説明

化学物質の生成のためのプロセス

1以上の化合物を生成するためのプロセスであって、膜によって隔てられているアノードおよびカソードを有する生物電気化学システムを準備する工程であって、このアノードおよびカソードは互いに電気的に接続されている、工程と、酸化をアノードで発生させ、かつ還元をカソードで発生させ、これによりこのカソードで還元当量を生産する工程と、この還元当量を微生物の培養物に与える工程と、二酸化炭素を微生物の培養物に与え、これによってその微生物が当該1以上の化合物を生産する工程と、この1つまたは化合物を回収する工程と、を含むプロセス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質を生成するためのプロセスに関する。より具体的には、本発明は、生物電気化学システムを使用する化学物質を生成するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料資源の全世界的な枯渇および気候変動に対する人為的効果の可能性についての意識の高まりは、温室効果ガス排出量を減少させ、より持続可能な社会を発展させようとする原動力の高まりにつながっている。再生可能電気に加えて、このような持続可能な社会は、再生可能に生産される燃料および化学物質へのアクセスも必要とする。真に再生可能であるためには、これらの化学物質は、バイオマスなどの再生可能な原料から、または廃水および/または二酸化炭素などの廃棄物から生産される必要がある。
【0003】
最近、微生物燃料電池および微生物電解電池(microbial electrolysis cell)などの生物電気化学システムが、エネルギーおよび生成物の生成のための潜在的に興味深い技術として現われてきた。生物電気化学システムは、電子をアノードに供与するかまたは電子をカソードから受け取るかのいずれかが可能である電気化学的に活性な微生物の使用に基づく。電気化学的に活性な微生物がアノードと電気化学的に相互作用している場合には、このような電極は、生物アノード、バイオアノードまたは微生物バイオアノードと呼ばれる。対照的に、電気化学的に活性な微生物がカソードと電気化学的に相互作用している場合には、このような電極は、生物カソード、バイオカソードまたは微生物バイオカソードと呼ばれる。生物電気化学システムは、水性の廃棄物の流れ(例えば、廃水)に存在する有機物質からのエネルギーの生成のための見込みある次世代技術として一般に認められている。(非特許文献1)。工業廃水、農業廃水および生活廃水は、典型的には、環境への排出の前に取り除く必要がある溶解した有機物を含有する。典型的には、これらの有機汚染物質は、好気性処理によって除去されるが、この好気性処理は、曝気のために大量の電気エネルギーを消費する可能性がある。生物電気化学的な廃水処理は、微生物バイオアノードを、還元反応を行う対電極(カソード)に電気的に結合することによって成し遂げることができる。アノードとカソードとの間のこの電気的接続の結果として、電極反応が起こることができ、そして電子はアノードからカソードへと流れることができる。さらに、アノードの電気化学的に活性な微生物が水性の廃棄物の流れ(例えば、廃水)の中の無機または有機の汚染物質を酸化している(従って、除去している)間、この微生物は電子を電極(アノード)へと移す。生物電気化学システムは、燃料電池(この場合、電気エネルギーが生成される − 例えば非特許文献2)として、または電解電池(この場合、電気エネルギーはこの生物電気化学システムへと供給される − 例えば、特許文献1)として動作しうる。
【0004】
2003年に、RozendalおよびBuismanは、生物易酸化性物質からの水素ガスの生成のための生物電気化学システムである、生物触媒電解について特許出願をした(特許文献1、この文献の内容全体は、相互参照によって本願明細書に援用したものとする)。生物触媒電解のために使用される生物易酸化性物質は、例えば、廃水の中にある溶解した有機物質であってもよい。RozendalおよびBuismanの発明では、RozendalおよびBuismanは、アノードおよびカソードを具えかつ水系媒体中にアノードに好適な(anodophilic)細菌を含有する反応器に生物易酸化性物質を導入し、この水系媒体の中で3〜9の間のpHを維持しながらアノードとカソードとの間に0.1〜1.5ボルトの間の電位をかけ、このカソードから水素ガスを集めた。
【0005】
水素はカソードで生産するには興味深い化学物質であるが、燃料および化学物質などのさらに高い価値がある化学物質を生成することができれば、なおいっそう興味深いであろう。このような燃料および化学物質の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸などのカルボン酸、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸(PHB)などのバイオポリマーなどが挙げられる。しかしながら、これらの種類の複雑な生成反応をカソードで触媒することができるためには、高度な触媒反応機構が必要とされる。この目的のための化学触媒を開発することは可能であろうが、これらの化学触媒は、とても複雑でかつ非常に高価になる可能性が高い。なぜなら、そのような化学触媒は、貴金属の応用を必要とする可能性が高いからである。あるいは、カソードに好適な(cathodophilic)微生物を、価値ある化学物質の生成のためのカソード反応を触媒するために使用することができる。カソードに好適な微生物は、電子またはカソード反応生成物(水素または還元された電子メディエーターなど)をカソードから受け取って、これらを価値ある化学物質の生成のために利用することによってカソードと相互作用することができる微生物である。このような電極は、生物カソード、バイオカソードまたは微生物バイオカソードと呼ばれる。電子およびカソード反応生成物(水素または還元された電子メディエーターなど)は、一般に、還元当量と呼ばれる。還元当量は、電子受容体を還元することができ、かつ微生物代謝のための電子供与体として役割を果たすことができる。電子メディエーターは酸化還元活性な有機化合物であり、それは当業者に公知である。電子メディエーターとしては、キノン類、ニュートラルレッド、メチルビオローゲンなどの化合物が挙げられる。電子メディエーターは、電極と微生物との間を往復する。この往復の間に、この電子メディエーターは、電極によって連続的に還元され、その後、化学製品の生成のために、当該微生物によって再度酸化される。
【0006】
微生物バイオカソードは、酸素還元(例えば、非特許文献3)、硝酸還元(例えば、非特許文献4)、脱塩素(例えば、非特許文献5)、水素生成(例えば、非特許文献6)、およびメタン生成(例えば、非特許文献7)についてすでに実証されているが、上記の分子などのさらに複雑な分子の生成については記載されていない。
【0007】
