説明

半導体デバイス用基板の洗浄液及び洗浄方法

【課題】半導体デバイス用基板、特に表面に金属配線を有する半導体デバイス用基板を化学的機械的研磨工程後の洗浄工程に用いられ、金属配線に対する十分な防食性を有し、残渣の発生及び基板表面への残渣の付着を抑制することができる洗浄液を提供する。
【解決手段】半導体デバイス製造における化学的機械的研磨工程の後に行われる、半導体デバイス用基板の洗浄工程に用いられる洗浄液であって、N−アシル−L−システイン及び下記一般式(1)で表される有機第4級アンモニウム水酸化物を含有し、かつpHが1.5以上、6.5未満である半導体デバイス用基板洗浄液。
(R14+OH- (1)
(但し、R1は水酸基、アルコキシ基、又はハロゲンにて置換されていてもよいアルキル基を示し、4個のR1は全て同一でもよく、互いに異なっていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的機械的研磨工程後の表面に露出した金属を有する半導体デバイス用基板表面を効果的に洗浄するための洗浄液に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス用基板は、まず、シリコンウェハ基板の上に、配線となる金属膜や層間絶縁膜の堆積層を形成した後に、研磨微粒子を含む水系スラリーからなる研磨剤を使用する化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing、以下、「CMP」と称す。)によって表面の平坦化処理を行い、平坦となった面の上に新たな層を積み重ねて行くことで製造される。半導体デバイス用基板の微細加工においては、各層における精度の高い平坦性が必要であり、CMPによる平坦化処理の重要性はますます高まっている。
【0003】
一方、最近の半導体デバイス製造工程では、デバイスの高速化・高集積化のために抵抗値の低い銅(Cu)膜からなる配線(Cu配線)が導入されてきている。
Cuは加工性がよいため微細加工に適するが、水中では酸化劣化しやすく、また、酸性分やアルカリ成分によって腐食しやすいことから、CMP工程において、Cu配線の酸化や腐食が問題となっている。そのため、従来、Cu配線を有する半導体デバイス用基板のCMPにおいて、研磨剤にはベンゾトリアゾールやトリルトリアゾール等の防食剤が添加されており、この防食剤がCu表面に強く吸着して保護膜を形成することにより、CMPにおけるCu配線の腐食を抑制していた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、CMP工程後の半導体デバイス用基板は、CMPによって発生したCu配線や層間絶縁膜の削り粉を除去するために洗浄工程に供されるが、この洗浄工程においても、Cu配線の酸化劣化や腐食が問題となっている。
この酸化劣化や腐食を防止するために、洗浄工程に用いる洗浄液に防食剤を添加する方法が提案されているが、従来CMPに使用されている防食剤は、Cu配線から溶出したCuイオンと錯体を形成して基板への付着性を有する残渣を発生させるという問題があった。一方で、これまでに知られている残渣生成の少ない防食剤を使用すると、上述の残渣は生成しないが、Cu配線の酸化劣化や腐食の抑制が不十分となるという問題があった。また、特許文献2には、システインなど分子内にチオール基を有するアミノ酸を含む金属腐食防止剤が開示されているが、残渣形成の回避という点で十分とは言えなかった。
このように従来の洗浄液において、防食性と残渣形成の回避を両立できるものは見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4406554号公報
【特許文献2】特開2003−13266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる状況下、本発明の目的は、半導体デバイス用基板、特に表面に金属配線を有する半導体デバイス用基板におけるCMP工程後の洗浄工程に用いられ、金属配線に対する十分な防食性を有し、残渣の発生及び基板表面への残渣の付着を抑制することができる洗浄液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 半導体デバイス製造における化学的機械的研磨工程の後に行われる、半導体デバイス用基板の洗浄工程に用いられる洗浄液であって、N−アシル−L−システイン及び下記一般式(1)で表される有機第4級アンモニウム水酸化物を含有し、かつpHが1.5以上、6.5未満である半導体デバイス用基板洗浄液。
(R14+OH- (1)
(但し、R1は水酸基、アルコキシ基、又はハロゲンにて置換されていてもよいアルキル基を示し、4個のR1は全て同一でもよく、互いに異なっていてもよい。)
