説明

半導体ウエハの製造方法及び半導体ウエハ

【課題】基板の表面に単結晶SiCのエピタキシャル層を形成する構成の半導体ウエハの製造方法であって、製造コストの低減及び半導体ウエハの大口径化を実現する方法を提供する。
【解決手段】半導体ウエハの製造方法は、カーボン層形成工程と、貫通孔形成工程と、フィード層形成工程と、エピタキシャル層形成工程と、を含む。カーボン層形成工程では、多結晶SiCで構成される基板70の表面にカーボン層71を形成する。貫通孔形成工程では、基板70に形成されたカーボン層71に貫通孔を形成する。フィード層形成工程では、カーボン層71の表面にSi層72a及び3C−SiC多結晶層73を形成する。エピタキシャル層形成工程では、基板70を加熱することで、貫通孔を通じて露出した基板70の表面に4H−SiC単結晶で構成される種結晶74を形成し、前記種結晶74を近接液相エピタキシャル成長させて4H−SiC単結晶層74aを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも表面がSiCで構成される基板を用いた半導体ウエハの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波デバイスの半導体材料としては、シリコン(Si)やガリウム砒素(GaAs)等が従来から知られるところである。高周波デバイスの利用分野は近年急速に拡大しており、それに伴って、高温環境等の苛酷な領域で使用される機会も増加している。従って、高温環境に耐えられる高周波デバイスの実現は、幅広い用途環境における動作の信頼性と大量の情報処理・制御性の向上にとって重要な課題の1つである。
【0003】
耐熱性に優れる半導体ウエハを製造する材料の1つとして、炭化ケイ素(SiC)が注目されている。SiCは、機械的強度に優れるとともに、放射線にも強い。また、SiCは、不純物の添加によって電子や正孔の価電子制御も容易にできるとともに、広い禁制帯幅(6H型の単結晶SiCで約3.0eV、4H型の単結晶SiCで3.2eV)や高い絶縁破壊電界(4H型の単結晶SiCでSiやGaAsの約10倍の2.8MV/cm)、電子の飽和ドリフト速度(4H型の単結晶SiCでSiの約2倍の2.2×107cm/s)を有するという特徴を備えている。このような理由から、SiCは、上述した既存の半導体材料では実現できない高温、高周波、耐電圧・耐環境性を実現できる次世代のパワーデバイスの材料として期待されている。
【0004】
従来から、SiCを用いた半導体ウエハの製造方法において、エピタキシャル層を形成する方法が知られている。この種の製造方法を開示するものとして例えば特許文献1から3がある。
【0005】
特許文献1では、SiCエピタキシャル層は、CVD(Chemical Vapor Deposition、化学気相成長)法により形成される。前記エピタキシャル成長させる工程では、成長速度を毎時1μm以下に抑えた欠陥発生抑止層を導入することにより、欠陥の少ないSiCのエピタキシャル層を形成させることが可能となる。
【0006】
特許文献2では、以下のようなSiCエピタキシャル層の形成方法が開示されている。即ち、SiCエピタキシャル層の形成方法は、種結晶添加昇華技術を用いてSiCのバルク結晶を成長させる工程と、バルク結晶表面に液相エピタキシャル成長させる工程と、を含む。前記液相エピタキシャル成長させる工程では、溶融成長を行うことで、前記種結晶からバルク結晶基板に伝播したマイクロパイプ欠陥を塞ぐことができ、マイクロパイプ欠陥の少ないSiCのエピタキシャル層を形成させることが可能となる。
【0007】
特許文献3では、単結晶SiCを近接液相エピタキシャル成長させる方法として準安定溶媒エピタキシー(MSE)法が開示されている。MSE法は、単結晶SiCからなるシード基板と、このシード基板より自由エネルギーの高い炭素供給フィード基板と、を対向配置し、前記シード基板と前記炭素供給フィード基板との間にSi融液層を溶媒(炭素移動媒体)として介在させる。そして、真空高温環境で、シード基板及び炭素供給フィード基板を加熱処理することにより、前記シード基板の表面に単結晶SiCをエピタキシャル成長させる方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−284298号公報
【特許文献2】特表平10−509943号公報
【特許文献3】特開2008−230946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1から3の方法は、単結晶SiCで構成されるエピタキシャル層を形成するために、単結晶SiCで構成されるシード基板が必要となる。しかし、単結晶SiCで構成される基板は非常に高価であるので、特許文献1から3の方法では、半導体デバイスの製造コストが高くなってしまう。
【0010】
また、単結晶SiCで構成される基板は、入手可能な口径の大きさに限りがあるため、特許文献1から3の方法では、大口径の半導体ウエハを製造することが難しかった。
【0011】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、基板の表面に単結晶SiCのエピタキシャル層を形成する半導体ウエハの製造方法であって、製造コストの低減及び半導体ウエハの大口径化が可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0013】
