説明

医薬品送達用のウイルス様粒子ベクター、その製造方法、使用、及び医薬組成物。

本発明の実施形態は、ウイルス様粒子ベクター、その製造方法、ウイルス様粒子ベクターの使用、及びウイルス様粒子ベクターを含む医薬組成物である。本ベクターは、治療薬を特定の哺乳類の組織へ、特に低分子量の薬剤、とりわけ低分子量の抗癌剤を癌組織へ送達することを目的とする。より詳細には、本発明は、被包性の又は共有結合された治療用物質とともにアデノウイルス十二面体を構成するウイルス様粒子ベクターに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物送達の分野に関する。より詳細には、本発明は、ウイルス様粒子(VLP)ベクター、その製造方法、ウイルス様粒子ベクターの使用、及びウイルス様粒子ベクターを含む医薬組成物を含む。より正確には、本発明は、吸着された治療用物質とともにアデノウイルス十二面体を構成するウイルス様粒子ベクターに関し、該ベクターは、治療薬を哺乳類の組織へ、特に低分子量の薬剤、とりわけ低分子量の抗癌剤を動物の癌組織へ送達することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
アデノウイルス(Ad)は、非エンベロープタイプの中型のDNAウイルスであり、ヒト及び動物に感染する。感染初期におけるウイルスの侵入には、アデノウイルスの2つのカプシドタンパク質が寄与する。これらは、ウイルスの宿主細胞表面への吸着に寄与する三量体線維タンパク質、及びビリオンの内部移行に関与する五量体ペントン基部タンパク質を含む。この2つのタンパク質は、下図に示すペントンと称する非共有結合複合体を形成する。

【0003】
バキュロウイルスシステムにおける2つのペントンタンパク質の過剰発現の結果、12個のペントンを包含する対称の十二面体ナノ粒子が自発的に形成される。同時に、12個のペントン基部タンパク質のみを包含する十二面体ウイルス様粒子を同様の方法で形成することができる。いずれのタイプの十二面体(Dd)も、その構成要素の機能を保持し、非常に強い細胞侵入能力を示す(Fender et al.,1997;Fender et al.,2003;Vives et al.,2004)。
【0004】
上記十二面体は、2種類の受容体を認識する。上記十二面体は、一方でαvインテグリンを認識するペントン基部タンパク質の特異性を保持しつつ、癌組織に血液を供給する新生血管中でレベルが上昇するαvインテグリンに対し親和性を示す。同時に、上記十二面体は、すべての上皮細胞の表面にあるヘパリン硫酸塩に対して強い親和性を有する(Vives et al.,2004)。
【0005】
ブレオマイシン(BLM)は、各種の癌の治療に使用される糖ペプチド抗生物質である(Lazo and Sebti,1999)。この抗生物質は、細胞核内のDNAを切断することによって細胞分裂を阻害する作用を持つ(Sausville et al.,1978;Carter et al.,1990)。ブレオマイシンは、細胞核内にある時に並はずれて細胞傷害性が強い(Poddevin et al.,1991)。しかしながら、この粒子は親水性で、細胞膜の透過能力が低く、細胞膜上の受容体が少なく、きわめて急速に細胞質内でのタンパク質分解をこうむるため、この抗生物質の活性は限定される(Mir et al.,1996;Lazo,1996;Tounekti et al.,1993)。そのため、非常に大量の抗生物質が投与され、それが肺線維症という重篤な副作用を引き起こす。これまで、癌組織へのBLMの侵入を促すには電気穿孔法が使用されており、これによってブレオマイシンの抗癌効果が上昇した(Gehl et al.,1998;Orlowski et al.,1988)。ヒトの癌治療においては、1991年からブレオマイシン電気化学療法を使用して臨床試験が始まっている(Gothelf et al.,2003)。これは主として皮膚又は皮下の腫瘍に適用されたが、頭部及び頸部の腫瘍にも適用された。ブレオマイシンは腫瘍に対し、直接に、又は静脈を通して、電気ショックと同時に投与された。こうした療法により、癌組織内に多様なレベルの壊死性変化を誘起して腫瘍の成長を止めることが可能になる。腫瘍の位置に応じ、電気穿孔中に、さらにストレスの加わる処置である全身麻酔又は局所麻酔が使用された。
【0006】
FR2747681号(1997年10月24日公開)及びFR2741087号(1997年5月16日公開)において、1つのタンパク質複合体(ペントン基部タンパク質及び任意選択で線維タンパク質を含むアデノウイルス十二面体)が開示された。上記アデノウイルスタンパク質複合体(A)は、(a)それぞれ少なくとも1個のペントン基部(Pb)と1個の線維タンパク質(F)とを含み、その内部でペントンがPbを通して結合され、タンパク質分解に対する抵抗性を有する分子量4.8〜6.6MDの十二面体構造を形成する12個のペントン(P)、又は、(b)上記と同じく12個のPbが十二面体を形成するが分子量は3.2〜4MDのいずれかを含む。(A)はその他のアデノウイルス構成要素を含まず、またFとPbはアデノウイルス(Ad)の血清型が同じ場合も異なる場合もある。
【0007】
US6083720号(2000年7月4日公開)、EP0861329号(2000年7月4日公開)、WO9718317号(2006年2月16日公開)において、タンパク質複合体、上記複合体を含む組成物、及びその使用であるアデノウイルス十二面体が開示された。野生型の、又は遺伝子組み換え型のアデノウイルスタンパク質複合体は、ヒト及び動物の疾病の治療及び予防に使用される。開示された複合体は12個のペントンを含み、その個々が、その他のアデノウイルスの要素を除いた少なくとも1個の線維タンパク質とペントン基部を含み、前記線維タンパク質は、1つ又は複数のアデノウイルス血清型に由来し、上記ペントン基部タンパク質は相互に結合し、タンパク質分解に対して抵抗性を有する安定した十二面体構造を形成する。
【0008】
特許出願CA2619278号(2007年2月2日公開)に、治療用物質の被包のための方法が提供されている。この発明は、治療活性のある物質を特殊な被覆を有するナノ粒子の内側に被包するための、ナノ粒子を含む組成物及びその使用に関する。上記粒子は、化学的に高レベルの細胞内吸収を防止するように形成される。被包には、ナノ粒子と治療活性物質の間の直接の結合が必要である。該医薬組成物は、癌細胞への親和性が高いナノ粒子を含み、例としてブレオマイシンを含む群から選択された少なくとも1つの治療用物質を含む。
【0009】
治療薬の体内への供給方法の改善を主眼とする上述の発明にも関わらず、アデノウイルス十二面体を用いた新規の効率の良い送達療法提供へのニーズは持続している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、十二面体ウイルス様粒子ベクターの治療目的での使用を可能にする条件の作成であり、またヒトの治療に使用される低分子量治療用物質を運搬するベクターを含む医薬組成物の調製及び特性決定である。上記十二面体は、癌細胞に特異的な多価のベクターである可能性がある。該ベクターはアデノウイルスのエンドソーム分解性を有し、そのため細胞の細胞質ゾルへ容易に侵入する。上述のとおり、Ddは、αvインテグリンに対して高い親和性を有する。該インテグリンはRGDモチーフ(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸)を認識する。60個のRGDモチーフを持つアデノウイルス十二面体は、αvインテグリンにとって、おそらく最も特異的なリガンドである。αvインテグリンのレベルは悪性腫瘍の内皮において上昇することが知られており、本出願人は、Ddが治療薬を選択的に、新生腫瘍血管の内皮細胞の内側へ供給することができると想定している。このため本出願人は、標的治療用Dd接合体の使用が低分子量薬物のバイオアベイラビリティを高め、副作用を低減することを期待して、上記ウイルス様粒子を、ブレオマイシン等の抗癌性抗生物質を含む、特に増殖抑制因子、とりわけ糖ペプチド型の低分子量治療薬の移入に使用することを決定した。
【0011】
この目的の達成、及び低分子量薬物のバイオアベイラビリティを高め、副作用を低減して低分子量治療薬の送達を可能にする発明の開発に関係する技術分野における課題の克服は本発明に含まれる。
【0012】
本出願人は、その作業の中で、遺伝子組み換え十二面体(rDd)を得、上記十二面体が十二面体の由来であるアデノウイルス血清型3(Ad3)より高い効率で細胞に侵入することを実証した。すなわち、rDdは細胞培養中の100%の細胞を形質導入し、Ad3では許容されない細胞についても形質導入を行う能力を有する。これは、Ddの機能獲得、とりわけ細胞膜の共通構成要素であり、Ddの由来になった3型アデノウイルスが認識しないヘパリン硫酸塩(HS)プロテオグリカンとの相互作用の結果である(Vives et al.,2004)。HSは正電荷を帯びたタンパク質片と相互に作用し、また該タンパク質片は、VLP内のペントン基部タンパク質によってDd内に形成されるもようである。したがって、十二面体の侵入は、ウイルス受容体経由のみならず、遍在するヘパリン硫酸塩を通しても発生する。
【0013】
遺伝子組み換え十二面体(rDd)は、バキュロウイルスシステムの昆虫細胞で大量に得られる。この産出量は、細胞培養系で100mL当たりrDd10mgで、最も効率の高い細菌によるタンパク質発現系について記述される量と同等である。これまでrDdは、ショ糖勾配超遠心法によって精製されていた。これによって細胞のタンパク質は排除できるが、VLP表面に吸着している可能性の高い核酸は排除できない。
【0014】
本発明は、被包された又は共有結合された少なくとも2コピーの低分子量の治療用物質とともに、アデノウイルスのペントン又はアデノウイルスペントン基部タンパク質を含む遺伝子組み換えアデノウイルス十二面体粒子を構成し、上記治療用物質は増殖抑制剤、好ましくは抗癌剤であり、また、上記アデノウイルス十二面体は哺乳類のウイルス、特にヒトのウイルスに由来するという特徴を有する多価のウイルス様粒子ベクターに関する。好ましくは、送達される低分子量治療用物質は、増殖抑制剤、好ましくは糖ペプチド、とりわけ抗癌剤であり、好ましくは化学式Iによるブレオマイシンファミリーに属するものであり、
【化1】

