内外を連通不能となるように設定してある
ことを特徴とする加熱剤の製造方法。
【請求項10】
前記熱融着部位が、対向する複数の加熱シーラーによって織布又は不織布同士を両側から押圧することによって形成され、
各対の加熱シーラーの一方又は双方と熱融着によって内郭部位となる部位との間には、押圧の際に熱伝達抑制層が介在される
ことを特徴とする請求項9記載の加熱剤の製造方法。
【請求項11】
前記熱伝達抑制層が、ポリテトラフルオロエチレン製のシートによって構成される
ことを特徴とする請求項10記載の加熱剤の製造方法。
【請求項12】
加水によって発熱可能な発熱粉体と、
発熱粉体を封入した封入容器と、を含めて構成してある
加熱剤の製造方法において、
透水性の織布又は不織布を調達する素材調達工程と、
当該素材調達工程で調達した織布又は不織布を折り重ね、折り重ねられた織布又は不織布同士を接着剤で接着することにより、又は、織布又は不織布同士を接着剤で接着することにより、発熱粉体を封入容器内に封入する容器形成工程と、を含めてなり、
織布又は不織布同士を接着剤で接着することによって形成される接着部位が、接着力Pをもって外郭に形成される外郭部位と、接着力p(<P)をもって当該外郭部位に隣接包囲された内郭に形成される内郭部位と、によって構成してあり、
前記接着力Pと接着力pとが、加水発熱粉体の発熱によって発生した蒸気圧によって当該内郭部位が剥離可能、かつ、当該外郭部位の少なくとも一部が剥離不能であることによって当該封入容器内外を連通不能となるように設定してある
ことを特徴とする加熱剤の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至8いずれか記載の加熱剤を、食品が配置される空間と同一の空間内に配してある
ことを特徴とする加熱機能付き食品容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−138908(P2008−138908A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323829(P2006−323829)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(505339184)
【Fターム(参考)】