説明

半導体構造およびその成長方法

【課題】薄いバッファ層を採用した高品質のGeエピタキシャル層を有する半導体構造およびその成長方法を提供する。
【解決手段】 この半導体構造は、Si基板と、その上に形成された臨界膜厚以下の厚さのGe組成が20%以上80%以下のSiGe層と、SiGe層上に形成されたGeエピタキシャル層とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン(Si)基板のような単結晶基板上にゲルマニウム(Ge)のような格子不整合となる結晶層をエピタキシャル成長した構造およびその成長方法に関し、特に、高品質のエピタキシャル結晶層を成長するために結晶層成長の前に基板上に形成するバッファ層の構造およびその成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Si基板上にGeエピタキシャル層を成長する技術は、Si基板上にGe光検出器や高電子移動度のデバイス等を形成するために不可欠の技術である。しかし、SiとGeとでは4.2%の格子不整合があるため、Si基板上に直接成長したGeエピタキシャル層には多数の貫通転位が生じるとともに表面粗さも大きいものとなり、上記のデバイスに適用するための品質としては不十分なものであった。
【0003】
このため、貫通転位密度(TDD)が低く且つ平坦な表面を有するGe層を成長するための様々な方法が提案されてきている。 これらの提案では、Siに近い組成からGeに近い組成にいたる傾斜組成をもち且つ内部の歪が十分に緩和された厚いバッファ層をGe層の成長前にSi基板上に成長させる方法が用いられている。また、この厚いバッファ層に化学機械研磨(CMP)を組み合わせた方法も提案されている。
【0004】
特許文献1には、Si基板上にGe層を成長するためのバッファ層として、まず厚さ方向に1μmあたり10%Geの率でGe組成を変化させた傾斜組成SiGe層を0%Geから50%Geとなるまで成長し、さらに均一キャップ層を成長した後CMPによって平坦化し、その後さらに同一のGe組成変化率で50%Geから75%Geとなるまで傾斜組成SiGe層を成長し、さらに温度を下げて同一のGe組成変化率で75%Geから92%Geとなるまで傾斜組成SiGe層を成長する技術が開示されている。この方法ではバッファ層を形成するための総成長膜厚は10μm以上におよび、さらに途中でCMP工程を用いる必要がある。
【0005】
特許文献2には、Si基板上にZnSe層を成長させる際のバッファ層として、Si基板側から、Ge組成0.9%のSiGeエピタキシャル層を膜厚0.5〜0.8μm、膜厚0.5〜0.8μmのGe組成0.95%のSiGeエピタキシャル層を膜厚0.5〜0.8μm、数μmのGeエピタキシャル層をこの順に成長させた積層構造を用いることが開示されている。さらに、各層を成長するごとに650℃〜800℃のアニール処理を行っている。この方法でも、2層のSiGeエピタキシャル層の成長膜厚は1μm〜1.6μmにおよぶ。
【0006】
特許文献1および特許文献2による方法では、μmオーダーの厚いバッファ層を成長するためには長い成長時間が必要であり、生産性を低下させてしまうという問題点があった。さらに、CMP工程などを採用すると、その工程のための設備が必要となり、さらにその工程のための処理時間が必要となるため生産性を低下させるという問題点があった。さらに、このような方法を採用しても、平均表面粗さ(RMS)は数nmまでしか低減されていないという問題もあった。
【特許文献1】特許第3535527号公報
【特許文献2】特開2005−303246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、シリコン(Si)基板のような単結晶基板上にゲルマニウム(Ge)のような格子不整合となる結晶層を高品質に成長する方法において、新たなバッファ層の膜構成および成長方法を提案し、きわめて薄いバッファ層を採用して成長時間を短縮すると共に、貫通転位密度の低減と表面の平坦性を達成しようとするものである。
【0008】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、薄いバッファ層を採用した高品質のGeエピタキシャル層を有する半導体構造およびその成長方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る半導体構造およびその成長方法は、上記の目的を達成するため、次のように構成される。
