説明

化粧鋼板及びその製造方法

【課題】 フィルムラミネート化粧鋼板の耐熱水性及び耐食性の改善。
【解決手段】 電解クロメート処理された表面処理鋼板にポリエステル樹脂フィルムを熱溶着した後、その上に柄印刷を行なう。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、水回りに使用する電気機器等の部材、及びそれらの近辺に位置する外装壁材等に好適な耐熱水性、耐食性に優れた化粧鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】表面に柄模様を印刷した化粧鋼板は、従来よりその意匠性等を活かし、家電製品や暖房機器などの外装部、内装建材あるいは器物などに使用されている。
【0003】これまでは鋼板に直接柄印刷を行ない、その上に熱硬化型もしくは放射線硬化型の塗料を塗装し、化粧を行なっていた。ただし、それらの塗装は裁断、折り曲げ等の加工時に表面に傷が発生したり、またピンホールを生じやすく耐熱水性、耐食性に劣る。また、使用される塗料は有機溶媒を多く含み、塗装の際に多くの有機溶媒を大気中に放出し、環境上問題があることから、近年、塗装の代わりにフィルムラミネートを行なうよう移行しつつある。
【0004】そのようなフィルムラミネート化粧鋼板としては樹脂フィルムと鋼板を接着する際に接着剤を用いて圧着するタイプと、樹脂フィルム自体を熱で溶融し圧着させる熱溶着タイプがある。
【0005】接着剤圧着タイプは、例えば特公平5−17031号公報、特公平4−54580号公報、特開平7−276896号公報、特開平8−34092号公報、特開平8−58017号公報、特開平8−238721号公報等に開示されており、鋼板あるいは樹脂フィルムのどちらかに予め柄印刷を施し、その両者を接着剤にて貼り合わせるものである。
【0006】使用される接着剤としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、放射線硬化樹脂等があげられる。しかし、これらの接着剤、及び印刷用にさらに顔料を添加した接着剤は耐熱水性に劣り、沸騰水浸漬試験や耐湿性試験などを行なうと、接着剤層中に水が浸透して膨潤し、最終的にはフィルムが鋼板から剥離してしまう。このため、従来の接着剤圧着タイプのフィルムラミネート化粧鋼板は、電気洗濯機あるいは電気ポットのような厨房機器の外装材のような水回りに使用する電気機器等の製品の部材及びそれらの近辺に位置する外装壁材等に使用するには問題があった。
【0007】また、接着剤を用いずに、鋼板あるいは樹脂フィルムのどちらかに予め柄印刷を施し、その両者を接着剤ではなく樹脂フィルム自体を熱で溶融し、圧着させる熱溶着タイプのフィルムラミネート化粧鋼板は、例えば特開昭61−291128号公報、特開平6−254489号公報、特開平6−262726号公報、特開平7−52344号公報、特開平7−304132号公報、特開平8−34093号公報等に開示されている。しかし、これらの鋼板に、予め柄印刷を施したものあるいは樹脂フィルムの鋼板側面に柄印刷を施したものでは、いずれも柄印刷のインキ等が鋼板と樹脂フィルム間の密着性を阻害し、耐熱水性に劣る。また、柄印刷面を外側にして鋼板と樹脂フィルムを熱溶着した場合、耐熱水性は問題ないが、熱溶着時に、柄印刷がラミネート用の加熱ロールに転写されるという問題がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、有害な溶剤を含む塗料と比較して環境に優しいフィルムラミネートを適用し、耐熱水性、耐食性、外観及び強度が良好で、水回りに使用する電気機器等の部材およびそれらの近辺に位置する外装壁材等に好適である化粧鋼板を提供することにある。
【0009】また、本発明の第2の目的は、有害な溶剤を含む塗料と比較して環境に優しいフィルムラミネートを適用し、耐熱水性、耐食性、外観及び強度が良好で、水回りに使用する電気機器等の部材およびそれらの近辺に位置する外装壁材等に好適である化粧鋼板が低コストで容易に得られる化粧鋼板の製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、第1に、下地鋼板と、該下地鋼板の少なくとも一方の主面に設けられた片面あたり30mg/m2 以上の金属クロム層、及び該金属クロム層上に設けられた片面あたり金属クロム換算で3〜30mg/m2 の水和クロム酸化物層から構成される電解クロメート処理層と、該電解クロメート処理層上に積層されたポリエステル樹脂層と、該ポリエステル樹脂層上に形成された柄印刷層とを具備する化粧鋼板を提供する。