一般に、混合微生物培養物(すなわち、複数の種)は、複雑な化学物質を高品質、高濃度または高純度で生産する可能性は低い。なぜなら、混合微生物培養物の中の天然の最終生成物は、典型的には、嫌気性条件下でのメタンまたは好気性条件下での二酸化炭素など単純な分子であるからである。それゆえ、実際には、複雑な分子は、典型的には、純粋な微生物培養物(すなわち、単一の種)または少なくとも明確な共培養物(すなわち、2以上の慎重に選択された種)などの明確な微生物培養物を用いて生産される。それゆえ、メタン生成活性を抑制することができなければ、複雑な分子を生産することができる微生物バイオカソードも、カソードに好適な微生物の明確な微生物培養物を必要とするであろう(非特許文献1)が、そのような微生物は、廃水などの複雑な接種材料から天然に濃縮されそうにない。カソードに好適な微生物の明確な微生物培養物は、慎重に選択されたかまたは遺伝子改変の純粋な培養物であるべきであるが、2以上の慎重に選択されたかまたは遺伝子改変の純粋な培養物の慎重に選択された共培養物であることもできよう。これらの純粋な培養物または共培養物は、所望の複雑な分子の生成反応を触媒することができる微生物種からなるべきである。
【0008】
カソードに好適な微生物の明確な培養物を使用することの短所は、これらの培養物が他の微生物による汚染を受けやすいということである。そうして、これらの他の微生物の活性を抑制することができなければ、これらの他の微生物は、そのカソードに好適な微生物の明確な培養物によって生産された生成物を破壊するであろうし、その結果として生物電気化学システムの生成物の生産量を制限するであろう。生物電気化学システムは、アノードとカソードとの間にイオン交換膜を用いることによって、他の微生物によるこの汚染を防止することができる。イオン交換膜の使用によって、カソードはこの生物電気化学システムの残部から隔離され、このカソードに好適な微生物の明確な培養物を、汚染をより受けにくいものにすることができる。還元当量は、実質的に、カソードによって送達されかつもともとアノードに由来する電子の形態で滅菌されてカソードに好適な微生物へと送達されるため、いっそう汚染を受けにくいものとなる。
【0009】
微生物燃料電池に関して、Torresら(非特許文献8)は、カソードチャンバーとの間にアニオン交換膜を設け、二酸化炭素を空気カソード(酸素還元のための白金触媒)に投与することにより、微生物燃料電池のアノードとカソードとの間のpH差を減少させるための方法を提示した。この二酸化炭素は、ヒドロキシルイオンと反応して、炭酸塩種を形成する。これはカソードのpHを低下させる一方で、この炭酸塩種は、カソードからアノードへとアニオン交換膜を横断して移行し、アノードでpHを上昇させる。結果として、両者のpH差は減少する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2005005981(A2)号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Rozendalら、Trends Biotechnol.2008年、第26巻、450−459頁
【非特許文献2】RabaeyおよびVerstraete、Trends Biotechnol.、2005年、第23巻、291−298頁
【非特許文献3】Rabaeyら、ISME J.、2008年、第2巻、1387−1396頁
【非特許文献4】Clauwaertら、Environ.Sci.Technol.、2007年、第41巻、7564−7569頁
【非特許文献5】Aulentaら、Environ.Sci.Technol.、2007年、第41巻、2554−2559頁
【非特許文献6】Rozendalら、Environ.Sci.Technol.、2008年、42巻、629−634頁
【非特許文献7】Clauwaertら、Water Sci.Technol.、2008年、第57巻、575−579頁
【非特許文献8】Torresら、Environ.Sci.Technol.、2008年、第42巻、8773−8777頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の態様では、本発明は、1以上の化合物を生成するためのプロセスであって、膜によって隔てられているアノードおよびカソードを有する生物電気化学システムを準備する工程であって、このアノードおよびカソードは互いに電気的に接続されている、工程と、酸化をアノードで発生させ、かつ還元をカソードで発生させ、これによりこのカソードで還元当量を生成する工程と、この還元当量を微生物の培養物に与える工程と、二酸化炭素を微生物の培養物に与え、これによってその微生物が当該1以上の化合物を生産する工程と、この1つまたは化合物を回収する工程と、を含むプロセスを提供する。
【0013】
別の態様では、本発明は、1以上の化合物を生成するためのプロセスであって、膜によって隔てられているアノードおよびカソードを有する生物電気化学システムを準備する工程であって、このアノードおよびカソードは互いに電気的に接続されており、このシステムはカソード区画を有し、このカソード区画は当該1以上の化合物をそのカソード区画の中で形成する微生物を具えている工程と、酸化をアノードで発生させ、かつ還元をカソードで発生させる工程であって、二酸化炭素がこのカソード区画に供給され、当該微生物が当該1以上の化合物を生産する工程と、当該1以上の化学物質をこのカソード区画から回収する工程と、を含むプロセスを提供する。
【0014】
いくつかの実施形態では、このシステムは、この電気回路の中に電力供給装置をさらに含む。この電力供給装置は、バッテリまたはDC/AC変換器などのDC電力供給装置を含んでもよい。
【0015】
この電力供給装置は、このシステムに電圧を印加するために使用することができ、この印加により、化学物質生成速度が増加する。電力供給装置を用いて印加されるアノードとカソードとの間の電圧は、0〜10Vの間、好ましくは0〜1.5Vの間、より好ましくは0〜1.0Vの間であってもよい。これは、0〜10,000A/(m−生物電気化学電池)の間、好ましくは10〜5,000A/(m−生物電気化学電池)の間、より好ましくは100〜2500A/(m−生物電気化学電池)の間の、当該生物電気化学電池における体積電流密度、および/または0〜1,000A/(m−膜表面積)の間、好ましくは1〜100A/(m−膜表面積)の間、より好ましくは2〜25A/(m−膜表面積)の間の単位面積当たりの電流密度をもたらしうる。
【0016】
本発明の実施形態では、カソード区画の中に存在する、すなわちカソード区画から還元当量を受け取る微生物は、そのカソードで生産される還元当量および二酸化炭素を利用して、有機分子を製造する。それゆえ、この二酸化炭素は、このカソードから還元当量を受け取るか、またはカソード区画の中に存在する微生物への炭素含有供給物質として働く。実際、この二酸化炭素は、その微生物へとへと供給される唯一の炭素含有供給成分であってもよい。他の実施形態では、この二酸化炭素は、その微生物によって、他の有機物質と併用して使用され、所望の化学物質が生成される。これに関する適切な微生物の例としては、化学独立栄養成長細菌が挙げられる。例えば、ブタノール生成では、カソードの化学独立栄養成長細菌は、下記に従って進行するであろう:
【化1】

【0017】
所望の化学生成物への変換のための炭素含有物質として二酸化炭素を利用するということは、二酸化炭素排出量を低下させる(従って、温室効果ガス排出量を低下させる)という望ましい効果を有するということは分かるであろう。
