説明

半導体レーザ集積素子および半導体レーザ装置

【課題】出力波長が互いに異なる複数の半導体レーザ構造の光軸調整が容易であり、且つ小型化が可能な半導体レーザ集積素子および半導体レーザ装置を提供する。
【解決手段】半導体レーザ装置1Aは、半導体レーザ集積素子10と、半導体レーザ素子40とを備える。半導体レーザ集積素子10では、2つの半導体レーザ構造20A,20Bが半導体基板11上に形成されている。半導体レーザ構造20A,20Bは、それぞれ青色レーザ光及び緑色レーザ光を出力する。半導体レーザ素子40は赤色レーザ光を出力し、半導体レーザ構造20A上にフェースダウン実装されている。半導体レーザ集積素子10は、半導体レーザ構造20A,20Bの各共振端面を覆う誘電体膜を更に備える。各共振端面上における誘電体膜の厚さは略等しく、半導体レーザ構造20A,20Bの各発振波長における誘電体膜の反射率の差は10%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ集積素子および半導体レーザ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、青色レーザ光及び緑色レーザ光を出力する半導体レーザ素子が記載されている。この半導体レーザ素子は、青色半導体レーザ素子のための半導体積層構造と、緑色半導体レーザ素子のための半導体積層構造とが一枚のGaN基板上に形成された構成を備えている。これらの半導体積層構造は、(11−22)面の主面を有するInGaNからなる活性層をそれぞれ含む。
【0003】
また、特許文献2には、青色レーザ光、緑色レーザ光及び赤色レーザ光を出力する半導体レーザ素子の製造方法が記載されている。この半導体レーザ素子の製造方法では、まず、窒化物単結晶成長用基板(GaN基板またはSiC基板)の上に、青色レーザ光を実現するための第1窒化物エピタキシャル層、及び緑色レーザ光を実現するための第2窒化物エピタキシャル層を並べて形成し、次いで、これらの窒化物エピタキシャル層を窒化物単結晶成長用基板から剥離する。そして、別の基板(GaAs基板)上にこれらの窒化物エピタキシャル層を接合したのち、その一部をエッチングにより除去し、露出した基板面上に赤色レーザ光を実現するための第3窒化物エピタキシャル層を成長させる。
【0004】
また、特許文献3には、青色レーザ光、緑色レーザ光及び赤色レーザ光を出力する半導体レーザ装置が記載されている。この半導体レーザ装置では、波長405nmのレーザ光を出力するレーザ構造をGaN基板上に有する第1発光素子と、波長650nmのレーザ光を出力するレーザ構造、及び波長780nmのレーザ光を出力するレーザ構造をGaAs基板上に有する第2発光素子と、支持基体とを備えている。第1発光素子および第2発光素子は、それぞれのレーザ構造が互いに対向するように、支持基体上に重ねて配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−109332号公報
【特許文献2】特開2006−013412号公報
【特許文献3】特開2007−048810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、緑色の発振波長を有する半導体レーザが実用化されつつあることに伴い、青色、緑色、及び赤色といった互いに異なる出力波長を有する複数の半導体レーザ構造を一つの素子に集積させる方式が研究されている。一つの例としては、互いに出力波長が異なる複数の半導体レーザ素子を個別に形成し、これらの半導体レーザ素子を一つの基板上に実装することで集積化を図ることができる。しかしながら、このような方式では、複数の小さな半導体レーザ素子を、互いの光軸を合わせながら一つの基板上に実装することが極めて難しく、また、装置の小型化が難しいという問題がある。
【0007】
本発明は、出力波長が互いに異なる複数の半導体レーザ構造の光軸調整が容易であり、且つ小型化が可能な半導体レーザ集積素子および半導体レーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明による半導体レーザ集積素子は、III族窒化物半導体から成り、該III族窒化物半導体の半極性面を含む主面を有する第1の基板と、第1の基板の主面上に設けられ、第1の共振端面を有する第1の半導体レーザ構造と、第1の半導体レーザ構造上に設けられた第1の電極金属膜と、第1の基板の主面上に設けられ、第2の共振端面を有し、第1の半導体レーザ構造の光導波方向に沿った方向を光導波方向として第1の半導体レーザ構造の光導波方向と交差する方向に並設された第2の半導体レーザ構造と、第2の半導体レーザ構造上に設けられた第2の電極金属膜と、第1及び第2の共振端面上にわたって形成された誘電体膜とを備え、第1の半導体レーザ構造が、第1の基板の主面上にエピタキシャル成長されたインジウムを含む第1の活性層を有しており、該第1の活性層の発光波長のピーク波長が440nm以上480nm以下であり、第2の半導体レーザ構造が、第1の基板の主面上にエピタキシャル成長されたインジウムを含む第2の活性層を有しており、該第2の活性層の発光波長のピーク波長が500nm以上550nm以下であり、第1の共振端面上における誘電体膜の厚さと、第2の共振端面上における誘電体膜の厚さとが略等しく、第1の半導体レーザ構造の発振波長における誘電体膜の反射率(%)と、第2の半導体レーザ構造の発振波長における誘電体膜の反射率(%)との差が10%以下であることを特徴とする。
【0009】
この半導体レーザ集積素子では、III族窒化物半導体から成る第1の基板の主面上に、2つの半導体レーザ構造が設けられており、これらの半導体レーザ構造は、インジウムを含む活性層をそれぞれ有している。第1の基板の主面は半極性面を含んでおり、インジウムを含む活性層をこのような面上に成長させることによって、結晶構造の歪みに起因するピエゾ電界を低減し、発光効率を高めることができる。
【0010】
また、この半導体レーザ集積素子では、III族窒化物半導体から成る第1の基板の主面上に第1及び第2の活性層が設けられるが、この場合、主面において第1の活性層等を結晶成長させ、その一部をエッチング除去したのち、第2の活性層等を選択的に結晶成長させて、通常の半導体プロセスを用いて半導体レーザ構造を形成することが可能である。したがって、半導体レーザ構造同士の位置合わせを精度良く行うことができるので、第1及び第2の半導体レーザ構造の光軸を精度よく合わせることができる。更に、第1の基板の主面上において、通常の半導体プロセスにより第1及び第2の半導体レーザ構造を形成することが可能なので、複数の半導体レーザ素子を個々に作製して基板上に実装する場合と比較して、装置の小型化が可能になる。
【0011】
