説明

半導体レーザ素子

【課題】幅広い温度範囲において、縦モードがマルチモード発振特性及び温度特性を安定に維持し且つ温度特性が良好な半導体レーザ素子を提供する。
【解決手段】半導体レーザ素子は、基板101上に、第1のクラッド層103と、第1のクラッド層103上に形成された活性層104と、活性層104上に形成され、活性層104に電流を注入するためのリッジストライプ111を有する第2のクラッド層105と、リッジストライプ111の両側に形成され、電流がリッジストライプ111に狭窄されるようにするための電流狭窄層109とを有する発光部を備える。ここで、電流狭窄層109の下面から活性層104の上面までの距離d1が所定の範囲の値である。また、電流は、リッジストライプ111を通過した後、活性層104に到達するまでにリッジストライプ111の幅以上に広がっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子に関し、特に縦モードがマルチモードである自励発振型を含む半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ディスク及び光磁気記録ディスク等の記録媒体に対する光学的記録装置及び読み出し装置等に用いる光ピックアップ光源として、半導体レーザ素子が多用されている。その用途としては、レコーダー用、PC用及び車載用等の多岐にわたり、光ディスク市場は拡大し続けている。特に、カーナビゲーションに代表される車載用の要望は高く、CD及びDVD全ディスクの再生が可能な光ピックアップ装置の需要が拡大している。
【0003】
車載用光ピックアップ装置に強く求められることとして、(1)光ピックアップ装置の小型化、(2)低温から高温まで動作し得る幅広い動作温度保証、及び(3)信号劣化抑制(低雑音化)が挙げられる。
【0004】
まず、(1)光ピックアップ装置の小型化のためには、光学部品を低減して装置を簡略化することが有効であり、その一つの方法として、DVD用の650nm帯の赤色半導体レーザとCD用の780nm帯の赤外半導体レーザを同一の半導体基板上に集積化したモノリシック半導体レーザにすることが挙げられる。これにより、半導体レーザ自体を一つの部品に集約できるだけでなく、コリメータレンズやビームスプリッタ等の光学部品を赤色半導体レーザと赤外半導体レーザで共用化でき、装置の小型化に有効である。
【0005】
また、(2)幅広い動作温度保証としては、半導体レーザ素子自体の温度特性を向上させる必要がある。そのための一つの方法として、特許文献1が知られている。特許文献1には、光路方向にリッジの幅が変化するテーパストライプ構造とすることにより、通常のストレートストライプ構造に比べ低電流密度になること、及び、リッジ幅が広いことによる微分抵抗の低下により素子の発熱を抑制し、温度特性を向上できることが記されている。
【0006】
次に、(3)信号劣化抑制(低雑音化)について、まず、雑音の発生要因を考える。
【0007】
半導体レーザ素子に対して、光ディスク、光記録媒体及び光学系等からの戻り光がわずかに存在する。このため、レーザ光の可干渉性が高い場合には、共振器内の光と戻り光とが互いに作用を及ぼし合い、結果的に半導体レーザ素子の出力に雑音が生じてしまうことが判っている。
【0008】
このような、戻り光に起因する雑音の解決法としては、半導体レーザ素子を高速変調する、半導体レーザ素子の発振モードを多モード化する又は半導体レーザ素子それ自体をパルス発振状態にする等の方法が取られている。
【0009】
しかしながら、半導体レーザ素子を高速変調する方法は、高周波重畳モジュールを使用することになり、部品点数が増大するため光ピックアップの小型化又はコストの面で不利である。また、最近の車には半導体レーザ素子を高速変調する高周波重畳モジュール以外に高周波を用いた装備品(例えば、ETC機器:Electronic Toll Collection system)が多く搭載されている。このため、機器同士の周波数が共鳴し、機器の誤動作等の問題が発生する可能性がある。したがって、半導体レーザ素子を高速変調する方法は最善の方法とは言い難い。
【0010】
一方、発振モードを多モード化する方法としては、その光導波機構を利得ガイド構造とすることはよく知られているが、反面この利得ガイド構造では発振閾値が高くなるため、動作電力が大きくなり、温度特性に不利である。
【0011】
また、パルス発振させる方法としては、電流の広がりを光の広がりよりも狭くし、活性層に可飽和吸収体を形成させる方法がある。その一つの手段として、特許文献2が知られている。特許文献2には、電流狭窄層と活性層との間にある半導体層を活性層よりも高抵抗化することにより、電流の広がりをリッジストライプの幅と同程度にして電流を活性層まで到達させる一方、ストライプ幅以外のところでは電流が存在しないため光の供給はなくなり、その部分にレーザ光が吸収され可飽和吸収体が形成、自励発振が可能であることが記されている。
【0012】
尚、このような半導体レーザ素子において、電流狭窄層と活性層との間にある半導体層の膜厚は、赤外レーザ素子において0.45μm〜0.65μm程度、赤色レーザ素子において0.25μm〜0.4μmである。
【特許文献1】特開2000−174385号公報(特願平11−137180号)
【特許文献2】特許第3183692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の構造によると、ストライプ幅と同等の電流広がりであるため、室温では安定した自励発振が可能である。しかしながら、高温では、電流広がりが抑制されていることから活性層に注入される電流がストライプ直下の部分に集中し、動作電流密度が増大する。これにより、漏れ電流が増加して素子の発熱量が増加し、発光効率の低下をもたらすことになる。そのため高温では、電流−光出力特性(I−L特性)において、素子の発熱により光出力が熱飽和するという問題が発生し、幅広い動作温度保証を必要とする車載用のレーザに対しては多大な影響を与える。よって、この解決が課題となっている。
【0014】
以上の課題に鑑み、本発明の目的は、低温から高温までの幅広い温度範囲において、縦モードがマルチモード発振(自励発振を含む)特性及び温度特性を安定に維持することができる半導体レーザ素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の目的を達成するために、本発明に係る第1の半導体レーザ素子は、基板上に、第1のクラッド層と、第1のクラッド層上に形成された活性層と、活性層上に形成され且つ活性層に電流を注入するためのリッジストライプを有する第2のクラッド層と、リッジストライプの両側に形成され且つ電流がリッジストライプに狭窄されるようにするための電流狭窄層とを有する発光部を備え、電流狭窄層の下面から活性層の上面までの距離が所定の範囲の値であり、電流は、リッジストライプを通過した後、活性層に到達するまでにリッジストライプの幅以上に広がっている。
【0016】
ここで、電流の広がりとして、電流分布の半値全幅を考えるものとする。つまり、第1の半導体レーザ素子において、リッジストライプを通過した電流の活性層上面における電流分布の半値全幅は、リッジストライプの幅以上に拡がっている。また、幅及び横広がりとの表現は、平行方向の距離について言っているものとする。
【0017】
第1の半導体レーザ素子によると、電流狭窄層の下面から活性層の上面までの距離(残し厚)を所定の値以上としていることにより、リッジストライプを通過した電流は活性層上面に到達するまでに横方向(平行方向)に拡がり、電流分布の半値全幅がリッジストライプの幅以上に拡がる。しかし、光分布はこのような電流広がり以上に横に拡がるため、結果として十分な可飽和吸収体が形成され、マルチモード発振が安定して発生する。また、残し厚に上限を設けることにより、高次横モードの発振を抑制して基本横モードのみで発振するようにしている。
【0018】
尚、所定の範囲は、距離(電流狭窄層の下面から活性層の上面までの距離、つまり残し厚)の増加に対する電流の横広がりの増加が緩やかになる点における距離を下限とすると共に、該距離の増加に対するNFPの半値全幅の増加が緩やかになる点における距離を上限とする範囲であることが好ましい。
【0019】
このよう所定の範囲を定めることにより、マルチモード発振の安定及び基本横モードによる発振等の効果が確実に得られる。尚、電流の横広がり及びNFPの半値全幅について、残し厚の増加に対する増加が緩やかになる点は、実験的に求めることができる。
【0020】
具体的には、所定の範囲は、0.65μm以上で且つ1.2μm以下であるのが好ましい。残し厚をこの範囲とすることにより、基本横モードで且つマルチ縦モードの発振を実現することができる。