【0018】
1つの実施形態では、カソード区画に与えられ、またはカソード区画から還元当量を受け取る微生物は、1以上の選択された微生物種を含有する明確な微生物培養物を含む。1つの実施形態では、この明確な微生物培養物は、単一種の微生物を含有する純粋な微生物培養物を含む。別の実施形態では、この明確な微生物培養物は、2以上の慎重に選択された微生物種の共培養物を含む。この微生物種は、当該1以上の化合物がその微生物種によって生産されるように選択される。適切には、この微生物種は、このカソードの中で増殖したときに、顕著な量のメタンを生成しない。
【0019】
1以上の選択された微生物種を含有する明確な微生物培養物は、適切であると当業者に知られているいずれの技術によって形成または選択されてもよい。
【0020】
この実施形態では、実質的に「純粋な」微生物培養物が与えられる(カソード区画の中に、またはカソードから還元当量を受け取るために)。この実質的に「純粋な」微生物培養物は、その微生物培養物が当該1以上の所望の化合物を生産するように、選択される。例えば、Clostridium carboxidivorans sp. nov.(クロストリジウム・カルボキシディボランスの新種)を、二酸化炭素からの酢酸塩または酢酸エステル、エタノール、酪酸塩または酪酸エステルおよびブタノールの生成のために選択することができるであろうし、これは、カソードで水素を生産することができるであろう(Liouら、Int.J.Syst.Evol.Microbiol.、2005、55、2085−2091)。この実質的に純粋な微生物培養物が実質的に純粋なまま留まることを確実にするために、この微生物の培養物へのあらゆる供給の流れは、他の微生物を実質的に含まないものであるべきである。例えば、この微生物の培養物に供給される二酸化炭素の流れは、汚染する微生物を含まないものでもあるべきである。
【0021】
カソード区画に供給されている二酸化炭素の流れは、バーナーもしくはボイラーからのオフガス流にまたは煙道ガス流に由来してもよい。このようなオフガス流または煙道ガス流は、非常に高温でバーナーまたはボイラーを出て、結果として、(それらは汚染微生物をまったく含有していないであろうという点で)実質的に滅菌されているであろうということは理解されよう。これらの流れは、単純に冷却され、次いでカソード区画への、二酸化炭素を含有する供給流れとして使用されてもよい。このオフガス流または煙道ガス流が、カソード区画の中にある微生物にとって毒性である可能性がある他の物質を含有する場合、その他の物質は、カソード区画に供給する前に、オフガス流または煙道ガス流から除去されるべきである。そのオフガス流または煙道ガス流の一部分だけがカソード区画に供給されてもよいということは理解されよう。
【0022】
カソード区画に供給されている二酸化炭素の流れは、メタンおよび二酸化炭素(および、潜在的には、他のガスも)の混合物を含有するバイオガスであってもよい。
【0023】
カソードに供給されている二酸化炭素は、炭酸塩に富む流体が炭層からカソード区画を通ってポンプ輸送される場合など、炭層または層に由来してもよい。
【0024】
別の実施形態では、カソード区画に与えられている微生物は、混合された、非選択的な培養物を含み、そして当該プロセスは、カソード区画におけるメタンの形成を抑制しながら、当該1以上の化学物質をカソード区画で生成する工程、およびこの1以上の化学物質をカソード区画から回収する工程をさらに含む。当業者は、混合された、非選択的な培養物は、典型的にはメタン生成生物を含有し、そしてカソード区画が特別な事前注意をせずに運転される場合、カソード区画からの最終生成物はメタンである可能性が高いということを理解するであろう。それゆえ、この実施形態では、カソード区画は、メタン形成が抑制されるように運転される。メタン形成は、以下のうちの1以上によって抑制される可能性がある:
・メタンの形成を抑制する、またはメタン生成生物の活性を抑制する1以上の化学物質をカソード区画に加えること。例えば、2−ブロモエタンスルホン酸(BES)は、メタン生成生物の活性を抑制することが知られている。メタン生成生物の活性を抑制する他の化学物質も使用してよい。
・低滞留時間がカソード区画で使用されるように、カソード区画を運転する。これに関して、ほとんどのメタン生成生物は、成長がゆっくりで、カソード区画の中での低滞留時間を利用すると、カソード区画の中のかなりの数のメタン生成生物の形成または成長を抑制することになる。なぜなら、単に、メタン生成生物は、膨大な数に成長するための十分な時間を持たないことになるからである。この実施形態では、新しいカソード区画液体が、頻繁にまたは連続的にカソード区画に与えられてもよい。
・カソード区画を5.5未満、好ましくはpH 5未満などの低pHで運転する。
・カソード区画を、定期的に空気または酸素に曝露する。
【0025】
1つの実施形態では、COは、当該生物電気化学システムのアノードから、拡散または輸送によって、カソード区画に与えられる。この輸送は、アノードおよびカソードを隔てる膜を通して、または付加的な導管を介して、のいずれかによって生じうる。
【0026】
1つの実施形態では、本発明は、バイオアノードおよびバイオカソードを用いて運転されてもよい。アノードがバイオアノードとして運転される実施形態では、バイオアノード区画で形成される可能性が高い生成物のうちの1つは二酸化炭素である。この二酸化炭素は、カソード区画への供給物として使用されてもよい。この二酸化炭素は、例えばアノード流出物から分離されて、その後、カソードへと輸送されてもよい。
【0027】
アノードがバイオアノードとして運転される実施形態では、廃水の流れなどの廃棄物の流れは、アノードへの供給物質として使用されてもよい。次いでアノード反応は、電気化学的に活性な微生物などの微生物によって触媒され、電子(e)およびプロトンならびに/または二酸化炭素ならびに/または他の酸化生成物(例えば硫黄)を生成する:
【化2】

【0028】
このアノードは、膜によってカソード区画から隔てられているアノード区画の中に位置してもよい。このアノード区画では、廃棄物の流れの中の有機および/または無機の成分が酸化されて、電子が放出され、次にこの電子は、電気的接続部を通ってカソードへと流れる。
【0029】
1つの実施形態では、アニオン交換膜が、アノード区画をカソード区画から隔てる。イオン交換膜は当業者に公知であり、その例としては、AMI−7001(Membranes International)、Neosepta AMX(ASTOM Corporation)、およびfumasep FAA(登録商標) (fumatech)などの膜が挙げられる。
【0030】