また、この半導体レーザ集積素子では、第1の半導体レーザ構造の共振端面上における誘電体膜の厚さと、第2の半導体レーザ構造の共振端面上における誘電体膜の厚さとが略等しくなっている。すなわち、第1及び第2の半導体レーザ構造それぞれに対して、別個の誘電体膜を形成する必要がない。また、第1及び第2の半導体レーザ構造それぞれの発振波長における反射率の差が、10%以下となっている。このように、広い波長域にわたって略平坦な反射特性を有する誘電体膜を備えることによって、各半導体レーザ構造におけるレーザ発振を好適に実現することができる。
【0012】
また、上記半導体レーザ集積素子は、第1の基板の主面における法線ベクトルと、第1の基板のIII族窒化物半導体のc軸との成す傾斜角が、10度以上80度以下、又は100度以上170度以下の範囲に含まれることが好ましい。或いは、上記半導体レーザ集積素子は、第1の基板の主面における法線ベクトルと、第1の基板のIII族窒化物半導体のc軸との成す傾斜角が、63度以上80度以下、又は100度以上117度以下の範囲に含まれることが好ましい。
【0013】
また、上記半導体レーザ集積素子は、第1の半導体レーザ構造と第2の半導体レーザ構造との中心間隔が、30μm以上300μm以下であることを特徴としてもよい。この間隔が30μm以上であれば、第1及び第2の半導体レーザ構造の作製プロセスを容易に実施できる。また、この間隔が300μm以下であれば、第1及び第2の半導体レーザ構造から出射される各レーザ光を精度良く合波させることができる。
【0014】
また、本発明による半導体レーザ装置は、上述したいずれかの半導体レーザ集積素子と、半導体レーザ素子とを備える半導体レーザ装置であって、半導体レーザ素子は、主面を有する第2の基板と、第2の基板の主面上に設けられた第3の半導体レーザ構造と、第3の半導体レーザ構造上に設けられた第3の電極金属膜とを有し、第3の半導体レーザ構造が、第2の基板の主面上にエピタキシャル成長された第3の活性層を有しており、該第3の活性層の発光波長のピーク波長が600nm以上700nm以下であり、半導体レーザ素子は、第3の半導体レーザ構造の光導波方向が第1及び第2の半導体レーザ構造の光導波方向に沿うように半導体レーザ集積素子に接合されていることを特徴とする。この半導体レーザ装置によれば、例えばレーザディスプレイ等に好適な多波長レーザ装置の光軸調整を容易にし、且つ小型化できる。
【0015】
また、上記半導体レーザ装置は、第3の電極金属膜が、第1又は第2の電極金属膜に接合されていることを特徴としてもよい。このように、第3の半導体レーザ構造が第1又は第2の半導体レーザ構造上にフェースダウン実装されることにより、第1又は第2の半導体レーザ構造の光出射端面と第3の半導体レーザ構造の光出射端面とが互いに接近するので、これらの光軸調整を更に容易にできる。
【0016】
また、上記半導体レーザ装置は、第1の基板の厚さ方向における誘電体膜の縁部が第1又は第2の電極金属膜上にわたって延びており、該縁部の平均粗さが0.1μm以上0.5μm以下であることを特徴としてもよい。このように、電極金属膜上に延びる誘電体膜の縁部が、平均粗さ0.1μm以上といった粗い表面形状を有していると良い。これにより、第3の半導体レーザ構造を第1又は第2の半導体レーザ構造の上にフェースダウン実装する際、この縁部によって第1又は第2の電極金属膜と第3の電極金属膜との隙間が拡大するので、側方への導電性接着剤のはみ出し量を少なく抑えることができる。したがって、この半導体レーザ装置によれば、各半導体レーザ構造の側面に導電性接着剤が接触することによる電流のリークを効果的に抑えることができる。
【0017】
なお、このような粗い表面形状を有する縁部は、誘電体膜を形成する際の形成条件(例えば成膜温度など)を調整することによって形成可能である。例えば成膜温度を調整することによってこのような縁部を形成するためには、成膜温度を通常より低くするとよい。成膜温度を低くすると成膜中のマイグレーションが低下し、誘電体膜の縁部にこのような粗い表面形状が生じやすくなるからである。
【0018】
また、上記半導体レーザ装置は、第3の電極金属膜が、Snを含む導電性接着剤を介して第1又は第2の電極金属膜に接合されており、第3の電極金属膜に接合されている第1又は第2の電極金属膜の表面がAu層から成り、該Au層の厚さが0.1μm以上3μm未満であることを特徴としてもよい。Snを含む導電性接着剤がAu層と接触すると、Sn及びAuが反応して共晶構造を構成する。第1又は第2の電極金属膜と第3の電極金属膜との間の導電性接着剤が側方にはみ出る際、SnがAuと反応することによってその場所に滞留し、導電性接着剤の表面が著しく盛り上がる。そして、この盛り上がった導電性接着剤が各半導体レーザ構造の側面に接触することによって、電流のリークが発生してしまう。本発明者の知見によれば、Au層の厚さが3μm未満であれば、このような反応が生じたとしても導電性接着剤の表面の盛り上がりを小さくすることができ、各半導体レーザ構造の側面に導電性接着剤が接触することを回避して、電流のリークを防ぐことができる。
【0019】
また、上記半導体レーザ装置は、第3の電極金属膜が、導電性接着剤を介して第1又は第2の電極金属膜に接合されており、導電性接着剤の厚さが1μm以上3μm以下であることを特徴としてもよい。本発明者の知見によれば、導電性接着剤の厚さが3μm以下であることによって、第1又は第2の電極金属膜と第3の電極金属膜との間の導電性接着剤が側方へはみ出す際のはみ出し量を格段に低減し、電流のリークを顕著に抑制することができる。
【0020】
また、上記半導体レーザ装置は、実装面と、該実装面上に設けられた金属膜とを有するマウント部材を更に備え、半導体レーザ集積素子が、第1の基板の裏面上に設けられた第4の電極金属膜を更に有しており、第4の電極金属膜が、マウント部材の金属膜に接合されていることを特徴としてもよい。青色レーザ光や緑色レーザ光を発光する第1及び第2の半導体レーザ構造は、赤色レーザ光を発光する第3の半導体レーザ構造よりも発熱量が多い。上記のように、第1の基板の裏面側をマウント部材に実装することによって、第1及び第2の半導体レーザ構造において発生した熱を効率良く放熱することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、出力波長が互いに異なる複数の半導体レーザ構造の光軸調整が容易であり、且つ小型化が可能な半導体レーザ集積素子および半導体レーザ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る半導体レーザ装置の構成を示す正面図である。
【図2】図2は、第1及び第2の半導体レーザ構造を構成する半導体積層構造を示す模式図である。
【図3】図3は、第3の半導体レーザ構造を構成する半導体積層構造を示す模式図である。
【図4】図4は、第1及び第2の半導体レーザ構造の共振端面付近の構造を拡大して示す断面図であって、積層方向及び光導波方向を含む切断面を示している。
【図5】図5は、誘電体膜が有する波長−反射特性の一例を示すグラフである。
