説明

加熱硬化性溶液組成物および未硬化樹脂複合体

【課題】イミド基含有樹脂成形体あるいは未硬化樹脂複合体の工業的な製造に有利に利用できる加熱硬化性溶液組成物を提供する。
【解決手段】2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステル及び/又は2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステルを含むビフェニルテトラカルボン酸化合物、ビフェニルテトラカルボン酸化合物に対して化学量論的に過剰モル量の芳香族ジアミン化合物、そして芳香族ジアミン化合物のモル量とビフェニルテトラカルボン酸化合物のモル量との差に相当するモル量の1.8〜2.2倍のモル量の4−(2−フェニルエチニル)フタル酸の部分低級脂肪族アルキルエステルを含む4−(2−フェニルエチニル)フタル酸化合物を低級脂肪族アルコールを主成分とする有機溶媒に溶解してなる加熱硬化性溶液組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱硬化性溶液組成物および加熱硬化性溶液組成物を用いた未硬化樹脂複合体および該未硬化樹脂複合体を用いた硬化樹脂複合体の製造に関する。さらに詳しくは、強化繊維マトリックスを含むポリイミド樹脂成形体の製造に特に有利に用いることのできる加熱硬化性溶液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリイミド成形体は、機械的強度、耐熱性、そして耐薬品性などの物理的及び化学的特性が顕著に高いことが知られている。このため、芳香族ポリイミド成形体は、従来より電子機器の基板などの用途に用いられてきたが、近年、その芳香族ポリイミド成形体の優れた物理的特性と化学的特性が益々注目され、航空機や宇宙船を構成する様々な部品の材料としての利用が検討され、一部では既に実用化されている。
【0003】
芳香族ポリイミド成形体の製造方法としては、予め芳香族テトラカルボン酸誘導体と芳香族ジアミンとを溶媒中で反応させて芳香族ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸(ポリアミド酸)の溶液を得て、このポリアミック酸溶液を支持体に流延したのち加熱して乾燥と閉環(イミド化)を行ない芳香族ポリイミドフィルムを製造する方法が知られている。また、厚みのある成形体やシート状でない成形体の製法としては、芳香族ポリイミド前駆体溶液を高弾性繊維のシート状マトリックス材料に含浸させて調製した未硬化樹脂複合体を用意し、これを複数枚積層して加圧、加熱を行なうことからなる製法が知られている。
【0004】
特許文献1には、固形分濃度が50〜80重量%であって、揮発成分量が35重量%未満であり、室温でのブルックフィールド粘度が4000〜10000センチポイズのポリイミド前駆体溶液から未硬化樹脂複合体(プリプレグ)を製造することからなる発明の記載があり、そのポリイミド前駆体としては、オキシジフタル酸二無水物、フタル酸、および3,4’−オキシジアニリンなどから製造される化合物が例示されており、その溶液の溶媒としては、NMPとメタノールとの混合物が代表例として記載されている。
【0005】
特許文献2には、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸と芳香族ジアミン化合物と4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸を反応して得られる末端変性イミドオリゴマーの溶液(加熱硬化性溶液組成物)の記載があり、この溶液が未硬化樹脂複合体の形成材料として、そして芳香族ポリイミド成形体(硬化体)の製造に有用であることの記載がある。なお、上記の溶液組成物の製造に用いられる溶媒の例として記載されているのは、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、そしてN−カプロラクタムである。
【0006】
特許文献3には、芳香族ポリイミド製造のための芳香族テトラカルボン酸成分として、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いることができ、この化合物と、芳香族ジアミン成分と反応性架橋剤とからポリアミック酸オリゴマーを製造することができるとの記載がある。
【0007】
【特許文献1】特表2002−511902号公報
【特許文献2】特開2000−219741号公報
【特許文献3】特開2004−331801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸と芳香族ジアミン化合物と4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸を反応して得られる末端変性イミドオリゴマーからなる加熱硬化性溶液組成物は、優れた物理的特性および化学的特性を有する芳香族ポリイミド成形体(硬化体)を製造する方法として有用であるが、用いることのできる溶媒として例示されているN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、そしてN−カプロラクタムはいずれも沸点が高く、その溶液組成物から溶媒を蒸発除去するために高い温度かつ比較的長時間の加熱が必要となり、工業的製法としては充分満足できる製法と云うことはできない。
【0009】
従って、本発明は、芳香族ポリイミド成形体(硬化体)の製造に用いる未硬化樹脂複合体の調製の際、さらには硬化体の形成の工程において、溶媒の除去が容易であって、かつ取扱性が優れた加熱硬化性溶液組成物を提供することを主な目的とする。
【0010】
本発明はまた、未硬化樹脂複合体から芳香族ポリイミド成形体(硬化体)を加熱と加圧とを利用して製造する工程において、溶媒の除去や、加熱時に副生する水やアルコールなどの副生物の除去を容易に行うことができる未硬化樹脂複合体を提供することも、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者は、特許文献2に記載の加熱硬化性溶液組成物について研究を行なった結果、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸無水物とをメタノールやエタノールなどの低級脂肪族アルコールに溶解して加熱すると、当該アルコールに溶解する2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステルと4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸の部分低級脂肪族アルキルエステルとが生成し、これに芳香族ジアミンを添加して得られる溶液組成物は、安定な溶液粘度を持っており、未硬化樹脂複合体を容易に調製することができ、またその未硬化樹脂複合体は容易にポリイミド硬化体に変換できることを見出した。加熱硬化性溶液組成物における溶媒としての低級脂肪族アルコールは、沸点が低く、反応により生成する水と共に容易に蒸発除去ができること、取扱が容易なこと、そして経済性も優れていることから、ポリイミド硬化体の工業的な製造に特に有利に利用することができる。
【0012】
本発明は、ビフェニルテトラカルボン酸化合物の全体量に対して少なくとも15モル%の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステル及び/又は2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステルを含むビフェニルテトラカルボン酸化合物、ビフェニルテトラカルボン酸化合物に対して化学量論的に過剰モル量の芳香族ジアミン化合物、そして芳香族ジアミン化合物のモル量とビフェニルテトラカルボン酸化合物のモル量との差に相当するモル量の1.8倍乃至2.2倍のモル量の4−(2−フェニルエチニル)フタル酸の部分低級脂肪族アルキルエステルを含む4−(2−フェニルエチニル)フタル酸化合物を低級脂肪族アルコールを主成分とする有機溶媒に溶解してなる加熱硬化性溶液組成物にある。