【0021】
また、第1の半導体レーザ素子によると、電流狭窄層を通過した電流は横方向に拡がるため、活性層においても電流が集中して電流密度が上昇することは避けられている。このため、半導体レーザ素子における漏れ電流の発生及び発熱が抑制され、高温においても安定に動作する。
【0022】
以上にように、第1の半導体レーザ素子によると、幅広い動作温度保証と基本横モードで且つマルチ縦モードの発振とを両立することができる。
【0023】
尚、活性層は、Alx Ga1-x As(0≦x≦1)により形成されていると共に、第1のクラッド層及び前記第2のクラッド層は、AlGaInP系の材料により形成されていることが望ましい。
【0024】
このような構成の半導体レーザ素子とすると、幅広い動作温度保証と基本横モードで且つマルチ縦モードの発振とを両立することが確実にできる。
【0025】
尚、AlGaInP系の材料とは、(Alw Ga1-w z In1-z P(0<w<1、0<z<1)と表される組成の材料を意味する。
【0026】
また、リッジストライプの幅が、1μm以上で且つ4μm以下であることが好ましい。
【0027】
このようにすると、4μm以下であることにより水平方向のファー・フィールド・パターン(Far Field Pattern :FFP)が双峰性となるのを防ぐことができる。また、リッジストライプの幅が小さすぎると抵抗が高くなるために発熱を生じることになり、結果として温度特性が劣化する。これを避けるために、リッジストライプの幅は1μm以上であることが好ましい。また、1μm以上であることは、リッジストライプを形成するためのプロセス上、実現できる最細幅の一例を示すものでもある。
【0028】
また、所定の範囲は、0.4μm以上で且つ0.7μm以下であることも好ましい。また、活性層は、Gay In1-y P(0<y<1)により形成されていると共に、第1のクラッド層及び第2のクラッド層は、AlGaInP系の材料により形成されていることも好ましい。更に、リッジストライプの幅が、2.5μm以上で且つ5.5μm以下であることも好ましい。
【0029】
これらの場合にも、同様に本発明の半導体レーザ素子の効果が確実に得られる。
【0030】
また、リッジストライプの側面が、いずれも前記基板の主面に対して垂直であることが好ましい。
【0031】
このように垂直リッジとなっていると、リッジストライプの上面の幅が下面の幅より小さいようなリッジストライプに比べ、微分抵抗Rsを低減することができるため、素子の発熱が抑制される。この結果、半導体レーザ素子のより広い動作温度保証を実現することができる。
【0032】
前記の目的を達成するため、本発明の第2の半導体レーザ素子は、基板上に、少なくとも第1の発光部及び第2の発光部を備え、第1の発光部及び第2の発光部は、それぞれ、第1のクラッド層と、第1のクラッド層上に形成された活性層と、活性層上に形成され、活性層に電流を注入するためのリッジストライプを有する第2のクラッド層と、リッジストライプの両側に形成され、電流がリッジストライプに狭窄されるようにするための電流狭窄層とを有し、第1の発光部及び第2の発光部の両方において、電流狭窄層の下面から活性層の上面までの距離がそれぞれ所定の範囲の値であると共に、電流は、リッジストライプを通過した後、活性層に到達するまでに当該リッジストライプの幅以上に広がっている。
【0033】
ここでも、第1の半導体レーザ素子の場合と同様に、電流の広がりとしては半値全幅を考えるものとする。
【0034】
第2の半導体レーザ素子によると、第1及び第2の発光部において、それぞれ電流狭窄層の下面から活性層の上面までの距離(残し厚)を規定することにより、基本横モードで且つマルチ縦モードの発振を安定して生じさせることができる。これと共に、活性層において電流が拡がっていることにより電流密度の上昇が避けられており、高温においても安定動作するモノシリック2波長レーザ素子となっている。
【0035】
具体的には、第1の発光部における所定の距離が0.65μm以上で且つ1.2μm以下であると共に、第2の発光部における所定の距離が0.4μm以上で且つ0.7μm以下であることが好ましい。
【0036】
残し厚をそれぞれこのような範囲の値とすることにより、異なる種類のレーザを発光するそれぞれの発光部において、幅広い動作温度保証と発振モードの安定性とを実現することができる。
【0037】
尚、第1の発光部及び第2の発光部がそれぞれ有するリッジストライプは、同時に形成されていることが好ましい。
【0038】
このようにすると、第1の発光部と第2の発光部との発光点間隔(それぞれが有するリッジストライプ同士の間隔)が、それぞれのリッジストライプを別個に形成する場合よりも高精度となる。このことは、光ピックアップ装置等においてレーザ素子と光学部品とを実装する際に非常に有利である。つまり、発光点間隔にバラツキがあると、バラツキに対応して光学部品を実装することが必要となり、組み立て工程の難度増加及びレーザ光の取り込み効率低下等の特性劣化を起こす。しかし、複数のリッジストライプが同時に形成されることにより、このような問題は回避されている。尚、別個に形成する場合に比べて製造工程における工数が削減されるという効果も存在する。
【0039】
また、第1の発光部及び第2の発光部の少なくとも一方におけるリッジストライプの側面が、基板の主面に対して垂直であることが好ましい。
【0040】
このようにすると、リッジストライプの上面の幅が下面の幅より小さいようなリッジストライプに比べ、微分抵抗Rsを低減することができるため、素子の発熱が抑制される。この結果、半導体レーザ素子のより広い動作温度保証を実現することができる。
【0041】
また、第1の発光部が有する活性層は、Alx Ga1-x As(0≦x≦1)により形成され、第2の発光部が有する活性層は、Gay In1-y P(0<y<1)により形成され、第1のクラッド層及び第2のクラッド層は、いずれもAlGaInP系の材料により形成されていることが好ましい。
【0042】
このようにすると、それぞれの発光部において、幅広い動作温度保証と発振モードの安定性とを実現することが確実にできる。
【0043】
また、第1の発光部が有するリッジストライプの幅が1.0μm以上で且つ4.0μm以下であると共に、第2の発光部が有するリッジストライプの幅が2.5μm以上で且つ5.5μm以下であることが好ましい。
【0044】
このようにすると、リッジストライプの幅が、第1の発光部においては4μm以下であること、第2の発光部においては5.5μm以下であることにより、水平方向のFFPが双峰性となるのを防ぐことができる。また、第1の発光部における幅の下限(1μm)は、プロセス上の最細幅を例示するものであり、第2の発光部における幅の下限(2.5μm)は、I−L特性において外部微分効率Seに非線形性が生じるのを避けることのできる値として得られている。
【0045】
また、第1の発光部及び前記第2の発光部がそれぞれ有するリッジストライプの少なくとも一方は、幅に変化のあるテーパストライプ構造を有していることが好ましい。
【0046】
このようなテーパストライプ構造とすると、ストレートストライプよりもストライプ幅を広くすることができるため、微分抵抗Rsを低減して素子の発熱を抑制し、温度特性を向上することができる。
【0047】
更に、テーパストライプ構造は、光が出射される光出射端面の側から、前記光出射端面に対向する後端面の側に向かって徐々に幅が広くなる構造であることが好ましい。
【0048】
また、テーパストライプ構造は、中央部から、光が出射される光出射端面の側と、前記光出射端面に対向する後端面の側とに向かってそれぞれ徐々に幅が狭くなる構造であることも好ましい。
【0049】
テーパストライプ構造の具体的な構造として、このようになっていても良い。尚、このようなテーパストライプ構造の場合、リッジストライプの幅とは、テーパストライプ構造をストレートとして換算した平均幅を考える。
【発明の効果】
【0050】
本発明の半導体レーザ素子によると、電流狭窄層の下面から活性層の上面までの距離を所定の範囲に規定することにより、活性層における横方向の電流広がりを制御する。これにより、基本横モードで且つマルチ縦モードの発振を実現すると共に、活性層における電流密度の上昇が抑制されていることから漏れ電流の発生及び発熱が抑制され、高温においても安定動作するようになっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0052】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ素子について説明する。図1(a)、(b)及び(c)は、本発明の半導体レーザ素子の一例を示す図である。まず、図1(a)には、断面図を示している。
