説明

加熱調理器

【課題】 誘導加熱と高周波加熱とを併用した加熱調理器において、調理途中の容器内の食品の撹拌や調味料の添加などの調理作業性を高めるとともに、それぞれの加熱調理を良好に行う。
【解決手段】 調理庫3の前面開口を傾斜状に形成するとともに、庫内の横幅を奥行きよりも大きくする。それにより、両手鍋等の容器90も余裕を以て庫内に収納することができ、容器90内の食品の状態が確認し易く、撹拌等の作業も行い易くなる。また、調理庫の底面部3bの下方に誘導加熱ユニット20を配置することでトレイ7上に載置された容器90を効率良く誘導加熱するとともに、天面部3aに設けたマイクロ波拡散室33の上壁に穿孔した貫通孔32aを通して調理庫3内にマイクロ波を放射することにより、深底の容器90内に収容された食品にもマイクロ波を十分に行き届かせて高周波加熱も良好に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理庫内に収納された食品を加熱調理するために高周波加熱部と誘導加熱部とを併せ持つ複合型の加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子レンジはマイクロ波により食品を直接高周波加熱するため、温め加熱などの高速調理には非常に効果を発揮するものの、食品に焦げ目を付けることができず、焦げ目付け調理には不向きであった。一方、近年普及が進んでいる誘導加熱(IH)調理器は誘導加熱により磁性金属製の鍋などを加熱して調理を行うため、焦げ目付け調理や煮炊き調理などに最適である。そこで、上記のような高周波加熱による加熱調理の欠点を補うために、誘導加熱調理を併用した複合型の加熱調理器が従来より知られている。
【0003】
例えば特許文献1に記載の加熱調理器では、略箱形状の調理庫の底面の下方に誘導加熱コイルが配置され、該コイルから発生した磁束により調理庫底面上に載置された調理皿を誘導加熱することができるようになっている。他方、調理庫の側面の外方にはマグネトロンが配置され、該マグネトロンから発生したマイクロ波が調理庫側面に形成された給電口を経て調理庫内に供給され、それによって調理皿上に置かれた食品を高周波加熱することができるようになっている。
【0004】
この種の加熱調理器は、誘導加熱可能な構造の鍋やフライパンなどの容器内に収容された食品に対し、焦げ目付け調理や煮込み調理を行うのに好適である。こうした調理の場合、容器への内容物(食品)の焦げ付きを防止するために調理途中で内容物を撹拌したり裏返したり、或いは調味料などを添加したりする必要が生じることが多い。しかしながら、上記のような従来の加熱調理器はそうした調理に伴う各種作業の作業性があまり考慮されていないため、調理者が調理庫内の狭い空間に手を入れて作業を行ったり、或いは容器を一旦調理庫から取り出して作業を行ったりする必要がある。そのため、作業性が悪く、高温になっている容器に手が触れるおそれがある。或いは、容器を調理庫から取り出すことによって食品の温度が下がり、調理時間が長引いたり食味を損なったりすることもある。
【0005】
また、特に深い容器に収容されている食品を高周波加熱する際に、多くの場合、容器自体はマイクロ波を遮断する特性を有するため、上記従来の加熱調理器のような構成では、容器内の食品にマイクロ波が十分には行き届きにくく、所定の調理時間だけ加熱を行っても調理が不十分となるおそれがある。
【0006】
【特許文献1】特開2004−327260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のように高周波加熱と誘導加熱とを併用した加熱調理器に特有の課題を解決するために成されたものであり、その主な目的とするところは、調理の際の使い勝手を向上させるとともに、いずれの加熱をも良好に行って両加熱のそれぞれの利点を十分に活かした加熱調理を行うことができる加熱調理器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された第1発明に係る加熱調理器は、
外形を成す筐体と、
食品が収容された容器を内部に収納するために前記筐体の内側に配設された調理庫であって、上部が下部よりも後退するように傾斜状に形成された前面開口を有するとともに庫内底面の横幅が奥行きよりも大きく形成されて成る調理庫と、
該調理庫の前面開口を閉塞することで該調理庫を略密閉する縦開き式のドアと、
前記筐体の前面であって前記ドアの上方、又は該ドア自体に配置された操作部と、
前記調理庫の後方に配置されたマグネトロン、及び、該マグネトロンから発生したマイクロ波を前記調理庫の天面に形成されたマイクロ波放出用の給電口まで案内する導波管、を含む高周波加熱手段と、
前記調理庫内に収納された前記容器を誘導加熱するために該調理庫の底面下方であって且つ該底面の略中央に配設された誘導加熱コイルを含む誘導加熱手段と、
前記調理庫内に収納された食品を直接的に加熱調理するために、該調理庫の後面に配設された加熱源であるヒータ、及び、該調理庫内の空気を吸引して前記ヒータで加熱した後に該調理庫内に送り込むファン、を含むヒータ加熱手段と、
を備えることを特徴としている。
【0009】
上記課題を解決するために成された第2発明に係る加熱調理器は、
外形を成す筐体と、
食品が収容された容器を内部に収納するために前記筐体の内側に配設され、庫内底面の横幅が奥行きよりも大きく形成されて成る、ドアにより略密閉可能な調理庫と、
前記調理庫の外側に配置されたマグネトロン、及び、該マグネトロンから発生したマイクロ波を前記調理庫の天面に形成されたマイクロ波放出用の給電口まで案内する導波管、を含む高周波加熱手段と、
前記調理庫内に収納された前記容器を誘導加熱するために該調理庫の底面の下方に配設された誘導加熱コイルを含む誘導加熱手段と、
を備えることを特徴としている。
【0010】
上記課題を解決するために成された第3発明に係る加熱調理器は、
外形を成す筐体と、
食品が収容された容器を内部に収納するために前記筐体の内側に配設された調理庫であって、上部が下部よりも後退するように傾斜状に形成された前面開口を有する調理庫と、
該調理庫の前面開口を閉塞することで該調理庫を略密閉する縦開き式のドアと、
前記調理庫の外側に配置されたマグネトロン、及び、該マグネトロンから発生したマイクロ波を前記調理庫の天面、後面又は側面に形成されたマイクロ波放出用の給電口まで案内する導波管、を含む高周波加熱手段と、
前記調理庫内に収納された前記容器を誘導加熱するために該調理庫の底面の下方に配設された誘導加熱コイルを含む誘導加熱手段と、
を備えることを特徴としている。
【0011】
上記課題を解決するために成された第4発明に係る加熱調理器は、
外形を成す筐体と、
食品が収容された容器を内部に収納するために前記筐体の内側に配設され、庫内底面の横幅が奥行きよりも大きく形成されて成る、ドアにより略密閉可能な調理庫と、
