説明

動圧軸受装置

【課題】連通孔から流入する潤滑流体と軸受スリーブとの衝突による潤滑流体の挙動の影響を低減することにより、低振動、低騒音の動圧軸受装置を提供すること。
【解決手段】下側ラジアル軸受部13と上面スラスト軸受部14との間にある微少間隙4におけるシャフト3、スラストプレート6および軸受スリーブ1の内周角部1cで囲まれた拡幅流路4aにおいて、軸受スリーブ1の内周角部1cに面取りを行い、この拡幅流路4aの下側に配置されている連通孔16の回転半径方向の幅よりも大きい拡幅流路4aの回転半径方向の幅を形成し、連通孔16から拡幅流路4aに流入してくる潤滑流体5の流れをスムーズにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑流体に発生させた動圧力により軸受部材と軸部材とを相対回転可能に浮上させるようにした流体動圧軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク、ポリゴンミラー、光ディスク等のような各種回転体を高速で回転支持するための動圧軸受装置に関する提案が種々行われている。例えば、図13は、ハードディスク駆動装置用スピンドルモータに搭載される動圧軸受装置を示している。また図13の実線矢印は、各軸受部における潤滑流体の圧力方向を示す。
【0003】
図13に示すように、動圧軸受装置は、軸受スリーブ100内に回転軸110が回転自在に挿入されている。そして軸受スリーブ100の内周面と、回転軸110の外周面との間の半径方向の微少間隙内には、オイル等の潤滑流体120が注入されている。またこの微少間隙内の回転軸方向上側および下側には、離れた2箇所のラジアル動圧軸受部130、131が形成されている。
【0004】
また回転軸110には、スラストプレート140が接合されている。そしてこのスラストプレート140の回転軸方向の両端面と、軸受スリーブ100、およびその軸受スリーブ100に取り付けられたカウンタープレート150とが、回転軸方向に微少間隙を介して対向する様に配置されている。そしてこの微少間隙には、ラジアル軸受部130から連続するようにして潤滑流体120が注入されている。
【0005】
またスラストプレート140の回転軸方向上面および下面にそれぞれスラスト動圧軸受部160、161が形成されている。さらにスラスト動圧軸受部160、161を連通するように連通孔170が形成されている。この連通孔170により各ラジアル動圧軸受130、131およびスラスト動圧軸受160、161に潤滑流体120が循環する。
【0006】
【特許文献1】特開2003−28147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、潤滑流体120は連通孔170から微少間隙の下側ラジアル軸受部131と上面スラスト軸受部160との間の流路180に流入し、軸受スリーブ100の流路180に形成される内周角部101に衝突してしまう。これにより、潤滑流体120の流れが変化してしまう。さらに軸受スリーブ100の内周角部101付近の微少間隙には、逃げ場がないので、本来の潤滑流体120の流れと軸受スリーブ100の内周角部101に衝突した潤滑流体120の流れとが影響を及ぼしあう。したがって、潤滑流体120の挙動が変化してしまう。その結果、この潤滑流体120の軸受スリーブ100への衝突および潤滑流体の挙動の変化が振動発生の原因となる。これはこの動圧軸受装置を搭載するスピンドルモータの振動問題および振動に起因する騒音問題を引き起こしてしまう。
【0008】
本発明は、上記のような問題に鑑み、なされたものであり、その目的とするところは、連通孔から流入する潤滑流体と軸受スリーブとの衝突による潤滑流体の挙動の影響を低減することにより、低振動、低騒音の動圧軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1によれば、動圧流体軸受は、固定部と、回転軸を中心として前記固定部に対し回転する回転部と、前記固定部と前記回転部との間に保持された潤滑流体とを備え、前記回転部は、シャフトと該シャフトより径方向外方に張り出したスラストプレートとを有し、前記固定部は、前記シャフトおよび前記スラストプレートを径方向外方にて微小間隙を介して取り囲み且つ該スラストプレートを回転軸方向の微小間隙を介して収容する段差部を有するスリーブと、該スリーブの下端部を密閉するカウンタプレートとを有し、