【図6】図6(a)は、ECR法によって形成された誘電体膜を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図6(b)は、電子ビーム法によって形成された誘電体膜を示すSEM写真である。
【図7】図7は、誘電体膜の上縁部のSEM像を示す図である。(a)は凹凸が大きい場合(すなわち表面粗さが大きい場合)を示しており、(b)は凹凸が小さい場合(すなわち表面粗さが小さい場合)を示している。
【図8】図8は誘電体膜の上縁部のTEM像を示す図である。
【図9】図9は、誘電体膜の上縁部の厚さと、半導体レーザ構造のリークとの関係を、ヒストグラムによって表した図である。
【図10】図10は、半導体レーザ構造の側面において導電性接着剤が盛り上がる様子を示すSEM像である。
【図11】図11は、半導体レーザ構造の側面において導電性接着剤の盛り上がりが観察されなかったときの様子を示すSEM像である。
【図12】図12は、半導体レーザ集積素子の作製方法における各工程を示す断面図であって、光導波方向に垂直な断面を示している。
【図13】図13は、半導体レーザ集積素子の作製方法における各工程を示す断面図であって、光導波方向に垂直な断面を示している。
【図14】図14は、半導体レーザ集積素子の作製方法における各工程を示す断面図であって、光導波方向に垂直な断面を示している。
【図15】図15は、半導体レーザ集積素子の作製方法における各工程を示す断面図であって、光導波方向に垂直な断面を示している。
【図16】図16は、半導体レーザ集積素子の作製方法における一工程を示す断面図であって、光導波方向に垂直な断面を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら本発明による半導体レーザ集積素子および半導体レーザ装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る半導体レーザ装置の構成を示す正面図である。図1に示されるように、本実施形態の半導体レーザ装置1Aは、半導体レーザ集積素子10と、半導体レーザ素子40と、マウント部材(サブマウント)80とを備えている。半導体レーザ集積素子10は、一枚の半導体基板11(第1の基板)と、該半導体基板11上に並んで形成された、第1の半導体レーザ構造20A及び第2の半導体レーザ構造20Bを有している。
【0025】
半導体基板11は、III族窒化物半導体からなり、一実施例ではn型GaNからなる。半導体基板11の厚さは、例えば50μm以上250μm以下である。半導体基板11は、当該III族窒化物半導体の半極性面を含む主面11aを有する。すなわち、半導体基板11を構成するIII族窒化物のc軸は、主面11aの法線に対して(好ましくはm軸方向に)傾斜している。半導体基板11の主面11aの傾斜角は、主面11aの法線ベクトルとc軸との成す角度によって規定される。この角度は、10度以上80度以下の範囲にあることができ、或いは100度以上170度以下の範囲にあることができる。半導体基板11が例えばGaNである場合、この角度範囲によれば、GaNの半極性の性質を提供できる。さらに、傾斜角は63度以上80度以下の範囲にあることが好ましく、或いは100度以上117度以下の範囲にあることが好ましい。この角度範囲によれば、500nm以上の発光のための活性層(後述)に好適なIn組成のInGaN層を提供できる。一実施例では、上記半極性面は{20−21}面である。
【0026】
第1の半導体レーザ構造20Aは、半導体基板11の主面11a上にエピタキシャル成長された第1の活性層(後述)を含んでおり、440nm以上480nm以下といった波長域の青色レーザ光を出力する。第2の半導体レーザ構造20Bは、半導体基板11の主面11a上にエピタキシャル成長された第2の活性層(後述)を含んでおり、500nm以上550nm以下といった波長域の緑色レーザ光を出力する。第1の半導体レーザ構造20Aには、光導波方向に沿って互いに平行に延びる一対の溝21aが形成されている。この一対の溝21aの間の凸状部分は、電流狭窄の為のリッジ構造22aとなっている。同様に、第2の半導体レーザ構造20Bには、光導波方向に沿って互いに平行に延びる一対の溝21bが形成されている。この一対の溝21bの間の凸状部分は、電流狭窄の為のリッジ構造22bとなっている。リッジ構造22a,22bは、ストライプ状の平面形状を有しており、光導波方向と直交する方向において活性層付近の屈折率を変化させることによって、半導体基板11の主面11aに沿って延びる光導波路を第1及び第2の半導体レーザ構造20A,20Bに形成する。
【0027】
また、半導体レーザ集積素子10は、半導体基板11の裏面11b上に設けられた電極金属膜12(第4の電極金属膜)と、第1の半導体レーザ構造20A上に設けられた電極金属膜13(第1の電極金属膜)と、第2の半導体レーザ構造20B上に設けられた電極金属膜14(第2の電極金属膜)と、第1及び第2の半導体レーザ構造20A,20Bを覆う絶縁膜15とを有している。電極金属膜12は、例えばAu/Ti/Pt/Alといった積層構造から成り、半導体基板11に対してオーミック接触を成している。電極金属膜13及び14は、第1の金属層13a,14aと、第1の金属層13a,14a上にそれぞれ設けられた第2の金属層13b,14bとを含む。第1の金属層13a,14aは、リッジ構造22a,22b上に形成された絶縁膜15の開口部分にそれぞれ設けられている。第1の金属層13a,14aは、例えばPdから成り、半導体レーザ構造20A,20Bの各コンタクト層(後述)に対してオーミック接触を成している。第2の金属層13b,14bは、例えばAu/Pt/Tiといった積層構造から成る。絶縁膜15は、例えばSiOやSiNといった絶縁性シリコン化合物から成る。
【0028】
マウント部材80は、実装面81aを有する基体81と、実装面81a上に設けられた金属膜82とを有している。基体81は、例えばAlN、Cu、SiC、CuW、BeO、銅ダイヤ、或いはCといった、熱伝導率が高く熱膨張係数が小さい材料から成ることが好ましい。または、基体81は、これらの材料を含む合金(例えば銅合金)や化合物から成ってもよい。基体81の外形は、例えば直方体状である。金属膜82は、例えばAu/Pt/Tiといった積層構造を有している。なお、金属膜82上には、導電性接着剤91が蒸着されている。導電性接着剤91としては、Snを含むハンダであるAuSn、SnAg、BiSn、PbSnや、InSn、SnAgCu、若しくはこれらの混合物が好適である。
【0029】
半導体レーザ集積素子10は、半導体基板11の裏面11bとマウント部材80の実装面81aとが互いに対向するように、実装面81a上に実装されている。すなわち、裏面11b上に設けられている電極金属膜12と、実装面81a上に設けられている金属膜82とが、導電性接着剤91を介して互いに接合されている。
【0030】
