説明

動脈特異的及び静脈特異的タンパク質並びにその使用方法

【課題】腫瘍血管新生の進行を阻害する薬物を提供すること。
【解決手段】治療上有効量の、動脈特異的細胞表面分子と静脈特異的細胞表面分子との結合又は相互作用を変化させる薬物を哺乳動物に投与する工程を含む、哺乳動物の血管形成を変化させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動脈特異的細胞表面分子と静脈特異的細胞表面分子との結合又は相互作用を変化させる薬物、動脈特異的細胞表面タンパク質の細胞外ドメインを含有した可溶性ポリペプチド、又は静脈特異的細胞表面タンパク質の細胞外ドメインを含有した可溶性ポリペプチド、およびそれらを使用する方法に関する。
【0002】
関連出願
本件出願は、1998年5月22日に出願された米国特許出願第09/083,546号(放棄された)の一部継続出願である、1998年5月28日に出願された米国特許出願第09/085,820号の一部継続出願である。本件出願は、1998年4月13日に出願された米国特許暫定出願第60/081,757号の利益も主張している。これらの出願のそれぞれの教示は、参照により、全て本明細書に取り込まれる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
血管形成のプロセスは、発生と疾患の両方に必須のものである。循環系は、胚形成の間に発生する最初の器官系であり、発育中の胎児を育てるのに必要なものである。冠状動脈疾患等の循環系の疾患は、現代社会における罹患率及び死亡率の主な原因となっている。従って、血管の増殖を修復し、取り替え、そして促進することは、臨床研究と薬学の発展の主要な目標である。逆に、発生中の腫瘍へ新しい毛細管網状構造が内生増殖することは、癌の進行にとって最も重要なことである。従って、腫瘍血管新生のこの進行を阻害する薬物の開発は、同じ程度に重要な治療目的である。どのようにして動脈と静脈がその性質の異なる独自性を獲得しているのかという問題にはほとんど関心が払われていなかった。事実、多くの人々は、動脈と静脈との間の解剖学的かつ機能的な違いは、血圧、酸素添加及び剪断力等の生理学的な影響を反映しているだけであると決めてかかってきた。どのようにして動脈と静脈がそれぞれの独自性を獲得しているのかというさらなる知識は、研究と臨床環境の両方において貴重なものであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、腫瘍血管新生の進行を阻害する薬物を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明は、
〔1〕治療上有効量の、動脈特異的細胞表面分子と静脈特異的細胞表面分子との結合又は相互作用を変化させる薬物を哺乳動物に投与する工程を含む、哺乳動物の血管形成を変化させる方法、
〔2〕動脈特異的細胞表面分子が動脈特異的なリガンド又はレセプターであり、かつ静脈特異的細胞表面分子が静脈特異的なレセプター又はリガンドである、〔1〕記載の方法、
〔3〕動脈特異的細胞表面分子がEphrinファミリーリガンドであり、かつ静脈特異的細胞表面分子がEphファミリーレセプターである、〔1〕記載の方法、
〔4〕血管形成が阻害され、かつ薬物が動脈特異的Ephrinファミリーリガンドと静脈特異的Ephファミリーレセプターとの結合又は相互作用を妨げる、〔3〕記載の方法、
〔5〕血管形成が増強され、かつ薬物が動脈特異的Ephrinファミリーリガンドとその静脈特異的Ephファミリーレセプターとの結合又は相互作用を増強する、〔3〕記載の方法、
〔6〕薬物が、動脈特異的Ephrinファミリーリガンドのアンタゴニスト又は静脈特異的Ephファミリーレセプターのアンタゴニストである、〔3〕記載の方法、
〔7〕動脈特異的EphrinファミリーリガンドがEphrinB2であり、かつ静脈特異的EphファミリーレセプターがEphB4である、〔3〕記載の方法、
〔8〕(a)薬物、及び
(b)動脈特異的細胞表面分子を結合する成分
を含有した複合体を、(b)成分が動脈特異的細胞表面分子を結合するのに適した条件下で哺乳動物に投与し、それにより該薬物を動脈に送達する工程を含む、哺乳動物の動脈に薬物を選択的に送達する方法、
〔9〕動脈特異的細胞表面分子がリガンド又はレセプターである、〔8〕記載の方法、
〔10〕動脈特異的細胞表面分子がEphrinファミリーリガンドである、〔8〕記載の方法、
〔11〕薬物が抗血管形成剤であり、かつ(b)成分が動脈特異的Ephrinファミリーリガンドに特異的な抗体、又は動脈特異的Ephrinファミリーリガンドのレセプターである、〔10〕記載の方法、
〔12〕動脈特異的EphrinファミリーリガンドがEphrinB2である、〔10〕記載の方法、
〔13〕薬物が抗血管形成剤である、〔12〕記載の方法、
〔14〕薬物が血管形成剤である、〔12〕記載の方法、
〔15〕薬物がアテローム性動脈硬化班の形成を阻害する、〔12〕記載の方法、
〔16〕(a)薬物、及び
(b)静脈特異的細胞表面分子を結合する成分
を含有した複合体を、(b)成分が静脈特異的細胞表面分子を結合するのに適した条件下で哺乳動物に投与し、それにより該薬物を静脈に送達する工程を含む、哺乳動物の静脈に薬物を選択的に送達する方法、
〔17〕静脈特異的細胞表面分子がレセプター又はリガンドである、〔16〕記載の方法、
〔18〕静脈特異的細胞表面分子が静脈特異的Ephファミリーレセプターである、〔16〕記載の方法、
〔19〕薬物が抗血管形成剤であり、かつ(b)成分が静脈特異的Ephファミリーレセプターに特異的な抗体、又は静脈特異的Ephファミリーレセプターのリガンドである、〔18〕記載の方法、
〔20〕静脈特異的EphファミリーレセプターがEphB4である、〔18〕記載の方法、
〔21〕薬物が抗血管形成剤である、〔20〕記載の方法、
〔22〕薬物が血管形成剤である、〔20〕記載の方法、
〔23〕動脈細胞で検出可能に発現されるが、静脈細胞では検出可能に発現されない指示遺伝子を有してなるトランスジェニックマウス、
〔24〕指示遺伝子が動脈特異的Ephrinファミリーリガンド遺伝子に挿入された、〔23〕記載のマウス、
〔25〕遺伝子型がEphrinB2+/- のトランスジェニックマウス、
〔26〕EphrinB2遺伝子が全ての動脈を標識するが、静脈を標識しない挿入物を含有してなる、トランスジェニックマウス、
〔27〕遺伝子型がEphrinB2taulacZ/+ のトランスジェニックマウス、
〔28〕指示遺伝子の発現の検出に適した物質でマウスのセクションを染色する工程を含む、1以上のEphrinB2対立遺伝子に挿入された指示遺伝子を有するマウスにおける動脈細胞の同定方法、
〔29〕静脈内皮細胞で発現されるが、動脈内皮細胞では発現されない指示遺伝子を有してなるトランスジェニックマウス、
〔30〕指示遺伝子が静脈特異的Ephファミリーレセプター遺伝子に挿入されている、〔29〕記載のマウス、
〔31〕静脈特異的Ephファミリーレセプター遺伝子がEphB4をコードする、〔30〕記載のトランスジェニックマウス、
〔32〕遺伝子型がEphB4+/- のトランスジェニックマウス、
〔33〕指示遺伝子の発現の検出に適した物質でマウスのセクションを染色する工程を含む、1以上のEphB4対立遺伝子に挿入された指示遺伝子を有するマウスにおける静脈細胞の同定方法、
〔34〕動脈で特異的に発現される遺伝子に挿入された指示遺伝子を有するマウスに薬物を投与する工程、薬物の作用を観察する工程、及び適切な対照マウスで呈示されたものと作用を比較する工程を含む、動脈の増殖に対する薬物の作用の試験方法、
〔35〕静脈で特異的に発現される遺伝子に挿入された指示遺伝子を有するマウスに薬物を投与する工程、薬物の作用を観察する工程、及び適切な対照マウスで呈示されたものと作用を比較する工程を含む、静脈の増殖に対する薬物の作用の試験方法、
〔36〕EphrinB2に結合する分子であって、標識に結合されている分子に組織試料を接触させる工程、及び標識を検出する工程を含み、ここで該標識が細胞で検出されれば、該細胞は動脈細胞である、哺乳動物由来の組織試料中の動脈細胞の同定方法、
〔37〕分子が抗体である、〔36〕記載の方法、
〔38〕EphB4に結合する分子であって、標識に結合されている分子に組織試料を接触させる工程、及び標識を検出する工程を含み、ここで該標識が細胞で検出されれば、該細胞は静脈内皮細胞である、組織試料中の静脈内皮細胞の同定方法、
〔39〕分子が抗体である、〔38〕記載の方法、
〔40〕EphrinB2を結合する部分に結合された物質を含有した複合体を哺乳動物に投与する工程を含む、哺乳動物の動脈へ物質を導入する方法、
〔41〕EphB4を結合する部分に結合された物質を含有した複合体を哺乳動物に投与する工程を含む、哺乳動物の静脈へ物質を導入する方法、
〔42〕動脈特異的細胞表面タンパク質の細胞外ドメインを含有した可溶性ポリペプチド、又は静脈特異的細胞表面タンパク質の細胞外ドメインを含有した可溶性ポリペプチドを哺乳動物に投与する工程を含む、哺乳動物における血管の発生を変化させる方法、
〔43〕動脈特異的細胞表面タンパク質がEphrinファミリーリガンドであり、かつ静脈特異的細胞表面タンパク質がEphファミリーレセプターである、〔42〕記載の方法、
〔44〕EphrinファミリーリガンドがEphrinB2であり、かつEphファミリーレセプターがEphB4である、〔43〕記載の方法、
〔45〕(a)(1)動脈細胞特異的表面分子、
(2)静脈細胞特異的表面分子、及び
(3)(1)の分子と(2)の分子との間の相互作用に適した条件下で、(1)の分子と(2)の分子との間の相互作用を阻害する能力の評価対象の薬物
を混合する工程、
(b)(1)の分子と(2)の分子とが相互作用する度合いを決定する工程、並びに
(c)(b)で決定した度合いを、(1)の分子と(2)の分子との相互作用が、評価対象の薬物の非存在下で、かつ(1)の分子と(2)の分子との相互作用に適した同じ条件下で発生する度合いと比較する工程
を含み、(1)の分子と(2)の分子との相互作用が薬物の非存在下よりも薬物の存在下の方が度合いが小さい場合、薬物が(1)の動脈細胞特異的分子と(2)の静脈細胞特異的分子との相互作用を阻害するものである、動脈細胞特異的表面分子と静脈細胞特異的表面分子との相互作用を阻害する薬物の同定方法、
〔46〕動脈細胞特異的表面分子がEphrinファミリーリガンドであり、かつ静脈細胞特異的表面分子がEphファミリーレセプターである、〔45〕記載の方法、
〔47〕EphrinファミリーリガンドがEphrinB2であり、かつEphファミリーレセプターがEphB4である、〔46〕記載の方法、
〔48〕(a)(1)動脈細胞特異的表面分子、
(2)静脈細胞特異的表面分子、及び
(3)(1)の分子と(2)の分子との間の相互作用に適した条件下で、(1)の分子と(2)の分子との間の相互作用を阻害する能力の評価対象の薬物
を混合する工程、
(b)(1)の分子と(2)の分子とが相互作用する度合いを決定する工程、並びに
(c)(b)で決定した度合いを、(1)の分子と(2)の分子との相互作用が評価対象の薬物の非存在下で、かつ(1)の分子と(2)の分子との相互作用に適した同じ条件下で発生する度合いと比較する工程
を含み、(1)の分子と(2)の分子との相互作用が薬物の非存在下よりも薬物の存在下の方が度合いが大きい場合、薬物が(1)の動脈細胞特異的分子と(2)の静脈細胞特異的分子との相互作用を増強するものである、動脈細胞特異的表面分子と静脈細胞特異的表面分子との相互作用を増強する薬物の同定方法、
〔49〕動脈細胞特異的表面分子がEphrinファミリーリガンドであり、かつ静脈細胞特異的表面分子がEphファミリーレセプターである、〔48〕記載の方法、
〔50〕EphrinファミリーリガンドがEphrinB2であり、かつEphファミリーレセプターがEphB4である、〔49〕記載の方法、
〔51〕動脈内皮細胞を含有した組織試料の細胞を分離する工程、分離した細胞と、動脈内皮細胞で特異的に発現される細胞表面タンパク質に結合する物質とを接触させる工程、及び該物質を結合した細胞と物質を結合しなかった細胞とを分離する工程を含む、動脈内皮細胞の単離方法、
〔52〕動脈内皮細胞を含有した組織試料の細胞を分離する工程、該細胞と、動脈内皮細胞で特異的に発現される細胞表面タンパク質に結合する物質であって、固体の支持体に結合されている物質とを接触させる工程、物質に結合しない細胞を除去する工程、並びに固体の支持体から動脈内皮細胞を放出させる工程を含む、動脈内皮細胞の単離方法、
〔53〕静脈内皮細胞を含有した組織試料の細胞を分離する工程、分離した細胞と、静脈内皮細胞で特異的に発現される細胞表面タンパク質に結合する物質とを接触させる工程、及び該物質を結合した細胞と物質を結合しなかった細胞とを分離する工程を含む、静脈内皮細胞の単離方法、
〔54〕静脈内皮細胞を含有した組織試料の細胞を分離する工程、組織試料の細胞と、静脈内皮細胞で特異的に発現される細胞表面タンパク質に結合する物質であって、固体の支持体に結合されている物質とを接触させる工程、物質に結合しない細胞を除去する工程、並びに固体の支持体から静脈内皮細胞を放出させる工程を含む、動脈内皮細胞の単離方法、
〔55〕単離された動脈内皮細胞、
〔56〕単離された静脈内皮細胞、
〔57〕単離された動脈細胞に1以上の薬物を添加する工程、及び作用について細胞を観察する工程を含む、動脈に対する1以上の薬物の作用の評価方法、
〔58〕細胞が内皮細胞である、〔57〕記載の方法、
〔59〕単離された静脈内皮細胞に1以上の薬物を添加する工程、及び作用について細胞を観察する工程を含む、静脈に対する1以上の薬物の作用の評価方法、
〔60〕動脈内皮細胞由来の細胞株、
〔61〕静脈内皮細胞由来の細胞株、
〔62〕動脈で検出可能に産生されるが、静脈で検出可能に産生されないタンパク質を産生する細胞株、
〔63〕静脈で検出可能に産生されるが、動脈で検出可能に産生されないタンパク質を産生する細胞株、
〔64〕単離された動脈内皮細胞から作製されたcDNAライブラリー、
〔65〕単離された静脈内皮細胞から作製されたcDNAライブラリー、
〔66〕示差的な発現についての試験対象の遺伝子に指示挿入遺伝子を有するトランスジェニックマウスを作製する工程、及び指示挿入遺伝子の発現を観察する工程を含み、静脈内皮細胞及び動脈内皮細胞での指示挿入遺伝子の発現の違いが、示差的な発現を示す遺伝子を表すものである、動脈内皮細胞に比べて静脈内皮細胞において示差的な発現を示す遺伝子の同定方法、
〔67〕単離された動脈内皮細胞を遺伝学的に変化させる工程、及び変化させた細胞を哺乳動物に導入する工程を含む、哺乳動物における動脈の改変方法、
〔68〕単離された静脈内皮細胞を遺伝学的に変化させる工程、及び変化させた細胞を哺乳動物に導入する工程を含む、哺乳動物における静脈の改変方法、