【0013】
上記の低級脂肪族アルコールとは、炭素原子数が1〜6の一価脂肪族アルコールを意味し、代表例としてはメタノールとエタノールとを挙げることができる。また、脂肪族アルキルエステルとは、炭素原子数が1〜6の一価脂肪族アルキルエステルを意味し、代表例としてはメチルエステルとエチルエステルを挙げることができる。部分低級脂肪族アルキルエステルとは、ビフェニルテトラカルボン酸の場合には、それが有する四個のカルボキシル基の1乃至3個(通常は2個)が、低級脂肪族アルキルとエステル結合を形成している状態を意味する。また、4−(2−フェニルエチニル)フタル酸の場合には、二個のカルボキシル基の内の一個が、低級脂肪族アルキルとエステル結合している状態を意味する。
【0014】
本発明はまた、ビフェニルテトラカルボン酸化合物の全体量に対して少なくとも15モル%の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分メチルエステル及び/又は2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分メチルエステルを含むビフェニルテトラカルボン酸化合物、ビフェニルテトラカルボン酸化合物に対して化学量論的に過剰モル量の芳香族ジアミン化合物、そして芳香族ジアミン化合物のモル量とビフェニルテトラカルボン酸化合物のモル量との差に相当するモル量の1.8倍乃至2.2倍のモル量の4−(2−フェニルエチニル)フタル酸の部分メチルエステルを含む4−(2−フェニルエチニル)フタル酸化合物をエタノールを主成分とする有機溶媒に溶解してなる加熱硬化性溶液組成物にもある。
【0015】
本発明の加熱硬化性溶液組成物の好ましい態様は下記の通りである。
(1)低級脂肪族アルコールがメタノールまたはエタノールである(それらの混合物であってもよい)。
(2)部分低級脂肪族アルキルエステルが部分メチルエステルあるいは部分エチルエステルである(それらの混合物であってもよい)。
(3)4−(2−フェニルエチニル)フタル酸化合物のモル量が、芳香族ジアミン化合物のモル量とビフェニルテトラカルボン酸化合物のモル量との差に相当するモル量の1.95倍乃至2.05倍のモル量である。
(4)ビフェニルテトラカルボン酸化合物、芳香族ジアミン化合物、そして4−(2−フェニルエチニル)フタル酸化合物の合計量が30〜80質量%の範囲にある。
(5)ビフェニルテトラカルボン酸化合物が、ビフェニルテトラカルボン酸化合物の全体量に対して50モル%を超える量の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステルを含む2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸化合物を含有する。
(6)芳香族ジアミン化合物が、芳香族ジアミン化合物の全体量に対して50モル%を超える量の単一の芳香環からなる芳香族ジアミンを含む。
(7)芳香族ジアミン化合物がパラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、もしくはそれらの混合物である。
(8)さらにイミダゾール化合物を含む。
【0016】
本発明はまた、ビフェニルテトラカルボン酸化合物の全体量に対して少なくとも15モル%の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステル及び/又は2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステルを含むビフェニルテトラカルボン酸化合物、ビフェニルテトラカルボン酸化合物に対して化学量論的に過剰モル量の芳香族ジアミン化合物、そして芳香族ジアミン化合物のモル量とビフェニルテトラカルボン酸化合物のモル量との差に相当するモル量の1.8倍乃至2.2倍のモル量の4−(2−フェニルエチニル)フタル酸の部分低級脂肪族アルキルエステルを含む4−(2−フェニルエチニル)フタル酸化合物からなる加熱硬化性粉末組成物にもある。
【0017】
上記の加熱硬化性粉末組成物において、部分低級脂肪族アルキルエステルは部分メチルエステルであることが好ましい。
【0018】
本発明はまた、本発明の加熱硬化性溶液組成物が高強度繊維のシート状マトリックス材料に含浸されてなる未硬化樹脂複合体にもある。
【0019】
本発明はまた、上記の未硬化樹脂複合体を複数枚積層し、加圧下に加熱して硬化させることを特徴とする樹脂成形体の製造方法にもある。
【発明の効果】
【0020】
本発明の加熱硬化性溶液組成物は、揮発性の高い溶媒を用いているにも拘らず、高い溶液の安定性を示し、また優れた成形性を示すため、ポリイミド樹脂成形体あるいはイミド基含有樹脂成形体(硬化体)の製造に用いる未硬化樹脂複合体の調製の際に、溶媒の除去が容易であって、かつ取扱性が優れている。すなわち、本発明の加熱硬化性溶液組成物において溶媒として用いている低級脂肪族アルコールは沸点が低いため、その加熱硬化性溶液組成物を成形した後、溶媒の除去と加熱イミド化を行なう際に必要な溶媒及び水の除去が容易に実施できる。
【0021】
特に、本発明の加熱硬化性溶液組成物の酸成分を部分メチルエステルとした場合には、得られる未硬化樹脂複合体を、高温加熱してポリイミド樹脂成形体(硬化体)を得る工程において必要な優れた成形安定性(溶媒が部分的に蒸発した未硬化樹脂複合体の形状安定性)が容易に実現するため、所望の形態のポリイミド樹脂成形体が容易に得られると云う利点がある。また、加熱硬化性溶液組成物を調製するときにエタノールを用いると、加熱硬化性溶液組成物から未硬化樹脂複合体を調製する場合、また未硬化樹脂複合体から硬化体を製造する場合において、蒸発する溶媒の環境に与える悪影響が少ないため、実用上において特に有利である。従って、実用的に最も優れた態様は、本発明の加熱硬化性溶液組成物の酸成分を部分メチルエステルとし、溶媒をエタノールとした態様である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の加熱硬化性溶液組成物を調製するために用いる必須成分(必須モノマー成分)は、下記の通りである。
(1)ビフェニルテトラカルボン酸化合物の全体量に対して少なくとも15モル%の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステル及び/又は2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステルを含むビフェニルテトラカルボン酸化合物、
(2)ビフェニルテトラカルボン酸化合物に対して化学量論的に過剰モル量の芳香族ジアミン化合物、そして
(3)芳香族ジアミン化合物のモル量とビフェニルテトラカルボン酸化合物のモル量との差に相当するモル量の1.8倍乃至2.2倍のモル量の4−(2−フェニルエチニル)フタル酸の部分低級脂肪族アルキルエステルを含む(好ましくは50モル%以上含み、特に好ましくはほぼ全量)4−(2−フェニルエチニル)フタル酸化合物である。
【0023】
ビフェニルテトラカルボン酸化合物のうちの少なくとも15モル%(好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは50モル%以上、特に好ましくは80モル%以上)は、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステル及び/又は2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステルからなる。なかでも、ビフェニルテトラカルボン酸化合物は、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステルからなることが好ましい。
【0024】