【0053】
半導体レーザ素子は、n形GaAs基板101上に、n形GaAsバッファ層102、n形(AlGa)InPクラッド層103、活性層104、p形(AlGa)InP第1クラッド層105、p形GaInPエッチングストップ層106、p型(AlGa)InP第2クラッド層107、p形GaInP中間層108及びp形GaAsコンタクト層110が、下からこの順に積層された構造を有する。これにより、半導体レーザ素子は、活性層104が、n形(AlGa)InPクラッド層103とp形(AlGa)InP第1クラッド層105との二つのクラッド層によって挟持されたダブルへテロ構造を備える。
【0054】
ここで、活性層104は、図1(b)に示すように、井戸数が三層である量子井戸活性層となっている。つまり、下から順に3つのGaAs井戸層1045w、1043w及び1041wが、2つの(AlGa)InPバリア層1044b及び1042bをそれぞれ間に挟んで形成され、これら五層の積層構造が、2つの(AlGa)InPガイド層1040g及び1046gに挟まれた構造となっている。結果として、下側(n形(AlGa)InPクラッド層103の側)から順に、1046g、1045w、1044b、1043w、1042b、1041w及び1040gの順に積層されている。尚、最も上に位置する(AlGa)InPガイド層1046gの上に、p形(AlGa)InP第1クラッド層105が位置する。
【0055】
また、図1(a)に示すように、p形(AlGa)InP第2クラッド層107、p形GaInP中間層108及びp形GaAsコンタクト層110は、リッジストライプとしてメサ型のストライプ形状に加工され、下面における幅が上面における幅よりも広い形状のストライプ部分111を構成している。更に、該ストライプ部分111の両側にはn形GaAs電流狭窄層109が埋め込むように形成されている。このようにp形(AlGa)InP第1クラッド層105上に構成されたストライプ部分111及びn形GaAs電流狭窄層109により、活性層104に注入される電流の領域を狭窄する電流狭窄構造が構成されている。
【0056】
ここで、図1(a)において、n形電流狭窄層109の下面(言い換えると、リッジストライプの下面)から活性層104の上面までの距離(残し厚)をd1として示している。
【0057】
このような電流狭窄構造の平面構成を図1(c)に模式的に示す。ここでは、ストライプ部分111の下面の形状111aを示しており、光出射端面Aから後端面Bまでに亘って同じ幅となっている。このようなストライプ部分111の下面における幅を、ストライプ幅Wsとする。平面形状の残りの部分は、n形電流狭窄層109の下面の形状109aである。
【0058】
更に、いずれも図示は省略しているが、p形GaAsコンタクト層110及びn形電流狭窄層109の上にはp形電極が形成されていると共に、n形GaAs基板101の裏面にはn形電極が形成されている。以上により、半導体レーザ素子が構成されており、これは赤外レーザを発光するレーザ素子である。
【0059】
ここで、各層を構成する材料の組成比について一例を示すと、n形(AlGa)InPクラッド層103、p形(AlGa)InP第1クラッド層105及びp型(AlGa)InP第2クラッド層107は、(Al0.7 Ga0.3 0.51In0.49Pである。また、(AlGa)InPガイド層1040g及び1046gと、(AlGa)InPバリア層1042b及び1044bとに関しては、(Al0.4 Ga0.6 0.51In0.49Pとしている。
【0060】
以上のような構成を有する半導体レーザ素子について、残し厚d1の変化に対するマルチモード性(発振スペクトルの半値全幅)の挙動を図2(a)に示す。ここで、ストライプ幅Wsは1.5μmで一定、測定条件は室温で且つ4mW時とする。
【0061】
図2(a)に示すように、残し厚d1が増加すると、これに伴って当初は発振スペクトルの半値全幅が増加し、残し厚d1が1μm以上となると発振スペクトルの半値全幅は概ね一定となる。図2(b)、(c)及び(d)には、順に残し厚d1が0.6μm、0.95μm、1.45μmの場合の実際のスペクトル波形を示す。発振スペクトルは、図2(a)に示す残し厚が0.6μmの場合にはシングルピークに近く、図2(c)に示す0.95μmの場合には半値全幅の広いマルチモードであり、図2(d)に示す1.45μmの場合には双峰性を示し始めている。
【0062】
このことは、ストライプ部111に対応する部分とその両側に対応する部分との実効屈折率差(Δn)により説明できる。
【0063】
残し厚d1が0.6μmの場合は、Δn=1×10-3程度であり、この比較的大きいΔnのために光がリッジの横に染み出すことができず、可飽和吸収体が形成され難い状況になる。この結果として、発振スペクトルの半値全幅が小さくなる。
【0064】
これに対し、残し厚が1.45μmの場合は、Δn=1×10-5程度と小さいために光がリッジの横に染み出すことができるが、同時に残し厚が厚過ぎるために電流も広がり過ぎる。この結果、広い波長範囲に対しゲインを持ち、マルチモード発振を生じやすくなると共に、高次横モードの発振も可能となる。高次横モードと基本横モードとでは伝播定数が異なるため、発振スペクトルについても、高次横モードに対応するものと基本横モードに対応するものとの2つの発振スペクトルを発生する。このことが、図2(d)に示すような双峰性のスペクトルとなる原因と考えられる。
【0065】
以上のようなことから、図2(c)に代表されるような安定な基本横モードを保ち且つマルチモード発振が可能となる残し厚d1の範囲は、0.65μm〜1.2μm程度であることが確認された。
【0066】
ここで、従来一般に用いられている半導体レーザ素子による、赤外レーザの自励発振のための残し厚d1は、0.45μm〜0.65μm(Δn:3×10-3〜1×10-3)である。これに対し、本実施形態の場合には、前記のように残し厚d1の範囲が0.65μm〜1.2μm(Δn:1×10-3〜5×10-5)と厚いにもかかわらずマルチモード発振(自励発振を含む)が可能である。この理由を以下に説明する。
【0067】
図3(a)は、ストライプ幅Wsが1.5μmの一定であり且つ残し厚d1が0.9μmである試料における発振閾値状態のニア・フィールド・パターン(Near Field Pattern:NFP)像である。NFP像は、光分布(光強度の分布)を示しており、この光分布から得られる半値全幅を用いて光の広がりの程度を示すことが出来る。
【0068】
図3(b)に、残し厚d1=0.6μmを基準として規格化したときの発振閾値状態のNFPの半値全幅(点線で記載)と、残し厚d1=0μmを基準として規格化したときの横方向拡がり電流(計算値:実線で記載)とを示している。つまり、それぞれ基準とした値に対する比をもって示している。NFPの半値全幅は、当初は残し厚d1が厚くなるほど大きくなり、残し厚d1が1.2μm程度を超えると増加が緩やかになって概ね一定の値となる。一方、横方向拡がり電流は、残し厚d1が0.65μm程度までは増加し、それ以後は概ね飽和傾向にある(つまり、増加が緩やかになる)。
【0069】
このように、残し厚d1が0.65〜1.2μmの範囲において、横方向の電流広がりは概ね飽和傾向にあると共に光分布(広がり)は増加しているため、この範囲は可飽和吸収体が増加する領域であると言える。これに対し、残し厚d1が1.2μm以上では、光分布(広がり)及び横方向電流が共に概ね一定であるため、可飽和吸収体に増加は見られず、この結果として発振スペクトルの半値全幅も概ね一定になったと考えられる。これらのことから、可飽和吸収体を形成しやすい領域は、残し厚d1が0.65μm以上の領域である。前述した発振スペクトルが双峰性にならないための領域は残し厚d1が1.2μm以下の領域であるから、安定したマルチモード発振が可能な残し厚d1の望ましい範囲は、0.65μm〜1.2μmとなる。
【0070】
以上のように、本実施形態の半導体レーザ素子においては、従来技術の場合よりも残し厚が厚いために電流の横方向の広がりが大きくなるが、発光する範囲がそれ以上に拡がる。この結果として可飽和吸収体は十分に形成され、安定な基本横モードを保ち且つマルチモード発振が可能となる。
【0071】
次に、ストライプ幅Wsに対する電流の広がりの程度を、レーザ発振前のNFP像を用いて示す。発振前のNFP像は、活性層に注入される電流密度分布と強い相関があるため、これによって電流の広がりを検証することができる。
【0072】
