説明

動力伝達装置

【課題】クリープの状態における適正な制御ができる動力伝達装置を提供すること。
【解決手段】搭乗者の操作の大きさににより前記車両の減速を指示するブレーキペダルBPについて、そのブレーキペダルの操作が行われなくなった後、車両速度が所定の速度以下であるときに、クリープ状態が所定時間以上継続しているときに、所定速度に至るまで、前記クラッチトルクを漸増させ、且つ、クラッチトルクの上昇に遅れて前記出力軸からの出力トルクの大きさを漸増させるように前記内燃機関を制御する制御装置を有することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関を備える車両における動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の変速機には、運転者が機械的に変速操作を行う手動変速機と、自動的に変速操作が行われるようにした自動変速機とがある。一般的な手動変速機は、動力源(内燃機関など)から動力が入力される入力軸又は車両の駆動輪に動力を伝達する出力軸のどちらかに固設される複数の駆動ギヤと、この駆動ギヤと常時噛み合うとともに出力軸又は入力軸に遊転可能に配設される複数の遊転ギヤと、入力軸上のギヤ及び出力軸上のギヤを同期回転させた後に結合させる同期装置と、を備える場合が多い。この手動変速機は動力の伝達効率がよいとされていることから、手動変速機をベースに、動力源の出力を制御する装置、動力源及び自動変速機の間に介装されるクラッチの断接を制御する装置、変速段を選択・切替を行う装置、それらの装置を制御する制御装置などが組み合わされた自動変速機がある(例えば、特許文献1)。
【0003】
ところで、自動変速機の1種としてトルクコンバータを搭載する車両が広く用いられている。トルクコンバータはその構造の特性からいわゆるクリープを生じることが知られている。クリープは車両の停車状態からブレーキを離したときなどに徐々に加速する現象である。そのため、自動変速機が搭載されている車両に搭乗する搭乗者は一定の車速にまでクリープによって到達できるものと理解している場合もある。
【0004】
そのため、乾式や湿式のクラッチを採用しており本来はクリープを生じることがないAMTやデュアルクラッチトランスミッション(以下、AMTなどと称する)でもクリープと同様の現象をいわゆる半クラッチ(クラッチを滑らせた状態で動力を伝達する状態)により擬似的に実現させてトルクコンバータ式の自動変速機を搭載する車両からの乗り換えでも違和感を生じないようにしたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−129997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、ぬかるみ、砂利道など走行抵抗が大きな路面を走行したり、登坂時などにおいてはクリープによる速やかな加速は望めず、長い時間にわたるクリープ(半クラッチ)が継続されることがあった。AMTなどに採用される湿式クラッチや乾式クラッチにおいては、長時間クリープ状態が継続するとクラッチ板が摩耗が進行したり,時には過熱するなどの問題が発生することが考えられる。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたもので、クリープの状態における適正な制御を行うことができる動力伝達装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための請求項1に係る発明の構成上の特徴は、内燃機関の出力軸の回転数を測定する内燃機関回転数センサと、
前記内燃機関の出力軸から動力が伝達される入力軸と、車両の駆動輪へと前記動力を伝達する出力軸とを備え、前記出力軸の回転数に対する前記入力軸の回転数の割合である減速比を調整可能な変速機と、
前記変速機の入力軸の回転数を取得する入力軸回転数取得手段と、
前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間に介装され、前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間で動力の少なくとも一部を伝達する接合状態と、前記動力を伝達しない遮断状態とに調整可能なクラッチと、
前記接合状態のクラッチトルクを可変するアクチュエータと、
前記車両の速度を取得する車速取得手段と、
