説明

動吸振器

【課題】現場に設置した際の特性調整や経年変化後の再調整に適した動吸振器を提供する。
【解決手段】下端に錘4が取り付けられた棒ばね3を振動させて制振対象物に加えられる振動を吸収するとともに、錘4との間に構成する磁気ダンパ14によって棒ばね3の振動を減衰させる動吸振器1であって、棒ばね3が挿通する孔が穿設されたフレーム2と、フレーム2に棒ばね3の上部を固定する内筒体5と、棒ばね3の軸線上の一部において、棒ばね3の振動を規制するように棒ばね3に当接し、棒ばね3が振動する際の支点を形成する外筒体6とを備える。内筒体5を回転させ、フレーム2における棒ばね3の固定位置Bを上下方向に移動させることで、錘4と永久磁石8との間隔を拡縮させて減衰特性を調整する。また、外筒体6を回転し、支点を上下方向に移動させることで、支点から錘4までの距離を伸縮させてばね特性を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築、土木、一般構造物に用いられる振動低減装置のうち、棒ばねを振動させて構造物(制振対象物)に加えられる振動を吸収する動吸振器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造物の制振制御を行うにあたり、構造物全体の揺れを防止するために構造物を防振ゴム等により支持する方法や、構造物の固有周期に同調するように錘とばねを組み合わせ、構造物に外乱を伝達しないようにした質量ダンパ(動吸振器)等が用いられる。
【0003】
このうち、動吸振器においては、原理的に共振を利用することから、大きな外乱が作用すると、錘の振動が大きくなり、吸振器の損傷や制振対象物への損害を招く虞がある。このため、粘性ダンパやオイルダンパ等のエネルギ吸収装置を付加し、揺れを速やかに低減させる構造を採るのが一般的である。
【0004】
また、動吸振器は、共振特性を利用して揺れる方向の振動を吸収する装置であるため、対象とする振動の方向や大きさに応じて、錘や錘を支持するばねの特性、及び振動の減衰特性を最適値に設定する必要があり、設計や製造段階に先駆けて振動問題を生じている構造物の振動特性を測定し、設計や製造に反映させる必要がある。
【0005】
このように、動吸振器は、設計された条件で最大の効果が生じるように製造されるものであるが、実際の設置現場においては、様々な理由(例えば、振動源となる機械の設置場所が変更されたり、振動する梁や床に載加される荷重が変化するなど)により、期待した効果が得られない場合も少なくない。さらに、構造物の固有周期は、経年により変化することが知られており、例えば、地震動によって受けて壁や梁に構造上問題にならない程度のひびが生じた場合であっても、その構造物の固有周期は、新築時に比較して長周期側へ遷移している。
【0006】
このような現場での固有周期のずれを許容し、比較的広い振動数範囲を制振領域とするため、少しずつ固有周期をずらした質量ダンパを複数組み合わせたマルチマスダンパが用いられることがある。しかし、このようなマルチマスダンパは、大型化するため施工性が悪くコスト的にも高くなる傾向がある。
【0007】
そこで、施工性の悪化やコストの上昇を招くことなく、振動特性を現場で調整可能な構成として、例えば、特許文献1には、一端に錘を備え、振動減衰能の大きい材料で構成された棒ばねと、棒ばねの他端を挟持する挟持部と、棒ばねの挟持位置の高さを変更する調整機構とを備えた動吸振器が提案されている。この動吸振器は、棒ばねを挟持する位置の高さを変更することで、挟持位置から錘までの距離(棒ばねが有効にばねとして作用する範囲)を変化させ、それによって、ばね特性を調整可能としたものである。
【0008】
しかし、この動吸振器は、減衰特性に関しては、棒ばねの材料が有する振動減衰能に依存するため、適宜に調整することができず、最適な減衰を付与できない虞がある。このため、大きな振動を受けた場合、共振した錘が大きく揺れ、装置や構造の損傷を招く可能性があり、正確なチューニングを施したものとは言えない。
