説明

医用画像データ位置合せ装置、方法およびプログラム

【課題】標的組織に関する異種の画像データ相互の位置合せを、高精度かつ短時間で行うことが可能な医用画像データの位置合せ装置、方法およびプログラムを得る。
【解決手段】患者SPECTと患者CTとの位置合せを、アトラスデータを介して行う。アトラスデータは、SPECT画像データの標準となるもので、複数の患者のSPECT画像データに基づき作成される。患者SPECTとアトラスデータとの位置合せが、これらの画像信号値の相関性に基づき行われ、第1変換行列Tが求められる。アトラスデータと患者CTとの位置合せが、事前にこれらに付加された座標情報に基づき行われ、第2変換行列Tが求められる。第1変換行列Tおよび第2変換行列Tを用いて、患者SPECTと患者CTとの位置合せがなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の医用画像間において、心臓・肝臓・膵臓・腎臓・脾臓等の臓器や脳・肺あるいは腫瘍といった生体組織など、診断や観察の対象となる標的組織に関する画像データの位置合せ(各画像において標的組織の各部に対応する各画像点を各画像間で対応づける)を行う技術に関するものであり、特に、X線CT(Computed Tomography)装置やMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置等のように、標的組織の解剖学的な形態情報を画像化し得る画像診断装置(以下「第1種画像診断装置」と称する)により得られた医用画像と、SPECT(Single‐Photon Emission Computed Tomography)装置等のように、標的組織における血流等の機能情報を画像化し得る画像診断装置(以下「第2種画像診断装置」と称する)により得られた医用画像との間における、標的組織に関する異種の画像データ相互の位置合せを行うための医用画像データ位置合せ装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、CT装置やMRI装置(第1種画像診断装置)を用いた標的組織の撮影は、外科的処置を伴わずに標的組織の解剖学的な形態情報を画像化し得るので、標的組織の構造変化や機能障害、病変部の有無等を検知するために、臨床現場において広く行われている。
【0003】
特に、近年高性能化が進んでいるX線CT装置による画像診断は、心筋梗塞を代表とする虚血性心疾患の診断において重要となる、虚血状態にある心筋を栄養している責任血管(主に、動脈硬化やプラーク等により狭窄している冠動脈)の検出に高い性能を有しており、かつ低侵襲で患者への負担が少ない手法として注目されている。しかし、冠動脈が狭窄していることが直ちに虚血を引き起こすとは限らないため、CT画像のみよる診断では偽陽性数が高くなるという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するため、CT画像に加えて、血流等の機能情報を画像化し得るSPECT装置(第2種画像診断装置)により得られたSPECT画像を用い、これら2つの医用画像を統合した統合画像を診断に利用する手法が注目されている。この統合画像による診断によれば、CT画像のみによる診断に比べ、偽陽性数の低減等において大きな改善が見られることが指摘されている(下記非特許文献1参照)。
【0005】
一般的に、CT画像とSPECT画像のように、互いに異なる種類の医用画像を統合する際には、各々の画像データの位置合せが必要となるが、この位置合せは、専門的な医師等により手作業的に行われることが多かった。しかし、CT画像とSPECT画像とでは、画像化される情報が異なるため相関性が低く、またSPECT画像は解像度も低いため、豊富な画像診断経験を有している医師等であっても、十分な精度と再現性を持った位置合せを行うのには多くの時間を要するという問題があった。
【0006】
そこで、異種の医用画像の各画像データを、計算機を用いて自動的に位置合せする手法が種々提案されている(下記非特許文献2,3、下記特許文献1等参照)。
【0007】
下記非特許文献2に記載の手法では、MRI装置により得られたMR画像中の心臓の左心室を閾値ベースの手法によりセグメンテーションし、このセグメンテーションされたMR画像の左心室とSPECT画像を、相互情報量と剛体変換(剛体レジストレーション)を用いて自動的に位置合せしている。
【0008】
下記非特許文献3に記載の手法では、CT装置により得られたCT画像中の心臓の左心室をセグメンテーションして左心室モデルを構築し、この左心室モデルとSPECT画像を、剛体変換、非剛体変換(非剛体レジストレーション)の各手法により自動的に位置合せを行うとともに、マニュアルによる位置合せも行ってこれらの精度を検証している。
【0009】
下記特許文献1に記載の手法では、CT画像中の頭骨の表面形状とSPECT画像中の頭骨の表面形状との一致度に基づき、CT画像における脳の画像データとSPECT画像における脳の画像データとを位置合せしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−137231号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Shmuel Rispler,Zohar Keidar, Eduard Ghersin, Ariel Roguin, Adrian Soil, Robert Dragu, DianaLitmanovich, Alex Frenkel, Doron Aronson, Ahuva Engel, Rafael Beyar, and OraIsrael, ”IntegratedSingle-Photon Emission Computed Tomography and Computed Tomography CoronaryAngiography for the Assessment of Hemodynamically Significant Coronary ArteryLesions,” Journal of the American College of Cardiology,vol.49, no.10, pp.1059-1067, 2007.
