説明

半導体発光素子の製造方法

【課題】凹凸部の凹凸の均一化を図り、半導体発光素子間での発光出力のばらつきを抑える。
【解決手段】半導体基板の上に、第1半導体層及び第2半導体層を1つのペアとする複数のペア層33を積層して光反射部30を形成する工程と、光反射部30の上に、第1クラッド層と、活性層と、第2クラッド層と、をこの順に積層して発光部40を形成する工程と、発光部40の上に、電流分散層を形成する工程と、電流分散層の表面に凹凸部61を形成する工程と、を有し、凹凸部61を形成する工程の前に、電流分散層の表面をOプラズマに曝す工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光ダイオード(LED)等の半導体発光素子の製造工程においては、AlGaInP系やGaN系等の高品質結晶を有機金属気相成長(MOVPE:Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy)法で成長させる技術の発達によって、青色、緑色、橙色、黄色、赤
色等の高輝度LEDが製作できるようになってきた。
【0003】
上記のような高品質の結晶が成長可能となってから、半導体発光素子の内部効率は理論限界値に近づきつつある。しかし半導体発光素子からの光取り出し効率はまだまだ低く、光取り出し効率を向上させることが重要となっている。そこで、複数のエピタキシャル層を積層して発光機能を持たせた発光部の下層に、例えば屈折率の異なる2種類の半導体層を1つのペアとする複数のペア層を積層して光反射部を形成し、発光部から半導体基板側へと向かう光を、光干渉によって半導体発光素子上面の光取り出し面側へと反射させる手法が採られている。例えば特許文献1には、n型AlAs半導体とn型AlGa1−xAs半導体との単位半導体層(ペア層)の層厚を連続的に変化させて反射波長幅を広げることができるようにしたチャープ状の光反射層について開示がされている。
【0004】
また、半導体発光素子の上面の光取り出し面に凹凸部を形成し、光取り出し面での光の全反射を抑制し、光取り出し効率を向上させる手法が採られる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−037017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、光取り出し面となる半導体層の表面に凹凸部を形成した場合、光取り出し効率が向上して個々の半導体発光素子の発光出力は向上するものの、半導体発光素子間での発光出力にばらつきが生じてしまう場合があった。これにより、半導体発光素子の歩留まりが低下して製造コストが増大してしまうことがあった。
【0007】
本発明の目的は、凹凸部の凹凸の均一化を図り、半導体発光素子間での発光出力のばらつきを抑えることが可能な半導体発光素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、半導体基板の上に、屈折率のそれぞれ異なる第1半導体層及び第2半導体層を1つのペアとする複数のペア層を積層して光反射部を形成する工程と、前記半導体基板に形成された前記光反射部の上に、第1導電型の第1クラッド層と、活性層と、前記第1導電型とは異なる第2導電型の第2クラッド層と、をこの順に積層して発光部を形成する工程と、前記発光部の上に、電流分散層を形成する工程と、前記電流分散層の表面に凹凸部を形成する工程と、を有し、前記凹凸部を形成する工程の前に、前記電流分散層の表面をOプラズマに曝す工程を行う半導体発光素子の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の第2の態様によれば、前記Oプラズマに曝す工程の後であって、前記凹凸部
を形成する工程の前に、前記電流分散層の前記Oプラズマに曝した表面に紫外線を照射する工程を行う第1の態様に記載の半導体発光素子の製造方法が提供される。
【0010】
本発明の第3の態様によれば、前記凹凸部を形成する工程は、エッチング液を用いた浸漬法により行い、前記エッチング液の主成分のエッチャントは酢酸である第1又は第2の態様に記載の半導体発光素子の製造方法が提供される。
【0011】
本発明の第4の態様によれば、前記光反射部を形成する工程では、前記第1クラッド層から、前記第1クラッド層に接する前記第2半導体層へ、の前記活性層が発する光の入射角をθとした場合、50°以上の入射角が少なくとも1つ含まれる3つ以上の入射角θのそれぞれについて、次式(1)よりそれぞれ求められる厚さTの前記第1半導体層と、次式(2)よりそれぞれ求められる厚さTの前記第2半導体層と、を各ペアとする前記ペア層を前記各入射角θにつき1ペア以上積層する第1から第3の態様に記載の半導体発光素子の製造方法が提供される。
【数1】

