説明

加熱剥離型粘着シート

【課題】初期粘着力、加熱後の自己剥離及びカット精度に優れた加熱剥離型粘着シートを提供する。
【解決手段】シート基材1の片面又は両面に粘着剤組成物層2を有したものとしており、前記粘着剤組成物層2は、前記シート基材1側から、一層目2aが粘着性高分子、熱膨張性微粒子及び架橋剤を主成分とする樹脂層で形成され、二層目2bが低極性樹脂層で形成されていることを特徴とする加熱剥離型粘着シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックグリーンシートなどの極性の高い被着体に貼付けた後、短時間での加熱処理により、その被着体から容易に剥離することができる加熱剥離型粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被着体に貼り付けた後、加熱前は剥離不可能な粘着シートとして、加熱後は粘着剤層中に入っている熱膨張性微粒子が膨張し、被着体との接触面積を減少させ、容易に被着体から剥離することが可能な加熱剥離型粘着シートが提案されている。
【0003】
このような加熱剥離型粘着シートとしては、例えば、基材の片面又は両面に、熱膨張性微粒子含有の粘着剤層を有してなり、この熱膨張性微粒子は平均粒径18μm以上で、その90%以上が粒径10μm以上にしたものが存在する(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3810911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の加熱剥離型粘着シートは、極性の高い被着体に対して、被着体を切断した後の剥離要求時に、被着体から剥離し難くなることがあり、その改善が望まれていた。
【0006】
上記従来の加熱剥離型粘着シートでは、使用している熱膨張性微粒子の粒径が大きいため、粘着剤層の厚みは必然的に厚くなる。しかしながら、厚みを厚くすることで、特に積層セラミックコンデンサーや積層チップインダクター等のセラミックグリーンシートのカット時、小片化においてカット精度が落ち、歩留まりの低下を招いていたので、このような課題の解決を図るための材料、プロセスの開発が強く望まれていた。
【0007】
そこで本発明は、上記従来の加熱剥離型粘着シートの課題を解決すると共に、初期粘着力、加熱後の自己剥離及びカット精度に優れた加熱剥離型粘着シートを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の加熱剥離型粘着シートは、シート基材の片面又は両面に粘着剤組成物層を有したものとしており、前記粘着剤組成物層は、前記シート基材側から、一層目が粘着性高分子、熱膨張性微粒子及び架橋剤を主成分とする樹脂層で形成され、二層目が低極性樹脂層で形成されている。
【0009】
本発明では、前記粘着剤組成物層は、前記一層目の樹脂層表面に前記二層目の低極性樹脂層を点在させたものとしている。
【0010】
本発明では、前記粘着剤組成物層は、前記一層目の樹脂層表面に前記二層目の低極性樹脂層をまだら状に被覆したものとしている。
【0011】
本発明では、前記粘着剤組成物層は、厚みが5〜100μmであるものとしている。
【0012】
本発明では、前記熱膨張性微粒子は、平均粒径が18μmより小さいものとしている。
【0013】
本発明では、前記低極性樹脂層は、厚みが0.01〜50μmであるものとしている。
【0014】
本発明では、前記低極性樹脂層は、接触角を97.5°以上にしたものとしている。
【0015】
本発明では、前記低極性樹脂層は、オレフィン系樹脂及び界面活性剤を主成分としたものとしている。
【0016】
