説明

半導体制御整流素子を有する電源回路及びこれを用いた電源装置

【課題】追加回路を省略して簡易かつ低コストに構成できる突入電流防止回路を提供する。

【解決手段】半導体基体と、該半導体基体の一方の主面上に設けられた第1の主電極及びゲート電極と、前記半導体基体の他方の主面に設けられた第2の主電極とを備えた逆阻止3端子サイリスタと抵抗素子とを並列接続して成る突入電流防止回路であって、
前記逆阻止3端子サイリスタは、
第1の導電型の第1の半導体領域と、
前記第1の半導体領域の一方の主面に露出する部分を有し且つ第2の導電型を有している第2の半導体領域と、
前記第1の半導体領域の一方の主面に露出する部分を有し且つ第1の導電型を有している第5の半導体領域とから成る前記半導体基体を備え、
前記第1の主電極は前記第2の半導体領域のみに接続され、
前記ゲート電極は前記第5の半導体領域及び前記第2の半導体領域に接続されることを特徴とする突入電流防止回路。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆阻止3端子サイリスタ即ち半導体制御整流素子(SCR)を有する電源回路及びこれを用いた電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体制御整流素子(SCR)は例えば特開2000−294766号公報(特許文献1)等で公知である。従来の代表的な半導体制御整流素子(SCR)は、図4に示すように半導体基体(半導体基板)1’と、カソード電極T1’と,アノード電極T2’と、ゲ−ト電極Gとを備えている。半導体基体1’は、第1及び第2のN型半導体領域N1,N2と、第1及び第2のP型半導体領域P1,P2とから成る。半導体基体1’の第1のN型半導体領域N1は、N型ベース領域と呼ぶこともできる領域であって、半導体基体1’の厚み方向の中央に配置され、比較的厚く且つ最も低い不純物濃度を有している。第1のP型半導体領域P1は、P型ベース領域と呼ぶこともできる領域であって、半導体基体1’の一方の主面2と第1のN型半導体領域N1との間に配置され且つ第1のN型半導体領域N1に隣接し且つその一部が半導体基体1’の一方の主面2に露出している。第2のN型半導体領域N2は、N型エミッタ領域と呼ぶこともできる領域であって、第1のP型半導体領域P1の中にN型不純物を選択的に拡散することによって島状に形成した領域であり、半導体基体1’の一方の主面2に露出している。第2のP型半導体領域P2は、P型エミッタ領域と呼ぶこともできる領域であって、第1のN形型半導体領域N1に隣接配置され且つ半導体基体1’の他方の主面3と第1のN型半導体領域N1との間に配置され且つ半導体基体1’の他方の主面3に露出している。カソード電極T1’は第2のN型半導体領域N2と第1のP型半導体領域P1とに接続されている。アノード電極T2’は第2のP型半導体領域P2に接続されている。ゲート電極Gは第1のP型半導体領域P1に接続されている。
【0003】
図4の半導体制御整流素子をターンオンさせる時には、アノード電極T2’の電位がカソード電極T1’よりも高い期間に、ゲート電極Gの電位をカソード電極T1’よりも高くする。これにより、ゲート電極Gからカソード電極T1’に向って電流が流れ、この電流が第2のN型半導体領域N2の下の第1のP型半導体領域P1を通って流れ、第1のP型半導体領域P1に電圧降下が生じ、この電圧降下が第2のN型半導体領域N2と第1のP型半導体領域P1との間のPN接合のしきい値電圧よりも高くなると、第2のN型半導体領域N2から第1のP型半導体領域P1への電子の注入が開始し、半導体制御整流素子はオン状態に移行する。
