説明

半導体基板温度測定装置およびこれを含む半導体デバイス製造装置、並びに、半導体基板の温度測定方法および半導体デバイスの製造方法

【課題】半導体基板の温度を高精度かつ高い再現性で測定する。
【解決手段】本発明に係る半導体基板温度測定装置を含む半導体デバイス製造装置であるMBE装置20は、半導体基板の温度を測定する半導体基板温度測定装置において、基板2において散乱された散乱光のスペクトルに基づき、基板2の温度を算出する基板温度演算装置11を備え、基板温度演算装置11は、散乱光のスペクトル基づき算出した基板2の温度を、基板2のドーパント濃度に基づいて補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板温度測定装置およびこれを含む半導体デバイス製造装置、並びに、半導体基板の温度測定方法および半導体デバイスの製造方法に関し、詳細には、半導体基板の温度を、半導体基板のドーパント濃度に基づき補正する半導体基板温度測定装置およびこれを含む半導体デバイス製造装置、並びに、半導体基板の温度測定方法および半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザー、発光ダイオードに代表される半導体デバイスの製造における半導体結晶の形成方法として、エピタキシャル成長法が広く用いられている。エピタキシャル成長法は、半導体基板上に、半導体材料を結晶化させることにより薄膜を成長させる方法である。その中でも、分子線エピタキシャル成長(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、および、有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法が注目されている。上記の両方法によれば、極めて薄い結晶膜および複雑な多層構造膜を形成することが可能である。
【0003】
これらエピタキシャル成長法では、半導体基板の表面において結晶成長が行われる。結晶成長の際、上記半導体基板の表面温度は半導体材料原子の吸着および結晶化に大きな影響を与える。つまり、半導体基板の表面温度は、半導体結晶のエピタキシャル成長における重要な条件因子である。したがって、半導体基板の表面温度を正確に、再現性良く測定および制御するための半導体基板の温度測定方法は、結晶成長技術にとって不可欠である。
【0004】
従来、半導体基板の温度測定方法として種々の方法が開示されている。広く用いられている半導体基板の温度測定法として、(i)熱電対を用いる方法である熱電対法、(ii)赤外線を用いる方法である赤外線法を挙げることができる。
【0005】
MBE法、MOCVD法などの半導体基板上に半導体結晶を成長させる装置において、半導体基板の温度を測定するための熱電対法、赤外線法について図8、図9を用いて説明する。
【0006】
(i)熱電対法
図8は、従来の熱電対法に係る半導体結晶製造装置100の断面図を示している。半導体結晶製造装置100には、半導体基板を保持する基板保持装置101上に半導体基板102が備えられており、さらに、半導体基板102を加熱するための加熱ヒータ104が、半導体基板102の上方に設置されている。また、半導体基板102と加熱ヒータ104との間であり、半導体基板102の中心部分の上方には、半導体基板102の温度を測定するための熱電対103が設置されている。
【0007】
この熱電対103で測定された温度は、温度調節器114に伝えられる。温度調節器114は、測定された温度が予め設定された温度になるように、ヒータ電源装置115から加熱ヒータ104に供給される電力量を調節する。
【0008】
熱電対法の問題点は、測定される温度と、実際の半導体基板の表面の温度とに生じる誤差が大きいという点である。半導体基板に熱電対を接着させる方法もあるが、半導体基板が損傷する問題があり、半導体デバイスの製造には適用が困難である。
【0009】
(ii)赤外線法
図9は、従来の赤外線法に係る半導体結晶製造装置200の断面図を示している。半導体結晶製造装置200には、半導体基板を保持する基板保持装置201a上に半導体基板202が備えられており、さらに、半導体基板202を加熱するための加熱ヒータ204が、半導体基板202の上方に設置されている。半導体基板202の下方に示す矢印の方向には、真空容器201bの内部に観察窓であるビューポート208が備えられている。真空容器201bの外側には、放射温度計209が備えられており、ビューポート208を介して、半導体基板202から放射される赤外線放射量が測定される。このようにして測定された赤外線放射量を温度に換算することにより、半導体基板202の温度が測定される。
【0010】
赤外線法については、被処理体(半導体基板)ごとに抵抗値またはドーパント濃度が変化することによって、被処理体ごとの輻射率が変化し、輻射率の変化に起因して放射温度計の測定値と、実際の被処理体の温度との間に誤差が生じる。そのため、基板の正確な温度を測定することが困難である。この問題点を解決するために、例えば、特許文献1に基板温度の補正方法が開示されている。上記基板温度の補正方法は、放射温度計によって測定される基板の温度を、輻射率の変化に基づき補正する方法である。
【0011】
しかしながら、赤外線法の他の問題点としては、測定する赤外線の量を絶対量で測定するため、ビューポート208の汚れによって測定値に誤差が生じる点や、基板保持装置201a内の加熱源などから放射される光の影響を受ける問題点がある。赤外線法においては、この点が大きなデメリットである。
【0012】
上述した半導体基板温度の測定方法の問題点を解決する方法として、半導体基板の表面に光を照射し、半導体表面からの反射光または散乱光のスペクトルデータから半導体基板表面の温度を測定する方法が挙げられる。
【0013】
具体例として、特許文献2には、半導体基板表面に光を照射し、半導体基板の表面からの反射光強度を測定して反射スペクトルデータを求め、反射スペクトルデータから推定される半導体基板のバンドギャップと、予め蓄積された半導体基板材料のバンドギャップに関する温度依存性の既知データとを照合して、半導体基板表面の温度を求める基板表面温度の測定方法が開示されている。
【0014】
