説明

加熱方法及び間欠送り式トンネル炉、バッチ炉

【課題】被処理物が昇温する際の、被処理物の表面温度のばらつきを、ある一定の温度差に納めることができ、一定時間内に大量に加熱することができる、加熱方法及び間欠送り式トンネル炉、バッチ炉を提供する。
【解決手段】進行方向に対して複数に区画された炉室1jと、被処理物20を炉室1j間で間欠的に搬送する搬送手段と、この炉室1j内の炉内ガスを循環させて、この炉内ガスを炉室1jの両側方から炉室1j内に送風する送風手段4と、前記炉内ガスを加熱して熱風を生成する加熱手段7と、炉室1jの両側方から送風される熱風の送風量を制御する送風量制御手段6を有し、隣接する炉室1jの両側方から送風される熱風の送風量の比率を交互に変えるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物を均一に加熱することができる、熱風を用いた加熱方法及び間欠送り式トンネル炉、バッチ炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板等(以下被処理物とする)の加熱工程において、一枚当たりの加熱処理時間を短縮し、被処理物表面上の温度分布の均一化を図るため、被処理物を、台車に段積みに載せて、一方の側面から熱風が送風されるトンネル炉内を間欠的に搬送させて、被処理物を加熱していた。(この加熱装置を間欠送り式トンネル炉という)
【0003】
しかしながら、この方法では、被処理物表面の温度分布を十分に均一にすることができなかった。特に、熱風の給気側の面上温度に対して、熱風の排気側の面上温度が低くなり、この熱風の給気側と排気側の温度差は、時間をおいても変わらないという問題があった。
【0004】
そこで、特許文献1に示されるような、細かい回路割がなされた面状ヒータを用いた加熱装置が提案されている。しかしながら、太陽電池パネル等の大型の製品を製造する加熱ラインで加熱装置を使用する場合には、このような、細かい回路割がなされた面状ヒータを用いた加熱装置は、一枚毎の加熱になるため、一定時間内に加熱できる量が小さくなってしまいこの加熱装置で前記製品を製造した場合には、生産効率が悪いだけでなく、製品の製造コストが大変コスト高となってしまう。
【0005】
そこで、特許文献2〜特許文献4に示されるような、熱処理炉における加熱方法がある。これらの加熱方法は、熱風を炉室内で循環させる正逆運転可能な循環手段を有した熱処理炉を用い、前記循環手段の正逆運転により被処理物の両側から交互に熱風を供給して、加熱する方法である。しかしながら、このような加熱方法であってもなお、被処理物の表面温度分布を均一にさせることは難しいことから、被処理物が昇温する際の、被処理物の表面温度のばらつきを、ある一定の温度差に納めるのは困難であり、例えば太陽電池パネルの製造ラインに要求される性能を達成するのは難しかった。
【特許文献1】特開2004−79734号公報
【特許文献2】特許昭53−29281号公報
【特許文献3】特開2007−2300号公報
【特許文献4】特開2007−2301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
被処理物が昇温する際の、被処理物の表面温度のばらつきを、ある一定の温度差に納めることができ、製品の製造コストがコスト高にならずに、一定時間内に大量に加熱することができる、加熱方法及び間欠送り式トンネル炉、バッチ炉を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明は、進行方向に対して複数の炉室に区画された間欠送り式のトンネル炉に被処理物を搬入し、炉室の側方から炉室内に熱風を送風して、被処理物を加熱する加熱方法において、炉室の両側方から熱風を送風するとともに、隣接する炉室の両側方から送風される熱風の送風量の比率を交互に変えて、被処理物を加熱することを特徴とする。
【0008】
あるいは、バッチ炉に被処理物を収納して、バッチ炉の側方から炉室内に熱風を送風して、被処理物を加熱する加熱方法において、炉室の両側方から熱風を送風するとともに、所定時間経過後に両側方から送風される熱風の送風量の比率を交互に変えて、被処理物を加熱することを特徴とする。
【0009】
本発明の加熱方法を具現化する間欠送り式トンネル炉は、進行方向に対して複数に区画された炉室と、被処理物を炉室間で間欠的に搬送する搬送手段と、この炉室内の炉内ガスを循環させて、この炉内ガスを炉室の両側方から炉室内に送風する送風手段と、前記炉内ガスを加熱して熱風を生成する加熱手段と、前記炉室の両側方から送風される熱風の送風量を制御する送風量制御手段を有し、隣接する炉室の両側方から送風される熱風の送風量の比率を交互に変えるように構成したことを特徴とする。