【0009】
また、特許文献2には、錘の取り付け位置を変化させたり、錘の質量を選択したり、さらには、ばね部材の断面形状を変化させることで、ばね特性を調整する動吸振器が提案されている。しかし、この動吸振器においても、減衰特性は、ばね部材そのものの減衰比を利用するため、減衰調整を行うことができず、適切なチューニングを施すことは困難である。
【0010】
その一方で、特許文献3には、カバーの両側面から延びる2本の棒ばねと、これらの棒ばねに支持された錘と、錘の内部に取り付けられた永久磁石と、カバーに固定され、永久磁石の近傍に配置された導体板とを備えた動吸振器が提案されている。この動吸振器は、錘側の永久磁石とカバー側の導体板とによって磁気ダンパを構成し、その磁気ダンパにより減衰作用を得ているため、特許文献1及び2に記載の動吸振器とは異なり、減衰特性が棒ばねの振動減衰能のみに依存することはない。
【0011】
しかし、この動吸振器も、ばね特性及び減衰特性のいずれについても、特性を変化させるためには、棒ばねや導体板の交換が不可欠となるため、特性を変化させるのに手間がかかり、必ずしも設置現場での調整や事後的な再調整に適したものではない。
【0012】
【特許文献1】特開2005−48791号公報
【特許文献2】特開2004−190314号公報
【特許文献3】特開平11−257421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、従来の動吸振器においては、現場設置時の調整又は経年変化後に再調整を容易に実施し得るような構造になっておらず、動吸振器の能力を十分に生かしきれていなかった。また、調整可能な構造であっても、調整機構が複雑であったり、手間を要したりするものが多く、ばね特性と減衰特性の双方を簡単に調整し得るものは存在しなかった。
【0014】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、現場に設置した際の特性調整や経年変化後の再調整に適した動吸振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明は、一端に錘が取り付けられた棒ばねを振動させて制振対象物に加えられる振動を吸収するとともに、前記錘との間に構成するダンパによって前記棒ばねの振動を減衰させる動吸振器であって、フレームと、該フレームに前記棒ばねの他端側の一部を固定する固定部と、前記棒ばねの軸線上の一部において、前記棒ばねを該棒ばねの軸線方向に対して垂直な方向に移動することを規制するように当接し、該棒ばねが振動する際の支点を形成する支点形成部と、前記固定部を介して前記フレームに対して前記棒ばねを該棒ばねの軸線方向に移動させ、前記錘と前記ダンパの所定の位置との間隔を拡縮させて該動吸振器の減衰特性を調整する第1の調整部と、前記棒ばねに対する前記支点形成部の当接位置を該棒ばねの軸線方向に移動させ、前記支点から前記錘までの距離を伸縮させて該動吸振器のばね特性を調整する第2の調整部とを備えることを特徴とする。
【0016】
そして、本発明によれば、棒ばねをフレームに固定する固定部と、棒ばねが振動する際の支点を形成する支点形成部とを別々に設けた上で、第1の調整部によって、フレームに対して棒ばねをその軸線方向に移動させて動吸振器の減衰特性を調整し、第2の調整部によって、棒ばねに対する支点形成部の当接位置を棒ばねの軸線方向に移動させて動吸振器のばね特性を調整することができる。このため、現場施工時での動吸振器の調整を容易に行うことが可能になり、また、構造物の経年変化により固有周期が変動した場合でも、簡単に再調整することが可能になる。
【0017】
上記動吸振器において、内周面で前記棒ばねの外周面と螺合するとともに、一端側の外周面で前記フレームと螺合する内筒体と、一端側の内周面で前記内筒体の他端側の外周面と螺合するとともに、他端側に前記棒ばねに当接して前記支点を形成する棒ばね拘束部が設けられた外筒体とを備え、前記棒ばねは、該棒ばねの軸線方向へ移動自在に前記内筒体の内周面と螺合し、前記外筒体は、前記棒ばねの軸線方向へ移動自在に前記内筒体の外周面と螺合するように構成することができる。
