説明

半導体レーザ素子

【課題】レーザ素子の信頼性を向上させることが可能な半導体レーザ素子を提供する。
【解決手段】この青紫色半導体レーザ素子100(半導体レーザ素子)は、光出射面2aを有する半導体素子層と、端面コート膜8とを備える。端面コート膜8は、窒素を含む窒化物からなり光出射面2aに接するAlN膜31と、AlN膜31の光出射面2aとは反対側に形成され、各々が酸窒化物からなるAlON膜32、33および34とを含む。そして、AlN膜31に近い側に位置するAlON膜32の酸素含有率は、AlN膜31から見てAlON膜32よりも遠い側に位置するAlON膜33および34の酸素含有率よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子に関し、特に、共振器面上に端面コート膜が形成された半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体レーザは、光ディスクシステムや光通信システムなどの光源として広く用いられている。また、システムを構成する機器の高性能化に伴いレーザ素子特性の向上が要望されている。特に、高密度光ディスクシステムの光源として、レーザ光の短波長化や高出力化が望まれており、近年では、窒化物系半導体により、発振波長が約405nmの青紫色半導体レーザ素子が開発されるとともに、レーザ素子の高出力化が検討されている。
【0003】
一般的に、半導体レーザの高出力化を行う場合、製造プロセスにおいて、半導体レーザ素子の共振器における光出射面を低反射率にするとともに、光反射面を高反射率とする端面コート処理が施される。多くの半導体レーザ素子では、共振器の端面コート処理に、従来SiOやAlなどの酸化膜からなる誘電体膜が用いられてきた。しかし、この場合、レーザ光の発振中に、誘電体膜中の酸素が半導体層に拡散して半導体層が酸化されてしまい、半導体層と端面コート膜との界面に非発光再結合準位(発光エネルギが熱エネルギに変換される状態)が発生する。この結果、レーザ光が半導体層や端面コート膜に吸収されやすくなり、出射端面の異常発熱に起因して光学損傷破壊(COD)が発生する不都合がある。そこで、酸素原子を有しない窒化膜からなる誘電体膜のみを用いた端面コート膜が提案されているが、一般的に、窒化膜が有する応力は、酸化膜の場合と比較して数倍〜数十倍も大きいために膜剥れが生じやすく、出射端面に割れや剥離を生じさせる不都合がある。
【0004】
そこで、従来では、窒化膜と酸化膜とを用いて端面コート膜を形成する提案がなされている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
上記特許文献1には、光出射面上に、酸化物からなる第1コート膜(酸化膜)が形成されるとともに、光出射面と第1コート膜との間に挟まれるように窒化物からなる第2コート膜(窒化膜)が形成された窒化物半導体発光素子が開示されている。この窒化物半導体発光素子では、共振器面(光出射面)に直接接触する窒化物からなる第2コート膜により、雰囲気に曝される最表面の第1コート膜から半導体層(光出射面)へ酸素が供給されることが抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−243023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に開示された窒化物半導体発光素子では、約400nmの波長を有する光密度の大きい高エネルギのレーザ光が光出射面から出射されるので、レーザ光が透過する第2コート膜および第1コート膜には発熱が生じる。この場合、第2コート膜と第1コート膜との界面では、発熱によって酸化物からなる第1コート膜から酸素が盛んに脱離するのと同時に、第2コート膜の窒素と第1コート膜から脱離した酸素とが置換される。これにより、第1コート膜と第2コート膜との界面が変質(酸化)を起こしやすくなる。ここで、第2コート膜における窒素と酸素とが置換する反応速度よりも、酸化物からなる第1コート膜から酸素が脱離する反応速度が大きいため、レーザ光の出射に伴って第1コート膜から先に劣化(酸化)し始める。このように、窒化膜と酸化膜とを用いて端面コート膜を形成した場合であっても、端面コート膜の劣化とともに光吸収が増大してしまい、光吸収の増加に起因した反射率の低下がさらなる光吸収を助長する。したがって、光出射面にはCODが生じやすいと考えられる。特に、高出力化された半導体レーザ素子では、レーザの動作時間が長いほど上記の点が顕著となるので、レーザ素子の信頼性が低下するという問題点がある。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、レーザ素子の信頼性を向上させることが可能な半導体レーザ素子を提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0009】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面による半導体レーザ素子は、活性層を含み、出射側共振器面と反射側共振器面とを有する半導体素子層と、出射側共振器面の表面上に形成された端面コート膜とを備え、端面コート膜は、窒素を含む窒化物からなり出射側共振器面に接する第1窒化膜と、第1窒化膜の出射側共振器面とは反対側に形成され、各々が酸窒化物からなる複数の酸窒化膜とを含み、複数の酸窒化膜のうちの第1窒化膜に近い側に位置する第1酸窒化膜の酸素含有率は、第1窒化膜から見て第1酸窒化膜よりも遠い側に位置する第2酸窒化膜の酸素含有率よりも小さい。
【0010】
なお、本発明において、出射側共振器面は、一対に形成された共振器端面のそれぞれから出射されるレーザ光強度の大小関係により区別される。すなわち、相対的にレーザ光の出射強度の大きい側が出射側共振器面である。また、相対的にレーザ光の出射強度の小さい側が反射側共振器面である。
【0011】