【0010】
あるいは、本発明の加熱方法を具現化するバッチ炉は、被処理物が収納される炉室と、この炉室内の炉内ガスを循環させて、この炉内ガスを炉室の両側方から炉室内に送風する送風手段と、前記炉内ガスを加熱して熱風を生成する加熱手段と、前記炉室の両側方から送風される熱風の送風量を制御する送風量制御手段を有し、所定時間経過後に炉室の両側方から送風される熱風の送風量の比率を交互に変えるように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
進行方向に対して複数の炉室に区画された間欠送り式のトンネル炉に被処理物を搬入し、炉室の側方から炉室内に熱風を送風して、被処理物を加熱する加熱方法において、炉室の両側方から熱風を送風するとともに、隣接する炉室の両側方から送風される熱風の送風量の比率を交互に変えて、被処理物を加熱することとしたので、処理物が昇温する際の、被処理物の表面温度のばらつきを、ある一定の温度差に納めることができ、製品の製造コストがコスト高にならずに、一定時間内に大量に加熱することができる加熱方法を提供することが可能となる。
【0012】
あるいは、バッチ炉に被処理物を収納して、バッチ炉の側方から炉室内に熱風を送風して、被処理物を加熱する加熱方法において、炉室の両側方から熱風を送風するとともに、所定時間経過後に両側方から送風される熱風の送風量の比率を交互に変えて、被処理物を加熱することとしたので、処理物が昇温する際の、被処理物の表面温度のばらつきを、ある一定の温度差に納めることができ、製品の製造コストがコスト高にならずに、一定時間内に大量に加熱することができる加熱方法を提供することが可能となる。
【0013】
本発明の加熱方法を具現化する間欠送り式トンネル炉は、進行方向に対して複数に区画された炉室と、被処理物を炉室間で間欠的に搬送する搬送手段と、この炉室内の炉内ガスを循環させて、この炉内ガスを炉室の両側方から炉室内に送風する送風手段と、前記炉内ガスを加熱して熱風を生成する加熱手段と、前記炉室の両側方から送風される熱風の送風量を制御する送風量制御手段を有し、隣接する炉室の両側方から送風される熱風の送風量の比率を交互に変えるように構成したので、処理物が昇温する際の、被処理物の表面温度のばらつきを、ある一定の温度差に納めることができ、製品の製造コストがコスト高にならずに、一定時間内に大量に加熱することができる間欠送り式トンネル炉を提供することが可能となる。
【0014】
あるいは、本発明の加熱方法を具現化するバッチ炉は、被処理物が収納される炉室と、この炉室内の炉内ガスを循環させて、この炉内ガスを炉室の両側方から炉室内に送風する送風手段と、前記炉内ガスを加熱して熱風を生成する加熱手段と、前記炉室の両側方から送風される熱風の送風量を制御する送風量制御手段を有し、所定時間経過後に炉室の両側方から送風される熱風の送風量の比率を交互に変えるように構成したので、処理物が昇温する際の、被処理物の表面温度のばらつきを、ある一定の温度差に納めることができ、製品の製造コストがコスト高にならずに、一定時間内に大量に加熱することができるバッチ炉を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。
図1は本発明の実施の形態を示す間欠送り式トンネル炉の全体図であり、図2は図1のA−A断面図である。図1において、1はトンネル炉である。このトンネル炉1は、前方から、入口室1a、加熱室1b、出口室1cから構成され、加熱室1bは複数の炉室1eから構成されている。入口室1aと加熱室1b間及び、加熱室1bの各炉室1e間、加熱室1b及び出口室1c間には上下に開閉するシャッター2が設けられ、このシャッター2によりそれぞれのゾーンが仕切られている。このように、各炉室1eの前後にシャッター2を設けたので、各炉室1eの温度制御をすることが可能となる。
【0016】
3は台車であり、トンネル炉1内を、プッシャー(搬送手段)等により間欠的に搬送されるようになっている。この台車3は、図2に示されるように、所定の間隔をおいて、ガラス基板等の被処理物20を段積みに搭載することができるようになっている。なお、台車3が、トンネル炉1内を移動する際には、シャッター2が開き、台車3の移動が終了すると、シャッター2が閉じるようになっている。
【0017】
図2に示されるように、入口室1aとそれぞれ炉室1e(以下炉室1jとする)の両側方には、チャンバー1fが設けられている。図1や図2に示されるように、炉室1jの天井には、ファン4(送風手段)が設けられ、炉室1j内の炉内ガスを、炉室1jの天井部分から吸引するようになっている。炉室1jの天井には、ファン4とチャンバー1fとを接続する配管5が設けられている。