いくつかの実施形態では、炭酸水素イオンがカソード区画で生成し、その後、アニオン交換膜を通ってアノード区画へと移動する。これは、二酸化炭素をカソード区画に加えることによって、カソード区画の中でのpH制御も得られるという点で、有利である可能性がある。この実施形態では、二酸化炭素は、当該化合物を生成するための基本単位としての供給物質として作用し、そしてカソード区画の中でpHを制御するためにも作用する。このカソードで起こる反応によってヒドロキシルイオンが生成される可能性があるということは理解されよう。このヒドロキシルイオンは、二酸化炭素と反応して炭酸水素イオンを形成することができ、そしてこの炭酸水素イオンは、その後、アニオン交換膜を通過することができる。このようにして、カソード区画における望ましくないpHの上昇(これは、微生物の培養物を死滅させる可能性を有する)を回避することができ、カソード区画の中で恒常性の状態を維持することができる。二酸化炭素の注入は、カソード区画の中の塩濃度を著しくは上昇させない。このことは、当該生物電気化学システムの中で恒常性の状況を達成することができるということを意味することになるため、これは有利である。
【0031】
別の実施形態では、アノードおよびカソードを隔てる膜は、多孔質膜を含む。この多孔質膜は、液体およびイオンがその膜を通過することは許容してもよいが、微生物がその膜を通過することは防止してもよい。1つの実施形態では、アノードは、バイオアノードとして運転されてもよく、廃水の流れなどの廃棄物の流れは、アノードへの供給物質として使用されてもよい。上で触れたように、この多孔質膜の中の細孔径は、微生物がこの膜を通過するのを防止するのに十分小さくてもよい。これらの膜は当業者に公知であり、その例としては精密濾過膜および限外濾過膜が挙げられる。通常の運転の間は、液体は、多孔質膜を通ってアノードからカソードチャンバーの中へと通過する。アノード反応式(3)で生成されるプロトンは、この膜を通ってカソード区画へと運搬され、カソード反応で生成されるヒドロキシルイオンと式(4)に従って反応する:
【化3】

【0032】
結果として、カソード区画における望ましくないpHの上昇は回避され、酸がカソード区画に投入される必要はない。カソードチャンバーの中のpHおよび塩濃度は安定に留まり、恒常性が維持される。溶解したCOまたはガス状のCOは、流体とともにアノードからカソードへと移ることができる。
【0033】
さらに別の1つの実施形態では、本発明は、バイオカソードだけを用いて運転されてもよい。この実施形態では、アノードは、実質的に従来のアノードを含んでもよい。この実施形態では、酸溶液(例えば硫酸)がアノード区画に与えられてもよく、アノード反応は、プロトン生成反応(例えば水からの酸素生成)であってもよい。この膜は、カチオン交換膜を含んでもよい。カチオン交換膜は当業者に公知であり、その例としては、CMI−7000(Membranes International)、Neosepta CMX(ASTOM Corporation)、fumasep(登録商標) FKB(Fumatech)、およびNafion(DuPont)などの膜が挙げられる。この実施形態では、プロトンはカチオン交換膜を通って移行し、カソード反応で生成されるヒドロキシルイオンと反応する。結果として、カソード区画の中に酸が投入される必要はなく、カソードチャンバーの中のpHおよび塩濃度は安定に留まり、恒常性が維持される。
【0034】
さらに別の実施形態では、カソードにおいて還元をもたらすために使用される電流は、光アノードに由来する。光アノードは当業者に公知であり、太陽光を捕捉して、当該電気回路に還元力を移す。
【0035】
さらに別の実施形態では、生物化学物質の生成を推進するために与えられる電流は、ソーラーパワー、水力発電力、または当業者に公知の他のものなどの再生可能な電源に由来する。
【0036】
さらに別の実施形態では、アノードおよびカソードを隔てる膜は、バイポーラ膜を含む。バイポーラ膜は当業者に公知であり、その例としては、NEOSEPTA BP−1E(ASTOM Corporation)およびfumasep(登録商標) FBM(Fumasep)などの膜が挙げられる。バイポーラ膜はアニオン交換層の上にあるカチオン交換層から構成され、式(5)に従う、その膜のイオン交換層の間でプロトンおよびヒドロキシルイオンへの水の分裂の原理に依る:
【化4】

【0037】
バイポーラ膜が当該生物電気化学システムで膜として使用される実施形態では、アニオン交換層はアノードチャンバーに向けられ、カチオン交換層はカソードチャンバーに向けられる。電流が流れるとき、水はこのバイポーラ膜のイオン交換層の間を拡散し、プロトンおよびヒドロキシルイオンへと分裂される。ヒドロキシルイオンは、アニオン交換層を通ってアノードチャンバーへと移動し、そこでヒドロキシルイオンは、アノード反応(式3)におけるプロトン生成を補い、プロトンはカチオン交換層を通ってカソードチャンバーへと移動し、そこでカソード反応におけるヒドロキシルイオン生成(またはプロトン消費)を補う。結果として、カソード区画の中に酸が投入される必要はなく、カソードチャンバーの中のpHおよび塩濃度は安定に留まり、恒常性が維持される。
【0038】
本発明の別の実施形態では、アノードの流出物は、例えば、ガス状の二酸化炭素を回収するためのストリップ塔または膜ユニットに送られてもよい。この二酸化炭素は、カソードにガスとして与えられてもよい。
【0039】
上記の実施形態の1つのバリエーションでは、アノードからの流出物は、アノード流出物からの二酸化炭素の分離を可能にするための膜ユニットを通過してもよく、この膜ユニットは、その膜の他方の側で液体の流れを有する。このようにして、分離される二酸化炭素は、その膜の他方の側の流体の中へと溶け込むことができる。この二酸化炭素は、溶解した形態でカソードに与えられてもよい。アノード流体の他方の側でこの膜ユニットを通過する流体はカソード流体であってもよい。
【0040】
別の実施形態では、アノード流出物は、二酸化炭素が、アノード流出物の有機の構成成分と一緒に通過することを許容するための膜ユニットを通して、第2の液体へと送られてもよい。例えば、発酵反応器からの流出物は、アノードを通って送られてもよく、アノードの流出物は、膜ユニットに送られてもよく、この膜ユニットで、二酸化炭素のほかに、プロピオン酸塩またはプロピオン酸エステル、酪酸塩または酪酸エステルおよび当業者に公知の他のものなどの脂肪酸は膜を通過し、第2の流体の中に捕捉された状態になる。この流体は、有機物の還元が起こりうるカソードへと送られてもよい。この実施形態では、二酸化炭素および他の有機物質の両方が、当該微生物が所望の化学生成物へと変換するための供給物質を与える。
【0041】
1つの実施形態では、カソードも有機分子が与えられ、当該生物化学物質の生成が支援される。このような有機分子の例はグリセロール、グルコース、乳酸塩または乳酸エステル、酪酸塩または酪酸エステル、および当業者に公知の他のものである。これらの化合物は、当該微生物にアデノシル三リン酸(ATP)形成のための源を与えるために添加されてもよく、このATPは、微生物の成長および生成物の形成を促す。
【0042】
グリセロール添加の場合には、生成物の形成は、1,3−プロパンジオールまたはブタノールを含んでもよい。グリセロールは、カソード区画に、アノード区画にまたはその両方に加えられてもよい。グリセロールは、当該生物電気化学システムに入る前にプロピオン酸塩またはプロピオン酸エステルへと(部分的に)変換されてもよく、その後、グリセロールおよびプロピオン酸塩またはプロピオン酸エステルの混合物としてカソードに加えられてもよい。
【0043】
