説明

医療装置とその製造方法

本発明の実施態様には、体内で1種類以上の生物活性剤を溶離させることのできるコーティングされた医療装置と、その製造方法が含まれる。本発明の一実施態様には、コーティングされた医療装置を形成するため、粗い区画と滑らかな区画を有する医療装置の表面に被コーティング組成物を堆積させる操作を含む方法が含まれる。本発明の一実施態様には、コーティングされた埋め込み可能な医療装置を形成するため、本体区画と穿孔区画を有する医療装置の表面に被コーティング組成物を堆積させる操作を含む方法が含まれる。本発明の一実施態様には、生物活性剤とポリマーを含む被コーティング組成物が基部の表面に供給された医療装置が含まれる。この医療装置はコーティングされていない構成要素を含んでおり、被コーティング組成物の縁部がそのコーティングされていない構成要素から0.5mm以内の位置にある。本発明の一実施態様には、超音波で噴霧化したスプレー流を用いて医療装置の表面に被コーティング組成物を配置するため、スプレー流を、複数回の横方向の掃引と複数回の縦方向の移動を含むパターンで移動させる操作を含む方法が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1種類以上の生物活性剤を溶離できるコーティングされた医療装置と、その製造方法に関する。
【0002】
本願は、2006年3月31日にPCT国際特許出願として、アメリカ合衆国を除くすべての国を指定した出願人としてはアメリカ合衆国の企業サーモディックス社の名前で出願され、アメリカ合衆国のみを指定した出願人としてはアメリカ合衆国国民Ralph A. Chappaの名前で出願されようとしているものであり、2005年4月8日に「医療装置とその製造方法」という名称で出願されたアメリカ合衆国特許出願シリアル番号第11/102,465号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
埋め込み型医療装置の表面に1種類以上の生物活性剤を含んで成るコーティングを配置することで、治療上の利点を提供することができる。コーティングは、例えばその医療装置の負の副作用(例えば感染、炎症、再狭窄)を緩和するのを助ける生物活性剤を溶離させることができる。コーティングは、生物活性剤を部位特異的に送達するドラッグ・デリバリー・システムとして機能する医療装置の表面に置くこともできる。このようにして、標的としない組織に対する生物活性剤の副作用を最少にすることができる。
【0004】
医療装置の中には、設計上表面をコーティングせずに残してあるものがある。このような装置の限られた部分にコーティングを配置するには、コーティングの付着を正確に制御できることが望ましい。しかし多くのコーティング塗布装置は、コーティングの堆積を正確に制御することができない。
【0005】
コーティングされた多くの医療装置は、使用している間に応力(例えば摩擦力)を受ける。したがって使用期間中の損傷に十分に耐えられるコーティングが望ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがってコーティングの堆積を正確に制御するシステムと方法が必要とされている。使用期間中に受ける力に十分に耐えられるコーティングも必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施態様には、1種類以上の生物活性剤を体内で溶離させることのできるコーティングされた医療装置と、その製造方法が含まれる。本発明の一実施態様には、コーティングされた医療装置を形成する方法であって、被コーティング組成物を医療装置上に堆積することを含んで成り、該医療装置が粗い区画と滑らかな区画を備え、該被コーティング組成物層が粗い区画上に供される前縁部を有し、該被コーティング組成物がポリマーと生物活性剤を含んで成る方法が含まれる。
【0008】
本発明の一実施態様には、コーティングされた埋め込み可能な医療装置を形成する方法であって、被コーティング組成物を医療装置上に堆積させることを含んで成り、該医療装置が本体区画と穿孔区画を備え、該被コーティング組成物が本体区画上に供される前縁部を有し、該コーティング層がポリマー及び生物活性剤を含んで成る方法が含まれる。
【0009】
本発明の一実施態様には、基部を有する医療装置であって、被コーティング組成物が該基質表面上に供される縁部を有し、該組成物が生物活性剤とポリマーを含む装置が含まれる。該医療装置は、基部表面上に配置されたコーティングされていない構成要素を備えていて、ここでコーティング層の縁部が、コーティングされていない構成要素から0.5mm以内の位置にある。
【0010】
本発明の一実施態様には、基部と、第1の被コーティング組成物と、第2の被コーティング組成物を備える医療装置が含まれる。第1の被コーティング組成物の縁部は、第2の被コーティング組成物の縁部から0.5mm以内の位置にある。
【0011】
本発明の一実施態様には、超音波スプレー・ヘッドで噴霧化したスプレー流を用いて医療装置の表面に被コーティング組成物を堆積させる方法であって、超音波スプレー・ヘッドでコーティング組成物を噴霧化してスプレー流を生成させる段階と;そのスプレー流を、複数回の横方向の掃引(sweep)と複数回の縦方向の移動を含むパターンで移動させる段階を含んでいて;ここで縦方向の移動は約0.4mm未満であり、そして各縦方向の移動は、1回以上の横方向の掃引によって次の縦方向の移動と分離されている方法が含まれる。
【0012】
本明細書に含まれるとともに本明細書の一部を構成する添付の図面は本発明のいくつかの特徴を示しており、好ましい実施態様に関する記述と合わせると、本発明の原理を説明するのに役立つであろう。図面の簡単な説明は末尾にある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に説明する本発明の実施態様はすべてを列挙することを目的としておらず、本発明が以下の詳細な説明に開示されている厳密な形態に限定されることも想定していない。そうではなく、実施態様は、当業者が本発明の原理と実践例を認識して理解できるようにするために選択し、説明してある。
【0014】
本発明のシステムと方法に関するさまざまな用語を本明細書全体を通じて用いる。
【0015】
本明細書では、“コーティング組成物”は、表面を効果的に覆うのに用いる1種類以上の賦形剤(例えば溶液、混合物、エマルジョン、分散液、ブレンドなど)を意味する。“被コーティング組成物”は、医療装置の表面上の有効な生物活性剤と1種類以上のポリマーの組み合わせを意味する。被コーティング組成物は、本明細書の説明から明らかなように、1種類以上のコーティング組成物から形成すること、または1つ以上の層にすることができる。
【0016】
本明細書では、“生体適合性”は、ある物体が、重大な外来性身体応答(例えば免疫、炎症、血栓生成などの応答)を誘起することなくレシピエントの内部に受け入れられること、またはレシピエントの内部で機能できることを意味する。生体適合性は、例えば本発明の1種類以上のポリマーに関して使用する場合には、そのポリマーが意図した通りにレシピエントの内部に受け入れられること、またはレシピエントの内部で機能できることを意味する。
【0017】
本明細書では、“治療に有効な量”は、患者に望む効果(例えば病気などの医学的疾患の治療や痛みの緩和)を起こす単独の生物活性剤の量、または(本明細書に記載した)他の物質と組み合わせた生物活性剤の量を意味する。治療期間中、この量は、治療している個々の症状、症状の重篤度、個々の患者に関するパラメータ(年齢、身体状態、身長、体重など)、治療期間、使用する個々の生物活性剤の性質、同時に行なっている治療(もしあれば)といった因子や、健康管理者の知識と経験による同様の因子によって変化するであろう。通常の技術を有する医師や獣医師であれば、症状の進行を治療および/阻止するのに必要な生物活性剤の有効量を容易に決定して処方することができる。
【0018】
“埋め込み部位”という用語は、本発明の埋め込み可能な装置を配置する患者の体内部位を意味する。“治療部位”には、埋め込み部位と、装置の構成要素から直接または間接に治療を受ける体内の領域が含まれる。例えば生物活性剤は、埋め込み部位から装置そのものを取り囲んでいる領域に移動できるため、単に埋め込み部位だけでなく、より広い面積が治療される。“切り込み部位”という用語は、患者の体内に切り込みまたは外科的切断を行なって本発明の装置を埋め込む領域を意味する。切り込み部位には、患者に外科的切断を行なう部位と、外科的切断を行なう部位の近傍が含まれる。
【0019】
“治療行程”という用語は、患者に治療に有効な量を供給するため1種類以上の生物活性剤をある期間にわたって投与する割合を意味する。したがって治療行程の因子には、投薬割合と治療期間(生物活性剤を投与する合計期間)が含まれる。
【0020】
医療装置は、使用中に力(例えば摩擦力)を受ける可能性がある。例えば医療装置によっては、患者の組織の中に挿入するとき、および/または患者の組織から引き出すときに摩擦力を受けるものがある。摩擦力は、コーティングの剥離または破損といった形態で被コーティング組成物に損傷を与える可能性がある。すると被コーティング組成物は剥離し、装置の性能が低下する。他のタイプの力(圧縮、曲げ、衝撃など)も被コーティング組成物に損傷を与える可能性がある。
【0021】
本発明の実施態様には、1種類以上の生物活性剤を体内で溶離させることのできるコーティングされた医療装置と、その製造方法が含まれる。本発明の一実施態様には、コーティングされた医療装置を形成する方法であって、被コーティング組成物を医療装置上に堆積することを含んで成り、該医療装置が粗い区画と滑らかな区画を備え、該被コーティング組成物層が粗い区画上に供される前縁部を有し、該被コーティング組成物がポリマーと生物活性剤を含んで成る方法が含まれる。
【0022】
本発明の一実施態様には、コーティングされた埋め込み可能な医療装置を形成する方法であって、被コーティング組成物を医療装置上に堆積させることを含んで成り、該医療装置が本体区画と穿孔区画を備え、該被コーティング組成物が本体区画上に供される前縁部を有し、該コーティング層がポリマー及び生物活性剤を含んで成る方法が含まれる。
【0023】
本発明の実施態様には、医療装置の表面への被コーティング組成物の配置を正確に制御するコーティング法も含まれる。多くの用途において、医療装置の表面にある被コーティング組成物の量を最大にすることが望ましい。なぜなら、被コーティング組成物の量を最大にすると、より多くの生物活性剤をより長期間にわたって患者に供給できるからである。すると医療装置が有効である期間を長くすることができる。また、医療装置を患者の体内に残しておける期間も長くできる可能性がある。さらに、医療装置の中には、独自の性能を持った被コーティング組成物で覆われずに残された区画または部分を有するものがある(実施例5を参照のこと)。覆われない部分を残したまま被コーティング組成物の量を最大にする1つの方法は、被コーティング組成物の縁部を、覆われずに残された区画または部分のできるだけ近くに位置させることである。この方法から、位置が正確なコーティング法の必要性が生じる。
【0024】
従来のコーティング塗布装置(例えば噴霧化のために空気流に頼る(空気噴霧化)装置)は、一般に、約1.0mm以内の位置の精度が欠けている。すなわちコーティングを開始する医療装置の表面上の正確な位置は、約1.0mmよりも大きな精度でしか信頼性と再現性があるように制御することはできない。したがって医療装置に覆われずに残される区画がある場合には、コーティングの縁部は、その覆われずに残される区画から1.0mm以内に常に位置させること、すなわち信頼性よく位置させることができない。なぜならコーティング・システムが不正確であるため、コーティングされない部分の上にもコーティングが延びる可能性があるからである。
【0025】
スプレー流から医療装置のいろいろな部分を隠すマスク法を利用することによって空気噴霧化コーティング・システムの精度を向上させる試みが続けられてきた。しかしこうした試みで実際に望む最終結果を得ることは失敗に終わった。なぜならマスクの上にコーティング材料が堆積すること、および/またはマスクと装置の間にウェブが形成されること、および/または再現可能なやり方で市場に出せる量を処理できないことなどの問題があったからである。浸漬コーティングなどの他のコーティング法も同様に不満足な結果になることがわかった。それは、約1.0mm以内の位置の正確さが欠けていること、および/または堆積させる量を正確に制御できないことが理由である。さらに別の方法は、商業生産で利用するには時間がかかりすぎる、および/または本明細書で用いるコーティング組成物に含まれる割合の固体では適切に機能しない、および/または揮発性有機溶媒を用いてうまく作業ができない、および/または詰まるという問題がある。
【0026】
本発明の一実施態様には、超音波スプレー・ヘッドで噴霧化したスプレー流を用いて医療装置の表面に被コーティング組成物を堆積させる方法であって、超音波スプレー・ヘッドでコーティング組成物を噴霧化してスプレー流を生成させる段階と;そのスプレー流を、複数回の横方向の掃引と複数回の縦方向の移動を含むパターンで移動させる段階を含んでいて;その縦方向の移動が約0.4mm未満であり、各縦方向の移動が、1回以上の横方向の掃引によって次の縦方向の移動と分離されている方法が含まれる。
【0027】
本発明の一実施態様には、基部を有する医療装置であって、被コーティング組成物が該基質表面上に供される縁部を有し、該組成物が生物活性剤とポリマーを含む装置が含まれる。この医療装置は、その基部表面の中または上に配置されたコーティングされていない構成要素を備えていて、被コーティング組成物の縁部が、コーティングされていない構成要素から0.5mm以内の位置にある。
【0028】
本発明の一実施態様には、基部と、第1の被コーティング組成物と、第2の被コーティング組成物を備える医療装置が含まれる。第1の被コーティング組成物の縁部は、第2の被コーティング組成物の縁部から0.5mm以内の位置にある。
【0029】
あらゆるタイプの埋め込み可能な装置は、適切に導入されて使用されるためには、その装置の近位端での伝達可能性、操作可能性、通過可能性をこの装置の遠位端に適用できるように設計することが好ましい。この用途に関し、以下の用語は以下の意味を有する。伝達可能性は、装置の近位端から装置の遠位端に力を伝える能力である。装置の本体部は、伝達可能にするための十分な強度と、反りや捻れに対する抵抗力を持たねばならない。操作可能性は、曲がりくねった血管や身体の他の通路を誘導して治療部位に到達させる能力である。可撓性のより大きな遠位部を用いると操作性が向上することが知られている。したがって、いくつかの用途で可撓性を向上させるため、幾分か弾性特性を持つ本体部を有する装置を用意することが望ましかろう。通過可能性は、装置を誘導して組織障壁や血管内の狭い部分を通過させる能力である。
【0030】
伝達可能性、操作可能性、通過可能性の最適化とトルクの伝達は、装置を形成する材料とその物理的特性(本体部を形成する材料の厚さなど)を注意深く選択することによって実現できる。さらに、装置そのもののさまざまな部分における望ましい性質の組み合わせを実現するには、複数の構成要素を組み合わせて本体部が形成されるようにその装置を製造するとよい。すなわち装置の本体部の全長の一部には、別の部分とは異なる構成要素が含まれていてよい。これら1つ以上の部分には、物理的特性および/または材料が異なる構成要素を含むことができる。例えば遠位端部分を装置の本体部の残部よりも弾性があるようにして通過可能性を向上させることや、装置の前端部をより柔らかくして体内の膜などに接して支えられるようにすることができる。さまざまな材料には、例えば互いに異なる金属材料またはポリマー材料や、密度、充填剤、架橋特性その他の特性が異なる似たポリマーが含まれる。特に、装置の本体部の一部は、体内(例えば組織が運動する可能性が大きい関節などの領域)に留まっているときに装置を曲げられるよう可撓性を基準に選択した材料を含むことができるのに対し、他の部分は、軸方向の伝達および/またはトルクの伝達を基準に選択した材料を含むことができる。
【0031】
本発明によれば、体内にあって1種類以上の生物活性剤が制御放出されることが望ましいあらゆる埋め込み部位の治療に使用できる装置が開発された。好ましい実施態様では、この装置を用い、体内でアクセスが限られた領域(例えば目、耳、脳、脊柱、関節)を含む治療部位に1種類以上の生物活性剤を供給することができる。より詳細には、本発明の装置は、延長方向を持ち、少なくとも一部がこの延長方向からはずれた本体部と、この本体部と接触しているポリマー・コーティング組成物を含んでいる。本体部とポリマー・コーティング組成物は、治療部位に生物活性剤が制御放出されるように構成されている。本明細書に記載してあるように、治療部位での制御放出は、投与量(投薬割合と合計投与量が含まれる)と治療期間の両方を制御することを意味する。
【0032】
本発明の議論を単純にするため、目の治療に本発明を利用する場合を取り扱うことにする。目は、上に説明したように、目の症状の治療が特に難しいという理由で選択する。さらに、より優れた装置を提供しつつ、身体組織がダメージを受けるリスクを減らすという点に関し、この制御放出装置の利点をはっきりと提示することができる。しかしここに開示した装置と方法は、必要なあらゆる治療に適用できる。例えば体内でアクセスが限られていて治療期間中は生物活性剤が制御放出されることが望ましい領域(例えば中枢神経系(脳や脊髄)、耳(内耳など)、関節)を治療するのに本発明の実施態様を利用できる。体内でアクセスが限られていない領域を治療するのにも本発明の実施態様を利用できる。
【0033】
本発明の1つの特徴により、生物活性剤を制御放出する送達装置として、(a)延長方向と、その延長方向に沿った縦軸と、近位端と、遠位端とを備えていて、少なくとも一部が延長方向からはずれた本体部と;(b)この本体部と接触していて、第1のポリマーと、第2のポリマーと、生物活性剤とを含むポリマー被コーティング組成物を備えているものが提供される。第1のポリマーは、ポリアルキル(メタ)アクリレート、または芳香族ポリ(メタ)アクリレート、またはポリアルキル(メタ)アクリレートと芳香族ポリ(メタ)アクリレートの組み合わせを含んでおり、第2のポリマーは、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)を含んでいる。
【0034】
一般に、埋め込み可能な装置の本体部は、患者に挿入される制御放出装置の一部である。本体部は、近位端(埋め込んだときに身体の外部に向かう位置にある)と、遠位端(埋め込んだときに身体の内部に向かう位置にある)と、縦軸とを含むものとして記述できる。使用するときは、本体部の少なくとも一部を患者の体内に挿入する。例えばいくつかの実施態様では、本体部の100%未満を患者の体内に位置させることが好ましい。体内に存在する本体部の量は、治療者が、望ましい治療パラメータ、個々の装置の構成、埋め込み部位などの因子に基づいて決定することができる。
【0035】
本体部はさらに延長方向を備えており、好ましい実施態様では、本体部の少なくとも一部が延長方向からはずれている。好ましい実施態様では、本体部は、延長方向からはずれた箇所を少なくとも2箇所、3箇所、4箇所、5箇所、6箇所、7箇所、8箇所、9箇所、10箇所、またはそれ以上含んでいる。本体部が延長方向からはずれた部分を複数箇所含んでいない別のいくつかの実施態様では、本体部を“J”の構成、すなわちフック式の構成にすることができる。
【0036】
延長方向からはずれた部分は、適切な任意の配置にすることができる。そのようなはずれた部分の実施態様は説明だけを目的として本明細書に記載するため、本発明が本明細書に記載したどの特定の実施態様に限定されることも想定していない。はずれた部分は、必ずしも丸かったり尖っていたりする必要はない。例えばいくつかの実施態様では、本体部をZ形の構成にしてあるため、はずれた部分は尖っている。さらに、はずれた部分は規則的なパターンである必要もなく、ランダムであってよい(例えば本体部がランダムな曲線や折れ曲がりを含んでいる)。いくつかの実施態様では、はずれた部分は、縦軸のまわりでパターン化された構成にされている。このようにパターン化された構成の例として、体内におけるコイル、螺旋、Z形の折れ曲がりパターンなどがある。あるいははずれた部分は、縦軸のまわりでランダムな構成、すなわち非パターン化された構成にされている。このような特別な非パターン化された実施態様によると、個々のはずれた部分に関する本体部の縦軸から最周辺部までの距離は、装置の用途に応じ、本体部の望ましい全体プロファイルが得られるように選択できる。例えばいくつかの用途では、本体部の全体プロファイルを砂時計の形状や周辺部でリングが交互になった形状などにすることが望ましい。
【0037】
いくつかの実施態様では、延長方向からはずれた部分は、リングの形態で提供することができる。そのような個々のリングは、同心(すなわち共通の軸を持つ、または縦軸と軸が同じである)でも偏心(円からずれている)でもよい。これらの実施態様によれば、個々のリングは本体部の長さに沿って不連続であるため、本体部の延長方向に沿った複数の位置で個々のリブを形成する。
【0038】
本体部の好ましい構成は、コイルまたは螺旋である。一般に、コイルの構成では、コイルの個々のリングは縦軸のまわりを回転し、コイル全体は縦軸のまわりに実質的に対称である。好ましいコイルは、周囲長が実質的に同じ複数のリングが装置の近位端から遠位端への長さ方向に沿って並んだ構成である。好ましいいくつかの実施態様では、リングは螺旋パターンを形成し、リングの周囲長は、装置の長さ全体のどの位置にあるかによって異なる。リングの最大周囲長が装置の近位端に位置し、リングの最小周囲長が装置の遠位端に位置していて、リングの周囲長が装置の遠位端に向かって減少することが好ましい。
【0039】
本体部にはずれた部分が含まれることで、長さおよび/または幅が同じ直線的な装置と比べると、生物活性剤を埋め込み部位に送達するための表面積が大きくなる。これは装置を使用している間の利点となりうる。なぜならこの構成により、長さおよび/または幅がより小さな装置でより大きな表面積が可能になるからである。例えばいくつかの用途では、装置の長さを制限することが望ましい可能性がある。例えば本明細書でより詳細に説明するように、目のインプラントの長さを制限し、装置が目の中心視野に入らないようにするとともに、目の組織が損傷するリスクを最少にすることが望ましい。発明の装置では、本体部の少なくとも一部が延長方向からはずれた本体部を用意することにより、装置の断面積をより大きくすることなく、したがって挿入のための切り込みのサイズを大きくすることなく、長さ当たりの表面積がより大きくなる(そしてこのため、より多くの生物活性剤を保持できる)。
【0040】
さらに、好ましい実施態様において、本体部の形状は、望まないのに装置が運動することと、望まないのに患者の身体から装置が排出されることが減少した内蔵式固定システムを提供できる。なぜなら本体部の形状が、本体部を切り込みから取り除くのに操作を必要とするからである。例えばコイル形の本体部では、装置を捻る必要があるだろうし、Z形の本体部は、装置を埋め込み部位から取り除くのに前後に移動させる必要がある。好ましいいくつかの実施態様によれば、装置は、装置そのものの自己固定特性の結果として、身体組織に追加の固定機構(例えば縫合)を必要としない。本明細書により詳しく説明してあるように、装置にキャップ8を含めると、装置の別の固定特性が得られる。
【0041】
いくつかの実施態様では、本体部が延長方向からはずれた部分を2つ以上含んでいる場合には、コーティング可能な表面積、装置全体のサイズなどの特徴の組み合わせが最適になるように個々のはずれた部分の間隔を選択することができる。例えば本体部を、延長方向からはずれた部分を2つ以上含むコイルの形状にする場合には、個々のコイルの距離は、本体部を形成する材料の直径以上になるように選択できる。いくつかの場合には、コイル間の距離が本体部を形成する材料の直径よりも短いのであれば、本体部のコーティング可能な表面積が減る可能性がある。なぜなら本体部の表面領域でコーティング組成物のある部分にアクセスすることがより難しくなる可能性があるからである。本発明のこの特徴の一実施態様では、本体部を直径が0.5mmの材料で形成し、本体部の各コイルの距離を少なくとも0.5mmにする。この原理は、あらゆる構成の本体部に適用することができ、コイル状の構成に限定されない。
【0042】
埋め込み可能な装置全体のサイズは、個々の用途に合わせて選択することができる。例えば装置の長さおよび/または幅は、特定の埋め込み部位に合うように選択することができる。埋め込み可能な装置全体のサイズに影響する可能性のあるいくつかの因子として、送達するあらゆる生物活性剤の力価(したがって必要な生物活性剤の体積。本明細書で議論してあるように、それが装置の表面積に影響する)、体内の埋め込み部位の位置(例えば体内で埋め込み部位の位置がどれくらい遠いか)、埋め込み部位のサイズ(例えば目や内耳などの相対的に小さな面積、関節や臓器などの相対的に大きな面積)、埋め込み部位を取り囲んでいる組織(例えば血管組織、硬い石灰性組織(骨など))などがある。
【0043】
例えば埋め込み可能な装置を用いて生物活性剤を目に送達する場合、外科手術を終えるとき強膜を閉じるために縫合がほとんど必要ないか、まったく必要ない小さな切り込みから装置を挿入する設計にすることが好ましい。このようになっているため、装置は断面が約1mm以下の切り込みを通じて挿入することが好ましい。この断面は例えば直径が約0.25mm〜約1mmの範囲だが、直径は約0.25mm〜約0.5mmの範囲であることが好ましい。このようになっているため、本体部2を形成する材料の断面は約1mm以下であることが好ましい。この断面は例えば直径が約0.25mm〜約1mmの範囲だが、直径は約0.25mm〜約0.5mmの範囲であることが好ましい。本体部2を形成する材料が円筒形ではない場合(例えば本体部の断面が正方形である場合)には、この目的に断面の最大サイズを利用して本体部の直径を見積もることができる。
【0044】
制御放出装置の本体部は、生物活性剤の送達に使用するときには、近位端から遠位端までの全長が約1cm未満(例えば約0.25cm〜約1cmの範囲)であることが好ましい。本体部は埋め込まれると目の中に位置するが、そのとき、制御放出装置のうちで眼球の腔所に生物活性剤を送達する部分が、目の後眼房の近くに位置するようにする。制御放出装置がキャップ8を備えている場合には、そのキャップは厚さを約1mm未満にすることが好ましく、約0.5mm未満にすることがより好ましい。この特別な実施態様によれば、制御放出装置の全長は約1.1cm未満であり、約0.6cm未満であることが好ましい。
【0045】
ここで図1を参照すると、制御放出装置の好ましい一実施態様を示してある。この制御放出装置は、近位端4と遠位端6を有する本体部2を備えている。図1には、コイルの構成になった本体部が示してある。この実施態様では、本体部がコイルの形状になっているため、本体部2を形成する材料の外径とほぼ同じサイズの切り込みを通じ、体内に回転させたり捻ったりして入れることができる。さらに、コイルの構成になった本体部は、制御放出装置を埋め込み部位の中に維持する固定機構としても機能することができ、この装置が望まない運動をしたり、望まないのにこの装置が埋め込み部位および/または身体から排出されたりすることを阻止できる。この制御放出装置は、コイル形である結果として、この装置を取り出すときには捻って回転させることによって身体から外す。
【0046】
本体部2の遠位端6は、本体部の縦軸に対して望む任意の位置に配置することができる。図1と図2に示してあるように、本発明の一実施態様による本体部2の遠位端6は、縦軸から離れた先端部10を備えることができる。この構成は、標準的な“コーク・スクリュー”タイプの構成と似ている。この制御放出装置は、使用するときは切り込み部位を通じて挿入した後、この装置が治療部位に正しく位置するまで捻る。
【0047】
別の実施態様を図3と図4に示してある。これらの図では、本体部の遠位端6が、本体部2の縦軸上に位置する先端部10を備えている。いくつかの実施態様では、本体部2の先端部10を縦軸上に位置させることにより、遠位端で装置を挿入しやすくなるなどの利点がもたらされる可能性がある。望む用途が何であるかに応じ、本体部の遠位端をさまざまな他の構成にできることは明らかである。
【0048】
さらに、本体部2の近位端4は、本体部の縦軸に対して望む任意の位置に配置することもできる。図1と図3に、縦軸から離れた本体部の近位端4を示してある。しかし本体部の近位端4は、縦軸上に位置させることもできる(図示せず)。いくつかの実施態様では、本体部2の近位端4を縦軸上に位置させることにより、装置の製造が簡単になったり、機械的強度が増大したりする、(本体部が曲がったりそれ以外の変形をしたりするリスクが減った状態で本体部に一様な力を加えて並進移動させることができるため)力の伝達が改善されたりするなどの利点がもたらされる可能性がある。
【0049】
一般に、本体部2の製造に用いる材料に特に制限はない。いくつかの実施態様では、本体部2を可撓性材料で製造し、制御放出装置の細かい運動が埋め込み部位に伝わらないようにできる。いくつかの実施態様では、本明細書でさらに詳しく説明するように、本体部2の少なくとも遠位端6を堅固な曲がらない材料で製造することが好ましい可能性がある。例えば装置を目に埋め込む設計にした場合、装置を堅固な材料で製造することで、その装置の埋め込み/取り出し特性を改善することが好ましい。いくつかの実施態様では、本明細書に記載してあるように、本体部2を形状記憶および/または超弾性特性を有する材料で製造することが好ましい可能性がある。
【0050】
いくつかの実施態様では、医療装置の製造に用いられる適切な任意の材料で本体部2を製造することができる。その材料は、例えば、ステンレス鋼(例えば316L);白金;チタン;金;コバルト-クロム合金、ニチノールなどの合金である。さらに別の実施態様では、適切なセラミックを用いて本体部2を製造することができる。そのセラミックは、例えば、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、アルミナ。ガラス、シリカ、サファイアなどである。さらに別の実施態様では、適切な複合材料を用いて本体部2を製造することができる。その複合材料は、例えば埋め込み可能な装置を製造するのに一般に用いられている複合材料である。このような複合材料は、いくつかの実施態様では、材料の強度を大きくしたり、可撓性を大きくしたりといった利点を提供することができる。適切な複合材料の例として、繊維または粒子状材料(カーボン・ファイバー、骨粒子、シリカ粒子、ヒドロキシアパタイト粒子、金属繊維または金属粒子、ジルコニア、アルミナ、炭化ケイ素粒子など)で強化したポリマーまたはセラミック(高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリメタクリル酸メチル骨セメント(PMMA)、歯ポリマー・マトリックス(架橋したメタクリレート・ポリマーなど)、ガラス-セラミックなど)などがある。ナノ-複合材料も考慮される。
【0051】
一実施態様では、本体部2は、非生物分解性ポリマーで製造される。そのような非生物分解性ポリマーはよく知られており、例えば、オリゴマー、ホモポリマー、付加重合または縮合重合によって得られるコポリマーなどが挙げられる。適切な付加重合ポリマーの例としては、アクリル樹脂(アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸グリセリル、メタクリル酸グリセリル、メタクリルアミド、アクリルアミドなどから重合したアクリル樹脂);ビニル(エチレン、プロピレン、スチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、二フッ化ビニリデンなど)などがある。縮合重合の例としては、ナイロン(ポリカプロラクタム、ポリラウリルラクタム、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンドデカンジアミドなど)や、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルホンポリ(テレフタル酸エチレン)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリジメチルシロキサンポリエーテルケトンなどがある。適切な他の非生物分解性ポリマーとしては、シリコーンエラストマー;シリコーンゴム;ポリオレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレンなど);酢酸ビニルのホモポリマーとコポリマー(エチレン酢酸ビニル2-ピロリドン・コポリマーなど);ポリアクリロニトリルブタジエン;フルオロポリマー(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニルなど);スチレンアクリロニトリルのホモポリマーとコポリマー;アクリロニトリルブタジエンのホモポリマーとコポリマー;ポリメチルペンテン;ポリイミド;天然ゴム;ポリイソブチレン;ポリメチルスチレン;ラテックス;他の同様な非生物分解性ポリマーなどがある。
【0052】
本体部2の少なくとも一部は、体内に装置を挿入する前、挿入している間、挿入した後に延長方向からずらすことができる。あるいは装置を形状記憶および/または超弾性特性を持つ材料で製造し、体内により容易に挿入できる形態に変形することができる。このような一実施態様では、例えば本体部を実質的に直線的な形態に変形して体内に挿入することができる。この特別な実施態様によると、本体部は体内に挿入した後に元の形状に戻る。この実施態様では、装置の本体部は、ある条件下で取ることになる“記憶形状”を持つ。本体部は、例えばジグザグした記憶形状やコイル状の記憶形状を持つことができる。治療者は、装置を体内に挿入することを望む場合、その装置を実質的に直線的な形状に変形させ、その直線的な形状の装置の断面と同じサイズの切り込みを通過させることができる。装置は、体内に埋め込まれると、ジグザグした記憶形状やコイル状の記憶形状、または他の記憶形状に戻ることができる。このような形状記憶の実施態様による制御送達装置では、体内に装置を埋め込むのに、および/または体内から装置を取り出すのに形状記憶材料と本体部の変形を利用しているため、全体のサイズは大きく変化しない。
【0053】
形状記憶合金は一般に2つの相を持つ。すなわち引っ張り強度が相対的に小さくて相対的に低温で安定なマルテンサイト相と、引っ張り強度が相対的に大きくてマルテンサイト相よりも高温で安定なオーステナイト相である。形状記憶特性は、材料を、オーステナイト相が安定な温度よりも高温に加熱することによって付与される。材料をこの温度に加熱している間、装置を、“思い出す”ことが望ましい形状である“記憶形状”に維持する。形状記憶特性および/または超弾性特性を持つ材料はよく知られており、例えば、形状記憶合金(SMA)(ニチノール(ニッケル-チタン合金)など)、形状記憶ポリマー(SMP)(オリゴ(e-カプロラクトン)ジメチルアクリレートとアクリル酸n-ブチルをベースとしたABポリマー・ネットワークなど)などが挙げられる。形状記憶特性を与えるこのような材料と方法はよく知られており、本明細書ではこれ以上詳しく説明しない。
【0054】
本発明の制御送達装置は、本体部の材料特性(例えば超弾性特性)を利用して本体部を直線形状に引き伸ばすことが好ましい。本体部は、埋め込み部位に配置されて応力を受けていない状態になると、記憶形状に戻ることができる。
【0055】
本体部の遠位端6は、装置の用途とその装置を埋め込む体内部位に応じて適切な任意の構成にすることができる。例えばいくつかの実施態様では、遠位端6は、鈍くすること、すなわち丸くすることができる。好ましい実施態様では、本体部の遠位端6は、装置が体内に埋め込まれている間に身体に穴を開ける構成にされる。例えば本体部の遠位端6は、鋭い先端部、すなわち尖った先端部を持つことができる。好ましい一実施態様では、本体部の遠位端6は、スロープ状の角度を有する。好ましいことに、この実施態様の装置を利用すると、切り込み部位を作るのに独立した装置および/または手続きを必要とすることなく、身体に1つ切り込みを入れられる。挿入中に本体部2の遠位端6を用いて身体に穴を開ける場合には、少なくとも遠位端6は、身体に穴を開けるのに適した堅固で曲がらない材料でできていることが好ましい。このような材料はよく知られており、例えばポリイミドやそれと同様の材料が挙げられる。このような好ましい一実施態様では、本体部2の遠位端6を用いて目に穴を開け、目の内部に制御送達装置を挿入する。
【0056】
好ましい別の一実施態様では、本体部2の遠位端6を整形するか折り曲げ、縦軸に平行な部分(例えば本体部の最遠位部分)を形成する。例えば図3と図4に示した一実施態様では、遠位端6は、縦軸に平行な鋭い先端部、すなわち尖った先端部を有する。この特別な実施態様によれば、本体部の遠位端6に位置する先端部は切り込み面に垂直であるため、装置の自己開始先端部となる。これらの図面には本体部の鋭い先端部を示してあるが、遠位端は、本明細書の記載を利用すると適切な任意の形状にできることが理解されよう。
【0057】
本体部2は、望みに応じ、中実材料(管腔を含まない材料)、または管腔を含む材料から製造することができる。例えば図1〜図4に示した実施態様では、本体部2を中実材料から製造してコイルの形状にする。あるいは管腔を含むチューブ状材料から本体部2を製造することもできる。中実材料を選択するか管腔含有材料を選択するかは本発明にとって重要ではなく、材料と処理法を利用できるかどうかに基づいて決定できる。
【0058】
管腔は、望みに応じ、本体部2の全長に沿って、または全長の一部に沿って延びることができる。いくつかの実施態様では、管腔は、埋め込み部位に望む物質を送達する送達機構として機能する。管腔を通じて送達される物質には、本明細書に記載した任意の生物活性剤が含まれていてよい。管腔を通じて送達される物質は、コーティング組成物に含まれている生物活性剤と同じでも異なっていてもよい。さらに、この物質は、ポリマー・コーティング組成物の生物活性剤に加えて、または生物活性剤の代わりに提供することができる。例えば一実施態様では、1種類以上の物質を管腔を通じて送達することができるため、1種類以上の生物活性剤を被コーティング組成物から埋め込み部位に供給することができる。
【0059】
いくつかの実施態様では、管腔は、本明細書に記載したポリマー被コーティング組成物を収容することができる。これらの特別な実施態様によれば、装置の本体部の外面にコーティングを供給すること、または供給しないことができる。このようないくつかの実施態様では、管腔を利用して生物活性剤を埋め込み部位に送達することができる。例えば管腔は、第1のポリマーと、第2のポリマーと、生物活性剤とを含むポリマー被コーティング組成物を収容することができる。この特別な実施態様によれば、本体部の外面に、第1のポリマーと第2のポリマーだけを含む(すなわちいかなる生物活性剤も含まない)コーティングを供給することができる。したがってこの実施態様では、生物活性剤は主として本体部の管腔を通じて埋め込み部位に供給される。他の実施態様では、管腔は、本発明のポリマー被コーティング組成物(第1のポリマーと、第2のポリマーと、生物活性剤を含んで成る)を収容することができ、本体部の外面には被コーティング組成物が供給されない。
【0060】
管腔は、望みに応じていろいろな成分の任意の組み合わせを収容することができる。例えばいくつかの実施態様では、管腔は、送達する物質だけを収容することができる。他の実施態様では、管腔は、送達する物質と、ポリマー被コーティング組成物を収容することができる。管腔に収容される成分の個々の組み合わせは、装置の望む用途が何であるかに応じて選択することができる。
【0061】
管腔に物質および/またはポリマー・コーティング組成物を供給する場合、装置を体内に挿入する前に、または装置を体内に挿入した後に管腔に望む物質および/またはポリマー・コーティング組成物を満たすことができる。装置を体内に挿入した後に物質を満たすことが望ましい場合には、その目的で本体部2の近位端4の近くにポートを設けることができる。ポートは流体によって本体部の管腔と通じていて、望むのであれば装置を埋め込んだ後に装置に物質および/またはポリマー・コーティング組成物を再び満たすこともできる。
【0062】
装置がポートを備えている場合には、そのポートを設計するにあたり、注入機構(例えば注射器)の針をポートに挿入でき、管腔に収容されることになる材料がその注入機構によって注入されるようにすることが好ましい。したがって材料はポートを通って移動し、本体部の管腔に入ることができる。材料がポートから注入機構の周囲に漏れ出すのを防止し、材料が管腔に無菌注入されるようにするため、ポートは、注入機構の針の周囲にぴったりと合ったシールを形成することが好ましい。望むのであれば、構成要素またはカラー(図示せず)をポートに取り付け、その構成要素またはカラーを通じて注入機構を挿入したり、その構成要素またはカラーで注入機構のまわりにぴったり合ったシールを形成したりすることができる。材料が送達装置に注入されると、注入機構の針をポートから外し、ポートを密封する。シールは、取外し可能なカバー(図示せず)をポートの上に設けることによって実現できる。このカバーは物質を注入するために取り除くことができ、材料が注入されたときに交換する。好ましい一実施態様では、ポートを半気密材料で製造する。この半気密材料を通じて注入機構を挿入することができ、注入機構を除去するときにこの半気密材料は自動的に気密にされる。このような材料は公知であり、例えばシリコーンゴム、シリコーンエラストマー、ポリオレフィンなどが挙げられる。
【0063】
さらに別の実施態様では、装置が1つ以上の管腔を備えている場合には、その装置は1つ以上のポートを備えることができる。例えば各管腔は複数のポートと流体でつながった状態にすることができる。これらのポートは上記の単一のポートと同様である。望むのであれば、管腔とポートは、各管腔に、対応するポートを通じて異なる材料を充填できる構成にすることができる(例えば各管腔が専用のポートを持つ)。2種類以上の追加物質を埋め込み部位に送達することが望ましい場合には、2つ以上の管腔が含まれていることが望ましい可能性がある。
【0064】
1種類以上の追加物質を1つ以上の管腔を通じて埋め込み部位に送達することが望ましい実施態様では、個々の管腔は、そのような送達を可能にする1つ以上の開口部を備えている。一実施態様では、そのような開口部が装置の遠位端6に設けられている。他の実施態様では、開口部を本体部2の長さ方向に沿って設ける。開口部の数とサイズは(供給する場合の)物質の望ましい送達速度によって異なる可能性があり、当業者であれば容易に決定することができる。開口部は、送達する物質が装置から流体流として放出されるのではなく、ゆっくりと拡散するように設計することが好ましい。例えば装置を目に埋め込む場合には、物質が、目の繊細な組織を傷つける可能性のある流体流として放出されるのではなく、ゆっくりと拡散するように送達することが好ましい。いくつかの実施態様では、身体と接触するポリマー・コーティング組成物は物質に特別な多孔性を与えることができるため、管腔から物質が拡散する速度を制御するのをサポートできる。開口部が装置に含まれている場合には、装置が体内に埋め込まれたときに物質が特定の位置に送達されるように個々の開口部の位置を決めることができる。
【0065】
別の一実施態様では、本体部2が埋め込み部位に追加の物質を送達するための管腔を有する場合には、本体部2を形成する材料は、その管腔から送達する物質に対する透過性(または半透過性)を持つように選択することができる。この特別な実施態様によると、材料は、装置の個々の用途と送達する物質が何であるかに応じて選択することができ、当業者であれば材料を容易に決定することができる。適切な透過性材料の例として、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリウレタン、アクリロニトリルのコポリマー、ポリ塩化ビニルのコポリマー、ポリアミド、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリフッ化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリブチル酸ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリエチレン、ポリエーテル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロエーテル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸ブチル、ナイロン、セルロース、ゼラチン、シリコーンゴム、多孔性繊維などがある。
【0066】
これらの特別な実施態様によると、本体部2の製造に用いる材料は、物質が特定の送達速度となるように選択することができる。その物質は当業者であれば容易に決定することができる。さらに、物質の送達速度は、透過性(または半透性)の材料で形成された本体部2の割合を変えることによって制御できる。したがって例えば送達速度をより小さくするには、透過性材料を50%以下にして本体部2を製造するとよい。逆に、送達速度をより大きくするには、透過性材料でを50%よりも多くして本体部2を製造するとよい。本体部2の全体ではなく1つ以上の部分が透過性材料または半透性材料でできている場合には、透過性材料または半透性材料は、装置が埋め込み部位に埋め込まれたときに物質が特定の位置に送達されるように配置することができる。
【0067】
別の一実施態様では、本体部2の管腔は、管腔の長さ方向に沿って位置する複数の非透過性分割部材を含むことができる。したがって本体部の管腔は複数の区画を含むことができ、望みに応じてその各区画に異なる物質を満たすことができる。これらの区画には、例えば各区画の側部に位置する注入ポートを通じて挿入前に物質を満たすことができる。別の一実施態様では、装置を埋め込んだ後に複数の導管を設けることによってその装置に物質を満たすことができる。各導管は、対応する区画と流体でつながっている。これら導管は、本体部2の壁部の内部に、本体部2の周辺部に沿って設けることができる。その後、複数のポートを通じて物質を注入することができる。各ポートは、対応する導管と流体でつながっている。したがって、キャップ8の中心にある1つのポートによってキャップ8の直下にある第1の区画に1つの物質を注入することができる。このポートが、その物質を第1の区画に直接注入する。第2のポートに注入される物質は導管を通じて流れ、本体部2の壁部にある開口部を通って流れ、第2の区画に入るであろう。以下同様である。送達される物質は、管腔に関して本明細書に記載した任意の方法で埋め込み部位に送達することができる。
【0068】
別の一実施態様では、(望む)それぞれの管腔または区画は、レーザー(熱または光破壊)によって選択的に“開く”ように、すなわち活性化するように設計することができる。例えば特定の物質を送達するとき、レーザーを利用して望む管腔および/または区画の壁部に開口部を設けることができる。このようになっているため、各物質の放出は治療者が要求するように制御できる。レーザーを利用してこのような開口部を設ける場合には、ポリマー・コーティング組成物に対するあらゆる効果が最少になるよう、波長と温度を制御することが好ましい。
【0069】
好ましい実施態様では、本体部2は、装置全体のサイズを大きくすることなくその本体部の表面積がさらに増えるように製造することができる。例えば一実施態様では、互いに絡み合った、または撚り合わせた複数の紐状にした材料で本体部2が形成された装置を作ることができる(例えば複数の紐を互いに撚り合わせて本体部を形成する)。これらの特別な実施態様によれば、任意の数の独立した紐(例えば2本、3本、4本、またはそれ以上の本数の紐)を利用して本体部を形成することができる。本体部を形成するために撚り合わせた個々の紐の数は、例えば本体部を形成する材料の望ましい直径および/または本体部全体の直径、挿入および/または埋め込みの間の装置の望ましい可撓性または硬度、インプラントのサイズ、切れ込みの望ましいサイズ、本体部を形成するのに用いる材料といった因子に合わせて選択することができる。
【0070】
別の一実施態様では、本体部2の表面積は、本体部2に表面構造を設けることによって大きくできる。このような実施態様によれば、適切な任意のタイプの表面構造(例えば窪み、孔、突起部(稜や溝など)、凹部など)を本体部2に設けることができる。表面構造は、本体部2の製造に用いる材料の表面を粗くすることによって実現できる。このような一実施態様では、機械的方法(50μmのシリカなどの材料を用いて機械的に粗くする)、化学的方法、エッチング法や、公知の他の方法を利用して本体部の表面を粗くする。他の実施態様では、表面構造は、本体部2の製造に多孔性材料を用いることによって実現できる。多孔性材料の例は、本明細書の別の箇所に記載してある。あるいは材料を処理してその材料に孔を設けることができる。そのとき従来技術でよく知られた方法を利用する。さらに別の実施態様では、表面構造は、加工した材料(例えば加工した金属)で本体部2を作ることによって実現できる。この材料を加工して適切な望む任意の構造(例えば窪み、ポケット、孔など)にすることができる。
【0071】
さらに別の実施態様では、装置の表面積は、望みに応じ、ネジが切られていて先細になった、または先細になっていないシャフトとして構成された本体部を用いることによって大きくすることができる。このようにネジが切られたシャフトの実施態様は、典型的な木ネジと同様である。ネジが切られたシャフトは、適切な任意の方法で製造する(例えばシャフトのネジの成形や加工によって作る)ことができる。さらに、シャフトのネジは、本体部の近位端から遠位端まで延びる連続的な螺旋状のネジにすること、またはネジを、本体部の周囲に設けた不連続なリングとして設けることができる。これらの特別な実施態様では、患者に装置を埋め込むのにより大きな切れ込みが必要となる可能性があるが、用途によっては、ネジが切られたシャフトが提供する大きな表面積(本明細書でより詳しく説明する)が、必要なより大きな切れ込みよりも重要である可能性がある。
【0072】
好ましい実施態様では、本体部2の表面構造が利点をもたらす可能性がある。利点としては、例えば、ポリマー・コーティング組成物を付着させるための本体部の表面積の増大、装置の耐久性の向上、(例えば接着のため粗くした表面や、増大した表面積などによる)本体部へのポリマー・コーティング組成物の付着力の増大、望む治療期間が終了した後の装置の取り外しやすさの向上などが挙げられる。
【0073】
本体部2は、望みに応じ、その全長にわたって表面構造を備えること、またはその全長のほんの一部だけに表面構造を備えることができる。
【0074】
図1に示してあるように、本体部2は、断面が円形の円筒形であることが好ましい。しかし本体部2の断面の形状は限定されておらず、代わりに例えば正方形、長方形、八角形や、他の望ましい断面形状も可能である。
【0075】
図1と図3に示してあるように、好ましい一実施態様では、本体部2の近位端4に位置するキャップ8を備えることができる。キャップ8は、装置に含まれていると、体内に埋め込まれた装置の安定化を促進できるため、装置の固定特性が追加される。切り込みを通じて装置を体内に挿入するとき、キャップ8が身体の外面にある切り込みにぶつかるまで装置を挿入することが好ましい。望むのであれば、次にキャップ8を切り込み部位の位置で身体に縫合してさらに安定させ、装置が望む位置に埋め込まれた後は移動しないようにすることができる。例えば装置を目に埋めこむ場合には、切り込みを通じて装置を目に挿入するとき、キャップ8が切り込みにぶつかるまで装置を挿入することができる。
【0076】
切り込み部位の痛みが少ないのであれば、キャップ8の全体的なサイズと形状に特に制限はない。キャップ8は、背丈が低くなるサイズにすることが好ましい。例えばキャップ8のサイズは、装置が埋め込まれたときに全体サイズを実質的に大きくすることなく、装置の追加の固定特性といった望ましい特徴が実現される小さな表面積になるように選択することが好ましい。例えばいくつかの実施態様では、埋め込まれたときに切り込み部位において組織弁をキャップに被せることで、埋め込み部位および/または切り込み部位における潜在的な痛みおよび/または装置の移動をさらに減らすことができる。本明細書の他の箇所でより詳しく説明する代表的な一例は、装置を目に埋め込んだときに強膜キャップをキャップに被せるというものである。
【0077】
さらに、キャップ8は円形のものを図示してあるが、キャップは任意の形態にすることができる。例えば円形、長方形、三角形、正方形などにできる。切り込み部位における痛みを最少にするため、キャップは縁部が丸くなっていることが好ましい。キャップ8は、埋め込み部位の外に残るように設計する。そのためキャップ8は、装置を挿入するための切り込みを通って埋め込み部位に入ることのないサイズにする。
【0078】
本明細書に記載してあるように、装置にキャップ8が含まれていると、装置そのものに追加の固定特性が与えられる。しかしいくつかの実施態様では、装置をよりしっかりと固定するため、埋め込み部位における追加の固定特性を与えることが望ましい可能性がある。したがって望むのであればさらに、キャップ8は、切り込みを取り囲んでいる面に容易に縫合できるようにすること、または他の方法で固定できるようにすることと、縫合具が通過できる例えば1つ以上の穴(図示せず)を含むことが可能になるように設計できる。
【0079】
キャップ8の製造に用いる材料は特に限定されておらず、本体部2の製造に関してすでに説明した任意の材料が挙げられる。材料は、装置が接触することになる体液と組織に溶けないことが好ましい。さらに、キャップ8は、そのキャップが接触する身体の部分(切り込み部位とその周囲の領域など)に痛みを生じさせることのない材料で製造することが好ましい。例えば装置を目に埋め込む場合には、キャップ8は、目のうちでそのキャップが接触する部分に痛みを生じさせることのない材料で製造することが好ましい。そのためこの特別な実施態様において好ましい材料は、例えば、さまざまなポリマー(シリコーンエラストマー、シリコーンゴム、ポリオレフィン、ポリウレタン、アクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリスルホンなど)と、金属(本体部に関してすでに説明したものなど)である。
【0080】
いくつかの実施態様では、キャップ8は、本体部2と同じ材料で製造することができる。あるいはキャップ8は、本体部2と異なる材料で製造することもできる。キャップ8は、本体部2とは別に製造し、その後、適切な任意の付着機構(例えば適切な接着剤、ハンダ付け材料)を利用して本体部2に取り付けることができる。キャップ8は、例えば開口部を有するように製造し、その中に本体部2を配置した後にハンダ付けすること、または溶接すること、または他の方法で付着させることができる。別の実施態様では、例えば鋳型を利用してキャップ8と本体部2を一体の部材として製造する。その鋳型には、装置の両方の構成要素(本体部2とキャップ8)が収容される。装置を製造する正確な方法は、材料を利用できるかどうか、装置の構成要素を形成するための設備といった因子に合わせて選択することができる。
【0081】
いくつかの実施態様では、キャップ8にポリマー・コーティング組成物を付着させることができる。これらの特別な実施態様によれば、キャップ8とともに供給されるポリマー・コーティング組成物は、本体部2とともに供給されるポリマー・コーティング組成物と同じでも異なっていてもよい。例えばキャップ8のためのポリマー・コーティング組成物に含まれる特定の生物活性剤を変えることで望む治療効果を切り込み部位にもたらすことができる。切り込み部位において望ましい可能性のある生物活性剤の例として、切り込み部位における身体の反応を減らすか制御するための抗微生物剤や抗炎症剤などがある。本明細書の開示内容を検討すれば明らかなように、望むのであれば、キャップ8とともに供給されるポリマー・コーティング組成物のための第1のポリマーと第2のポリマーを選択することで、キャップ専用の望ましいポリマー・コーティング組成物を提供することもできる。
【0082】
いくつかの実施態様では、キャップ8は、本体部2で利用されるポリマー被コーティング組成物と同じポリマー被コーティング組成物を含むことができる。
【0083】
本発明によれば、ポリマー被コーティング組成物を装置の本体部に接触させる。ポリマー被コーティング組成物は、1種類以上のポリマーと、生物活性剤とを含むことができる。
【0084】
被コーティング組成物は、装置の本体部の少なくとも一部と接触させる。いくつかの実施態様では、例えば被コーティング組成物を本体部の表面全体と接触させることが望ましい可能性がある。あるいは被コーティング組成物は本体部の一部(例えば本体部の近位端と遠位端の間に位置する中間部)に付着させることができる。好ましいいくつかの実施態様では、例えば被コーティング組成物を本体部のうちで尖った遠位端を含まない部分と接触させることが望ましい可能性がある。これは、例えば被コーティング組成物が尖った先端部で剥がれるリスクを減らす上で、および/または先端部が尖った状態を維持する上で望ましい可能性がある。本体部のうちで被コーティング組成物と接触している部分の割合は、埋め込み部位に供給する生物活性剤の量、被コーティング組成物のための第1のポリマーおよび/または第2のポリマーの選択、埋め込み部位の特徴、被コーティング組成物が剥がれるリスクといった因子を考慮して決定することができる。いくつかの実施態様では、例えば被コーティング組成物を本体部のうちで装置の近位端と遠位端以外の部分に供給することで、その装置の埋め込みおよび/または取り出しの際に剥がれるリスクを減らすことが望ましい可能性がある。別のいくつかの実施態様では、コーティングの厚さを本体部の近位端および/または遠位端に向かって減少するような階段状にすることで、このような剥がれを最少にすることもできる。さらに別の実施態様では、本体部の遠位端および/または近位端に、本体部の他の部分のコーティングとは組成が異なる被コーティング組成物を供給することができる。このような実施態様の一例として、遠位端および/または近位端に滑らかなコーティングを有するが、本体部の近位端と遠位端の間に位置する中間部では異なる被コーティング組成物になっている本体部が挙げられる。当業者であれば、本明細書に記載した考え方を利用すると、本体部のうちで被コーティング組成物と接触する部分の割合、および/または本体部の異なる1つ以上の領域に供給する被コーティング組成物の組成を望みのままに決定することができる。
【0085】
本発明によるコーティング組成物の調製に用いるのに適したポリマーと生物活性剤は、従来の有機合成法を利用して調製すること、および/または市場で多彩な供給源から入手することができる。このようなポリマーは、生体内で使用するのに適した形態で含まれたコーティング組成物として提供すること、またはそのような用途のため、当業者が利用できる従来法で(例えば不純物を除去することによって)望む程度まで精製することが好ましい。
【0086】
コーティング組成物は、溶媒と、その溶媒に溶かした1種類以上のポリマーと、そのポリマー/溶媒混合物に分散させた1種類または複数種の生物活性剤とが含まれるように調製することができる。溶媒は、その中で1種類以上のポリマーが真の溶液を形成する溶媒であることが好ましい。生物活性剤は、溶媒に溶けてもよいし、溶媒全体の中で分散液を形成してもよい。いくつかの実施態様では、コーティング組成物は、1つの組成物で装置に付着させることのできる一回系を提供することができる。例えばアメリカ合衆国特許第6,214,901号に、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を使用した例が記載されている。THFが適切であるとはいえ、コーティング組成物によっては、他の溶媒を本発明で使用するほうが好ましい場合もある。そのような溶媒として、例えば、アルコール(メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなど)、アルカン(ハロゲン化されたアルカンやハロゲン化されていないアルカン(ヘキサン、シクロヘキサンなど)など)、アミド(ジメチルホルムアミドなど)、エーテル(ジオキソランなど)、ケトン(メチルケトンなど)、芳香族化合物(トルエン、キシレンなど)、アセトニトリル、エステル(酢酸エチルなど)などがある。
【0087】
被コーティング組成物は、生体適合性があって体内に埋め込まれたときに顕著な炎症や痛みが誘導されることのないものにするとよい。さらに、被コーティング組成物は、絶対濃度のポリマーと相対濃度のポリマー両方に関して広い範囲で有用であることが好ましい。その意味で、被コーティング組成物の物理的特性(付着性、耐久性、可撓性、可延性)は、一般に広い範囲のポリマー濃度にわたって適しているであろう。
【0088】
ポリマー・コーティング組成物そのものに移ると、一実施態様では、ポリマー・コーティング組成物は、1種類以上のポリマーと、1種類以上の生物活性剤とを含んでいる。一実施態様では、ポリマー・コーティング組成物は、第1のポリマーと、第2のポリマーと、生物活性剤とを含んでいる。第1のポリマーは、1つ以上の望ましい特性を提供することができる。その特性とは、第2のポリマーおよび生物活性剤との適合性、疎水性、耐久性、生物活性剤放出特性、生体適合性、分子量、市場での入手可能性などである。第1のポリマーは、ポリアルキル(メタ)アクリレート、または芳香族ポリ(メタ)アクリレート、またはポリアルキル(メタ)アクリレートと芳香族ポリ(メタ)アクリレートの組み合わせを含むことができる。ただし当業者であれば、“(メタ)”には、アクリル形態および/またはメタクリル形態いずれかの分子(それぞれアクリレートおよび/またはメタクリレートに対応する)が含まれることが理解できる。
【0089】
適切な第1のポリマーの例として、ポリアルキル(メタ)アクリレート、その中でも特に、アルキル鎖の長さが炭素原子2〜8個で、分子量が50キロダルトン〜900キロダルトンであるものが挙げられる。第1のポリマーの一例は、ポリ(n-ブチル)メタクリレート(pBMA)である。このようなポリマーは例えばオールドリッチ社から市販されており、分子量は約200,000ダルトン〜約320,000ダルトンであり、固有粘性率、溶解度、形態(例えば結晶、粉末)はさまざまである。
【0090】
本明細書では、“重量平均分子量”またはMwは、分子量の絶対的な測定法の1つであり、ポリマー組成物の分子量を測定するのに特に役立つ。重量平均分子量(Mw)は、以下の式で定義される。
Mw = Σi NiMi2/Σi NiMi
ただしNは、サンプルに含まれる質量Mのポリマーのモル数であり、Σiは、調製物に含まれるすべてのNiMi(化学種)の和である。Mwは、一般的な方法(光散乱法や超遠心分離法)で測定することができる。ポリマー調製物の分子量を特徴づけるMwとそれ以外の項に関する議論は、例えばAllcock, H.R.とLampe, F.W.、『現代のポリマー化学』、271ページ、1990年に見いだすことができる。
【0091】
芳香族ポリ(メタ)アクリレートを含むコーティング組成物は、実施態様によっては予想しない利点をもたらすことができる。そのような利点は、例えば、他のコーティング(例えばポリアルキル(メタ)アクリレートポリマーを含むもの)とは異なる特性(例えば溶解特性が異なる)を持つが、それ以外の特性は望ましい組み合わせのままであるコーティングを提供する能力と関係している。特定の理論に囚われないとすると、本発明のポリアルキル(メタ)アクリレートではなく芳香族ポリ(メタ)アクリレートによって(特に極性がより大きな溶媒中の)溶解度が増大することにより、一般にはポリアルキル(メタ)アクリレートとともに使用することが好ましいポリマーよりも大きな極性を持つ(例えば酢酸ビニルの濃度がはるかに大きい)ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)を使用することが可能になるように思われる。
【0092】
適切な芳香族ポリ(メタ)アクリレートの例として、ポリアリール(メタ)アクリレート、ポリアラルキル(メタ)アクリレート、ポリアリールオキシアルキル(メタ)アクリレートのうちで、特に6〜16個の炭素原子を有するアリール基を含んでいて、重量平均分子量が約50kD〜約900kDの範囲であるものが挙げられる。好ましい芳香族ポリ(メタ)アクリレートとして、少なくとも1つの炭素鎖と少なくとも1つの芳香族環がアクリル基(一般にエステル)と結合している化合物がある。例えばポリアラルキル(メタ)アクリレートまたはポリアリールアルキル(メタ)アクリレートは、芳香族部分を含むアルコールに由来する芳香族エステルから作ることができる。
【0093】
ポリアリール(メタ)アクリレートの例として、ポリ-9-アントラセニルメタクリレート、ポリクロロフェニルアクリレート、ポリメタクリルオキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、ポリメタクリルオキシベンゾトリアゾール、ポリナフチルアクリレート、ポリナフチルメタクリレート、ポリ-4-ニトロフェニルアクリレート、ポリペンタクロロアクリレート、ポリペンタブロモアクリレート、ポリペンタフルオロアクリレート、ポリペンタクロロメタクリレート、ポリペンタブロモメタクリレート、ポリペンタフルオロメタクリレート、ポリフェニルアクリレート、ポリフェニルメタクリレートなどがある。
【0094】
ポリアラルキル(メタ)アクリレートの例として、ポリベンジルアクリレート、ポリベンジルメタクリレート、ポリ-2-フェネチルアクリレート、ポリ-2-フェネチルメタクリレート、ポリ-1-ピレニルメチルメタクリレートなどがある。
【0095】
ポリアリールオキシアルキル(メタ)アクリレートの例として、ポリフェノキシエチルアクリレート、ポリフェノキシエチルメタクリレートなどと、ポリエチレングリコールの分子量がさまざまなポリエチレングリコールフェニルエーテルアクリレートおよびポリエチレングリコールフェニルエーテルメタクリレートがある。
【0096】
ポリマー・コーティング組成物は、特に第1のポリマーとの混合物として使用したときに1つ以上の望ましい特性を提供する第2のポリマーを含むことができる。その特性とは、例えば、第1のポリマーおよび生物活性剤との適合性、疎水性、耐久性、生物活性剤放出特性、生体適合性、分子量、市場での入手可能性などである。
【0097】
適切な第2のポリマーは市販されており、酢酸ビニルの濃度が、pEVAコポリマーを基準にして約10重量%〜約90重量%の範囲、またはpEVAコポリマーを基準にして約20重量%〜約60重量%の範囲、またはpEVAコポリマーを基準にして約30重量%〜約34重量%の範囲であるポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)などが挙げられる。酢酸ビニルの割合がより小さなポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)コポリマーは、典型的な溶媒(例えばTHFやトルエンなど)により溶けにくくなる可能性がある。第2のポリマーは、ビーズ、ペレット、顆粒などの形態で販売されているものを入手できる。
【0098】
一実施態様では、ポリマー組成物は、重量平均分子量が約100kD〜約500kDの範囲の第1のポリマーと、酢酸ビニルの濃度が約10重量%〜約90重量%の範囲(約20重量%〜約60重量%の範囲であることがより好ましい)のpEVAコポリマーとを含んでいる。特に好ましい一実施態様では、ポリマー組成物は、重量平均分子量が約200kD〜約500kDの範囲の第1のポリマーと、酢酸ビニルの濃度が約30重量%〜約34重量%の範囲のpEVAコポリマーとを含んでいる。
【0099】
一実施態様では、本発明のコーティング組成物は、ポリアルキル(メタ)アクリレート(例えばポリ(n-ブチル)メタクリレート)または芳香族ポリ(メタ)アクリレート(例えばポリ(メタ)アクリル酸ベンジル)と、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)コポリマーとを含んでいる。この特別な組成物は、(本明細書で定義した)絶対ポリマー濃度が全コーティング組成物の約0.05重量%〜約70重量%の範囲にして使用することができる。
【0100】
一実施態様では、ポリマー・コーティング組成物は、ポリ(n-ブチル)メタクリレート(“pBMA”)と、第2のポリマーとしてのポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)(“pEVA”)とを含んでいる。この組成物は、絶対ポリマー濃度がコーティング組成物の約0.05重量%〜約70重量%の範囲で有効であることがわかった。本明細書では、“絶対ポリマー濃度”は、コーティング組成物に含まれるポリマーの濃度の合計を意味する。一実施態様では、コーティング組成物は、重量平均分子量が約100キロダルトン(kD)〜約1000キロダルトン(kD)の範囲のポリアルキル(メタ)アクリレート(例えばポリ(n-ブチル)メタクリレート)と、酢酸ビニルの濃度が約10重量%〜約90重量%の範囲のpEVAコポリマーとを含んでいる。一実施態様では、コーティング組成物は、重量平均分子量が約200kD〜約500kDの範囲のポリアルキル(メタ)アクリレート(例えばポリ(n-ブチル)メタクリレート)と、酢酸ビニルの濃度が約30重量%〜約34重量%の範囲のpEVAコポリマーとを含んでいる。本発明のポリマー・コーティング組成物に含まれる生物活性剤の濃度は、最終コーティング組成物の重量を基準にして約0.01重量%〜約90重量%の範囲にすることができる。
【0101】
本発明の第2のポリマーとしては、(i)ポリアルキレン-コ-アルキル(メタ)アクリレート、(ii)他のアルキレンとのエチレンコポリマー、(iii)ポリブテン、(iv)ジオレフィン由来の非芳香族のポリマーとコポリマー、(v)芳香族基を含むコポリマー、(vi)エピクロロヒドリンを含むポリマーからなるグループの中から選択した1種類以上のポリマーも可能である。
【0102】
ポリアルキレン-コ-アルキル(メタ)アクリレートとして、アルキル基が直鎖または分岐鎖であり、干渉しない基または原子で置換された、または置換されていないコポリマーが挙げられる。このようなアルキル基は、1〜8個の炭素原子を含んでいることが好ましく、1〜4個の炭素原子を含んでいることがより好ましい。一実施態様では、アルキル基はメチルである。いくつかの実施態様では、このようなアルキル基を含むコポリマーは、約15重量%〜約80重量%のアクリル酸アルキルを含むことができる。アルキル基がメチルである場合には、ポリマーは、いくつかの実施態様では約20重量%〜約40重量%のアクリル酸メチルを含んでおり、特別な一実施態様では約25重量%〜約30重量%のアクリル酸メチルを含んでいる。アルキル基がエチルである場合には、ポリマーは、一実施態様では約15重量%〜約40重量%のアクリル酸エチルを含んでおり、アルキル基がブチルである場合には、ポリマーは、一実施態様では約20重量%〜約40重量%のアクリル酸ブチルを含んでいる。
【0103】
あるいは本発明で用いる第2のポリマーは、他のアルキレンとのエチレンコポリマーを含むことができる。そしてそのエチレンコポリマーは、直鎖または分岐鎖のアルキレンと、置換された、または置換されていないアルキレンを含むことができる。例として、分岐鎖または直鎖になった3〜8個の炭素原子を含むアルキレンから調製されたコポリマーがある。一実施態様では、分岐鎖または直鎖になった3〜4個の炭素原子を含むアルキレンからコポリマーが調製される。特別な一実施態様では、3個の炭素原子を含むアルキレン(例えばプロペン)からコポリマーが調製される。例えば他のアルキレンは直鎖のアルキレンである(1-アルキレン)。このタイプのコポリマーは、(モル数で)約20%〜約90%のエチレンを含むことができる。一実施態様では、このタイプのコポリマーは、(モル数で)約35%〜約80%のエチレンを含んでいる。このようなコポリマーは分子量が約30キロダルトン〜約500キロダルトンになろう。コポリマーの例は、ポリ(エチレン-コ-プロピレン)、ポリ(エチレン-コ-1-ブテン)、ポリ(エチレン-コ-1-ブテン-コ-1-ヘキセン)、ポリ(エチレン-コ-1-オクテン)からなるグループの中から選択される。
【0104】
本発明で用いるのに適した“ポリブテン”として、イソブチレン、1-ブテン、2-ブテンをホモ重合させるかランダムに相互に重合させることによって得られるポリマーがある。ポリブテンとしては、任意の異性体のホモポリマーや、任意のモノマーが任意の割合になったコポリマーまたはターポリマーが可能である。一実施態様では、ポリブテンは、少なくとも約90重量%のイソブテンまたは1-ブテンを含んでいる。特別な一実施態様では、ポリブテンは少なくとも約90重量%のイソブテンを含んでいる。ポリブテンは、干渉しない量の他の成分または添加物を含んでいてもよく、例えば1000ppmまでの抗酸化剤(例えば2,6-ジ-t-ブチル-メチルフェノール)を含むことができる。ポリブテンは、例えば分子量を約150キロダルトン〜約1,000キロダルトンにすることができる。一実施態様では、ポリブテンは、約200キロダルトン〜約600キロダルトンにすることができる。特別な一実施態様では、ポリブテンは、約350キロダルトン〜約500キロダルトンにすることができる。分子量が約600キロダルトンを超えるポリブテン(その中には1,000キロダルトンを超えるものが含まれる)を利用できるが、より使いにくくなることが予想される。
【0105】
追加して挙げられる第2のポリマーとして、ジオレフィン由来の非芳香族のポリマーとコポリマーがある。その中には、そのポリマーまたはコポリマーの調製に用いるジオレフィンモノマーをブタジエン(CH2=CH-CH=CH2)および/またはイソプレン(CH2=CH-C(CH3)=CH2)の中から選択したものが含まれる。一実施態様では、ポリマーは、ジオレフィンモノマーに由来するホモポリマー、またはジオレフィンモノマーと非芳香族モノ-オレフィンモノマーのコポリマーである。そのホモポリマーまたはコポリマーは、場合によっては一部が水素化されていてもよい。このようなポリマーの選択は、シスモノマー単位、および/またはトランスモノマー単位、および/または1,2モノマー単位の重合によって調製したポリブタジエンと、これら3つすべてのモノマーの混合物から調製したポリブタジエンと、シス-1,4-モノマー単位および/またはトランス-1,4-モノマー単位の重合によって調製したポリイソプレンとからなるグループの中から行なうことができる。あるいはポリマーは、非芳香族モノ-オレフィンモノマー(例えばアクリロニトリル)と、アルキル(メタ)アクリレートおよび/またはイソブチレンとをベースとしたコポリマー(グラフトコポリマーとランダムコポリマーも含む)である。一実施態様では、モノ-オレフィンモノマーがアクリロニトリルである場合には、相互に重合させたアクリロニトリルは、約50重量%まで存在している。モノ-オレフィンモノマーがイソブチレンである場合には、ジオレフィンは(例えば市場で“ブチルゴム”として知られているものを形成するための)イソプレンである。例となるポリマーとコポリマーは、Mwが約150キロダルトン〜約1,000キロダルトンである。一実施態様では、ポリマーとコポリマーはMwが約200キロダルトン〜約600キロダルトンである。
【0106】
追加して挙げられる第2のポリマーとして、芳香族基を含むコポリマーがある。その中には、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマーが含まれる。一実施態様では、芳香族基はスチレンの重合を通じてコポリマーに組み込まれる。特別な一実施態様では、ランダムコポリマーは、スチレンモノマーと、ブタジエン、イソプレン、アクリロニトリル、C1〜C4アルキル(メタ)アクリレート(例えばメタクリル酸メチル)、ブテンの中から選択した1種類以上のモノマーとの共重合で得られるコポリマーである。有用なブロックコポリマーとして、(a)ポリスチレンのブロック、(b)ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリブテン(例えばイソブチレン)の中から選択したポリオレフィンのブロック、(c)場合によっては第3のモノマー(例えばエチレン)を共重合させたポリオレフィンのブロックがある。芳香族基を含むコポリマーは、約10重量%〜約50重量%の重合した芳香族モノマーを含んでおり、このコポリマーの分子量は、約300キロダルトン〜約500キロダルトンである。一実施態様では、コポリマーの分子量は、約100キロダルトン〜約300キロダルトンである。
【0107】
追加して挙げられる第2のポリマーとして、エピクロロヒドリン・ホモポリマーやポリ(エピクロロヒドリン-コ-アルキレンオキシド)コポリマーなどがある。一実施態様では、コポリマーの場合には、共重合したアルキレンオキシドはエチレンオキシドである。例えばエピクロロヒドリン含有ポリマーのエピクロロヒドリンの含有量は、約30〜100%(重量)である。一実施態様では、エピクロロヒドリンの含有量は50〜100%(重量)である。一実施態様では、エピクロロヒドリン含有ポリマーは、Mwが約100キロダルトン〜約300キロダルトンである。
【0108】
本発明のポリマーには、ポリ(エチレングリコール)(PEG)とポリ(テレフタル酸ブチレン)をベースとしたポリ(エーテルエステル)マルチブロック・コポリマーも含まれていてよく、以下の一般構造で表わすことができる。
[-(OCH2CH2)n-O-C(O)-C6H4-C(O)-]x[-O-(CH2)4-O-C(O)-C6H4-C(O)-]y
ただし-C6H4-は、エステル化された各テレフタル酸分子からの2価の芳香族環残基であり、nは各親水性PEGブロックに含まれるエチレンオキシド単位の数であり、xはこのコポリマーに含まれる親水性ブロックの数であり、yはこのコポリマーに含まれる疎水性ブロックの数である。nは、PEGブロックの分子量が約300〜約4000となるように選択することが好ましい。xとyは、このマルチブロックコポリマーがPEGを約55重量%〜約80重量%含むように選択することが好ましい。
【0109】
ブロックコポリマーを操作してコポリマー構造のn、x、yを変化させることにより、さまざまな物理的特性(例えば親水性、接着力、強度、可鍛性、分解性、耐久性、可撓性)と(例えばポリマーの分解と膨張を制御することを通じた)活性剤放出特性を提供することができる。コポリマーの分解によって毒性分解生成物または酸性環境が生じることはなく、その親水性により、不安定な活性剤(タンパク質(例えばリゾチーム)など)の安定性が保持される。より早く分解することが要求される状況で使用するには、ブロックコポリマーと活性剤の混合物を含むマイクロスフィアを容易に設計することができる。
【0110】
一実施態様では、本発明のポリマーに、エステル結合を通じて架橋したデキストラン・マイクロスフィアをベースとしたマイクロスフィアが含まれる。マイクロスフィアは、無溶媒プロセスを利用して製造されるため、組み込まれているタンパク質分子が変性する可能性がない。15%(重量)という高い装填レベルと、大きな封止効率(一般に90%超)を実現できる。50μm未満のサイズのマイクロスフィアを実現できるため、皮下注射が可能である。マイクロスフィア粒子は、表面浸食ではなくバルク浸食を通じて分解する。分解時に酸性化は起こらないため、タンパク質分子の構造が完全なまま維持される。
【0111】
本発明のポリマーには生物分解性ポリマーも含まれる。適切な生物分解性ポリマー材料の選択は、(a)非ペプチドポリアミノポリマー;(b)ポリイミノカーボネート;(c)アミノ酸由来のポリカーボネートとポリアリーレート;(d)ポリ(アルキレンオキシド)ポリマーの中からなされる。生物分解性ポリマー材料は崩壊して毒性のない分解産物を形成することができる。そのためその分解生成物が生体に好ましくない重大な反応を引き起こすことはない。
【0112】
一実施態様では、生物分解性ポリマー材料は、非ペプチドポリアミノポリマーからなる。適切な非ペプチドポリアミノポリマーは、例えばアメリカ合衆国特許第4,638,045号(「非ペプチドポリアミノ酸生物浸食性ポリマー」、1987年1月20日)に記載されている。一般に、これらポリマー材料は、以下に示す2つの構造式:
【化1】

