説明

加熱調理器および電磁誘導加熱式調理器

【課題】冷却ファンと冷却風を通す空間が不要で、受け皿に溜まった油の発火を防止するとともに、調理物の最適な加熱調理が行える加熱調理器を提供することを目的とする。
【解決手段】受け皿8、焼き網2および焼き網2上の調理物3を収容する調理室1と、調理物3の上面および下面を加熱する上面および下面加熱手段4、5と、制御手段10とを備え、前記制御手段10は、連続調理において1回目の調理終了後から2回目の調理開始時に調理室1内が所定温度以上ある場合、2回目の調理は調理開始から調理終了まで下面加熱手段5を調理物3からの油が発火しない制御温度に制御したものである。これによって、冷却ファンと冷却風を通す空間が不要で、連続調理において受け皿に溜まった油の発火を防止するとともに、調理物の内部に旨み成分を含んだ水分や油が十分に残るように最適な加熱調理が行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的な食材などの調理物の加熱調理を最適に行うための手段を有した加熱調理器および電磁誘導加熱式調理器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の加熱調理器は、調理物からの油は受け皿に溜められるが、溜まった油が発火しないように受け皿を冷却する構成としている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3446436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来の構成では、受け皿温度が高くなることを防止するために受け皿を冷却するためのファンと冷却風を通す空間が必要であり、限られた空間では調理室が狭くなるという課題を有していた。
【0004】
また、調理開始から調理終了まで、上面加熱手段と下面加熱手段は制御を行わずに連続で入力するため、連続調理において調理途中で調理物からの油が下面加熱手段に滴下したときに瞬間的な発火が起こるとともに、調理物の最適な加熱調理が行えるものであるとは言い難いものであった。
【0005】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、冷却ファンと冷却風を通す空間が不要で、連続調理において受け皿に溜まった油の発火を防止するとともに、調理物の内部に旨み成分を含んだ水分や油が十分に残るように最適な加熱調理が行える加熱調理器および電磁誘導加熱式調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記従来の課題を解決するために、本発明の加熱調理器および電磁誘導加熱式調理器は、受け皿、焼き網および焼き網上に載せた調理物を収容する調理室と、前記調理物の上面を加熱する上面加熱手段と、前記調理物の下面を前記焼き網の下から加熱する下面加熱手段と、調理室内の温度を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、連続調理において1回目の調理終了後から2回目の調理開始時に調理室内が所定温度以上ある場合、2回目の調理は調理開始から調理終了まで下面加熱手段を調理物からの油が発火しない制御温度に制御したものである。
【0007】
これによって、下面加熱手段は調理物からの油が発火しない温度に制御されているので、冷却ファンと冷却風を通す空間が不要で、連続調理において受け皿に溜まった油の発火を防止するとともに、調理物の内部に旨み成分を含んだ水分や油が十分に残るように最適な加熱調理が行える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の加熱調理器および電磁誘導加熱式調理器は、冷却ファンと冷却風を通す空間が不要で、連続調理において受け皿に溜まった油の発火を防止するとともに、調理物の内部に旨み成分を含んだ水分や油が十分に残るように最適な加熱調理が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
第1の発明は、受け皿、焼き網および焼き網上に載せた調理物を収容する調理室と、前記調理物の上面を加熱する上面加熱手段と、前記調理物の下面を前記焼き網の下から加熱する下面加熱手段と、調理室内の温度を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、連続調理において1回目の調理終了後から2回目の調理開始時に調理室内が所定温度以上ある場合、2回目の調理は調理開始から調理終了まで下面加熱手段を調理物からの油が発火しない制御温度に制御した加熱調理器としたものである。これによって、下面加熱手段は調理物からの油が発火しない温度に制御されているので、冷却ファンと冷却風を通す空間が不要で、連続調理において受け皿に溜まった油の発火を防止するとともに、調理物の内部に旨み成分を含んだ水分や油が十分に残るように最適な加熱調理が行える。