【非特許文献2】Usaf E. Alsdl,Gilbert A. Hurwitz, Damini Dey, David Levin, Maria Dragova, and Piotr J.Slomka, ”Automated ImageRegistration of Gated Cardiac Single-Photon Emission Computed Tomography and MagneticResonance Imaging,” Journal of Magnetic ResonanceImaging, vol.19, no.3, pp.283-290, 2004.
【非特許文献3】HidenobuNAKAJO, Shin-ichiro KUMITA, Keiichi CHO, and Tatsuo KUMAZAKI, ”Three-dimensional registration of myocardialperfusion SPECT and CT coronary angiography,” Annals of Nuclear Medicine, vol.19, no.3, pp.207-215, 2005.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記非特許文献2,3に記載の手法は、CT画像やMR画像においてSPECT画像との相関性が比較的大きい左心室部分をセグメンテーションにより抽出して位置合せに用いることによって、安定した位置合せを行うことを目指しているが、左心室のセグメンテーション結果に位置合せの精度が大きく依存するため、良好なセグメンテーション結果が得られないと位置合せ精度が著しく低下するという問題がある。
【0013】
一方、上記特許文献1に記載の手法は、解像度が低いSPECT画像において何らかの解剖学的な形態情報を抽出する必要があるため、頭骨のように形態情報を比較的抽出し易い領域が画像化されている場合には有効であっても、このような適当な領域が存在しないような場合には、SPECT画像において形態情報を抽出するのに多大な時間を要するという問題がある。
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、標的組織の形態情報を画像化し得る第1種画像診断装置により得られた医用画像と、標的組織における機能情報を画像化し得る第2種画像診断装置により得られた医用画像との間における、標的組織に関する異種の画像データ相互の位置合せを、十分な精度と再現性を持って短時間で行うことが可能な医用画像データ位置合せ装置、方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明に係る医用画像データ位置合せ装置は、第1種画像診断装置により得られた、特定被検体の標的組織の形態情報を担持した特定第1医用画像データと、第2種画像診断装置により得られた、該特定被検体の標的組織の機能情報を担持した特定第2医用画像データとの位置合せを行う医用画像データ位置合せ装置であって、
前記特定第1医用画像データと、前記特定第2医用画像データと、前記第2種画像診断装置により得られた、複数の標準被検体の標的組織の機能情報をそれぞれ担持した複数の第2医用画像データに基づき、該第2医用画像データの標準となるように作成され、かつ位置合わせの指標となる第2座標情報が付加されてなるアトラス第2医用画像データと、を記憶する医用画像データ記憶手段と、
前記特定第1医用画像データに、位置合わせの指標となる第1座標情報を付加する第1座標情報付加手段と、
前記特定第2医用画像データと前記アトラス第2医用画像データとの互いの画像信号値の相関性に基づき、該特定第2医用画像データが属する座標系と該アトラス第2医用画像データが属する座標系との相対的位置関係を求め、該相対的位置関係に基づき、該特定第2医用画像データおよび該アトラス第2医用画像データのうちの一方の画像データを他方の画像データが属する座標系の画像データに変換するための第1変換行列を求める第1変換行列取得手段と、
前記第1座標情報および前記第2座標情報に基づき、前記アトラス第2医用画像データが属する座標系と前記特定第1医用画像データが属する座標系との相対的位置関係を求め、該相対的位置関係に基づき、該アトラス第2医用画像データおよび該特定第1医用画像データのうちの一方の画像データを他方の画像データが属する座標系の画像データに変換するための第2変換行列を求める第2変換行列取得手段と、