本発明の第1の観点によれば、以下の半導体ウエハの製造方法が提供される。即ち、この半導体ウエハの製造方法は、カーボン層形成工程と、貫通孔形成工程と、フィード層形成工程と、エピタキシャル層形成工程と、を含む。前記カーボン層形成工程では、少なくとも表面が多結晶SiCで構成される基板の表面にカーボン層を形成する。前記貫通孔形成工程では、前記基板に形成された前記カーボン層にレーザ光を照射するなどして、当該カーボン層に貫通孔を形成する。前記フィード層形成工程では、前記基板に形成された前記カーボン層の表面にSi層を形成するとともに、当該Si層の表面に多結晶SiCで構成されるフィード層を形成する。前記エピタキシャル層形成工程では、前記基板に対して1600℃以上2300℃以下の温度範囲の加熱処理を行うことで、前記貫通孔を通じて露出した前記基板の表面に4H−SiC単結晶で構成される種結晶を形成し、前記加熱処理を継続することで、前記種結晶を近接液相エピタキシャル成長させて4H−SiC単結晶で構成されるエピタキシャル層を形成する。
【0014】
これにより、少なくとも表面が多結晶SiCで構成される基板を用いて半導体ウエハを製造することができる。多結晶SiCで構成される基板は、単結晶SiCで構成される基板と比較して安価であるため、半導体ウエハの製造コストを低減することができる。また、多結晶SiCで構成される基板は、単結晶SiCで構成される基板と比較して大口径の基板を入手することが可能であるため、大口径の半導体ウエハを製造することができる。
【0015】
前記の半導体ウエハの製造方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記基板の表面には、複数の溝部又は壁部が形成されている。前記貫通孔形成工程では、前記溝部又は前記壁部で囲まれた領域毎に前記貫通孔を形成する。前記エピタキシャル層形成工程では、4H−SiC単結晶で構成される前記エピタキシャル層が前記領域毎に形成される。
【0016】
これにより、隣接するエピタキシャル層同士の接触による成長阻害や接触部分における結晶転位の発生などの干渉を、溝部又は壁部によって防止できる。従って、複数チップ分のエピタキシャル層が形成された半導体ウエハを、単一の種結晶からウエハ全体の面積まで成長するより短い成長時間で高品質に製造することができる。
【0017】
前記の半導体ウエハの製造方法においては、前記カーボン層形成工程では、1500℃以上2300℃以下の温度範囲であって10-2Torr以下好ましくは10-5Torr以下の真空下で加熱することで、前記基板の表面のSi原子を昇華させて前記カーボン層を形成することが好ましい。
【0018】
これにより、炭素ナノ材料で構成される薄膜を基板の表面に良好に生成できるので、貫通孔によって露出した部分のみを適切に反応させることができる。また、基板とカーボン層との間に不純物が侵入することを防止できる。
【0019】
前記の半導体ウエハの製造方法においては、前記カーボン層形成工程では、化学気相成長法、有機レジスト法、又は電子サイクロトロン共鳴スパッタ法によって前記カーボン層を形成してもよい。
【0020】
これにより、基板の表面にカーボン層を効率的に形成することができる。
【0021】
前記の半導体ウエハの製造方法においては、前記貫通孔形成工程で赤外線のレーザ光を用いて貫通孔を形成し、レーザ光のスポット径が100μm以下好ましくは50μm以下であることが好ましい。
【0022】
これにより、貫通孔を通じて露出する基板の面積を小さくして、それぞれの貫通孔に単一の種結晶を生成させ、貫通孔内での複数の種結晶生成とそれらの接触による成長阻害や接触部分における結晶転位の発生を抑制することができる。
【0023】
前記の半導体ウエハの製造方法においては、前記貫通孔を通じて露出した前記基板の表面に4H−SiC単結晶で構成される種結晶を形成し、前記加熱処理を継続することで、前記種結晶を近接液相エピタキシャル成長させて4H−SiC単結晶で構成されるエピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程においては、4H−SiC単結晶で構成されるエピタキシャル層の水平方向(a軸方向)のエピタキシャル成長速度が厚み方向(c軸方向)のエピタキシャル成長速度より5倍から10倍早く成長できる。
【0024】
これにより、様々な要求に応じてエピタキシャル層のアスペクト比率が調整された半導体ウエハを製造することができる。また、アスペクト比率を調整するための特別な部材が必要ないため、製造装置を簡素化することができる。
【0025】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成の半導体ウエハが提供される。即ち、この半導体ウエハは、前記の半導体ウエハの製造方法により製造され、前記種結晶を近接液相エピタキシャル成長させる加熱処理温度を制御することにより4H−SiC単結晶で構成されるエピタキシャル層の水平方向(a軸方向)の寸度が、厚み方向(c軸方向)の寸度に対して5倍から10倍のアスペクト比率に制御される。
【0026】
これにより、様々な要求に応じてエピタキシャル層のアスペクト比率が調整された半導体ウエハを利用することができる。また、アスペクト比率を調整するための特別な部材が必要ないため、製造装置を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】半導体ウエハを製造するための加熱処理に用いられる高温真空炉を示す模式図。
【図2】高温真空炉の本加熱室及び予備加熱室を詳細に示す断面図。
【図3】坩堝の外観写真及び断面写真。
【図4】半導体デバイスの複数チップ分の基になる半導体ウエハの模式図。
【図5】半導体デバイスの境界に溝部を形成した構成の多結晶SiC基板を用いて4H−SiC単結晶層を形成する半導体ウエハの製造方法の前半を示す工程図。
【図6】半導体デバイスの境界に溝部を形成した構成の多結晶SiC基板を用いて4H−SiC単結晶層を形成する半導体ウエハの製造方法の後半を示す工程図。
【図7】多結晶SiC基板と、この基板の表面に形成したカーボン層と、の一例を示す断面顕微鏡写真。
【図8】レーザ照射によりカーボン層に形成された貫通孔の一例を示す顕微鏡写真。
【図9】カーボン層に形成された貫通孔から成長する途中のエピタキシャル層の一例を示す顕微鏡写真。
