説明

半導体発光素子およびその製造方法

【課題】リーク電流の少ない半導体発光素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基板10表面の絶縁層20の開口20A上に、下部クラッド層32と、活性層33と、上部クラッド層34と、コンタクト層35とが順に形成されている。下部クラッド層32の上面32Aの幅W2が絶縁層20の開口20Aの幅W1よりも大きくなっており、上部クラッド層34の上面34Aの幅W3が下部クラッド層32の上面32Aの幅W2よりも大きくなっている。上部クラッド層34が下部クラッド層32および活性層33を側面からも覆っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば記録型DVD(Digital Versatile Disk)の光源として好適に利用可能な半導体発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、記録型DVDなどの高密度光ディスクへの書き込みには、AlGaInP系の半導体発光素子が用いられている。AlGaInP系の半導体発光素子では、通常、AlGaInP層、GaInP層、GaAs層などが積層されており、リッジストライプを形成する際の堀り量を制御するのが容易ではない。そのため、例えば、特許文献1に記載されているように、リッジストライプについては、選択成長技術を用いることが一般的となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平03−283693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1の技術では、リッジストライプをGaAsコンタクト層で埋め込む構造となっており、構造上、リーク電流が生じやすい。そのため、低閾値化が難しいという問題があった。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、リーク電流の少ない半導体発光素子およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の半導体発光素子は、第1導電型のGaAs基板と、GaAs基板の表面に形成され、かつ帯状の開口を有する絶縁層とを備えたものである。この半導体発光素子は、開口の上方に形成された第1導電型の下部クラッド層と、下部クラッド層の上方に形成された活性層と、活性層の上方に形成された第2導電型の上部クラッド層と、上部クラッド層の上方に形成された第2導電型のコンタクト層とを備えている。ここで、下部クラッド層は、絶縁層の開口の幅よりも幅広となっており、上部クラッド層は、下部クラッド層の幅よりも幅広となっている。なお、下部クラッド層と活性層との間、活性層と上部クラッド層との間、上部クラッド層とコンタクト層との間などに、何らかの層が設けられていてもよい。
【0007】
本発明の半導体発光素子では、GaAs基板表面の絶縁層の開口上に、絶縁層の開口幅よりも幅広の下部クラッド層と、活性層と、下部クラッド層の幅よりも幅広の上部クラッド層と、コンタクト層とが順に形成されている。これにより、半導体発光素子に注入された電流は絶縁層の開口で狭窄されるので、絶縁層の開口の上方に形成された活性層に確実に電流を流すことができる。
【0008】
本発明の半導体発光素子の製造方法は、以下の2つの工程を含むものである。
(A)第1導電型のGaAs基板の{100}面に、<111B>方向に延在する開口を有する絶縁層を形成したのち、絶縁層の厚さ以上の厚さを有する第1導電型のGaAsバッファ層を前記開口に形成する第1工程
(B)GaAsバッファ層上に、第1導電型の下部クラッド層、活性層、第2導電型の上部クラッド層および第2導電型のコンタクト層を順に形成する第2工程
【0009】
本発明の半導体発光素子の製造方法では、GaAs基板表面の絶縁層の開口に、絶縁層の厚さ以上の厚さを有するGaAsバッファ層が形成され、このGaAsバッファ層を核にして、下部クラッド層、活性層、上部クラッド層およびコンタクト層が順に形成される。これにより、半導体発光素子に注入された電流は絶縁層の開口で狭窄されるので、絶縁層の開口の上方に形成された活性層に確実に電流を流すことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の半導体発光素子およびその製造方法によれば、半導体発光素子に注入された電流を絶縁層の開口で狭窄し、絶縁層の開口の上方に形成された活性層に確実に電流を流すようにした。これにより、リーク電流を少なくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態に係る半導体レーザの断面図である。
