説明

助手席用エアバッグ、助手席用エアバッグ装置及び車両

【課題】インパネに干渉物が近接している状態で助手席用エアバッグが膨張開始した場合、エアバッグ内のガスをベントホールから速やかに流出させて干渉物に対する衝撃を低くする助手席用エアバッグ及び助手席用エアバッグ装置と、この助手席用エアバッグ装置を備えた車両を提供する。
【解決手段】車両が前突した場合、インフレータ30がガス発生作動し、ガスがディフューザ20を経てエアバッグ本体10内に流入する。ディフューザ20が膨張することにより、ディフューザ20及びエアバッグ本体10がインパネ32の上方側へ展開し始める。この展開初期状態において、ディフューザ20はすぐにほぼ膨張完了状態となり、ガス流出口25がインパネ32よりも上面側に位置する。ディフューザ20には凹所26が設けられており、この凹所26が干渉物Mに対峙する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の助手席前方のインストルメントパネル(以下、インパネと略)に設置される助手席用エアバッグに係り、特に、エアバッグ本体内にディフューザを設置した助手席用エアバッグに関する。また、本発明は、この助手席用エアバッグを有する助手席用エアバッグ装置と、この助手席用エアバッグ装置を備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ本体内にディフューザを設置し、インフレータからのガスの流れを規制するように構成した助手席用エアバッグは、特許文献1,2に記載されている。特許文献1では、ディフューザによってインフレータからのガスの流れ方向を左右方向に規制している。特許文献2では、エアバッグが助手席乗員又はその前方の子供に対しソフトに膨張するように、ディフューザ(特許文献2ではインナバッグと称されている。)に設けたガス吹出口を車両真後ろ方向よりも上下又は左右にずらしている。なお、本明細書において、左右方向とは車体の左右方向に合致する。左、右は助手席乗員にとっての左、右である。
【0003】
特許文献3には、エアバッグ内をテザーによって上下2部位に分画し、エアバッグ膨張途中でエアバッグが干渉物に干渉したときには、上側部位のガスをテザーの左右両サイドから下側部位に流し、干渉物に対する衝撃を低減することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−198750
【特許文献2】特開平10−71904
【特許文献3】特開平11−5505
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、インパネに干渉物が近接している状態で助手席用エアバッグが膨張開始した場合、エアバッグ内のガスをベントホールから速やかに流出させて干渉物に対する衝撃を低くする助手席用エアバッグ及び助手席用エアバッグ装置と、この助手席用エアバッグ装置を備えた車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の助手席用エアバッグは、両側面にベントホールが設けられ、基端側にインフレータ用開口が設けられたエアバッグ本体と、該エアバッグ本体内に配置されており、インフレータからのガスをエアバッグ本体の側方に向けて流すためのガス流出口を有したディフューザとを有する助手席用エアバッグにおいて、該ディフューザは、膨張した状態において左右方向の中央部が左端側及び右端側よりも該基端側に位置することを特徴とするものである。
【0007】
本発明の一態様では、助手席用エアバッグの膨張初期においては、前記ディフューザのガス流出口からのガス流出方向の延長方向に前記ベントホールが位置しており、助手席用エアバッグの膨張完了状態においては、前記ベントホールは該ガス流出口よりも車両後方に位置する。
【0008】
前記エアバッグ本体は、まず、車両搭載状態における左右方向に長い1次折畳体とされ、次いで左右幅を小さくするように折り畳まれて2次折畳体とされたものであり、該1次折畳体及び2次折畳体の側面付近に前記ベントホールが臨んでいることが好ましい。
【0009】
前記ディフューザの膨張完了状態において、左右のガス流出口間の距離が230〜440mmであり、該ディフューザの前記中央部は前記左端側及び右端側よりも50〜160mm前記基端側に位置することが好ましい。
【0010】