【図10】半導体デバイスの境界に壁部を形成した構成の多結晶SiC基板を用いて4H−SiC単結晶層を形成する半導体ウエハの製造方法の前半を示す工程図。
【図11】半導体デバイスの境界に壁部を形成した構成の多結晶SiC基板を用いて4H−SiC単結晶層を形成する半導体ウエハの製造方法の後半を示す工程図。
【図12】複数の成長温度における、成長速度とSi融液の厚みとの関係を示すグラフ。
【図13】4H−SiC単結晶のSi面における、a軸方向及びc軸方向の成長速度変化を示すグラフと、c軸方向に対するa軸方向の成長速度のアスペクト比率の変化を示すグラフ。
【図14】4H−SiC単結晶のC面における、a軸方向及びc軸方向の成長速度変化を示すグラフと、c軸方向に対するa軸方向の成長速度のアスペクト比率の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、発明の実施形態について説明する。まず、半導体ウエハを製造するために用いる高温真空炉11と坩堝(嵌合容器)2について説明する。図1は、半導体ウエハを製造するための加熱処理に用いられる高温真空炉11を示す模式図である。図2は、高温真空炉11の本加熱室21及び予備加熱室22を詳細に示す断面図である。図3(a)は坩堝2を上方から撮影した外観写真であり、図3(b)は坩堝2の断面顕微鏡写真である。
【0029】
図1及び図2に示すように、高温真空炉11は、被処理物を1000℃以上2300℃以下の温度に加熱することが可能な本加熱室21と、被処理物を500℃以上の温度に予備加熱可能な予備加熱室22と、を備えている。予備加熱室22は本加熱室21の下方に配置され、本加熱室21に対して上下方向に隣接している。また、高温真空炉11は、予備加熱室22の下方に配置された断熱室23を備えている。この断熱室23は予備加熱室22に対して上下方向に隣接している。
【0030】
高温真空炉11は真空チャンバ19を備え、前記本加熱室21と予備加熱室22は、この真空チャンバ19の内部に備えられている。真空チャンバ19には真空形成装置としてのターボ分子ポンプ34が接続されており、例えば10-2Pa以下、望ましくは10-7Pa以下の真空を真空チャンバ19内に得ることができるようになっている。ターボ分子ポンプ34と真空チャンバ19との間には、ゲートバルブ25が介設される。また、ターボ分子ポンプ34には、補助のためのロータリポンプ26が接続される。
【0031】
高温真空炉11は、予備加熱室22と本加熱室21との間で被処理物を上下方向に移動させることが可能な移動機構27を備えている。この移動機構27は、被処理物を支持可能な支持体28と、この支持体28を上下動させることが可能なシリンダ部29と、を備えている。シリンダ部29はシリンダロッド30を備え、このシリンダロッド30の一端が前記支持体28に連結されている。また、高温真空炉11には、真空度を測定するための真空計31、及び、質量分析法を行うための質量分析装置32が設けられている。
【0032】
前記真空チャンバ19は、被処理物を保管しておくための図略のストック室と、搬送路65を通じて接続されている。この搬送路65は、ゲートバルブ66によって開閉可能になっている。
【0033】
前記本加熱室21は、平面断面視で正六角形に形成されるとともに、真空チャンバ19の内部空間の上部に配置される。図2に示すように、本加熱室21の内部には、加熱ヒータとしてのメッシュヒータ33が備えられている。また、本加熱室21の側壁や天井には第1多層熱反射金属板41が固定され、この第1多層熱反射金属板41によって、メッシュヒータ33の熱を本加熱室21の中央部に向けて反射させるように構成されている。
【0034】
これにより、本加熱室21内において、加熱処理対象としての被処理物を取り囲むようにメッシュヒータ33が配置され、更にその外側に多層熱反射金属板41が配置されるレイアウトが実現されている。従って、被処理物を強力且つ均等に加熱し、1000℃以上2300℃以下の温度まで昇温させることができる。
【0035】
本加熱室21の天井側は第1多層熱反射金属板41によって閉鎖される一方、底面の第1多層熱反射金属板41には貫通孔55が形成されている。被処理物は、この貫通孔55を介して、本加熱室21と、この本加熱室21の下側に隣接する予備加熱室22との間で移動できるようになっている。
【0036】
前記貫通孔55には、移動機構27の支持体28の一部が挿入されている。この支持体28は、上から順に、第2多層熱反射金属板42、第3多層熱反射金属板43、及び第4多層熱反射金属板44を互いに間隔をあけて配置した構成となっている。
【0037】
3つの多層熱反射金属板42〜44は、何れも水平に配置されるとともに、垂直方向に設けた柱部35によって互いに連結されている。そして、第2多層熱反射金属板42及び第3多層熱反射金属板43とで挟まれたスペースに受け台36が配置され、この受け台36上に被処理物を載置できるように構成されている。本実施形態において、この受け台36はタンタルカーバイドにより構成されている。
【0038】
前記シリンダ部29のシリンダロッド30の端部にはフランジが形成されて、このフランジが第4多層熱反射金属板44の下面に固定される。この構成により、前記シリンダ部29を伸縮させることで、受け台36上の被処理物を前記3つの多層熱反射金属板42〜44とともに上下動させることができる。
【0039】
前記予備加熱室22は、本加熱室21の下側の空間を、多層熱反射金属板46で囲うことにより構成されている。この予備加熱室22は、平面断面視で円状となるように構成されている。なお、予備加熱室22内には、前記メッシュヒータ33のような加熱手段は備えられていない。
【0040】
図2に示すように、予備加熱室22の底面部においては、前記多層熱反射金属板46に貫通孔56が形成されている。また、予備加熱室22の側壁をなす多層熱反射金属板46において、前記搬送路65と対面する部位に通路孔50が形成されている。更に、前記高温真空炉11は、前記通路孔50を閉鎖可能な開閉部材51を備えている。