のうちの一方を有する2つまたは3つのアミノ酸ユニットを含むモノマーに由来する。ここで、モノマー単位は、側鎖基R1、R2、R3のうちの1つ以上の位置で加水分解によって不安定になる結合を通じて結合されており(R1、R2、R3は、天然のアミノ酸の側鎖である);Zは、望ましい任意のアミン保護基、または水素であり;Yは、望ましい任意のカルボキシル保護基、またはヒドロキシルである。各モノマー単位は、天然アミノ酸を含んでおり、その後そのアミノ酸が、アミド結合または“ペプチド”結合以外の結合を通じてモノマー単位として重合される。モノマー単位は、ペプチド結合を通じて結合した2個または3個のアミノ酸で構成できるため、ジペプチドまたはトリペプチドを含んでいる。モノマー単位の詳細な組成とは無関係に、重合はすべて、ポリペプチド鎖に典型的なアミド結合を形成するアミノ基やカルボキシル基を通じてではなく、加水分解によって不安定になる結合により、そのそれぞれの側鎖を通じて起こる。このようなポリマー組成物は毒性がなくて生物分解性であるため、さまざまな治療の用途で活性剤を送達するためのゼロ次の放出動態を提供することができる。こうした特徴によると、アミノ酸は、天然のL-αアミノ酸の中から選択される。そのようなアミノ酸として、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、セリン、トレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、リシン、ヒドロキシリシン、アルギニン、ヒドロキシプロリン、メチオニン、システイン、シスチン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、シトルリン、オルニチン、ランチオニン、ヒポグリシンA、β-アラニン、γ-アミノブチル酸、αアミノアジピン酸、カナバニン、ベンコール酸、チオールヒスチジン、エルゴチオニン、ジヒドロキシフェニルアラニンや、タンパク質化学でよく知られていて特徴がよくわかっている他のアミノ酸が挙げられる。
【0113】
一実施態様では、生物分解性ポリマー材料は、ポリイミノカーボネートで構成することができる。ポリイミノカーボネートは構造的にポリカーボネートと関係していて、ポリカーボネートでは通常はカルボニルの酸素によって占められている場所にイミノ基(>C=NH)が存在している。したがって生物分解性成分は、結合:
【化2】