前記第1変換行列および前記第2変換行列を用いて、前記特定第1医用画像データと前記特定第2医用画像データとの位置合せを行う特定医用画像データ位置合せ手段と、を備えてなることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る医用画像データ位置合せ装置において、前記アトラス第2医用画像データは、前記複数の第2医用画像データを各々の画像信号値の相関性に基づき互いに位置合せするとともに、該位置合せにより互いに重なり合う部分の画像信号値を平均して作成されたものである、とすることができる。
【0017】
また、前記第1座標情報および前記第2座標情報は、前記特定標的組織の長軸方向および短軸方向の各単位ベクトルと、該特定標的組織の基点位置と、該特定標的組織の所定の長さとからなる、とすることができる。
【0018】
さらに、前記第1種画像診断装置がCT装置またはMRI装置であり、前記第2種画像診断装置がSPECT装置である、とすることができる。
【0019】
本発明は、前記標的組織として、心臓・肝臓・膵臓・腎臓・脾臓等の臓器や脳・肺あるいは腫瘍といった種々の生体組織に対して適用することができるが、特に、標的組織が心臓である場合に好適である。
【0020】
また、本発明に係る医用画像データ位置合せ方法は、第1種画像診断装置により得られた、特定被検体の標的組織の形態情報を担持した特定第1医用画像データと、第2種画像診断装置により得られた、該特定被検体の標的組織の機能情報を担持した特定第2医用画像データとの位置合せを行う医用画像データ位置合せ方法であって、
前記特定第1医用画像データに、位置合わせの指標となる第1座標情報を付加する第1座標情報付加ステップと、
前記第2種画像診断装置により得られた、複数の標準被検体の標的組織の機能情報をそれぞれ担持した複数の第2医用画像データに基づき、該第2医用画像データの標準となるように作成され、かつ位置合わせの指標となる第2座標情報が付加されてなるアトラス第2医用画像データと、前記特定第2医用画像データとの互いの画像信号値の相関性に基づき、該特定第2医用画像データが属する座標系と該アトラス第2医用画像データが属する座標系との相対的位置関係を求め、該相対的位置関係に基づき、該特定第2医用画像データおよび該アトラス第2医用画像データのうちの一方の画像データを他方の画像データが属する座標系の画像データに変換するための第1変換行列を求める第1変換行列取得ステップと、
前記第1座標情報および前記第2座標情報に基づき、前記アトラス第2医用画像データが属する座標系と前記特定第1医用画像データが属する座標系との相対的位置関係を求め、該相対的位置関係に基づき、該アトラス第2医用画像データおよび該特定第1医用画像データのうちの一方の画像データを他方の画像データが属する座標系の画像データに変換するための第2変換行列を求める第2変換行列取得ステップと、
前記第1変換行列および前記第2変換行列を用いて、前記特定第1医用画像データと前記特定第2医用画像データとの位置合せを行う特定医用画像データ位置合せステップと、
を手順として備えてなることを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る医用画像データ位置合せプログラムは、第1種画像診断装置により得られた、特定被検体の標的組織の形態情報を担持した特定第1医用画像データと、第2種画像診断装置により得られた、該特定被検体の標的組織の機能情報を担持した特定第2医用画像データとの位置合せを行う処理を、コンピュータにおいて実行せしめる医用画像データ位置合せプログラムであって、
前記特定第1医用画像データに、位置合わせの指標となる第1座標情報を付加する第1座標情報付加ステップと、
前記第2種画像診断装置により得られた、複数の標準被検体の標的組織の機能情報をそれぞれ担持した複数の第2医用画像データに基づき、該第2医用画像データの標準となるように作成され、かつ位置合わせの指標となる第2座標情報が付加されてなるアトラス第2医用画像データと、前記特定第2医用画像データとの互いの画像信号値の相関性に基づき、該特定第2医用画像データが属する座標系と該アトラス第2医用画像データが属する座標系との相対的位置関係を求め、該相対的位置関係に基づき、該特定第2医用画像データおよび該アトラス第2医用画像データのうちの一方の画像データを他方の画像データが属する座標系の画像データに変換するための第1変換行列を求める第1変換行列取得ステップと、
前記第1座標情報および前記第2座標情報に基づき、前記アトラス第2医用画像データが属する座標系と前記特定第1医用画像データが属する座標系との相対的位置関係を求め、該相対的位置関係に基づき、該アトラス第2医用画像データおよび該特定第1医用画像データのうちの一方の画像データを他方の画像データが属する座標系の画像データに変換するための第2変換行列を求める第2変換行列取得ステップと、