1つの実施形態では、カソード区画の中の微生物は、カソードから電子を受け取るように遺伝子改変される。改変の例としては、ヒドロゲナーゼ、チトクロム、ソルターゼおよび他の酵素複合体を細胞に加えることが挙げられる。あるいは、カソードは、微生物をカソードに電気的に接続するために、導電性の構造体(ナノ細線など)を具えていてもよい。
【0044】
別の実施形態では、カソードから微生物への電子の輸送を可能にする酸化還元メディエーターを、カソード流体に加えることができる。酸化還元メディエーターの例は、メチルビオローゲン、ニュートラルレッド、フェナジンカルボキシアミド、アミドブラックおよび当業者に公知の他のものである。この酸化還元シャトルによって、ある実施形態では、当該微生物細胞内部の比NADH/NADを高めることが可能になり、これにより還元された分子の生成が推進される。
【0045】
本発明のプロセスのいくつかの実施形態では、所望の化学物質の混合物は、カソード区画の中で形成されてもよい。このような実施形態では、本発明は、化合物の混合物をカソード区画から除去する工程、およびその化合物の混合物を2以上の流れへと分離する工程をさらに含む。この化合物の混合物は、イオン交換、液液抽出、吸収、吸収、ガスストリッピング、蒸留、逆浸透、膜分離、深冷分離、または当業者に適切であると知られている実際任意の他の分離技術などの公知の分離技術を使用して、分離されでもよい。いくつかの実施形態では、当該化合物のうちの1以上は、残りの化合物からの除去をより受けやすい別の化合物を形成するように反応に供されてもよい。いくつかの実施形態では、カソード区画の中で形成される当該化合物のうちの1以上は、固体化合物を含んでもよい。このような実施形態では、遠心分離、濾過、沈降、清澄化、浮選などを含めたいずれの適切な固/液分離技術が使用されてもよい。他の実施形態では、カソード区画で形成される化合物のうちの1以上は、ガス状の化合物を含んでもよい。このような実施形態では、生成物は、当業者に公知の気液分離器などのガス収集装置を用いて簡便に収集することができる。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態では、カソード区画は微生物培養物で満たされている。この微生物培養物は、典型的には、カソード区画の中の水性混合物の一部分である。本発明の他の実施形態では、この微生物培養物は電極表面で成長する。本発明のさらに他の実施形態では、カソード区画は当該微生物培養物の一部分で満たされ、当該微生物培養物の別の一部分は電極表面上で成長する。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態では、当該カソード区画は、カソードを収容する第1の区画であって、この第1の区画は酸化還元シャトルを含む、第1の区画と、1以上の微生物を含有する第2の区画とを含んでよく、この酸化還元シャトルは第1の区画で還元され、還元された酸化還元シャトルは第2の区画に与えられ、この第2の区画は、この還元された酸化還元シャトルを電子供与体として使用して当該もう1つの化学物質の形成を促す微生物を含有する。この還元された酸化還元シャトルは、第2の区画で酸化された酸化還元シャトルへと変換される。この酸化された酸化還元シャトルは、第1の区画へと戻されてもよい。
【0048】
本発明を使用して形成されうる化合物の例としては以下のものが挙げられる:
− メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノールなどのアルコール
− ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸などのカルボン酸
− 1,3−プロパンジオールおよび1,2−プロパンジオールなどのジオール
− ポリ−β−ヒドロキシ酪酸(PHB)などのバイオポリマー
− 有機化学物質の存在下または不存在下で二酸化炭素および還元当量から微生物によって生産されうるいずれかの他の有機化学物質。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態での使用に適した生物電気化学システムの概略図を示す。
【図2】本発明の別の実施形態での使用に適した装置の概略図を示す。
【図3】本発明のさらなる実施形態での使用に適した装置の概略図を示す。
【図4】本発明のさらなる実施形態での使用に適した装置の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図面は、本発明の好ましい実施形態を例証するために提供されているということは分かるであろう。それゆえ、本発明は、図面に示された特徴だけに限定されると解釈されるべきではないということを理解されたい。
【0051】
図1に示されている生物電気化学システム10は、アノード区画12およびカソード区画14を具える。アノード区画12はアノード16を具える。カソード区画14はカソード18を具える。このアノードおよびカソードは、電力供給装置22を含む電気回路20を介して、互いに電気的に接続されている。アノード区画12は、イオン交換膜24によってカソード区画14から隔てられている。
【0052】
カソード区画14は、微生物培養物(長円体または丸17および19として図1では概略的に示されている)を含有する。図1に示されている実施形態では、微生物培養物は、明確な培養物を含む。カソードに好適な微生物の明確な微生物培養物は、慎重に選択されたかまたは遺伝子改変された純粋な培養物であるべきであるが、2以上の慎重に選択されたかまたは遺伝子改変された純粋な培養物の慎重に選択された共培養物であることもできよう。これらの純粋な培養物または共培養物は、所望の複雑な分子の生成反応を触媒することができる微生物種からなるべきである。カソード区画14の中にある微生物培養物は、水系媒体(参照数字17を参照)の中に含有されており、かつ/またはカソードに結合されている(参照数字19を参照)。
【0053】
カソード区画14は、ガス注入口26およびガス排出口28を具える。二酸化炭素を含有する流れは、ガス注入口26へと供給され、過剰のガスはガス排出口28を通して除去される。このカソード区画に供給される二酸化炭素を含有する流れは、それが汚染微生物をまったく含有していないという点で、滅菌された二酸化炭素を含有する流れである。このような二酸化炭素を含有する流れの1つの可能な供給源は、ボイラーまたは加熱炉からのオフガス流である。このようなオフガス流は、高温でそのボイラーまたは加熱炉を離れ、それゆえ、微生物を含まない(そして、微生物はオフガス流の中で遭遇する高温によって死滅するであろう)。このオフガス流は、(間接的な熱交換を使用することなどによって、汚染細菌をこのガス流の中へと一切導入しないやり方で)冷却されてもよく、その後にカソード区画14に供給されてもよい。
【0054】
カソード区画14からの液体は、液体ライン30を通って循環する。この液体の循環を維持するためにポンプ32が使用される。価値ある生成物をこの液体から分離するために分離器34が使用され、この価値ある生成物は36で回収される。この分離器の性質は、この液体から分離されるべき価値ある生成物によって決定されることになる。当業者なら、形成されている各生成物についての適切な分離器を設計する方法を容易に理解するであろう。
【0055】
