化学分析装置及び化学分析カートリッジ
【課題】 遠心力を利用してカートリッジ内にて溶液を移動させる化学分析装置において、カートリッジの容器内の溶液を確実に移動させる。
【解決手段】 化学分析装置は、モータ、モータにより回転可能な保持ディスク、保持ディスク上に配置された複数の検査カートリッジ、検査カートリッジに穿孔するための穿孔機、加温装置及び検出装置を有する。検査カートリッジは、凹部によって形成された容器及び流路を有する基板を含み、基板には、容器及び流路を覆うカバーが装着される。保持ディスクの回転によって生成される遠心力を利用して、回転軸線に対して内周側の容器から流路を経由して回転軸線に対して外周側の容器へ溶液を移動させる。化学分析装置には、カバーを押圧するための押圧手段が設けられている。保持ディスクを回転させる前に、押圧手段によってカバーを押圧することにより、容器内の溶液の一部は、出口流路に導かれる。
【解決手段】 化学分析装置は、モータ、モータにより回転可能な保持ディスク、保持ディスク上に配置された複数の検査カートリッジ、検査カートリッジに穿孔するための穿孔機、加温装置及び検出装置を有する。検査カートリッジは、凹部によって形成された容器及び流路を有する基板を含み、基板には、容器及び流路を覆うカバーが装着される。保持ディスクの回転によって生成される遠心力を利用して、回転軸線に対して内周側の容器から流路を経由して回転軸線に対して外周側の容器へ溶液を移動させる。化学分析装置には、カバーを押圧するための押圧手段が設けられている。保持ディスクを回転させる前に、押圧手段によってカバーを押圧することにより、容器内の溶液の一部は、出口流路に導かれる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心力を利用して溶液の移動、混合等を行う化学分析装置に関し、特に、取り外し可能なカートリッジを使用する化学分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAを含む液体試料からDNAを抽出する方法としては、特表2003−502656号公報に、小型化されたインビトロ増幅アッセイを行うための装置および方法が記載されている。この装置では、DNA混合液を無機基体としてのガラスフィルタに通過させた後、洗浄液及び溶離液を通過させてDNAのみを回収している。ガラスフィルタは回転可能な構造体に設けてあり、洗浄液や溶離液等の試薬は同じ構造体内の各試薬リザーバに保持してある。各試薬は構造体が回転することにより発生する遠心力で流動し、各試薬リザーバとガラスフィルタを結ぶ微細流路に設けたバルブを開くことにより試薬がガラスフィルタを通過する。
【0003】
複数の化学物質を含む試料から核酸等の特定の化学物質を抽出し分析する化学分析装置としては、特表2001−527220号公報に、一体型流体操作カートリッジが記載されている。この装置では、一体型カートリッジ内部に溶解液や洗浄液や溶離液等の試薬、及び核酸を捕獲する捕獲構成部品を備え、核酸を含む試料をカートリッジ内部に注入した後、試料と溶解液を混合させて捕獲構成部品に通過させ、さらに捕獲構成部品に洗浄液を通過させ、さらに捕獲構成部品に溶離液を通過させ、捕獲構成部品を通過した後の溶離液をPCR試薬に接触させ反応チャンバへと流している。
【0004】
【特許文献1】特表2003−502656号公報
【特許文献2】特表2001−527220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特表2003−502656号公報記載の装置では、バルブには加熱することで溶けるワックス等を使用しているので、通過した試薬がバルブ部に残り回収したDNAを汚染する可能性がある。すなわちDNA混合液や洗浄液がバルブ部に残り、遠心力で溶離液をガラスフィルタに通過させている工程で、バルブ部に残ったDNA混合液や洗浄液が流れ込む可能性がある。
【0006】
また特表2001−527220号公報記載の一体型流体操作カートリッジでは、各試薬をポンプで送液する際、各試薬チャンバと捕獲構成部品を結ぶ微細流路に設けたバルブ等を開くことで試薬が捕獲構成部品を通過する。さらに捕獲構成部品を通過した試薬のうち洗浄液は廃液チャンバへ、溶離液は反応チャンバへと流れるように捕獲構成部品と各チャンバとの間の流路に設けたバルブ等で切り替えている。ポンプで複数の試薬を送液する場合流路壁に試薬が残り、特にバルブ等の障害物があると液が残りやすく、一旦液が残ると流動することがないため、別の試薬との合流部で汚染する可能性がある。また、捕獲構成部品を通過した洗浄液と溶離液とをバルブ等で切り替えて別々のチャンバに流動させる場合、先に廃液チャンバへと流動した洗浄液が反応チャンバへ切り替えるバルブ等の上流流路を汚染するため、溶離液に洗浄液が混入する恐れがある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、遠心力を利用してカートリッジ内にて溶液を移動させる化学分析装置において、カートリッジの容器内の溶液を確実に移動させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
化学分析装置は、モータにより回転可能な保持ディスク、保持ディスク上に配置された複数の検査カートリッジ、検査カートリッジに穿孔するための穿孔機、加温装置及び検出装置を有する。検査カートリッジは、凹部によって形成された容器及び流路を有する基板を含み、基板には、容器及び流路を覆うカバーが装着される。保持ディスクの回転によって生成される遠心力を利用して、回転軸線に対して内周側の容器から流路を経由して回転軸線に対して外周側の容器へ溶液を移動させる。
【0009】
化学分析装置には、カバーを押圧するための押圧手段が設けられている。保持ディスクを回転させる前に、押圧手段によってカバーを押圧することにより、容器内の溶液の一部は、出口流路に導かれる。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、遠心力を利用してカートリッジ内にて溶液を移動させる化学分析装置において、カートリッジの容器内の溶液を確実に移動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明による化学分析装置の例を示す図である。化学分析装置1は、モータ11、モータ11により回転可能な保持ディスク12、保持ディスク12上に配置された複数の検査カートリッジ2、検査カートリッジ2に穿孔するための穿孔機13、加温装置14及び検出装置15を有する。操作者は検査項目ごとに検査カートリッジ2を用意し、保持ディスク12に装着し、化学分析装置1を起動させる。
【0012】
本例の化学分析装置では、加温装置14と検出装置15はそれぞれ別の場所に設けられているが例えば両者を一体化し、加温と検出を同一の位置で行ってもよい。また、加温装置、及び、検出装置は、保持ディスク12の上面に位置されているが、どちらか一方又は両方を保持ディスク12の下面に配置してもよい。
【0013】
図2は検査カートリッジ2の斜視図である。検査カートリッジ2は略6角形の薄い基板21からなる。6角形の短辺が保持ディスクの回転中心の内周側に配置され、6角形の長辺が外周側に配置される。従って、以下に、6角形の短辺側を内周側、6角形の長辺側を外周と称する。
【0014】
検査カートリッジ2には、溶解液容器220、追加液容器230、洗浄液容器240、250、270、溶離液容器260、及び、増幅・検出試薬容器280が形成されている。これらの試薬容器には予め所定量の試薬が分注されている。
【0015】
検査カートリッジ2には、更に、試料容器210、血球貯蔵容器211、血清定量容器212、全血廃棄容器215、核酸捕捉部301、混合容器310、反応容器320、溶離液回収容器390、廃液貯蔵容器502が設けられている。核酸捕捉部301は、石英やガラスの多孔質材や繊維フィルタ等を有する。これらの容器等は互いに流路によって接続されている。これらの容器、及び、流路は、検査カートリッジ2の上面に形成された凹部である。流路の深さは、容器の深さより小さい。
【0016】
検査カートリッジ2の上面には、フィルム又は薄板等で構成されるカートリッジカバー22がカートリッジ上面を覆うように、接着又は接合されている。従って、容器、及び、流路は、密閉空間を形成している。
【0017】
本例では、遠心力を利用して、流路によって互いに接続されている2つの容器間にて試薬又は溶液を移動させる。先ず、2つの容器を覆うカートリッジカバー22を穿孔し、2つの容器を大気圧に開放する。次に、保持ディスク12を回転させることにより、容器内の試薬又は溶液は、遠心力の作用によって、内周側の容器から外周側の容器に移動する。このような操作を順次繰り返すことにより、所定の処理を実行することができる。
【0018】
以下全血を試料として用いた場合のウイルス核酸の抽出及び分析動作を説明する。図3に示すように、ステップaにて、操作者は、真空採血管等によって採血した全血を検査カートリッジ2に分注する。ステップbにて、検査カートリッジ2を図1の保持ディスク12に必要な数だけ装着する。ステップcにて、化学分析装置1を稼動する。それによって、全血からウイルスの遺伝子が抽出され、最終的に遺伝子が検出される。
【0019】
図4は化学分析装置の動作の概略を示す。図5は各動作の内容を示す。ステップS1にて、カートリッジカバー22を穿孔し、ステップS2にて、保持ディスク12を回転させる。それによって、ステップS100にて、全血の血清が血球より分離する。ステップS100の血清分離は、図5に示すように、2つの工程を含む。ステップS101の全血流動とステップS102の血清分離である。ステップS3にて、保持ディスク12の回転を停止する。
【0020】
ステップS4にて、カートリッジカバー22を穿孔し、ステップS5にて、保持ディスク12を回転させる。それによって、ステップS200にて、血清と溶解液が混合する。ステップS200の混合は、図5に示すように3つの工程を含む。ステップS201の血清定量流動及び溶解液流動、ステップS202の血清及び溶解液混合、及び、ステップS203の血清と溶解液の反応である。ステップS6にて、保持ディスク12の回転を停止する。
【0021】
ステップS7にて、カートリッジカバー22を穿孔し、ステップS8にて、保持ディスク12を回転させる。それによって、ステップS300にて、核酸捕捉がなされる。ステップS300の核酸捕捉は、図5に示すように4つの工程を含む。ステップS301の追加液流動、ステップS302の混合液流動、ステップS303の核酸捕捉部通過、及び、ステップS304の混合液の廃液貯蔵容器502への移動である。ステップS9にて、保持ディスク12の回転を停止する。
【0022】
次に、洗浄を説明する。洗浄は、第1、第2、及び第3洗浄工程を含む。これらの洗浄工程毎に、ステップS10〜ステップS12及びステップS400の動作を繰り返す。先ず、第1洗浄工程を説明する。ステップS10にて、カートリッジカバー22を穿孔し、ステップS11にて、保持ディスク12を回転させる。それによって、ステップS400にて、洗浄がなされる。ステップS400の洗浄は、図5に示すように3つの工程を含む。ステップS401の洗浄液流動、ステップS402の核酸捕捉部301の洗浄、及び、ステップS403の洗浄液の廃液貯蔵容器502への移動である。ステップS12にて、保持ディスク12の回転を停止する。
【0023】
第2洗浄工程は第1洗浄工程と同様である。第3洗浄工程では、図5に示すステップS402において、溶離液回収容器390の洗浄がなされる。それ以外は第1洗浄工程と同様である。
【0024】