【0011】本発明は、第2に、下地鋼板の少なくとも一方の主面上に、電解クロメート処理を行なうことにより、片面あたり30mg/m2 以上の金属クロム層と、片面あたり金属クロム換算で3〜30mg/m2 の水和クロム酸化物層とからなる電解クロメート処理層を形成する工程、該電解クロメート処理層上にポリエステル樹脂単層または二層を熱ラミネートにより形成する工程、及び熱ラミネートされたポリエステル樹脂層上に油性あるいはUV印刷を行なうことにより印刷層を形成する工程を具備する化粧鋼板の製造方法を提供する。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明者らは、化粧鋼板の耐熱水性を改善すべく、鋼板と樹脂フィルムとの接着界面における接着機構について詳細に検討した。
【0013】鋼板としては樹脂フィルムとの密着性が比較的良好なティンフリースチール(TFS)を使用した。このTFSは、下地鋼板に、クロムめっき及びクロム酸化めっきを行なった表面処理鋼板である。
【0014】その結果、樹脂フィルムとTFS界面の接着は水素結合が支配的因子になっていることが判った。水素結合の接着力は、共有結合による接着力と比較すると余り高くない。その接着は、接着界面に印刷インキのようなものが介在すると、その密着力が阻害される。
【0015】また、発明者らは、樹脂フィルムとTFS熱水環境下、高温水蒸気環境下における密着性の劣化についても検討を行なったところ、そのおもな要因は、樹脂フィルムを透過した水分子が樹脂フィルム/TFS界面を攻撃することにあり、これにより、密着性の劣る部分は、劣化をより促進されることがわかった。
【0016】本発明の化粧鋼板は、上述の結果を考慮して得られたもので、下地鋼板と、下地鋼板の少なくとも一方の主面上に形成された所定量の金属クロム層及び水和クロム酸化物層からなる二層の電解クロメート処理層と、電解クロメート処理層に熱ラミネートされた樹脂フィルムと、及び印刷層とが順に積層した構造を有する。
【0017】また、本発明の化粧鋼板の製造方法は、下地鋼板の少なくとも一方の主面上に、電解クロメート処理をおこなうことにより、所定量の金属クロム層と、水和クロム酸化物層とを、順次形成する工程、その後、得られた電解クロメート処理層上に、ポリエステル樹脂単層または二層を熱ラミネートする工程、及び熱ラミネートされたポリエステル樹脂層上に油性あるいはUV印刷を行なうことにより印刷層を形成する工程を有する。
【0018】本発明によれば、樹脂フィルムとの密着性の良好な電解クロメート処理層を有する鋼板を使用し、印刷インキ等を介在させることなく、ポリエステル樹脂の単層または二層と直接熱溶着させることにより、樹脂フィルムと電解クロメート処理層との界面での密着性の劣化を防止することが可能となり、より優れた密着性が得られ、耐熱水性、耐食性及び強度が向上する。また、印刷層は、ポリエステル樹脂層の熱ラミネートを行なった後に形成されるので、熱ラミネート中に加熱ロール等に付着することはなく、また良好な外観が得られる。
【0019】以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0020】図1は、本発明にかかる化粧鋼板の構成を表す概略図である。
【0021】図示するように、この化粧鋼板10は、下地鋼板1と、例えばその一方の両主面に形成された金属クロム層2及び水和クロム酸化物層3からなる電解クロメート処理層4と、その一方の水和クロム酸化物層3上に設けられたポリエステル樹脂層5と、ポリエステル樹脂層5上に設けられた所定の柄パターンの絵柄層6および保護被膜層7からなる柄印刷層8とから構成されている。
【0022】本発明に用いられる下地鋼板は、特に限定されるものではなく、通常この種の表面処理鋼板に用いられる鋼板であればどのような鋼板でも使用することができる。具体的には、例えば板厚0.1〜0.5mmの通常の低炭素冷延鋼板、低炭素Alキルド鋼板等があげられる。
【0023】本発明に用いられる二層の電解クロメート処理層のうち、下層となる金属クロムの付着量は、片面あたり30mg/m2 以上であり、好ましくは30〜300mg/m2 である。その付着量が30mg/m2 未満の場合には耐食性に問題を生じる。
