説明

医療用ロボットシステム

【課題】本発明は、支持する器官の形状の個人差等に対応することができ、しかも部品点数の増加を抑えることができる医療用マニピュレータを備えた医療用ロボットシステムを提供する。
【解決手段】ロボットアーム24と、ロボットアーム24に着脱自在に設けられ、子宮Aを所定の位置に支持するための子宮マニピュレータ34と、ロボットアーム24及び子宮マニピュレータ34を操作するコンソール26と、を備えた医療用ロボットシステム10であって、子宮マニピュレータ34は、基部58に設けられた第1アーム部60と、第1アーム部60よりも先端側に位置して子宮Aを保持する第2アーム部64と、第1アーム部60と第2アーム部64とを連結し、かつ第1アーム部60に対する第2アーム部64の向きを可変可能な連結部68とを備え、第2アーム部64は、長手方向に伸縮可能に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、器官を所定の位置に支持するための医療用マニピュレータを備えた医療用ロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
腹腔鏡下手術においては、患者の腹部等に小さな孔をいくつかあけて内視鏡、鉗子等を挿入し、術者が内視鏡の映像をモニタで見ながら手術を行っている。このような腹腔鏡下手術では、手術を行い易くするために、処置を行う器官又は該器官の周囲の器官を医療用マニピュレータにて所定の位置に支持することが行われている。
【0003】
例えば、腹腔鏡下手術にて子宮を処置する子宮筋腫摘出手術や子宮全摘出手術等の分野においては、一方向に延びたフレームと、膨張可能なバルーンを有して前記フレームの先端側に旋回可能に連結されたチップとを備え、チップを子宮腔内に挿入し、バルーンを膨張させることにより子宮を所定の位置に支持する医療用マニピュレータが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5520698号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に子宮等の器官の形状には個人差がある。このため、特許文献1に記載された医療用マニピュレータでは、器官に対してチップが長い場合には、前記チップの先端が器官に接触して該器官が損傷する可能性がある。一方、器官に対してチップが短い場合には、チップを適切に器官を支持できる位置に配置させることができない可能性がある。
【0006】
そこで、このような問題の対策として、予め長さの異なる複数のチップを用意しておき、支持する器官の形状に合わせてチップを付け替えることも考えられるが、部品点数が増加し、交換に手間がかかる。当然、医療用マニピュレータ自体を進退させることによって器官に対するチップの位置を調整するだけでは、フレームとチップの連結部もチップと一緒に移動してしまうため、器官の形状によってはチップを充分かつ適切に旋回させることができないことがある。
【0007】
本発明は、このような従来の課題を考慮してなされたものであり、支持する器官の形状の個人差等に対応することができ、しかも部品点数の増加を抑えることができる医療用マニピュレータを備えた医療用ロボットシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の請求項1で特定される発明は、ロボットアームと、前記ロボットアームに着脱自在に設けられ、器官を所定の位置に支持するための医療用マニピュレータと、前記ロボットアーム及び前記医療用マニピュレータを操作する操作部と、を備えた医療用ロボットシステムであって、前記医療用マニピュレータは、基部に設けられた第1アーム部と、前記第1アーム部よりも先端側に位置して前記器官を保持する第2アーム部と、前記第1アーム部と前記第2アーム部とを連結し、かつ前記第1アーム部に対する前記第2アーム部の向きを可変可能な連結部と、を備え、前記第2アーム部は、長手方向に伸縮可能に形成されていることを特徴とする。
【0009】
本願の請求項1で特定される発明によれば、第1アーム部及び第2アーム部を備えた前記医療用マニピュレータを設けることにより、器官に対して第2アーム部が長い場合には第2アーム部を縮めることで、第2アーム部の先端が器官に接触して該器官が損傷することを防ぐことができる。一方、器官に対して第2アーム部が短い場合には第2アーム部を伸ばすことで、第2アーム部を適切な位置に配置させることができる。これにより、器官を確実に所定の位置に支持することができる。また、長さの異なる第2アーム部(例えば、チップ)を用意する必要がないので、部品点数が増加することを抑えることができる。しかも、該医療用マニピュレータがロボットアームに設けられるため、器官の支持を一層安定して操作することができる。