【図2】図1の半導体レーザの製造方法について説明するための断面図である。
【図3】図2に続く工程について説明するための断面図である。
【図4】図3に続く工程について説明するための断面図である。
【図5】図4に続く工程について説明するための断面図である。
【図6】図5に続く工程について説明するための断面図である。
【図7】図6に続く工程について説明するための断面図である。
【図8】図1の半導体レーザの一変形例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。

1.実施の形態(下部クラッド層の側面に電流ブロック層が設けられている例)
2.変形例(下部クラッド層の側面に電流ブロック層が設けられていない例)
【0013】
図1は、本発明の一実施の形態に係る半導体レーザ1の断面構成の一例を表したものである。本実施の形態の半導体レーザ1は、例えば、記録型DVDなどの高密度光ディスク用の600nm帯(例えば650nm)の光を端面(図示せず)から射出可能な端面発光型の半導体レーザである。この半導体レーザ1は、例えば、基板10上に、開口20Aを有する絶縁層20を備え、その開口20A上に半導体層30を備えたものである。
【0014】
基板10は、n型GaAs基板である。ここで、n型不純物としては、例えばケイ素(Si)またはセレン(Se)などが挙げられる。GaAs基板において、結晶成長面である上面10Aが{100}面となっている。GaAs基板は、{100}面が上面10Aにおいて<111A>方向(図中のX軸方向)に所定の角度(例えば10度)だけ傾斜した傾斜基板となっている。なお、GaAs基板は、必ずしも傾斜基板でなくてもよく、上面10Aに段差のない平坦な基板であってもよい。
【0015】
絶縁層20は、GaAs基板の上面10Aに接して形成されたものであり、GaAs基板の<111B>方向(図中のZ軸方向)に延在する帯状の開口20Aを有している。開口20Aの幅W1は、半導体層30に要求される横幅の大きさなどによって異なるが、例えば、数μm〜数十μm程度となっている。絶縁層20は、例えば、SiN、SiO2などの絶縁性材料によって構成されている。絶縁層20の厚さH1は、半導体レーザ1に電流を流したときに絶縁性を確保することの可能な程度の厚さとなっており、例えば、絶縁層20がSiNからなる場合には、200nm程度となっている。
【0016】
半導体層30は、4元系のIII−V族化合物半導体、例えば、AlGaInP系化合物半導体を含んでいる。ここで、4元系とは4種類の元素の混晶を意味しており、III−V族化合物半導体とは、III族元素およびV族元素を含む化合物半導体を意味している。AlGaInP系化合物半導体とは、Al、Ga、InおよびPの合計4種類の元素を含む化合物半導体を意味している。
【0017】
半導体層30は、例えば、図1に示したように、GaAs基板の<111B>方向(図中のZ軸方向)に延在する帯状のリッジ形状となっている。このリッジ形状は、後述するように、1度の結晶成長で形成されたものである。従って、半導体層30を形成するに際して、エッチング技術は使用されていない。
【0018】
半導体層30は、例えば、図1に示したように、バッファ層31、下部クラッド層32、活性層33、上部クラッド層34およびコンタクト層35を基板10側から順に含んでいる。なお、半導体層30は、上で例示した層以外の層を含んでいてもよい。半導体層30は、例えば、上部クラッド層34とコンタクト層35との間に、バンド構造の不連続性に起因する電圧上昇を低減する中間層を含んでいてもよい。また、半導体層30は、例えば、下部クラッド層32と活性層33との間や、活性層33と上部クラッド層34との間に、ガイド層などを含んでいてもよい。
【0019】