【0010】
第2の発明は、特に、第1の発明において、下面加熱手段の制御温度は、500℃以下としたことにより、2回目の調理でも調理物の表面から内部に徐々に熱が浸透しながら調理が進行するので、調理物の内部に旨み成分を含んだ水分や油が十分に残るように制御された加熱調理器とすることができる。また500℃以下で制御することにより、調理物から下面加熱手段に滴下する油に火が着くことはないため、調理初期から終了まで調理物を焦がすことがない加熱調理器とすることができる。
【0011】
第3の発明は、特に、第1または第2の発明において、下面加熱手段の制御温度は、450℃以上500℃以下としたことにより、2回目の調理でも調理物の表面から内部に徐々に熱が浸透しながら調理が進行するので、調理物の内部に旨み成分を含んだ水分や油が十分に残るように制御された加熱調理器とすることができる。また450℃以上500℃以下で制御することにより、調理物から下面加熱手段に滴下する油に火が着くことはないため、調理初期から終了まで調理物を焦がすことがない加熱調理器とすることができる。
【0012】
第4の発明は、特に、第1または第2の発明において、下面加熱手段の制御温度は、500℃付近となるように制御したことにより、2回目の調理でも調理物の表面から内部に徐々に熱が浸透しながら調理が進行するので、調理物の内部に旨み成分を含んだ水分や油が十分に残るように制御された加熱調理器とすることができる。また500℃付近で制御することにより、調理物から下面加熱手段に滴下する油に火が着くことはないため、調理初期から終了まで調理物を焦がすことがない加熱調理器とすることができる。
【0013】
第5の発明は、特に、第1〜第4のいずれか1つの発明において、下面加熱手段の制御温度が所定温度に到達すると下面加熱手段をON−OFF制御することにより、下面加熱手段の温度を所定温度で正確に制御することができるので、調理物の内部に旨み成分を含んだ水分や油が十分に残るように制御された加熱調理器とすることができる。
【0014】
第6の発明は、特に、第1〜第5のいずれか1つの発明における加熱調理器を搭載した電磁誘導加熱式調理器とすることにより、電磁誘導加熱部はもちろんのこと加熱調理器も発火がなく、全体的として発火のない安全な調理器が提供できるものである。
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0016】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態における加熱調理器を示すものである。
【0017】
図に示すように、本実施の形態における加熱調理器9は、受け皿8、受け皿8上の焼き網2および焼き網2上に載せた魚などの調理物3を収容する調理室1と、調理物3の上面を加熱する上面加熱手段4と、調理物3の下面を焼き網2の下から加熱する下面加熱手段5と、調理室1の上部に設けた排気口6と、排気口6を通して調理室1を外部と連通した排気通路7と、調理室1内の温度を制御する隔離されて設けた制御手段10と、開閉自在な扉11とを備えている。
【0018】
そして、前記制御手段10は、連続調理において1回目の調理終了後から2回目の調理開始時に調理室1内が所定温度以上ある場合、2回目の調理は調理開始から調理終了まで下面加熱手段5を調理物3からの油が発火しない制御温度に制御しているものである。
【0019】
図2は、下面加熱手段5の調理経過時間における温度変化を示したものである。下面加熱手段5は調理開始点Sから所定時間t1までは連続入力を行い、下面加熱手段5の温度を調理物3からの油が着火しない温度である所定温度T1に到達するように制御する。その後、所定時間t1から調理終了時点Eの時間t2まではT1以下で制御するものである。なお、本実施の形態では所定時間t1までは連続入力を行っているが、下面加熱手段5を断続的に入力して所定温度T1に到達させてもかまわない。
【0020】
図3は、加熱調理器9における下面加熱手段5に調理物3からの油を滴下したときに、受け皿8に溜まった油に着火する境界線を示したもので、例えば、下面加熱手段5が550℃以上であれば受け皿8が室温の20℃でも、下面加熱手段5に油が滴下した時に受け皿8に溜まった油に着火することを示している。もちろん、受け皿8に油が溜まっていなければ着火することはない。
【0021】
以上のように構成された加熱調理器について、以下その動作、作用を説明する。
【0022】
