説明

動力伝達装置

【課題】オイルを被動側クラッチ板内で保持させつつ循環させることにより、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接による過熱を抑制することができる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】クラッチハウジング2と、駆動側クラッチ板6と、該駆動側クラッチ板6と交互に形成された被動側クラッチ板7を複数有したクラッチ部材4と、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接又は離間させ得るプレッシャ5とを有し、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接又は離間により、入力部材に入力された回転力を出力部材に伝達し又は遮断し得る動力伝達装置において、被動側クラッチ板7は、隣り合う駆動側クラッチ板6と接触又は離間し得る一対の環状部材7aと、該一対の環状部材7aの間に介在し、オイルを保持可能な多孔質物質から成る中間部材10とを有したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意に入力部材の回転力を出力部材に伝達させ又は遮断させ得るとともに、オイルで充填された湿式の動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車や二輪車などの車両に適用される一般的な動力伝達装置においては、エンジン及びミッション側と連結された入力部材と、駆動させる車輪(前輪)側と連結された出力部材と、出力部材と連結されたクラッチ部材とを有しており、入力部材側に複数形成されたクラッチ板(駆動側クラッチ板)とクラッチ部材側に複数形成されたクラッチ板(被動側クラッチ板)とを圧接させることにより動力の伝達を行い、離間させることにより当該動力の伝達を遮断するよう構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−233359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の動力伝達装置においては、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とが圧接することにより動力が伝達されるものであるため、長時間に亘り使用した場合、温度が過度に上昇してしまう虞があるという問題があった。また、オイルが充填された湿式のものにおいては、オイルが循環することにより冷却効果が期待されるものの、被動側クラッチ板との接触時間が極めて短時間のうちにオイルが流通してしまい、十分な冷却効果を図ることができないという不具合があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、オイルを被動側クラッチ板内で保持させつつ循環させることにより、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接による過熱を抑制することができる動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、入力部材の回転と共に回転し得るクラッチハウジングと、該クラッチハウジングと係合し当該クラッチハウジングと共に回転する複数の駆動側クラッチ板と、該駆動側クラッチ板と交互に形成された被動側クラッチ板を複数有し、出力部材と連結されたクラッチ部材と、該クラッチ部材の軸方向に移動が可能とされつつ当該クラッチ部材に取り付けられ、クラッチ部材に対する軸方向への移動に伴い前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接又は離間させ得るプレッシャとを有し、前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接又は離間により、入力部材に入力された回転力を出力部材に伝達し又は遮断し得るとともに、オイルで充填された湿式の動力伝達装置において、前記被動側クラッチ板は、隣り合う前記駆動側クラッチ板と接触又は離間し得る一対の環状部材と、該一対の環状部材の間に介在し、オイルを保持可能な多孔質物質から成る中間部材とを有したことを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の動力伝達装置において、前記中間部材は、オイルが通過し得るオイル溝が形成されたことを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の動力伝達装置において、前記中間部材は、耐熱性の繊維を抄造して得られたペーパー状のものから成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、被動側クラッチ板は、隣り合う駆動側クラッチ板と接触又は離間し得る一対の環状部材と、該一対の環状部材の間に介在し、オイルを保持可能な多孔質物質から成る中間部材とを有したので、オイルを被動側クラッチ板内で保持させつつ循環させることにより、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接による過熱を抑制することができる。
【0010】
請求項2の発明によれば、中間部材は、オイルが通過し得るオイル溝が形成されたので、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接による過熱をより確実に抑制することができる。
【0011】
請求項3の発明によれば、中間部材は、耐熱性の繊維を抄造して得られたペーパー状のものから成るので、駆動側クラッチ板に形成すべき摩擦材を流用して中間部材とすることができるとともに、当該中間部材内におけるオイルの流通を許容して冷却性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る動力伝達装置を示す縦断面図
