説明

加熱炉

【課題】簡易な装置によって酸素濃度等の内部雰囲気を調整するとともに、被加熱体を加熱することができる加熱炉を提供することを課題とするものである。
【解決手段】断熱部(10)が外周に設けられた加熱炉本体(1)と、この加熱炉本体内に設けられ、この加熱炉本体内を気密的に区分するとともに、内部に被加熱体(w)を収容する隔壁容器(2)と、上記加熱炉本体内を加熱するヒーター(11)とを有する加熱炉とした。これに加えて、上記隔壁容器として、少なくとも一部を当該隔壁容器の内部又は外部に向けて酸素ガス又は水素ガスを選択的に透過可能な電気化学セル(3)によって構成し、上記酸素ガス又は水素ガスの透過に伴って放出される熱を利用して上記被加熱体を加熱する加熱炉とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加熱体を加熱するための加熱炉に関し、特に、酸素濃度等の内部雰囲気と加熱温度とを調整する加熱炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従前より、各種の製造工程や処理工程において、被加熱体を加熱処理するための加熱炉が用いられている。
このような加熱炉は、一般に、被加熱体を中央部に収容可能な加熱炉本体と、この加熱炉本体の外周部に設けられた断熱部材と、この断熱部材の内側に設けられた上記被加熱体を加熱するヒーターとから概略構成されている。
【0003】
この加熱炉によれば、ヒーターを起動させることにより、加熱炉本体内部が高温になり、上記被加熱体が加熱される。
ところで、被加熱体によっては、上記被加熱体収容部の酸素濃度等の内部雰囲気を調整した状態において加熱する必要がある。このため、上記ヒーターの他に、別途、加熱炉内部を所望の酸素濃度に保持するための酸素供給装置等を設ける必要があり、装置の制御が複雑化するという問題がある。
なお、本発明に関連する文献として、特許文献1及び2が出願されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−48984号公報
【特許文献2】特開2005−265260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、簡易な装置によって酸素濃度等の内部雰囲気を調整するとともに、被加熱体を加熱することができる加熱炉を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、酸素ガス又は水素ガスを選択的に透過する電気化学セルによって、内部雰囲気を簡易的に調整すると同時に、上記ガスが透過するのに伴って発生する高温の熱によって被加熱体を加熱できることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0007】
すなわち、請求項1に記載の発明は、断熱部が外周に設けられた加熱炉本体と、この加熱炉本体内に設けられ、この加熱炉本体内を気密的に区分するとともに、内部に被加熱体を収容する隔壁容器と、上記加熱炉本体内を加熱するヒーターとを有してなり、かつ上記隔壁容器は、少なくとも一部が当該隔壁容器の内部又は外部に向けて酸素ガス又は水素ガスを選択的に透過可能な電気化学セルによって構成されており、上記酸素ガス又は水素ガスの透過に伴って放出される熱を利用して上記被加熱体を加熱することを特徴とする加熱炉である。
【0008】
ここで、電気化学セルとは、電子の授受に伴って化学反応を行うセルを意味し、例えば、電子の授受に伴って酸素を透過する酸素透過性セルや水素を透過する水素透過性セル等を含むものである。このため、例えば、被加熱体を取り囲む複数の電気化学セルを設置して、一部を酸素透過性セルにて構成し、その他を水素透過性セルにて構成してもよい。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の加熱炉において、上記隔壁容器の内部に、少なくとも上記酸素又は水素のいずれか一方の濃度を計測する気体濃度センサーと上記被加熱体に対する加熱温度を計測する温度センサーとが設置されており、かつ上記加熱炉本体には、上記電気化学セルの電気供給量を調整することにより、上記気体濃度センサー及び上記温度センサーの数値を所定範囲内にする制御装置が設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の加熱炉において、上記加熱炉本体は、上記酸素ガス若しくは上記酸素含有ガス又は上記水素ガス若しくは上記水素含有ガスを供給する供給管が接続されており、かつ、上記供給管から供給される上記酸素ガス若しくは酸素含有ガス又は水素ガス若しくは水素含有ガスの温度は、上記制御装置によって調整されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、電気化学セルを作動させることにより、隔壁容器内部又は隔壁容器外部に向けて酸素ガス又は水素ガスを選択的に透過させると同時に、このガスの透過に伴って発生する高温の熱によって被加熱体を加熱することができるため、装置の制御を簡易化することができる。