図4(a)は、ストライプ幅Wsが1.7μmで且つ残し厚d1が0.9μmの場合に電流を10mA流したときのNFP像であり、前記の強い相関のため電流分布とも考えることができる。図4(a)に示すように、残し厚d1が0.9μmと比較的厚いため、電流は横方向に広く拡がっており、半値全幅によって表すと5.8μmである。ストライプ幅Wsは1.7μmであるから、これに比べて三倍以上と大きく拡がっていることになる。
【0073】
これと同様にして、ストライプ幅Wsを変化させたときの電流の広がり幅の挙動を半値全幅によって表したものが図4(b)である。図4(b)によると、ストライプ幅Wsが1μmの時に半値全幅は5.7μmであり、ストライプ幅Wsの増加に従って電流広がりも増加し、ストライプ幅Wsが5μmの時には半値全幅で8μm以上となっている。
【0074】
このように、従来の半導体レーザ素子の場合には電流の横広がりがストライプ幅と同等であったのに対し、本実施形態の半導体レーザ素子の場合、残し厚d1が厚いことにより電流広がりがストライプ幅以上になることが確認された。
【0075】
更に、残し厚d1を0.85μmの一定とし、ストライプ幅を変化させたときのマルチモード性(発振スペクトルの半値全幅)の挙動を図5(a)に示す。ここで、ストライプ幅Wsがそれぞれ1.3μm、2.3μm及び4.2μmのときの発振スペクトルを、順に図5(b)、(c)及び(d)に示す。図5(b)〜(d)に示されたように、ストライプ幅Wsが広くなるほど発振スペクトルの半値全幅が減少することが確認できる。
【0076】
これは、次のような理由によると考えられる。まず、ストライプ幅Wsが広いほど、電流のリッジストライプ部分下方における横方向の拡散距離が大きくなる。このため、リッジストライプ部分下方において電流注入される活性層の体積が大きくなる。この結果、電流狭窄層の下方において活性層に形成される可飽和吸収体の体積が、前記の電流注入される活性層の体積に対して相対的に小さくなる。このことから、自励発振が生じにくくなったものと考えられる。
【0077】
また、ストライプ幅Wsが4.2μmの場合には、水平方向のファー・フィールド・パターン(Far Field Pattern :FFP)が双峰性となり、9mW付近においてキンクが発生するといった現象が確認された。このことより、特性上、ストライプ幅Wsの上限は4μm程度であると考えられる。また、ストライプ幅1μmがストライプを形成する際のプロセス上の限界であるため、下限については1μmとする。ストライプ幅が該下限よりも更に狭くなると、微分抵抗が高くなるために発熱を起こし、温度特性に悪影響を与えることになる。
【0078】
以上の結果を基に、本実施形態に係る半導体レーザ素子の構造と、従来技術の構造とについて、温度特性の比較を行なった。この結果として、図6(a)はI−L特性の温度依存性、図6(b)及び(c)は、順に本実施形態及び従来技術における発振スペクトルの温度依存性を示している。ここで、本実施形態の構造においては残し厚d1が0.83μm、従来技術の構造においては残し厚が0.5μmである。この残し厚d1をΔnに換算すると、本実施形態の構造においてはΔn=4×10-4、従来技術の構造においてはΔn=2.5×10-3である。尚、ストライプ幅Wsは両構造とも2.7μmであり、組成比は先に記したような値としている。
【0079】
図6(a)に示されたように、25℃におけるI−L特性としては、従来技術構造の方が低い発振閾値を有する。しかし、85℃においては、本実施形態構造の方が発振閾値が低くなっている。これは、25℃の場合には、従来技術構造の方が本実施形態よりも残し厚が薄いことより、電流の横方向の広がりが小さくなるため発振に寄与しない無効電流が小さくなり、効率的に光に変換されるためと考えられる。また、Δnが比較的大きいため、活性層における導波路損失が減少するのもI−L特性が良好な一因であると考えられる。一方、85℃の場合、従来技術構造によると活性層に注入される電流がストライプ直下の部分に集中して電流密度が増加するため、素子に漏れ電流が発生し発熱につながる結果、温度特性が劣化してしまうものと考えられる。このように、本実施形態の半導体レーザ素子は、従来のものよりも幅広い動作温度保証を有する。
【0080】
また、図6(b)及び(c)に示すように、発振スペクトルの半値全幅は25℃及び85℃の何れにおいても従来技術構造よりも本実施形態構造の場合に大きく、良好な自励発振を生じていると考えられる。
【0081】
以上に説明したように、残し厚d1の範囲を規定することにより、発振スペクトルの半値全幅が広いマルチモード特性を安定に維持しながら、温度特性も良好な半導体レーザ素子を実現できる。つまり、残し厚d1を、残し厚d1の増加に対して電流の広がりが概ね一定であると共に、残し厚d1の増加に伴って活性層における横方向の光の広がりが顕著に増加する範囲とする。
【0082】
このためには、残し厚d1の増加に関わらず電流の広がりが概ね一定になり始める残し厚を基準とし、光分布(NFPの半値全幅)がストライプ幅に対して3倍以下程度になる領域に設定すればよい。
【0083】
具体的な寸法としては、既に説明したように、n形電流狭窄層109の下面から活性層104の上面までの距離(残し厚)d1を0.65〜1.2μm(Δn=1×10-3〜5×10-5)とすると共に、ストライプ幅Wsを1.0〜4.0μmとすればよい。
【0084】
尚、各クラッド層の材料は、0.1Ωcm以上の抵抗を有することが望ましく、具体例としては、AlGaInPを用いることが望ましい。クラッド層の抵抗が小さすぎる(例えば、AlGaAsを用いて0.1Ωcm未満となっている)場合、電流が横方向に拡がり過ぎて可飽和吸収体が形成されなくなる。そこで、確実に可飽和吸収体が形成されるためには、前記のような抵抗値であることが望ましい。
【0085】
また、本実施形態において、リッジストライプとしては、傾斜リッジ、つまり、図1(a)に示すように下面における幅が上面における幅よりも広い形状のストライプ部分111を用いている。しかし、これに代えて、下面における幅が上面における幅と等しい垂直リッジとしてもよい。このような場合について、図7(a)〜(c)に示す。これらは、それぞれ図1(a)〜(c)に対応するものであり、図7(a)に示すように、p形(AlGa)InP第2クラッド層107、p形GaInP中間層108及びp形GaAsコンタクト層110により、下面における幅が上面における幅と等しいストライプ部分211を構成している。この場合にも、ストライプ部分211の側面を覆うように電流狭窄層209が形成されている。
【0086】
その他の点については、図1(a)〜(c)に示した半導体レーザ素子と同様である。例えば、図7(b)に示す活性層104の構成は、図1(b)に示すものと同様である。また、図7(c)にはストライプ部分211の平面構成を模式的に示しており、具体的には、ストライプ部分211の下面の形状211a及びn形電流狭窄層209の下面の形状209aが示されている。その他、同じ構成要素には同じ符号を付し、詳しい説明は省略する。
【0087】
このように垂直リッジを用いる場合、図1(a)に示す傾斜リッジの場合に比べてストライプ部分211の上面の幅が広いため、微分抵抗Rsを低減することができる。この結果として素子の発熱が抑制され、温度特性が向上する。
【0088】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態に係る半導体レーザ素子について説明する。
【0089】
図8(a)、(b)及び(c)は、本発明の半導体レーザ素子の一例を示す図である。まず、図8(a)には、断面図を示している。半導体レーザ素子は、赤外レーザ部700と、赤色レーザ部730とを同一のn形GaAs基板701に搭載したモノリシック2波長レーザ素子である。
【0090】
まず、赤外レーザ部700は、第1の実施形態の半導体レーザ素子と同様の構造を有している。つまり、赤色レーザ部730と共通のn形GaAs基板701上に、赤色レーザ部730とは独立して、n形GaAsバッファ層702、n形(AlGa)InPクラッド層703、活性層704、p形(AlGa)InP第1クラッド層705、p形GaInPエッチングストップ層706、p型(AlGa)InP第2クラッド層707、p形GaInP中間層708及びp形GaAsコンタクト層710が、下からこの順に積層されている。これにより、活性層が2つのクラッド層に挟持されたダブルへテロ構造となっている。
【0091】
また、活性層704は、図1(b)に示した第1の実施形態の半導体レーザ素子における活性層104と同様に、井戸数が3層である量子井戸活性層となっている。
【0092】