この発明の一の局面による半導体レーザ素子では、上記のように、端面コート膜は、第1窒化膜の出射側共振器面とは反対側に形成され、各々が酸窒化物からなる複数の酸窒化膜を含んでおり、複数の酸窒化膜のうちの第1窒化膜に近い側に位置する第1酸窒化膜の酸素含有率は、第1窒化膜から見て第1酸窒化膜よりも遠い側に位置する第2酸窒化膜の酸素含有率よりも小さい。これにより、多層化された酸窒化膜によって、雰囲気中に存在する酸素が第1窒化膜中により取り込まれにくくなる。また、複数の酸窒化膜間に酸化膜が配置されていたとしても、酸化膜から脱離する酸素を酸化膜よりも第1窒化膜寄りに配置された単層または多層化された酸窒化膜によって、第1窒化膜中により取り込まれにくくなる。この際、出射側共振器面により近い側の酸窒化膜(第1酸窒化膜)が有する酸素含有率が、出射側共振器面からより遠い側の酸窒化膜(第2酸窒化膜)が有する酸素含有率よりも小さいので、第1窒化膜および半導体素子層へ酸素が拡散することをより確実に抑制することができる。すなわち、端面コート膜内のみならず端面コート膜と光出射面との界面における変質が最小限に抑制されるので、レーザ出射光を高出力化した場合でも出射側共振器面および端面コート膜における光吸収が効果的に抑制されて共振器面の光学損傷破壊(COD)が抑制される。この結果、半導体レーザ素子の信頼性を向上させることができる。
【0012】
また、上記一の局面による半導体レーザ素子では、端面コート膜が複数の酸窒化膜を含んでいるので、端面コート膜を完全な窒化膜の多層膜構造として構成する場合と異なり、個々の酸窒化膜の厚みを調整することにより、出射側共振器面を出射したレーザ光の反射率を容易に制御することができる。さらには、一般的に大きな膜応力を有する窒化膜と小さな膜応力を有する酸化膜とのおおよそ中間程度の大きさの膜応力である酸窒化膜を設けている分、端面コート膜内の第1窒化膜に対する応力差を適切に緩和させることができる。これにより、膜剥れなどを生じさせずに第1窒化膜を出射側共振器面に接触させて出射側共振器面における放熱性を向上させることができる。この結果、高出力化に対応した半導体レーザ素子の信頼性を向上させることができる。
【0013】
上記一の局面による半導体レーザ素子において、好ましくは、第1酸窒化膜の屈折率は、第2酸窒化膜の屈折率よりも大きい。ここで、一般的に、屈折率が大きい材料は光と相互作用しやすい材料であり、バンドギャップが小さい材料であることを意味する。また、バンドギャップが小さい材料は、誘電率(絶縁性)が大きい性質を有する。したがって、出射側共振器面により近い位置に配置された第1酸窒化膜が相対的に大きな誘電率(絶縁性)を有することによって、半導体レーザ素子における半導体のpn接合間に、第1酸窒化膜を介したリーク電流が発生することを効果的に抑制することができる。したがって、リーク電流の発生が抑制される分、半導体素子層中に効率よく電流を流すことができる。その結果、半導体レーザ素子のスロープ効率を向上させることができる。また、その他の効果として、同じレーザ光出力を得る場合であっても動作電圧をより低電圧に維持した状態で半導体レーザ素子を駆動させることができる。
【0014】
上記一の局面による半導体レーザ素子において、好ましくは、第1酸窒化膜は、第1窒化膜の出射側共振器面とは反対側の表面に接触する酸窒化膜を含み、第1窒化膜に接触する第1酸窒化膜の酸素含有率は、複数の酸窒化膜の内で最も小さい。このように構成すれば、第1窒化膜に接する第1酸窒化膜の酸素含有率が最も小さいので、他の複数の第2酸窒化膜から脱離する酸素が第1窒化膜中に取り込まれる傾向をより一層弱めることができる。また、第1酸窒化膜が第1窒化膜に接触しているので、たとえ第1酸窒化膜と第1窒化膜との界面に変質が生じた場合であっても、第1窒化膜によって出射側共振器面への変質の拡大を抑制することができる。これにより、半導体素子層へ酸素が拡散することをより確実に抑制することができる。
【0015】
上記一の局面による半導体レーザ素子において、好ましくは、端面コート膜の最表面には、第2酸窒化膜が配置されており、端面コート膜の最表面に配置された第2酸窒化膜の酸素含有率は、複数の酸窒化膜の内で最も大きい。このように構成すれば、より大きな酸素含有率を有する第2酸窒化膜により、出射側共振器面から出射されたレーザ光の反射率を容易に制御することができる。
【0016】
この場合、好ましくは、少なくとも端面コート膜の最表面に配置された第2酸窒化膜により、出射側共振器面における反射率が制御される。このように、端面コート膜の最表面に配置された第2酸窒化膜の厚みを適宜調整することにより、出射側共振器面を出射したレーザ光の反射率を所望の値に制御することができる。
【0017】
上記一の局面による半導体レーザ素子において、好ましくは、第1窒化膜と複数の酸窒化膜の各々とは、共通の金属元素を含む。このように構成すれば、端面コート膜を構成する各膜同士が、同種の金属元素を含む誘電体材料であるので、各膜同士が接触する際の密着性を向上させることができる。この結果、端面コート膜を構成する各膜同士の膜剥れを抑制することができる。
【0018】
上記一の局面による半導体レーザ素子において、好ましくは、端面コート膜は、出射側共振器面側から窒化膜と酸窒化膜とが交互に配置されており、第1窒化膜以外の2つの酸窒化膜間に挟まれる第2窒化膜から見て、第1窒化膜側に隣接する第1酸窒化膜の酸素含有率は、第2窒化膜の第1酸窒化膜とは反対側に隣接する第2酸窒化膜の酸素含有率よりも小さい。このように構成すれば、半導体素子層へ酸素が拡散するのを抑制する目的で第1窒化膜以外の位置に第2窒化膜を設けた場合においても、第2窒化膜との応力差が比較的小さい酸窒化膜を第2窒化膜の両隣に配置しているので、第2窒化膜が膜剥れを起こすことを容易に抑制することができる。さらには、第2窒化膜の両隣に隣接する第1酸窒化膜および第2酸窒化膜に上記のような酸素含有率差を持たせているので、第1窒化膜および半導体素子層へ酸素が拡散しにくい効果をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態による青紫色半導体レーザ素子を共振器方向と平行に切断した際の縦断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態による青紫色半導体レーザ素子を共振器方向と垂直に切断した際の断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態による青紫色半導体レーザ素子における端面コート膜を形成する際に、原料ガス中における酸素ガスの流量比率(%)と、成膜された酸窒化膜の屈折率との関係を示したグラフである。