前記ディフューザの膨張完了状態におけるガス流出口の開口面積は、前記ベントホールの開口面積の1.1〜3.0倍であることが好ましい。
【0011】
前記ディフューザは、車両搭載状態における、車両後方側の第1パネルと車両前方側の第2パネルとを縫合して構成されており、該第1パネル及び第2パネルの車両前端側は、エアバッグ本体の車両前端側において、エアバッグ本体を構成するメインパネルと共縫いされていることが好ましい。
【0012】
本発明の助手席用エアバッグ装置は、上記本発明の助手席用エアバッグと、これを膨張させるためのインフレータとを有する。
【0013】
本発明の車両は、かかる助手席用エアバッグ装置を備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の助手席用エアバッグ及び助手席用エアバッグ装置並びに車両にあっては、車両衝突等に伴ってインフレータが作動すると、インフレータからのガスがディフューザを介してエアバッグ本体内に流入し、エアバッグ本体が膨張する。このガスは、ディフューザのガス流出口から車両側方(左右方向)に向って流出し、エアバッグはまず左右に膨張開始する。本発明では、ディフューザの左右方向の中央部がディフューザ左端側及び右端側よりも低位となっているので、このディフューザ中央部に対面するようにインパネに近接して干渉物が存在する場合、ディフューザによって該干渉物方向へのガスの流れが抑制され、干渉物に加えられる入力が緩和される。
【0015】
ディフューザの膨張完了状態における左右のガス流出口の距離が230〜440mm程度の場合、ディフューザの該中央部を左端側及び右端側よりも50mm以上低位とすることにより、ディフューザによって中央部へのガスの流れが抑制され、該干渉物に加えられる入力が緩和される。
【0016】
膨張初期にディフューザのガス流出口からのガス流出方向の延長方向にベントホールが位置していると、膨張初期にエアバッグ本体が干渉物と干渉した場合、ガス流出口からのガスがベントホールから速やかに流出し、該干渉物への入力が緩和される。
【0017】
本発明においては、エアバッグ本体を左右に長い1次折畳体とし、次いで左右幅を小さくするように折り畳んで2次折畳体とし、この1次折畳体及び2次折畳体の側面付近にベントホールを臨ませてもよい。この折り畳まれた助手席用エアバッグがインフレータからのガスによって膨張する場合、上述のように、エアバッグ本体はまず車両左右方向に膨張する。このようにエアバッグ本体が左右方向に膨張した膨張初期に、ベントホールがエアバッグ本体の側面付近に位置する。そのため、ディフューザガス流出口からのガスがベントホールから速やかに流出する。
【0018】
ディフューザの膨張完了状態におけるガス流出口の開口面積をベントホールの開口面積よりも大きく(例えば1.1〜3.0倍)することにより、エアバッグ膨張途中でベントホールがガス流出口からのガス流出方向の延長線上に位置し易くなる。このため、干渉物が近接している場合、ベントホールからのガスが速やかに流出する。
【0019】
本発明の一態様では、助手席用エアバッグの膨張完了状態においてベントホールがディフューザのガス流出口よりも車両後方に位置するように構成されている。このエアバッグが干渉物と干渉せずに膨張する場合には、ベントホールからのガス流出が少なくなる。
【0020】
ディフューザを車両後方側の第1パネルと車両前方側の第2パネルと縫合して構成し、該第1パネル及び第2パネルの車両前端側をエアバッグ本体のメインパネルと共縫いした助手席用エアバッグは、縫合工程数が少なく、製造が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態に係る助手席用エアバッグの車両前後方向における縦断面図である。
【図2】ディフューザの斜視図である。
【図3】ディフューザのパネルの平面図である。
【図4】ディフューザのパネルの平面図である。
【図5】実施の形態に係る助手席用エアバッグの側面図である。
【図6】実施の形態に係る助手席用エアバッグの正面図である。
【図7】膨張途中の助手席用エアバッグの車両前方側からの斜視図である。
【図8】膨張途中の助手席用エアバッグの左右方向における縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1〜8を参照して実施の形態について説明する。
【0023】