を有するポリイミノカーボネートで形成することができる。例えば有用な1つのポリイミノカーボネートは、一般的なポリマー構造式:
【化3】

を有する。ここで、Rは、非縮合有機環を含む2価の有機基であり、nは1よりも大きい。この一般式に含まれるR基の好ましい実施態様の例として以下のものがあるが、これですべてではない。
【化4】

【0114】
また、一般式:
【化5】

の化合物も利用することができる。ここで、Xは、O、NH、NR'"(R'"は低級アルキル基である)のいずれかであり;R"は、炭化水素の2価の残基(例えば、ポリオレフィン、オリゴグリコールまたはポリグリコール(ポリアルキレングリコールエーテルなど)、ポリエステル、ポリウレア、ポリアミン、ポリウレタン、ポリアミドなどのポリマー)である。これら実施態様で用いられる出発材料の例として、一般式:
【化6】

を持つジフェノール化合物や、一般式:
【化7】

を持つジシアネート化合物がある。ここでR1とR2は同じでも異なっていてもよく、アルキレン、アリーレン、アルキルアリーレンのいずれか、またはヘテロ原子含有官能基である。Z1とZ2は、それぞれ、水素、ハロゲン、低級アルキル、カルボキシル、アミノ、ニトロ、チオエーテル、スルホキシド、スルホニルからなるグループの中から選択した1つ以上の同じ基または異なる基である。Z1とZ2は、それぞれが水素であることが好ましい。
【0115】
一実施態様では、生物分解性ポリマー材料は、アミノ酸由来のさまざまなタイプのポリカーボネートとポリアリーレートで構成することができる。アミノ酸由来のこれらポリカーボネートとポリアリーレートは、出発物質であるアミノ酸由来のある種のジフェノールをそれぞれホスゲンまたはジカルボン酸と反応させることによって調製できる。この実施態様におけるアミノ酸由来のポリカーボネートおよび/またはポリアリーレートを調製するための出発物質であるアミノ酸由来のジフェノールの例は、重合して熱処理が可能なくらいにガラス転移温度(“Tg”)が十分に低いポリイミノカーボネートを形成することのできるモノマーである。この実施態様のモノマーは、以下に示す一般式:
【化8】

を有するアミノ酸エステル誘導体であるジフェノール化合物である。ここでR1は、18個までの炭素原子を含むアルキル基である。
【0116】
さらに別の一実施態様では、生物分解性ポリマー材料は、親水性ポリ(アルキレンオキシド)(PAO)と生物分解性配列の両方を含むコポリマーで構成することができる。ただし各PAO単位の炭化水素部分は、1〜4個の炭素原子、または2個の炭素原子を含んでいる(すなわちPAOはポリ(エチレンオキシド)である)。有用な生物分解性ポリマー材料は、例えば、PAOと、アミノ酸またはペプチド配列とを含むブロックコポリマーで構成することができ、独立に-L-R1-L-R2-で表わされる1つ以上の繰り返し構造単位を含んでいる。ただしR1はポリ(アルキレンオキシド)であり、Lは、-O-または-NH-であり、R2は、2個のカルボン酸基と少なくとも1個のぶら下がったアミノ基を含むアミノ酸配列またはペプチド配列である。有用な他の生物分解性ポリマー材料は、ポリアリーレートまたはポリカーボネートのランダム・ブロックコポリマーからなり、チロシン由来のジフェノール・モノマーとポリ(アルキレンオキシド)を含んでいる。そのポリカーボネートは、以下に示すようなものである。
【化9】