【0010】
本願の請求項2で特定される発明は、請求項1記載の医療用ロボットシステムにおいて、前記第2アーム部には、膨張可能な保持用バルーンが設けられていることを特徴とする。
【0011】
本願の請求項2で特定される発明によれば、保持用バルーンを膨張させることで保持用バルーンを器官の支持対象部位(例えば、子宮の内面)に押し付けることができる。これにより、器官を容易に保持することができる。
【0012】
本願の請求項3で特定される発明は、請求項1又は2記載の医療用ロボットシステムにおいて、前記第2アーム部には、前記連結部に接続されて一方向に延びた固定部と、前記固定部に対して移動可能に嵌め合わされた可動部と、が設けられ、さらに、前記可動部を前記固定部の長手方向に移動させる移動手段を備えていることを特徴とする。
【0013】
本願の請求項3で特定される発明によれば、移動手段にて可動部を固定部の長手方向に移動させることにより、第2アーム部を伸縮させることができる。
【0014】
本願の請求項4で特定される発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療用ロボットシステムにおいて、前記第1アーム部には、膨張可能な固定用バルーンが設けられていることを特徴とする。
【0015】
本願の請求項4で特定される発明によれば、固定用バルーンを膨張させることで固定用バルーンを器官の支持対象部位以外の部位(例えば、膣部の内面)に押し付けることができる。これにより、第1アーム部が固定されるので、固定用バルーンを設けない場合よりも安定した状態で器官を支持することができる。
【0016】
本願の請求項5で特定される発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療用ロボットシステムにおいて、前記操作部には、前記医療用マニピュレータを動作させる入力手段が設けられ、前記入力手段に対する入力方向と、該入力手段への入力動作によって動作される前記医療用マニピュレータの移動方向とが、反対になるように設定されていることを特徴とする。
【0017】
通常、腹腔鏡下手術において、医療用マニピュレータで支持する器官を手術する場合、術者は、該器官と対向する位置に設けた内視鏡の映像をモニタで見ながら手術を行う。そのため、例えば、左右方向では、前記器官の移動方向とモニタに表示されている器官の移動方向とが反対になる。
【0018】
そこで、本願の請求項5で特定される発明によれば、入力手段の入力方向と該医療用マニピュレータの移動方向とが反対になるように医療用ロボットシステムを設定しているので、モニタに表示されている器官の移動方向と医療用マニピュレータの移動方向とが同一になる。つまり、術者は、例えばモニタに表示されている器官を右方向に動かしたい時には入力手段を右方向に、左方向に動かしたい時には入力手段を左方向に操作すればよい。これにより、モニタに表示されている器官を所望の位置に容易かつ直感的に配置することができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、器官に対して第2アーム部が長い場合には第2アーム部を縮めることで、第2アーム部の先端が器官に接触して該器官が損傷することを防ぐことができる。一方、器官に対して第2アーム部が短い場合には第2アーム部を伸ばすことで、第2アーム部を適切な位置に配置させることができる。これにより、器官を確実に所定の位置に支持することができる。また、長さの異なる第2アーム部を用意する必要がないので、部品点数が増加することを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係る医療用ロボットシステムの概略斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る子宮マニピュレータの一部断面側面図である。
【図3】プーリ及びアームの平面図である。
【図4】連結部の分解斜視図である。
【図5】図5Aは第1実施形態に係る第2アーム部を縮ませた状態の断面説明図であり、図5Bは第1実施形態に係る第2アーム部を伸ばした状態の断面説明図である。
【図6】コンソールの概略斜視図である。