前記スラストプレートの上面と前記スリーブの前記段差部下面との間、および前記スラストプレートの下面と前記カウンタプレートの上面との間の何れか又は双方にはスラスト動圧軸受部が形成され、前記シャフトと前記スラストプレートとの接続部近傍には、前記スラストプレートを回転軸方向に貫通する連通孔が少なくとも一つ形成され、前記連通孔の上端開口部に対して軸方向に対向する前記スリーブの前記段差部の内周角部近傍には、前記スラストプレート上面と前記スリーブの前記段差部下面との間に形成された微小間隙幅より回転軸線方向に広い拡幅流路が形成され、且つ前記回転軸を通る平面で切った前記拡幅流路の断面積が、前記回転軸に垂直な平面で切った前記連通孔の断面積より広いことを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2によれば、請求項1に係わり、前記微小間隙と比較した前記拡幅流路の拡大幅は、前記回転軸に垂直な平面で切った前記連通孔の断面積より広いことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項1および請求項2に従えば、回転軸に垂直な平面で切った連通孔の断面積より回転軸に平行な平面で切った拡幅流路の断面積の方が大きくなることにより、拡幅流路における潤滑流体は連通孔から拡幅流路へ流入する潤滑流体に対して、緩衝する効果を発揮することができる。したがって、連通孔から拡幅流路へ流入した潤滑流体は、スリーブへ連通孔からの流入の勢いで衝突することがなくなる。その結果、振動を低減した流体動圧軸受を提供することができる。さらに微小間隙と比較した拡幅流路の拡大幅が連通孔の断面積より大きくなることにより、連通孔から流入する潤滑流体を拡幅流路にて緩衝する効果はさらに増すことができる。
【0012】
本発明の請求項3によれば、請求項1および請求項2のいずれかに係わり、前記連通孔は、周方向に複数形成され、前記拡幅流路は、少なくとも周方向に隣り合う前記連通孔のうち一組を連結するように形成されることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項4によれば、請求項1および請求項2のいずれかに係わり、前記拡幅流路は、径方向に円環状に形成されることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項3および請求項4に従えば、拡幅流路が周方向に円弧状もしくは円環状に形成されることにより、拡幅流路の体積が増えるので、連通孔から流入する潤滑流体を拡幅流路にて緩衝する効果をより一層向上させることができる。
【0015】
本発明の請求項5によれば、請求項1乃至請求項4のいずれかに係わり、前記拡幅流路の径方向最外位置となる端縁は、前記連通孔よりも径方向外側に位置することを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項5に従えば、拡幅流路の端縁が連通孔の径方向外側に位置することにより、拡幅流路が連通孔の断面積全体に対して対向することとなる。したがって、連通孔の断面積全体に対して、連通孔より流入する潤滑流体を拡幅流路にて緩衝する効果を発揮することができる。
【0017】
本発明の請求項6によれば、請求項1乃至請求項5のいずれかに係わり、前記拡幅流路は、前記シャフトの前記連通孔の開口部付近に径方向内方凹部を設けることにより形成されることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項7によれば、請求項1乃至請求項5のいずれかに係わり、前記拡幅流路は、前記スラストプレートの前記連通孔の開口部付近に回転軸方向凹部を設けることにより形成されることを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項6および請求項7に従えば、スリーブ側のみではなく、シャフトに径方向凹部を設けることおよびスラストプレートの連通孔開口部付近に回転軸方向凹部を設けることによっても拡幅流路を形成することができる。
【0020】