ここでR1は-CH=CH-または(-CH2-)j(jは0〜8)であり;R2の選択は、18個までの炭素原子を含んでいて、場合によっては少なくとも1つのエーテル結合を有する直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基、アルキルアリール基と、このコポリマーに共有結合した生物学的、薬理学的に活性な化合物の誘導体の中からなされ;R3は、独立に、1〜4個の炭素原子を含むアルキレン基の中から選択され;yは5〜約3000であり;fは、このコポリマーに含まれるアルキレンオキシドのモル分率であり、約0.01〜約0.99の範囲である。
【0117】
いくつかの実施態様では、ポリマー骨格の分解と吸収の速度をさらに制御するため、ぶら下がっているカルボン酸基を、ポリカーボネート、および/またはポリアリーレート、および/またはこれらのもののポリ(アルキレンオキシド)ブロックコポリマーのためのポリマーの塊の中に組み込むことができる。
【0118】
コーティング材料には、天然のポリマーも含まれていてよい。天然のポリマーとしては、多糖類(例えばポリデキストラン)、グリコサミノグリカン(例えばヒアルロン酸)、ポリペプチドや可溶性タンパク質(例えばアルブミンやアビジン)などと、これらの組み合わせが挙げられる。天然ポリマーと合成ポリマーの組み合わせも利用できる。説明した合成ポリマー、天然ポリマー、合成コポリマー、天然コポリマーも反応基(例えば熱によって反応する基や光によって反応する基)を用いて誘導体化することができる。
【0119】
好ましい実施態様では、コーティング組成物は、生物活性剤を含んでいる。本明細書では、単数形の“生物活性剤”を用いるが、複数の生物活性剤を利用することを考えないわけではなく、本明細書の教示内容を利用するときに任意の数の生物活性剤を使用できる。本明細書では、“生物活性剤”は、生物組織の生理に影響を与える薬剤を意味する。本発明で役立つ生物活性剤として、埋め込み部位に作用させる望ましい治療特性を持つあらゆる物質が挙げられる。
【0120】
生物活性剤の例として、トロンビン阻害剤;抗血栓生成剤;血栓溶解剤;フィブリン溶解剤;血管痙攣阻害剤;カルシウム・チャネル・ブロッカー;血管拡張剤;抗高血圧剤;抗微生物剤(例えば、抗生剤(テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、バシトラシン、ネオマイシン、ポリミクシン、グラミシジン、セファレキシン、オキシテトラサイクリン、クロラムフェニコール、リファムピシン、シプロフロキサシン、トブラマイシン、ゲンタマイシン、エリスロマイシン、ペニシリン、スルホンアミド、スルファジアジン、スルファセタミド、スルファメチゾール、スルフィソキサゾール、ニトロフラゾン、プロピオン酸ナトリウムなど)、抗真菌剤(アンフォテリシンB、ミコナゾールなど)、抗ウイルス剤(イドクスリジン、トリフルオロチミジン、アシクロビル、ガンシクロビル、インターフェロンなど));表面糖タンパク質受容体の阻害剤;抗血小板剤;抗有糸分裂剤;微小管阻害剤;抗分泌剤;活性な阻害剤;リモデリング阻害剤;アンチセンス・ヌクレオチド;抗代謝剤;抗増殖剤(抗血管新生剤を含む);抗がん化学療法剤;抗炎症剤(ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、21-リン酸デキサメタゾン、フルオシノロン、メドリゾン、メチルプレドニゾロン、21-リン酸プレドニゾロン、酢酸プレドニゾロン、フルオロメタロン、ベータメタゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド);非ステロイド系抗炎症剤(サリチル酸塩、インドメタシン、イブプロフェン、ジクロフェナク、フルルビプロフェン、ピロキシカムなど);抗アレルギー剤(クロモグリコール酸ナトリウム、アンタゾリン、メタピリリン、クロルフェニラミン、セトリジン、ピリラミン、プロフェンピリダミンなど);抗増殖剤(13-シスレチノイン酸など);充血除去剤(フェニルエフリン、ナファゾリン、テトラヒドラゾリンなど);縮瞳剤と抗コリンエステラーゼ(ピロカルピン、サリチル酸塩、カルバコール、塩化アセチルコリン、フィゾスチグミン、エセリン、フルオロリン酸ジイソプロピル、ホスホリンヨウ素、臭化デメカリウムなど);散瞳剤(アトロピンサーフェス、シクロペントール酸塩、ホマトリピン、スコポラミン、トロピカミド、ユーカトロピン、ヒドロキシアンフェタミンなど);交感神経様作用剤(エピネフリンなど);抗新生物剤(カルムスチン、シスプラチン、フルオロウラシルなど);免疫薬(ワクチン、免疫刺激剤など);ホルモン剤(エストロゲン、エストラジオール、プロゲスタチオナール、プロゲステロン、インスリン、カルシトニン、副甲状腺ホルモン、ペプチド、バソプレッシン視床下部放出因子など);βアドレナリン作用性ブロッカー(マレイン酸チモロール、レボブノロールHCl、ベタキソロールHClなど);免疫抑制剤(ラパマイシン、シクロスポリン、タクロリムス、ピメクロリムスなど);成長ホルモン・アンタゴニスト、成長因子(上皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、トランスフォーミング増殖因子β、ソマトトロピン、フィブロネクチンなど);カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤(ジクロロフェナミド、アセタゾラミド、メタゾラミドなど);血管新生の阻害剤(アンジオスタチン、酢酸アネコルタブ、トロンボスポジン、抗VEGF抗体など);ドーパミン・アゴニスト;放射線療法剤;ペプチド;タンパク質;酵素;細胞外マトリックス成分;ACE阻害剤;フリー・ラジカル・スカベンジャー;キレート剤;抗酸化剤;抗ポリメラーゼ;光力学療法剤;遺伝子治療剤;他の治療剤(プロスタグランジン、抗プロスタグランジン、プロスタグランジン前駆体など)などがあるが、これですべてではない。
【0121】
特定の生物活性剤、または複数の生物活性剤組み合わせは、以下に示す1つ以上の因子を考慮して選択することができる。その因子としては、制御送達装置の利用、治療する症状、予想される治療期間、埋め込み部位の特徴、利用する生物活性剤の数と種類などがある。
【0122】
コーティング組成物に含まれる生物活性剤の濃度は、最終コーティング組成物の重量を基準にして約0.01重量%〜約90重量%の範囲にすることが可能である。生物活性剤は、コーティング組成物中に約75重量%以下の範囲の量が存在していることが好ましく、約50重量%以下がより好ましい。コーティング組成物に含まれる生物活性剤の量は、約1μg〜約10mg、または約100μg〜約1500μg、または約300μg〜約1000μgの範囲が可能である。
【0123】
溶媒の重量%がより小さいコーティング組成物を付着させることには利点がある。例えば使用する溶媒がより少ないと、得られる被コーティング組成物にマイナスの影響を与える可能性のある蒸発物がより少なくなる。使用する溶媒がより少ないと、大気中に蒸発する溶媒がより少なくなり、廃棄物がより少なくなり、コーティング装置の操作者が溶媒にさらされることもより少なくなる。本発明の一実施態様では、コーティング組成物は、合計で少なくとも約10mg/mlの固形物を含んでいる。一実施態様では、コーティング組成物は、少なくとも約40mg/mlの固形物を含んでいる。
【0124】
いくつかの実施態様では、コーティング組成物は、合計で約100mg/ml未満の固形物を含んでいる。一実施態様では、コーティング組成物は、合計で約80mg/ml未満の固形物を含んでいる。コーティング組成物は、合計で約10mg/ml〜約100mg/mlの固形物を含むことができる。コーティング組成物は、合計で約40mg/ml〜約80mg/mlの固形物を含んでいてもよい。一実施態様では、コーティング組成物は、合計で約50mg/ml〜約60mg/mlの固形物を含んでいる。一実施態様では、コーティング組成物は、合計で約60mg/mlの固形物を含んでいる。
【0125】
いくつかの実施態様では、被コーティング組成物は少なくとも2つの層を含んでいて、各層は、同じ被コーティング組成物、または異なる被コーティング組成物を含んでいる。そのような一実施態様では、単独の生物活性剤、または1種類以上のポリマー(第1のポリマーおよび/または第2のポリマー)と組み合わせた生物活性剤を含んで成る第1の層を付着させ、その後1つ以上の追加の層を付着させる。追加の各層には生物活性剤が含まれている場合と含まれていない場合がある。異なるこれらの層が今度は合わさって複合コーティングとなり、ある望ましい特性を持つ全体放出プロファイルを提供する。これは、分子量の大きな生物活性剤を用いるときに特に好ましい。本発明によれば、コーティングの個々の層の組成には、望みに応じ、1種類以上の生物活性剤と1種類以上のポリマーのうちの任意の1つ以上が含まれていてよい。
【0126】
いくつかの実施態様では、被コーティング組成物は、その後溶媒を蒸発させることによって乾燥させることができる。乾燥プロセスは、適切な任意の温度(例えば室温または高温)で実施することができ、場合によっては真空の助けを借りる。
【0127】
いくつかの実施態様では、コーティング組成物は、相対湿度を制御した条件下で本体部に付着させる。本明細書では、“相対湿度”は、大気が所定の温度であるときの飽和蒸気圧(または水蒸気の最大量)に対する水蒸気圧(または水蒸気の量)の比である。大気中の飽和蒸気圧は大気の温度によって異なる。すなわち温度が高くなるほど、空気中に保持できる水蒸気は多くなる。飽和したとき、大気中の相対湿度は100%である。本発明のいくつかの実施態様では、コーティング組成物は、周囲湿度よりも大きな相対湿度または小さな相対湿度の条件下で本体部に付着させることができる。
【0128】
本発明によれば、湿度は、例えばコーティング組成物を調製するとき、および/または本体部に付着させるとき、適切な任意の方法で制御することができる。例えばコーティング組成物の調製時に湿度を制御する場合には、コーティング組成物の含水量を調節した後、および/または調節する前に、コーティング組成物を本体部に付着させる。コーティング組成物の付着時に湿度を制御する場合には、周囲湿度とは異なる相対湿度が提供されるようにした閉鎖したチェンバーまたは領域の中でコーティング組成物を本体部に付着させることができる。一般に、より大きな湿度のもとでコーティング組成物を付着させると生物活性剤の放出は一般に加速されるのに対し、より低いレベルの湿度下でコーティング組成物を付着させると生物活性剤の放出は減速される傾向があることが見いだされた。本発明で考慮してあるように、周囲湿度でさえ、生物活性剤の制御放出と相関していて、その周囲温度に対応した制御放出をさせることができるのであれば、“制御された”湿度と考えることができる。
【0129】
さらに、特に複数のコーティング組成物を制御送達装置の本体部の表面にコーティングして最終被コーティング組成物にするとき、被コーティング組成物の望ましい放出プロファイルが得られるようにするため、湿度をさまざまな方法(例えば、コーティング組成物の含水量を調節するのではなく制御された環境を利用する方法)で制御すること、および/または湿度をレベルごとに制御することができる。すでに説明したように、被コーティング組成物は、コーティング組成物の個々の段階または層を複数利用して提供することができる。例えば、生物活性剤だけ(または生物活性剤と一方または両方のポリマー)からなる最初の層があり、その上に、生物活性剤、および/または第1のポリマー、および/または第2のポリマーの適切な組み合わせを含む1つ以上の追加の層をコーティングし、この組み合わせの結果によって本発明の被コーティング組成物が得られるようにする。
【0130】
したがって本発明の好ましい実施態様では、制御送達装置からの生物活性剤の放出を再現性よく制御する能力が提供される。
【0131】
いくつかの実施態様では、複数のコーティング組成物と、それに対応していて(望む場合には)湿度がそれぞれ独自に制御されたコーティング・段階を利用し、それぞれの層が対応する放出プロファイルを有する層の望ましい組み合わせを得る。当業者であれば、これらの層をさまざまに組み合わせた効果を利用して最適化することで生体内でさまざまな効果を実現する方法を思いつくことができる。
【0132】
さらに別の一実施態様では、被コーティング組成物からの生物活性剤の望ましい放出速度は、コーティング組成物を複数の異なる湿度レベルにした複数の表面に付着させ、対応するそれぞれの放出プロファイルを評価して望ましいプロファイルに対応する制御された湿度レベルを決定することによって選択できる。このような一実施態様では、例えば、コーティング組成物を、(約15℃〜約30℃の範囲の所定の温度で)相対湿度を約0%〜約95%の範囲、より好ましくは約0%〜約50%の範囲のレベルに制御して装置に付着させる。特定の理論に囚われないとすると、例えば同じ場所での1回ごとのコーティングでの周囲湿度の潜在的な違い、および/または異なるコーティング場所の間での周囲湿度の潜在的な違いは非常に大きい可能性があるため、生物活性剤の放出などの特性に影響を与えうることがわかった。湿度を制御することで、本発明により、従来よりもはるかに制御可能で再現可能な放出特性を示す被コーティング組成物を提供することができる。
【0133】
本発明のコーティング組成物は、適切な任意の形態(例えば真の溶液の形態、流体またはペースト状エマルジョン、混合物、分散液、ブレンド)で供給することができる。一方、被コーティング組成物は、一般に、溶媒その他の揮発性成分の除去によって、および/または制御送達装置の表面にその場で堆積された被コーティング組成物に影響を与える他の物理化学的作用(例えば加熱や光照射)によって得られる。
【0134】
被コーティング組成物に含まれる生物活性剤の重量は、制御送達装置の表面積1cm2につき生物活性剤が約1μg〜約10mgの範囲が可能である。いくつかの実施態様では、表面積に、装置の本体部材2の全体または一部を含むことができる。別の実施態様では、表面積に、装置の本体部材2とキャップ8を含めることができる。被コーティング組成物に含まれる生物活性剤の重量は、制御送達装置の表面積1cm2につき生物活性剤が約0.01mg〜約10mgの範囲であることが好ましい。生物活性剤をこの量にすると、一般に、生理学的条件下で十分な治療効果が提供される。本明細書では、表面積は、装置の巨視的な表面積である。
【0135】
好ましい実施態様では、制御送達装置の表面にある被コーティング組成物の最終コーティング厚は、一般に約0.1μm〜約100μmの範囲、または約5μm〜約60μmの範囲になろう。被コーティング組成物に含まれる生物活性剤の合計量、生物活性剤のタイプ、含まれる生物活性剤の数、治療行程、埋め込み部位などの因子に応じて最終コーティング厚を変えることができ、ここに示した好ましい範囲外になることも時にある。
【0136】
制御送達装置の表面にある被コーティング組成物の厚さは、適切な任意の方法で調べることができる。例えば液体窒素を用いて制御送達装置を凍結させることにより、被コーティング組成物の一部を剥がすことができる。次に、剥がした部分の縁部の厚さを光学顕微鏡で測定するとよい。従来技術で知られている他の視覚化法(例えば本発明に関してここに記載した厚さを持つコーティングを視覚化するのに適した顕微鏡法)も利用できる。
【0137】
好ましい実施態様では、一般的な殺菌法を利用して制御送達装置を殺菌した後、体内に埋め込む。殺菌は、望みに応じて例えばエチレンオキシドまたはガンマ線殺菌を利用して実現することができる。好ましい実施態様では、利用する殺菌法が(例えば生物活性剤の放出やコーティングの安定性などに影響を与えることによって)ポリマー被コーティング組成物に影響を与えることはない。
【0138】
本発明によれば、制御送達装置は、1種類以上の生物活性剤を制御放出して送達する能力を有することが好ましい。本明細書では、“制御放出”は、ある化合物(例えば生物活性剤)を患者の体内に望む投与量(投薬割合と合計投与量)と治療期間で放出することを意味する。例えばコーティング組成物の個々の組成(コーティング組成物の個々の成分の量と比率)を変化させ、生物活性剤の望ましい放出プロファイル(コーティング組成物から単位時間あたりに放出される生物活性剤の量)を実現することができる。特定の1つの理論に囚われないとすると、生体内での生物活性剤の放出動態は、一般に、装置を埋め込んだ後の数分〜数時間以下のオーダーである短期(“バースト”)放出成分と、より長期の放出成分の両方を含んでいると考えられる。長期の放出は、有効な放出が、数時間〜数日、それどころか数ヶ月にさえなる可能性がある。本明細書では、生物活性剤の放出の加速または減速に、こうした放出動態成分の一方または両方が含まれる。
【0139】
生物活性剤の望まい放出プロファイルは、選択した具体的な生物活性剤、埋め込み部位に供給する個々の生物活性剤の数、実現する治療効果、体内への埋め込みの期間といった因子や、当業者に知られている他の因子によって異なる可能性がある。
【0140】
埋め込み部位において生物活性剤を制御放出できると多くの利点がもたらされる可能性がある。例えば、制御送達装置を望む任意の時間にわたって埋め込み部位に保持できるようにするとともに、望む速度で生物活性剤の合計量が送達されるように生物活性剤の放出動態を調節することで、望む治療効果が得られる。いくつかの実施態様では、埋め込み部位において生物活性剤を制御放出できることで、1つの装置だけを埋め込んでそれを望む治療効果が達成されるまで保持することが可能になる。そのため生物活性剤を新たに供給するのにその装置を取り出して交換する必要がない。本発明のいくつかの実施態様では、埋め込み部位にある生物活性剤の容器への再充填が不要であることが好ましい。いくつかの実施態様では、制御送達装置により、生物活性剤を全身投与する必要性を回避できる。全身投与すると、身体の他の組織が傷つく可能性がある。
【0141】
制御送達装置を利用し、望ましいあらゆる生物活性剤(例えば本明細書に記載した生物活性剤)、または複数の生物活性剤の組み合わせを目に送達することができる。時間をかけて送達される生物活性剤の量は、治療レベルの範囲内であること、そして毒性レベル未満であることが好ましい。例えば目の疾患または異常の治療に用いるトリアムシノロンアセトニドに関する好ましい目標投与量は、1日につき約0.5μg〜約2μgである。治療行程は6ヶ月を超えることが好ましく、1年を超えることがより好ましい。したがって好ましい実施態様では、制御送達装置が患者に埋め込まれると、治療に有効な量の生物活性剤が、6ヶ月以上の期間、または9ヶ月以上の期間、または12ヶ月以上の期間、または36ヶ月以上の期間にわたって被コーティング組成物から放出される。
【0142】
本発明の好ましい実施態様により、生物活性剤を長期にわたって一定の速度で放出できる制御送達装置が提供される。さらに、制御送達装置は、コーティング組成物の組成を変化させることによって(例えば異なる量の第1のポリマーと第2のポリマーを供給することによって、および/またはコーティング組成物に含まれる生物活性剤の量を変えることによって)生物活性剤の放出速度を制御できる能力を持つことが好ましい。実施例に示してあるように、好ましい被コーティング組成物は、ある範囲の放出速度でさまざまな期間にわたって再現可能なやり方で生物活性剤を放出させることができる。実施例では、ポリ(n-ブチル)メタクリレートの量に対するポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)の量を変化させて生物活性剤の量は一定にしたコーティング組成物を調製し、ステンレス鋼製の基部にコーティングした。生物活性剤が被コーティング組成物から放出される速度は、本明細書に説明してある溶離アッセイを利用してPBSの中で測定した。結果から、試験管内では、生物活性剤を被コーティング組成物から驚くほど長期にわたって放出させうることがわかった。さらに、コーティング組成物は、実質的に直線的な放出速度で供給されるようにすることができる。試験管内で観察された放出速度に基づくと、生体内の放出速度は、PBSにおけるよりも大きいであろう。Jaffe他、上記文献を参照のこと。被コーティング組成物間で放出速度の違いが観察された。これは、被コーティング組成物のポリマー組成の違いに関係している。したがって好ましい実施例では、コーティング組成物のポリマー組成を操作して生物活性剤の放出速度を制御することができる。
【0143】
制御送達装置の利用法は、生物活性剤を目に制御放出する方法に関して図5と図6を参照して行なう以下の議論からよりよく理解できる。しかし以下に説明する原理は、患者の体内のあらゆる埋め込み部位に適用できることを理解されたい。
【0144】
本発明によれば、本明細書に記載した教示内容を利用して制御送達装置を製造するとともに、外科手術の準備を行なう。身体に切り込みを入れることによって埋め込み部位にアクセスする。例えば生物活性剤を目に送達するのに使用するときには、制御送達装置を挿入するのに強膜切開を行なう。従来法を利用して強膜切開を行なうことができる。この方法には、結膜32を切開し、強膜28を通じて毛様体輪と強膜に切り込みを設ける操作が含まれる。図5と図6に示してあるように、結膜32の切開には、一般に、目のまわりで結膜32を引き戻して強膜28の広い領域を露出させ、結膜32をその引き戻した状態で留める操作、または固定する操作が含まれる(結膜の正常位置を点線で示してある)。言い換えるならば、強膜28のうちで毛様体輪と強膜に切り込みが入れられた領域だけが露出される。次に、この手続きで使用する外科用器具をその切り込みを通過させる。したがって切り込みは、この手続きに必要な外科用器具を収容するのに十分な大きさにせねばならない。
【0145】
あるいは強膜切開は、アメリカ合衆国出願シリアル番号第09/523,767号に記載されているようなアラインメント用の装置と方法を利用して実現することもできる。この出願により、無縫合手術法とそのための装置が可能になる。特に、このような方法と装置では、いろいろな装置を挿入するための開口部を封止するのに縫合を利用する必要がない。アラインメント用装置は、1つ以上の入口開口部を形成する結膜と強膜を通じて挿入される。アラインメント用装置は金属またはポリイミドからなるカニューレであることが好ましく、そのカニューレを通じてこの手術で使用する外科用器具を目に挿入する。
【0146】
さらに別の実施態様では、装置を、結膜と強膜を貫通する自己開始“ニードル棒”を通じて直接埋め込むことができる。例えば装置の本体部2は、図3に示してあるような尖った先端部10を備えることができる。本発明によれば、尖った先端部10を利用して身体に孔を開けて切り込み部位を作り出し、埋め込み部位にアクセスすることができる。この場合、結膜の手術も外部アラインメント装置も不要である。
【0147】
さらに別の実施態様では、結膜組織を切開して領域の一部を露出させ、ニードル棒をその露出した領域で強膜の中に入れることができる。次に、尖った先端部を有する自己開始コイルをニードル棒の位置において毛様体輪を通じて挿入し、装置のキャップが強膜にぶつかるまで、コイルを強膜の中を回転させる。好ましいいくつかの実施態様では、ニードル棒は埋め込み可能な装置の本体部の直径よりも小さい(例えば直径が0.5mm以下の本体部を有する埋め込み可能な装置では、30ゲージのニードル棒を使用できる)。次に結合組織をキャップの上に引っ張って装置の上に弁または“シール”を設けることで、埋め込み部位の痛みや異物感覚などを最少にする。場合によっては、単一の縫合(好ましい実施態様では生物分解性縫合)によって結合組織をさらに固定することもできる。
【0148】
いくつかの実施態様では、本体部の近位部のサイズよりもわずかに大きな切り込み部位を作ることが好ましい可能性がある。例えば装置にキャップ8が含まれていて目に埋め込まれる場合、キャップ8の最大直径よりも大きな切り込みを設け、キャップが強膜の外面の下に位置するようにすることが好ましかろう。例えば強膜の一部に切り込みを入れ、強膜弁を作り出すことができる。装置が埋め込まれてキャップ8が切り込み部位とぶつかる位置に来ると、強膜弁を装置の上方で折り曲げ、キャップの上を覆うことができる。あるいは本体部の近位端にキャップ8が含まれていない場合には、上記の説明に従って弁状のカバーを用いて装置の近位端を覆うこともできる。好ましいことにこれらの実施態様によって装置の近位端(例えばキャップ8)が身体の他の組織と接触することが最少になるため、身体組織の痛みおよび/または装置に対する目の並進運動といったリスクが小さくなり、目の組織が傷つく可能性が少なくなる。このことには1つ以上の利点がある。それは例えば、装置の近位端が目の表面に載っておらず、したがって他の身体組織と接触していないために目が制御送達装置のほうに並進運動する傾向が減ること;周囲の組織の痛みが減ることなどである。
【0149】
次に、本体部2を目に埋め込む。例えば本体部2が螺旋形である実施態様では、キャップ8が目の外面にぶつかるまで、本体部2を回転させるか捻って目の中に挿入する。本体部2が形状記憶材料でできている実施態様では、まず最初に形状記憶材料をマルテンサイト相が安定である温度まで冷却し、装置を例えば直線形状に変形させる。次にこの装置を目に挿入する。この装置を記憶形状に戻すには、この装置を非拘束状態に放置し、(例えば装置を加熱して)マルテンサイト相の温度よりも高温に到達させるだけでよい。例えば形状記憶材料をレーザーで加熱して装置をマルテンサイト相の温度よりも高温に戻すことができる。形状記憶材料は、その材料を体温よりも低温に冷却し、直線形状に変形し、目に挿入するだけでよいよう、マルテンサイト相の温度が体温よりも低くなるように選択することもできる。次に、この材料が目の中で体温まで温まると、装置は記憶している形状に戻ることができる。本明細書で議論してあるように、レーザーを利用する場合には、条件を制御して波長や温度といったパラメータを維持し、ポリマー被コーティング材料に対する好ましくない効果を最少にすることが好ましい。
【0150】
図5に、目に埋め込まれる本発明の一実施態様による制御送達装置を示してある。目に埋め込むとき、制御送達装置の長さLを制限し、制御送達装置が中心視野Aに入らないようにすることが望ましい(図6参照)。このインプラントが中心視野Aに入ると、患者の視覚に盲点が生じるとともに、網膜組織と水晶体カプセルが傷つくリスクが大きくなる可能性がある。したがって例えば(図5に示してあるように)制御送達装置を毛様体輪に挿入するとき、毛様体輪上の埋め込み部位から中心視野Aまでの距離は約1cm未満であることが好ましい。
【0151】
場合によっては、装置を目に埋め込んだ後にキャップ8を縫合するか他の方法で強膜に固定し、制御送達装置を所定の位置に保持する。好ましい実施態様では、1種類以上の生物活性剤を目の内部に送達するのに装置をそれ以上操作する必要はない。望むのであれば結膜を調節して装置のキャップ8が覆われるようにすると、外科手術が完了する。
【0152】
別の実施態様において、1種類以上の追加の物質を目の内部に送達する装置に管腔が含まれている場合には、以下のような追加の段階を含むことができる。カバーを利用してポートを閉じるのであれば、それをここでは取り除き、注入機構(例えば注射器)のまわりにぴったりと合うカラーを設ける。次に、1種類以上の物質を制御送達装置に注入するためのポートに注入機構を接続する。ポートが自己気密化材料でできていて、そのポートを通じて注入機構の針が挿入され、注入機構を取り除いたときに自動的に気密になる場合には、注入機構をポートを通じて挿入するだけで物質を注入する。望むのであれば、注入後に結膜を調節して装置のキャップ8を覆うことができる。
【0153】
目のさまざまな症状を治療するため、本発明の制御送達装置を利用して1種類以上の生物活性剤を目に送達することができる。症状としては、例えば、網膜剥離;閉塞;増殖性網膜症;増殖性硝子体網膜症;糖尿病性網膜症;ブドウ膜炎、脈絡膜炎、網膜炎などの炎症;変性疾患(加齢性黄斑変性(AMDとも呼ばれる)など);血管疾患;さまざまな腫瘍(新生物が含まれる)などが挙げられる。さらに別の実施態様では、手術後に、例えば目の手術によって生じる可能性のある合併症を減らしたり回避したりする治療として制御送達装置を利用することができる。このような一実施態様では、白内障の手術後に患者に制御送達装置を取り付け、手術後の炎症を管理する(例えば減らしたり回避したりする)のを助ける。
【0154】
いくつかの用途では、添加剤が生物活性剤および/または追加物質とともにさらに含まれていて、埋め込み部位に送達されるようにできる。適切な添加剤の例として、水、生理食塩水、デキストロース、基剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、賦形剤などが挙げられる。
【0155】
生物活性剤を埋め込み部位に送達することによって疾患の治療に有効な必要量の生物活性剤が埋め込み部位に送達された場合には、制御送達装置を取り除くことができる。
【0156】
コーティングの構成
【0157】
図7に、本発明の別の一実施態様による埋め込み可能な装置50の全体図を示してある。埋め込み可能な装置50は、キャップ58に接続された本体部52を有する。この埋め込み可能な装置50はさらに、テーパー部54と先端部60を備えている。テーパー部54と先端部60を合わせて穿孔部と呼ぶことができる。テーパー部54は、先端部60に近づくにつれて直径が小さくなっている。テーパー部54は1つ以上の面56を持つことができる。テーパー部54はさまざまな形状を取ることができる。テーパー部54は、例えばピラミッド、円錐形、円錐台形などの形にすることができる。テーパー部54が楔形である別の形態70を図8に示してある。
【0158】
ここで図9を参照すると、本発明の別の一実施態様による埋め込み可能な装置80の全体図を示してある。埋め込み可能な装置80は、キャップ58に接続された本体部52を有する。この埋め込み可能な装置80はさらに、テーパー部54と先端部60を備えている。この埋め込み可能な装置は、粗い区画82と滑らかな区画84を備えている。粗い区画82は、サンドブラストや、当業者に知られている他の方法で粗くすることができる。
【0159】
表面の粗さは、光学式干渉計を鉛直方向走査干渉測定(VSI)モードで用いることによって測定できる。この干渉計を用いて集めた表面のデータに基づき、表面の粗さに関するさまざまな測定値を計算することができる。計算できるのは、例えば、1)平均粗さ(Ra) - 平均面から平面までの距離の絶対値の算術平均、2)最大高(山と谷の距離)(Rt) - 全データセットの中の最高点と最低点の鉛直方向の距離(1個の最高画素と1個の最低画素)、3)平均最大高(山と谷の平均距離)(Rz) - データセットに含まれる10個の最高点と10個の最低点の距離の平均(10個の最高画素と10個の最低画素。画素は横方向に互いに少なくとも4.6μm離れている)である。理論に囚われないとすると、Rzが本発明の装置に関する最も重要な測定値を著わしていると考えられる。なぜならRzは、ランダムなノイズである単一のデータ画素(点)によって生じる誤差や、表面の目立つ凹凸(引っ掻き傷や窪みなど)の影響を最も受けにくいからである。
【0160】
一実施態様では、粗い区画のRzは約4.0μmよりも大きい。一実施態様では、粗い区画のRzは約6.0μmよりも大きい。一実施態様では、粗い区画のRzは約8.0μmよりも大きい。一実施態様では、粗い区画のRzは約4.0μm〜約12.0μmである。一実施態様では、粗い区画のRzは約6.0μm〜約12.0μmである。一実施態様では、粗い区画のRzは約8.0μm〜約10.0μmである。
【0161】
一実施態様では、滑らかな区画のRzは約4.0μm未満である。一実施態様では、滑らかな区画のRzは約2.0μm未満である。一実施態様では、滑らかな区画のRzは約1.0μm未満である。一実施態様では、滑らかな区画のRzは約0.0μm〜約4.0μmである。一実施態様では、滑らかな区画のRzは約0.0μm〜約2.0μmである。一実施態様では、滑らかな区画のRzは約0.0μm〜約1.0μmである。
【0162】
滑らかな区画84は、装置の一部をシールドすることによって形成できるが、他の区画は、サンドブラストなどで粗くなるように処理する。あるいは滑らかな区画は、粗い区画を粗くした後に材料を除去してテーパー部54を形成することによっても形成できる。
【0163】
粗い区画は、本体部52またはテーパー部54に沿ったさまざまな点から開始することができる。ここで図10を参照すると、粗い区画82と滑らかな区画84を有する埋め込み可能な医療装置90を示してある。粗い区画82のうちで先端部60に最も近い端部は、テーパー部54まで延びていない。したがって粗い区画82のその端部とテーパー部54の間にはギャップ部92が存在している。いくつかの実施態様では、ギャップ部92は長さが少なくとも約0.5mmである。
【0164】
ここで図11を参照すると、被コーティング組成物102で覆われた埋め込み可能な医療装置100を示してある。この埋め込み可能な医療装置100は、キャップ58に接続された本体部52を備えている。この埋め込み可能な医療装置は、先端部60も備えている。図11では、被コーティング組成物102が、キャップ58を除く埋め込み可能な医療装置の全体を覆っている。被コーティング組成物102は、このようにして尖った先端部60を効果的に丸くしている。以下の実施例5で説明することだが、被コーティング組成物を被せて先端部を丸くすると、埋め込み可能な医療装置を患者の体内に挿入するのに必要な力が大きくなる可能性がある。力が大きくなると、患者がより不快になる可能性および/または装置が破損する可能性が大きくなる。
【0165】
ここで図12を参照すると、本体部52だけでなくテーパー部54の一部も被コーティング組成物102で覆われた埋め込み可能な医療装置110を示してある。被コーティング組成物102は、特に、テーパー部54の表面に位置する前方縁部112を有する。一実施態様では、本体部52を粗くし、テーパー部54を滑らかにすることができる。以下の実施例5で説明することだが、被コーティング組成物102の前方縁部112がテーパー部54の表面にある場合には、埋め込み可能な医療装置を患者の体内に挿入するときの摩擦力が大きいために被コーティング組成物が剥がれたり、コーティングが破損したりする可能性がある。
【0166】
本発明の別の一実施態様では、図13に示してあるように、被コーティング組成物102を埋め込み可能な医療装置130の表面に配置するとき、被コーティング組成物102が、埋め込み可能な医療装置130の粗い区画134の表面に位置する前方縁部132を有するようにする。以下の実施例5で説明することだが、この構成にするとコーティングが破損する事故が少なくなる。いくつかの実施態様では、前方縁部132はテーパー部54の始点(被コーティング組成物に最も近い側)から約0.5mmの位置である。いくつかの実施態様では、前方縁部はテーパー部54の始点から約0.4mmの位置である。前方縁部は、テーパー部54の始点から約0.3mm、または0.2mm、または0.1mmの位置にすることもできる。いくつかの実施態様では、前方縁部はテーパー部54の始点から0.5mmと0.1mmの間の位置である。
【0167】
ここで図14を参照すると、本発明の別の実施態様によるコーティングされた埋め込み可能な装置136の全体図を示してある。被コーティング組成物102が埋め込み可能な医療装置136の表面に配置されていて、被コーティング組成物102は、埋め込み可能な医療装置136の粗い区画134の表面に位置する前方縁部132を有する。埋め込み可能な医療装置136は、キャップ58に接続された本体部52と、テーパー部54とを備えている。被コーティング組成物102は、後方縁部135と、キャップ58と後方縁部135の間のギャップ137とを有する。いくつかの実施態様では、後方縁部135はキャップ58の始点から約0.5mmの位置である。いくつかの実施態様では、後方縁部は、キャップから約0.4mm、0.3mm、0.2mm、0.1mmのいずれかの位置である。いくつかの実施態様では、後方縁部は、キャップから0.5mmと0.1mmの間の位置である。
【0168】
図15は、図13の線A-A'に沿って切断した図13の埋め込み可能な医療装置の断面図である。この埋め込み可能な医療装置は、基部142を備えている。被コーティング組成物102が基部142を覆っている。この図には示されていないが、医療装置の表面でテーパー部54以外の部分は粗い。被コーティング組成物102は、この粗い区画上に位置する前方縁部132を有する。
【0169】
ここで図16を参照すると、埋め込み可能な医療装置のうちで図15の点線部144の中にある部分の拡大図を示してある。被コーティング組成物102は、前方縁部132で終わる移行区画146を有する。一実施態様では、移行区画の最も厚い点148を前方縁部132と接続する線150は、基部142の表面に対して1.2未満の勾配を有する。一実施態様では、移行区画の最も厚い点148を前方縁部132と接続する線150は、基部142の表面に対して1.0未満の勾配を有する。一実施態様では、移行区画の最も厚い点148を前方縁部132と接続する線150は、基部142の表面に対して0.8未満の勾配を有する。本明細書では、勾配は、鉛直方向(被コーティング組成物の深さ方向)の変化を水平方向(基部の表面の方向)の変化で割った値として測定される。一実施態様では、勾配は、被コーティング組成物の剥離および/またはコーティングの破損を阻止するのに十分な大きさである。
【0170】
図17は、本発明の別の実施態様によるコーティングされた埋め込み可能な装置200の全体図である。コーティングされた埋め込み可能な装置200は、穿孔区画202と本体区画204を備えている。被コーティング組成物206が本体区画204の上に配置されている。穿孔区画202は先端が尖った状態を示してあるが、先端は尖っていなくてもよい。例えば本体区画204の直径が比較的小さい場合には、穿孔区画の先端が尖っていなくても、コーティングされた埋め込み可能な装置200を挿入するのに必要な力が許容できないほど大きくはならない可能性がある。
【0171】
図18は、図17のコーティングされた埋め込み可能な装置の断面図である。被コーティング組成物206は、前方縁部210で終わる前方移行区画208と、後方縁部211で終わる後方移行区画209を備えている。一実施態様では、移行区画の最も厚い点212と前方縁部210をつなぐ線は、基部204の表面に対する勾配が1.2未満である。一実施態様では、移行区画の最も厚い点213と後方縁部211をつなぐ線は、基部204の表面に対する勾配が1.2未満である。一実施態様では、前方移行区画の勾配は1.0未満である。一実施態様では、後方移行区画の勾配は1.0未満である。一実施態様では、前方移行区画の勾配は0.8未満である。一実施態様では、後方移行区画の勾配は0.8未満である。
【0172】
コーティング法
【0173】
本発明の被コーティング組成物は、コーティング・システムを用いて堆積させることができる。そのときコーティング材料は、超音波で噴霧化する(超音波コーティング・システム)。超音波コーティング・システムの一例が、アメリカ合衆国特許出願公開2004/0062875(Chappa他)に開示されている(その内容は参考として本明細書に組み込まれているものとする)。
【0174】
超音波コーティング・システムにより、コーティング・ヘッドから離れるにつれて狭くなるスプレー流を発生させることができる。図19を参照すると、スプレー流220がコーティング・ヘッド224から離れるにつれて狭くなった後、焦点222(すなわちスプレー流の直径が最小になる点)を通過してから広がり始めることがわかる。一実施態様では、焦点の断面の直径は約0.5mm〜約1.0mmである。それとは逆に、他のいくつかのタイプのスプレー・システムは、コーティング・ヘッドから離れるにつれて直径が連続的に大きくなるスプレー流を生成させることがしばしばある。例えば図20を参照すると、スプレー流226はコーティング・ヘッド228から離れるにつれて広くなっていく。
【0175】
超音波コーティング・システムを用いると、特にコーティングされる装置がコーティング・ヘッドから焦点距離だけ離れた位置またはその近くに位置しているときに装置を非常に正確にコーティングすることができる。なぜならスプレー流はこの距離では比較的断面積が小さく、焦点外にあるスプレーの液滴は量が比較的少ないからである。一実施態様では、コーティングされる装置に対するスプレー流の位置を移動させ、装置のより広い面積を被コーティング組成物でカバーする。いくつかの実施態様では、コーティングされる装置を移動させる。いくつかの実施態様では、コーティング・ヘッドを移動させる。
【0176】
コーティング溶液は、供給管から超音波コーティング・ヘッドにさまざまな速度で汲み上げることができる。一実施態様では、コーティング溶液を約0.025ml/分〜約0.2ml/分で超音波コーティング・ヘッドに汲み上げる。一実施態様では、コーティング溶液を約0.05ml/分〜約0.1ml/分で超音波コーティング・ヘッドに汲み上げる。一実施態様では、1分間に合計で約1.5mg〜約12mgの固形物を超音波コーティング・ヘッドに汲み上げる。一実施態様では、1分間に合計で約3mg〜約6mgの固形物を超音波コーティング・ヘッドに汲み上げる。
【0177】