【図4】本発明の第2実施形態による青紫色半導体レーザ素子を共振器方向と平行に切断した際の縦断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態による青紫色半導体レーザ素子を共振器方向と平行に切断した際の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
(第1実施形態)
図1〜図3を参照して、本発明の第1実施形態による青紫色半導体レーザ素子100の構造について説明する。なお、青紫色半導体レーザ素子100は、本発明の「半導体レーザ素子」の一例である。
【0022】
青紫色半導体レーザ素子100は、約405nmの発振波長を有しており、図1に示すように、約100μmの厚みを有するとともに約5×1018cm−3のキャリア濃度を有する酸素ドープのn型GaN基板1の表面上に、活性層15を含む複数の窒化物系半導体層からなる半導体素子層2が形成されている。また、半導体素子層2の上面上にp側電極4が形成されるとともに、n型GaN基板1の下面上にn側電極5が形成されている。
【0023】
また、半導体素子層2には、共振器の延びる方向(A方向)と直交する方向(B方向、C方向)に延びる一対の共振器面(光出射面2aおよび光反射面2b)が形成されている。ここで、光出射面2aおよび光反射面2bは、一対に形成された共振器面のそれぞれから出射されるレーザ光強度の大小関係により区別される。すなわち、相対的にレーザ光の出射強度の大きい側が光出射面2aである。また、相対的にレーザ光の出射強度の小さい側が光反射面2bである。また、光出射面2aの表面上には、端面コート膜8が形成されるとともに、光反射面2bの表面上には、端面コート膜9が形成されている。なお、光出射面2aおよび光反射面2bは、それぞれ、本発明の「出射側共振器面」および「反射側共振器面」の一例である。
【0024】
端面コート膜8は、複数の無機誘電体層が光出射面2a上に所定の順序で積層された多層膜構造(4層構造)を有している。具体的には、端面コート膜8は、光出射面2aに接触する約10nmの厚みを有するAlN膜31と、AlN膜31に接触する約30nmの厚みを有するAlON膜32と、AlON膜32に接触する約20nmの厚みを有するAlON膜33と、AlON膜33に接触する約50nmの厚みを有するAlON膜34とからなる。なお、AlN膜31は、本発明の「第1窒化膜」の一例であり、AlON膜32、33および34は、本発明の「複数の酸窒化膜」を構成する各々の酸窒化膜の一例である。
【0025】
ここで、窒化膜であるAlN膜31は、約70質量%以上の含有率からなるアルミニウムと、約10質量%以上約30質量%未満の含有率からなる窒素とによって主に構成されている膜である。ただし、EDSなどの元素分析装置が有する測定誤差の範囲において、ごく微量(約3質量%以下)の酸素が検出される場合もある。一方、酸窒化膜としてのAlON膜は、Al(x+y+z=1)の組成式で表されるアルミニウム化合物である。なお、添え字のx、yおよびzは、各々の元素の組成比を示している。AlON膜32、33および34については、約50質量%以上の含有率からなるアルミニウムと、約10質量%以上約25質量%未満の含有率からなる窒素と、約3質量%以上約30%以下の含有率からなる酸素とによって主に構成されている膜である。
【0026】
また、端面コート膜8を構成する各膜は、共通のAl金属元素を含んでいる。そして、AlN膜31、AlON膜32およびAlON膜33の3層は、光出射面2aの酸化を防止する機能を有するとともに、AlON膜34は、光出射面2aにおけるレーザ光の反射率を制御する機能を有している。また、AlON膜34の表面が出射端面の最表面3aとなる。
【0027】
ここで、第1実施形態では、AlON膜32、33および34の各々の酸窒化膜における酸素含有率は、それぞれ、約4.5質量%、約9.5質量%および約25質量%である。つまり、AlON膜32とAlON膜33とでは、AlN膜31に近いAlON膜32の酸素含有率が、AlN膜31から見てAlON膜32よりも遠いAlON膜33の酸素含有率よりも小さい。また、AlON膜32とAlON膜34とでは、AlN膜31に近いAlON膜32の酸素含有率が、AlN膜31から見てAlON膜32よりも遠いAlON膜34の酸素含有率よりも小さい。さらには、AlON膜33および34を比較しても、AlON膜33の酸素含有率がAlON膜34の酸素含有率よりも小さい。また、AlN膜31に接するAlON膜32の酸素含有率は、3つの酸窒化膜中で最も小さい。反対に、最表面3aに配置されたAlON膜34の酸素含有率は、3つの酸窒化膜中で最も大きい。なお、AlON膜32は、本発明の「第1酸窒化膜」の一例であり、AlON膜33および34は、本発明の「第2酸窒化膜」の一例である。また、AlON膜33および34の関係においては、AlON膜33が本発明の「第1酸窒化膜」の一例であり、AlON膜34が本発明の「第2酸窒化膜」の一例である。
【0028】
また、第1実施形態では、AlON膜32とAlON膜33との酸素含有率差(=約5質量%)よりも、AlON膜33とAlON膜34との酸素含有率差(=約15.5質量%)が大きい。
【0029】
また、第1実施形態では、AlON膜32、33および34の各々の酸窒化膜の屈折率は、それぞれ、約1.98、約1.93および約1.68である。ここで、酸窒化膜(AlON膜)を成膜する際に、原料となる窒素(N)ガスおよび酸素(O)ガスの流量比(混合比)を変化させた場合に、各々のOガス割合の条件下で成膜された酸窒化膜が有する屈折率を図3に示す。図3には、混合ガス中のOガスの割合(流量比)に対する酸窒化膜の屈折率の変化を示している。これにより、酸窒化膜に含まれる酸素含有率が小さいほど屈折率が高まることがわかる。つまり、AlON膜32、33および34間では、各々の酸窒化膜における酸素含有率の大小関係(酸素含有率において、AlON膜32<AlON膜33<AlON膜34である関係)とは対照的に、AlN膜31により近い酸窒化膜ほど屈折率が高まる関係(屈折率において、AlON膜32>AlON膜33>AlON膜34である関係)を有している。これにより、光出射面2aにおけるレーザ光の反射率は、発振波長に対して約12.3%に設定されている。