本発明の請求項8によれば、モータであって、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の流体動圧軸受と、前記固定部は、電機子と、前記電機子および前記スリーブを保持するベースと、前記回転部は、前記シャフトと一体的に回転する回転ハブと、前記回転ハブに固定され、電機子と対向して配置される駆動マグネットと、を備えることを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項8に従えば、連通孔から拡幅流路へ流入する潤滑流体を拡幅流路にて緩衝することにより、振動を低減することができる流体動圧軸受を搭載したモータであるので、振動低減を図ることができると共に、この振動に起因した騒音も低減することができる。
【0022】
本発明の請求項9によれば、請求項8に記載のモータと、回転ハブに固定される磁気記録層を有する記録ディスクと、前記磁気記録層に情報を記録するとともに前記磁気記録層に記録された情報を再生するための磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記記録ディスクに対して移動させるための移動手段と、これらを収容する筐体と、をさらに備えることを特徴とする。
【0023】
本発明の請求項9に従えば、この記録ディスク駆動装置は、振動およびこの振動に起因した騒音を低減したモータを搭載するので、低振動および低騒音かつ信頼性の高い記録ディスク駆動装置を提供することができる。
【0024】
本発明の請求項10によれば、固定部と、回転軸を中心として前記固定部に対し回転する回転部と、前記固定部と前記回転部との間に保持された潤滑流体とを備えた流体動圧軸受であって、前記回転部または前記固定部の少なくともどちらか一方には潤滑流体を循環させる連通孔が形成され、前記連通孔の開口部付近には、他の前記固定部と前記回転部との間より広い拡幅流路が形成され、前記拡幅流路の最も狭い部分の断面積は前記潤滑流体が前記連通孔に流れる方向と垂直な平面にて切った断面積よりも大きいことを特徴とする。
【0025】
本発明の請求項10に従えば、拡幅流路の最も狭い部分の断面積は、連通孔の潤滑流体が流れる方向と垂直な平面にて切った断面積より大きいことから、連通孔から拡幅流路に流入する潤滑流体に対してその勢いを緩衝する効果を発揮することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に従えば、連通孔から流入する潤滑流体と軸受スリーブとの衝突による潤滑流体の挙動の影響を低減することにより、低振動、低騒音の動圧軸受装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明に係る流体動圧軸受装置の実施例の一形態である流体動圧軸受装置を用いたハードディスク駆動用スピンドルモータを図1に示す。図1は、回転軸方向断面図である。
【0028】
図1を参照して、ハードディスク駆動用スピンドルモータの全体について説明する。
【0029】
軸受スリーブ1は、中空円筒状であり、その外周面の下側には、このスピンドルモータをハードディスク駆動装置に直接ネジ等にて接合することができる有底筒状のケース2が例えば嵌合および接着にて固定されている。また軸受スリーブ1の内周面には、回転軸であるシャフト3が微少間隙4を介して挿通される。その微少間隙4には、オイルや磁性流体等の潤滑流体5が注入されている。シャフト3の下端外周面3aには、軸受スリーブ1と微少間隙4を介して対向する円環状のスラストプレート6が例えば圧入にて固定されている。また軸受スリーブ1の下側には、このスラストプレート6を収容するために段差部1bが形成されている。そのスラストプレート6の下側には、微少間隙4を介して対向する円板状のカウンタープレート7が軸受スリーブ1の下端内周面に例えばプレス加工にて固定されている。このカウンタープレート7により、微少間隙4は、片袋空間構造となり、この微少間隙4の全てに潤滑流体5が充填されている。
【0030】
シャフト3の上部3bには、記録ディスク(図示せず)を載置する略カップ状の回転ハブ8が例えば圧入接着にて固定されている。この回転ハブ8は、記録ディスクを外周部に搭載する円筒部8aを有しているとともに、この円筒部8aから回転半径方向に張り出して記録ディスクを回転軸方向に支持する載置部8bが形成されている。そしてクランパ(図示せず)の押圧力によって、記録ディスクの固定が行われている。
【0031】
