半導体光素子および半導体光装置
【課題】フィルタ構造を用いずに所定の波長の光を選択的に検出できる半導体光素子および半導体光装置を提供する。
【解決手段】温度検知部と、温度検知部に熱的に接続された吸収部10とを含み、吸収部10に入射した光を検出する半導体光素子であって、吸収部10が、特定波長を表面に結合させる表面プラズモンを誘起するように表面にアレイ状に配置された凹部11および凸部を有し、特定波長の入射光の吸収量を、特定波長以外の入射光の吸収量より大きくする。また、複数の半導体光素子をアレイ状に配置する。
【解決手段】温度検知部と、温度検知部に熱的に接続された吸収部10とを含み、吸収部10に入射した光を検出する半導体光素子であって、吸収部10が、特定波長を表面に結合させる表面プラズモンを誘起するように表面にアレイ状に配置された凹部11および凸部を有し、特定波長の入射光の吸収量を、特定波長以外の入射光の吸収量より大きくする。また、複数の半導体光素子をアレイ状に配置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体光素子および半導体光装置に関し、特に、熱型赤外センサ素子および熱型赤外センサ素子をアレイ状に配した半導体光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の熱型赤外センサ装置では、検出する赤外線の波長を選択する場合、熱型赤外センサ素子の前に、光学フィルタを装着していた。この光学フィルタには、多層膜光学フィルタの他、例えば、特許文献1に示すような、プラズモン共鳴を利用して選択的に所望の波長の光を透過させる光学フィルタや、構造体極近傍における電界増強を利用した光学フィルタが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−248382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、波長選択フィルタと熱型赤外センサを組み合わせた構造では、第1に、センサの他にフィルタが必要となり構造が複雑になる、第2に、どのようなフィルタを用いても必要な波長成分も部分的にカットされてしまい検出効率が低下する、第3に、光学フィルタは入射角度依存性が大きく、検出特性も入射角度に大きく依存する、第4に、複数の赤外域の波長を同時に検出するためには、センサ素子毎に構造の異なるフィルタを装着しなければならない、等の問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、フィルタ構造を用いずに所定の波長の光を選択的に検出できる半導体光素子および半導体光装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の形態は、温度検知部と、温度検知部に熱的に接続された吸収傘とを含み、吸収傘に入射した光を検出する半導体光素子であって、吸収傘が、特定波長の入射光を表面に結合させ表面プラズモンを励起するために表面にアレイ状に配置された凹部を有し、特定波長の入射光の吸収量を、特定波長以外の入射光の吸収量より大きくしたことを特徴とする半導体光素子である。
【0007】
本発明の他の形態は、温度検知部と、温度検知部の上に積層された吸収膜とを含み、吸収膜に入射した光を検出する半導体光素子であって、吸収膜が、特定波長を表面に結合させる表面プラズモンを誘起するように表面にアレイ状に配置された凹部を有し、特定波長の入射光の吸収量を、特定波長以外の入射光の吸収量より大きくしたことを特徴とする半導体光素子である。
【0008】
本発明の他の形態は、複数の半導体光素子をアレイ状に配置したことを特徴とする半導体光装置である。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明にかかる半導体光素子では、フィルタを用いることなく、特定波長の入射光を選択的に増強させることができ、検出感度を向上できるとともに、入射角への依存性も少なくできる。
【0010】
また、本発明にかかる半導体光装置では、異なる波長の入射光を同時に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる熱型赤外センサ素子の平面図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかる熱型赤外センサ素子の断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1にかかる熱型赤外センサ素子の吸収傘に設けた微細パターンの平面図である。
【図4】本発明の実施の形態1にかかる吸収傘の吸収特性を示す。
【図5】本発明の実施の形態2にかかる熱型赤外センサ素子の吸収傘に設けた微細パターンの平面図を示す。
【図6】本発明の実施の形態2にかかる吸収傘の吸収特性を示す。
【図7】本発明の実施の形態3にかかる熱型赤外センサ素子の吸収傘に設けた微細パターンの断面図である。
【図8】本発明の実施の形態4にかかる熱型赤外センサ素子アレイの平面図である。
【図9】本発明の実施の形態5にかかる熱型赤外センサ素子アレイの平面図である。
【図10】本発明の実施の形態5にかかる熱型赤外センサ素子アレイの平面図である。
【図11】本発明の実施の形態6にかかる熱型赤外センサ素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、全体が100で表される、本発明の実施の形態1にかかる熱型赤外センサ素子の上面図であり、図2は、図1のA−Aにおける熱型赤外センサ素子の断面図である。
【0013】
図1、2に示すように、熱型赤外センサ素子100は、例えばシリコンからなる基板1を含む。基板1には中空部2が設けられ、中空部2の上には、温度検知部4が支持脚3により支持されている。支持脚3は、ここでは2本であり、上方から見るとL字型に折れ曲がったブリッジ形状となっている。支持脚3は薄膜金属配線6とこれを支える誘電体膜を含んでいる。
【0014】
温度検知部4は、検知膜5と薄膜金属配線6を含む。検知膜5は、例えば結晶シリコンを用いたダイオードからなる。薄膜金属配線6は支持脚3にも設けられ、検知膜5とアルミニウム配線7とを電気的に接続している。薄膜金属配線6は例えば厚さ100nmのチタン合金からなる。検知膜5が出力した電気信号は、支持脚3に形成された薄膜金属配線6を経由してアルミニウム配線7に伝わり、検出回路(図示せず)により取り出される。薄膜金属配線6と検知膜5の間、および薄膜金属配線6とアルミニウム配線7との間の電気的接続は、必要に応じて上下方向に延在する導電体(図示せず)を介して行っても良い。