図2は、本発明で使用するのに適した別の装置の概略図を示す。図2に示されている装置は、アノード116を収容するアノード区画112を含む。またこの装置は、カソード118を収容するカソード区画114も含む。膜124は、カソード区画をアノード区画から隔てる。(バッテリまたはAC/DC変換器などのDC電力供給装置の形態の)電力供給装置122を具える電気回路120は、アノード116をカソード118に電気的に接続する。
【0056】
またこの装置は分離容器130も具える。容器130は、二酸化炭素および酸素または酸素含有ガスを供給することができる注入口132を有する。この酸素および二酸化炭素は、ライン134を介して区画114に移すことができる。ライン136は、流体および過剰のガスを容器130に戻す。容器130は、水系媒体も与えられてよく、二酸化炭素および酸素はこの水系媒体に溶解してもよく、溶解した二酸化炭素および酸素を含有するこの水系媒体は、カソード区画114へと移される。
【0057】
図3は、本発明の実施形態での使用に適した別の装置の概略図を示す。図3に示されている装置は、アノード216を収容するアノード区画212を具える。この装置は、カソード218を収容するカソード区画214をも具える。膜224は、カソード区画をアノード区画から隔てる。(バッテリまたはAC/DC変換器などのDC電力供給装置の形態の)電力供給装置222を具える電気回路220は、アノード216をカソード218に電気的に接続する。
【0058】
図3に示されている装置は、さらなる容器230をも具える。容器230は、二酸化炭素を容器230に入れるための注入口232を有する。図3に示されている実施形態では、酸化還元シャトルはカソード区画214で還元される。還元された酸化還元シャトルは、ライン236を介して外部区画230へと供給される。容器230の中の微生物の培養物は、還元された酸化還元シャトルを、二酸化炭素の還元のための電子供与体として使用する。次いで酸化された酸化還元シャトルは、ライン238を介してカソード区画214へと戻される。
【0059】
図4は、本発明の実施形態での使用に適した別の装置の概略図を示す。図4に示されている装置は、アノード316を収容するアノード区画312を具える。またこの装置は、カソード318を収容するカソード区画314をも具える。膜324はカソード区画をアノード区画から隔てる。電力供給装置322を具える電気回路320は、アノード316をカソード318に電気的に接続する。
【0060】
この装置は容器330をも具え、この容器330は、酸素(および、必要な場合にはさらなる二酸化炭素)を容器330に供給するための注入口332を有する。ライン350は、酸素および二酸化炭素をカソード区画314に移し、ライン352は、過剰の酸素および二酸化炭素を容器330へと戻す。この酸素および二酸化炭素は、ガス状の流れとして移されてもよいし、または液体の流れに溶解されて移されてもよい。
【0061】
図4に示されている実施形態では、アノードで起こっている反応は、アノード区画312で二酸化炭素を生成する。アノード区画からの排出口340は、二酸化炭素を含有する水性液体をアノード区画から除去し、その水性液体をストリップ塔342へと通す。このストリップ塔では、二酸化炭素はこの水性液体から分離される。水性液体は、ライン344を介してアノード区画312に戻される。ストリッピングされた二酸化炭素は、ライン346を介して容器330の注入口334へと移される。容器330の中の二酸化炭素および酸素は、カソード区画314へと移され、カソード区画314で、選択された微生物の培養物がこの二酸化炭素を他の化合物へと変換する。この実施形態は、アノードで生成する二酸化炭素は捕捉され、カソード区画への供給物として使用され、これにより二酸化炭素排出量が低下されるという点で、有利である。
【実施例】
【0062】
実施例1:バイオポリマー生成
図2に示されている装置を使用するこの実施例では、カソードチャンバーの中にある細菌は、カソードからの二酸化炭素および電子をエネルギーおよび炭素源として使用する。この場合、この微生物は、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸(PHB)の形態でのバイオポリマーを生成することができる。COは、純粋な培養物または細菌の明確な混合物を維持することができるような方法で、与えられる。このPHB合成を支えるために、酸素が供給される。電子は、直接的または間接的に、例えばカソードでの水素の生成を介して、細菌に到達する。外部電源は、必要な場合には、カソードで、必要とされる付加的な還元力を提供することができる。
【0063】
このカソードにおける生物の例:Cupriavidus necator(カプリアビダス・ネカトール)(かつてはAlcaligenes eutrophus(アルカリゲネス・ユートロフス)またはRalstonia eutropha(ラルストニア・ユートロファ))。
【0064】
実施例2:生物化学物質生成生物への還元力の間接的な提供
この実施例では、図3に示されている装置が使用され、酸化還元シャトルはカソード区画で還元される。還元された酸化還元シャトルは、(できれば、透過膜を通して)外部区画へと運ばれ、そこで、微生物はこの還元された酸化還元シャトルを、電子受容体(COである)の還元、およびこのCOからの化学物質の生成のための電子供与体として使用する。外部電源は、必要な場合には、カソードで、必要とされる付加的な還元力を提供することができる。
【0065】
実施例3:カソード反応を推進するための、アノードで生成するCOの再使用
この実施例は、図4に示されている装置で行われる。アノードは、炭素源を酸化する微生物を収容する。生成するCOはその場で、または外部のストリッピング反応器の中でストリッピングされ、そしてその後、このカソード区画が、所望の化学物質を形成するための微生物の明確な培養物または混合培養物を含有することができるような方法で、カソード区画へと運ばれる。
【0066】
本発明は、微生物バイオカソードを使用して複雑な分子を生産するためのカソードシステムを提示する。このシステムは、望まれない微生物の汚染および/またはカソードチャンバーのpHの上昇および/または塩分の上昇に伴う上述の問題点を防止する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の化合物を生成するためのプロセスであって、膜によって隔てられているアノードおよびカソードを有する生物電気化学システムを準備する工程であって、前記アノードおよび前記カソードは互いに電気的に接続されている、工程と、酸化を前記アノードで発生させ、かつ還元を前記カソードで発生させ、これにより前記カソードで還元当量を生産する工程と、前記還元当量を微生物の培養物に与える工程と、二酸化炭素を微生物の前記培養物に与える工程であって、これによって前記微生物が前記1以上の化合物を生産する工程と、前記1以上の化合物を回収する工程と、を含む、プロセス。
【請求項2】