さらに、特許文献3には、半導体基板表面に光を照射し、その光の半導体基板表面における散乱光を測定してスペクトルデータを求め、この散乱光のスペクトルデータと半導体基板材料のバンドギャップに起因する吸収波長の温度特性に基づく既知データとを照合して、半導体基板表面の温度を求める温度測定方法が示されている。特許文献3の温度測定方法は、特許文献2より簡易な光学系であり、より高い精度の基板温度測定を実現することが可能である。
【0015】
特許文献2および3に開示された基板温度の測定方法では、共にスペクトル分析から得られる波長の値に基づき温度測定が行われる。そのため、ビューポートの汚れ、真空容器内の加熱装置などからの光などの外乱の影響を受けにくく、測定温度には誤差が生じにくいという利点がある。
【0016】
また、温度に敏感な半導体基板のバンドギャップの温度依存性データを使用するため、測定精度が高くなる。このため、上述した電対法および赤外線法よりも高精度で、再現性が高い基板温度測定を実現している。
【特許文献1】特開平9−246200号公報(平成9年9月19日公開)
【特許文献2】特開平2−212725号公報(平成2年8月23日公開)
【特許文献3】特開2006−189261号公報(平成18年7月20日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記従来の反射光または散乱光のスペクトル分析による半導体基板の温度測定方法では、正確な半導体基板の表面温度を測定することが困難であるという問題点を有している。
【0018】
具体的に説明すると、発明者らの調査により、従来の反射光または散乱光のスペクトル分析による半導体基板の温度測定方法では、輻射率の変化によって測定温度の誤差は生じないものの、半導体基板のドーパント濃度に依存して、測定される半導体基板温度において許容し難い誤差が生じることが確認された。
【0019】
一方、半導体デバイスの製造工程で使用される半導体基板は、1つの半導体結晶(インゴット)を所望のサイズに切り出して加工する方法、MBE法、MOCVD法などで一枚ずつ結晶成長させる方法などで製造されているが、半導体基板ごとのドーパント濃度は一定ではなく、ある程度のばらつきがあることが知られている。
【0020】
このため、半導体デバイスの量産製造工程などで結晶成長装置に導入される半導体基板のドーパント濃度が一定でないため、上述した基板温度測定において測定される半導体基板ごとに測定された半導体基板の温度に誤差が生じる。すなわち、温度測定の精度、再現性が共に悪化するために、高品質な半導体結晶を高い歩留りで製造することは困難となってしまう。
【0021】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、半導体基板の温度を高精度かつ高い再現性で測定することができる半導体基板温度測定装置およびこれを含む半導体デバイス製造装置、並びに、半導体基板の温度測定方法および半導体デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の半導体基板温度測定装置は、上記課題を解決するために、半導体基板の温度を測定する半導体基板温度測定装置において、半導体基板において散乱された散乱光のスペクトルに基づき、半導体基板の温度を算出する基板温度演算手段を備え、基板温度演算手段は、散乱光のスペクトル基づき算出した半導体基板の温度を、半導体基板のドーパント濃度に基づいて補正することを特徴としている。
【0023】
上記の発明によれば、散乱光のスペクトルに基づき算出された半導体基板の温度を、半導体基板のドーパント濃度に基づいて補正することができる。すなわち、半導体基板のドーパント濃度に起因する温度誤差の影響を軽減し、半導体基板の温度を高精度かつ高い再現性で測定することができる半導体基板温度測定装置を提供することができる。
【0024】
本発明の半導体基板温度測定装置は、基板温度演算手段が、予め測定された、半導体基板のドーパント濃度と、そのドーパント濃度の半導体基板において散乱された散乱光のスペクトルに基づき算出された半導体基板の温度との相関関係を蓄積したデータベース機構を備え、上記基板温度演算手段は、上記基板温度演算手段にて、散乱光のスペクトルに基づいて算出された半導体基板の温度を、上記データベース機構に蓄積された相関関係に基づいて補正することが好ましい。
【0025】
上記の発明によれば、予めデータベース機構に上記相関関係を蓄積することができ、上記相関関係に基づき半導体基板の温度を補正することができる。散乱光のスペクトルに基づいて算出された半導体基板の温度を、上記相関関係に基づき容易に補正することが可能となる。
【0026】
本発明の半導体基板温度測定装置は、上記半導体基板のドーパント濃度と半導体基板のドーパント濃度と、そのドーパント濃度の半導体基板において散乱された散乱光のスペクトルに基づき算出された半導体基板の温度とが、半導体基板の温度を測定する温度において予め測定されたことが好ましい。
【0027】
これにより、上記相関関係は、半導体基板の温度を測定する温度において予め測定された温度に係るものとなる。このため、散乱光のスペクトルに基づいて算出された半導体基板の温度を、上記相関関係に基づき、さらに正確に補正することが可能となる。
【0028】
本発明の半導体基板温度測定装置は、上記基板温度演算手段は、上記基板温度演算手段にて、散乱光のスペクトルに基づいて算出された半導体基板の温度を、上記データベース機構に蓄積された相関関係から算出した温度に一致させるように補正することが好ましい。
【0029】
上記基板温度演算手段は、散乱光のスペクトルに基づいて算出された半導体基板の温度を、相関関係から算出した温度に一致させるように補正するので、より一層正確に補正された半導体基板の温度を得ることができる。
【0030】
本発明の半導体デバイス製造装置は、半導体基板に半導体結晶を成長させることによって半導体デバイスを製造する半導体デバイス製造装置において、上記半導体基板温度測定装置を含むことが好ましい。
【0031】
上記半導体デバイス製造装置は上記半導体基板温度測定装置を含むため、半導体基板の温度を高精度で測定でき、半導体基板上において半導体結晶の成長に適した温度条件で半導体デバイスを製造できる半導体デバイス製造装置を提供することができる。
【0032】
