説明

半導体ナノ粒子含有膜、半導体ナノ粒子及びそれを用いた生体物質標識剤

【課題】発光強度が、粒径によらず、ほぼ均一で高い発光が得られる半導体ナノ粒子含有膜及び半導体ナノ粒子を提供する。また、当該半導体ナノ粒子を用いた生体物質標識剤を提供する。
【解決手段】スパッタ法により形成された半導体ナノ粒子含有膜であって、膜厚が0.5〜10μmであり、当該膜内に、結晶化した半導体ナノ粒子が、5.0×10〜1.0×10個/μm含有されていることを特徴とする半導体ナノ粒子含有膜及びそれから分取り出された半導体ナノ粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ナノ粒子含有膜と、それから分散媒体中に取り出されたことを特徴とする半導体ナノ粒子、及び当該半導体ナノ粒子を用いた生体物質標識剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノテクノロジーにおける最近の進歩は、ナノ粒子を、検出、診断、感知及びその他の用途に使用することの可能性を示唆している。また、生物系と相互作用するナノ粒子複合体は、最近生物及び医学の分野で広く関心を集めている。これらの複合体は、感知(例えば画像化)及び治療目的(例えば薬物送達)の両方にとって新規血管内プローブとして有望であると考えられている。
【0003】
一般に、ナノ・メートルサイズの半導体物質で量子閉じ込め(quantum confinement)効果を示す物質は「量子ドット」と称されている。このような量子ドットは、半導体原子が数百個から数千個集まった10数nm程度以内の小さな塊であるが、励起源から光を吸収してエネルギー励起状態に達すると、量子ドットのエネルギーバンドギャップに相当するエネルギーを放出する。したがって、量子ドットの大きさまたは物質組成を調節すると、エネルギーバンドギャップを調節することができて様々な水準の波長帯のエネルギーを利用することができる可能性があると考えられている。
【0004】
しかしながら、量子ドットは、結晶構造をもち、粒径によりバンドギャップが変化するという性質を持ち、バンドギャップの変化に伴い発光波長が変化するため、個々の粒径のばらつきが、直接粒子毎の発光スペクトルのばらつきにつながる。これを回避するには、単一スペクトルの粒子を分級するなど煩雑な操作が必要になるなどの原理的な問題を抱えている。
【0005】
ところで、シリコン(Si)は、電子材料として最もよく用いられている材料であり、ナノメータレベルのデバイスを作製する要素として大きな期待を集めており、Siナノ粒子の種々の作製方法が検討され、提案されている。例えば、特許文献1及び2には、スパッタ法によりSiO膜中にSi原子集団を作製し、熱処理・フッ酸工程を行うことでSiナノ粒子を取り出す方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、当該方法では、SiO膜内のSi原子数密度とSiナノ粒子の粒径が変わることで、一定の発光強度が得にくいという問題がある。
【0007】
一方、この半導体ナノ粒子関連技術分野の研究・開発、特に、生物及び医学の分野への応用を目指す研究・開発は、緒に就いたばかりであり、解決すべき課題が山積されている状況にある(例えば、特許文献3及び4参照。)。
【特許文献1】特開2006−70089号公報
【特許文献2】特開2007−63378号公報
【特許文献3】特開2004−99349号公報
【特許文献4】特開2005−314408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、発光強度が、粒径によらず、ほぼ均一で高い発光が得られる半導体ナノ粒子含有膜及び半導体ナノ粒子を提供することである。また、当該半導体ナノ粒子を用いた生体物質標識剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0010】
1.スパッタ法により形成された半導体ナノ粒子含有膜であって、膜厚が0.5〜10μmであり、当該膜内に、結晶化した半導体ナノ粒子が、5.0×10〜1.0×10個/μm含有されていることを特徴とする半導体ナノ粒子含有膜。