【0015】
赤外線を反射する反射膜8は、中空部2を覆うように配置されている。但し、反射膜8と温度検知部4は熱的に接続されない状態で、支持脚3の少なくとも一部の上方を覆うように配置されている。
【0016】
温度検知部4の上には、支持柱9が設けられ、その上に吸収傘10が支持されている。図1に示すように、熱型赤外センサ素子100は、上方から見ると吸収傘10のみが見える。吸収傘10は、例えばAu、Agなどの金属薄膜6からなり、膜厚は数nm程度から数百nm程度である。ここでは、吸収傘10は金属薄膜6の単層構造としたが、例えば100〜200nm程度の酸化シリコンなどの誘電体薄膜で金属薄膜6の上下を挟み込んだ3層構造や、誘電体薄膜の上に金属薄膜6を形成した2層構造を用いても良い。後述するように、表面プラズモンを利用する場合は、金属薄膜6としてAu、Agを用いることが好ましい。
【0017】
吸収傘10には、アレイ状に凹部11が設けられている。凹部11は等間隔に配置され、その周期(ピッチ)は検出したい赤外線の波長(特定波長)と同程度である。また、凹部11の深さは、例えば、検出したい波長である特定波長の4分の1程度が好ましい。
【0018】
例えば、検出したい特定波長が1000nmの場合、凹部11の形状は、一辺が500nmの正方形(平面)で、深さは250nm、凹部の間隔は500nmとするのが好ましい。この場合、凹部11の周期(ピッチ)は特定波長と同じ1000nmとなる。
【0019】
吸収傘10の膜厚は、吸収、熱時定数、材料の応力等を考慮して適宜決められる。図2から分かるように、吸収傘10は温度検知部4の上に支持柱9で接続されており、即ち、吸収傘10と温度検知部4は熱的に接続されている。一方、吸収傘10は、反射膜8とは熱的に接続されない状態で、反射膜8より上方に保持され、反射膜8の少なくとも一部を覆い隠すように側方に板状に広がっている。
【0020】
かかる熱型赤外センサ素子100では、入射した赤外線は主に吸収傘10で吸収される。一方、吸収傘10を透過した赤外線は、反射膜8で反射されて吸収傘10に裏面から入射して吸収される。吸収傘10に吸収された赤外線は熱に変換され、支持柱9を通って温度検知部4に伝わる。温度検知部4では、検知膜5の電気抵抗が温度により変化するため、外部に設けた検出回路(図示せず)でこれを検出することにより、赤外線の量を検出する。ここでは反射膜8を設けた構造を示したが、反射膜8は無くても良い。
【0021】
次に、吸収傘10の表面プラズモンについて説明する。自由電荷の集団振動が電磁波と結合した系はプラズモンポラリトンと呼ばれる(但し、本実施の形態では特に区別する場合を除き、表面プラズモンと呼ぶ)。表面(または境界面)では、固体中でのプラズモンとは状況が異なり、表面での境界条件を満たす別の集団振動が存在することになる。
電磁波で表面プラズモンを励起するためには、電磁波の位相速度が表面プラズモンの位相速度と一致しなければならない。この時、電磁波が境界面で全反射する時に発生するエバネッセント波が用いられる。
【0022】
例えば、媒質1(位相速度:β1、誘電率:ε1)と媒質2(位相速度:β2、誘電率:ε2)に挟まれた境界面を考える(媒質1が物質で、媒質2が真空の場合、この境界面が物質表面に相当する)。この境界面において表面プラズモンモードが存在し得る条件は、以下の式(1)のようになる。
【0023】
【数1】
【0024】
つまり、ε1とε2が逆符号であること、即ち一方が正、他方が負の誘電率をもつことである。
【0025】
一般に、金属のように自由電荷を持つ物質は、プラズマ周波数以下の周波数領域で誘電率が負である。よって金属と誘電体(空気、真空を含む)の境界面においては、上記式1を満たす表面波が存在できる。また、表面プラズモンの伝搬方向に垂直で、境界面上の波数をkspとすると、表面プラズモンの分散関係は、以下の式2のようになる。
【0026】
【数2】
【0027】
但し、ωは周波数、cは真空の光速である。
【0028】
即ち、式2が、誘電体と金属の間に表面プラズモンを励起するための共鳴条件となる。
【0029】
一般に表面プラズモンは式2の分散関係をもつ。この条件を満たす場合に、表面に強く局在する表面プラズモンが励起されるとともに、このような表面波の形成は強い波長依存性を有する。また、式2は通常のライトラインより下側になるため、エバネッセント波を用いて表面プラズモンを励起させる必要があり、入射角度依存性を強くもつ。
【0030】
しかし、表面に周期的な構造、(例えば、図1に示す凹部11)を設けると、通常の入射光で表面プラズモンが励起できる。つまり、表面プラズモンの波数ベクトルを
入射光の波数ベクトルを
逆格子ベクトルを
とすると、
【0031】
【数3】
【0032】
となる。例えば、1次元の周期構造の場合、表面プラズモンの波数をksp、入射光の波数をk0、入射角をθ、構造の周期をd、mを整数とすると、以下の式4のような関係が成立する。
【0033】
【数4】
【0034】
式3、4から明らかなように、周期構造により、波数のミスマッチが克服され、通常の入射光において表面プラズモンが励起され、表面に結合することが分かる。表面に結合した光は結果的に吸収されることになるので、共鳴波長において吸収が増加する。
【0035】
ここで、近赤外域より長い波長域である、中赤外波長域、遠赤外波長域、テラヘルツの波長域においても、表面に周期的な凹凸を形成することで疑似表面プラズモンとよばれる表面に強く局在するモードを形成することができる。これは、自由電子の集団振動である本来の表面プラズモンとは異なるが、分散関係、つまり入射光を表面に結合させる効果は相似である。同様に、一部メタマテリアルと呼ばれる効果も同じことを意味する。
【0036】
この波長域では、金属がほぼ完全導体となる。しかし、例えば、図3のような形状で、a、b、cが波長に対して十分に小さい場合は、有効媒質近似が適用できる。つまり、波長に対して十分無視できるほど小さな周期的凹凸内部に、入射電磁波が存在することになるため、完全導体(金属)中に電磁波が浸透しているのと等価と見なすことができる。このため、分散関係も式2で表される表面プラズモンと同じ関係を等価的に形成できる。このように、構造パラメータであるa、b、cにより分散関係を決定することができる。