前記調理庫の後方に配置されたマグネトロン、及び、該マグネトロンから発生したマイクロ波を前記調理庫の天面、後面又は側面に形成されたマイクロ波放出用の給電口まで案内する導波管、を含む高周波加熱手段と、
前記調理庫内に収納された前記容器を誘導加熱するために該調理庫の底面の下方に配設された誘導加熱コイルを含む誘導加熱手段と、
を備えることを特徴としている。
【0012】
上記課題を解決するために成された第5発明に係る加熱調理器は、
外形を成す筐体と、
食品が収容された容器を内部に収納するために前記筐体の内側に配設され、庫内底面の横幅が奥行きよりも大きく形成されて成る、ドアにより略密閉可能な調理庫と、
前記調理庫の後方に配置されたマグネトロン、及び、該マグネトロンから発生したマイクロ波を前記調理庫の天面又は側面に形成されたマイクロ波放出用の給電口まで案内する導波管、を含む高周波加熱手段と、
前記調理庫内に収納された前記容器を誘導加熱するために該調理庫の底面の下方に配設された誘導加熱コイルを含む誘導加熱手段と、
前記調理庫内に収納された食品を直接的に加熱調理するために、該調理庫の後面に配設された加熱源であるヒータ、及び、該調理庫内の空気を吸引して前記ヒータで加熱した後に該調理庫内に送り込むファン、を含むヒータ加熱手段と、
を備えることを特徴としている。
【0013】
上記課題を解決するために成された第6発明に係る加熱調理器は、
外形を成す筐体と、
食品が収容された容器を内部に収納するために前記筐体の内側に配設され、庫内底面の横幅が奥行きよりも大きく形成されて成る、ドアにより略密閉可能な調理庫と、
前記調理庫の外側に配置されたマグネトロン、及び、該マグネトロンから発生したマイクロ波を前記調理庫の天面、後面又は側面に形成されたマイクロ波放出用の給電口まで案内する導波管、を含む高周波加熱手段と、
前記調理庫内に収納された前記容器を誘導加熱するために該調理庫の底面の下方に配設された誘導加熱コイルを含む誘導加熱手段と、
を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
第1発明に係る加熱調理器では、縦開き式のドアを開けると、上部が下部よりも後退するように傾斜状に調理庫の前面開口が開放する。したがって、調理庫の上部が後退している分だけ、調理庫内に収納された容器内を斜め上前方から覗き込みやすく、調理途中の容器内の食品の状態を目視で確認し易くなる。また、容器内の食品を撹拌したり調味料などを添加したりする際に、調理庫の天面の前部が邪魔になりにくいので、そうした調理作業が行い易く、容器や調理庫内面に調理者の手が触れにくくなる。また、調理途中で容器を前方に引き出して上記のような調理作業を行う場合でも、前方への引き出し量が少なくて済むので作業が効率良く行え、食品の温度も下がりにくくなる。
【0015】
また、ドアを開放した際に調理庫の庫内底面の横幅は奥行きよりも大きくなっている。そのため、鍋等の容器を調理庫内に収納したときにその容器の左右の庫内空間の余裕を確保することができ、例えば調理者が両手鍋の把手を両手で掴んだ状態で、無理なく調理庫内にその鍋を入れたり逆に調理庫内からその鍋を取り出したりすることができる。
【0016】
なお、調理庫の庫内底面の横幅を大きくした場合にそれに伴って筐体の横幅も大きくしてしまうと、レンジ台などの所定の設置場所に本加熱調理器を設置できなくなったり、横がはみ出てしまったりするなどの不具合が生じる。したがって、調理庫側面と筐体側面との間の距離はできるだけ短くして、調理庫の内部空間の横幅寸法が大きい場合でも筐体の横幅寸法を抑制することが望ましい。
【0017】
また第1発明に係る加熱調理器では、調理庫内に収納された食品を加熱調理するために、高周波加熱手段、誘導加熱手段、及びヒータ加熱手段の3つの相違する方式の加熱手段が備えられており、そのうち、誘導加熱手段に含まれる誘導加熱コイルは調理庫底面の下方に配設されている。したがって、誘導加熱コイルと調理庫内に収納される容器の底面との距離は短く、誘導加熱コイルから発生した磁束のエネルギーが大きく減衰することなく容器の底面に作用して効率よくジュール熱を発生させる。また、通常、容器は調理庫底面の中央付近に置かれる(或いは、そうした位置に容器を置くように載置位置のマーキングを施す)が、上記構成では、誘導加熱コイルは調理庫底面の下方で且つ略中央に設置されているため、上記のような位置に置かれた容器に効率良く磁束を貫通させ、高効率の誘導加熱を行うことができる。
【0018】
一方、比較的余裕のある調理庫後面と筐体後面との間の空間には、高周波加熱手段を構成するマグネトロンが配置されているが、そのマグネトロンにより発生するマイクロ波を調理庫内に放出するための給電口は調理庫の天面に形成されている。したがって、この給電口から降り注ぐように下方にマイクロ波が放出されるため、深型の容器に収容されている食品にも、容器に遮られることなくマイクロ波が十分に当たる。それによって、その食品を高周波加熱により良好に調理することができる。
【0019】
さらにまた、調理庫後面と筐体後面との間の空間には、ヒータ及びファンを含むヒータ加熱手段も配置されており、調理庫の後面から熱風を調理庫内に送り込む。例えばオーブン機能を利用してパンなどを焼く場合には、調理庫内に水平に架設した焼皿が使用されるが、調理庫の後面から横方向に吹き出した熱風はこうした焼皿で遮られることなく円滑に流れ庫内を循環する。それにより、焼皿の上に載置された食品をむらなく加熱して、良好に仕上げることができる。
【0020】
なお、上記3つの加熱手段は、同時に使用することもできるし、同一の食品に対して適宜切り換えて組み合わせて使用することもできる。
【0021】
第2発明に係る加熱調理器では、第1発明に係る加熱調理器と同様に、ドアを開放した際に調理庫の庫内底面の横幅が奥行きよりも大きくなっている。そのため、鍋等の容器を調理庫内に収納したときにその容器の左右の庫内空間の余裕を確保することができ、例えば調理者が両手鍋の把手を両手で掴んだ状態で、無理なく調理庫内にその鍋を入れたり逆に調理庫内から鍋を取り出したりすることができる。
【0022】
また、第1発明に係る加熱調理器と同様に、調理庫の外側に配置されたマグネトロンにより発生するマイクロ波を調理庫内に放出するための給電口が調理庫の天面に形成されているため、この給電口から降り注ぐように下方にマイクロ波が放出される。それにより、深型の容器に収容されている食品にも、容器に遮られることなくマイクロ波が十分に当たり、誘導加熱による加熱調理に加えて、高周波加熱により容器内の食品を良好に調理することができる。
【0023】