また、図8(a)に示すように、p形(AlGa)InP第2クラッド層707、p形GaInP中間層708、p形GaAsコンタクト層710は、リッジストライプとしてメサ型のストライプ形状に加工され、下面における幅が上面における幅よりも広いストライプ部分711を構成している。該ストライプ部分711の両側には、n形GaAs電流狭窄層709が形成されており、これによって、活性層704に注入される電流の領域を狭窄する電流狭窄構造が構成されている。このような構造についても、図1(a)に示したものと同様である。
【0093】
また、電流狭窄層709の下面から活性層704までの距離(残し厚)をd1として記している。
【0094】
ここで、赤外レーザ部700の各層を構成する材料の組成比について、n形(AlGa)InPクラッド層703、p形(AlGa)InP第1クラッド層705及びp型(AlGa)InP第2クラッド層707は、(Al0.7 Ga0.3 0.51In0.49Pである。また、活性層704を構成する(AlGa)InPバリア層1042b及び1044bに関しては、(Al0.4 Ga0.6 0.51In0.49Pとしている(図1(b)を参照)。
【0095】
次に、赤色レーザ部730について、その基本的な構成は赤外レーザ部700と同様である。つまり、赤外レーザ部700と共通のn形GaAs基板701上に、赤外レーザ部700とは独立して、n形GaAsバッファ層732、n形(AlGa)InPクラッド層733、活性層734、p形(AlGa)InP第1クラッド層735、p形GaInPエッチングストップ層736、p形(AlGa)InP第2クラッド層737、p形GaInP中間層738およびp形GaAsコンタクト層740が下からこの順に積層されている。これにより、活性層が2つのクラッド層に挟持されたダブルへテロ構造となっている。
【0096】
但し、活性層734は、図8(b)に示すように、井戸数が五層である量子井戸活性層となっている。つまり、下から順に5つのGaInP井戸層7349w、7347w、7345w、7343w及び7341wが、4つの(AlGa)InPバリア層、7348b、7346b、7344b及び7342bをそれぞれ間に挟んで形成され、これら九層の積層構造が、2つの(AlGa)InPガイド層7350g及び7340gにより下と上から挟まれた構造となっている。結果として、下側(n形(AlGa)InPクラッド層733の側)から順に、7350g、7349w、7348b、7347w、7346b、7345w、7344b、7343w、7342b、7341w及び7340gの順に積層されている。
【0097】
また、図8(a)に示すように、赤外レーザ部700と同様に、p形(AlGa)InP第2クラッド層737、p形GaInP中間層738及びp形GaAsコンタクト層740によりメサ型のストライプ形状(ストライプ部分741)が形成されると共に、その両側にはn形GaAs電流狭窄層709が埋め込まれ、これにより、電流狭窄構造が形成されている。
【0098】
更に、電流狭窄層709の下面(言い換えるとリッジストライプの下面)から活性層734までの距離(残し厚)を、d2として記している。
【0099】
また、赤色レーザ部730の各層を構成する材料の組成比について、n形(AlGa)InPクラッド層733、p形(AlGa)InP第1クラッド層735及びp型(AlGa)InP第2クラッド層737は、(Al0.7 Ga0.3 0.51In0.49Pである。また、(AlGa)InPガイド層7340g及び7350gと、(AlGa)InPバリア層7342b、7344b、7346b及び7348bとに関しては、(Al0.5 Ga0.5 0.51In0.49Pとしている。更に、GaInP井戸層7349w、7347w、7345w、7343w及び7341wについては、Ga0.43In0.57Pとしている。
【0100】
次に、図8(c)には、赤外レーザ部700におけるストライプ部分711及び赤色レーザ部730におけるストライプ部分741の平面形状を示している。ここで、ストライプ部分111の下面の形状は、図1(c)と同様に、光出射端面Aから後端面Bまで同じ幅の形状711aとなっている。これに対し、赤色レーザ部730におけるストライプ部分741の平面形状は、光出射端面Aから後端面Bに向かって次第に幅が広くなるテーパストライプ構造の形状741aとなっている。ここで、赤色レーザ部730においては、光出射端面A側のストライプ幅をWsと表すことにする。
【0101】
尚、赤外レーザ部700におけるストライプ部分711と、赤色レーザ部730におけるストライプ部分741とは同時に形成される。また、電流狭窄層709についても、赤外レーザ部700及び赤色レーザ部730において同時に形成される。更に、いずれも図示は省略しているが、p形GaAsコンタクト層710及び740と、n形電流狭窄層709との上にはp形電極が形成されていると共に、n形GaAs基板701の裏面にはn形電極が形成されている。これらのp型電極及びn型電極についても、やはり、赤外レーザ部700及び赤色レーザ部730において、同時に形成される。
【0102】
以上のように、本実施形態の半導体レーザ素子は、赤外レーザ部700と赤色レーザ部730とを備えるモノリシック2波長レーザ素子となってる。該半導体レーザ素子について、第1の実施形態と同様に、残し厚を変化させた際のマルチモード性(発振スペクトルの半値全幅)の挙動を図9(a)に示す。但し、赤外レーザ部700については第1の実施形態の半導体レーザ素子と同じであるから省略し、赤色レーザ部730についてのみ示す。
【0103】
ここで、ストライプ幅は、光出射端面Aにおいて3μmで且つ後端面Bにおいて5μmとし、測定条件としては、室温及び3.5mW時である。
【0104】
図9(a)に示すように、残し厚d2が増加すると、当初はこれに伴って発振スペクトルの半値全幅が増加し、残し厚d2が0.45μm以上となると発振スペクトルの半値全幅は概ね一定となる。図9(b)、(c)及び(d)に、順には、残し厚d2が0.39μm、0.47μm、0.72μmの場合の実際のスペクトル波形を示した。発振スペクトルは、図9(b)に示す残し厚が0.39μmの場合にはシングルピークに近く、図9(b)に示す0.47μmの場合及び図9(c)に示す0.72μmの場合には半値全幅の広いマルチモードスペクトルが得られている。
【0105】
このことは、ストライプ部分741に対応する部分と、その両側に対応する部分との実効屈折率差(Δn)により説明できる。
【0106】
残し厚d2が0.39μmの場合は、Δn=1.2×10-3程度であり、この比較的大きいΔnのために光がリッジの横に染み出すことができず、可飽和吸収体が形成され難い状況になる。この結果として、発振スペクトルの半値全幅が小さくなる。
【0107】
これに対し、残し厚d2が0.47μm及び0.72μmである場合には、それぞれΔnがΔn=3.8×10-4及び3.6×10-5程度と小さいために光がリッジの横に染み出すことができ、可飽和吸収体が十分に形成され、マルチモード発振したものと考えられる。但し、残し厚d2が0.72μmの場合、図示は省略するが、水平方向に関するFFPが双峰性になるという現象が発生した。このため、安定したマルチモード性と基本横モード発振とを共に実現できる残し厚d2は、0.4〜0.7μmであることが確認された。
【0108】
ここで、一般に、従来の半導体レーザ素子による赤色レーザの自励発振のための残し厚d2は、0.25μm〜0.4μm(Δn:3×10-3〜1×10-3)である。これに対し、本実施形態の場合には、前記のように残し厚d2の範囲が0.4μm〜0.7μm(Δn:1×10-3〜5×10-5)と厚いにもかかわらずマルチモード発振(自励発振を含む)が可能である。この理由を以下に説明する。
【0109】
図10(a)は、ストライプ幅が光出射端面Aにおいて3μm、後端面において5μmであり、残し厚d2が0.47μmである場合の発振閾値状態におけるNFP像を示している。第1の実施形態の場合と同様、NFP像が示す光分布から得られる半値全幅を用いて、光の広がりの程度を示すことができる。
【0110】
図10(b)に、残し厚d2=0.39μmを基準として規格化したときの発振閾値状態のNFPの半値全幅(点線で記載)と、残し厚d2=0μmを基準として規格化したときの横方向拡がり電流(計算値:実線で記載)とを示している。NFPの半値全幅は、当初は残し厚d2が厚くなるほど大きくなり、残し厚d2が0.7μm程度を超えるとほぼ一定になる。一方、横方向拡がり電流は、残し厚d2が0.4μm程度までは増加し、それ以後は概ね飽和傾向にある。
【0111】