2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステルは、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を低級脂肪族アルコールに添加し、これを加熱して溶液とすることにより容易に得ることができる。この加熱は40℃〜低級脂肪族アルコールを還流させる温度条件が好適である。2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、従来より芳香族ポリイミド樹脂の原料として利用することが知られている。また、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステルは、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を低級脂肪族アルコールに添加し、これを加熱して溶液とすることにより容易に得ることができる。2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、前述の特許文献3に詳しく記載されている。
【0025】
本発明の加熱硬化性溶液組成物において、加熱硬化性溶液組成物そしてポリイミド硬化体の特性を本質的に変更するような影響を与えない限り、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステル及び/又は2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステルに、例えば、テトラカルボン酸化合物の合計量の内の10モル%以下の量にて、他のテトラカルボン酸化合物を併用することができる。そのような併用可能な化合物の例としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸化合物の部分低級脂肪族アルキルエステル、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸化合物の部分低級脂肪族アルキルエステル、ピロメリット酸化合物の部分低級脂肪族アルキルエステル、そしてビス(3,4−ジカルボキシジフェニル)エーテルの部分低級脂肪族アルキルエステルを挙げることができる。
【0026】
芳香族ジアミン化合物の例としては、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、もしくはそれらの混合物を挙げることができる。芳香族ジアミンは、特に、パラフェニレンジアミンと1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンとの混合物であることが好ましい。その他、従来より、芳香族ポリイミド樹脂の製造に一般的に利用することができることが知られている各種の芳香族ジアミン化合物を用いることができる。このような従来から一般的な芳香族ジアミン化合物の例示は、前記の特許文献2に詳しく示されている。なお、本発明の加熱硬化性溶液組成物の成形体(成形膜)の形状安定性を考慮すると、芳香族ジアミン化合物としては、パラフェニレンジアミンを用いることが好ましい。
【0027】
芳香族ジアミン化合物は、ビフェニルテトラカルボン酸化合物に対して化学量論的に過剰モル量で用いる。たとえば、芳香族ジアミン化合物は、ビフェニルテトラカルボン酸化合物1モルに対して、1.1〜2.0モルの範囲内の量で用いることが好ましく、特に、1.15〜1.30モルの範囲内の量で用いることが好ましい。
芳香族ジアミン化合物としてパラフェニレンジアミンと1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンの混合物を用いる場合には、ビフェニルテトラカルボン酸化合物の1モルに対しパラフェニレンジアミンと1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンの合算したモル量が1.15〜1.30モルであって、且つパラフェニレンジアミンと1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンの合算したモル量中パラフェニレンジアミンを50〜70モル%の範囲内にすることが耐熱性と成形性のバランスが良好になるので特に好ましい。
【0028】
本発明の加熱硬化性溶液組成物はさらに、芳香族ジアミン化合物のモル量とビフェニルテトラカルボン酸化合物のモル量との差に相当するモル量の1.8倍乃至2.2倍(好ましくは、1.95倍乃至2.05倍)のモル量の4−(2−フェニルエチニル)フタル酸の部分低級脂肪族アルキルエステルを含む4−(2−フェニルエチニル)フタル酸化合物を含有する。
【0029】
本発明の加熱硬化性溶液組成物は溶媒として、低級脂肪族アルコール(炭素原子数が1〜6の一価脂肪族アルコール)を主成分として含む有機溶媒を用いる。特にメタノールもしくはエタノールを用いることが好ましい。低級脂肪族アルコールの混合物を使用することもできるが、その混合物は、メタノールもしくはエタノールを50容量%以上含むことが好ましく、特にメタノールもしくはエタノールを80容量%以上含むことが好ましい。また、低級脂肪族アルコール以外の低沸点溶媒(例、ケトン)も併用することができるが、その場合の低級脂肪族アルコール以外の低沸点溶媒の使用量は、30容量%以下であることが望ましい。
【0030】
本発明の加熱硬化性溶液組成物は、例えば、ビフェニルテトラカルボン酸化合物の全体量に対して少なくとも15モル%の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び/又は2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含むビフェニルテトラカルボン酸化合物と4−(2−フェニルエチニル)フタル酸無水物とを低級脂肪族アルコールに添加し、生成する懸濁液を加熱することにより、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び/又は2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、そして4−(2−フェニルエチニル)フタル酸無水物のそれぞれをエステル化して、低級脂肪族アルキルエステルに変換して、低級脂肪族アルコール中に溶解させることにより溶液組成物を得て、ついで、この溶液組成物に芳香族ジアミン化合物を加えることにより容易に得ることができる。
【0031】
但し、低級脂肪族アルキルエステルとしてメチルエステルを用いると、加熱硬化性溶液組成物から未硬化成形体としたのち、加圧下、高温でポリイミド硬化体を製造する際に、優れた形状維持性を示すため、低級脂肪族アルキルエステルを得るために用いる低級脂肪族アルコールとしてはメタノールが好ましい。ただし、上記の加熱硬化性溶液組成物の成形物から溶媒を蒸発除去する際、またそれに続く硬化体を得るための高温で加熱する際に発生しやすいメタノールによる環境汚染を回避したい場合には、溶媒としてメタノールを用いて加熱硬化性溶液組成物を製造した後、その溶液組成物を一旦乾燥して、加熱硬化性粉末組成物を得た後、この粉末組成物をエタノールなどの溶媒に溶解して改めて加熱硬化性溶液組成物とし、それを用いて未硬化樹脂複合体を調製して硬化体の製造を行なう方法を利用することもできる。
【0032】
加熱硬化性粉末組成物を得るための溶媒を蒸発除去する温度は60℃以下であることが好ましい。加熱硬化性粉末組成物において、少量の溶媒が残存してもよいが、残存溶媒や高温で加熱して硬化体を得る際に発生するアルコールなどからなる揮発成分が18〜25%の範囲のものが好ましく、20〜22%の範囲のものが更に好ましい。
【0033】
本発明の加熱硬化性溶液組成物は、さらに全モノマー量に対してイミダゾール化合物を0.01〜3質量%の範囲の量にて含むことが好ましい。イミダゾール化合物は溶液組成物を調製する際に、溶解を促進する作用を有し溶解時間を短縮することができる。更にイミダゾール化合物は、未硬化樹脂複合体を加圧下に加熱して樹脂成形体(硬化体)を製造する際の硬化を促進する作用を有しており、特性が優れた樹脂成形体(硬化体)を容易に得ることが可能になる。イミダゾール化合物には、特に限定はないが、例えば2−メチルイミダゾールや1,2−ジメチルイミダゾールなどのポリイミドのイミド化触媒として公知の化合物を好適に用いることができる。