半導体レーザ素子40は、一枚の半導体基板41(第2の基板)と、半導体基板41の主面41a上に形成された第3の半導体レーザ構造50とを有している。半導体基板41は、例えばn型GaAsからなる。第3の半導体レーザ構造50は、主面41a上にエピタキシャル成長された第3の活性層を含んでおり、600nm以上700nm以下といった波長域の赤色レーザ光を出力する。第3の半導体レーザ構造50には、光導波方向に沿って互いに平行に延びる一対の溝51が形成されている。この一対の溝51の間の凸状部分は、電流狭窄の為のリッジ構造52となっている。リッジ構造52は、ストライプ状の平面形状を有しており、光導波方向と直交する方向において活性層付近の屈折率を変化させることによって、半導体基板41の主面41aに沿って延びる光導波路を第3の半導体レーザ構造50に形成する。
【0031】
また、半導体レーザ素子40は、半導体基板41の裏面41b上に設けられた電極金属膜42と、第3の半導体レーザ構造50上に設けられた電極金属膜43(第3の電極金属膜)と、第3の半導体レーザ構造50を覆う絶縁膜45とを有している。電極金属膜42は、例えばAu/Pt/Ti/AuSiといった積層構造から成り、半導体基板41に対してオーミック接触を成している。電極金属膜43は、第1の金属層43aと、第1の金属層43a上に設けられた第2の金属層43bとを含む。第1の金属層43aは、リッジ構造52上に形成された絶縁膜45の開口部分に設けられている。第1の金属層43aは、例えばAuGeから成り、半導体レーザ構造50のコンタクト層(後述)に対してオーミック接触を成している。第2の金属層43bは、例えばAu/Pt/Tiといった積層構造から成る。絶縁膜45は、例えばSiOやSiNといった絶縁性シリコン化合物から成る。
【0032】
半導体レーザ素子40は、第3の半導体レーザ構造50の光導波方向が第1及び第2の半導体レーザ構造20A,20Bの光導波方向に沿うように、第1の半導体レーザ構造20Aの上方にフェースダウン実装されている。すなわち、第1の半導体レーザ構造20A上に設けられている電極金属膜13と、第3の半導体レーザ構造50上に設けられている電極金属膜43とが、導電性接着剤92を介して互いに接合されている。導電性接着剤92としては、Snを含むハンダであるAuSn、SnAg、BiSn、PbSnや、InSn、SnAgCu、若しくはこれらの混合物が好適である。
【0033】
半導体レーザ装置1Aには、各半導体レーザ構造20A,20B及び40に電流を供給するための金属製のワイヤ121〜124の各一端が取り付けられる。一例では、ワイヤ121の一端はマウント部材80の金属膜82に接合され、ワイヤ122の一端は半導体レーザ素子40の基板41の裏面上に設けられた電極金属膜42に接合され、ワイヤ123の一端は第1の半導体レーザ構造20Aの電極金属膜13(及び第3の半導体レーザ構造50の電極金属膜43)に接合され、ワイヤ124の一端は第2の半導体レーザ構造20Bの電極金属膜14に接合される。このようなワイヤ接続方式では、ワイヤ121とワイヤ123との間に流れる電流によって第1の半導体レーザ構造20Aの発光が制御され、ワイヤ121とワイヤ124との間に流れる電流によって第2の半導体レーザ構造20Bの発光が制御され、ワイヤ122とワイヤ123との間に流れる電流によって第3の半導体レーザ構造50の発光が制御される。
【0034】
図2は、第1及び第2の半導体レーザ構造20A,20Bを構成する半導体積層構造を示す模式図である。なお、第1及び第2の半導体レーザ構造20A,20Bの各半導体積層構造は、活性層のインジウム組成が相違する点を除いて、ほぼ同様の構造を有する。
【0035】
図2に示されるように、半導体レーザ構造20A,20Bは、主面11aの法線方向にエピタキシャル成長した複数の半導体層によって構成される。本実施形態の半導体レーザ構造20A,20Bは、n型バッファ層23、n型クラッド領域24、p型クラッド領域25、及びコア半導体領域26を有する。
【0036】
n型バッファ層23は、半導体基板11と同じ導電型のIII族窒化物半導体からなり、例えばn型GaNからなることができる。n型クラッド領域24は、半導体基板11と同じ導電型のIII族窒化物半導体からなり、例えばn型AlGaN、n型InAlGaN等からなることができる。p型クラッド領域25は、半導体基板11とは異なる導電型のIII族窒化物半導体からなり、例えばp型AlGaN、p型InAlGaN等からなることができる。p型クラッド領域25上には、p型コンタクト層(或いはp型キャップ層)28が更に設けられている。p型コンタクト層28は、例えばp型GaN、p型AlGaN等からなる。
【0037】
コア半導体領域26は、n型クラッド領域24とp型クラッド領域25との間に設けられている。コア半導体領域26は、第1光ガイド層32、活性層34及び第2光ガイド層36を含む。活性層34は、第1光ガイド層32と第2光ガイド層36との間に設けられている。活性層34は、単一層からなることができ、或いは量子井戸構造を有することができる。必要な場合には、量子井戸構造は、交互に配列された井戸層及び障壁層を含むことができる。井戸層はInGaN等からなることができ、障壁層はGaN又はInGaN等からなることができる。一実施例では、井戸層の厚さは例えば3nmであり、障壁層の厚さは例えば15nmであり、井戸層の数は例えば3つである。活性層34の発光波長は、井戸層のバンドギャップやIn組成、その厚さ等によって制御される。
【0038】
なお、第1の半導体レーザ構造20Aにおいては、活性層34は第1の活性層であり、その発光波長のピーク波長が440nm以上480nm以下の範囲内に含まれるように、In組成が制御される。また、第2の半導体レーザ構造20Bにおいては、活性層34は第2の活性層であり、その発光波長のピーク波長が500nm以上550nm以下の範囲内に含まれるように、In組成が制御される。
【0039】
第1光ガイド層32は、第1GaN層32a及び第1InGaN層32bを含む。同様に、第2光ガイド層36は、第2GaN層36a及び第2InGaN層36bを含む。InGaN層32b及び36bは例えばアンドープであり、GaN層32aの導電型はn型であり、GaN層36aの導電型はp型である。InGaN層32b,36bのIn組成は、活性層34内のInGaN井戸層のIn組成より小さい。第1GaN層32aは、n型クラッド領域24と第1InGaN層32bとの間に設けられ、第1InGaN層32bは、活性層34と第1GaN層32aとの間に設けられる。第2GaN層36aは、p型クラッド領域25と第2InGaN層36bとの間に設けられ、第2InGaN層36bは、活性層34と第2GaN層36aとの間に設けられる。
【0040】
なお、前述したリッジ構造22a,22bは、第2光ガイド層36、p型クラッド領域24、及びp型コンタクト層28を含むように形成される。換言すれば、溝21a及び21bは、第2光ガイド層36に達するように形成される。
【0041】