【0037】
このように、表面プラズモン、表面プラズモンポラリトン、表面プラズモン共鳴、擬似表面プラズモン、メタマテリアルとそれぞれ文言は異なるが、導体(金属)と誘電体の界面に周期的凹凸により入射光を強く結合させ、吸収波長を制御するという本発明の観点からは同じ内容である。
なお、以下の記載や特許請求の範囲の記載では、これらの文言を特に区別せず、単に「表面プラズモン」または「表面結合波」と呼ぶこととする。
【0038】
また、以下の解析例は、近赤外域付近を吸収対象としているが、既に述べたように可視域、あるいは近赤外域よりも大きな波長に対しても有効に適用できる。
【0039】
次に、板状の吸収傘10に、周期的な凹部11を設けた構造について説明する。この凹部11の大きさ、周期、深さに応じた波長で、入射電磁波が吸収傘10の構造と結合し、表面に強く局在する表面プラズモンモードが励起される。
【0040】
図3は、実施の形態1にかかる熱型赤外センサ素子100の吸収傘10に設けた微細パターン(凹部11)の平面図である。図3では、凹部11の配列を3行3列(3×3)で示してあるが、任意の配列に形成することができる。a、bは凹部の縦、横の長さ、cは凹部の間隔である(縦方向、横方向とも間隔はcである)。図3では、横方向の周期は(a+c)であり、縦方向の周期は(b+c)である。
【0041】
図4は、a=b=c、吸収傘10の材料がAu、凹部の深さ100nmの条件で、厳密結合波解析法によって垂直入射波に対する吸収を求めた吸収傘の吸収特性である。図4において、横軸は波長、縦軸は吸収量を示す。実線はa=b=c=0.5μmの場合、長い破線はa=b=c=1.0μmの場合、短い破線はa=b=c=1.5μmの場合である
【0042】
図4から、凹部11の大きさ、形状によって吸収のピーク波長を制御できることがわかる。例えば、実線(0.5μm)では、パターン周期は1.0μm(a+c)であり、吸収のピーク波長は約1μmである。また、長い方の点線(1.0μm)では、パターン周期は2.0μm(a+c)であり、吸収のピーク波長は約1.5μm、約2μmである。また、短い方の点線(1.5μm)では、パターン周期は3.0μm(a+c)であり、吸収のピーク波長は約2μm、約3μmである。
【0043】
また、凹部11を深くすることで吸収は大きくなる傾向にある。ここでは簡単のためAu単層の薄膜を用いた簡単な2次元周期パターンを用いて説明したが、Agのような他の材料、あるいは誘電体層に挟まれたような多層構造でも、パターン形状を制御することによって同様の効果が得られる。また、凹部11の形状、周期を調整することにより、吸収波長ピークも調整できる。
【0044】
なお、図2の構造では、周期的な凹部11が吸収傘10の上面のみ、つまり電磁波の入射面のみに設けているが、反射膜8により反射される光を吸収するために、吸収傘10の裏面にも設けても良い。この場合、表面プラズモンは、吸収傘10の裏面においても同様に発生する。
【0045】
このように、本実施の形態1にかかる熱型赤外センサ素子100では、周期的に配置された凹部11を有する吸収傘10を用いることにより、特定波長の赤外線を共振させ、その波長のみを選択的に吸収することが可能となり、従来のようなバンドパスフィルタを用いる必要がなくなり、効率的な検出が可能となる。また、バンドパスフィルタが不要となるため、センサモジュールとしての光学系が小型、簡略化できる。更には、検出特性の入射角度依存性が殆ど無くなる。
【0046】
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2にかかる熱型赤外センサ素子の吸収傘に設けた微細パターン(凹部)を示す。凹部10は平面が円形であり、他は図3の構造と同じである。ここでは、a=bの真円としているが、aとbが異なる楕円でも良い。楕円の場合は、特定の偏光に対してのみ表面プラズモンが強調されるため、特定の偏光についてのみ検出を行う場合に利用できる。
【0047】
図6は、図5の構造を有する吸収傘の吸収特性であり、a=b=c、吸収傘の材料はAu、凹部11の深さは100nmとした。
【0048】
図6から、凹部11を円形とすることによって、吸収量と、吸収のピーク波長を変化させることが可能となることが分かる。例えば、実線(0.5μm)は、パターン周期が1.0μm(a+c)であり、吸収のピーク波長は約1μmである。一方、長い方の点線(1.0μm)では、パターン周期が2.0μm(a+c)であり、吸収のピーク波長は約2μmよりやや長波長側にシフトしている。このように、凹部11を円形とすることにより、吸収量、吸収ピーク数、吸収波長を変化させ、任意の波長の赤外線の検出が可能となる。
【0049】
実施の形態3.
図7は、本発明の実施の形態3にかかる熱型赤外センサ素子の吸収傘に設けた微細パターンの断面図である。実施の形態1、2では、凹部11の断面は矩形であったが(例えば、図2参照)、本実施の形態3では、角部の無い丸みを帯びた形状となっている。つまり、断面において、凹部11の最底面と最表面の、それぞれの頂点を結ぶ連続面(内壁)が曲面となっている。好ましくは、曲面がサイン(sin)カーブとなる。なお、吸収傘10を上方からから見た場合、凹部11は図1や図5のように矩形や円形となっている。
【0050】
本実施の形態にかかる吸収傘10では、凹部11の側面が曲面となっているため、より広い入射角の電磁波に対して表面プラズモンが生じる。また、吸収傘10では偏光依存性が小さくなるため、より広範な入射光を吸収できる。このため、高効率な熱変換が可能となり、赤外線の検出効率が高くなる。
【0051】
実施の形態4.
図8は、本発明の実施の形態4にかかる熱型赤外センサ素子アレイの平面図であり、図1に示す熱型赤外センサ素子100をアレイ状に配置したものである。ここでは、説明を簡単にするために2行2列の合計4個の熱型赤外センサ素子からなる熱型赤外センサ素子アレイを示しているが、配置される熱型赤外センサ素子の個数に制限は無い。これらの熱型赤外センサ素子アレイは、外部の走査回路(図示せず)等により各行、各列の熱型赤外センサ素子を選択して、各素子が検出した情報を時系列に取り出す方式としてもよい。また、並列に読み出す方式であってもよい。
【0052】
このように、熱型赤外センサ素子をアレイ状に並べて、一定の面内で特定の波長を選択的に検出することにより、画像を検出する熱画像イメージャとして用いることが可能となる。
【0053】
実施の形態5.