第3発明に係る加熱調理器では、第1発明に係る加熱調理器と同様に、縦開き式のドアを開けると、上部が下部よりも後退するように傾斜状に調理庫の前面開口が開放する。したがって、調理庫の上部が後退している分だけ、調理庫内に収納された容器内を斜め上前方から覗き込みやすく、調理途中の容器内の食品の状態を目視で確認し易くなる。また、容器内の食品を撹拌したり調味料などを添加したりする際に、調理庫の天面の前部が邪魔になりにくいので、そうした調理作業が行い易く、容器や調理庫内面に調理者の手が触れにくくなる。また、調理途中で容器を前方に引き出して上記のような作業を行う場合でも、前方への引き出し量が少なくて済むので、作業が効率良く行え、食品の温度も下がりにくくなる。
【0024】
また、調理庫の天面、後面又は側面に形成されている給電口から調理庫内にマイクロ波が放出され、容器に収容されている食品にもマイクロ波が十分に当たる。それにより、誘導加熱による加熱調理に加えて、高周波加熱により容器内の食品を良好に調理することができる。
【0025】
第4発明に係る加熱調理器では、第1及び第2発明に係る加熱調理器と同様に、ドアを開放した際に調理庫の庫内底面の横幅は奥行きよりも大きくなっている。そのため、鍋等の容器を調理庫内に収納したときにその容器の左右の庫内空間の余裕を確保することができ、例えば調理者が両手鍋の把手を両手で掴んだ状態で、無理なく調理庫内にその鍋を入れたり逆に調理庫内から鍋を取り出したりすることができる。
【0026】
また、第1発明に係る加熱調理器と同様に、比較的余裕のある調理庫後面と筐体後面との間の空間には、高周波加熱手段を構成するマグネトロンが配置されており、そのマグネトロンにより発生するマイクロ波が調理庫の天面、後面又は側面に設けた給電口を通して調理庫内に放出される。したがって、誘導加熱による加熱調理に加えて、高周波加熱により容器内の食品を良好に調理することができる。
【0027】
第5発明に係る加熱調理器では、第1、第2及び第4発明に係る加熱調理器と同様に、ドアを開放した際に調理庫の庫内底面の横幅は奥行きよりも大きくなっている。そのため、鍋等の容器を調理庫内に収納したときにその容器の左右の庫内空間の余裕を確保することができ、例えば調理者が両手鍋の把手を両手で掴んだ状態で、無理なく調理庫内にその鍋を入れたり逆に調理庫内から鍋を取り出したりすることができる。
【0028】
また、第1発明と同様に、誘導加熱手段、高周波加熱手段、及びヒータ加熱手段を同時に使用して、或いは、同一の食品に対して上記加熱手段を適宜切り換えることにより組み合わせて使用し、それぞれの加熱手段の特性を活かした良好な加熱調理を行うことができる。
【0029】
第6発明に係る加熱調理器では、第1、第2、第4及び第5発明に係る加熱調理器と同様に、ドアを開放した際に調理庫の庫内底面の横幅は奥行きよりも大きくなっている。そのため、鍋等の容器を調理庫内に収納したときにその容器の左右の庫内空間の余裕を確保することができ、例えば調理者が両手鍋の把手を両手で掴んだ状態で、無理なく調理庫内にその鍋を入れたり逆に調理庫内から鍋を取り出したりすることができる。
【0030】
また、第3発明に係る加熱調理器と同様に、調理庫の天面、後面又は側面に形成されている給電口から調理庫内にマイクロ波が放出され、容器に収容されている食品にもマイクロ波が十分に当たる。それにより、誘導加熱による加熱調理に加えて、高周波加熱により容器内の食品を良好に調理することができる。
【0031】
なお、第1及び第3発明に係る加熱調理器では、ドアが縦開き式であるため、設置場所の左右に空間の余裕が無いときにも、ドアを前方に完全に開放させて調理庫内に食品や容器を容易に出し入れすることができる。また、ドアを開いたときに手前に倒れたドアの上面を、食品を載せる等の目的で使用することができる。
【0032】
もちろん、第2、第4、第5又は第6発明に係る加熱調理器においても、第1及び第3発明に係る加熱調理器と同様に、前記ドアを縦開き式の構成とすることができる。
【0033】
また、こうした構成においては、前記縦開き式のドアを全開したときに、略鉛直上方を向く該ドアの内面と前記調理庫の底面とがほぼ面一の水平状態となる構成とすることが好ましい。
【0034】
この構成によれば、例えば調理庫の底面上に載置した調理用のトレイを、前方に円滑にスライド移動させることができるので、トレイ上に置いた容器内の食品の撹拌や調味料の添加などの作業が一層容易になるとともに、トレイ上への容器の載置やその容器の取り出しも容易になる。
【0035】
また、上記第1乃至第6発明に係る加熱調理器の一態様として、前記調理庫の一方の側面に該調理庫内に空気を取り込むための開口を、他方の側面に該調理庫内の空気を排出するための開口を備える構成とすることができる。
【0036】
マイクロ波の給電口を調理庫の天面に設け、調理庫の両側面を上記のように空気取り込み用開口及び排気用開口に利用することで、調理庫と筐体との間の空間を有効に利用することができる。それによって、筐体の外形寸法を抑制しつつ、調理庫の庫内寸法をできるだけ広く確保することができる。
【0037】
以上のように第1乃至第6発明に係る加熱調理器によれば、特に容器内に収容された食品の加熱調理を行う際に、その調理に伴う各種の調理作業の作業性を高め、その作業の安全性も確保することができる。また、高周波加熱による電子レンジ機能、ヒータ加熱によるオーブン・グリル機能に加えて、誘導加熱を併用し、それぞれの加熱の特性を活かして良好で効率的な加熱調理を実行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の一実施例である加熱調理器について図面を参照して説明する。
【0039】
図1は本実施例の加熱調理器においてドアを閉鎖した状態の外観斜視図、図2は本実施例の加熱調理器においてドアを全開した状態(食品を収容した容器有り)での外観斜視図、図3はドアを全開した状態(食品を収容した容器無し)での正面図(a)及び右側面図(b)、図4は筐体の一部である外装カバーを取り外した状態の外観斜視図、図5はドアを全開にした状態での調理庫内部の様子を示す要部の上面透視図、図6はドアを閉鎖した状態での要部の右側面縦断面図、図7はトレイのせり出し動作を説明するための要部の右側面縦断面図である。
【0040】
図1〜図3に示すように、この加熱調理器1は外形を形成する前面が傾斜した箱形状の筐体2を有し、筐体2の内部には前面が開放された調理庫3が形成されている。即ち、調理庫3の前面開口はその上端部が下端部よりも後退した傾斜状になっており、この調理庫3の前面開口は、前方下部に左右方向に延伸する水平軸を中心に回動自在である縦開き式のドア4により開閉される。ドア4の中央には調理庫3内部を透視可能な耐熱ガラス製の窓4aが設けられている。また、筐体2の前面上部でドア4の閉鎖時にも隠れない位置には、複数の操作キーが配置されたキー入力部5aとセグメントLCDなどによる表示部5bとを有する操作パネル5が左右に細長く配設されており、調理者はキー入力部5aで各種の加熱調理条件や運転開始・停止などを指示し、表示部5bにはそうした加熱調理条件や運転残り時間などが表示されるようになっている。