【0034】
本発明の加熱硬化性溶液組成物中の前記の(1)、(2)、(3)の三つの必須成分の含有量は、30〜80質量%の範囲にあることが好ましく、さらに35〜75質量%の範囲にあることが好ましく、さらに40〜75質量%の範囲にあることが好ましく、特に45〜75質量%の範囲にあることが好ましい。
【0035】
本発明の加熱硬化性溶液組成物を高強度繊維のシート状マトリックス材料に含浸させ、必要により、溶媒の一部を加熱などで蒸発除去させることによって未硬化樹脂複合体を調製することができる。未硬化樹脂複合体には、加圧下に加熱して樹脂成形体(硬化体)を製造する際の良好な取扱い性(ドレープ性、タック性)を確保するための適切な揮発分含有量と、得られる樹脂成形体(硬化体)が良好な樹脂含量になるような適切な樹脂を形成する成分の付着量とが要求される。このためには、デップ法、キャスト法等の方法で、適切な樹脂を形成する成分を含む加熱硬化性溶液組成物を高強度繊維のシート状マトリックス材料に含浸させ、次いで熱風オーブン等で加熱乾燥して余分な揮発分を蒸発除去することが好適である。通常、所定量の加熱硬化性溶液組成物を高強度繊維のシート状マトリックス材料に含浸させ、加熱乾燥条件とし、温度範囲:40〜150℃、時間範囲:0.5〜30分とすることで、未硬化樹脂複合体としての好ましい樹脂含有量(Rc):35〜55%、揮発分含有量(Vc):10〜25%の未硬化樹脂複合体を好適に調製できる。
また、未硬化樹脂複合体(繊維強化物)を製造するために用いる高強度繊維(補強繊維)のシート状マトリックス材料は、繊維強化樹脂成形体を製造するために用いられる公知の強化繊維からなるものを好適に用いることができる。好ましい高強度繊維は、カーボン繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、およびチラノ繊維(二酸化チタン繊維)などのセラミック繊維である。
【0036】
本発明の加熱硬化性溶液組成物を高温に加熱することにより熱イミド化と硬化とを行なうと、Tgが300℃以上、または300℃以下ではTgが観察されない硬化体を得ることができる。
【0037】
未硬化樹脂複合体は、その両面のそれぞれを、ポリエチレンテトラフタレート(PET)などの樹脂シート、あるいは紙などの被覆シートにより被覆した状態で保存や輸送することが好ましく、このような被覆状態にある未硬化樹脂複合体は、通常、ロール状態で保存と輸送がされる。
【0038】
未硬化樹脂複合体から樹脂成形体(硬化体)を製造する方法は既に知られている。たとえば、ロール状の未硬化樹脂複合体を所望のサイズに切断し、このように切断した未硬化樹脂複合体片を複数枚(数枚から100枚以上まで)積層し、加熱プレスを利用して加圧しながら、加熱する方法、あるいはオートクレーブを用いる方法が利用される。この加圧と加熱により、熱イミド化反応および硬化反応が起こり、芳香族ポリイミド成形体が得られる。
【0039】
未硬化樹脂複合体もしくはその積層体の加圧下の加熱は、たとえば、未硬化樹脂複合体もしくはその積層体11を図4に示すように、通気性のテフロン/ガラスシート12a、12bの間に挟み、その上に離型フィルム13a、13bを配置し、この積層体の両側部を耐熱性不織布(スポンジ材)14a、14bで挟んだ上で、耐熱性のバッグ(袋)15に収容し、一方の端部16を封止(熱圧着によるヒートシールなど)した上で、他方の端部に設けられた真空引き口17から内部の空気を真空装置などを用いて抜き出しながら加熱プレス18で加圧する方法が利用される。この操作の際に、バッグの内部の真空度と加熱温度は、たとえば、図5乃至図10に示すパターンのように、真空度、加圧力と加熱温度を段階的に変える方法などを利用することが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下に記載する実施例において、各測定値および計算値は、次の方法により測定した値、そしてその値に基づいて計算した値である。
(1)溶液中の全モノマー含有量
溶液中の全モノマー含有量(%)=100×[使用した全モノマーの重量(g)]/[使用した全モノマーの重量(g)+溶媒の重量(g)]
(2)溶液粘度
25℃で東京計器(株)製のE型粘度計を用いて測定した。
(3)熱処理後の樹脂成形体のガラス転移温度(Tg)
熱処理後の樹脂成形体をセイコーインスツルメント(株)製のSSC5200−DSC−3200を用い、窒素中20℃/分で昇温しながら、測定した。
(4)熱処理後の樹脂成形体の線膨張係数
熱処理後の樹脂成形体を(株)島津製作所製のTMA−50を用い、窒素中5℃/分で昇温しながら50〜250℃の範囲で測定した。
(5)揮発分率(Vc)、樹脂含有率(Rc)の測定
Vc(%)=100×[未硬化樹脂複合体の重量(g)−370℃で1時間加熱後の重量(g)]/[未硬化樹脂複合体の重量(g)]
Rc(%)=100×[370℃で1時間加熱後の重量(g)−繊維クロスの重量(g)]/[370℃で1時間加熱後の重量(g)]
(6)未硬化樹脂複合体の複素粘度
ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製溶融粘弾性測定装置を用い、窒素中2℃/分で昇温しながら、動的粘弾性を測定した。
(7)熱処理後の樹脂成形体の熱分解温度
熱処理後の樹脂成形体をエスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製のTG/DTA 6300を用い、空気中5℃/分で昇温しながら測定し、5%重量が減少した温度を熱分解温度とした。
(8)核磁気共鳴スペクトル分析(1H−NMR)測定
日本電子(株)製のEX400型FT−NMRを用いて共鳴周波数400MHzで測定した。測定溶媒には重水素化メタノールを使用した。
【0041】
以下に記載する実施例において、各モノマー成分は下記の表示により示した。
a−BPDA:2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
s−BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PEPA:4−(フェニルエチニル)無水フタル酸
TPE−R:1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン
PPD:パラフェニレンジアミン
MPD:メタフェニレンジアミン
【0042】
[実施例1]
(1)加熱硬化性溶液組成物の調製
攪拌機と還流管および窒素導入管を装着した100mLの四つ口セパラブルフラスコに窒素気流下、酸成分であるa−BPDA11.77g(0.0400モル)とPEPA4.97g(0.0200モル)そしてエタノール13.54gを投入し、還流下5時間攪拌し、均一溶液を得た。その後、室温まで冷却し、攪拌しながら、ジアミン成分であるTPE−R6.58g(0.0225モル)およびPPD2.97g(0.0275モル)を投入し、60℃で60分溶解して均一溶液(加熱硬化性溶液組成物)を得た。
この均一溶液をポリイミドフィルム(宇部興産(株)製ユーピレックス125S)の表面に流延し、80℃で30分、135℃で30分、180℃で30分、250℃で30分、300℃で30分、そして370℃で60分連続的に熱処理して、厚みが約0.1mmの樹脂フィルムを得た。
この均一溶液の粘度および該均一溶液から熱処理によって得られた樹脂フィルムのTgを表1に示す。
(2)未硬化樹脂複合体の調製
前記均一溶液(加熱硬化性溶液組成物)を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの表面に流延し、そこに80mm×100mmの炭素繊維クロス(東レ(株)製T300−3K平織、FAW198g/m2)を重ね、これをその未流延面が下側となるように40℃に加熱したホットプレート上に置いた。次いで、炭素繊維クロスの表面を軽く押しながら、溶液をクロスに含浸させた。次に、PETフィルムから溶液含浸炭素繊維クロスを剥がし取り、100℃の熱風乾燥機内に吊るし、3分間乾燥させた。その後、乾燥させた溶液含浸炭素繊維クロスを乾燥機から取り出し、25μmのPETフィルムで両側から挟み、80℃のプレスを用いて0.1MPaで1分間加圧し、未硬化樹脂複合体を得た。