搭乗者の操作の大きさににより前記車両に加わる制動力を指示するブレーキペダルについて、そのブレーキペダルの操作により前記車両が動き始めた後、前記車速取得手段から入力される車両速度が所定の速度以下であるときに、前記クラッチが接合状態であって、且つ、前記入力軸回転数取得手段から入力される入力軸回転数と前記内燃機関回転数センサから入力される出力軸回転数との間の回転数差が所定値以上であるクリープ状態が所定時間以上継続しているときに、前記入力軸回転数取得手段から入力される入力軸回転数と前記内燃機関回転数センサから入力される出力軸回転数との間の回転数差が所定値未満になるまで、前記クラッチトルクを漸増させるように前記アクチュエータを制御し、且つ、前記クラッチトルクの上昇に遅れて前記出力軸からの出力トルクの大きさを漸増させるように前記内燃機関を制御する制御装置と、を有することである。
【0009】
また請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記エンジントルクの増加速度は、前記出力軸回転数の大きさに対して負の相関があり、且つ、前記出力軸回転数の減少速度に対して正の相関があり、
前記クラッチトルクの増加速度は前記クリープ状態の継続時間が長いほど大きくなることである。
【0010】
請求項3にかかる発明の構成上の特徴は、請求項1又は2において、前記エンジントルクの増加速度及び/又は前記クラッチトルクの増加速度は、前記入力軸回転数及び前記出力軸回転数の回転数差と正の相関があることにある。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明においては、所定時間クリープ状態が継続された場合には、そのままでは必要な車両の加速ができないものと判断している。その判断の結果、その後にクラッチトルクの大きさを増加させて、より多くの内燃機関の出力を変速機の入力軸に伝達させるようにすると共に、内燃機関の出力も漸増させることにより、充分な駆動力を確保して速やかな加速を実現することができる。その結果、クリープ状態の維持に伴う半クラッチの使用を抑制することができる。また、クラッチトルクの増加をエンジントルクの増加に先行させることにより、エンジン(内燃機関)の空ぶかしが生じることを防止している。
【0012】
請求項2に係る発明においては、エンジントルクの増加速度を、内燃機関の出力軸の回転数が小さいほど、又、出力時箇の回転数の減少速度が大きいほど、大きくなるように制御することにより、いわゆるエンストを防止できる。
【0013】
また、クラッチトルクの増加速度をクリープ状態の継続時間が長いほど大きくすることにより最終的にはクラッチトルクの大きさがエンジントルクの大きさを上回る状態にまで大きくなっていわゆる半クラッチ状態から滑りがない接合状態にまで確実に移行させることができる。
【0014】
請求項3に係る発明においては、エンジントルクの増加速度及び/又はクラッチトルクの増加速度について、入力軸回転数及び出力軸回転数の回転数差が小さくなったときに緩やかな増加速度にすることにより、駆動力の急激な上昇に伴う衝撃を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の動力伝達装置の概略構成図である。
【図2】本実施形態の動力伝達装置が備える制御装置の制御フローチャートである。
【図3】本実施形態の動力伝達装置が備える制御装置によって制御される動力伝達装置の主な構成要素についてのタイムチャートである。
【図4】本実施形態の動力伝達装置がクラッチトルクの大きさ(a)やエンジントルクの大きさ(b)を増加させるときの増加量(増加速度)の決め方の一例を示す図である。
【図5】従来技術の動力伝達装置が備える制御装置によって制御される動力伝達装置の主な構成要素についてのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の動力伝達装置について実施形態に基づき以下詳細に説明を行う。本実施形態の動力伝達装置は車両に搭載されている。車両は内燃機関2を動力源とする。本実施形態の動力伝達装置は内燃機関回転数センサ55と変速機3と入力軸回転数センサ56(入力軸回転数取得手段に相当)とクラッチ4とアクチュエータ41と車速センサ51(車速取得手段に相当)と制御装置1とを有する。
【0017】