〔69〕動脈特異的細胞表面分子と静脈特異的細胞表面分子との結合又は相互作用を変化させる治療上有効量の薬物を哺乳動物に投与する工程を含む、哺乳動物の腫瘍における血管新生を変化させる方法、
〔70〕血管新生が阻害され、かつ薬物が動脈特異的細胞表面分子と静脈特異的細胞表面分子との結合又は相互作用を妨げる、〔69〕記載の方法、
〔71〕動脈特異的細胞表面分子がEphrinファミリーリガンドであり、かつ静脈特異的細胞表面分子がEphファミリーレセプターである、〔70〕記載の方法、
〔72〕EphrinファミリーリガンドがEphrinB2であり、かつEphファミリーレセプターがEphB4である、〔71〕記載の方法、
〔73〕EphrinB2に結合する薬物を哺乳動物に投与する工程を含む、哺乳動物における血管形成の阻害方法、
〔74〕a)動脈内皮細胞を単離する工程、
b)単離された細胞からcDNAを作製する工程、
c)cDNAからcDNAライブラリーを作製する工程、
d)単離された動脈内皮細胞から作製されたcDNAライブラリープローブ、及び単離された静脈内皮細胞から作製されたcDNAライブラリープローブを用いてDNAハイブリダイゼーションにより、ライブラリーをスクリーニングする工程、並びに
e)単離された動脈内皮細胞から作製されたプローブへの示差的なハイブリダイゼーションにより動脈特異的遺伝子を含むクローンを同定する工程
からなる、動脈特異的遺伝子を含むクローンの同定方法、
〔75〕EphrinB2の細胞外ドメインに結合する抗体、
〔76〕EphB4の細胞外ドメインに結合する抗体
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、腫瘍血管新生の進行を阻害する薬物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】Figure 1Aは、Exon−1構造を示すEphrinB2遺伝子の野生型遺伝子座の図である。黒塗りのボックスは、5’非翻訳領域を示す。網目がついたボックスはATGで開始し、シグナル配列を含む。H=HindIII;X=XbaI;N=NcoI;E=EcoRI。 Figure 1Bは、EphrinB2遺伝子を破壊するのに使用されるターゲティングベクターの図である。 Figure 1Cは、変異EphrinB2遺伝子座を示す概略説明図である。
【図2】Figure 2は、ハムスター抗−ephrin−B2ハイブリドーマ上清の存在下でのGPI−ephrin−B2へのEphB2Fcの結合活性を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
発明の要約
本発明は、動脈細胞(動脈内皮細胞)のタンパク質発現であって、かつ静脈細胞では生じないタンパク質発現に基づき、動脈細胞(動脈内皮細胞を含む)と静脈細胞とを区別する方法、並びに研究及び臨床環境に有用なものを含み、2つの細胞型の間で発現が異なることに基づく、広く多様な工程、方法及び物質の組成物に関する。本明細書に記載されているように、動脈内皮細胞(動脈)と静脈内皮細胞(静脈)との間に分子的な違いがあり、動脈内皮細胞と静脈内皮細胞は、特に各細胞型を同定し、分離し、標的にし、操作し、又は他の状態に進行させる(他から分離される)ことに使用できる分子マーカーを産することが示されている。結果として、動脈と静脈は、今では互いに区別することができ、動脈と静脈を構成する細胞型を、個々に又は別々に、研究、診断及び治療目的のために、他の遺伝分子学的な違い又は機能的な違いについて評価して標的にし、操作し、又は他の状態に進行することができる。
【0009】
本発明は、動脈細胞を静脈細胞と区別し分離する方法、さらに詳しくは、動脈内皮細胞を静脈内皮細胞とそれぞれの分子マーカーに基づいて区別し分離する方法;薬物又は薬剤を動脈又は静脈に選択的にターゲティングし或いは送達する方法;動脈特異的な又は静脈特異的な分子マーカーの機能若しくはそれらの間の相互作用を変化させる(増強又は阻害する、ここで、「阻害する」とは、部分的又は完全に阻害することを含む)方法(従って、効果を増強又は阻害することで、かかる機能又は相互作用が動脈内皮細胞又は静脈内皮細胞に生じる);並びに動脈細胞(より詳しくは、動脈内皮細胞)又は静脈細胞(より詳しくは、静脈内皮細胞)に選択的に作用する薬物についてスクリーニングする方法に関する。
【0010】
本発明は、動脈細胞分子マーカー又は静脈細胞分子マーカーをコードする遺伝子が、物理的に又は機能的に改変されたトランスジェニックマウス等のトランスジェニック非ヒト哺乳動物、及び特に動脈又は静脈のいずれかを明視化し、改変された分子マーカーの機能を評価し、そしてその機能に影響を与える(増強又は阻害する)薬物を同定するための「指示マウス(indicator mice) 」としてのそれらの使用にも関する。さらに、動脈細胞特異的マーカー又は静脈細胞特異的マーカーを結合する抗体;動脈細胞特異的マーカー又は静脈細胞特異的マーカーをそれぞれ含有し、発現することによって動脈又は静脈を標的とするウイルス又は他のベクター;さらなる動脈特異的又は静脈特異的遺伝子についてスクリーニング対象のライブラリーを調製するのに有用なcDNA、並びに単離された動脈内皮細胞由来、静脈内皮細胞由来、又は本発明のトランスジェニック動物(例えば、マウス)由来の不死化細胞株に関する。
【0011】
動脈細胞又は静脈細胞に対する分子マーカーは、これらの細胞型のうちの一方で発現され、他方で発現されないあらゆる遺伝子産物(タンパク質又はRNA又はその組み合わせ)である。かかるマーカーは、動脈内皮細胞特異的(動脈特異的)な又は静脈内皮細胞特異的(静脈特異的)な産物又はタンパク質であり得る。特定の態様においては、これらは、それぞれ動脈内皮細胞特異的(動脈特異的)リガンド及び静脈内皮細胞特異的(静脈特異的レセプターと呼ばれ得る。かかる分子マーカーは、動脈又は静脈内皮細胞に加えて細胞型で発現され得るが、動脈及び静脈内皮細胞の両方で発現されない。分子マーカーには、例えば、mRNA、リガンド−レセプター対のメンバー、及び接着タンパク質、転写因子又は両方の細胞型で発現されない抗原等の他のタンパク質が含まれ得る。一つの態様において、前記分子マーカーは、動脈又は静脈に作用する増殖因子に対するレセプターである膜レセプターである。他の態様において、前記分子マーカーは、動脈又は静脈内皮細胞で発現されるが、両方では発現されない内皮細胞表面リガンド−レセプター対のメンバーである。例えば、本明細書で詳細に記載しているように、Ephrinファミリーのリガンドのメンバー及びそのレセプターであるEphファミリーのレセプターのメンバーは、それぞれ動脈内皮細胞及び静脈内皮細胞に対する分子マーカーであり、2つの細胞型を区別するのに有用なものである。動脈内皮細胞で発現されるが、静脈内皮細胞では発現されない任意のEphrinファミリーリガンドと、動脈内皮細胞特異的リガンドを結合する静脈内皮細胞特異的Ephファミリーレセプターとを使用して、動脈と静脈とを区別することができる。
【0012】
一つの態様において、本発明は、動脈内皮細胞がEphrinファミリーリガンドを発現し、静脈内皮細胞が動脈内皮細胞で発現されるEphrinファミリーリガンドのレセプターであるEphファミリーレセプターを発現するという知見;動脈細胞(動脈)と静脈細胞(静脈)とを区別又は分離する方法;薬物又は薬剤を動脈又は静脈に選択的に標的にし送達する方法;Ephrinファミリーリガンド同種Ephファミリーレセプター対のメンバーの少なくとも一つと該方法に有用な薬物の活性を変化する(増加、低減又は延長する)等により、腫瘍における血管新生を含む血管形成を増強又は阻害する方法;並びに動脈又は静脈に選択的に作用する薬物についてスクリーニングする方法に関連している。
【0013】
さらに、動脈に印を付けるが静脈に印を付けない、tau−lacZ(tlacZ)挿入物を含むEphrinB2ノックアウトマウス、又はレポーター構築物(例えば、lacZ又はアルカリホスファターゼ遺伝子)をEphB4遺伝子座に含むEphB4ノックアウトマウス等の、Ephrinファミリーリガンドをコードする改変遺伝子又はEphファミリーレセプターをコードする改変遺伝子を有する、トランスジェニックマウス等のトランスジェニック非ヒト哺乳動物、これらのマウスを「指示マウス」として使用して血管形成プロセス(例えば、腫瘍血管新生及び虚血関連心臓新生血管形成)を明確にし、可視化する、又はインビボで動脈又は静脈における血管形成的な又は抗血管形成的な作用について薬物をスクリーニングする方法;並びにトランスジェニックマウス由来の、不死化細胞等の細胞に関連する。本発明は、動脈特異的Ephrinファミリーレセプターを結合する抗体(例えば、EprhinB2を結合する抗体);静脈特異的Ephファミリーレセプターを結合する抗体(例えば、EphB4を結合する抗体);Ephrinファミリーリガンド(例えば、EphrinB2)又はEphファミリーレセプター(例えば、EphB4)をそれぞれコードするDNAを含み、発現することにより、脈管特異的遺伝子治療について動脈又は静脈を標的にするウイルス又は他のベクター;追加の動脈特異的又は静脈特異的遺伝子についてスクリーニング対象のライブラリーを調製するのに有用なcDNA(その遺伝子産物は、順番に、動脈特異的又は静脈特異的薬物標的となりうる)、及び単離された動脈もしくは静脈内皮細胞、それら由来の不死化細胞株、又はこれらの細胞から形成された人工血管の移植により、ダメージを受けた動脈又は静脈を修復又は取り替える方法にも関連する。
【0014】
本明細書に記載され、当業者に公知であるように、Ephrinファミリーリガンドは2つのサブクラス(EphrinAとEphrinB)に分類され、Ephファミリーレセプターは2つのグループ(EphAとEphB)に分類される。また、公知のように、各サブクラス又はグループ内で、個々のメンバーはアラビア数字で示される。本発明は、具体的にEphrinB2とEphB4に関して明細書に記載されている。しかしながら、同様の動脈特異的な及び静脈特異的な発現を示す他のEphrinファミリーリガンド−Ephファミリーレセプター対とそれらの使用も本発明の対象である。同様の動脈特異的及び静脈特異的対は、当業者に公知の方法によって同定することができる。
【0015】
発明の詳細な説明
本明細書に記載されるように、動脈及び静脈は、胚発生の初期段階から遺伝学的に区別され、動脈と静脈との間の相互の(reciprocal)相互作用が正しい脈管形成に必須であることが示されている。この知見は、胚脈管構造の基礎個体発生解剖学についてのわれわれの考え方を劇的に変えるだけでなく、動脈内皮細胞と静脈内皮細胞とを物理的かつ機能的に区別するための手段をも提供する。結果として、2つの細胞型を互いに分離する手段;他の動脈特異的又は静脈特異的遺伝子を同定する手段;動脈又は静脈に対する薬物又は他の薬剤の選択的な作用を評価し、かくして、動脈特異的又は静脈特異的であるものを同定する手段;並びにそれぞれの細胞型に物質を選択的に送達又は標的とする手段も利用できる。さらに、本明細書に記載された研究は、脈管形成及び血管形成を調節(増強又は阻害)する或いは制御を可能にし、必要とあれば、動脈特異的又は静脈特異的な方法でそのようにすること可能にしている。
【0016】
実施例に記載されているように、神経系及び血管系に存在する細胞膜関連リガンドをコードする遺伝子は成体マウスにおいて動脈内皮細胞で発現され、静脈内皮細胞では発現されないことが示されている。さらに、該リガンドのレセプターをコードする遺伝子は、静脈内皮細胞で発現されるが、動脈細胞では発現されないことが示されている。従って、初め、動脈内皮細胞で見られるマーカー(動脈特異的マーカー)と静脈内皮細胞(静脈特異的)マーカーが利用可能であり、血管形成機構のさらなる研究や理解;動脈又は静脈に対する処置又は治療の選択的ターゲティング(動脈をターゲティングするが逆に静脈をターゲティングしない)並びに動脈及び/又は静脈の形成、増殖及び生存の選択的調節(増強又は阻害)等の様々な目的のために動脈と静脈を区別することを可能にしている。
【0017】
さらに、実施例にある研究は、動脈と静脈との間の相互のシグナル伝達が管形態形成(動脈と静脈の発生/形成)に非常に重要であることを示す。記載されているように、マウスにおけるリガンドをコードする遺伝子の欠失は、動脈と静脈の両方の血管の正確な発生を妨げた。リガンドは、動脈に存在する(が、静脈に存在しない)ため、静脈欠損の発生は、静脈が管形態発生について動脈からのシグナルを必要としている証拠である。逆に、動脈は変異マウスでも欠損しているため、リガンドは、静脈にシグナル伝達する役割に加えて、動脈細胞自身に機能を有する。動脈内皮細胞に存在するリガンドが膜貫通構造であるという事実を考慮すると、静脈からの相互のシグナルを受けとり、そのシグナルを動脈細胞に変換するように機能するようである。
【0018】
特に、Ephファミリーレセプター相互作用タンパク質のEphrinファミリーのメンバーであるリガンド(膜貫通リガンドのEphファミリー)は、動脈内皮細胞で発現されるが、静脈内皮細胞で発現されないことが示されている。従って、今ではEphrinファミリーリガンドとレセプター型プロテインチロシンキナーゼのEphファミリーのメンバーであるそのレセプターの存在又は非存在に基づいて、動脈と静脈とを区別又は標的にすることが可能である。本明細書に記載されているように、動脈内皮細胞は、EphrinB2を発現することが示され、静脈内皮細胞はEphrinB2レセプターであるEphB4を発現するこが示されている。EphrinB2は静脈内皮細胞で発現されず、EphB4は動脈内皮細胞で発現されないので、2つ細胞型を同定又は区別することができる手段、及びそれにより、動脈内皮細胞と静脈動脈細胞が、例えば、お互いに分離され得、選択的にターゲティングされ又は選択的な様式(例えば、他方を排除して一方の細胞型に作用する薬物又は薬剤により)で作用され得る方法を提供する。例えば、EphrinB2に又はその細胞外ドメインに結合する抗体は、蛍光標識したり、細胞の混合物に結合させることができ、次いで、これらを蛍光活性化セルソーティングに供して混合物から動脈の細胞を選択する。
【0019】
本明細書、特に実施例に記載した研究は、EphrinB2及びEphB4に関連している。しかしながら、いかなるEphrin/Ephファミリー由来のリガンド−レセプター対、いかなる他のリガンド−レセプター対又は1つの細胞型で産生され、もう1つでは産生されないいかなる遺伝子産物(例えば、Ephrinリガンドは動脈内皮細胞で発現されるが、静脈内皮細胞では発現されず、Ephレセプターは静脈内皮細胞で発現されるが、動脈内皮細胞で発現されない)をも使用して、動脈内皮細胞と静脈内皮細胞とを区別又は同定し、従って、選択的に作用することができる。
【0020】