【0011】
2.前記1記載の半導体ナノ粒子含有膜から分散媒中に取り出されたことを特徴とする半導体ナノ粒子。
【0012】
3.前記1記載の半導体ナノ粒子含有膜から取り出された半導体ナノ粒子であって、シリコン(Si)又はゲルマニウム(Ge)の少なくとも一方を含有することを特徴とする前記2に記載の半導体ナノ粒子。
【0013】
4.前記1記載の半導体ナノ粒子含有膜から取り出された半導体ナノ粒子であって、その表面が親水化処理されていることを特徴とする前記2又は3に記載の半導体ナノ粒子。
【0014】
5.前記1記載の半導体ナノ粒子含有膜から取り出された半導体ナノ粒子と分子標識物質とを有機分子を介して結合させたことを特徴とする生体物質標識剤。
【0015】
6.前記分子標識物質が、ヌクレオチド鎖であることを特徴とする前記5に記載の生体物質標識剤。
【0016】
7.前記半導体ナノ粒子と分子標識物質とを結合させる有機分子が、ビオチン及びアビジンであることを特徴とする前記5又は6に記載の生体物質標識剤。
【発明の効果】
【0017】
本発明の上記手段により、発光強度が、粒径によらず、ほぼ均一で高い発光が得られる半導体ナノ粒子含有膜及び半導体ナノ粒子を提供することができる。また、当該半導体ナノ粒子を用いた生体物質標識剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の半導体ナノ粒子含有膜は、スパッタ法により形成された半導体ナノ粒子含有膜であって、膜厚が0.5〜10μmであり、当該膜内に、結晶化した半導体ナノ粒子が、5.0×10〜1.0×10個/μm含有されていることを特徴とする。この特徴は、請求項1〜7に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0019】
本発明において、本発明に係る半導体粒子は、当該半導体ナノ粒子含有膜から分散媒中に取り出された半導体ナノ粒子であることが好ましい。また、当該半導体ナノ粒子は、シリコン(Si)又はゲルマニウム(Ge)の少なくとも一方を含有する態様であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る半導体ナノ粒子は、生体物質標識剤に適用できるが、そのためには、当該半導体ナノ粒子は、その表面が親水化処理されていることが好ましい。
【0021】
本発明に係る半導体ナノ粒子を生体物質標識剤に適用する場合、当該半導体ナノ粒子と分子標識物質とを有機分子を介して結合させた態様の生体物質標識剤とすることが好ましい。その際は、前記分子標識物質が、ヌクレオチド鎖であることが好ましい。また、当該半導体ナノ粒子と分子標識物質とを結合させる有機分子が、ビオチン及びアビジンであることが好ましい。
【0022】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための最良の形態・態様について詳細な説明をする。
【0023】
(半導体ナノ粒子)
本発明に係る半導体ナノ粒子は、種々の半導体材料を用いて形成することができる。
【0024】
本発明において用いることができる半導体材料としては、以下のようなものが挙げられる。例えば、元素の周期表のIV族、II−VI族、及びIII−V族の半導体化合物を用いることができる。
【0025】
II−VI族の半導体の中では、MgS、MgSe、MgSe、MgTe、CaS、CaSe、CaTe、SrS、SrSe、SrTe、BaS、BaSe、BaTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、HgS、HgSe及びHgTeを挙げることができる。
【0026】
III−V族の半導体の中では、GaAs、GaN、GaPGaSb、InGaAs、InP、InN、InSb、InAs、AlAs、AlP、AlSb及びAlSを挙げることができる。
【0027】
IV族の半導体の中では、Ge、Pb及びSiを挙げることができるが、Ge及びSiがより好ましく、特に、毒性が殆ど無いことから、Siが最も適している。
【0028】
(半導体ナノ粒子含有膜と半導体ナノ粒子の製造方法)