<2> N−アシル−L−システインの洗浄液中の濃度が、1〜5000質量ppmである前記<1>に記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
<3> N−アシル−L−システインが、N−アセチル−L−システインである前記<1>又は<2>に記載の半導体デバイス用基板用洗浄液。
<4> 一般式(1)で表される有機第4級アンモニウム水酸化物におけるR1が、水酸基、炭素数1〜3のアルコキシ基、又はハロゲンにて置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基である請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
前記<1>から<3>のいずれかに記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
<5> 洗浄液が、有機酸及びスルホン酸型アニオン性界面活性剤を含有する前記<1>から<4>のいずれかに記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
<6> 有機酸が、カルボキシル基を1以上有する炭素数1〜10の有機酸である前記<1>から<5>のいずれかに記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
<7> 有機酸が、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸及び酢酸からなる群から選ばれた少なくとも1種である前記<6>に記載の半導体デバイス基板用洗浄液。
<8> スルホン酸型アニオン性界面活性剤が、アルキルスルホン酸及びその塩、アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸及びその塩、アルキルメチルタウリン酸及びその塩、並びにスルホコハク酸ジエステル及びその塩から成る群から選ばれた少なくとも1種である前記<5>から<7>のいずれかに記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
<9> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の半導体デバイス用基板洗浄液を用いて、化学的機械的研磨処理した後の表面に露出した金属を有する半導体デバイス用基板を洗浄する半導体デバイス用基板の洗浄方法。
<10> 前記金属が、銅及び/又は銅を含む合金である前記<9>に記載の半導体デバイス用基板の洗浄方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の洗浄液を用いることにより、CMP工程後の半導体デバイス用基板の洗浄工程において、金属配線に対する十分な防食性を有し、残渣の発生及び基板表面への残渣の付着を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、半導体デバイス製造における化学的機械的研磨(CMP)工程の後に行われる、半導体デバイス用基板の洗浄工程に用いられる洗浄液であって、N−アシル−L−システイン及び下記一般式(1)で表される有機第4級アンモニウム水酸化物を含有し、かつpHが1.5以上、6.5未満である半導体デバイス用基板洗浄液に関する。
(R14+OH- (1)
(但し、R1は水酸基、アルコキシ基、又はハロゲンにて置換されていてもよいアルキル基を示し、4個のR1は全て同一でもよく、互いに異なっていてもよい。)
【0010】
本発明の洗浄液は、防食剤としてN−アシル−L−システイン、洗浄効果を高める作用を有する有機アルカリ成分として一般式(1)で表される有機第4級アンモニウム水酸化物を必須成分として含有し、両成分の作用が両立するpH範囲に調整されていることにより、金属配線に対する十分な防食性を有し、残渣の発生及び基板表面への残渣の付着を抑制するものである。
【0011】
本発明の洗浄液の溶媒としては、水が用いられ、不純物を極力低減させた脱イオン水や超純水を用いることが好ましい。なお、本発明の効果を損なわない範囲において、エタノールなど水以外の溶媒を含んでいてもよい。
【0012】
本発明の洗浄液において、N−アシル−L−システインの濃度は、好ましくは1〜5000質量ppm、特に好ましくは10〜2000質量ppmである。洗浄液中のN−アシル−L−システインの濃度が、1質量ppm未満であると金属配線に対する防食効果が不十分となるおそれがあり、5000質量ppmを超えると残渣の原因となるおそれがあり、また添加量の増加に見合う効果の向上は見られず効率的でない。
【0013】