前記1以上の化合物を形成する前記微生物はカソード区画の中に存在し、前記プロセスは、酸化を前記アノードで発生させ、かつ還元を前記カソードで発生させる工程であって、二酸化炭素は前記カソード区画へと供給され、かつ前記微生物は前記1以上の化合物を生産する工程と、前記1以上の化学物質を前記カソード区画から回収する工程と、を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記生物電気化学システムは、電気回路の中に電力供給装置を具える、請求項1または請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記二酸化炭素は、前記カソードから還元当量を受け取るか、または前記カソード区画の中に存在する前記微生物への炭素含有供給物質として働き、かつ前記二酸化炭素は、前記微生物へと供給される唯一の炭素含有供給成分を構成する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記二酸化炭素は、前記カソードから還元当量を受け取るか、または前記カソード区画の中に存在する前記微生物への炭素含有供給物質として働き、かつ前記二酸化炭素は、前記微生物によって、他の有機物質と併用して使用され、前記化学物質が生成される、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記カソード区画に与えられ、または前記カソード区画から還元当量を受け取る前記微生物は、1以上の選択された微生物種を含有する明確な微生物培養物を含む、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記微生物種は、前記カソードの中で増殖したときに、顕著な量のメタンを生成しない、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記微生物は、混合された、非選択的な培養物を含み、前記プロセスは、前記カソード区画におけるメタンの形成を抑制しながら、前記1以上の化学物質を前記カソード区画で生成する工程、および前記1以上の化学物質を前記カソード区画から回収する工程をさらに含む、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
メタン形成は、前記メタンの形成をまたはメタン生成生物の活性を抑制する1以上の化学物質を前記カソード区画に加えること、低滞留時間が前記カソード区画で使用されるように前記カソード区画を運転すること、前記カソード区画を5.5未満などの低pHで運転すること、または前記カソード区画を定期的に空気、酸素もしくは過酸化水素に曝露すること、のうちの1以上によって抑制される、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記生物電気化学システムは、バイオアノードおよびバイオカソードを含む、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記アノード区画で形成される生成物のうちの1つは二酸化炭素であり、この二酸化炭素は前記カソード区画への供給物として使用される、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
アニオン交換膜が前記アノード区画を前記カソード区画から隔てる、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項13】
炭酸水素イオンが前記カソード区画で生成し、その後、前記アニオン交換膜を通って前記アノード区画へと移動し、これにより、前記微生物を死滅させる可能性がある、前記カソード区画におけるpHおよび/または塩分の上昇を回避する、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記アノードおよび前記カソードを隔てる膜は多孔質膜を含み、前記多孔質膜は、液体およびイオンが前記多孔質膜を通過することは許容するが、微生物が前記多孔質膜を通過することは防止する、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記アノードは、バイオアノードとして運転され、廃棄物の流れは、前記アノードへの供給物質として使用され、通常の運転の間は、液体は、前記多孔質膜を通って前記アノードから前記カソードチャンバーの中へと通過し、アノード反応で生成されるプロトンは、前記膜を通って前記カソード区画へと運搬され、カソード反応で生成されるヒドロキシルイオンと式(4):
【化1】

に従って反応し、これによりカソード区画における望ましくないpHの上昇が回避される、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記カソードチャンバーの中のpHおよび塩濃度は安定に留まり、恒常性が維持される、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記生物電気化学システムはバイオカソードだけを用いて運転される、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項18】
酸溶液が前記アノード区画に与えられ、前記アノード反応は、プロトン生成反応を含み、前記膜は、カチオン交換膜を含み、プロトンは前記カチオン交換膜を通って移行し、前記カソード反応で生成されるヒドロキシルイオンとの反応に供される、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
前記アノードおよび前記カソードを隔てる膜はバイポーラ膜を含む、請求項1から請求項18のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項20】
前記バイポーラ膜はアニオン交換層の上にあるカチオン交換層から構成され、前記アニオン交換層は、前記アノードチャンバーに向けられ、前記カチオン交換層はカソードチャンバーに向けられ、そのため、電流が流れるとき、水は前記バイポーラ膜の層の間を拡散し、プロトンおよびヒドロキシルイオンへと分裂され、前記ヒドロキシルイオンは、前記アニオン交換層を通って前記アノードチャンバーへと移動し、そこで前記ヒドロキシルイオンは、前記アノード反応におけるプロトン生成を補い、前記プロトンは前記カチオン交換層を通って前記カソードチャンバーへと移動し、そこで前記プロトンは前記カソード反応におけるヒドロキシルイオン生成(またはプロトン消費)を補う、請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
前記アノードの流出物は二酸化炭素を含有し、前記アノードからの流出物は、前記カソードにガスとして供給するためのガス状の二酸化炭素を回収するためのストリップ塔または膜ユニットに送られる、請求項1から請求項20のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項22】
前記アノードからの流出物は、前記アノード流出物からの二酸化炭素の分離を可能にするための膜ユニットに通され、前記膜ユニットは前記膜の他方の側で液体の流れを有し、そのため、この分離される二酸化炭素は、前記膜の他方の側の流体へと溶け込み、前記二酸化炭素は、溶解した形態で前記カソードに与えられる、請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