本発明の半導体基板の温度測定方法は、上記課題を解決するために、半導体基板の温度を測定する半導体基板の温度測定方法において、半導体基板において散乱された散乱光のスペクトルに基づき、半導体基板の温度を算出する基板温度算出工程を含み、上記基板温度算出工程は、散乱光のスペクトル基づき算出した半導体基板の温度を、上記半導体基板のドーパント濃度に基づき補正することを特徴としている。
【0033】
上記の発明によれば、散乱光のスペクトルに基づき算出された半導体基板の温度を、半導体基板のドーパント濃度に基づいて補正することができる。すなわち、半導体基板のドーパント濃度に起因する温度誤差の影響を軽減し、半導体基板の温度を高精度かつ高い再現性で測定することができる半導体基板の温度測定方法を提供することができる。
【0034】
また、本発明の半導体デバイスの製造方法は、半導体基板に半導体結晶を成長させることによって半導体デバイスを製造する半導体デバイスの製造方法において、上記半導体基板の温度測定方法によって測定した温度に基づき、上記半導体基板を加熱することが好ましい。
【0035】
これにより、上記半導体基板の温度測定方法によって半導体基板の温度を高精度で測定できるので、半導体基板上において半導体結晶の成長に適した温度条件で半導体デバイスを製造することが可能である。
【発明の効果】
【0036】
本発明の半導体基板温度測定装置は、以上のように、基板温度演算手段が、散乱光のスペクトル基づき算出した半導体基板の温度を、半導体基板のドーパント濃度に基づいて補正するものである。
【0037】
それゆえ、散乱光のスペクトル基づき算出した半導体基板の温度を、上記半導体基板のドーパント濃度に基づいて補正するので、半導体基板の温度をより高精度かつ高い再現性で測定することができるという効果を奏する。
【0038】
また、本発明の半導体基板の温度測定方法は、半導体基板において散乱された散乱光のスペクトルに基づき、上記半導体基板の温度を算出する上記基板温度算出工程を含む半導体基板の温度測定方法において、上記基板温度算出工程において算出された上記半導体基板の温度を、上記半導体基板のドーパント濃度に基づき補正する方法である。
【0039】
それゆえ、上記基板温度算出工程において算出された上記半導体基板の温度を、上記半導体基板のドーパント濃度に基づき補正するので、半導体基板の温度をより高精度かつ高い再現性で測定することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
(実施の形態1)
<半導体基板温度測定装置>
本発明の一実施形態について図1ないし図6に基づいて説明すれば、以下の通りである。図1は、本実施の形態に係る半導体基板温度測定装置を有するMBE装置の全体構成図を示している。図1に示すMBE装置20は、本実施の形態に係る半導体基板温度測定装置を含んでおり、半導体基板(以下適宜「基板」と省略する)の表面に半導体材料の結晶をエピタキシャル成長させるものである。なお、基板2の「表面」とは、図1においては基板2の下端面であり、「裏面」はその逆側の面となる。
【0041】
図1に示すMBE装置20は、真空容器1の内部上方に、基板2を保持するマニピュレータ3を備えている。また、マニピュレータ3の内部には、基板2を加熱するための加熱ヒータ4が備えられている。さらに、MBE装置20は、真空容器1の外部に、加熱ヒータ4の電源であるヒータ電源装置5およびヒータ電源装置5の温度を調節する温度制御装置14を備えている。
【0042】
マニピュレータ3は複数の基板2に均一に分子線を照射させるため、矢印Aの方向に示すように回転する構成となっている。
【0043】
基板2は、半導体結晶を成長させるために一般的に用いられる材質で形成されていればよく、特に限定されるものではない。なお、基板2は円形であり、6枚がマニピュレータ3に備えられているが、形状および枚数についても特に限定されるものではない。このように複数の基板2が備えられることによって、複数の基板2に複数の半導体結晶を同時に形成できる。
【0044】
加熱ヒータ4は、ヒータ電源装置5からの電力供給を受けて発熱し、基板2を加熱するものである。加熱ヒータ4の制御については詳細に後述する。
【0045】
真空容器1の下部の2箇所には、真空容器1の内部を光学的に観測するためのビューポート6およびビューポート8が備えられている。
【0046】
なお、図示しないが、基板2には、半導体結晶の材料の分子線が照射される構成となっており、分子線が照射される面、すなわち、基板2の表面に半導体結晶が成長することとなる。
【0047】
また、図示しないが、MBE装置20は図1に示す部材以外にも、エピタキシャル成長に必要となる、分子線セル、セルシャッター、半導体基板温度測定装置以外の真空計などの各種計測装置および排気装置等を備えている。
【0048】
また、MBE装置20は以下で説明する本実施の形態に係る半導体基板温度測定装置を備えている。半導体基板温度測定装置は、基板2に向けて光を照射する光源装置7、基板2に照射された光が基板2によって散乱されて生じた散乱光を検出する検出装置9、検出装置9によって検出された散乱光のスペクトル分析を行うスペクトル分析器10、このスペクトル分析器の結果から基板温度を算出する基板温度演算手段である基板温度演算装置11、基板温度を算出する際に使用するデータを保管するデータベース機構であるデータベース装置12、および、MBE装置20に導入された基板2のドーパント濃度を入力する入力装置13を備えている。
【0049】
具体的に以下に説明する。半導体基板温度測定装置を構成する光源装置7がビューポート6を介して、真空容器1の外側に設置されている。光源装置7は、基板2の表面に光を照射できるものであればよい。基板2の温度を測定する際に光源装置7から基板2に向けて照射される光としては、例えば、白色光を用いることができる。上記光は、基板2の表面およびマニピュレータ3の基板保持面上において所定の大きさのスポットを形成するように、光源装置7の備える光学系により集光される。上記スポットの大きさは、基板2の温度測定における位置分解能に影響を及ぼすので、できるだけ小さいことが好ましい。
【0050】
なお、光源装置7の設置位置としては、基板2の表面に向けて、光を照射できる位置、すなわち、基板2が備えられている位置よりも下側の位置に備えられていればよい。光源装置7は、基板2の法線方向に対して傾いた方向から基板2に対して照射光を照射できるように真空容器1の外側に設けられている。