ステップS13にて、カートリッジカバー22を穿孔し、ステップS14にて、保持ディスク12を回転させる。それによって、ステップS500にて、溶離がなされる。ステップS500の溶離は、図5に示すように3つの工程を含む。ステップS501の溶離液流動、ステップS502の核酸の溶離、及び、ステップS503の溶離した核酸を含む液の保持である。ステップS15にて、保持ディスク12の回転を停止する。
【0025】
ステップS16にて、カートリッジカバー22を穿孔し、ステップS17にて、保持ディスク12を回転させる。それによって、ステップS600にて、増幅・検出試薬混合がなされる。ステップS600の増幅・検出試薬混合は、図5に示すように2つの工程を含む。ステップS601の増幅・検出試薬流動、ステップS602の核酸を含む溶離液、増幅・検出試薬混合である。ステップS18にて、保持ディスク12の回転を停止する。ステップS700にて、増幅・検出がなされる。ステップS700の増幅・検出は、図5に示すように2つの工程を含む。ステップS701の液温制御及び核酸増幅・検出、ステップS702の核酸を含む溶離液、増幅・検出試薬の保持である。以下に、化学分析装置の動作の詳細を説明する。
【0026】
図6を参照して、化学分析装置の保持ディスク12に装着された検査カートリッジ2について説明する。溶解液容器220には血清中のウイルスの膜蛋白を溶解して核酸を溶出させるための溶解液621が分注されている。溶解液621は、血清中のウイルスや細菌の膜であるタンパク質を溶解して働きをするが、さらに核酸捕捉部301への核酸の吸着を促進させる。溶解液621は、例えば、DNAの溶出及び吸着には塩酸グアニジン、RNAの溶出及び吸着にはグアニジンチオシアネートであってよい。
【0027】
追加液容器230には、溶解液を補充するための追加液631が分注されている。追加液631は、例えば、溶解液621そのものであってよい。第1洗浄液容器240には、核酸捕捉部301に付着した蛋白等の不要成分を洗浄するための第1洗浄液641が分注されている。第1洗浄液641は、例えば溶解液621或いは溶解液621の塩濃度を低減した液であってよい。第2洗浄液容器250には、核酸捕捉部301に付着した塩等の不要成分を洗浄するための第2洗浄液651が分注されている。第2洗浄液651は、例えばエタノール或いはエタノール水溶液であってよい。溶離液容器260には核酸捕捉部301から核酸を溶離するための溶離液661が分注されている。溶離液661は、滅菌水又はpHを7から9に調整した水溶液であってよい。
【0028】
第3洗浄液容器270には、溶離液回収容器390に付着した塩等の成分を洗浄するための第3洗浄液671が分注されている。第3洗浄液671は、例えば滅菌水又はpHを7から9に調整した水溶液であってよい。
【0029】
増幅・検出試薬容器280には、増幅・検出試薬681が分注されている。増幅・検出試薬は、例えば、プライマー、プローブ、デオキシヌクレオシド三リン酸、酵素であってよい。
【0030】
試薬容器220、230、240、250、260、270、280の内周端には、通気孔222、232、242、252、262、272、282が設けられている。
【0031】
全血廃棄容器215の内周端には、空気流路216を介して通気孔217が設けられている。反応容器320、溶離液回収容器390、廃液貯蔵容器502の内周端には、通気孔323、394、503が設けられている。これらの通気孔の上側にて、カバーを穿孔することにより、これらの容器は大気圧に接続される。
【0032】
ステップS100の血清分離処理について説明する。試料容器210には試料注入口201が設けられている。操作者は、検査カートリッジ2の試料注入口201の上側にてカートリッジカバー22を穿孔し、真空採血管等で採血した全血610を試料注入口201より試料容器210に注入する。
【0033】
穿孔機13によって全血廃棄容器215の通気孔217の上側にてカバーを穿孔する。それによって、全血廃棄容器215は、全血廃棄容器通気孔217を介して大気圧に接続される。尚、試料容器210は試料注入口201を介して大気圧に接続されている。
【0034】
モータ11を駆動し、保持ディスク12を回転させる。試料容器210内の全血は、遠心力の作用により、外周方向に移動し、血球貯蔵容器211および血清定量容器212に流れる。
【0035】
図7に示すように、血清定量容器212と全血廃棄容器215の間には、血清定量容器212の内周端より始まり、内周方向に延びてから再び外周方向に延びる折り返し部を有するオーバーフロー流路が設けられている。オーバーフロー流路は、血清定量容器212から折り返し部までの断面積が小さいオーバーフロー細管流路213と折り返し部から全血廃棄容器215までの断面積が大きいオーバーフロー太管流路214を含む。即ち、折り返し部にて、オーバーフロー細管流路213とオーバーフロー太管流路214は接続されている。従って、血球貯蔵容器211および血清定量容器212が全血によって満たされると、全血は、オーバーフロー流路を介して、全血廃棄容器215に流れる。
【0036】
保持ディスク12を回転し続けると、血球は外周側の血球貯蔵容器211へ移動し血清は内周側の血清定量容器212に残る。即ち、全血610は血球と血清に分離する。所定の時間回転させ血清遠心分離動作が終了すると保持ディスク12の回転を停止させる。
【0037】
図8は、全血610が血球と血清に分離し、血球612は外周側の血球貯蔵容器211へ移動し、血清613は内周側の血清定量容器212に残った状態を示す。血清定量容器212と血球貯蔵容器211の間に堰が設けられており、血球貯蔵容器211内の血球612が血清定量容器212内に戻ることはできない。
【0038】
血清定量容器212と混合容器310の間には、血清定量容器212の外周端より始まり、内周方向に延びてから再び外周方向に延びる折り返し部を有する血清毛細管218が設けられている。血清定量容器212内の血清613の一部は、表面張力による毛細管力によって、血清毛細管218内を移動し、混合容器310と血清毛細管218の境界である混合容器入り口311に達する。しかしながら、混合容器310では、断面積が拡大するので、毛細管力は減少し、血清がそれ以上移動することはない。同様に、血清定量容器212内の血清613の一部は、表面張力による毛細管力によって、オーバーフロー細管流路213内を移動するが、オーバーフロー太管流路214では、断面積が拡大するので、毛細管力は減少し、血清がそれ以上移動することはない。半径方向位置401は、血清定量容器212、及び、オーバーフロー細管流路213における液面レベルを示す。
【0039】
本例では、血清定量容器212は所定量の血清を定量する機能を有する。例えば、血球貯蔵容器212の容積が250マイクロリットル、必要血清量が200マイクロリットルであると仮定する。試料容器210に500マイクロリットルの全血を分注すれば、全血廃棄容器215へ50マイクロリットルの全血がオーバーフローし、残りの450マイクロリットルの全血が血清と血球に分離する。このうち200マイクロリットルの血清が混合容器310へ流出する。本例では、450マイクロリットルの全血より、200マイクロリットル以上の血清を得ることができる。血清の比率が小さい全血の場合には、血球貯蔵容器の容積を大きくし全血試料を多くすればよい。
【0040】
試薬容器220、230、240、250、260、270、280の外周側には、出口流路221、231、241、251、261、271、281が設けられている。出口流路には、試薬容器の外周端から始まり内周側に折り返した後に外周側に延びる折り返し部223、233、243、253、263、273、283が形成されている。
【0041】
検査カートリッジ2の上面にはカートリッジカバー22が装着されているから、通気孔の位置にてカートリッジカバー22に穿孔しない限り、試薬容器220、230、240、250、260、270、280及び、出口流路221、231、241、251、261、271、281は、密閉され、そこに空気が流入することはない。しかしながら、これらの試薬容器、及び、出口流路には、カートリッジカバーを装着したときに封入された微量の空気が存在する。遠心力が作用すると、各試薬は試薬容器の外周側に移動し、出口流路内に押し込まれるが、試薬容器内に初期に封入された微量の空気が膨張し、試薬容器内に負圧が生成される。この負圧が遠心力と釣り合って試薬は試薬容器より流出することができない。
【0042】
回転数が増加し遠心力が大きくなると、試薬容器内の圧力は更に低下し、試薬の飽和蒸気圧以下になると気泡が発生する。それによって、負圧が減少し、遠心力との釣り合いが破れる。しかしながら、本例では、各試薬容器の出口流路221、231、241、251、261、271、281に、内周側に戻る折り返し部223、233、243、253、263、273、283が設けられているから、遠心力が大きくなっても、試薬容器内の負圧の減少を抑制し、試薬が出口流路から流出することが防止される。
【0043】
以下、穿孔機13によって、各試薬容器の通気孔の位置にて、カートリッジカバー22に穿孔し、各試薬容器を大気圧に接続する。モータ11によって保持ディスクを回転させることにより、遠心力によって、各試薬を遠心力で流動させる。
【0044】
図9を参照して、ステップS200の混合処理を説明する。穿孔機13によって、溶解液容器220の通気孔222の位置にて、カートリッジカバー22に穿孔する。反応容器320の通気孔323の位置にて、カートリッジカバー22に穿孔する。それによって、溶解液容器220及び反応容器320は大気圧に接続される。
【0045】
モータ11を駆動し、保持ディスク12を回転させる。溶解液容器220内の溶解液621は、遠心力の作用で外周側に流動し、折り返し部を有する溶解液容器出口流路221、混合容器310、及び、流路拡大部312を経由して、反応容器320に移動する。
【0046】
溶解液容器220の出口の半径方向位置401は、混合容器入り口311の半径方向位置402より内周側にあるから、サイホン効果により、溶解液容器220内の全ての溶解液621は混合容器310に流出する。
【0047】
図10に示すように、血清定量容器212と血清毛細管218の接続位置を通る半径方向位置403は、混合容器入り口311の半径方向位置402より内周側にある。従って、サイホン効果により血清定量容器212内の血清のうち半径方向位置403より内周側にある血清は全て混合容器310に流れ出る。混合容器310に流出した溶解液及び血清は、流路拡大部312を経由して反応容器320に移動する。反応容器320では、血清と溶解液621が混合され、反応する。
【0048】
混合容器310は溶解液と血清を混合するための空間であるが、そこに血清と溶解液の混合を促進させる部材を設けてもよい。混合を促進させる部材には、樹脂、ガラス、紙等からなる多孔性フィルタ、繊維、エッチングや機械加工等で製作したシリコンや金属等の突起物などがある。
【0049】
反応容器320と核酸捕捉部301の間には、反応容器320の外周端より始まり、内周方向に延びてから再び外周方向に延びる折り返し部を有する反応容器出口流路321が設けられている。回転中、反応容器320内の液面レベルは、反応容器出口流路321の折り返し部の最内周端の半径方向位置404よりも外周側にある。従って、反応容器320内の混合液は、反応容器出口流路321の折り返し部を越えて核酸捕捉部301へ移動することはない。回転中、混合液は反応容器320に保持される。
【0050】
所定の時間回転させ、血清と溶解液の混合処理が終了するとモータ11を停止し、保持ディスク12の回転を停止させる。
【0051】
尚、流路拡大部312は、保持ディスクの回転が停止したとき、反応容器320内の混合液が毛細管力によって、混合容器310に流れ出ることを防止するために設けた。即ち、反応容器320内の混合液が毛細管力によって、混合容器310方向に流れるとき、流路拡大部312によって毛細管力が減少し、それ以上、混合液が進むことはない。