回転ハブ8の下部内周面には、磁性体にて形成される中空円筒状のヨーク9が内嵌されている。そのヨーク9の内周面には、リング状のロータマグネット10が内嵌されている。そのロータマグネット10と回転半径方向に間隙を介して対向するようにステータ11がケース2の円筒部2aの外周部に配置されている。ステータ11は、電磁鋼板の積層体からなるステータコア11aに巻線11bが巻回されることにより形成されている。
【0032】
次に図2を用いて軸受スリーブ1とシャフト3との軸受手段について説明する。図2は、図1の軸受周りを抽出した図である。なお、図2の実線矢印は、各軸受部における潤滑流体5の圧力方向を示す。
【0033】
軸受スリーブ1の内周面には、回転軸方向上側および下側の2箇所にそれぞれ回転半径方向を支持する軸受部である上側ラジアル軸受部12、下側ラジアル軸受部13が形成されている。その各軸受部には、例えばヘリングボーン形状となる動圧を発生する溝である上側ラジアル動圧発生溝12a、下側ラジアル動圧発生溝13aが環状に凹設されている。
【0034】
スラストプレート6の回転軸方向上面および軸受スリーブ1の段差部1bの下面およびスラストプレート6の回転軸方向下面およびカウンタープレート7の上面との2箇所には、それぞれ回転軸方向を支持する軸受部である上面スラスト軸受部14、下面スラスト軸受部15が形成されている。その各軸受部には、例えばヘリングボーン形状から成る動圧を発生する溝である上面スラスト動圧発生溝14a、下面スラスト動圧発生溝15aが環状に凹設されている。回転時に上側ラジアル軸受部12と下側ラジアル軸受部13は、上側ラジアル動圧発生溝12aと下側ラジアル動圧発生溝13aとのポンピング作用により潤滑流体5が加圧されて動圧を生じる。そしてその潤滑流体5の動圧によって、シャフト3とともに回転ハブ8が、軸受スリーブ1に対して回転半径方向に非接触状態にて回転自在に支持される。同様に、上面スラスト軸受部14と下面スラスト軸受部15も回転時に、その上面スラスト動圧発生溝14aと下面スラスト動圧発生溝15aがポンピング作用により潤滑流体5が加圧されて動圧を生じる。そしてその潤滑流体5の動圧によって、シャフト3とともにスラストプレート6が回転軸方向に非接触にて回転自在に支持する。
【0035】
また軸受スリーブ1の上端部1aは開口しており、上側に向かい徐々に内径が大きくなるようなテ−パ形状になっている。これによりこの上端部1aに形成された潤滑流体5のシール構造である気液界面5aの表面張力を高めることができる。したがって、モータの回転・停止のいずれの場合にも、この潤滑流体5の気液界面5aの位置が固定するように構成されている。
【0036】
またシャフト3とスラストプレート6との間には、連通孔16が形成されている。微少間隙4における連通孔16の上側に微少間隙4を介して対向して配置される軸受スリーブ1およびシャフト3とスラストプレート6とで囲まれた流路は、従来の図13における流路180と比較して広くなっており、すなわち、微少間隙4において下側ラジアル軸受部13と上面スラスト軸受部14との間にある拡幅流路4aとして形成され、下側ラジアル軸受部13により、潤滑流体5が上側に押上げられる。また上面スラスト軸受部14により、回転半径方向外側に潤滑流体5が移動する。その結果、この拡幅流路4aには、潤滑流体5が不足する可能性、すなわち圧力のアンバランスが発生する可能性がある。しかしながら、連通孔16を有することにより、潤滑流体5が不足した場合、すなわち拡幅流路4aの圧力が低くなった場合、シャフト3の下端面3cおよびスラストプレート6の微少間隙4cと拡幅流路4aとの圧力差より、微少間隙4cの潤滑流体5は、圧力の低い拡幅流路4aに移動することによって圧力のバランスを図ることができる。
【0037】
またこの連通孔16の形成には、様々な実施形態がある。その実施形態を図3乃至図5を用いて説明する。
【0038】
図3は、スラストプレート6の内周部17に凹部18を形成し、シャフト3と嵌合することによって連通孔16を形成するものを示した図である。
【0039】
凹部18は、スラストプレート6の上面アキシャル動圧発生溝14aの内周部にて形成される仮想円14bよりも内側にて形成される。またこの凹部18以外の内周部は、シャフト3と嵌合される。その結果、この凹部18とシャフト3の外周面とで囲まれた部分が、連通孔16として形成される。
【0040】
図4は、スラストプレート6の内側部19に貫通孔20を形成したものを示した図である。
【0041】