一実施態様では、コーティングされる装置を、主軸または縦軸のまわりにその装置を回転させることのできるピン万力またはそれと同様の装置に取り付ける。一実施態様では、装置を回転させ、縦軸に垂直に回転しているその装置の上方で超音波スプレー・ヘッドを前後に移動させる。一実施態様では、コーティングされる装置の上方で超音波スプレー・ヘッドをグリッド状パターンまたは格子状パターンで前後に移動させる。例えばグリッド状パターンの一例を図21に示してある。超音波スプレー・ヘッドは、スプレー・パターンの中心がその超音波スプレー・ヘッドの直下に来るように構成することができる。あるいは超音波スプレー・ヘッドは、スプレー・パターンがある角度をなしているためにスプレー・パターンの中心が直下に来ないように構成することもできる。したがって図21に示したパターン160(と図22〜図24に示したパターン)は、超音波スプレー・ヘッドによって生み出されるスプレー・パターンの中心が描く軌跡を示している。
【0178】
グリッド状パターンは点166から始まり、点168で終わっている。しかしパターンを点168から初めて点166で終わるようにしてもよいことがわかるであろう。あるいはパターンを点168と点166の間の任意の点から始めることもできる。グリッド状パターンは、一連の横方向の掃引162と縦方向の移動164を含んでいる。縦方向の移動164の長さに応じて任意の回数の横方向の掃引を行なうことで、装置の所定の長さをカバーすることができる。一実施態様では、グリッド状パターンに3〜100回の横方向の掃引が含まれる。一実施態様では、グリッド状パターンに3〜100回の縦方向の移動164が含まれる。
【0179】
縦方向の移動164の距離は、さまざまな因子(スプレー・パターンがコーティングする装置の表面と交わるときのスプレー・パターンの断面の直径など)によって異なる可能性がある。縦方向の移動が望む量よりも大きい場合や、グリッド状パターンが各軌跡上の同じ出発位置から始まる場合には、被コーティング組成物の表面がでこぼこになる。被コーティング組成物は、例えば縦方向の移動が約0.2mmよりも大きいときにでこぼこになる。図26に、でこぼこした表面を有する被コーティング組成物192の概略断面190を示してある。表面は、山194と谷196の規則的なパターンを有する。被コーティング組成物で得られる表面がでこぼこになるまでに縦方向の移動をどれだけ大きくできるかの限界は、多数の因子(例えばスプレー・パターンの直径、スプレー・パターンのさまざまな部分の相対的スプレー密度)に依存するであろう。一実施態様では、縦方向の移動は約0.4mm以下である。一実施態様では、縦方向の移動は約0.3mm以下である。一実施態様では、縦方向の移動は約0.2mm以下である。
【0180】
図22〜図24に、装置の上にグリッド状パターンを重ねたいろいろな例を示してある。図22では、1回目の横方向の掃引は、装置のテーパー部172の端部と先端部176よりも先の位置を通過する。埋め込み可能な装置に対してこの方向のグリッド状パターンを利用して装置をコーティングすると、一般に、被コーティング組成物が装置の先端部176とテーパー部172を覆う。被コーティング組成物のこの堆積パターンの一例を図11に示してある。先端部176のうちで被コーティング組成物で覆われている部分は丸くなっている。
【0181】
図23では、1回目の横方向の掃引によって超音波コーティング・ヘッドが装置のテーパー部172の上方を通過する。この方向のグリッド状パターンを利用して装置をコーティングすると、一般に、被コーティング組成物が装置のテーパー部172の少なくとも一部を覆うが、先端部176は覆わない。この堆積パターンの一例を図12に示してある。
【0182】
図24では、1回目の横方向の掃引によって超音波コーティング・ヘッドが装置の本体部分178の上方を通過する。装置に対するこの方向のグリッド状パターンを利用して装置をコーティングすると、一般に、被コーティング組成物が装置の本体部分178を覆うが、装置の先端部176またはテーパー部172は覆わない。言い換えるならば、この実施態様では、被コーティング組成物が装置の本体を覆っているが、尖った部分は覆っていない。この堆積パターンの一例を図13に示してある。
【0183】
一実施態様では、超音波スプレー・ヘッドを多数回往復させてグリッド状パターンにすることで、埋め込み可能な装置の表面に被コーティング組成物を堆積させる。グリッド状パターン1回ごとに、ある量の被コーティング組成物が堆積される。したがって超音波スプレー・ヘッドを通過させる正確な回数は、被コーティング組成物の望ましい合計量がどれだけであるかによって変えることができる。一実施態様では、被コーティング組成物の量は、乾燥重量にして約500μg〜約5000μgである。一実施態様では、被コーティング組成物の量は、乾燥重量にして約1000μg〜約3000μgである。
【0184】
いくつかの実施態様では、1回通過させるごとに、コーティングする装置に対する縦方向の出発位置を同じにする。例えば1回通過させるごとに超音波スプレー・ヘッドを装置の縦軸の同じ点から出発させ、同じパターンを描かせることになろう。あるいは超音波スプレー・ヘッド装置の縦方向の出発位置は、1回通過させるごとに変えることもできる。一実施態様では、1回通過させるごとに超音波スプレー・ヘッドを装置の近位端に幾分かより近い位置に進ませるとよい。例えば図25を参照すると、1回目の通過時の1回目の横方向の掃引は、点182から開始させることができる。次に、2回目の通過時の1回目の横方向の掃引は、先端部176から離れたオフセット位置である点184から開始させることができる。同様に、3回目の通過時と4回目の通過時の1回目の横方向の掃引は、先端部176からさらに離れたそれぞれ点186と点188から開始させる。出発位置を矢印180の方向に移動させるこの方法を利用すると、被コーティング組成物が十分な厚さになる距離を広げることができ、そのことによって被コーティング組成物の移行区画の勾配が小さくなる。
【0185】
1回の通過と次の通過の間に時間差をつけて、または時間差なしで順次通過させることができる。例えば使用するコーティング組成物とその中に含まれる溶媒が何であるかに応じ、1回の通過と次の通過の間に追加の時間を挿入し、次に通過させる前に溶媒を蒸発させること、または他の化学的プロセスが起こるようにすることができる。
【0186】
コーティング組成物を本発明の実施態様に従って付着させる方法を利用し、被コーティング組成物の移行区画の勾配を操作または制御することができる。勾配ができるだけ小さいことが望ましい場合には、1回通過させるごとに縦方向の出発位置をずらすとよい。これは、1回の通過と次の通過のオフセットを変化させることとして記述することもできる。例えば1回の通過と次の通過の間のオフセットを0.5mmにすることができる。その結果、一般に、1回の通過と次の通過の間のオフセットを0.5mm未満(例えば0.2mm)にして付着させた被コーティング組成物と比較し、勾配がより小さくてより長い移行区画になる。一実施態様では、1回の通過と次の通過の間のオフセットは約0.1mm〜2.0mmである。
【0187】
本発明の実施態様により、移行区画の勾配を特定の用途に合わせることができる。例えばより大きな応力(例えば摩擦力)を受けるであろう装置の表面に堆積される被コーティング組成物では、移行区画の勾配を小さくして被コーティング組成物のダメージ(例えば剥離や損傷)を小さくすることができる。患者の組織の中に挿入したときに大きな応力を受ける装置の一例は骨ネジである。本発明の実施態様を利用し、勾配が1.0未満の移行区画を有する被コーティング組成物を装置の表面に配置することができる。勾配が1.0というのは、装置の表面に対して角度が45°であることと等しい。一実施態様では、移行区画の勾配は、約0.8未満、約0.6未満、約0.4未満、約0.2未満のいずれかにすることができる。
【0188】
逆に、装置の表面に載る被コーティング組成物の量を最大にしたい場合や、剥離につながる可能性のある応力が大きな問題ではない場合には、本発明の実施態様により、移行区画の勾配を大きくすることができる。例えば動脈内装置は、体内にどのように挿入するかに応じて摩擦力がより小さくなる場合がある。一実施態様では、移行区画の勾配が1.0よりも大きい。特に、このような装置の移行区画の勾配は、約1.2、約1.4、約1.6、約1.8のいずれかよりも大きくすることができる。
【0189】
本発明のいくつかの実施態様(例えば図14と図17に示した実施態様)では、被コーティング組成物は、前方移行区画と後方移行区画の両方を有する。前方移行区画と後方移行区画の勾配は、同じでも異なっていてもよい。例えばいくつかの実施態様では、前方移行区画の勾配は、後方移行区画の勾配よりも小さい。その一例は、前方移行区画が後方移行区画よりも大きな摩擦力を受けるであろうと考えられる装置である。
【0190】
本発明の実施態様を利用し、装置の表面に非常に正確にコーティング組成物を配置することができる。一実施態様では、被コーティング組成物の縁部を約0.5mmの精度で位置決めすることができる。例えば装置にコーティングしてはならない部分が存在している場合には、本発明の実施態様により、被コーティング組成物をその部分から0.5mm以内の位置に向かわせる一方で、覆われない部分の上に重なる量を最少にすることができる。本発明の実施態様により、被コーティング組成物の縁部を装置の覆われない部分から約0.4、0.3、0.2、0.1mm未満の位置に来させることができる。
【0191】
ここで図27を参照すると、本発明の一実施態様による装置300を示してある。この装置300は、本体区画302と、第1のテーパー区画304と、第2のテーパー区画306を有する。第1のテーパー区画304および/または第2のテーパー区画306は穿孔区画になることができる。この装置は、2つの構成要素308とコーティングされた領域310を有する。このような装置はさまざまなサイズのものを製造することができる。例えば2つの構成要素308間の距離を約1.5mmにすることができる。本発明の実施態様により、コーティングされた領域310の長さ316を約0.5mmにすることができる。すなわち被コーティング組成物はコーティングせずに残す部分(構成要素308)から0.5mm以内の地点に向かわせることができるため、長さが約0.5mmのコーティングされた領域310を設けるスペースがまだ存在している。
【0192】
構成要素308としては、コーティングしないまま残すべき任意のタイプの装置または特徴が可能である。構成要素308は、例えば温度、脈拍、血液の組成、感染性媒体、または他のあらゆる生理学的特性を測定するセンサーにすることができる。構成要素308は、電気的刺激を与えるための電気的接点、または患者の組織(例えば神経)とのインターフェイスとなる電気的接点にすることもできる。構成要素308は、装置の内部にある1つ以上の管腔への開口部にすることもできる。構成要素308としては、コーティングせずに残す任意のタイプの構造が可能である。
【0193】
構成要素308を有する装置300を説明しているが、当業者であれば、本発明の実施態様を同様に利用し、コーティングせずに残すべき他のタイプの特徴を有する装置に正確にコーティングすることができる。
【0194】
ここで図28を参照すると、本発明の一実施態様による装置320を示してある。この装置320は、本体区画322と、コーティングされた第1の区画324と、コーティングされた第2の区画326を有する。この装置は、ある長さ338を持つ構成要素328と、第1のテーパー部340と、第2のテーパー部342を有する。構成要素328は、装置320の表面に配置される。本明細書では、構成要素が医療装置の表面に配置されるという説明をするとき、その構成要素の一部または全体が、管腔を有する医療装置や管腔への開口部を有する医療装置の本体内に配置されている場合も含まれる。この表現には、構成要素が医療装置の表面とだけ接触している場合(例えば接触板が医療装置の表面に接着している場合)も含まれる。装置320はさまざまなサイズのものを製造することができる。例えばコーティングされた第1の区画324とコーティングされた第2の区画326の間の距離を約1.5mmにすることができる。本発明の実施態様により、コーティングされた第1の区画324とコーティングされた第2の区画326の長さをそれぞれ約0.5mmにする一方で、テーパー区画および構成要素328からの距離が少なくとも約0.5mm残った状態にすることができる。
【0195】
ここで図29を参照すると、本発明の別の一実施態様による装置350を示してある。この装置350は、本体区画352と、コーティングされた第1の区画354と、コーティングされた第2の区画356と、コーティングされた第3の区画358を有する。この装置は、第1のテーパー部340と、第2のテーパー部342を有する。本発明の一実施態様では、コーティングされた個々の区画は、異なる生物活性剤を放出する。一実施態様では、コーティングされた個々の区画は同じ生物活性剤を放出するが、放出速度が異なっている。一実施態様では、コーティングされた個々の区画は、同じ生物活性剤を同じ速度で放出する。例えばコーティングされた第1の区画354とコーティングされた第3の区画358は第1の薬剤(例えばタクロリムス)を放出するのに対し、コーティングされた第2の区画356は第2の薬剤(例えばラパマイシン)を放出するようにできる。生物活性剤と放出速度の多くのさまざまな組み合わせが可能であることが理解されよう。
【0196】
いくつかの実施態様では、コーティングされた区画が縁部で互いに重なったり接触したりしないようにすることが望ましかろう。しかしコーティングされた区画を互いに近づけて配置し、装置に堆積させることのできる被コーティング組成物の量を最大にすることが望ましかろう。本発明の実施態様には、図29に示してあるように、互いに接近しているが重なってはいない複数のコーティングされた区画を有する装置が含まれる。本発明の実施態様には、その製造方法も含まれる。例えばコーティングされた区画間の距離を約0.5mm以下にすることができる。一実施態様では、コーティングされた区画間の距離を約0.4mm以下にすることができる。コーティングされた区画間の距離は約0.3mm以下にすることができる。コーティングされた区画間の距離は約0.2mm以下にすることができる。
【0197】
本発明の実施態様はさまざまなタイプの装置で利用できる。例えば過去には放射性ステントを利用して再狭窄を減らすことが試みられた。しかし多くの研究を通じ、放射性ステントは特徴的な“キャンディの包装紙”パターンの再狭窄を起こす可能性があり、そのとき再狭窄は、主としてステントのいずれかの端部を超えて起こり、中間では起こらないことが見いだされた。本発明の実施態様により、被コーティング組成物を装置上に位置を決めて堆積させることができるため、このタイプの再狭窄が減る。より一般には、本発明の実施態様に、一端または両端にコーティングされた区画を有する装置が含まれる。ここで図30を参照すると、本発明の別の一実施態様を示してある。基部402と、第1の端部区画404と、第2の端部区画406を有する装置400が示してある。第1の端部区画404と第2の端部区画406の両方とも、生物活性剤を含んで成る被コーティング組成物が表面に堆積している。第1の端部区画404と第2の端部区画406の被コーティング組成物は、同じ生物活性剤を含んでいてもよいし、異なる生物活性剤を含んでいてもよい。例えば一実施態様では、この装置は放射性のステントであり、第1の端部区画404と第2の端部区画406両方の被コーティング組成物は、再狭窄を減らすのに有効な生物活性剤を含んでいる。一実施態様では、基部402は、第1の端部区画404と第2の端部区画406の間が被コーティング組成物で覆われていない。一実施態様では、基部402は、第1の端部区画404および第2の端部区画406の被コーティング組成物とは異なる被コーティング組成物で覆われている。
【0198】
ステントの設計によっては、ステントを患者の体内に挿入した後、血液がステント内を一方向に流れる。この一方向流は、ステントを取り囲んでいる組織への生物活性剤の送達に影響を与える可能性がある。例えば治療に有効な量の生物活性剤をステントの上流側にある組織領域に供給することが、下流側と比べて難しくなる可能性がある。したがって異なる生物活性剤をステントの両端に供給すること、または両端に異なる量の同じ薬を供給すること、または両端に放出速度が異なる同じ薬を供給することが望ましい可能性がある。別の一実施態様では、装置は(放射性の、または非放射性の)ステントであり、第1の端部区画404と第2の端部区画406の被コーティング組成物は、異なる生物活性剤を含んでいるか、同じ生物活性剤を異なる量で含んでいるか、放出速度の異なる同じ生物活性剤を含んでいる。一実施態様では、第1の端部区画404と第2の端部区画406は、長さが約2.0mm以下である。一実施態様では、第1の端部区画404と第2の端部区画406は、長さが約1.5mm以下である。一実施態様では、第1の端部区画404と第2の端部区画406は、長さが約1.0mm以下である。一実施態様では、第1の端部区画404と第2の端部区画406は、長さが約0.5mm以下である。
【0199】
多くのステントは、患者の体内の所定の位置に配置され、バルーンを膨らませることによって拡張させる。多くのタイプのステント送達システムでは、ステントを膨らんでいないバルーンにクリンプする。ステントがバルーンに十分にクリンプされていないと、困ったことにステントが送達装置から外れる危険性がある。しかし特にステントの表面に被コーティング組成物が堆積している場合には、ステントをバルーンの表面にしっかりとクリンプする操作によって装置が傷つく可能性がある。被コーティング組成物は、例えばクリンプ・プロセスの間に傷つく可能性がある。
【0200】
本発明の一実施態様により、ステントをバルーンに接着し、ステントをクリンプする必要性を減らすかなくす方法が提供される。本発明の一実施態様により、埋め込み可能な医療装置の表面の静止摩擦を大きくする方法が提供される。いくつかの組成物(例えばポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)(pEVA))が接着剤様の性質を有する。生物活性剤を含んで成る被コーティング組成物の上にpEVA層を付着させると、一般に、その生物活性剤の放出に影響が及ぶことはない。したがってpEVA層を被コーティング組成物の上に使用して医療装置(例えばステント)と送達装置(例えばバルーン)の間の接着を促進することができる。しかしpEVA層がステントの表面を被覆し過ぎると、固着の問題が起こってこの装置を使用できなくなる可能性がある。一実施態様では、接着剤様の特性を有する組成物の1つ以上のバンド(または区画)を装置上の被コーティング組成物の上に堆積させ、ステントと膨らんでいないバルーンの間を望む接着レベルにする。
【0201】
ここで図31を参照すると、本発明の一実施態様を示してある。基部422と、第1の接着区画424と、第2の接着区画426を有する装置420が示してある。基部422の表面には被コーティング組成物428が堆積されている。第1の接着区画424と第2の接着区画426は、被コーティング組成物428の上に配置することができる。一実施態様では、第1の接着区画424と第2の接着区画426は、接着剤様の特性を有する組成物を含んでいる。一実施態様では、第1の接着区画424と第2の接着区画426は、被コーティング組成物428からの生物活性剤の送達を妨げない接着剤様の特性を有する組成物を含んでいる。一実施態様では、第1の接着区画424と第2の接着区画426は、少なくとも約90重量%のpEVAを含んでいる。一実施態様では、第1の接着区画424と第2の接着区画426は、少なくとも約95重量%のpEVAを含んでいる。
【0202】
接着区画が装置の表面を被覆し過ぎると、固着の問題が起こると考えられる。一実施態様では、第1の接着区画424と第2の接着区画426は、長さが約2.0mm以下である。一実施態様では、第1の接着区画424と第2の接着区画426は、長さが約1.5mm以下である。一実施態様では、第1の接着区画424と第2の接着区画426は、長さが約1.0mm以下である。一実施態様では、第1の接着区画424と第2の接着区画426は、長さが約0.5mm以下である。
【0203】
いくつかの実施態様では、装置の表面を前処理した後、コーティング組成物を供給する。本発明では、埋め込み可能な装置をコーティングするのに一般に利用されている適切な任意の前処理(例えばシラン、ポリウレタン、パリーレンなどを用いた処理)を利用することができる。例えばパリーレンの主要な3つの変異体のうちの1つであるパリーレンC(ユニオン・カーバイド社から市販されている)を用いて医療装置の表面にポリマー層を形成することができる。パリーレンCは置換された塩素原子を含むパラ-キシレンであり、低圧の真空環境中に重合可能な気体状モノマーとして供給することによってコーティングできる。このモノマーは室温において基部の表面で凝縮して重合し、医療装置の表面にマトリックスを形成する。コーティングの厚さは、使用するモノマーの圧力、温度、量によって制御することができる。パリーレン・コーティングは、不活性で非反応性の障壁を提供する。
【0204】
特別な実施態様:
【0205】
以下に本発明の特別な実施態様をいくつか説明するが、これら実施態様は単なる例示であり、本発明の範囲を制限することはない。
【0206】
本発明の一実施態様には、コーティングされた医療装置を形成する方法であって、粗い区画と滑らかな区画を有する医療装置の表面に、その粗い区画上に前方縁部があってポリマーと生物活性剤を含んで成る被コーティング組成物を堆積させる操作を含む方法が含まれる。被コーティング組成物は、粗い区画上に後方縁部を備えることができる。被コーティング組成物は、基部の表面に十分に接着できるため、被コーティング組成物の剥がれが少なくなる。前方縁部は、滑らかな区画から約0.5mmの位置にすることができる。被コーティング組成物は、粗い区画にだけ堆積させることができる。粗い区画は粗さRzを約4μmよりも大きくすることができる。滑らかな区画は粗さRzを約4μm未満にすることができる。被コーティング組成物は、超音波噴霧スプレー流を用いて医療装置に堆積させることができる。超音波噴霧スプレー流は、医療装置の上方をグリッド状パターンで移動することができる。グリッド状パターンは、複数回の掃引と複数回の縦方向の移動を含むことができる。縦方向の移動は約0.4mm以下にすることができる。一実施態様では、縦方向の移動は約0.3mm以下である。一実施態様では、縦方向の移動は約0.2mm以下である。一実施態様では、各縦方向の移動は、1回以上の横方向の掃引によって次の縦方向の移動と分離されている。グリッド状パターンは複数回繰り返すことができる。一実施態様では、それぞれのグリッド状パターンの移動は、医療装置の縦軸上の同じ位置から開始させる。一実施態様では、それぞれのグリッド状パターンの移動は、医療装置の縦軸上の異なる位置から開始させる。被コーティング組成物は前方移行区画を備えることができ、この前方移行区画は、前方縁部から離れるにつれて厚くなっている。一実施態様では、前方縁部を前方移行区画の最も厚い部分の外面と接続する直線の勾配は、医療装置の表面に対して測って1.0を超えない。被コーティング組成物は後方移行区画を備えることができ、この後方移行区画は、後方縁部から離れるにつれて厚くなっている。一実施態様では、後方縁部を後方移行区画の最も厚い部分の外面と接続する直線の勾配は、医療装置の表面に対して測って1.0を超えない。ポリマーは、ポリアルキル(メタ)アクリレート、または芳香族ポリ(メタ)アクリレート、またはポリアルキル(メタ)アクリレートと芳香族ポリ(メタ)アクリレートの組み合わせを含むことができる。ポリマーは、アルキル鎖の長さが炭素原子2〜8個であるポリアルキル(メタ)アクリレートからなるグループの中から選択したポリアルキル(メタ)アクリレートを含むことができる。ポリマーはポリ(n-ブチル)メタクリレートを含むことができる。ポリマーは、ポリアリール(メタ)アクリレート、ポリアラルキル(メタ)アクリレート、ポリアリールオキシアルキル(メタ)アクリレートからなるグループの中から選択した芳香族ポリ(メタ)アクリレートを含むことができる。
【0207】
芳香族ポリ(メタ)アクリレートは、6〜16個の炭素原子を有するアリール基を含むことができる。被コーティング組成物は、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)を含むことができる。ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)は、酢酸ビニルを10重量%〜90重量%の範囲の濃度で含むことができる。被コーティング組成物は、2つ以上の層を含むことができる。本発明の方法はさらに、表面前処理剤を付着させる操作をさらに含むことができる。表面前処理剤としては、シラン、ポリウレタン、パリーレン、またはこれらの組み合わせが可能である。生物活性剤は、トリアムシノロンアセトニド、13-シスレチノイン酸、5-フルオロウリジン、ならびにこれらの組み合わせを含むことができる。生物活性剤は、医療装置が患者の体内に埋め込まれたとき、治療に有効な量を6ヶ月以上の期間にわたって放出させることができる。一実施態様では、生物活性剤はトリアムシノロンアセトニドであり、トリアムシノロンアセトニドは、医療装置が目に埋め込まれたとき、0.5μg/日〜2μg/日の範囲の放出速度である。一実施態様では、被コーティング組成物は厚さが0.1μm〜100μmである。
【0208】
本発明の一実施態様には、コーティングされた埋め込み可能な医療装置を形成する方法であって、本体区画と穿孔区画を備える医療装置の表面に、その本体区画上に前方縁部を有しポリマーと生物活性剤を含んで成る被コーティング組成物を堆積させる操作を含む方法が含まれる。被コーティング組成物は、本体区画上に後方縁部を備えることができる。被コーティング組成物は基部の表面に十分に接着できるため、剥離が減る。一実施態様では、前方縁部は穿孔区画から約0.5mm以内の位置にある。一実施態様では、被コーティング組成物は本体区画上にだけ堆積される。被コーティング組成物は、超音波噴霧スプレー流を用いて医療装置の表面に堆積させることができる。
【0209】
超音波噴霧スプレー流は、医療装置の上方をグリッド状パターンで移動することができる。グリッド状パターンは、複数回の掃引と複数回の縦方向の移動を含むことができる。一実施態様では、縦方向の移動は約0.4mm未満であり、各縦方向の移動は、1回以上の横方向の掃引によって次の縦方向の移動と分離されている。グリッド状パターンは複数回繰り返すことができる。一実施態様では、被コーティング組成物は前方移行区画を備えることができ、この前方移行区画は、前方縁部から離れるにつれて厚くなっている。前方縁部を前方移行区画の最も厚い部分の外面と接続する直線の勾配は、医療装置の表面に対して測って1.0を超えない。一実施態様では、被コーティング組成物は後方移行区画を備えることができ、この後方移行区画は、後方縁部から離れるにつれて厚くなっている。後方縁部を後方移行区画の最も厚い部分の外面と接続する直線の勾配は、医療装置の表面に対して測って1.0を超えない。ポリマーは、ポリアルキル(メタ)アクリレート、または芳香族ポリ(メタ)アクリレート、またはポリアルキル(メタ)アクリレートと芳香族ポリ(メタ)アクリレートの組み合わせを含むことができる。ポリマーは、アルキル鎖の長さが炭素原子2〜8個であるポリアルキル(メタ)アクリレートからなるグループの中から選択したポリアルキル(メタ)アクリレートを含むことができる。ポリマーはポリ(n-ブチル)メタクリレートを含むことができる。一実施態様では、ポリマーは、ポリアリール(メタ)アクリレート、ポリアラルキル(メタ)アクリレート、ポリアリールオキシアルキル(メタ)アクリレートからなるグループの中から選択した芳香族ポリ(メタ)アクリレートを含むことができる。芳香族ポリ(メタ)アクリレートは、6〜16個の炭素原子を有するアリール基を含むことができる。被コーティング組成物は、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)をさらに含むことができる。一実施態様では、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)は、酢酸ビニルを10重量%〜90重量%の範囲の濃度で含んでいる。被コーティング組成物は、2つ以上の層を含むことができる。本発明の方法はさらに、表面前処理剤を付着させる操作をさらに含むことができる。表面前処理剤は、シラン、ポリウレタン、パリーレン、またはこれらの組み合わせからなるグループの中から選択することができる。生物活性剤は、トリアムシノロンアセトニド、13-シスレチノイン酸、5-フルオロウリジン、ならびにこれらの組み合わせからなるグループの中から選択することができる。一実施態様では、被コーティング組成物は厚さが0.1μm〜100μmである。
【0210】
本発明の一実施態様には、表面を有する基部と、基部の表面上に縁部を有する被コーティング組成物(生物活性剤とポリマーを含む)と、基部の中または基部の表面に配置されたコーティングされていない構成要素とを備える医療装置が含まれる。被コーティング組成物の縁部は、コーティングされていない構成要素から0.5mm以内の位置にある。一実施態様では、被コーティング組成物は基部の表面に十分に接着できるため、剥離が減る。コーティングされていない構成要素はセンサーにすることができる。コーティングされていない構成要素は管腔にすることができる。コーティングされていない構成要素は穿孔区画にすることができる。被コーティング組成物の縁部は、コーティングされていない構成要素から約0.4mm以内の位置にすることができる。ポリマーは、ポリアルキル(メタ)アクリレート、または芳香族ポリ(メタ)アクリレート、またはポリアルキル(メタ)アクリレートと芳香族ポリ(メタ)アクリレートの組み合わせを含むことができる。一実施態様では、ポリマーは、アルキル鎖の長さが炭素原子2〜8個であるポリアルキル(メタ)アクリレートからなるグループの中から選択したポリアルキル(メタ)アクリレートを含むことができる。一実施態様では、ポリマーはポリ(n-ブチル)メタクリレートを含んでいる。ポリマーは、ポリアリール(メタ)アクリレート、ポリアラルキル(メタ)アクリレート、ポリアリールオキシアルキル(メタ)アクリレートからなるグループの中から選択した芳香族ポリ(メタ)アクリレートを含むことができる。芳香族ポリ(メタ)アクリレートは、6〜16個の炭素原子を有するアリール基を含むことができる。被コーティング組成物は、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)を含むことができる。一実施態様では、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)は、酢酸ビニルを10重量%〜90重量%の範囲の濃度で含んでいる。一実施態様では、被コーティング組成物は、2つ以上の層を含むことができる。請求項の医療装置は、表面前処理コーティングを含むことができる。表面前処理コーティングは、シラン、ポリウレタン、パリーレン、またはこれらの組み合わせを含むことができる。生物活性剤は、トリアムシノロンアセトニド、13-シスレチノイン酸、5-フルオロウリジン、ならびにこれらの組み合わせからなるグループの中から選択することができる。一実施態様では、被コーティング組成物は厚さが0.1μm〜100μmである。
【0211】
本発明の一実施態様には、表面を有する基部と、基部上に縁部を有する第1の被コーティング組成物(第1の生物活性剤と第1のポリマーを含む)と、基部上に縁部を有する第2の被コーティング組成物(第2の生物活性剤と第2のポリマーを含む)とを備える医療装置が含まれる。一実施態様では、第1の被コーティング組成物と第2の被コーティング組成物は重なっていない。一実施態様では、第1の被コーティング組成物の縁部は第2の被コーティング組成物の縁部から0.5mm以内の位置にある。一実施態様では、第1の被コーティング組成物は、第2の被コーティング組成物が第2の生物活性剤を放出するよりも早く第1の生物活性剤を放出する構成にされている。一実施態様では、第1の生物活性剤は第2の生物活性剤と同じである。一実施態様では、第1のポリマーは第2のポリマーと同じである。第1の被コーティング組成物の縁部は第2の被コーティング組成物の縁部から約0.4mm以内の位置にすることができる。第1のポリマーと第2のポリマーの一方または両方は、ポリアルキル(メタ)アクリレート、または芳香族ポリ(メタ)アクリレート、またはポリアルキル(メタ)アクリレートと芳香族ポリ(メタ)アクリレートの組み合わせを含むことができる。第1のポリマーと第2のポリマーの一方または両方は、アルキル鎖の長さが炭素原子2〜8個であるポリアルキル(メタ)アクリレートからなるグループの中から選択したポリアルキル(メタ)アクリレートを含むことができる。一実施態様では、第1のポリマーと第2のポリマーの一方または両方がポリ(n-ブチル)メタクリレートを含んでいる。第1のポリマーと第2のポリマーの一方または両方は、ポリアリール(メタ)アクリレート、ポリアラルキル(メタ)アクリレート、ポリアリールオキシアルキル(メタ)アクリレートからなるグループの中から選択した芳香族ポリ(メタ)アクリレートを含むことができる。芳香族ポリ(メタ)アクリレートは、6〜16個の炭素原子を有するアリール基を含むことができる。第1のポリマーと第2のポリマーの一方または両方は、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)を含むことができる。一実施態様では、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)は、酢酸ビニルを10重量%〜90重量%の範囲の濃度で含んでいる。医療装置は、表面の前処理コーティングを含むことができる。一実施態様では、表面前処理コーティングは、シラン、ポリウレタン、パリーレン、またはこれらの組み合わせを含んでいる。第1の生物活性剤と第2の生物活性剤の一方または両方は、トリアムシノロンアセトニド、13-シスレチノイン酸、5-フルオロウリジン、ならびにこれらの組み合わせからなるグループの中から選択される。被コーティング組成物は厚さを0.1μm〜100μmにすることができる。
【0212】
本発明の一実施態様には、超音波噴霧スプレー流を用いて医療装置の表面に被コーティング組成物を堆積させる方法が含まれる。この方法は、超音波スプレー・ヘッドを用いてコーティング組成物を噴霧してスプレー流を生成させ、そのスプレー流を、複数回の横方向の掃引と複数回の縦方向の移動を含むパターンで移動させる操作を含んでいる。なお縦方向の移動は約0.4mm未満であり、各縦方向の移動は、1回以上の横方向の掃引によって次の縦方向の移動と分離されている。一実施態様では、医療装置は、コーティング組成物で覆われないまま残された区画を含んでおり、パターンは、この覆われないまま残された区画から約0.5mm以内の点から開始させる。この方法は、スプレー流を移動させる段階と同時に、コーティングされる医療装置を連続的に回転させる段階を含むことができる。噴霧段階は、スプレー流を移動させる段階と同時に実施することができる。スプレー流は、断面の直径が1mm未満のスペースをコーティング組成物の90%以上が通過する濃度点を備えることができる。一実施態様では、コーティング組成物は、固体の濃度が約40〜約80mg/mlである。
【0213】
本発明の一実施態様には、内部に円筒形のスペースを規定する円筒形本体と、この円筒形本体の表面に堆積された活性剤を含む第1のコーティングとを有する埋め込み可能な医療装置が含まれる。1つ以上の接着剤バンドを第1のコーティングの上に設ける。接着剤バンドは、第1のコーティングの表面積の約50%を超えて覆うことはない。接着剤バンドは、少なくとも90重量%のpEVAを含んでいる。一実施態様では、接着剤バンドは、長さが約2.0mm以下である。
【0214】
以下の実施例によって本発明を説明するが、本発明がこれら実施例に限定されることはない。
【実施例】
【0215】
テスト法
【0216】
特定の被コーティング組成物が生体内での使用に適しているかどうかを1種類以上の方法(例えば耐久性テスト、溶離アッセイ)で調べることができる。各テストの例を本明細書で説明する。
【0217】
サンプルの調製
【0218】
直径1mmのステンレス鋼製ワイヤ(例えば316Lグレード)を2cmの長さに切断した。ワイヤの断片をパリーレンCコーティング組成物(ユニオン・カーバイド社)で本明細書に記載してあるようにして処理した。ワイヤの断片の重量を微量天秤で計量した。
【0219】
本明細書に記載したようにして、適切な溶媒の中で、ある濃度範囲のコーティング組成物を調製した。そのコーティング組成物を浸漬またはスプレーによってそれぞれのワイヤまたはその一部に付着させた後、溶媒を蒸発させることにより、コーティングされたワイヤを乾燥させた。次に、コーティングされたワイヤを計量した。この重量からコーティングの重量を計算した。その結果からコーティングされたポリマーと生物活性剤の重量を決定できた。
【0220】
溶離アッセイ
【0221】
適切な任意の溶離アッセイを利用し、生理学的条件下で被コーティング組成物から生物活性剤が放出される程度および/または速度を測定することができる。一般に、生理学的環境に導入した後、放出される薬の合計量の50%未満が最初の24時間で放出されることが望ましい。生物活性剤は少なくとも30日間の期間にわたって放出されることが望ましいことがしばしばある。すべての生物活性剤が放出された後、SEM評価により、被コーティング組成物に傷がないことを明らかにすべきである。
【0222】
本明細書で利用した溶離アッセイは以下のようなものであった。3ml〜10mlの量のリン酸緩衝生理食塩水(PBS、10mMのリン酸塩、150mMのNaCl、pH7.4、水溶液)を、ピペットで、テフロン(登録商標)加工したキャップ付きの褐色のバイアルに入れた。コーティング組成物で処理したワイヤまたはコイルをPBSに浸した。撹拌棒をバイアルの中に入れ、そのバイアルにキャップをきつくねじ込んだ。PBSを撹拌プレートを用いて撹拌し、水浴を用いてPBSの温度を37℃に維持した。サンプリング時間は、予想される溶離速度または望む溶離速度に基づいて選択した。サンプリング時刻にワイヤまたはコイルをバイアルから取り出し、新鮮なPBSを収容した新しいバイアルに入れた。UV/可視光分光測光器を用い、コーティング組成物で処理したワイヤまたはコイルが以前に入っていたPBS溶液中の薬の濃度を測定した。溶離した薬の累積量を時間に対してプロットし、溶離プロファイルを得た。
【0223】
溶離アッセイが終了すると、ワイヤまたはコイルを水で洗浄し、乾燥させ、再び計量した。溶離した生物活性剤の割合と被コーティング組成物の重量損失の割合の相関を調べた。
【0224】
望むのであれば、被コーティング組成物の厚さを(例えばミニテスト4100厚さ計を用いて)測定することによってその被コーティング組成物も評価することができ、被コーティング組成物の品質(例えば粗さ、滑らかさ、平坦さなど)はSEM分析によって分析できる。
【0225】
命名法
【0226】
実施例では以下の略号を用いる。
pEVA:ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)(サーモディックス社、エデン・プレリー、ミネソタ州)
pBMA:ポリ(n-ブチル)メタクリレート(サーモディックス社、エデン・プレリー、ミネソタ州)
TA:トリアムシノロンアセトニド(シグマ-オールドリッチ・ケミカル社、セントルイス、ミズーリ州)
【0227】
以下の実施例では、各コーティング組成物の詳細な組成を、コーティング組成物を作るのに用いたポリマーの重量%の比としてまとめてある。例えばTA/pEVA/pBMA(50/49/1)と表記されるコーティング組成物は、相対量として、トリアムシノロンアセトニドを50重量部と、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)を49重量部と、ポリ(n-ブチル)メタクリレートを1重量部用意することによって製造する。
【0228】
例1
ステンレス鋼製ワイヤからのトリアムシノロンアセトニドの放出
【0229】
一回系の形態のコーティング組成物を用意するため、異なる3種類のポリマー溶液をテトラヒドロフラン(THF)の中で以下のようにして調製した。3種類の溶液は、異なる量のポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)を含んでおり、酢酸ビニルの量はポリ(n-ブチル)メタクリレートの量に対して33%'w/w)であり、おおまかな重量平均分子量は337kDであった。3種類の溶液はどれも、全ポリマー重量に対して一定量のトリアムシノロンアセトニドを含んでいた。
【0230】
コーティング組成物を以下のようにして調製した。最初にポリマーをTHFに添加し、一晩かけて溶かした。その間、振盪機の上で室温(約20℃〜22℃)にて1分間に200回転(rpm)で混合した。ポリマーが溶けた後、トリアムシノロンアセトニドを添加し、得られた混合物を100rpmの振盪機の上に戻して1時間にわたって混合し、一回コーティング組成物を形成した。得られた組成物を以下の表Iにまとめてある。
【0231】
【表1】