【0030】
また、端面コート膜9についても、複数の無機誘電体層が光反射面2b上に所定の順序で積層された多層膜構造(11層構造)を有している。具体的には、端面コート膜9は、光反射面2bに接触する約10nmの厚みを有するAlN膜51と、AlN膜51に接触する約30nmの厚みを有するAlON膜52と、AlON膜52に接触する約40nmの厚みを有するAlON膜53と、AlON膜53に接触する約358nmの合計厚みを有する多層反射膜55とからなる。
【0031】
ここで、多層反射膜55は、AlON膜53に近い側から順に、高屈折率膜として約45nmを有するZrO膜(屈折率=約2.15)および低屈折率膜として約62.5nmの厚みを有するAl膜(屈折率=約1.65)とが交互に3層ずつ積層された約323nmの厚みを有する多層膜60と、多層膜60に接触する約30nmの厚みを有するZrO膜61(屈折率=約2.15)と、ZrO膜61に接触する約5nmの厚みを有するAl膜62(屈折率=約1.65)とからなる。なお、屈折率の小さいAl膜62の表面が反射端面の最表面3bとなる。多層膜60、ZrO膜61およびAl膜62からなる多層反射膜55によって、光反射面2bにおけるレーザ光の反射率は、発振波長に対して約75%となるように設定されている。
【0032】
半導体素子層2については、図2に示すように、n型GaN基板1上に、約100nmの厚みを有するGeドープn型GaNからなるn型層11が形成されている。n型層11上には、約400nmの厚みを有するGeドープn型AlGaNからなるn型クラッド層12が形成されている。n型クラッド層12上には、約5nmの厚みを有するGeドープn型AlGaNからなるn型キャリアブロック層13が形成されている。n型キャリアブロック層13上には、約100nmの厚みを有するアンドープGaNからなるn側光ガイド層14が形成されている。n側光ガイド層14上には、約20nmの厚みを有するアンドープInGaNからなる4層の障壁層(図示せず)と、約3nmの厚みを有するIn組成の高いアンドープInGaNからなる3層の量子井戸層(図示せず)とが交互に積層された多重量子井戸(MQW)構造を有する活性層15が形成されている。
【0033】
活性層15上には、約100nmの厚みを有するアンドープGaNからなるp側光ガイド層16が形成されている。p側光ガイド層16上には、約20nmの厚みを有するアンドープAlGaNからなるp型キャップ層17が形成されている。p型キャップ層17上には、Mgドープp型AlGaNからなるp型クラッド層18が形成されている。p型クラッド層18は、[1−100]方向(A方向)にストライプ状に延びる約1.5μmの幅を有する凸部18aと、凸部18aの両側に広がる平坦部18bとを含んでいる。ここで、平坦部18bは、凸部18aの両側において約80nmの厚みを有しており、凸部18aは、約400nmの高さを有している。
【0034】
また、p型クラッド層18の凸部18a上には、約10nmの厚みを有するアンドープInGaNからなるp側コンタクト層19が形成されている。このp側コンタクト層19とp型クラッド層18の凸部18aとによって、A方向にストライプ状に延びるリッジ部2cが構成されている。ここで、リッジ部2cは、電流注入部を構成し、リッジ部2cの下方の活性層15を含む領域には、リッジ部2cに沿って[1−100]方向(A方向)にストライプ状に延びる光導波路が形成される。なお、半導体素子層2を構成する材料は、本発明の「窒化物系半導体」の一例である。
【0035】
また、p型クラッド層18の凸部18aの側面上および平坦部18bの上面上には、約250nmの厚みを有するSiOからなる電流ブロック層21が形成されている。電流ブロック層21は、光出射面2aおよび光反射面2b近傍領域以外のリッジ部2cの上面(p側コンタクト層19の上面)を露出するように形成されている。
【0036】
p側電極4は、リッジ部2cの上面に接触するように形成されたオーミック電極4aと、オーミック電極4aおよび電流ブロック層21上に形成されたp側パッド電極4bとから構成されている。オーミック電極4aでは、p側コンタクト層19側から、約5nmの厚みを有するPt層、約100nmの厚みを有するPd層、約150nmの厚みを有するAu層がこの順に積層されている。また、p側パッド電極4bでは、オーミック電極4aおよび電流ブロック層21側から、約100nmの厚みを有するTi層、約100nmの厚みを有するPd層、約3μmの厚みを有するAu層がこの順に積層されている。また、n側電極5では、n型GaN基板1側から、約10nmの厚みを有するAl層、約20nmの厚みを有するPt層、約300nmの厚みを有するAu層がこの順に積層されている。
【0037】
次に、図1および図2を参照して、青紫色半導体レーザ素子100の製造プロセスについて説明する。
【0038】
まず、図2に示すように、n型GaN基板1上に、有機金属気相エピタキシ(MOVPE)法を用いて、n型層11、n型クラッド層12、n型キャリアブロック層13、n側光ガイド層14および活性層15を順次形成する。また、活性層15上に、p側光ガイド層16、p型キャップ層17、p型クラッド層18およびp側コンタクト層19を順次形成する。その後、p型化アニール処理およびエッチングによりリッジ部2cの形成を行う。
【0039】
その後、リッジ部2c上にオーミック電極4aを形成するとともに、真空蒸着法により電流ブロック層21を形成する。オーミック電極4a上の電流ブロック層21を除去することによりオーミック電極4aの上面を露出させた後、オーミック電極4aの上面に接触するように電流ブロック層21上にp側パッド電極4bを形成する。また、n型GaN基板1の下面上に、真空蒸着法によりn側電極5を形成する。このようにして、青紫色半導体レーザ素子100のウェハが作製される。
【0040】
次に、青紫色半導体レーザ素子100(図1参照)を構成する共振器面と端面コート膜(誘電体多層膜)との形成方法について説明する。