本発明の洗浄液に用いるN−アシル−L−システインとしては、アシル基の炭素数2〜10、好ましくは炭素数2〜5のN−アシル−L−システインが挙げられる。特にアシル基の炭素数2のN−アセチル−L−システインが好ましい。
【0014】
本発明の洗浄液に用いる有機第4級アンモニウム水酸化物は、以下の一般式(1)で表される。
(R14+OH- (1)
(但し、R1は水酸基、アルコキシ基、又はハロゲンにて置換されていてもよいアルキル基を示し、4個のR1は全て同一でもよく、互いに異なっていてもよい。)
【0015】
第4級アンモニウム水酸化物としては、上記一般式(1)において、R1が水酸基、炭素数1〜3のアルコキシ基、又はハロゲンにて置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基、特に炭素数1〜3のアルキル基及び/又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基であるものが好ましい。R1のアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜3の低級アルキル基が、ヒドロキシアルキル基としてはヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等の炭素数1〜3の低級ヒドロキシアルキル基が挙げられる。
【0016】
この第4級アンモニウム水酸化物としては具体的には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド(通称:コリン)、トリエチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0017】
上述の有機アルカリ成分の中でも洗浄効果、金属残留が少ないこと、経済性、洗浄液の安定性などの理由から、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、トリメチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド(通称:コリン)などが特に好ましい。これらの有機アルカリ成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0018】
本発明の洗浄液中における第4級アンモニウム水酸化物の含有量は、水リンス性を充分良好にするためには、洗浄液に対して通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上である。ただし、汚染除去効果が高いことや経済的であることを重視すれば、第4級アンモニウム水酸化物の含有量は、通常30質量% 以下、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。なお、第4級アンモニウム水酸化物の濃度が高すぎると逆に汚染除去効果が低下する場合がある。
【0019】
本発明の洗浄液のpHは、1.5以上6.5未満であることを必須とする。ここで、特に基板表面の腐食を抑制するために好適なpHは2以上、好ましくは3以上であり、特に金属汚染の除去を充分に行うために好適なpHは6以下、更に好ましくは5以下である。
なお、本発明の洗浄液におけるpHは、洗浄液に含まれる各成分の添加量により調整することができる。
【0020】
本発明の洗浄液は、上記N−アシル−L−システイン、有機第4級アンモニウム水酸化物以外に、洗浄効果を高めるために、有機酸、有機第4級アンモニウム水酸化物以外の有機アルカリ成分、界面活性剤等の成分を必要に応じて含有していてもよく、特に有機酸及び界面活性剤としてスルホン酸型界面活性剤を含有することが好ましい。
以下、これらの防食剤以外の成分について説明する。
【0021】
成分(A):有機酸
有機酸(以下、成分(A)と称す場合がある。)は、水中で酸性(pH<7)を示す有機化合物の総称で、カルボキシル基(−COOH)、スルホ基(−SO3H)、フェノール性ヒドロキシル基(−ArOH:Arはフェニル基等のアリール基)、メルカプト基(−SH)等の酸性の官能基を持つ有機化合物を表す。
使用される有機酸は特に限定されないが、カルボキシル基を1以上有する炭素数1〜10のカルボン酸が好ましい。より好ましくは炭素数1〜8のカルボン酸であり、さらに好ましくは炭素数1〜6のカルボン酸である。
カルボン酸としてはカルボキシル基を1以上有するものであればよく、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸等を適宜用いることができ、また、オキシカルボン酸、アミノカルボン酸などカルボキシル基以外の官能基を含むものであってもよい。
この中でも、特に好ましくはシュウ酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸及び酢酸が挙げられる。