【0024】300mg/m2 を越えると、性能上全く劣ることはないが、経済的観点から好ましくない。いずれにしても、通常の電解クロメート処理鋼板に用いられる量であれば問題ない。
【0025】上層となる水和クロム酸化物の付着量は、片面あたり金属クロム換算で3〜30mg/m2 とする。その付着量が3mg/m2 未満では、金属クロム層が水和クロム酸化物によって均一に覆われず、金属層の露出面積が大となり、耐食性の劣化、および鋼板と樹脂フィルムの密着性低下による耐熱水性の劣化のため好ましくない。また、30mg/m2 を越えると、水和クロム酸化物層が厚すぎることによって生じる外観の劣化、耐食性の劣化および密着性の劣化を引き起こし耐熱水性が劣るため好ましくない。
【0026】本発明では、このような電解クロメート処理層の上には、ポリエステル樹脂層が形成される。
【0027】本発明に使用される樹脂フィルムとしては、樹脂フィルムと電解クロメート処理層との界面に、界面の密着力を向上させ、かつ、水蒸気透過を抑制するものが好ましく選択される。密着性に優れるには、電解クロメート処理層との水素結合を向上させることが必要と考えられる。水素結合を向上させるためには水酸基、カルボキシル基等の極性基の導入が望ましい。また、水蒸気透過を抑制するには芳香環のような剛直な環を有する樹脂フィルムが有効である。
【0028】また、樹脂ラミネート後の印刷には、UV印刷及び油性印刷等が考えられるが、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなオレフィン樹脂では、表面自由エネルギーが小さく、印刷が困難である。また、油性印刷の場合は、印刷時、熱が加わるため、その熱によりラミネート樹脂自体が損なわれないこと、および鋼板との密着性が低下しないこと等も望まれる。
【0029】本発明では、上述の要求を兼ね備える樹脂フィルムとして、ある特定のPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂のようなポリエステル樹脂を使用する。
【0030】このようなポリエステル樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、エチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体等があげられる。
【0031】ポリエステル樹脂の代わりに、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン等を用いると、水蒸気透過率が大きいため耐熱水性が劣り、表面自由エネルギーが小さいため印刷性に劣ること、および耐傷つき性に劣るため好ましくない。
【0032】本発明におけるポリエステル樹脂は、一般的に溶融重合で合成される。その分子量は好ましくは5000〜100000であり、そのポリエステル樹脂組成物は、ジカルボン酸成分とグリコール成分から構成されるが、その重合体はいくつかのモノマーを組み合わせて行う共重合体でも構わない。ジカルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等を挙げることができる。一方、グリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等を挙げることができる。
【0033】また、本発明におけるポリエステル樹脂は、顔料等の入っていない状態で使用することができる。あるいは、例えば酸化チタン等の顔料で着色された状態で使用することもできる。
【0034】ポリエステル樹脂層は、厚み10μm以上の単層あるいは二層構造を有し、その鋼板接着層の熱結晶化温度が150℃以上もしくは熱結晶化温度を有しないことが望ましい。
【0035】厚み10μm以下になると、耐傷つき性に劣り、フィルム製造の際にピンホール等を生じやすくなり、このために耐食性に劣る傾向がある。
【0036】また、鋼板接着層はラミネート後、いかなる環境下においても鋼板から剥がれてはいけない。本願発明の化粧鋼板は、水回りに使用する電気機器等の製品の部材およびそれらの近辺に位置する外装壁材等に好適に使用される。また、ラミネート後の柄印刷も場合によっては、油性印刷等が施される場合は140℃以上にさらされる。
【0037】そのためにはポリエステル樹脂フィルム/鋼板界面の密着性の維持が必須となる。