好ましくは化学式IIによるブレオマイシンA5である。
【化2】

【0015】
低分子量治療用物質は、好ましくは上記十二面体のアミン族又はシステイン残基に、あるいは上記十二面体内のペントン基部タンパク質のN末端又はC末端に結合されたカルボジイミド(EDC)を用いて、ホモもしくはヘテロの二官能基化合物との架橋によって、多価の遺伝子組み換えアデノウイルス十二面体粒子内に被包され、又はこれに結合されることが好ましい。
【0016】
上記十二面体−ブレオマイシン(Dd−BLM)複合体において、ペントン基部タンパク質モノマーは0〜2個のBLM粒子を担持し、うち有意に多数のモノマーは1個のBLM分子を担持し、60個の基部タンパク質モノマーを含む1個のDd分子は少なくとも30個のBLM残基を担持することが好ましい。
【0017】
好ましくは、結合され、又は被包された低分子量治療用物質は、好ましくはブレオマイシンである抗癌剤(医学は治療の技術−ウィキペディア)、好ましくは3,4−ジヒドロキシフェニル−l−アラニン(L−ドーパ)である神経変性疾患治療薬、好ましくはイソニアジドである抗結核薬及び抗細胞間寄生生物薬、好ましくはサルブタモールである抗喘息薬、好ましくはチオペンタールである静脈内麻酔薬、好ましくは抗トキソプラズマ薬、抗リーシュマニア薬、抗トリパノソーマ病薬、及び抗リケッチア症薬である抗病原体薬などの不安定な薬物である。
【0018】
上記アデノウイルス十二面体は、保管時又は哺乳類の血清中あるいは真核細胞の細胞内酵素の存在下で不安定な低分子量治療用物質を担持することが好ましい。
【0019】
低分子量治療用物質とアデノウイルス十二面体の結合は、治療用物質、とりわけ抗病原体薬のバイオアベイラビリティの向上を確保するものであることが好ましい。
【0020】
低分子量治療用物質とアデノウイルス十二面体の結合は、治療用物質、とりわけ重篤な副作用に寄与する治療用物質のバイオアベイラビリティの向上を確保するものであることが好ましい。
【0021】
Ddとともに送達される細胞傷害効果を有するBLM濃度は、遊離したブレオマイシンの場合より少なくとも50倍低いことが好ましい。
【0022】
本発明の別の主題となる実施形態は、上記遺伝子組み換えアデノウイルス十二面体粒子が哺乳類、特にヒトのウイルスに由来することと、上記十二面体が昆虫細胞内で産生され、続いてショ糖密度勾配超遠心法、続いてイオン交換カラムを用いて精製された純粋なrDd画分を入手し、続いて、このようにしてできた、ペントン又はペントン基部タンパク質を含む遺伝子組み換えアデノウイルス十二面体に対し、少なくとも2コピーの低分子量治療用物質が化学的架橋によって被包され、又は共有結合され、上記治療用物質は、好ましくは抗癌剤である増殖抑制剤であることとを特徴とするウイルス様粒子ベクターの製造方法である。
【0023】
上記低分子量治療用物質は、増殖抑制剤、好ましくは糖ペプチド、とりわけ抗癌剤であり、好ましくは化学式Iによるブレオマイシンファミリーに属するものであり、より好ましくは化学式IIによるブレオマイシンA5である。
【0024】
結合される低分子量治療用物質は、好ましくはカルボジイミド(EDC)を用いてベクター内に被包されるか、又はホモもしくはヘテロの二官能基化合物との化学的架橋によってベクター表面に結合されることが好ましい。
【0025】
低分子量治療用物質は、上記十二面体のアミン族又はシステイン残基に、あるいは上記十二面体内のペントン基部タンパク質のN末端又はC末端に結合されることが好ましい。
【0026】
本発明の別の実施形態は、ペントン又はペントン基部タンパク質から形成される遺伝子組み換えアデノウイルス十二面体粒子と、被包されるか、又は共有結合された少なくとも2コピーの低分子量治療用物質との複合体を構成する遺伝子組み換えアデノウイルス十二面体であるウイルス様粒子ベクターの使用であり、上記治療用物質は好ましくは抗癌剤である増殖抑制剤であり、アデノウイルス十二面体粒子は、治療薬を組織内に送達するため、好ましくは低分子量治療用物質、好ましくは抗癌剤を哺乳類の癌組織に送達するために、哺乳類、特にヒトのウイルスに由来する。
【0027】
好ましくは、結合される低分子量治療用物質は増殖抑制剤、好ましくは糖ペプチド、とりわけ抗癌剤であり、好ましくは化学式Iによるブレオマイシンファミリーに属するものであり、
【化3】