前記第1変換行列および前記第2変換行列を用いて、前記特定第1医用画像データと前記特定第2医用画像データとの位置合せを行う特定医用画像データ位置合せステップと、を前記コンピュータにおいて実行せしめることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る医用画像データ位置合せ装置、方法およびプログラムは、従来手法においては直接的に行われていた特定第1医用画像データと特定第2医用画像データとの位置合せを、上述のアトラス第2医用画像データを介して段階的に行うものであり、これにより、以下のような作用効果を奏する。
【0023】
すなわち、アトラス第2医用画像データは、複数の標準被検体の標的組織の機能情報をそれぞれ担持した複数の第2医用画像データに基づき、該第2医用画像データの標準となるように作成され、かつ位置合わせの指標となる第2座標情報が付加されたもので、事前に十分な精度検証を経た上で用意することが可能なものである。
【0024】
本発明では、医療現場において実行される作業ステップは、特定第1医用画像データに、位置合わせの指標となる第1座標情報を付加するステップと、特定第2医用画像データとアトラス第2医用画像データとを位置合せする(第1変換行列を求める)ステップと、アトラス第2医用画像データと特定第1医用画像データとを位置合せする(第2変換行列を求める)ステップと、特定第1医用画像データと特定第2医用画像データとを位置合せするステップになる。
【0025】
特定第1医用画像データは、標的組織の形態情報を担持したものであるので、この特定第1医用画像データに第1座標情報を付加することは容易であり、かつ十分な再現性を持って高精度に行うことが可能である。また、特定第2医用画像データとアトラス第2医用画像データは互いに同種の画像データであるので、互いの画像信号値の相関性が高く、この相関性に基づいたこれらの画像データの位置合せは、短時間でかつ高精度に行うことが可能である。一方、アトラス第2医用画像データと特定第1医用画像データは互いに異種の画像データであるが、これらの画像データの位置合せは、第1医用画像データに付加された第1座標情報と、アトラス第2医用画像データに付加された第2座標情報に基づき行われるので、やはり短時間でかつ高精度に行うことが可能である。最終的な、特定第1医用画像データと特定第2医用画像データとの位置合せは、求められた第1変換行列および第2変換行列を用いて演算処理により行うことができるので、同様に短時間でかつ高精度に行うことが可能である。
【0026】
したがって、本発明に係る医用画像データ位置合せ装置、方法およびプログラムによれば、標的組織の形態情報を画像化し得る第1種画像診断装置により得られた医用画像と、標的組織における機能情報を画像化し得る第2種画像診断装置により得られた医用画像との間における、標的組織に関する異種の画像データ相互の位置合せを、十分な精度と再現性を持って短時間で行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】一実施形態に係る医用画像データ位置合せ装置の概略構成図である。
【図2】図1に示す画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【図3】一実施形態に係る医用画像データ位置合せ方法のフローチャートである。
【図4】アトラス第2医用画像データの一例を示す図である。
【図5】第1座標情報が付加された特定第1医用画像データの一例を示す図である。
【図6】第1変換行列の求め方の概要を示す図である。
【図7】第2変換行列の求め方の概要を示す図である。
【図8】特定第1医用画像データと特定第2医用画像データとの位置合せの概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について上述の図面を参照しつつ詳細に説明する。まず、図1および図2を参照しながら本発明の一実施形態に係る医用画像データ位置合せ装置について説明する。
【0029】
図1に示す医用画像データ位置合せ装置1は、第1種画像診断装置により得られた、特定被検体(特定の患者)の標的組織の形態情報を担持した特定第1医用画像データと、第2種画像診断装置により得られた、特定被検体の標的組織の機能情報を担持した特定第2医用画像データとの位置合せを行うものであり、コンピュータ等からなる画像処理装置10と、マウスやキーボード等からなる入力装置20と、画像表示装置等からなる出力装置30とを備えてなる。
【0030】