【0051】
検出手段である検出装置9は、ビューポート8を介して、真空容器1の外側に設置されている。検出装置9は、基板2において散乱した散乱光のスペクトルを検出するためのものである。ここで、本実施の形態において、「基板2において散乱した散乱光」とは、基板2の表面でのみ散乱された光だけでなく、上述した基板2の内部において散乱され、基板2の表面を通過した光をも含む。また、検出装置9とスペクトル分析手段であるスペクトル分析器10とが接続されている。
【0052】
さらに、スペクトル分析器10とコンピュータ15とが接続されている。コンピュータ15は、基板温度演算手段である基板温度演算装置11、データベース機構であるデータベース装置12、基板2のドーパント濃度データを基板温度演算装置11に入力する入力装置13およびヒータ電源装置に制御信号を出力する温度制御装置14を備えている。
【0053】
スペクトル分析器10は、コンピュータ15内の基板温度演算装置11と接続されている。基板温度演算装置11は、基板2の温度を、スペクトル分析器10によって分析されたスペクトル結果に基づき算出する構成を有している。さらに、基板温度演算装置11は算出された基板2の温度を補正する構成をも有している。このように、基板温度演算装置は、2つの構成を有しているが、基板2の温度を補正する構成のみを、例えば基板温度補正装置として、別個の装置とする構成であってもよい。
【0054】
データベース装置12および入力装置13は、基板温度演算装置11とそれぞれ接続されている。データベース装置12には、基板2のドーパント濃度のデータ、および、基板温度演算装置11が基板2の温度を測定する温度において予め測定された、基板2のドーパント濃度と、そのドーパント濃度の基板2において散乱された散乱光のスペクトルに基づき算出された基板2の温度との相関関係を示す相関データが蓄積されている。基板2の温度が補正される際、上記相関データはデータベース装置12から基板温度演算装置11に送信される。
【0055】
入力装置13としては、キーボード、タッチパネル、マウスなど任意の入力装置を選択することが可能である。また、入力装置13は他のコンピュータ等との通信ユニットとすることも可能である。その場合、基板温度演算装置11を他のデータベース、コンピュータシステムなどと接続し、通信によって各種のデータを、データベース装置12から基板温度演算装置11へ送信するよう入力することも可能である。
【0056】
温度制御装置14は、基板温度演算装置11にて、補正された基板2の温度情報に基づいて、補正された基板2の温度に、実際の基板2の温度を近づけるよう制御演算を行い、ヒータ電源装置5を制御する制御信号をヒータ電源装置5に出力する。制御信号を受け取ったヒータ電源装置5は、受け取った制御信号に基づいて加熱ヒータ4へ調節された電力を供給する。これにより、加熱ヒータ4によって、基板2が加熱される温度が調節される。
【0057】
なお、上記の基板温度演算装置11、データベース装置12および温度制御装置14はハードウェアで構成してもよいし、コンピュータ上で動作するソフトウェアとして構成してもよい。本実施の形態においては、基板温度演算装置11、データベース装置12および温度制御装置14は一つのコンピュータ15上にソフトウェアで構成されているとする。
【0058】
また、図示しないが、MBE装置20には、熱電対式の半導体基板温度測定装置が備えられている。マニピュレータ3に基板2が備えられていない場合、散乱光を検出する半導体基板温度測定装置が使用できないので、加熱ヒータ4の制御が、熱電対からの温度フィードバックによって行われる。
【0059】
<半導体基板の温度測定方法>
以下、具体例として、図1に示すMBE装置20を用い、上記半導体基板温度の測定方法について説明する。
【0060】
<データベース作成工程>
本実施の形態に係る半導体基板の温度測定方法では、スペクトル検出工程の前段として、データベース作成工程が行われる。具体的には、基板温度演算装置11が基板2の温度を測定する温度において予め測定された、基板2のドーパント濃度と、そのドーパント濃度の基板2において散乱された散乱光のスペクトルに基づき算出された基板2の温度との相関関係を作成する工程である(以下、「そのドーパント濃度の基板2において散乱された散乱光のスペクトルに基づき算出された基板2の温度」を適宜、「基準温度」と称する)。
【0061】
図2は、データベース作成工程を示すフローチャートである。まず、図1に図示されたMBE装置20において、ステップ1として、半導体結晶の成長を実施する複数の基板2について基板2ごとによって異なるドーパント濃度の分布の幅を確認する。(以下適宜、「ステップ」を「S」と略す)。基板2のドーパント濃度を測定する方法としては、C-V測定などの方法を用いることができる。
【0062】
なお、本実施の形態において、「ドーパント濃度」とは、S1や、後述するスペクトル検出工程におけるように、ドーパント濃度を測定する際の所定範囲において測定されたドーパント濃度を示すものである。ドーパント濃度の測定は、基板のドーパント濃度を平均した値を用いるため、複数回行われることが望ましいが、測定の簡略化のため1回のみなされてもかまわない。
【0063】
さらに、確認したドーパント濃度の分布に対して、何点かドーパント濃度を抽出する。この抽出はドーパント濃度の分布の中から等間隔にて抽出を行うことが望ましいが、それ以外にもドーパント濃度の分布を考慮して、ドーパント濃度と温度との近似曲線が容易に引けるようなドーパント濃度を抽出してもよい。
【0064】
S2として、抽出したドーパント濃度に対応する基板2を抽出する。その後、S3として、上記抽出した基板2を図1に示すMBE装置20に導入して、結晶成長時の温度近傍で温度測定を行う。このときの加熱ヒータ4の温度は、マニピュレータ3に備えられている熱電対によって制御される。基板2が結晶成長時の温度付近で加熱されている状態となった後、熱電対法によって基板2の温度を測定する。すなわち、この時点の温度は、基板温度演算装置11が基板2の温度を測定する温度であるといえる。この時点での熱電対の設定温度を温度域Tとする。この温度測定は赤外線法によって測定してもよい。さらに、ドーパント濃度が異なる他の基板2全てについても同様に基板2の温度を測定する。
【0065】