図9は、本発明の実施の形態5にかかる熱型赤外センサ素子アレイの平面図である。図9の熱型赤外センサ素子アレイでは、熱型赤外センサ素子の吸収傘10に形成したパターンがそれぞれ異なり、図6に示したa=b=c=0.5μm(吸収傘A13)、1.0μm(吸収傘B14)、1.5μm(吸収傘C15)のパターンをそれぞれ形成した3つの熱型赤外センサ素子を組み合わせた構造となっている。これらの熱型赤外センサ素子は、それぞれ異なる波長において強い吸収ピークを有している。
【0054】
図10は、これら3つの異なる熱型赤外センサ素子を1単位として、多くの単位の熱型赤外センサ素子をアレイ化した熱型赤外センサ素子アレイの平面図である。ここでは、説明を簡単にするために12個(4単位)の熱型赤外センサ素子からなる熱型赤外センサ素子アレイを示しているが、配置される熱型赤外センサ素子の個数に制限は無い。また、1単位の熱型赤外センサ素子の並べ方は、図10に示すような三角形の配置でなくても良い。
【0055】
これらの熱型赤外センサ素子アレイは、外部の走査回路(図示せず)等により各行、各列の熱型赤外センサ素子を選択して、各素子が検出した情報を時系列に取り出す方式としてもよく、または、並列に読み出す方式としてもよい。
【0056】
このように、熱型赤外センサ素子をアレイ状に並べて、一定の面内で複数の波長を選択的に検出することにより、画像を検出する熱画像イメージャとして用いることが可能となる。また、複数の波長を選択的に吸収することで、実施の形態4の場合より詳しい画像が得られる。
【0057】
実施の形態6.
図11に、本発明の実施の形態6にかかる熱型赤外センサ素子の温度検知部4の断面図を示す。温度検知部4は、温度検知部4は検知膜5と薄膜金属配線6を含む。検知膜5は、例えばダイオードであり、シリコンからなる。薄膜金属配線6は、例えば厚みが100nmのチタン合金の膜からなる。検知膜5が出力した電気信号は、薄膜金属配線6を介して検出回路(図示せず)により取り出される。薄膜金属配線6と検知膜5の間の電気的接続は、必要に応じて上下方向に延在する導電体(図示せず)を介して行っても良い。
【0058】
温度検知部4は、赤外線を吸収する吸収膜16を、その上部に直接備えている。吸収膜16はAu、Agなどの金属からなり、材料は検出対象となる表面波に合わせて選択される。更に、吸収膜16には実施の形態1〜3で示したような、周期的な凹部が形成されており、構造により決定される表面プラズモンにより特定の波長の吸収が増加する。
【0059】
なお、温度検知部4以外の構造は、図2の熱型赤外センサ素子100と同じであり、温度検知部4は支持脚3で中空部2の上部に支持される。
【0060】
このような、吸収傘と一体形成された温度検知部4を有する熱型赤外センサ素子では、所望の赤外波長が共振して選択的に吸収量が増加するため、特定波長のみを選択的に検出可能となる。また、吸収傘を支持柱で支持する工程が不要となり、製造工程が簡略化され、より安価に製品を製造できる。
【0061】
なお、実施の形態4、5の熱型赤外センサ素子アレイに用いられる熱型赤外センサ素子として、本実施の形態6の熱型赤外センサ素子を用いても構わない。
【符号の説明】
【0062】
1 基板、2 中空部、3 支持脚、4 温度検知部、5 検知膜、6 薄膜金属配線、7 アルミニウム配線、8 反射膜、9 支持柱、10 吸収傘、11 凹部、12 絶縁膜、13 吸収傘A、14 吸収傘B、15 吸収傘C、16 吸収膜、100 熱型赤外センサ素子。
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体光素子および半導体光装置に関し、特に、熱型赤外センサ素子および熱型赤外センサ素子をアレイ状に配した半導体光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の熱型赤外センサ装置では、検出する赤外線の波長を選択する場合、熱型赤外センサ素子の前に、光学フィルタを装着していた。この光学フィルタには、多層膜光学フィルタの他、例えば、特許文献1に示すような、プラズモン共鳴を利用して選択的に所望の波長の光を透過させる光学フィルタや、構造体極近傍における電界増強を利用した光学フィルタが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−248382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、波長選択フィルタと熱型赤外センサを組み合わせた構造では、第1に、センサの他にフィルタが必要となり構造が複雑になる、第2に、どのようなフィルタを用いても必要な波長成分も部分的にカットされてしまい検出効率が低下する、第3に、光学フィルタは入射角度依存性が大きく、検出特性も入射角度に大きく依存する、第4に、複数の赤外域の波長を同時に検出するためには、センサ素子毎に構造の異なるフィルタを装着しなければならない、等の問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、フィルタ構造を用いずに所定の波長の光を選択的に検出できる半導体光素子および半導体光装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の形態は、温度検知部と、温度検知部に熱的に接続された吸収傘とを含み、吸収傘に入射した光を検出する半導体光素子であって、吸収傘が、特定波長の入射光を表面に結合させ表面プラズモンを励起するために表面にアレイ状に配置された凹部を有し、特定波長の入射光の吸収量を、特定波長以外の入射光の吸収量より大きくしたことを特徴とする半導体光素子である。
【0007】
本発明の他の形態は、温度検知部と、温度検知部の上に積層された吸収膜とを含み、吸収膜に入射した光を検出する半導体光素子であって、吸収膜が、特定波長を表面に結合させる表面プラズモンを誘起するように表面にアレイ状に配置された凹部を有し、特定波長の入射光の吸収量を、特定波長以外の入射光の吸収量より大きくしたことを特徴とする半導体光素子である。
【0008】
本発明の他の形態は、複数の半導体光素子をアレイ状に配置したことを特徴とする半導体光装置である。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明にかかる半導体光素子では、フィルタを用いることなく、特定波長の入射光を選択的に増強させることができ、検出感度を向上できるとともに、入射角への依存性も少なくできる。
【0010】