【0018】
配管5には、風量調節用ダンパー6(送風量制御手段)が設けられている。チャンバー1fの配管5が開口する部分には、ヒータ7(加熱手段)が設けられている。
【0019】
ファン4を稼働させると、炉室1j内の炉内ガスが、これら炉室1jの天井部分から吸引され、配管5を導通して、炉室1jの両側に設けられたチャンバー1fに導かれ、ヒータ7により加熱され、熱風がチャンバー1fの吹出口1gから、台車3の両側方に送風され、被処理物20を加熱するようになっている。このように、ファン4を稼働させると、炉内ガスが、炉室1j内を循環して、台車3に搭載された被処理物20を加熱するようになっている。
【0020】
このように、被処理物20の両側方から、熱風を送風することにより、被処理物20の面上の温度をばらつきを小さくすることが可能となる。
【0021】
風量調整用ダンパー6により、炉室1j両側の吹き出しから送風される熱風の送風量の比率を調整するようになっている。本実施形態では、一方の吹出口1gとこれと対向する他方の吹出口1gから送風される熱風の送風量の比率(以下送風比率とする)を約7:3にしている。なお、送風比率は、5:5から0:10まで任意に調整できるようになっている。
【0022】
本発明では、温風調整用ダンパー6により、隣接する炉室1jの送風比率を交互に変えるようにしている。つまり、ある炉室1jの送風比率が7:3の場合に、台車3が次に搬送される炉室1jの送風比率を3:7にしている。このように、隣接する炉室1jのそれぞれの吹出口1gから送風される熱風の送風比率を交互に変えることとしたので、被処理物20の面上の温度のばらつきを更に小さくすることが可能となった。
【0023】
なお、ファン4の代わりに、図3に示されるように、炉室1jの天井に設置されたブロワ10により、炉内ガスを循環させて台車3に搭載された被処理物20を加熱するようにしても差し支えない。
【0024】
あるいは、炉室1jのそれぞれのチャンバー1fに、送風する独立したブロワ10もしくはファン4を設けて、炉内ガスを循環させて台車3に搭載された被処理物20を加熱するようにしても差し支えない。この場合には、ブロワ10もしくはファン4の送風量を変化させることにより、送風比率を調整するようになっている。
【0025】
なお、炉室1jごとに、一方の吹出口1gとこれと対向する他方の吹出口1gから送風される熱風の送風量を変化させる制御をすると、被処理物20の面上の温度のばらつきを更に小さくすることが可能となる。また、出口室1cの前段に加熱室1bの炉室1eの送風比率を5:5とすることが好ましい。
【0026】
以下に本発明の加熱方法及び間欠送り式トンネル炉の効果を示す試験結果を示す。
この試験は以下の条件で行われた。
被処理物:横幅600mm、縦幅1200mm、厚さ4mmのガラス基盤
試験1:被処理物の片側からのみ熱風を送風して、被処理物を加熱
試験2:被処理物の両側に設けられたチャンバー1fの一方からのみ熱風を送風し、所定時間(15分)経過後に、他方のチャンバー1fのみから熱風を送風する運転を繰り返して、被処理物を加熱
試験3:被処理物の両側に設けられたチャンバー1fから送風される熱風の送風比率を、所定時間(15分)をおいて交互に切り替えて被処理物を加熱
なお、試験3では、送風比率を7:3とした。
【0027】
図5に、本実験の被処理物の温度測定点の説明図を示す。図5に示されるように、被処理物20の四隅から、内側に縦方向50mm、横方向50mmの位置を測定点1、2、4、5とした。また、被処理物20の中心を測定点3とした。そして図4に示されるように一定の間隔をおいて配置された5枚の被処理物20の上から2枚目(I)及び4枚目(II)を測定することとした。
【0028】
この試験は、被処理物20の表面温度を140℃にすることを目標に行われた。
表1に試験1の被処理物20の上から2枚目(I)の試験結果を示し、表2に試験1の被処理物20の上から4枚目(II)の試験結果を示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
表3に試験2の被処理物20の上から2枚目(I)の試験結果を示し、表4に試験2の被処理物20の上から4枚目(II)の試験結果を示す。
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
表5に試験3の被処理物20の上から2枚目(I)の試験結果を示し、表6に試験3の被処理物20の上から4枚目(II)の試験結果を示す。
【0035】
【表5】

【0036】
【表6】