なお、半導体結晶を成長させる際、複数の温度域を使用する場合は、複数の温度域について基板2の温度測定を行うことが望ましい。
【0066】
S4において、S3において測定された測定結果を、基板2のドーパント濃度と基板2の基準温度との相関関係として取得する。
【0067】
S5において、S4における相関関係を分析してドーパント濃度から温度補正を行うため、以下に示す式1を得る。
【0068】
【数1】

【0069】
ここで、δTnは温度補正値、f(Dn,T)は基板Nのドーパント濃度Dnと温度との測定を行っている温度域Tの関数とする。
【0070】
S6において、式1の結果は、基板温度を補正する際に用いられる相関データが蓄積されるデータベース装置12に保管され、後述する基板温度補正工程において使用される。
【0071】
<スペクトル検出工程>
スペクトル検出工程は、基板2において散乱した散乱光のスペクトルを検出する工程である。散乱光のスペクトルを検出するため、まず、基板2に光源装置7から光が射出される。この光としては白色光を用いている。上記光は、ビューポート6を介して真空容器1の内部に入り、基板2の表面に光が照射される。検出装置9は、基板2の法線方向における真空容器1下部の外側に設けられており、ビューポート8を介して、基板2における散乱光が検出装置9に入る。
【0072】
また、基板2に照射された光のうち、鏡面反射されなかった光の一部は、上記基板2の内部に進行することとなる。基板2の内部は、基板内で最も面粗度が大きく散乱確率が大きいため、上記光は、基板2の内部で散乱された後、上記基板表面を再び通過し、様々な方向に進行する。
【0073】
このように基板2の内部を通過する間に、基板2を構成する半導体のバンドギャップに相当する波長以下の光はこの基板2内に吸収され、吸収されなかった波長成分の光のみが、上述のように、散乱光として基板2の表面を通過し進行する。基板2において散乱した散乱光の一部は、ビューポート8を通り、検出装置9において検出される。
【0074】
複数の基板2は、それぞれ回転しているため、順に基板2ごとの散乱光のスペクトルが検出される。MBE装置20に導入されている基板2の中でN番目の基板に光源装置7からの照射光が当たっている時、検出装置9はN番目の基板2に照射された光の散乱光を検出する。
【0075】
<スペクトル分析工程>
スペクトル分析工程では、検出した上記散乱光のスペクトルを分析する散乱光の分析を行う。スペクトル分析手段は、スペクトル分析器10を用いて行うことができる。スペクトル分析のデータはスペクトル分析器10で吸収波長の数値に変換され基板温度演算装置11へ送られる。
【0076】
<基板温度算出工程>
基板温度算出工程では基板2の温度を算出する。基板温度算出工程は、コンピュータ15の内部で実行されることができる。まず、基板温度演算装置11によって、基板温度演算の第1段階として、従来と同様に予め記録されている吸収波長と基板温度の相関より基板温度を計算する。
【0077】
すなわち、散乱光のスペクトル分析に基づく、半導体基板の温度測定方法は、上記散乱光のエネルギーギャップに起因する波長値に基づいて、基板2を構成する半導体材料のバンドギャップの大きさを算出することによって行えばよい。
【0078】
ここで、半導体材料のバンドギャップの大きさは基板2の半導体材料の温度に依存するので、上記半導体材料の温度によって散乱光の吸収波長が変化する。したがって、上記吸収波長と温度との相関を予めコンピュータ15内に記録しておき、この相関および得られた吸収波長の値から、基板2の温度を算出することができる。
【0079】
しかし、この時点において算出された基板2の温度は、基板2のドーパント濃度による影響を受けるため、算出された基板2に関する精度は十分ではないことが、本発明者らの調査によって明らかとなっている。本実施の形態においては、上記の手段で算出された基板2の温度に対し、さらに、以下に示す基板温度補正工程において、基板2のドーパント濃度の情報を元にした補正計算を施し、さらに正確な基板2の温度を得ることができる。
【0080】
<基板温度補正工程>
基板温度補正工程について、図3を用いて詳細に説明する。図3は、本実施の形態に係る半導体基板の温度測定方法に含まれる基板温度補正工程を示すフローチャートである。マニピュレータ3に保持されているM枚の基板2のうち、N番目の基板2の温度補正を行う場合について説明する。
【0081】
まず、S17aにおいて、基板温度を補正する対象となる基板2がN番であることを確認する。確認する方法としては、マニピュレータ3の回転部にエンコーダを取り付けることにより現時点の回転角を検出する方法を用いることができる。
【0082】
また、本発明に係る基板温度測定において検出されるスペクトルデータは、基板2上とマニピュレータ3上とでは大きく異なる。マニピュレータ3に回転原点位置(回転角度0度)を検出するセンサーを取り付けておき、その原点を起点にして基板が測定位置を何枚通過したかカウントする方法を用いることができる。これにより、基板2の枚数を確認することが可能である。
【0083】
次に、S17bにおいて、データベース装置12から、入力装置13を介して、N番目の基板2のドーパント濃度Dnを基板温度演算装置11に送信する。その後、S17cにおいて、現時点の基板2を加熱している温度域Tを確認する。上記温度域Tは、加熱ヒータ4に備えられている熱電対の温度によって確認することができる。
【0084】
S17dでは、基板温度算出工程にて算出された基板2の温度を補正するための演算がなされる。なお、基板温度算出工程に、基板温度演算装置11によって算出された基板2の温度を補正する工程であればよく、その補正する温度の程度は特に限定されない。
【0085】
演算の具体例として説明すると、以下に示す式2の演算がなされ、S17cにおいて確認された温度域Tに基づく基板温度をTnとすると補正後の基板温度Tnは式2に示すようになる。上記演算は、基板温度演算装置11においてなされる。式2に式1を代入することによって、Tnを求めることができる。
【0086】
【数2】

【0087】
S17eでは、S17dにおいて演算された補正後の基板温度Tnが、基板温度演算装置11から温度制御装置14へ出力される。これにより、基板温度補正工程は終了する。上記ステップを基板温度の測定データに行うことで、ドーパント濃度の影響を排除した、より精度の高い基板温度測定結果を得ることができる。