まず、焼き網2上に載せた調理物3は、上面加熱手段4と、下面加熱手段5からの加熱により調理される。下面加熱手段5の加熱条件は図2に示す通りであり、調理開始から所定時間t1までは連続入力により初期の調理が行われ所定温度T1に到達後、所定時間t1から調理終了までは所定温度T1で制御するため、調理物3から下面加熱手段5に落ちる油に火が着くことはない。所定時間t1から調理終了までは下面加熱手段5を最適な加熱温度で制御することにより、調理物3の表面から内部に徐々に熱が浸透しながら調理が進行するので、調理物3の内部に旨み成分を含んだ水分や油が十分に残るように制御される。このように、調理物3から油は、発火しない程度の量または滴下しないため、連続調理時のように受け皿8に油が溜まった状態でも受け皿8に着火することは無い。
【0023】
調理開始から所定時間t1までは連続入力により初期の調理が行われ、調理物3の表面だけが焼け始め調理物3を構成する蛋白質成分が調理物3の表面で薄い膜を作り内部に含まれる水分の蒸発を抑制することができる。
【0024】
ここで、本実施の形態における加熱調理器と、比較する加熱調理器との実験例を示す。
【0025】
(実験例1)
本実施の形態の加熱調理器として、図1に示した構成の加熱調理器を用い、これを加熱調理器1Aとした。そして、下面加熱手段5の制御として制御温度が500℃以下として、上面加熱手段4と下面加熱手段5としてともにシーズヒータを用いた。
【0026】
比較する加熱調理器(従来例1)として、加熱調理器1Aと同様な構成で、上面加熱手段4と下面加熱手段5を制御しない加熱調理器を用い、これを加熱調理器1Bとした。
【0027】
また、比較する加熱調理器(従来例2)として、加熱調理器1Aと同様な構成で、上面加熱手段4と下面加熱手段5を交互に制御する加熱調理器を用い、これを加熱調理器1Cとした。
【0028】
これら加熱調理器1A、1B、1Cについて以下の手段を用いて評価を行った。加熱調理器の調理室1に秋刀魚4匹を入れ、1回目の調理を行った後、1分経過後に秋刀魚4匹を入れ、2回目の調理を行い、それぞれの加熱調理器で同じ調理性能となるように秋刀魚の焼き具合を調整して調理時間を決めた。
【0029】
そして、2回目の調理開始から経過時間ごとに調理終了まで、下面加熱手段5の温度と受け皿8の温度を測定し(図4、図5、図6)、また調理開始前後の秋刀魚の重量を測定して4匹の重量減少率の平均を求めた(表1)。
【0030】
【表1】

【0031】
(表1)から明らかなように、本実施の形態の加熱調理器1Aが、従来例1、2の加熱調理器1B、1Cよりも重量減少率が低く、調理物3の内部に旨み成分を含んだ水分や油が十分に残っていることがわかる。また、図4から明らかなように、本実施の形態の加熱調理器1Aは12分で調理が終了するが、図3に示す油の発火領域に入らないように制御を行っているため、受け皿8の油に着火することは無い。一方、図5から明らかなように、従来例1の加熱調理器1Bは11分で調理が終了するが、調理中盤以降でも図3に示す油の発火領域に入っており、受け皿8に溜まった油に着火し調理物3が焦げた。また、図6から明らかなように、従来例2の加熱調理器1Cは調理終了までに21分かかり、調理中盤以降は図3に示す油の発火領域に入っておらず、受け皿8の油への着火は無いが、調理時間が20分を超えて長くかかりすぎるため、調理物3が乾燥し調理物3の内部に水分や油が十分に残らない。
【0032】
これにより、本実施の形態の加熱調理器は、下面加熱手段4の最適な制御を行うことにより、調理物3の内部に旨み成分を含んだ水分や油が十分に残るよう調理され、受け皿8の油に引火することも無いため、調理初期から終了まで調理物3を焦がすことがなく最適調理ができることがわかる。
【0033】
(実験例2)
本実施の形態の加熱調理器として、図1に示した構成の加熱調理器を用い、下面加熱手段5の制御として制御温度が450℃以上500℃の範囲の中で最も低い450℃付近とし、上面加熱手段4と下面加熱手段5としてともにシーズヒータを用いた。これを加熱調理器2Aとした。
【0034】
加熱調理器2Aについて以下の手段を用いて評価を行った。加熱調理器の調理室1に秋刀魚4匹を入れ、1回目の調理を行った後、1分経過後に秋刀魚4匹を入れ、2回目の調理を行い、実験例1と同じ調理性能となるように秋刀魚の焼き具合を調整して調理時間を決めた。2回目の調理開始から経過時間ごとに調理終了まで、下面加熱手段5の温度と受け皿8の温度を測定し(図7)、また調理開始前後の秋刀魚の重量を測定し、4匹の重量減少率の平均を求めた。
【0035】
本実施の形態の加熱調理器2Aでは、秋刀魚の重量減少率は21.1%であった。これにより、加熱調理器1Aよりも調理物3の内部に旨み成分を含んだ水分や油がより多く残っていることがわかる。また、図7から明らかなように、本実施の形態の加熱調理器2Aは13分で調理が終了するが、図3に示す油の発火領域に入らないように制御を行っているため、受け皿8の油に着火することは無い。