上述したように、本実施形態の半導体レーザ集積素子10では、III族窒化物半導体から成る半導体基板11の主面11a上に半導体レーザ構造20A,20Bが設けられており、これらの半導体レーザ構造20A,20Bは、Inを含む活性層34をそれぞれ有している。半導体基板11の主面11aは半極性面を含んでおり、Inを含む活性層34をこのような面上に成長させることによって、結晶構造の歪みに起因するピエゾ電界を低減し、発光効率を高めることができる。
【0042】
また、本実施形態の半導体レーザ集積素子10では、半導体基板11の主面11a上に2つの半導体レーザ構造20A,20Bが設けられるが、この場合、主面11aにおいて半導体レーザ構造20Aの活性層34等を結晶成長させ、その一部をエッチング除去したのち、半導体レーザ構造20Bの活性層34等を選択的に結晶成長させるといった、通常の半導体プロセスを用いて半導体レーザ構造20A,20Bを形成することが可能である。したがって、半導体レーザ構造20A,20B同士の位置合わせを精度良く行うことができるので、第1及び第2の半導体レーザ構造20A,20Bの光軸を精度よく合わせることができる。更に、半導体基板11の主面11a上において、通常の半導体プロセスにより第1及び第2の半導体レーザ構造20A,20Bを形成することが可能なので、複数の半導体レーザ素子を個々に作製して基板上に実装する場合と比較して、装置の小型化が可能になる。
【0043】
なお、第1の半導体レーザ構造20Aと第2の半導体レーザ構造20Bとの中心間隔は、30μm以上300μm以下であることが好ましい。この間隔が30μm以上であれば、半導体レーザ構造20A,20Bの作製プロセスを容易に実施できる。また、この間隔が300μm以下であれば、半導体レーザ構造20A,20Bから出射される各レーザ光の光軸を精度良く合わせてこれらを合波させることができる。
【0044】
図3は、第3の半導体レーザ構造50を構成する半導体積層構造を示す模式図である。図3に示されるように、第3の半導体レーザ構造50は、主面41aの法線方向にエピタキシャル成長した複数の半導体層によって構成される。本実施形態の第3の半導体レーザ構造50は、n型バッファ層53、n型クラッド層54、p型クラッド層55、及び活性層56を有する。
【0045】
n型バッファ層53は、半導体基板41と同じ導電型のIII−V族化合物半導体からなり、例えばn型GaAsからなることができる。n型クラッド層54は、半導体基板11と同じ導電型のIII−V族化合物半導体からなり、例えばn型AlGaInPからなることができる。p型クラッド層55は、半導体基板11とは異なる導電型のIII族窒化物半導体からなり、例えばp型AlGaInPからなることができる。p型クラッド層55上には、p型コンタクト層(或いはp型キャップ層)58が更に設けられている。p型コンタクト層58は、例えばp型GaAsからなる。
【0046】
活性層56は、n型クラッド層54とp型クラッド層55との間に設けられている。活性層56は、単一層からなることができ、或いは量子井戸構造を有することができる。必要な場合には、量子井戸構造は、交互に配列された井戸層及び障壁層を含むことができる。活性層56の発光波長は、井戸層のバンドギャップやIn組成、その厚さ等によって制御される。活性層56は第3の活性層であり、その発光波長のピーク波長が600nm以上700nm以下の範囲内に含まれるように、In組成が制御される。
【0047】
なお、前述したリッジ構造52は、p型クラッド層54及びp型コンタクト層58を含むように形成される。換言すれば、溝51は、p型クラッド層54に達するように形成される。
【0048】
以上に説明した本実施形態の半導体レーザ装置1Aでは、半導体レーザ素子40及び半導体レーザ集積素子10が、第3の半導体レーザ構造50の光導波方向が第1及び第2の半導体レーザ構造20A,20Bの光導波方向に沿うように相互に接合されている。この半導体レーザ装置1Aによれば、例えばレーザディスプレイ等に好適な多波長レーザ装置の光軸調整を容易にし、且つ小型化できる。
【0049】
また、本実施形態の半導体レーザ装置1Aのように、第3の電極金属膜43は、第1の電極金属膜13又は第2の電極金属膜14に接合されるとよい。このように、第3の半導体レーザ構造50が半導体レーザ構造20A又は20B上にフェースダウン実装されることにより、半導体レーザ構造20A又は20Bの光出射端面と第3の半導体レーザ構造50の光出射端面とが互いに接近するので、これらの光軸調整を更に容易にできる。
【0050】
また、本実施形態の半導体レーザ装置1Aのように、半導体レーザ集積素子10の半導体基板11の裏面11b上に設けられる電極金属膜12は、マウント部材80の金属膜82に接合されていることが好ましい。青色レーザ光や緑色レーザ光を発光する半導体レーザ構造20A,20Bは、赤色レーザ光を発光する半導体レーザ構造50よりも発熱量が多い。本実施形態のように、半導体基板11の裏面11b側をマウント部材80に実装することによって、半導体レーザ構造20A,20Bにおいて発生した熱を効率良く放熱することができる。
【0051】
続いて、半導体レーザ集積素子10の共振端面に設けられる誘電体膜について説明する。図4は、第1及び第2の半導体レーザ構造20A,20Bの共振端面20c,20d付近の構造を拡大して示す断面図であって、積層方向及び光導波方向を含む切断面を示している。図4に示されるように、本実施形態の半導体レーザ集積素子10は、誘電体膜62を更に備えている。誘電体膜62は、半導体レーザ構造20A,20Bの一方の共振端面20c,20dを覆う為に、該共振端面20c,20dを含む半導体レーザ集積素子10の一方の端面(本実施形態では、半導体基板11の端面を含む)上に形成されている。誘電体膜62は例えば反射防止膜(AR膜)として機能し、或いは、誘電体膜62は例えば高反射率膜(HR膜)として機能する。誘電体膜62の共振端面20c上における厚さと、共振端面20d上における厚さとは略等しい。ここで、厚さが略等しいとは、例えば厚さの差(誤差)が±50nm以内であるような場合をいう。
【0052】
図4に示されるように、誘電体膜62は、屈折率が互いに異なる第1の膜62a及び第2の膜62bが交互に積層されて成る。第1の膜62aの構成材料は、例えばTiOである。第2の膜62bの構成材料は、例えばSiOである。誘電体膜62は、第1の膜62a及び第2の膜62bを複数層ずつ(例えばそれぞれ7層ずつ)有するとよい。
【0053】