【0088】
なお、基板2はマニピュレータ3に複数備えられている。これにより、異なる複数の半導体基板のドーパント濃度が異なる場合であっても、上記半導体基板の温度測定方法によって、各基板2について高精度で温度を測定することができる。
【0089】
<半導体デバイスの製造方法>
次に、本実施の形態に係る半導体デバイスの製造方法について説明する。上記半導体デバイスの製造方法は、一例として、半導体結晶を成長させるための半導体基板に、半導体結晶の原料を供給する原料供給工程と、上記半導体基板を加熱する加熱工程とを含み、上記加熱工程では、本実施の形態に係る半導体基板の温度測定方法によって測定した温度に基づき、上記半導体基板を加熱する製造方法を挙げることができる。半導体基板の温度測定方法については上述した通りである。
【0090】
まず、データベース作成工程を行う。その後の工程について図4を用いて説明する。同図は、データベース作成工程以降の半導体結晶の製造方法を示すフローチャートである。S11として、MBE装置20へ基板2が導入されると同時に、入力装置13を介して基板2のドーパント濃度が、データベース装置12から基板温度演算装置11へ入力される。基板2のドーパント濃度は、データベース作成工程において、データベース装置12に蓄積されたものである。
【0091】
次に、S12として、結晶成長工程が開始される。結晶製造工程は、半導体結晶の原料を供給する原料供給工程と、上記半導体基板を加熱する加熱工程とを含む工程である。原料供給工程は、半導体結晶の原料が供給される工程である。図1に示すMBE装置20は、上述したように、基板2に対し半導体結晶の原料の分子線が照射される構成となっており、原料供給工程において上記原料の供給がなされる。また、加熱工程では、加熱ヒータ4によって、基板2を加熱することによって、半導体結晶の原料が加熱される。
【0092】
S12が開始された後に、S13としてスペクトル検出工程を行う。S12において基板2において結晶成長を行うため、マニピュレータ3は回転しており、基板2は加熱ヒータ4によって加熱される。
【0093】
S14においては、S13において検出された散乱光の分析を行うスペクトル分析工程を行う。すなわち、光源装置7から基板2へ光が射出され、基板2において散乱した散乱光が検出装置9において検出される。
【0094】
S15〜S17は、基板温度算出工程であり、半導体基板の温度を算出する。S15において、基板温度演算装置11によって、基板温度演算の第1段階として、従来と同様に予め記録されている吸収波長と基板温度の相関より基板温度を計算する。
【0095】
S16において、データベース装置12に蓄積されていたN番目の基板2のドーパント濃度が基板温度演算装置11に、入力装置13を介して入力される。
【0096】
S17は基板温度補正工程である。S17において、さらに、データベース装置12に蓄積された、基板2のドーパント濃度と基板2の基準温度との相関関係が、入力装置13を介し、基板温度演算装置11に入力される。そして、基板温度演算装置11は、S15で算出された基板2の温度を補正する。
【0097】
S17は、基板温度補正工程であり、S15において算出された基板2の温度を補正する。S17の詳細については、図3を用いて上述した通りである。
【0098】
S18では、温度制御装置14へ出力された補正後の基板温度Tnに基づき、ヒータ電源装置5から加熱ヒータ4へ供給される電力が調整されることによって、基板2の温度が調節される。温度を調節した後に、温度を調節した基板2において、結晶成長が終了したかを確認する。この時点で、半導体結晶の成長が終了していない場合、再度S13に戻る。一方、半導体結晶の成長が終了している場合S19に移行する。
【0099】
S19においては、投入予定の全基板の処理が終了したかが判断される。投入予定の全基板の処理が終了していない場合、S11に戻り、結晶成長工程が終了した後、引き続き次の基板が導入され、上述したように基板2の温度が測定される。一方、投入予定の全基板の処理が終了している場合、全ステップを終了する。
【0100】
以下に、図1に示すMBE装置20を用いて、本実施の形態に係る半導体基板の温度測定方法における相関関係について具体例を示す。半導体基板温度の測定において、基板2としてガリウム砒素基板を用い、基板温度測定は530℃付近で行われる。この530℃という温度は、散乱光のスペクトル分析によって算出された温度である。
【0101】
まず、基板2のドーパント濃度と、基板2の基準温度との関係式を求めるための相関データを得ると図5のような関係となる。上記半導体基板の加熱方法としては、熱電対を用いて加熱することができる。同図において、温度域TC480℃、TC500℃およびTC530℃は熱電対の温度を示している。
【0102】
また、半導体結晶成長において複数の温度域で結晶成長を行うため、それぞれ対応した温度域Tについて、基板のドーパント濃度と基板温度との相関関係を示すデータを測定する。
【0103】
同図において、縦軸は基準温度を示している。また横軸は、基板2のドーパント濃度を示している。その単位は、1018cm−3である。
【0104】
同図において、測定したドーパント濃度の上下限の幅は、0.8〜2.0×1018cm−3である。これは、MBE装置20で結晶成長が行われる予定の基板におけるドーパント濃度の上下限の幅である。次に、上記相関データに基づき、補正用関数である式1および式2を求める。
【0105】
図6は、同じ条件で、温度530℃付近(基板温度補正工程前の散乱光のスペクトルに基づく半導体基板の温度測定方法による基板温度の測定値)においてドーパント濃度が異なる2枚の基板2を加熱した際に、本実施の形態に係る半導体基板の温度測定方法によって基板温度を補正する前(図6(a))および補正した後(図6(b))の基板温度測定データを示している。2枚の基板2のドーパント濃度はそれぞれ、No.1の基板が0.99×1018cm−3、No.2の基板が1.58×1018cm−3である。基板温度補正工程においては、基板2の温度測定温度域にあわせるため、図6(a)に示すデータ17に対し、図5のTC500℃の相関データ16を用いて算出した補正関数を使用し、図6(b)に示すデータ18を得た。
【0106】