内燃機関回転数センサ55は内燃機関2の出力軸21の回転数を測定するセンサである。変速機3は内燃機関2の出力軸21からの動力が伝達される入力軸31と、車両の駆動輪7へとその動力を伝達する出力軸32とを備え、出力軸32の回転数に対する入力軸31の回転数の割合である減速比を調整可能である。変速機3としては特に限定されない。例えば、手動で変速動作を行うもの自動で変速動作を行うものを問わず、また、構造として有段の変速機、CVTのような無段変速機などいずれであってもよい。入力軸回転数センサ56(入力軸回転数取得手段に相当)は、変速機3の入力軸31の回転数を測定するセンサである。入力軸回転数センサ56に代えて、変速機の変速比を用いて車速から入力軸の回転数を算出する手段を用いても良い。
【0018】
クラッチ4は内燃機関2の出力軸21と変速機3の入力軸31との間に介装され、内燃機関2の出力軸21と変速機3の入力軸31との間で動力の少なくとも一部を伝達する接合状態と、動力を伝達しない遮断状態とに調整可能な手段である。動力の一部を伝達する接合状態とは、内燃機関2の出力軸21に出力されるエンジントルクがクラッチ4の接合に関連するクラッチトルクよりも勝っている状態であってクラッチ4が滑っているいわゆる半クラッチと称される状態から、クラッチトルクがエンジントルクよりも勝っている状態であってクラッチ4が滑っていない状態に至るまでの全ての状態を含む。クラッチ4が半クラッチの状態にあれば車両が停止しており変速機3の入力軸31の回転数が0であっても内燃機関2が停止することがなくなる。クラッチ4は後述するアクチュエータ41により作動される装置であり、後述する制御装置1により断続が制御される。クラッチ4は湿式・乾式を問わず、2以上の対向する摩擦板の当接の程度(クラッチトルク)を変化させることにより、動力の伝達の程度を制御する。
【0019】
アクチュエータ41は、特に接合状態におけるクラッチ4のクラッチトルクを可変する手段で有り、更には接合状態と遮断状態との間の切替を行うこともできる。遮断状態はクラッチトルクが完全に0になった状態である。アクチュエータ41はクラッチ4がもつ摩擦板の当接の程度を変化させることによりクラッチトルクの大きさを制御する。
【0020】
車速センサ51は車両の速度を測定するセンサである。車速センサ51としては実際の車速を測定するものの他、車速に関連する事象を測定して車速を算出するもの(車両の車輪の回転数、変速機の入力軸・出力軸の回転数など)であってもよい。例えば先述した入力軸回転数センサ56の測定値より変速機3の変速比を考慮して車速を算出するものであっても良い。本実施形態では駆動輪7の回転数を測定するセンサで有り、測定された駆動輪の回転数から車速を算出している。
【0021】
制御手段1は、車両が備えるブレーキペダルBPの状態、車速センサ51から入力される車速、アクチュエータ41の作動状態(接合状態になっているかどうか、接合状態になっているとしたらいわゆる半クラッチ状態になっているかどうか)、内燃機関回転数センサ55から入力される出力軸21の回転数、及び入力軸回転数センサ56から入力される入力軸31の回転数に基づいて、クラッチトルクの大きさ及び内燃機関2が出力するエンジントルクを制御する手段である。制御手段1はその他の装置を制御するものと兼用しても良い。制御手段1はシフトレバーSFの操作により適正に変速動作を行う。
・制御手段の制御方法(クリープ状態とするかどうかの判断、及びクリープ状態になった後の制御方法:クリープ工程)
制御手段1がクリープの制御(クリープ工程)を行う方法を図2及び3を参照しながら以下に説明する。以下の説明は車両が停止した状態(所定速度以下の状態)から加速していく過程を例としているが、搭乗者のブレーキ操作などによる減速により車両の速度が所定速度以下になった場合についても同様に適用可能である。
【0022】
制御手段1は、車両の速度が所定速度以下のときに、車両をクリープさせる。所定速度の値としては特に限定されず適正な値が設定される。例えば、内燃機関2のアイドリング状態での出力軸21の回転数にて無理なく到達可能な速度が設定できる。
【0023】
車速が所定速度以下になる場合としては停車状態から加速を開始した場合と、所定速度超で走行中している状態から所定速度以下にまで減速した場合とがある。どちらの場合でも所定速度以下になったときに車両の状態をクリープ状態にする。なお、減速されることでクリープ状態に遷移する場合には所定速度を基準とする場合の他、減速時にクリープ状態に遷移する基準の速度として他の速度を設定することもできる。