本発明では、前記低極性樹脂層は、前記オレフィン系樹脂が粒子状態になっており、その粒子の平均粒径が0.01〜10μmであるものとしている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の加熱剥離型粘着シートは、以上のように構成されているので、粘着剤が被着体に残ることがないものとなり、しかも初期粘着力、保存(保管)寿命、及び加熱後の易剥離性に優れたものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の加熱剥離型粘着シートの一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の加熱剥離型粘着シートの粘着剤組成物層の一層目を二層目が被覆している状態を示す顕微鏡写真(400倍)である。
【図3】本発明の加熱剥離型粘着シートの粘着剤組成物層の一層目を二層目が被覆している状態を示す顕微鏡写真(1000倍)である。
【図4】本発明の加熱剥離型粘着シートの加熱剥離状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の加熱剥離型粘着シートを実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
【0020】
本発明の加熱剥離型粘着シートは、図1に示したように、シート基材1の片面又は両面(図示したものでは片面)に粘着剤組成物層2を有したものとしており、この粘着剤組成物層2の表面には必要に応じてセパレータ3が設けられている。
【0021】
前記粘着剤組成物層2は、前記シート基材1側から、一層目2aが粘着性高分子、熱膨張性微粒子及び架橋剤を主成分とする樹脂層で形成され、二層目2bが低極性樹脂層で形成されている。このように、一層目に熱膨張性微粒子を含有し、二層目が低極性樹脂層を形成するものは、今までに存在しなかった。
【0022】
このようにした本発明の加熱剥離型粘着シートは、剥離要求時には加熱することにより、一層目2aの熱膨張性微粒子が膨張することで、二層目2bの低極性樹脂層諸共、押し上げることで凹凸を発生させ、被着体から剥離し易くするものとしている。
【0023】
本発明において、シート基材は、ポリエステルフィルム等のプラスチックフィルム、織布、不織布、紙、金属箔、発泡シートなどが使用され、形状は帯状とするなど任意であり、厚さは5〜500μmにしているが、10〜200μmにするのが好ましく、10〜100μmにするのがより好ましい。この場合、前記シート基材の厚さが、5μmよりも小さく、500μmより大きくても特性上問題は無いが、粘着シートの作成プロセス上、好ましくない。
【0024】
本発明において、粘着性高分子体は、メタクリル系又はアクリル系粘着性高分子体からなり、これらの重量平均分子量は、10万〜200万としているが、50万〜150万とするのが好ましく、100万〜150万とするのがより好ましい。前記粘着性高分子体の重量平均分子量が10万より小さいと、加熱後粘着剤の糊残りが発生するため好ましくなく、粘着性高分子体の重量平均分子量が200万を超えると、アクリル酸系及びメタクリル酸系粘着剤は粘着シートの特性上特に問題は無いが、粘着剤を量産的に製造することは難しく好ましくない。アクリル系粘着性高分子体の主成分は、通常、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と極性基含有単量体との共重合体、例えば、アクリル酸2−エチルヘキシルとアクリル酸との共重合体、アクリル酸イソオクチルとメタクリル酸2−ヒドロキシエチルとの共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシルとアクリル酸とメタクリル酸2−ヒドロキシエチルとの三元共重合体等が使用されるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0025】