これらの有機酸は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の割合で併用してもよい。また、成分(A)として、多価有機酸の酸性塩を用いることもできる。
【0022】
本発明の洗浄液中における成分(A)の含有量は、汚染の除去を充分に行うためには、洗浄液に対して通常0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上とする。ただし、基板表面を腐食させないことや経済的であることを重視すれば、成分(A)の含有量は通常30質量%以下、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下とする。成分(A)の濃度が高すぎても濃度に見合う効果の増大は得られない。
【0023】
成分(B):スルホン酸型アニオン性界面活性剤
本発明の洗浄液において用いることができるスルホン酸型アニオン性界面活性剤(以下、成分(B)と称す場合がある。)としては、例えば、アルキルスルホン酸及びその塩、アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸及びその塩、アルキルメチルタウリン酸及びその塩、並びにスルホコハク酸ジエステル及びその塩等が挙げられる。
なお、スルホン酸型アニオン性界面活性剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
好ましいスルホン酸型アニオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデカンスルホン酸及びこれらのアルカリ金属塩等が挙げられる。
この中でも、品質の安定性や入手のしやすさから、ドデシルベンゼンスルホン酸及びそのアルカリ金属塩が好適に用いられる。
【0024】
なお、洗浄工程の前工程であるCMP工程では、研磨剤を用いて基板をパッドに擦り付けて研磨が行われる。
研磨剤には、コロイダルシリカ(SiO2)、フュームドシリカ(SiO2)、アルミナ(Al23)、セリア(CeO2)などの研磨粒子が含まれる。このような研磨粒子は、半導体デバイス用基板の微粒子汚染の主因となる。
本発明の洗浄液が界面活性剤を含むと、界面活性剤が、基板に付着した微粒子を洗浄液中に分散させる作用を有しているため、微粒子汚染に対して高い洗浄効果を示す。
【0025】
本発明の洗浄液中における界面活性剤の含有量は、洗浄液に対して通常0.0001質量%以上、好ましくは0.0003質量% 以上、さらに好ましくは0.001質量%以上とする。ただし、過度の泡立ちを抑えることや廃液処理の負荷を軽減することを重視すれば、界面活性剤の含有量は通常1質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以下とする。界面活性剤の濃度が高すぎてもそれ以上の効果は得られない。
【0026】
なお、界面活性剤は、通常市販されている形態において1〜数千質量ppm程度のNa、K、Fe等の金属不純物を含有している場合があり、この場合には、界面活性剤が金属汚染源となる。そのため、界面活性剤の各金属不純物の含有量は、通常10ppm以下、好ましくは1ppm以下、更に好ましくは0.3ppm以下となるように、界面活性剤を精製して使用することが好ましい。この精製方法としては、例えば、界面活性剤を水に溶解した後、イオン交換樹脂に通液し、樹脂に金属不純物を捕捉させる方法が好適である。このようにして精製された界面活性剤を使用することで、金属不純物含有量が極めて低減された洗浄液を得ることができる。
【0027】
また、本発明の洗浄液は、その性能を損なわない範囲において、上記成分(A)、(B)以外の成分を任意の割合で含有していてもよい。
他の成分としては、
水素、アルゴン、窒素などの溶存ガス、フッ酸、フッ化アンモニウム、BHF(バッファードフッ酸)等のドライエッチング後に強固に付着したポリマー等の除去効果が期待できるエッチング促進剤;
ヒドラジン等の還元剤;
過酸化水素、オゾン、酸素などの酸化剤;
等が挙げられる。
なお、洗浄対象となる半導体デバイス用基板において、配線として、過酸化水素と反応して溶解するCu等の金属材料が露出している場合がある。この際、洗浄に使用する洗浄液は、過酸化水素を実質的に含有しないことが好ましい。
【0028】
本発明の洗浄液の製造方法は、従来公知の方法によればよく、洗浄液の構成成分を混合することで製造することができる。
混合順序も、反応や沈殿物が発生するなど特段の問題がない限り任意であり、洗浄液の構成成分のうち、何れか2成分又は3成分以上を予め配合し、その後に残りの成分を混合してもよいし、一度に全部を混合してもよい。
【0029】