本発明の半導体ナノ粒子含有膜と半導体ナノ粒子の半導体ナノ粒は、下記の工程を有する態様の製造方法により製造することが好ましい。
工程(1):ガス中で半導体ナノ粒子を含んだ膜を作製し、熱処理をする工程
工程(2):上記(1)で作製した半導体ナノ粒子を液中に取り出す工程
工程(3):上記(1)で作製した半導体ナノ粒子、又は上記(2)で分散媒中に取り出した半導体ナノ粒子に表面修飾を施す工程
上記工程(1)は、例えば、Si/SiOのスパッタリングで酸化ケイ素(SiO)膜内にSi原子集団を形成する工程と原子集団を熱処理によってSiナノ粒子を作製する工程を含む。
【0029】
具体的には、真空チャンバー内に不活性ガス(例えばArガス)を導入し、高周波コントローラによりイオン化された不活性ガス(Arガス)イオンをSiチップと石英ガラスからなるターゲット材料に衝突させる。これらの放出された原子および分子を半導体基板上に堆積し、酸化ケイ素膜内にSi原子が混ざった膜を形成する。次に、得られたSi原子を含有した酸化ケイ素膜を不活性ガス(Arガス)雰囲気中で、所定温度まで急速に昇温し熱処理を行い、膜中のSi原子を所望の粒径まで凝集させる。
【0030】
上記工程(2)は、SiO膜内のSiナノ粒子をフッ酸蒸気にあてる工程と超音波をあて粒子を取り出す工程を含む。
【0031】
具体的には、得られたSiナノ粒子含有酸化ケイ素膜を40℃程度のフッ酸蒸気にさらすことで、表面処理を行う。次に、自然酸化、又は過熱酸化処理を行う。その後、シリコンナノ粒子含有酸化ケイ素膜を分散媒(例えばエタノール)中に投入して、超音波処理を所定時間行う。
【0032】
当該工程(2)において、分散媒としては、従来周知の種々の溶媒を使用できるが、エチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、純水等を使用することができる。
【0033】
上記工程(3)は、ナノ粒子の酸化膜、表面修飾を施す工程を含む。
【0034】
当該工程(3)では、表面修飾は末端に生体親和性をもつ官能基を持つ二重結合含有化合物を使用することができる。本発明においては、従来周知の種々のキャッピング剤を使用できるが、例えば、アリルアミン、ジアリルアミン、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、ビニルピロリジン、ビニルカルバゾールビニルイミダゾール、N−ビニルアセタミドなどが好ましい。
【0035】
本発明においては、半導体ナノ粒子含有膜は、スパッタ法により形成された半導体ナノ粒子含有膜であって、膜厚が0.5〜10μmであり、当該膜内に、結晶化した半導体ナノ粒子が、5.0×10〜1.0×10個/μm含有されていることを特徴とする。
【0036】
当該膜内の半導体ナノ粒子の個数は、5.0×10以下であると、半導体構成原子(例えばSi原子)数が少な過ぎるため、膜内の場所により単位体積あたりの粒子数がばらついてしまう。また、1.0×10以上になると当該膜内の半導体構成原子(例えばSi原子)密度が多すぎ、結晶粒子を得にくく、均一発光強度を得ることが難しい。
【0037】
本発明においては、当該膜内の半導体ナノ粒子の数の制御法は、当該膜内に存在させる半導体ナノ粒子構成原子(例えばSi原子)の分布が均一になるようにスパッタリング工程での制御を行う。スパッタリング工程でのターゲットの組成比(Si/SiO比)、スパッタリング時間、雰囲気ガス(例えばArガス)の気圧、熱処理温度、熱処理時間を制御することによって行う。Siナノ粒子の場合、Si/SiO比は、3〜30%の間、Arガスの気圧は、0.2〜1.5Paの範囲内で調整することにより、当該膜内のSi粒子密度を制御することができる。また、スパッタリング時間を60〜300分の間で行うことにより膜厚を制御することができる。
【0038】
また、上記で作製した膜を3次元的に均一に温度がかかるように熱処理を行うが、その際の熱処理温度は、結晶化のために、高温度1000℃以上が必要であり、1000℃〜1200℃の間で行う。熱処理時間は30分〜120分の間で行う。当該熱処理時間制御することで結晶化したナノ粒子の個数を前記の範囲内に制御することができる。
【0039】