【0052】
次に、ステップS300の核酸捕捉処理を説明する。穿孔機13によって、追加液容器230の通気孔232の位置にて、カートリッジカバー22に穿孔し、追加液容器230を大気圧に接続する。溶離液回収容器390の通気孔394の位置にて、カートリッジカバー22に穿孔し、溶離液回収容器390を大気圧に接続する。廃液貯蔵容器502の通気孔503の位置にて、カートリッジカバー22に穿孔し、廃液貯蔵容器502を大気圧に接続する。
【0053】
モータ11を駆動し、保持ディスク12を回転させる。遠心力の作用により、追加液容器230内の追加液631は追加液出口流路231を経て、反応容器320に移動する。それによって、反応容器320内の混合液の液面レベルは内周方向に移動する。
【0054】
図11に示すように、混合液の液面が反応容器出口流路321の最内周部の位置404に達すると、混合液は反応容器出口流路321の折り返し部を越えて流れ出し、核酸捕捉部301へ流れ込む。血清と溶解液の混合液の壁面に対する濡れ性がよい場合、遠心力が作用しないときでも、毛細管現象によって反応容器出口流路321内を混合液が流動する場合がある。このような場合には、追加液631を必要としない。
【0055】
核酸捕捉部301に導かれた混合液は、遠心力の作用によって外周方向に移動し、核酸捕捉部301を通過する。混合液が核酸捕捉部を通過すると、混合液中の核酸は核酸捕捉部301に吸着し、残りの廃液は溶離液回収容器390へ流れ込む。
【0056】
溶離液回収容器390の容積は、反応容器320の混合液の体積より小さい。従って、溶離液回収容器390に流れ込んだ廃液は、溶離液回収容器出口流路391に流れ込み、折り返し部393を越えて廃液貯蔵容器502に流れる。全ての廃液が廃液貯蔵容器502へ移動すると、次の洗浄を実行する。
【0057】
図12を参照して、ステップS400の洗浄及びステップ500の溶離を説明する。洗浄は第1、第2及び第3洗浄工程を含む。先ず、第1及び第2洗浄工程を説明する。モータ11を停止し、穿孔機13によって第1洗浄液容器240の通気孔242の位置にて、カートリッジカバー22を穿孔する。それによって、第1洗浄液容器240は大気圧に接続される。モータ11を回転させると、遠心力の作用によって、第1洗浄液は第1洗浄液容器240から第1洗浄液容器出口流路241を経て、核酸捕捉部301に流れ込み、核酸捕捉部301に付着した蛋白等の不要成分を洗浄する。洗浄後の廃液は、溶離液回収容器出口流路391を経て、廃液貯蔵容器502へと流出する。
【0058】
モータ11を停止し、穿孔機13によって第2洗浄液容器250の通気孔252の位置にて、カートリッジカバー22を穿孔する。それによって、第2洗浄液容器250は大気圧に接続される。モータ11を回転させると、遠心力の作用によって、第2洗浄液は第2洗浄液容器250から第2洗浄液容器出口流路251を経て、核酸捕捉部301に流れ込み、核酸捕捉部301に付着した塩等の不要成分を洗浄する。洗浄後の廃液は、溶離液回収容器出口流路391を経て、廃液貯蔵容器502へと流出する。
【0059】
第3洗浄工程を説明する。モータ11を停止し、穿孔機13によって第3洗浄液容器270の通気孔272の位置にて、カートリッジカバー22を穿孔する。それによって、第3洗浄液容器270は大気圧に接続される。モータ11を回転させると、遠心力の作用によって、第3洗浄液は第3洗浄液容器270から第3洗浄液容器出口流路271を経て、溶離液回収容器390に流れ込み、溶離液回収容器390を洗浄する。洗浄後の廃液は、溶離液回収容器出口流路391を経て、廃液貯蔵容器502へと流出する。洗浄の次に、核酸の溶離を実行する。
【0060】
ステップS500の溶離を説明する。モータ11を停止し、穿孔機13によって溶離液容器260の通気孔262の位置にて、カートリッジカバー22を穿孔する。それによって、溶離液容器260は大気圧に接続される。モータ11を回転させると、遠心力の作用によって、溶離液661は溶離液容器260から出口流路261を経て核酸捕捉部301に流れ込む。核酸捕捉部301にて、捕捉された核酸は、溶離液によって溶離される。溶離した核酸を含む溶離液は、核酸捕捉部301から溶離液回収容器390に流れ込む。
【0061】
溶離液回収容器390に流入した溶離液は、その液面レベルが溶離液回収容器出口流路391の折り返し部393の最内周部の半径方向位置405より外周側にあるため、溶離液回収容器390内に保持される。
【0062】
図13及び図14を参照して、ステップS600の増幅・検出試薬混合を説明する。モータ11を停止し、増幅・検出試薬容器280の通気孔282の位置にて、カートリッジカバー22を穿孔する。それによって、増幅・検出試薬容器280は大気圧に接続される。モータ11を回転させると、遠心力の作用によって、増幅・検出試薬容器280内の増幅・検出試薬が増幅・検出試薬容器出口流路281を経て溶離液回収容器390に流入する。それによって、核酸を含む溶離液と混合される。
【0063】
ステップS700の増幅・検出を説明する。モータ11を停止し、増幅検出方法に応じて、加温装置14を用いて、溶離液回収容器390の上から加温する。次に検出装置15を溶離液回収容器390の上に移動させ、例えば蛍光発光量を検出する。
【0064】
本発明によれば、試薬の分注操作が不要となり作業不備による試薬の汚染が起きることがない。また各試薬の流動を制御するためのバルブを流路途中に設ける必要がなく、流路途中でのバルブ部での液残りは発生せず、前工程での試薬による汚染を防止でき、液体試料中の核酸等の特定成分を高純度に抽出でき、高精度に分析できる。
【0065】
次に、試薬容器220、230、240、250、260、270、280の形状について説明する。ここでは、試薬容器220を例に説明するが、他の試薬容器230、240、250、260、270、280も同様である。
【0066】
図15を参照して、検査カートリッジ2に設けられた試薬容器220の第1の例を説明する。図15Aは、本例による試薬容器を、回転軸線を通り半径方向に延びる面によって切断した断面構成を示す図である。図の左側が内周側であり右側が外周側である。
【0067】
図示のように、試薬容器220は、カートリッジカバー22によって密閉されている。試薬容器220内には試薬621が分注されている。試薬容器220の外周側には、出口流路221が接続されている。図8に示したように、出口流路221には、試薬容器220の外周端から始まり内周側に折り返した後に外周側に延びる折り返し部223が形成されている。
【0068】
本例によると、カートリッジカバー22は凸部701を有している。凸部701は、試薬容器220の中心より内周側に、即ち、出口流路221とは反対側に形成される。凸部701には、カートリッジカバー22を装着したときに封入した空気が充填されている。保持ディスク12を回転させると、試薬621には遠心力によって外周方向の力が作用する。それによって、試薬621は外周方向に移動しようとするが、試薬容器220内の圧力が低下し、試薬621は内周方向の力を受ける。遠心力による外周方向の力と、試薬容器220内の圧力低下に起因した内周方向の力が釣り合って、試薬621は、試薬容器220より流出しない。
【0069】
図15Bに示すように、本例によると、カートリッジカバー22に穿孔する前に、棒13aによって凸部701を試薬容器220内に押し込む。それによって、試薬容器220内の空間の容積が小さくなり、試薬621は押し出されて、出口流路221内に進む。試薬621は、出口流路221の折り返し部223まで又はそれを超えた位置まで進む。
【0070】
図16に棒13aの例を示す。本例では、棒13aの先端には、出し入れ可能な針710が装着されている。従って、棒13aを凸部701に押し込んだ状態にて、針710を突出させることによって、カートリッジカバー22が穿孔される。針710は、棒13aの先端の内周側に設けられている。従って、穿孔は、カートリッジカバー22上の棒13aによって押し込まれた位置にて、内周側に形成される。
【0071】
穿孔が終わると、棒13aを引き込む。凸部701は、塑性変形しており、元の状態に戻らない。従って、試薬621は出口流路221の折り返し部223に押し出されたままである。保持ディスク12を回転させると、遠心力によって試薬621は外周方向の力を受ける。出口流路221の折り返し部223まで進んだ試薬621は、更に、出口流路221を進む。一旦、試薬621が折り返し部223を超えて進むと、それ以後は、サイホンの原理で、試薬621は流れ続ける。
【0072】
本例によると、棒13aをカートリッジカバー22に押し込むことによりカートリッジカバー22に凹部を形成するが、この凹部は塑性変形し元に戻らない必要がある。従って、このような塑性変形した凹部が形成されるのであれば、必ずしも、凸部701を予め形成する必要はない。例えば、棒13aに加熱装置を設け、カートリッジカバー22を加熱することによって凹部を形成してよい。
【0073】
図16の例では、棒13aに可動な針710が組み込まれているが、針710を棒13aとは別個に用意してもよい。
【0074】
図15に示した例では、試薬621を試薬容器220内にほぼ満たす必要がある。なぜなら、試薬容器220内の空気量が多いと、棒13aによってカートリッジカバー22の凸部701を押し込んでも、試薬621の液面は、出口流路221に届かない。そのため、棒13aによってカートリッジカバー22の凸部701を押し込んでも、空気が出口流路221に入り込み、試薬621が流動しない可能性がある。しかしながら、分注操作によって、試薬容器220に、試薬621が丁度満水となるように注入し、それをカートリッジカバー22で封止するのは困難である。
【0075】
図17を参照して、検査カートリッジ2に設けられた試薬容器220の他の例を説明する。図の左側が内周側であり右側が外周側である。図17Aに示すように、本例では、試薬容器220の容積は、図15の試薬容器の容積より大きく且つ隔壁720を設ける。隔壁720は、試薬容器220を内周側部分220Aと外周側部分220Bに分割する。隔壁720は、試薬容器220の深さと略等しい深さを有する。試薬容器220に、所定量の試薬621を分注すると、満水とならず、液面上に空気層が残る。カートリッジカバー22には、図15の例と同様に、凸部701が設けられてよい。
【0076】
保持ディスク12は、試薬容器220の試薬621を流し出すまでに、少なくとも1回は回転する。例えば、血清分離にて、保持ディスク12は回転する。したがって、穿孔を行う直前では、図17Bに示すように、遠心力によって、試薬621は、内周側部分220Aから隔壁720を超えて外周側部分220Bに移動する。内周側部分220Aでは、液面上に空気層が残るが、外周側部分220Bでは、満水となり、液面上に空気層は残らない。
【0077】
次に、図17Cに示すように、棒13aによって凸部701を試薬容器220の内周側部分220A内に押し込む。それによって、内周側部分220A内の空間の容積が小さくなり、内周側部分220A内の空気は、隔壁720を超えて外周側部分220Bに押し出される。すると、外周側部分220B内の試薬621は押し出されて、出口流路221内に進む。試薬621は、出口流路221の折り返し部223まで又はそれを超えた位置まで進む。次に、カートリッジカバー22を穿孔する。
【0078】
図16に示したように、棒13aを凸部701に押し込んだ状態にて、針710を突出させることによって、カートリッジカバー22が穿孔される。
【0079】
穿孔が終わると、棒13aを引き込む。凸部701は、塑性変形しており、元の状態に戻らない。従って、試薬621は出口流路221の折り返し部223に押し出されたままである。保持ディスク12を回転させると、遠心力によって試薬621は外周方向の力を受ける。出口流路221の折り返し部223まで進んだ試薬621は、更に、出口流路221を進む。一旦、試薬621が折り返し部223を超えて進むと、それ以後は、サイホンの原理で、試薬621は流れ続ける。