図1〜6の通り、この助手席用エアバッグ1は、エアバッグ本体10と、該エアバッグ本体10内のディフューザ20とを有する。エアバッグ本体10の左右両側面にベントホール11が設けられている。エアバッグ本体10の車両前端側の底面にインフレータ用開口12が設けられている。Tは乗員対向面を示している。
【0024】
エアバッグ本体10は、図6の通りメインパネルとしてのセンターパネル14と左右のサイドパネル15,15とを縫合したものである。センターパネル14は、膨張状態のエアバッグ本体10の上面から乗員対向面T及び下面を構成する。左右のサイドパネル15,15はエアバッグ本体10の左右の側面を構成する。この各サイドパネル15にベントホール11が設けられている。
【0025】
ディフューザ20は、図1,2の通り、車両後方側の第1パネル21と、前方側の第2パネル22とを縫目23,24によって縫合したものである。縫目23は、パネル21,22の側辺部同士を縫合しており、縫目24はパネル21,22の上縁部同士を縫合している。
【0026】
パネル21,22は、図3に示すように、上部が左右に若干張り出した略Y字形状である。縫目23は、このパネル21,22上部の張出部よりも下側においてパネル21,22の側辺部同士を縫合している。これにより、図2の通り、ディフューザ20の上部の左右にガス流出口25,25が形成される。
【0027】
図3の通り、パネル21,22は上辺部の中央部が凹んだ形状とされているので、図2の通り、膨張完了状態のディフューザ20には、上部中央に、基端側すなわち下方に凹陥した凹所26が形成される。
【0028】
膨張完了状態において、各ガス流出口25の開口面積は各ベントホール11の開口面積の1.1〜3.0倍特に1.3〜2.0倍程度が好適である。各ベントホール11の開口面積は、それぞれ12〜51cm特に19〜40cm程度が好適である。
【0029】
膨張完了状態において、左側のガス流出口25から右側のガス流出口25までの距離Wは230〜440mm特に270〜380mm低度が好適である。
【0030】
また、膨張完了状態において、ディフューザ20の左右両端の上端と凹所26の最下部との高低差Hは、50〜160mm特に70〜130mm程度が好適である。
【0031】
ディフューザ20の第1パネル21には、エアバッグ本体10のインフレータ用開口12と重なるインフレータ用開口27(図1)が設けられ、これら開口21,27の周縁部が縫目28によって縫合されている。
【0032】
なお、この助手席用エアバッグ1は、センターパネル14、サイドパネル15、第1及び第2パネル21,22を縫合したあと、未縫合のエアバッグ本体10の車両前端開口部F(図1)を介して反転させ、その後、縫目29によって該開口部Fを縫合することにより製作される。第1及び第2パネル21,22は、この縫目29によってセンターパネル14と共縫いされる。このように第1及び第2パネル21,22とセンターパネル14とを共縫いするので、エアバッグ1の縫合工数が少なく、製造が容易である。
【0033】
なお、助手席用エアバッグ装置はインパネ32の上向き面に組み付けられる。エアバッグ本体10及びディフューザ20は、そのインフレータ用開口12,27の周縁部がバッグリング(図8)31rとリテーナ31の底面との間に介在させるようにしてリテーナ31に留め付けられる。
【0034】
この助手席用エアバッグ装置を搭載した車両が前突した場合、インフレータ30がガス発生作動し、ガスがディフューザ20を経てエアバッグ本体10内に流入する。ディフューザ20が膨張することにより、インパネ32のリッド部33(図7)が開き出し、ディフューザ20及びエアバッグ本体10がインパネ32の上方側へ展開し始める。この展開初期状態において、ディフューザ20はすぐにほぼ膨張完了状態となり、ガス流出口25がインパネ32よりも上面側に位置する。このエアバッグ膨張に際して、インパネ32の助手席用エアバッグ装置に干渉物Mが近接していた場合、膨張したエアバッグ本体10はこの干渉物Mを押すことになるが、このエアバッグ本体10内にディフューザ20が配置されており、インフレータ30からのガスがディフューザ20のガス流出口25から左右に流出するので、エアバッグ本体は主として左右方向に膨張し、干渉物M方向への膨張は抑制される。しかも、ディフューザ20には凹所26が設けられており、この凹所26が干渉物Mに対峙する。そのため、ディフューザ20及びエアバッグ本体10が干渉物Mに対して加える押圧力(入力)が緩和される。
【0035】