【0018】
上記構成によれば、内筒体及び外筒体によって第1及び第2の調整部を構成できるため、簡単な構造で本発明にかかる動吸振器を構成することができ、製造コストを低く抑えることが可能になる。また、ばね特性及び減衰特性の調整は、内筒体及び外筒体を棒ばねの軸線方向に移動させるだけで行うことができるため、組み付け後の調整を容易なものとすることが可能になる。
【0019】
上記動吸振器において、前記棒ばね拘束部を、前記棒ばねが該棒ばねの軸線方向に対して垂直な方向に移動することを規制しながら、該棒ばねを該棒ばねの軸線方向に摺動自在とすることができる。この構成によれば、棒ばねの軸線上に支点を適切に形成しつつ、棒ばね及び外筒体の位置を自由に変更することが可能となる。
【0020】
上記動吸振器において、前記棒ばねが、貫通孔を有する筒状に形成されるとともに、他端側の外周面で前記フレームと螺合し、該動吸振器は、前記貫通孔に挿入された内棒体と、該内棒体に設けられ、前記棒ばねの内周面と当接して前記支点を形成する大径部と、前記棒ばね及び内棒体の各々と螺合し、該棒ばねと内棒体とを連結する連結部とを備え、前記棒ばねは、該棒ばねの軸線方向へ移動自在に前記連結部と螺合し、前記内棒体は、前記棒ばねの軸線方向へ移動自在に前記連結部と螺合するように構成することができる。
【0021】
上記構成によれば、棒ばねの外周面とフレームによって第1の調整部を構成することができ、また、内棒体と連結部によって第2の調整部を構成することができる。このため、簡単な構造で本発明にかかる動吸振器を構成することができ、製造コストを低く抑えることが可能になる。さらに、ばね特性及び減衰特性の調整は、棒ばね及び内棒体を棒ばねの軸線方向に移動させるだけで行うことができるため、組み付け後の調整を容易なものとすることが可能になる。
【0022】
上記動吸振器において、前記大径部を、前記棒ばねが該棒ばねの軸線方向に対して垂直な方向に移動することを規制しながら、該棒ばねの軸線方向へ摺動自在に該棒ばねの内周面に当接するように構成することができる。この構成によれば、棒ばねの軸線上に支点を適切に形成しつつ、大径部の位置を自由に変更することが可能になる。
【0023】
上記動吸振器において、前記ダンパを、前記錘に付設された導電体又は磁石のいずれか一方と、該導電体又は磁石のいずれか一方と所定の間隔を隔てて配置された該導電体又は磁石のいずれか他方とで構成する磁気ダンパとすることができる。
【0024】
また、上記動吸振器において、前記ダンパを、上面が開口する容器と、該容器に収納された粘性体と、前記容器の底面と所定の間隔を隔てて配置され、前記粘性体に浸漬された前記錘とで構成する粘性ダンパとすることもできる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、現場に設置した際の特性調整や経年変化後の再調整に適した動吸振器を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。まず、本発明にかかる動吸振器を構成するダンパとして磁気ダンパを用いた形態について説明する。
【0027】
図1は、本発明にかかる磁気ダンパを用いた動吸振器の第1の実施形態を示す断面図であり、図2は、図1のA部の拡大図である。
【0028】
この動吸振器1は、図1に示すように、紙面に対して垂直な方向に所定の幅を有し、上部に孔2aが設けられたフレーム2と、フレーム2の上部から鉛直方向に垂下する棒ばね3と、フレーム2と棒ばね3との間に配置された円筒状の内筒体5と、内筒体5と螺合する円筒状の外筒体6と、フレーム2を支持する支持板7と、支持板7上に配置された永久磁石8等を備える。
【0029】
