説明

加熱装置

【課題】半導体製造プロセスにおいて被加熱物を均一に加熱することのできる加熱装置を提供する。
【解決手段】加熱装置10は、加熱面を有するセラミックス基体11と、このセラミックス基体11の内部に埋設された発熱体12とを備える。このセラミックス基体11内部における加熱面11aと前記発熱体12との間に、熱伝導性部材14を有している。熱伝導性部材14は、セラミックス基体よりも高い熱伝導率を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体のウエハ等の加熱に用いられる加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程では、半導体製造装置を用いてウエハ上へ酸化膜等を形成するために、加熱処理が施される。この半導体製造装置における、ウエハの加熱装置の一例としては、被加熱物がセットされる加熱面を有する円盤状のセラミックス基体を備え、このセラミックス基体中に抵抗発熱体が埋設されているセラミックスヒータがある。このセラミックスヒータの抵抗発熱体は、セラミックス基体の内部に埋設され、この抵抗発熱体に電力が供給されることによって、上記加熱面を発熱させる。
【0003】
このようなセラミックスヒータは、被加熱物としてのウエハを、所定の加熱温度に安定して維持するように加熱できることが求められる。また、ウエハの面内で均一に加熱できることが求められる。そのため、セラミックスヒータは、抵抗発熱体の平面的な配線に工夫を加えたり、円盤状のセラミックス基体における加熱面とは反対側の面に、温度調節部材としてバルク状のヒートシンクを取り付けたりしたものがある。このバルク状のヒートシンクは、セラミックス基体から熱を迅速に逃がすことができる。そのため、加熱面における局部的な温度上昇を抑制することができ、このことが、加熱面の面内にわたってウエハを均一に加熱することに寄与する。
【0004】
このバルク状のヒートシンクと、セラミックス基体とが、例えば、シリコーン樹脂の接着層により接合された加熱装置がある。しかし、シリコーン樹脂は、耐熱性が低いことから、加熱装置の使用温度が制限される。また、シリコーン樹脂は、熱伝導性に劣ることから、ウエハを均一に加熱維持するのにも限界があった。
【0005】
そこで、バルク状のヒートシンクとセラミックス基体とが、アルミニウム合金の熱圧接により形成された接合層により接合された加熱装置がある(特許文献1)。
【特許文献1】特開平9−249465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このアルミニウム合金の熱圧接により形成された接合層による加熱装置によっても、セラミックス基体の加熱面における面内の加熱温度の均一性は、必ずしも十分ではなかった。特に、抵抗発熱体への入熱量が大きくなった場合や、セラミックス基体が熱伝導率の低い材料からなる場合には、加熱の均一性(均熱性)が悪化し、よって、この加熱装置により加熱されるウエハの表面温度の均一性も悪化していた。ウエハの表面温度の均一性が悪化したのでは、ウエハに施される成膜やエッチングの面内均一性が低下し、半導体デバイスの製造時における歩留りが低下してしまう。
【0007】
そこで、本発明は、上記の問題を有利に解決するものであり、加熱面における均熱性を改善し、これにより、加熱面に取り付けられた被加熱物を面内で均一に加熱することのできる加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の加熱装置は、加熱面を有するセラミックス基体と、このセラミックス基体の内部に埋設された発熱体とを備える加熱装置であって、このセラミックス基体内部における加熱面と前記発熱体との間に、熱伝導性部材を有し、上記熱伝導性部材の熱伝導率が、セラミックス基体の熱伝導率よりも高いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の加熱装置によれば、加熱面に取り付けられた被加熱物を面内で均一に加熱することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の加熱装置の実施例について図面を用いて説明する。
【0011】