本発明において、半導体ナノ粒子含有膜の膜厚は、市販の膜厚測定器、例えば、触針式表面形状測定器Dektak 6M(ULVAC製)で測定することができる。膜厚の下限値は、機械的強度や光線吸収能の点で好ましくは0.1μm、更に好ましくは0.5μmである。一方、該膜厚の上限値は、膜の形成や形成後のフッ酸処理溶液処理で好ましく10μmである。
【0040】
半導体ナノ粒子の個数の測定(カウント)法は、作製した膜の断面を取り出し、高分解能透過型電子顕微鏡(High−Resolution Transmission Electron Microscopy:HR−TEM)にて観測を行い、TEM観察像より測定される格子がみえる結晶化した半導体ナノ粒子を数えた数値とする。なお、観察面は、膜表面・膜断面を切り出し、50nm×50nmを観察し個数を出し、1μm内個数を換算をする。
【0041】
当該膜内の半導体ナノ粒子の取り出し方法は、作製した半導体ナノ粒子含有膜をフッ化水素溶液にあて、膜を溶かしたのち、超音波処理によって粒子を水又はエタノールに取り出す。
【0042】
なお、半導体ナノ粒子含有膜から取り出した半導体ナノ粒子の分散液の発光強度は、日立分光蛍光光度計 F−7000(日立ハイテクノロジーズ製)により測定した。
【0043】
本発明においては、半導体ナノ粒子表面の酸化とフッ酸処理を繰り返すことにより半導体ナノ粒子の粒径を制御できる。その際に、加熱温度や加熱時間を変えることによってさらに精密な制御が可能である。
【0044】
半導体ナノ粒子の平均粒径は、発光色及び生体分子に対する検出性を高めた半導体ナノ粒子標識体の作製等の観点から、1〜10nmであることが好ましい。更に、平均粒径は1〜8nmの範囲にあることが好ましい。なお、半導体ナノ粒子蛍光体の発光色は、粒径によって決まり、粒径が小さいほど短波長の発光を示す。従って、各種発光色の混合防止の観点から、半導体ナノ粒子蛍光体の粒径分布の標準偏差は、平均粒径に対して20%以下であることが好ましい。
【0045】
本発明において、上記半導体ナノ粒子の平均粒径は本来3次元で求める必要があるが、微粒子過ぎるため難しく、現実には二次元画像で評価せざるを得ないため、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて電子顕微鏡写真の撮影シーンを変えて数多く撮影し平均化することで求めることが好ましい。従って、本発明において、当該平均粒径は、TEMを用いて電子顕微鏡写真を撮影し十分な数の粒子について断面積を計測し、その計測値を相当する円の面積としたときの直径を粒径として求めて、その算術平均を平均粒径とした。TEMで撮影する粒子数としては20個以上が好ましく、100個の粒子を撮影するのが更に好ましい。
【0046】
本願において、「発光強度が均一である」とは、ある基準の発光に対して、その差が±20%である。それ以上の場合は、発光強度の差が大きすぎ、粒径ごとにばらついてしまう。
【0047】
半導体ナノ粒子の発光強度が発光波長によらず均一であることは、LED、ディスプレイ等の用途に好適に使用できる。
【0048】
なお、本発明に係る半導体ナノ粒子を分散させた溶液は、多波長で均一発光強度のため標識などの生体分析・医療分野等の用途に使用できる。
【0049】
励起光の光源は所望の波長と強度の条件を満足するものであれば限定されず、例えば、高圧水銀灯、低圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ等の各種ランプ、Arレーザー、krレーザー、He−Neレーザー等の各種レーザーおよび各種LEDを用いることができる。
【0050】
励起光の波長は半導体ナノ粒子の種類及び粒径に依存するが、通常は200〜1000nmが用いられる。
【0051】
(応用例)
本発明の半導体ナノ粒子は、膜中から取り出すことにより、種々の技術分野における単一分子分析に応用できる。例えば、上記単一分子観察方法において、異なる発光スペクトルをもつ半導体ナノ粒子で複数種類の分子をそれぞれ標識し、該分子に励起光を照射することによって、同時に複数種類の分子の同定を行うこともできる。なお、適用可能な複数種類の分子としては、化学組成は同じであるが化学構造の異なる構造異性体等も含む。