【0080】
図18〜図21を参照して、試薬容器220の更に他の例を説明する。図18A、図19A、図20A、及び、図21Aは、検査カートリッジ2に設けられた試薬容器220の平面構成を示し、図18B、図19B、図20B、及び、図21Bは、試薬容器220の断面構成を示す。図の右側が内周側であり左側が外周側である。図18に示すように、本例では、試薬容器220の内周側に空気室224が設けられている。空気室224と試薬容器220は通路によって接続されている。試薬容器220及び空気室224は、カートリッジカバー22によって密閉されている。試薬621は、試薬容器220内に配置されているが、空気室224には存在しない。
【0081】
試薬容器220の内周側には、出口流路221が接続されている。図8に示したように、出口流路221には、試薬容器220の外周端から始まり内周側に折り返した後に外周側に延びる折り返し部223が形成されている。カートリッジカバー22は凸部701を有し、凸部701は、空気室224上に形成される。
【0082】
次に、図19に示すように、棒800によって、凸部701を空気室224内に押し込む。それによって、空気室224内の空間の容積が小さくなり、空気室224内の空気は、試薬容器220内に押し出される。それによって、試薬容器220内の試薬621は押し出されて、出口流路221内に進む。試薬621は、出口流路221の折り返し部223まで又はそれを超えた位置まで進む。次に、カートリッジカバー22を穿孔する。図20に示すように、棒800の内部には、出し入れ可能な針810が装着されている。従って、棒800を凸部701に押し込んだ状態にて、針810を突出させることによって、カートリッジカバー22が穿孔される。
【0083】
図21に示すように、穿孔が終わると、針810を引き込み、棒800を引き込む。凸部701は、塑性変形しており、元の状態に戻らない。従って、試薬621は出口流路221の折り返し部223に押し出されたままである。保持ディスク12を回転させると、遠心力によって試薬621は外周方向の力を受ける。出口流路221の折り返し部223まで進んだ試薬621は、更に、出口流路221を進む。一旦、試薬621が折り返し部223を超えて進むと、それ以後は、サイホンの原理で、試薬621は流れ続ける。
【0084】
図22を参照して試薬容器220の更に他の例を説明する。図22Aに示すように、本例の試薬容器220は、図18〜図21に示した試薬容器と比較して、本例では、試薬容器220の容積はより大きく、且つ、試薬容器220内に隔壁720が設けられている点が異なる。隔壁720は、図17の例に示した隔壁と同様であり、試薬容器220を内周側部分220Aと外周側部分220Bに分割する。試薬容器220に、所定量の試薬621を分注すると、満水とならず、液面上に空気層が残る。
【0085】
保持ディスク12は、試薬容器220の試薬621を流し出すまでに、少なくとも1回は回転する。例えば、血清分離にて、保持ディスク12は回転する。したがって、穿孔を行う直前では、図22Bに示すように、遠心力によって、試薬621は、内周側部分220Aから隔壁720を超えて外周側部分220Bに移動する。内周側部分220Aでは、液面上に空気層が残るが、外周側部分220Bでは、満水となり、液面上に空気層は残らない。
【0086】
次に、図22Cに示すように、保持ディスク12の回転を停止する。外周側部分220Bの試薬621の一部は、隔壁720を超えて内周側部分220Aに戻るが、隔壁720があるため、内周側部分220Aに戻る量は少ない。以下は、図19から図21の処理と同様である。図22Dに示すように、棒800によって、凸部701を空気室224内に押し込む。それによって、空気室224内の空間の容積が小さくなり、空気室224内の空気は、試薬容器220内に押し出される。それによって、試薬容器220内の試薬621は押し出されて、出口流路221内に進む。試薬621は、出口流路221の折り返し部223まで又はそれを超えた位置まで進む。
【0087】
次に、図22Eに示すように、カートリッジカバー22を穿孔する。棒800を凸部701に押し込んだ状態にて、針810を突出させることによって、カートリッジカバー22が穿孔される。図22Fに示すように、穿孔が終わると、針810を引き込み、棒800を引き込む。凸部701は、塑性変形しており、元の状態に戻らない。従って、試薬621は出口流路221の折り返し部223に押し出されたままである。保持ディスク12を回転させると、遠心力によって試薬621は外周方向の力を受ける。出口流路221の折り返し部223まで進んだ試薬621は、更に、出口流路221を進む。一旦、試薬621が折り返し部223を超えて進むと、それ以後は、サイホンの原理で、試薬621は流れ続ける。
【0088】
本発明によれば、予め試薬容器の試薬を出口流路の折り返し部又はそれを超えた位置まで押し出す。したがって、保持ディスク12を回転させたとき、試薬は確実に出口流路を流れて、外周側の他の容器に流れる。
【0089】
以上、本発明の例を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲にて様々な変更が可能であることは当業者に容易に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明による化学分析装置の外観を示す斜視図である。
【図2】本発明による検査カートリッジの外観を示す斜視図である。
【図3】本発明による化学分析装置を用いて全血からウイルス核酸の抽出処理を行う場合の操作手順の概略を説明するための説明図である。
【図4】本発明による化学分析装置を用いて全血からウイルス核酸の抽出処理を行う場合の操作手順を説明するための説明図である。
【図5】本発明による化学分析装置を用いて全血からウイルス核酸の抽出処理を行う場合の手順の詳細を説明するための説明図である。
【図6】本発明による検査カートリッジの動作説明図である。
【図7】本発明による検査カートリッジの動作説明図である。
【図8】本発明による検査カートリッジの動作説明図である。
【図9】本発明による検査カートリッジの動作説明図である。
【図10】本発明による検査カートリッジの動作説明図である。
【図11】本発明による検査カートリッジの動作説明図である。
【図12】本発明による検査カートリッジの動作説明図である。
【図13】本発明による検査カートリッジの動作説明図である。
【図14】本発明による検査カートリッジの動作説明図である。
【図15】本発明による検査カートリッジの試薬容器の例を説明するための説明図である。
【図16】本発明による穿孔機の一部を示す図である。
【図17】本発明による検査カートリッジの試薬容器の他の例を説明するための説明図である。
【図18】本発明による検査カートリッジの試薬容器の更に他の例の動作説明図である。
【図19】本発明による検査カートリッジの試薬容器の更に他の例の動作説明図である。
【図20】本発明による検査カートリッジの試薬容器の更に他の例の動作説明図である。
【図21】本発明による検査カートリッジの試薬容器の更に他の例の動作説明図である。
【図22】本発明による検査カートリッジの試薬容器の更に別の例の動作説明図である。
【符号の説明】
【0091】
1…化学分析装置、2…検査カートリッジ、11…モータ、12…保持ディスク、13…穿孔機、14…加温装置、15…検出装置、210…試料容器、211…血球貯蔵容器、212…血清定量容器、215…全血廃棄容器、220…溶解液容器、230…追加液容器、240…第1洗浄液容器、250…第2洗浄液容器、260…溶離液容器、270…第3洗浄液容器、280…増幅・検出試薬容器、301…核酸捕捉部、310…混合容器、320…反応容器、390…溶離液回収容器、502…廃液貯蔵容器
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心力を利用して溶液の移動、混合等を行う化学分析装置に関し、特に、取り外し可能なカートリッジを使用する化学分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAを含む液体試料からDNAを抽出する方法としては、特表2003−502656号公報に、小型化されたインビトロ増幅アッセイを行うための装置および方法が記載されている。この装置では、DNA混合液を無機基体としてのガラスフィルタに通過させた後、洗浄液及び溶離液を通過させてDNAのみを回収している。ガラスフィルタは回転可能な構造体に設けてあり、洗浄液や溶離液等の試薬は同じ構造体内の各試薬リザーバに保持してある。各試薬は構造体が回転することにより発生する遠心力で流動し、各試薬リザーバとガラスフィルタを結ぶ微細流路に設けたバルブを開くことにより試薬がガラスフィルタを通過する。
【0003】
複数の化学物質を含む試料から核酸等の特定の化学物質を抽出し分析する化学分析装置としては、特表2001−527220号公報に、一体型流体操作カートリッジが記載されている。この装置では、一体型カートリッジ内部に溶解液や洗浄液や溶離液等の試薬、及び核酸を捕獲する捕獲構成部品を備え、核酸を含む試料をカートリッジ内部に注入した後、試料と溶解液を混合させて捕獲構成部品に通過させ、さらに捕獲構成部品に洗浄液を通過させ、さらに捕獲構成部品に溶離液を通過させ、捕獲構成部品を通過した後の溶離液をPCR試薬に接触させ反応チャンバへと流している。
【0004】
【特許文献1】特表2003−502656号公報
【特許文献2】特表2001−527220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特表2003−502656号公報記載の装置では、バルブには加熱することで溶けるワックス等を使用しているので、通過した試薬がバルブ部に残り回収したDNAを汚染する可能性がある。すなわちDNA混合液や洗浄液がバルブ部に残り、遠心力で溶離液をガラスフィルタに通過させている工程で、バルブ部に残ったDNA混合液や洗浄液が流れ込む可能性がある。
【0006】
また特表2001−527220号公報記載の一体型流体操作カートリッジでは、各試薬をポンプで送液する際、各試薬チャンバと捕獲構成部品を結ぶ微細流路に設けたバルブ等を開くことで試薬が捕獲構成部品を通過する。さらに捕獲構成部品を通過した試薬のうち洗浄液は廃液チャンバへ、溶離液は反応チャンバへと流れるように捕獲構成部品と各チャンバとの間の流路に設けたバルブ等で切り替えている。ポンプで複数の試薬を送液する場合流路壁に試薬が残り、特にバルブ等の障害物があると液が残りやすく、一旦液が残ると流動することがないため、別の試薬との合流部で汚染する可能性がある。また、捕獲構成部品を通過した洗浄液と溶離液とをバルブ等で切り替えて別々のチャンバに流動させる場合、先に廃液チャンバへと流動した洗浄液が反応チャンバへ切り替えるバルブ等の上流流路を汚染するため、溶離液に洗浄液が混入する恐れがある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、遠心力を利用してカートリッジ内にて溶液を移動させる化学分析装置において、カートリッジの容器内の溶液を確実に移動させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
化学分析装置は、モータにより回転可能な保持ディスク、保持ディスク上に配置された複数の検査カートリッジ、検査カートリッジに穿孔するための穿孔機、加温装置及び検出装置を有する。検査カートリッジは、凹部によって形成された容器及び流路を有する基板を含み、基板には、容器及び流路を覆うカバーが装着される。保持ディスクの回転によって生成される遠心力を利用して、回転軸線に対して内周側の容器から流路を経由して回転軸線に対して外周側の容器へ溶液を移動させる。