ephrin(リガンド)には2つの構造型があり、それは配列関係に基づいてさらに分類することができ、機能的には優先的な結合に基づき、それらが2つの類似のレセプターサブグループを示す。構造的には、2つの型のephrinがある:グリセロホスファチジルイノシトール(GPI)結合で膜固定されたものと膜貫通ドメインを経て固定されたもの。慣習的には、リガンドが、EphAレセプターに優先的に結合するGPI結合タンパク質であるEphrin−Aサブクラス、と通常、EphBレセプターに優先的に結合する膜貫通タンパク質であるephrinBサブクラスとに分類される。
【0021】
Ephファミリーレセプターは、エリトロポエチン産生ヒト肝細胞性癌細胞株での発現について名付けられたレセプター、Ephに関連するレセプター型プロテインチロシンキナーゼのファミリーである。それらはその細胞外ドメイン配列との関連及びephrinAタンパク質又はephrinBタンパク質に優先的に結合する能力に基づいて2つのサブグループに分類される。ephrinAタンパク質と優先的に相互作用するレセプターはEphAレセプターであり、ephrinBタンパク質と優先的に相互作用するレセプターはEphBレセプターである。
【0022】
本明細書で使用されているように、EphrinとEphという用語は、それぞれリガンドとレセプターを示すように使用されている。それらは、様々な動物(例えば、哺乳動物/非哺乳動物、ヒトを含む脊椎動物/非脊椎動物)由来ものであり得る。当該分野の名称は急速に変わってきており、本明細書で使用される用語は、Ephノーメンクラッチャー・コミッティー(Eph Nomenclature Committee) による研究の結果として提案されているものであり、これはウェブサイトhttp://www.eph-nomenclature.com.で以前から使用されている名称に加えて、アクセスすることができる。便宜上、ephレセプターとそのそれぞれのリガンドを表に挙げる。
【0023】
【表1】

【0024】
本明細書に記載された研究は、下記に論じられる多くのリサーチ及び臨床適用がある。
【0025】
本明細書で用いられるように、トランスジェニックマウスは、ヒトの操作により、いくつか又は全てのその有核細胞のゲノムに取り込まれた、該マウス又は少なくとも1種のその祖先に導入されている遺伝子改変を有するものである。トランスジェニックマウスは、例えば、妊娠マウス卵へのDNAの導入又は胚性幹細胞へのDNAの導入によりもたらされる。
【0026】
本発明の1つの態様は、その特定の遺伝子型のため、静脈細胞にのみ又は動脈細胞にのみにおいて、例えば、RNAのインサイチューハイブリダイゼーションにより、蛍光により、酵素活性の検出により、又は抗体結合と、結合した抗体の検出系とによる遺伝子産物の検出により、そのRNA転写物又はポリペプチド遺伝子産物が検出されうる遺伝子を発現するトランスジェニックマウスである。
【0027】
本発明の特定の態様は、遺伝子型EphrinB2+/- のトランスジェニックマウスであり、ここで、「マイナス」対立遺伝子は、天然由来の対立遺伝子が、欠失、改変又は指示遺伝子の挿入を有しうる変異対立遺伝子を含む変異対立遺伝子で置換された対立遺伝子を示す。かかる「マイナス」対立遺伝子は、野生型、改変又は非リガンド機能を有するEphrinB2リガンドをコードしうる。遺伝子型EphrinB2+/tlacZ のマウスは、実施例1に記載されるように生産されており、動脈内皮細胞と静脈内皮細胞とが発生の初期段階から遺伝学的に異なること及び血管の2つのタイプ間に、正しい毛細血管床形成に必要な相互の相互作用が生じることを示すのに用いられた。同じ表現型のトランスジェニックマウスは、当業者に公知の他の方法により生産されうる。かかる方法は、例として、EphrinB2を用いて下記に示されるが、他のいかなる静脈又は動脈特異的遺伝子に対しても用いられうる。
【0028】
例えば、前記EphrinB2遺伝子に挿入、欠失又は1以上の点変異を保持したベクターも産生できる。EphrinB2トランスジーンは、ワグナー(Wagner)ら、米国特許第4,873,191号明細書(1989)の方法により妊娠卵にトランスジーンを導入すること又は胚性幹(ES)細胞にトランスジーンを導入すること〔例えば、キャペッチ(Capecchi,M.R.)、Science 244:1288−1292、1989〕又は他の方法により、突然変異を起こしたEphrinB2対立遺伝子を保持したベクターを介してゲノムに導入され得る。
【0029】
トランスジェニックノックアウトマウスを構築するのに用いられるDNAの挿入は、そのなかに、その宿主細胞にG418に対する耐性を付与するneoなどのその存在がただちに試験され得る遺伝子、を有しうる。それは、EphrinB2+/- 指示マウス(例えば、EphrinB2プロモーターの制御下に、マウスにより内因的に発現しないいかなる遺伝子でもありうる指示遺伝子を発現しうるEphrinB2+/taulacz の利点である。特に有利な指示遺伝子は、EphrinB2発現の検出をしやすくするものであり、恐らく、例えば、その固有の吸光性質、発色産物を生じる基質に作用するその能力又はそれ自体が検出可能である指示物又は色素に結合する能力によって、検出可能な遺伝子産物の生産により、野生型対立遺伝子に生じるものであろう。
【0030】
さらに、別法は、例えば、酵母の(loxP部位に作用する)Cre又は(FRT部位に作用する)FLP1などの部位特異的レコンビナーゼにより、静脈又は動脈において特異的に発現した遺伝子(すなわち、静脈特異的又は動脈特異的遺伝子)の条件付けノックアウト又は組織特異的ノックアウトを産生するのに利用できる。
【0031】
バクテリオファージP1 Cre−loxP組換え系は、ES細胞及びトランスジェニックマウスの両方におけるloxP部位特異的組換えを媒介することができる。部位特異的レコンビナーゼCreは、予め確立された細胞系において、又は発生のある段階でも用いられうる。例えば、T細胞からDNAポリメラーゼβ遺伝子セグメントを欠失させた、グ(Gu,H)ら、Science 265:103−106、1994を参照のこと;Cre/loxP組換えが、マウス前頭部における細胞に限定されたツァィエン(Tsien,J.Z.)ら、Cell 87:1317−1326、1996も参照のこと)。ついで、これらの細胞における変異の影響を解析する。
【0032】
Creレコンビナーゼは、34bpのloxP認識配列〔ザウワー(Sauer,B)及びヘンダーソン(Henderson,N)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5166−5170、1988〕間の組換えを触媒する。loxP配列は、〔「フロックス(floxed)」遺伝子をつくる〕目的の遺伝子の1以上のエキソンに隣接するように相同組換えにより胚性幹細胞のゲノムに挿入される。前記挿入が、遺伝子の正常発現を妨害しないことが非常に重要である。フロックス遺伝子についてマウス同型接合体は、慣用の技術により、これらの胚性幹細胞から産生され、組織型又は細胞型特異的転写プロモーターの制御下に、Creトランスジーンを保持する第2世代マウスと交配させる。フロックス遺伝子について同型であり、Creトランスジーンを保持する子孫において、Cre遺伝子関連プロモーターが活性なこれらの細胞型においてのみ、フロックス遺伝子はCre/loxP組換えにより欠失されるであろう。
【0033】
静脈特異的又は動脈特異的遺伝子における変異により引き起こされた表現型を模擬する効果を有するように作用するタンパク質をコードした遺伝子も、静脈特異的又は動脈特異的遺伝子におけるノックアウトと同様の効果を達成するのに用いられうる。
【0034】
レセプターへのリガンドの結合を妨げるか、又はかかる結合の機能重要性を妨げ、それにより静脈又は動脈特異的遺伝子ノックアウト(例えば、ドミナントネガティブ変異体)の表現型を複製する産物をコードする遺伝子における変異がノックアウトへの別法として用いられうる。変異遺伝子は、その機能が阻害されるべきものである組織特異的遺伝子産物に依存して、静脈又は動脈において発現させるべき組織特異的プロモーターの制御下に置かれうる。
【0035】
さらに、誘導に際して、遺伝子機能の阻害効果を研究することができるように、動脈特異的又は静脈特異的遺伝子の1以上のドミナントネガティブ対立遺伝子が誘導可能なプロモーターの制御下に置かれうる。ドミナントネガティブ変異体は、変異導入及びトランスジェニックマウスを作製する方法により単離又は構築されうる。
【0036】
所望の変異体又は野生型対立遺伝子を同定するための試験又は他の対立遺伝子を同定するための試験は、適切なプライマーを用いて、単離ゲノムDNAでのPCR、又は適切なハイブリダイゼーションプローブを用いたサザンブロット、これらの手法の組み合わせ、又は他の方法により行なわれうる。
【0037】
本明細書の実施例に記載された指示マウスの使用に加えて、動脈細胞にしるしづけすることができる指示遺伝子を有するマウスの使用の1つは、動脈の増殖における薬物の作用を試験する方法である。前記方法は、動脈に特異的に発現される遺伝子に挿入された指示遺伝子を有するマウス(例えば、胚、新生児、未成熟個体、成体、任意の祖先における創傷箇所、腫瘍、虚血病変又は動静脈形成異常)に薬物を投与すること、及び指示遺伝子を有し、該薬物で処理されてないが同一の条件下に維持された適切な対照マウスにおける作用に比較して、動脈の増殖における該薬物の作用を観察することを含みうる。静脈細胞をしるしづけする指示遺伝子を有する指示マウスにおいて、類似の試験を行なってもよい。前記薬物の作用は、例えば、増殖を促進すること、増殖を阻害すること又は異常増殖を促進することでありうる。薬物の投与は、当業者に公知のいかなる適切な経路でもあり得る。
【0038】
動脈細胞に特異的に発現する遺伝子に挿入された指示遺伝子を有する指示マウスは、血管の増殖及び発生におけるその作用を試験するべきものである遺伝子における変異を保持する他の株のマウスと交配させ、動脈細胞に特異的な変異の作用の容易な可視化を可能にする。前記記載のものに類似した試験において、薬物の作用は、この交配の型から生じたマウスにおいて、例えば、変異の作用が、該薬物により軽減されうるかどうかを見るために、評価されうる。同様に、静脈細胞に特異的に発現する遺伝子に挿入された指示遺伝子を有する指示マウスが、静脈の増殖におけるその作用が評価対象である変異を有するマウスと交配するのに用いられ得、得られたハイブリッドは静脈の増殖の研究に用いられる。
【0039】
本明細書に記載された研究の結果、細胞表面の動脈特異的又は静脈特異的遺伝子産物の存在を利用することにより、動脈内皮細胞(動脈)及び静脈内皮細胞(静脈)の間を区別することができる。動脈内皮細胞と静脈内皮細胞とは、例えば、哺乳動物組織試料から動脈又は静脈組織を除くこと、物質に結合していない細胞から該物質に結合した細胞を分離することを容易にするある性質又は特性(例えば、標識又はタグを与える分子、又は動脈特異的細胞表面タンパク質及び他の型の分子の両方に親和性を有する分子)を有する物質に細胞を適切な条件下に結合させうる細胞を解離することにより、他の組織型の細胞からそれぞれ単離することができる。細胞の分離は、結合した物質の性質を利用することができる。例えば、前記物質は、動脈内皮細胞に特異的なタンパク質(又は該タンパク質の十分な抗原性部分)に対して生じさせ、かつフルオロクロム、ビオチン又は他の標識で標識した抗体(抗血清、ポリクローナル又はモノクローナル)でありうる。前記物質に結合した細胞の分離は、蛍光標識について蛍光活性化セルソーティング(FACS)、ビオチン標識についてストレプトアビジンアフィニティーカラム、他のアフィニティーに基づく分離法又は、例えば、抗体結合磁気ビーズ又は固体支持体によりなされうる。本明細書において用いられる、細胞に関する「単離」とは、細胞が、開始群と比較して、ある細胞型が富化された群となるように他の細胞型から分離されることを示し、1つの細胞型を100%含む群の場合に限定されない。
【0040】
他の分離手段が、動脈又は静脈特異的タンパク質をコードする遺伝子における指示挿入物を産する血管細胞に関し利用され得、指示遺伝子産物又は融合タンパク質の部分の性質は、指示挿入物によりコードされる。例えば、緑色蛍光タンパク質部分又は青色蛍光タンパク質部分を有する動脈又は静脈特異的融合タンパク質を産生する細胞は、セルソーターにより非蛍光細胞から分離されうる。動脈又は静脈特異的タンパク質部分と指示タンパク質又は結合活性もしくは酵素活性を有する部分とを有する融合タンパク質を産生する細胞は、融合タンパク質が蛍光物質、例えば、β−ガラクトシダーゼ又はβ−ラクタマーゼの基質に結合する能力あるいは細胞における蛍光産物を産生する能力により検出されうる。
【0041】
動脈内皮細胞の単離及び静脈内皮細胞の単離は、培地中におけるこれらの細胞型の試験に関して、種々の薬物、増殖因子、リガンド、サイトカイン、Eph及びEphrinファミリーのレセプターやリガンドのメンバー、細胞表面タンパク質に結合する分子、又は動脈及び静脈の増殖と発生において作用をもたらしうる他の分子の作用を評価することを可能にする。1以上のこれらの物質を、培地に添加することができ、これらの添加物の作用を(例えば、増殖速度又は生存性の測定、酵素アッセイ、細胞表面成分の存在についてのアッセイ、DNA、RNA又はタンパク質などの高分子への標識前駆体の取り込みなどにより)評価しうる。
【0042】
単離された動脈内皮細胞又は単離された静脈内皮細胞は、人工増殖培地において維持され得、不死化細胞株は、培地において細胞を効率よく形質転換することが知られているいくつかのウイルスの1つを用いた(例えば、レトロウイルス、v−myc又はSV40 T抗原などの不死化オンコジーンの導入による)感染により、かかる単離細胞型それぞれから生産(すなわち「形質転換」)されうる。前記ウイルスは、感染性の種特異性(例えば、マウス細胞に対するネズミエコトロピックウイルス;ヒト細胞に対する両種性又は偽型ウイルス)に関して選択されうる。ウイルスによる形質転換の別法として、細胞は、1以上の増殖因子を含む培地で細胞を増殖させることにより、培地で維持されうる。
【0043】
静脈細胞又は動脈細胞のいずれか由来の不死化細胞株は、これらの組織のそれぞれにおいて盛んに発現した遺伝子の研究を容易にするためのcDNAライブラリーの創出に用いられうる。さらに、かかる細胞株を用いて、細胞において発現したタンパク質を、例えば、馴化増殖培地又は細胞自体からタンパク質を精製することにより単離及び同定しうる。
【0044】
動脈又は静脈起源の不死化細胞株を用いることの1つの別法として、非動脈もしくは非静脈起源(例えば、他の組織由来の内皮細胞、又は繊維芽細胞)の細胞又は細胞株を、(1以上の非内因的に発現した遺伝子の導入により)遺伝学的に改変して、動脈特異的又は静脈特異的細胞表面タンパク質を発現させることができ、レセプター−リガンド相互作用を妨害する物質を検出及び同定する方法に使用されうる。
【0045】