本発明における熱膨張性微粒子は、芯物質を外殻物質のポリマーで内封したもので、温度を上げると内封された物質がガス化し、マイクロカプセル自身が風船玉の如く膨れ上がる。外殻物質としては、無機物と有機物とに区別され、その代表的なものは、ガラス、シリカ、シラス、カーボン、フェノール、塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化ビニリデン・アクリロニトリルコポリマー、アルミナ、ジリコニアなどがある。内封された芯物質としては、例えばイソブタン、プロパン等の炭化水素があり、又は重炭酸ソーダ、アゾビスイソブチロニトリル、炭酸アンモニウム等の発泡剤を使用しても良い。膨張開始温度については、外殻物質と芯物質の組み合わせを変えることにより調節できる。これらの熱膨張性微粒子の粒径は1〜100μmの範囲が好ましく、特に5〜50μmの範囲が適している。なお、膨張開始温度は50〜175℃の範囲が適しており、特に70〜120℃の範囲が適している。
【0026】
前記粘着剤組成物は、通常、アクリル樹脂などに使用されるロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油樹脂等の粘着性付与剤を添加しても良い。
【0027】
さらに、前記粘着剤組成物には、増粘剤、チキソトロピー剤、充填剤等の通常使用される配合剤を添加しても良い。前記増粘剤としては、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム等が挙げられ、前記チキソトロピー剤としては、超微粉シリカ(日本アエロジル社製のアエロジル300など)等が挙げられる。前記充填剤としては、炭酸カルシウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素、αーアルミナ、水和アルミナ等の無機粒子、ナイロンビーズ、アクリルビーズ、シリコーンビーズ等の有機粒子、塩化ビニリデンバルーン等の有機中空粒子、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、ガラス等の有機又は無機系短繊維等が挙げられる。これらは、粘着シートの応力緩和性などの機械的特性等を改善するために加えられ、性能を阻害しない範囲で使用される。
【0028】
前記粘着剤組成物は、液状であり、ロールコーターやダイコーターなどによりシート基材上に塗工され、加熱乾燥して、5〜100μm厚に粘着剤組成物層を形成しているが、5〜50μm厚とするのが好ましく、10〜50μm厚とするのがより好ましい。この場合、前記粘着剤組成物層の厚さが、5μmよりも小さいと、初期で十分な粘着力を得ることが認められず、また、前記粘着剤組成物層の厚さが、100μmよりも大きいと、特性上、特に問題はないが、粘着シートの作製プロセス上、好ましくない。
【0029】
本発明において、架橋剤は、一般にアクリル系粘着剤の架橋剤として使用されるイソシアネート化合物系架橋剤、エポキシ化合物系架橋剤、アルミキレート化合物系架橋剤等が使用される。例えば、綜研化学社より販売されているポリイソシアネート架橋剤(商品名:L−45など)、エポキシ化合物系架橋剤(商品名:E−AXなど)、アルミキレート化合物系架橋剤(商品名:M−5Aなど)等が使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0030】
本発明において、低極性樹脂層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、イソプレン系樹脂等のオレフィン系樹脂と界面活性剤を主成分としたものとしている。この低極性樹脂層の厚みは0.01〜50μmにするのが好ましく、0.1〜5μmにするのがより好ましい。この場合、前記低極性樹脂層の厚さが、0.01μmよりも小さいと、初期の粘着性は発現するが、高極性の被着体と一体化せず、加熱後自然に剥離する機能が発現しない、また、50μmより大きいと、加熱後自然に剥離する機能は発現するが、初期の粘着性が発現しないので好ましくない。粘着性を上げるために、低極性樹脂層にタッキファイヤー等の粘着付与剤を、全体の30%以下であれば入れても構わない。
【0031】