【図2】同動力伝達装置における被動側クラッチ板を示す正面図(一部破断した図)
【図3】図2におけるIII−III線断面図
【図4】本発明の他の実施形態に係る動力伝達装置における被動側クラッチ板を示す正面図(一部破断した図)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る動力伝達装置は、二輪車等の車両に配設されて任意にエンジンやミッションの駆動力を駆動輪側へ伝達し又は遮断するためのもので、図1に示すように、入力部材としてのギア1が形成されたクラッチハウジング2と、出力部材としてのシャフト3と連結されたクラッチ部材4と、該クラッチ部材4の同図中右端側に取り付けられたプレッシャ5と、クラッチハウジング2側に連結された駆動側クラッチ板6及びクラッチ部材4側に連結された被動側クラッチ板7とから主に構成されている。
【0014】
ギア1は、エンジンから伝達された駆動力(回転力)が入力されるとシャフト3を中心として回転可能とされたもので、リベット8等によりクラッチハウジング2と連結されている。該クラッチハウジング2は、同図右端側が開口した円筒状のケース部材から成り、その内周壁には複数の駆動側クラッチ板6が形成されている。かかる駆動側クラッチ板6のそれぞれは、略円環状に形成された板材から成るとともにクラッチハウジング2と係合され、当該クラッチハウジング2の回転と共に回転し得るよう構成されている。また、各駆動側クラッチ板6には、耐熱性の繊維を抄造して得られたペーパー状の摩擦材6aが貼着されており、当該摩擦材6aを介して隣り合う被動側クラッチ板7と圧接し得るよう構成されている。
【0015】
クラッチ部材4は、クラッチハウジング2内に配設された同図中右端側が開口した円筒状のケース部材から成るものである。かかるクラッチ部材4の略中央にはシャフト3が貫通しつつスプライン嵌合により連結されており、クラッチ部材4が回転するとシャフト3も回転するよう構成されている。また、クラッチ部材4の外周壁には、その回転軸方向(同図中左右方向)に延びるスプラインが形成されており、該スプラインに被動側クラッチ板7が嵌め込まれて形成されている。
【0016】
かかる被動側クラッチ板7は、駆動側クラッチ板6と交互に積層形成されており、隣接する各クラッチ板6、7が圧接又は離間可能なようになっている。即ち、両クラッチ板6、7は、クラッチ部材4の回転軸方向への摺動が許容されており、プレッシャ5にて同図中左方向へ押圧されると圧接され、クラッチハウジング2の回転力がクラッチ部材4及びシャフト3に伝達される状態となり、プレッシャ5による押圧を解除すると離間してクラッチ部材4がクラッチハウジング2の回転に追従しなくなって停止し、シャフト3への回転力の伝達がなされなくなるのである。
【0017】
尚、ここでいう両クラッチ板6、7の離間とは、当該両クラッチ板6、7間にクリアランスを生じた状態である必要はなく、物理的なクリアランスが生じていなくても、圧接が解除されてクラッチ部材4がクラッチハウジング2の回転に追従しなくなった状態(即ち、駆動側クラッチ板6が被動側クラッチ板7上を摺動する状態)をも含むものとする。
【0018】
プレッシャ5は、クラッチ部材4の開口(同図中右端)を塞ぐ如く略円板状に形成されたもので、クラッチスプリングSにより同図中左方向へ常時付勢されている。即ち、クラッチ部材4にはプレッシャ5側へ延びて貫通したボス部4bが形成されており、該ボス部4bにクラッチボルトBを挿通させるとともに、かかるクラッチボルトBの頭部側とプレッシャ5との間にクラッチスプリングSを介装することにより、当該プレッシャ5が常時左方向へ付勢されているのである。
【0019】
一方、プレッシャ5の縁部5aは、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ7が積層された同図中最右部と当接しており、クラッチスプリングSの付勢力により両クラッチ板6と7とが圧接するようになっている。従って、クラッチハウジング2とクラッチ部材4とは常時連結された状態となっており、ギア1に回転力が入力されるとシャフト3を回転させ得るようになっている。
【0020】
然るに、シャフト3の内部には、その軸方向に延びるプッシュロッド9が配設されており、運転者が図示しない操作手段を操作することにより当該プッシュロッド9を同図中右方向へ突出させ、プレッシャ5をクラッチスプリングSの付勢力に抗して右方向へ移動させることができるようになっている。プレッシャ5が右方向へ移動すると、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力が解かれ、離間状態となってギア1及びクラッチハウジング2へ入力された回転力がクラッチ部材4及びシャフト3へ伝達されず遮断されることとなる。即ち、プレッシャ5は、クラッチ部材4に対する軸方向への移動に伴い駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接又は離間させることができるよう構成されているのである。
【0021】
尚、プレッシャ5のクラッチ部材4に対する回転を規制するために、当該プレッシャ5にはストッパ部5bが突出形成されている。かかるストッパ部5bは、プレッシャ5から同図中左側へ延び、且つ、当該プレッシャ5と一体的に形成された略凸形状から成り、クラッチ部材4の内周壁に形成された凹部4aに嵌り込んでプレッシャ5のクラッチ部材4に対する回転を規制する回り止めとして機能するものである。
【0022】
ここで、本実施形態における被動側クラッチ板7は、図2、3に示すように、隣り合う駆動側クラッチ板6と接触又は離間し得る一対の環状部材7aと、該一対の環状部材7aの間に介在し、本動力伝達装置内に充填されたオイルを保持可能な多孔質物質から成る中間部材10とを有して構成されている。具体的には、被動側クラッチ板7は、中間部材10を一対の環状部材7aにて挟持させつつ接着剤等で接着させて成り、全体として3層構造のものとされている。