【0041】
まず、上述の半導体レーザ構造が形成されたウェハの所定の箇所にレーザあるいは機械式スクライブにより、リッジ部2cを除く部分に、破線状のスクライブ傷を形成する。そして、ウェハをスクライブ傷に沿って劈開することにより一対の共振器面(光出射面2aおよび光反射面2b)を形成する。その後、共振器面が形成されたバー状態のウェハを、電子サイクロトロン共鳴(ECR)スパッタ成膜装置に導入する。
【0042】
そして、ECRプラズマを5分間の間、上記劈開によって形成された光出射面2a(図1参照)に照射することにより、光出射面2aを清浄化する。ECRプラズマは、約0.02PaのNガス雰囲気中で、マイクロ波出力500Wの条件で発生させる。このとき、光出射面2aは軽微にエッチングされる。この際、スパッタターゲットへRFパワーを印加しない。その後、光出射面2aの表面に端面コート膜8を形成する。
【0043】
ここで、第1実施形態では、図1に示すように、まず、ECRプラズマ法を用いて、光出射面2aの表面上にAlN膜31を形成する。なお、ECRプラズマは、金属ターゲットにAlを用いるとともに、約0.02PaのNガス、OガスおよびArガス雰囲気中で、マイクロ波出力500WおよびRFパワー500Wの各条件で発生させる。続いて、AlN膜31の表面上にAlON膜32を形成する。なお、Nガスを約2sccm〜約6sccmおよびOガスを約0.1sccm〜約4sccmの流量範囲で流すとともに、NガスおよびOガスの流量比を上記の範囲内で変化させることにより、AlON膜32における酸素および窒素の組成比を制御する。続いて、酸素および窒素の組成比を制御しながらAlON膜32の表面上にAlON膜33を形成する。さらに、酸素および窒素の組成比を制御しながらAlON膜33の表面上にAlON膜34を形成する。このようにして、光出射面2a上に4層構造からなる端面コート膜8が形成される。
【0044】
また、上述の光出射面2aを清浄化する工程と同様に、ECRプラズマを5分間の間、劈開面からなる光反射面2b(図1参照)に照射することにより、光反射面2bを清浄化する。このとき、光反射面2bは軽微にエッチングされる。なお、プラズマ照射の際、スパッタターゲットへRFパワーを印加しない。その後、ECRプラズマ法により、光反射面2bにAlN膜51、AlON膜52、AlON膜53および多層反射膜55を順次積層する。このようにして、光反射面2b上に端面コート膜9が形成される。
【0045】
最後に、端面コート膜8および9が形成されたバー状態のウェハをリッジ部2cに沿ってチップ状に分離することにより青紫色半導体レーザ素子100が形成される。
【0046】
第1実施形態では、上記のように、端面コート膜8は、AlN膜31の光出射面2aとは反対側に形成され、各々がAlの酸窒化物(AlON)からなるAlON膜32、33および34を含んでいる。そして、この複数の酸窒化膜のうちのAlN膜31に近い側に位置するAlON膜32の酸素含有率(約4.5質量%)は、AlN膜31から見てAlON膜32よりも遠い側に位置するAlON膜33(約9.5質量%)およびAlON34(約25質量%)の酸素含有率よりも小さい。また、AlON膜33および34を比較しても、AlON膜33の酸素含有率がAlON膜34の酸素含有率よりも小さい。これにより、AlON膜32、33および34に亘り多層化された酸窒化膜によって、雰囲気中に存在する酸素が光出射面2aに接するAlN膜31中により取り込まれにくくなる。この際、AlON膜32の酸素含有率がAlON膜33および34の各々の酸素含有率よりも小さいので、AlN膜31および半導体素子層2へ酸素が拡散することをより確実に抑制することができる。すなわち、端面コート膜8内のみならず端面コート膜8と光出射面2aとの界面における変質が最小限に抑制されるので、レーザ出射光を高出力化した場合でも光出射面2aおよび端面コート膜8における光吸収が効果的に抑制されて光出射面2aにCODが生じることが抑制される。この結果、青紫色半導体レーザ素子100の信頼性を向上させることができる。
【0047】
また、第1実施形態では、端面コート膜8がAlON膜32、33および34の3層からなるので、端面コート膜を完全な窒化膜の多層膜構造として構成する場合と異なり、AlON膜32、33および34の各層の厚みを調整することにより、光出射面2aおける反射率(発振波長に対して約12.3%)を容易に制御することができる。さらには、一般的に大きな膜応力を有する窒化膜と小さな膜応力を有する酸化膜とのおおよそ中間程度(約60%程度)の大きさの膜応力である酸窒化膜を端面コート膜8中に設けている分、端面コート膜8内のAlN膜31に対する応力差をAlON膜32、33および34により適切に緩和させることができる。これにより、膜剥れなどを生じさせずにAlN膜31を光出射面2aに接触させて光出射面2aにおける放熱性を向上させることができる。この結果、高出力化に対応した青紫色半導体レーザ素子100の信頼性を向上させることができる。
【0048】
また、第1実施形態では、AlON膜32の屈折率(約1.98)は、AlON膜33の屈折率(約1.93)およびAlON膜34の屈折率(約1.68)よりも大きい。一般的に、屈折率が大きい材料は光と相互作用しやすい材料であり、バンドギャップが小さい材料である。また、バンドギャップが小さい材料は、誘電率(絶縁性)が大きい性質を有する。したがって、光出射面2aにより近い位置に配置されたAlON膜32が相対的に大きな誘電率(絶縁性)を有することによって、青紫色半導体レーザ素子100におけるpn接合間に、AlON膜32を介したリーク電流が発生することを効果的に抑制することができる。したがって、リーク電流の発生が抑制される分、半導体素子層2中にp側電極4からn側電極5に向かって効率よく電流を流すことができる。その結果、青紫色半導体レーザ素子100のスロープ効率を向上させることができる。また、その他の効果として、同じレーザ光出力を得る場合であっても動作電圧をより低電圧に維持した状態で青紫色半導体レーザ素子100を駆動させることができる。
【0049】