前記低極性樹脂層を形成する樹脂としては、オレフィン系樹脂よりもさらに極性の低いフッ素系樹脂等が考えられる。しかし、オレフィン系樹脂以外では、樹脂−粘着剤系の引き剥がし時の滑り性が悪く、引き剥がし試験等の結果から、剥離要求時には自己剥離性に劣るという結論を得た。そこで、本発明における低極性樹脂としては、極性的に最も低いものではないが、ある程度の極性の低さと樹脂自体の滑り性を有し、剥離要求時に加熱して自己剥離性のある材質であるオレフィン系樹脂が最も適していることを見出した。さらに、本発明の低極性樹脂としてのオレフィン系樹脂には、界面活性剤も入っており、この界面活性剤の滑り性も加味され、より滑り性が上がり自己剥離性の高い構造となっている。
【0032】
前記低極性樹脂層は、接触角で97.5°以上にするのが好ましく、100°以上にするのがより好ましく、105°以上とするのがさらに好ましい。
【0033】
本発明の加熱剥離型粘着シートは、自己剥離性と密着力との両方の機能を満たすために、下記の様な特性を持つ。
【0034】
被着体表面、例えばグリーンシート表面と一層目表面とは非常に極性値が近いことから、加熱することで双方共、柔らかくなり密着性が高まることで接着の方向に働く。しかし、本発明では、二層目があることで粘着剤組成物層表面と被着体表面は加熱時も密着性が高まらず、剥離する方向に働く。そして、二層目があることで、粘着性と剥離性の両方の機能を満たす構造を取っている。被着体に貼り付け後、加熱試験を行うと二層目の成分の一部が被着体側に転写する。転写することで粘着剤組成物層と被着体の一体化を防ぎ剥離可能にする。
【0035】
本発明では、常温で密着性が必要な時、一層目の樹脂が二層目の樹脂の間から被着体と接触して粘着性を発現させる。加熱時の第一段階では、熱膨張性微粒子が膨らむと同時に、二層目の樹脂が上に盛り上がる。加熱時の第二段階では、さらに熱膨張性微粒子が膨らみ二層目の樹脂が膨らんだ熱膨張性微粒子の両サイドに滑り落ちるように動く。二層目の樹脂が動くことで一層目の樹脂と被着体との密着性を低下させることができる。
【0036】
本発明において、熱膨張性微粒子は平均粒径が18μmより小さいものを含有させることで、粘着剤組成物層の厚みを下げることができる。被着体カットの際、粘着剤組成物層が厚いとカット精度が落ち、歩留まりを低下させてしまう。熱膨張性微粒子の平均粒径を小さくすることで、粘着剤組成物層の厚みを薄くしカット精度を向上させることができる(粘着剤組成物層が厚いと切断時、切断による振動が大きくなりカット精度が落ちる)。
【0037】
本発明では、極性の異なる樹脂を二層重ねることで初期での被着体との密着性と加熱後の自己剥離性という相反する機能を満たすに至った。二層目の樹脂で一層目の樹脂の全体を被覆してもよい。しかし、二層目の樹脂で一層目の樹脂の全体を被覆すると自己剥離性は上がるが、被着体との間が詰まってしまい粘着力が低下してしまう。被着体との間が余り過ぎると逆に粘着性は発現するが自己剥離性は低下してしまう。二層目の樹脂は、一層目の樹脂を、0.5〜99%の面積率で被覆しているのが好ましく、10〜50%の面積率で被覆しているのがより好ましく、10〜30%の面積率で被覆しているのがさらに好ましい状態で、粘着力と自己剥離性の両方の機能を満たすものとなる。
【0038】
本発明において、熱膨張性微粒子の平均粒径を10μm前後にすると、一層目の熱膨張性微粒子間に多くの粘着性高分子が存在する。加熱時、熱膨張性微粒子が膨らんでいくと、その部分が被着体と密着し自己剥離を妨げる。しかし、二層目の低極性樹脂層が存在することで熱膨張性微粒子間の粘着性高分子と被着体との密着性を防ぎ、自己剥離し易くしている。
【0039】
すなわち、本発明では、一層目の樹脂層表面に二層目の低極性樹脂層を点在させることで、初期の状態で粘着シートと被着体との間に隙間が存在する。隙間が存在することで一層目の熱膨張性微粒子が膨張すると隙間部分がきっかけとなり、剥離が促進させ自然剥離し易くなる。二層目が無く、一層目だけでは隙間が無いため、きっかけとなる部分が無く、剥離させるためには熱膨張性微粒子が大きく膨らむ必要がある。そのためには、初期の熱膨張性微粒子は比較的大きな粒径が必要となるが、熱膨張性微粒子を大きなものにするとカット精度が落ちるため、カットできるチップインダクター等の大きさは限られてくる。
【0040】
