説明

半導体レーザ素子及びその製造方法

【課題】膜厚の高精度な制御が容易であり、かつ、保護膜と共振器端面との剥離を抑制する半導体レーザ素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】半導体レーザ素子30は、半導体基板1、半導体基板1上に順次設けられた半導体層2〜9,12,13及び第1電極15、並びに半導体基板1における第1電極15とは反対側に設けられた第2電極16を備えると共に、これら1〜9,12,13,15,16の各一端面を有して構成された第1共振器端面A1、及びこれに対向する第2共振器端面B1を備えた共振構造体20を備えている。第1共振器端面A1並びに第1電極15及び前記第2電極16における第1共振器端面A1近傍の領域に亘って第1保護膜24が形成されており、第2共振器端面B1並びに第1電極15及び前記第2電極16における第2共振器端面B1近傍の領域に亘って第2保護膜29が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
共振器構造を有する半導体レーザ素子には、通常、一対の共振器端面に反射性を有する保護膜がそれぞれ形成されている。これら保護膜の反射率を互いに異ならせることにより、一方の共振器端面からレーザ光を効率よく出射することができる。また、これら保護膜は、一対の共振器端面がレーザ発振の際に発生する熱や外部環境によるダメージを防止する機能を有している。従って、これら保護膜により半導体レーザ素子の信頼性を向上させることができる。
【0003】
ところで、保護膜等の膜を成膜する成膜方法としては、スパッタリング、CVD(Chemical Vapor Deposition)、及び蒸着等がある。
【0004】
しかしながら、スパッタリングまたはCVDにより上記保護膜を成膜する場合は、プラズマ雰囲気中で成膜するため、共振器端面がプラズマによって破壊されてしまう場合がある。また、スパッタリング及びCVDでは膜厚の高精度な制御が難しいため、光学膜である上記保護膜の成膜には不向きである。
【0005】
一方、蒸着により上記保護膜を成膜する場合は、スパッタリングやCVDに比べて、膜厚の高精度な制御が容易である一方で保護膜と共振器端面との密着性が低く、レーザ発振の際に発生する熱や外部環境によって保護膜が共振器端面から剥離してしまう場合がある。
また、例えば特許文献1に開示されているような、イオンビーム照射を行いながら蒸着するイオンアシスト蒸着の場合は、イオンビーム照射を行わない蒸着に比べて保護膜と共振器端面との密着性が向上する。
【特許文献1】特開平7−66500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、イオンアシスト蒸着により保護膜を成膜する際、共振器端面がイオンビームによってダメージを受ける場合がある。共振器端面がダメージを受けると、所望のレーザ出力が得られなかったり、半導体レーザ素子の寿命が短くなるといった不具合が生じる。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、膜厚の高精度な制御が容易であり、かつ、保護膜と共振器端面との剥離を抑制する半導体レーザ素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本願各発明は次の半導体レーザ素子及びその製造方法を提供する。
1)半導体基板(1)、前記半導体基板上に設けられた複数の半導体層(2〜9,12,13)、前記複数の半導体層上に設けられた第1の電極(15)、及び前記半導体基板における前記第1の電極とは反対側に設けられた第2の電極(16)を備えると共に、前記半導体基板,前記複数の半導体層,前記第1の電極,及び前記第2の電極の各一端面を有して構成された第1の共振器端面(A1)、及び前記第1の共振器端面に対向し、前記半導体基板,前記複数の半導体層,前記第1の電極,及び前記第2の電極における前記各一端面に対向する各他端面を有して構成された第2の共振器端面(B1)を備えた共振構造体(20)と、前記第1の共振器端面、前記第1の電極における前記第1の共振器端面近傍の領域、及び前記第2の電極における前記第1の共振器端面近傍の領域に亘って形成された第1の保護膜(24)と、前記第2の共振器端面、前記第1の電極における前記第2の共振器端面近傍の領域、及び前記第2の電極における前記第2の共振器端面近傍の領域に亘って形成された第2の保護膜(29)と、を備えたことを特徴とする半導体レーザ素子(30)。
2)前記第1の保護膜及び前記第2の保護膜は、前記第1の共振器端面と前記第2の共振器端面との間で共振されたレーザ光(L1)に対する反射率が互いに異なることを特徴とする1)記載の半導体レーザ素子。