しかも、この実施の形態では、図7,8の通り、膨張初期にエアバッグ本体10が左右方向に膨張した場合、ディフューザ20のガス流出口25からのガス流出方向の延長線上にベントホール11が存在する。そのためディフューザ20からエアバッグ本体10内に流れ込んだガスは、そのまま直進してベントホール11から速やかにエアバッグ本体10側に流出するので、エアバッグ本体10の膨張圧は低いものとなる。これによっても、干渉物Mに対して加えられる入力が小さいものとなる。
【0036】
なお、干渉物Mが存在しないときには、エアバッグ本体10は図7,8の状態から直ちに車両後方に膨張し、ベントホール11がガス流出口25よりも後方に位置するように移動していくので、ガス流出口25とベントホール11の位置とがずれ、ベントホール11からのガス流出は少量となり、エアバッグ本体10は速やかに膨張完了状態まで膨張する。図1の膨張完了状態において、ベントホール11はガス流出口25よりも車両後方へベントホール11及びガス流出口25の開口中心間距離として80mm以上離隔していることが好ましい。
【0037】
本発明では、膨張したエアバッグ本体の左右幅を規制するためのテザーを設けてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 助手席用エアバッグ
1’ 1次折畳体
2'' 2次折畳体
10 エアバッグ本体
11 ベントホール
12,27 インフレータ用開口
13 テザーパネル
20 ディフューザ
21 第1パネル
22 第2パネル
25 ガス流出口
26 凹所
30 インフレータ
31 リテーナ
32 インパネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側面にベントホールが設けられ、基端側にインフレータ用開口が設けられたエアバッグ本体と、
該エアバッグ本体内に配置されており、インフレータからのガスをエアバッグ本体の側方に向けて流すためのガス流出口を有したディフューザと
を有する助手席用エアバッグにおいて、
該ディフューザは、膨張した状態において左右方向の中央部が左端側及び右端側よりも該基端側に位置することを特徴とする助手席用エアバッグ。
【請求項2】
請求項1において、前記助手席用エアバッグは、膨張初期においては、前記ディフューザのガス流出口からのガス流出方向の延長方向に前記ベントホールが位置しており、助手席用エアバッグの膨張完了状態においては、前記ベントホールは該ガス流出口よりも車両後方に位置することを特徴とする助手席用エアバッグ。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記ディフューザは、膨張完了状態において左右のガス流出口間の距離が230〜440mmであり、
該ディフューザの前記中央部は前記左端側及び右端側よりも50〜160mm前記基端側に位置することを特徴とする助手席用エアバッグ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記ディフューザの膨張完了状態における前記ガス流出口の開口面積は、前記ベントホールの開口面積の1.1〜3.0倍であることを特徴とする助手席用エアバッグ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記ディフューザは、車両搭載状態における車両後方側の第1パネルと車両前方側の第2パネルとを縫合して構成されており、
該第1パネル及び第2パネルの車両前端側は、エアバッグ本体の車両前端側において、エアバッグ本体を構成するメインパネルと共縫いされていることを特徴とする助手席用エアバッグ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項の助手席用エアバッグと、該助手席用エアバッグを膨張させるためのインフレータとを備えてなる助手席用エアバッグ装置。
【請求項7】
請求項6の助手席用エアバッグ装置を備えた車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−60100(P2013−60100A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199581(P2011−199581)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】