しかしながら、従来では、熱膨張性微粒子は平均粒径20〜40μmのタイプを使っていた。この平均粒径20〜40μmのタイプを使うことで、加熱後の厚みが200〜400μmになり、被着体を引き離す力が大きくなることで自己剥離し易くなる。このように、熱膨張性微粒子は平均粒径20〜40μmのタイプを使うことで粘着剤組成物層の厚みは50μm以上必要になる。粘着剤組成物層の厚みが厚いとカットする際、カットの精度が下がり、歩留まりが低下する。
【0041】
本発明では、一層目の熱膨張性微粒子について、前記したように平均粒径10μm前後のものを使うことで、粘着剤組成物層の厚みを下げることができ、前記カット精度を上げることができる。
【0042】
さらに、本発明では、熱膨張性微粒子の粒径が小さいことで、加熱後の熱膨張性微粒子は50〜100μm前後の粒径にしかならず、被着体を引き離す力が小さいので、自己剥離性は弱い。そこで、二層目に被着体とは極性の低い樹脂をコートすることで、自己剥離性を上げる構造としている。すなわち、本発明では、一層目の粒径の小さい熱膨張性微粒子と、二層目の被着体より低極性の樹脂の双方で、初期の密着性と自己剥離性を併せ持つようにしている。
【0043】
この場合、二層目の低極性樹脂の粒径について、この低極性樹脂の粒径が大き過ぎると一層目の粘着性が発現せず初期の粘着性が無くなり、逆に小さ過ぎると二層目の機能が低下し、自己剥離性が落ちるので、二層目の低極性樹脂は、平均粒径を0.01〜10μmとするのが好ましく、0.1〜5.0μmとするのがより好ましく、0.2〜3.0μmとするのがさらに好ましい。
【0044】
また、本発明では、一層目の熱膨張性微粒子の配合量について、少な過ぎると被着体を引き剥がす力が弱いので、自己剥離しなくなり、多過ぎると粘着剤と一体化してしまい、剥離型粘着シートとしての機能をなさない。したがって、熱膨張性微粒子の一層目の樹脂内の配合率は、2.5〜50wt%とするのが好ましく、10〜40wt%とするのがより好ましく、10〜30wt%とするのがさらに好ましい。
【0045】
次に、本発明の加熱剥離型粘着シートの厚みと、セラミックグリーンシートなど極性の高い被着体のカット精度の関係について、詳細に説明する。
【0046】
グリーンシートをカットしてチップにする場合、チップ自体の大きさは1.0mm以下で非常に小さくするため、カットの際の精度が非常に重要になる。
【0047】
しかし、粘着剤組成物層の厚みが厚いとカットの際、強い力が掛かるため、粘着剤自体が振動する。この振動が収まる前に、次のカットをすると設定通りのカット幅にならずカット精度が落ちる。そこで、粘着剤の厚みを薄くすると、振動が小さくなりカットの精度が上がることになる。
【0048】
そこで、本発明は、上記したように、粘着剤組成物層の一層目の熱膨張性微粒子の粒径を小さいものとし、二層目を被着体と極性の離れた低極性の樹脂層として、双方の構造で初期の密着性、自己剥離性及びカット精度高い機能を持った加熱剥離型粘着シートとしている。
【0049】
本発明において、低極性樹脂層が無い状態で加熱剥離試験を行うと、粘着剤組成物層自体、極性が高いために、被着体の極性が高いと熱膨張性微粒子の膨張前に粘着剤組成物層と被着体が一体化してしまい、剥離にまで至らない。そこで、低極性樹脂層が存在すると、粘着剤組成物層と極性の高い被着体とが一体化することを防ぎ、剥離可能な状態にする。そして、低極性樹脂層が存在する状態での初期の粘着力に関して、この低極性樹脂層の厚みを薄くすることで、一層目の樹脂層の柔らかさが発現し、十分な粘着力が発現する。低極性樹脂層はバリア機能を備えた層でもあり、粘着機能を備えた層でもあって、双方の機能を兼ね備えた層であるが、低極性樹脂層だけでは粘着機能が低いため、一層目の樹脂層の粘着性高分子でカバーしている。
【0050】