また、本発明にかかる半導体光装置では、異なる波長の入射光を同時に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる熱型赤外センサ素子の平面図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかる熱型赤外センサ素子の断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1にかかる熱型赤外センサ素子の吸収傘に設けた微細パターンの平面図である。
【図4】本発明の実施の形態1にかかる吸収傘の吸収特性を示す。
【図5】本発明の実施の形態2にかかる熱型赤外センサ素子の吸収傘に設けた微細パターンの平面図を示す。
【図6】本発明の実施の形態2にかかる吸収傘の吸収特性を示す。
【図7】本発明の実施の形態3にかかる熱型赤外センサ素子の吸収傘に設けた微細パターンの断面図である。
【図8】本発明の実施の形態4にかかる熱型赤外センサ素子アレイの平面図である。
【図9】本発明の実施の形態5にかかる熱型赤外センサ素子アレイの平面図である。
【図10】本発明の実施の形態5にかかる熱型赤外センサ素子アレイの平面図である。
【図11】本発明の実施の形態6にかかる熱型赤外センサ素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、全体が100で表される、本発明の実施の形態1にかかる熱型赤外センサ素子の上面図であり、図2は、図1のA−Aにおける熱型赤外センサ素子の断面図である。
【0013】
図1、2に示すように、熱型赤外センサ素子100は、例えばシリコンからなる基板1を含む。基板1には中空部2が設けられ、中空部2の上には、温度検知部4が支持脚3により支持されている。支持脚3は、ここでは2本であり、上方から見るとL字型に折れ曲がったブリッジ形状となっている。支持脚3は薄膜金属配線6とこれを支える誘電体膜を含んでいる。
【0014】
温度検知部4は、検知膜5と薄膜金属配線6を含む。検知膜5は、例えば結晶シリコンを用いたダイオードからなる。薄膜金属配線6は支持脚3にも設けられ、検知膜5とアルミニウム配線7とを電気的に接続している。薄膜金属配線6は例えば厚さ100nmのチタン合金からなる。検知膜5が出力した電気信号は、支持脚3に形成された薄膜金属配線6を経由してアルミニウム配線7に伝わり、検出回路(図示せず)により取り出される。薄膜金属配線6と検知膜5の間、および薄膜金属配線6とアルミニウム配線7との間の電気的接続は、必要に応じて上下方向に延在する導電体(図示せず)を介して行っても良い。
【0015】
赤外線を反射する反射膜8は、中空部2を覆うように配置されている。但し、反射膜8と温度検知部4は熱的に接続されない状態で、支持脚3の少なくとも一部の上方を覆うように配置されている。
【0016】
温度検知部4の上には、支持柱9が設けられ、その上に吸収傘10が支持されている。図1に示すように、熱型赤外センサ素子100は、上方から見ると吸収傘10のみが見える。吸収傘10は、例えばAu、Agなどの金属薄膜6からなり、膜厚は数nm程度から数百nm程度である。ここでは、吸収傘10は金属薄膜6の単層構造としたが、例えば100〜200nm程度の酸化シリコンなどの誘電体薄膜で金属薄膜6の上下を挟み込んだ3層構造や、誘電体薄膜の上に金属薄膜6を形成した2層構造を用いても良い。後述するように、表面プラズモンを利用する場合は、金属薄膜6としてAu、Agを用いることが好ましい。
【0017】
吸収傘10には、アレイ状に凹部11が設けられている。凹部11は等間隔に配置され、その周期(ピッチ)は検出したい赤外線の波長(特定波長)と同程度である。また、凹部11の深さは、例えば、検出したい波長である特定波長の4分の1程度が好ましい。
【0018】
例えば、検出したい特定波長が1000nmの場合、凹部11の形状は、一辺が500nmの正方形(平面)で、深さは250nm、凹部の間隔は500nmとするのが好ましい。この場合、凹部11の周期(ピッチ)は特定波長と同じ1000nmとなる。
【0019】
吸収傘10の膜厚は、吸収、熱時定数、材料の応力等を考慮して適宜決められる。図2から分かるように、吸収傘10は温度検知部4の上に支持柱9で接続されており、即ち、吸収傘10と温度検知部4は熱的に接続されている。一方、吸収傘10は、反射膜8とは熱的に接続されない状態で、反射膜8より上方に保持され、反射膜8の少なくとも一部を覆い隠すように側方に板状に広がっている。
【0020】
かかる熱型赤外センサ素子100では、入射した赤外線は主に吸収傘10で吸収される。一方、吸収傘10を透過した赤外線は、反射膜8で反射されて吸収傘10に裏面から入射して吸収される。吸収傘10に吸収された赤外線は熱に変換され、支持柱9を通って温度検知部4に伝わる。温度検知部4では、検知膜5の電気抵抗が温度により変化するため、外部に設けた検出回路(図示せず)でこれを検出することにより、赤外線の量を検出する。ここでは反射膜8を設けた構造を示したが、反射膜8は無くても良い。
【0021】
次に、吸収傘10の表面プラズモンについて説明する。自由電荷の集団振動が電磁波と結合した系はプラズモンポラリトンと呼ばれる(但し、本実施の形態では特に区別する場合を除き、表面プラズモンと呼ぶ)。表面(または境界面)では、固体中でのプラズモンとは状況が異なり、表面での境界条件を満たす別の集団振動が存在することになる。
電磁波で表面プラズモンを励起するためには、電磁波の位相速度が表面プラズモンの位相速度と一致しなければならない。この時、電磁波が境界面で全反射する時に発生するエバネッセント波が用いられる。
【0022】
例えば、媒質1(位相速度:β1、誘電率:ε1)と媒質2(位相速度:β2、誘電率:ε2)に挟まれた境界面を考える(媒質1が物質で、媒質2が真空の場合、この境界面が物質表面に相当する)。この境界面において表面プラズモンモードが存在し得る条件は、以下の式(1)のようになる。
【0023】
【数1】
【0024】
つまり、ε1とε2が逆符号であること、即ち一方が正、他方が負の誘電率をもつことである。
【0025】
一般に、金属のように自由電荷を持つ物質は、プラズマ周波数以下の周波数領域で誘電率が負である。よって金属と誘電体(空気、真空を含む)の境界面においては、上記式1を満たす表面波が存在できる。また、表面プラズモンの伝搬方向に垂直で、境界面上の波数をkspとすると、表面プラズモンの分散関係は、以下の式2のようになる。
【0026】
【数2】
【0027】
但し、ωは周波数、cは真空の光速である。
【0028】
即ち、式2が、誘電体と金属の間に表面プラズモンを励起するための共鳴条件となる。
【0029】