このように、残し厚d2が0.4μm〜0.7μmの範囲において、横方向の電流広がりは概ね飽和傾向にあると共に光分布(広がり)は増加しているため、この範囲は可飽和吸収体が増加する領域であると言える。これに対し、残し厚d2が0.7μm以上では、光分布(広がり)及び横方向電流が共に概ね一定であるため、可飽和吸収体に顕著な増加は見られず、この結果として発振スペクトルの半値全幅も概ね一定になったと考えられる。これらのことから、可飽和吸収体を形成しやすい領域は、残し厚d2が0.4μm以上の領域である。前述したFFPが双峰性にならないための領域は残し厚d1が0.7μm以下の領域であるから、安定したマルチモード発振が可能な残し厚d1の範囲は、0.4μm〜0.7μmとなる。
【0112】
次に、ストライプ幅に対する電流の広がりの程度を、レーザ発振前のNFP像を用いて示す。図11(a)は、ストライプ幅が光出射端面Aで3.3μm、後端面Bで6μmとなっており、残し厚d2が0.43μm、電流が10mA流されたときのNFP像である。これは、活性層に注入される電流密度分布と強い相関があるため、電流分布として見ることができる。図11(a)に示すように、残し厚d2が0.43μmと比較的厚いため、電流は横方向に広く拡がっており、半値全幅によって表すと5.9μmである。この値は、光出射端面Aにおけるストライプ幅Wsの3.3μmと比べて2倍近くのかなり大きな広がりをもっていることになる。
【0113】
これと同様にして、後端面B側のストライプ幅を6μmで一定とし、光出射端A側のストライプ幅Wsを変化させたときのNFPによる電流分布の半値全幅の挙動を示したのが図11(b)である。図11(b)によると、光出射端A側のストライプ幅Wsが2.9μmの時に電流広がり(半値全幅)は5.3μmであり、ストライプ幅の増加に従って電流広がりも増加し、ストライプ幅が5μmの時には半値全幅で8μm以上となっている。このように、従来よりも残し厚d2を大きくすると、電流広がりがストライプ幅よりも大きくなることが確認された。
【0114】
次に、残し厚d2を0.45μmで一定、後端面Bのストライプ幅を6μmで一定とし、光出射端面Aのストライプ幅Wsを変化させたときのマルチモード性(発振スペクトルの半値全幅)の挙動を図12(a)に示す。ここで、光出射端面Aのストライプ幅Wsがそれぞれ2.2μm、4.2μm及び5.8μmのときの発振スペクトルを、順に図12(b)、(c)及び(d)に示す。図12(b)〜(d)に示されたように、光出射端面Aのストライプ幅Wsが広くなるほど発振スペクトルの半値全幅が減少することが確認できる。これは、第1の実施形態の場合と同様の理由によると考えられる。つまり、光出射端面Aのストライプ幅Wsの増加に伴ってリッジストライプ部分下方において電流注入される活性層の体積が大きくなるため、電流狭窄層の下方において活性層に形成される可飽和吸収体の体積が相対的に小さくなることから、自励発振が生じにくくなったものと考えられる。
【0115】
また、ストライプ幅が5.8μmの場合は、水平方向のFFPが双峰性の高次横モード発振を生じ、7mW付近でキンクが発生するといった現象が確認された。このことより、特性上、ストライプ幅の上限は5.5μm程度であると考えられる。
【0116】
また、ストライプ幅2.2μmのときは、I−L特性において、外部微分効率Seに非線形性が生じた。これは、可飽和吸収体の体積が大きくなり、可飽和吸収体が透明になると、導波路損失が急激に小さくなることに起因する。このようなI−L特性は、実用上、APC(Auto Power Control)動作させにくいため好ましくない。このことより、ストライプ幅の下限は2.5μm程度となる。
【0117】
以上の結果を基に、実際に本実施形態に係る半導体レーザ素子の構造と、従来技術の構造とについて、温度特性の比較を行なった。この結果として、図13(a)はI−L特性の温度依存性、(b)及び(c)は順に本実施形態及び従来技術における発振スペクトルの温度依存性を示している。ここで、本実施形態の構造においては残し厚d2が0.42μm、従来技術構造においては残し厚が0.33μmである。この残し厚d2をΔnに換算すると、本発明構造ではΔn=5×10-4、従来技術構造ではΔn=1.4×10-3である。尚、ストライプ幅は両構造とも光出射端面A側は3.2μm、後端面B側は5.2μmであり、組成比は先に記したような値としている。
【0118】
図13(a)に示されたように、25℃におけるI−L特性としては、従来技術構造の方が低い発振閾値を有する。しかし、85℃では、本実施形態の構造の方が発振閾値が低くなっている。この理由も、第1の実施形態の場合と同様と考えられる。つまり、まず、25℃では、従来技術の構造は残し厚が薄いことより電流が横方向に大きく広がることがなく、このため発振に寄与しない無効電流が小さくなって効率的に光に変換されるためと考えられる。また、Δnが比較的大きいため、活性層での導波路損失が減少するのもI−L特性が良好な一因であると考えられる。一方、85℃の場合、従来技術の構造によると活性層に注入される電流がストライプ直下の部分に集中して電流密度が増加するため、素子に漏れ電流が発生して発熱につながり、これが原因となって温度特性が劣化してしまうものと考えられる。本実施形態の半導体レーザ素子の場合、電流の横広がりが従来技術よりも大きくなるため、電流密度も従来よりも低くなっており、漏れ電流の発生が抑制されている結果、幅広い動作温度保証を有している。
【0119】
また、図13(b)及び(c)に示すように、発振スペクトルの半値全幅は25℃及び85℃の何れにおいても従来技術構造よりも本実施形態構造の場合に大きく、良好なマルチモード特性が得られている。
【0120】
以上に説明したように、第1の実施形態の場合と同様に、本実施形態によると、残し厚d2の範囲を規定することにより、発振スペクトルの半値全幅が広いマルチモード特性を安定に維持しながら、温度特性も良好な半導体レーザ素子を実現できる。つまり、残し厚d2を、残し厚d2の増加に対して電流の広がりが概ね一定であると共に、残し厚d2の増加に伴って活性層における横方向の光の広がりが増加する範囲とする。このためには、残し厚d2の増加に関わらず電流の広がりが概ね一定になり始める残し厚を基準とし、光分布(NFPの半値全幅)がストライプ幅に対して2倍以下程度になる領域に設定すればよい。
【0121】
具体的な寸法としては、既に示したように、n形電流狭窄層739の下面から活性層734の上面までの距離(残し厚)d2を0.4〜0.7μm(Δn=1×10-3〜5×10-5)とすると共に、平均のストライプ幅(テーパストライプ構造をストレートなストライプとして換算した場合の平均幅)を2.5〜5.5μmとすればよい。このようにすると共に、赤外レーザ部700については第1の実施形態の半導体レーザ素子と同様に構成されていると、モノリシック2波長レーザとして、安定した特性を得ることができる。
【0122】
尚、各クラッド層の材料は、0.1Ωcm以上の抵抗を有することが望ましく、具体例としては、AlGaInPを用いることが望ましい。
【0123】
また、本実施形態において、リッジストライプとしては、傾斜リッジ、つまり、図8(a)に示すように下面における幅が上面における幅よりも広い形状のストライプ部分711を用いている。しかし、第1の実施形態の場合と同様に、これに代えて、下面における幅が上面における幅と等しい垂直リッジとしてもよい。具体的な構造の一例を、図14(a)〜(c)に示す。これは、図8(a)〜(c)に順に対応し、図14(a)に示すように、p形(AlGa)InP第2クラッド層707、p形GaInP中間層708及びp形GaAsコンタクト層710により、下面における幅が上面における幅と等しいストライプ部分811を構成している。また、p形(AlGa)InP第2クラッド層737、p形GaInP中間層738及びp形GaAsコンタクト層740により、下面における幅が上面における幅と等しいストライプ部分841を構成している。尚、ストライプ部分811及び841の側面を覆うように、電流狭窄層709が形成されている。
【0124】
この他の点については、図8(a)〜(c)に示した半導体レーザ素子と同様であるから、同様の符号を付すことによって詳しい説明は省略する。
【0125】
このように、垂直リッジを用いる場合、図8(a)に示す傾斜リッジの場合に比べてストライプ部分811及び841の上面の幅が広いため、微分抵抗Rsを低減することができる。この結果として素子の発熱が抑制され、温度特性が向上する。
【0126】
また、本実施形態においては、第1の実施形態と同様の赤外レーザ部700と、赤色レーザ部730とが共通のn形GaAs基板701上に形成されたモノリシック2波長レーザ素子を説明した。しかし、レーザを発振する発光部としては赤色レーザ部730だけが搭載されたレーザ素子を形成することは、当然可能である。この場合にも、言うまでもなく、本実施形態において説明したような残し厚を有する赤色レーザ部とすることにより、従来よりも幅広い温度範囲において安定に動作するレーザ素子を得ることができる。