3)半導体基板(1)、前記半導体基板上に設けられた複数の半導体層(2〜10,12,13)、前記複数の半導体層上に設けられた第1の電極(15)、及び前記半導体基板における前記第1の電極とは反対側に設けられた第2の電極(16)を備えると共に、前記半導体基板,前記複数の半導体層,前記第1の電極,及び前記第2の電極の各一端面を有して構成された第1の共振器端面(A1)、及び前記第1の共振器端面に対向し、前記半導体基板,前記複数の半導体層,前記第1の電極,及び前記第2の電極における前記各一端面に対向する各他端面を有して構成された第2の共振器端面(B1)を備えた共振構造体(20)に対して、前記第1の共振器端面に、イオンアシストを付与せずに蒸着を行って第1の蒸着膜(22)を成膜し、さらにイオンアシストを付与して蒸着を行って前記第1の蒸着膜上に第2の蒸着膜(23)を成膜することにより、前記第1の共振器端面に前記第1の蒸着膜と前記第2の蒸着膜とが順次成膜された積層構造を有する第1の保護膜(24)を形成する第1のステップと、前記第2の共振器端面に、イオンアシストを付与せずに蒸着を行って第3の蒸着膜(25)を成膜し、さらにイオンアシストを付与して蒸着を行って前記第3の蒸着膜上に第4の蒸着膜(26,28)を成膜することにより、前記第2の共振器端面に前記第3の蒸着膜と前記第4の蒸着膜とが順次成膜された積層構造を有する第2の保護膜(29)を形成する第2のステップと、を有することを特徴とする半導体レーザ素子(30)の製造方法。
4)前記第1のステップでは、前記第1の保護膜を、前記第1の電極における前記第1の共振器端面近傍の領域及び前記第2の電極における前記第1の共振器端面近傍の領域に亘って形成し、前記第2のステップでは、前記第2の保護膜を、前記第1の電極における前記第2の共振器端面近傍の領域及び前記第2の電極における前記第2の共振器端面近傍の領域に亘って形成することを特徴とする3)記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、膜厚の高精度な制御が容易であり、かつ、保護膜と共振器端面との剥離を抑制するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施の形態を、好ましい実施例により図1〜図7を用いて説明する。
図1は、実施例の半導体レーザ素子30が半導体基板1にマトリクス状に複数形成されることを説明するための平面図である。
図2〜図6は、半導体レーザ素子30の製造過程を説明するための図である。特に、図4〜図6は、一対の共振器端面A1,B1に第1の保護膜24,第2の保護膜29を形成する保護膜形成方法を説明するための図である。図7は実施例の半導体レーザ素子30を示す図である。
なお、図2は模式的斜視図である。図3は(a)が模式的平面図、(b)が(a)の矢印S1方向に見たときの模式的斜視図である。図4は模式的斜視図である。図5及び図6は模式的断面図である。図7は(a)及び(b)が模式的斜視図及び模式的断面図である。また、図1〜図6における矢印S1は互いに対応するものである。
【0011】
<実施例>
実施例では、発振波長が650nm帯であるAlGaInP(アルミニウムガリウムインジウム燐)系の半導体レーザ素子を例に挙げて説明する。
なお、後述する半導体レーザ素子30は、図1に示すように、半導体基板1にマトリクス状に複数形成されるものであるが、図2では説明をわかりやすくするために、6素子分の半導体レーザ素子30(例えば図1に斜線で示した領域)を示す。
【0012】
まず、図2(a)に示すように、第1導電型の半導体基板1上に、第1導電型のバッファ層2,第1導電型の下クラッド層3,活性層4,第2導電型の第1の上クラッド層5,第2導電型のエッチングストップ層6,第2導電型の第2の上クラッド層7,第2導電型の中間層8,及び第2導電型のキャップ層9を、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)により順次積層する。
ここで、第1導電型はn型及びp型の一方であり、第2導電型はn型及びp型の他方である。
【0013】
実施例では、n型を第1導電型とし、p型を第2導電型とした(以下も同様)。
また、実施例では、半導体基板1及びキャップ層9の主成分をそれぞれGaAs(ガリウム砒素)とし、バッファ層2及び中間層8の主成分をそれぞれGaInP(ガリウムインジウム燐)とし、下クラッド層3,第1の上クラッド層5,エッチングストップ層6,及び第2の上クラッド層7の主成分をそれぞれAlGaInPとした。