(3)樹脂成形体の成形
得られた未硬化樹脂複合体を135℃で30分、180℃で30分、250℃で30分、300℃で30分、そして370℃で60分連続的に熱処理して、樹脂成形体(硬化体)を得た。
前記(2)と(3)の未硬化樹脂複合体から樹脂成形体を成形した時の測定データに基づいて、前記未硬化樹脂複合体の揮発分率(Vc)と樹脂含有率(Rc)を求めた。VcとRcの測定値を表2に示す。
【0043】
[実施例2]
(1)加熱硬化性溶液組成物の調製
ジアミン成分をTPE−R4.39g(0.0150モル)そしてPPD3.78g(0.0350モル)とし、エタノールを11.72gとした以外は実施例1(1)と同様にして均一溶液を(加熱硬化性溶液組成物)得た。また、この均一溶液を用いて実施例1(1)と同様にして厚みが約0.1mmの樹脂フィルムを得た。
この均一溶液の粘度および該均一溶液から熱処理によって得られた樹脂フィルムのTgを表1に示す。
(2)未硬化樹脂複合体の調製
前記均一溶液を用いて実施例1(2)と同様にして未硬化樹脂複合体を得た。
この未硬化樹脂複合体については動的粘弾性を測定した。動的粘弾性を図1に示す。
(3)樹脂成形体の成形
得られた未硬化樹脂複合体を用いて実施例1(3)と同様にして樹脂成形体(硬化体)を得た。
前記(2)と(3)の未硬化樹脂複合体から樹脂成形体を成形した時の測定データに基づいて、前記未硬化樹脂複合体の揮発分率(Vc)と樹脂含有率(Rc)を求めた。VcとRcの測定値を表2に示す。
【0044】
[実施例3]
(1)加熱硬化性溶液組成物の調製
酸成分をa−BPDA5.89g(0.0200モル)、s−BPDA5.89g(0.0200モル)、そしてPEPA4.97g(0.0200モル)とし、エタノールを12.37gとした以外は実施例1(1)と同様にして均一溶液(加熱硬化性溶液組成物)を得た。また、この均一溶液を用いて実施例1(1)と同様にして厚みが約0.1mmの樹脂フィルムを得た。
この均一溶液の粘度および該均一溶液から熱処理によって得られた樹脂フィルムのTgを表1に示す。
(2)未硬化樹脂複合体の調製
前記均一溶液を用いて実施例1(2)と同様にして未硬化樹脂複合体を得た。
(3)樹脂成形体の成形
得られた未硬化樹脂複合体を用いて実施例1(3)と同様にして樹脂成形体(硬化体)を得た。
前記(2)と(3)の未硬化樹脂複合体から樹脂成形体を成形した時の測定データに基づいて、前記未硬化樹脂複合体の揮発分率(Vc)と樹脂含有率(Rc)を求めた。VcとRcの測定値を表2に示す。
【0045】
[実施例4]
(1)加熱硬化性溶液組成物の調製
酸成分をa−BPDA3.53g(0.01200モル)、s−BPDA8.24g(0.0280モル)、そしてPEPA4.97g(0.0200モル)とし、エタノールを11.27gとした以外は実施例1(1)と同様にして均一溶液(加熱硬化性溶液組成物)を得た。また、この均一溶液を用いて実施例1(1)と同様にして厚みが約0.1mmの樹脂フィルムを得た。
この均一溶液の粘度および該均一溶液から熱処理によって得られた樹脂フィルムのTgを表1に示す。
(2)未硬化樹脂複合体の調製
前記均一溶液を用いて実施例1(2)と同様にして未硬化樹脂複合体を得た。
(3)樹脂成形体の成形
得られた未硬化樹脂複合体を用いて実施例1(3)と同様にして樹脂成形体(硬化体)を得た。
前記(2)と(3)の未硬化樹脂複合体から樹脂成形体を成形した時の測定データに基づいて、前記未硬化樹脂複合体の揮発分率(Vc)と樹脂含有率(Rc)を求めた。VcとRcの測定値を表2に示す。
【0046】
[実施例5]
(1)加熱硬化性溶液組成物の調製
ジアミン成分をTPE−R2.07g(0.0070モル)そしてMPD4.66g(0.0430モル)とし、エタノールを12.64gとした以外は実施例1(1)と同様にして均一溶液(加熱硬化性溶液組成物)を得た。また、この均一溶液を用いて実施例1(1)と同様にして厚みが約0.1mmの樹脂フィルムを得た。
この均一溶液の粘度および該均一溶液から熱処理によって得られた樹脂フィルムのTgを表1に示す。
(2)未硬化樹脂複合体の調製
前記均一溶液を用いて実施例1(2)と同様にして未硬化樹脂複合体を得た。
(3)樹脂成形体の成形
得られた未硬化樹脂複合体を用いて実施例1(3)と同様にして樹脂成形体(硬化体)を得た。
前記(2)と(3)の未硬化樹脂複合体から樹脂成形体を成形した時の測定データに基づいて、前記未硬化樹脂複合体の揮発分率(Vc)と樹脂含有率(Rc)を求めた。VcとRcの測定値を表2に示す。
【0047】
この例では、さらに以下の(4)〜(7)の方法によって樹脂成形体を形成した。
(4)樹脂成形体の成形
炭素繊維クロス(東レ(株)製T300−3K平織、FAW198g/m2)を窒素置換した熱風オーブン中にて350℃で30分加熱処理し、この熱処理前後の重量変化から0.7質量%のサイジング剤が除去できたことを確認した。次に、この熱処理後の炭素繊維クロスと実施例5(1)の均一溶液を用いて、実施例5(2)及び(3)の方法により未硬化樹脂複合体を調製し次いで樹脂成形体を得た。
前記未硬化樹脂複合体から樹脂成形体を成形した時の測定データに基づいて、前記未硬化樹脂複合体の揮発分率(Vc)と樹脂含有率(Rc)を求めた。Vcは15質量%であり、Rcは39質量%であった。
(5)樹脂成形体の成形
ガラス繊維クロス(日東紡績(株)製WF350−100−BS6平織、FAW328g/m2)と実施例5(1)の均一溶液を用いて、実施例5(2)及び(3)の方法により未硬化樹脂複合体を調製し次いで樹脂成形体を得た。
前記未硬化樹脂複合体から樹脂成形体を成形した時の測定データに基づいて、前記未硬化樹脂複合体の揮発分率(Vc)と樹脂含有率(Rc)を求めた。Vcは15質量%であり、Rcは39質量%であった。
(6)樹脂成形体の成形
チラノ繊維クロス(宇部興産(株)製PM−S17E08PX平織、FAW328g/m2)と実施例5(1)の均一溶液を用いて、実施例5(2)及び(3)の方法により未硬化樹脂複合体を調製し次いで樹脂成形体を得た。
前記未硬化樹脂複合体から樹脂成形体を成形した時の測定データに基づいて、前記未硬化樹脂複合体の揮発分率(Vc)と樹脂含有率(Rc)を求めた。Vcは16質量%であり、Rcは39質量%であった。
(7)樹脂成形体の成形
実施例5(1)で得た均一溶液10gをメチルエチルケトン2.5gで希釈した。希釈液は均一溶液であった。次いで、この希釈された均一溶液を用いたこと以外は実施例5(2)及び(3)と同様にして未硬化樹脂複合体を調製し次いで樹脂成形体を得た。
前記未硬化樹脂複合体から樹脂成形体を成形した時の測定データに基づいて、前記未硬化樹脂複合体の揮発分率(Vc)と樹脂含有率(Rc)を求めた。Vcは15質量%であり、Rcは39質量%であった。
【0048】
[実施例6]
(1)加熱硬化性溶液組成物の調製
酸成分をa−BPDA11.06g(0.0376モル)そしてPEPA16.55g(0.0667モル)とし、ジアミン成分をTPE−R10.38g(0.0355モル)そしてMPD3.84g(0.0355モル)とし、エタノールを17.09gとした以外は実施例1(1)と同様にして均一溶液(加熱硬化性溶液組成物)を得た。また、この均一溶液を用いて実施例1(1)と同様にして厚みが約0.1mmの樹脂フィルムを得た。
この均一溶液の粘度および該均一溶液から熱処理によって得られた樹脂フィルムのTgを表1に示す。
(2)未硬化樹脂複合体の調製
前記均一溶液を用いて実施例1(2)と同様にして未硬化樹脂複合体を得た。
(3)樹脂成形体の成形
得られた未硬化樹脂複合体を用いて実施例1(3)と同様にして樹脂成形体(硬化体)を得た。
前記(2)と(3)の未硬化樹脂複合体から樹脂成形体を成形した時の測定データに基づいて、前記未硬化樹脂複合体の揮発分率(Vc)と樹脂含有率(Rc)を求めた。VcとRcの測定値を表2に示す。