なお、本実施形態では、第1種画像診断装置がX線CT装置、第2種画像診断装置がSPECT装置であり、また、標的組織が、虚血性心疾患が疑われる患者の心臓である場合を例にとって説明する。また、以下の説明では、特定第1医用画像データを「患者CT」、特定第2医用画像データを「患者SPECT」とそれぞれ略称することがある。
【0031】
上記画像処理装置10は、図2に示すように、医用画像データ記憶手段11、第1座標情報付加手段12、第1変換行列取得手段13、第2変換行列取得手段14および特定医用画像位置合せ手段15を備えている。これらの手段は、各種の演算処理を行うCPUやハードディスク等の記憶装置および該記憶装置に格納された制御プログラム(本発明の一実施形態に係る医用画像データ位置合せプログラムを含む)等により構成されるものを、概念的に示したものである。
【0032】
上記医用画像データ記憶手段11は、X線CT装置により得られた、特定被検体の心臓の解剖学的な形態情報を担持した患者CTと、SPECT装置により得られた、特定被検体の心臓の血流等の機能情報を担持した患者SPECTと、SPECT装置により得られた、複数の標準被検体(複数の標準的な患者)の心臓の機能情報をそれぞれ担持した複数の第2医用画像データ(SPECT画像データ)に基づき、該第2医用画像データの標準となるように作成され、かつ位置合わせの指標となる第2座標情報が付加されてなるアトラス第2医用画像データ(以下「アトラスデータ」と略称することがある)と、を記憶するものである。
【0033】
上記第1座標情報付加手段12は、上記患者CTに、位置合わせの指標となる第1座標情報を付加するものである。
【0034】
上記第1変換行列取得手段13は、上記患者SPECTと上記アトラスデータとの互いの画像信号値(SPECT値)の相関性に基づき、該患者SPECTが属する座標系と該アトラスデータが属する座標系との相対的位置関係を求め、該相対的位置関係に基づき、該患者SPECTおよび該アトラスデータのうちの一方の画像データを他方の画像データが属する座標系の画像データに変換するための第1変換行列を求めるものである。
【0035】
上記第2変換行列取得手段14は、上記第1座標情報および上記第2座標情報に基づき、上記アトラスデータが属する座標系と上記患者CTが属する座標系との相対的位置関係を求め、該相対的位置関係に基づき、該アトラスデータおよび該患者CTのうちの一方の画像データを他方の画像データが属する座標系の画像データに変換するための第2変換行列を求めるものである。
【0036】
上記特定医用画像位置合せ手段15は、上記第1変換行列および上記第2変換行列を用いて、上記患者CTと上記患者SPECTとの位置合せを行うものである。
【0037】
次に、本発明の一実施形態に係る医用画像データ位置合せ方法について、図3〜図8を参照しながら説明する。なお、本実施形態に係る医用画像データ位置合せ方法における基本手順は、本発明の一実施形態に係る医用画像データ位置合せプログラムに従って作動する上述の医用画像データ位置合せ装置1により実行されるものである。
【0038】
まず、位置合せの基本手順の実行に先立って、予め作成されるアトラスデータ(図4参照)について説明する。図4に示すアトラスデータは、比較的虚血の少ない複数の患者の心臓のSPECT画像データを、各々の画像信号値(ボクセル毎のSPECT値)の相関性に基づき互いに位置合せするとともに、該位置合せにより互いに重なり合う部分の画像信号値を平均して作成されたものである。なお、本実施形態では、このときの位置合せの手法として、剛体レジストレーションの手法を用いているが、非剛体レジストレーション等の他の手法を用いることも可能である。
【0039】
また、このアトラスデータには、位置合せの指標となる第2座標情報、具体的には、心臓左心室の長軸方向の単位ベクトルALAおよび短軸方向の単位ベクトルASAと、心臓左心室の基点位置(心基部)Oと、左心室の長さLの各情報が付加されている。
【0040】
これらの第2座標情報は、例えば、以下の手順により求められる。まず、アトラスデータのベースとなった患者の心臓のCT画像データ(以下「標準患者CT」と称する。図示略)を撮像し、この標準患者CTにおいて、心臓左心室の長軸方向の単位ベクトルA´LCおよび短軸方向の単位ベクトルA´SCと、心臓左心室の基点位置(心基部)O´、および左心室の長さL´の各情報を求める。次に、この標準患者CTとアトラスデータを位置合せし、標準患者CTをアトラスデータが属する座標系のデータに変換するための変換行列Tを求める。そして、この変換行列Tを用いて、上述の第2座標情報を求める(下式(1)〜(4)参照)。なお、標準患者CTにおける単位ベクトルA´LC,A´SC、心臓左心室の基点位置O´および左心室の長さL´の各情報の抽出と、標準患者CTとアトラスデータとの位置合せは、専門的な知識を有する者の手作業により行われ、その精度について十分な検証がなされたものであるが、これらの作業を自動化してもよい。