【0041】
なお、本発明における操作部としての操作パネル5はその一部又は全ての機能をドア4の前面に配置してもよい。但し、ドア4を開放するとドア4前面は調理者から見えなくなるため、ドア4開放時にも必要となる可能性のある機能については筐体2の前面上部に設け、ドア4開放時に不要な又は重要でない機能についてはドア4前面に設けるとよい。例えば、ドア4開放時にも表示が見えるように表示部5bは筐体2の前面上部に配置し、後述する誘導加熱のための操作キーもドア4ではなく筐体2の前面上部に配置するとよい。一方、高周波加熱やヒータ加熱のための操作キーはドア4を閉めた状態で操作されるようにドア4に設けるとよい。
【0042】
図4に示すように、筐体2を構成する外装カバーの内部には、天面部3a、底面部3b、左側面部3c、右側面部3d、前面部3e、後面部3fから成る調理庫3が設置され、この調理庫3内に収容された被加熱物を加熱調理するための後述する各加熱ユニットや電気回路等は、調理庫3の外側、つまり調理庫3を構成する上記各部と筐体2との間の空間に配置されている。
【0043】
左側面部3c及び右側面部3dの下部には調理庫3の内方に突出して略L字状のトレイガイド11が左右一対に形成され、その上には2段のレール12、13が同様に左右一対に形成されている。トレイガイド11は、主として高周波加熱と誘導加熱の併用による加熱調理のために、被加熱物である食品が収容され、少なくとも底部が誘導加熱可能な鉄やステンレスなどの磁性金属で形成された容器90を上に載置する角皿状のトレイ7を前後に摺動自在に保持するためのものであり、トレイ7を良好に摺動させるために摩擦係数の小さなポリフェニレンサルファイド(PPS)やテフロン(登録商標)などの樹脂が使用されている。トレイ7は後述の誘導加熱のために磁束を通過させる材料であって、且つマイクロ波により加熱されにくいように低損失の誘電体材料から構成され、ここでは耐熱セラミックガラス製である。また、レール12、13は主としてオーブン調理用などの焼皿やグリル皿を調理庫3内に架設するためのものである。
【0044】
図5に示すようにトレイ7が調理庫3内に適切に収容された状態では、トレイ7の左右両縁部に延設されたフランジ7aはトレイガイド11の上に載っており、このトレイガイド11に沿って前後に円滑に移動可能となっている。このトレイ7の上へ重量物である容器90を置き易いように、また調理中に一旦加熱を中断して容器90内の食品の状態を見たり調味料等を添加したり或いは撹拌したりし易いように、トレイ7を自動的に前方にせり出させるためのトレイ搬送機構50が調理庫3の後面部3fの下部後方に設けられているが、これについては後で詳述する。なお、図5では容器90に隠れて見えないが、トレイ7の上面には鍋等の容器を置く適切な位置を示す目印として円形状のマーキング7bが施されており、そのマーキング7bに合わせて容器を載置したときに最も適切な誘導加熱が行われるようになっている。したがって、以下の説明では、原則として容器90はこのマーキング7bに従ってトレイ7上に置かれる場合を想定する。
【0045】
図3及び図5に示すように、調理庫3の底面部3bの寸法は奥行き:Ld、横幅:Lwであり、高さはLhである。特に底面部3bの横幅Lwは奥行きLdよりも大きく形成されている。これは、図5に示すように容器90として両手鍋を使用したときに、その両手鍋の把手90a、90bが両側面部3c、3dとの間に十分な間隙La、Lbを有するように考慮された結果であり、それによって両手鍋をトレイ7上に載置する際又は逆に取り出す際に調理者が鍋の両把手90a、90bを余裕を以て掴めるようになっている。もちろん、トレイ7の上面に形成される上記マーキング7bも、上述のように容器90の両把手90a、90bの側方の間隙La、Lbが十分に確保できるような位置に施されており、典型的には、その位置はトレイ7の中央付近である。
【0046】
また、調理庫3の前面開口が傾斜状に形成されている理由の1つも上記と同じ理由である。即ち、このように前面部3eを傾斜させたことにより、図7(a)に示すように、調理庫3の前面開口の上縁部(天面部3aの前縁部)の位置Pbは調理庫3の前面開口の下縁部(底面部3bの前縁部)の位置Paよりも距離Dだけ後退している。この位置Pbは、容器90が載置されたトレイ7がその搬送範囲の最前部までせり出した状態において、前後方向に容器90の略中央部とほぼ一致する又はそれよりも後部側の位置になるように決められており、距離Dは位置Pbと容器90とが上記位置関係を満たすようになっている。こうした構成により、ドア4を開放しない状態でも窓4aを通して、トレイ7上に載置された容器90の上面が斜め上部前方から覗き込み易くなっている。また、図7(a)に示すように調理庫3内にトレイ7が収納された状態でも、容器90内の食品を調理者が撹拌したり調味料を加えたりする際の作業が行い易くなっている。
【0047】
さらにまた、図7(b)に示すようにトレイ7が前方にせり出した状態では、容器90の上面の半分程度以上が上から覗けるようになっている。それによって、調理者が容器90内の食品の調理状態を一層確認し易く、撹拌や調味料の添加などの作業も一層行い易い。またこの状態では、容器90の把手90a、90bが前面開口の近傍に位置しているか、或いは場合によっては前面開口から把手90a、90bの一部又は全部が外側に出ているので、調理者が両手鍋の把手90a、90bを持って容器90を調理庫3内に出し入れする作業も非常に容易である。
【0048】
この加熱調理器1では、誘導加熱、高周波加熱、及びヒータ加熱(オーブン加熱又はグリル加熱と呼ぶ場合もあるが本明細書ではヒータ加熱と呼称する)の3種類の異なる方式による加熱調理を行うために、それぞれに独立した加熱ユニットが設けられている。即ち、図6に示すように、調理庫3の底面部3bの下方であってその略中央には、トレイ7上に載置された容器90を誘導加熱するための誘導加熱ユニット20が設けられている。また、調理庫3の後面部3fの後方には、調理庫3内に収容された食品をヒータ加熱するためのヒータ加熱ユニット40が設けられている。さらに、調理庫3の後面部3f後方の左上部及び天面部3a上方には、調理庫3内に収容された(例えば容器90内の)食品を電子レンジ調理するための高周波加熱ユニット30が設けられている。
【0049】
