説明

半導体封止用エポキシ樹脂組成物及びそれを用いた半導体装置

【課題】 レーザマークの視認性に優れた半導体封止用エポキシ樹脂組成物、及びこの半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて封止された半導体装置を提供する。
【解決手段】 エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材、並びに着色剤を含有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、着色剤として少なくともカーボンブラック及び黒色染料のうちいずれかが含有されており、カーボンブラックの含有量は0.001〜0.1質量%の範囲であり、黒色染料の含有量は0.01〜0.2質量%の範囲であるとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、電気・電子部品や半導体装置等を封止するために用いられる半導体封止用エポキシ樹脂組成物と、この半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて封止された半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気・電子部品や半導体装置等の封止方法として、エポキシ樹脂組成物やシリコン樹脂組成物等による封止方法や、ガラス、金属、セラミック等を用いたハーメチックシール法が知られている。特に、エポキシ樹脂は優れた接着性や低吸湿性を有しており、また、大量生産可能であり、コストメリットがあるため、近年ではエポキシ樹脂組成物を用いる封止方法が主流を占めている。
【0003】
このエポキシ樹脂組成物としては、たとえば、エポキシ樹脂としてo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、硬化剤としてフェノールノボラック樹脂、無機充填材として溶融シリカ、ワックスとして天然カルナバワックス、硬化促進剤として有機リン化合物を主成分として含有する樹脂組成物からなる封止成形材料が一般的に使用されている。また、エポキシ樹脂組成物に着色剤としてアニリンブラックを含有することで、良好な着色性を有するとともに、半導体装置の封止成形時に生じる静電気破壊による不良発生を抑制し、かつ配線のマイグレーションやデンドライトの発生も抑制することが可能な樹脂組成物とすることも知られている(たとえば、特許文献1参照)。そして、このような樹脂組成物を用いて、リードフレーム上に搭載した半導体素子をトランスファー成形により封止することによって半導体装置を形成することも知られている。
【0004】
上記のような樹脂組成物で封止された半導体装置の表面には、通常、識別のためにマーキングが行われている。マーキングの方法としては、熱硬化型、UV硬化型の特殊なインキでマーキングする方法が知られているが、硬化に時間がかかり、インクの取扱いが容易ではないため、炭酸ガスレーザ等のレーザ光を照射してマーキングを行う方法が増加している。
【0005】
このレーザマーキングによる方法によれば、半導体装置表面のレーザ光の照射部分が熱損傷されて光の反射が乱反射し、照射されていない部分とのコントラストの差でマーキングを認識することができるものであるが、照射された部分と照射されていない部分のコントラストが不鮮明であり、印字の読取が困難である等マーキングの視認性が悪くなるという問題があった。
【0006】
このようなことから、レーザマークの視認性に優れたエポキシ樹脂組成物として、平均粒径10μm以下のフィラー成分がフィラー成分全体に対して10〜15wt%含まれているエポキシ樹脂組成物が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、現状においては、半導体装置におけるレーザマークの視認性をさらに向上させることがのぞまれていた。
【特許文献1】特開2003−327792号公報
【特許文献2】特開2002−124603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明は、以上の通りの背景から、レーザマークの視認性をより一層向上させることのできる半導体封止用エポキシ樹脂組成物と、この半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて封止された半導体装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、前記の課題を解決するものとして、第1には、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材、並びに着色剤を含有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、着色剤として少なくともカーボンブラック及び黒色染料のうちのいずれかが含有されており、カーボンブラックの含有量は0.001〜0.1質量%の範囲であり、黒色染料の含有量は0.01〜0.2質量%の範囲であることを特徴とする。
【0010】
そして、第2には、上記の半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、その硬化物は、色差計でのL*値が20〜50、a*値が−10〜+10、b*値が−10〜+10の範囲にあることを特徴とし、第3には、その硬化物は、色差計でのWB値が5〜20の範囲にあることを特徴とする。
【0011】
さらに、本願発明は、第4には、半導体装置として、以上のいずれかの半導体封止用エポキシ樹脂組成物で半導体素子が封止されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
前記のとおりの上記の第1の発明によれば、着色剤として少なくともカーボンブラック及び黒色染料のうちのいずれかを含有し、カーボンブラックの含有量を0.001〜0.1質量%、黒色染料の含有量を0.01〜0.2質量%の範囲とすることで、レーザ光の照射部分と照射されていない部分とのコントラストの差が鮮明になり、レーザマークの視認性を高めることができる。
【0013】
上記の第2の発明によれば、上記の半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、その硬化物は、色差計でL*値が20〜50、a*値が−10〜+10、b*値が−10〜+10の範囲にあることで、レーザマークの視認性を定量的なものとし、優れた視認性を有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物とすることができる。
【0014】
また、上記の第3の発明によれば、上記の半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、その硬化物は、色差計でWB値が5〜20の範囲にあることで、レーザマークの視認性をさらに定量的なものとし、優れた視認性を有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物とすることができる。
【0015】