【0024】
制御手段1はアクチュエータ41を動作させることでクラッチ4のクラッチトルクの大きさをエンジントルクの大きさより小さく制御することによりクラッチ4の状態としていわゆる半クラッチ状態としてクリープ状態を維持する。エンジントルクの大きさは内燃機関2の状態(内燃機関2に供給する空気・燃料の量、出力軸の回転数など)から算出する。クラッチトルクの大きさは算出したエンジントルクの大きさより小さな値になるように制御する。また、出力軸21の回転数と入力軸31の回転数との間で誤差以上の回転数差が生じるようにアクチュエータを制御することも有益である。例えば、現在の車速に対応する入力軸31の回転数が低すぎて、そのまま出力軸21に直結すると内燃機関2が停止するような速度の場合には、積極的に出力軸21の回転数と入力軸31の回転数との間で誤差以上の回転数差が生じるように(積極的には出力軸21の回転数が安定的に内燃機関2が運転できる回転数以上の回転数になるように)クラッチトルクの大きさを制御することが望ましい。
【0025】
以下にクリープ状態における制御をフローチャート(図2)及びタイムチャート(図3)に基づき説明する。まず、車速(図3では車速に代えて入力軸回転数の回転数で代用する。入力軸回転数と車速とは比例する値である)が所定速度以下であるかどうかを判断する(S1)。S1の条件を満たしたときにクリープ状態に遷移させる(S2)。その後はクリープ状態に対応させた制御(S3以降)を行う(図3の時間A以降)。S2においてなされるクリープ状態への遷移は、アクセルペダルAPの操作の程度により決定されるアクセル開度に応じて決定される所定の大きさ(目標エンジントルク)にエンジントルクの大きさを制御しながら、クラッチトルクの大きさをそのエンジントルクの大きさよりも小さな値(目標クラッチトルク)になるように制御することで行う。本実施形態では説明の簡易化のためにアクセルペダルAPの開度は時間Aから変化し始めその後すぐに一定の大きさαに固定するように操作するものと仮定し、アクセルペダルAPの開度のみから決定される目標エンジントルクの成分(後述するステップS8で変化させられる成分を除いた部分)も一定(γ)であると仮定して説明を行う。なお、アクセル開度が一定でない場合にはそのアクセル開度に対応するエンジントルクの値が目標エンジントルクとして設定される。
【0026】
目標クラッチトルクの大きさはクラッチ4に滑りが生じて半クラッチ状態が維持できる程度の大きさ(β)に設定される(S2)。以下、特にエンジントルクの大きさやクラッチトルクの大きさはこれらの目標値に向けて制御される。これらの目標値への制御は速やかに行うとショックが生成するため、ショックが生じない程度の遅れをもたせて適正に制御を行う。すなわち、エンジントルクの大きさは目標値になるように制御した上で、クラッチトルクの大きさを目標クラッチトルクの値に向けて漸次近づけるように制御する(例えば、図3における時間Aの後の部分)。
【0027】
次に経過時間Kのカウントを0から開始する(S3)。経過時間Kをカウントしながら以下の制御を行う。S2より移行した場合にはクリープ状態に遷移した時(時間Aから)からの時間がカウントされることになる。
【0028】
車速が所定速度以下であるかどうか判定し、所定速度以下である場合には次のステップS5へ、超えている場合にはクリープ工程を終了して再度クリープ工程に遷移させるかどうか判断するS1に移行する(S4)。本ステップS4にてクリープ工程を終了するのは車両の走行抵抗が小さく、そのままであっても必要な加速が得られる場合である。
【0029】
ステップS5ではブレーキペダルBPが操作されているかどうかを判定し、操作されていない場合(ブレーキOFFの場合)には次のステップS6に移行する。操作されている場合には、経過時間Kをリセットして0に戻してカウントを開始するようにステップS3に移行する。ブレーキペダルBPが操作されている場合は、車両を減速しようと搭乗者が考えていると判断するのが妥当であるから、クリープ状態に移行してからの時間が長時間になっても、それが搭乗者の意思であるものと推定できるから、搭乗者が違和感を覚えることはないからである。なお、車両が停止した状態からクリープ状態に移行した際における経過時間Kの測定の始期はブレーキペダルを完全に離した状態(ブレーキOFFの状態)を基準とするのではなく、ブレーキペダルを操作した結果、車両が動き始めた時を基準とする方が望ましい。