図14は本実施例の加熱調理器1の電気系のブロック構成図である。制御部70はマイクロコンピュータを中心に構成されており、インバータ駆動部71を介して、上記誘導加熱ユニット20に含まれるインバータ回路73を駆動しインバータ回路73の構成の一部となる誘導加熱コイル24に高周波電流を流すとともに、インバータ回路74を駆動して駆動電力を上記高周波加熱ユニット30に含まれるマグネトロン31に供給して駆動する。また、制御部70は負荷駆動部72を介して、高周波加熱ユニット30に含まれるアンテナ駆動モータ35、ヒータ加熱ユニット40に含まれるヒータ43及びファンモータ45、さらにはトレイ搬送機構50に含まれるトレイ搬送モータ57のほか、後述する吸気ダクト9に空気を送り込むための冷却用ブロアモータ77の動作を制御する。
【0050】
また、制御部70には、キー入力部5aよりキー入力信号が、ドアスイッチ75よりドア4の開閉状態を認識するドア開放検知信号が、温度センサ76より調理庫3内の温度検知信号が、トレイ搬送機構50に含まれるトレイ搬送位置検知スイッチ(マイクロスイッチ)60より位置検知信号がそれぞれ入力され、さらには表示部5bに対し運転コースの設定情報や運転状況などについての表示制御信号を出力して表示を行わせる。制御部70は運転プログラムが格納されたROMを備えており、この運転プログラムをCPU上で実行する過程で、上記のような各種の入力信号により調理者の操作や本機器の動作状態を監視しながら上記各部の動作を制御する。
【0051】
次に、上記3つの加熱ユニットのうち、まず誘導加熱ユニット20について図8及び図9によりその構成と動作を詳述する。図8(a)は本実施例の加熱調理器1の正面縦断面図、図8(b)は図8(a)中のA部の拡大図、図9は誘導加熱ユニット20の主要部の分解構造図である。
【0052】
図9に示すように、調理庫3の底面部3bは、略中央に八角形状に絞り加工で形成した凹部201が形成され、その中央が大きく円形状に開口した開口部202を有するステンレス(SUS304)製の主底板200と、所定径の小孔204が多数形成された同じくステンレス(SUS304)製のパンチング板203とから成り、両者はスポット溶接等の溶着によって一体化されている。上記パンチング板203は、凹部201に嵌め込まれる載置台21と下部に設けられたグラスウールから成る円板状の断熱材22で挟持される。載置台21はトレイ7と同様に、誘導加熱のために磁束を通過させるものである必要があり、高周波加熱されにくいように低損失の誘電体材料である必要がある。また、耐熱性も必要である。そこで、ここでは載置台21は結晶ガラスから構成されている。
【0053】
載置台21の周縁部と凹部201の内壁との間には隙間があるが、この隙間はシリコーン樹脂26により充填されており、それによって調理庫3の底面はほぼ平坦化されている。また、この隙間を緊密に塞ぐことで、食品の残滓やゴミなどが隙間に入り込むことを防止できる。
【0054】
断熱材22の下方には、薄いマイカシート等の絶縁板23を挟んで平板渦巻き状に巻回されて成る誘導加熱コイル24が配設されている。断熱材22、絶縁板23、及び誘導加熱コイル24は、主底板200の下面にネジ等で固定されるポリプロピレン(PP)樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネートアクリロニトリルブタジエンスチレン(ポリカABS、PC/ABS)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、フェノール樹脂などの合成樹脂製のホルダ25により、下方から主底板200の下面に押し付けられるように保持されている。
【0055】
この実施例では主底板200の板厚は0.5mmであり大きな重量の容器が載せられても十分な強度を有する。一方、パンチング板203の板厚は主底板200の板厚よりも薄い0.1mmであって主底板200と比べると強度的に劣る。しかしながら、パンチング板203は、ホルダ25により、誘導加熱コイル24及び断熱材22を介して下方から押し付けるように保持されているので、載置台21と断熱材22とで挟持された状態となっており補強がなされている。また、このようにして誘導加熱コイル24を固定することにより、底面部3bと誘導加熱コイル24との高さ方向の離間距離の個体差を少なくすることができる。
【0056】
パンチング板203はその下方の誘導加熱コイル24から発生する磁束を通過させる一方、後述するように調理庫3内に供給されるマイクロ波を阻止する機能を有する。このような磁束の通過効率の条件は、主としてパンチング板203の開口率と板厚とによって決まり、一方、マイクロ波の通過阻止条件は、主としてパンチング板203の小孔204の径と板厚とによって決まる。したがって、こうした要素を適宜に設定する必要がある。ここでは、1.4mm径の小孔を1.7mm間隔で設けたものを使用している。但し、板厚が薄い条件の下では必ずしも小孔が形成されていなくても、磁束は通過し得る。
【0057】
図13は、金属製の薄板を介して誘導加熱を行う場合について、その薄板の板厚、小孔の開口率、及び金属薄板無しで誘導加熱を行うときの電力に対する金属薄板を介して誘導加熱を行うときの電力の比、即ち電力比の関係をシミュレーションした結果を示すグラフである。この図では、電力比が1.0が損失が無い状態を示す。具体的には、例えば本実施例のように板厚が0.1mmである場合、開口率が50%であれば電力損失は10%だけであり、開口が全くない場合でも電力損失は18%程度である。板厚を0.05mmまで薄くすることが可能であれば開口が無くても電力損失は10%程度に抑えられる。もちろん、板厚を薄くするほど強度が落ちるから、こうした条件も加味して適当な板厚、開口率(小孔のサイズと間隔)を決めればよい。
【0058】
上記構成の誘導加熱ユニット20において、制御部70の制御の下に動作するインバータ駆動部71によりインバータ回路73から誘導加熱コイル24に高周波電流が流されると交番磁束が発生し、その磁束はパンチング板203及び載置台21を通過して調理庫3内に侵入し、さらにトレイ7を通過して少なくとも底部が磁性金属で形成された容器90の底部を横切る。その誘導作用によって容器90の底部に渦電流を誘起させ、ジュール熱により該容器90を加熱し、その容器90内に収容されている調理対象の食品を加熱する。このとき、容器90の熱は載置台21及びパンチング板203に伝わるがその下方の断熱材22により遮断されるため、伝導してきた熱によって誘導加熱コイル24が高温になることを防止することができる。また、容器90の加熱出力は容器90底面と誘導加熱コイル24との距離にも依存するが、上述したように誘導加熱コイル24がホルダ25により底面部3bに対して固定されていることで上記距離の個体差が小さく、振動等によっても変動しないので安定した誘導加熱を行うことができる。
【0059】