細胞株への1以上の遺伝子の導入は、1以上の遺伝子の挿入を有するように構築されたベクターを用いて、形質転換、例えば、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン又はリポソームによりなされうる。アウスベル(Ausubel,F.M.)ら、補遺40までの補遺を含む、Current Protocols in Molecular Biology、第9章、Fall、1997、John Wiley & Sons、New Yorkを参照のこと。また、細胞株における発現対象の1以上の遺伝子の導入は、ウイルス感染、例えば、レトロウイルスにより達成されうる。レトロウイルス遺伝子転移は、全細胞群に遺伝子をうまく導入するのに用いられており、それによりクローン変異に関連する問題を取り除く。
【0046】
静脈及び動脈細胞を区別し単離する能力は、広範種々の目的に対する広範種々の応用を可能にする。次に、動脈及び静脈に対する、例えば、薬物、診断薬などの種々の薬剤及び環境/食餌性因子の作用を評価し、観察された作用が、両方の細胞の型に共通であるか一方の細胞型に特異的であるかを決定することができる。
【0047】
例えば、血管形成及び抗血管形成因子又は薬物が、同等に動脈及び静脈細胞に作用することは、もはや仮定できない。本研究により可能にされた、これらの組織のこれらの細胞型の単離は、動脈又は静脈特異性について、これらの血管形成及び抗血管形成因子を試験することを可能にし、これは、これらの薬物のより選択的な臨床適用を提供するであろう。それは、不死化動脈又は静脈内皮細胞株の高処理量スクリーニングなどによる新規な動脈又は静脈選択的薬物の発見をも可能にするであろう。また、既存の薬物は、ターゲティングデバイス(例えば、リポソーム又はウイルス表面にタンパク質もしくはその細胞外ドメイン部分を有するウイルス賦形剤)として、本明細書に記載のタンパク質を用いることにより、動脈又は静脈にも選択的に標的化し、薬物(例えば、化学結合剤)を一方の型の静脈又は他方に送達する。例えば、動脈特異的薬剤を用いて、動脈の側副枝増殖を促進し、冠状動脈閉塞又は虚血病変を回避しうる。
【0048】
動脈及び静脈における選択的作用〔血管形成性又は抗血管形成性、血管緊張(vasotension)に作用する又はアテローム性動脈硬化型斑の形成を阻害する〕について薬剤をスクリーニングする多くのアプローチがある。例えば、化合物又は分子の高処理量スクリーニングは、動脈もしくは静脈に選択的に又はある場合にはその両方に作用する薬剤又は薬物を同定することが行なわれうる。動脈又は静脈細胞におけるそれらの作用に関して評価対象の試験薬剤は、合成により作製された、組換え技術により作製された、又は天然供給源から単離されたいかなる化学物質(エレメント、分子、化合物)でもあり得る。例えば、試験薬剤は、ペプチド、ポリペプチド、ペプトイド、糖類、ホルモン類又はアンチセンス核酸分子などの核酸分子でありうる。また、試験薬剤は、例えばライブラリーに集められた、小分子又はコンビナトリアル・ケミストリーにより作製されたより複雑な分子でありうる。これらのライブラリーは、例えば、アルコール類、ハロゲン化アルキル類、アミン類、アミド類、エステル類、アルデヒド類、エーテル類及び他のクラスの有機化合物を含有しうる。また、試験薬剤は、溶解物又は細胞−−細菌、動物もしくは植物−−の増殖培地から単離された天然産物又は遺伝子工学産物であり得、あるいは細胞溶解物もしくは増殖培地自体でありうる。試験系に対する試験化合物の提示は、特に最初のスクリーニングステップにおいて、単離された型又は化合物の混合物のいずれかでありうる。
【0049】
スクリーニングされる化合物又は分子(集合的に、薬剤又は薬物という)は、血管形成、抗血管形成活性、抗プラーク活性もしくは血管作用性を有することが既に公知であるもの、又は作用が未知であるものでありうる。公知の作用を有するこれらの薬剤の場合、スクリーニングは、動脈内皮細胞又は静脈内皮細胞に選択的に作用するこれらの薬物を同定するのに有用であろう。未知の作用を有するこれらの薬剤の場合、スクリーニングは、血管形成、抗血管形成活性、抗プラーク活性もしくは血管作用性を有する薬物を新規に同定すること、及びそれらが作用する細胞型(動脈、静脈)を確立するのに有用である。例えば、動脈又は静脈起源の不死化細胞株は、化合物のライブラリーをスクリーニングして、動脈又は静脈特異的薬物作用を有する薬物を同定するのに用いられうる。
【0050】
1つの態様において、アッセイを行ない、不死化細胞への標識リガンド−Fc融合タンパク質又はレセプター−Fc融合タンパク質の結合の阻害により、EphB4レセプターへのEphrinB2の結合などのそのEphレセプターへのEphrinリガンドの結合又はその逆を特異的に阻害する薬物をスクリーニングしうる。一方、かかるライブラリーをスクリーニングし、不死化細胞への標識リガンド−Fc融合タンパク質又はレセプター−Fc融合タンパク質の結合の増強により、そのEphレセプターへのEphrinリガンドの結合を増強するメンバーを同定しうる。ついで、このスクリーニングにより同定された薬物を動物モデル(例えば、癌、動静脈形成異常又は冠状動脈疾患のモデル)で試験して、それらのイン・ビボ活性を評価しうる。
【0051】
動脈特異的細胞表面分子(例えば、動脈内皮細胞特異的表面分子)と静脈特異的細胞表面分子(例えば、静脈内皮細胞特異的表面分子)との相互作用を阻害する薬物は、例えば、動脈内皮細胞特異的表面分子及び静脈内皮細胞特異的表面分子を、細胞特異的分子間の相互作用に適した条件下で、該細胞特異的分子間の相互作用の阻害能力の評価対象薬物と混合する方法で同定しうる。細胞特異的分子は、両者が懸濁物中のインタクト細胞(例えば、単離された動脈もしくは静脈内皮細胞、これら由来の不死化細胞、又は動脈もしくは静脈特異的細胞表面分子を発現するように改変された細胞)に見出されるように、本アッセイにおいて用いられてもよい;一方の細胞型は個体支持体に固定され、他方の細胞型に特異的な他の分子は可溶型で適切な溶液中に存在する;あるいは、他方の細胞型に特異的な分子は、細胞特異的分子の相互作用を可能にする溶液中において遊離していることが見出されるが、一方の細胞型に特異的な分子は固体支持体に固定される。他の変法は、2つの異なる細胞特異的分子間の相互作用の簡便な評価を可能にしうる。
【0052】
本アッセイのさらなるステップにおいて、前記薬物の存在下に、及び別の試験(対照)において、薬物の非存在下に、細胞特異的分子が相互作用する度合いを決定する。細胞特異的分子の相互作用が評価対象薬物の存在下及び非存在下に生じる度合いを比較する。細胞特異的分子の相互作用が生じる度合いが、薬物の非存在下よりも薬物の存在下のほうが、より少ない場合、該薬物は、動脈内皮細胞特異的分子と静脈内皮細胞特異的分子との相互作用を阻害するものである。細胞特異的分子の相互作用が生じる度合いが、薬物の非存在下よりも薬物の存在下のほうが、より多い場合、該薬物が、動脈内皮細胞特異的分子と静脈内皮細胞特異的分子との相互作用を増強するものである。
【0053】
2つの細胞表面分子、動脈に特異的な一方のものと静脈に特異的な他方のものとの相互作用(例えば、リガンドとそれを認識するレセプターとの結合;接着タンパク質間の相互作用;細胞表面タンパク質と細胞表面の炭水化物部分との間の相互作用)を妨害する物質を同定するアッセイの1つの態様において、細胞表面分子(例えば、静脈由来細胞株又はEphレセプターを発現するように遺伝子操作された他の細胞などのEphレセプターを発現する細胞)を、標識リガンド(例えば、ephrinリガンド、その可溶性部分、又は細胞外ドメインとIgGのFcドメインとの融合物などの可溶性融合タンパク質)か又は標識リガンドプラス試験化合物もしくは試験化合物群かのいずれかと接触させる。細胞に結合している標識リガンドの量を決定する。前記試験化合物(群)と接触させた試料における標識のより少ない量(ここで、該標識は、例えば、放射活性アイソトープ、蛍光又は発色性標識でありうる)は、該試験化合物(群)が結合を妨害することの指標である。リガンド(例えば、Ephrinリガンド又はその可溶型)を発現する細胞を用いる相互アッセイを用いて、レセプター又はその可溶性部分の結合を妨害する物質を試験しうる。
【0054】
動脈特異的及び静脈特異的細胞表面タンパク質間の相互作用を妨害する物質を同定するアッセイは、固体支持体と結合した、試験化合物と競合しない成分(例えば、細胞、融合タンパク質及び結合活性を有する部分を含む精製タンパク質)を用いて行なわれ得る。固体支持体は、いかなる適切な固相;ビーズ、プレートの壁もしくは他の適切な表面(例えば、マイクロタイタープレートのウェル)などのマトリックス;カラム孔ガラス(CPG)又はウェル中などの溶液内に沈めることができるピンでもありうる。固体支持体への細胞又は精製タンパク質の結合は、直接又は1以上のリンカー分子を介するものでありうる。
【0055】
哺乳動物からの動脈特異的又は静脈特異的タンパク質を発現する遺伝子の単離に際して、該遺伝子は、組換えタンパク質又は融合タンパク質の生産のための発現系に取り込まれ、その後、単離及びイン・ビトロでの該タンパク質の試験が行なわれうる。また、単離又は精製タンパク質は、タンパク質に特異的に結合する薬剤のデザインを可能にするさらなる構造的研究に用いられ得、該タンパク質のレセプター又はリガンド活性のアゴニスト又はアンタゴニストとして作用しうる。
【0056】
1つの態様において、単離又は精製動脈特異的もしくは静脈特異的タンパク質は、化学架橋又は単離もしくは精製タンパク質に対して生じさせた抗体を介するものなどの標準技術により、適したアフィニティーマトリックスに固定化し、固体支持体に結合させうる。前記マトリックスを、カラム又は他の適切な容器に充填することができ、タンパク質への該化合物の結合に適した条件下に、試験対象の1以上の化合物(例えば、混合物)と接触させる。例えば、化合物含有溶液は、マトリックスを介して流れるようになされうる。前記マトリックスは、適切な洗浄緩衝液を用いて洗浄して、非結合化合物及び非特異的結合化合物を除くことができる。結合したままの化合物は、適切な溶離緩衝液により、遊離されうる。例えば、溶離緩衝液のイオン強度又はpHにおける変化は、化合物の遊離を導きうる。一方、溶離緩衝液は、遊離成分又は化合物の結合を破壊するようにデザインされた成分(例えば、適切な1以上のリガンドもしくはレセプター、あるいは結合を破壊しうるか又はタンパク質への試験化合物の結合を競合的に阻害しうるそのアナログ)を含有しうる。
【0057】
本法の他の態様に用いるために、天然に見出されるようなタンパク質において存在しない第2の部分に連結した動脈特異的もしくは静脈特異的タンパク質の全部又は一部を含有した融合タンパク質を調製しうる。この目的のために適した融合タンパク質としては、第2の部分がアフィニティーリガンド(例えば、酵素、抗原、エピトープ)を含有するものが挙げられる。融合タンパク質は、動脈もしくは静脈細胞に特異的に発現される遺伝子又はその一部を、アフィニティーリガンドをコードする適切な発現ベクターに挿入することにより産生されうる。発現ベクターは、発現に適した宿主細胞に導入されうる。宿主細胞を破砕し、アフィニティーマトリックスへの融合タンパク質のアフィニティーリガンド部分の結合に十分な条件下に、該細胞材料とアフィニティーマトリックスとを接触させることにより、融合タンパク質を含む細胞材料を適切なアフィニティーマトリックスに結合しうる。
【0058】
本態様の1つの概念において、融合タンパク質のアフィニティーリガンド部分をマトリックスに結合するに十分な条件下に、融合タンパク質を適切なアフィニティーマトリックスに固定化し得、結合した融合タンパク質のレセプター又はリガンドタンパク質部分への化合物の結合に適した条件下に、融合タンパク質を試験対象の1以上の化合物(例えば、混合物)に接触させうる。ついで、結合融合タンパク質を有するアフィニティーマトリックスを適切な洗浄緩衝液で洗浄し、特異的に結合した化合物の結合を顕著に破壊することなく、非結合化合物及び非特異的結合化合物を除去しうる。結合したままの化合物を、それに結合した融合タンパク質を有するアフィニティーマトリックスと適切な溶離緩衝液(化合物溶離緩衝液)とを接触させることにより遊離しうる。この概念において、化合物溶離緩衝液は、アフィニティーマトリックスにより融合タンパク質を保持することを可能にするように調製され得るが、融合タンパク質のレセプター又はリガンドタンパク質部分への試験された化合物の結合を妨害するように調製されうる。例えば、溶離緩衝液のイオン強度又はpHにおける変化は、化合物の遊離を導き、あるいは該溶離緩衝液が、遊離成分又は融合タンパク質のレセプターもしくはリガンドタンパク質部分への化合物の結合を破壊するようにデザインされた成分(例えば、1以上のリガンドもしくはレセプター又は融合タンパク質のレセプターもしくはリガンドタンパク質部分への化合物の結合を破壊しうるそのアナログ)を含有しうる。
【0059】
固定化は、適宜、融合タンパク質を化合物に接触させる前、同時に又は後に行いうる。試験される化合物、選択される親和性マトリックス及び溶離緩衝液の組成などの要因によって方法の種々の変更が可能である。例えば、洗浄工程の後、化合物が結合した融合タンパク質を、適当な溶離緩衝液(マトリックス溶離緩衝液)により親和性マトリックスから溶離することができる。融合タンパク質が、トロンビン切断部位などの切断可能なリンカーを有する場合、親和性リガンドからの切断により、化合物が結合した融合タンパク質の一部分が放出されうる。結合した化合物は、次いで、抽出などの適当な方法により融合タンパク質又はその切断産物から放出されうる。
【0060】
該方法により一種以上の化合物を同時に試験しうる。化合物の混合物を試験する場合、先述の方法により選択される化合物を、(適宜)分離し、適当な方法(例えば、PCR、シークエンシング、クロマトグラフィー)により同定しうる。コンビナトリアル・ケミストリーによる合成又はその他の方法により製造される化合物(例えば有機化合物、ペプチド、核酸)のラージ・コンビナトリアル・ライブラリー(Large combinatorial library )を試験しうる(例えば、Ohlmeyer, M.H.J.ら、 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:10922-110926 (1993) 及びDeWitt, S.H.ら、 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6909-6913 (1993) これらは標識化合物に関する;又、Rutter, W.J.ら、米国特許第5,010,175 号公報; Huebner, V.D.ら、米国特許第5,182,366 号公報;及び Geysen,H.M.、米国特許第4,833,092 号公報参照のこと)。本発明の方法によってコンビナトリアル・ライブラリーから選択された化合物が特有の標識を有する場合、クロマトグラフィー法による個々の化合物の同定が可能である。化合物が標識を有しない場合、例えば、クロマトグラフィーによる分離、続いて構造を確認するための質量分光測光分析を、該方法によって選択された個々の化合物を同定するのに使用することができる。