以上のような顕著な効果は、上記の第4の発明の半導体装置として実際上大きく実現され、レーザマークの視認性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本願発明は前記のとおりの特徴をもつものであるが、以下に、発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0017】
本願発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物では、前記のとおり、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材、並びに着色剤を含有しており、この場合の着色剤として少なくともカーボンブラック及び黒色染料のうちのいずれかを含有している。また、カーボンブラックの場合の含有量は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物全量に対して0.001〜0.1質量%の範囲とし、黒色染料の場合の含有量は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物全量に対して0.01〜0.2質量%の範囲としている。
【0018】
ここでカーボンブラックとしては、特に限定されるものではなく、一般に市販されているものを用いてもよい。カーボンブラックの粒径についても、通常の市販品として利用される範囲、もしくはそれ以下であってもよく、特に限定されることはない。
【0019】
黒色染料としては、アジン系やアゾ系の染料等各種のものが考慮され、特に限定されるものではないが、これらの黒色染料のうち、特にアゾ系の染料が良好な結果を示す。
【0020】
上記のカーボンブラックや黒色染料は、単独で用いてもよいし、併用して用いてもよい。
【0021】
このような半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて作製された半導体装置の表面に、YAGレーザやCO2レーザ等のレーザ光を照射してマーキングを行った場合には、レーザ光の照射部分と照射されていない部分とのコントラストの差が鮮明になり、レーザマークの視認性が向上することになる。
【0022】
カーボンブラックが含有された半導体封止用エポキシ樹脂組成物の半導体装置において、この半導体装置表面にレーザ光が照射された場合、レーザの照射部分では、カーボンブラックがレーザエネルギーを吸収し、これによってカーボンブラックと半導体封止用エポキシ樹脂組成物が熱分解、飛散して、その残存がマークとして判読されるものである。このため、カーボンブラックの含有量が半導体封止用エポキシ樹脂組成物全量に対して0.001質量%未満である場合や0.1質量%を超える場合には、レーザマークの視認性が悪化する。
【0023】
また、黒色染料が含有された半導体封止用エポキシ樹脂組成物の半導体装置において、この半導体装置表面にレーザ光が照射された場合、黒色染料の含有量が半導体封止用エポキシ樹脂組成物全量に対して0.01質量%未満である場合や0.2質量%を超える場合には、レーザマークの視認性が悪化する。
【0024】
エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば特に制限されることなく使用することができる。たとえば、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタンジエン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ブロム含有エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂等を用いることができる。これらを単独もしくは複数種併用してもよい。
【0025】
硬化剤としては、1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有し、上記のエポキシ樹脂を硬化させることができるものであれば特に制限されることなく使用することができる。たとえば、フェノールアラルキル、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、トリフェニルメタン骨格を有する硬化剤、ジシクロ骨格を有する硬化剤、ナフトールアラルキル等、各種の多価フェノール化合物あるいはナフトール化合物をもちいることができる。これらを単独もしくは複数種併用してもよい。硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂との当量比が0.5〜1.5、特に0.8〜1.2となるように調整することが好ましい。エポキシ樹脂に対する硬化剤の当量比が0.5未満である場合には、半導体封止用エポキシ樹脂組成物が硬化不足になるおそれがあるため好ましくない。1.5を超える場合には、硬化剤が未反応で残り、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物(封止樹脂)の強度等の性能が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0026】
さらに、硬化促進剤を併用してもよく、このものとしては、特に制限されるものではないが、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類、ジアザビシクロウンデセン等の三級アミン類、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類を用いることができる。これらを単独もしくは複数種併用してもよい。硬化促進剤の配合量は、全樹脂成分(エポキシ樹脂と硬化剤)に対して0.1〜5.0質量%配合するのが好ましい。硬化促進剤の配合量が全樹脂成分の配合量に対して0.1質量%未満の場合には、硬化促進効果を高めることができず、作業性が低下するため好ましくない。5.0質量%を超える場合には、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の成形性に不具合を生じるおそれがあるため好ましくない。
【0027】
また、本願発明においては、半導体封止用エポキシ樹脂組成物に無機充填材を含有させるが、無機充填材としては、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素等各種の無機充填材を用いることができ、単独もしくは複数種併用してもよい。半導体封止用エポキシ樹脂組成物の流動性等を考慮すると、これらの中でも特に、溶融シリカや結晶シリカを用いることが好ましい。無機充填材の含有率は、組成物全量に対して65〜93質量%の範囲にあることが好ましく、特に70〜88質量%の範囲にあることが好ましい。無機充填材の含有率が半導体封止用エポキシ樹脂組成物の全量に対して65質量%未満の場合、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物(封止樹脂)の吸湿率が大幅に増加し、吸湿による寸法変化率が大きくなるおそれがあるため好ましくない。93質量%を超える場合には、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の流動性が悪くなり、成形性不良が発生するおそれがあるため好ましくない。
【0028】