図1は、本発明の加熱装置に係る一実施例を示す断面図である。なお、以下に述べる図面では、加熱装置の各構成要素の理解を容易にするために、各構成要素が、現実の加熱装置とは寸法比率を異ならせて描かれている。したがって、本発明に係る加熱装置は、図面に図示された加熱装置の寸法比率に限定されるものではない。
【0012】
図1に示された本実施例の加熱装置10は、円盤形状のセラミックス基体11を有している。このセラミックス基体11は、例えば、アルミナ(Al)系セラミックスや窒化アルミニウム(AlN)系セラミックスからなる。
【0013】
この円盤形状を有するセラミックス基体11の一方の平面部は、被加熱物としての例えばウエハ(図示せず)をセットし加熱するための加熱面11aとなる。このセラミックス基体11の内部において、加熱面11aとは反対側である背面11b寄りに、抵抗発熱体12が埋設されている。
【0014】
この抵抗発熱体12に接続するヒータ端子13がセラミックス基体の背面11bから挿入されている。このヒータ端子13に接続される、図示しない外部電源から、電力を抵抗発熱体12に供給することにより、抵抗発熱体12が発熱し、生じた熱が抵抗発熱体12からセラミックス基体11の加熱面11aに向けてセラミックス基体11内を移動する。これにより、加熱面11aにセットされたウエハを加熱することが可能となる。
【0015】
セラミックス基体11の背面11bに密着して、温度調節部材21がセラミックス基体11に取り付けられている。図示した例では、セラミックス基体11の周縁部に形成された複数のボルト孔の各々にボルト23が挿入され、このボルト23が、温度調節部材21に形成されたねじ孔にねじ結合することによりセラミックス基体11と温度調節部材21とは締結固定されている。また、このセラミックス基体11と温度調節部材21との固定は、樹脂接着剤による接着でもよい。
【0016】
この温度調節部材21は、セラミックス基体11の熱が伝導されて、抜熱することができる材料として、熱伝導性が良好な金属材料、例えばバルク状のアルミニウムからなっている。この温度調節部材21による抜熱効果を向上させるため、この温度調節部材21の内部には、冷媒が通過可能な流体流動孔21aが形成されている。また、温度調節部材21には、ヒータ端子13を挿通可能な端子孔21bが形成されているとともに、この端子孔21bの内壁に接して管状の絶縁部材22Bが挿設されている。この絶縁部材22Bは、絶縁部材22Bの内周面側に挿通されるヒータ端子13と、金属材料よりなる温度調節部材21とを絶縁している。
【0017】
本実施形態の加熱装置10の特徴的な構造の一つは、セラミックス基体11の加熱面11aと、セラミックス基体11の内部に埋設された抵抗発熱体12との間に、熱伝導性部材14が配設されていることである。図示した本実施形態においては、熱伝導性部材は、加熱面11aとほぼ同じ平面形状、直径を有する薄板形状であり、加熱面11aとほぼ平行に配設されている。この熱伝導性部材14は、セラミックス基体11よりも高い熱伝導率を有している。
【0018】
本実施形態の加熱装置10は、この熱伝導性部材14を具備することにより、次の効果が得られる。抵抗発熱体12に電力が供給されて当該抵抗発熱体12が発熱すると、発生した熱の一部はセラミックス基体11の加熱面11aに向けて移動する。加熱面11aに向かう途中で、熱伝導性部材14に到達した熱は、熱伝導性部材14から加熱面11aに向けて移動するばかりでなく、この熱伝導性部材14の内部でその平面方向に拡散移動する。この熱伝導性部材14の平面方向への熱の拡散移動により、加熱面11aに向かう熱量は熱伝導性部材14の平面方向で平均化される。そのため、この熱伝導性部材14から加熱面11aに向かう熱もまた、加熱面11aの平面方向で平均化されているから、この加熱面11aにおける温度の均一化(均熱性)が向上するのである。
【0019】
本実施形態の加熱装置が、熱伝導性部材14を備えることによる上記効果は、セラミックス基体11が、アルミナを主成分とするセラミックスよりなる場合に、特に効果が大きい。アルミナは、熱伝導率が30W/m・K程度と熱伝導性が高くないので、熱伝導性部材14を備えていない場合には、抵抗発熱体12から発生した熱の一部が、セラミックス基体11の内部でその平面方向に拡散移動する量が小さい。そのため、アルミナを主成分とするセラミックス基体11を備えるものの、熱伝導性部材14を備えていない一般的な加熱装置の場合には、均熱性が十分でなかったのである。これに対して、本実施形態の加熱装置は、熱伝導性部材14を備えることにより、アルミナを主成分とするセラミックス基体11を有するものであっても、均熱性を格段に向上させることができる。