【0049】
[実施例7]
(1)加熱硬化性溶液組成物の調製
酸成分をa−BPDA15.59g(0.0530モル)そしてPEPA23.33g(0.0940モル)とし、ジアミン成分をTPE−R14.62g(0.0500モル)、PPD2.70g(0.0250モル)そしてMPD2.70g(0.0250モル)とし、エタノールを25.26gとした以外は、実施例1(1)と同様にして、均一溶液(加熱硬化性溶液組成物)を得た。また、この均一溶液を用いて実施例1(1)と同様にして厚みが約0.1mmの樹脂フィルムを得た。
この均一溶液の粘度および該均一溶液から熱処理によって得られた樹脂フィルムのTgを表1に示す。
(2)未硬化樹脂複合体の調製
前記均一溶液を用いて実施例1(2)と同様にして未硬化樹脂複合体を得た。
(3)樹脂成形体の成形
得られた未硬化樹脂複合体を用いて実施例1(3)と同様にして樹脂成形体(硬化体)を得た。
前記(2)と(3)の未硬化樹脂複合体から樹脂成形体を成形した時の測定データに基づいて、前記未硬化樹脂複合体の揮発分率(Vc)と樹脂含有率(Rc)を求めた。VcとRcの測定値を表2に示す。
【0050】
[実施例8]
(1)加熱硬化性溶液組成物の調製
ジアミン成分をPPD5.41g(0.0500モル)とし、エタノールを14.46gとした以外は実施例1(1)と同様にして均一溶液(加熱硬化性溶液組成物)を得た。また、この均一溶液を用いて実施例1(1)と同様にして厚みが約0.1mmの樹脂フィルムを得た。
この均一溶液の粘度および該均一溶液から熱処理によって得られた樹脂フィルムのTgを表1に示す。
(2)未硬化樹脂複合体の調製
前記均一溶液を用いて実施例1(2)と同様にして未硬化樹脂複合体を得た。
(3)樹脂成形体の成形
得られた未硬化樹脂複合体を用いて実施例1(3)と同様にして樹脂成形体(硬化体)を得た。
前記(2)と(3)の未硬化樹脂複合体から樹脂成形体を成形した時の測定データに基づいて、前記未硬化樹脂複合体の揮発分率(Vc)と樹脂含有率(Rc)を求めた。VcとRcの測定値を表2に示す。
【0051】
[実施例9]
(1)加熱硬化性溶液組成物の調製
撹拌機と還流管および窒素導入管を装着した2000mLの四つ口セパラブルフラスコに窒素気流下、酸成分としてa−BPDA294.22g(1.000モル)、PEPA124.12g(0.500モル)およびメタノール415.06gを投入し、還流下5時間撹拌し、均一溶液を得た(約3時間後に均一溶液になったが更に約2時間還流を続けた)。その後、室温まで冷却し、撹拌しながらジアミン成分としてTPE−R109.63g(0.375モル)およびPPD94.62g(0.875モル)を投入し、60℃で60分溶解して均一溶液(加熱硬化性溶液組成物)を得た。
この均一溶液を用いて実施例1(1)と同様にして厚みが約0.1mmの樹脂フィルムを得た。
この均一溶液の粘度および該均一溶液から熱処理によって得られた樹脂フィルムのTgを表1に示す。
(2)未硬化樹脂複合体の調製
前記均一溶液を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの表面に流延し、そこに320mm×320mmの炭素繊維クロス(東レ(株)製T800−12K平織、FAW320g/m2)を重ね、これをその未流延面が下側となるように40℃に加熱したホットプレート上に置いた。次いで、炭素繊維クロスの表面を軽く押しながら、溶液をクロスに含浸させた。次に、PETフィルムから溶液含浸炭素繊維クロスを剥がし取り、90℃の熱風乾燥機内に吊るし、6分間乾燥させた。その後、乾燥させた溶液含浸炭素繊維クロスを乾燥機から取り出し、25μmのPETフィルムに挟み、80℃のプレスを用いて0.1MPaで1分間加圧し、未硬化樹脂複合体を得た。
この未硬化樹脂複合体は、良好なタック性及びドレープ性を有していた。
この未硬化樹脂複合体については動的粘弾性を測定した。動的粘弾性を図1に示す。
(3)樹脂成形体の成形
得られた未硬化樹脂複合体を135℃で30分、180℃で30分、250℃で30分
、300℃で30分、そして370℃で60分連続的に熱処理して、樹脂成形体(硬化体)を得た。
前記(2)と(3)の未硬化樹脂複合体から樹脂成形体を成形した時の測定データに基づいて、前記未硬化樹脂複合体の揮発分率(Vc)と樹脂含有率(Rc)を求めた。VcとRcの測定値を表2に示す。
【0052】
[実施例10]
(1)加熱硬化性溶液組成物の調製
実施例9(1)と同じ装置に、酸成分としてa−BPDA294.22g(1.000モル)とPEPA124.12g(0.500モル)、そして2−メチルイミダゾール1.25gとメタノール415.06gを投入し、還流下3時間撹拌し、均一溶液を得た(約1時間後に均一溶液になったが更に約2時間還流を続けた)。その後、室温まで冷却し、撹拌しながら、ジアミン成分としてTPE−R109.63g(0.375モル)およびPPD94.62g(0.875モル)を投入し、60℃で60分溶解し、均一溶液樹(加熱硬化性溶液組成物)を得た。
得られた溶液の1H−NMRを測定した。1H−NMRの結果を図2に示す。
この均一溶液を用いて実施例1(1)と同様にして厚みが約0.1mmの樹脂フィルムを得た。
この均一溶液の粘度および該均一溶液から熱処理によって得られた樹脂フィルムのTgを表1に示す。
更に、この樹脂フィルムのTg以外の特性値は以下の通りであった。
引張り強度 :127MPa(23℃、ASTM D 882準拠)
引張り弾性率 :2.8GPa(23℃、ASTM D 882準拠)
破断伸び :13%(23℃、ASTM D 882準拠)
吸水率 :2.2%(23℃、飽和吸水、ASTM D 570準拠)
熱分解温度 :563℃
線膨張係数 :51ppm
(2)未硬化樹脂複合体の調製
前記均一溶液を用いて実施例1(2)と同様にして未硬化樹脂複合体を得た。
(3)樹脂成形体の成形
得られた未硬化樹脂複合体を用いて実施例1(3)と同様にして樹脂成形体(硬化体)を得た。
前記(2)と(3)の未硬化樹脂複合体から樹脂成形体を成形した時の測定データに基づいて、前記未硬化樹脂複合体の揮発分率(Vc)と樹脂含有率(Rc)を求めた。VcとRcの測定値を表2に示す。
【0053】
[実施例11]
(1)加熱硬化性溶液組成物の調製
実施例9(1)と同じ装置に、酸成分としてa−BPDA294.22g(1.000モル)とPEPA124.12g(0.500モル)、そして2−メチルイミダゾール1.25gとn−プロパノール415.06gを投入し、還流下3時間撹拌し、均一溶液を得た(約1時間後に均一溶液になったが更に約2時間還流を続けた)。その後、室温まで冷却し、撹拌しながら、ジアミン成分としてTPE−R109.63g(0.375モル)およびPPD94.62g(0.875モル)60℃で60分溶解して均一溶液(加熱硬化性溶液組成物)を得た。また、この均一溶液を用いて実施例1(1)と同様にして厚みが約0.1mmの樹脂フィルムを得た。
この均一溶液の粘度および該均一溶液から熱処理によって得られた樹脂フィルムのTgを表1に示す。
(2)未硬化樹脂複合体の調製
前記均一溶液を用いて、乾燥を100℃、15分間行ったこと以外は実施例9(2)と同様に行って未硬化樹脂複合体を得た。
この未硬化樹脂複合体は、良好なタック性及びドレープ性を有していた。
この未硬化樹脂複合体については動的粘弾性を測定した。動的粘弾性を図1に示す。
(3)樹脂成形体の形成
得られた未硬化樹脂複合体を実施例9(3)と同様の方法によって樹脂成形体(硬化体)を得た。
前記(2)と(3)の未硬化樹脂複合体から樹脂成形体を成形した時の測定データに基づいて、前記未硬化樹脂複合体の揮発分率(Vc)と樹脂含有率(Rc)を求めた。VcとRcの測定値を表2に示す。
【0054】
表1:加熱硬化性溶液組成物の濃度と溶液粘度、及び該溶液組成物から得られる樹脂フィルムのTg
────────────────────────────────────
溶液中の全モノマー 溶液粘度 熱処理後のTg
含有量(質量%) (ポイズ) (℃)