そして、上記のエポキシ樹脂、硬化剤、必要に応じて添加される硬化促進剤、無機充填材及び着色剤を配合し、さらに必要に応じて、天然カルナバ等のワックス、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランやγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のカップリング剤、ブロム化エポキシ樹脂等の難燃剤、三酸化アンチモン等の難燃助剤等を配合してもよい。
【0029】
以上のような本願発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、その硬化物は、色差計でのL*値が20〜50、a*値が−10〜+10、b*値が−10〜+10にあることが好ましい。これによって、レーザマークの視認性を定量的なものとして管理することができ、さらにこのような半導体封止用エポキシ樹脂組成物の色味はグレー色となり、優れた視認性を有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物とすることができる。色差計は市販されているものを用いてよく、たとえば日本電色工業(株)製「SE2000」の分光式色差計が挙げられる。そして、この色差計を用いて、L*a*b*表色系で色が定量化される。ここで、L*値は明度を表し、a*値、b*値は色相と彩度を示す色度を表している。a*値のマイナス側が緑領域、プラス側が赤領域であり、b*値のマイナス側が青領域、プラス側が黄領域であり、数値がプラス方向とマイナス方向に大きくなるにつれて色あざやかになり、数値が小さくなるにつれてくすんだ色になる。
【0030】
また、本願の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、その硬化物は、色差計でのWB値が5〜20の範囲にあることが好ましい。WB値は白度を表しており、このような範囲とすることで、レーザマークの視認性を定量的なものとして管理することができ、さらにこのような半導体封止用エポキシ樹脂組成物の色味はグレー色となり、優れた視認性を有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物とすることができる。
【0031】
これらをミキサー、ブレンダー等で均一に混合した後、ニーダーやロール等で加熱混練することにより、半導体封止用エポキシ樹脂組成物を調製することができる。なお、加熱混練した後で必要に応じて冷却固化し、粉砕して粉状等にして使用することもできる。
【0032】
そして、上記のようにして調製した半導体封止用エポキシ樹脂組成物を封止成形により硬化させることによって、半導体装置を作製することができる。たとえば、IC等の半導体素子を搭載したリードフレームをトランスファー成形金型にセットし、トランスファー成形を行うことによって、半導体素子を封止樹脂で封止した半導体装置を作製することができる。このトランスファー成形を採用した場合の金型の温度は170〜180℃、成形時間は30〜120秒に設定することができるが、金型の温度や成形時間及びその他の成形条件は、従来の封止成形と同様に設定することができ、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の材料(成分)の種類や製造される半導体装置の種類等によって適宜設定変更するものである。
【0033】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって発明が限定されることはない。
【実施例】
【0034】
<実施例1〜10および比較例1〜2>
表1に示す配合(配合量の単位は重量基準)で半導体封止用エポキシ樹脂組成物を製造した。表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
【0035】
o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂:住友化学工業(株)製「ESCN−195XL−3」エポキシ当量195
フェノールノボラック樹脂:荒川化学工業(株)製「タマノル752」水酸基当量104
溶融シリカ:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製「KBM403」)でカップリング処理した。
【0036】
ブロム化エポキシ樹脂:住友化学工業(株)製「ESB400」エポキシ当量400
黒色染料:オリエント化学工業(株)製「VALIFAST BRACK 3804」
カーボンブラック:三菱化学(株)製「MA600」
上記の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を、175℃、120秒の条件で成形し、円板(鏡面)とQFP(14×14mm)(梨地)のサンプルを作製した。
<色差計評価>
日本電色工業(株)製「SE2000」の分光式色差計を用いて標準物質との比較にて評価した。
<レーザマークの視認性評価>
上記のように作製された円板(鏡面)とQFP(14×14mm)(梨地)のサンプルに、NEC・オートメーション(株)製YAGレーザマーキング装置でレーザマーキングをおこなった。レーザマークの視認性は、レーザマーキングされた印字を観察することで評価した。その印字が良好なものを「◎」、印字がやや良好なものを「○」、印字は合格レベルであるがやや薄いものを「△」、印字が悪いものを「×」として評価した。
これらの結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

表1の結果より、実施例1〜10では、半導体封止用エポキシ樹脂組成物に着色剤として少なくともカーボンブラック及び黒色染料のうちいずれかが含有されており、カーボンブラックの含有量は0.001〜0.1質量%の範囲であり、黒色染料の含有量は0.01〜0.2質量%の範囲であることで、レーザマークの視認性が向上していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材、並びに着色剤を含有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、着色剤として少なくともカーボンブラック及び黒色染料のうちのいずれかが含有されており、カーボンブラックの含有量は0.001〜0.1質量%の範囲であり、黒色染料の含有量は0.01〜0.2質量%の範囲であることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、その硬化物は、色差計でのL*値が20〜50、a*値が−10〜+10、b*値が−10〜+10の範囲にあることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、その硬化物は、色差計でのWB値が5〜20の範囲にあることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物で半導体素子が封止されてなることを特徴とする半導体装置。

【公開番号】特開2006−36941(P2006−36941A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219357(P2004−219357)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】