【0041】
=TO´ …… (1)
LA=TA´LC …… (2)
SA=TA´SC …… (3)
=L´ …… (4)
【0042】
以下、本実施形態に係る医用画像データ位置合せ方法の基本手順を説明する。
【0043】
〈1〉上記患者CTに対し、位置合わせの指標となる第1座標情報を付加する(第1座標情報付加ステップ;図3のステップS1参照)。本実施形態では、第1座標情報として、左心室の長軸方向の単位ベクトルALCおよび短軸方向の単位ベクトルASCと、左心室の基点位置(心基部)O、および左心室の長さLの各情報を付加する(図5参照)。この第1座標情報の付加は、医師等の操作者が、上記出力装置30に表示された患者CTを見ながら、上記入力装置20を介して上記画像処理装置10に入力した所定の情報(心臓左心室の長軸と短軸および心基部と心尖部の各情報)に基づき、上記第1座標情報付加手段12において算出される。なお、本実施形態では、第1座標情報の付加の際に、患者CTにおいて、左心室のセグメンテーションが行われて左心室の心筋が抽出されるようになっているが(セグメンテーションは従来公知の手法を用いることができる)、このセグメンテーション結果は、後述する位置合わせの処理には用いないので、位置合せの精度に影響を及ぼすことはない。
【0044】
〈2〉上記患者SPECTと上記アトラスデータとの互いの画像信号値(SPECT値)の相関性に基づき、患者SPECTが属する座標系とアトラスデータが属する座標系との相対的位置関係を求め、該相対的位置関係に基づき、患者SPECTをアトラスデータが属する座標系の画像データに変換するための第1変換行列Tを求める(第1変換行列取得ステップ;図3のステップS2、図6参照)。本実施形態では、剛体レジストレーションの手法を用いて、患者SPECTをアトラスデータに対し位置合せし、その位置合せにより得られた情報に基づき、上記第1変換行列取得手段13において第1変換行列Tが算出される。なお、この位置合せの評価関数には、正規化相互情報量を用いている。
【0045】
〈3〉上記患者CTに付加された第1座標情報と上記アトラスデータに付加された第2座標情報に基づき、アトラスデータが属する座標系と患者CTが属する座標系との相対的位置関係を求め、該相対的位置関係に基づき、アトラスデータを患者CTが属する座標系の画像データに変換するための第2変換行列Tを求める(第2変換行列取得ステップ;図3のステップS3、図7参照)。本実施形態では、具体的には以下の手順により、上記第2変換行列取得手段14において第2変換行列Tが算出される。
【0046】
まず、アトラスデータにおける左心室の基点位置Oが、患者CTにおける左心室の基点位置Oと重なるような平行移動tを算出する(下式(5)参照)。
=O−O …… (5)
【0047】
次に、アトラスデータにおける左心室の長軸方向の単位ベクトルALAおよび短軸方向の単位ベクトルASAが、患者CTにおける左心室の長軸方向の単位ベクトルALCおよび短軸方向の単位ベクトルASCとそれぞれ重なるような回転行列Rを算出する(下式(6)参照)。
=R1211 …… (6)
ただし、R11は下式(A)、R12は下式(B)で表される行列である。
【0048】
【数1】

【0049】
さらに、アトラスデータと患者CTとの間における個人差(左心室の長さの不一致)を考慮して、アトラスデータにおける心尖部が患者CTにおける心尖部と重なるような平行移動tを算出する(下式(7)参照)。
=ALC(L−L) …… (7)
【0050】
最後に、上式(5)〜(7)をまとめて、上記第2変換行列Tを算出する(下式(8)参照)。
=(R|t+t) …… (8)
【0051】
〈4〉求められた上記第1変換行列Tおよび上記第2変換行列Tを用いて、上記患者CTと上記患者SPECTとの位置合せを行う(特定医用画像位置合せステップ;図3のステップS4、図8参照)。本実施形態では、患者SPECTに対し第1変換行列Tおよび第2変換行列Tを順次適用することにより、上記特定医用画像位置合せ手段15において患者CTに対する患者SPECTの位置合せが実行される。
【0052】
なお、本実施形態では、患者CTと患者SPECTとの位置合せが行われた後、これらを統合したCT/SPECT統合画像(セグメンテーションされた左心室の表面にSPECT値をマッピングした画像)が作成され、上記出力装置30に表示されるようになっている。