────────────────────────────────────
実施例1 66 105 323
実施例2 68 112 365
実施例3 68 107 319
実施例4 70 106 321
実施例5 65 107 342
実施例6 71 115 317
実施例7 70 110 336
実施例8 60.5 106 *1
実施例9 60 2.0 357
実施例10 60 2.2 357
実施例11 60 113 357
────────────────────────────────────
*1:400℃以下では明瞭なTgは観察されなかった。
【0055】
表2:未硬化樹脂複合体の揮発分率(Vc)と樹脂含有率(Rc)
────────────────────────────────────
使用した均一溶液 Vc(質量%) Rc(質量%)
────────────────────────────────────
実施例1 16 39
実施例2 15 39
実施例3 16 40
実施例4 15 39
実施例5 15 38
実施例6 15 39
実施例7 16 39
実施例8 15 39
実施例9 13 41
実施例10 13 41
実施例11 14 36
────────────────────────────────────
【0056】
さらに、本発明の未硬化樹脂複合体を用いて、図4に示すような樹脂成形体を製造する方法について、以下の実施例12、13で説明する。
[実施例12]
実施例5(2)の未硬化樹脂複合体を50mm×60mmに裁断し、これを16枚積層した。そして、図4に示すように耐熱性バッグに収容し、このバッグの一方の端部を熱圧着により封止してプレス装置に挟み、図5〜7に示す真空度と加熱温度との履歴になるようにバッグの内部の真空度と加熱温度とを調節しながら加熱と加圧を行い、樹脂成形体を得た。
得られた樹脂成形体をASTM D2344の規定に準拠する方法で23℃における層間剪断強度を測定したところ、60MPaの値を示した。なお、樹脂成形体を超音波探傷法により調べたが、重大な欠陥は観察されなかった。
【0057】
[実施例13]
実施例9(2)で得られた未硬化樹脂複合体を300mm×300mmに裁断し、これを12枚重ねた。そして、図4に示すように耐熱性バッグに収容し、このバッグの一方の端部を熱圧着により封止してプレス装置に挟み、図8〜10に示す真空度と加熱温度との履歴になるようにバッグ内部の真空度と加熱温度の調節を行ないながら、加熱と加圧を行い、樹脂成形体を得た。
得られた樹脂成型体の炭素繊維含有率は59質量%、ボイド含有率は0.5質量%であり、超音波探傷法で調べた結果、欠陥は観察されなかった。なお、炭素繊維含有率及びボイド含有率はASTM D3171に準拠して測定した。
得られた樹脂成形体の機械的特性値を表3に示す。
【0058】
表3:樹脂成形体の機械的特性
【0059】
【表1】

【0060】
更に得られた樹脂成型体を357℃、6時間熱風オーブンで後硬化した熱処理樹脂成型品の機械的特性値を表4に示す。
【0061】
表4:樹脂成型体の熱処理後の機械的特性
【0062】
【表2】

【0063】
さらに、加熱硬化性粉末組成物の調製、前記加熱硬化性粉末組成物を用いた加熱硬化性溶液組成物や未硬化樹脂複合体の調製、次いで樹脂成形体を形成する方法について、以下の実施例14、15で説明する。
[実施例14]
(1)加熱硬化性粉末組成物の調製
実施例10(1)で得られた均一溶液(加熱硬化性溶液組成物)を500mLのナス型フラスコに40.00g取り分け40℃に設定した水浴に浸けてエバポレータで3時間減圧下に加熱してメタノールを除去し粉末組成物(加熱硬化性粉末組成物)を得た。
得られた粉末を次のようにして評価した。すなわち、300mm×300mm、厚みが2mmのステンレス製板の上に同じ大きさのポリイミドフィルム、その上に同じ大きさの通気性のテフロン/ガラスシート、更にその上に幅が50mm、長さが100mm、厚みが3mmのステンレス製の枠を置き、得られた粉末をその枠の中に入れ、次いで通気性のテフロン/ガラスシート、ポリイミドフィルム、ステンレス製板の順で蓋をし、高温真空プレス(北川精機(株)製KVHC−PRESS)で加圧操作および真空操作をせずに室温から3時間で250℃に加熱しその温度で2時間保持した。その後、2Torrまで真空とし30分保持後5MPaの圧力で加圧し24分で370℃まで温度を上げ更に1時間保持した。その後、真空および加圧した状態で30℃まで冷却し幅が50mm、長さ100mm、厚み3mmの樹脂板を得た。
この樹脂板を50mm×50mmに切削し熱処理による重量減少を測定した。
熱処理による重量減少:0.60%(300℃、500時間、空気中処理後)
0.15%(275℃、500時間、空気中処理後)
【0064】
[実施例15]
(1)加熱硬化性粉末組成物の調製
実施例10(1)で得られた均一溶液(加熱硬化性溶液組成物)を300mLのナス型フラスコに20.00g取り分け40℃に設定した水浴に浸けてエバポレータで3時間減圧下に加熱してメタノールを除去し14.2gの粉末組成物(加熱硬化性粉末組成物)を得た。
得られた粉末組成物の1H−NMRの測定結果を図3に示す。
(2)加熱硬化性粉末組成物から加熱硬化性溶液組成物の調製
得られた粉末組成物(加熱硬化性粉末組成物)13.78gをエタノール4.59gに溶解したところ均一溶液(加熱硬化性溶液組成物)が得られた。
(3)未硬化樹脂複合体の調製
このエタノールで溶解した均一溶液を用いて実施例1(2)と同様にして未硬化樹脂複合体を得た。
得られた未硬化樹脂複合体は、良好なタック性及びドレープ性を有していた。
得られた未硬化樹脂複合体は動的粘弾性測定を行った。動的粘弾性を図1に示す。
(4)樹脂成形体の形成
得られた未硬化樹脂複合体を用いて、実施例1(3)と同様にして、樹脂成形体(硬化体)を得た。
前記(3)と(4)の未硬化樹脂複合体から樹脂成形体を成形した時の測定データに基づいて、前記未硬化樹脂複合体の揮発分率(Vc)と樹脂含有率(Rc)を求めた。Vcは15%、Rcは41%であった。
【0065】
(5)加熱硬化性溶液組成物の溶液粘度の濃度依存性、及び溶液粘度の温度依存性
実施例14(1)で得られた加熱硬化性粉末組成物を種々の濃度でエタノールに溶解して均一溶液を得た。この均一溶液の濃度と溶液粘度との関係を表5に示す。
【0066】
表5:加熱硬化性溶液組成物の溶液粘度の濃度依存性
────────────────────────────────────
粉末組成物濃度 溶液粘度 イミド成分濃度
(質量%) (30℃、ポイズ) (質量%)
────────────────────────────────────
50 0.3 40
62.5 1.9 50
75 54 60
────────────────────────────────────
注:イミド成分濃度は、粉末組成物(加熱硬化性粉末組成物)を完全にイミド化し、水
、メタノールを完全に除去するために250℃で30分間加熱処理して生成したイミド樹
脂の重量を測定して、粉末組成物からイミド樹脂への減少割合を算出し、この減少割合を
粉末組成物濃度に適用した結果得られた値である。
イミド成分濃度(%)=粉末組成物濃度(%)×(1−減少割合)
【0067】
さらに、実施例14(1)で得られた加熱硬化性粉末組成物からなる加熱硬化性溶液組成物(濃度62.5質量%のエタノール溶液)の溶液粘度の温度依存性について測定した結果を表6に示す。
【0068】
表6:加熱硬化性溶液組成物の溶液粘度の濃度依存性、及び溶液粘度の温度依存性
────────────────────────────────────
温度(℃) 溶液粘度(ポイズ、30℃)
────────────────────────────────────
20 4.5
30 1.9
40 1.0
50 0.6
────────────────────────────────────
【0069】
[比較例1]