【0041】
予備加熱室22の下側で隣接する前記断熱室23は、上側が前記多層熱反射金属板46によって区画され、下側及び側部が多層熱反射金属板47によって区画されている。断熱室23の下側を覆う多層熱反射金属板47には貫通孔57が形成されて、前記シリンダロッド30を挿通できるようになっている。
【0042】
前記貫通孔57の上端部に相当する位置において、多層熱反射金属板47には収納凹部58が形成される。この収納凹部58には、前記支持体28が備える第4多層熱反射金属板44を収納可能になっている。
【0043】
多層熱反射金属板41〜44,46,47は何れも、金属板(タングステン製)を所定の間隔をあけて積層した構造になっている。前記開閉部材51においても、通路孔50を閉鎖する部分には、同様の構成の多層熱反射金属板が用いられている。
【0044】
多層熱反射金属板41〜44,46,47の材質としては、メッシュヒータ33の熱輻射に対して十分な加熱特性を有し、また、融点が雰囲気温度より高い物質であれば、任意のものを用いることができる。例えば、前記タングステンのほか、タンタル、ニオブ、モリブデン等の高融点金属材料を多層熱反射金属板41〜44,46,47として用いることができる。また、タングステンカーバイド、ジリコニウムカーバイド、タンタルカーバイド、ハフニウムカーバイド、モリブデンカーバイド等の炭化物を、多層熱反射金属板41〜44,46,47として用いることもできる。また、その反射面に、金やタングステンカーバイド等からなる赤外線反射膜を更に形成しても良い。
【0045】
そして、支持体28に備えられる多層熱反射金属板42〜44は、小さな貫通孔を多数有するパンチメタル構造のタングステン板を、当該貫通孔の位置を異ならせつつ所定の間隔をあけて積層した構造になっている。
【0046】
また、支持体28の最も上層に備えられる第2多層熱反射金属板42の積層枚数は、本加熱室21の第1多層熱反射金属板41の積層枚数よりも少なくなっている。
【0047】
この構成で、被処理物(例えばSiC基板)を、真空チャンバ19内の汚染を防止するために適宜の容器に収納する。なお、容器は後述の坩堝2であっても良いし、それ以外の容器であっても良い。そして、この状態で被処理物を搬送路65から真空チャンバ19の内部へ導入し、予備加熱室22内にある前記受け台36上に載置する。この状態で前記メッシュヒータ33を駆動すると、本加熱室21が1,000℃以上2300℃以下の所定の温度(例えば約1800℃)に加熱される。またこのとき、前記ターボ分子ポンプ34の駆動によって、真空チャンバ19内の圧力は10-3以下、好ましくは10-5以下となるように調整されている。
【0048】
ここで前述したとおり、支持体28の第2多層熱反射金属板42の積層枚数は、前記第1多層熱反射金属板41の積層枚数よりも少なくなっている。従って、メッシュヒータ33が発生する熱の一部が第2多層熱反射金属板42を介して予備加熱室22に適度に供給(分配)され、予備加熱室22内のSiC基板を500℃以上の所定の温度(例えば800℃)となるように予備加熱することができる。即ち、予備加熱室22にヒータを設置しなくても予備加熱を実現でき、予備加熱室22の簡素な構造が実現できている。
【0049】
上記の予備加熱処理を所定時間行った後、シリンダ部29を駆動し、支持体28を上昇させる。この結果、SiC基板が下側から貫通孔55を通過して本加熱室21内に移動する。これにより、直ちに本加熱処理が開始され、本加熱室21内のSiC基板を所定の温度(約1800℃)に急速に昇温させることができる。
【0050】
次に、坩堝(収容容器)2について説明する。図3(a)に示すように、坩堝2は互いに嵌合可能な上容器2aと下容器2bとを備えている。また、この坩堝2は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして構成されている。
【0051】
更に詳細に説明すると、坩堝2は図3(b)に示すように、その最表層の部分にTaC層を形成し、このTaC層の内側にTa2C層を形成し、更にその内側に基材としてのタンタル金属を配置した構成となっている。なお、タンタルと炭素の結合状態は温度依存性を示すため、前記坩堝2は、炭素濃度が高いTaCを最も表層の部分に配置するとともに、炭素濃度が若干低いTa2Cが内側に配置され、更に内側には、炭素濃度がゼロである基材のタンタル金属を配置した構成となっている。
【0052】
坩堝2を加熱処理する際には、図2の鎖線で示すように高温真空炉11の予備加熱室22に配置し、適宜の温度(例えば約800℃)で予備加熱する。次に、予め設定温度(例えば、約1800℃)まで昇温させておいた本加熱室21へ、予備加熱室22内の坩堝2をシリンダ部29の駆動によって移動させ、急速に昇温させる。
【0053】
なお、本加熱室21での加熱時において、坩堝2内の雰囲気は約1Pa以下の真空に維持されることが好ましい。なお、坩堝2内の真空は、上容器2aを除いた状態もしくは上容器2aと下容器2bの嵌合部分の隙間により実現される。
【0054】
本実施形態においては、以上のように構成される高温真空炉11と坩堝2を用いて基板から半導体ウエハを製造する。以下の説明において、単にCVD法や加熱処理等といった場合は上述した高温真空炉11を用いて行うものとする。
【0055】
次に、多結晶SiC基板を用いて半導体ウエハを製造する方法について説明する。図4は、分割型の半導体ウエハの模式図である。半導体ウエハは、半導体デバイスの複数チップ分の基になるものである。半導体ウエハには、半導体デバイスの1チップサイズを区切るように、溝部又は壁部が形成されている。この溝部又は壁部で半導体ウエハが切り分けられることにより、半導体ウエハを1チップサイズ毎に分割することができる。
【0056】