前記アノード流体の他方の側で前記膜ユニットを通過する流体は、カソード流体を含む、請求項22に記載のプロセス。
【請求項24】
前記アノード流出物は、二酸化炭素が、前記アノード流出物の有機の構成成分と一緒に通過することを許容するための膜ユニットを通して、第2の液体へと送られ、前記第2の流体は、前記有機物の還元が起こる前記カソードへと送られる、請求項22に記載のプロセス。
【請求項25】
化学物質の混合物が前記カソード区画の中で形成され、前記プロセスは、化合物の混合物を前記カソード区画から除去する工程、および前記化合物の混合物を2以上の流れへと分離する工程をさらに含む、請求項1から請求項24のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項26】
前記カソード区画は前記微生物培養物で満たされており、前記微生物培養物は、前記カソード区画の中の水性混合物の一部分であるか、または前記微生物培養物は電極表面上で成長するか、または前記カソード区画は、前記当該微生物培養物の一部分で満たされてかつ前記微生物培養物の別の一部分は前記電極表面上で成長する、請求項1から請求項25のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項27】
前記カソード区画は、前記カソードを収容する第1の区画であって、前記第1の区画は酸化還元シャトルを含む、第1の区画と、1以上の微生物を含有する第2の区画とを含み、前記酸化還元シャトルは前記第1の区画で還元され、還元された酸化還元シャトルは前記第2の区画に与えられ、前記第2の区画は、前記還元された酸化還元シャトルを電子供与体として使用して前記1以上の化学物質の形成を促す微生物を含有する、請求項1から請求項26のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項28】
前記還元された酸化還元シャトルは、前記第2の区画で酸化された酸化還元シャトルへと変換され、前記酸化された酸化還元シャトルは前記第1の区画へと戻される、請求項27に記載のプロセス。
【請求項29】
形成される化合物としては、
− メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノールなどのアルコール、
− ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸などのカルボン酸、
− 1,3−プロパンジオールおよび1,2−プロパンジオールなどのジオール、
− ポリ−β−ヒドロキシ酪酸(PHB)などのバイオポリマー、
が挙げられる、請求項1から請求項28のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項30】
形成される前記化合物はブタノールを含み、前記生物電気化学システムは、前記カソードに、式(2):
【化2】

に従ってブタノールを生産する化学独立栄養成長細菌を含む、請求項1から請求項29のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項31】
前記カソード区画に供給されている前記二酸化炭素の流れは、バーナーもしくはボイラーからのオフガス流または煙道ガス流に由来する、請求項1から請求項30のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項32】
0〜10Vの間、好ましくは0〜1.5Vの間、より好ましくは0〜1.0Vの間の電圧が前記アノードと前記カソードとの間に印加され、0〜10,000A/(m−生物電気化学電池)の間、好ましくは10〜5,000A/(m−生物電気化学電池)の間、より好ましくは100〜2500A/(m−生物電気化学電池)の間の前記生物電気化学電池における体積電流密度、および/または0〜1,000A/(m−膜表面積)の間の、好ましくは1〜100A/(m−膜表面積)の間、より好ましくは2〜25A/(m−膜表面積)の間の単位面積当たりの電流密度が得られる、請求項1から請求項31のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項33】
前記カソード区画に供給されている前記二酸化炭素の流れは、メタンおよび二酸化炭素の混合物を含有するバイオガスを含むか、または前記カソードに供給されている前記二酸化炭素は、炭層または層に由来し、このとき、炭酸塩に富む流体が炭層から前記カソード区画を通ってポンプ輸送される、請求項1から請求項32のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項34】
二酸化炭素は、前記生物電気化学システムの前記アノードから、拡散または輸送によって、前記カソード区画へと与えられる、請求項1から請求項33のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項35】
前記カソードも有機分子が与えられ、前記生物化学物質の生成が支援される、請求項1から請求項34のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項36】
前記有機分子は、グリセロール、グルコース、乳酸塩または乳酸エステル、プロピオン酸塩またはプロピオン酸エステルおよび酪酸塩または酪酸エステルから選択される、請求項35に記載のプロセス。
【請求項37】
グリセロールが加えられ、生成物の形成は1,3−プロパンジオールまたはブタノールを含み、かつグリセロールが前記カソード区画に、前記アノード区画に、またはその両方に加えられる、請求項36に記載のプロセス。
【請求項38】
前記グリセロールは、前記生物電気化学システムに入る前にプロピオン酸塩またはプロピオン酸エステルへと部分的に変換されてもよく、その後、グリセロールおよびプロピオン酸塩またはプロピオン酸エステルの混合物として前記カソードに加えられてもよい、請求項37に記載のプロセス。
【請求項39】
前記カソードから前記微生物への電子の輸送を可能にする酸化還元メディエーターが前記カソード流体に加えられる、請求項1から請求項38のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項40】
前記酸化還元メディエーターは、メチルビオローゲン、ニュートラルレッド、フェナジンカルボキシアミド、アミドブラックまたはこれらのうちの2以上の混合物から選択される、請求項39に記載のプロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−512326(P2012−512326A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541023(P2011−541023)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際出願番号】PCT/AU2009/001645
【国際公開番号】WO2010/068994
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(505167565)ザ ユニバーシティー オブ クイーンズランド (20)
【Fターム(参考)】