【0053】
上述した本発明の有用性を検証するため、予め位置合せされた患者CTと患者SPECTに対して乱数で位置ずれを発生させ、本発明を用いてずれを元に戻す実験を行った。比較のため、専門の医師による位置合せも行い、その結果に対する本発明による位置合せ結果の差分を誤差として算出した。その結果、誤差は微小な範囲に留まるものであり、本発明の有用性が確かめられた。
【0054】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々に態様を変更することが可能である。
【0055】
例えば上記実施形態では、第1種画像診断装置がX線CT装置、第2種画像診断装置がSPECT装置、標的組織が心臓である場合を説明しているが、第1種画像診断装置をMRI装置とした場合でも、本発明を有用に適用することが可能である。MRI装置により得られた画像データに本発明を適用するのに際して特段の困難はなく、上述した本発明の手順を略同様に適用することが可能である。
【0056】
標的組織に関しては、心臓以外に膵臓・腎臓・脾臓・肝臓等の臓器や脳・肺あるいは腫瘍といった生体組織を、その対象とすることが可能である。他の組織を標的組織とした場合に本発明を適用するのに際して特段の困難はなく、上述した本発明の手順を標的組織の種別に関係なく略同様に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 医用画像データ位置合せ装置
10 画像処理装置
20 入力装置
30 出力装置
11 医用画像データ記憶手段
12 第1座標情報付加手段
13 第1変換行列取得手段
14 第2変換行列取得手段
15 特定医用画像データ位置合せ手段
第1変換行列
第2変換行列


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1種画像診断装置により得られた、特定被検体の標的組織の形態情報を担持した特定第1医用画像データと、第2種画像診断装置により得られた、該特定被検体の標的組織の機能情報を担持した特定第2医用画像データとの位置合せを行う医用画像データの位置合せ装置であって、
前記特定第1医用画像データと、前記特定第2医用画像データと、前記第2種画像診断装置により得られた、複数の標準被検体の標的組織の機能情報をそれぞれ担持した複数の第2医用画像データに基づき、該第2医用画像データの標準となるように作成され、かつ位置合わせの指標となる第2座標情報が付加されてなるアトラス第2医用画像データと、を記憶する医用画像データ記憶手段と、
前記特定第1医用画像データに、位置合わせの指標となる第1座標情報を付加する第1座標情報付加手段と、
前記特定第2医用画像データと前記アトラス第2医用画像データとの互いの画像信号値の相関性に基づき、該特定第2医用画像データが属する座標系と該アトラス第2医用画像データが属する座標系との相対的位置関係を求め、該相対的位置関係に基づき、該特定第2医用画像データおよび該アトラス第2医用画像データのうちの一方の画像データを他方の画像データが属する座標系の画像データに変換するための第1変換行列を求める第1変換行列取得手段と、
前記第1座標情報および前記第2座標情報に基づき、前記アトラス第2医用画像データが属する座標系と前記特定第1医用画像データが属する座標系との相対的位置関係を求め、該相対的位置関係に基づき、該アトラス第2医用画像データおよび該特定第1医用画像データのうちの一方の画像データを他方の画像データが属する座標系の画像データに変換するための第2変換行列を求める第2変換行列取得手段と、
前記第1変換行列および前記第2変換行列を用いて、前記特定第1医用画像データと前記特定第2医用画像データとの位置合せを行う特定医用画像データ位置合せ手段と、
を備えてなることを特徴とする医用画像データの位置合せ装置。
【請求項2】
前記アトラス第2医用画像データは、前記複数の第2医用画像データを各々の画像信号値の相関性に基づき互いに位置合せするとともに、該位置合せにより互いに重なり合う部分の画像信号値を平均して作成されたものである、ことを特徴とする請求項1記載の医用画像データの位置合せ装置。
【請求項3】
前記第1座標情報および前記第2座標情報は、前記特定標的組織の長軸方向および短軸方向の各単位ベクトルと、該特定標的組織の基点位置と、該特定標的組織の所定の長さとからなる、ことを特徴とする請求項1または2記載の医用画像データの位置合せ装置。
【請求項4】
前記第1種画像診断装置がCT装置またはMRI装置であり、前記第2種画像診断装置がSPECT装置である、ことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項記載の医用画像データの位置合せ装置。