【0038】ポリエステル樹脂は一般的にガラス転移温度以上の熱に長時間さらされると熱により結晶化が促進され、やがては球晶を生成する。球晶を生成した状態で水蒸気にさらされるとポリエステル樹脂フィルム/鋼板界面の密着性が著しく低下し、やがてフィルム剥離を起こしてしまう。
【0039】このようなことから、本発明に使用されるポリエステル樹脂は、単層あるいは二層で、かつその鋼板接着層の熱結晶化温度が150℃以上もしくは熱結晶化温度を有しないことが望ましい。その鋼板接着層のポリエステル樹脂が示差熱走査熱量分析(DSC)測定結果により熱結晶化温度を有し、その熱結晶化温度が150℃以下であると球晶を生成しやすく耐熱水性に劣る。150℃以上あるいは熱結晶化温度を有しない非晶状態であれば、油性印刷等の熱履歴あるいは水回りに使用する電気機器等の製品等の熱履歴では球晶を生成しない。
【0040】二層のポリエステル樹脂層を使用する場合、鋼板と反対側の二層フィルムの上層は、熱結晶化温度を有しても有さなくても、有す場合は150℃以下でも以上でも構わない。
【0041】さらに、本発明ではポリエステル樹脂層上に柄印刷層が設けられる。柄印刷層は、好ましくは絵柄層および保護被膜層から形成され、それらの層は塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、変性アルキッド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリル、ポリウレタン、ポリビニルアセタール、ポリエステルウレタン、塩化ゴムなどの熱可塑性樹脂をバインダーとして用い、適切な色の染顔料を着色材として含有するものを使用し、溶剤、各種添加剤と共にポリエステル樹脂フィルム上に適用される。その柄印刷層の形成方法としては、例えば溶剤を蒸発させる熱でバインダー樹脂の硬化反応を進める油性印刷法と、紫外線を照射することにより硬化反応を進めるUV印刷法とがあげられる。ただし、油性印刷法を用いる場合には、硬化反応を進めるために、一般的に150℃以上の熱が必要である。そのため、油性印刷では、電解クロメート処理層と接するポリエステル樹脂層は、油性印刷時の熱により熱結晶化しないように考慮する必要がある。
【0042】絵柄層としては、例えばパール顔料層を使用することができる。パール顔料としては、魚鱗を微粉砕して得られる天然パールエッセンス、雲母粉末、もしくは塩基性炭酸鉛や三塩化ビスマスあるいは酸化チタンコーティング雲母粉末のような合成パール顔料などを用いることができる。また、絵柄層は単層でも、例えば着色層、パール顔料層、及び金属薄膜層などを組み合わせた多層構成でもよい。
【0043】本発明の化粧鋼板は、例えば下地鋼板に直接またはクロムめっき後鋼板の表面に、電解クロメート処理を施して、所定量の金属クロム層と、水和クロム酸化物層とからなる電解クロメート処理層を形成した後、必要に応じて、水洗、または水洗及び乾燥し、次いで好ましくは厚み10μm以上のポリエステル樹脂フィルムを電解クロメート処理層上に熱ラミネートしてポリエステル樹脂層を形成し、さらにその上に油性あるいはUV印刷することにより製造し得る。
【0044】電解クロメート処理方法としては、通常用いられる公知の方法を採用することができる。このような処理方法としては、例えば、金属クロムと水和クロム酸化物とを同時に析出させる一液法、および金属クロム層形成後に水和クロム酸化物を析出させる二液法があげられる。
【0045】また、熱ラミネートされるポリエステル樹脂をフィルムにするためには、押出溶融して樹脂をTダイ方式でフィルム化する一般的な方法を使用することができる。また、そのフィルムは、そのままの無延伸の状態でも、あるいは二軸延伸等の延伸処理を行った状態でも使用可能である。
【0046】ポリエステル樹脂フィルムは、熱溶着によりラミネートされるが、鋼板をポリエステル樹脂フィルムの融点以上に加熱し、ロールを使用してフィルムを圧着する方法が一般的である。そのラミネート技術は数多く公開されている公知の方法により行うことができる。例えば金属板に有機樹脂フィルムをラミネートする技術としては特開昭57−182428号公報、特公昭61−3676号公報等には、金属板側をフィルムの融点以上に加熱し、熱融着によって接着する方法が開示されている。