また、実施例では、活性層4を、GaInP層とAlGaInP層とが交互に積層された多重歪量子井戸構造とした。
【0014】
次に、図2(b)に示すように、フォトリソグラフィ及びエッチングにより、キャップ層9,中間層8,及び第2の上クラッド層7をそれぞれ部分的に除去して、第2の上クラッド層7,中間層8,及びキャップ層9からなるストライプ状のリッジ10を形成する。
エッチングストップ層6は、第1の上クラッド層5以下の層がエッチングされることを防止するための層である。
【0015】
次に、図2(c)に示すように、エッチングストップ層6上に、リッジ10の側壁を覆うように第1導電型の電流ブロック層12を形成し、リッジ10及び電流ブロック層12上に第2導電型のコンタクト層13を形成する。これら電流ブロック層12及びコンタクト層13は、例えばCVDにより形成することができる。
その後、コンタクト層13上に第1の電極15を形成し、半導体基板1における第1の電極15が形成されている側とは反対側の面(図2における下側の面)に第2の電極16を形成する。
【0016】
実施例では、電流ブロック層12の主成分をAlInP(アルミニウムインジウム燐)とし、コンタクト層13の主成分をGaAsとした。また、実施例では、第1の電極15及び第2の電極16の主成分をそれぞれAu(金)とした。
【0017】
次に、図3に示すように、上記工程を経た半導体基板1を所定のピッチで劈開することにより、一対の劈開面が一対の共振器端面A1,B1となる複数の半導体レーザバー20を得る。なお、図3において、(b)は(a)における複数の半導体レーザバー20のうちの1つを示す模式的斜視図であり、説明をわかりやすくするために3素子分の半導体レーザ素子30{例えば図2(a)に斜線で示した領域}を示すものである。
【0018】
次に、その後の工程である「保護膜形成工程」について、図4~図6を用いて説明する。
【0019】
まず、図4(a)に示すように、半導体レーザバー20と成膜マスク治具40とを交互に重ね合わせ、図5(a)に示すように、これら20,40を固定盤41に載置し、両側から固定治具42で保持する。これにより、半導体レーザバー20及び成膜マスク治具40は固定盤41に固定される。
また、半導体レーザバー20を固定盤41に固定する際に、半導体レーザバー20における固定盤41とは反対側の面を一対の共振器端面A1,B1のどちらか一方の面にする。
実施例では、一方の共振器端面A1を固定盤41とは反対側の面とした。
【0020】
図4に示すように、成膜マスク治具40は、半導体レーザバー20と成膜マスク治具40とを交互に重ね合わせた際に、半導体レーザバー20における、一対の共振器端面A1,B1、第1の電極15における一対の共振器端面A1,B1の各近傍の領域、及び第2の電極16における一対の共振器端面A1,B1の各近傍の領域がそれぞれ露出するように、切り欠き部40a,40b,40c,40dを有している。
【0021】
次に、図6に示すように、半導体レーザバー20及び成膜マスク治具40が固定された固定盤41を、一方の共振器端面A1が第1の蒸着源52及び第2の蒸着源53側に向くように、真空蒸着装置50のチャンバー51内に取り付ける。
【0022】
真空蒸着装置50は、第1の蒸着材料54を収容する上記第1の蒸着源52と、第1の蒸着材料54とは異なる第2の蒸着材料55を収容する上記第2の蒸着源53と、固定盤41を自転または公転、あるいは自転及び公転させる回転駆動部56と、半導体レーザバー20に蒸着される第1の蒸着材料54及び第2の蒸着材料55の密着性を向上させるためのイオンガン57と、これら第1の蒸着源52,第2の蒸着源53,回転駆動部56,イオンガン57を収容する上記チャンバー51と、チャンバー51内を減圧する真空ポンプ等の減圧部58と、チャンバー51と減圧部58とを開閉する第1のバルブ59と、チャンバー51内に所定のガスを導入するガス導入部60と、チャンバー51とガス導入部60とを開閉する第2のバルブ61と、を有して構成されている。
【0023】
次に、第1のバルブ59を開状態、第2のバルブ61を閉状態にして、減圧部58を動作させ、チャンバー51内を減圧する。
チャンバー51内が所定の圧力まで減圧されたら、第2のバルブ61を開状態にしてガス導入部60からチャンバー51内に所定のガスを導入し、回転駆動部56を動作させて固定盤41を回転させる。
【0024】
そして、第1の蒸着源52から第1の蒸着材料54を半導体レーザバー20に向けて蒸発させ、蒸着を行う。さらに、蒸着の途中でイオンガン57を動作させてイオンアシストを行う。即ち、本蒸着は、蒸着開始時から所定の期間はイオンガンを動作させない、即ちイオンアシストを行わない蒸着と、蒸着の途中から蒸着終了時までの期間はイオンガン57を動作させてイオンアシストを行うイオンアシスト蒸着と、を順次行うものである。