特に好ましい例として、データ17を相関データ16に示す四角のプロットで示される基準温度に一致させるよう補正を行うことによってデータ18を得たが、本実施の形態に係る半導体基板の温度測定方法は、基板2のドーパント濃度が対応する相関データ16の破線内の温度に補正することによっても行うことができる。
【0107】
図6(b)に示すように、両基板において、補正後の基板温度は、同程度の温度となっており、ドーパント濃度に起因する基板温度の誤差が非常に好ましく補正されていることが分かる。データ17およびデータ18について、温度補正前および温度補正後の温度の平均値を算出した結果を表1に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
表1より明らかなように、No.1およびNo.2の算出された温度補正前の温度差は、8.4℃であるが、温度補正後の温度差は、0.1℃となっている。すなわち、本実施の形態に係る半導体基板の温度測定方法によって、基板温度の測定における誤差が低減することが分かる。その結果、各基板に対して正確に結晶成長プロセスを制御することが可能となり、最終的に、製造される半導体デバイスの素子特性がより高い特性で安定することとなる。
【0110】
本実施の形態においては、複数の基板を導入することが可能なMBE装置20について述べたが、1枚の基板しか導入できないMBE装置についても、本実施の形態に係る半導体基板の温度測定方法によって、基板の温度を測定することがもちろん可能である。
【0111】
また、本実施例の半導体基板温度測定装置は光源装置を設け、基板表面に白色光を照射し、その散乱光を検出する方法について本発明を適用する方法を述べたが、加熱ヒータ4からの放射光が基板2を透過する際、基板2の内部で散乱した散乱光を検出する方式の半導体基板温度測定装置についても同様の手順で、本実施の形態に係る半導体基板の温度測定方法を適用することが可能である。
【0112】
(実施の形態2)
本発明に係る他の実施の形態について図7に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本実施の形態において説明すること以外の構成は、前記実施の形態1と同じである。また、説明の便宜上、前記の実施の形態1における図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0113】
図7に本実施の形態に係る半導体基板温度測定装置を有するMOCVD装置30の全体構成図を示す。MOCVD装置30は、MBE装置と同じく、基板の表面に半導体結晶をエピタキシャル成長させるものである。
【0114】
MOCVD装置30の全体構成は以下の通りである。MOCVD装置30を囲む筐体1aの内部には反応炉21が備えられている。反応炉21の内部には、基板2を保持するための基板保持装置3aが備えられている。また、反応炉21の内部の一端には、半導体結晶の原料ガスを供給するための供給部22が備えられており、他方の一端には、半導体結晶とならなかった半導体結晶の原料を排気するための排気装置23が備えられている。
【0115】
また、MOCVD装置30が有する半導体基板温度測定装置には、ビューポート6を介し、光源装置7が備えられ、さらにビューポート8を介し、検出装置9が備えられている。さらに、検出装置9とスペクトル分析器10とが接続され、スペクトル分析器10とコンピュータ15とが接続されている。コンピュータ15は、基板温度演算手段である基板温度演算装置11、データベース機構であるデータベース装置12、基板2のドーパント濃度データを基板温度演算装置11に入力する入力装置13、温度制御装置14を備えている。さらに、温度制御装置14と、コンピュータ15の外部に設置されたヒータ電源装置5とは接続されている。
【0116】
基板2は反応炉21の内部を流れる半導体結晶の原料ガスと接するように、基板保持装置3aに保持されている。供給部22から供給された半導体結晶の原料ガスは、基板2の表面を通過し、排気装置23に向かって流れる構成となっている。
【0117】
また、基板保持装置3aの内部には基板2を加熱するための加熱ヒータ4が組み込まれており、ヒータ電源装置5からの電力供給を受けて発熱し、基板2を加熱する。加熱ヒータ4は基板2の裏側から基板を加熱する構成となっている。
【0118】
上記原料ガスは、反応炉21の内部を流れる間に、加熱ヒータ4によって加熱された基板2の表面近傍で反応し、基板2の表面において半導体結晶が成長することとなる。なお、基板2の「表面」は、図7においては基板2の上端面であり、「裏面」はその逆側の面となる。
【0119】
光源装置7は、基板2に対する法線方向に対して傾きを有する方向に光を照射できるよう設置されている。また、検出装置9は、基板2の法線方向に設置されている。光源装置7および検出装置9については、実施の形態1においてそれぞれ上述した通りである。光源装置7から基板2へ、基板2から検出装置9へは、反応炉21の内部に光が通過するための導入路が設けられている。
【0120】
また、スペクトル分析器10、基板温度演算装置11、データベース装置12、入力装置13、温度制御装置14、コンピュータ15、ヒータ電源装置5については、実施の形態1において説明した通りである。
【0121】
MOCVD装置30には、同図に示す部材以外にも図示しないが、エピタキシャル成長に必要となる、半導体結晶の原料ガスの供給量を制御する制御装置を含む材料ガス供給装置、半導体基板温度測定装置以外の真空計などの各種計測装置、排気装置等を備えている。また、同様に図示しないが、加熱ヒータ4の近傍には熱電対が備えられており、基板2が基板保持装置3aに備えられていない場合、上記熱電対は加熱ヒータ4の温度制御に使用される。
【0122】
本実施の形態においては、MOCVD装置30を用いて基板2の温度測定を行うが、その測定は、実施の形態1に係る基板温度の測定方法と同様に行うことができる。すなわち、加熱ヒータ4の近傍に備えられている熱電対を用いて、データベース作成工程を行うことができる。次に、スペクトル検出工程において、MOCVD装置30に導入された基板2に対し、光源装置7から白色光が照射され、基板2において散乱した散乱光のスペクトルが、検出装置9によって検出される。その後、スペクトル分析工程として、検出装置9において検出された散乱光のスペクトルが、スペクトル分析器10において吸収波長の数値に変換され基板温度演算装置11へ送られる。