実施例1において、酸成分としてa−BPDA(0.0400モル)の代わりにs−BPDA11.77g(0.0400モル)を用いて均一溶液を得た。この溶液の一部を実施例1(1)と同様にポリイミドフィルムの表面に流延し、80℃で30分、135℃で30分、180℃で30分、250℃で30分、300℃で30分、そして370℃で60分連続的に熱処理して樹脂フィルムを得ようとしたが、樹脂が不透明になり且つ非常に脆くなったため、フィルムを形成することができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】未硬化樹脂複合体の動的粘弾性測定結果(温度と複素粘度の関係)を示す。
【図2】実施例10(1)の加熱硬化性溶液組成物の1H−NMR測定スペクトルを示す。
【図3】実施例15(1)の加熱硬化性粉末組成物の1H−NMR測定スペクトルを示す。
【図4】未硬化樹脂複合体から硬化成形体を製造する方法の例を示す。
【図5】未硬化樹脂複合体から硬化成形体を製造する方法において、真空加熱操作の際の真空度と加熱温度とを段階的に変えて加熱する方法の温度パターンの一例を示すパターン図である。
【図6】未硬化樹脂複合体から硬化成形体を製造する方法において、真空加熱操作の際の真空度と加熱温度とを段階的に変えて加熱する方法の真空度パターンの一例を示すパターン図である。
【図7】未硬化樹脂複合体から硬化成形体を製造する方法において、真空加熱操作の際の真空度と加熱温度とを段階的に変えて加熱する方法の加圧パターンの一例を示すパターン図である。
【図8】未硬化樹脂複合体から硬化成形体を製造する方法において、真空加熱操作の際の真空度と加熱温度とを段階的に変えて加熱する方法の他の温度パターンの一例を示すパターン図である。
【図9】未硬化樹脂複合体から硬化成形体を製造する方法において、真空加熱操作の際の真空度と加熱温度とを段階的に変えて加熱する方法の他の真空度パターンの一例を示すパターン図である。
【図10】未硬化樹脂複合体から硬化成形体を製造する方法において、真空加熱操作の際の真空度と加熱温度とを段階的に変えて加熱する方法の他の加圧パターンの一例を示すパターン図である。
【符号の説明】
【0071】
11 未硬化樹脂複合体もしくはその積層体
12a、12b 通気性のテフロン/ガラスシート
13a、13b 離型フィルム
14a、14b 耐熱性不織布(スポンジ材)
15 耐熱性バッグ(袋)
16 耐熱性バッグ(袋)の一方の端部(ヒートシール部)
17 真空引き口
18 加熱プレス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフェニルテトラカルボン酸化合物の全体量に対して少なくとも15モル%の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステル及び/又は2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステルを含むビフェニルテトラカルボン酸化合物、ビフェニルテトラカルボン酸化合物に対して化学量論的に過剰モル量の芳香族ジアミン化合物、そして芳香族ジアミン化合物のモル量とビフェニルテトラカルボン酸化合物のモル量との差に相当するモル量の1.8倍乃至2.2倍のモル量の4−(2−フェニルエチニル)フタル酸の部分低級脂肪族アルキルエステルを含む4−(2−フェニルエチニル)フタル酸化合物を低級脂肪族アルコールを主成分とする有機溶媒に溶解してなる加熱硬化性溶液組成物。
【請求項2】
低級脂肪族アルコールがメタノールもしくはエタノールである請求項1に記載の加熱硬化性溶液組成物。
【請求項3】
部分低級脂肪族アルキルエステルが部分メチルエステルあるいは部分エチルエステルである請求項1に記載の加熱硬化性溶液組成物。
【請求項4】
4−(2−フェニルエチニル)フタル酸化合物のモル量が、芳香族ジアミン化合物のモル量とビフェニルテトラカルボン酸化合物のモル量との差に相当するモル量の1.95倍乃至2.05倍のモル量である請求項1乃至3のうちのいずれかの項に記載の加熱硬化性溶液組成物。
【請求項5】
ビフェニルテトラカルボン酸化合物、芳香族ジアミン化合物、そして4−(2−フェニ
ルエチニル)フタル酸化合物の合計量が30〜80質量%の範囲にある請求項1乃至3の
うちのいずれかの項に記載の加熱硬化性溶液組成物。
【請求項6】
ビフェニルテトラカルボン酸化合物が、ビフェニルテトラカルボン酸化合物の全体量に対して50モル%を超える量の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステルを含む2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸化合物である請求項1乃至3のうちのいずれかの項に記載の加熱硬化性溶液組成物。
【請求項7】
芳香族ジアミン化合物が、芳香族ジアミン化合物の全体量に対して50モル%を超える量の単一の芳香環からなる芳香族ジアミンを含む請求項1乃至3のうちのいずれかの項に記載の加熱硬化性溶液組成物。
【請求項8】
芳香族ジアミン化合物がパラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、もしくはそれらの混合物である請求項1乃至3のうちのいずれかの項に記載の加熱硬化性溶液組成物。
【請求項9】
さらにイミダゾール化合物を含む請求項1乃至3のうちのいずれかの項に記載の加熱硬化性溶液組成物。
【請求項10】
ビフェニルテトラカルボン酸化合物の全体量に対して少なくとも15モル%の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分メチルエステル及び/又は2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分メチルエステルを含むビフェニルテトラカルボン酸化合物、ビフェニルテトラカルボン酸化合物に対して化学量論的に過剰モル量の芳香族ジアミン化合物、そして芳香族ジアミン化合物のモル量とビフェニルテトラカルボン酸化合物のモル量との差に相当するモル量の1.8倍乃至2.2倍のモル量の4−(2−フェニルエチニル)フタル酸の部分メチルエステルを含む4−(2−フェニルエチニル)フタル酸化合物をエタノールを主成分とする有機溶媒に溶解してなる加熱硬化性溶液組成物。
【請求項11】
ビフェニルテトラカルボン酸化合物の全体量に対して少なくとも15モル%の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステル及び/又は2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸の部分低級脂肪族アルキルエステルを含むビフェニルテトラカルボン酸化合物、ビフェニルテトラカルボン酸化合物に対して化学量論的に過剰モル量の芳香族ジアミン化合物、そして芳香族ジアミン化合物のモル量とビフェニルテトラカルボン酸化合物のモル量との差に相当するモル量の1.8倍乃至2.2倍のモル量の4−(2−フェニルエチニル)フタル酸の部分低級脂肪族アルキルエステルを含む4−(2−フェニルエチニル)フタル酸化合物からなる加熱硬化性粉末組成物。
【請求項12】
部分低級脂肪族アルキルエステルが部分メチルエステルである請求項11に記載の加熱
硬化性粉末組成物。
【請求項13】
請求項1乃至3のうちのいずれかの項に記載の加熱硬化性溶液組成物が高強度繊維のシ
ート状マトリックス材料に含浸されてなる未硬化樹脂複合体。
【請求項14】
請求項10に記載の加熱硬化性溶液組成物が高強度繊維のシート状マトリックス材料に
含浸されてなる未硬化樹脂複合体。
【請求項15】
請求項13乃至14に記載の未硬化樹脂複合体を複数枚積層し、加圧下に加熱して硬化させることを特徴とする樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−308519(P2007−308519A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127770(P2006−127770)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】