【図7】子宮を所定の位置に支持した状態を示す図である。
【図8】図8Aは第2実施形態に係る子宮マニピュレータの第2アーム部を縮ませた状態の断面説明図であり、図8Bは第2実施形態に係る子宮マニピュレータの第2アーム部を伸ばした状態の断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る医療用ロボットシステムについて実施形態を挙げ、添付の図1〜図8を参照しながら説明する。
【0022】
先ず、図1〜図7を参照しながら、第1実施形態に係る医療用ロボットシステムについて説明する。
【0023】
図1に示すように、医療用ロボットシステム10は、医療用マニピュレータとして、患者12の子宮を所定の位置に保持する子宮マニピュレータを備え、例えば、患者12の腹腔鏡下での子宮筋腫摘出手術(子宮全摘出手術)に適用される。
【0024】
この医療用ロボットシステム10は、手術台14の近傍に設けられたステーション16と、ステーション16に設けられ、先端に所定の器具を有する4台のロボットアーム18、20、22、24と、システム全体の総合的な制御を行うコンソール26とを有する。ロボットアーム18、20、22、24とコンソール26との間は、有線、無線、ネットワーク又はこれらの組み合わせからなる通信手段によって接続されている。コンソール26は、医療用ロボットシステム10の全ての制御を負担している必要はなく、例えば、ロボットアーム18、20、22、24のフィードバック制御は、それぞれのロボットアーム18、20、22、24側に設けられていてもよい。
【0025】
ロボットアーム18、20の先端には処置用マニピュレータ28、30が、ロボットアーム22の先端には内視鏡32が、ロボットアーム24の先端には医療用マニピュレータとしての子宮マニピュレータ34がそれぞれ設けられている。処置用マニピュレータ28、30のシャフト36、38及び内視鏡32は体腔40内に挿入され、子宮マニピュレータ34は子宮腔42内に挿入される(図7参照)。処置用マニピュレータ28、30及び子宮マニピュレータ34は、ロボットアーム18、20、24に対してそれぞれ着脱可能に構成されている。以下の説明では、特に区別をしない場合には、処置用マニピュレータ28、30及び子宮マニピュレータ34を単にマニピュレータ28、30、34と呼ぶことがある。
【0026】
ロボットアーム18、20、22、24は、多関節機構(例えば、独立的な6軸機構)を有し、コンソール26によって制御され、マニピュレータ28、30、34及び内視鏡32を動作範囲内における任意の位置で任意の姿勢に設定可能である。ロボットアーム18、20、24の関節機構は、マニピュレータ28、30、34を回転させる回転機構44を含む。
【0027】
ロボットアーム18、20、22、24は、ステーション16に沿って移動する昇降機構46を有する。また、ロボットアーム18、20、24は、先端の軸に沿ってマニピュレータ28、30、34を進退させるスライド機構48を有する。ロボットアーム18、20、22、24は全て同じ構成であってもよいし、マニピュレータ28、30、34及び内視鏡32の種類に応じて異なる構成であってもよい。
【0028】
処置用マニピュレータ28、30は、主に患者12に対して直接的な処置を施すためのものであり、シャフト36、38先端に設けられた先端作業部28a、30a(図7参照)には、例えば、クリッパ、鋏及び電気メス等が設けられる。子宮マニピュレータ34は、子宮(器官)Aを手術し易い所定の位置に支持するためのものである(図7参照)。
【0029】
次に、子宮マニピュレータ34及び子宮マニピュレータ34とロボットアーム24との接続部の構成について説明する。図2〜図5に示すように、子宮マニピュレータ34について、幅方向をX方向、高さ方向をY方向、及び長さ方向をZ方向と規定する。また、基端側から見て右方をX1方向、左方をX2方向と規定し、図2の上方向をY1方向、下方向をY2方向、前方をZ1方向、後方をZ2方向と規定する。
【0030】
図2に示すように、子宮マニピュレータ34は、ロボットアーム24の先端におけるスライダ50に対して着脱自在な構成になっている。スライダ50は、スライド機構48によってスライド可能である。スライダ50には、一対の屈曲用モータ52、54と、伸縮用モータ56とがZ方向に並列している。
【0031】