本発明の洗浄液は、洗浄に適した濃度になるように、N−アシル−L−システイン及び有機第4級アンモニウム水酸化物、並びに必要に応じて添加されるその他の成分の濃度を調整して製造することもできるが、輸送、保管時のコストを抑制する観点から、それぞれの成分を高濃度で含有する洗浄液(以下、「洗浄原液」と称す場合がある。)を製造したのちに、溶媒である水で希釈して使用されることも多い。
この洗浄原液における各成分の濃度は、特に制限はないが、N−アシル−L−システイン及び有機第4級アンモニウム水酸化物、並びに必要に応じて添加される他の成分並びにこれらの反応物が、洗浄原液中で分離したり、析出しない範囲であることが好ましい。
【0030】
次いで、本発明の洗浄方法について説明する。
【0031】
洗浄対象となる半導体デバイス用基板としては、半導体、ガラス、金属、セラミックス、樹脂、磁性体、超伝導体などの各種半導体デバイス用基板が挙げられる。
本発明の洗浄液は、金属表面を腐食することなく、かつ、短時間のリンスで除去ができるため、配線などとして表面に金属又は金属化合物を有し、かつ、CMP工程後に半導体デバイス用基板を洗浄する場合に特に好適に適用される。
【0032】
ここで、半導体デバイス用基板に使用される上記金属としては、W、Cu、Ti、Cr、Co、Zr、Hf、Mo、Ru、Au、Pt、Ag等が挙げられ、金属化合物としては、これらの金属の窒化物、酸化物、シリサイド等が挙げられる。 本発明の洗浄方法において、これらの金属及び金属化合物の中でも銅及び/又は銅を含む合金が特に好適な洗浄対象である。
【0033】
本発明の洗浄方法は、本発明の洗浄液を半導体デバイス用基板に直接接触させる方法で行われる。
【0034】
洗浄液の基板への接触方法には、洗浄槽に洗浄液を満たして基板を浸漬させるディップ式、ノズルから基板上に洗浄液を流しながら基板を高速回転させるスピン式、基板に洗浄液を噴霧して洗浄するスプレー式などが挙げられる。この様な洗浄を行うための装置としては、カセットに収容された複数枚の基板を同時に洗浄するバッチ式洗浄装置、1枚の基板をホルダーに装着して洗浄する枚葉式洗浄装置などがある。
【0035】
本発明の洗浄液は、上記の何れの方法にも適用できるが、短時間でより効率的な汚染除去が出来る点から、スピン式やスプレー式の洗浄に好ましく使用される。また、洗浄時間の短縮、洗浄液使用量の削減が望まれている枚葉式洗浄装置にも好適に適用することができる。
【0036】
また、本発明の洗浄方法は、物理力による洗浄方法、特に、洗浄ブラシを使用したスクラブ洗浄や周波数0.5メガヘルツ以上の超音波洗浄を併用すると、基板に付着した微粒子による汚染の除去性が更に向上し、洗浄時間の短縮にも繋がるので好ましい。特に、CMP工程後の洗浄工程においては、樹脂製ブラシを使用してスクラブ洗浄を行うのが好ましい。樹脂製ブラシの材質は、任意に選択し得るが、例えばPVA(ポリビニルアルコール)を使用するのが好ましい。
【0037】
更に、本発明による洗浄の前及び/又は後に、水による洗浄を行ってもよい。
【0038】
本発明の洗浄方法において、洗浄液の温度は、通常は室温とされるが、性能を損なわない範囲で、40〜70℃程度に加温してもよい。
【実施例】
【0039】
次に実施例と比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0040】
<実施例及び比較例の洗浄液の作製>
混合用容器に表1に示す各成分を入れ、室温で攪拌し完全に溶解するまで混合することで実施例及び比較例の洗浄液を作製した。
なお、表1中、洗浄液中の各成分の略号は次の通りである。
「防食剤成分」
・NAC:N−アセチル−l−システイン
・BTA:ベンゾトリアゾール
・TT―LYK:城北化学製 2、2’―[[(メチル−1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)メチル]イミノ]ビスエタノール
・CBT:城北化学製 カルボキシベンゾトリアゾール
「有機第4級アンモニウム水酸化物」
・TMAH:テトラメチルアンモニウムヒドロキシド
「成分(B):スルホン酸型アニオン性界面活性剤」
・DBS:ドデシルベンゼンスルホン酸
【0041】
<防食性ならびに残渣の有無の評価>
90nm/90nmのくし型の銅の配線パターンの基板(次世代半導体材料技術研究組合製 CMP4−TEG)を25℃に保った各洗浄液中で30分間静置したのち、超純水で10秒間リンスし、エアーブローによって乾燥することで評価用の基板を得た。
得られた基板を電界放射型走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製 「JSM−6320F」)で観察し、防食性と残渣の有無を評価した。結果を表1に併せて示す。
なお、防食性は、銅の配線パターンの腐食の進行具合で判断し、表1における表記は、以下の通りである。