また、第1実施形態では、AlN膜31に接するAlON膜32の酸素含有率(約4.5質量%)は、AlON膜32、33および34の内で最も小さいので、他の酸窒化膜(AlON膜33および34)から脱離する酸素がAlN膜31中に取り込まれる傾向をより一層弱めることができる。また、たとえAlON膜32とAlN膜31との界面に変質が生じた場合であっても、AlN膜31によって光出射面2aへの変質の拡大を抑制することができる。これにより、半導体素子層2へ酸素が拡散することをより確実に抑制することができる。
【0050】
また、第1実施形態では、端面コート膜8の最表面3aに配置されたAlON膜34の酸素含有率は、AlON膜32、33および34の内で最も大きいので、より多くの酸素を含むAlON膜34により、光出射面2aを出射したレーザ光の反射率を容易に制御することができる。また、最表面3aに配置されたAlON膜34の厚みを適宜調整することにより、光出射面2aから出射されたレーザ光の反射率を所望の値に制御することができる。
【0051】
また、第1実施形態では、AlN膜31とAlON膜32、33および34の各々とは、共通のAl元素を含むので、端面コート膜8を構成する各膜同士が同じAl元素を含む誘電体材料である点で、各膜同士が接触する際の密着性を向上させることができる。この結果、端面コート膜8を構成する各膜同士の膜剥れを抑制することができる。
【0052】
また、第1実施形態では、半導体素子層2を構成する各層に窒化物系半導体を用いている。このように、GaAs系半導体などからなる赤色や赤外半導体レーザ素子などと比較して、より短波長(400nm帯)のレーザ光が出射され、かつ、高出力化が要求される青紫色半導体レーザ素子100においても、共振器面(光出射面2a)における光学損傷破壊(COD)の発生を抑制することができるので、半導体レーザの高出力化および長寿命化を図ることができる。
【0053】
また、第1実施形態の製造プロセスでは、ECRプラズマを照射して劈開後の光出射面2aおよび光反射面2bに対して清浄化を行っている。これにより、光導波路近傍における共振器面の劣化やCODが発生するのが抑制された青紫色半導体レーザ素子100を容易に形成することができる。
【0054】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態による青紫色半導体レーザ素子200について説明する。この青紫色半導体レーザ素子200では、図4に示すように、AlON膜32とAlON膜33との間にAlN膜231が挿入されて端面コート膜208が形成されている。なお、図中において、第1実施形態と同様の構成には、第1実施形態と同じ符号を付して図示している。なお、AlN膜231は、本発明の「第2窒化膜」の一例である。また、青紫色半導体レーザ素子200は、本発明の「半導体レーザ素子」の一例である。
【0055】
詳細に説明すると、端面コート膜208は、光出射面2aに接触するAlN膜31と、AlN膜31に接触する約20nmの厚みを有するAlON膜32と、AlON膜32に接触する約10nmの厚みを有するAlN膜231と、AlN膜231に接触する約25nmの厚みを有するAlON膜33と、AlON膜33に接触する約45nmの厚みを有するAlON膜34とからなる5層構造を有している。つまり、端面コート膜208においては、光出射面2a側から窒化膜と酸窒化膜とが交互に配置されている。また、第1実施形態と同様に、AlON膜34の表面が出射端面の最表面3aとなる。この場合も、最表面3aに配置されたAlON膜34の酸素含有率(約25%)は、複数の酸窒化膜中で最も大きい。
【0056】
第2実施形態では、AlON膜32とAlON膜33との間にAlN膜231を挿入し、かつ、AlON膜34の厚みを約45nmに設定することにより、光出射面2aにおけるレーザ光の反射率は、発振波長に対して約12.7%に設定されている。
【0057】
また、端面コート膜209については、複数の無機誘電体層が光反射面2b上に所定の順序で積層された多層膜構造(19層構造)を有している。具体的には、端面コート膜209は、光反射面2bに接触するAlN膜51と、AlN膜51に接触するAlON膜52と、AlON膜52に接触するAlON膜53と、AlON膜53に接触する約788nmの合計厚みを有する多層反射膜255とからなる。
【0058】
ここで、多層反射膜255は、AlON膜53に近い側から順に、約45nmを有するZrO膜(屈折率=2.15)および約62.5nmの厚みを有するAl膜(屈折率=1.65)とが交互に7層ずつ積層された約753nmの厚みを有する多層膜65と、多層膜65に接触するZrO膜61と、ZrO膜61に接触するAl膜62とからなる。なお、なお、屈折率の小さいAl膜62の表面が反射端面の最表面3bとなる。多層膜65、ZrO膜61およびAl膜62からなる多層反射膜255によって、光反射面2bにおけるレーザ光の反射率は、発振波長に対して約96.4%となるように設定されている。
【0059】
なお、青紫色半導体レーザ素子200のその他の構成は、第1実施形態と同様である。また、青紫色半導体レーザ素子200の製造プロセスでは、第1実施形態と同様のプロセスを用いて端面コート膜208および209をそれぞれ形成する。その他の製造プロセスについては、第1実施形態の製造プロセスと同様である。
【0060】
青紫色半導体レーザ素子200では、上記のように、端面コート膜208は、光出射面2a側から順にAlN膜31、AlON膜32、AlN膜231およびAlON膜33のように、窒化膜と酸窒化膜とが交互に配置されている。そして、AlN膜231から見て、AlN膜31側に隣接するAlON膜32の酸素含有率は、AlN膜231の反対側に隣接するAlON膜33の酸素含有率よりも小さい。このように、半導体素子層2へ酸素が拡散するのを抑制する目的でAlN膜31以外の位置にAlN膜231を設けた場合においても、AlN膜231との応力差が比較的小さいAlON膜32および33をAlN膜231の両隣に配置しているので、AlN膜231が膜剥れを起こすことを容易に抑制することができる。さらには、AlN膜231の両隣に隣接するAlON膜32および33に上記のような酸素含有率差を持たせているので、AlN膜31および半導体素子層2へ酸素が拡散しにくい効果をさらに高めることができる。なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0061】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態による青紫色半導体レーザ素子300について説明する。この青紫色半導体レーザ素子300では、図5に示すように、光出射面2aの表面上に9層構造を有する端面コート膜308が形成されている。なお、図中において、第1実施形態と同様の構成には、第1実施形態と同じ符号を付して図示している。また、青紫色半導体レーザ素子300は、本発明の「半導体レーザ素子」の一例である。