半導体制御整流素子には、dv/dt誤動作の問題がある。次に、図4の半導体制御整流素子のdv/dt誤動作を説明する。図4の半導体制御整流素子のカソード電極T1’を基準にしてアノード電極T2’が正電位になると、第1のN型半導体領域N1と第1のP型半導体領域P1との間のPN接合が逆バイアス状態になり、PN接合から正孔及び電子が排出され、PN接合近傍に空乏層が形成される。この空乏層の形成に基づいて生じた正孔はカソード電極T1’に引き抜かれ、電子はアノード電極T2’に引き抜かれる。空乏層が形成される時の正孔の多くは、第1のP型半導体領域P1を通って横方向に流れる。この正孔の流れはゲート電極Gにトリガ信号を印加した時と同じである。もし、カソード電極T1’とアノード電極T2’との間に印加する電圧の立ち上がりが遅ければ、即ちdv/dtが小さい場合には、単位時間当たりに排出されるキャリア(正孔)が少なく、第1のP型半導体領域P1と第2のN型半導体領域N2との間のPN接合が順バイアス状態にならない。これに対し、カソード電極T1’とアノード電極T2’との間に印加する電圧の立ち上がりが速く、即ちdv/dtが大きい場合には、単位時間当たりに排出されるキャリア(正孔)が多くなり、トリガ信号を印加した時と同じように第1のP型半導体領域P1と第2のN型半導体領域N2との間のPN接合が順バイアスとなり、第2のN型半導体領域N2から電子が第1のP型半導体領域P1に注入され、半導体制御整流素子が誤ってオン状態になる。
【0004】
ところで、正孔のカソード電極T1’への引き抜きは第1の主電極T1の第1のP型半導体領域P1に対する接触面積が大きいほど良好である。即ち、カソード電極T1’の第1のP型半導体領域P1に対する接触面積が大きいと、第1のP型半導体領域P1における正孔濃度の上昇を抑えることができ、dv/dtによる半導体制御整流素子の誤ったオン状態を防ぐことができる。しかし、図4の従来の半導体制御整流素子では、半導体基体1’の一方の主面にはゲート電極Gが配置され且つ第2のN型半導体領域N2を小さくすると、ゲートトリガ感度が小さくなってしまうので、第2のN型半導体領域N2の幅を狭くすることができず、その結果、カソード電極T1’の第1のP型半導体領域P1に対する接触面積が制限され、dv/dt誤動作耐量をさほど大きくすることができなかった。
【0005】
また、半導体制御整流素子に対して、カソード電極T1’の電位を基準にしてアノード電極T2’及びゲート電極Gを負電位にしてターンオンさせることができる半導体制御整流素子が要求されることがある。図4のPゲート型半導体制御整流素子は上記要求に応えることができない。もし、図4の各半導体領域の導電型を逆にしてNゲート型半導体制御整流素子を構成すると、上記要求に応えることができる。しかし、Nゲート型半導体制御整流素子に対してもdv/dt誤動作耐量の向上が要求されている。
【0006】
半導体制御整流素子は、電源装置の突入電流防止回路に用いることができる。一例として、突入電流防止回路を用いたコンデンサインプット型の平滑回路について説明する。
【0007】
図6は、従来の突入電流防止回路を設けた平滑回路の構成を示す図である。従来の突入電流防止回路を設けた平滑回路は、交流電源Vacの両端にダイオードブリッジDBの入力端が接続され、ダイオードブリッジDBの一方の出力端にサイリスタSCR1のアノード電極T2’と抵抗R1の一端とが接続され、サイリスタSCR1のカソード電極T1’及び抵抗R1の他端とダイオードブリッジDBの他方の出力端との間に平滑コンデンサC1が接続される。サイリスタSCR1と抵抗R1との並列回路が突入電流防止回路を構成する。さらに、サイリスタSCR1のゲート電極Gとカソード電極T1’との間に制御回路CNTと抵抗R2及びコンデンサC2を並列接続したフィルタ回路とが接続される。
【0008】
従来の突入電流防止回路を設けた平滑回路において、電源投入直後は、サイリスタSCR1がオフ状態であるため、Vac→DB→R1→C1→DB→Vacという経路で突入電流が流れ、抵抗R1が突入電流を低減する。その後、平滑コンデンサC1が充電されると、サイリスタSCR1がターンオンするため、Vac→DB→SCR1→C1→DB→Vacという経路で電流が流れるようになる。
【0009】
ところで、半導体制御整流素子には上述したようにdv/dt誤動作耐量の問題があるため、誤動作を防止するためにフィルタ回路を追加しなければならず、平滑回路の構成が複雑かつ高コストになるという問題点があった。このような問題は、平滑回路に限らず突入電流防止回路を有する電源装置において起こりうるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−294766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、簡易かつ低コストに構成できる電源装置が要求されていることであり、本発明の目的は、追加回路を省略してこの要求に応えることができる突入電流防止回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決し上記目的を達成するために、本発明に係わる突入電流防止回路は、半導体基体(1)と、該半導体基体(1)の一方の主面(2)上に設けられた第1の主電極(T1)及びゲート電極(G)と、前記半導体基体(1)の他方の主面(3)に設けられた第2の主電極(T2)とを備えた逆阻止3端子サイリスタと抵抗素子とを並列接続して成る突入電流防止回路であって、