本発明において、二層目の低極性樹脂層は、上記したように一層目の樹脂層の全体を被覆したものではなく、この低極性樹脂層が点在し、所々に一層目の樹脂層が見え隠れしている。初期の状態(熱をかけない状態)で、一層目の樹脂層から粘着性高分子がしみ出した状態で粘着力を発現させる。なお、低極性樹脂層自体にも粘着性があるので、この低極性樹脂層によっても、粘着力が発現している。加熱した際は、低極性樹脂層が、極性の高い被着体に対して、一体化しないためのバリア機能を備えた層となる。その後、一層目の樹脂層中に含まれる熱膨張性微粒子が膨らんで、被着体との接触面積を低下させることで容易に被着体から剥離することができる。
【0051】
すなわち、本発明では、図2に示したように、二層目の低極性樹脂層は、一層目の樹脂層の表面に自己組織的にまだら状に被覆されている。一層目の樹脂層を全て被覆するのではなく、全てむき出しにしているわけでもない。ある部分は一層目の樹脂層が表面に出て、ある部分は二層目の低極性樹脂層が被覆されている。二層目の低極性樹脂層の被覆状態としては、顕微鏡写真(1000倍の倍率)で確認した時に、図3に示したように、縦約210μm×横約275μmに、縦横5.56μmの幅で線を引いて合計1900個の升目を作成し、升目の空いた部分(一層目がむき出しになった部分)が10〜1800個とするのが好ましく、30〜1500個とするのがより好ましく、50〜1250個とするのがさらに好ましい。また、二層目の低極性樹脂層は、一つあたりの大きさが升目500個以下であることが望ましい。
【0052】
本発明において、二層目の低極性樹脂層は、滑り性を上げるために界面活性剤が配合されており、加熱時の剥離要求時に一層目の熱膨張性微粒子が膨らむと、この低極性樹脂層が密着するのを妨げ、尚且つ界面活性剤の滑り性のために、被着体との界面間に膨らみと滑りの二つの機能を発生させ、自己剥離させることができる。前記界面活性剤の低極性樹脂層内の配合率としては、10〜75wt%にするのが好ましく、10〜50wt%にするのがより好ましく、10〜40wt%とするのがさらに好ましい。
【0053】
さらに、本発明において、二層目の低極性樹脂原料は、オレフィン系の樹脂で粒子状態になっており、コロイド的な分散状態になっている。塗布したのち、一層目の樹脂層表面に粒子径が小さく分散した状態で被覆することができる。界面活性剤は、一層目の樹脂層との相溶性と被着体との滑り性を上げるために使用している。オレフィン系樹脂は、低極性であるが、樹脂自体の滑り性を加味していることから自己剥離性がある。さらに、界面活性剤を配合していることで、滑り性を向上させている。
【0054】
次に、本発明の加熱剥離型粘着シートにおける二層目の低極性樹脂層と被着体との粘着性と剥離性の両機能の発現状態について、詳細に説明する。
【0055】
初期の状態(加熱前の常温)では、図4(a)に示したように、一層目2aの樹脂が被着体Wと密着し、粘着性を発現させている(二層目2bの低極性樹脂は粘着性の強弱を調整する役割をしている)。
【0056】
加熱直後においては、図4(b)に示したように、加熱することで、一層目2aの樹脂中の熱膨張性微粒子pが膨らみ始める。熱膨張張性微粒子pが膨らむために、それにつられて被着体Wと一層目2aの樹脂との界面において上方向と下方向の両方に引っ張られる力が発生する。二層目2bの低極性樹脂は上下に引っ張られ易い状態にある。一層目2aの樹脂と被着体Wは熱により軟化して、密着し合い接着の方向に働こうとする(双方共似た成分なので)。しかし、相反する性質の二層目2bの低極性樹脂があるために、被着体Wと一層目2aの樹脂との密着性を防ぐ役割をする。
【0057】
加熱終了後、一層目2aの樹脂中の熱膨張性微粒子pの被着体Wを押し上げる力は小さいが、相反する性質の二層目2bの低極性樹脂があるため、図4(c)に示したように、容易に自己剥離することが可能である。すなわち、一層目2aの樹脂中の熱膨張性微粒子pは粒径が小さいために、膨らんだ後、被着体Wを押しのけるだけの力が無いが、二層目2bの低極性樹脂があるため、この低極性樹脂に助けられて自己剥離することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の加熱剥離型粘着シートを、実施例によって具体的に説明する。
【0059】