子宮マニピュレータ34は、スライダ50に装着される基部58と、基部58からZ1方向に延在する円筒状の第1アーム部60と、第1アーム部60に設けられた第1バルーン部62と、第1アーム部60よりも先端側に位置する第2アーム部64と、第2アーム部64に設けられた第2バルーン部66と、第1アーム部60と第2アーム部64とを連結する連結部68と、第2アーム部64を長手方向(挿入方向)に伸縮させる移動手段としての伸縮機構70とを有する。
【0032】
基部58は、所定の着脱機構によりスライダ50に対して着脱及び交換が可能である。基部58には、一対の屈曲用モータ52、54に係合するプーリ72、74がZ方向に並列している。屈曲用モータ52、54とプーリ72、74は、例えば、一方に非円形の凸部(図示せず)があり、他方に該凸部に係合する凹部(図示せず)が設けられており、これにより、屈曲用モータ52、54の回転がプーリ72、74に伝達される。
【0033】
図2及び図3に示すように、プーリ72、74は、ワイヤ76、78が接続されてX方向に延在するアーム80、82を有している。ワイヤ76、78は、プーリ72、74が回転することにより、左右から延在する2本のうちの一方が巻き取られ、他方が巻き出される。ここで、プーリ72、74はワイヤ76、78が巻き掛けられていないことから、厳密にはプーリとしての作用はないが、便宜上プーリと呼ぶ。
【0034】
図2に示すように、基部58内には、アーム82からワイヤ78を第1アーム部60内に案内するアイドラ対84、84が設けられている。プーリ74のアーム82に対して、それぞれアイドラ対84、84が斜め上下の位置(Z1方向とY1方向の間の方向、及びZ1方向とY2方向の間の方向)に配置されており、ワイヤ78を第1アーム部60内に案内する。
【0035】
図2に示すように、第1バルーン部62は、膨張可能な保持用バルーンとしての第1バルーン88と、第1バルーン88に流体を供給する第1流体供給部90とを有する。第2バルーン部66は、第1バルーン88よりも小さく形成された膨張可能な固定用バルーンとしての第2バルーン92と、第2バルーン92に流体を供給する第2流体供給部94とを有する。第1バルーン88は連結部68の近傍に、第2バルーン92は第2アーム部64の先端近傍にそれぞれ配置されている(図7参照)。第1及び第2バルーン88、92は、例えばゴム等の伸縮自在な材質で構成されている。第1及び第2バルーン88、92に供給される流体としては、例えば空気や滅菌生理食塩水等が利用される。
【0036】
図4に示すように、連結部68は、相互に回転し得る複数の節輪環96を積層して構成されている。なお、図4では、3個の節輪環96を例示して連結部68を説明するが節輪環96の設置数はこれに限定されず、例えば4〜30個程度であってもよい。
【0037】
各節輪環96の一方の面には、節輪環96の中心を介して対向する一対のV字状の溝98が形成され、他方の面には、節輪環96の中心を介して対向する一対の半円柱状の突部100が溝98と90°ずれた位置に形成されている。この場合、隣接する節輪環96同士は、それらの溝98同士が互いに90°ずれた姿勢で配置され、一方の節輪環96の両突部100が他方の節輪環96の対応する両溝98内に挿入されるようにして各節輪環96が接合される。
【0038】
また、各節輪環96において、両溝98及び両突部100が形成された位置には、それぞれ貫通孔102が形成されており、各節輪環96の対応する貫通孔102には、ワイヤ76、78がそれぞれ挿通されると共に、ワイヤ76、78の先端が連結部68の先端側(Z1側)に配列された節輪環96に連結されている。これにより、各節輪環96が集合され略一体的に構成される。
【0039】
このような連結部68において、突部100が溝98に挿入された状態では、隣接する節輪環96の間には隙間が形成されるため、突部100が溝98内で回動することができ、これにより、隣接する節輪環96同士が回動することができる。この場合、隣接する1組の節輪環96同士の回動角度は小さいが、その角度が複数組の節輪環96について累積すると、湾曲部全体として所望の湾曲を得ることができ、第1アーム部60に対する第2アーム部64の向きを変えることができる。
【0040】
そこで、コンソール26の制御下に、プーリ72、74が適宜回転駆動されると各ワイヤ76、78がそれぞれ所定距離だけ進退移動され、これにより、連結部68を第1アーム部60の横断面上で上下左右に所望の角度で屈曲させることができる。すなわち、連結部68は、ワイヤ76、78による牽引により能動的に屈曲又は湾曲する。この場合、湾曲方向やその数(自由度)は、特に限定されるものではなく、また、図示されていないが、各節輪環96の外周を、例えば、弾性又は可撓性を有する材料で構成された層で被覆することも可能である。