【0020】
この熱伝導性部材14を具備することによる均熱性の向上は、セラミックス基体11の加熱面11aと抵抗発熱体12との間で、かつ、加熱面11aの近傍に熱伝導性部材14が配設されているがために、均熱性向上のために有効に寄与する。そのため、本実施形態の加熱装置は、従来技術の加熱装置と比べて、格段に均熱性に優れている。また、この加熱装置10により加熱される被加熱物としての半導体ウエハは、面内で少しの温度変化が生じていても、製造される半導体デバイスの歩留りに大きな影響を与えるのであるから、本実施形態の加熱装置10により、均熱性が向上することは、半導体デバイスの歩留り向上に飛躍的な向上をもたらす。
【0021】
熱伝導性部材14のための材料は、セラミックス基体11よりも熱伝導率が高い材料であれば適合する。熱伝導率が高いほど好ましい。例えばセラミックス基体11がアルミナ(熱伝導率:30W/m・K程度)よりなる場合、熱伝導性部材14は、アルミニウム又はアルミニウム合金(熱伝導率:230W/m・K程度)よりなることが好ましい。また、アルミニウム又はアルミニウム合金に限らず、熱伝導性の良好な、インジウム又はインジウム合金、その他の金属材料であってもよい。更に、金属材料に限られず、高熱伝導性セラミックスである窒化アルミニウム(熱伝導率:150W/m・K程度)であってもよい。
【0022】
熱伝導性部材14は、その平面方向で熱を十分に拡散させるためには、ある程度の厚さを有していることが必要であり、例えば0.5〜5.0mm程度の厚みを有していることが好ましい。熱伝導性部材14が0.5mm程度よりも薄いと平面方向への熱の拡散が十分ではなく熱伝導性部材14を具備することによる効果に乏しくなる。また、5.0mm程度を超えた厚さでは、熱伝導性部材14を具備することによる効果が飽和する。熱伝導性部材14の0.5〜5.0mm程度の厚さは、従来公知の加熱装置において用いられる、加熱面と抵抗発熱体の間に埋設されることがある金属製の電極、例えば加熱面11aに静電力を生じさせるための電極や、加熱面11a近傍にプラズマを生じさせるための高周波電極の厚さとは大きく異なる。従来公知の加熱装置の電極の厚さでは、本発明において所期した均熱性の向上を得ることは困難である。
【0023】
セラミックス基体11は、上述したアルミナを主成分とするセラミックスよりなるものに限られず、酸化イットリウムを主成分とするセラミックスよりなるものであってもよい。この場合は、熱伝導性部材をアルミニウム又はアルミニウム合金、インジウム又はインジウム合金、その他の酸化イットリウムより熱伝導率の高い金属材料とすることができる。また、セラミックス基体11は窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスよりなるものであってもよい。窒化アルミニウムよりなるセラミックス基体は、ジョンソン−ラーベック力を用いた静電力を生じさせるのに好適な体積抵抗率を有している。この場合の熱伝導性部材をアルミニウム又はアルミニウム合金、その他の窒化アルミニウムより熱伝導率の高い金属材料とすることができる。
【0024】
熱伝導性部材14は、セラミックス基体11の加熱面11aとほぼ同じ平面形状、ほぼ同じ大きさであることが、加熱面11aにおける加熱温度の均一性(均熱性)を向上させる点で有利である。もっとも、熱伝導性部材14の平面形状、大きさは、これに限定されるものではない。要は、均熱性を向上させることのできるような形状、大きさで、熱伝導性部材14が、セラミックス基体11の内部で、加熱面11aと抵抗発熱体12との間に配設されていればよい。
【0025】
この抵抗発熱体12は、例えばNb(ニオブ)、Pt(白金)、W(タングステン)やMo(モリブデン)などの高融点の金属材料もしくはこれらの炭化物(白金を除く)からなる。このような抵抗発熱体12は、当該金属材料含む原料ペーストの塗布等により形成された平面形状であってもよいし、コイル状であってもよい。抵抗発熱体12が、ニオブ等を含む原料線材から成形されたコイル状である場合には、セラミックス基体11内で抵抗発熱体12が三次元的に発熱するため、平面形状の抵抗発熱体よりも基板加熱の面内均一性を向上させることができる。また、コイル状の抵抗発熱体は、均質な線材の加工により製造されるので、加熱装置のロットごとの発熱特性の変動が小さい。また、コイルピッチ等を局所的に変動させることにより、基板載置面上での温度分布を容易に調整することができる。更に、平面形状の抵抗発熱体よりも密着性を向上させることができる。