なお、第1の蒸着源52から第1の蒸着材料54を蒸発させる方法及び第2の蒸着源53から第2の蒸着材料55を蒸発させる方法としては、電子ビーム法や抵抗加熱法等がある。
【0025】
その後、第1の蒸着材料54の蒸発、イオンガン57の動作、及び固定盤41の回転を止め、第2のバルブ61を閉状態にする。
【0026】
これにより、図5(b)に示すように、イオンアシストを行わない蒸着により成膜された第1の蒸着膜22と、イオンアシスト蒸着により成膜された第2の蒸着膜23と、を有して構成された低反射率を有する第1の保護膜24が、半導体レーザバー20の一方の共振器端面A1、第1の電極15における一方の共振器端面A1の近傍の領域、及び第2の電極16における一方の共振器端面A1の近傍の領域に亘って形成される。
なお、第1の保護膜24を形成する際に、成膜マスク治具40,固定盤41,及び固定治具42にも第1の蒸着材料54が蒸着されるが、図5(b)では説明をわかりやすくするためにその図示を省略している。
【0027】
実施例では、第1の蒸着材料54としてAl(酸化アルミニウム)を用い、第1の蒸着膜22の厚さを20nmとし、第2の蒸着膜23の厚さを198nmとした。第1の保護膜24の発振波長650nmに対する反射率は30%である。
【0028】
上述した第1の保護膜24の形成方法によれば、共振器端面A1が露出しているときにはイオンガン57が動作していないため、共振器端面A1がイオンガン57から照射されるイオンによってダメージを受けることはない。また、イオンガン57を動作させるときには、共振器端面A1は第1の蒸着膜22で覆われているため、イオンガン57から照射されるイオンによる共振器端面A1のダメージをこの第1の蒸着膜22で防止することができる。
【0029】
その後、第1のバルブ59を閉状態、第2のバルブ61を開状態にして、ガス導入部60からチャンバー51内に大気または所定のガスを導入してチャンバー51内を大気圧にする。
【0030】
次に、チャンバー51内から半導体レーザバー20及び成膜マスク治具40が固定された固定盤41を取り出す。
その後、図5(c)に示すように、固定治具42の保持を解除し、半導体レーザバー20を、固定盤41とは反対側の面が他方の共振器端面B1となるように、成膜マスク治具40と共に向きを変えて固定盤41に載置して両側から固定治具42で保持する。
【0031】
次に、この固定盤41を、他方の共振器端面B1が第1の蒸着源52及び第2の蒸着源53側に向くように、真空蒸着装置50のチャンバー51内に取り付ける(図6参照)。
【0032】
その後、第1のバルブ59を開状態、第2のバルブ61を閉状態にして、減圧部58を動作させ、チャンバー51内を減圧する。
チャンバー51内が所定の圧力まで減圧されたら、第2のバルブ61を開状態にして、ガス導入部60からチャンバー51内に所定のガスを導入し、回転駆動部56を動作させて固定盤41を回転させる。
【0033】
そして、第1の蒸着源52から第1の蒸着材料54を半導体レーザバー20に向けて蒸発させ、蒸着を行う。さらに、蒸着の途中でイオンガン57を動作させてイオンアシストを行う。即ち、本蒸着は、蒸着開始時から所定の期間はイオンガンを動作させない、即ちイオンアシストを行わない蒸着と、蒸着の途中から蒸着終了時までの期間はイオンガン57を動作させてイオンアシストを行うイオンアシスト蒸着と、を順次行うものである。
【0034】
これにより、図5(d)に示すように、イオンアシストを行わない蒸着により成膜された第3の蒸着膜25と、イオンアシスト蒸着により成膜された第4の蒸着膜26と、を有して構成された初期膜27が、半導体レーザバー20の他方の共振器端面B1、第1の電極15における他方の共振器端面B1の近傍の領域、及び第2の電極16における他方の共振器端面B1の近傍の領域に亘って形成される。
【0035】
次に、イオンガン57を動作させた状態を維持しつつ、第1の蒸着材料54の蒸発を止めて、第2の蒸着源53から第2の蒸着材料55を半導体レーザバー20に向けて蒸発させ、蒸着を行う。
さらに、イオンガン57を動作させた状態を維持しつつ、第1の蒸着材料54と第2の蒸着材料55とを交互に蒸発させることにより、初期膜27上に、第1の蒸着材料54からなる膜と第2の蒸着材料55からなる膜とが交互に積層された多層膜28が形成される。
【0036】
その後、第1の蒸着材料54及び第2の蒸着材料55の各蒸発、イオンガン57の動作、及び固定盤41の回転を止め、第2のバルブ61を閉状態にする。