貫通孔20の外径は、スラストプレート6の上面スラスト動圧発生溝14aの内周部にて形成される仮想円14bよりも内側にて形成される。
【0042】
図5は、シャフト3に回転軸方向に径方向内方凹部21を形成するものを示した図である。また図5はシャフト3の下側部のみを示し、図5の下図は、シャフト下面より見た図である。
【0043】
径方向内方凹部21の回転軸方向長さは回転軸方向に少なくともスラストプレート6の回転軸方向厚さよりも大きくなり、且つ下側ラジアル軸受部13と対向する位置よりも小さく形成される。そしてスラストプレート6と嵌合することにより、スラストプレート6の内周面と径方向内方凹部21とによって連通孔16が形成される。
【0044】
これら本発明の連通孔は、図面では、上述した実施形態に限定されることなく、スラストプレートの凹部、貫通孔、およびシャフトの径方向凹部の数を図面にて限定されるものではない。
【0045】
次に図6乃至図8を用いて、微少間隙4における連通孔16の上部に微少間隙を介して対向して配置される軸受スリーブ1、およびシャフト3とスラストプレート6とで囲まれた拡幅流路4aを実施形態別に従来例と比較する。図6および図7の一点鎖線は回転軸を示している。また図8は従来例の微少間隙における下側ラジアル軸受部131と上面スラスト軸受部170との間の流路180を示した図である。なお、これらの図中の実線矢印は、各軸受における潤滑流体の圧力方向を示している。また点線矢印は、潤滑流体の流れ方向を示している。
【0046】
図8の従来例では、微少間隙における流路180の回転半径方向の幅が、連通孔170の回転半径方向の幅よりも小さく形成されている。その結果、連通孔170の上側の一部にスラストプレート140と回転軸方向にて対向する軸受スリーブ100の内周角部101が配置されている状態となる。
【0047】
この連通孔170を通る潤滑流体120は、連通孔170の下側から上側へ流れて流路180に入る流れる構造となる。流路180に潤滑流体120が流れるところに内周角部101が存在することにより、潤滑流体120は、この内周角部101と衝突してしまう。内周角部101は、潤滑流体120が流路180に入る流れに対して垂直に形成されているので、潤滑流体120に対して壁となる形で流れを妨害する。しかも流路180は狭く、流れの逃げ場がないので、流路180に異なった流れが複数存在してしまい、それらがお互いに影響を及ぼしあってしまう。その結果、潤滑流体120の流れは大きく変化してしまい、スムーズな流れではなくなる。その結果、潤滑流体120の挙動に変化を生じ、モータの振動に影響を与えてしまうこととなる。
【0048】
図6は、軸受スリーブ1のシャフト3とスラストプレート6とを微少間隙4を介して対向する部分の交差部である内周角部1cに面取り部22を形成することにより、拡幅流路4aを形成している。この拡幅流路4aの回転半径方向の幅は連通孔16の回転半径方向の幅より大きくなるように面取りの端縁22aが形成される。
【0049】
拡幅流路4aの回転半径方向の幅が、連通孔16の回転半径方向の幅よりも大きくなることは、連通孔16の下側から上側に流れ、拡幅流路4aに流入してくる潤滑流体5の流れを妨害することがなくなる。拡幅流路4aの軸受スリーブ1にテ−パ面を設けることで、潤滑流体5の軸受スリーブ1への衝突を緩和し、下側ラジアル軸受部13と上側スラスト軸受部14とに潤滑流体5が流れやすいような流れを形成している。その結果、潤滑流体5の流れはスムーズとなり、潤滑流体5の挙動に変化を生じることがなく、モータの振動に影響を与えることはない。
【0050】
さらにこの拡幅流路4aは、微小間隙4の幅と比較した際の回転半径方向および回転軸方向の拡大幅が連通孔16の回転半径方向の幅よりも大きくなる。これにより、連通孔16から拡幅流路4aに流入してくる潤滑流体5に対して、拡幅流路4aの体積を十分に取ることができるので、この拡幅流路4aがバッファの役目を果たす。この結果、連通孔16から拡幅流路4aに流入した潤滑流体5の勢いは緩和されて軸受スリーブ1と衝突する。したがって、潤滑流体5による振動を低減することができ、これに起因する騒音を低減することができる。
【0051】