前記逆阻止3端子サイリスタは、
第1の導電型の第1の半導体領域(N1)と、
前記第1の半導体領域(N1)の一方の主面側に隣接配置され且つ前記半導体基体(1)の前記一方の主面(2)に露出する部分を有し且つ前記第1導電型と反対の第2の導電型を有している第2の半導体領域(P1)と、
前記第2の半導体領域(P1)と前記半導体基体(1)の前記一方の主面(2)との間に配置され且つ前記第1の半導体領域(N1)の前記一方の主面(2)に露出する部分を有し且つ第1の導電型を有している第5の半導体領域(N3)とから成る前記半導体基体(1)を備え、
前記第1の主電極(T1)は前記第2の半導体領域(P1)のみに接続され、
前記ゲート電極(G)は前記第5の半導体領域(N3)及び前記第2の半導体領域(P1)に接続されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に従う突入電流防止回路によれば、追加回路を省略できる突入電流防止回路を提供し、簡易且つ低コストに構成できる電源装置を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に従う実施例1のサイリスタを示す平面図である。
【図2】図1の半導体基体の底面図である。
【図3】図1のA−A線に相当する部分を示す断面図である。
【図4】従来のサイリスタを示す断面図である。。
【図5】本発明に従う実施例2の平滑回路の構成を示す図である。
【図6】従来の平滑回路の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、図1〜図3及び図5を参照して本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0016】
図1〜図3に示す本発明の実施例1に従う半導体制御整流素子(SCR)即ち逆阻止3端子サイリスタ(以下、単にサイリスタと呼ぶ。)は、図3に示すように例えばシリコンから成る半導体基体1と、第1の主電極(アノード電極)T1と,第2の主電極(カソード電極)T2と、ゲ−ト電極Gとを備えている。図1〜図3に示す本発明の実施例1に従うサイリスタは、第2のN型半導体領域N2が半導体基体(半導体基板)1の他方の主面3に露出するように配置されている点で図4の従来のサイリスタと相違している。
【0017】
図3に示す半導体基体1は、第1、第2及び第3のN型半導体領域N1,N2,N3と、第1及び第2のP型半導体領域P1,P2とから成る。本願の請求項における第1〜第5の半導体領域と図1〜図3の実施例1の第1、第2及び第3のN型半導体領域N1,N2,N3並びに第1及び第2のP型半導体領域P1,P2との対応関係は次の通りである。第1の半導体領域は第1のN型半導体領域N1、第2の半導体領域は第1のP型半導体領域P1、第3の半導体領域は第2のP型半導体領域P2、第4の半導体領域は第2のN型半導体領域N2、第5の半導体領域は第3のN型半導体領域N3に対応している。
【0018】
半導体基体1の第1導電型の第1の半導体領域として第1のN型半導体領域N1は、N型ベース領域と呼ぶこともできる領域であって、半導体基体1の厚み方向の中央に配置され且つ領域N1〜N3及びP1,P2の中で最も低い不純物濃度を有している。第1のN型半導体領域N1は領域N1〜N3及びP1、P2の中で最も厚く形成されていることが望ましい。


【0019】
第1のP型半導体領域P1は、P型エミッタ領域と呼ぶこともできる領域であって、半導体基体1の一方の主面2と第1のN型半導体領域N1との間に配置され且つ第1のN型半導体領域N1に隣接し且つその大部分が半導体基体1の一方の主面2に露出している。第1のP型半導体領域P1と第1のN型半導体領域N1との間のPN接合は半導体基体1の一方の主面2に平行に伸びている。なお、第1のP型半導体領域P1は第1のN型半導体領域N1にP型不純物を拡散することによって形成されている。