【0037】
これにより、初期膜27及び多層膜28を有して構成された高反射率を有する第2の保護膜29が、半導体レーザバー20の他方の共振器端面B1、第1の電極15における他方の共振器端面B1の近傍の領域、及び第2の電極16における他方の共振器端面B1の近傍の領域に亘って形成される。
なお、第2の保護膜29を形成する際に、成膜マスク治具40,固定盤41,及び固定治具42にも第1の蒸着材料54及び第2の蒸着材料55がそれぞれ蒸着されるが、図5(d)では説明をわかりやすくするためにその図示を省略している。
【0038】
実施例では、第1の蒸着材料54としてAlを用い、第2の蒸着材料55としてTa(酸化タンタル)を用いた。また、実施例では、第3の蒸着膜25の厚さを10nmとし、第4の蒸着膜26の厚さを99nmとした。また、実施例では、多層膜28を、厚さが75nmの第1のTa膜,厚さが99nmの第1のAl膜,厚さが75nmの第2のTa膜,厚さが99nmの第2のAl膜,及び厚さが75nmの第3のTa膜が順次積層された5層の積層構造を有する構成とした。第2の保護膜29の発振波長650nmに対する反射率は80%である。
【0039】
上述した第2の保護膜29の形成方法によれば、共振器端面B1が露出しているときにはイオンガン57が動作していないため、共振器端面B1がイオンガン57から照射されるイオンによってダメージを受けることはない。また、イオンガン57を動作させるときには、共振器端面B1は第3の蒸着膜25で覆われているため、イオンガン57から照射されるイオンによる共振器端面B1のダメージをこの第3の蒸着膜25で防止することができる。
【0040】
次に、第1のバルブ59を閉状態にし、ガス導入部60からチャンバー51内に大気または所定のガスを導入してチャンバー51内を大気圧にする。
その後、チャンバー51内から半導体レーザバー20及び成膜マスク治具40が固定された固定盤41を取り出す。
【0041】
次に、固定治具42の保持を解除して半導体レーザバー20を取り出し、半導体レーザバー20を、リッジ10同士が互いに分離されるように所定のピッチで切断することにより、図7に示す半導体レーザ素子30を複数得る。
【0042】
半導体レーザ素子30の第1の電極15から第2の電極16に向かって電流を流すと活性層4内でレーザ発振が起こり、一対の共振器端面A1,B1間で共振する。そして、電流が閾値を越えると、一方の共振器端面A1からレーザ光L1は出射される。
【0043】
上述した半導体レーザ素子30は、一方の共振器端面A1,第1の電極15における一方の共振器端面A1の近傍の領域,及び第2の電極16における一方の共振器端面A1の近傍の領域が第1の保護膜24によって覆われており、他方の共振器端面B1,第1の電極15における他方の共振器端面B1の近傍の領域,及び第2の電極16における他方の共振器端面B1の近傍の領域が第2の保護膜29によって覆われている。
【0044】
ところで、一対の共振器端面は、劈開面なので非常に平坦な面である。従って、従来のように保護膜が共振器端面のみに形成されている場合は、保護膜と共振器端面との密着性が低く、レーザ発振の際に発生する熱や外部環境によって保護膜が共振器端面から剥離してしまう場合がある。
それに対して、上述した半導体レーザ素子30では、第1の保護膜24及び第2の保護膜29が、第1の電極15及び第2の電極16に亘って形成されているため、共振器端面のみに形成されている場合に比べて接触面積が大きいので剥離しにくくすることができる。
また、第1の電極15及び第2の電極16の各表面は、一対の共振器端面A1,B1ほど平坦な面ではないので、一対の共振器端面A1,B1よりも密着性に優れている。そのため、従来よりも保護膜をさらに剥離しにくくすることができる。
【0045】
本発明の実施例は、上述した構成及び手順に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよいのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例の半導体レーザ素子が半導体基板にマトリクス状に複数形成されることを説明するための平面図である。
【図2】本発明に係る半導体レーザ素子の製造過程の一例を説明するための図である。
【図3】本発明に係る半導体レーザ素子の製造過程の一例を説明するための図である。
【図4】本発明に係る半導体レーザ素子の製造過程の一例を説明するための図である。
【図5】本発明に係る半導体レーザ素子の製造過程の一例を説明するための図である。
【図6】本発明に係る半導体レーザ素子の製造過程の一例を説明するための図である。