【0041】
図2、図4及び図5に示すように、伸縮機構70は、第1アーム部60内に位置する第1ロッド部104と、第2アーム部64内に位置する第2ロッド部106と、第1ロッド部104の基端部に設けられて伸縮用モータ56の回転を第1ロッド部104に伝達する歯車機構108と、節輪環96内に位置して第1ロッド部104及び第2ロッド部106を連結するジョイント部110と、第2ロッド部106の先端部にストッパ部112を介して設けられたねじ部114とを有している。
【0042】
図2及び図4から諒解されるように、第1ロッド部104は、第1アーム部60よりも長く形成され、基部58内まで延びて歯車機構108に接続されている。図4及び図5から諒解されるように、第2ロッド部106は、第2アーム部64よりもいくらか短く形成されている。
【0043】
図2に示すように、歯車機構108は、基部58内に位置しており、伸縮用モータ56と係合する第1傘歯車109と、第1ロッド部104が接続されて第1傘歯車109と噛み合う第2傘歯車111とを含む。
【0044】
図4に示すように、ジョイント部110は、第1ロッド部104が接続される第1ピン部116と、第2ロッド部106が接続される第2ピン部118と、第1ピン部116と第2ピン部118とを連結する中間部材120とを有し、いわゆるユニバーサルジョイントとして構成されている。なお、図4では1つの中間部材120を例示して説明するが中間部材120の設置数はこれに限定されず、複数個であってもよい。
【0045】
中間部材120は、第1ピン部116に対して一方向(図4においてはY方向)に移動可能な状態で連結されている。第2ピン部118は、中間部材120に対して中間部材120の移動方向と直交する方向(図4においてはX方向)に移動可能な状態で連結されている。これにより、ジョイント部110を第1アーム部60の横断面上で上下左右に所望の角度で屈曲させることができる。すなわち、第2ロッド部106は第1ロッド部104に対して向きを変えることができ、その結果、連結部68が屈曲した場合に、連結部68の屈曲に沿ってジョイント部110を屈曲させることができる。
【0046】
図5A及び図5Bに示すように、第2アーム部64は、連結部68に接続される円筒状の固定部122と(図2参照)、固定部122の先端側に嵌め合わされ、該固定部122の長手方向に摺動可能な中空の可動部124とを有する。
【0047】
可動部124内には、ねじ部114及びストッパ部112が位置している。可動部124の一端部(先端部)は半球状に形成されており、可動部124の他端部にはストッパ部112が当接する制限部材126が固定されている。さらに、可動部124には、固定部122の長手方向に移動可能な状態でねじ部114に螺合するナット部128が設けられている。
【0048】
従って、コンソール26の制御下に、第1傘歯車109が回転されると、第2傘歯車111、第1ロッド部104、ジョイント部110、第2ロッド部106、ストッパ部112及びねじ部114が一体に回転され、これにより、ナット部128を固定部122の長手方向に移動させることができる。すなわち、第2アーム部64は長手方向に伸縮可能となっている。また、第2アーム部64が縮む方向の可動部124の移動は、ナット部128がストッパ部112に接触することで制限され(図5A参照)、第2アーム部64が延びる方向の可動部124の移動は、ストッパ部112が制限部材126に当接することで制限される(図5B参照)。可動部124の移動距離を決定するねじ部114の長さは、一般的な患者の子宮深さ等を考慮して任意に設定することができる。
【0049】
図1に示すように、コンソール26には、ロボットアーム18、20、24、処置用マニピュレータ28、30及び子宮マニピュレータ34の動作を操作するための操作部130と、内視鏡32による画像等の情報が表示されるモニタ131とが設けられている。
【0050】
図6に示すように、操作部130は、両手で操作し易い左右位置に設けられた2つのジョイスティック132、132と、中央のやや奥の位置に設けられた入力手段としてのトラックボール134と、トラックボール134の半周を略囲むように近接配置された安全スイッチ136と、安全スイッチ136に隣接配置された伸縮調整スイッチ138と、復帰スイッチ140とを有する。ジョイスティック132は、ロボットアーム18、20及び処置用マニピュレータ28、30を操作可能に構成されている。ロボットアーム22及び内視鏡32は、図示しない別の入力手段により操作可能である。トラックボール134は、ロボットアーム24及び子宮マニピュレータ34を操作可能に構成されている。