図7は、シャフト3の連通孔16の上側に周方向溝23を形成することにより、微少間隙4に拡幅流路4aを形成している。この周方向溝23は、下側ラジアル軸受部13よりも下側に形成されている。また周方向溝23は、連通孔16と連結してもよい。さらに周方向溝23は、シャフト円周に対して、全周に形成されても、一部に形成されてもよい。またこの拡幅流路4aの回転半径方向の幅は連通孔16の径方向の幅より大きくなるように設定されている。
【0052】
シャフト3の連通孔16の上側に周方向溝23を形成することにより、潤滑流体5が軸受スリーブ1の内周角部1cに衝突しても、周方向溝23に流れることができる。これは周方向溝23を有することで他の微少間隙と比較して圧力が低くなっている。したがって圧力の低い周方向溝23へ潤滑流体5は流れるので、連通孔16から周方向溝23への潤滑流体5の流れを形成することができる。これにより、拡幅流路4aでの潤滑流体5の流れはスムーズとなり、潤滑流体5の挙動に変化を生じることがなく、モータの振動に影響を与えることはない。
【0053】
図9に従来の連通孔16より拡幅流路4aの回転半径方向の幅が小さい場合のキャンベル測定結果を、図10に連通孔16より拡幅流路4aの回転半径方向の幅が大きい場合のキャンベル測定結果を示す。
【0054】
ここでキャンベル測定結果の見方に関して概略を説明する。
【0055】
まず、この図9および図10にて示されたグラフはキャンベル線図と呼ばれる。このキャンベル線図とは、横軸が回転数、縦軸が周波数または回転次数のグラフであり、振幅の大きさを円の大きさにて表したグラフである。このキャンベル線図により回転数の変化に対する各周波数および振動の振幅が視覚的に見ることができる。これにより、グラフを見るだけでモータがどの回転数で、またはどの周波数で振動が大きくなっているか、およびその振動の振幅を把握することができる。また回転数が変化し、その際の周波数を見ることができるので、回転数にかかわらず一定の周波数を生じる固有振動数の検出にも役立つ。
【0056】
従来例のキャンベル線図である図9を参照すると、ある地点(図の中央部)にて円が大きくなっている、すなわち振動の振幅が大きくなっていることが分かる。しかしながら、本発明の実施例でのキャンベル線図である図10を参照すると、図9にて発生していた周波数での円がなくなっていることが分かる。すなわち振動の振幅が小さくなっていることが分かる。したがって、従来、軸受スリーブ100の内周角部101と連通孔170より流路180に流入してきた潤滑流体5が衝突することにより、潤滑流体120の流れがスムーズではなくなり、潤滑流体120の挙動がモータ振動を発生していた。しかし本発明である軸受スリーブ1に面取り22を行うこと、およびシャフト3に周方向溝23を設けることにより、軸受スリーブ1の内周角部1cと衝突していた潤滑流体5が殆ど衝突しなくなり、また大きな拡幅流路4aを設けることにより、すなわち流れの逃げ場を設けたことにより、拡幅流路4aにおける潤滑流体5の流れがスムーズになり、潤滑流体5の挙動がモータ振動に影響を与えていないことが分かる。その結果、振動の振幅を減少させるのに効果があることが分かる。すなわち、拡幅流路4aを大きく形成することにより低振動および低騒音のスピンドルモータを実現することができる。
【0057】
最後に、本発明のスピンドルモータを搭載した記録ディスク駆動装置について図11を用いて説明する。
【0058】
記録ディスク駆動装置200は、矩形状をしたハウジング210からなり、ハウジング210の内部は、塵・埃等が極度に少ないクリーンな空間を形成しており、その内部には、情報を記録する円板状であり、磁気記録層を有する記録ディスクであるハードディスク220が装着されたスピンドルモータ230が配設されている。またこのハウジング210と後述するベース10とは一体的に成形されていてもよい。
【0059】
また、ハウジング210の内部には、ハードディスク220に対して磁気記録層に情報を読み書きするヘッド移動機構240が配置され、このヘッド移動機構240は、ハードディスク220上の情報を読み書きする磁気ヘッド241、この磁気ヘッド241を支えるアーム242および磁気ヘッド241およびアーム242をハードディスク220上の所要の位置に移動させるアクチュエータ部243により構成される。
【0060】
このような記録ディスク駆動装置200のスピンドルモータ230として、本願発明のスピンドルモータを適用することで、十分な機能を確保した上で記録ディスク駆動装置200の小型且つ薄型化を実現できると共に、信頼性並びに耐久性の高い記録ディスク駆動装置を提供することができる。