【0009】
化学分析装置には、カバーを押圧するための押圧手段が設けられている。保持ディスクを回転させる前に、押圧手段によってカバーを押圧することにより、容器内の溶液の一部は、出口流路に導かれる。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、遠心力を利用してカートリッジ内にて溶液を移動させる化学分析装置において、カートリッジの容器内の溶液を確実に移動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明による化学分析装置の例を示す図である。化学分析装置1は、モータ11、モータ11により回転可能な保持ディスク12、保持ディスク12上に配置された複数の検査カートリッジ2、検査カートリッジ2に穿孔するための穿孔機13、加温装置14及び検出装置15を有する。操作者は検査項目ごとに検査カートリッジ2を用意し、保持ディスク12に装着し、化学分析装置1を起動させる。
【0012】
本例の化学分析装置では、加温装置14と検出装置15はそれぞれ別の場所に設けられているが例えば両者を一体化し、加温と検出を同一の位置で行ってもよい。また、加温装置、及び、検出装置は、保持ディスク12の上面に位置されているが、どちらか一方又は両方を保持ディスク12の下面に配置してもよい。
【0013】
図2は検査カートリッジ2の斜視図である。検査カートリッジ2は略6角形の薄い基板21からなる。6角形の短辺が保持ディスクの回転中心の内周側に配置され、6角形の長辺が外周側に配置される。従って、以下に、6角形の短辺側を内周側、6角形の長辺側を外周と称する。
【0014】
検査カートリッジ2には、溶解液容器220、追加液容器230、洗浄液容器240、250、270、溶離液容器260、及び、増幅・検出試薬容器280が形成されている。これらの試薬容器には予め所定量の試薬が分注されている。
【0015】
検査カートリッジ2には、更に、試料容器210、血球貯蔵容器211、血清定量容器212、全血廃棄容器215、核酸捕捉部301、混合容器310、反応容器320、溶離液回収容器390、廃液貯蔵容器502が設けられている。核酸捕捉部301は、石英やガラスの多孔質材や繊維フィルタ等を有する。これらの容器等は互いに流路によって接続されている。これらの容器、及び、流路は、検査カートリッジ2の上面に形成された凹部である。流路の深さは、容器の深さより小さい。
【0016】
検査カートリッジ2の上面には、フィルム又は薄板等で構成されるカートリッジカバー22がカートリッジ上面を覆うように、接着又は接合されている。従って、容器、及び、流路は、密閉空間を形成している。
【0017】
本例では、遠心力を利用して、流路によって互いに接続されている2つの容器間にて試薬又は溶液を移動させる。先ず、2つの容器を覆うカートリッジカバー22を穿孔し、2つの容器を大気圧に開放する。次に、保持ディスク12を回転させることにより、容器内の試薬又は溶液は、遠心力の作用によって、内周側の容器から外周側の容器に移動する。このような操作を順次繰り返すことにより、所定の処理を実行することができる。
【0018】
以下全血を試料として用いた場合のウイルス核酸の抽出及び分析動作を説明する。図3に示すように、ステップaにて、操作者は、真空採血管等によって採血した全血を検査カートリッジ2に分注する。ステップbにて、検査カートリッジ2を図1の保持ディスク12に必要な数だけ装着する。ステップcにて、化学分析装置1を稼動する。それによって、全血からウイルスの遺伝子が抽出され、最終的に遺伝子が検出される。
【0019】
図4は化学分析装置の動作の概略を示す。図5は各動作の内容を示す。ステップS1にて、カートリッジカバー22を穿孔し、ステップS2にて、保持ディスク12を回転させる。それによって、ステップS100にて、全血の血清が血球より分離する。ステップS100の血清分離は、図5に示すように、2つの工程を含む。ステップS101の全血流動とステップS102の血清分離である。ステップS3にて、保持ディスク12の回転を停止する。
【0020】
ステップS4にて、カートリッジカバー22を穿孔し、ステップS5にて、保持ディスク12を回転させる。それによって、ステップS200にて、血清と溶解液が混合する。ステップS200の混合は、図5に示すように3つの工程を含む。ステップS201の血清定量流動及び溶解液流動、ステップS202の血清及び溶解液混合、及び、ステップS203の血清と溶解液の反応である。ステップS6にて、保持ディスク12の回転を停止する。
【0021】
ステップS7にて、カートリッジカバー22を穿孔し、ステップS8にて、保持ディスク12を回転させる。それによって、ステップS300にて、核酸捕捉がなされる。ステップS300の核酸捕捉は、図5に示すように4つの工程を含む。ステップS301の追加液流動、ステップS302の混合液流動、ステップS303の核酸捕捉部通過、及び、ステップS304の混合液の廃液貯蔵容器502への移動である。ステップS9にて、保持ディスク12の回転を停止する。
【0022】
次に、洗浄を説明する。洗浄は、第1、第2、及び第3洗浄工程を含む。これらの洗浄工程毎に、ステップS10〜ステップS12及びステップS400の動作を繰り返す。先ず、第1洗浄工程を説明する。ステップS10にて、カートリッジカバー22を穿孔し、ステップS11にて、保持ディスク12を回転させる。それによって、ステップS400にて、洗浄がなされる。ステップS400の洗浄は、図5に示すように3つの工程を含む。ステップS401の洗浄液流動、ステップS402の核酸捕捉部301の洗浄、及び、ステップS403の洗浄液の廃液貯蔵容器502への移動である。ステップS12にて、保持ディスク12の回転を停止する。
【0023】
第2洗浄工程は第1洗浄工程と同様である。第3洗浄工程では、図5に示すステップS402において、溶離液回収容器390の洗浄がなされる。それ以外は第1洗浄工程と同様である。
【0024】
ステップS13にて、カートリッジカバー22を穿孔し、ステップS14にて、保持ディスク12を回転させる。それによって、ステップS500にて、溶離がなされる。ステップS500の溶離は、図5に示すように3つの工程を含む。ステップS501の溶離液流動、ステップS502の核酸の溶離、及び、ステップS503の溶離した核酸を含む液の保持である。ステップS15にて、保持ディスク12の回転を停止する。
【0025】
ステップS16にて、カートリッジカバー22を穿孔し、ステップS17にて、保持ディスク12を回転させる。それによって、ステップS600にて、増幅・検出試薬混合がなされる。ステップS600の増幅・検出試薬混合は、図5に示すように2つの工程を含む。ステップS601の増幅・検出試薬流動、ステップS602の核酸を含む溶離液、増幅・検出試薬混合である。ステップS18にて、保持ディスク12の回転を停止する。ステップS700にて、増幅・検出がなされる。ステップS700の増幅・検出は、図5に示すように2つの工程を含む。ステップS701の液温制御及び核酸増幅・検出、ステップS702の核酸を含む溶離液、増幅・検出試薬の保持である。以下に、化学分析装置の動作の詳細を説明する。
【0026】
図6を参照して、化学分析装置の保持ディスク12に装着された検査カートリッジ2について説明する。溶解液容器220には血清中のウイルスの膜蛋白を溶解して核酸を溶出させるための溶解液621が分注されている。溶解液621は、血清中のウイルスや細菌の膜であるタンパク質を溶解して働きをするが、さらに核酸捕捉部301への核酸の吸着を促進させる。溶解液621は、例えば、DNAの溶出及び吸着には塩酸グアニジン、RNAの溶出及び吸着にはグアニジンチオシアネートであってよい。
【0027】
追加液容器230には、溶解液を補充するための追加液631が分注されている。追加液631は、例えば、溶解液621そのものであってよい。第1洗浄液容器240には、核酸捕捉部301に付着した蛋白等の不要成分を洗浄するための第1洗浄液641が分注されている。第1洗浄液641は、例えば溶解液621或いは溶解液621の塩濃度を低減した液であってよい。第2洗浄液容器250には、核酸捕捉部301に付着した塩等の不要成分を洗浄するための第2洗浄液651が分注されている。第2洗浄液651は、例えばエタノール或いはエタノール水溶液であってよい。溶離液容器260には核酸捕捉部301から核酸を溶離するための溶離液661が分注されている。溶離液661は、滅菌水又はpHを7から9に調整した水溶液であってよい。
【0028】
第3洗浄液容器270には、溶離液回収容器390に付着した塩等の成分を洗浄するための第3洗浄液671が分注されている。第3洗浄液671は、例えば滅菌水又はpHを7から9に調整した水溶液であってよい。
【0029】
増幅・検出試薬容器280には、増幅・検出試薬681が分注されている。増幅・検出試薬は、例えば、プライマー、プローブ、デオキシヌクレオシド三リン酸、酵素であってよい。
【0030】
試薬容器220、230、240、250、260、270、280の内周端には、通気孔222、232、242、252、262、272、282が設けられている。
【0031】
全血廃棄容器215の内周端には、空気流路216を介して通気孔217が設けられている。反応容器320、溶離液回収容器390、廃液貯蔵容器502の内周端には、通気孔323、394、503が設けられている。これらの通気孔の上側にて、カバーを穿孔することにより、これらの容器は大気圧に接続される。
【0032】
ステップS100の血清分離処理について説明する。試料容器210には試料注入口201が設けられている。操作者は、検査カートリッジ2の試料注入口201の上側にてカートリッジカバー22を穿孔し、真空採血管等で採血した全血610を試料注入口201より試料容器210に注入する。
【0033】
穿孔機13によって全血廃棄容器215の通気孔217の上側にてカバーを穿孔する。それによって、全血廃棄容器215は、全血廃棄容器通気孔217を介して大気圧に接続される。尚、試料容器210は試料注入口201を介して大気圧に接続されている。
【0034】
モータ11を駆動し、保持ディスク12を回転させる。試料容器210内の全血は、遠心力の作用により、外周方向に移動し、血球貯蔵容器211および血清定量容器212に流れる。
【0035】
図7に示すように、血清定量容器212と全血廃棄容器215の間には、血清定量容器212の内周端より始まり、内周方向に延びてから再び外周方向に延びる折り返し部を有するオーバーフロー流路が設けられている。オーバーフロー流路は、血清定量容器212から折り返し部までの断面積が小さいオーバーフロー細管流路213と折り返し部から全血廃棄容器215までの断面積が大きいオーバーフロー太管流路214を含む。即ち、折り返し部にて、オーバーフロー細管流路213とオーバーフロー太管流路214は接続されている。従って、血球貯蔵容器211および血清定量容器212が全血によって満たされると、全血は、オーバーフロー流路を介して、全血廃棄容器215に流れる。
【0036】
保持ディスク12を回転し続けると、血球は外周側の血球貯蔵容器211へ移動し血清は内周側の血清定量容器212に残る。即ち、全血610は血球と血清に分離する。所定の時間回転させ血清遠心分離動作が終了すると保持ディスク12の回転を停止させる。
【0037】
図8は、全血610が血球と血清に分離し、血球612は外周側の血球貯蔵容器211へ移動し、血清613は内周側の血清定量容器212に残った状態を示す。血清定量容器212と血球貯蔵容器211の間に堰が設けられており、血球貯蔵容器211内の血球612が血清定量容器212内に戻ることはできない。
【0038】