好ましくは化学式IIによるブレオマイシンA5である。
【化4】

【0028】
少なくとも2コピーの低分子量治療用物質が、好ましくはカルボジイミド(EDC)を用いて、上記十二面体のアミン族又はシステイン残基に、あるいは上記十二面体内のペントン基部タンパク質のN末端又はC末端に、ホモもしくはヘテロの二官能基化合物との架橋によって、遺伝子組み換えアデノウイルス十二面体粒子に被包され、又はこれに結合されることが好ましい。
【0029】
上記十二面体−ブレオマイシン(Dd−BLM)複合体において、ペントン基部タンパク質モノマーは0〜2個のBLM粒子を担持し、うち有意に多数のモノマーは1個のBLM分子を担持し、好ましくは60個の基部タンパク質モノマーを含む複合体内の1個のDd分子は少なくとも30個のBLM残基を担持する。
【0030】
好ましくは、送達される低分子量治療用物質は、好ましくはブレオマイシンである抗癌剤、好ましくは3,4−ジヒドロキシフェニル−l−アラニン(L−ドーパ)である神経変性疾患治療薬、好ましくはイソニアジドである抗結核薬及び抗細胞間寄生生物薬、好ましくはサルブタモールである抗喘息薬、好ましくはチオペンタールである静脈内麻酔薬、好ましくは抗トキソプラズマ薬、抗アメーバ薬、抗リーシュマニア薬、抗トリパノソーマ病薬、及び抗リケッチア症薬である抗病原体薬などの不安定な薬物である。
【0031】
送達される治療用物質は、保管時、哺乳類の血清中あるいは真核生物の細胞内酵素の存在下での不安定なものであることが好ましい。
【0032】
低分子量治療用物質とアデノウイルス十二面体との結合は、治療薬、とりわけ抗病原体薬のバイオアベイラビリティの向上を確保するものであることが好ましい。
【0033】
低分子量治療用物質とアデノウイルス十二面体の結合は、治療用物質、とりわけ重篤な副作用に寄与する治療用物質のバイオアベイラビリティの向上を確保するものであることが好ましい。
【0034】
Ddとともに送達されるBLMの細胞傷害効果を生じさせる濃度は、遊離したブレオマイシンの場合より少なくとも50倍低いことが好ましい。
【0035】
本発明の別の実施形態は、少なくとも2コピーの低分子量治療用物質を担持する、ペントン又はペントン基部タンパク質から形成された多価の遺伝子組み換えアデノウイルス十二面体粒子を含み、上記治療用物質は、好ましくは抗癌剤である増殖抑制剤であり、上記アデノウイルス十二面体は、哺乳類の、とりわけヒトのウイルスに由来することを特徴とする医薬組成物である。
【0036】
好ましくは、送達される低分子量治療用物質は、増殖抑制剤、好ましくは糖ペプチド、とりわけ抗癌剤であり、好ましくは化学式Iによるブレオマイシンファミリーに属するものであり、
【化5】