ブレーキペダルを少しずつ離していった結果、ブレーキの制動力を残しながらも車両の移動が開始された場合には、その時からクリープ状態が始まったものとするほうがクリープ状態の継続による違和感の発生低減との目的に合致するものと考えられる。つまり、制動力が少し残った状態から完全にOFFになるまでの間であっても、車両の移動が開始した状態であれば、クリープ状態が継続しているものと認識するものと考えられるからである。但し、ブレーキが完全にOFFになる前に車両が動き始めた場合であっても、その後ブレーキの踏み増しを行った場合には車両を減速させようとする搭乗者の意思が推測されるため、経過時間Kはリセットすることが望ましい。
【0030】
ステップS6では経過時間Kが所定時間R以上になったかどうかを判断する。経過時間KはブレーキペダルBPの操作を行わずにクリープ状態を維持した時間であるため、この時間の間では搭乗者はある程度の加速が行われることを期待しているものと判断するのが妥当であると考えられる。そのため、経過時間Kが所定時間R以上になった際(図3の時間Bを経過した部分)においては、クリープ状態の継続により到達すると期待されるであろう所定速度にまで加速できるように以下のステップ(S7〜S9)に移行する。所定時間に至っていない場合(図3の時間AからBの間)はそのまま今現在のクリープ状態を継続するのが妥当であると判断してステップS4に戻って制御を継続する。所定時間Rの値は、車両の加速が充分で無いときに搭乗者が違和感を覚え始める時間か、それよりも短い時間を設定することが望ましく、具体的には任意に設定することができる。
【0031】
従来技術の動力伝達装置における制御では、このステップS6とS3とが存在しないため、図5に示すように、エンジン回転数と入力軸回転数とが所定の大きさで定常化してしまい、走行条件が変わらない場合にはそのままクリープ状態が限りなく継続されることになって搭乗者に違和感を覚えさせる一因になる。
【0032】
ステップS7はクラッチトルクを漸次大きくするように制御する(図3の時間B以降の部分)。クラッチトルクの大きさの制御は前述した目標クラッチトルクの大きさを漸増することで行うことができるが、目標クラッチトルクの値(β)を変更する方法の他、クラッチトルクの決定にあたって目標クラッチトルクに加えて補正する補正値を設定して行うこともできる。クラッチトルクの大きさは内燃機関2が停止するような大きさにはならないようにも制御する。クラッチトルクの大きさは、半クラッチ状態を維持しても内燃機関2が停止しない程度の車両速度になったときには、いずれエンジントルクの大きさを超えるようになるまで大きくしていく(例えば図3ではクラッチトルクの大きさがエンジントルクの大きさと交点Xにて同じになり、それ以降に超えている)。
【0033】
ここで、クラッチトルクの増加速度は前記クリープ状態の継続時間が長いほど大きくなることが望ましい(図4(a))。このように設定することにより、クラッチトルクの大きさを確実の増加させることが可能になって半クラッチ状態から完全に接合した状態(図3の時間Cにて出力軸21の回転数と入力軸31の回転数とが一致し完全に接合した状態(Y)になっている。)へと確実に遷移させることが可能になる。
【0034】
ステップS8はエンジントルクが漸次大きくなるように内燃機関2を制御する。エンジントルクの大きさの制御は前述した目標エンジントルク(γ)の大きさを漸増することで行うことができるが、目標エンジントルクの値を変更する方法の他、エンジントルクの決定にあたって目標エンジントルクに加えて補正する補正値を設定して行うこともできる。ステップS8におけるエンジントルクの増加はステップS7にて行われるクラッチトルクの大きさの増加の程度以下になるように(望ましくは増加の程度未満になるように)クラッチトルクの大きさの変化に遅れて大きくすることが望ましい(例えば図3の時間BからCの間においてエンジントルクの大きさが増加する程度はクラッチトルクの大きさの増加の程度よりも遅れている)。エンジントルクの増加がクラッチトルクの増加に先行すると、内燃機関2の空ぶかしが生じることもあり違和感を生じさせることがあるからである。
【0035】
ここで、エンジントルクの増加速度は、出力軸21の回転数の小ささ、及び、出力軸21の回転数の減少速度に対してそれそれ正の相関があるように設定されることが望ましい(図4(b))。つまり、内燃機関2の回転数が小さいほど、又、回転数の減少速度が大きいほど、内燃機関2が停止するおそれが高まるために速やかにエンジントルクを増加させるように制御して内燃機関2の状態を安定化するものである。