【0123】
さらに、基板温度算出工程において、データベース装置12に蓄積されたドーパント濃度が、入力装置13を介し、基板温度演算装置11へ入力される。検出された散乱光から求まる基板温度は、データベース装置12に保存してある、ドーパント濃度と基板2の基準温度との相関データに基づき補正されることとなる。
【0124】
基板温度補正工程においても実施の形態1と同様の補正手順を適用することが可能である。その結果、基板2のドーパント濃度に起因する基板温度測定への影響を補正した、より高精度の基板温度測定が実現できる。
【0125】
なお、本実施の形態においては、MOCVD装置における半導体基板の温度測定方法について説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更が可能である。本実施の形態に係る半導体基板の温度測定方法は、半導体結晶の成長方法に特に限定されず、散乱光のスペクトル分析によって、半導体基板の温度を測定する方法に広く適用することが可能である。上記半導体基板の温度測定方法を適用することで、より正確な基板温度を測定することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明に係る半導体基板温度測定装置および半導体基板の温度測定方法によれば、半導体基板において散乱した散乱光のスペクトルに基づき測定された基板の温度を、半導体基板のドーパント濃度に基づき補正することができるので、より高精度の基板温度測定が可能となる。さらに、上記半導体基板温度測定装置を備えた半導体デバイス製造装置、半導体デバイスの製造方法によれば、高品質でかつ、高い歩留りで半導体基板を製造することに利用できるため、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本実施の形態に係る半導体基板温度測定装置を有するMBE装置の全体構成図を示す概略図である。
【図2】データベース作成工程を示すフローチャートである。
【図3】本実施の形態に係る半導体基板の温度測定方法に含まれる基板温度補正工程を示すフローチャートである。
【図4】データベース作成工程以降の半導体結晶の製造方法を示すフローチャートである。
【図5】基板のドーパント濃度と、基板の温度との関係式を求めるためのデータを示すグラフである。
【図6】本実施の形態に係る半導体基板の温度測定方法によって基板の温度を補正する前および補正した後の基板温度測定データを示すグラフである。
【図7】本実施の形態に係る半導体基板温度測定装置を有するMOCVD装置の全体構成図を示す概略図である。
【図8】従来の熱電対法に係る半導体結晶製造装置を示す断面図である。
【図9】従来の赤外線法に係る半導体結晶製造装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0128】
2 基板(半導体基板)
7 光源装置(光源)
9 検出装置(検出手段)
10 スペクトル検出装置(スペクトル検出手段)
11 基板温度演算装置(基板温度演算手段)
12 データベース装置(データベース機構)
16 相関データ(相関関係)
20 MBE装置(半導体デバイス製造装置)
30 MOCVD装置(半導体デバイス製造装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の温度を測定する半導体基板温度測定装置において、
半導体基板において散乱された散乱光のスペクトルに基づき、半導体基板の温度を算出する基板温度演算手段を備え、
基板温度演算手段は、散乱光のスペクトル基づき算出した半導体基板の温度を、半導体基板のドーパント濃度に基づいて補正することを特徴とする半導体基板温度測定装置。
【請求項2】
基板温度演算手段が半導体基板の温度を、予め測定された、半導体基板のドーパント濃度と、そのドーパント濃度の半導体基板において散乱された散乱光のスペクトルに基づき算出された半導体基板の温度との相関関係を蓄積したデータベース機構を備え、
上記基板温度演算手段は、上記基板温度演算手段にて、散乱光のスペクトルに基づいて算出された半導体基板の温度を、上記データベース機構に蓄積された相関関係に基づいて補正することを特徴とする請求項1に記載の半導体基板温度測定装置。
【請求項3】
上記半導体基板のドーパント濃度と半導体基板のドーパント濃度と、そのドーパント濃度の半導体基板において散乱された散乱光のスペクトルに基づき算出された半導体基板の温度とが、半導体基板の温度を測定する温度において予め測定されたことを特徴とする請求項2に記載の半導体基板温度測定装置。
【請求項4】
上記基板温度演算手段は、上記基板温度演算手段にて、散乱光のスペクトルに基づいて算出された半導体基板の温度を、上記データベース機構に蓄積された相関関係から算出した温度に一致させるように補正することを特徴とする請求項2に記載の半導体基板温度測定装置。
【請求項5】
半導体基板に半導体結晶を成長させることによって半導体デバイスを製造する半導体デバイス製造装置において、
請求項1から4の何れか1項に記載の半導体基板温度測定装置を含むことを特徴とする半導体デバイス製造装置。
【請求項6】
半導体基板の温度を測定する半導体基板の温度測定方法において、
半導体基板において散乱された散乱光のスペクトルに基づき、半導体基板の温度を算出する基板温度算出工程を含み、
上記基板温度算出工程は、散乱光のスペクトル基づき算出した半導体基板の温度を、上記半導体基板のドーパント濃度に基づき補正することを特徴とする半導体基板の温度測定方法。
【請求項7】
半導体基板に半導体結晶を成長させることによって半導体デバイスを製造する半導体デバイスの製造方法において、
請求項6に記載の半導体基板の温度測定方法によって測定した温度に基づき、上記半導体基板を加熱することを特徴とする半導体デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−218929(P2008−218929A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57868(P2007−57868)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】