【0047】柄印刷としての絵柄層および保護被膜層は、ポリエステル樹脂フィルム上に通常のグラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷等の各種印刷法により絵柄層を形成することができる。また、従来より知られている金属蒸着法によって、絵柄層を設けることができ、部分的に蒸着したものや印刷と蒸着を組み合わせたものを使用することができる。
【0048】以上示したように、このような構成を有する本発明によれば、耐熱水性の劣化を抑制し、水回りに使用する電気機器等の製品の部材製造およびそれらの近辺に位置する外装壁材等に適用可能な、フィルムラミネート化粧鋼板を提供することができる。
【0049】
【実施例】以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【0050】まず、下記供試材を用意した。
【0051】供試材(1)表面処理鋼板低炭素Alキルド連鋳鋼で、厚さ0.35mmのT4CA材を原板鋼帯とし、これに各々下記表1に示す表面処理を施し、200×300mmの切板にした。
【0052】(2)ポリエステル樹脂層表2−1及び表2−2に示すように、ポリエステル樹脂フィルムA〜Nを用意し、その熱結晶化温度を測定した。
【0053】セイコー電子株式会社製 示差熱走査熱量分析計SSC−5500を用い、ポリエステル樹脂フィルムAを、窒素20ml/分気流下、10℃/分の昇温速度で20℃から280℃まで昇温した。昇温後ただちにサンプルを液体窒素中に浸せきし、クエンチした。そのサンプルを再度、窒素20ml/分気流下、10℃/分の昇温速度で20℃から80℃まで昇温し、結晶化に伴う発熱ピークの頂点(157℃)を熱結晶化温度とした。
【0054】図2に、ポリエステル樹脂フィルムAを用いた場合の測定結果を表すグラフ図を示す。
【0055】ポリエステル樹脂フィルムA 二軸配向ポリエステルフィルム(ポリエチレングリコールとテレフタル酸/イソフタル酸の共重合体)単層、酸化チタン入り、ホワイト フィルム厚さ:25μmこのグラフより、フィルムの熱結晶化温度が176℃、結晶融解温度が229℃であることがわかった。
【0056】同様にして、ポリエステル樹脂フィルムB〜Nについても、熱結晶化温度を測定した。その結果と、使用された樹脂の種類、樹脂フィルムの単層あるいは二層の区別、顔料の有無、及び色等を表2−1及び表2−2に示す。
【0057】さらに、図3には、ポリエステル樹脂が熱結晶化温度を持たないフィルムの測定結果として、ポリエステル樹脂フィルムGの熱結晶化温度測定結果を表すグラフ図を示す。図示するように、熱結晶化温度を持たない場合、グラフにはピークが現れない。
【0058】次に、200×300mmの切板の両面に、ポリエステル樹脂フィルムAを次に示す条件で熱ラミネートし、ポリエステル樹脂層を形成した。
【0059】熱ラミネート条件ラミネート直前の鋼板温度 :235℃ラミネート速度 :2m/秒ラミネート後の冷却 :水冷(急冷)
ポリエステル樹脂フィルムB〜Nについても同条件で各々熱ラミネートを行なった。
【0060】(3)印刷各ポリエステル樹脂フィルム上への柄印刷を、絵柄層として石目調柄をベース樹脂として変性アルキッド樹脂、硬化剤としてイソシアネート樹脂を適用した印刷インキを用いてオフセット印刷し、150℃×10分焼き付け、乾燥した。さらに、同様のクリアニスで、保護被膜層を形成したのち、さらに焼き付け乾燥を行い、油性印刷による柄印刷層を得た。
【0061】また、UV印刷としては、例えばアクリル系(エポキシ・アクリレート)のUVインキ、UVクリアニスを用い、同様のオフセット印刷を行った後、紫外線照射により反応を進行させ、絵柄層、及び保護被膜層からなる柄印刷層を得た。
【0062】次に、上述の供試材を用いた各実施例及び比較例について詳述する。
【0063】実施例1200×300mm、厚さ0.35mmのT4CA材に、表1−1に示すように、金属Cr付着量126mg/m2 、金属クロム換算での水和クロム酸化物付着量16mg/m2 となるような電解クロメート処理を施した後、その表面処理鋼板に対し、上述のようにしてポリエステル樹脂フィルムAをラミネートし、その後、油性印刷により柄印刷を施し、フィルムラミネート化粧鋼板を得た。得られたサンプルについて、碁盤目試験、鉛筆硬度試験、熱水処理後のピール強度、及び耐食性試験を行ない、その印刷性、耐傷つき性、耐熱水性、及び耐食性を評価した。