【0036】
また、エンジントルク及びクラッチトルクのうちの少なくとも一方の増加速度は、入力軸回転数及び出力軸回転数の間の回転数差の大きさが小さくなるにつれて小さくなることが望ましい。例えば、図3ではエンジントルクの増加速度が小さくなっている。
【0037】
つまり、エンジントルク及びクラッチトルクのうちの少なくとも一方の増加速度を小さくすることにより駆動力の増加速度を小さくしている。従って、その回転数差が小さいほど駆動力の増加速度が小さくすることが望ましい。
【0038】
ステップS9では、出力軸21の回転数と入力軸31の回転数との回転数差が所定値以上であるかどうか判定し、所定値以上である場合(クラッチ4が半クラッチである場合)には次のステップS4に戻り、そうでない場合(図3の時間C)には本クリープ工程を終了するため、S1に戻る。
【0039】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0040】
1:制御装置、
2:内燃機関(E/G)、21:出力軸、
3:変速機(T/M)、31:入力軸、32:出力軸、33:T/Mアクチュエータ、
4:クラッチ(C/T)、41:C/Tアクチュエータ、
51:駆動輪速度センサ、52:アクセル開度センサ、53:シフト位置センサ、
54:ブレーキセンサ、55,56:回転数センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の出力軸の回転数を測定する内燃機関回転数センサと、
前記内燃機関の出力軸から動力が伝達される入力軸と、車両の駆動輪へと前記動力を伝達する出力軸とを備え、前記出力軸の回転数に対する前記入力軸の回転数の割合である減速比を調整可能な変速機と、
前記変速機の入力軸の回転数を取得する入力軸回転数取得手段と、
前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間に介装され、前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間で動力の少なくとも一部を伝達する接合状態と、前記動力を伝達しない遮断状態とに調整可能なクラッチと、
前記接合状態のクラッチトルクを可変するアクチュエータと、
前記車両の速度を取得する車速取得手段と、
搭乗者の操作の大きさににより前記車両に加わる制動力を指示するブレーキペダルについて、そのブレーキペダルの操作により前記車両が動き始めた後、前記車速取得手段から入力される車両速度が所定の速度以下であるときに、前記クラッチが接合状態であって、且つ、前記入力軸回転数取得手段から入力される入力軸回転数と前記内燃機関回転数センサから入力される出力軸回転数との間の回転数差が所定値以上であるクリープ状態が所定時間以上継続しているときに、前記入力軸回転数取得手段から入力される入力軸回転数と前記内燃機関回転数センサから入力される出力軸回転数との間の回転数差が所定値未満になるまで、前記クラッチトルクを漸増させるように前記アクチュエータを制御し、且つ、前記クラッチトルクの上昇に遅れて前記出力軸からの出力トルクの大きさを漸増させるように前記内燃機関を制御する制御装置と、
を有することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記エンジントルクの増加速度は、前記出力軸回転数の大きさに対して負の相関があり、且つ、前記出力軸回転数の減少速度に対して正の相関があり、
前記クラッチトルクの増加速度は前記クリープ状態の継続時間が長いほど大きくなる請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記エンジントルクの増加速度及び/又は前記クラッチトルクの増加速度は、前記入力軸回転数及び前記出力軸回転数の回転数差と正の相関がある請求項1又は2に記載の動力伝達装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−35308(P2013−35308A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170420(P2011−170420)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】