ここで、図5は、誘電体膜62が有する波長−反射特性の一例を示すグラフである。なお、図5において、グラフG11は、第1の膜62a及び第2の膜62bをそれぞれ7層ずつ積層し、膜62aの厚さを60nmとし、膜62bの厚さを94nmとし、合わせて14層積層した場合の反射特性を示している。また、グラフG12は、第1の膜62a及び第2の膜62bをそれぞれ2層ずつ積層し、膜62aの厚さを60nmとし、膜62bの厚さを94nmとし、合わせて4層積層した場合の反射特性を示している。図5のグラフG11,G12に示されるように、本実施形態の誘電体膜62は、広い波長域にわたってほぼ平坦な反射特性を有する。具体的には、第1の半導体レーザ構造20Aの活性層の発光波長域(440nm以上480nm以下)から、第2の半導体レーザ構造20Bの活性層の発光波長域(500nm以上550nm以下)にわたる広い波長範囲において、最も高い反射率と最も低い反射率との差が10%以内に収まっている。第1及び第2の半導体レーザ構造20A,20Bの発振波長は活性層の発光波長域内に設定されるので、上述した反射特性によれば、第1の半導体レーザ構造20Aの発振波長における誘電体膜62の反射率(%)と、第2の半導体レーザ構造20Bの発振波長における誘電体膜62の反射率(%)との差が10%以下となる。
【0054】
また、半導体レーザ構造20A,20Bの積層方向における誘電体膜62の縁部(以下、単に上縁部という)62cは、半導体レーザ構造20A,20Bの共振端面20c,20d上から電極金属膜13,14上にわたって延びている。一実施例では、この上縁部62cは、電極金属膜13,14の表面13c,14cを含む仮想平面から半導体レーザ構造20A,20Bの積層方向に突き出ており、且つ、誘電体膜62の最表面を含む仮想平面からリッジ構造52の延伸方向に突き出ている。また、電極金属膜13,14の表面13c,14c上において、上縁部62cは凹凸状または粒形状といった粗い表面形状を有しており、その算術平均粗さRaは例えば0.1μm以上0.5μm以下であり、より好適には0.25μm以上0.5μm以下である。この粗い表面形状を有する部分は、電極金属膜13,14の表面13c,14c上においてリッジ構造52の延伸方向に沿って並んでいる。
【0055】
このような上縁部62cは、半導体レーザ集積素子10の端面上に誘電体膜62を形成する際の形成条件(例えば成膜温度など)が調整されることによって好適に生成される。例えば成膜温度を調整することによってこのような粗い表面形状を有する上縁部62cを生成させるためには、成膜温度を通常より低くするとよい。成膜温度を低くすると膜のマイグレーションが低下し、誘電体膜62の上縁部62cにこのような粗い表面形状を有する部分が生じやすくなるからである。
【0056】
図1に示されたように、電極金属膜13又は14上には、導電性接着剤91を介して半導体レーザ素子40の電極金属膜43が接合される。このような接合状態においては、誘電体膜62の縁部62cが、電極金属膜43に最も近接することとなる。そして、この縁部62cによって、電極金属膜13と電極金属膜43との隙間が拡大することとなる。従って、電極金属膜13と電極金属膜43との隙間における導電性接着剤91の収容量が増し、第1及び第2の半導体レーザ構造20A,20Bの側方への導電性接着剤91のはみ出し量を少なく抑えることができるので、電流のリークを効果的に抑えることができる。
【0057】
なお、上述した形状を有する誘電体膜62は、コーティングのほか、電子ビーム法やECR(Electron Cyclotron Resonance)法によっても好適に形成されることができる。図6(a)は、ECR法によって形成された誘電体膜62を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。また、図6(b)は、電子ビーム法によって形成された誘電体膜62を示すSEM写真である。双方共に、誘電体膜62の上縁部62cが好適に形成されていることがわかる。
【0058】
ここで、図4には、電極金属膜13又は14の表面13c又は14aを含む仮想平面を基準とする、上縁部62cの厚さTが示されている。次に示す実施例によれば、この厚さTの平均値は、0.25μm以上であることが好ましい。また、この厚さTが厚くなると、同時に上縁部62cの下端が半導体基板11へ近づく方向へ伸びる。従って、上縁部62cの厚さTは、上縁部62cが半導体レーザ構造20A,20Bの共振端面20c,20dを覆わない程度に抑えられることが好ましい。
【0059】
ここで、上縁部62cの厚さTと、第1及び第2の半導体レーザ構造20A,20Bの電流リークとの関係を調べた実施例について説明する。この実施例では、半極性面である{20−21}面を主面とするn型窒化ガリウムウェハ上に、上述した実施形態と同様の構造を有する第1及び第2の半導体レーザ構造20A,20Bを成長させ、各電極金属膜12〜14を形成することにより、青色および緑色のレーザ光を発振する複数の半導体レーザ集積素子構造を作製した。そのウェハをバー状に劈開し、その劈開面(すなわち共振端面)に、それぞれ複数のTiO膜及びSiO膜からなる誘電体膜62(端面コート)を形成した。そして、この誘電体膜62の回り込み部分(すなわち上縁部62c)の走査型電子顕微鏡像(SEM像)及び透過型電子顕微鏡像(TEM像)を観察し、電極金属膜13の表面を基準とする上縁部62cの厚さを観察した。図7はそのSEM像を示す図であり、図8はTEM像を示す図である。なお、図7において、(a)は凹凸が大きい場合(すなわち表面粗さが大きい場合)を示しており、(b)は凹凸が小さい場合(すなわち表面粗さが小さい場合)を示している。
【0060】
その後、レーザダイオードバーを切断してチップ化した。そして、電極金属膜13の上に、厚さ3μmのSnAgはんだを介して赤色の半導体レーザ素子40をフェースダウン実装した。その状態で、半導体レーザ構造20Aのリークによる不良を、電流電圧測定により確認した。そして、以上のような測定を、誘電体膜62の成膜条件(温度等)を変化させることにより作成された複数の半導体レーザ集積素子10に対して行った。
【0061】
図9は、誘電体膜62の上縁部62cの平均粗さと、半導体レーザ構造20Aのリークとの関係を、ヒストグラムによって表した図である。図9に示されるように、上縁部62cの平均粗さが0.20μm以下である場合には、リーク発生率は88%(49個中、リーク発生数は43個)であったのに対して、上縁部の平均粗さが0.25μm以上である場合には、リーク発生率は顕著に改善され、0%(51個中、リーク発生数は0個)であった。このことから、上縁部62cの平均粗さのより好適な値は0.25μm以上であることがわかる。
【0062】
続いて、半導体レーザ集積素子10の電極金属膜13,14、及び導電性接着剤92それぞれの好適な厚さに関する実施例について説明する。この実施例では、電極金属膜13,14の表面Au層に相当する様々な厚さのAu金属膜を複数のAlNサブマウントそれぞれの上に形成し、それらの上にAgSnはんだを設けて半導体レーザ素子40をフェースダウン実装した。図10(a)は、その様子を半導体レーザ素子40の裏面側から捉えたSEM像である。この結果、Au金属膜の厚さが3.0μmである場合に、実装の際にはみ出たAgSnはんだが著しく盛り上がり、半導体レーザ構造50の側面に付着することがわかった。図10(b)は、半導体レーザ構造50の側面においてAgSnはんだが盛り上がる様子を示すSEM像である。また、Au金属膜の厚さが1.0μmである場合には、このようなAgSnはんだの盛り上がりは観察されず、半導体レーザ構造50に電流リークも生じなかった。図11(a)は、その様子を半導体レーザ素子40の裏面側から捉えたSEM像であり、また、図11(b)は、半導体レーザ構造50の側面付近を示すSEM像である。