一般に表面プラズモンは式2の分散関係をもつ。この条件を満たす場合に、表面に強く局在する表面プラズモンが励起されるとともに、このような表面波の形成は強い波長依存性を有する。また、式2は通常のライトラインより下側になるため、エバネッセント波を用いて表面プラズモンを励起させる必要があり、入射角度依存性を強くもつ。
【0030】
しかし、表面に周期的な構造、(例えば、図1に示す凹部11)を設けると、通常の入射光で表面プラズモンが励起できる。つまり、表面プラズモンの波数ベクトルを
入射光の波数ベクトルを
逆格子ベクトルを
とすると、
【0031】
【数3】
【0032】
となる。例えば、1次元の周期構造の場合、表面プラズモンの波数をksp、入射光の波数をk0、入射角をθ、構造の周期をd、mを整数とすると、以下の式4のような関係が成立する。
【0033】
【数4】
【0034】
式3、4から明らかなように、周期構造により、波数のミスマッチが克服され、通常の入射光において表面プラズモンが励起され、表面に結合することが分かる。表面に結合した光は結果的に吸収されることになるので、共鳴波長において吸収が増加する。
【0035】
ここで、近赤外域より長い波長域である、中赤外波長域、遠赤外波長域、テラヘルツの波長域においても、表面に周期的な凹凸を形成することで疑似表面プラズモンとよばれる表面に強く局在するモードを形成することができる。これは、自由電子の集団振動である本来の表面プラズモンとは異なるが、分散関係、つまり入射光を表面に結合させる効果は相似である。同様に、一部メタマテリアルと呼ばれる効果も同じことを意味する。
【0036】
この波長域では、金属がほぼ完全導体となる。しかし、例えば、図3のような形状で、a、b、cが波長に対して十分に小さい場合は、有効媒質近似が適用できる。つまり、波長に対して十分無視できるほど小さな周期的凹凸内部に、入射電磁波が存在することになるため、完全導体(金属)中に電磁波が浸透しているのと等価と見なすことができる。このため、分散関係も式2で表される表面プラズモンと同じ関係を等価的に形成できる。このように、構造パラメータであるa、b、cにより分散関係を決定することができる。
【0037】
このように、表面プラズモン、表面プラズモンポラリトン、表面プラズモン共鳴、擬似表面プラズモン、メタマテリアルとそれぞれ文言は異なるが、導体(金属)と誘電体の界面に周期的凹凸により入射光を強く結合させ、吸収波長を制御するという本発明の観点からは同じ内容である。
なお、以下の記載や特許請求の範囲の記載では、これらの文言を特に区別せず、単に「表面プラズモン」または「表面結合波」と呼ぶこととする。
【0038】
また、以下の解析例は、近赤外域付近を吸収対象としているが、既に述べたように可視域、あるいは近赤外域よりも大きな波長に対しても有効に適用できる。
【0039】
次に、板状の吸収傘10に、周期的な凹部11を設けた構造について説明する。この凹部11の大きさ、周期、深さに応じた波長で、入射電磁波が吸収傘10の構造と結合し、表面に強く局在する表面プラズモンモードが励起される。
【0040】
図3は、実施の形態1にかかる熱型赤外センサ素子100の吸収傘10に設けた微細パターン(凹部11)の平面図である。図3では、凹部11の配列を3行3列(3×3)で示してあるが、任意の配列に形成することができる。a、bは凹部の縦、横の長さ、cは凹部の間隔である(縦方向、横方向とも間隔はcである)。図3では、横方向の周期は(a+c)であり、縦方向の周期は(b+c)である。
【0041】
図4は、a=b=c、吸収傘10の材料がAu、凹部の深さ100nmの条件で、厳密結合波解析法によって垂直入射波に対する吸収を求めた吸収傘の吸収特性である。図4において、横軸は波長、縦軸は吸収量を示す。実線はa=b=c=0.5μmの場合、長い破線はa=b=c=1.0μmの場合、短い破線はa=b=c=1.5μmの場合である
【0042】
図4から、凹部11の大きさ、形状によって吸収のピーク波長を制御できることがわかる。例えば、実線(0.5μm)では、パターン周期は1.0μm(a+c)であり、吸収のピーク波長は約1μmである。また、長い方の点線(1.0μm)では、パターン周期は2.0μm(a+c)であり、吸収のピーク波長は約1.5μm、約2μmである。また、短い方の点線(1.5μm)では、パターン周期は3.0μm(a+c)であり、吸収のピーク波長は約2μm、約3μmである。
【0043】
また、凹部11を深くすることで吸収は大きくなる傾向にある。ここでは簡単のためAu単層の薄膜を用いた簡単な2次元周期パターンを用いて説明したが、Agのような他の材料、あるいは誘電体層に挟まれたような多層構造でも、パターン形状を制御することによって同様の効果が得られる。また、凹部11の形状、周期を調整することにより、吸収波長ピークも調整できる。
【0044】
なお、図2の構造では、周期的な凹部11が吸収傘10の上面のみ、つまり電磁波の入射面のみに設けているが、反射膜8により反射される光を吸収するために、吸収傘10の裏面にも設けても良い。この場合、表面プラズモンは、吸収傘10の裏面においても同様に発生する。
【0045】
このように、本実施の形態1にかかる熱型赤外センサ素子100では、周期的に配置された凹部11を有する吸収傘10を用いることにより、特定波長の赤外線を共振させ、その波長のみを選択的に吸収することが可能となり、従来のようなバンドパスフィルタを用いる必要がなくなり、効率的な検出が可能となる。また、バンドパスフィルタが不要となるため、センサモジュールとしての光学系が小型、簡略化できる。更には、検出特性の入射角度依存性が殆ど無くなる。
【0046】
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2にかかる熱型赤外センサ素子の吸収傘に設けた微細パターン(凹部)を示す。凹部10は平面が円形であり、他は図3の構造と同じである。ここでは、a=bの真円としているが、aとbが異なる楕円でも良い。楕円の場合は、特定の偏光に対してのみ表面プラズモンが強調されるため、特定の偏光についてのみ検出を行う場合に利用できる。
【0047】
図6は、図5の構造を有する吸収傘の吸収特性であり、a=b=c、吸収傘の材料はAu、凹部11の深さは100nmとした。
【0048】
図6から、凹部11を円形とすることによって、吸収量と、吸収のピーク波長を変化させることが可能となることが分かる。例えば、実線(0.5μm)は、パターン周期が1.0μm(a+c)であり、吸収のピーク波長は約1μmである。一方、長い方の点線(1.0μm)では、パターン周期が2.0μm(a+c)であり、吸収のピーク波長は約2μmよりやや長波長側にシフトしている。このように、凹部11を円形とすることにより、吸収量、吸収ピーク数、吸収波長を変化させ、任意の波長の赤外線の検出が可能となる。
【0049】
実施の形態3.