【0232】
コーティングするステンレス鋼製ワイヤを以下のようにして準備した。ステンレス鋼製ワイヤを、脱イオン水にENPREP-160SE(エンソーン-OMI社、ウエスト・ヘイヴン、コネチカット州のカタログ番号2108-100)が6体積%含まれた溶液に1時間にわたって浸してクリーンにした。浸漬の後、脱イオン水で各部分を数回リンスした。リンスの後、ステンレス鋼製ワイヤを、脱イオン水とイソプロピルアルコールの50体積%溶液に0.5体積%のメタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(シグマ・オールドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州のカタログ番号M6514)が含まれたものの中に室温にて1時間にわたって浸した。ステンレス鋼製ワイヤを放置して空気乾燥させた。次に、乾燥したワイヤを1時間にわたって100℃の炉の中に入れた。
【0233】
炉で乾燥させた後、ステンレス鋼製ワイヤをパリーレン・コーティング反応装置(PDS 2010 ラブコーター(登録商標)2、スペシャルティ・コーティング・システムズ社、インディアナポリス、インディアナ州)の中に入れ、ラブコーター(登録商標)システムの操作マニュアルに従って2gのパリーレンC(スペシャルティ・コーティング・システムズ社、インディアナポリス、インディアナ州)でコーティングした。得られたパリーレンCコーティングは厚さが約1〜2μmであった。
【0234】
コーティング1a、1b、1cの溶液を、穴の直径が1.0mm(0.04インチ)のノズルを取り付けたIVEKスプレー装置(IVEKディスペンサー2000、IVEK社、ノース・スプリングフィールド、ヴァーモント州)を用い、421.84g/cm2(6psi)の圧力にて、パリーレンCで処理したワイヤにスプレーした。コーティングを付着させている間のノズルからワイヤの表面までの距離は5〜5.5cmであった。コーティングの付着は、40μlのコーティング溶液をワイヤ上を前後に移動させながら7秒間にわたってスプレーするというものであった。コーティングのスプレー・プロセスは、ワイヤ上のTAの量が、コーティング1a、1b、1cに関してグラフIに示したTAの量と等しくなるまで繰り返した。ワイヤ上のコーティング組成物は、室温(約20℃〜22℃)にて約8〜10時間にわたって溶媒を蒸発させることによって乾燥させた。乾燥後、コーティングされたワイヤを再び計量した。この重量からコーティングの重量を計算した。その結果からコーティングされたポリマーと生物活性剤の重量を決定できた。
【0235】
次に、コーティングされたワイヤに対して上記の溶離アッセイを実施した。各コーティング組成物に関する溶離アッセイの結果を以下のグラフIに示してある。
【0236】
グラフI.試験管内でのTAの溶離
【化10】