血清定量容器212と混合容器310の間には、血清定量容器212の外周端より始まり、内周方向に延びてから再び外周方向に延びる折り返し部を有する血清毛細管218が設けられている。血清定量容器212内の血清613の一部は、表面張力による毛細管力によって、血清毛細管218内を移動し、混合容器310と血清毛細管218の境界である混合容器入り口311に達する。しかしながら、混合容器310では、断面積が拡大するので、毛細管力は減少し、血清がそれ以上移動することはない。同様に、血清定量容器212内の血清613の一部は、表面張力による毛細管力によって、オーバーフロー細管流路213内を移動するが、オーバーフロー太管流路214では、断面積が拡大するので、毛細管力は減少し、血清がそれ以上移動することはない。半径方向位置401は、血清定量容器212、及び、オーバーフロー細管流路213における液面レベルを示す。
【0039】
本例では、血清定量容器212は所定量の血清を定量する機能を有する。例えば、血球貯蔵容器212の容積が250マイクロリットル、必要血清量が200マイクロリットルであると仮定する。試料容器210に500マイクロリットルの全血を分注すれば、全血廃棄容器215へ50マイクロリットルの全血がオーバーフローし、残りの450マイクロリットルの全血が血清と血球に分離する。このうち200マイクロリットルの血清が混合容器310へ流出する。本例では、450マイクロリットルの全血より、200マイクロリットル以上の血清を得ることができる。血清の比率が小さい全血の場合には、血球貯蔵容器の容積を大きくし全血試料を多くすればよい。
【0040】
試薬容器220、230、240、250、260、270、280の外周側には、出口流路221、231、241、251、261、271、281が設けられている。出口流路には、試薬容器の外周端から始まり内周側に折り返した後に外周側に延びる折り返し部223、233、243、253、263、273、283が形成されている。
【0041】
検査カートリッジ2の上面にはカートリッジカバー22が装着されているから、通気孔の位置にてカートリッジカバー22に穿孔しない限り、試薬容器220、230、240、250、260、270、280及び、出口流路221、231、241、251、261、271、281は、密閉され、そこに空気が流入することはない。しかしながら、これらの試薬容器、及び、出口流路には、カートリッジカバーを装着したときに封入された微量の空気が存在する。遠心力が作用すると、各試薬は試薬容器の外周側に移動し、出口流路内に押し込まれるが、試薬容器内に初期に封入された微量の空気が膨張し、試薬容器内に負圧が生成される。この負圧が遠心力と釣り合って試薬は試薬容器より流出することができない。
【0042】
回転数が増加し遠心力が大きくなると、試薬容器内の圧力は更に低下し、試薬の飽和蒸気圧以下になると気泡が発生する。それによって、負圧が減少し、遠心力との釣り合いが破れる。しかしながら、本例では、各試薬容器の出口流路221、231、241、251、261、271、281に、内周側に戻る折り返し部223、233、243、253、263、273、283が設けられているから、遠心力が大きくなっても、試薬容器内の負圧の減少を抑制し、試薬が出口流路から流出することが防止される。
【0043】
以下、穿孔機13によって、各試薬容器の通気孔の位置にて、カートリッジカバー22に穿孔し、各試薬容器を大気圧に接続する。モータ11によって保持ディスクを回転させることにより、遠心力によって、各試薬を遠心力で流動させる。
【0044】
図9を参照して、ステップS200の混合処理を説明する。穿孔機13によって、溶解液容器220の通気孔222の位置にて、カートリッジカバー22に穿孔する。反応容器320の通気孔323の位置にて、カートリッジカバー22に穿孔する。それによって、溶解液容器220及び反応容器320は大気圧に接続される。
【0045】
モータ11を駆動し、保持ディスク12を回転させる。溶解液容器220内の溶解液621は、遠心力の作用で外周側に流動し、折り返し部を有する溶解液容器出口流路221、混合容器310、及び、流路拡大部312を経由して、反応容器320に移動する。
【0046】
溶解液容器220の出口の半径方向位置401は、混合容器入り口311の半径方向位置402より内周側にあるから、サイホン効果により、溶解液容器220内の全ての溶解液621は混合容器310に流出する。
【0047】
図10に示すように、血清定量容器212と血清毛細管218の接続位置を通る半径方向位置403は、混合容器入り口311の半径方向位置402より内周側にある。従って、サイホン効果により血清定量容器212内の血清のうち半径方向位置403より内周側にある血清は全て混合容器310に流れ出る。混合容器310に流出した溶解液及び血清は、流路拡大部312を経由して反応容器320に移動する。反応容器320では、血清と溶解液621が混合され、反応する。
【0048】
混合容器310は溶解液と血清を混合するための空間であるが、そこに血清と溶解液の混合を促進させる部材を設けてもよい。混合を促進させる部材には、樹脂、ガラス、紙等からなる多孔性フィルタ、繊維、エッチングや機械加工等で製作したシリコンや金属等の突起物などがある。
【0049】
反応容器320と核酸捕捉部301の間には、反応容器320の外周端より始まり、内周方向に延びてから再び外周方向に延びる折り返し部を有する反応容器出口流路321が設けられている。回転中、反応容器320内の液面レベルは、反応容器出口流路321の折り返し部の最内周端の半径方向位置404よりも外周側にある。従って、反応容器320内の混合液は、反応容器出口流路321の折り返し部を越えて核酸捕捉部301へ移動することはない。回転中、混合液は反応容器320に保持される。
【0050】
所定の時間回転させ、血清と溶解液の混合処理が終了するとモータ11を停止し、保持ディスク12の回転を停止させる。
【0051】
尚、流路拡大部312は、保持ディスクの回転が停止したとき、反応容器320内の混合液が毛細管力によって、混合容器310に流れ出ることを防止するために設けた。即ち、反応容器320内の混合液が毛細管力によって、混合容器310方向に流れるとき、流路拡大部312によって毛細管力が減少し、それ以上、混合液が進むことはない。
【0052】
次に、ステップS300の核酸捕捉処理を説明する。穿孔機13によって、追加液容器230の通気孔232の位置にて、カートリッジカバー22に穿孔し、追加液容器230を大気圧に接続する。溶離液回収容器390の通気孔394の位置にて、カートリッジカバー22に穿孔し、溶離液回収容器390を大気圧に接続する。廃液貯蔵容器502の通気孔503の位置にて、カートリッジカバー22に穿孔し、廃液貯蔵容器502を大気圧に接続する。
【0053】
モータ11を駆動し、保持ディスク12を回転させる。遠心力の作用により、追加液容器230内の追加液631は追加液出口流路231を経て、反応容器320に移動する。それによって、反応容器320内の混合液の液面レベルは内周方向に移動する。
【0054】
図11に示すように、混合液の液面が反応容器出口流路321の最内周部の位置404に達すると、混合液は反応容器出口流路321の折り返し部を越えて流れ出し、核酸捕捉部301へ流れ込む。血清と溶解液の混合液の壁面に対する濡れ性がよい場合、遠心力が作用しないときでも、毛細管現象によって反応容器出口流路321内を混合液が流動する場合がある。このような場合には、追加液631を必要としない。
【0055】
核酸捕捉部301に導かれた混合液は、遠心力の作用によって外周方向に移動し、核酸捕捉部301を通過する。混合液が核酸捕捉部を通過すると、混合液中の核酸は核酸捕捉部301に吸着し、残りの廃液は溶離液回収容器390へ流れ込む。
【0056】
溶離液回収容器390の容積は、反応容器320の混合液の体積より小さい。従って、溶離液回収容器390に流れ込んだ廃液は、溶離液回収容器出口流路391に流れ込み、折り返し部393を越えて廃液貯蔵容器502に流れる。全ての廃液が廃液貯蔵容器502へ移動すると、次の洗浄を実行する。
【0057】
図12を参照して、ステップS400の洗浄及びステップ500の溶離を説明する。洗浄は第1、第2及び第3洗浄工程を含む。先ず、第1及び第2洗浄工程を説明する。モータ11を停止し、穿孔機13によって第1洗浄液容器240の通気孔242の位置にて、カートリッジカバー22を穿孔する。それによって、第1洗浄液容器240は大気圧に接続される。モータ11を回転させると、遠心力の作用によって、第1洗浄液は第1洗浄液容器240から第1洗浄液容器出口流路241を経て、核酸捕捉部301に流れ込み、核酸捕捉部301に付着した蛋白等の不要成分を洗浄する。洗浄後の廃液は、溶離液回収容器出口流路391を経て、廃液貯蔵容器502へと流出する。
【0058】
モータ11を停止し、穿孔機13によって第2洗浄液容器250の通気孔252の位置にて、カートリッジカバー22を穿孔する。それによって、第2洗浄液容器250は大気圧に接続される。モータ11を回転させると、遠心力の作用によって、第2洗浄液は第2洗浄液容器250から第2洗浄液容器出口流路251を経て、核酸捕捉部301に流れ込み、核酸捕捉部301に付着した塩等の不要成分を洗浄する。洗浄後の廃液は、溶離液回収容器出口流路391を経て、廃液貯蔵容器502へと流出する。
【0059】
第3洗浄工程を説明する。モータ11を停止し、穿孔機13によって第3洗浄液容器270の通気孔272の位置にて、カートリッジカバー22を穿孔する。それによって、第3洗浄液容器270は大気圧に接続される。モータ11を回転させると、遠心力の作用によって、第3洗浄液は第3洗浄液容器270から第3洗浄液容器出口流路271を経て、溶離液回収容器390に流れ込み、溶離液回収容器390を洗浄する。洗浄後の廃液は、溶離液回収容器出口流路391を経て、廃液貯蔵容器502へと流出する。洗浄の次に、核酸の溶離を実行する。
【0060】
ステップS500の溶離を説明する。モータ11を停止し、穿孔機13によって溶離液容器260の通気孔262の位置にて、カートリッジカバー22を穿孔する。それによって、溶離液容器260は大気圧に接続される。モータ11を回転させると、遠心力の作用によって、溶離液661は溶離液容器260から出口流路261を経て核酸捕捉部301に流れ込む。核酸捕捉部301にて、捕捉された核酸は、溶離液によって溶離される。溶離した核酸を含む溶離液は、核酸捕捉部301から溶離液回収容器390に流れ込む。
【0061】
溶離液回収容器390に流入した溶離液は、その液面レベルが溶離液回収容器出口流路391の折り返し部393の最内周部の半径方向位置405より外周側にあるため、溶離液回収容器390内に保持される。
【0062】
図13及び図14を参照して、ステップS600の増幅・検出試薬混合を説明する。モータ11を停止し、増幅・検出試薬容器280の通気孔282の位置にて、カートリッジカバー22を穿孔する。それによって、増幅・検出試薬容器280は大気圧に接続される。モータ11を回転させると、遠心力の作用によって、増幅・検出試薬容器280内の増幅・検出試薬が増幅・検出試薬容器出口流路281を経て溶離液回収容器390に流入する。それによって、核酸を含む溶離液と混合される。
【0063】
ステップS700の増幅・検出を説明する。モータ11を停止し、増幅検出方法に応じて、加温装置14を用いて、溶離液回収容器390の上から加温する。次に検出装置15を溶離液回収容器390の上に移動させ、例えば蛍光発光量を検出する。
【0064】
本発明によれば、試薬の分注操作が不要となり作業不備による試薬の汚染が起きることがない。また各試薬の流動を制御するためのバルブを流路途中に設ける必要がなく、流路途中でのバルブ部での液残りは発生せず、前工程での試薬による汚染を防止でき、液体試料中の核酸等の特定成分を高純度に抽出でき、高精度に分析できる。