バッファ層31は、下部クラッド層32などを結晶成長させる際の核(種)になるものであり、n型GaAsを含んで構成されている。バッファ層31は、開口20Aを介して基板10と下部クラッド層32とに接して形成されており、かつ絶縁層20の厚さH1以上の厚さH2となっている。バッファ層31の厚さH2が絶縁層20の厚さH1以上となっているのは、下部クラッド層32などを結晶成長させる際に、絶縁層20の開口20Aの端部が悪影響を及ぼし、下部クラッド層32などに結晶欠陥を生じさせるのを防止するためである。
【0020】
バッファ層31の上面31Aは{100}面となっている。上面31Aは、基板10が傾斜基板である場合には、例えば、図1に示したように、傾斜基板のオフ角θだけ<111A>方向に傾いている。上面31Aは、絶縁層20の開口20Aとの対向領域内に位置している。これは、バッファ層31がAlを含まない(もしくはほとんど含まない)材料からなり、製造過程において縦方向(図中のY方向)の結晶成長速度が横方向(図中のX方向)の結晶成長速度よりも極めて大きいためである。なお、結晶成長速度が縦方向と横方向とで異なるのは、バッファ層31がGaAsで形成されており、GaAsが100方向以外に成長されにくいためである。
【0021】
下部クラッド層32は、開口20Aの上方に形成されたものであり、例えば、図1に示したように、バッファ層31の上面31Aに接して形成されている。下部クラッド層32は、n型AlGaInPを含んで構成されている。下部クラッド層32の上面32Aは{100}面となっている。上面32Aは、基板10が傾斜基板である場合には、例えば、図1に示したように、傾斜基板のオフ角θだけ<111A>方向に傾いている。上面32Aの幅W2は、開口20Aの幅W1よりも広くなっている。さらに、下部クラッド層32は、バッファ層31の表面全体を覆うように形成されている。これは下部クラッド層32がAlを含む材料からなり、製造過程において縦方向(図中のY方向)の結晶成長速度と横方向(図中のX方向)の結晶成長速度との差が全くないか、あったとしても僅かであるためである。
【0022】
活性層33は、下部クラッド層32の上方に形成されたものであり、例えば、図1に示したように、下部クラッド層32の上面32Aに接して形成されている。活性層33は、所望の発光波長(例えば600nm帯の波長)に対応した禁制帯幅を有している。活性層33は、例えば、アンドープGaInP、または下部クラッド層32に含まれるAl組成比よりも小さなAl組成比のアンドープAlGaInPを含んで構成されている。活性層33は、例えば、互いに組成の異なるGaInPによりそれぞれ形成された井戸層とバリア層との多重量子井戸構造、または、互いに組成の異なるAlGaInPによりそれぞれ形成された井戸層とバリア層との多重量子井戸構造となっている。
【0023】
なお、本明細書において「アンドープ」とは、対象となる半導体層を製造する際に不純物の原料を供給していないことを意味するものである。従って、「アンドープ」は、対象となる半導体層に不純物が全く含まれていない場合や、他の半導体層などから拡散してきた不純物がわずかに含まれている場合も含む概念である。
【0024】
活性層33の上面33Aは{100}面となっている。上面33Aは、基板10が傾斜基板である場合には、例えば、図1に示したように、傾斜基板のオフ角θだけ<111A>方向に傾いている。上面33Aの幅は、開口20Aの幅W1よりも広くなっており、下部クラッド層32の上面32Aの幅W2と等しくなっている。つまり、活性層33は、下部クラッド層32の上面32Aにだけ実質的に形成されており、下部クラッド層32の側面には形成されていないか、活性層として機能しない程度しか形成されていない。これは活性層33がAlを含まない(もしくはほとんど含まない)材料からなり、製造過程において縦方向(図中のY方向)の結晶成長速度が横方向(図中のX方向)の結晶成長速度よりも極めて大きいためである。
【0025】
上部クラッド層34は、活性層33の上方に形成されたものであり、例えば、図1に示したように、活性層33の上面31Aと、活性層33および下部クラッド層32の側面と、後述の電流ブロック層36の表面に接して形成されている。上部クラッド層34は、p型AlGaInPを含んで構成されている。上部クラッド層34の上面34Aは{100}面となっている。上面34Aは、基板10が傾斜基板である場合には、例えば、図1に示したように、傾斜基板のオフ角θだけ<111A>方向に傾いている。上面34Aの幅W3は、下部クラッド層32の上面32Aの幅W2よりも広くなっている。さらに、上部クラッド層34は、活性層33の上面31A({100}面)と、活性層33および下部クラッド層32の側面({011}面)と、後述の電流ブロック層36の表面({011}面)とを覆うように形成されている。これは上部クラッド層34がAlを含む材料からなり、製造過程において縦方向(図中のY方向)の結晶成長速度と横方向(図中のX方向)の結晶成長速度との差が全くないか、あったとしても僅かであるためである。