以下、溝部が形成された多結晶SiC基板70を用いて、半導体デバイスの境界に溝部が形成された分割型の半導体ウエハを製造する第1実施形態について説明する。図5及び図6は、半導体デバイスの境界に溝部を形成した構成の多結晶SiC基板70を用いて4H−SiC単結晶層を形成する半導体ウエハの製造方法を示す工程図である。
【0057】
初めに、図5(a)に示すように、複数の溝部70aと、当該溝部70aで区切られる凸部70bと、を有する多結晶SiC基板70を用意する。この溝部70aは、熱エッチングや研磨等の適宜の手段によって形成されており、凸部70bの1つが半導体デバイスの1チップサイズに対応した大きさとなっている。
【0058】
次に、基板70の表面にカーボン層71を形成するためのカーボン層形成工程を行う。カーボン層形成工程は高温真空炉11と坩堝2を用いて行う。まず、基板70を坩堝2に収容する。そして、高温真空炉11によって坩堝2内を高温かつ真空状態に保つことで、基板70の表面のSiが昇華し、残留したCによって、基板70の表面にカーボン層71が形成される(図5(b)を参照)。なお、基板70と、カーボン層形成工程で形成したカーボン層71と、の断面を撮影した顕微鏡写真の一例を図7に示す。
【0059】
なお、カーボン層形成工程の加熱処理は、予備加熱工程と、本加熱工程と、を含むことが好ましい。前記予備加熱工程では、基板70を収容した坩堝2を、予備加熱室において800℃以上の温度で加熱する。前記本加熱工程では、予め1500℃以上2300℃以下の温度で加熱されている本加熱室に前記予備加熱室から前記坩堝2を移動することで、基板70を1500℃以上2300℃以下の温度で加熱する。このように、予備加熱室から本加熱室へ移動させることで急速に昇温させて加熱処理を行うことにより、カーボン層形成工程を短時間で効率良く行うことができる。なお、この加熱処理は、炉内圧力が10-5Torr以下の真空下で加熱することが好ましい。
【0060】
上述したように、基板70には複数の溝部70aが形成されているので、カーボン層71には、この溝部70aと対応する位置に溝部71aが形成される。従って、カーボン層71は、複数の溝部71a及び凸部71bを有するように構成されることとなる。
【0061】
次に、カーボン層71に貫通孔を形成するための貫通孔形成工程を行う。この貫通孔の形成はレーザ装置を用いて行われる。本実施形態では、レーザ装置として赤外線レーザ装置を用いる。なお、貫通孔形成工程で使用するレーザ装置は、赤外線レーザ装置に限られず、基板70を傷つけることなくカーボン層71のみを除去するようにレーザ光の出力を調整可能であれば、他のレーザ装置を用いることができる。また、レーザ装置は、スポット径(対象にレーザ光を照射したときの当該レーザ光の直径)が50μm以下となるように調整可能であることが好ましい。本工程では、複数の凸部71bの中心部にそれぞれレーザ光が照射される。
【0062】
これにより、カーボン層71を一部除去して、貫通孔71cを形成することができる(図5(c)を参照)。そして、この貫通孔71cを通じて基板70の表面を露出させることができる。なお、カーボン層71に貫通孔71cが形成された様子を撮影した顕微鏡写真を図8に示す。
【0063】
次に、基板70の表面にフィーダ層を形成するためのフィーダ層形成工程を行う。この工程では、初めに、カーボン層71の表面にSiをCVD法により蒸着させてSi層72を形成する。そして、このSi層72を覆うように、3C−SiC多結晶層73をCVD法により蒸着させる(図5(d)を参照)。
【0064】
次に、4H−SiC単結晶層を形成するためのエピタキシャル層形成工程を行う。この工程では、真空中に不活性ガスを導入した希薄ガス雰囲気下で加熱処理を行う。また、加熱処理は、1600℃以上2300℃以下の範囲で行うことが好ましい。なお、この加熱温度を調整することにより、エピタキシャル層(4H−SiC単結晶層)のアスペクト比を制御可能である(詳細は後述)。
【0065】
加熱処理が行われることによって、3C−SiC多結晶層73の内側でSi層72が溶融し、図6(e)に示すように、Si融液層72aが3C−SiC多結晶層73の内側で形成される。このSi融液層72aは炭素移動媒体のように機能するため、加熱処理が継続されることによって、貫通孔71cにより露出している基板70の表面に、4H−SiC単結晶で構成される種結晶74が生成する(図6(e)を参照)。なお、この種結晶74を撮影した顕微鏡写真を図9に示す。
【0066】
そして、加熱処理が更に継続されることによって、準安定溶媒エピタキシー法(MSE法)によって、4H−SiC種結晶74が近接液相エピタキシャル成長し、4H−SiC単結晶層74aが形成される(図6(f)を参照)。
【0067】
ここでいうMSE法とは、シード層と、このシード層よりも自由エネルギーが大きいフィード層と、を対向配置し、両方の層の間に厚みの小さいSi溶融層を溶媒として介在させて真空高温環境で加熱処理する方法のことである。この方法により、自由エネルギーの差に基づいてSi溶融層に発生する濃度勾配(温度勾配に基づかない濃度勾配)を駆動力として、シード層側に4H−SiC単結晶を近接液相エピタキシャル成長させることができる。
【0068】
本実施形態においては、一旦形成した4H−SiC単結晶層74a(種結晶74)がシード層として機能し、このシード層よりも自由エネルギーが高い3C−SiC多結晶層73がフィード層として機能する。より具体的には、4H−SiC単結晶層74aと3C−SiC多結晶層73との自由エネルギーの差に基づいてSi溶融層に濃度勾配が発生し、この濃度勾配が駆動力となって、3C−SiC多結晶層73からSi融液層72aにSiとCが溶出する。Si融液層72aに取り込まれたCは、4H−SiC単結晶層74a側に移動し、そこでSiと結合することで、4H−SiC単結晶層74aが近接液相エピタキシャル成長する。
【0069】