【0026】
熱伝導性部材14の好適なサイズ及び形状を考慮すると、セラミックス基体11は、上側部分と下側部分とに二分され、この上側部分と下側部分との間に熱伝導性部材14が介在している三層構造を有していることは、より好ましい態様である。図1に示した本実施例の加熱装置は、この好ましい三層構造を有している。
【0027】
そして、個々に準備されたセラミックス基体11の上側の部分と、下側の部分とが、熱伝導性部材14により熱圧接(TCB: Thermal Compression Bonding)により接合されている構造とすることができる。3層のうち、熱伝導性部材14が熱圧接により形成された部材であることにより、セラミックス基体11の上側の部分と、下側の部分とが、接合面の全体にわたって隙間なく強固に接合されることができ、よって、セラミックス基体11全体の強度に悪影響を与えることのない、優れた効果を有する熱伝導性部材14になる。
【0028】
セラミックス基体11の上側部分は、使用温度における体積抵抗率が1×10〜1×1012Ω・cm又は1×1015Ω・cm以上を有するものであることが好ましい。1×10〜1×1012Ω・cmのものは、加熱面11aにジョンソン−ラーベック力を用いた静電力を生じさせるのに好適な体積抵抗率であり、1×1015Ω・cm以上のものは、絶縁性が高く、また、クーロン力を用いた静電力を生じさせるのに好適な体積抵抗率である。1×1012Ω・cm超〜1×1015Ω・cm未満の範囲の体積抵抗率では、静電力を生じさせるのに中途半端であり、また、ウエハを吸着保持後の脱着応答性が低下する。1×10Ω・cm未満の体積抵抗率ではリーク電流が大きくなってウエハに悪影響を及ぼし、歩留低下を招くおそれがある。
【0029】
セラミックス基体の下側部分は、使用温度における体積抵抗率が1×10Ω・cm以上を有するものであることが好ましい。体積抵抗率が1×10Ω・cm未満では、この下側部分にリーク電流が発生し絶縁不良が発生するおそれがある。
【0030】
本実施形態の加熱装置10は、セラミックス基体11の加熱面11aと平行に熱伝導性部材14が近接して配設されていることから、この熱伝導性部材14を高周波電極として活用することが可能となる。詳述すると、セラミックス基体11を有する加熱装置には、その加熱面の近傍に、円盤状の高周波電極が埋設され、この高周波電極によって、加熱面にセットされた被加熱物近傍の空間に高周波プラズマを発生させることができるものがある。この高周波電極は、一般には高周波電力が供給可能な導電性部材よりなるものであるから、本実施形態において、熱伝導性部材14が金属材料などよりなる場合には、熱伝導性部材14を、この高周波電極として適用可能である。図1に示した本実施形態の加熱装置10は、熱伝導性部材14が高周波電極を兼ねる例であって、そのために、セラミックス基体11の背面11bから熱伝導性部材14に達するように、熱伝導性部材14に接続する高周波電極端子15を挿通可能とするための穴11cが形成されている。また、温度調節部材21には当該穴11cの延長線上に端子孔21cが形成され、かつ、この端子孔21cの内壁に接して管状の絶縁部材22Cが挿設されて、この絶縁部材22Cの内周面側に挿通される高周波電極端子15と、金属材料よりなる温度調節部材21とを絶縁している。高周波電極端子15は、温度調節部材21の端子孔21cとセラミックス基体11の穴11cを通して熱伝導性部材14に接続され、この高周波電極端子15を介して熱伝導性部材14に、外部から高周波電力を供給することにより、熱伝導性部材14が高周波電極として利用可能となる。このことにより、本実施形態の加熱装置10は、高周波電極を別途に設ける必要がない。なお、熱伝導性部材が金属材料の場合、発生した高周波プラズマによって熱伝導性部材が腐食する場合がある。熱伝導性部材の腐食を防止するためには、熱伝導性部材の側面を耐食性材料で保護すればよい。例えば、耐食性セラミックスや耐食性樹脂の膜やリングを設けることで保護が可能である。具体的な耐食性物質の形成方法としては、アルミナセラミックの溶射膜や、フッ素樹脂製の熱収縮リングを使用するなどの例が挙げられる。