【図7】本発明に係る半導体レーザ素子の製造過程の一例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0047】
1_半導体基板、 2_バッファ層、 3_下クラッド層、 4_活性層、 5_第1の上クラッド層、 6_エッチングストップ層、 7_第2の上クラッド層、 8_中間層、 9_キャップ層、 10_リッジ、 12_電流ブロック層、 13_コンタクト層、 15_第1の電極、 16_第2の電極、 20_半導体レーザバー、 22_第1の蒸着膜、 23_第2の蒸着膜、 24_第1の保護膜、 25_第3の蒸着膜、 26_第4の蒸着膜、 27_初期膜、 28_多層膜、 29_第2の保護膜、 30_半導体レーザ素子、 A1,B1_共振器端面、 S1_矢視、 L1_レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板、前記半導体基板上に設けられた複数の半導体層、前記複数の半導体層上に設けられた第1の電極、及び前記半導体基板における前記第1の電極とは反対側に設けられた第2の電極を備えると共に、前記半導体基板,前記複数の半導体層,前記第1の電極,及び前記第2の電極の各一端面を有して構成された第1の共振器端面、及び前記第1の共振器端面に対向し、前記半導体基板,前記複数の半導体層,前記第1の電極,及び前記第2の電極における前記各一端面に対向する各他端面を有して構成された第2の共振器端面を備えた共振構造体と、
前記第1の共振器端面、前記第1の電極における前記第1の共振器端面近傍の領域、及び前記第2の電極における前記第1の共振器端面近傍の領域に亘って形成された第1の保護膜と、
前記第2の共振器端面、前記第1の電極における前記第2の共振器端面近傍の領域、及び前記第2の電極における前記第2の共振器端面近傍の領域に亘って形成された第2の保護膜と、
を備えたことを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記第1の保護膜及び前記第2の保護膜は、前記第1の共振器端面と前記第2の共振器端面との間で共振されたレーザ光に対する反射率が互いに異なることを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
半導体基板、前記半導体基板上に設けられた複数の半導体層、前記複数の半導体層上に設けられた第1の電極、及び前記半導体基板における前記第1の電極とは反対側に設けられた第2の電極を備えると共に、前記半導体基板,前記複数の半導体層,前記第1の電極,及び前記第2の電極の各一端面を有して構成された第1の共振器端面、及び前記第1の共振器端面に対向し、前記半導体基板,前記複数の半導体層,前記第1の電極,及び前記第2の電極における前記各一端面に対向する各他端面を有して構成された第2の共振器端面を備えた共振構造体に対して、前記第1の共振器端面に、イオンアシストを付与せずに蒸着を行って第1の蒸着膜を成膜し、さらにイオンアシストを付与して蒸着を行って前記第1の蒸着膜上に第2の蒸着膜を成膜することにより、前記第1の共振器端面に前記第1の蒸着膜と前記第2の蒸着膜とが順次成膜された積層構造を有する第1の保護膜を形成する第1のステップと、
前記第2の共振器端面に、イオンアシストを付与せずに蒸着を行って第3の蒸着膜を成膜し、さらにイオンアシストを付与して蒸着を行って前記第3の蒸着膜上に第4の蒸着膜を成膜することにより、前記第2の共振器端面に前記第3の蒸着膜と前記第4の蒸着膜とが順次成膜された積層構造を有する第2の保護膜を形成する第2のステップと、
を有することを特徴とする半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1のステップでは、前記第1の保護膜を、前記第1の電極における前記第1の共振器端面近傍の領域及び前記第2の電極における前記第1の共振器端面近傍の領域に亘って形成し、
前記第2のステップでは、前記第2の保護膜を、前記第1の電極における前記第2の共振器端面近傍の領域及び前記第2の電極における前記第2の共振器端面近傍の領域に亘って形成することを特徴とする請求項3記載の半導体レーザ素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−103405(P2010−103405A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275362(P2008−275362)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】