棒ばね3は、地震等の外力に応じて振動するばね部材であり、例えば、丸棒を用いた簡単な構成を有する。この棒ばね3は、ばね断面が円形断面であるため、方向性を有することがなく、いずれの方向への変形においても同等のばね特性を有する点で優れる。棒ばね3の外周面には、棒ばね3を固定するための雄ねじ3aが螺刻され(図2参照)、また、棒ばね3の下端には、所定の質量を有する錘4が取り付けられる。
【0030】
錘4の下面には、導電板4aが付設され、永久磁石8とで磁気ダンパ14を構成する。この磁気ダンパ14は、導電板4aが永久磁石8の磁界を横切る際に発生するローレンツ力によって、棒ばね3の振動を減衰させるものである。また、非接触で利用し得ることから減衰部の摩耗がないため、メンテナンス性に優れ、さらには、温度依存や経年劣化が殆どないなどの特徴を有する。尚、導電板4aとしては、永久磁石と協働して電磁誘導作用を生じるものであればよく、例えば、銅板、ステンレス板、アルミニウム板等を用いることができる。
【0031】
内筒体5は、棒ばね3及び外筒体6をフレーム2に連結するために用いられ、図2に示すように、内周面及び外周面の各々に雌ねじ5a、雄ねじ5bが螺刻される。このうち、内周面側の雌ねじ5aは、棒ばね3の雄ねじ3aと螺合する。一方、外周面側の雄ねじ5bは、フレーム2の上面及び下面に各々付設されたロックナット11、12の雌ねじ11a、12aと螺合することで、フレーム2に内筒体5を固定する。
【0032】
尚、内周面側の雌ねじ5aについては、必ずしも内周面の全体に形成する必要はなく、図3(a)に示すように、内周面の上部のみに形成してもよいし、さらには、図3(b)に示すように、内筒体5の上に調整ナット10を一体的に配置した上で、内筒体5の内周面には雌ねじを螺刻せず、調整ナット10の内周面に雌ねじ10aを螺刻するようにしてもよい。
【0033】
図2に戻り、外筒体6は、棒ばね3が振動する際の支点の位置を上下方向に移動させるために備えられ、内周面に雌ねじ6aが螺刻される。この雌ねじ6aは、内筒体5の外周面側の雄ねじ5bと螺合することで、外筒体6を内筒体5の下部に連結する。
【0034】
外筒体6の上端部には、外筒体6の位置を固定するためのロックナット13が設けられ、下端部には、棒ばね3を挿通させる貫通孔9aを中心に備えた上面視円環状の棒ばね拘束部9が設けられる。この棒ばね拘束部9は、棒ばね3の軸線上の一部において、棒ばね3に当接し、棒ばね3が振動する際の支点を形成する。ここで、貫通孔9aの径は、棒ばね3の外径に合わせて設定され、ある程度の締め付け力を棒ばね3に付与して棒ばね3の振動を規制しつつも、棒ばね3の上下方向への摺動を可能とする大きさに設定される。
【0035】
尚、棒ばね拘束部9においては、貫通孔9aの径を棒ばね3の外径と一致させることで、棒ばね3に当接することができるが、その反面、棒ばね3の摺動を妨げることになる。そこで、貫通孔9aの径を棒ばね3の外径より僅かに大きく設定し、棒ばね3が摺動し得る余裕を確保し、その上で、外筒体6の外周面側から水平方向にピン(不図示)を挿入して、外筒体6、棒ばね拘束部9及び棒ばね3をピン留めするようにしてもよい。
【0036】
次に、上記構成を有する動吸振器1の動作について、図4〜図7を参照しながら説明する。
【0037】
動吸振器1のばね特性を短周期側へ調整する場合には、図4に示すように、フレーム2における棒ばね3の固定位置Bを変更せずに、内筒体5と外筒体6の螺合範囲を小さくして支点Cを下方に移動させる。
【0038】
具体的には、棒ばね3及び内筒体5が回転しないように固定し、その状態で、外筒体6のみを回転させて外筒体6を下方に移動させる。これにより、棒ばね拘束部9を下方に摺動させることができ、錘4と永久磁石8との間隔Wを一定の大きさに維持したまま、支点Cから錘4までの距離Lを短くすることができ、動吸振器1のばね特性を短周期側に遷移させることができる。
【0039】