〔実施例1〜4、比較例1、2〕
表1に示したように、ポリエチレンテレフタレート(PET)をシート基材とし、粘着性高分子、熱膨張性微粒子及び架橋剤を配合した樹脂で一層目の樹脂層を形成し、非晶性ポロプロピレンで二層目の低極性樹脂層を形成した本発明の加熱剥離型粘着シートを作成した。比較例とした加熱剥離型粘着シートは、表2に示したように本発明の加熱剥離型粘着シートの二層目の低極性樹脂層が無いものとした。
【0060】
上記実施例1〜4及び比較例1、2の加熱剥離型粘着シートを用いて加熱剥離を行い、これら加熱剥離型粘着シートのチップ保持率、自己剥離性、カット精度等についての測定を行った。試験条件、試験方法は、以下の通りであり、試験結果は表3に示す。
【0061】
試験条件
加熱温度×時間 150℃×30sec
(実施例4と比較例2は120℃×30sec)
チップの大きさ 1mm×1mm
【0062】
試験方法
1mm×1mmのチップを10個、粘着面に貼り付け、常温でのチップの落下を確認する。その後、150℃×30secの加熱試験を行い、チップが全て剥離可能かを確認する。
【0063】
チップ保持率:常温においてチップの落下しない個数を確認する。チップが全て落下しなければ 10/10
【0064】
自己剥離性:150℃×30secの加熱試験を行い、チップの落下個数を確認する。チップが全て落下すれば 10/10
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
表3に示す通り、実施例1〜4においては、自己剥離性を有し、カット精度も良好か普通であったが、比較例1、2においては、自己剥離性を有さず、カット精度も不良であった。
【符号の説明】
【0069】
1 シート基材
2 粘着剤組成物層
2a 一層目
2b 二層目


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート基材の片面又は両面に粘着剤組成物層を有したものとしており、前記粘着剤組成物層は、前記シート基材側から、一層目が粘着性高分子、熱膨張性微粒子及び架橋剤を主成分とする層で形成され、二層目が低極性樹脂層で形成されていることを特徴とする加熱剥離型粘着シート。
【請求項2】
前記粘着剤組成物層は、前記一層目の樹脂層表面に前記二層目の低極性樹脂層を点在させたものとしている請求項1記載の加熱剥離型粘着シート。
【請求項3】
前記粘着剤組成物層は、前記一層目の樹脂層表面に前記二層目の低極性樹脂層をまだら状に被覆したものとしている請求項1記載の加熱剥離型粘着シート。
【請求項4】
前記粘着剤組成物層は、厚みが5〜100μmであるものとしている請求項1〜3の何れかに記載の加熱剥離型粘着シート。
【請求項5】
前記熱膨張性微粒子は、平均粒径が18μmより小さいものとしている請求項1〜4の何れかに記載の加熱剥離型粘着シート。
【請求項6】
前記低極性樹脂層は、接触角を97.5°以上にしたものとしている請求項1〜5の何れかに記載の加熱剥離型粘着シート。
【請求項7】
前記低極性樹脂層は、厚みが0.01〜50μmであるものとしている請求項1〜6の何れかに記載の加熱剥離型粘着シート。
【請求項8】
前記低極性樹脂層は、オレフィン系樹脂及び界面活性剤を主成分としたものとしている請求項1〜7の何れかに記載の加熱剥離型粘着シート。
【請求項9】
前記低極性樹脂層は、前記オレフィン系樹脂が粒子状態になっており、その粒子の平均粒径が0.01〜10μmであるものとしている請求項8記載の加熱剥離型粘着シート。


【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−184276(P2012−184276A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9291(P2011−9291)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(592182791)株式会社スミロン (10)
【Fターム(参考)】