【請求項5】
前記標的組織が心臓である、ことを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項記載の医用画像データの位置合せ装置。
【請求項6】
第1種画像診断装置により得られた、特定被検体の標的組織の形態情報を担持した特定第1医用画像データと、第2種画像診断装置により得られた、該特定被検体の標的組織の機能情報を担持した特定第2医用画像データとの位置合せを行う医用画像データの位置合せ方法であって、
前記特定第1医用画像データに、位置合わせの指標となる第1座標情報を付加する第1座標情報付加ステップと、
前記第2種画像診断装置により得られた、複数の標準被検体の標的組織の機能情報をそれぞれ担持した複数の第2医用画像データに基づき、該第2医用画像データの標準となるように作成され、かつ位置合わせの指標となる第2座標情報が付加されてなるアトラス第2医用画像データと、前記特定第2医用画像データとの互いの画像信号値の相関性に基づき、該特定第2医用画像データが属する座標系と該アトラス第2医用画像データが属する座標系との相対的位置関係を求め、該相対的位置関係に基づき、該特定第2医用画像データおよび該アトラス第2医用画像データのうちの一方の画像データを他方の画像データが属する座標系の画像データに変換するための第1変換行列を求める第1変換行列取得ステップと、
前記第1座標情報および前記第2座標情報に基づき、前記アトラス第2医用画像データが属する座標系と前記特定第1医用画像データが属する座標系との相対的位置関係を求め、該相対的位置関係に基づき、該アトラス第2医用画像データおよび該特定第1医用画像データのうちの一方の画像データを他方の画像データが属する座標系の画像データに変換するための第2変換行列を求める第2変換行列取得ステップと、
前記第1変換行列および前記第2変換行列を用いて、前記特定第1医用画像データと前記特定第2医用画像データとの位置合せを行う特定医用画像データ位置合せステップと、
を手順として備えてなることを特徴とする医用画像データの位置合せ方法。
【請求項7】
第1種画像診断装置により得られた、特定被検体の標的組織の形態情報を担持した特定第1医用画像データと、第2種画像診断装置により得られた、該特定被検体の標的組織の機能情報を担持した特定第2医用画像データとの位置合せを行う処理を、コンピュータにおいて実行せしめる医用画像データの位置合せプログラムであって、
前記特定第1医用画像データに、位置合わせの指標となる第1座標情報を付加する第1座標情報付加ステップと、
前記第2種画像診断装置により得られた、複数の標準被検体の標的組織の機能情報をそれぞれ担持した複数の第2医用画像データに基づき、該第2医用画像データの標準となるように作成され、かつ位置合わせの指標となる第2座標情報が付加されてなるアトラス第2医用画像データと、前記特定第2医用画像データとの互いの画像信号値の相関性に基づき、該特定第2医用画像データが属する座標系と該アトラス第2医用画像データが属する座標系との相対的位置関係を求め、該相対的位置関係に基づき、該特定第2医用画像データおよび該アトラス第2医用画像データのうちの一方の画像データを他方の画像データが属する座標系の画像データに変換するための第1変換行列を求める第1変換行列取得ステップと、
前記第1座標情報および前記第2座標情報に基づき、前記アトラス第2医用画像データが属する座標系と前記特定第1医用画像データが属する座標系との相対的位置関係を求め、該相対的位置関係に基づき、該アトラス第2医用画像データおよび該特定第1医用画像データのうちの一方の画像データを他方の画像データが属する座標系の画像データに変換するための第2変換行列を求める第2変換行列取得ステップと、
前記第1変換行列および前記第2変換行列を用いて、前記特定第1医用画像データと前記特定第2医用画像データとの位置合せを行う特定医用画像データ位置合せステップと、
を前記コンピュータにおいて実行せしめることを特徴とする医用画像データの位置合せプログラム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−67253(P2011−67253A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218831(P2009−218831)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(503313373)株式会社AZE (10)
【Fターム(参考)】