【0051】
伸縮調整スイッチ138は、図5Bに示すZ1方向(第2アーム部64が伸びる方向)に可動部124が移動するように伸縮用モータ56を回転させる第1スイッチ142と、図5Aに示すZ2方向(第2アーム部64が縮む方向)に可動部124が移動するように伸縮用モータ56を回転させる第2スイッチ144とを有する。
【0052】
トラックボール134、伸縮調整スイッチ138は、安全スイッチ136を押した状態でないと操作できないように設定されている。これにより、操作者が誤ってトラックボール134に触れても子宮マニピュレータ34が動くことを防止することができる。復帰スイッチ140は、予め設定しておいた位置、例えば、子宮マニピュレータ34を最初に子宮A内に挿入した位置に子宮マニピュレータ34を復帰させるスイッチである。
【0053】
トラックボール134を左右方向、上下方向及び回転方向に操作すると、その操作に応じて子宮マニピュレータ34の第2アーム部64が左右方向及び上下方向に動くと共に子宮マニピュレータ34全体が回転する。医療用ロボットシステム10では、トラックボール134の操作方向と子宮マニピュレータ34の移動方向とが反対になるように設定されている。具体的には、医療用ロボットシステム10では、上下方向(Y方向)に関してはトラックボール134の操作方向と子宮マニピュレータ34の移動方向とが一致し、左右方向(X方向)成分を含む方向に関してはトラックボール134の操作方向と子宮マニピュレータ34の移動方向とが反対になるように設定されている。但し、内視鏡32の向きが上下逆さになった状態で体腔40内に内視鏡32を配置する場合には、上下方向に関してのトラックボール134の操作方向と子宮マニピュレータ34の移動方向とが反対になるように医療用ロボットシステム10を設定してもよい。
【0054】
すなわち、本実施形態の医療用ロボットシステム10では、図7に示すように、子宮Aと対向する位置に配置された内視鏡32の映像がモニタ131に表示されるので、モニタ131に表示されている子宮Aの移動方向と子宮マニピュレータ34で支持されている子宮Aの移動方向とが左右反対になる。
【0055】
そこで、上記したように、トラックボール134の操作方向と子宮マニピュレータ34の移動方向とが反対になるように設定することで、モニタ131に表示されている子宮Aの移動方向とトラックボール134の操作方向とを一致させることができる。従って、術者は、例えば、モニタ131に表示されている子宮Aを右方向に動かしたい時にはトラックボール134を右方向に、左方向に動かしたい時には左方向に、斜め右上方向に動かしたい時には斜め右上方向に、斜め左下方向に動かしたい時には斜め左下方向に操作すればよい。これにより、モニタ131に表示されている子宮Aを所望の位置に容易かつ直感的に配置させることができる。
【0056】
次に、子宮マニピュレータ34の操作について図7を参照しながら説明する。ここでは、子宮筋腫手術を例に説明する。
【0057】
先ず、第1及び第2バルーン88、92を萎ませた状態とし、連結部68が所定の位置に配置されるように子宮マニピュレータ34を患者12の子宮腔42内に挿入する。
【0058】
この時、子宮深さLaに対して第2アーム部64の長さLが長い場合(L>Laの場合)には、第2スイッチ144を操作することで第2アーム部64を縮める。これにより、可動部124の先端が子宮底Bに接触して子宮Aが損傷することを防止して、最適な間隔Lbを容易に確保することができる。一方、子宮深さLaに対して第2アーム部64が短い場合({La−L}>Lbの場合)には、第1スイッチ142を操作することで第2アーム部64を伸ばす。これにより、第2アーム部64を子宮腔42内の適切な位置に配置させることができる。すなわち、子宮マニピュレータ34が挿入され、適切な位置に配置された状態で可動部124の先端と子宮底Bとの間には、所定の隙間Lbを形成することができる。所定の間隔Lbは、例えば0.5〜1.0cmの範囲で設定されるのが好ましい。
【0059】