好ましくは化学式IIによるブレオマイシンA5である。
【化6】

【0037】
少なくとも2コピーの低分子量治療用物質が、好ましくはカルボジイミド(EDC)を用いて、上記十二面体のアミン族又はシステイン残基に、あるいは上記十二面体内のペントン基部タンパク質のN末端又はC末端に、ホモもしくはヘテロの二官能基化合物との架橋によって、遺伝子組み換えアデノウイルス十二面体に被包され、又はこれに結合されることが好ましい。
【0038】
上記十二面体−ブレオマイシン(Dd−BLM)複合体において、ペントン基部タンパク質モノマーは0〜2個のBLM粒子を担持し、うち有意に多数のモノマーは1個のBLM分子を含み、好ましくは60個の基部タンパク質モノマーを含む1個のDd分子は少なくとも30個のBLM残基を担持することが好ましい。
【0039】
好ましくは、結合される低分子量治療用物質は、好ましくはブレオマイシンである抗癌剤、好ましくは3,4−ジヒドロキシフェニル−l−アラニン(L−ドーパ)である神経変性疾患治療薬、好ましくはイソニアジドである抗結核薬及び抗細胞間寄生生物薬、好ましくはサルブタモールである抗喘息薬、好ましくはチオペンタールである静脈内麻酔薬、好ましくは抗トキソプラズマ薬、抗アメーバ薬、抗リーシュマニア薬、抗トリパノソーマ病薬、及び抗リケッチア症薬である抗病原体薬などの不安定な分子である。
【0040】
上記アデノウイルス十二面体は、保管時に、哺乳類の血清中あるいは真核細胞の細胞内酵素の存在下の遊離状態で不安定な低分子量治療用物質を送達することが好ましい。
【0041】
低分子量治療用物質のアデノウイルス十二面体への結合は、治療用物質、とりわけ抗病原体薬のバイオアベイラビリティの向上を確保するものであることが好ましい。
【0042】
低分子量治療用物質のアデノウイルス十二面体への結合は、治療用物質、とりわけ重篤な副作用に寄与する治療用物質のバイオアベイラビリティの向上を確保するものであることが好ましい。
【0043】
Dd−BLM複合体は、癌細胞の増殖を抑制することが好ましい。
【0044】
Ddとともに送達されるBLMの細胞傷害効果を生じさせる濃度は、遊離したブレオマイシンの場合より少なくとも50倍低いことが好ましい。
【0045】
添付の図面は、本発明の性質をより良く説明するための助けとなる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】アデノウイルス、ペントン、及び2個の十二面体(Dd)の説明図を示す。
【図2】動的光散乱法(DLS)を用いて分析したDdの安定性を示す。Ddの温度安定性はpHとイオン強度に依存する。150mMのNaCl中のDdについて、DLS法を用い、pH値を様々に変えて、温度12〜65℃の温度帯について2分ごとに2℃昇温させて試験した。(B)Ddと五量体基部(Pb)について、CAPS緩衝液(pH9)中と炭酸塩緩衝液(pH10)中でそれぞれ電気泳動分析を行った。数件の試料は、DLSの条件を模した温度変化の影響を受けたものである(DLSと記されたもの)。(C)様々なイオン強度条件のPBS中にあるDd試料を用いてDLS分析を実施した。3組の装置の記録の平均値を示す。
【図3】HeLa細胞内及びヒト血清中での凍結乾燥中のDdの安定性、並びに遊離ペントン基部(Pb)タンパク質からのDd再形成を示す。(A)精製したDdを、水又は150mMの硫酸アンモニウム水溶液を中で、4℃で一晩透析した。「凍結防止剤+」と記した試料には、マンニトール(0.4%)とショ糖(0.4%)を添加した。Ddの試料は−80℃で凍結させるか、又は遠心濃縮を伴って乾燥させる、もしくは凍結乾燥させた。乾燥した試料は、当初の水量まで還元した。試料は13000rpmで30分間遠心分離をかけ、上澄みのタンパク質の状態を、アガロースゲル電気泳動を用いて分析した。(B)培養されているHeLa細胞中でのDd安定性。精製したDd試料(2μg/100μL)を細胞数2×10個のHeLa細胞に侵入させた。侵入から所定時間経過後、細胞を溶解させ、得られた細胞溶解物を、変性条件下のポリアクリルアミドゲル上(左手のパネル)、又は非変性条件下のアガロースゲル上(右手の2枚のパネル)により分離した。いずれの場合においても、抗Dd抗体を用いてウェスタンブロット分析を行った。対照のDd試料はタンパク質30ngを含み、五量体基部(Pb)の試料はタンパク質10ngを含む。(C)ヒト血清中のDd安定性。マイクロコン(ミリポア社)を用いた限外濾過によって濃縮されたDd試料(1試料あたり5μg)は、ヒト血清(HS)中で、4℃で2時間(4レーン)、又は37℃で15分間もしくは2時間(それぞれ5レーン、6レーン)インキュベートした。試料は非変性条件下のアガロースゲル上で分離し、その後、Ddを認識する抗体を用いてウェスタンブロット分析を行った。上段は導入後に残留したタンパク質をクーマシー染色したゲルで、下段はウェスタンブロットの結果である。1レーンと7レーンは、血清を含まず、それぞれ無処理又は37℃で2時間インキューベートされたDd試料に対応する。2レーンと3レーンは、それぞれ4℃又は37℃で2時間インキュベートされたヒト血清に対応する。(D)精製されたPbを、4℃で750mMのリン酸アンモニウムを含むpH6.6のリン酸緩衝液50mM(左手のパネル)、又は37℃でpH7.5のリン酸緩衝液100mM(右手のパネル)のいずれかによって透析した。試料を13000rpmで30分間遠心分離し、上澄み中のタンパク質を、非変性条件下でアガロースゲル電気泳動法を用いて分析した。1レーンはDd再形成に使用された開始時のPb標本を含む。2レーンは、再形成前に遊離Pbに750mMのリン酸アンモニウムを加えたものに対応する。3レーンは2時間透析した後の遊離五量体基部を含む(透析緩衝液を2回交換)。4レーンと6レーンは、それぞれ4℃と37℃で4日間の透析中に再形成されたDdに対応する。7レーンと8レーンはDdに対応し、8レーンの試料は再形成前に750mMのリン酸アンモニウムを加えたものである。
【図4】Ddによって送達されたブレオマイシンの細胞傷害性を示す。ブレオマイシンは、化学的にDdに結合されている(実施例IVに示すとおり)。(A)質量分析法を用いたDd−BLM複合体の分析。(B)動的光散乱法を用いたDd−BLM複合体の分析。(C)MTT細胞傷害性試験。実施例IVにより、HeLa細胞を、遊離BLM(0.13μM)、Dd(1μg)及びDd−BLM(1μg:これは0.08μMのBLMを送達する)で処理した。
【図5A】Dd−BLM活性のHeLa細胞への効果を示す。(A)Dd又はDd−BLMで処理された細胞(試料1μg)を、Ddを認識する抗体(赤シグナル、白黒写真上で白/グレー)を用いて共焦点顕微鏡下で分析した。細胞核はDAPI溶液で染色した。最下行は、核染色をせずに50時間処理した後の細胞を示す。スケールバーは20μmに相当する。
【図5B】Dd−BLM活性のHeLa細胞への効果を示す。(B)Dd、遊離ブレオマイシン又はDd−BLMで処理された細胞を、所定の時間経過後に、抗γ−H2AX(細胞核内で赤色のシグナル、白黒写真上でグレー)と抗チューブリン(細胞質内で緑色のシグナル、白黒写真上で白/グレー)の2つの抗体を用いて共焦点顕微鏡下で分析した。スケールバーは10μmに相当する。
【発明を実施するための形態】
【0047】
上に定義した発明を説明する実施例を以下に示す。
【0048】
本出願人は、アデノウイルス十二面体に関連する独自の研究を開始した。当研究は、十二面体の過剰発現、精製及び特徴付け、並びにベクターとの化学的結合による低分子量薬物の細胞間送達へのその用途に関係する。当研究には下記の事項が含まれる。
−均質性を得るために精製した十二面体の高品質試料の調製。できあがった試料は、Dd過剰発現の発生した細胞由来のタンパク質、核酸及びタンパク質分解酵素を欠く。
−ベクターの安定性条件の試験。pH、イオン強度及び温度などの要因がDdの結合性に影響することが判明した。様々な条件でのDd試料の保管、輸送及び使用のための境界条件を規定し、熱帯条件下での使用が可能であることを示唆した。
−遊離ペントン基部タンパク質からのDd再形成条件の試験。低分子量治療薬の被包の可能性に備え、試験管内で十二面体ベクターの遊離した構成要素から十二面体ベクターを得るための生物理学的条件を作成した。
−治療薬と上記十二面体ベクターとの共有結合による十二面体(Dd)と低分子量治療薬、特にブレオマイシン(BLM)などとの複合体の構築。
−組織培養物中でのDd−BLM複合体の使用と、遊離ブレオマイシンに対しての複合体のバイオアベイラビリティの顕著な向上の実証。
【0049】
本発明によって開発されたウイルス様粒子ベクターは、親水性の増殖抑制治療薬、特に抗癌性抗生物質、とりわけブレオマイシンなどの糖ペプチドの細胞膜通過による侵入改善の達成を可能にすると思われる。治療薬の送達のためのDdの使用は、おそらく同時に、上記薬剤が、新生腫瘍へ栄養を供給する新生血管を特異的に標的にすることを意味する。RGDモチーフは、癌組織へ血液を供給する新生血管を構成する内皮細胞においてのみレベルが上昇するαvインテグリンと、相互に影響し合うことが知られている(Chen,2006)。このモチーフは、Ddを構成するペントン基部タンパク質内に存在し、そのため60個のRGDモチーフを含むDdは、αvインテグリンにとって高度に特異的なリガンドであり、また同時に、そのエンドソーム分解性とヘパリン硫酸塩に対する親和性のゆえに強力な細胞侵入能力を有する。
【実施例】
【0050】
低分子量治療薬であるブレオマイシン(BLM)抗生物質の送達用ベクターとしてのDdの使用
多数の抗生物質のコピーを担持するDd−BLM試料の生物学的(細胞傷害性)作用を、試験管内で培養されたヒトの癌細胞で試験した。当該ベクターとBLMとの間の化学的結合反応は、細胞侵入能力を低下させなかったと見られる。さらに、当該抗生物質の細胞傷害活性は保持された。すなわちDd−BLMは、遊離ブレオマイシン同様、試験管内で培養中のヒトHeLa細胞内へ侵入する際に細胞核のDNAを分解した。Ddによって送達される抗生物質の細胞傷害効果を生じる濃度は、遊離BLMで使用される濃度より約100倍低いことが証明された。試験管内培養中の60%超のヒト癌細胞(HeLa)はDd−BLM複合体の投与後に破壊され、このことはMTT細胞傷害性試験を用いて証明された(図4C)。細胞傷害効果は、十二面体、又はDd−BLM複合体に担持した量と同等用量の遊離ブレオマイシンの投与の場合には、いずれも観察されなかった。