このようにして、トレイ7に載置された容器90内の食品を誘導加熱により調理することができる。このときには、誘導加熱の対象は容器90であって厳密に言えば被加熱物は容器90であるが、容器90内に収容された食品は間接的に加熱されるため、この食品が被加熱物であるとみなすことができる。この誘導加熱では容器90自体が高温になるので、例えば容器90に接触した肉、魚などの食品に焦げ目を付けた焦げ目調理を行うことができる。
【0060】
なお、前述の誘導加熱コイル24は、図7(a)に示すように調理庫3内にトレイ7が収納された状態で、トレイ7に設けられたマーキング7bの下方に位置するように、調理庫の底面部3b下方に誘導加熱ユニット20の一部として配置されている。即ち、円形状のマーキング7bは調理者がトレイ7上に容器90を載置するための指標であると同時に、調理庫3内にトレイ7が収納された状態では誘導加熱コイル24の位置を示し、誘導加熱コイル24と同心円状のものとなる。また、前述のようにマーキング7bはトレイ7の幅、つまりは底面部3bの幅のほぼ中央に設けられているから、誘導加熱コイル24も底面部3bの幅のほぼ中央に位置し、誘導加熱コイル24により最良に誘導加熱されるように置かれた容器90の把手90a、90bの両端と両側面部3c、3dとの間の距離La、Lbはそれぞれ十分に確保されることになる。
【0061】
次に高周波加熱ユニット30について、図4及び図6によりその構成と動作を詳述する。調理庫3の後面部3fの後方左上部の空間にはマグネトロン31が取り付けられ、調理庫3の天面部3aの上方にはそのマグネトロン31から前方に向かい途中で右方に屈曲されて天面部3aの略中央まで延伸する導波管32が配設されている。調理庫3の天面部3aにはマイクロ波拡散室33が形成されており、導波管32の末端はマイクロ波拡散室33の上部にまで延設され、この導波管32内部とマイクロ波拡散室33内部とを隔てるマイクロ波拡散室33の上壁面には、本発明における給電口としての貫通孔32aが穿設されている。マイクロ波拡散室33内には、鉛直方向に延伸する金属製円筒形状のアンテナ軸34aの下部に固定された、水平方向に延伸する金属製板状の放射アンテナ34が配置されている。上記貫通孔32aには中央に貫通口を有する軸受け32bが装着されており、放射アンテナ34のアンテナ軸34aは軸受け32bの貫通口に回転自在に挿通されている。このような構成により、放射アンテナ34はアンテナ軸34aを中心に、マイクロ波拡散室33内で回転自在となっている。
【0062】
貫通孔32a付近であって導波管32の上部にはモータ軸35aを有するアンテナ駆動モータ35が設置されている。このモータ軸35aは導波管32の上壁面を上部から下方に貫通し、導波管32内で放射アンテナ34のアンテナ軸34aと接続されている。これにより、アンテナ駆動モータ35の回転駆動力をモータ軸35a、アンテナ軸34aを経て放射アンテナ34に伝達している。また、マグネトロン31から導波管32内を通って案内されて来たマイクロ波は導波管32内に露出しているアンテナ軸34aを介することで貫通孔32aを通過して放射アンテナ34に伝播され、放射アンテナ34から調理庫3内に放射される。このとき、アンテナ駆動モータ35により放射アンテナ34を回転させるので、放射アンテナ34はマイクロ波を拡散しながら様々な方向に向けて放射することになる。
【0063】
高周波加熱の際には、制御部70の制御の下にインバータ駆動部71によりインバータ回路74が駆動されマグネトロン31に駆動電力が供給されるとともに負荷駆動部72を介してアンテナ駆動モータ35が作動される。マグネトロン31が駆動されると、マグネトロン31から発生したマイクロ波は上述したように導波管32内を通ってマイクロ波拡散室33に至り、アンテナ駆動モータ35により回転駆動される放射アンテナ34により拡散されつつ調理庫3内に放出される。即ち、マイクロ波は調理庫3の天面のマイクロ波拡散室33から降り注ぐように様々な方向に向かって放出され、さらに調理庫3の側面や後面或いはドア4の内面などに当たって反射する。したがって、調理庫3内に収容されている食品を満遍なく加熱することができる。
【0064】
特に、図6に示すように底の深い容器90内に収容されている食品を高周波加熱する場合でも、マイクロ波の給電口が天面部3aに形成されていることによってマイクロ波が容器90によって邪魔されにくく、容器90内の食品に当たって被加熱物である該食品を効率良く加熱することができる。また、このとき上述したようにマイクロ波は底面部3bのパンチング板203を通過しないので、マイクロ波が調理庫3から漏洩することを防止することができる。
【0065】
次にヒータ加熱ユニット40について図5及び図6によりその構成と動作を詳述する。調理庫3の後面部3fの裏側には深皿状に凹んだヒータ室41が形成され、ヒータ室41の後方にはファンモータ45が設置されている。ファンモータ45の前後方向に延伸する回転軸はヒータ室41の後壁を貫通し、その前端にファン42が固定されている。ファン42の外周側には該ファン42を取り囲むようにシーズ線ヒータであるヒータ43が設けられ、駆動電流がこのヒータ43に供給されることにより加熱される。ファン42は多数の翼体を所定角度間隔で円盤体に取り付けた構造を有しており、所定方向に回転すると中央前方から吸い込んだ空気を翼体の外周側へ送り出すような構造となっている。ヒータ室41前方の後面部3fには、ファン42の内周側に多数の吸気孔14が形成され、ヒータ43の前方には多数の熱風送給孔15が形成されている。この吸気孔14及び熱風送給孔15もマイクロ波の通過を阻止するような寸法に設定されていることは当然である。
【0066】
ヒータ加熱の際には、制御部70の制御の下に負荷駆動部72を介してヒータ43に加熱電流が供給されるとともにファンモータ45が作動される。ファンモータ45によりファン42が回転駆動されると、吸気孔14を通して調理庫3内の空気をヒータ室41内に吸い込み、外周側に送り出す。外周側には加熱されたヒータ43が存在するから、送られた空気はヒータ43との熱交換によって加熱され、熱風送給孔15を通して調理庫3内へと戻る。このようにファン42の作用により、調理庫3内とヒータ室41との間で空気を循環させることにより、調理庫3内の空気の温度を200℃以上もの高温にまで上昇させ、調理庫3内に収容されている被加熱物である食品をオーブン・グリル調理することができる。
【0067】
また、上記のような加熱調理の際には食品から蒸気が発生し、この蒸気でドア4の窓4aが曇って調理中に調理庫3内を透視しにくくなるので、この発生した蒸気を調理庫3内から外部に排出する必要がある。そのために、調理庫3の左側面部3cの上部には多数の空気取り込み孔8が形成されており、左側面部3cの外側に配設された吸気ダクト9を通して調理庫3の後部から導入された空気がこの空気取り込み孔8を経て調理庫3内部に送り込まれる。なお、図5、図6には現れていないが後面部3fの後方には冷却用ブロアモータ77により駆動されるブロアが設けられ、筐体2の後方から吸い込んだ外気が電気回路やマグネトロン31を冷却するために使用された後、集められて吸気ダクト9に送り込まれるように構成されている。一方、調理庫3の右側面部3dには多数の排気孔10が形成されており、調理庫3内の空気は排気孔10を経て、右側面部3dの外側に配設された図示しない排気ダクトを通して機外へと排出される。