【0020】
第2のP型半導体領域P2は、P型ベース領域と呼ぶこともできる領域であって、第1のN形型半導体領域N1に隣接配置され且つ半導体基体1の他方の主面3と第1のN型半導体領域N1との間に配置され且つその一部が半導体基体1の他方の主面3に露出している。第2のP型半導体領域P2と第1のN型半導体領域N1との間のPN接合は半導体基体1の他方の主面3に平行に伸びている。なお、第2のP型半導体領域P2は第1のN型半導体領域N1にP型不純物を拡散することによって形成されている。
【0021】
第2のN型半導体領域N2は、N型主エミッタ領域と呼ぶこともできる領域であって、第2のP型半導体領域P2の中にN型不純物を選択的に拡散することによって島状に形成した領域であり、第2のP型半導体領域P2に隣接し且つ図2に示すように半導体基体1の他方の主面3の大部分に露出している。本発明に従う第2のN型半導体領域N2は、半導体基体1の他方の主面3側に配置されており、図4の第2のN型半導体領域N2の配置と異なる。
【0022】
第3のN型半導体領域N3は、補助サイリスタのN型エミッタ領域と呼ぶこともできる領域であって、第1のP型半導体領域P1の中にN型不純物を選択的に拡散することによって形成した領域であって、横方向に延びる部分と縦方向に延びる部分とを有し、第1のP型半導体領域P1に隣接し、且つ半導体基体1の一方の主面2に露出している。この第3のN型半導体領域N3は、第2のN型半導体領域N2よりも大幅に小さい面積に形成され、図1から明らかなように平面的に見て四角形の一つの角の近傍に配置され、且つ点線で示す第2のN型半導体領域N2の中に配置されている。なお、第3のN型半導体領域N3の一部が平面的に見て第2のN型半導体領域N2の外にはみ出ていても差し支えない。また、第3のN型半導体領域N3の平面形状をコ字状に変形することもできる。
【0023】
金属から成る第1の主電極T1はアノード電極として機能するものであり、図1及び図3に示すように半導体基体1の一方の主面2の大部分に配置され、第1のP型半導体領域P1のみに接続されている。金属から成る第2の主電極T2はカソード電極として機能するものであり、図3に示すように半導体基体1の他方の主面3の全体又はほぼ全体に配置され、第2のP型半導体領域P2及び第2のN型半導体領域N2に接続されている。
【0024】
ゲート電極Gは図1及び図3に示すように半導体基体1の一方の主面2に配置され、第1のP型半導体領域P1及び第3のN型半導体領域N3に接続されている。更に詳しくは、ゲート電極Gの第1のP型半導体領域P1に対する接続位置は、平面的に見てゲート電極Gと第1の主電極T1との間に第3のN型半導体領域N3が位置するように決定され、且つ第1の主電極T1とゲート電極Gとの最短距離が第1の主電極T1と第3のN型半導体領域N3との最短距離よりも長くなるようにゲート電極Gが配置されている。このため、第1の主電極T1とゲート電極Gとの間を流れるゲートトリガ電流IGTは第1のP型半導体領域P1における第1のN型半導体領域N1と第3のN型半導体領域N3との間の部分、即ち、第3のN型半導体領域N3の下を通る。
【0025】
図3の実施例1のサイリスタにおいて、第1の主電極T1を基準にして第2の主電極T2を負電位とすると共にゲート電極Gを負電位にすると、サイリスタはターンオンする。なお、第1の主電極T1と第2の主電極T2との間の電圧は、第1の主電極T1とゲート電極Gとの間の電圧よりも高く設定される。次にサイリスタのターンオン動作を詳しく説明する。
(1)第1の主電極T1、第2の主電極T2、及びゲート電極Gの電位を上記のように設定すると、先ず第1の主電極T1からゲート電極Gに向って正孔を多数キャリアとする電流からなるゲートトリガ電流IGTが流れる。このゲートトリガ電流IGTは第3のN型半導体領域N3の下の第1のP型半導体領域P1を通って流れる。
(2)これにより、第3のN型半導体領域N3の下の第1のP型半導体領域P1に電圧降下が生じ、第3のN半導体領域N3と第1のP型半導体領域P1との間のPN接合が順バイアス状態となり、第3のN型半導体領域N3から第1のP型半導体領域P1に電子が注入される。