【0051】
Dd−BLMは、Dd又はBLMのいずれかを認識する受容体を用いて細胞膜を通過し、効率的に侵入する。おそらくは、上記ベクターはヒトHeLa細胞の細胞質内で徐々にタンパク質分解を受け、その結果、結合したブレオマイシンとともにペプチドが放出され、そこでBLM−ペプチドが細胞核内へ侵入し、細胞核内で抗生物質(この場合はブレオマイシン)が活性を発揮する。
【0052】
細胞傷害性に関するBLM活性はDNA損傷の結果生じることが知られている。より高等な真核細胞におけるH2AXヒストンのC末端領域のリン酸化反応は、二重鎖DNAの破壊に応答したクロマチン修飾の1つである。リン酸化されたH2AXヒストンを認識する特異的な抗体を、DNAの損傷を検知するためのプローブとして使用した。Dd−BLMは、試験管内培養中のヒトの癌細胞内へ侵入する際に、遊離ブレオマイシン同様、細胞核DNAを分解する。
【0053】
本発明の過程で、遺伝子組み換えタンパク質(rDd)であるDdは、バキュロウイルスシステムの昆虫細胞で非常に大量に得られる。過剰発現は、細胞浮遊物100mL当たりrDd10mgである。この過剰発現産出量は、最も効率の高い細菌のシステムで得られる量と同等である(Song et al.,2008)。これまでrDdは、ショ糖勾配超遠心法によって精製されていた。この段階によって低分子量及び中分子量の細胞タンパク質は排除できるが、rDd表面に吸着している可能性の高い核酸は排除できない。Ddの治療への使用が計画されているため、より精製度が高く、より均質な産物を調製する必要があり、そのために2段階のタンパク質精製法が行われる。ショ糖勾配法による1回目のDd精製の後、イオン交換クロマトグラフ法が用いられた。純粋なrDd画分が得られ(純度95%超)、このことは、ポリアクリルアミドゲル上での電気泳動法を用い、また電子顕微鏡を用いた分析によって確認された。
【0054】
生物化学的及び生物物理学的試験が実施され(電子顕微鏡法、非変性条件下のアガロースゲルにおいて、及び変性条件下でのポリアクリルアミドゲルの電気泳動法、並びに動的光散乱法(DLS)を用いた測定)、上記rDdが、生理的NaCl濃度(150mM)において、広範なpH域において最高40℃まで、またpH7〜8において最高約50℃まで安定であることが証明された。rDdは当時、最高温度60℃まで変性されなかったため、イオン強度が高い条件では総じてその構造が安定することが示された(図2)。遠心濃縮による乾燥中並びに凍結防止剤の存在下での凍結乾燥中における凍結及び解凍後、透析中にベクター粒子は結合性を維持した(図3A)。ベクター安定性が高いため、rDdの取り扱いと保管は一段と容易になる。さらに、上記rDdは、生体内での使用を模した条件で、結合性を維持することが判明した。すなわち、rDdは37℃のヒト血清中で少なくとも2時間は安定であった(図3B)。この結果、rDdは、多様な用途のベクターとして、また多様な環境条件下で使用できる。
【0055】
質量分析法を用いて実施した分析により、本出願人が作成した、抗癌性抗生物質と上記十二面体との複合体において、1個のウイルス様粒子は平均して60個の薬剤分子を担持することが証明され(図4A)、このことで使用された上記ベクターの多価性が確認される。ベクター表面への結合の他にも、上記ウイルス様粒子の内側に低分子量化合物を被包することによって、そのバイオアベイラビリティの向上が達成できる。本出願人は、十二面体が五量体基部であるその構成要素から関連づけられる条件を作成した(図3D)。低分子量化合物存在下での十二面体の試験管内再形成によって、被包された治療用物質を含むウイルス様粒子の入手が可能である。
【0056】
本出願人によると、上記Ddの性質は、上記ナノ粒子が治療薬の人体組織への送達用ベクターとして使用できる可能性を示唆する。第1の例は、抗癌性抗生物質のブレオマイシンに関係する。
【0057】
本出願人は、Ddのベクターとしての使用によって抗生物質のバイオアベイラビリティが向上したことを発見した。このことは、抗生物質の投与量を減らしての使用を可能にし、その結果、抗生物質の活性による副作用を低減するはずである。組織培養で実施された試験段階の後、マウス癌モデルで試験が実施される。ヒトの脳腫瘍を移植されたマウスなどのモデル系で使用されるDd−BLM試料が、少なくとも以前に使用された電気化学療法によるBLM送達と同等の効率を有すると証明された場合、Dd−BLM複合体のヒトの抗癌剤治療への使用を勧めることが可能になる。したがって、抗癌剤治療におけるブレオマイシンの使用は、往々にして全身麻酔が必要になる電気ショックの使用を必要としないDd−BLM試料の投与に限定されることもあり得る。
【0058】
実施例I
アデノウイルス十二面体の作成方法
rDdの治療への使用が計画されているため、より精製度が高く、より均質な産物の調製が必要とされ、このニーズは、従前の手順に第2のタンパク質精製段階を追加することよって達成される。すなわち、ショ糖勾配法による1回目のrDd精製の後、低圧イオン交換クロマトグラフ法が用いられ、これによって純粋なrDd画分が産出された。
【0059】
Ddの発現には、ヒトアデノウイルス血清型3(Ad3)のペントン基部タンパク質遺伝子を有する遺伝子組み換えバキュロウイルスが使用された(Fender et al.,1997)。上記基部タンパク質遺伝子を組み込まれた遺伝子組み換えバキュロウイルスの増幅は、Spodoptera frugiperda(Sf21)の単層細胞培養で実施された。該細胞は、5%のウシ胎仔血清(インビトロジェン社)を含むTC100培養液中で培養された。遺伝子組み換えDdは、ゲンタマイシン(50mg/L)とアムホテリシンB(0.25mg/L)存在下のエクスプレスファイブSFM(インビトロジェン社)培養液中で浮遊培養されたTrichoplusia ni細胞(High Five、HFとしても知られる)中で過剰発現させた。Trichoplusia ni細胞は、1細胞当たり感染単位MOI(多重感染度)4で遺伝子組み換えバキュロウイルスを感染させた。感染から48時間後に、上記細胞を回収し、凍結と解凍を3回繰り返して溶解させた。溶解物の清澄後に入手した上澄みを15〜40%のショ糖勾配中で遠心分離した(Fender et al.,1997)。30〜40%ショ糖中で回収したVLP産物には、細胞タンパク質及び核酸が混入していた。最終的なDd精製は、イオン交換カラムを用いたクロマトグラフ法によって行われ、その結果、十二面体は、均質な画分として調製された。上記粒子のオリゴマー状態及び生成産物の純度は、ネイティブのアガロースゲル中で電子顕微鏡を用い、また変性ポリアクリルアミドゲル中で分析された。
【0060】
実施例II
アデノウイルス十二面体の寿命及び安定性の試験
精製されたDd粒子の安定性及び溶解性を試験した。このために、精製rDdを様々な緩衝液で透析し(それぞれ3回交換)、その後、30℃又は37℃でインキュベートした。インキュベート後、試料を遠心分離し、上澄み中のタンパク質をアガロースゲル電気泳動法を用いて分析した。Ddは、NaCl 150mMの存在下で、4℃、pH4.0〜10.9において溶解状態を維持した。NaClがない場合、Ddは溶液中に残らず、遠心分離中に上澄み中から消失する。したがって、生理的濃度のNaClはDdを変性から保護する。
【0061】
Ddの温度による変性に対する耐性を試験するために動的光散乱法(DLS)を使用し、これにより、タンパク質の変性又は凝集を観察した。タンパク質の試料(0.2mg/mL)を適当な緩衝液で透析し、塵の粒子を取り除くために孔径0.45μmのフィルタで濾過した。次いで、試料をキュベット(45μL、グライナー社、ドイツ、フリケンハウゼン)中に入れ、ZSナノゼータサイザー機(マルベルン社、英国、ウースターシャー)を用いて自動粒径測定を実施した。温度勾配は、12℃から65℃の間で2分ごとに2℃ずつ変化させた。データは累積法を用いて評価した。
【0062】
pH4〜9において、十二面体粒子の粒径は40℃まで一定であった(図2A)。この温度を超えると、粒径は温度の上昇につれて指数関数的に上昇したが、これは変性と凝集を示す。Ddの変性/凝集は、pH4〜5では、pH7〜8より低めの約10℃で開始する。pH9(CAPS緩衝液)とpH10(炭酸塩緩衝液)では、小さな粒径変化が起きた。ネイティブのアガロースゲル中でのタンパク質分析により、Ddは、pH10で解離して遊離五量体基部になり、pH9(CAPS緩衝液)で、おそらく凝集によりタンパク質が消失することが証明された(図2B)。CAPSは有機緩衝液であり、表面の疎水性断片と相互に影響して凝集を起こす可能性があることに注意を要する。750mLのNaClをPBSに添加すると、Ddの融解温度(T)が上昇するが、これは構造的安定を示す(図2C)。しかしながら、最も顕著なT値上昇は硫酸アンモニウムの添加によるもので、約12℃上昇した(図2C)。
【0063】
完了した試験は、上記ベクター粒子が、150mMの硫酸アンモニウムの存在下で、透析中、凍結及び融解後、並びに遠心濃縮による乾燥中も結合性を維持することを証明した。凍結乾燥中は、Ddの構造を保つために凍結防止剤が必要である(図3A)。培養細胞中のベクターの寿命を、HeLa細胞内で、Ddの添加後の様々な時点で試験した。精製Dd(4μg/100μL、10.8nM)を、FBSを含有しない培養液中で、24ウェルプレート中のHeLa細胞(細胞2×10個/ウェル)に添加した。該細胞を培養器内で37℃で培養した。Dd添加の3時間後、培養液にFBSを最終濃度10%になるまで添加した。該細胞を所定の時点で回収し(図3B)、低張緩衝液中で溶解させた。細胞の半分に相当する試料を変性条件下のポリアクリルアミドゲル中で分析し(SDS−PAGE)、また残りの半分を非変性条件下のアガロースゲル中で分析し、その後、両方について抗Dd抗体を用いてウェスタンブロット法によって分析した。
【0064】
細胞内のDdの量は、形質導入後32時間までは増加した。同時に、Ddの部分的なタンパク質分解が発生し、そのため4日後には、細胞中の基部タンパク質の一部分のみが残った(図3B、左手のパネル)。ネイティブのアガロースゲルについての分析で、移行から96時間後、細胞内ベクターの大半はDdと五量体基部(Pb)の間に移動しており、これは、分子の結合性の保持とともに外部のDdループが除去されたことを示唆する(図3B、右手のパネル)。