【0037】
表1〜表4に示されるように、試験1に比べて試験2の方が、被処理物が昇温する際の、被処理物の温度差が減少し、昇温に要する時間も短縮されていることがわかる。また、表3〜表6に示されるように試験2に比べて試験3の方が、更に被処理物が昇温する際の、被処理物の温度差が減少していることがわかる。
【0038】
以上詳細に説明したように、炉室1jの両側方から熱風を送風するとともに、隣接する炉室1jのそれぞれの側方から送風される熱風の送風量の比率を交互に変えて、被処理物20を加熱することとしたので、被処理物20が昇温する際の、被処理物20の表面温度のばらつきを、ある一定の温度差に納めることが可能となった。
【0039】
なお、間欠送り式トンネル炉について本発明を説明したが、バッチ炉にも本発明を適用可能なことは言うまでもない。この場合には、バッチ炉に被処理物20を収納して、炉室の両側方から熱風を送風するとともに、所定時間経過後(例えば15分)に両側方から送風される熱風の送風量の比率を交互に変えて、被処理物20を加熱する。この加熱方法を具現化するバッチ炉は、被処理物20が収納される炉室と、この炉室内の炉内ガスを循環させて、この炉内ガスを炉室の両側方から炉室内に送風する送風手段と、前記炉内ガスを加熱して熱風を生成する加熱手段と、前記炉室の両側方から送風される熱風の送風量を制御する送風量制御手段を有し、所定時間経過後に炉室の両側方から送風される熱風の送風量の比率を交互に変えるように構成されている。
【0040】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う加熱方法及び間欠送り式トンネル炉、バッチ炉もまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態を示す間欠送り式トンネル炉。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】間欠送り式トンネル炉の別の実施形態である。(図1のA−A断面図)
【図4】加熱実験の説明図である。
【図5】被処理物の温度測定点の説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1 トンネル炉
1a 入口室
1b 加熱室
1c 出口室
1e 炉室
1f チャンバー
1j 炉室
1g 吹出口
2 シャッター
3 台車
4 ファン
5 配管
6 風量調節用ダンパー
7 ヒータ
10 ブロワ
20 被処理物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行方向に対して複数の炉室に区画された間欠送り式のトンネル炉に被処理物を搬入し、炉室の側方から炉室内に熱風を送風して、被処理物を加熱する加熱方法において、
炉室の両側方から熱風を送風するとともに、隣接する炉室の両側方から送風される熱風の送風量の比率を交互に変えて、被処理物を加熱することを特徴とする加熱方法。
【請求項2】
バッチ炉に被処理物を収納して、バッチ炉の側方から炉室内に熱風を送風して、被処理物を加熱する加熱方法において、
炉室の両側方から熱風を送風するとともに、所定時間経過後に両側方から送風される熱風の送風量の比率を交互に変えて、被処理物を加熱することを特徴とする加熱方法。
【請求項3】
進行方向に対して複数に区画された炉室と、被処理物を炉室間で間欠的に搬送する搬送手段と、この炉室内の炉内ガスを循環させて、この炉内ガスを炉室の両側方から炉室内に送風する送風手段と、前記炉内ガスを加熱して熱風を生成する加熱手段と、前記炉室の両側方から送風される熱風の送風量を制御する送風量制御手段を有し、
隣接する炉室の両側方から送風される熱風の送風量の比率を交互に変えるように構成したことを特徴とする間欠送り式トンネル炉。
【請求項4】
被処理物が収納される炉室と、この炉室内の炉内ガスを循環させて、この炉内ガスを炉室の両側方から炉室内に送風する送風手段と、前記炉内ガスを加熱して熱風を生成する加熱手段と、前記炉室の両側方から送風される熱風の送風量を制御する送風量制御手段を有し、
所定時間経過後に炉室の両側方から送風される熱風の送風量の比率を交互に変えるように構成したことを特徴とするバッチ炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−241076(P2008−241076A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79334(P2007−79334)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】