【0036】
これにより、本実施の形態の加熱調理器は、下面加熱手段5の最適な制御を行うことにより、調理物3の内部に旨み成分を含んだ水分や油が十分に残るよう調理され、受け皿8の油に引火することも無いため、調理初期から終了まで調理物3を焦がすことがなく調理できることがわかる。
【0037】
なお、調理開始から所定温度になるまでの時間、加熱調理器は、出力できる最大出力を出力するようにしてもよいし、所定温度T1に到達した後の制御は下面加熱手段5をON−OFF制御により所定温度T1に制御を行ってもよく、この場合、下面加熱手段5の温度を所定温度T1で正確に制御することができるので、調理物3の内部に旨み成分を含んだ水分や油が十分に残るように制御された加熱調理器とすることができる。
【0038】
また、下面加熱手段5の制御温度は、500℃以下が望ましいが、受け皿8の油に引火することの無い500℃付近となるように制御することによっても、同様な効果が得られるものである。
【0039】
また、図8に示すように、本実施の形態の加熱調理器9を、鍋などを載置する天板12および電磁誘導加熱部13を有する電磁誘導加熱式調理器14に搭載することにより、電磁誘導加熱部13はもちろんのこと加熱調理器も発火がなく、全体的として発火のない安全な調理器が提供できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上のように、本発明にかかる加熱調理器および電磁誘導加熱式調理器は、冷却ファンと冷却風を通す空間が不要で、連続調理において受け皿に溜まった油の発火を防止するとともに、調理物の内部に旨み成分を含んだ水分や油が十分に残るように最適な加熱調理が行えるので、加熱方式に関係なく家庭用、業務用など各種の調理器に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態における加熱調理器の構成を示す断面図
【図2】同加熱調理器の下面加熱手段の温度変化を示すグラフ
【図3】同加熱調理器の下面加熱手段に油を滴下したときに受け皿の油に着火する境界を示すグラフ
【図4】同加熱調理器の実験例1における下面加熱手段と受け皿の温度変化を示すグラフ
【図5】同実験例1における比較する加熱調理器(従来例1)の下面加熱手段と受け皿の温度変化を示すグラフ
【図6】同実験例1における比較する加熱調理器(従来例2)の下面加熱手段と受け皿の温度変化を示すグラフ
【図7】同加熱調理器の実験例2における下面加熱手段と受け皿の温度変化を示すグラフ
【図8】同加熱調理器を搭載した電磁誘導加熱式調理器の斜視図
【符号の説明】
【0042】
1 調理室
2 焼き網
3 調理物
4 上面加熱手段
5 下面加熱手段
8 受け皿
9 加熱調理器
10 制御手段
14 電磁誘導加熱式調理器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受け皿、焼き網および焼き網上に載せた調理物を収容する調理室と、前記調理物の上面を加熱する上面加熱手段と、前記調理物の下面を前記焼き網の下から加熱する下面加熱手段と、調理室内の温度を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、連続調理において1回目の調理終了後から2回目の調理開始時に調理室内が所定温度以上ある場合、2回目の調理は調理開始から調理終了まで下面加熱手段を調理物からの油が発火しない制御温度に制御した加熱調理器。
【請求項2】
下面加熱手段の制御温度は、500℃以下とした請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項3】
下面加熱手段の制御温度は、450℃以上500℃以下とした請求項1または2に記載の加熱調理器。
【請求項4】
下面加熱手段の制御温度は、500℃付近となるように制御した請求項1または2に記載の加熱調理器。
【請求項5】
下面加熱手段の制御温度が所定温度に到達すると下面加熱手段をON−OFF制御する請求項1〜4のいずれか1項に記載の加熱調理器。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の加熱調理器を搭載した電磁誘導加熱式調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−92994(P2008−92994A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274909(P2006−274909)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】