【0237】
コーティングの放出速度を175日を超える期間にわたって測定した。コーティング1cでは、放出速度の計算値は51日目から456日目の間で0.5μg/日であり、放出速度はこの実験期間全体で直線であった。コーティング1aでは、放出速度の計算値は14日目から79日目の間で4.2μg/日であり、コーティング1bでは、放出速度の計算値は84日目から337日目の間で1.2μg/日であった。これら放出速度を利用して計算すると、コーティング1cはコーティング組成物からPBSの中に3年を超える期間にわたって放出されることが予想される(TAが100%放出されると仮定する)。
【0238】
グラフからわかるように、コーティング1aは最初にTAを611μg含んでおり、600μgの生物活性剤が190日以内に放出された。コーティング1bは最初にTAを633μg含んでおり、631μgの生物活性剤が372日以内に放出された。コーティング1cは最初にTAを602μg含んでおり、240μgの生物活性剤が456日以内に放出された。
【0239】
結果から、生物活性剤(ここではトリアムシノロンアセトニド)が本発明の被コーティング組成物から驚くほど長期間(3年超)にわたって試験管内に溶離することが予想された。それに加え、コーティング組成物は、時間軸上で実質的に直線的な放出速度を提供することができる。さらに、結果からわかるように、例えば第1のポリマーと第2のポリマーの重量比を変えることによって被コーティング組成物を変化させ、生物活性剤(例えばトリアムシノロンアセトニド)の溶離速度を望むように制御することができる。したがって治療者が治療行程を知ることができ、本発明のポリマー・コーティング組成物は、予定する治療行程を実現するための制御放出プロファイルが提供されるように製剤化することができる。本明細書により詳しく説明してあるように、放出プロファイルは、コーティング組成物の湿度条件を制御することによっても制御できる。
【0240】
溶離アッセイが終了すると、ワイヤを水で洗浄し、乾燥させ、再び計量した。コーティング1aと1bに関する溶離前と溶離後のデータを以下の表IIに示す。
【0241】
【表2】

【0242】
結果からわかるように、放出された薬は、被コーティング組成物に含まれる薬の初期重量ならびに溶離アッセイによってわかる放出率とよく相関していた。
【0243】
例2
試験管内における螺旋コイルからのトリアムシノロンアセトニドの放出
【0244】
実施例1のようにして異なる2種類の溶液をテトラヒドロフラン(THF)の中で調製した。調製した組成物を表IIIにまとめてある。
【0245】
【表3】

【0246】
キャップを取り付けた複数の螺旋コイルを合金MP35N(登録商標)(ESPI社、アッシュランド、オレゴン州から市販されている)から製造した。これらのコイルをアルカリ溶液の中でクリーンにした後、脱イオン水でリンスした。イソプロピルアルコールを用いて洗浄し、リンスすることにより、コイルをさらにクリーンにした。コイルを乾燥させ、計量した後、コーティングした。
【0247】
超音波スプレー・ヘッド(ソノ-テック社、ミルトン、ニューヨーク州)と、コーティング溶液のためのシリンジ・ポンプ系とからなる超音波コーティング装置を用いてコーティング1dと1eの溶液をコイルの表面にスプレーした。ピン万力を用いてコイルのキャップを保持し、コイルをスプレー・ヘッドに垂直に保持して回転させた。スプレー・ヘッドをコイルの上方を移動させ、コーティング組成物を付着させた。コイル上のTAの量がコーティング1dと1eに関して表IIIに示したTAの量と等しくなるまでスプレー・プロセスを継続した。螺旋コイルの表面にあるコーティング組成物は、室温(約20℃〜22℃)にて溶媒を蒸発させることによって乾燥させた。乾燥後、コーティングされたコイルを再び計量した。この重量からコーティングの重量を計算した。その結果からコーティングされたポリマーと生物活性剤の重量を決定できた。
【0248】
次に、コーティングされたコイルに対して上記の溶離アッセイを実施した。各コーティング組成物に関する溶離アッセイの結果を以下のグラフIIに示してある。
【0249】
グラフII.試験管内でのTAの溶離
【化11】