一方、ばね特性を長周期側へ調整する場合には、図5に示すように、固定位置Bを同一の位置に保ったまま、内筒体5と外筒体6の螺合範囲を大きくして支点Cを上方に移動させる。この場合も、棒ばね3及び内筒体5が回転しないように固定し、外筒体6のみを回転させて外筒体6を上方に移動させる。これにより、棒ばね拘束部9を上方に摺動させることができ、錘4と永久磁石8との間隔Wを一定の大きさに維持しつつ、支点Cから錘4までの距離Lを長くすることができ、動吸振器1のばね特性を長周期側に遷移させることができる。
【0040】
これらに対し、減衰特性を増大させる場合には、図6に示すように、支点Cから錘4までの距離Lを一定に保ちつつ、フレーム2における棒ばね3の固定位置Bを棒ばね3の上部側に移動させ、棒ばね3を下降させて錘4を永久磁石8に近づける。
【0041】
固定位置Bの変更にあたっては、先ず、内筒体5が回転しないように固定した状態で、棒ばね3のみを回転させ、棒ばね3を下方に移動させる。しかし、これのみでは、棒ばね拘束部9の高さが変わることなく、棒ばね3だけが下降するため、支点Cが棒ばね3の上部側に移動し、支点Cから錘4までの距離Lが長くなり、動吸振器1のばね特性が長周期側に遷移してしまう。
【0042】
そこで、内筒体5が回転しないように固定しつつ、外筒体6を回転させ、棒ばね3の下降量と同量だけ外筒体6を下降させる。こうして、棒ばね3が下降した分だけ、支点Cの位置を下方に移動させ、支点Cから錘4までの距離Lを一定に保つ。これにより、動吸振器1のばね特性を変えることなく、減衰特性のみを増大させることができる。
【0043】
一方、減衰特性を減少させる場合には、図7に示すように、支点Cから錘4までの距離Lを変更せず、固定位置Bを棒ばね3の下部側に移動させ、棒ばね3を上昇させて錘4を永久磁石8から遠ざける。この場合も、棒ばね3を上昇させた後、棒ばね3の上昇量と同量だけ外筒体6を上昇させ、支点Cから錘4までの距離Lを、棒ばね3を上昇させる前の長さに戻す。これにより、支点Cから錘4までの距離Lを一定に維持した状態で、導電板4aと永久磁石8との間隔を拡げることができ、動吸振器1のばね特性を変えることなく、減衰特性のみを減少させることができる。
【0044】
以上のように、本実施の形態によれば、棒ばね3をフレーム2に固定する固定機構と、棒ばね3が振動する際の支点Cを形成する支点形成機構とを別々に設けた上で、固定位置Bと支点Cを独立して変更し得るように構成したため、ばね特性と減衰特性との双方を調整でき、また、それらの特性を別個に調整することもできる。加えて、ばね特性等の調整は、棒ばね3、内筒体5及び外筒体6を上下方向に移動させるだけで行うことができるため、現場施工時での動吸振器1の調整を容易に行うことができ、構造物の経年変化により固有周期が変動した場合でも、簡単に再調整することができる。
【0045】
次に、本発明にかかる磁気ダンパを用いた動吸振器の第2の実施形態について、図8〜図11を参照しながら説明する。尚、それらの図において、図1〜図7と同一の構成要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0046】
この動吸振器20は、図8に示すように、フレーム2と、フレーム2の上部から鉛直方向に垂下し、下端に錘4が取り付けられた棒ばね21と、棒ばね21内に挿入された内棒体22と、棒ばね21及び内棒体22の上部に配置された連結部23と、支持板7と、永久磁石8等を備える。
【0047】
棒ばね21は、図9に示すように、中心に貫通孔21aが設けられた円筒形を有し、その上部側の外周面には、雄ねじ21bが螺刻される。この雄ねじ21bは、フレーム2の孔2aの内周面に螺刻された雌ねじ2bと螺合することで棒ばね21をフレーム2に固定する。
【0048】
棒ばね21の貫通孔21a内には、棒状の内棒体22が挿入され、この内棒体22は、棒ばね21が振動する際の支点の位置を上下方向に移動させるために備えられる。内棒体22の上部には、雄ねじ22aが螺刻され、また、下端部には、側面で貫通孔21aの内周面に当接する大径部22bが設けられる。