【0010】
本発明の半導体構造(請求項1に対応)は、Si基板と、その上に形成された臨界膜厚以下の厚さのGe組成が20%以上80%以下のSiGe層と、前記SiGe層上に形成されたGeエピタキシャル層とを有することを特徴として構成される。
【0011】
また、本発明の半導体構造(請求項2に対応)は、上記の構成において、前記SiGe層の厚さが5nm以上20nm以下の範囲にあることを特徴として構成される。
【0012】
本発明の半導体構造(請求項3に対応)は、Si基板と、その上に形成されたGe組成が20%以上50%以下のSiGe層と、前記SiGe層上に形成されたGeエピタキシャル層とを有し、前記SiGe層の厚さが5nm以上50nm以下の範囲にあることを特徴とする。
【0013】
本発明の成長方法(請求項4に対応)は、Si基板上にGe層を成長する方法であって、前記Si基板上に臨界膜厚以下の厚さにGe組成が20%以上80%以下のSiGe層をエピタキシャル成長する工程と、前記SiGe層上にGe層を形成する工程とを有することを特徴として構成される。
本発明の成長方法(請求項5に対応)は、Si基板上にGe層を成長する方法であって、 前記Si基板上に臨界膜厚以下の厚さにGe組成が20%以上80%以下のSiGe層をエピタキシャル成長する工程と、前記SiGe層上にGe層を形成する工程とを有し、前記SiGe層の厚さが5nm以上20nm以下の範囲にあることを特徴として構成される。
本発明の成長方法(請求項6に対応)は、Si基板上にGe層を成長する方法であって、 前記Si基板上にGe組成が20%以上50%以下のSiGe層をエピタキシャル成長する工程と、 前記SiGe層上にGe層を形成する工程とを有し、前記SiGe層の厚さが5nm以上50nm以下の範囲にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば次の効果を奏する。本発明によれば、きわめて薄いバッファ層を用いて成長時間を短縮できると共に、表面が平坦で貫通転位が伸びないエピタキシャル層が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施例としてSi基板上にGe層をSiGeバッファ層を介してエピタキシャル成長したときの半導体構造の基本的な膜構造を示すものであり、図1において、1はSi基板、2はSiGeバッファ層、3はGeシード層、4はGe層である。
【0017】
図1を用いて本発明の第1の実施例の半導体構造の膜構成を説明する。図1において、1はSi(100)基板、2はGe組成が50%で膜厚方向に均一な組成のSiGeバッファ層であり、膜厚は13nmである。3はGeシード層で膜厚30nm、4はGe層で膜厚は1μmである。
【0018】
続いて、本発明の第2の実施例として、第1の実施例の半導体構造の成長方法を説明する。
まず、Si(100)基板1はDHF処理により清浄化し、エピタキシャル成長前に真空中で750℃で熱処理を行った。Ge組成50%のSiGeバッファ層2は13nmの厚さに、基板温度は450℃で成長した。Ge層の成長は2段階の成長プロセスを用いた。第1段階でGeシード層を基板温度350℃で30nmの厚さに成長し、続いて第2段階でGe層を基板温度550℃で1μmの厚さに成長した。
【0019】
第1の比較例として、図1の膜構成で、Ge組成50%のSiGeバッファ層2を膜厚2nmとし、他は第1の実施例と同一の試料を作製した。作製条件もSiGeバッファ層2の膜厚が2nmであることを除いて実施例2の条件と同一とした。
【0020】
第2の比較例として、図1の膜構成で、SiGeバッファ層2に替えて膜厚10nmのSiバッファ層を用い、他は第1の実施例と同一の試料を作製した。作製条件は、Siバッファ層の成長温度が成長520℃である点およびGeシード層3の成長温度が370℃であることを除いて第2の実施例と同一とした。
【0021】
第1および第2の実施例によれば、Ge組成50%のSiGeバッファ層2は島状に凝集することなく全膜厚に亘って層状に成長された。さらに、膜厚13nmのGe組成50%のSiGeバッファ層は、Si基板上にエピタキシャル成長したときの臨界膜厚以下の範囲にあり、ひずみの緩和による貫通転位を生じることなく成長された。したがって、島状凝集の影響によるバッファ層表面の凹凸も、貫通転位の影響によるクロスハッチ構造による凹凸もみられず、成長後のバッファ層2表面の平坦性はきわめて良好であった。なお、ここで臨界膜厚とはSiGeバッファ層の表面に貫通転位が現れない最大の厚さを意味する。