【0061】
動脈又は静脈に対して選択的に作用する薬物を同定するのに有用なインビボアッセイも利用可能である。それは、本明細書に記載されているようなトランスジェニック動物を用いて行われ、それにより血管形成のプロセスを可視化することが可能になる。例えば、動脈はすべてマーキングするが静脈はしないtau−lacZ挿入物などのマーカーを含有するEphrinB2ノックアウトマウスを、種々のインビボアッセイに使用することができる。使用しうる他のマーカー遺伝子は、例えば、アルカリホスファターゼ、ブルー蛍光タンパク質又はグリーン蛍光タンパク質を発現する遺伝子である。マウス又はそれが含有する標的対立形質を、静脈とは独立して、動脈における腫瘍血管形成及び虚血関連性心臓新生血管形成などの血管形成のプロセスを研究するのに使用しうる。例えば、腫瘍細胞を指示マウスに移植することができ、腫瘍内での動脈血管増殖をlacZ染色により可視化することができる。あるいは、標的対立形質を有するマウスを、血管変性又は新生血管形成などの別の状態のマウスモデルと交雑させて、可視化することができる。該プロセスの動脈特異的局面を、lacZ染色により視覚的にモニターすることができる。このタイプのインジケーターも、薬物の血管形成作用又は抗血管形成作用を評価するのに使用することができる。
【0062】
動脈内皮細胞(動脈)により特異的に産生されるが他の細胞型によっては産生されない遺伝子産物は、薬物、診断薬剤、タグ用標識、組織学的染色、又は他の物質の、動脈への特異的ターゲティングを可能にする。同様に、静脈内皮細胞(静脈)により特異的に産生されるが他の細胞型によっては検出可能に産生されないと同定された遺伝子産物は、薬物、診断薬剤、タグ用標識、組織学的染色、又は他の物質の、静脈への特異的ターゲティング及び送達を可能にする。ターゲティングビヒクル、標的薬剤及び方法の以下の記載は、動脈内皮細胞により産生されるが静脈細胞によっては産生されない遺伝子産物の例としてEphrinB2を、静脈内皮細胞により産生されるが動脈細胞によっては産生されない遺伝子産物の例としてEphB4を用いて示される。しかしながら、この記載は、これらの組織の型を同定するのに使用しうる他の動脈特異的遺伝子産物及び静脈特異的遺伝子産物に対しても充分に等しくあてはまる。
【0063】
動脈におけるEphrinB2及び静脈におけるEph4の示差的発現は、薬物、診断薬剤、画像形成剤(imaging agent )、又は他の物質の動脈若しくは静脈の細胞への特異的ターゲティングを可能にする。ターゲティングビヒクルは、かかる物質の送達に使用することができる。EphrinB2又はEph4に特異的に結合するターゲティングビヒクルは、動脈又は静脈のそれぞれの細胞に送達される物質に結合しうる。該結合は、一以上の共有結合を介して、又は高親和性の非共有結合により形成されうる。ターゲティングビヒクルは、例えば、抗体、又は高い特異性でEphrinB2又はEph4のいずれかに結合する他の化合物でありうる。別の例は、Eph4の細胞外ドメインのアミノ酸配列を有する水溶性のポリぺプチド、又は該細胞外ドメインの充分な部分(若しくは、EphrinB2への特異的な結合を可能にするに充分類似するコンフォメーションを与えるアミノ酸配列を有するポリペプチド)であり、それらは、動脈内のEphrinB2に物質を送達するためのターゲティングビヒクルとして使用しうる。同様に、EphrinB2の細胞外ドメインのアミノ酸配列を有する可溶性のポリぺプチド、又は該細胞外ドメインの充分な抗原性部分(若しくは、Eph4への特異的な結合を可能にするに充分類似するコンフォメーションを与えるアミノ酸配列を有するポリペプチド)は、静脈内のEph4に物質を標的化するのに使用しうる。
【0064】
動脈特異的Ephrinリガンド(例えば、EphrinB2)又は静脈特異的Ephレセプター(例えば、EphB4)に特異的なターゲティングビヒクルは、インビボ(例えば、治療的及び診断的)適用を有する。例えば、EphrinB2に特異的に結合する抗体は、動脈に標的化される薬物(例えば、抗プラーク剤などの治療剤)に結合しうる。あるいは、EphB4に特異的に結合する抗体は、薬物を静脈に標的化するのに使用しうる。インビボで検出(例えば、標識)しうる物質(例えば、放射活性物質)も、動脈特異的Ephrinリガンド(例えば、EphrinB2)に特異的に結合するターゲティングビヒクルに結合することができ、コンジュゲートは、動脈を同定するための標識剤として使用しうる。同様に、検出可能な標識は、静脈特異的Ephレセプター(例えば、EphB4)に特異的に結合するターゲティングビヒクルに結合して静脈を同定することができる。
【0065】
EphrinB2又はEphB4に特異的なターゲティングビヒクルには、さらにインビトロ適用が見出されている。例えば、EphB4に特異的に結合する抗体(ポリクローナル又はモノクローナル調製物)などのEphB4特異的ターゲティングビヒクルを、組織試料(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ)のための染色剤として使用することができる物質に結合することができ、試料中の静脈の同定法が提供される。同様に、EphrinB2又はEphrinB2の細胞外ドメインに特異的に結合する抗体を、動脈の同定において使用することができる。例えば、腫瘍由来又は小児若しくは成人における動静脈形成異常由来としての生検組織試料において、EphrinB2若しくはEphrinB2の細胞外ドメインに対する抗体を、動脈組織を同定するため、及び静脈組織と区別するために使用することができる。
【0066】
形成異常で、痛みを伴うか又は美容的に望ましくない静脈を処理するため、それらに対して作用する薬剤(例えば、抗血管形成因子)を、静脈への局所投与のためにEphB4特異的ビヒクルに結合させることができる。例えば、抗血管形成因子を拡張蛇行静脈内に注射することができる。
【0067】
動脈特異的Ephrinファミリーリガンド(例えば、EphrinB2)又は静脈特異的Ephファミリーレセプター(例えば、EphB4)のいずれかに指向する標的薬剤も、動脈と静脈の両方に対する作用を生み出すことが望まれる場合に使用しうる。例えば、抗血管形成薬剤と、EphrinB2、EphB4のいずれか又は両方に対するターゲティングビヒクルとを含有する標的薬剤の限定された量を、腫瘍形成の部位又は望ましくない新生血管形成の部位などの、血管の増殖を阻害することが望まれる血管形成の部位に、並びに血管の増殖及び確立を増強するために血管新生の増加が望まれる領域に局所的に投与することができる。
【0068】
動脈特異的Ephrinファミリーリガンド(例えば、EphrinB2)又は静脈特異的Ephファミリーレセプター(例えば、EphB4)のアゴニスト又はアンタゴニストとして作用する物質を、血管形成剤又は抗血管形成剤として使用することができる。これらの分子を標的化する薬物は、動脈及び静脈の血管形成に選択的に作用する。例えば、EphrinB2又はEphB4に対するモノクロナール抗体は、動脈特異的若しくは静脈特異的な血管形成又は抗血管形成剤として役立ちうる。EphrinB2機能を妨害する薬物(例えば、ブロッキング抗体)を治療の抗血管形成法において使用することができる。EphrinB2tlacZ /EphrinB2tlacZ 変異マウスにより示される表現型から結論づけられるように、EphrinB2のアンタゴニスト又はEphB4のアンタゴニストは、血管形成を阻害する。EphrinB2及びEphB4の両方のアゴニストである薬剤は、血管形成を促進する。
【0069】
別の例において、ヒトIgGのFcドメインに融合したEphrinファミリーリガンドの細胞外ドメイン又はEphファミリーレセプターの細胞外ドメインを含有する可溶性アゴニストを作製することができる。例えば、膜タンパク質の細胞外ドメインがヒトIgGのFcドメインに融合した、EphB4又はEphrinB2のハイブリッドタンパク質を使用することができる(Wang, H.U.及びD.J.Anderson, Neuron 18:383-396(1997))。方法の例については、クラスター形成したEphrin−B1/Fc融合タンパク質に対する細胞の応答に関する実験に関するStein, E. ら、Genes and Dev. 12:667-678(1998)を参照のこと。これらのハイブリッド分子の抗ヒトFc抗体とのクラスター形成は、可溶性アゴニスト:Ephレセプターに対するEphrin由来「リガンド体(ligand-bodies )」を生じ、逆に、Ephrinに対するEph由来「レセプター体」を生じる。これらのハイブリッド分子の非クラスター形成形態をアンタゴニストとして使用することができる。
【0070】
単離された動脈内皮細胞及び単離された静脈内皮細胞のさらなる適用は、単離された細胞の遺伝的改変、及びこれらの細胞の、該細胞が単離された宿主哺乳動物への、又は該細胞が適当な種類の血管に取り込まれうる別の適合可能な宿主内への投与、好ましくは静脈内投与である。このようにして、動脈又は静脈に現れる遺伝的欠損の影響は改善されうる。循環する内皮細胞前駆体は、新生血管形成の部位に移動し、かつ血管に取り込まれうるということが示されている(Asahara ら、Science 275:964-967 (1997))。
【0071】
遺伝子(例えば、変化させた内在性遺伝子、又は由来は異なる生物体から単離した遺伝子)の細胞への導入は、いくつかの公知の技術のいずれか、例えば、両種性レトロウイルスによるものなどのようなベクター介在性遺伝子輸送、リン酸カルシウム、又はリポソーム融合によっても行いうる。
【0072】
宿主哺乳動物において動脈又は静脈に作用を有することを意図した遺伝子を、単離された動脈細胞又は単離された静脈細胞に、目的の遺伝子をコードする核酸配列を一種以上含有するウイルスベクターの使用により輸送することができる。一般に、該核酸配列は、ウイルスベクターのゲノムに組み込まれている。インビトロでは、該遺伝子をコードする核酸配列を含むウイルスベクターを細胞と接触させることができ、感染が起こりうる。次いで、細胞を、例えば、インビトロでの動脈又は静脈細胞の増殖に対する該遺伝子の作用を研究するために実験的に使用することができ、あるいは該細胞を治療的使用のために患者に移植することができる。遺伝子の導入又は置換により変化する細胞は、患者から得られる生物学的試料中に存在し、かつ疾患の治療において使用することができ、あるいは、細胞培養物から得られ、かつインビボ及びインビトロ系における動脈及び静脈の発生経路を詳細に分析するのに使用できる。
【0073】
目的の遺伝子をコードする核酸配列を含有するウイルスベクターとの接触後、処理された動脈又は静脈細胞を、当業者に知られた方法に従って患者に戻すか、又は再投与することができる。かかる治療方法は、エクスビボ治療と呼ばれる場合がある。エクスビボ遺伝子治療は、例えば、Kasid ら、 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:473 (1990) ; Rosenbergら、New Engl. J. Med. 323:570 (1990); Williams ら、 Nature 310476 (1984) ;Dickら、Cell 42:71 (1985) ; Keller ら、 Nature 318:149 (1985);及びAndersonら、米国特許第5,399,346 号公報(1994)に記載されている。
【0074】
一般に、治療的及び実験的に使用されうるウイルスベクターが当該技術分野において知られている。例としては、Srivastava, A.、米国特許第5,252,479 号公報(1993); Anderson, W.F. ら、米国特許第5,399,346号公報(1994);Ausubel ら、"Current Protocols in Molecular Biology", John Wiley & Sons, Inc.(1998) に記載されたベクターが挙げられる。核酸の細胞への送達のための適切なウイルスベクターとしては、例えば、複製能欠損レトロウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス)及びコロナウイルスが挙げられる。レトロウイルスの例としては、ニワトリ白血病−肉腫、哺乳類C型、B型ウイルス、レンチウイルス(Coffin, J.M., "Retroviridae: The Viruses and Their Replication", In: Fundamental Viology、第3版、B.N. Fields ら編、Lippincott-Raven Publishers, Philadelphia, PA, (1996) )が挙げられる。感染力のメカニズムは、ウイルスベクター及び標的細胞によって異なる。例えば、HeLa細胞のアデノウイルス感染力は、ウイルス表面レセプターへの結合、続いてレセプター媒介性エンドサイトーシス及び染色体外複製によって生じる(Horwitz, M.S.,"Adenoviruses" In: Fundamental Virology 、第3版、B.N. Fields ら編、Lippincott-Raven Publishers, Philadelphia, PA, (1996) )。
【0075】
本発明を、何ら限定することを意図しない以下の実施例により説明する。
【実施例】
【0076】
実施例
実験方法
以下の実験方法を、以下の実施例において使用した。
【0077】