【0127】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態に係る半導体レーザ素子について説明する。
【0128】
図15(a)、(b)及び(c)は、本発明の半導体レーザ素子の一例を示す図である。ここで、半導体レーザ素子は、第2の実施形態の半導体レーザ素子とは一部を除いて同じ構造を有している。このため、構造の相違点についてのみ詳しく説明することにする。半導体レーザ素子と同じ構成要素について、図13(a)〜(c)において、図8(a)〜(c)と同じ符号を付している。
【0129】
本実施形態の半導体レーザ素子は、p型(AlGa)InP第2クラッド層707、p形GaInP中間層708及びp形GaAsコンタクト層710からなるストライプ部分911と、p形(AlGa)InP第2クラッド層737、p形GaInP中間層738及びp形GaAsコンタクト層740からなるストライプ部分941とについて、第2の実施形態の半導体レーザ素子とは平面形状が異なっている。
【0130】
具体的には、ストライプ部分911及び941について、いずれも、図15(c)に示すように、光出射端面Aから内側に向かって徐々にストライプ幅が広くなり、中央部分は均一な幅のストレートストライプとなっており、その後、後端面Bに向かって徐々に幅の狭くなる形状となっている。言い換えると、ストライプ幅が一定の部分が内側に存在し、その両端から、それぞれ光出射端面A及び後端面Bに向かってテーパ状に細くなる部分が連続して形成されている。
【0131】
このような、テーパストライプ構造は、ストレートストライプよりもストライプ幅を広くすることができるため、微分抵抗Rsを低減して素子の発熱を抑制し、温度特性を向上することができる。
【0132】
ただし、赤外レーザ部700におけるストライプ部分911の幅の平均(テーパストライプ構造をストレートとして換算した平均幅)は1〜4μm、赤色レーザ部730におけるストライプ部分730の幅の平均は2.5〜5.5μmとする必要がある。これは、第1及び第2の実施形態において説明したのと同じ寸法の範囲である。この範囲から外れると、キンクが発生する、発振スペクトルやFFPが双峰性を示す、レーザ素子の製造歩留りが低下する等の問題が発生する。
【0133】
尚、以上の第1、第2及び第3の実施形態においては、電流狭窄層としてn形GaAs層を用いた。しかし、これに代えて、Ti/Auのような金属、AlGaAs、AlInPやα−Siのような半導体、SiNx 、SiOx のような絶縁膜を用いることにはなんら問題は無い。更に、(Al0.5Ga0.50.51In0.49P等の組成比も、特にこれに限るものではない。
【0134】
また、活性層における井戸数を赤外側3層、赤色側5層としたが、赤外側3〜5層、赤色側4〜7層の範囲であれば良好な特性を得られる。
【0135】
更に、ストライプ構造は、ストレートストライプ構造、光出射端面A側が狭く後端面B側が広くしたテーパストライプ構造、及び、中央部が広く両端面にしたがって狭くなる構造の3つを説明した、しかし、これらに限らず、後端面B側が狭く光出射端面A側が広い構造、中央部が狭く両端面側に向かって広くなる構造等であっても良い。但し、平均ストライプ幅(テーパストライプ構造をストレートとして換算した平均幅)として、赤外レーザ部において1〜4μm、赤色レーザ部において2.5〜5.5μmとすることが要求される。
【0136】
更に、本発明がAlGaAs/GaAs系、AlGaN/InGaN系、ZnMgSSe/ZnS系など、種々のレーザに適用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の半導体レーザ素子は、高温動作時にも安定して基本横モードで且つマルチ縦モードの発振を行ない且つ温度特性が良好であるため、幅広い動作温度保証が要求される半導体レーザ素子として有用であり、特に、光ディスクシステムの分野におけるレーザ光源等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】図1(a)〜(c)は、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を示す図であり、図1(a)は断面、図1(b)は活性層の詳しい構造、図1(c)はストライプ部分の平面形状を示す。
【図2】図2(a)は、第1の実施形態において、電流狭窄層下面から活性層の上面までの距離(残し厚)d1と、発振スペクトルの半値全幅との関係を示し、図2(b)〜(d)は、それぞれのd1に対するスペクトルを示す。
【図3】図3(a)は、第1の実施形態の半導体レーザ素子における発振閾値状態のNFP像であり、図3(b)は、残し厚d1に対する横方向拡がり電流とNFPの半値全幅を示す。
【図4】図4(a)は、第1の実施形態の半導体レーザ素子に電流を10mA流した場合のNFP像を示し、図4(b)は、ストライプ幅とNFPの半値全幅との関係を示す図である。
【図5】図5(a)は、第1の実施形態の半導体レーザ素子におけるストライプ幅と発振スペクトルの半値全幅との関係を示す図であり、図5(b)〜(d)は、それぞれのストライプ幅に対する発振スペクトルを示す図である。
【図6】図6(a)は、第1の実施形態及び従来技術についてそれぞれI−L特性を示す図であり、図6(b)は、第1の実施形態における25℃及び85℃の発振スペクトルを示す図であり、図6(c)は、従来技術の25℃、85℃の発振スペクトルを示す図である。
【図7】図7(a)〜(c)は、第1の実施形態の半導体レーザ素子において垂直リッジを形成している場合の構造を示す図である。
【図8】図8(a)〜(c)は、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を示す図であり、図2(a)は断面、図1(b)は赤色レーザ部における活性層の詳しい構造、図8(c)はストライプ部分の平面形状を示す。
【図9】図9(a)は、第2の実施形態の赤色レーザ部において、電流狭窄層下面から活性層の上面までの距離(残し厚)d2と、発振スペクトルの半値全幅との関係を示し、図9(b)〜(d)は、それぞれのd2に対するスペクトルを示す。
【図10】図10(a)は、第2の実施形態の半導体レーザ素子における赤色レーザ部の発振閾値状態のNFP像であり、図10(b)は、残し厚d2に対する横方向拡がり電流及びNFPの半値全幅を示す。
【図11】図11(a)は、第2の実施形態の半導体レーザ素子における赤色レーザ部に電流を10mA流した場合のNFP像を示し、図11(b)は、ストライプ幅とNFPの半値全幅との関係を示す図である。
【図12】図12(a)は、第2の実施形態の半導体レーザ素子における赤色レーザ部のストライプ幅と発振スペクトルの半値全幅との関係を示す図であり、図12(b)〜(d)は、それぞれのストライプ幅に対する発振スペクトルを示す図である。
【図13】図13(a)は、第2の実施形態における赤色レーザ部及び従来技術についてそれぞれI−L特性を示す図であり、図13(b)は、第2の実施形態の赤色レーザ部における25℃及び85℃の発振スペクトルを示す図であり、図13(c)は、従来技術の25℃、85℃の発振スペクトルを示す図である。
【図14】図14(a)〜(c)は、第2の実施形態の半導体レーザ素子において垂直リッジを形成している場合の構造を示す図である。
【図15】図15は、本発明の第3の実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を示す図であり、図15(a)は断面、図15(b)は活性層の詳しい構造、図15(c)はストライプ部分の平面形状を示す。
【符号の説明】
【0139】
101 n形GaAs基板
102 n形GaAsバッファ層
103 n形(AlGa)InP第1クラッド層
104 活性層
1040g (AlGa)InP第1ガイド層
1041w GaAs第1ウェル層
1042b (AlGa)InP第1バリア層
1042w GaAs第2ウェル層
1043b (AlGa)InP第2バリア層
1045w GaAs第3ウェル層
1046g (AlGa)InP第2ガイド層
105 p形(AlGa)InP第1クラッド層
106 p形エッチングストップ層
107 p形(AlGa)InP第2クラッド層
108 p形GaInP中間層
109 n形GaAs電流狭窄層
109a n形GaAs電流狭窄層下面の形状
110 p形GaAsコンタクト層
111 ストライプ部分