【0065】
次に、試薬容器220、230、240、250、260、270、280の形状について説明する。ここでは、試薬容器220を例に説明するが、他の試薬容器230、240、250、260、270、280も同様である。
【0066】
図15を参照して、検査カートリッジ2に設けられた試薬容器220の第1の例を説明する。図15Aは、本例による試薬容器を、回転軸線を通り半径方向に延びる面によって切断した断面構成を示す図である。図の左側が内周側であり右側が外周側である。
【0067】
図示のように、試薬容器220は、カートリッジカバー22によって密閉されている。試薬容器220内には試薬621が分注されている。試薬容器220の外周側には、出口流路221が接続されている。図8に示したように、出口流路221には、試薬容器220の外周端から始まり内周側に折り返した後に外周側に延びる折り返し部223が形成されている。
【0068】
本例によると、カートリッジカバー22は凸部701を有している。凸部701は、試薬容器220の中心より内周側に、即ち、出口流路221とは反対側に形成される。凸部701には、カートリッジカバー22を装着したときに封入した空気が充填されている。保持ディスク12を回転させると、試薬621には遠心力によって外周方向の力が作用する。それによって、試薬621は外周方向に移動しようとするが、試薬容器220内の圧力が低下し、試薬621は内周方向の力を受ける。遠心力による外周方向の力と、試薬容器220内の圧力低下に起因した内周方向の力が釣り合って、試薬621は、試薬容器220より流出しない。
【0069】
図15Bに示すように、本例によると、カートリッジカバー22に穿孔する前に、棒13aによって凸部701を試薬容器220内に押し込む。それによって、試薬容器220内の空間の容積が小さくなり、試薬621は押し出されて、出口流路221内に進む。試薬621は、出口流路221の折り返し部223まで又はそれを超えた位置まで進む。
【0070】
図16に棒13aの例を示す。本例では、棒13aの先端には、出し入れ可能な針710が装着されている。従って、棒13aを凸部701に押し込んだ状態にて、針710を突出させることによって、カートリッジカバー22が穿孔される。針710は、棒13aの先端の内周側に設けられている。従って、穿孔は、カートリッジカバー22上の棒13aによって押し込まれた位置にて、内周側に形成される。
【0071】
穿孔が終わると、棒13aを引き込む。凸部701は、塑性変形しており、元の状態に戻らない。従って、試薬621は出口流路221の折り返し部223に押し出されたままである。保持ディスク12を回転させると、遠心力によって試薬621は外周方向の力を受ける。出口流路221の折り返し部223まで進んだ試薬621は、更に、出口流路221を進む。一旦、試薬621が折り返し部223を超えて進むと、それ以後は、サイホンの原理で、試薬621は流れ続ける。
【0072】
本例によると、棒13aをカートリッジカバー22に押し込むことによりカートリッジカバー22に凹部を形成するが、この凹部は塑性変形し元に戻らない必要がある。従って、このような塑性変形した凹部が形成されるのであれば、必ずしも、凸部701を予め形成する必要はない。例えば、棒13aに加熱装置を設け、カートリッジカバー22を加熱することによって凹部を形成してよい。
【0073】
図16の例では、棒13aに可動な針710が組み込まれているが、針710を棒13aとは別個に用意してもよい。
【0074】
図15に示した例では、試薬621を試薬容器220内にほぼ満たす必要がある。なぜなら、試薬容器220内の空気量が多いと、棒13aによってカートリッジカバー22の凸部701を押し込んでも、試薬621の液面は、出口流路221に届かない。そのため、棒13aによってカートリッジカバー22の凸部701を押し込んでも、空気が出口流路221に入り込み、試薬621が流動しない可能性がある。しかしながら、分注操作によって、試薬容器220に、試薬621が丁度満水となるように注入し、それをカートリッジカバー22で封止するのは困難である。
【0075】
図17を参照して、検査カートリッジ2に設けられた試薬容器220の他の例を説明する。図の左側が内周側であり右側が外周側である。図17Aに示すように、本例では、試薬容器220の容積は、図15の試薬容器の容積より大きく且つ隔壁720を設ける。隔壁720は、試薬容器220を内周側部分220Aと外周側部分220Bに分割する。隔壁720は、試薬容器220の深さと略等しい深さを有する。試薬容器220に、所定量の試薬621を分注すると、満水とならず、液面上に空気層が残る。カートリッジカバー22には、図15の例と同様に、凸部701が設けられてよい。
【0076】
保持ディスク12は、試薬容器220の試薬621を流し出すまでに、少なくとも1回は回転する。例えば、血清分離にて、保持ディスク12は回転する。したがって、穿孔を行う直前では、図17Bに示すように、遠心力によって、試薬621は、内周側部分220Aから隔壁720を超えて外周側部分220Bに移動する。内周側部分220Aでは、液面上に空気層が残るが、外周側部分220Bでは、満水となり、液面上に空気層は残らない。
【0077】
次に、図17Cに示すように、棒13aによって凸部701を試薬容器220の内周側部分220A内に押し込む。それによって、内周側部分220A内の空間の容積が小さくなり、内周側部分220A内の空気は、隔壁720を超えて外周側部分220Bに押し出される。すると、外周側部分220B内の試薬621は押し出されて、出口流路221内に進む。試薬621は、出口流路221の折り返し部223まで又はそれを超えた位置まで進む。次に、カートリッジカバー22を穿孔する。
【0078】
図16に示したように、棒13aを凸部701に押し込んだ状態にて、針710を突出させることによって、カートリッジカバー22が穿孔される。
【0079】
穿孔が終わると、棒13aを引き込む。凸部701は、塑性変形しており、元の状態に戻らない。従って、試薬621は出口流路221の折り返し部223に押し出されたままである。保持ディスク12を回転させると、遠心力によって試薬621は外周方向の力を受ける。出口流路221の折り返し部223まで進んだ試薬621は、更に、出口流路221を進む。一旦、試薬621が折り返し部223を超えて進むと、それ以後は、サイホンの原理で、試薬621は流れ続ける。
【0080】
図18〜図21を参照して、試薬容器220の更に他の例を説明する。図18A、図19A、図20A、及び、図21Aは、検査カートリッジ2に設けられた試薬容器220の平面構成を示し、図18B、図19B、図20B、及び、図21Bは、試薬容器220の断面構成を示す。図の右側が内周側であり左側が外周側である。図18に示すように、本例では、試薬容器220の内周側に空気室224が設けられている。空気室224と試薬容器220は通路によって接続されている。試薬容器220及び空気室224は、カートリッジカバー22によって密閉されている。試薬621は、試薬容器220内に配置されているが、空気室224には存在しない。
【0081】
試薬容器220の内周側には、出口流路221が接続されている。図8に示したように、出口流路221には、試薬容器220の外周端から始まり内周側に折り返した後に外周側に延びる折り返し部223が形成されている。カートリッジカバー22は凸部701を有し、凸部701は、空気室224上に形成される。
【0082】
次に、図19に示すように、棒800によって、凸部701を空気室224内に押し込む。それによって、空気室224内の空間の容積が小さくなり、空気室224内の空気は、試薬容器220内に押し出される。それによって、試薬容器220内の試薬621は押し出されて、出口流路221内に進む。試薬621は、出口流路221の折り返し部223まで又はそれを超えた位置まで進む。次に、カートリッジカバー22を穿孔する。図20に示すように、棒800の内部には、出し入れ可能な針810が装着されている。従って、棒800を凸部701に押し込んだ状態にて、針810を突出させることによって、カートリッジカバー22が穿孔される。
【0083】
図21に示すように、穿孔が終わると、針810を引き込み、棒800を引き込む。凸部701は、塑性変形しており、元の状態に戻らない。従って、試薬621は出口流路221の折り返し部223に押し出されたままである。保持ディスク12を回転させると、遠心力によって試薬621は外周方向の力を受ける。出口流路221の折り返し部223まで進んだ試薬621は、更に、出口流路221を進む。一旦、試薬621が折り返し部223を超えて進むと、それ以後は、サイホンの原理で、試薬621は流れ続ける。
【0084】
図22を参照して試薬容器220の更に他の例を説明する。図22Aに示すように、本例の試薬容器220は、図18〜図21に示した試薬容器と比較して、本例では、試薬容器220の容積はより大きく、且つ、試薬容器220内に隔壁720が設けられている点が異なる。隔壁720は、図17の例に示した隔壁と同様であり、試薬容器220を内周側部分220Aと外周側部分220Bに分割する。試薬容器220に、所定量の試薬621を分注すると、満水とならず、液面上に空気層が残る。
【0085】
保持ディスク12は、試薬容器220の試薬621を流し出すまでに、少なくとも1回は回転する。例えば、血清分離にて、保持ディスク12は回転する。したがって、穿孔を行う直前では、図22Bに示すように、遠心力によって、試薬621は、内周側部分220Aから隔壁720を超えて外周側部分220Bに移動する。内周側部分220Aでは、液面上に空気層が残るが、外周側部分220Bでは、満水となり、液面上に空気層は残らない。
【0086】
次に、図22Cに示すように、保持ディスク12の回転を停止する。外周側部分220Bの試薬621の一部は、隔壁720を超えて内周側部分220Aに戻るが、隔壁720があるため、内周側部分220Aに戻る量は少ない。以下は、図19から図21の処理と同様である。図22Dに示すように、棒800によって、凸部701を空気室224内に押し込む。それによって、空気室224内の空間の容積が小さくなり、空気室224内の空気は、試薬容器220内に押し出される。それによって、試薬容器220内の試薬621は押し出されて、出口流路221内に進む。試薬621は、出口流路221の折り返し部223まで又はそれを超えた位置まで進む。
【0087】
次に、図22Eに示すように、カートリッジカバー22を穿孔する。棒800を凸部701に押し込んだ状態にて、針810を突出させることによって、カートリッジカバー22が穿孔される。図22Fに示すように、穿孔が終わると、針810を引き込み、棒800を引き込む。凸部701は、塑性変形しており、元の状態に戻らない。従って、試薬621は出口流路221の折り返し部223に押し出されたままである。保持ディスク12を回転させると、遠心力によって試薬621は外周方向の力を受ける。出口流路221の折り返し部223まで進んだ試薬621は、更に、出口流路221を進む。一旦、試薬621が折り返し部223を超えて進むと、それ以後は、サイホンの原理で、試薬621は流れ続ける。
【0088】
本発明によれば、予め試薬容器の試薬を出口流路の折り返し部又はそれを超えた位置まで押し出す。したがって、保持ディスク12を回転させたとき、試薬は確実に出口流路を流れて、外周側の他の容器に流れる。
【0089】
以上、本発明の例を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲にて様々な変更が可能であることは当業者に容易に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明による化学分析装置の外観を示す斜視図である。