【0012】
また、電気化学セルによって、隔壁容器内部に向けて酸素ガス又は水素ガスを選択的に透過させ、酸化雰囲気若しくは還元雰囲気を形成した状態において、加熱することができるとともに、隔壁容器外部に向けて酸素ガス又は水素ガスを選択的に透過させることにより、元の雰囲気に戻すことができるため、容易に被加熱体に要求される内部雰囲気に調整して、当該加熱体を加熱処理することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、制御装置によって電気化学セルの電気供給量を調整して、隔壁容器内部の酸素濃度又は水素濃度を調整するとともに、隔壁容器内部の温度を調整することにより、被加熱体を所望の状態において加熱することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、制御装置によって酸素ガス若しくは酸素含有ガス又は水素ガス若しくは水素含有ガスの温度を調整して、供給管から加熱炉本体に供給することができ、その結果、隔壁容器内部の酸素濃度又は水素濃度にあわせて、電気化学セルの電気供給量を調整することができるため、容易に加熱炉をコントロールすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る2つの加熱炉の実施形態を、図1ないし図5を用いて説明する。
【0016】
第1実施形態の加熱炉は、図1及び図2に示すように、床上に配設され、外周部の6面が断熱部材10によって囲まれた筺体からなる加熱炉本体1と、この加熱炉本体1内の中央部であって、かつ加熱炉本体1の底部の上記断熱部材10上に載置され、上面2a及び側面2bの5面が電気化学セル20によって覆われた隔壁容器2とから概略構成されている。そして、上記隔壁容器2の外周であって、かつ加熱炉本体1の内部に流路12が形成されており、この流路12に連通する供給管13が接続されている。
【0017】
上記加熱炉本体1は、上記断熱部材10として、例えば、セラミックスファイバーやセラミック板等の耐火部材が用いられており、この断熱部材10の内周部を覆うように、複数のヒーター11が設置されている。
【0018】
上記隔壁容器2は、上記側面2bに、複数枚の帯状の上記電気化学セル20と複数枚の帯状の絶縁基板21とが、電気化学セル20を容器内方側に配設して、互いの両側部が一部重なるように面方向に交互に配設されている。そして、各側面2bの両端部には、絶縁基板21が配設されており、この絶縁基板21によって4側面が一体化されている。
【0019】
また、上記上面2aには、同様に、複数枚の帯状の電気化学セル20と複数枚の帯状の絶縁基板21とが、電気化学セル20を容器内方側に配設して、互いの両側部が一部重なるように面方向に交互に配設されており、上記側面2aと絶縁部材(図示を略す)を介して一体化され、上記加熱炉本体1内を気密的に区分けしている。
【0020】
この電気化学セル20は、図3に示すように、板状の固体電解質21の両面にそれぞれ電極22、23が形成されており、この電極22、23に直流電圧Vを印加することにより、容器2の外部側の電極22がカソードとして作用するとともに、容器2の内部側の電極23がアノードとして作用する。そして、およそ400℃〜800℃の温度下において、上記固体電解質21がカソードとしての電極22側からアノードとしての電極23側に酸素ガス又は水素ガスを選択的に透過させる酸素透過性セル又は水素透過性セルとして作用するようになっている。このため、隔壁容器2の外部の流路12に充填された酸素ガス又は水素ガスが分離されて、隔壁容器2の内部に供給されるようになっている。
【0021】
一方、上記電極22、23に対して逆向きに電流を流すように直流電圧Vを印加することによって、電極22をアノードとして作用させるとともに、電極23をカソードとして作用させ、隔壁容器2の内部に充填されている酸素ガス又は水素ガスを分離して、隔壁容器2の外部の流路12に排出することができる。
【0022】
ここで、上記電気化学セル20を酸素透過性セルとして用いる場合には、例えば、固体電解質21として、イットリア添加ジルコニア(YSZ)が用いられるとともに、電極22、23としてLSC:La0.6Sr0.4CoO3が用いられている。或いは、固体電解質21としてコバルト添加ランタンガレート(LSGMC)が用いられるとともに、電極22、23としてSSC:Sm0.5Sr0.5CoO3が用いられている。