【0031】
本実施形態の加熱装置10は、セラミックス基体11の加熱面11aにセットされるウエハを静電力により保持する、静電電極を有することもできる。このことにより、ウエハの加熱時に、このウエハを静電力により吸着保持することが可能となる。そのために、本実施形態の加熱装置10は、セラミックス基体11の内部において、熱伝導性部材14よりも加熱面11aに近接して、静電電極16が埋設されている。そして、このセラミックス基体11の背面11bから静電電極16に達するように穴11dが形成されている。この穴11dは、静電電極16に接続する静電電極端子17を挿通可能とするためのものである。また、温度調節部材21における当該穴11dの延長線上に端子孔21dが形成され、かつ、この端子孔21dの内壁に接して管状の絶縁部材22Dが挿設されて、この絶縁部材22Dの内周面側に挿通される静電電極端子17と、金属材料よりなる温度調節部材21とを絶縁している。この静電電極端子17を介して静電電極16に、外部から電圧を印加することにより、静電電極16と加熱面11aとの間の領域が分極して誘電体層となり、加熱面11aに静電力を生じさせる。この静電力により、ウエハを吸着保持することができる。セラミックス基体11のうち、少なくとも静電電極16と加熱面11aとの間の領域が、アルミナよりなる場合には、アルミナが適切な電気抵抗率を具備していることから、クーロン力による静電力を強力に生じさせることができる。クーロン力による静電力は、ジョンソン−ラーベック力による静電力のように加熱面11aに微小な電流を流す必要がない。
【0032】
静電電極16は、炭化タングステン(WC)と、10%以上のアルミナとを含むものであることが好ましい。静電電極16が炭化タングステンを主成分とすることにより、アルミナよりなるセラミックス基体11中への静電電極16の成分の拡散が極めて少ないため、静電電極16近傍でのアルミナの体積抵抗率を高くすることができる。このことにより、高電圧を印加した場合の絶縁特性が向上する。誘電体層の高抵抗の結果、吸着される基板の脱着特性が向上する。また、この静電電極16が10%以上のアルミナを含むものであることにより、静電電極16部分の密着性が向上する。静電電極16に含まれるアルミナの含有量の上限は、印加される高電圧ないしは高周波電流を阻害しない程度に静電電極16の電気抵抗を小さくする観点から、50wt%程度以下とすることが好ましい。
【0033】
静電電極16は、例えば、所定の量のアルミナと炭化タングステンとの混合粉末を含むペーストを、メッシュ状、櫛形、渦巻状等の平面形状に印刷したものを用いることでできる。なお、図1に示した本実施形態の加熱装置10は、静電電極16として双極型の例を示しているが、静電電極16は、双極型に限られず、単極型、又は多極型であってもよい。
【0034】
セラミックス基体11が、好ましくは上側部分と下側部分とに二分され、この上側部分と下側部分との間に熱伝導性部材14が介在している三層構造になり、かつ、このセラミックス基体11が、静電電極16を具備する静電チャック付き加熱装置においては、静電電極16が、セラミックス基体11の上側部分に含まれ、抵抗発熱体12が、セラミックス基体11の下側部分に含まれる構造とすることが好ましい。静電電極16は、セラミックス基体11の加熱面11aの近傍に埋設されることから、セラミックス基体11の上側部分に含まれる。また、熱伝導性部材14は、抵抗発熱体12からセラミックス基体11の加熱面11aに向かう熱を、熱伝導性部材14の平面方向への熱の拡散移動させるために設けられることから、抵抗発熱体12は、セラミックス基体11の下側部分に含まれる。
【0035】
本実施形態の加熱装置10の製造方法の一例としては、上下方向で二分割されたセラミックス基体11の上側の部分と、下側の部分とをそれぞれ作製し、この上側の部分と、下側の部分とを、熱伝導性部材14により熱圧接により接合する工程を含む製造方法がある。
【0036】