【0068】
本実施例の加熱調理器1では、特に誘導加熱による調理を行うため、容器90内に収容されている食品の撹拌する等、調理中に使用者が食品に対して作業を行う機会が多い。こうした作業を容易に行えるようにするため、及び容器90の出し入れを容易に行えるようにするために、ドア4を全開した状態で調理者がキー入力部5aで所定のキー操作を行うと、トレイ搬送機構50の動作によりトレイ7が自動的に前方にせり出して来るようになっている。このトレイ搬送機構50の構成及び動作について、図7に加えて、図10、図11及び図12により説明する。図10はトレイ7が最大限前方にせり出した状態のドア4、トレイ7、トレイ搬送機構50を示す要部の上面図、図11は図10の状態を右斜め上方から見たときの展開図、図12はトレイ搬送機構50の外観斜視図である。
【0069】
トレイ搬送機構50は、金属製のベース51と、トレイ7の後部に当接してこれを前方に押し出す当接片53を有するコ字状の摺動体52と、摺動体52を前後方向に移動可能に保持するガイド54と、一端が垂直軸55に回動自在に接続され他端がガイド54の後端に水平方向に所定範囲で移動可能に接続されたアーム56と、駆動源であるトレイ搬送モータ57と、トレイ搬送モータ57により一方向に回転駆動される回動体58と、その回動体58の駆動力を上記アーム56に伝える連結体59と、摺動体52の位置を検知するためのマイクロスイッチであるトレイ搬送位置検知スイッチ60と、を備える。
【0070】
図7(a)に示すようにトレイ7が最大限、調理庫3内部に押し込まれた状態で、制御部70の制御の下に負荷駆動部72を介してトレイ搬送モータ57が駆動されると、回動体58が所定方向に回動し始め、連結体59を介して摺動体52は前方に牽引される。摺動体52の移動方向はガイド54により前後方向にのみ規制されているので、摺動体52は前方に直進し、その移動に伴って前端の当接片53はトレイ7の後部を押し、トレイ7は調理庫3内から水平前方にスライド移動することでせり出してゆく。回動体58が約1/2周すると、今度は連結体59を介して摺動体52は後方に押される。したがって、トレイ7を最大限押し出した位置に残したまま、摺動体52は後退する。トレイ7が最大限押し出された状態が図7(b)に示す状態であり、トレイ7の前部は調理庫3内から前方に突出している。このとき、鉛直上方を向いたドア4の内面と調理庫3の底面部3b上面とはほぼ面一の水平面を形成しているので、前方に突出したトレイ7はドア4の内面の上に載り、安定した水平状態を維持し得る。
【0071】
そして、回動体58が略1回転すると、回動体58の突片がトレイ搬送位置検知スイッチ60の可動片を押圧し、スイッチ60がオンしたことを検知した制御部70が負荷駆動部72を介してトレイ搬送モータ57への通電を遮断する。これにより、摺動体52は元の位置、つまり調理庫3内の所定位置に収納された状態で停止する。このトレイ搬送機構50はトレイ7を前方にスライド移動させるだけの機能を有し、トレイ7を後方に牽引する機能は持たないため、図7(b)に示すように前方にせり出した状態にあるトレイ7を調理庫3内に押し入れる動作は調理者が手動で行う。もちろん、こうした後方へのスライド移動動作も自動で行えるような構成としてもよい。
【0072】
上記のようなトレイ搬送機構50は小型、特に薄型であるため、調理庫3の後面部3fと筐体2の後面の間の下部の空間に適切に収納される。また、構造が簡単であるため、故障も少なく高い信頼性を有する。
【0073】
なお、ドア4が全開状態でないときにトレイ7が前方にせり出すと、ドア4にトレイ7が接触してトレイ搬送モータ57に無理な負荷が掛かって故障したり、或いはドア4やトレイ7が破損したりするおそれがある。そこで、本実施例の加熱調理器1では、制御部70はドアスイッチ75によりドア4の開閉状態を監視し、ドアスイッチ75からの検知信号によりドア4が全開していると判断したときにのみ、トレイ7を前方にせり出させるための入力キーの受け付けを許可し、実際にトレイ搬送モータ57を動作させるようにしている。これにより、ドア4が閉鎖していたり半開き状態であったりするときに調理者が誤ってトレイ7を前方にスライド移動させる指示を行っても、トレイ7は全く移動せず、上述したような不具合が生じることを防止できる。
【0074】
なお、上記実施例はいずれも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜、変形、修正又は追加などを行っても本発明に包含されることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施例による加熱調理器においてドアを閉鎖した状態の外観斜視図。
【図2】本実施例の加熱調理器においてドアを全開した状態(食品を収容した容器有り)での外観斜視図。
【図3】本実施例の加熱調理器においてドアを全開した状態(食品を収容した容器無し)での正面図(a)及び右側面図(b)。
【図4】本実施例の加熱調理器において筐体の一部である外装カバーを取り外した状態の外観斜視図。
【図5】本実施例の加熱調理器においてドアを全開にした状態の要部の上面透視図。
【図6】本実施例の加熱調理器においてドアを閉鎖した状態の要部の右側面縦断面図。
【図7】本実施例の加熱調理器においてトレイのせり出し動作を説明するための要部の右側面縦断面図。
【図8】本実施例の加熱調理器の正面縦断面図(a)及び(a)中のA部の拡大図(b)。
【図9】本実施例の加熱調理器における誘導加熱ユニットの主要部の分解構造図。
【図10】本実施例の加熱調理器においてトレイが最大限前方にせり出した状態のドア、トレイ、トレイ搬送機構を示す要部の上面図。
【図11】図10の状態を右斜め上方から見たときの展開図。
【図12】本実施例の加熱調理器におけるトレイ搬送機構の外観斜視図。
【図13】金属製の薄板を介して誘導加熱を行う場合について、薄板の板厚、小孔の開口率、及び電力比の関係をシミュレーションした結果を示すグラフ。
【図14】本実施例の加熱調理器の電気系のブロック構成図。
【符号の説明】
【0076】
2…筐体
3…調理庫
3a…天面部
3b…底面部
3c…左側面部
3d…右側面部
3e…前面部
3f…後面部
4…ドア
4a…窓
5…操作パネル
5a…キー入力部
5b…表示部
7…トレイ
7a…フランジ
7b…マーキング
8…吸気孔
9…吸気ダクト
10…排気孔
11…トレイガイド