【0061】
以上、本発明に係る発明の実施形態を具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【0062】
例えば、上述した実施形態におけるスラストプレート6は、シャフト3と別部材にて形成されていたが、スラストプレート6とシャフト3とを一体的に形成するようにしたものに対しても本発明は適用することが可能である。また各動圧発生用溝はその対称部位に形成されてもよい。すなわち、ラジアル動圧を発生させる動圧発生用溝12a、13aはシャフト3に形成されてもよい。さらにスラスト動圧を発生させる動圧発生溝14a、15aは、それぞれ軸受スリーブ1およびカウンタープレート7に形成されてもよい。
【0063】
また、本発明は、上述した実施形態のような軸回転型の動圧軸受装置に限定されることではなく、軸固定の動圧軸受装置に対しても同様に適用することができる。
【0064】
また、本発明は、シャフト3とスラストプレート6が下端外周面3aにて固定されているが、このシャフト3とスラストプレート6との固定位置は回転軸方向の軸受スリーブ1が微少間隙を介して対向し配置している範囲においてどの位置においても適用可能である。
【0065】
さらに拡幅流路4aは、スラストプレート6の連通孔16の開口部付近に凹部を形成することによって形成されてもよい。
【0066】
また、本発明における連通孔16はスラストプレート6に形成されたが、これに限定されることなく、図12のように軸受スリーブ300に形成されてもよい。この場合、軸受スリーブ300に形成される連通孔310の開口部付近に拡幅流路320が形成される。この拡幅流路320の断面積のうち最も狭くなる回転軸方向の断面積は、連通孔310の回転半径方向の平面で切った断面積よりも広く形成されている。これにより、連通孔310からの潤滑流体330の流れをこの拡幅流路320にて緩和することができる。
【0067】
さらに上述した実施形態のようなハードディスク駆動用スピンドルモータ以外の、ポリゴンミラー駆動用モータやCD−ROM駆動用モータなどのような多種多様な装置に用いられる動圧軸受装置に対しても、本発明は同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係る実施例のモータの軸方向断面図を示した図である。
【図2】本発明に係る実施例の軸受部周辺を示した図である。
【図3】本発明に係るスラストプレートの一実施例を示した図である。
【図4】本発明に係るスラストプレートの一実施例を示した図である。
【図5】本発明に係るスラストプレートの一実施例を示した図である。
【図6】本発明に係る連通孔と微少間隙との関係を示す一実施例を示した図である。
【図7】本発明に係る連通孔と微少間隙との関係を示す一実施例を示した図である。
【図8】従来例に係る連通孔と微少間隙との関係を示した図である。
【図9】図9は従来例に係るキャンベル測定結果を示した図である。
【図10】本発明に係るキャンベル測定結果を示した図である。
【図11】本発明に係る記録ディスク駆動装置の軸方向断面図を示した図である。
【図12】本発明に係る実施例のモータの軸方向断面図を示した図である。
【図13】従来例に係る動圧軸受装置の軸方向断面図を示した図である。
【符号の説明】
【0069】
1、300 軸受スリーブ(スリーブ)
1a、101 内周角部
2 ケース
3 シャフト
4、4c 微小間隙
4a、320 拡幅流路
5、120、330 潤滑流体
6 スラストプレート
7 カウンタープレート
8 回転ハブ
10 ロータマグネット(駆動マグネット)
11 ステータ(電機子)
14 上面スラスト軸受部(スラスト動圧軸受部)
15 下面スラスト軸受部(スラスト動圧軸受部)
16、170 連通孔
20 貫通孔(連通孔)
22a 端縁
23 径方向内方凹部
200 記録ディスク駆動装置
210 ハウジング(筐体)
241 磁気ヘッド
243 アクチュエータ部(移動手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部と、
回転軸を中心として前記固定部に対し回転する回転部と、
前記固定部と前記回転部との間に保持された潤滑流体とを備えた流体動圧軸受であって、
前記回転部は、シャフトと該シャフトより径方向外方に張り出したスラストプレートとを有し、