【0064】供試材の評価(1)印刷性・碁盤目試験評価樹脂フィルムに柄印刷を施した後、JIS−K5400に準拠した碁盤目試験により評価を行った。テープ剥離試験を行った後フィルム表面の柄印刷の剥離状況をルーペで観察した。その際、剥離なしの良好な状態を5点とし、剥離状況に応じて4点、3点、2点、1点と小さくなるにつれて剥離の程度が大きくなるように5段階に分けて評価した。また、その5段階評価のうち5点のみを印刷性良好と評価した。
【0065】5点:100/100剥離なし、4点:99/100〜75/100剥離なし、3点:74/100〜50/100剥離なし、2点:49/100〜1/100以上剥離なし、1点:100/100剥離(2)耐傷つき性・鉛筆硬度試験樹脂フィルムに柄印刷を施した後、JIS−K5400に準拠した鉛筆硬度試験により評価を行った。鉛筆硬度評価のうち2H以上のものを耐傷つき性良好と評価した。
【0066】(3)耐熱水性・熱水処理後のピーク強度樹脂フィルムに柄印刷を施した後、その鋼板(200×300mm)を沸騰水中に24時間浸せきし、その後15mm幅に切断し、引張速度100mm/minのスピードで樹脂フィルム/鋼板間のピール強度を測定した。(25℃、湿度50%環境下)
その15mm幅の最大ピール強度が1.0kgf以上のものを耐熱水性良好と評価した。
【0067】(4)耐食性・耐食性試験樹脂フィルムに柄印刷を施した後、その鋼板(200×300mm)を50mm×50mmの大きさに切断し、カッターナイフを用い、そのサンプルの鋼板まで達するようにクロスカットを入れた。そのサンプルを2%塩化ナトリウム水溶液中に23℃、3日間浸漬し、水洗、乾燥後、クロスカット部のフィルムの剥離程度を5段階評価した。
【0068】5点:剥離幅2mm以内、4点:剥離幅2mm〜4mm、3点:剥離幅4mm〜7mm、2点:剥離幅7mm以上、1点:全てのフィルム剥離その5段階評価のうち5点、4点を耐食性良好(○)と、3点を普通(△)と2点、1点を不良(×)と評価した。
【0069】これらの評価結果を、下記表1−2及び1−3に示す。
【0070】その結果、得られた化粧鋼板は印刷性、耐傷つき性に優れているばかりでなく、熱水処理後の耐熱水性、耐食性試験後の耐食性にも優れていることがわかった。
【0071】実施例2〜7、比較例1〜3電解クロメート処理層の金属クロム付着量、水和クロム酸化物付着量を表1−1に示すように変更する以外は、実施例1と同様にして、フィルムラミネート化粧鋼板を得た。得られた化粧鋼板について、同様の試験、評価を行なった。その結果を表1−2及び1−3に併記する。
【0072】表1−2及び1−3から明らかなように、下層の金属クロム付着量が、片面あたり30mg/m2 以上、上層の水和クロム酸化物の付着量が3〜30mg/m2 の実施例2〜7はいずれも印刷性、耐傷つき性、耐熱水性、耐食性とも優れていた。
【0073】これに対し、下層の金属クロム付着量が30mg/m2 未満の比較例1は、耐食性に劣っていた。また上層の水和クロム酸化物の付着量が、3mg/m2 未満の比較例2は、耐熱水性および耐食性が劣っていた。さらに、上層クロム水和酸化物の付着量が30mg/m2 を越えた比較例3は外観が劣化し、耐熱水性および耐食性が劣っていた。
【0074】実施例8〜10、21使用するポリエステル樹脂フィルムの厚さを表1−1に示すように種々変化する以外は、実施例1と同様にして、フィルムラミネート化粧鋼板を得た。得られた化粧鋼板について、同様の試験、評価を行なった。その結果を表1−2及び1−3に併記する。
【0075】表1−2及び1−3から明らかなように、いずれも、印刷性、耐傷つき性、耐熱水性、耐食性において良好な評価を得た。ただしフィルム厚み10μm以下の実施例21は若干耐食性が低下するものの使用上は問題なかった。
【0076】実施例11ポリエステル樹脂フィルム上への柄印刷層を油性印刷法の代わりにUV印刷法を用いて形成する以外は、実施例1と同様にして、フィルムラミネート化粧鋼板を得た。得られた化粧鋼板について、同様の試験、評価を行なった。その結果を表1−2及び1−3に併記する。
【0077】表1−2及び1−3から明らかなように、UV印刷法を用いて柄印刷層を形成しても、得られた化粧鋼板には全く問題がないことがわかった。
【0078】実施例12〜20、22、23使用するポリエステル樹脂フィルムの構成すなわち単層、二層構造、またはポリエステル樹脂組成、及びポリエステル樹脂フィルムの熱結晶化温度を表1−1、表2−1及び表2−2に示すように変化させた以外は、実施例1と同様にして化粧鋼板を得た。実施例12〜20では、150℃以上の熱結晶化温度、もしくは熱結晶化温度を持たないポリエステル樹脂フィルムを使用した。