【0022】
また第1および第2の実施例によれば、Geシード層3もバッファ層2の上に平坦に成長され、成長直後のGeシード層3の平均表面粗さ(RMS)は1.32nm、さらにGeエピタキシャル層の成長温度である550℃まで昇温した後のGeシード層3の平均表面粗さ(RMS)は0.13nmと平坦度がさらに良好になっていることが認められた。図2AにSiバッファ層を用いた第2の比較例で形成したGeシード層表面の走査電子顕微鏡(SEM)写真を、図2Cに第2の実施例で形成したGeシード層表面の走査電子顕微鏡(SEM)写真を示す。第2の比較例ではRMSは60nmオーダーのピットが見られ、RMSも2.14nmと粗いのに対して、第2の実施例ではピットは見られず、RMSも1.32nmと平坦である。この結果、第1および第2の実施例のGeシード層3上に形成したGeエピタキシャル層4の表面も極めて平坦なものが得られた。
【0023】
図3A,3Bは第2の比較例の方法で成長した試料の断面TEM写真、図4A,4Bは第2の実施例の方法で成長した試料の断面TEM写真、図5A,5Bは第1の比較例の方法で成長した試料の断面TEM写真である。このように、第1の比較例第2の比較例ともにGeエピタキシャル層内に貫通転位が伸びているが、第2の実施例で成長した方法では転位はバッファ層内に閉じ込められており、Geエピタキシャル層内には貫通転位は伸びていない。
【0024】
以上述べたように、第1および第2の発明によれば、13nmと薄いバッファ層を用いることで成長時間が短縮されるとともに、高品質のGeエピタキシャル層が得られるという顕著な効果を奏する。
【0025】
図1を用いて本発明の第3の実施例の半導体構造の膜構成を説明する。図1において、1はSi(100)基板、2はGe組成が膜厚方向に25%で均一なSiGeバッファ層であり、膜厚は20nmである。3はGeシード層で膜厚30nm、4はGe層で膜厚は1μmである。
【0026】
続いて、本発明の第4の実施例として、第3の実施例の半導体構造の成長方法を説明する。
まず、Si(100)基板1はDHF処理により清浄化し、エピタキシャル成長前に真空中で750℃で熱処理を行った。Ge組成25%のSiGeバッファ層2は20nmの厚さに、基板温度は520℃で成長した。Ge層の成長は2段階の成長プロセスを用いた。第1段階でGeシード層を基板温度350℃で30nmの厚さに成長し、続いて第2段階でGe層を基板温度550℃で1μmの厚さに成長した。
【0027】
第3および第4の実施例によれば、Ge組成25%のSiGeバッファ層2は島状に凝集することなく全膜厚に亘って層状に成長された。さらに、膜厚20nmのGe組成25%のSiGeバッファ層は、Si基板上にエピタキシャル成長したときの臨界膜厚以下の範囲にあり、ひずみの緩和による貫通転位を生じることなく成長された。したがって、成長後のバッファ層2表面の平坦性はきわめて良好であった。
【0028】
また第3および第4の実施例によれば、Geシード層3もバッファ層2の上に平坦に成長され、成長直後のGeシード層3の平均表面粗さ(RMS)は1.52nm、さらにGeエピタキシャル層の成長温度である550℃まで昇温した後のGeシード層3の平均表面粗さ(RMS)は0.15nmと平坦度がさらに良好になっていることが認められた。図2Bに第2の実施例で形成したGeシード層表面の走査電子顕微鏡(SEM)写真を示す。第2の実施例と同様に、本実施例ではピットは見られず、RMSも1.52nmと平坦である。この結果、第3および第4の実施例のGeシード層3上に形成したGeエピタキシャル層4の表面も極めて平坦なものが得られた。また、本実施例でもGeエピタキシャル層への貫通転位の伸びは見られなかった。
【0029】
以上述べたように、第3および第4の発明によれば、20nmと薄いバッファ層を用いることで成長時間が短縮されるとともに、高品質のGeエピタキシャル層が得られるという顕著な効果を奏する。
【0030】