【0049】
この大径部22bは、図2の棒ばね拘束部9と同様、棒ばね21の軸線上の一部において、棒ばね21の水平方向への移動を規制するように当接し、棒ばね21が振動する際の支点を形成する。ここで、大径部22bの外径は、貫通孔21aの径に合わせて設定され、ある程度の締め付け力を棒ばね21に付与して棒ばね21の振動を規制しつつも、大径部22bが棒ばね21内を上下方向に摺動し得る大きさに設定される。
【0050】
連結部23は、棒ばね21と内棒体22とを連結するために備えられる。連結部23の上部には、内棒体22の外周面に螺刻された雄ねじ22aと螺合する雌ねじ23aが螺刻され、また、下部には、棒ばね21の雄ねじ21bと螺合する雌ねじ23bが螺刻される。そして、雌ねじ23a、23bが、各々、内棒体22の雄ねじ22a、棒ばね21の雄ねじ21bと螺合することで、連結部23を通じて内棒体22と棒ばね21を連結する。
【0051】
次に、上記構成を有する動吸振器20の動作について、図10〜図11を参照しながら説明する。
【0052】
動吸振器20のばね特性を調整する場合には、図10に示すように、棒ばね21に対するフレーム2の固定位置Bを変更することなく、内棒体22を昇降させて支点Cを上下に移動させる。
【0053】
具体的には、棒ばね21が回転しないように固定し、その状態で、内棒体22のみを回転させて昇降させ、大径部22bと棒ばね21の内周面との当接位置を上下に移動させる。これにより、錘4と永久磁石8との間隔Wを一定の大きさに維持したまま、支点Cから錘4までの距離Lを伸縮することができ、減衰特性を変更することなく、ばね特性のみを調整することができる。
【0054】
尚、距離Lとばね特性との関係については、図4及び図5に示す場合と同様であり、距離Lを短くすることで、ばね特性を短周期側に遷移させることができ、逆に、距離Lを長くすることで、ばね特性を長周期側に遷移させることができる。
【0055】
一方、減衰特性を調整する場合には、図11に示すように、支点Cから錘4までの距離Lを一定に保ちつつ、フレーム2における棒ばね21の固定位置Bを上下に移動させ、棒ばね21を昇降させて導電板4aと永久磁石8との間隔Wを拡縮する。
【0056】
固定位置Bの変更にあたっては、連結部23と内棒体22との間において、内棒体22が回転しないように固定し、また、連結部23と棒ばね21との間において、棒ばね21が回転しないように固定する。その状態で、フレーム2と棒ばね21との間において、棒ばね21を回転させ、棒ばね21を昇降させて錘4の位置を上下に移動させる。
【0057】
上記の際、内棒体22は、連結部23を通じて棒ばね21と一体となって回転し、棒ばね21とともに昇降する。このため、棒ばね21の昇降量と同量だけ、支点Cの位置も昇降し、支点Cから錘4までの距離Lは一定に保たれる。従って、支点Cから錘4までの距離Lを変更することなく、導電板4aと永久磁石8との間隔Wを拡縮することができ、減衰特性のみを調整することができる。
【0058】
以上のように、本実施の形態においても、棒ばね21をフレーム2に固定する固定機構と、棒ばね21が振動する際の支点Cを形成する支点形成機構とを別々に有するとともに、固定位置Bと支点Cを独立して変更し得るため、第1の実施形態と同様の作用、効果を得ることができる。
【0059】
尚、上記の実施形態においては、フレーム2の上面から棒ばね3、21を鉛直方向に垂下させる場合を例示したが、フレーム2の側面から棒ばね3、21が水平に延びる構成としてもよい。
【0060】
次に、本発明本発明にかかる動吸振器を構成するダンパを粘性ダンパとした場合について、図12を参照しながら説明する。尚、本実施の形態において、ばね特性及び減衰特性を調整するための構成は、図1に示した磁気ダンパ14を用いた動吸振器1と同一であるため説明を省略する。
【0061】