【0026】
コンタクト層35は、後述の上部電極41と上部クラッド層34とをオーミック接触させるためのものである。コンタクト層35は、上部クラッド層34の上方に形成されたものであり、例えば、図1に示したように、上部クラッド層34の上面34Aに接して形成されている。コンタクト層35は、p型GaAsを含んで構成されている。コンタクト層35の上面35Aは{100}面となっている。上面35Aは、基板10が傾斜基板である場合には、例えば、図1に示したように、傾斜基板のオフ角θだけ<111A>方向に傾いている。コンタクト層35の幅は、下部クラッド層32の上面32Aの幅W2よりも広くなっており、上部クラッド層34の上面34Aの幅W3と等しくなっている。つまり、コンタクト層35は、上部クラッド層34の上面34Aにだけ形成されており、上部クラッド層34の側面には形成されていない。これはコンタクト層35がAlを含まない材料からなり、製造過程において縦方向(図中のY方向)の結晶成長速度が横方向(図中のX方向)の結晶成長速度よりも極めて大きいためである。なお、結晶成長速度が縦方向と横方向とで異なるのは、コンタクト層35がGaAsで形成されており、GaAsが100方向以外に成長されにくいためである。
【0027】
本実施の形態では、半導体層30は、例えば、図1に示したように、下部クラッド層32の側面に電流ブロック層36を備えている。この電流ブロック層36は、下部クラッド層32と上部クラッド層34との間に、活性層33を介さない電流(リーク電流)が流れるのを防止するものであり、図示しないが、n型AlGaInPとp型AlGaInPとを交互に積層して構成されている。ここで、AlGaInPは、ノンドープでn型になり易い材料であるが、面方位によってドーピングのし易さが異なる性質を有する。具体的には、AlGaInPは、{100}面にp型ドーパントが添加されても、n型を維持する傾向にあり、p型になりにくいが、{011}面にp型ドーパントが添加されると{100}面と比べて10倍程度、p型になりやすい傾向にある。そこで、本実施の形態では、AlGaInPの面方位依存性を利用して、下部クラッド層32の側面({011}面)に電流ブロック層36が設けられている。
【0028】
半導体層30には、半導体層30を半導体層30の延在方向から挟み込む一対の端面(図示せず)が形成されており、これらの端面によって共振器が構成されている。一対の端面は、例えばへき開によって形成されたものであり、所定の間隙を介して互いに対向配置されている。さらに、一対の端面のうち光射出側の端面(前端面)には低反射膜(図示せず)が形成されており、一対の端面のうち光射出とは反対側の端面(後端面)には高反射膜(図示せず)が形成されている。
【0029】
半導体層30の上面(コンタクト層35の上面)には上部電極41が設けられている。上部電極41は、半導体層30の延在方向に延在する帯状の形状となっており、コンタクト層35と電気的に接続されている。上部電極41は、例えば、例えば、チタン(Ti)、白金(Pt)および金(Au)をコンタクト層35側からこの順に積層して構成されている。基板10の裏面には、下部電極42が設けられている。下部電極42は、例えば、基板10の裏面のうち半導体層30との対向領域を含む領域に連続して(ベタに)形成されている。下部電極42は、例えば、金(Au)とゲルマニウム(Ge)との合金、ニッケル(Ni)および金(Au)とを基板10側からこの順に積層して構成されており、基板10と電気的に接続されている。
【0030】
次に、本実施の形態の半導体レーザ1の製造方法の一例について説明する。
【0031】
まず、基板10として、{100}面が上面10Aにおいて<111A>方向(図中のX軸方向)に所定の角度(例えば10度)だけ傾斜した傾斜基板を用意する。次に、この基板10上に、例えばCVD法により、SiN層を厚さ200nm程度、積層したのち、リソグラフィーにより、<111B>方向に延在する帯状の開口を有するレジストパターンを形成する(図示せず)。続いて、例えば、ウエットエッチング法を用いて、SiN層を選択的に除去する。その後、レジストパターンを除去する。これにより、例えば、図2(A),(B)に示したように、<111B>方向に延在する帯状の開口20Aを有する絶縁層20が基板10の表面に形成される。