【0023】
他方、上記電気化学セル20を水素透過性セルとして用いる場合には、例えば、固体電解質21としてSrCeO3が用いられるとともに、電極22、23としてPt−ZrO2が用いられている。或いは、固体電解質21としてBaZrCeGaO3が用いられるとともに、電極22、23としてPtが用いられている。
【0024】
また、上記絶縁基板21としては、上記電気化学セル20の支持体として充分な機械的強度と絶縁性能を有するものであればよく、例えば、アルミナ製の基板や、ジルコニア製の基板などを用いることができる。
【0025】
さらに、上記隔壁容器2の内部に、上記断熱部材10上に立設された被加熱体wの載置台3が設けられており、この載置台3上に被加熱体wが載置される。
【0026】
また、上記隔壁容器2の内部には、上記容器内の温度と、水素ガス又は酸素ガスの濃度とを計測するセンサー5が設けられており、このセンサー5は、測定値を制御装置6に伝送するようになっている。そして、制御装置6は、上記ヒーター11に接続されている信号線61、上記電気化学セル20に接続されている信号線62や上記供給管13に接続されている信号線63に上記測定値に応じた信号を発信するようになっている。
【0027】
具体的には、図4に示すように、上記隔壁容器2の内部温度が上記電気化学セルの起動温度S1に対応する温度(設定値)を超えている場合には、信号線61によってヒーター11の作動を停止させるようになっており、上記起動温度S1に対応する温度(設定値)以下の場合には、信号線61によってヒーター11を起動させるようになっている。
【0028】
また、隔壁容器2の内部の酸素ガス又は水素ガスの気体濃度S2が設定値未満の場合には、信号線62によって上記電気化学セル20の電気電流量を増加させるとともに、上記気体濃度S2が設定値以上の場合には、信号線62によって上記電気化学セル20の電気電流量を減少させるようになっている。
【0029】
さらに、隔壁容器2の内部温度が電気化学セル20の起動温度に達しているものの、被加熱体wの加熱温度S3としての設定値より低い場合には、信号線61によってヒーター11を作動させて、上記隔壁容器2の内部への放熱量を増加させるとともに、被加熱体の加熱温度S3としての設定値以上の場合には、信号線63によって供給管13から供給される酸素ガス又は水素ガスの温度を制御して、上記隔壁容器2の内部への放熱量を減少させるようになっている。
【0030】
次いで、第2実施形態について、図5を用いて、説明する。
本実施形態の加熱炉は、上記隔壁容器2の代わりに、板状の電気化学セル20を5枚用いて、上面及び4側面が覆われた隔壁容器7が構成されており、この隔壁容器7によって加熱炉本体1内を気密的に区分けしている点が第1実施形態と異なっている。そして、この隔壁容器7を構成する電気化学セル20に直流電圧Vを印加することにより、第1実施形態と同様に、隔壁容器7の外部の酸素ガス又は水素ガスが分離されて、隔壁容器7の内部に供給されるようになっている。
【0031】
さらに、その他の実施形態として、第1実施形態における電気化学セル20又は第2実施形態における電気化学セル20の一部を酸素透過性セルによって構成し、その他を水素透過性セルによって構成してもよい。この場合には、酸素透過性セルと水素透過性セルとにそれぞれ個別に信号線62を接続することにより、酸化雰囲気や還元雰囲気を微調整することができる。
【0032】
次に、第1の実施形態の加熱炉を用いるとともに、電気化学セル20として酸素透過性セルを用いて、酸化雰囲気にて被加熱体wを加熱する場合を、説明する。
【0033】
まず、ヒーター11を起動させ、制御装置6によって隔壁容器2の内部を上記酸素透過性セル20の起動温度S1に対応する温度まで上昇させるとともに、酸素ガスを上記供給管13に供給する。そして、酸素透過性セル20が起動温度S1に達すると、上記酸素透過性セル20によって、隔壁容器2の外部の酸素ガスが分離され、被加熱体wが収容されている隔壁容器2の内部に除々に供給される。
【0034】
これにより、被加熱体wは、酸素ガスが隔壁容器2の外部から隔壁容器2の内部に供給されるのに伴って、酸素透過性セル20が放熱することにより、除々に加熱される。
すると、制御装置6は、隔壁容器2の内部温度が酸素透過性セル20の起動温度S1の設定値を超えた段階において、ヒーター11の加熱を停止させるように、信号線61を介してヒーター11を制御する。
【0035】
そして、制御装置6は、隔壁容器2内の酸素ガスの濃度S2が設定値以上になった場合には、酸素透過性セル20の電流量を減少させるように、信号線62を介して酸素透過性セル20を制御する。逆に、上記濃度S2が設定値未満の場合には、酸素透過性セル20の電流量を増加させるように酸素透過性セル20を制御する。