111a ストライプ部分下面の形状
d1 残し厚
211 ストライプ部分

700 赤外レーザ部
701 n形GaAs基板
702 n形GaAsバッファ層
703 n形(AlGa)InP第1クラッド層
704 活性層
705 p形(AlGa)InP第1クラッド層
706 p形エッチングストップ層
707 p形(AlGa)InP第2クラッド層
708 p形GaInP中間層
709 n形GaAs電流狭窄層
709a n形GaAs電流狭窄層下面の形状
710 p形GaAsコンタクト層
711 ストライプ部分
711a ストライプ部分下面の形状
d1 残し厚

730 赤色レーザ部
732 n形GaAsバッファ層
733 n形(AlGa)InP第1クラッド層
734 活性層
7340g (AlGa)InP第1ガイド層
7341w GaAs第1ウェル層
7342b (AlGa)InP第1バリア層
7342w GaAs第2ウェル層
7343b (AlGa)InP第2バリア層
7345w GaAs第3ウェル層
7346b (AlGa)InP第3バリア層
7347w GaAs第4ウェル層
7348b (AlGa)InP第4バリア層
7349w GaAs第5ウェル層
7350g (AlGa)InP第2ガイド層
735 p形(AlGa)InP第1クラッド層
736 p形エッチングストップ層
737 p形(AlGa)InP第2クラッド層
738 p形GaInP中間層
740 p形GaAsコンタクト層
741 ストライプ部分
741a ストライプ部分下面の形状
d2 残し厚

811、841、911、941 ストライプ部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、
第1のクラッド層と、
前記第1のクラッド層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成され、前記活性層に電流を注入するためのリッジストライプを有する第2のクラッド層と、
前記リッジストライプの両側に形成され、前記電流が前記リッジストライプに狭窄されるようにするための電流狭窄層とを有する発光部を備え、
前記電流狭窄層の下面から前記活性層の上面までの距離が所定の範囲の値であり、
前記電流は、前記リッジストライプを通過した後、前記活性層に到達するまでに前記リッジストライプの幅以上に広がっていることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項2】
請求項1において、
前記所定の範囲は、
前記距離の増加に対する電流の横広がりの増加が緩やかになる点における前記距離を下限とすると共に、
前記距離の増加に対するNFPの半値全幅の増加が緩やかになる点における前記距離を上限とする範囲であることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記所定の範囲は、0.65μm以上で且つ1.2μm以下であることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つにおいて、
前記活性層は、Alx Ga1-x As(0≦x≦1)により形成されていると共に、
前記第1のクラッド層及び前記第2のクラッド層は、AlGaInP系の材料により形成されていることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つにおいて、
前記リッジストライプの幅が、1μm以上で且つ4μm以下であることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項6】
請求項1又は2において、
前記所定の範囲は、0.4μm以上で且つ0.7μm以下であることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項7】
請求項1、2又は6において、
前記活性層は、Gay In1-y P(0<y<1)により形成されていると共に、
前記第1のクラッド層及び前記第2のクラッド層は、AlGaInP系の材料により形成されていることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項8】
請求項1、2、6又は7において、
前記リッジストライプの幅が、2.5μm以上で且つ5.5μm以下であることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つにおいて、
前記リッジストライプの側面が、いずれも前記基板の主面に対して垂直であることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項10】
基板上に、少なくとも第1の発光部及び第2の発光部を備え、
前記第1の発光部及び前記第2の発光部は、それぞれ、第1のクラッド層と、前記第1のクラッド層上に形成された活性層と、前記活性層上に形成され、前記活性層に電流を注入するためのリッジストライプを有する第2のクラッド層と、前記リッジストライプの両側に形成され、前記電流が前記リッジストライプに狭窄されるようにするための電流狭窄層とを有し、
前記第1の発光部及び前記第2の発光部の両方において、前記電流狭窄層の下面から前記活性層の上面までの距離がそれぞれ所定の範囲の値であると共に、前記電流は、前記リッジストライプを通過した後、前記活性層に到達するまでに当該リッジストライプの幅以上に広がっていることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項11】
請求項10において、
前記第1の発光部における所定の距離が0.65μm以上で且つ1.2μm以下であると共に、
前記第2の発光部における所定の距離が0.4μm以上で且つ0.7μm以下であることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項12】
請求項10又は11において、
前記第1の発光部及び前記第2の発光部がそれぞれ有する前記リッジストライプは、同時に形成されていることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1つにおいて、
前記第1の発光部及び前記第2の発光部の少なくとも一方における前記リッジストライプの側面が、前記基板の主面に対して垂直であることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれか1つにおいて、
前記第1の発光部が有する前記活性層は、Alx Ga1-x As(0≦x≦1)により形成され、
前記第2の発光部が有する前記活性層は、Gay In1-y P(0<y<1)により形成され、
前記第1のクラッド層及び前記第2のクラッド層は、いずれもAlGaInP系の材料により形成されていることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項15】
請求項10〜14のいずれか1つにおいて、
前記第1の発光部が有する前記リッジストライプの幅が1.0μm以上で且つ4.0μm以下であると共に、
前記第2の発光部が有する前記リッジストライプの幅が2.5μm以上で且つ5.5μm以下であることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項16】
請求項10〜15のいずれか1つにおいて、
前記第1の発光部及び前記第2の発光部がそれぞれ有する前記リッジストライプの少なくとも一方は、幅に変化のあるテーパストライプ構造を有していることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項17】
請求項16において、
前記テーパストライプ構造は、光が出射される光出射端面の側から、前記光出射端面に対向する後端面の側に向かって徐々に幅が広くなる構造であることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項18】
請求項16において、
前記テーパストライプ構造は、中央部から、光が出射される光出射端面の側と、前記光出射端面に対向する後端面の側とに向かってそれぞれ徐々に幅が狭くなる構造であることを特徴とする半導体レーザ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−157838(P2007−157838A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−348065(P2005−348065)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】