【0250】
TAの放出を63日間にわたってモニターした。グラフIIからわかるように、コーティング1dは最初にTAを975μg含んでおり、この生物活性剤の171μgが63日以内に放出された。コーティング1eは最初にTAを914μg含んでおり、この生物活性剤の371μgが63日以内に放出された。コーティング1dに関しては、放出速度の計算値は20日目と63日目の間で1.6μg/日であった。コーティング1eに関しては、放出速度の計算値は20日目と63日目の間で3.6μg/日であった。
【0251】
実施例Iに示した結果と同様、コーティング1dと1eの溶離データから、生物活性剤が本発明による被コーティング組成物から驚くほど長期間にわたって試験管内に溶離することが予想できる。さらに、コーティング組成物は、ここでも時間軸上(20日目と63日目の間)で実質的に直線的な放出速度となることがわかった。実施例Iと同様、この結果から、被コーティング組成物を変化させることによって生物活性剤の溶離速度を制御できることがわかった。
【0252】
溶離アッセイが終了すると、コイルを水で洗浄し、乾燥させ、再び計量した。コーティング1dと1eに関する溶離前と溶離後のデータ、ならびに溶離アッセイによってわかる放出率を以下の表IVに示す。
【0253】
【表4】

【0254】
結果からわかるように、溶離の前後でのコイルの重量によって決まる薬の放出率は、UV分光によって測定された薬の放出率とよく相関していた。
【0255】
例3
生体内における螺旋コイルからのトリアムシノロンアセトニドの放出
【0256】
10個のコイルを異なる2種類の組成物、製剤Aと製剤Bでコーティングした後、ウサギの目の硝子体腔に埋め込んでトリアムシノロンアセトニドを制御放出させた。表Vに、この実施例でコイルに付着させたコーティング組成物をまとめてある。製剤Bは、“早い放出”コーティングと名づけ、このコーティング組成物は、“遅い放出”製剤Aコーティング組成物と比較すると、pBMAに対して相対的に大きな比のpEVAを含んでいた。
【0257】
コーティング溶液を実施例1に記載した手続きに従って調製した。コーティング溶液を実施例2に記載した手続きに従ってコイルに付着させた。コーティングされたコイルを以下のようにしてウサギの目の硝子体腔に埋め込んだ。結膜を切断し、切り込み部位から引っ張り出し、強膜を貫通するニードル棒を用いて目に切り込みを入れた。尖った先端部を有する自己開始コイルを目の硝子体腔に挿入した。コイルは、コイルのキャップが目の外面にぶつかるまで挿入し、切り込み手続きが終了すると結膜をキャップの上方に引っ張った。
【0258】
製剤Aコイルを5個と製剤Bコイルを4個、29日間にわたって埋め込んだ。製剤Aコイルのうちの1つは11日間にわたって埋め込んだ。コイルを取り出した後、コーティングされたコイルに残った薬を測定した。コーティングを溶かし、薬とポリマーを分離した。HPLC分析は、C18カラムと、アセトニトリルと脱イオン水を用いた勾配溶離と、UV検出とで構成した。薬を含む溶液からの結果を、調製した新鮮な検量基準から得た較正曲線と比較した。放出された薬の量を計算し、以下のグラフIIIにプロットした。
【0259】
【表5】

【0260】
グラフIII.生体内でのTAの溶離
【化12】

【0261】
結果から、埋め込まれた製剤Aコーティングされたコイルから11日以内と29日以内に放出されたTAの量がそれぞれ92μgと126μgであることがわかる。埋め込まれた製剤Aコーティングされたコイルから29日以内に放出されたTAの量は約275μgであった。“早い放出”製剤である製剤Bから放出されたTAの量は、“遅い放出”製剤である製剤Aから放出されたTAの量の約2.2倍であった。
【0262】
埋め込まれた材料は、追跡した29日の期間を通じて目の組織によってよく許容されたように見えた。調べた手術後の1週間または4週間のいずれでも、前腔にも硝子体腔にも炎症は見られなかった。同様に、眼内圧が上昇することや、インプラントに伴って結膜が薄くなることはなかった。
【0263】
例4
表面の粗さの測定
【0264】
キャップを取り付けた複数の螺旋コイルを合金MP35N(登録商標)(ESPI社、アッシュランド、オレゴン州から市販されている)から製造した。次に、平均直径が50ミクロンのシリカ粒子を用いて2つのコイルをサンドブラストした。光学的干渉計(WYKO NT1100光学的プロファイリング・システム)(ヴィーコ・インスツルメンツ社、ウッドベリー、ニューヨーク州)の鉛直走査干渉モードを利用し、サンドブラスト後の表面の粗さを測定した。それぞれのコイルに関して6つの区画(それぞれの表面積は約155μm×120μm)をテストした。WYKO NT1100のためのVISION32ソフトウエア(バージョン2.303)を用い、各区画について3つの別々の粗さパラメータを計算した。そのパラメータとは、粗さの平均(Ra)-平均面から平面までの距離の絶対値の算術平均、最大高(山と谷の距離)(Rt)- 全データセットの中の最高点と最低点の鉛直方向の距離(1個の最高画素と1個の最低画素)、平均最大高(山と谷の平均距離)(Rz)- データセットに含まれる10個の最高点と10個の最低点の距離の平均(10個の最高画素と10個の最低画素。画素は横方向に互いに少なくとも4.6μm離れている)である。データを以下の表VIにまとめてある。
【0265】
【表6】

【0266】
例5
さまざまな構成のコーティングの耐久性
【0267】
コーティング溶液をテトラヒドロフラン(THF)の中で以下のようにして調製した。pEVAとpBMAを最初にTHFに添加し、一晩かけて溶かした。その間、振盪機の上で室温(約20℃〜22℃)にて1分間に200回転(rpm)で混合した。ポリマーが溶けた後、トリアムシノロンアセトニドを添加し、得られた混合物を100rpmの振盪機の上に戻して1時間にわたって混合し、コーティング組成物を形成した。得られた組成物は、固体の含有量が重量比で50%TA/27.5%pEVA/22.5%pBMAであった。
【0268】
キャップを取り付けた複数の螺旋コイルを合金MP35N(登録商標)(ESPI社、アッシュランド、オレゴン州から市販されている)から製造した。しかし当業者であれば、多くの異なる材料を使用して螺旋コイルを製造できることがわかるであろう。コイルをサンドブラストした。平均直径が50ミクロンのシリカ粒子を用いてコイルの表面をサンドブラストした。サンドブラスト後の表面の粗さは、上記の実施例4に従って測定すると、約8.0〜10.0Rz(μm)であった。次にコイルの一部をキャップとは反対側の端部から切り取り、尖った先端部を有するテーパー部を作った。テーパー部の表面の粗さは、サンドブラストした部分よりも小さかった。テーパー部と先端部を合わせて穿孔部または穿孔区画と呼ぶことができる。コイルをアルカリ溶液の中でクリーンにした後、脱イオン水でリンスした。イソプロピルアルコールを用いた洗浄とリンスによってコイルをさらにクリーンにした。コイルを乾燥させ、計量した後にコーティングした。
【0269】
超音波スプレー・ヘッド(ソノ-テック社、ミルトン、ニューヨーク州)と、コーティング溶液のためのシリンジ・ポンプ系とからなる超音波コーティング装置を用いて上記のコーティング溶液をコイルの表面にスプレーした。ピン万力を用いてコイルをスプレー・ヘッドに垂直に保持し、回転させた。コイルの上方を、スプレー・ヘッドを、複数回の横方向の掃引と縦方向の移動を含むグリッド状パターンにして前後に移動させ、コーティング組成物を付着させた。
【0270】
超音波コーティング装置を用いて異なる3種類のコーティング・パターンを生成させた。すなわち、グループA:完全に覆われたテーパー区画(“厚い-先端部”)、グループB:一部が覆われたテーパー区画(“部分的-先端部”)、グループC:覆われていないテーパー区画(“先端部-フリー”)である。
【0271】
厚い-先端部:図22に示したようなグリッド状パターンのスプレー流を埋め込み可能な先端部の先端を超えた地点から開始させ、次いで埋め込み可能な医療装置の全長にわたって後方に適用することにより、完全に覆われたテーパー区画を形成した。完全に覆われたテーパー区画は、図11に示したのと同様であり、被コーティング組成物がコイルのテーパー区画と先端部を完全に覆うことで先端部の鋭さがうまく丸められている。コイルの上方をグリッド状パターンを複数回通過させた。
【0272】
部分的-先端部:図23に示したように超音波スプレー・ヘッドのスプレー流を先端部の上方の地点から開始させ、次いで埋め込み可能な医療装置の全長にわたって後方に適用することにより、一部が覆われたテーパー区画を形成した。一部が覆われたテーパー区画は図12に示したのと同様であり、被コーティング組成物の少なくとも一部が滑らかなテーパー部の上に延びている。コイルの上方をグリッド状パターンを複数回通過させた。
【0273】
先端部-フリー:図24に示したように超音波スプレー・ヘッドのスプレー流を滑らかなテーパー部から約0.5mm以内の位置にある粗い区画の一地点から開始させ、次いで埋め込み可能な医療装置の全長にわたって後方に適用することにより、覆われていないテーパー区画を形成した。覆われていないテーパー区画は図13に示したのと同様であり、被コーティング組成物は滑らかなテーパー部の上に延びておらず、埋め込み可能な医療装置の粗い区画上に堆積された前方縁部を有する。コイルの上方をグリッド状パターンを複数回通過させた。
【0274】
室温(約20℃〜22℃)で溶媒を蒸発させることによって螺旋コイルの表面にあるコーティング組成物を乾燥させた。乾燥後、コーティングされたコイルを再び計量した。この重量から被コーティング組成物の重量を計算した。厚い-先端部のグループ(n=8)は、被コーティング組成物の平均重量が1801μgであった。部分的-先端部のグループ(n=5)は、被コーティング組成物の平均重量が1830μgであった。先端部-フリーのグループ(n=5)は、被コーティング組成物の平均重量が1965μgであった。
【0275】
次に、硬度計での硬度が40ショアAまたは55ショアAであるシリコーンゴム・シートをマクマスター-カー社、アトランタ、ジョージア州から入手した。シリコーンゴム・シートは、患者の体内へのコイルの挿入のシミュレーションができるように、そして本発明による埋め込み可能な医療装置が挿入と除去の際に遭遇する摩擦力のシミュレーションができるように選択した。40ショアAシリコーンゴム・シートは厚さが約1.5875mmであった。55ショアAシリコーンゴム・シートは厚さが約0.508mmであった。
【0276】
テスト・プロトコル1(“テスト1”)では、厚い-先端部のグループ、部分的-先端部のグループ、先端部-フリーのグループからのコーティングされた螺旋コイルを55ショアAシリコーンゴム・シートに合計30回出し入れした。1回出し入れするごとに、各コイルの傷を目視によって調べた。特に、先端部の剥離と先端部のコーティングの損傷を各コイルについて調べた。先端部の剥離は、コイル上の被コーティング組成物の先端部の領域または先端部に近い領域が金属基部から剥がれたが被コーティング組成物の残部とまだつながっているときに起こっていると定義される。先端部のコーティングの損傷は、先端部または先端部に近いコーティング材料の一部または全部が剥がれて離れ、露出した基部が残っているときに起こっていると定義される。データを以下の表VIIにまとめてある。
【0277】
テスト・プロトコル2(“テスト2”)では、厚い-先端部のグループと先端部-フリーのグループからのコーティングされた螺旋コイルを40ショアAシリコーンゴム・シートに合計30回出し入れした。1回出し入れするごとに、各コイルの傷を目視によって調べた。特に、先端部の剥離と先端部のコーティングの損傷を各コイルについて調べた。出し入れを10回行なった後に先端部の剥離が起こったのであれば、個々の装置に10点を与えた。30回後に傷がない場合には、個々の装置に30点を与えた。したがって点数が高いほど性能が優れていることを示している。次に、各テスト・グループについて、先端部が剥離するかコーティングが破損する前の平均サイクル数を計算した。データを以下の表VIIにまとめてある。
【0278】
【表7】

【0279】
結果から、テスト1では、一部が覆われたテーパー区画を有するコイルは、完全に覆われたテーパー区画を有するコイル、および覆われていないテーパー区画を有するコイルよりも先端部の剥離と先端部のコーティングの損傷の両方に関して性能が劣っていたことがわかる。さらに、テスト1では、覆われていないテーパー区画を有するコイルは、一部が覆われたテーパー区画を有するコイル、および完全に覆われたテーパー区画を有するコイルのどちらよりも先端部の剥離に関して優れていた。テスト2からは、覆われていないテーパー区画を有するコイルは、完全に覆われたテーパー区画を有するコイルよりも先端部の剥離と先端部のコーティングの損傷の両方に関して性能が優れていることがわかった。
【0280】
したがってデータから、被コーティング組成物の前方縁部を医療装置の粗い区画上に堆積させたときに被コーティング組成物の性能が向上したことがわかる。言い換えるならば、データから、被コーティング組成物が医療装置の穿孔区画上に堆積されていないときに被コーティング組成物の性能が向上したことがわかる。
【0281】
テスト中に、厚い-先端部装置をシリコーンゴムに挿入するのに余分な力が必要であることがさらに観察された。厚い-先端部装置の1つはテスト中に破損した。そうなったことの一因は、装置に加わった余分な力にあると考えられる。
【0282】
当業者にとって、本明細書の内容から、または本明細書に開示した本発明の実施態様から、本発明の他の実施態様は明らかであろう。当業者であれば、本発明の精神と、添付の請求項に示した本発明の範囲とを逸脱することなく、本明細書に記載した原理と実施態様に対するさまざまな省略、修正、変更をなすことができる。本明細書で引用したあらゆる特許、特許文書、刊行物は、参考として、本明細書に個別に組み込まれているかのごとく組み込まれているものとする。
【図面の簡単な説明】
【0283】
【図1】本発明の一実施態様による埋め込み可能な装置の全体図である。
【図2】図1に示した実施態様を下から見た図である。
【図3】本発明の別の一実施態様による埋め込み可能な装置の全体図である。
【図4】図3に示した実施態様を下から見た図である。
【図5】本発明の一実施態様による埋め込み可能な装置を、強膜を貫通させて配置した図である。
【図6】目の断面図であり、目の中心視野“A”を示している。
【図7】本発明の別の一実施態様による埋め込み可能な装置の全体図である。
【図8】本発明の別の一実施態様による埋め込み可能な装置の全体図である。
【図9】粗い表面部を有する本発明の別の一実施態様による埋め込み可能な装置の全体図である。
【図10】粗い表面部を有する本発明の別の一実施態様による埋め込み可能な装置の全体図である。
【図11】コーティングされた埋め込み可能な装置の全体図である。
【図12】コーティングされた別の埋め込み可能な装置の全体図である。
【図13】本発明の一実施態様によるコーティングされた埋め込み可能な装置の全体図である。
【図14】本発明の別の一実施態様によるコーティングされた埋め込み可能な装置の全体図である。
【図15】図13の線A-A'に沿って切断したコーティングされた埋め込み可能な装置の一部の概略断面図である。
【図16】図15のコーティングされた埋め込み可能な装置の一部の拡大断面図である。
【図17】本発明の別の一実施態様によるコーティングされた埋め込み可能な装置の全体図である。
【図18】図17のコーティングされた埋め込み可能な装置の断面図である。
【図19】焦点を通過するスプレー流の概略図である。
【図20】スプレー・ヘッドから遠ざかるにつれて連続的に広がるスプレー流の概略図である。
【図21】本発明の一実施態様によるグリッド状コーティング・パターンの概略図である。
【図22】埋め込み可能な装置の一例の上に重ねたグリッド状コーティング・パターンの概略図である。
【図23】埋め込み可能な装置の一例の上に図22とは異なるように重ねたグリッド状コーティング・パターンの概略図である。
【図24】埋め込み可能な装置の一例の上に図23とは異なるように重ねたグリッド状コーティング・パターンの概略図である。
【図25】埋め込み可能な装置の一例の上に重ねた一連の第1の横方向の掃引の概略図である。
【図26】凹凸表面を有するコーティングの概略断面図である。
【図27】本発明の一実施態様による装置である。
【図28】本発明の別の一実施態様による装置である。
【図29】本発明の別の一実施態様による装置である。
【図30】本発明の別の一実施態様による装置である。
【図31】本発明の別の一実施態様による装置である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングされた医療装置を形成する方法であって、被コーティング組成物を医療装置上に堆積することを含んで成り、該医療装置が粗い区画と滑らかな区画を備え、該被コーティング組成物層が粗い区画上に供される前縁部を有し、該被コーティング組成物がポリマーと生物活性剤を含んで成る方法。
【請求項2】
被コーティング組成物層が、粗い区画上に供される後縁部を含んで成る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前縁部が、滑らかな区画から約0.5mm以内の位置にある、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
被コーティング組成物を粗い区画上にだけ堆積させる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
粗い区画の粗さRzが約8μm以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
滑らかな区画の粗さRzが約8μm以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
超音波で噴霧化したスプレー流を用いて医療装置に被コーティング組成物を堆積させる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
超音波で噴霧化したスプレー流を医療装置の上方で格子状パターンで移動させる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
格子状パターンが、複数回の掃引と、複数回の縦方向の移動とを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
縦方向の移動が約0.4mm未満であり;ここで各縦方向の移動が1回以上の横方向の掃引によって次の縦方向の移動と分離される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
格子状パターンの移動を複数回繰り返す、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
被コーティング組成物が前方移行区画を備え、前方移行区画が、前縁部から離れるにつれて厚さが厚くなり、ここで前縁部を前方移行区画の最も厚い部分の外面に接続する線の勾配が、医療装置の表面から測って1.0以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
被コーティング組成物が後方移行区画を備え、後方移行区画が、後縁部から離れるにつれて厚さが厚くなり、ここで後縁部を後方移行区画の最も厚い部分の外面に接続する線の勾配が、医療装置の表面から測って1.0以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ポリマーが、ポリアルキル(メタ)アクリレート、または芳香族ポリ(メタ)アクリレート、またはポリアルキル(メタ)アクリレートと芳香族ポリ(メタ)アクリレートの組み合わせを含んで成る、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ポリマーがポリ(n-ブチル)メタクリレートを含んで成る、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
被コーティング組成物がポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)をさらに含んで成る、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
生物活性剤が、トリアムシノロンアセトニド、13-シスレチノイン酸、5-フルオロウリジン、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
生物活性剤がトリアムシノロンアセトニドである、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
コーティングされた埋め込み可能な医療装置を形成する方法であって、被コーティング組成物を医療装置上に堆積させることを含んで成り、該医療装置が本体区画と穿孔区画を備え、該被コーティング組成物層が本体区画上に供される前縁部を有し、該被コーティング組成物がポリマー及び生物活性剤を含んで成る方法。
【請求項20】
前縁部が穿孔区画から約0.5mm以内の位置にある、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
表面を有する基部;
該基部上に縁部を有する被コーティング組成物層であって、該組成物が生物活性剤とポリマーを含んで成る被コーティング組成物層;及び
該基部中またはその上に配置されたコーティングされていない構成要素、
を具備しており、ここで被コーティング組成物層の縁部が、コーティングされていない構成要素から0.5mm以内の位置にある医療装置。
【請求項22】
コーティングされていない構成要素がセンサーである、請求項21に記載の医療装置。
【請求項23】
コーティングされていない構成要素が穿孔区画である、請求項21に記載の医療装置。
【請求項24】
ポリマーが、ポリアルキル(メタ)アクリレート、または芳香族ポリ(メタ)アクリレート、またはポリアルキル(メタ)アクリレートと芳香族ポリ(メタ)アクリレートの組み合わせを含んで成る、請求項21に記載の医療装置。
【請求項25】
ポリマーがポリ(n-ブチル)メタクリレートを含んで成る、請求項24に記載の医療装置。
【請求項26】
被コーティング組成物がポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)をさらに含んで成る、請求項21に記載の医療装置。
【請求項27】
生物活性剤が、トリアムシノロンアセトニド、13-シスレチノイン酸、5-フルオロウリジン、ならびにこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項21に記載の医療装置。
【請求項28】
表面を有する基部;
該基部表面上に供される縁部を有する第1の被コーティング組成物層であって、該第1の被コーティング組成物が第1の生物活性剤と第1のポリマーを含んで成る組成物層;
該基部表面上に供される縁部を有する第2の被コーティング組成物層であって、該第2の被コーティング組成物が第2の生物活性剤と第2のポリマーを含んで成る組成物層;を具備する医療装置であって、
ここで該第1の被コーティング組成物と該第2の被コーティング組成物が重なっておらず;
該第1の被コーティング組成物の縁部が、該第2の被コーティング組成物の縁部から0.5mm以内の位置にある医療装置。
【請求項29】
第1の被コーティング組成物が、第2の被コーティング組成物が第2の生物活性剤を放出するよりも早く第1の生物活性剤を放出するように構成されている、請求項28に記載の医療装置。
【請求項30】
第1のポリマーと第2のポリマーの一方または両方が、ポリ(メタ)アクリレート、または芳香族ポリ(メタ)アクリレート、またはポリ(メタ)アクリレートと芳香族ポリ(メタ)アクリレートの組み合わせを含んで成る、請求項28に記載の医療装置。
【請求項31】
第1のポリマーと第2のポリマーの一方または両方がポリ(n-ブチル)アクリレートを含んで成る、請求項28に記載の医療装置。
【請求項32】
第1のポリマーと第2のポリマーの一方または両方がポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)を含んで成る、請求項28に記載の医療装置。
【請求項33】
第1の生物活性剤と第2の生物活性剤の一方または両方が、トリアムシノロンアセトニド、13-シスレチノイン酸、5-フルオロウリジン、ならびにこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項28に記載の医療装置。
【請求項34】
超音波スプレー・ヘッドで噴霧化したスプレー流を用いて医療装置の表面に被コーティング組成物を堆積させる方法であって、
超音波スプレー・ヘッドでコーティング組成物を噴霧化してスプレー流を生成させる段階と;
該スプレー流を、複数回の横方向の掃引と複数回の縦方向の移動を含むパターンで移動させる段階を含んで成り;該縦方向の移動が約0.4mm未満であり、各縦方向の移動が、1回以上の横方向の掃引によって次の縦方向の移動と分離されている方法。
【請求項35】
縦方向の移動が約0.2mm未満である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
医療装置が、コーティング組成物でコーティングせずに残す区画を備えていて、パターンを、該コーティングせずに残す区画から0.5mm以内の地点から開始する、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
スプレー流を移動させる段階と同時に、コーティングする医療装置を連続的に回転させる段階をさらに含んで成る、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
噴霧化段階を、スプレー流を移動させる段階と同時に実施する、請求項34に記載の方法。
【請求項39】
スプレー流が、断面の直径が1mm未満のスペースをコーティング組成物の90%超が通過する濃度点を有する、請求項34に記載の方法。
【請求項40】
コーティング組成物の固体濃度が約40〜約80mg/mlである、請求項34に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公表番号】特表2008−535567(P2008−535567A)
【公表日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−505416(P2008−505416)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国際出願番号】PCT/US2006/012250
【国際公開番号】WO2006/110366
【国際公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(506112683)サーモディクス,インコーポレイティド (50)
【Fターム(参考)】