EphrinB2遺伝子の標的破壊。マウスEphrinB2遺伝子のATGから開始する200塩基対プローブ(Bennett, B.D. ら、 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:1866-1870 (1995) )を、129SVJゲノムライブラリー(Stratagene)をスクリーニングするのに使用した。いくつかのオーバーラップクローンの解析により、シグナル配列を含む第一エキソンがATGの131塩基対後方で終結することが明らかになった。さらに、ファージ解析及びライブラリースクリーニングにより、EphrinB2遺伝子の残部は第一エキソンから少なくとも7塩基対下流に位置することが明らかになった。ターゲティングベクター(Fig.1B)を構築するため、その3’末端がATGで終結する3kbのXbaI−NcoI断片を5’アームとして使用した。5.3kbのTau−lacZコーディング配列(Mombaerts, P. ら、 Cell 87:675-686 (1996) )をATG後方にインフレームで融合した。PGKneo遺伝子(Ma, Q.ら、Neuron 20:469-482 (1998))を用いて、第一エキソンの3’側の2.8kbのイントロン配列を置き換えた。最後に、3.2kb下流EcoRI−EcoRI断片を3’アームとして使用した。正常な(6kb)及び標的(9kb)遺伝子座は、1kbのHindIII−XbaIゲノム断片でプロービングするとHindIII消化により区別される。エレクトロポレーション、選別及びAB−1 ES細胞の胚盤胞注入を、FIAU選別を省いたこと以外は、本質的に、Ma, Q.ら(Neuron 20:469-482 (1998))に記載のようにして行なった。G418選別を介するES細胞ターゲティング効率は、18クローンのうち1クローンであった。ヘテロ接合性雄におけるEphrinB2遺伝子座(Fig.1C)の生殖系列伝達は、1kbのHindIII−XbaIプローブを用い、成体マウスのテイルDNAのサザンブロッティングにより確認された。続く遺伝子型分類(genotyping)を、ゲノムPCRにより行なった。Neoに対するプライマーは、
5'-AAGATGGATTGCACGCAGGTTCTC- 3' (配列番号:1)及び
5'-CCTGATGCTCTTCGTCCAGATCAT- 3' (配列番号:2)である。置き換えたイントロンの断片に対するプライマーは、
5'-AGGACGGAGGACGTTGCCACTAAC- 3' (配列番号:3)及び
5'-ACCACCAGTTCCGACGCGAAGGGA- 3' (配列番号:4)である。
【0078】
LacZ、PECAM−1及び組織学的染色。胚嚢及び卵黄嚢を、E7.5とE10.0との間で取り出し、冷却した4%パラホルムアルデヒド/PBSで10分間固定し、PBSで2回リンスし、X−gal緩衝液(PBS中、1.3mg/mlのフェロシアン化カリウム、1mg/mlのフェリシアン化カリウム、0.2%Triton X−100、1mM MgCl2 、及び1mg/mlのX−gal[5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド]、pH7.2)中で1時間から一晩37℃で染色した。LacZで染色した胚を後固定し、写真撮影し、又はPBS中の15%スクロース及び7.5%ゼラチンに包埋した後クリオスタット上で薄切した。抗PECAM−1抗体(クローンMEC13.3、Pharmingen)による全体(whole mount )又は切片染色のための方法は、本質的に、Maら(Neuron 20:469-482 (1998);Fongら、 Nature 376:66-70 (1995))に記載のようにして行なった。ホースラディッシュペルオキシダーゼにコンジュゲートした二次抗体をすべてのPECAM−1染色に使用した。LacZで染色した卵黄嚢をゼラチン中で薄切した後、標準的な方法によってヘマトキシリン対比染色に供した。
【0079】
インサイチューハイブリダイゼーション。凍結切片でのインサイチューハイブリダイゼーションを、先に記載(Birrenら Development 119:597-610 (1993) )のようにして行なった。全体インサイチューハイブリダイゼーションは、Wilkinson, D.G. (Whole-mount in situ hybridization of vertebrate embryos. pp.75-83 In: In Situ Hybridization: A Practical Approach (ed. D.G. Wilkinson) IRL Press, Oxford: 75-83 (1992))によるプロトコルに従った。EphB2/Nuk及びEphB4/Myk−1のcDNAを含有するBluescriptベクター(Stratagene)を、Wang, H.U.及びAnderson, D.J.(Neuron 18:383-396(1997) )に記載のようにして作製した。
【0080】
実施例1:マウスにおけるEphrinB2の標的変異誘発
EphrinB2遺伝子の標的破壊を、胚幹細胞における相同組換えにより行なった。ターゲティング計画は、シグナル配列を除去すること及びフレーム内のTau−lacZ指示遺伝子と開始コドンとをインフレームで融合することを含んだ。ヘテロ接合性(EphrinB2tlacZ/+ )胚におけるβ−ガラクトシダーゼの発現パターンは、内在性遺伝子について先に報告されたものと見分けがつかない(Bennett, B.D. ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:1866-1870 (1995);Bergemann, A.D. ら、Mol. Cell. Bio. 1995:4921-4929 (1995) ;Wang, H.U. and Anderson, D.J. Neuron 18:383-396 (1997))。菱脳及び体節(somites) において顕著な発現が検出されたが、早くもE8.25で、より低レベルが大動脈及び心臓において観察された。卵黄嚢における発現は、まずE8.5で検出された。ヘテロ接合性動物は、表現型としては正常のようであった。ヘテロ接合性胚において、増殖遅滞がE10で明白であり、E11あたりで100%の浸透度で致死が生じた。内在性EphrinB2 mRNAの発現は、インサイチューハイブリダイゼーションによって検出されず、これは、変異がヌルであることを示す。体節極性(somite polarity) 、菱脳分割(segmentation)、及び神経冠移動の体節性パターン化(ここで、EphrinB2及び関連リガンドは、以前に、Xu, W.ら、Development 121:4005-4016 (1995);Wang, H.U. and Anderson, D.J. Neuron 18:383-396 (1997);Krull, C.E. ら、 Curr. Biol. 7:571-580 (1997) ;Smith, A. ら、 Curr. Biol. 7:561-570 (1997) に暗示されている)は、ヘテロ接合性変異胚において、肉眼的には正常のようであった。
【0081】
実施例2:動脈及び静脈におけるEphrinB2及びEphB4の相互発現パターン
死につつある変異胚において観察された肥大(enlarged)心臓は、血管系におけるEphrinB2tlacZ の発現の詳細な検査を促した。発現は、動脈においては一貫して観察されたが、静脈においては観察されなかった。例えば、卵黄嚢においては、卵黄動脈にはつながっているが卵黄静脈にはつながっていない後血管(posterior vessels) は、該遺伝子を発現し、それはLacZ染色により検出された。幹(trunk) において、標識は、背側大動脈、卵黄動脈、臍動脈、及びその尿嚢脈管叢において検出されたが、臍静脈、前主静脈及び総主静脈(臍静脈は抗PECAM−1抗体で標識される)においては検出されなかった。頭部において、標識は、内頸動脈の分枝においては見られたが、前主静脈の分枝においてはみられなかった。EphrinB2 cDNAプローブとのインサイーチューハイブリダイゼーションにより、動脈におけるtau−lacZの選択発現は、内在性遺伝子の発現パターンを正確に反映することが確認された。EphrinB2のレセプターである4種のEphBファミリー遺伝子並びにEph A4/Sek1(Gale, N.W.ら、 Neuron 17:9-19 (1996))の発現の検査により、動脈でなく、卵黄嚢の前部における卵黄静脈及びその分枝を含む静脈におけるEphB4の相補発現が明らかになった。
【0082】
実施例3:脈管形成は、EphrinB2変異胚において正常に起こる
幹における主要な血管の形成は、9個の体節胚のlacZ及びPECAM−1の二重染色により検査されたように、EphrinB2の欠如により影響されなかった。EphrinB2−lacZの発現は背側大動脈及び卵黄動脈において見られたが、臍主静脈及び後主静脈においてはみられなかった。血管壁にいくらか拡張及びしわ(wrinkling )が観察されたが、例えば、背側大動脈、卵黄動脈、後主静脈及び臍静脈が形成された。同様に、背側大動脈から発生した体節間(intersomitic)血管がこの段階で形成された。E8.5とE9.0との間で、初期の心内膜が、変異体においてわずかに乱れた(perturb) ようであったが、顕著な組織破壊がE10で明らかであった。変異卵黄嚢及び胚の両方において、標準的にはE9.5までに赤血球が完全に発生し、循環した。
【0083】
実施例4:EphrinB2発現により明らかにされた卵黄嚢動脈及び卵黄嚢静脈の広範なインターカレーション。
卵黄嚢において、卵黄動脈及びその毛細血管網は後部を占有し、そして卵黄静脈及びその毛細血管網は前部を占有する。始原性毛細血管叢が形成されているが、再構築がまだ生じていない段階であるE8.5では、ヘテロ接合性胚におけるEphrinB2−taulacZの非対称発現が前部と後部との間の界面で明白であった。明らかに、静脈の血管から明瞭に分離したより大きな分枝した幹へのβ−ガラクトシダーゼ+ 動脈性毛細血管のホモタイプの再構築は、E9.0とE9.5との間で明白であった。この段階では、レセプターEphB4の発現は、卵黄静脈上で明白に観察されたが、動脈では観察されなかった。従って、動脈性及び静脈性の内皮毛細血管は、脈管形成の後と血管形成の前では既に分子的に異なる。
【0084】
卵黄嚢毛細血管叢の模範的な図(Carlson, B.M Patten's Foundations of Embryology (1981))は、動脈性毛細血管床と静脈性毛細血管床との間に非重複境界領域を示すが、EphrinB2−taulacZの発現は、以前には認識されていなかった、卵黄嚢の前後範囲全体にわたる動脈と静脈との間の広範なインターカレーションの検出を可能にした;これは、ヘテロ接合体において観察されたが、ホモ接合体においては観察されなかった。ちなみにPECAM及びβ−ガラクトシダーゼに対する二重標識により、動脈と静脈との間の境界が、より大きな血管嵌合を橋渡しする微小血管伸展物間で生じることが明らかになった。
【0085】
実施例5:EphrinB2tlacZ /EphrinB2tlacZ 胚の卵黄嚢における中断された血管形成。
卵黄嚢血管形成における欠損は、E9.0までに出現し、そしてE9.5では明白であった。β−ガラクトシダーゼ染色によって示されるように動脈血管、及びPECAM染色によって示されるように嚢の前部の静脈血管の両方について、毛細管叢段階で再構築が明かにブロックされた。従って、EphrinB2リガンド遺伝子の破壊は、EphB4レセプター発現静脈性細胞における非自立性欠損、及び動脈自身における自立性欠損の両方を引き起こした。
【0086】
この欠損は、卵黄嚢の前後範囲にわたる動脈及び静脈の両方向の増殖をインターカレートし得ないことによって達成された。その結果、嚢の中間点でのEprhinB2発現区域と非発現区域との間に境界が出現した。(しかし、lacZ発現の小さな斑点が前部静脈性叢内で時折観察された。このことは、幾つかの動脈内皮細胞が、静脈性毛細血管に取り込まれたかもしれないことを示唆する。)これらの観察は、より大きな血管への毛細血管叢の再構築とこれらの血管のインターカレート増殖との間の密接な関係を暗示する。しかし、胚由来の脈管構造の卵黄嚢への進入の点で存在する、大きなβ−ガラクトシダーゼ+ 卵黄動脈ならびに卵黄静脈は、変異体において混乱していないようであった。このことは、変異が始原性幹脈管構造の形成に影響しないという観察と一致する。また、卵黄嚢表現型は、内因性血管形成の破壊に起因し、そして胚由来血管の内殖の不全から派生するものではないことが論じられる。
【0087】
卵黄嚢の切片の組織学的染色(ヘマトキシリン)により、E10及びE10.5で内皮血管と密接に会合した伸長した支持細胞(elongated support cell)(間葉細胞又は周皮細胞)の集積が示された。変異卵黄嚢において、これらの支持細胞はより丸く見えた。このことは、それらの分化における欠損を示唆する。さらに、ヘテロ接合性卵黄嚢とは対照的に、異なる直径の血管がE9.5で出現し始め、そして血管の直径はE10.5の間に増大し、毛細血管の直径は、比較的均一であるようであり、そして変異体の年齢に伴って増大しなかった。E10.5で、血管の融合が支持細胞による被包を伴うことなく生じたかのように、動脈は膨張してみえる。変異体の毛細血管はまた、基底内皮層から離層し得なかった。
【0088】
実施例6:変異体胚の頭部における、内部頸動脈分枝の不在及び静脈性毛細血管の欠損した血管形成。
卵黄嚢の表現型に類似して、頭部の毛細血管床は、変異体において膨張しているようであり、そして始原叢段階で明かに停止した。β−ガラクトシダーゼに対する染色により、内部頸動脈の最前分枝(anterior-most bracnch) が変異体において発生し得なかったことが示された。したがって、卵黄嚢の場合とは異なり、奇形の毛細血管床は、完全に静脈性起始であるにちがいない。しかしながら、前部の主静脈の前部分枝が形成された。わずかに拡大したが、総合すると、これらのデータは、頭部において、動脈性毛細血管との正常な相互作用が妨げられる場合には、静脈性血管形成はブロックされることを示す。頭部及び卵黄嚢において観察される血管形成欠損は、心臓欠損から派生する結果ではなさそうである(下記参照)。なぜなら、それらはE9.0で始まることが観察されており、そして胚性血液循環は通常E9.5まで正常であるようだからである。
【0089】
実施例7:心内膜細胞間のEphrinB2依存性シグナル伝達は、心筋の小柱(trabeculae)形成に必要とされる。
野生型心臓におけるリガンド及びレセプターの発現の検査は、EphrinB2(lacZ染色によって検出される)及びEphB4(インサイチューハイブリダイゼーションによって検出される)の両方の心房での発現を示した。リガンド及びレセプターの両方の発現をまた、心室において心筋の小柱状伸展物( trabecular extension)を裏打ちする内皮細胞にて検出した。二重標識実験は、リガンド及びレセプターが、異なるが部分的に重複する細胞群によって発現されることを示唆したが、この方法の解像度では、この重複が、同一細胞による同時発現又は異なる細胞の密接な会合のどちらを反映するのかを区別することができない。いずれにせよ、EphrinB2及びEphB4は、心臓外の脈管構造とは異なり、心臓の相補的な動脈性(心室性)及び静脈性(心房性)の区画を規定しない。
【0090】