図7は、本発明の実施の形態3にかかる熱型赤外センサ素子の吸収傘に設けた微細パターンの断面図である。実施の形態1、2では、凹部11の断面は矩形であったが(例えば、図2参照)、本実施の形態3では、角部の無い丸みを帯びた形状となっている。つまり、断面において、凹部11の最底面と最表面の、それぞれの頂点を結ぶ連続面(内壁)が曲面となっている。好ましくは、曲面がサイン(sin)カーブとなる。なお、吸収傘10を上方からから見た場合、凹部11は図1や図5のように矩形や円形となっている。
【0050】
本実施の形態にかかる吸収傘10では、凹部11の側面が曲面となっているため、より広い入射角の電磁波に対して表面プラズモンが生じる。また、吸収傘10では偏光依存性が小さくなるため、より広範な入射光を吸収できる。このため、高効率な熱変換が可能となり、赤外線の検出効率が高くなる。
【0051】
実施の形態4.
図8は、本発明の実施の形態4にかかる熱型赤外センサ素子アレイの平面図であり、図1に示す熱型赤外センサ素子100をアレイ状に配置したものである。ここでは、説明を簡単にするために2行2列の合計4個の熱型赤外センサ素子からなる熱型赤外センサ素子アレイを示しているが、配置される熱型赤外センサ素子の個数に制限は無い。これらの熱型赤外センサ素子アレイは、外部の走査回路(図示せず)等により各行、各列の熱型赤外センサ素子を選択して、各素子が検出した情報を時系列に取り出す方式としてもよい。また、並列に読み出す方式であってもよい。
【0052】
このように、熱型赤外センサ素子をアレイ状に並べて、一定の面内で特定の波長を選択的に検出することにより、画像を検出する熱画像イメージャとして用いることが可能となる。
【0053】
実施の形態5.
図9は、本発明の実施の形態5にかかる熱型赤外センサ素子アレイの平面図である。図9の熱型赤外センサ素子アレイでは、熱型赤外センサ素子の吸収傘10に形成したパターンがそれぞれ異なり、図6に示したa=b=c=0.5μm(吸収傘A13)、1.0μm(吸収傘B14)、1.5μm(吸収傘C15)のパターンをそれぞれ形成した3つの熱型赤外センサ素子を組み合わせた構造となっている。これらの熱型赤外センサ素子は、それぞれ異なる波長において強い吸収ピークを有している。
【0054】
図10は、これら3つの異なる熱型赤外センサ素子を1単位として、多くの単位の熱型赤外センサ素子をアレイ化した熱型赤外センサ素子アレイの平面図である。ここでは、説明を簡単にするために12個(4単位)の熱型赤外センサ素子からなる熱型赤外センサ素子アレイを示しているが、配置される熱型赤外センサ素子の個数に制限は無い。また、1単位の熱型赤外センサ素子の並べ方は、図10に示すような三角形の配置でなくても良い。
【0055】
これらの熱型赤外センサ素子アレイは、外部の走査回路(図示せず)等により各行、各列の熱型赤外センサ素子を選択して、各素子が検出した情報を時系列に取り出す方式としてもよく、または、並列に読み出す方式としてもよい。
【0056】
このように、熱型赤外センサ素子をアレイ状に並べて、一定の面内で複数の波長を選択的に検出することにより、画像を検出する熱画像イメージャとして用いることが可能となる。また、複数の波長を選択的に吸収することで、実施の形態4の場合より詳しい画像が得られる。
【0057】
実施の形態6.
図11に、本発明の実施の形態6にかかる熱型赤外センサ素子の温度検知部4の断面図を示す。温度検知部4は、温度検知部4は検知膜5と薄膜金属配線6を含む。検知膜5は、例えばダイオードであり、シリコンからなる。薄膜金属配線6は、例えば厚みが100nmのチタン合金の膜からなる。検知膜5が出力した電気信号は、薄膜金属配線6を介して検出回路(図示せず)により取り出される。薄膜金属配線6と検知膜5の間の電気的接続は、必要に応じて上下方向に延在する導電体(図示せず)を介して行っても良い。
【0058】
温度検知部4は、赤外線を吸収する吸収膜16を、その上部に直接備えている。吸収膜16はAu、Agなどの金属からなり、材料は検出対象となる表面波に合わせて選択される。更に、吸収膜16には実施の形態1〜3で示したような、周期的な凹部が形成されており、構造により決定される表面プラズモンにより特定の波長の吸収が増加する。
【0059】
なお、温度検知部4以外の構造は、図2の熱型赤外センサ素子100と同じであり、温度検知部4は支持脚3で中空部2の上部に支持される。
【0060】
このような、吸収傘と一体形成された温度検知部4を有する熱型赤外センサ素子では、所望の赤外波長が共振して選択的に吸収量が増加するため、特定波長のみを選択的に検出可能となる。また、吸収傘を支持柱で支持する工程が不要となり、製造工程が簡略化され、より安価に製品を製造できる。
【0061】
なお、実施の形態4、5の熱型赤外センサ素子アレイに用いられる熱型赤外センサ素子として、本実施の形態6の熱型赤外センサ素子を用いても構わない。
【符号の説明】
【0062】
1 基板、2 中空部、3 支持脚、4 温度検知部、5 検知膜、6 薄膜金属配線、7 アルミニウム配線、8 反射膜、9 支持柱、10 吸収傘、11 凹部、12 絶縁膜、13 吸収傘A、14 吸収傘B、15 吸収傘C、16 吸収膜、100 熱型赤外センサ素子。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度検知部と、該温度検知部に熱的に接続された吸収部とを含み、該吸収部に入射した光を検出する半導体光素子であって、
該吸収部が、特定波長を表面に結合させる表面プラズモンを誘起するように表面にアレイ状に配置された凹部および凸部を有し、該特定波長の入射光の吸収量を、該特定波長以外の入射光の吸収量より大きくしたことを特徴とする半導体光素子。
【請求項2】
温度検知部と、該温度検知部に熱的に接続された吸収部とを含み、該吸収部に入射した光を検出する半導体光素子であって、
該吸収部が、特定波長を表面に結合させる表面プラズモンを誘起するように表面にアレイ状に配置された凸部を有し、該特定波長の入射光の吸収量を、該特定波長以外の入射光の吸収量より大きくしたことを特徴とする半導体光素子。
【請求項3】
温度検知部と、該温度検知部の上に積層された吸収膜とを含み、該吸収膜に入射した光を検出する半導体光素子であって、
該吸収膜が、特定波長を表面に結合させる表面プラズモンを誘起するように表面にアレイ状に配置された凹部および凸部を有し、該特定波長の入射光の吸収量を、該特定波長以外の入射光の吸収量より大きくしたことを特徴とする半導体光素子。
【請求項4】
温度検知部と、該温度検知部の上に積層された吸収膜とを含み、該吸収膜に入射した光を検出する半導体光素子であって、
該吸収膜が、特定波長を表面に結合させる表面プラズモンを誘起するように表面にアレイ状に配置された凸部を有し、該特定波長の入射光の吸収量を、該特定波長以外の入射光の吸収量より大きくしたことを特徴とする半導体光素子。
【請求項5】