【0065】
ヒト血清中でインキュベーション中のDdの安定性
マイクロコン(ミリポア社)を用いた限外濾過によって濃縮されたDd試料(1試料あたり5μg)を、4℃で2時間、及び37℃で15分間又は2時間、ヒト血清(SL)中でインキュベートした。Ddは、生体内での使用を模した条件で結合性を保持した。すなわち、Ddは、新鮮なヒト血清中で、37℃で少なくとも2時間安定している(図3C)。
【0066】
実施例III
十二面体の構成要素(五量体基部)からの十二面体再形成
遊離五量体基部(Pb)の均質な画分は、イオン交換カラムでの精製中に得られた。精製されたrPbを、750mMのリン酸アンモニウムを含むpH6.6又はpH7.5のリン酸緩衝液50mMによって透析し、緩衝液を数回交換した。透析終了後、試料を遠心分離し、上澄み中のオリゴマー状態のタンパク質を、アガロースゲル電気泳動法を用いて分析した。4℃又は37℃での4日間の透析中におけるイオン強度が高い条件下で、五量体基部からの十二面体の結合が発生する。低分子量化合物存在下での十二面体の構成要素からの試験管内再形成によって、ウイルス様粒子内に被包された治療用物質を含むベクターの入手が可能である。
【0067】
得られた結果は、Ddが便宜的に保管及び輸送され、試験管内でその構成要素から再形成され得ることを示唆する。すなわち、この結果は、Ddが多様な治療目的で、多様な構成において、また多様な環境条件下で使用できることを証明する。
【0068】
実施例IV
ブレオマイシンのベクターとなるアデノウイルス十二面体粒子の調製方法
カルボジイミド(EDC)と琥珀酸エステル(s−NHS)(ピアース社、米国イリノイ州ロックフォード)を用いた2段階の結合手順によって、ブレオマイシンA塩酸塩(杭州シャンユエン社、中国)をすでに精製されていたrDd粒子に化学的に結合させた。濃度27nMの十二面体を、0.31mMのEDCと5mMのs−NHSの存在下で、0.5MのNaClを含む0.1M、pH6.0のMES緩衝液中で活性化した。ブレオマイシン(23mM)との結合は、室温で2時間、静かに撹拌しながら実施された。最終濃度10mMとなるようにヒドロキシルアミンを添加することによって、反応を終了させた。使用した試薬と非結合ブレオマイシンは、24時間の透析中に、150mMのNaClと5%のグリセロールを含む20mM、pH7.5のトリス緩衝液を4回交換することのより排除された。
【0069】
Ddに結合されたブレオマイシンの量は、質量分析法を用いて決定された。分析は、パーセプティブバイオシステムズ社の質量分析機(マサチューセッツ州フラミンガム)を用い、波長337nmのパルス窒素レーザーによって実施された。試料はZipTipC4(ミリポア社)で濃縮され、製造者の指示に従って0.3%のトリフルオロ酢酸を含む含水アセトニトリル80%混合物(容積比)として調製された飽和シナピン酸溶液で抽出された。溶離剤混合物は、鋼製プレート上へ移し、空気乾燥させた。装置は分子量66431Daのウシアルブミン(バイオシステム社)を用いて校正した。
【0070】
Dd−BLM複合体において、ペントン基部タンパク質モノマー(Ddはそれを含む)は0〜2個のBLM粒子(BLMの分子量は1400)を担持し、うち有意に多数のモノマーは1個のBLM分子を含む(図4A)。データによれば、60個の基部タンパク質モノマーを含む1個のDd分子は平均して60個のBLM残基を担持する。動的光散乱法(DLS)を用いた試験では、Dd−BLM複合体の融解温度は当初の十二面体に非常に近いことが証明されており、このことは、結合反応が上記ベクターの生物理学的性質を変えないことを示す。研究結果は、1個のDd粒子は複数のコピーの治療用物質を提供することができるというベクターの多価性をはっきりと示す。
【0071】
実施例V
ブレオマイシンを伴うアデノウイルス十二面体粒子の生物学的検定法
HeLaヒト癌細胞を、本発明によって調製したDd−BLM複合体によって処理した。遊離ブレオマイシンと同様、Dd−BLM複合体は癌細胞の増殖を抑制に導いた。最も重要なのは、Ddによって送達される細胞傷害作用を生じるBLMの濃度は遊離ブレオマイシンの場合より100倍低かったことである。
【0072】
Dd−BLMの細胞傷害活性は、MTT試験(MTT、3−(4,5−ジメチルチアゾル−2−yl)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロマイド)を用いて試験管内で定量的に評価した。該試験においては、生存細胞の活性により、可溶性で黄色のテトラゾリウム塩(MTT)を還元して青色のホルマザン結晶を生成させることを用いる。96ウェルプレート(細胞10個/ウェル)で、HeLa細胞を、a)様々な量のDd(1μgは2.7nMに相当)、b)Dd−BLM(1μgは2.7nMのDdと0.08μMのBLMに相当)、又はc)遊離ブレオマイシン(それぞれ0.13μM、1μM及び8μM)を含むEMEM培養液100μL中で、37℃で3時間培養した。3時間後、ウシ胎仔血清を最終濃度10%となるように添加した。37℃で様々な培養時間の経過後、培養液を取り除き、0.5mg/mLのMTT(シグマ社)を含むEMEM100μLを添加した。上記プレートを、製造元の指示に従って培養した。そして、HTiリーダー(バイオテック社、米国バーモント州ウィノースキー)を用いて吸光度測定を実施した。生存細胞数は、手順に従って計算した(Mosmann,1983)。
【0073】
試験管内で培養中の60%超のヒト細胞は、Dd−BLM処理後に破壊された。使用した試料中に含まれる抗生物質の量と同等用量で遊離ブレオマイシンを投与した場合には、細胞傷害効果は観察されなかった。BLMを0.08μM含むDd−BLM試料は細胞傷害性が強いことが証明されたが、同量の遊離BLMを添加した場合には細胞傷害効果はなかった(図4)。8μMの遊離BLM溶液(結果は表示せず)を添加した場合、すなわちDdによって送達されるブレオマイシンの場合より100倍多い場合に限り、同様の細胞死亡率が観察された。
【0074】
続いて、Dd−BLM処理を受けたヒト癌細胞の顕微鏡試験を行った。共焦点顕微鏡用の標本を調製するために、HeLa細胞(5×10)を特別なカバーガラスの上においた。翌日、様々な量の純粋Dd、Dd−BLM複合体、又は遊離ブレオマイシンを細胞に添加した。そして、すべての試料を無血清EMEM培養液中に懸濁した。3時間の培養後、ウシ胎仔血清を最終濃度10%になるまで添加した。培養終了後、細胞を低温のPBSで洗浄し、その後、低温の100%メチルアルコール中で10分間固定と透過処理をした。このようにして得られた標本を、抗体(Ab)を加えて1時間インキュベートした。ここで用いた抗体は、Ddを認識するポリクローナルAb、チューブリンを認識するモノクローナルAb(シグマ社、米国ミズーリ州セントルイス)及び抗γ−H2AXポリクローナルAb(カルビオケム社、ドイツ、ダルムシュタット)である。PBSを用いて細胞を洗浄した後、テキサスレッド(ジャクソンイムノリサーチラボラトリーズ社、米国ペンシルバニア州ウエストグローブ)又はFITC(緑色)(サンタクルーズバイオテクノロジー社、米国カリフォルニア州サンタクルーズ)といった色素を結合させた二次抗体を添加した。細胞核のラベリングにはDAPI溶液を使用した(アプリケム社)。
【0075】
共焦点顕微鏡観察に使用できるブレオマイシンを認識する抗体は存在しないため、Dd−BLM複合体の検出に抗DdのAbを使用した。Dd、及びBLMと共有結合されたDd試料も、試験管内で培養中の100%の細胞内に侵入することがわかった。これは、試料の添加から1時間後に観察される、細胞質内の抗Dd抗体からの赤色のシグナルによって証明される(図5A、1時間、Dd及びDd−BLM)。遊離Ddの添加から50時間後に、ベクターの量(細胞質内の視認可能なもののみ)は、短時間培養のものに比して著しく減少した(赤色のシグナル、図5A)が、これはタンパク質分解と細胞からのベクターの排泄を示す。Dd−BLM複合体は細胞肥大の発生を誘起し、それは複合体の添加から30時間後に視認できるが、後日現れることも多い。Dd−BLMの添加から50時間後に、Ddのシグナルは細胞全体に現れるが、これは核膜の完全性が破壊されたことを示す(細胞死の症候の1つ)。
【0076】
BLMの細胞傷害活性は、DNAの損傷に由来することが知られている(Mir et al.,1996)。より高等な真核細胞におけるH2AXヒストンのC末端領域のリン酸化は、二重鎖DNAの破壊に応答したクロマチン修飾の1つである(Kinner et al.,2008)。リン酸化されたヒストンの形態を認識する特異的な抗体(抗γ−H2AX、カルビオケム社、ドイツ、ダルムシュタット)をDNAの損傷を検知するためのプローブとして使用した。対照のHeLa細胞内及び純粋十二面体で処理した細胞内では、抗γ−H2AX抗体からの赤色のシグナルがないことから、DNAの損傷は認められなかった(図5B、HeLa及びDdの列)。逆に言えば、Dd−BLM複合体は細胞内へ侵入する際に細胞核DNAを分解するが、それは特異的な抗体からのシグナルの存在で示される。遊離ブレオマイシンの添加は同様の効果を有する(図5B、BLMの列)。0.08μMのBLMを含有する複合体の作用の効果は、遊離BLMが8μMの濃度で引き起こす損傷より強く、従って100倍強いことになる(図5B、Dd−BLMとBLMの列)。
【0077】
参考文献
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価のウイルス様粒子ベクターであって、被包されるか、又は共有結合された低分子量治療用物質の少なくとも2コピーを伴い、アデノウイルスのペントン又はアデノウイルスのペントン基部タンパク質を含む遺伝子組み換えアデノウイルス十二面体粒子を構成し、前記治療用物質が好ましくは抗癌剤である増殖抑制剤であり、アデノウイルス十二面体が哺乳類の、特にヒトのウイルスに由来することを特徴とするウイルス様粒子ベクター。
【請求項2】
送達される低分子量治療用物質が増殖抑制剤であり、好ましくは糖ペプチド、とりわけ抗癌剤であり、好ましくは化学式Iによるブレオマイシンファミリーに属し、
【化1】