子宮マニピュレータ34の挿入が完了すると、第1及び第2流体供給部90、94から流体を第1及び第2バルーン88、92に供給し、第1及び第2バルーン88、92を膨張させる。これにより、第1バルーン88が膣部Cの内面に、第2バルーン92が子宮A内面にそれぞれ押し付けられるため、第1バルーン88が膣部Cに固定され、第2バルーン92が子宮Aに固定される。なお、可動部124の先端以外の部位及び固定部122は、子宮A内面に接触していてもよい。この場合、第2アーム部64と子宮A内面との接触面積が増えるので子宮マニピュレータ34の安定性が向上する。
【0060】
その後、トラックボール134を操作して第2アーム部64を動かすことにより、子宮Aを処置し易い位置に配置及び支持する。これにより、子宮筋腫が内視鏡32及び処置用マニピュレータ28、30の作動範囲内に支持される。そして、ジョイスティック132を操作して処置用マニピュレータ28、30を動かすことにより、子宮筋腫の摘出を行う。
【0061】
本実施形態の医療用ロボットシステム10においては、子宮マニピュレータ34の第2アーム部64を長手方向(挿入方向)に伸縮させることで子宮マニピュレータ34を子宮腔42内の適切な位置に配置させることができるので、長さの異なる複数の第2アーム部(チップ)64を用意する必要がない。そのため、部品点数が増加することを抑えることができる。また、第2アーム部64に第2バルーン92を設けているので、第2バルーン92にて子宮Aを容易に保持することができる。
【0062】
また、第1バルーン88が膣部Cに固定されているので、第1バルーン88を支点として第2アーム部64の向きを変えることができる。これにより、第1バルーン88を設けない場合よりも一層安定した状態で子宮マニピュレータ34にて子宮Aを支持することができる。さらに、本実施形態の子宮マニピュレータ34は、ロボットアーム24に接続された状態でコンソール26の作用下に操作されるので、長時間の手術を行う場合に、子宮マニピュレータ34を人手にて操作する時よりも子宮マニピュレータ34を安定させることができる。
【0063】
次に、第2実施形態に係る子宮マニピュレータ234について図8を参照しながら説明する。なお、第2実施形態は、第1実施形態と共通する構成には同一の参照符号を付してその説明を省略する。また、図8は図5に対応している。
【0064】
図8A及び図8Bに示すように、第2実施形態では、第2アーム部264、第2バルーン部266、伸縮機構270の構成が第1実施形態と異なっている。具体的には、第2アーム部264は、固定部222と、固定部222の長手方向に摺動可能に固定部222の外側に嵌め合わされた可動部224とを有しており、第1実施形態のストッパ部112及び制限部材126が省略されると共に、可動部224の内面に設けられた第1制限部材225と、固定部222の外面に設けられた第2制限部材227とが追加されている。また、第2バルーン292が可動部224に設けられ、第2ロッド部106の先端には第1ねじ部214を有する先端部材215が設けられている。可動部224の内面には、第1ねじ部214に噛み合う第2ねじ部228が形成されている。固定部222の先端側は、可動部224が移動した際に第2流体供給部294及び第1制限部材225が移動できるような切り欠きが形成されている。
【0065】
以上のように構成された本実施形態においては、コンソール26の制御下に、第1傘歯車109が回転されると第2傘歯車111、第1ロッド部104、ジョイント部110、第2ロッド部106及び先端部材215が一体に回転され、これにより、可動部224を固定部222の長手方向に移動させることができる。すなわち、第2アーム部264は長手方向に伸縮する。また、第2アーム部264が縮む方向の可動部224の移動は、可動部224が第2制限部材227に当接することで制限され(図8A参照)、第2アーム部264が伸びる方向の可動部224の移動は、先端部材215が第1制限部材225に当接することで制限される(図8B参照)。第2ねじ部228の長さは、上記した第1実施形態に係るねじ部114の場合と略同様に任意に設定することができる。
【0066】
第2実施形態では、可動部224に第2バルーン292を設けているので、可動部224を固定部222の長手方向に移動させた際に第1アーム部60に対する第2バルーン292の相対位置を変化させることができる。これにより、子宮Aを支持し易い位置に第2バルーン292を移動させることができるので、より安定した状態で子宮Aの支持を行うことができる。
【0067】