【0063】
Snを含む導電性接着剤がAu金属膜と接触すると、Sn及びAuが反応して共晶構造を構成する。Au金属膜と半導体レーザ素子40の電極金属膜43との間のAgSnはんだが側方にはみ出る際、SnがAuと反応することによってその場所に滞留し、AgSnはんだの表面が著しく盛り上がる。そして、この盛り上がったAgSnはんだが半導体レーザ構造50の側面に接触することによって、電流のリークが発生してしまう。なお、Au金属膜に代えて電極金属膜13又は14上に半導体レーザ素子40を実装する際にも同様のことがいえる。上述した実施例の結果に基づき、電極金属膜43に接合される電極金属膜13又は14の表面Au層の厚さは3μm未満であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。なお、本実施例では、Au金属膜が0.1μmよりも薄くなると、横方向のシート抵抗が高くなって半導体レーザ構造50の電圧特性が劣化することが判明した。
【0064】
また、本実施例において、AgSnはんだを様々な厚さに設定した場合、AgSnはんだの厚さが1μm以上3μm以下の範囲内であれば上述した盛り上がりは観察されなかったが、AgSnはんだの厚さを5μmとした場合、AgSnはんだのはみ出し量が著しく多くなることで半導体レーザ構造50の側面にAgSnはんだが付着し、半導体レーザ構造50に電流リークが生じた。このことから、電極金属膜13又は14と電極金属膜43との間の導電性接着剤92の厚さは1μm以上3μm以下の範囲内であることが好ましい。これにより、導電性接着剤92が側方へはみ出す際のはみ出し量を格段に低減し、電流のリークを顕著に抑制することができる。
【0065】
以上の特徴を備える本実施形態の半導体レーザ集積素子10の作製方法について、以下に説明する。なお、各半導体層は有機金属気相成長法によりエピタキシャル成長されるものとし、原料には、トリメチルガリウム(TMGa)、トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリメチルインジウム(TMIn)、アンモニア(NH)、及びシラン(SiH)を用いる。図12〜図16は、この作製方法における各工程を示す断面図であって、光導波方向に垂直な断面を示している。
【0066】
まず、半導体基板11の主面11a(例えば{20−21}面)上の全面に、例えばプラズマCVDによりSiO膜を成膜する。そして、図12(a)に示すように、そのSiO膜上に通常のフォトリソグラフィ技術を用いてレジストパターン102を形成し、このレジストパターン102を用いてSiO膜に対しエッチングを行う。このエッチングは、例えばフッ酸を用いたウェットエッチングである。これにより、第2の半導体レーザ構造20Bのための領域を覆うSiO膜101が形成される。この工程ののち、レジストパターン102を除去する。
【0067】
続いて、図12(b)に示すように、主面11aのうちSiO膜101から露出した領域上に第1の半導体レーザ構造20Aをエピタキシャル成長させたのち、その第1の半導体レーザ構造20A上にSiOからなるエッチングマスク104を形成する。このエッチングマスク104は、一対の溝21aに対応する開口を有するものである。そして、図12(c)に示すように、エッチングマスク104を用いて第1の半導体レーザ構造20Aをエッチングすることによって、一対の溝21aを形成する。このエッチングは、例えばBCl系ガスを用いたドライエッチングである。
【0068】
続いて、主面11a上の全面に、例えばプラズマCVDによりSiOを堆積させる。その結果、図13(a)に示すように、第1の半導体レーザ構造20Aと、主面11aにおいて第1の半導体レーザ構造20Aが形成されていない領域との双方を覆うSiO層105が形成される。その後、図13(b)に示すように、第1の半導体レーザ構造20Aの上方におけるSiO層105上の領域を覆うレジストパターン106を通常のフォトリソグラフィ技術を用いて形成し、このレジストパターン106に覆われていないSiO層105の部分をエッチングにより除去する。このエッチングは、例えばバッファードフッ酸を用いたウェットエッチングである。この工程ののち、レジストパターン106を除去する。
【0069】
続いて、図13(c)に示すように、主面11aのうちSiO層105から露出した領域上に第2の半導体レーザ構造20Bをエピタキシャル成長させたのち、その第2の半導体レーザ構造20B上にSiOからなるエッチングマスク107を形成する。このエッチングマスク107は、一対の溝21bに対応する開口を有するものである。そして、図14(a)に示すように、エッチングマスク107を用いて第2の半導体レーザ構造20Bをエッチングすることによって、一対の溝21bを形成する。このエッチングは、例えばBCl系ガスを用いたドライエッチングである。この工程ののち、例えばフッ酸を用いてSiO層105及びエッチングマスク107を除去する(図14(b))。
【0070】
続いて、図14(c)に示すように、主面11a上の全面に、例えばプラズマCVDにより絶縁膜15を堆積させる。このとき、半導体レーザ構造20A及び20Bは絶縁膜15によって覆われる。そして、通常のフォトリソグラフィ技術を用いて、絶縁膜15上にレジストパターン109を形成する。レジストパターン109は、電極金属膜13,14の第1の層13a,14aの平面形状に相当する開口を有する。その後、図15(a)に示すように、このレジストパターン109を用いて、絶縁膜15のエッチングを行い、半導体レーザ構造20A及び20Bの各頂部を露出させる。このエッチングは、例えばバッファードフッ酸を用いたウェットエッチングである。
【0071】
続いて、電極金属膜13,14の第1の層13a,14aのための金属膜(例えばPd)を主面11a上の全面に蒸着したのち、レジストパターン109を除去する(リフトオフ)。これにより、図15(b)に示すように、半導体レーザ構造20A,20B上に電極金属膜13,14の第1の層13a,14aがそれぞれ形成される。その後、図15(c)に示すように、通常のフォトリソグラフィ技術を用いてレジストパターン110を形成する。レジストパターン110は、電極金属膜13,14の第2の層13b,14bの平面形状に相当する開口を有する。そして、第2の層13b,14bのための金属膜(例えばAu/Pt/Ti)を主面11a上の全面に蒸着したのち、レジストパターン110を除去する(リフトオフ)。これにより、図16に示すように、第1の層13a,14a上に第2の層13b,14bがそれぞれ形成される。最後に、半導体基板11の裏面11b上に電極金属膜12を形成する。こうして、図1に示された半導体レーザ集積素子10が完成する。