上記吸収部または上記吸収膜は、金属膜の単層構造、または金属膜と誘電体膜の多層構造であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の半導体光素子。
【請求項6】
上記吸収部または上記吸収膜の凸部は、平面が円形、楕円形、正方形、または長方形であり、断面が矩形であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の半導体光素子。
【請求項7】
上記吸収部または上記吸収膜の凸部の側壁は、曲面から形成されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の半導体光素子。
【請求項8】
上記吸収部または上記吸収膜の凹部および凸部は一定の周期で配置され、その周期は上記特定波長と同程度であることを特徴とする請求項1または3に記載の半導体光素子。
【請求項9】
上記吸収部または上記吸収膜の凸部は一定の周期で配置され、その周期は上記特定波長と同程度であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の半導体光素子。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載された複数の半導体光素子をアレイ状に配置したことを特徴とする半導体光装置。
【請求項11】
第1の特定波長の表面波を誘起する第1の半導体光素子と、該第1の特定波長とは異なる第2の特定波長の表面波を誘起する第2の半導体光素子とを、アレイ状に配置したことを特徴とする請求項10に記載の半導体光装置。
【請求項12】
上記第1の半導体光素子の凹部および凸部の周期あるいは形状と、上記第2の半導体光素子の凹部および凸部の周期あるいは形状とが、異なることを特徴とする請求項10または11に記載の半導体光装置。
【請求項13】
上記第1の半導体光素子の凸部の周期あるいは形状と、上記第2の半導体光素子の凸部の周期あるいは形状とが、異なることを特徴とする請求項10または11に記載の半導体光装置。
【請求項1】
温度検知部と、該温度検知部に熱的に接続された吸収部とを含み、該吸収部に入射した光を検出する半導体光素子であって、
該吸収部が、特定波長を表面に結合させる表面プラズモンを誘起するように表面にアレイ状に配置された凹部および凸部を有し、該特定波長の入射光の吸収量を、該特定波長以外の入射光の吸収量より大きくしたことを特徴とする半導体光素子。
【請求項2】
温度検知部と、該温度検知部に熱的に接続された吸収部とを含み、該吸収部に入射した光を検出する半導体光素子であって、
該吸収部が、特定波長を表面に結合させる表面プラズモンを誘起するように表面にアレイ状に配置された凸部を有し、該特定波長の入射光の吸収量を、該特定波長以外の入射光の吸収量より大きくしたことを特徴とする半導体光素子。
【請求項3】
温度検知部と、該温度検知部の上に積層された吸収膜とを含み、該吸収膜に入射した光を検出する半導体光素子であって、
該吸収膜が、特定波長を表面に結合させる表面プラズモンを誘起するように表面にアレイ状に配置された凹部および凸部を有し、該特定波長の入射光の吸収量を、該特定波長以外の入射光の吸収量より大きくしたことを特徴とする半導体光素子。
【請求項4】
温度検知部と、該温度検知部の上に積層された吸収膜とを含み、該吸収膜に入射した光を検出する半導体光素子であって、
該吸収膜が、特定波長を表面に結合させる表面プラズモンを誘起するように表面にアレイ状に配置された凸部を有し、該特定波長の入射光の吸収量を、該特定波長以外の入射光の吸収量より大きくしたことを特徴とする半導体光素子。
【請求項5】
上記吸収部または上記吸収膜は、金属膜の単層構造、または金属膜と誘電体膜の多層構造であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の半導体光素子。
【請求項6】
上記吸収部または上記吸収膜の凸部は、平面が円形、楕円形、正方形、または長方形であり、断面が矩形であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の半導体光素子。
【請求項7】
上記吸収部または上記吸収膜の凸部の側壁は、曲面から形成されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の半導体光素子。
【請求項8】
上記吸収部または上記吸収膜の凹部および凸部は一定の周期で配置され、その周期は上記特定波長と同程度であることを特徴とする請求項1または3に記載の半導体光素子。
【請求項9】
上記吸収部または上記吸収膜の凸部は一定の周期で配置され、その周期は上記特定波長と同程度であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の半導体光素子。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載された複数の半導体光素子をアレイ状に配置したことを特徴とする半導体光装置。
【請求項11】
第1の特定波長の表面波を誘起する第1の半導体光素子と、該第1の特定波長とは異なる第2の特定波長の表面波を誘起する第2の半導体光素子とを、アレイ状に配置したことを特徴とする請求項10に記載の半導体光装置。
【請求項12】
上記第1の半導体光素子の凹部および凸部の周期あるいは形状と、上記第2の半導体光素子の凹部および凸部の周期あるいは形状とが、異なることを特徴とする請求項10または11に記載の半導体光装置。
【請求項13】
上記第1の半導体光素子の凸部の周期あるいは形状と、上記第2の半導体光素子の凸部の周期あるいは形状とが、異なることを特徴とする請求項10または11に記載の半導体光装置。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図7】
【図11】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図7】
【図11】
【公開番号】特開2012−177696(P2012−177696A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−72664(P2012−72664)
【出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【分割の表示】特願2009−250247(P2009−250247)の分割
【原出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【分割の表示】特願2009−250247(P2009−250247)の分割
【原出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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