心臓欠損は、E9.5で始まり、そしてE10では形態学及び全体量のPECAM−1染色両方により変異体胚において明かであった。EphrinB2発現心内膜細胞の鎖(strand)は依然として観察されたが、切片は心筋の小柱状伸展物の非存在を示した。従って、リガンドコード遺伝子の変異は、ニューレグリン-1遺伝子における変異の作用と同様に、心内膜細胞において非自律的欠損を引き起こした(Meyer, D. 及びBirchmeier, C, Nature 378:386 〜390 (1995))。しかし逆説的に、この場合には、EphB4レセプターは、ニューレグリン−1レセプターerbB2及びerbB4の場合と同様に(Lee ら、Nature 378:394〜398 (1995);Gassmannら、Nature 378:390〜394(1995) )、心筋細胞には発現されず、内心膜細胞において発現される。Ephrin Bファミリーリガンド(Eph B1、B2、B3及びA4)に対する任意の他のレセプターの発現を、この組織において検出した。このことは、心臓において、内皮細胞間のリガンド−レセプター相互作用が、続いて平滑筋細胞との相互作用に影響しうることを示唆する。
【0091】
実施例8:Ephrin B2は、神経管の血管新生に必要とされる。
EphrinB2tlacZ /EphrinB2tlacZ 胚において、神経管への毛細血管内殖は生じなかった。代わりに、EphrinB2発現内皮細胞は、発生している脊髄の外部表面と会合したままであった。全内皮PECAM−1及びEphB4発現に対するβ−ガラクトシダーゼの比較は、この初期の段階(E9〜E10)では、CNSにおいてEphB4を発現する別の静脈性毛細血管網の証拠を提供しなかった。むしろ、異なるEphrinB2レセプターであるEph B2の発現が、以前に報告されたHenkemeyerら、Oncogene 9:1001-1014 (1994) のように神経管において観察された。ここで、肉眼では形態学的欠損又はパターンの欠損は検出され得なかった。この場合には、それゆえ、変異は、レセプター発現細胞において非自律的な表現型を引き起こさず、むしろリガンド発現細胞における自律的な作用のみを引き起こすようである。
【0092】
実施例9:EphrinB2は成体組織においては動脈特異的である。
ephrin−B2が、動脈特異的様式で成体組織において発現されるかどうかを決定するために、我々は、ephrin−B2taulacZ /+ヘテロ接合性マウスにおいてβ−ガラクトシダーゼに対する組織化学的染色を行った。全内皮マーカーであるPECAM−1に対する抗体染色を、非動脈血管(すなわち、静脈)を明らかにするために、同一又は隣接した切片において行った。Ephrin−B2は、動脈特異的様式で、心臓、脚部筋、腎臓、肝臓及び脂肪を含む組織において、成体マウス全体で発現される。発現を、大動脈、細動脈及び最も小さい直径の毛細血管を含む、あらゆる直径の血管において検出した。以前には、定義による毛細血管は、動脈及び静脈同一性のいずれをも有さないと考えられていた。これらの結果は、これが事実ではなく、そして動脈同一性が毛細血管床にまで拡張されることを示す。
【0093】
成体動脈の切片を、全内皮マーカーとしてPECAM−1に対する抗体を用いて、β−ガラクトシダーゼ(lacZ)に対する組織化学的染色によって二重標識し、ephrin−B2−taulacZ発現を明らかにした。lacZ(X−galによる青色)染色は、ephrinB2の背部大動脈における発現、下大静脈における非発現、足骨に隣り合う大腿動脈における発現、大腿静脈における非発現及び冠状動脈の心外膜動脈における発現、冠状静脈における非発現を明らかにした。
【0094】
他の切片の同様の染色は、腎臓細動脈、肝臓細動脈及び小筋肉細動脈、ならびに動脈性毛細血管におけるEphrinB2の存在を明らかにした。腎臓細静脈、肝臓静脈及び小筋肉静脈は、lacZネガティブであったが、PECAM−1ポジティブであった。
【0095】
腸の脂肪を、lacZ(β−ガラクトシダーゼ)について染色し、そしてPECAM−1で標識して、静脈性血管ならびに動脈性血管を明らかにした。EphrinB2は、細動脈及び動脈性毛細血管により細静脈において発現されるが、PECAM−1ポジティブ細静脈において発現されない。さらなる切片は、EphrinB2が、PECAM−1ポジティブ非動脈性毛細血管によって包囲される動脈性毛細血管によって発現される。
【0096】
実施例10:Ephrin−B2は、腫瘍血管新生の間に発現される。
腫瘍血管は、後毛細血管(post−capillary venule)の細静脈から発生すると考えられていた。EphrinB2が腫瘍血管新生の間に発現されるかどうかという問題に取り組むために、ルイス肺ガンを、ephrin−B2taulacZ /+ヘテロ接合性雌の背部領域に皮下移植した。1週間後、腫瘍を取り出し、そして全体量でのβ−ガラクトシダーゼ組織化学のために処理した。結果は、ephrin−B2が腫瘍血管によって実際に発現されることを明らかに示す。このことを、β−ガラクトシダーゼ及びPECAM−1に対する、このような腫瘍全体の切片の二重染色によって確認した。
【0097】
腫瘍毛細血管によるEphrinB2発現。ルイス肺ガン(LLC)細胞を、EphrinB2−taulacZヘテロ接合性雌の背部領域に皮下移植した。1週間後、染色のために腫瘍を取り出した。EphrinB2ポジティブ動脈性毛細血管を、末梢の腫瘍組織において観察した。PECAM−1での二重標識は、動脈性毛細血管においてEphrinB2 lacZ(青色に染色)及びPECAM−1(茶色に染色)のシグナルを共存(colocarize)させ、そしてPECAM−1のみにより標識された非動脈性毛細血管を示す。
【0098】
実施例11:動脈特異的遺伝子を含有するクローンのスクリーニング
使用したスクリーニング手順の要旨を付録Iに提供する。手短には、内皮細胞を、PECAM−1に対する抗体(磁気ビーズ又はFACS)でのポジティブ選択を用いて、分離した胚の卵黄嚢、卵黄動脈又は卵黄静脈から単離した。cDNAを、単一の細胞又は少数(約200)の細胞の溶解物から合成し、そしてPCRによって増幅した。cDNAが、動脈又は静脈の内皮細胞に由来することを確認するために、各々の細胞プレップから合成したcDNAを、サザンブロットさせ、そして一連のプローブ(チューブリン(遍在して発現される)全内皮プローブFlkl及びFltl、及び動脈特異的プローブephrin−B2)を用いて4つ組でハイブリダイズさせた。Flkl、Fltl及びephrin−B2配列を含むcDNAを動脈性とみなし、一方、全内皮マーカーを含有するが、ephrin−B2を含有しないcDNAを静脈性と見なした。従って、この手順におけるephrin−B2プローブの使用は、合成されたcDNAの動脈特性対静脈特性を確認するために必須であった。
【0099】
これらのcDNAからさらなる動脈特異的遺伝子を単離するために、それらをλファージベクターにクローン化し、cDNAライブラリーを作製した。次いで、これらのライブラリーに由来するプラークを、単一の細胞又は細胞のプールから作製した動脈又は静脈に特異的なcDNAプローブを用いて2つ組のフィルターリフトにおいてスクリーニングした。動脈プローブ対静脈プローブに対して特質的なハイブリダイゼーションを示したプラークを単離し、そして挿入物を、T3〜T7プライマーを用いて増幅し、そしてcDNAサザンブロッティングによって再分析した。2つの異なる組の動脈−静脈の内皮細胞cDNAプローブ(卵黄の動脈−静脈細胞及び単一の卵黄嚢の動脈及び静脈内皮細胞)をサザンブロットに使用した。ほとんどのクローンが、動脈細胞において強く発現され、そして静脈細胞によって弱く、又は検出し得ないほどに発現された。最初のスクリーニングは、さらなる動脈特異的遺伝子を単離するために設計された。12の候補の動脈特異的クローンを、単一細胞プローブを用いて単離し、一方、1つのクローンを、プールしたプローブを用いて単離した。インビボでのこれらの遺伝子の動脈特異的発現を、インサイチューハイブリダイゼーション実験によって確認し得る。これらのような方法は、動脈内皮細胞又は静脈特異的細胞に適用され得る。
【0100】
これらのデータは、単一の内皮細胞から新規の動脈又は静脈に特異的な遺伝子を単離することが可能であることを示す。このような血管型限定遺伝子は、動脈内皮細胞と静脈内皮細胞との間の生理学的差異に対する見識を提供し得る。本明細書中に記載されるような方法は、また、動脈及び静脈に特異的な疾患(例えば、動脈高血圧症、アテローム性動脈硬化症、深部静脈血栓、及び所定の型の静脈形成異常)の病因に関連する遺伝子を同定し得る。それらはまた、循環器系のヒト遺伝子障害に関する候補遺伝子を提供しうる。次いで、このような遺伝子の遺伝子産物は、新規の薬物標的として働き得る。
【0101】
付録I:新規の動脈又は静脈に特異的な遺伝子を単離するための、単一細胞PCR、3’cDNAライブラリー構築及び示差的スクリーニング手順
1.形態学的判断基準に基づく、E12.5〜E14.5の卵黄嚢からの卵黄動脈及び卵黄静脈の解体。
2.37℃にて45分間の、コラゲナーゼ溶液(5mg/ml)中での卵黄嚢の解離。
3.以下の方法の内の1つにより、単一又は少数群の内皮細胞(ES)を単離する。
a)一次抗体としてPECAM−1を使用する、磁気ビーズに基づく分離。
b)PECAM−1−FITC一次抗体を使用する、FACS精製。
c)内皮細胞同定のためのtie2−GFPトランスジェニックマウスに由来するGFP蛍光、続く微細管マウスピペッティング。
4.65℃にて1分間、PCRチューブ中で単一細胞を溶解させる。
5.室温で1〜2分間維持し、オリゴTをRNAにアニールさせる。
6.37℃にて15分間の、AMV及びMMLV酵素を用いた逆転写。
7.37℃にて15分間の、末端転移酵素及びdATPを用いたポリA尾部付加。
8.PCR反応設定:
100μl反応、5倍の通常レベルのdNTP混合物、高濃度のTaq。
対称な増幅のために、3’末端の24(T)を有する単一のPCRプライマーを使用する。
9.各々の細胞プレップに対して増幅したcDNAにおける、内皮特異的及び動脈/静脈特異的な3’プローブを用いたcDNAサザンブロッティング。
10.適切なプローブに対して強いシグナルを生じる少数の良好な細胞を選択する。アガロース上で500bp〜2kbのcDNAを単離する。
11.cDNAを沈殿させ、そして定量する。
12.λZAPII(Stratagene;LaJolla, CA)ファージアームにcDNAライブラリーを連結する。
13.非常に低い密度:1000pfu/プレートでライブラリーをプレーティングする。2つ組のフィルターリフトを取得する。
14.卵黄動脈細胞及び卵黄静脈細胞から作製したプローブを用いて2つ組のフィルターをスクリーニングする。
15.示差的に発現したファージクローンを選出する。卵黄動脈細胞及び卵黄静脈細胞から作製したプローブでプロービングすることによる、ファージ挿入物の逆(cDNA)サザンブロット確認。
16.cDNAフラグメントの発現パターンを調査するためのインサイチューハイブリダイゼーション。
【0102】
実施例12:ephrin−B2の細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体の産生
細菌において発現されたephrin−B2のフラグメントに対するポリクローナルウサギ抗体が以前に報告されたが、このような抗体は、細胞表面上の天然の形態のタンパク質とは典型的には反応性ではなく、それゆえ、細胞選別、機能的阻害及び薬物標的化を含む多くの適用には有用ではない。より望ましい結合特性を有する抗体を産生するために、我々は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞において、グリコホスファチジルイノシトール(GPI)に連結した形態としてのephrin−B2の細胞外ドメインを発現させた。ハムスターをこれらの細胞で免疫化し、ハイブリドーマをマウス骨髄腫細胞との融合によって調製し、そして上清をephrin−B2−GPIを発現するCOS細胞上でスクリーニングした。
【0103】
クローン#6E3は、生存するCOS細胞上のephrinB2に良好に結合した。ephrin−B2−GPI COS細胞株は、プールされたG418選択細胞群であり、細胞の30%がephrinB2に対してポジティブである。対照(非トランスフェクション)COS細胞は、同じ抗体で染色した場合にはネガティブであった。
【0104】
実施例13:数種の抗ephrin−B2抗体は、EphB2−ephrinB2結合相互作用をブロックする
抗体がまたブロック機能を有する(すなわち、ephrinB−2のそのレセプターへのephrinB2の結合を阻害する)場合、それらは強力な抗血管形成剤として使用され得る。このような機能(抗体を阻害する)を同定するアッセイを実証するために、我々は、可溶性EphB2−Fc融合タンパク質へのGPI−ephrin−B2(COS細胞において発現される)の結合を減少させる能力について、12のハムスター抗EphrinB2ハイブリドーマ上清をスクリーニングした。結合を、125 I−標識したヤギ抗ヒトFc抗体によって検出した。細胞と種々の上清とのプレインキュベーションにより、これらの上清の全てが、ephrin−B2−GPIに結合する抗体を含むとしても、大多数の抗体が引き続くレセプター−リガンド結合に対してブロック作用を有さないことが示された(対照を100%として)。抗体の1つは、ephrin−B2−GPI COS細胞へのEphB2−Fc結合において40%減少を生じた(Figure2)。
【0105】
均等物
本発明は、その好ましい実施態様に関して、特に示され、記載されているが、添付の請求の範囲で規定されている本発明の意図や範疇から外れることなく、形式や詳細において種々の変更が本明細書で行われてもよいことが当業者によって理解されるだろう。当業者であれば、単なる日常的な実験を用いて、本明細書に詳細に記載された発明の特定の態様に対する多くの均等物を認識し、あるいは確認することができるだろう。そのような均等物が、特許請求の範囲に含まれることを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療上有効量の、動脈特異的細胞表面分子と静脈特異的細胞表面分子との結合又は相互作用を変化させる薬物を哺乳動物に投与する工程を含む、哺乳動物の血管形成を変化させる方法。
【請求項2】
動脈特異的細胞表面分子が動脈特異的なリガンド又はレセプターであり、かつ静脈特異的細胞表面分子が静脈特異的なレセプター又はリガンドである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
動脈特異的細胞表面分子がEphrinファミリーリガンドであり、かつ静脈特異的細胞表面分子がEphファミリーレセプターである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
血管形成が阻害され、かつ薬物が動脈特異的Ephrinファミリーリガンドと静脈特異的Ephファミリーレセプターとの結合又は相互作用を妨げる、請求項3記載の方法。
【請求項5】