この動吸振器30の粘性ダンパ33は、支持板7に載置され、上面が開口した円筒状の容器31と、容器31に収納された粘性体32と、容器31の底面と所定の間隔Wを隔てて配置され、粘性体32に浸漬された錘4とで構成される。
【0062】
上記構成を有する粘性ダンパ33は、棒ばね3の振動により錘4が水平方向の変位を生じ、錘4の下面と容器31の底面との隙間に存在する粘性体32に剪断抵抗を生じさせて粘性減衰を得ることができる。この剪断抵抗は、錘4の下面と容器31の底面との隙間、すなわち粘性剪断間隔Wが増加すると小さくなり、粘性剪断間隔Wが減少すると大きくなる。このため、粘性剪断間隔Wを調整することで、容易に剪断抵抗を所定の大きさに調整することができ、減衰特性を調整することができる。このように、本粘性ダンパ33を用いた動吸振器30は、上記磁気ダンパ14を用いた動吸振器と同様に、現場施工時の調整を容易に行うことができる。
【0063】
この動吸振器30においても、ばね特性及び減衰特性を調整するための構成として、図8に示した棒ばね21、内棒体22及び連結部23を用いた構成とすることもできる。
【0064】
尚、前記磁気ダンパ14のローレンツ力又は粘性ダンパ33の粘性剪断抵抗は、各々、錘4の下面に付設された導電板4aの面積又は錘4の下面の面積に依存する。従って、前記ローレンツ力や粘性剪断抵抗を所定の範囲に調整するには、前述の減衰特性の調整手段による調整によって調整可能なように、予め導電板4aの面積又は錘4の下面の面積を適切に選定する必要がある。
【0065】
同様に、磁気ダンパ14のローレンツ力又は粘性ダンパ33の粘性剪断抵抗は、各々、永久磁石8の磁力又は粘性体32の粘性に依存する。従って、前記ローレンツ力や粘性剪断抵抗を所定の範囲に調整するには、前述の減衰特性の調整手段による調整によって調整可能なように、予め前記磁力や粘性を適切に選定する必要がある。
【0066】
また、上記の実施形態においては、単一の棒ばねを配置した動吸振器を例示したが、図13に示すように、複数組の棒ばね3、内筒体5、外筒体6等を配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明にかかる磁気ダンパを用いた動吸振器の第1の実施形態を示す断面図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【図3】内筒体の他の例を示す断面図である。
【図4】ばね特性を短周期側に遷移させる場合を説明するための図であって、(a)は断面図、(b)は(a)の一部拡大図である。
【図5】ばね特性を長周期側に遷移させる場合を説明するための図であって、(a)は断面図、(b)は(a)の一部拡大図である。
【図6】減衰特性を増大させる場合を説明するための図であって、(a)は断面図、(b)は(a)の一部拡大図である。
【図7】減衰特性を減少させる場合を説明するための図であって、(a)は断面図、(b)は(a)の一部拡大図である。
【図8】本発明にかかる磁気ダンパを用いた動吸振器の第2の実施形態を示す断面図である。
【図9】図8のD部拡大図である。
【図10】ばね特性を調整する場合を説明するための図であって、(a)は断面図、(b)は(a)の一部拡大図である。
【図11】減衰特性を調整する場合を説明するための図であって、(a)は断面図、(b)は(a)の一部拡大図である。
【図12】本発明にかかる粘性ダンパを用いた動吸振器の一実施の形態を示す断面図である。
【図13】本発明にかかる動吸振器の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1 動吸振器
2 フレーム
2a 孔
2b 雌ねじ
3 棒ばね
3a 雄ねじ
4 錘
4a 導電板
5 内筒体
5a 雌ねじ
5b 雄ねじ
6 外筒体
6a 雌ねじ
7 支持板
8 永久磁石
9 棒ばね拘束部
9a 貫通孔
10 調整ナット
11 ロックナット
11a 雌ねじ
12 ロックナット
12a 雌ねじ
13 ロックナット
14 磁気ダンパ
20 動吸振器