この熱圧接は、例えば、熱伝導性部材14としてアルミニウムを用い、予め作製されたセラミックス基体11の上側の部分と、下側の部分とを、このアルミニウムの熱伝導性部材14を挟んで重ね合わせ、厚み方向に加圧しながら所定の温度に加熱することにより行うことができる。この加熱温度を熱伝導性部材14の融点よりも1℃〜40℃低い温度とし、加圧圧力を25〜80kg/cm2とすると良い。このことにより、熱伝導性部材14はセラミックス基体11の上側の部分及び下側の部分を、寸法を変化させることなく強固に接合することができる。また、熱伝導性部材14の寸法が変化しないので、セラミックス基体11は如何なるスルーホールも具備することができる。この方法において、アルミニウム製の熱伝導性部材の厚さは0.5〜5mmとすることができる。この厚さは、平面方向に熱を拡散させるのに十分な厚さである。
【0037】
この熱圧接に用いられるセラミックス基体11の上側の部分と、下側の部分とを、個別に作製する。このセラミックス基体11の上側の部分と、下側の部分とを、それぞれ種類の異なるセラミックスで作製することもできる。例えば、上側の部分をイットリアを主成分とするセラミックスで作製し、下側の部分をアルミナを主成分とするセラミックスで作製することもできる。
【実施例】
【0038】
セラミックス基体11の上側の部分になるセラミックス焼結体と、セラミックス基体11の下側の部分になるセラミックス焼結体と、熱伝導性部材14とをそれぞれ用意した。
【0039】
このセラミックス基体11の上側の部分になるセラミックス焼結体は、原料粉から、金型を用いて所定圧力でプレス成形を行って成形体を形成した後、ホットプレス焼成法を用いて焼成して、静電電極を埋設した焼結体を得た。同様に、このセラミックス基体11の下側の部分になるセラミックス焼結体は、原料粉から、金型を用いて所定圧力でプレス成形を行って成形体を形成した後、ホットプレス焼成法を用いて焼成して、抵抗発熱体を埋設した焼結体を得た。
【0040】
この上側の部分になるセラミックス焼結体及び下側の部分になるセラミックス焼結体の間に熱伝導性部材14を挟み、熱伝導部材14がAlの場合、厚み方向に圧力40kgf/cm2で加圧しながら、温度540℃で5時間、熱伝導部材14がInの場合、厚み方向に圧力10kgf/cm2で加圧しながら、温度130℃で5時間、それぞれ加熱することにより熱圧接した。こうして、セラミックス基体11の上側の部分と、熱伝導部材14からなる熱圧接層と、セラミックス基体11の下側の部分とが積層された3層構造を有する図1に示したセラミックス基体11を得た。
【0041】
この熱圧接後、セラミックス基体の加熱面をダイヤモンド砥石にて平面研削加工を行った。また、焼成体の側面を研削するとともに、必要な穴あけ加工と、端子の取り付けを行い、セラミックス基体11を完成した。
【0042】
得られたセラミックス基体を、バルク状のアルミニウムよりなる温度調節部材に、ボルトにより締結固定して、本実施形態の加熱装置を得た。
【0043】
比較例として、熱伝導性部材を有しない以外は、本実施形態と同一の構成になる加熱装置を作製した。比較例の加熱装置の断面図を図2に示す。なお、図2に示す加熱装置100においては、図1と同一の部材については同一の符号を付しているので、重複する説明は省略する。
【0044】
このようにして得られた各加熱装置の加熱面が100℃になるように加熱し、当該加熱面の面内の温度分布を調べた実施例(図3)及び比較例(図4)に面内温度分布の測定結果の例をしめす。図3及び図4は、赤外線分光カメラ測定装置を用いて測定した。図3と図4との対比から、実施例は、比較例よりも温度分布の変動が小さいことが分かる。
【0045】
実施例1〜13、比較例1〜2の加熱装置について、同様にして面内温度変動量(均熱性)を調べた結果を表1及び表2に示す。
【表1】

【表2】

【0046】
表1及び表1から、熱伝導部材を具備する実施例1〜13では、比較例1〜2と対比して面内温度の分布が小さかった。本実施形態の加熱装置は、被加熱体の面内均熱性を格段に向上させることができる。
【0047】
なお、実施例10は、セラミックス基体11の上側の部分と下側の部分との熱膨張係数の差が0.2ppm/Kであり、接合後に0.1mmの反りが発生した。実施例11は、セラミックス基体11の上側の部分の体積抵抗率が1×1014Ω・cmであったために脱着応答性が60sec掛かりスループットが低下した。実施例12は、セラミックス基体11の上側の部分の体積抵抗率が1×10Ω・cmであったためにリーク電流が>1mA発生した。実施例13は、セラミックス基体11の下側の部分の体積抵抗率が6×10Ω・cmであったためにヒーター部にリーク電流が発生した。
【0048】