(3)第1のP型半導体領域P1に注入された電子の一部が第1のN型半導体領域N1に入り、ここに電子が蓄積され、第1のN型半導体領域N1の電位が下がる。
(4)これにより、第1のN型半導体領域N1と第1のP型半導体領域P1との間のPN接合の順バイアス状態が強められ、第1のP型半導体領域P1から第1のN型半導体領域N1に正孔が流れ込む。この正孔は第1のN型半導体領域N1と第2のP型半導体領域P2とを通って第2の主電極T2に至る。この結果、第2のP型半導体領域P2に電圧降下が生じ、第2のN型半導体領域N2と第2のP型半導体領域P2との間のPN接合が順バイアス状態になり、第2のN型半導体領域N2から電子が第2のP型半導体領域P2に注入され、この電子が第1のN型半導体領域N1に入り込む。これにより、ゲート機構部分におけるN3,P1,N1,P2、N2で示されている5つの半導体領域(補助サイリスタ領域)が導通状態になる。
(5)第2のN型半導体領域N2から第2のP型半導体領域P2に注入された電子の一部は第1のN型半導体領域N1と第1のP型半導体領域P1とを通って第1の主電極T1に至る。換言すれば、ゲート機構部分(補助サイリスタ領域)の導通状態がP1,N1,P2、N3で示されている4つの半導体領域から成るサイリスタ部分に波及し、第1の主電極T1と第2の主電極T2との間がオン状態になる。
(6)サイリスタのオン状態は第1の主電極T1と第2の主電極T2との間の電流が保持電流よりも小さくなるまで保持される。
【0026】
図3の実施例1のサイリスタにおいても、dv/dtによる誤動作の問題がある。dv/dtによる誤動作を、第1の主電極T1と第2の主電極T2との間に、第1の主電極T1の電位が第2の主電極T2の電位よりも低い向きの電圧が印加された時と、第1の主電極T1の電位が第2の主電極T2の電位よりも高い向きの電圧が印加された時とに分けて説明する。
【0027】
先ず、オフ期間において、第1の主電極T1の電位が第2の主電極T2の電位よりも低い向きの電圧がサイリスタに印加された時には、第1のN型半導体領域N1と第1のP型半導体領域P1との間のPN接合が逆バイアス状態になり、PN接合から正孔及び電子が排出され、PN接合近傍に空乏層が形成される。この空乏層の形成に基づいて生じた正孔は第1の主電極T1に引き抜かれ、電子は第2の主電極T2に引き抜かれる。正孔の第1の主電極T1への引き抜きは第1の主電極T1と第1のP型半導体領域P1との間の接触面積が大きいほど良好である。半導体基体1の一方の主面2の大部分に第1のP型半導体領域P1が露出し、第1のP型半導体領域P1に対する第1の主電極T1の接触面積は図4の従来のサイリスタのそれよりも大きいので、図3の本発明に従うサイリスタにおける正孔の第1の主電極T1への引き抜きは、図4の従来のサイリスタにおける正孔の第1の主電極T1への引き抜きよりも迅速且つ円滑に行われる。更に第3のN型半導体領域N3は第2のN型半導体領域N2よりも大幅に小さい面積で形成されているため、ゲート機構部分を構成している第3のN型半導体領域N3の下の第1のP型半導体領域P1を流れる正孔による電圧降下が小さい。この結果、オフ期間に第3のN型半導体領域N3と第1のP型半導体領域P1の間のPN接合が順バイアス状態にならず、サイリスタが誤ってオン状態にならない。これは、第1の主電極T1の電位が第2の主電極T2の電位よりも低い向きの電圧(逆方向電圧)がサイリスタに印加された時におけるdv/dt誤動作耐量が図4の従来のサイリスタの同様なdv/dt誤動作耐量よりも大きいことを意味する。
【0028】