【0079】また実施例22、23では、150℃未満の熱結晶化温度を有するポリエステル樹脂フィルムを用いた。これらのサンプルは油性印刷で柄印刷を施すと、その際の熱により球晶を生成し、耐熱水性が低下する可能性があるので、上記に示すUV印刷により柄印刷を施し、それ以外は実施例1と同様にしてフィルムラミネート化粧鋼板を得た。これらの評価結果を表1−2及び1−3に併記する。
【0080】表1−2及び1−3から明らかなように、いずれも印刷性、耐傷つき性、耐熱水性、耐食性が優れていた。
【0081】比較例4、5表1−1に示すように、樹脂フィルムM,Nとして、ポリエチレン、ポリプロピレンフィルムを使用した以外は、実施例1と同様にして、フィルムラミネート化粧鋼板を得た。これらの評価結果を表1−2及び1−3に併記する。
【0082】表1−2及び1−3から明らかなように、いずれも印刷性、耐傷つき性、耐熱水性が劣っていた。
【0083】
【表1】


【0084】
【表2】


【0085】
【表3】


【0086】
【表4】


【0087】
【表5】


【0088】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、有害な溶剤を含む塗料と比較して環境に優しいフィルムラミネートを適用し、水回り等で使用された際にも耐熱水性、耐食性、及び強度に優れ、またその外観も良好であり、水回りに使用する電気機器等の製品の部材及びそれらの近辺に位置する外装壁材等として好適な化粧鋼板が得られる。
【0089】また、本発明によれば、繁雑な工程を経ることなく、優れた耐熱水性および耐食性を有する化粧鋼板の製造方法が提供され、その経済的価値は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の化粧鋼板の一例の構成を説明するための図
【図2】 本発明に使用し得るポリエステル樹脂フィルムの一例の示差熱走査熱量分析測定結果を表すグラフ図
【図3】 本発明に使用し得るポリエステル樹脂フィルムの他の一例の示差熱走査熱量分析測定結果を表すグラフ図
【符号の説明】
1…下地鋼板
2…金属クロム層
3…水和クロム酸化物層
4…電解クロメート処理層
5…樹脂フィルム層
6…絵柄層
7…保護層
8…柄印刷層
10…化粧鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下地鋼板と、該下地鋼板の少なくとも一方の主面に設けられた片面あたり30mg/m2 以上の金属クロム層、及び該金属クロム層上に設けられた片面あたり金属クロム換算で3〜30mg/m2 の水和クロム酸化物層から構成される電解クロメート処理層と、該電解クロメート処理層上に積層されたポリエステル樹脂層と、該ポリエステル樹脂層上に形成された柄印刷層とを具備する化粧鋼板。
【請求項2】 前記ポリエステル樹脂は、10μm以上の厚さを有し、単層あるいは二層からなり、前記電解クロメート処理層と接するポリエステル層は、150℃以上の熱結晶化温度を有するか、もしくは熱結晶化温度を持たないことを特徴とする請求項1に記載の化粧鋼板。
【請求項3】 下地鋼板の少なくとも一方の主面上に、電解クロメート処理を行なうことにより、片面あたり30mg/m2 以上の金属クロム層と、片面あたり金属クロム換算で3〜30mg/m2 の水和クロム酸化物層とからなる電解クロメート処理層を形成する工程、該電解クロメート処理層上にポリエステル樹脂単層または二層を熱ラミネートにより形成する工程、及び熱ラミネートされたポリエステル樹脂層上に油性あるいはUV印刷を行なうことにより印刷層を形成する工程を具備する化粧鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2000−167978(P2000−167978A)
【公開日】平成12年6月20日(2000.6.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−353175
【出願日】平成10年12月11日(1998.12.11)
【出願人】(000004123)日本鋼管株式会社 (1,044)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【Fターム(参考)】