好ましくは化学式IIによるブレオマイシンA5
【化2】

であることを特徴とする、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
低分子量治療用物質が、多価の遺伝子組み換えアデノウイルス十二面体粒子に被包されるか、またはホモもしくはヘテロの二官能基化合物との架橋によって、好ましくはカルボジイミド(EDC)を用いて、十二面体のアミン族又はシステイン残基に、あるいは十二面体内のペントン基部タンパク質のN末端又はC末端で共有結合されることを特徴とする、請求項2に記載の粒子。
【請求項4】
十二面体−ブレオマイシン(Dd−BLM)複合体において、ペントン基部タンパク質モノマーが0〜2個のBLM粒子を担持し、うち有意に多数のモノマーが1個のBLM分子を含み、好ましくは60個の基部タンパク質モノマーを含む1個のDd分子が少なくとも30個のBLM残基を担持することを特徴とする、請求項3に記載の粒子。
【請求項5】
結合されるか、又は被包される低分子量治療用物質が、好ましくはブレオマイシンである抗癌剤、好ましくは3,4−ジヒドロキシフェニル−l−アラニン(L−ドーパ)である神経変性疾患治療薬、好ましくはイソニアジドである抗結核薬及び抗細胞間寄生生物薬、好ましくはサルブタモールである抗喘息薬、好ましくはチオペンタールである静脈内麻酔薬、好ましくは抗トキソプラズマ薬、抗アメーバ薬、抗リーシュマニア薬、抗トリパノソーマ病薬、及び抗リケッチア症薬である抗病原体薬などの不安定な薬物であることを特徴とする、請求項1に記載の粒子。
【請求項6】
アデノウイルス十二面体が、保管時に又は哺乳類の血清中あるいは真核生物の細胞内酵素の存在下で不安定な低分子量治療用物質を担持することを特徴とする、請求項1に記載の粒子。
【請求項7】
低分子量治療用物質とアデノウイルス十二面体との結合が、治療用物質、とりわけ抗病原体治療用物質のバイオアベイラビリティの向上を確保するものであることを特徴とする、請求項1に記載の粒子。
【請求項8】
低分子量治療用物質とアデノウイルス十二面体との結合が、治療用物質、とりわけ重篤な副作用に寄与する治療用物質のバイオアベイラビリティの向上を確保するものであることを特徴とする、請求項1に記載の粒子。
【請求項9】
Ddとともに送達されるBLMの細胞傷害効果を生じさせる濃度が、遊離したブレオマイシンの場合より少なくとも50倍低いことを特徴とする、請求項1に記載の粒子。
【請求項10】
ウイルス様粒子ベクターの製造方法であって、遺伝子組み換えアデノウイルス十二面体粒子が哺乳類の、特にヒトのウイルスに由来することと、前記十二面体が昆虫細胞内で産生され、続いてショ糖密度勾配超遠心法、続いてイオン交換カラムを用いて精製されて純粋なrDd画分を入手し、続いて、このようにしてできたペントン又はペントン基部タンパク質を含む遺伝子組み換えアデノウイルス十二面体に対し、少なくとも2コピーの低分子量治療用物質が化学的架橋によって被包されるか、又は共有結合され、前記治療用物質は、好ましくは抗癌剤である増殖抑制剤であることとを特徴とする、ウイルス様粒子ベクターの製造方法。
【請求項11】
低分子量治療用物質が、増殖抑制剤、好ましくは糖ペプチド、とりわけ抗癌剤であり、好ましくは化学式Iによるブレオマイシンファミリーに属し、好ましくは化学式IIによるブレオマイシンA5であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
結合される低分子量治療用物質が、好ましくはカルボジイミド(EDC)を用いて、ベクター内に被包されるか、又はホモもしくはヘテロの二官能基化合物との化学的架橋によって結合されることを特徴とする、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
低分子量治療用物質が、前記十二面体のアミン族又はシステイン残基に、あるいは前記十二面体内のペントン基部タンパク質のN末端又はC末端に結合されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ウイルス様粒子ベクターの使用であって、前記粒子がペントン又はペントン基部タンパク質を含む遺伝子組み換えアデノウイルス十二面体粒子と、少なくとも2コピーの、被包されるか、又は共有結合された低分子量治療用物質との複合体を構成する遺伝子組み換えアデノウイルス十二面体粒子であり、治療用物質が好ましくは抗癌剤である増殖抑制剤であり、アデノウイルス十二面体粒子が、治療薬を組織内に送達するため、好ましくは低分子量治療用物質、好ましくは抗癌剤を哺乳類の癌組織に送達するために、哺乳類の、特にヒトのウイルスに由来する、ウイルス様粒子ベクターの使用。
【請求項15】
結合される低分子量治療用物質が、増殖抑制剤、好ましくは糖ペプチド、とりわけ抗癌剤であり、好ましくは化学式Iによるブレオマイシンファミリーに属し、
【化3】