【0062】
詳細に説明すると、端面コート膜308は、光出射面2aに接触するAlN膜31と、AlN膜31に接触する約30nmの厚みを有するAlON膜33と、AlON膜33に接触する約50nmの厚みを有するAlON膜34と、AlON膜34に接触する約55nmの厚みを有するAlON膜301と、AlON膜301に接触する約65nmの厚みを有するAlON膜302と、AlON膜302に接触する約45nmの厚みを有するAlON膜303と、AlON膜303に接触する約40nmの厚みを有するAlON膜304と、AlON膜304に接触する約40nmの厚みを有するAlON膜305と、AlON膜305に接触する約10nmの厚みを有するAlON膜306とからなる。ここで、AlON膜306の表面が出射端面の最表面3aとなる。また、最表面3aに配置されたAlON膜306の酸素含有率は、複数の酸窒化膜中で最も大きい。なお、AlON膜301〜306は、本発明の「複数の酸窒化膜」を構成する各々の酸窒化膜の一例である。また、AlON膜306は、本発明の「第2酸窒化膜」の一例である。
【0063】
ここで、第3実施形態では、AlON膜301、303および305の各々の酸窒化膜における酸素含有率は、共に約4.5質量%であり、屈折率は、共に約1.98である。一方、AlON膜302、304および306の各々の酸窒化膜における酸素含有率は、共に約25質量%であり、屈折率は、共に約1.68である。つまり、相対的に酸素含有率の小さい(屈折率の大きい)酸窒化膜と、相対的に酸素含有率の大きい(屈折率の小さい)酸窒化膜とを交互に配置している。そして、酸素含有率の大きいAlON膜306を約10nmの厚みに調整して端面コート膜308を終端させている。このように、端面コート膜308では、AlN膜31とAlON膜33とAlON膜34とによって、光出射面2aへ酸素が拡散することを抑制しつつ、AlON膜301〜306までの各層によって反射率の制御を行っている。これにより、光出射面2aにおけるレーザ光の反射率は、発振波長に対して約35.5%に設定されている。
【0064】
なお、青紫色半導体レーザ素子300のその他の構成は、第1実施形態と同様である。また、青紫色半導体レーザ素子300の製造プロセスでは、第1実施形態と同様のプロセスを用いて端面コート膜308を形成する。その他の製造プロセスについては、第1実施形態の製造プロセスと同様である。また、第3実施形態の効果については、上記第1実施形態と同様である。
【0065】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0066】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、AlON膜32、33および34を、酸素含有率が約4.5質量%、約9.5質量%および約25質量%であるようにそれぞれ構成した例について示したが、本発明はこれに限られない。酸素含有率が光出射面2aに近いほど相対的に小さく、光出射面2aから遠ざかるほど相対的に大きい関係を満たすならば、各酸窒化膜を、上記した含有率以外の酸素含有率を有するように構成してもよい。また、光出射面2a上にAlN層、AlON層on1、AlON層on2、AlON層on3、AlON層on4、AlON層on5(ここで、on1〜5は、AlN層から見た各酸窒化膜の積層順序を示した符号である)を順次形成した態様において、AlON層on1の酸素含有率がAlON層on2よりも小さければ、AlON層on3、AlON層on4、AlON層on5の各酸素含有率が光出射面2aから遠ざかるほど相対的に大きくなっていなくてもよい。たとえば、酸素含有率が、AlON層on1<AlON層on2<AlON層on4<AlON層on3<AlON層on5の関係となっていてもよい。AlON層on3の酸素含有率がAlON層on4の酸素含有率よりも大きくても、AlON層on1の酸素含有率がAlON層on2の酸素含有率よりも小さいため酸素の拡散を防止することができる。ただし、酸素含有率が光出射面2aに近いほど相対的に小さく、光出射面2aから遠ざかるほど相対的に大きい関係(AlON層on1<AlON層on2<AlON層on3<AlON層on4<AlON層on5)を満たした方が、酸素の拡散防止の効果をより高めることができるのでより好ましい。
【0067】
また、上記第2実施形態では、端面コート膜208において光出射面2a側から窒化膜と酸窒化膜とを交互に2回繰り返して配置した例について示したが、本発明はこれに限られない。窒化膜と酸窒化膜とを交互に3回以上繰り返してもよい。ただし、少なくとも端面コート膜の最表面3aには、所定の厚みを有する酸窒化膜を配置して終端させることが好ましい。これにより、端面コート膜の反射率が所望の値に制御される。
【0068】
また、上記第1〜第3実施形態では、本発明の「複数の酸窒化膜」を構成する各酸窒化膜の酸素含有率を、各膜中で厚み方向(レーザ光の出射方向)に略一定であるように構成した例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明の「複数の酸窒化膜」のうちの少なくとも1つの酸窒化膜において、酸素含有率を、光出射面2aに近い領域から厚み方向に沿って遠ざかるにしたがって徐々に増加させるように構成してもよい。ただし、傾斜組成を有する酸窒化膜が有する酸素含有率の最小値よりも、光出射面2aに近い側の酸窒化膜が有する酸素含有率の最大値が等しいかまたは小さいことが必要である。さらには、傾斜組成を有する酸窒化膜よりも光出射面2aから見て遠い側に配置される酸窒化膜においては、傾斜組成を有する酸窒化膜における酸素含有率の最大値よりも、酸素含有率の最小値が等しいかまたは大きいことが必要である。また、傾斜組成を有する酸窒化膜が複数層に亘って形成されていてもよい。