ここで、本実施形態では、凸部71b同士の間に溝部71aが形成される構成である。そのため、エピタキシャル層形成工程において、隣接する4H−SiC単結晶層74a同士が干渉することを防止できる。これにより、基板70の領域を有効に活用して、効率的に半導体デバイスを製造することができる。
【0070】
その後、Si融液層72a及び3C−SiC多結晶層73を取り除くことにより、4H−SiC単結晶層74aが形成された半導体ウエハを得ることができる(図6(g)を参照)。
【0071】
次に、溝部の代わりに壁部が形成された多結晶SiC基板70を用いて、分割型の半導体ウエハを製造する第2実施形態について説明する。図10及び図11は、半導体デバイスの境界に壁部を形成した構成の多結晶SiC基板を用いて4H−SiC単結晶層を形成する半導体ウエハの製造方法を示す工程図である。以下の説明では、境界に溝部を形成したとき(第1実施形態)の工程と同様の工程については、説明を簡略化又は省略することがある。
【0072】
初めに、図10(a)に示すように、複数の壁部80aと、当該壁部80aで区切られる凹部80bと、を有する多結晶SiC基板80を用意する。この凹部80bは、熱エッチングや研磨等の適宜の手段によって形成されており、凹部80bの1つが半導体デバイス1チップサイズに対応した大きさとなっている。
【0073】
次に、基板80にカーボン層81を形成するためのカーボン層形成工程を行う。カーボン層形成工程では、第1の実施形態と同様に、基板80を坩堝2に収容して、高温真空炉11によって坩堝2内を高温かつ真空状態に保つ。この加熱処理により、基板80の表面のSiが昇華し、残留したCによって、基板80の表面にカーボン層81が形成される(図10(b)を参照)。
【0074】
基板80には複数の壁部80aが形成されているので、カーボン層81には、この壁部80aと対応する位置に壁部81aが形成される。従って、カーボン層81は、複数の壁部81a及び凹部81bを有する構成となる。
【0075】
次に、形成したカーボン層81に貫通孔を形成するための貫通孔形成工程を行う。この貫通孔の形成は、上記と同様に赤外線レーザ装置を用いて行われる。本工程では、複数の凹部81bの中心部にそれぞれレーザ光が照射される。
【0076】
これにより、カーボン層81を一部除去して、貫通孔81cを形成することができる(図10(c)を参照)。そして、この貫通孔81cを通じて基板80の表面を露出させることができる。
【0077】
次に、基板80の表面にフィーダ層を形成するためのフィーダ層形成工程を行う。この工程では、初めに、カーボン層81の表面にSiをCVD法により蒸着させてSi層72を形成する。そして、このSi層72を覆うように、3C−SiC多結晶層73をCVD法により蒸着させる(図10(d)を参照)。
【0078】
次に、4H−SiC単結晶層を形成するためのエピタキシャル層形成工程を行う。この工程では、前記高温真空炉11を用いて、1600℃以上2300℃以下の範囲で加熱処理を行う。加熱処理が行われることによって、3C−SiC多結晶層73の内側でSi層72が溶融し、図11(e)に示すように、Si融液層72aが3C−SiC多結晶層73の内側で形成される。そして、貫通孔81cを通じて露出している基板80の表面に、4H−SiC単結晶で構成される種結晶74が生成する(図11(e)を参照)。そして、加熱処理が継続されることによって、種結晶74がエピタキシャル成長して4H−SiC単結晶層74aが形成される(図11(f)を参照)。
【0079】
なお、本実施形態では、凹部81b同士の間に壁部81aが形成される構成であるため、エピタキシャル層形成工程において、隣接する4H−SiC単結晶層74a同士が干渉することを防止している。これにより、基板80の領域を有効に活用して、効率的に半導体デバイスを製造することができる。
【0080】
その後、Si融液層72a及び3C−SiC多結晶層73を取り除くことにより、4H−SiC単結晶層74aが形成された半導体ウエハを得ることができる(図11(g)を参照)。
【0081】
次に、エピタキシャル層形成工程における加熱温度(成長温度)を調整することにより、形成される4H−SiC単結晶層74aのアスペクト比を制御する構成について説明する。
【0082】
初めに、図12を参照して、Si融液の厚みと成長速度との関係について説明する。図12は、複数の成長温度における、成長速度とSi融液の厚みとの関係を示すグラフとである。
【0083】
図12のグラフの縦軸は、4H−SiC単結晶層の成長速度を示しており、横軸は、Si融液層の厚みの逆数を示している。そして、図12のグラフは、成長温度がそれぞれ、1500℃,1700℃,1800℃,1900℃のときにおける、Si融液層の厚みと、4H−SiC単結晶層の成長速度と、の関係を示している。
【0084】
このグラフからは、4H−SiC単結晶層は、それぞれの成長温度において、Si融液層の厚みが大きくなるにつれて成長速度が低下することが判る。これは、Si融液層の厚みが大きくなるにつれて、3C−SiC多結晶層と4H−SiC単結晶層とが離れるため、C原子の移動に時間が掛かってしまうためと考えられる。
【0085】
次に、図13及び図14を参照して、4H−SiC単結晶の成長速度と成長温度の関係について説明する。図13は、4H−SiC単結晶のSi面における、a軸方向及びc軸方向の成長速度変化を示すグラフとc軸方向に対するa軸方向の成長速度のアスペクト比率の変化を示すグラフである。図14は、4H−SiC単結晶のC面における、a軸方向及びc軸方向の成長速度変化を示すグラフとc軸方向に対するa軸方向の成長速度のアスペクト比率の変化を示すグラフである。
【0086】
図13(a)(b)及び図14(a)(b)のグラフの縦軸は、4H−SiC単結晶の成長速度を示しており、横軸は、成長温度を示している。そして、図13及び図14のグラフは、4H−SiC単結晶の面(Si面又はC面)と方向(a軸方向又はc軸方向)とを異ならせたときの、成長速度と成長温度の関係を示している。