次に、オフ期間において、第1の主電極T1の電位が第2の主電極T2の電位よりも高い向きの電圧(正方向電圧)がサイリスタに印加された時には、第1のN型半導体領域N1と第2のP型半導体領域P2との間のPN接合が逆バイアス状態になり、PN接合から正孔及び電子が排出され、PN接合近傍に空乏層が形成される。この空乏層の形成に基づいて生じた正孔は第2の主電極T2に引き抜かれ、電子は第1の主電極T1に引き抜かれる。正孔の第2の主電極T2への引き抜きは第2の主電極T2と第2のP型半導体領域P2との間の接触面積が大きいほど良好である。半導体基体1の他方の主面3には第2のN型半導体領域N2が配置されているので、第2の主電極T2と第2のP型半導体領域P2との間の接触面積の増大が制限されている。しかし、図3の本実施例では半導体基体1の他方の主面3にゲート電極Gが配置されないので、第2のP型半導体領域P2に対する第2の主電極T2の接触面積を比較的大きくすることができる。これにより、第1のN型半導体領域N1と第2のP型半導体領域P2との間のPN接合が逆バイアス状態になる電圧がサイリスタに印加された時に、第2のP型半導体領域P2と第2のN型半導体領域N2との間のPN接合が順バイアス状態になるような多量な正孔(単位面積当たり)が第2のP型半導体領域P2に流れない。従って、第1の主電極T1の電位が第2の主電極T2の電位よりも高い向きの電圧(正方向電圧)がサイリスタに印加された時のdv/dt誤動作耐量も比較的高い。
【0029】
なお、図3の第2のP型半導体領域P2と第2のN型半導体領域N2との間のPN接合が順バイアスされることによるサイリスタの誤動作は、従来例を示す図4の第1のP型半導体領域P1と第2のN型半導体領域N2との間のPN接合が順バイアスされることによるサイリスタの誤動作と対比して考察することができる。図4の場合には、半導体基板1’の一方の主面2にゲート電極Gが配置されているので、第1の主電極T1の第1のP型半導体領域P1に対する接触面積が制限される。これに対し、図3の場合には、半導体基板1の他方の主面3にゲート電極Gが配置されていないので、第2の主電極T2の第2のP型半導体領域P2に対する接触面積がゲート電極Gによって制限されず、図4の第1の主電極T1の第1のP型半導体領域P1に対する接触面積よりも大きくすることができる。このため、図3のサイリスタのdv/dt誤動作耐量は図4のそれよりも大きくなる。ちなみにこの時の図3のサイリスタのdv/dt誤動作耐量は、図4のそれよりも感度が同じ場合でも約5倍大きくなる。
【0030】
本実施例は上記dv/dt誤動作耐量を向上させる効果の他に、第1の主電極T1を基準にして第2の主電極T2及びゲート電極Gを負電位としてターンオンすることが可能なサイリスタを、N型半導体基板を使用して形成することができる。半導体基体1の中央に最も厚く且つ最も不純物濃度が小さい第1のN型半導体領域N1を配置したサイリスタは、実施例と導電型を逆にした従来のサイリスタ即ちP型半導体基板を使用したサイリスタよりも高速に動作することができる。即ち、第1のN型半導体領域N1は電子が少数キャリアとなるので、正孔が少数キャリアの場合よりもサイリスタの高速動作が可能になる。
【実施例2】
【0031】
図5に示す本発明の実施例2に従うサイリスタを有する突入電流防止回路を設けた平滑回路は、交流電源Vacの両端にダイオードブリッジDBの入力端が接続され、ダイオードブリッジDBの一方の出力端とサイリスタSCR2のアノード及び抵抗R2の一端との間に平滑コンデンサC1が接続され、サイリスタSCR2のカソード電極T2と抵抗R2の他端とはダイオードブリッジDBの他方の出力端に接続される。サイリスタSCR2と抵抗R1との並列回路が本発明に係る突入電流防止回路を構成する。さらに、サイリスタSCR2のゲート電極Gとアノード電極T1との間に制御回路CNTが接続される。
【0032】
本発明に係るサイリスタは、上述したように従来のサイリスタよりもdv/dt誤動作耐量が大きいという特徴を有するため、誤動作を防止するためのフィルタ回路が不要である。そのため、突入電流防止回路及びこれを用いた平滑回路を簡易かつ低コストに構成できる。
【0033】
本発明は上述の実施例に限定されるものでなく、例えば次の変形が可能なものである。
(1) 各半導体領域N1、N2、N3、P1、P2、及び第1及び第2の主電極T1,T2、ゲート電極Gのパタ−ンを任意に変形することができる。例えば、第1のP型半導体領域P1を第1のN型半導体領域N1の中に島状に形成することができる。また、第1のN型半導体領域N1を第2のP型半導体領域P2の中に島状に形成し、第2のP型半導体領域P2を半導体基体1の一方の主面2に露出させることができる。また、平面的に見て第3のN型半導体N3及びゲート電極Gを第1のP型半導体領域P1のほぼ中央に形成することもできる。