【図2】本発明による検査カートリッジの外観を示す斜視図である。
【図3】本発明による化学分析装置を用いて全血からウイルス核酸の抽出処理を行う場合の操作手順の概略を説明するための説明図である。
【図4】本発明による化学分析装置を用いて全血からウイルス核酸の抽出処理を行う場合の操作手順を説明するための説明図である。
【図5】本発明による化学分析装置を用いて全血からウイルス核酸の抽出処理を行う場合の手順の詳細を説明するための説明図である。
【図6】本発明による検査カートリッジの動作説明図である。
【図7】本発明による検査カートリッジの動作説明図である。
【図8】本発明による検査カートリッジの動作説明図である。
【図9】本発明による検査カートリッジの動作説明図である。
【図10】本発明による検査カートリッジの動作説明図である。
【図11】本発明による検査カートリッジの動作説明図である。
【図12】本発明による検査カートリッジの動作説明図である。
【図13】本発明による検査カートリッジの動作説明図である。
【図14】本発明による検査カートリッジの動作説明図である。
【図15】本発明による検査カートリッジの試薬容器の例を説明するための説明図である。
【図16】本発明による穿孔機の一部を示す図である。
【図17】本発明による検査カートリッジの試薬容器の他の例を説明するための説明図である。
【図18】本発明による検査カートリッジの試薬容器の更に他の例の動作説明図である。
【図19】本発明による検査カートリッジの試薬容器の更に他の例の動作説明図である。
【図20】本発明による検査カートリッジの試薬容器の更に他の例の動作説明図である。
【図21】本発明による検査カートリッジの試薬容器の更に他の例の動作説明図である。
【図22】本発明による検査カートリッジの試薬容器の更に別の例の動作説明図である。
【符号の説明】
【0091】
1…化学分析装置、2…検査カートリッジ、11…モータ、12…保持ディスク、13…穿孔機、14…加温装置、15…検出装置、210…試料容器、211…血球貯蔵容器、212…血清定量容器、215…全血廃棄容器、220…溶解液容器、230…追加液容器、240…第1洗浄液容器、250…第2洗浄液容器、260…溶離液容器、270…第3洗浄液容器、280…増幅・検出試薬容器、301…核酸捕捉部、310…混合容器、320…反応容器、390…溶離液回収容器、502…廃液貯蔵容器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心を通る回転軸線周りに回転可能な保持ディスクと、該保持ディスクに保持された取り外しが可能な検査カートリッジと、を有し、上記検査カートリッジは、凹部によって形成された容器及び流路を有する基板と、該容器及び流路を覆うカバーと、を有し、上記保持ディスクの回転によって生成される遠心力を利用して、上記回転軸線に対して内周側の容器から上記流路を経由して上記回転軸線に対して外周側の容器へ溶液を移動させるように構成された化学分析装置において、
上記容器内の溶液の一部を該容器に接続された出口流路に導くために上記カバーを押圧するための押圧手段が設けられていることを特徴とする化学分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の化学分析装置おいて、上記カバーには上記容器の外方に向けて突出する凸部が形成され、上記押圧手段は、上記カバーの凸部を押圧することを特徴とする化学分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の化学分析装置おいて、上記押圧手段は、上記容器を覆うカバーにて、該容器の中心より内周側の位置にて押圧することを特徴とする化学分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の化学分析装置おいて、上記容器は、収容すべき溶液の容量より十分大きい容積を有し、且つ、内周側部分と外周側部分に分ける隔壁を有し、上記押圧手段を上記容器の内周側部分を覆うカバーに押圧するように構成されていることを特徴とする化学分析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の化学分析装置おいて、上記容器には空気室が接続され、上記押圧手段は、上記空気室を覆うカバーを押圧することを特徴とする化学分析装置。
【請求項6】
請求項5に記載の化学分析装置おいて、上記容器は、収容すべき溶液の容量より十分大きい容積を有し、且つ、内周側部分と外周側部分に分ける隔壁を有し、上記空気室は上記容器の内周側部分に接続されていることを特徴とする化学分析装置。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の化学分析装置おいて、上記押圧手段には上記カバーを穿孔するための穿孔手段が設けられていることを特徴とする化学分析装置。
【請求項8】
請求項7に記載の化学分析装置おいて、上記穿孔手段は、可動な針を有することを特徴とする化学分析装置。
【請求項9】
凹部によって形成された容器及び流路を有する基板と、該容器及び流路を覆うカバーと、を有し、上記基板に垂直な回転軸線周りの回転によって生成される遠心力を利用して、上記回転軸線に対して内周側の容器から上記流路を経由して上記回転軸線に対して外周側の容器へ溶液を移動させるように構成された化学分析カートリッジにおいて、
上記カバーを押圧することによって、上記容器内の溶液の一部は該容器に接続された出口流路に導かれるように構成されていることを特徴とする化学分析カートリッジ。
【請求項10】
請求項9に記載の化学分析カートリッジにおいて、上記カバーには上記容器の外方に向けて突出する凸部が形成され、該凸部を押圧することによって、上記容器内の溶液の一部は該容器に接続された出口流路に導かれるように構成されていることを特徴とする化学分析カートリッジ。
【請求項11】
請求項9に記載の化学分析カートリッジにおいて、上記容器は、収容すべき溶液の容量より十分大きい容積を有し、且つ、内周側部分と外周側部分に分ける隔壁を有し、上記内周側部分を覆うカバーを押圧することによって、上記容器内の溶液の一部は該容器に接続された出口流路に導かれることを特徴とする化学分析カートリッジ。
【請求項12】
請求項9に記載の化学分析カートリッジおいて、上記容器には空気室が接続され、上記空気室を覆うカバーを押圧することによって、上記容器内の溶液の一部は該容器に接続された出口流路に導かれることを特徴とする化学分析カートリッジ。
【請求項13】
請求項12に記載の化学分析カートリッジおいて、上記容器は、収容すべき溶液の容量より十分大きい容積を有し、且つ、内周側部分と外周側部分に分ける隔壁を有し、上記空気室は上記容器の内周側部分に接続されていることを特徴とする化学分析カートリッジ。
【請求項1】
中心を通る回転軸線周りに回転可能な保持ディスクと、該保持ディスクに保持された取り外しが可能な検査カートリッジと、を有し、上記検査カートリッジは、凹部によって形成された容器及び流路を有する基板と、該容器及び流路を覆うカバーと、を有し、上記保持ディスクの回転によって生成される遠心力を利用して、上記回転軸線に対して内周側の容器から上記流路を経由して上記回転軸線に対して外周側の容器へ溶液を移動させるように構成された化学分析装置において、
上記容器内の溶液の一部を該容器に接続された出口流路に導くために上記カバーを押圧するための押圧手段が設けられていることを特徴とする化学分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の化学分析装置おいて、上記カバーには上記容器の外方に向けて突出する凸部が形成され、上記押圧手段は、上記カバーの凸部を押圧することを特徴とする化学分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の化学分析装置おいて、上記押圧手段は、上記容器を覆うカバーにて、該容器の中心より内周側の位置にて押圧することを特徴とする化学分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の化学分析装置おいて、上記容器は、収容すべき溶液の容量より十分大きい容積を有し、且つ、内周側部分と外周側部分に分ける隔壁を有し、上記押圧手段を上記容器の内周側部分を覆うカバーに押圧するように構成されていることを特徴とする化学分析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の化学分析装置おいて、上記容器には空気室が接続され、上記押圧手段は、上記空気室を覆うカバーを押圧することを特徴とする化学分析装置。
【請求項6】
請求項5に記載の化学分析装置おいて、上記容器は、収容すべき溶液の容量より十分大きい容積を有し、且つ、内周側部分と外周側部分に分ける隔壁を有し、上記空気室は上記容器の内周側部分に接続されていることを特徴とする化学分析装置。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の化学分析装置おいて、上記押圧手段には上記カバーを穿孔するための穿孔手段が設けられていることを特徴とする化学分析装置。
【請求項8】
請求項7に記載の化学分析装置おいて、上記穿孔手段は、可動な針を有することを特徴とする化学分析装置。
【請求項9】
凹部によって形成された容器及び流路を有する基板と、該容器及び流路を覆うカバーと、を有し、上記基板に垂直な回転軸線周りの回転によって生成される遠心力を利用して、上記回転軸線に対して内周側の容器から上記流路を経由して上記回転軸線に対して外周側の容器へ溶液を移動させるように構成された化学分析カートリッジにおいて、
上記カバーを押圧することによって、上記容器内の溶液の一部は該容器に接続された出口流路に導かれるように構成されていることを特徴とする化学分析カートリッジ。
【請求項10】
請求項9に記載の化学分析カートリッジにおいて、上記カバーには上記容器の外方に向けて突出する凸部が形成され、該凸部を押圧することによって、上記容器内の溶液の一部は該容器に接続された出口流路に導かれるように構成されていることを特徴とする化学分析カートリッジ。
【請求項11】
請求項9に記載の化学分析カートリッジにおいて、上記容器は、収容すべき溶液の容量より十分大きい容積を有し、且つ、内周側部分と外周側部分に分ける隔壁を有し、上記内周側部分を覆うカバーを押圧することによって、上記容器内の溶液の一部は該容器に接続された出口流路に導かれることを特徴とする化学分析カートリッジ。
【請求項12】
請求項9に記載の化学分析カートリッジおいて、上記容器には空気室が接続され、上記空気室を覆うカバーを押圧することによって、上記容器内の溶液の一部は該容器に接続された出口流路に導かれることを特徴とする化学分析カートリッジ。
【請求項13】
請求項12に記載の化学分析カートリッジおいて、上記容器は、収容すべき溶液の容量より十分大きい容積を有し、且つ、内周側部分と外周側部分に分ける隔壁を有し、上記空気室は上記容器の内周側部分に接続されていることを特徴とする化学分析カートリッジ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図9】
【図10】
【図11】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2006−313122(P2006−313122A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136250(P2005−136250)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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