【0087】
図13は、4H−SiC単結晶のSi面における成長速度と成長温度の関係を示している。図13(a)では、a軸方向の成長速度と成長温度の関係を示し、図13(b)では、c軸方向の成長速度と成長温度の関係を示している。図13(a)のグラフからは、成長温度を高くするにつれてa軸方向の成長速度が増加する傾向にあることが判る。一方、図13(b)のグラフからは、成長温度を高くするにつれてc軸方向の成長速度が減少する傾向にあることが判る。図13(c)はc軸方向に対するa軸方向の成長速度のアスペクト比率の変化を示すグラフであり成長温度を高くするにつれてアスペクト比率が大きく成る事が判る。
【0088】
これらの傾向は、図14に示すように、4H−SiC単結晶のC面においても同様である。つまり、C面においても、成長温度を高くすると、図14(a)に示すようにa軸方向の成長速度が増加する一方で、図14(b)に示すようにc軸方向の成長速度が減少する傾向を示し、図14(c)に示すようにc軸方向に対するa軸方向の成長速度のアスペクト比率の変化を示すグラフであり成長温度を高くするにつれてアスペクト比率が大きく成る事が判る。
【0089】
つまり、4H−SiC単結晶は、成長温度の変化に応じて、成長速度比(a軸方向の成長速度/c軸方向の成長速度)が変化する性質を有している。従って、成長温度の設定によって成長速度比を制御することができる。
【0090】
以上に基づいてエピタキシャル層形成工程の加熱温度を設定することにより、所望のアスペクト比の4H−SiC単結晶層74aを形成させることができる。また、成長温度に加え、図12で示したSi融液層72aの厚みを更に考慮することにより、水平方向(a軸方向)及び垂直方向(c軸方向)の具体的な成長速度を推察することができる。これにより、所望の形状の4H−SiC単結晶層74aを形成することができる。
【0091】
以上に示したように、本実施形態の半導体ウエハの製造方法は、カーボン層形成工程と、貫通孔形成工程と、フィード層形成工程と、エピタキシャル層形成工程と、を含む。カーボン層形成工程では、少なくとも表面が多結晶SiCで構成される基板70,80の表面にカーボン層71,81を形成する。貫通孔形成工程では、基板70,80に形成されたカーボン層71,81にレーザ光を照射して、当該カーボン層71,81に貫通孔71c,81cを形成する。フィード層形成工程では、基板70,80に形成されたカーボン層71,81の表面にSi層72を形成するとともに、当該Si層72の表面に3C−SiC多結晶層73を形成する。エピタキシャル層形成工程では、基板70,80に対して1600℃以上2300℃以下の温度範囲の加熱処理を行うことで、貫通孔71c,81cを通じて露出した基板70,80の表面に4H−SiC単結晶で構成される種結晶74を形成し、加熱処理を継続することで、種結晶74を近接液相エピタキシャル成長させて4H−SiC単結晶層74aを形成する。
【0092】
これにより、少なくとも表面が多結晶SiCで構成される基板を用いて半導体ウエハを製造することができる。従って、半導体ウエハの製造コストを低減することができるとともに、大口径の半導体ウエハを製造することができる。
【0093】
また、本実施形態の半導体ウエハの製造方法において、基板70,80の表面には、複数の溝部70a又は壁部80aが形成されている。貫通孔形成工程では、溝部70a又は壁部80aで囲まれた領域毎に貫通孔を形成する。エピタキシャル層形成工程では、4H−SiC単結晶層74aが前記領域毎に形成される。
【0094】
これにより、隣接する4H−SiC単結晶層74a同士の接触による成長阻害や接触部分における結晶転位の発生などの干渉を、溝部70a又は壁部80aによって防止できる。従って、複数チップ分の4H−SiC単結晶層74aが形成された半導体ウエハを、単一の種結晶からウエハ全体の面積まで成長するより短い成長時間で高品質に製造することができる。
【0095】
また、本実施形態の半導体ウエハの製造方法において、カーボン層形成工程では、1500℃以上2300℃以下の温度範囲であって10-5Torr以下の真空下で加熱することで、基板の表面のSi原子を昇華させてカーボン層71,81を形成する。
【0096】
これにより、炭素ナノ材料で構成される薄膜を基板70,80の表面に良好に生成できるので、貫通孔71c,81cを通じて露出した部分のみをエピタキシャル層形成工程において反応させることができる。また、カーボン層形成工程において、基板70,80とカーボン層71,81との間に不純物が侵入することを防止できる。
【0097】
また、本実施形態の半導体ウエハの製造方法において、貫通孔形成工程で用いられるレーザ光は、赤外線のレーザ光であり、スポット径が50μm以下である。
【0098】
これにより、貫通孔71c,81cを通じて露出する基板70,80の面積を小さくして、それぞれの貫通孔に単一の種結晶を生成させ、貫通孔内での複数の種結晶生成とそれらの接触による成長阻害や接触部分における結晶転位の発生を抑制して種結晶74を適切に生成することができる。
【0099】
また、本実施形態の半導体ウエハの製造方法においては、4H−SiC単結晶のa軸方向のエピタキシャル成長速度と温度との関係、及び、4H−SiC単結晶のc軸方向のエピタキシャル成長速度と温度との関係、に基づいてエピタキシャル層形成工程時の加熱温度を設定することで、4H−SiC単結晶層74aのアスペクト比をエピタキシャル層の水平方向(a軸方向)の寸度が、厚み方向(c軸方向)の寸度に対して5倍から10倍程度に調整する。
【0100】
これにより、様々な要求に応じて4H−SiC単結晶層74aのアスペクト比が調整された半導体ウエハを製造することができる。また、アスペクト比を調整するための特別な部材が必要ないため、製造装置を簡素化することができる。