【0023】
環状部材7aは、略円環状金属製部材から成り、その内周縁部においてクラッチ部材4のスプラインに嵌合し得る凹凸形状が形成されている。本実施形態に係る中間部材10は、耐熱性の繊維を抄造(例えば湿式抄紙法による製造)して得られたペーパー状のものから成り、これを環状部材7aの平面形状に合致させるべく円環状に形成させたものとされている。
【0024】
本実施形態によれば、中間部材10が耐熱性の繊維を抄造して得られたペーパー状のものから成るので、駆動側クラッチ板6に形成すべき摩擦材6aを流用して中間部材10とすることができるとともに、その構造がポーラスな多孔とされている故、当該中間部材10内におけるオイルの流通を許容して冷却性を向上させることができる。尚、本実施形態においては、駆動側クラッチ板6に形成された摩擦材6aと中間部材10とが略同一のもの(耐熱性の繊維を抄造して得られたペーパー状のもの)とされているが、それぞれの使用環境に応じた互いに異なる材質のものとしてもよい。
【0025】
更に、上記実施形態においては、中間部材10が環状部材7aの平面形状と略合致させた円環形状とされ、一対の環状部材7aにて中間部材10を挟み込みつつ接着させて被動側クラッチ板7としているが、他の実施形態として、図4に示すように、中間部材10’を環状部材7’に対して所定間隔毎に貼着させたものとして一対の環状部材7’aにて挟み込みつつ接着させた被動側クラッチ板7’としてもよい。
【0026】
この場合の中間部材10’は、上記実施形態と同様、オイルを保持可能な多孔質物質から成るものであり、例えば耐熱性の繊維を抄造して得られたペーパー状のものから成る。これにより、中間部材10’の離間部がオイルを通過させるべく外方へ放射状に延びたオイル溝7’bとすることができるとともに、それ自体がオイルを保持して冷却性向上に寄与することができ、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接による過熱をより確実に抑制することができる。
【0027】
上記実施形態及び他の実施形態における中間部材10、10’は、何れも耐熱性の繊維を抄造して得られたペーパー状のものとされているが、これに代え、ゴム材や樹脂を多孔質に成形したものを中間部材として用いるものであってもよい。また、中間部材を切削等して溝形状を形成させ、これをオイル溝としてオイルを流通させ得るよう構成してもよい。
【0028】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本実施形態の如き被動側クラッチ板7を用いるものであれば、例えば他の形態の動力伝達装置(オイルで充填された湿式タイプのもので多板式クラッチ型の動力伝達装置)に適用されるものであってもよい。また、本発明の動力伝達装置は、二輪車の他、自動車、3輪又は4輪バギー、或いは汎用機等種々の多板クラッチ型の動力伝達装置に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
被動側クラッチ板は、隣り合う駆動側クラッチ板と接触又は離間し得る一対の環状部材と、該一対の環状部材の間に介在し、オイルを保持可能な多孔質物質から成る中間部材とを有した動力伝達装置であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 ギア(入力部材)
2 クラッチハウジング
3 シャフト(出力部材)
4 クラッチ部材
4a 凹部
5 プレッシャ
5b ストッパ部
6 駆動側クラッチ板
7、7’ 被動側クラッチ板
7a、7’a 一対の環状部材
7’b オイル溝
8 リベット
9 プッシュロッド
10、10’ 中間部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力部材の回転と共に回転し得るクラッチハウジングと、
該クラッチハウジングと係合し当該クラッチハウジングと共に回転する複数の駆動側クラッチ板と、
該駆動側クラッチ板と交互に形成された被動側クラッチ板を複数有し、出力部材と連結されたクラッチ部材と、
該クラッチ部材の軸方向に移動が可能とされつつ当該クラッチ部材に取り付けられ、クラッチ部材に対する軸方向への移動に伴い前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接又は離間させ得るプレッシャと、
を有し、前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接又は離間により、入力部材に入力された回転力を出力部材に伝達し又は遮断し得るとともに、オイルで充填された湿式の動力伝達装置において、
前記被動側クラッチ板は、
隣り合う前記駆動側クラッチ板と接触又は離間し得る一対の環状部材と、
該一対の環状部材の間に介在し、オイルを保持可能な多孔質物質から成る中間部材と、
を有したことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記中間部材は、オイルが通過し得るオイル溝が形成されたことを特徴とする請求項1記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記中間部材は、耐熱性の繊維を抄造して得られたペーパー状のものから成ることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−255721(P2010−255721A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105426(P2009−105426)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000128175)株式会社エフ・シー・シー (109)
【Fターム(参考)】