【0032】
次に、例えば、MOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy;有機金属気相成長) 法、もしくはMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition ;有機金属化学気相成長)法を用いて、基板10上に、AlGaInP系の半導体層30をエピタキシャル成長させる。この際、AlGaInP系化合物半導体の原料としては、例えば、TMA(トリメチルアルミニウム)、TMG(トリメチルガリウム)、TMIn(トリメチルインジウム)、PH3(フォスフィン)を用いる。p型ドーパントとして、DMZn、Cp2MMgを用い、n型ドーパントとして、SiH4、H2Seを用いる。
【0033】
具体的には、まず、基板10を所定の温度まで加熱した上で、基板10の上面10Aのうち開口20A内に露出している領域に、絶縁層20の厚H1さ以上の厚さH2を有するバッファ層31(GaAsバッファ層)を形成する(図3)。次に、バッファ層31の表面に下部クラッド層32を形成する(図4)。このとき、バッファ層31をAl0.7GaInPで構成した場合には、バッファ層31の上面({100}面)と、バッファ層31の側面({011}面)とで、成長速度比が約1:0.9となり、下部クラッド層32の幅W2が開口20Aの幅W1よりも広くなる。
【0034】
次に、下部クラッド層32を形成する際に使用する原料ガス(AlGaInP系化合物半導体の原料)を引き続き供給しながら、p型ドーパントとn型ドーパントとを交互に切替える。すると、AlGaInPの面方位依存性により、下部クラッド層32の上面({100}面)には、n型AlGaInP層が形成され、下部クラッド層32の側面({011}面)には、n型AlGaInP層と、p型AlGaInP層とが交互に積層される。その結果、下部クラッド層32の側面にだけ選択的に電流ブロック層36が形成される(図4)。
【0035】
次に、下部クラッド層32の上面に活性層33を形成する(図5)。このとき、活性層33をアンドープGaInP、または下部クラッド層32に含まれるAl組成比よりも小さなAl組成比のアンドープAlGaInPで構成した場合には、下部クラッド層32の側面({011}面)にはほとんど積層されず、下部クラッド層32の上面({100}面)にだけ、活性層33が形成される。
【0036】
次に、活性層33の上面に上部クラッド層34を形成する(図6)。このとき、上部クラッド層34をAl0.7GaInPで構成した場合には、活性層33の上面({100}面)と、活性層33、下部クラッド層32および電流ブロック層36の側面({011}面)とで、成長速度比が約1:0.9となり、上部クラッド層34の幅W3が下部クラッド層32の幅W2よりも広くなる。
【0037】
次に、上部クラッド層34の上面にコンタクト層35を形成する(図7)。このとき、コンタクト層35をp型GaAsで構成した場合には、上部クラッド層34の側面({011}面)にはほとんど積層されず、上部クラッド層34の上面({100}面)にだけ、コンタクト層35が形成される。このようにして、半導体層30が形成される。
【0038】
次に、図示しないが、半導体層30の上面以外の領域を覆うレジストパターンを形成した後に、例えば、真空蒸着により、全面に例えばTi/Pt/Au多層膜を積層する。この後、レジストパターンを、その上に堆積したTi/Pt/Au積層膜とともにリフトオフにより除去する。これにより、半導体層30の上面に上部電極41が形成される。この後、必要に応じて熱処理を行って、オーミック接触させる。続いて、基板10の裏面に、例えば、真空蒸着により、全面に例えばAuGe合金/Ni/Au多層膜(図示せず)を積層して、下部電極42を形成する。
【0039】
次に、例えば、カッタでウェーハの端部に傷をつけ、圧力をかけて傷を開くように割ることによりへき開する。次に、蒸着あるいはスパッタリングを用いて、光射出側の端面(前端面)に5%程度の低反射コーティング(図示せず)を形成し、前端面とは反対側の端面(後端面)に95%程度の高反射コーティング(図示せず)を形成する。次に、半導体層30のストライプ方向にけがいてチップを割り出す。このようにして、本実施の形態の半導体レーザ1が製造される。