以上の実施例での説明で理解できるように、本発明は、バッファ層膜厚を臨界膜厚以下にすることで貫通転位の影響によるクロスハッチ構造を生じさせず、また、バッファ層のGe組成を80%以下にすることで島状の成長が生じることを抑制するもので、この方法によってGeシード層を成長するバッファ層表面を平坦に維持するものである。Ge組成が80%を超えると島状の成長が生じる可能性がきわめて高くなることが確認されている。また、Ge組成を20%未満にすると、バッファ層上に成長するGeシード層の成長核の密度が低下し表面粗さが増大してしまう。なお、SiGeバッファ層の臨界膜厚はGe組成が80%の場合でも20nmより大きく、膜厚を20nm以下としておけばGe組成が20〜80%の範囲でバッファ層に貫通転位は生じない。また、SiGeバッファ層の臨界膜厚はGe組成が50%の場合でも50nmより大きく、膜厚を50nm以下としておけばGe組成が20〜50%の範囲でバッファ層に貫通転位は生じない。
【0031】
さらに、Geシード層およびGeエピタキシャル層を成長したときに、第1から第4の実施例では転位はバッファ層内に閉じ込められるが、第1の比較例の結果から見られるように、バッファ層厚が2nmと特に薄い場合には転位がGe層内に伸びてしまう。発明者の検討によればバッファ層厚は5nm以上必要であった。
【0032】
なお、本発明の第1から第4の実施例では、半導体基板としてSi(100)基板を、エピタキシャル層としてGe層を、バッファ層としてSiGe層を用いたがこれらに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、シリコン(Si)基板のような単結晶基板上にゲルマニウム(Ge)のような格子不整合となる結晶層を高品質に成長すると共に成長時間の短縮に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1実施例に係る半導体構造の膜構成を示す図である縦断面図である。
【図2A】本発明の第1実施例および比較例に係るGeシード層の表面状態を示す図である。
【図2B】本発明の第1実施例および比較例に係るGeシード層の表面状態を示す図である。
【図2C】本発明の第1実施例および比較例に係るGeシード層の表面状態を示す図である。
【図3A】本発明の第2の比較例に係る半導体構造を示す断面TEM写真である。
【図3B】本発明の第2の比較例に係る半導体構造を示す断面TEM写真である。
【図4A】本発明の第2の実施例に係る半導体構造を示す断面TEM写真である。
【図4B】本発明の第2の実施例に係る半導体構造を示す断面TEM写真である。
【図5A】本発明の第2の実施例に係る半導体構造を示す断面TEM写真である。
【図5B】本発明の第2の実施例に係る半導体構造を示す断面TEM写真である。
【符号の説明】
【0035】
1 Si基板
2 SiGeバッファ層
3 Geシード層
4 Geエピタキシャル層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si基板と、その上に形成された臨界膜厚以下の厚さのGe組成が20%以上80%以下のSiGe層と、前記SiGe層上に形成されたGeエピタキシャル層とを有することを特徴とする半導体構造。
【請求項2】
前記SiGe層の厚さが5nm以上20nm以下の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の半導体構造。
【請求項3】
Si基板と、その上に形成されたGe組成が20%以上50%以下のSiGe層と、前記SiGe層上に形成されたGeエピタキシャル層とを有し、前記SiGe層の厚さが5nm以上50nm以下の範囲にあることを特徴とする半導体構造。
【請求項4】
Si基板上にGe層を成長する方法であって、前記Si基板上に臨界膜厚以下の厚さにGe組成が20%以上80%以下のSiGe層をエピタキシャル成長する工程と、前記SiGe層上にGe層を形成する工程とを有することを特徴とする成長方法。
【請求項5】
前記SiGe層の厚さが5nm以上20nm以下の範囲にあることを特徴とする請求項4に記載の成長方法。
【請求項6】
Si基板上にGe層を成長する方法であって、 前記Si基板上にGe組成が20%以上50%以下のSiGe層をエピタキシャル成長する工程と、 前記SiGe層上にGe層を形成する工程とを有し、前記SiGe層の厚さが5nm以上50nm以下の範囲にあることを特徴とする成長方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2007−142291(P2007−142291A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336419(P2005−336419)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】