21 棒ばね
21a 貫通孔
21b 雄ねじ
22 内棒体
22a 雄ねじ
22b 大径部
23 連結部
23a 雌ねじ
23b 雌ねじ
30 動吸振器
31 容器
32 粘性体
33 粘性ダンパ
B 固定位置
C 支点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に錘が取り付けられた棒ばねを振動させて制振対象物に加えられる振動を吸収するとともに、前記錘との間に構成するダンパによって前記棒ばねの振動を減衰させる動吸振器であって、
フレームと、
該フレームに前記棒ばねの他端側の一部を固定する固定部と、
前記棒ばねの軸線上の一部において、前記棒ばねを該棒ばねの軸線方向に対して垂直な方向に移動することを規制するように当接し、該棒ばねが振動する際の支点を形成する支点形成部と、
前記固定部を介して前記フレームに対して前記棒ばねを該棒ばねの軸線方向に移動させ、前記錘と前記ダンパの所定の位置との間隔を拡縮させて該動吸振器の減衰特性を調整する第1の調整部と、
前記棒ばねに対する前記支点形成部の当接位置を該棒ばねの軸線方向に移動させ、前記支点から前記錘までの距離を伸縮させて該動吸振器のばね特性を調整する第2の調整部とを備えることを特徴とする動吸振器。
【請求項2】
内周面で前記棒ばねの外周面と螺合するとともに、一端側の外周面で前記フレームと螺合する内筒体と、
一端側の内周面で前記内筒体の他端側の外周面と螺合するとともに、他端側に前記棒ばねに当接して前記支点を形成する棒ばね拘束部が設けられた外筒体とを備え、
前記棒ばねは、該棒ばねの軸線方向へ移動自在に前記内筒体の内周面と螺合し、
前記外筒体は、前記棒ばねの軸線方向へ移動自在に前記内筒体の外周面と螺合することを特徴とする請求項1に記載の動吸振器。
【請求項3】
前記棒ばね拘束部は、前記棒ばねが該棒ばねの軸線方向に対して垂直な方向に移動することを規制しながら、該棒ばねを該棒ばねの軸線方向に摺動自在であることを特徴とする請求項2に記載の動吸振器。
【請求項4】
前記棒ばねは、貫通孔を有する筒状に形成されるとともに、他端側の外周面で前記フレームと螺合し、
該動吸振器は、
前記貫通孔に挿入された内棒体と、
該内棒体に設けられ、前記棒ばねの内周面と当接して前記支点を形成する大径部と、
前記棒ばね及び内棒体の各々と螺合し、該棒ばねと内棒体とを連結する連結部とを備え、
前記棒ばねは、該棒ばねの軸線方向へ移動自在に前記連結部と螺合し、
前記内棒体は、前記棒ばねの軸線方向へ移動自在に前記連結部と螺合することを特徴とする請求項1に記載の動吸振器。
【請求項5】
前記大径部は、前記棒ばねが該棒ばねの軸線方向に対して垂直な方向に移動することを規制しながら、該棒ばねの軸線方向へ摺動自在に該棒ばねの内周面に当接することを特徴とする請求項4に記載の動吸振器。
【請求項6】
前記ダンパは、前記錘に付設された導電体又は磁石のいずれか一方と、該導電体又は磁石のいずれか一方と所定の間隔を隔てて配置された該導電体又は磁石のいずれか他方とで構成される磁気ダンパであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の動吸振器。
【請求項7】
前記ダンパは、上面が開口する容器と、該容器に収納された粘性体と、前記容器の底面と所定の間隔を隔てて配置され、前記粘性体に浸漬された前記錘とで構成される粘性ダンパであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の動吸振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−71307(P2010−71307A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236186(P2008−236186)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】