血管形成が増強され、かつ薬物が動脈特異的Ephrinファミリーリガンドとその静脈特異的Ephファミリーレセプターとの結合又は相互作用を増強する、請求項3記載の方法。
【請求項6】
薬物が、動脈特異的Ephrinファミリーリガンドのアンタゴニスト又は静脈特異的Ephファミリーレセプターのアンタゴニストである、請求項3記載の方法。
【請求項7】
動脈特異的EphrinファミリーリガンドがEphrinB2であり、かつ静脈特異的EphファミリーレセプターがEphB4である、請求項3記載の方法。
【請求項8】
(a)薬物、及び
(b)動脈特異的細胞表面分子を結合する成分
を含有した複合体を、(b)成分が動脈特異的細胞表面分子を結合するのに適した条件下で哺乳動物に投与し、それにより該薬物を動脈に送達する工程を含む、哺乳動物の動脈に薬物を選択的に送達する方法。
【請求項9】
動脈特異的細胞表面分子がリガンド又はレセプターである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
動脈特異的細胞表面分子がEphrinファミリーリガンドである、請求項8記載の方法。
【請求項11】
薬物が抗血管形成剤であり、かつ(b)成分が動脈特異的Ephrinファミリーリガンドに特異的な抗体、又は動脈特異的Ephrinファミリーリガンドのレセプターである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
動脈特異的EphrinファミリーリガンドがEphrinB2である、請求項10記載の方法。
【請求項13】
薬物が抗血管形成剤である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
薬物が血管形成剤である、請求項12記載の方法。
【請求項15】
薬物がアテローム性動脈硬化班の形成を阻害する、請求項12記載の方法。
【請求項16】
(a)薬物、及び
(b)静脈特異的細胞表面分子を結合する成分
を含有した複合体を、(b)成分が静脈特異的細胞表面分子を結合するのに適した条件下で哺乳動物に投与し、それにより該薬物を静脈に送達する工程を含む、哺乳動物の静脈に薬物を選択的に送達する方法。
【請求項17】
静脈特異的細胞表面分子がレセプター又はリガンドである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
静脈特異的細胞表面分子が静脈特異的Ephファミリーレセプターである、請求項16記載の方法。
【請求項19】
薬物が抗血管形成剤であり、かつ(b)成分が静脈特異的Ephファミリーレセプターに特異的な抗体、又は静脈特異的Ephファミリーレセプターのリガンドである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
静脈特異的EphファミリーレセプターがEphB4である、請求項18記載の方法。
【請求項21】
薬物が抗血管形成剤である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
薬物が血管形成剤である、請求項20記載の方法。
【請求項23】
動脈細胞で検出可能に発現されるが、静脈細胞では検出可能に発現されない指示遺伝子を有してなるトランスジェニックマウス。
【請求項24】
指示遺伝子が動脈特異的Ephrinファミリーリガンド遺伝子に挿入された、請求項23記載のマウス。
【請求項25】
遺伝子型がEphrinB2+/- のトランスジェニックマウス。
【請求項26】
EphrinB2遺伝子が全ての動脈を標識するが、静脈を標識しない挿入物を含有してなる、トランスジェニックマウス。
【請求項27】
遺伝子型がEphrinB2taulacZ/+ のトランスジェニックマウス。
【請求項28】
指示遺伝子の発現の検出に適した物質でマウスのセクションを染色する工程を含む、1以上のEphrinB2対立遺伝子に挿入された指示遺伝子を有するマウスにおける動脈細胞の同定方法。
【請求項29】
静脈内皮細胞で発現されるが、動脈内皮細胞では発現されない指示遺伝子を有してなるトランスジェニックマウス。
【請求項30】
指示遺伝子が静脈特異的Ephファミリーレセプター遺伝子に挿入されている、請求項29記載のマウス。
【請求項31】
静脈特異的Ephファミリーレセプター遺伝子がEphB4をコードする、請求項30記載のトランスジェニックマウス。
【請求項32】
遺伝子型がEphB4+/- のトランスジェニックマウス。
【請求項33】
指示遺伝子の発現の検出に適した物質でマウスのセクションを染色する工程を含む、1以上のEphB4対立遺伝子に挿入された指示遺伝子を有するマウスにおける静脈細胞の同定方法。
【請求項34】
動脈で特異的に発現される遺伝子に挿入された指示遺伝子を有するマウスに薬物を投与する工程、薬物の作用を観察する工程、及び適切な対照マウスで呈示されたものと作用を比較する工程を含む、動脈の増殖に対する薬物の作用の試験方法。
【請求項35】
静脈で特異的に発現される遺伝子に挿入された指示遺伝子を有するマウスに薬物を投与する工程、薬物の作用を観察する工程、及び適切な対照マウスで呈示されたものと作用を比較する工程を含む、静脈の増殖に対する薬物の作用の試験方法。
【請求項36】
EphrinB2に結合する分子であって、標識に結合されている分子に組織試料を接触させる工程、及び標識を検出する工程を含み、ここで該標識が細胞で検出されれば、該細胞は動脈細胞である、哺乳動物由来の組織試料中の動脈細胞の同定方法。
【請求項37】
分子が抗体である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
EphB4に結合する分子であって、標識に結合されている分子に組織試料を接触させる工程、及び標識を検出する工程を含み、ここで該標識が細胞で検出されれば、該細胞は静脈内皮細胞である、組織試料中の静脈内皮細胞の同定方法。
【請求項39】
分子が抗体である、請求項38記載の方法。
【請求項40】
EphrinB2を結合する部分に結合された物質を含有した複合体を哺乳動物に投与する工程を含む、哺乳動物の動脈へ物質を導入する方法。
【請求項41】
EphB4を結合する部分に結合された物質を含有した複合体を哺乳動物に投与する工程を含む、哺乳動物の静脈へ物質を導入する方法。
【請求項42】
動脈特異的細胞表面タンパク質の細胞外ドメインを含有した可溶性ポリペプチド、又は静脈特異的細胞表面タンパク質の細胞外ドメインを含有した可溶性ポリペプチドを哺乳動物に投与する工程を含む、哺乳動物における血管の発生を変化させる方法。
【請求項43】
動脈特異的細胞表面タンパク質がEphrinファミリーリガンドであり、かつ静脈特異的細胞表面タンパク質がEphファミリーレセプターである、請求項42記載の方法。
【請求項44】
EphrinファミリーリガンドがEphrinB2であり、かつEphファミリーレセプターがEphB4である、請求項43記載の方法。
【請求項45】
(a)(1)動脈細胞特異的表面分子、
(2)静脈細胞特異的表面分子、及び
(3)(1)の分子と(2)の分子との間の相互作用に適した条件下で、(1)の分子と(2)の分子との間の相互作用を阻害する能力の評価対象の薬物
を混合する工程、
(b)(1)の分子と(2)の分子とが相互作用する度合いを決定する工程、並びに
(c)(b)で決定した度合いを、(1)の分子と(2)の分子との相互作用が、評価対象の薬物の非存在下で、かつ(1)の分子と(2)の分子との相互作用に適した同じ条件下で発生する度合いと比較する工程
を含み、(1)の分子と(2)の分子との相互作用が薬物の非存在下よりも薬物の存在下の方が度合いが小さい場合、薬物が(1)の動脈細胞特異的分子と(2)の静脈細胞特異的分子との相互作用を阻害するものである、動脈細胞特異的表面分子と静脈細胞特異的表面分子との相互作用を阻害する薬物の同定方法。
【請求項46】
動脈細胞特異的表面分子がEphrinファミリーリガンドであり、かつ静脈細胞特異的表面分子がEphファミリーレセプターである、請求項45記載の方法。
【請求項47】
EphrinファミリーリガンドがEphrinB2であり、かつEphファミリーレセプターがEphB4である、請求項46記載の方法。
【請求項48】
(a)(1)動脈細胞特異的表面分子、
(2)静脈細胞特異的表面分子、及び
(3)(1)の分子と(2)の分子との間の相互作用に適した条件下で、(1)の分子と(2)の分子との間の相互作用を阻害する能力の評価対象の薬物
を混合する工程、
(b)(1)の分子と(2)の分子とが相互作用する度合いを決定する工程、並びに
(c)(b)で決定した度合いを、(1)の分子と(2)の分子との相互作用が評価対象の薬物の非存在下で、かつ(1)の分子と(2)の分子との相互作用に適した同じ条件下で発生する度合いと比較する工程
を含み、(1)の分子と(2)の分子との相互作用が薬物の非存在下よりも薬物の存在下の方が度合いが大きい場合、薬物が(1)の動脈細胞特異的分子と(2)の静脈細胞特異的分子との相互作用を増強するものである、動脈細胞特異的表面分子と静脈細胞特異的表面分子との相互作用を増強する薬物の同定方法。
【請求項49】
動脈細胞特異的表面分子がEphrinファミリーリガンドであり、かつ静脈細胞特異的表面分子がEphファミリーレセプターである、請求項48記載の方法。
【請求項50】
EphrinファミリーリガンドがEphrinB2であり、かつEphファミリーレセプターがEphB4である、請求項49記載の方法。
【請求項51】
動脈内皮細胞を含有した組織試料の細胞を分離する工程、分離した細胞と、動脈内皮細胞で特異的に発現される細胞表面タンパク質に結合する物質とを接触させる工程、及び該物質を結合した細胞と物質を結合しなかった細胞とを分離する工程を含む、動脈内皮細胞の単離方法。
【請求項52】
動脈内皮細胞を含有した組織試料の細胞を分離する工程、該細胞と、動脈内皮細胞で特異的に発現される細胞表面タンパク質に結合する物質であって、固体の支持体に結合されている物質とを接触させる工程、物質に結合しない細胞を除去する工程、並びに固体の支持体から動脈内皮細胞を放出させる工程を含む、動脈内皮細胞の単離方法。
【請求項53】
静脈内皮細胞を含有した組織試料の細胞を分離する工程、分離した細胞と、静脈内皮細胞で特異的に発現される細胞表面タンパク質に結合する物質とを接触させる工程、及び該物質を結合した細胞と物質を結合しなかった細胞とを分離する工程を含む、静脈内皮細胞の単離方法。
【請求項54】
静脈内皮細胞を含有した組織試料の細胞を分離する工程、組織試料の細胞と、静脈内皮細胞で特異的に発現される細胞表面タンパク質に結合する物質であって、固体の支持体に結合されている物質とを接触させる工程、物質に結合しない細胞を除去する工程、並びに固体の支持体から静脈内皮細胞を放出させる工程を含む、動脈内皮細胞の単離方法。
【請求項55】
単離された動脈内皮細胞。
【請求項56】
単離された静脈内皮細胞。
【請求項57】
単離された動脈細胞に1以上の薬物を添加する工程、及び作用について細胞を観察する工程を含む、動脈に対する1以上の薬物の作用の評価方法。
【請求項58】
細胞が内皮細胞である、請求項57記載の方法。
【請求項59】
単離された静脈内皮細胞に1以上の薬物を添加する工程、及び作用について細胞を観察する工程を含む、静脈に対する1以上の薬物の作用の評価方法。
【請求項60】
動脈内皮細胞由来の細胞株。
【請求項61】
静脈内皮細胞由来の細胞株。
【請求項62】
動脈で検出可能に産生されるが、静脈で検出可能に産生されないタンパク質を産生する細胞株。
【請求項63】
静脈で検出可能に産生されるが、動脈で検出可能に産生されないタンパク質を産生する細胞株。
【請求項64】
単離された動脈内皮細胞から作製されたcDNAライブラリー。
【請求項65】
単離された静脈内皮細胞から作製されたcDNAライブラリー。
【請求項66】
示差的な発現についての試験対象の遺伝子に指示挿入遺伝子を有するトランスジェニックマウスを作製する工程、及び指示挿入遺伝子の発現を観察する工程を含み、静脈内皮細胞及び動脈内皮細胞での指示挿入遺伝子の発現の違いが、示差的な発現を示す遺伝子を表すものである、動脈内皮細胞に比べて静脈内皮細胞において示差的な発現を示す遺伝子の同定方法。
【請求項67】
単離された動脈内皮細胞を遺伝学的に変化させる工程、及び変化させた細胞を哺乳動物に導入する工程を含む、哺乳動物における動脈の改変方法。
【請求項68】
単離された静脈内皮細胞を遺伝学的に変化させる工程、及び変化させた細胞を哺乳動物に導入する工程を含む、哺乳動物における静脈の改変方法。
【請求項69】
動脈特異的細胞表面分子と静脈特異的細胞表面分子との結合又は相互作用を変化させる治療上有効量の薬物を哺乳動物に投与する工程を含む、哺乳動物の腫瘍における血管新生を変化させる方法。
【請求項70】
血管新生が阻害され、かつ薬物が動脈特異的細胞表面分子と静脈特異的細胞表面分子との結合又は相互作用を妨げる、請求項69記載の方法。
【請求項71】
動脈特異的細胞表面分子がEphrinファミリーリガンドであり、かつ静脈特異的細胞表面分子がEphファミリーレセプターである、請求項70記載の方法。
【請求項72】
EphrinファミリーリガンドがEphrinB2であり、かつEphファミリーレセプターがEphB4である、請求項71記載の方法。
【請求項73】
EphrinB2に結合する薬物を哺乳動物に投与する工程を含む、哺乳動物における血管形成の阻害方法。
【請求項74】
a)動脈内皮細胞を単離する工程、
b)単離された細胞からcDNAを作製する工程、
c)cDNAからcDNAライブラリーを作製する工程、
d)単離された動脈内皮細胞から作製されたcDNAライブラリープローブ、及び単離された静脈内皮細胞から作製されたcDNAライブラリープローブを用いてDNAハイブリダイゼーションにより、ライブラリーをスクリーニングする工程、並びに
e)単離された動脈内皮細胞から作製されたプローブへの示差的なハイブリダイゼーションにより動脈特異的遺伝子を含むクローンを同定する工程
からなる、動脈特異的遺伝子を含むクローンの同定方法。
【請求項75】
EphrinB2の細胞外ドメインに結合する抗体。
【請求項76】
EphB4の細胞外ドメインに結合する抗体。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−53134(P2010−53134A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271209(P2009−271209)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【分割の表示】特願2000−543151(P2000−543151)の分割
【原出願日】平成11年4月13日(1999.4.13)
【出願人】(598128421)カリフォルニア インスティテュート オブ テクノロジー (26)
【Fターム(参考)】