また、上記センサー5によって、隔壁容器2の内部の温度が被加熱体の加熱温度S3の設定値に達した場合には、放熱量を減少させるように、信号線63を介して供給管13から供給される酸素ガス又は水素ガスの温度を制御する。逆に、上記加熱温度S3が設定値未満の場合には、放熱量を増加させるように、信号線61を介して、再度、ヒーター11を作動させる。
【0036】
これにより、被加熱体wは、隔壁容器2の内部において所望の酸化雰囲気にて加熱される。
次いで、被加熱体wの加熱を終了させる際に、酸素透過性セル20への電流供給を停止するとともに、上記供給管13への酸素ガスの供給を停止する。
【0037】
上述の加熱炉によれば、電気化学セル20を作動させることにより、隔壁容器2の内部又は流路12に向けて酸素ガス又は水素ガスを選択的に透過させると同時に、このガスの透過に伴って発生する高温の熱によって被加熱体wを加熱することができるため、装置の制御を簡易化することができる。
【0038】
また、電気化学セル20によって、隔壁容器2の内部に向けて酸素ガス又は水素ガスを選択的に透過させ、酸化雰囲気若しくは還元雰囲気を形成した状態において、加熱することができるとともに、隔壁容器2の外部に向けて酸素ガス又は水素ガスを選択的に透過させることにより、元の雰囲気に戻すことができるため、容易に被加熱体wに要求される内部雰囲気に調整して、当該被加熱体wを加熱することができる。
【0039】
さらに、制御装置6によって、信号線62を介して電気化学セル20の電気供給量を調整して、隔壁容器2の内部の酸素濃度又は水素濃度を調整するとともに、信号線61を介してヒーター11を制御、又は信号線63を介して供給管13から供給される酸素ガス又は水素ガスの温度を制御して、電気化学セル20からの放熱量を調整することができる。その結果、電気化学セル20の電気供給量によって隔壁容器2の内部の酸素濃度又は水素濃度のみを調整することとなるため、一層容易に加熱炉をコントロールすることができる。
【0040】
なお、本発明は、上述の実施形態によって何ら限定されるものではない。例えば、上記断熱部材10の代わりに外周部に真空空間を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る第1実施形態の加熱炉を説明する横断面模式図である。
【図2】本発明に係る第1実施形態の加熱炉を説明する縦断面模式図である。
【図3】図1の電気化学セル20を示す説明図である。
【図4】第1実施形態の加熱炉を制御するためのフローチャート図である。
【図5】本発明に係る第2実施形態の加熱炉を説明する横断面模式図である。
【符号の説明】
【0042】
1 加熱炉本体
2 隔壁容器
3 電気化学セル
10 断熱部材(断熱部)
11 ヒーター
13 供給管(ガス供給手段)
w 被加熱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱部が外周に設けられた加熱炉本体と、この加熱炉本体内に設けられ、この加熱炉本体内を気密的に区分するとともに、内部に被加熱体を収容する隔壁容器と、上記加熱炉本体内を加熱するヒーターとを有してなり、かつ
上記隔壁容器は、少なくとも一部が当該隔壁容器の内部又は外部に向けて酸素ガス又は水素ガスを選択的に透過可能な電気化学セルによって構成されており、上記酸素ガス又は水素ガスの透過に伴って放出される熱を利用して上記被加熱体を加熱することを特徴とする加熱炉。
【請求項2】
上記隔壁容器は、その内部に、少なくとも上記酸素又は水素のいずれか一方の濃度を計測する気体濃度センサーと上記被加熱体に対する加熱温度を計測する温度センサーとが設置されており、かつ
上記加熱炉本体には、上記電気化学セルの電気供給量を調整することにより、上記気体濃度センサー及び上記温度センサーの数値を所定範囲内にする制御装置が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の加熱炉。
【請求項3】
上記加熱炉本体は、上記酸素ガス若しくは上記酸素含有ガス又は上記水素ガス若しくは上記水素含有ガスを供給する供給管が接続されており、かつ、上記供給管から供給される上記酸素ガス若しくは酸素含有ガス又は水素ガス若しくは水素含有ガスの温度は、上記制御装置によって調整されることを特徴とする請求項2に記載の加熱炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−178073(P2007−178073A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377904(P2005−377904)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】