【0040】
次に、本実施の形態の半導体レーザ1の作用および効果について説明する。
【0041】
本実施の形態の半導体レーザ1では、上部電極41と下部電極42との間に所定の電圧が印加されると、絶縁層20の開口20Aで狭窄された電流が活性層33に注入され、電子−正孔再結合によって発光が生じる。この光は、一対の端面により反射され、所定の波長でレーザ発振を生じ、レーザビームとして前端面から外部に射出される。
【0042】
ところで、本実施の形態では、基板10表面の絶縁層20の開口20A上に、下部クラッド層32と、活性層33と、上部クラッド層34と、コンタクト層35とが順に形成されている。さらに、下部クラッド層32および活性層33の側面に、電流ブロック層36が形成されている。これにより、半導体レーザ1に注入された電流は絶縁層20の開口20Aで狭窄されると共に、電流ブロック層36によって活性層33を通らない電流パスの形成を阻害するので、絶縁層20の開口20Aの上方に形成された活性層33に確実に電流を流すことができる。その結果、リーク電流を少なくすることが可能となる。
【0043】
また、本実施の形態では、半導体層30を形成する際に、Al含有に起因するAlGaInPの非選択成長(横方向成長と縦方向成長)と、Al非含有(もしくは微量含有)に起因するGaInPの選択成長(縦方向成長)とが利用されている。具体的には、下部クラッド層32および上部クラッド層35の形成時には、Alを含む材料(AlGaInP)が用いられ、バッファ層31、活性層33およびコンタクト層35の形成時には、Alを含まない材料(GaAs、GaInP)もしくはAlを僅かに含む材料(AlGaInP)が用いられている。これにより、下部クラッド層32の上面32Aの幅W2が絶縁層20の開口20Aの幅W1よりも大きくなり、上部クラッド層34の上面34Aの幅W3が下部クラッド層32の上面32Aの幅W2よりも大きくなる。さらに、上部クラッド層34が下部クラッド層32および活性層33を側面からも覆うようになる。その結果、縦方向において下部クラッド層32、活性層33および上部クラッド層34の積層構造を形成することができ、さらに、横方向において上部クラッド層34、下部クラッド層32および上部クラッド層34の積層構造を形成することができる。つまり、一度の結晶成長で、縦方向および横方向の光閉じ込め構造が形成されている。
【0044】
従って、結晶成長中に大気に曝されることがなく、結晶内へ酸素が入り込み、レーザ特性に悪影響を及ぼす虞がない。また、結晶成長を中途で中段する必要がないので、複数回の熱履歴がかかることがなく、ドーパントの拡散を容易に制御することができる。また、エッチングなどでリッジを形成する必要がないので、製造工程を簡素化することができる。また、エッチングによる活性層へのダメージが生じる虞がないので、レーザ特性が向上する。また、縦方向および横方向に光閉じ込め構造を有しており、かつ活性層33に選択的に電流が流れるので、消費電力を低減することができる。また、一度の結晶成長で光閉じ込め構造を形成することができるので、基板表面がダストで汚される虞がない。その結果、結晶性が向上するので、レーザ特性が向上する。
【0045】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。
【0046】
例えば、上記実施の形態では、1つの半導体レーザ1に1つの半導体層30が設けられている場合についての説明がなされていたが、本発明は、1つの半導体レーザ1に複数の半導体層30が設けられている場合にももちろん適用可能である。
【0047】
また、上記実施の形態では、本発明を半導体レーザに適用した場合について説明していたが、発光ダイオードなどの他の半導体発光素子に対してももちろん適用可能である。
【0048】
また、上記実施の形態では、基板10がn型となっていたが、p型となっていてもよい。その場合には、上記実施の形態において、n型と書いてある部分をp型と読み替え、p型と書いてある部分をn型と読み替えればよい。
【0049】