また、この本実施形態の加熱装置において、熱伝導性部材に接続する端子から高周波電力を供給したところ、加熱面近傍にプラズマ雰囲気を発生させることができた。
【0049】
以上、本発明の加熱装置を、図面及び実施形態を用いて説明したが、本発明の加熱装置は、これらの図面及び実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、幾多の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の加熱装置に係る一実施例を示す断面図である。
【図2】従来の加熱装置の一例の断面図である。
【図3】本発明の加熱装置の加熱面の温度分布を示す図である。
【図4】は、従来の加熱装置の加熱面の温度分布を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
10…加熱装置
11…セラミックス基体
12…抵抗発熱体
13…誘電体層
14…熱伝導性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱面を有するセラミックスからなる基体と、
このセラミックス基体の内部に埋設された発熱体と
を備える加熱装置であって、
このセラミックス基体内部における加熱面と前記発熱体との間に、熱伝導性部材を有し、
上記熱伝導性部材の熱伝導率が、セラミックス基体の熱伝導率よりも高いことを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記基体が、アルミナを主成分とするセラミックスよりなることを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記基体が、酸化イットリウムを主成分とするセラミックスよりなることを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記基体が、窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスよりなることを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項5】
前記熱伝導性部材が、アルミニウム又はアルミニウム合金からなることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項6】
前記熱伝導性部材が、インジウム又はインジウム合金からなることを特徴とする請求項2もしくは3のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項7】
前記熱伝導性部材の厚さが0.5〜5.0mm程度であることを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項8】
前記熱伝導性部材が、熱圧接により形成された部材であることを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項9】
前記熱伝導性部材が、高周波電極を兼ねることを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項10】
前記セラミックス基体が、上側部分と下側部分とに二分され、この上側部分と下側部分との間に前記熱伝導性部材が介在している三層構造になることを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項11】
前記セラミックス基体が、静電電極を具備していることを特徴とする請求項1〜6又は10のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項12】
前記静電電極が、前記セラミックス基体の上側部分に含まれ、かつ、前記発熱体が、前記セラミックス基体の下側部分に含まれることを特徴とする請求項1〜6又は10のいずれか1項に記載の加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−153194(P2008−153194A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234489(P2007−234489)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】