12、13…レール
14…吸気孔
15…熱風送給孔
20…誘導加熱ユニット
21…載置台
22…断熱材
23…絶縁板
24…誘導加熱コイル
25…ホルダ
26…シリコーン樹脂
200…主底板
201…凹部
202…開口部
203…パンチング板
204…小孔
30…高周波加熱ユニット
31…マグネトロン
32…導波管
32a…貫通孔
32b…軸受け
33…マイクロ波拡散室
34…放射アンテナ
34a…アンテナ軸
35…アンテナ駆動モータ
35a…モータ軸
40…ヒータ加熱ユニット
41…ヒータ室
42…ファン
43…ヒータ
45…ファンモータ
50…トレイ搬送機構
51…ベース
52…摺動体
53…当接片
54…ガイド
55…垂直軸
56…アーム
57…トレイ搬送モータ
58…回動体
59…連結体
60…トレイ搬送位置検知スイッチ
70…制御部
71…インバータ駆動部
72…負荷駆動部
73、74…インバータ回路
75…ドアスイッチ
76…温度センサ
77…冷却用ブロアモータ
90…容器(食品が収容された容器)
90a、90b…把手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外形を成す筐体と、
食品が収容された容器を内部に収納するために前記筐体の内側に配設された調理庫であって、上部が下部よりも後退するように傾斜状に形成された前面開口を有するとともに庫内底面の横幅が奥行きよりも大きく形成されて成る調理庫と、
該調理庫の前面開口を閉塞することで該調理庫を略密閉する縦開き式のドアと、
前記筐体の前面であって前記ドアの上方、又は該ドア自体に配置された操作部と、
前記調理庫の後方に配置されたマグネトロン、及び、該マグネトロンから発生したマイクロ波を前記調理庫の天面に形成されたマイクロ波放出用の給電口まで案内する導波管、を含む高周波加熱手段と、
前記調理庫内に収納された前記容器を誘導加熱するために該調理庫の底面下方であって且つ該底面の略中央に配設された誘導加熱コイルを含む誘導加熱手段と、
前記調理庫内に収納された食品を直接的に加熱調理するために、該調理庫の後面に配設された加熱源であるヒータ、及び、該調理庫内の空気を吸引して前記ヒータで加熱した後に該調理庫内に送り込むファン、を含むヒータ加熱手段と、
を備えることを特徴とする加熱調理器。
【請求項2】
外形を成す筐体と、
食品が収容された容器を内部に収納するために前記筐体の内側に配設され、庫内底面の横幅が奥行きよりも大きく形成されて成る、ドアにより略密閉可能な調理庫と、
前記調理庫の外側に配置されたマグネトロン、及び、該マグネトロンから発生したマイクロ波を前記調理庫の天面に形成されたマイクロ波放出用の給電口まで案内する導波管、を含む高周波加熱手段と、
前記調理庫内に収納された前記容器を誘導加熱するために該調理庫の底面の下方に配設された誘導加熱コイルを含む誘導加熱手段と、
を備えることを特徴とする加熱調理器。
【請求項3】
外形を成す筐体と、
食品が収容された容器を内部に収納するために前記筐体の内側に配設された調理庫であって、上部が下部よりも後退するように傾斜状に形成された前面開口を有する調理庫と、
該調理庫の前面開口を閉塞することで該調理庫を略密閉する縦開き式のドアと、
前記調理庫の外側に配置されたマグネトロン、及び、該マグネトロンから発生したマイクロ波を前記調理庫の天面、後面又は側面に形成されたマイクロ波放出用の給電口まで案内する導波管、を含む高周波加熱手段と、
前記調理庫内に収納された前記容器を誘導加熱するために該調理庫の底面の下方に配設された誘導加熱コイルを含む誘導加熱手段と、
を備えることを特徴とする加熱調理器。
【請求項4】
外形を成す筐体と、
食品が収容された容器を内部に収納するために前記筐体の内側に配設され、庫内底面の横幅が奥行きよりも大きく形成されて成る、ドアにより略密閉可能な調理庫と、
前記調理庫の後方に配置されたマグネトロン、及び、該マグネトロンから発生したマイクロ波を前記調理庫の天面、後面又は側面に形成されたマイクロ波放出用の給電口まで案内する導波管、を含む高周波加熱手段と、
前記調理庫内に収納された前記容器を誘導加熱するために該調理庫の底面の下方に配設された誘導加熱コイルを含む誘導加熱手段と、
を備えることを特徴とする加熱調理器。
【請求項5】
外形を成す筐体と、
食品が収容された容器を内部に収納するために前記筐体の内側に配設され、庫内底面の横幅が奥行きよりも大きく形成されて成る、ドアにより略密閉可能な調理庫と、
前記調理庫の後方に配置されたマグネトロン、及び、該マグネトロンから発生したマイクロ波を前記調理庫の天面又は側面に形成されたマイクロ波放出用の給電口まで案内する導波管、を含む高周波加熱手段と、
前記調理庫内に収納された前記容器を誘導加熱するために該調理庫の底面の下方に配設された誘導加熱コイルを含む誘導加熱手段と、
前記調理庫内に収納された食品を直接的に加熱調理するために、該調理庫の後面に配設された加熱源であるヒータ、及び、該調理庫内の空気を吸引して前記ヒータで加熱した後に該調理庫内に送り込むファン、を含むヒータ加熱手段と、
を備えることを特徴とする加熱調理器。
【請求項6】
外形を成す筐体と、
食品が収容された容器を内部に収納するために前記筐体の内側に配設され、庫内底面の横幅が奥行きよりも大きく形成されて成る、ドアにより略密閉可能な調理庫と、
前記調理庫の外側に配置されたマグネトロン、及び、該マグネトロンから発生したマイクロ波を前記調理庫の天面、後面又は側面に形成されたマイクロ波放出用の給電口まで案内する導波管、を含む高周波加熱手段と、
前記調理庫内に収納された前記容器を誘導加熱するために該調理庫の底面の下方に配設された誘導加熱コイルを含む誘導加熱手段と、
を備えることを特徴とする加熱調理器。
【請求項7】
前記ドアは縦開き式であることを特徴とする請求項2、4、5、又は6に記載の加熱調理器。
【請求項8】
前記縦開き式のドアを全開したときに、略鉛直上方を向く該ドアの内面と前記調理庫の底面とがほぼ面一の水平状態となることを特徴とする請求項1、3、又は7に記載の加熱調理器。
【請求項9】
前記調理庫の一方の側面に該調理庫内に空気を取り込むための開口を、他方の側面に該調理庫内の空気を排出するための開口を備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の加熱調理器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2006−210034(P2006−210034A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17771(P2005−17771)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】