【0069】
また、上記第2実施形態では、AlON膜32とAlON膜33との間に窒化膜であるAlN膜231を挿入した例について示したが、本発明はこれに限られない。窒化膜に微量の酸素が含有されて、若干酸窒化膜寄りの化学的性質を有する膜であってもよい。若干の酸素を含有させることにより、AlON膜32と、酸窒化膜に近づけられたAlN膜231と、AlON膜33およびAlON膜34とを用いて、端面コート膜208の反射率をより容易に制御することができる。
【0070】
また、上記第1〜第3実施形態では、本発明の「第1窒化膜」をAlNにより構成した例について示したが、本発明はこれに限られない。Al元素以外の、たとえば、Si元素を含む窒化膜を用いることができる。また、本発明の「複数の酸窒化膜」の各々についてもAlONにより構成した例について示したが、本発明はこれに限られない。Al元素以外の、たとえば、Si元素、Zr元素、Ta元素、Hf元素、Nb元素またはTi元素などを含む酸窒化膜を用いることができる。
【0071】
また、上記第1〜第3実施形態の製造プロセスでは、ECRスパッタ成膜装置を用いて本発明の「端面コート膜」を形成したが、本発明ではこれに限らず、他の成膜方法により端面コート膜を形成してもよい。
【0072】
また、上記第1〜第3実施形態では、本発明の「半導体レーザ素子」を窒化物系半導体からなる青紫色半導体レーザ素子100、200および300に適用した例について示したが、本発明はこれに限られない。青紫色半導体レーザ素子以外の、たとえば、青色半導体レーザ素子や緑色半導体レーザ素子に対して本発明の「端面コート膜」を形成してもよい。あるいは、窒化物系半導体レーザ素子以外の、GaAs系半導体やGaInP系半導体からなる半導体レーザ素子(赤色LDや赤外LDなど)に対して本発明の「端面コート膜」を形成してもよい。
【0073】
また、上記第1〜第3実施形態では、本発明の「端面コート膜」を備えた半導体レーザ素子について示したが、本発明はこれに限られない。すなわち、本発明の「端面コート膜」を備えた半導体レーザ素子を、CD、DVDまたはBDなどの光ディスクの記録または再生を行う光ディスク装置に搭載される半導体レーザ装置の光源に適用してもよい。さらには、本発明の半導体レーザ素子を備えた半導体レーザ装置を用いて、プロジェクタ装置などの光装置を構成してもよい。
【符号の説明】
【0074】
2 半導体素子層
2a 光出射面(出射側共振器面)
2b 光反射面(反射側共振器面)
3a 最表面
8、208、308 端面コート膜
31 AlN膜(第1窒化膜)
32 AlON膜(第1酸窒化膜)
33 AlON膜(第1酸窒化膜、第2酸窒化膜)
34、306 AlON膜(第2酸窒化膜)
100、200、300 青紫色半導体レーザ素子(半導体レーザ素子)
231 AlN膜(第2窒化膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性層を含み、出射側共振器面と反射側共振器面とを有する半導体素子層と、
前記出射側共振器面の表面上に形成された端面コート膜とを備え、
前記端面コート膜は、窒素を含む窒化物からなり前記出射側共振器面に接する第1窒化膜と、前記第1窒化膜の前記出射側共振器面とは反対側に形成され、各々が酸窒化物からなる複数の酸窒化膜とを含み、
前記複数の酸窒化膜のうちの前記第1窒化膜に近い側に位置する第1酸窒化膜の酸素含有率は、前記第1窒化膜から見て前記第1酸窒化膜よりも遠い側に位置する第2酸窒化膜の酸素含有率よりも小さい、半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記第1酸窒化膜の屈折率は、前記第2酸窒化膜の屈折率よりも大きい、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記第1酸窒化膜は、前記第1窒化膜の前記出射側共振器面とは反対側の表面に接触する酸窒化膜を含み、
前記第1窒化膜に接触する前記第1酸窒化膜の酸素含有率は、前記複数の酸窒化膜の内で最も小さい、請求項1または2に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記端面コート膜の最表面には、前記第2酸窒化膜が配置されており、
前記端面コート膜の最表面に配置された前記第2酸窒化膜の酸素含有率は、前記複数の酸窒化膜の内で最も大きい、請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
少なくとも前記端面コート膜の最表面に配置された前記第2酸窒化膜により、前記出射側共振器面における反射率が制御される、請求項4に記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記第1窒化膜と前記複数の酸窒化膜の各々とは、共通の金属元素を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記端面コート膜は、前記出射側共振器面側から窒化膜と酸窒化膜とが交互に配置されており、
前記第1窒化膜以外の2つの前記酸窒化膜間に挟まれる第2窒化膜から見て、前記第1窒化膜側に隣接する前記第1酸窒化膜の酸素含有率は、前記第2窒化膜の前記第1酸窒化膜とは反対側に隣接する前記第2酸窒化膜の酸素含有率よりも小さい、請求項1〜6のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−227239(P2012−227239A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91681(P2011−91681)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(504464070)三洋オプテックデザイン株式会社 (315)
【Fターム(参考)】