【0072】
以上説明したように、本実施の形態によれば、出力波長が互いに異なる複数の半導体レーザ構造の光軸調整が容易であり、且つ小型化が可能な半導体レーザ集積素子および半導体レーザ装置が提供される。
【0073】
好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。
【符号の説明】
【0074】
1A…半導体レーザ装置、10…半導体レーザ集積素子、11…半導体基板、12〜14…電極金属膜、13a,14a…第1の金属層、13b,14b…第2の金属層、13c,14c…表面、15…絶縁膜、20A…第1の半導体レーザ構造、20B…第2の半導体レーザ構造、20c,20d…共振端面、21a,21b…溝、22a,22b…リッジ構造、23…n型バッファ層、24…n型クラッド領域、25…p型クラッド領域、26…コア半導体領域、28…p型コンタクト層、32…光ガイド層、34…活性層、36…光ガイド層、40…半導体レーザ素子、41…半導体基板、42,43…電極金属膜、43a…第1の金属層、43b…第2の金属層、45…絶縁膜、50…第3の半導体レーザ構造、51…溝、52…リッジ構造、53…n型バッファ層、54…n型クラッド層、55…p型クラッド層、56…活性層、58…p型コンタクト層、62…誘電体膜、62a…第1の膜、62b…第2の膜、62c…上縁部、80…マウント部材、81…基体、81a…実装面、82…金属膜、91,92…導電性接着剤、101…SiO膜、102,106,109,110…レジストパターン、104,107…エッチングマスク、105,108…SiO層、121〜124…ワイヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物半導体から成り、該III族窒化物半導体の半極性面を含む主面を有する第1の基板と、
前記第1の基板の前記主面上に設けられ、第1の共振端面を有する第1の半導体レーザ構造と、
前記第1の半導体レーザ構造上に設けられた第1の電極金属膜と、
前記第1の基板の前記主面上に設けられ、第2の共振端面を有し、前記第1の半導体レーザ構造の光導波方向に沿った方向を光導波方向として前記第1の半導体レーザ構造の光導波方向と交差する方向に並設された第2の半導体レーザ構造と、
前記第2の半導体レーザ構造上に設けられた第2の電極金属膜と、
前記第1及び第2の共振端面上にわたって形成された誘電体膜と
を備え、
前記第1の半導体レーザ構造が、前記第1の基板の前記主面上にエピタキシャル成長されたインジウムを含む第1の活性層を有しており、該第1の活性層の発光波長のピーク波長が440nm以上480nm以下であり、
前記第2の半導体レーザ構造が、前記第1の基板の前記主面上にエピタキシャル成長されたインジウムを含む第2の活性層を有しており、該第2の活性層の発光波長のピーク波長が500nm以上550nm以下であり、
前記第1の共振端面上における前記誘電体膜の厚さと、前記第2の共振端面上における前記誘電体膜の厚さとが略等しく、
前記第1の半導体レーザ構造の発振波長における前記誘電体膜の反射率(%)と、前記第2の半導体レーザ構造の発振波長における前記誘電体膜の反射率(%)との差が10%以下であることを特徴とする、半導体レーザ集積素子。
【請求項2】
前記第1の基板の前記主面における法線ベクトルと、前記第1の基板のIII族窒化物半導体のc軸との成す傾斜角が、10度以上80度以下、又は100度以上170度以下の範囲に含まれることを特徴とする、請求項1に記載の半導体レーザ集積素子。
【請求項3】
前記第1の基板の前記主面における法線ベクトルと、前記第1の基板のIII族窒化物半導体のc軸との成す傾斜角が、63度以上80度以下、又は100度以上117度以下の範囲に含まれることを特徴とする、請求項2に記載の半導体レーザ集積素子。
【請求項4】
前記第1の半導体レーザ構造と前記第2の半導体レーザ構造との中心間隔が、30μm以上300μm以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体レーザ集積素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の半導体レーザ集積素子と、
半導体レーザ素子と
を備える半導体レーザ装置であって、
前記半導体レーザ素子は、
主面を有する第2の基板と、
前記第2の基板の前記主面上に設けられた第3の半導体レーザ構造と、
前記第3の半導体レーザ構造上に設けられた第3の電極金属膜と
を有し、
前記第3の半導体レーザ構造が、前記第2の基板の前記主面上にエピタキシャル成長された第3の活性層を有しており、該第3の活性層の発光波長のピーク波長が600nm以上700nm以下であり、
前記半導体レーザ素子は、前記第3の半導体レーザ構造の光導波方向が前記第1及び第2の半導体レーザ構造の光導波方向に沿うように前記半導体レーザ集積素子に接合されていることを特徴とする、半導体レーザ装置。
【請求項6】
前記第3の電極金属膜が、前記第1又は第2の電極金属膜に接合されていることを特徴とする、請求項5に記載の半導体レーザ装置。
【請求項7】
前記第1の基板の厚さ方向における前記誘電体膜の縁部が前記第1又は第2の電極金属膜上にわたって延びており、該縁部の平均粗さが0.1μm以上0.5μm以下であることを特徴とする、請求項6に記載の半導体レーザ装置。
【請求項8】
前記第3の電極金属膜が、Snを含む導電性接着剤を介して前記第1又は第2の電極金属膜に接合されており、
前記第3の電極金属膜に接合されている前記第1又は第2の電極金属膜の表面がAu層から成り、該Au層の厚さが0.1μm以上3μm未満であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の半導体レーザ装置。
【請求項9】
前記第3の電極金属膜が、導電性接着剤を介して前記第1又は第2の電極金属膜に接合されており、
前記導電性接着剤の厚さが1μm以上3μm以下であることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか一項に記載の半導体レーザ装置。
【請求項10】
実装面と、該実装面上に設けられた金属膜とを有するマウント部材を更に備え、
前記半導体レーザ集積素子が、前記第1の基板の裏面上に設けられた第4の電極金属膜を更に有しており、
前記第4の電極金属膜が、前記マウント部材の前記金属膜に接合されていることを特徴とする、請求項6〜9のいずれか一項に記載の半導体レーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−21123(P2013−21123A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153102(P2011−153102)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】