【0101】
以上に本発明の実施形態を説明したが、上記の構成は更に以下のように変更することができる。
【0102】
図5及び図10等に示した多結晶SiC基板の形状は例示であり、要求される1チップサイズの大きさに応じて、適宜変更することができる。
【0103】
上記実施形態では、高温真空炉11によって高温かつ真空状態で加熱することで、基板70(又は基板80)の表面にカーボン層71を形成する構成であるが、カーボン層を形成する方法は、これの方法に限らない。例えば、CVD法、有機レジスト法、又は電子サイクロトロン共鳴スパッタ法等の公知の技術を移用して、カーボン層を形成することができる。
【0104】
上記実施形態では、フィーダ層形成工程において、カーボン層の表面にSi及び3C−SiC多結晶をCVD法により蒸着しているが、これをSi基板、多結晶SiC基板を積層して設置する形態としても良い。
【0105】
本発明を適用する限りにおいて、以上に説明してきた製造方法の一部を変更することができることは勿論である。また、上記実施形態で説明した温度条件や圧力条件等は一例であって、装置の構成や製造する半導体ウエハの用途等の事情に応じて適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0106】
70,80 多結晶SiC基板
71,81 カーボン層
71a 溝部
71c,81c 貫通孔
81a 壁部
72 Si層
72a Si融液層
73 3C−SiC多結晶層
74 種結晶
74a 4H−SiC単結晶層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が多結晶SiCで構成される基板の表面にカーボン層を形成するカーボン層形成工程と、前記基板に形成された前記カーボン層に貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、前記基板に形成された前記カーボン層の表面にSi層を形成するとともに、当該Si層の表面に多結晶SiCで構成されるフィード層を形成するフィード層形成工程と、前記基板に対して1600℃以上2300℃以下の温度範囲の加熱処理を行うことで、前記貫通孔を通じて露出した前記基板の表面に4H−SiC単結晶で構成される種結晶を形成し、前記加熱処理を継続することで、前記種結晶を近接液相エピタキシャル成長させて4H−SiC単結晶で構成されるエピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程と、を含むことを特徴とする半導体ウエハの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体ウエハの製造方法であって、前記基板の表面には、複数の溝部又は壁部が形成されており、前記貫通孔形成工程では、前記溝部又は前記壁部で囲まれた領域毎に前記貫通孔を形成し、前記エピタキシャル層形成工程では、4H−SiC単結晶で構成される前記エピタキシャル層が前記領域毎に形成されることを特徴とする半導体ウエハの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体ウエハの製造方法であって、前記カーボン層形成工程では、1500℃以上2300℃以下の温度範囲の真空下で加熱することで、前記基板の表面のSi原子を昇華させて前記カーボン層を形成することを特徴とする半導体ウエハの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の半導体ウエハの製造方法であって、前記カーボン層形成工程では、化学気相成長法、有機レジスト法、又は電子サイクロトロン共鳴スパッタ法によって前記カーボン層を形成することを特徴とする半導体ウエハの製造方法。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の半導体ウエハの製造方法であって、前記貫通孔形成工程では赤外線のレーザ光を用いてカーボン層に貫通孔を形成し、赤外線のレーザ光のスポット径が100μm以下であることを特徴とする半導体ウエハの製造方法。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の半導体ウエハの製造方法であって、前記貫通孔を通じて露出した前記基板の表面に4H−SiC単結晶で構成される種結晶を形成し、前記加熱処理を継続することで、前記種結晶を近接液相エピタキシャル成長させて4H−SiC単結晶で構成されるエピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程においては、4H−SiC単結晶で構成されるエピタキシャル層の水平方向のエピタキシャル成長速度が厚み方向のエピタキシャル成長速度より5倍から10倍早く成長できることを特徴とする半導体ウエハの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載の半導体ウエハの製造方法により製造された半導体ウエハであり、
前記種結晶を近接液相エピタキシャル成長させる加熱処理温度を制御することにより4H−SiC単結晶で構成されるエピタキシャル層の水平方向の寸度が、厚み方向の寸度に対して5倍から10倍のアスペクト比率に制御された半導体ウエハ。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−43822(P2013−43822A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185181(P2011−185181)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(503092180)学校法人関西学院 (71)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】