(2) 各半導体領域N1、N2、N3、P1、P2の導電型を実施例と逆にすることができる。
(3) 本発明に係る突入電流防止回路は、コンデンサインプット型の平滑回路に限定されるものではなく種々の電源装置に設けることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 半導体基体
T1 第1の主電極
T2 第2の主電極
G ゲート電極
N1 第1のN型半導体領域(第1の半導体領域)
P1 第1のP型半導体領域(第2の半導体領域)
P2 第2のP型半導体領域(第3の半導体領域)
N2 第2のN型半導体領域(第4の半導体領域)
N3 第3のN型半導体領域(第5の半導体領域)
Vac 交流電源
DB ダイオードブリッジ
SCR サイリスタ
R1、R2 抵抗
C1、C2 コンデンサ
CNT 制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基体と、該半導体基体の一方の主面上に設けられた第1の主電極及びゲート電極と、前記半導体基体の他方の主面に設けられた第2の主電極とを備えた逆阻止3端子サイリスタと抵抗素子とを並列接続して成る突入電流防止回路であって、
前記逆阻止3端子サイリスタは、
第1の導電型の第1の半導体領域と、
前記第1の半導体領域の一方の主面側に隣接配置され且つ前記半導体基体の前記一方の主面に露出する部分を有し且つ前記第1導電型と反対の第2の導電型を有している第2の半導体領域と、
前記第2の半導体領域と前記半導体基体の前記一方の主面との間に配置され且つ前記第1の半導体領域の前記一方の主面に露出する部分を有し且つ第1の導電型を有している第5の半導体領域とから成る前記半導体基体を備え、
前記第1の主電極は前記第2の半導体領域のみに接続され、
前記ゲート電極は前記第5の半導体領域及び前記第2の半導体領域に接続されることを特徴とする突入電流防止回路。
【請求項2】
前記ゲート電極が、前記第1の主電極と前記ゲート電極との間を流れる電流が前記第2の半導体領域における前記第1の半導体領域と前記第5の半導体領域との間の部分を通ることができる位置に配置されていることを特徴とする請求項1記載の突入電流防止回路。
【請求項3】
前記逆阻止3端子サイリスタが、前記第1の半導体領域の他方の主面側に隣接配置され且つ前記半導体基体の前記他方の主面に露出する部分を有し且つ第2の導電型を有している第3の半導体領域と、
前記第3の半導体領域と前記半導体基体の前記他方の主面との間に配置され且つ前記半導体基体の前記他方の主面に露出する部分を有し且つ第1の導電型を有している第4の半導体領域と、を有し、
前記第2の主電極は前記第3の半導体領域及び前記第4の半導体領域に接続されることを特徴とする請求項1又は2記載の突入電流防止回路。
【請求項4】
半導体基体と、該半導体基体の一方の主面上に設けられた第1の主電極及びゲート電極と、前記半導体基体の他方の主面に設けられた第2の主電極とを備えた逆阻止3端子サイリスタと抵抗素子とを並列接続して成る突入電流防止回路を備える電源装置であって、
前記逆阻止3端子サイリスタは、
第1の導電型の第1の半導体領域と、
前記第1の半導体領域の一方の主面側に隣接配置され且つ前記半導体基体の前記一方の主面に露出する部分を有し且つ前記第1導電型と反対の第2の導電型を有している第2の半導体領域と、
前記第2の半導体領域と前記半導体基体の前記一方の主面との間に配置され且つ前記第1の半導体領域の前記一方の主面に露出する部分を有し且つ第1の導電型を有している第5の半導体領域とから成る前記半導体基体を備え、
前記第1の主電極は前記第2の半導体領域のみに接続され、
前記ゲート電極は前記第5の半導体領域及び前記第2の半導体領域に接続されることを特徴とする電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−219096(P2010−219096A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60817(P2009−60817)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000106276)サンケン電気株式会社 (982)
【Fターム(参考)】