前記固定部は、前記シャフトおよび前記スラストプレートを径方向外方にて微小間隙を介して取り囲み且つ該スラストプレートを回転軸方向の微小間隙を介して収容する段差部を有するスリーブと、該スリーブの下端部を密閉するカウンタプレートとを有し、
前記スラストプレートの上面と前記スリーブの前記段差部下面との間、および前記スラストプレートの下面と前記カウンタプレートの上面との間の何れか又は双方にはスラスト動圧軸受部が形成され、
前記シャフトと前記スラストプレートとの接続部近傍には、前記スラストプレートを回転軸方向に貫通する連通孔が少なくとも一つ形成され、
前記連通孔の上端開口部に対して軸方向に対向する前記スリーブの前記段差部の内周角部近傍には、前記スラストプレート上面と前記スリーブの前記段差部下面との間に形成された微小間隙幅より回転軸線方向に広い拡幅流路が形成され、且つ前記回転軸を通る平面で切った前記拡幅流路の断面積が、前記回転軸に垂直な平面で切った前記連通孔の断面積より広いことを特徴とする流体動圧軸受。
【請求項2】
前記微小間隙と比較した前記拡幅流路の拡大幅は、前記回転軸に垂直な平面で切った前記連通孔の断面積より広いことを特徴とする請求項1に記載の流体動圧軸受。
【請求項3】
前記連通孔は、周方向に複数形成され、
前記拡幅流路は、少なくとも周方向に隣り合う前記連通孔のうち一組を連結するように形成されることを特徴とする請求項1および請求項2のいずれかに記載の流体動圧軸受。
【請求項4】
前記拡幅流路は、径方向に円環状に形成されることを特徴とする請求項1および請求項2のいずれかに記載の流体動圧軸受。
【請求項5】
前記拡幅流路の径方向最外位置となる端縁は、前記連通孔よりも径方向外側に位置することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の流体動圧軸受。
【請求項6】
前記拡幅流路は、前記シャフトの前記連通孔の開口部付近に径方向内方凹部を設けることにより形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の流体動圧軸受。
【請求項7】
前記拡幅流路は、前記スラストプレートの前記連通孔の開口部付近に回転軸方向凹部を設けることにより形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の流体動圧軸受。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の流体動圧軸受と、
前記固定部は、電機子と、前記電機子および前記スリーブを保持するベースと、
前記回転部は、前記シャフトと一体的に回転する回転ハブと、前記回転ハブに固定され、電機子と対向して配置される駆動マグネットと、
を備えることを特徴とするモータ。
【請求項9】
請求項8に記載のモータと、
回転ハブに固定される磁気記録層を有する記録ディスクと、
前記磁気記録層に情報を記録するとともに前記磁気記録層に記録された情報を再生するための磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを前記記録ディスクに対して移動させるための移動手段と、
これらを収容する筐体と、
をさらに備えることを特徴とする記録ディスク駆動装置。
【請求項10】
固定部と、
回転軸を中心として前記固定部に対し回転する回転部と、
前記固定部と前記回転部との間に保持された潤滑流体とを備えた流体動圧軸受であって、
前記回転部または前記固定部の少なくともどちらか一方には潤滑流体を循環させる連通孔が形成され、
前記連通孔の開口部付近には、他の前記固定部と前記回転部との間より広い拡幅流路が形成され、前記拡幅流路の最も狭い部分の断面積は前記潤滑流体が前記連通孔に流れる方向と垂直な平面にて切った断面積よりも大きいことを特徴とする流体動圧軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−153269(P2006−153269A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−312031(P2005−312031)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000232302)日本電産株式会社 (697)
【Fターム(参考)】