【0052】
以下において、代表的な応用例について説明する。
【0053】
(生体物質標識剤とバイオイメージング)
本発明の半導体ナノ粒子は、生体物質蛍光標識剤に適応することができる。また、標的(追跡)物質を有する生細胞もしくは生体に本発明に係る生体物質標識剤を添加することで、標的物質と結合もしくは吸着し、当該該結合体若しくは吸着体に所定の波長の励起光を照射し、当該励起光に応じて半導体ナノ粒子から発生する所定の波長の蛍光を検出することにより、上記標的(追跡)物質の蛍光動態イメージングを行うことができる。すなわち、本発明に係る生体物質標識剤は、バイオイメージング法(生体物質を構成する生体分子やその動的現象を可視化する技術手段)に利用することができる。
【0054】
〔半導体ナノ粒子集合体の親水化処理〕
上述した半導体ナノ粒子表面は、一般的には、疎水性であるため、例えば生体物質標識剤として使用する場合は、このままでは水分散性が悪く、粒子が凝集してしまう等の問題があるため、半導体ナノ粒子の表面を親水化処理することが好ましい。
【0055】
親水化処理の方法としては例えば、表面の親油性基をピリジン等で除去した後に粒子表面に表面修飾剤を化学的および/または物理的に結合させる方法がある。表面修飾剤としては、親水基として、カルボキシル基・アミノ基を持つものが好ましく用いられ、具体的にはメルカプトプロピオン酸、メルカプトウンデカン酸、アミノプロパンチオールなどがあげられる。具体的には、例えば、Ge/GeO型ナノ粒子10−5gをメルカプトウンデカン酸0.2gが溶解した純水10ml中に分散させて、40℃、10分間攪拌し、シェルの表面を処理することで無機ナノ粒子のシェルの表面をカルボキシル基で修飾することができる。
【0056】
〔生体物質標識剤〕
本発明に係る生体物質標識剤は、上述した親水化処理された半導体ナノ粒子と、分子標識物質と有機分子を介して結合させて得られる。
【0057】
〈分子標識物質〉
本発明に係る生体物質標識剤は分子標識物質が目的とする生体物質と特異的に結合および/または反応することにより、生体物質の標識が可能となる。
【0058】
当該分子標識物質としては例えば、ヌクレオチド鎖、抗体、抗原およびシクロデキストリン等が挙げられる。
【0059】
〈有機分子〉
本発明に係る生体物質標識剤は、親水化処理された半導体ナノ粒子と、分子標識物質とが有機分子により結合されている。当該有機分子としては半導体ナノ粒子と分子標識物質とを結合できる有機分子であれば特に制限はないが、例えば、タンパク質中でも、アルブミン、ミオグロビンおよびカゼイン等、またタンパク質の一種であるアビジンをビオチンと共に用いることも好適に用いられる。上記結合の態様としては特に限定されず、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合、物理吸着および化学吸着等が挙げられる。結合の安定性から共有結合などの結合力の強い結合が好ましい。
【0060】
具体的には、半導体ナノ粒子をメルカプトウンデカン酸で親水化処理した場合は、有機分子としてアビジンおよびビオチンを用いることができる。この場合親水化処理されたナノ粒子のカルボキシル基はアビジンと好適に共有結合し、アビジンがさらにビオチンと選択的に結合し、ビオチンがさらに分子標識物質と結合することにより生体物質標識剤となる。
【実施例】
【0061】
〈実施例1〉
(スパッタリングによる成膜)
真空チャンバー内にArガス(0.5Pa)を導入し、高周波コントローラによりイオン化されたArガスイオンをSiチップと石英ガラスからなるターゲット材料に衝突させた。これらの放出された原子および分子を半導体基板上に堆積し、酸化ケイ素膜内にSi原子が混ざった膜を形成した。このとき表1に示すようにSi/SiO量を調整した。
【0062】
(アニール処理)
得られたSi原子を含有した酸化ケイ素膜をAr雰囲気中で表1に示す温度まで急速に昇温し熱処理を行い、膜中のSi原子をナノサイズまで凝集させた。熱処理時間は表1に示した。
【0063】
(フッ酸処理)
得られたSiナノ粒子含有酸化ケイ素膜を40℃のフッ酸蒸気にさらすことで、表面処理を行った。
【0064】
(加熱酸化処理)