また、上記実施の形態では、下部クラッド層32の側面に電流ブロック層36が形成されていたが、例えば、図8に示したように、必要に応じてなくすることも可能である。この場合であっても、下部クラッド層32の側面と上部クラッド層34との間に、バンドギャップの不連続性によって電流が流れるのが阻害されるので、電流ブロック層36によって活性層33を通らない電流パスの形成を阻害することができる。従って、この場合にも、リーク電流を少なくすることが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1…半導体レーザ、10…基板、10A,31A,32A,33A,34A,35A…上面、20…絶縁層、20A…開口、30…半導体層、31…バッファ層、32…下部クラッド層、33…活性層、34…上部クラッド層、35…コンタクト層、41…上部電極、42…下部電極、H1,H2…高さ、W1,W2,W3…幅、θ…オフ角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型のGaAs基板と、
前記GaAs基板の表面に形成され、かつ帯状の開口を有する絶縁層と、
前記開口の上方に形成され、かつ前記開口の幅よりも幅広の第1導電型の下部クラッド層と、
前記下部クラッド層の上方に形成された活性層と、
前記活性層の上方に形成され、かつた前記下部クラッド層の幅よりも幅広の第2導電型の上部クラッド層と、
前記上部クラッド層の上方に形成された第2導電型のコンタクト層と
を備えた半導体発光素子。
【請求項2】
前記開口を介して前記GaAs基板と前記下部クラッド層とに接して形成され、かつ前記絶縁層の厚さ以上の厚さの第1導電型のGaAsバッファ層を備えた
請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記上部クラッド層は、前記活性層および前記下部クラッド層の側面側にも形成されている
請求項1または請求項2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記下部クラッド層および前記上部クラッド層は、AlGaInPを含む
請求項3に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記活性層は、GaInP、または前記下部クラッドに含まれるAl組成比よりも小さなAl組成比のAlGaInPを含む
請求項4に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記下部クラッド層の側面に、第1導電型の半導体層と第2導電型の半導体層とを交互に積層してなる電流ブロック層を備えた
請求項3に記載の半導体発光素子。
【請求項7】
第1導電型のGaAs基板の{100}面に、<111B>方向に延在する開口を有する絶縁層を形成したのち、前記絶縁層の厚さ以上の厚さを有する第1導電型のGaAsバッファ層を前記開口に形成する第1工程と、
前記GaAsバッファ層上に、第1導電型の下部クラッド層、活性層、第2導電型の上部クラッド層および第2導電型のコンタクト層を順に形成する第2工程と
を含む半導体発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記GaAs基板は、{100}面が<111A>方向に傾斜した傾斜基板である
請求項7に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記下部クラッド層および前記上部クラッド層は、AlGaInPを含む
請求項7または請求項8に記載の半導体発光素子。
【請求項10】
前記活性層は、GaInP、または前記下部クラッドに含まれるAl組成比よりも小さなAl組成比のAlGaInPを含む
請求項9に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項11】
前記第2工程において、前記下部クラッド層を形成したのち前記活性層を形成する前に、前記下部クラッド層の側面に、第1導電型の半導体層と第2導電型の半導体層とを交互に積層してなる電流ブロック層を形成する
請求項9に記載の半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−278135(P2010−278135A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127837(P2009−127837)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】