好ましくは化学式IIによるブレオマイシンA5
【化4】

である、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
少なくとも2コピーの低分子量治療用物質が、好ましくはカルボジイミド(EDC)を用いて、前記十二面体のアミン族又はシステイン残基に、あるいは前記十二面体内のペントン基部タンパク質のN末端又はC末端に、ホモもしくはヘテロの二官能基化合物との架橋によって遺伝子組み換えアデノウイルス十二面体粒子に被包されるか、又はこれに結合される、請求項14又は15に記載の使用。
【請求項17】
前記十二面体−ブレオマイシン(Dd−BLM)複合体において、ペントン基部タンパク質モノマーが0〜2個のBLM粒子を担持し、うち有意に多数のモノマーが1個のBLM分子を含み、好ましくは60個の基部タンパク質モノマーを含む1個のDd分子は少なくとも30個のBLM残基を担持する、請求項14に記載の使用。
【請求項18】
移入される低分子量治療用物質が、好ましくはブレオマイシンである抗癌剤、好ましくは3,4−ジヒドロキシフェニル−l−アラニン(L−ドーパ)である神経変性疾患治療薬、好ましくはイソニアジドである抗結核薬及び抗細胞間寄生生物薬、好ましくはサルブタモールである抗喘息薬、好ましくはチオペンタールである静脈内麻酔薬、好ましくは抗トキソプラズマ薬、抗アメーバ薬、抗リーシュマニア薬、抗トリパノソーマ病薬、及び抗リケッチア症薬である抗病原体薬などの不安定な薬物である、請求項14に記載の使用。
【請求項19】
送達される治療用物質が、保管時、哺乳類の血清中あるいは真核生物の細胞内酵素の存在下で不安定な遊離状態にある、請求項14に記載の使用。
【請求項20】
低分子量治療用物質とアデノウイルス十二面体との結合が、治療用物質、とりわけ抗病原体治療用物質のバイオアベイラビリティの向上を確保するものである、請求項14に記載の使用。
【請求項21】
低分子量治療用物質とアデノウイルス十二面体との結合が、治療用物質、とりわけ重篤な副作用に寄与する治療用物質のバイオアベイラビリティの向上を確保するものである、請求項14に記載の使用。
【請求項22】
Ddとともに送達されるBLMの細胞傷害効果を生じさせる濃度が、遊離したブレオマイシンの場合より少なくとも50倍低い、請求項14に記載の使用。
【請求項23】
医薬組成物であって、ペントン又はペントン基部タンパク質を含む多価の遺伝子組み換えアデノウイルス十二面体粒子を含み、前記粒子が少なくとも2コピーの低分子量治療用物質を担持し、前記治療用物質が、好ましくは抗癌剤である増殖抑制剤であり、前記アデノウイルス十二面体が、哺乳類の、とりわけヒトのウイルスに由来することを特徴とする医薬組成物。
【請求項24】
送達される低分子量治療用物質が、増殖抑制剤、好ましくは糖ペプチド、とりわけ抗癌剤であり、好ましくは化学式Iによるブレオマイシンファミリーに属し、
【化5】

好ましくは化学式IIによるブレオマイシンA5
【化6】

であることを特徴とする、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
少なくとも2コピーの低分子量治療用物質が、好ましくはカルボジイミド(EDC)を用いて、前記十二面体のアミン族又はシステイン残基に、あるいは前記十二面体内のペントン基部タンパク質のN末端又はC末端に、ホモもしくはヘテロの二官能基化合物との架橋によって、遺伝子組み換えアデノウイルス十二面体に被包されるか、又はこれに結合されることを特徴とする、請求項23又は24に記載の組成物。
【請求項26】
前記十二面体−ブレオマイシン(Dd−BLM)複合体において、ペントン基部タンパク質モノマーが0〜2個のBLM粒子を担持し、うち有意に多数のモノマーが1個のBLM分子を含み、好ましくは60個の基部タンパク質モノマーを含む1個のDd分子は少なくとも30個のBLM残基を担持することを特徴とする、請求項23又は24に記載の組成物。
【請求項27】
結合される低分子量治療用物質が、好ましくはブレオマイシンである抗癌剤、好ましくは3,4−ジヒドロキシフェニル−l−アラニン(L−ドーパ)である神経変性疾患治療薬、好ましくはイソニアジドである抗結核薬及び抗細胞間寄生生物薬、好ましくはサルブタモールである抗喘息薬、好ましくはチオペンタールである静脈内麻酔薬、好ましくは抗トキソプラズマ薬、抗アメーバ薬、抗リーシュマニア薬、抗トリパノソーマ病薬、及び抗リケッチア症薬である抗病原体薬などの不安定な薬物であることを特徴とする、請求項23に記載の組成物。
【請求項28】
前記アデノウイルス十二面体が、保管時又は哺乳類の血清中あるいは真核生物の細胞内酵素の存在下の遊離状態で不安定な低分子量治療用物質を送達することを特徴とする、請求項23に記載の組成物。
【請求項29】
低分子量治療用物質のアデノウイルス十二面体への結合が、治療用物質、とりわけ抗病原体治療用物質のバイオアベイラビリティの向上を確保するものであることを特徴とする、請求項23に記載の組成物。
【請求項30】
低分子量治療用物質のアデノウイルス十二面体への結合が、治療用物質、とりわけ重篤な副作用に寄与する治療用物質のバイオアベイラビリティの向上を確保するものであることを特徴とする、請求項23に記載の組成物。
【請求項31】
Dd−BLM複合体が癌細胞の増殖を抑制することを特徴とする、請求項23又は24に記載の組成物。
【請求項32】
Ddとともに送達されるBLMの細胞傷害効果を生じさせる濃度が、遊離したブレオマイシンの場合より少なくとも50倍低いことを特徴とする、請求項23又は24に記載の組成物。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5A】
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【図5B】
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【公表番号】特表2012−523411(P2012−523411A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−504645(P2012−504645)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【国際出願番号】PCT/PL2010/000026
【国際公開番号】WO2010/117287
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(511244218)
【Fターム(参考)】