フッ酸処理後のSiナノ粒子含有酸化ケイ素膜について自然酸化及び過熱酸化処理を行った。加熱酸化処理の温度と時間は表1に示した。
【0065】
(Siナノ粒子の分離・液中への分散)
自然酸化または過熱酸化したシリコンナノ粒子含有酸化ケイ素膜をエタノール中に投入して10分間の超音波処理を行った。
【0066】
(発光スペクトル測定)
得られたエタノール中に分散したSiナノ粒子を、波長350nmの励起光を照射し、発生する蛍光スペクトルを測定した。発光スペクトルは日立蛍光光度計F−7000を用いて行った。発光波長700nm以上の近赤外発光に関しては、Hamamatsu社のUV−VISを光源としてスペクトロメータ(SWNIR)を使用して測定を行った。
【0067】
測定結果を表1に示す。なお、発光強度は、試料No.2の発光強度を基準として、相対的に表した。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示した結果から明らかなように、本発明に係る試料の発光強度は、粒径によらず、ほぼ均一で高いことが分かる。なお、シリコン(Si)の代わりに、ゲルマニウム(Ge)を使用した場合も同様の結果が得られた。
【0070】
〈実施例2〉
上記実施例1において得られた試料No.1の半導体ナノ粒子:1.0×10−5mol/lのエタノール分散液にアビジン25mgを添加し40℃で10分間攪拌を行い、アビジンコンジュゲートナノ粒子を作製した。
【0071】
得られたアビジンコンジュゲート半導体ナノ粒子分散液にビオチン化された塩基配列が既知であるオリゴヌクレオチドを混合攪拌し、ナノ粒子で標識(ラベリング)されたオリゴヌクレオチドを作製した。
【0072】
さまざまな塩基配列を持つオリゴヌクレオチドを固定化したDNAチップ上に上記の標識(ラベリング)したオリゴヌクレオチドを滴下・洗浄したところ、標識(ラベリング)されたオリゴヌクレオチドと相補的な塩基配列をもつオリゴヌクレオチドのスポットのみが810nmの励起光により発光した。
【0073】
このことより、ナノ粒子でのオリゴヌクレオチドの標識(ラベリング)を確認することができた。すなわち、この結果により、本発明に係る半導体ナノ粒子を用いた生体物質標識剤を提供することができることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタ法により形成された半導体ナノ粒子含有膜であって、膜厚が0.5〜10μmであり、当該膜内に、結晶化した半導体ナノ粒子が、5.0×10〜1.0×10個/μm含有されていることを特徴とする半導体ナノ粒子含有膜。
【請求項2】
請求項1記載の半導体ナノ粒子含有膜から分散媒中に取り出されたことを特徴とする半導体ナノ粒子。
【請求項3】
請求項1記載の半導体ナノ粒子含有膜から取り出された半導体ナノ粒子であって、シリコン(Si)又はゲルマニウム(Ge)の少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項2に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項4】
請求項1記載の半導体ナノ粒子含有膜から取り出された半導体ナノ粒子であって、その表面が親水化処理されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項5】
請求項1記載の半導体ナノ粒子含有膜から取り出された半導体ナノ粒子と分子標識物質とを有機分子を介して結合させたことを特徴とする生体物質標識剤。
【請求項6】
前記分子標識物質が、ヌクレオチド鎖であることを特徴とする請求項5に記載の生体物質標識剤。
【請求項7】
前記半導体ナノ粒子と分子標識物質とを結合させる有機分子が、ビオチン及びアビジンであることを特徴とする請求項5又は6に記載の生体物質標識剤。

【公開番号】特開2009−280841(P2009−280841A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131708(P2008−131708)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】