上述した各実施形態においては、第1アーム部側の第1バルーンを膨張させた後に子宮腔内の第2アーム部の位置を調整してもよい。この場合、第1バルーンが膣部に固定された状態になるので、第2アーム部が伸縮できない子宮マニピュレータ、例えば、長さの異なる複数の第2アーム部を付け替えることにより第2アーム部の長さを調整する子宮マニピュレータでは、子宮腔内で第2アーム部の位置を調整することができない。しかし、上述した各実施形態の子宮マニピュレータにおいては、第2アーム部を伸縮することができるので、第1バルーンを膨張させた後であっても子宮腔内の第2アーム部の位置を調整することができる。
【0068】
本発明は、上述した各実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の形態で実施できる。
【0069】
例えば、本発明に係る医療用マニピュレータは、第1及び第2バルーンの少なくともいずれか一方を省略してもよい。第2バルーンが省略された場合、第2アーム部の先端以外の部位と器官とが接触した状態で器官が所定の位置に支持される。また、第1アーム部に対する第1バルーンの位置及び第2アーム部に対する第2バルーンの位置は任意に設定してよい。本発明に係る医療用マニピュレータは、連結部が1つだけ設けられている例に限らず、複数の連結部が設けられていてもよい。本発明に係る医療用マニピュレータが用いられる器官は子宮に限らない。例えば、胃や腸(大腸)等の他の器官に対しても利用することができる。伸縮機構のジョイント部は、ユニバーサルジョイントを用いた例に限らない。例えば、蛇腹状に形成してもよい。
【符号の説明】
【0070】
10…医療用ロボットシステム 18、20、22、24…ロボットアーム
26…コンソール(操作部)
34、234…子宮マニピュレータ(医療用マニピュレータ)
58…基部 60…第1アーム部
64、264…第2アーム部 68…連結部
70、270…伸縮機構(移動手段) 88…第1バルーン(保持用バルーン)
92、292…第2バルーン(固定用バルーン)
122、222…固定部 124、224…可動部
A…子宮

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームと、
前記ロボットアームに着脱自在に設けられ、器官を所定の位置に支持するための医療用マニピュレータと、
前記ロボットアーム及び前記医療用マニピュレータを操作する操作部と、
を備えた医療用ロボットシステムであって、
前記医療用マニピュレータは、基部に設けられた第1アーム部と、
前記第1アーム部よりも先端側に位置して前記器官を保持する第2アーム部と、
前記第1アーム部と前記第2アーム部とを連結し、かつ前記第1アーム部に対する前記第2アーム部の向きを可変可能な連結部と、
を備え、
前記第2アーム部は、長手方向に伸縮可能に形成されていることを特徴とする医療用ロボットシステム。
【請求項2】
請求項1記載の医療用ロボットシステムにおいて、
前記第2アーム部には、膨張可能な保持用バルーンが設けられていることを特徴とする医療用ロボットシステム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の医療用ロボットシステムにおいて、
前記第2アーム部には、前記連結部に接続されて一方向に延びた固定部と、
前記固定部に対して移動可能に嵌め合わされた可動部と、が設けられ、
さらに、前記可動部を前記固定部の長手方向に移動させる移動手段を備えていることを特徴とする医療用ロボットシステム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療用ロボットシステムにおいて、
前記第1アーム部には、膨張可能な固定用バルーンが設けられていることを特徴とする医療用ロボットシステム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療用ロボットシステムにおいて、
前記操作部には、前記医療用マニピュレータを動作させる入力手段が設けられ、
前記入力手段に対する入力方向と、該入力手段への入力動作によって動作される前記医療用マニピュレータの移動方向とが、反対になるように設定されていることを特徴とする医療用ロボットシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−4880(P2011−4880A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150119(P2009−150119)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】