○:腐食が確認されない
△:若干の腐食が確認される
×:著しい腐食が確認される
また、残渣の有無は、配線上に析出している結晶状の残渣の有無によって判断した。
【0042】
【表1】

【0043】
表1よりN−アセチル−l−システイン(NAC)及びテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)を含有する実施例1の洗浄液は耐腐食性の向上及び防食剤成分由来の残渣が発生しないことを両立できていることがわかる。
一方、比較例1、2のように防食剤成分を加えない場合では腐食が発生していることが確認された。また、防食成分としてN−アセチル−l−システインの代わりにシステインを用いた比較例3では、防食剤成分由来と思われる残渣が発生した。同様に比較例4〜6のように銅への錯化能力及びその錯体の不溶性が高い防食成分を含有する場合、防食成分由来と思われる残渣の発生が確認された。これらの結果より本発明の洗浄液を用いれば、高清浄の洗浄と腐食の抑制の両立が可能になると予想される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の半導体デバイス用基板洗浄液は、半導体デバイス用基板表面の金属を腐食することなく、基板に付着した微粒子や有機汚染、金属汚染を同時に除去することが可能であり、水リンス性も良好であることから、本発明は半導体デバイスやディスプレイデバイスなどの製造工程における汚染半導体デバイス用基板の洗浄処理技術として、工業的に非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体デバイス製造における化学的機械的研磨工程の後に行われる、半導体デバイス用基板の洗浄工程に用いられる洗浄液であって、N−アシル−L−システイン及び下記一般式(1)で表される有機第4級アンモニウム水酸化物を含有し、かつpHが1.5以上、6.5未満であることを特徴とする半導体デバイス用基板洗浄液。
(R14+OH- (1)
(但し、R1は水酸基、アルコキシ基、又はハロゲンにて置換されていてもよいアルキル基を示し、4個のR1は全て同一でもよく、互いに異なっていてもよい。)
【請求項2】
N−アシル−L−システインの洗浄液中の濃度が、1〜5000質量ppmであることを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
【請求項3】
N−アシル−L−システインが、N−アセチル−L−システインであることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
【請求項4】
一般式(1)で表される有機第4級アンモニウム水酸化物におけるR1が、水酸基、炭素数1〜3のアルコキシ基、又はハロゲンにて置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
【請求項5】
洗浄液が、有機酸及びスルホン酸型アニオン性界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
【請求項6】
有機酸が、カルボキシル基を1以上有する炭素数1〜10の有機酸であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
【請求項7】
有機酸が、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸及び酢酸からなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項6に記載の半導体デバイス基板用洗浄液。
【請求項8】
スルホン酸型アニオン性界面活性剤が、アルキルスルホン酸及びその塩、アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸及びその塩、アルキルメチルタウリン酸及びその塩、並びにスルホコハク酸ジエステル及びその塩から成る群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の半導体デバイス用基板洗浄液を用いて、化学的機械的研磨処理した後の表面に露出した金属を有する半導体デバイス用基板を洗浄することを特徴とする半導体デバイス用基板の洗浄方法。
【請求項10】
前記金属が、銅及び/又は銅を含む合金であることを特徴とする請求項9に記載の半導体デバイス用基板の洗浄方法。

【公開番号】特開2012−49387(P2012−49387A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191108(P2010−191108)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】