(ここで、式(1)及び式(2)中、λは前記活性層が発する光のピーク波長であり、ninは前記第1クラッド層の屈折率であり、nは前記第1半導体層の屈折率であり、nは前記第2半導体層の屈折率である。)
【0012】
本発明の第5の態様によれば、前記電流分散層の表面上の一部に電極を形成する工程を有し、前記電極を形成する工程の後に、前記Oプラズマに曝す工程と前記凹凸部を形成する工程とを行う第1から第4の態様に記載の半導体発光素子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、凹凸部の凹凸の均一化を図り、半導体発光素子間での発光出力のばらつきを抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る半導体発光素子の製造工程を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る半導体発光素子の製造工程を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る半導体発光素子の製造工程を示す図であって、(a)は半導体発光素子の平面図であり、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図4】本発明の実施例および比較例に係る半導体発光素子の発光出力の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<本発明の一実施形態>
以下に、本発明の一実施形態に係る半導体発光素子の製造方法について説明する。
【0016】
(1)半導体発光素子の製造方法
本発明の一実施形態に係る半導体発光素子は、例えば半導体基板の上に、屈折率のそれぞれ異なる2種類の半導体層を1つのペアとする複数のペア層を積層して形成される光反射部と、光反射部の上に、第1クラッド層と、活性層と、第2クラッド層とを積層して形成される発光部と、発光部の上に形成され、表面に凹凸部が形成された電流分散層と、を備えている。半導体基板上に積層される各層は、例えばMOVPE法により形成される。
【0017】
以下、本実施形態に係る半導体発光素子の製造方法について、図1〜図3までを用いて説明する。図1及び図2は、本実施形態に係る半導体発光素子1の製造工程を示す断面図である。図3(a)は半導体発光素子1の平面図であり、(b)は(a)のA−A断面図である。
【0018】
(LED用エピタキシャルウエハの製造)
まずは、図1(a)に示すように、例えば所定のオフ角を有する半導体基板としてのn型GaAs基板10上に、バッファ層としてのn型GaAs層20を形成する。
【0019】
次に、図1(b)に示すように、n型GaAs層20上に、光反射部30を形成する。光反射部30は、図1(b’)に示すように、例えば屈折率のそれぞれ異なる第1半導体層としてのn型AlAs層31と、第2半導体層としてのn型AlGaAs層32と、を1つのペアとする複数のペア層33を積層して形成される。光反射部30の詳細については後述する。
【0020】
続いて、図1(c)に示すように、光反射部30上に、第1導電型の第1クラッド層としてのn型AlGaInPクラッド層41と、活性層としてのアンドープAlGaInP活性層42と、第1導電型とは異なる第2導電型の第2クラッド層としてのp型AlGaInPクラッド層43と、をこの順に積層して発光部40を形成する。
【0021】
次に、発光部40上に、介在層としてのp型GaInP層50を形成し、p型GaInP層50上に、電流分散層としてのp型GaP層60を形成する。
【0022】
以上により、所定の発光ピーク波長を有するLED用エピタキシャルウエハが製造される。
【0023】
なお、上記各層のMOVPE法による形成は、MOVPE装置内にn型GaAs基板10を搬入し、成長圧力、成長温度を所定値に保った状態で、所定の原料ガスを所定流量供給して行う。原料ガスには、例えばガリウム(Ga)源としてトリメチルガリウム(TMGa)やトリエチルガリウム(TEGa)等の有機金属ガスを使用する。また、例えばアルミニウム(Al)源にはトリメチルアルミニウム(TMAl)等、インジウム(In)源にはトリメチルインジウム(TMIn)等の有機金属ガスをそれぞれ使用する。また、ヒ素(As)源としてアルシン(AsH)等、リン(P)源としてホスフィン(PH)等の水素化物ガスをそれぞれ使用する。このとき、TMGaやTMAl等のIII族原料
ガスのモル数を分母とし、AsHやPH等のV族原料ガスのモル数を分子とする比率(商)、すなわち、V/III比を、所定値とする。
【0024】
また、各層の導電型の制御に用いる導電型決定不純物の添加は、例えば所定の添加物原料ガス(添加ガス)を原料ガスに添加することにより行う。n型の導電型決定不純物とし
ては、例えばセレン(Se)を用いる。Seを添加するには、例えばセレン化水素(HSe)等の添加ガスを用いる。また、p型の導電型決定不純物としては、例えばマグネシウム(Mg)を用いる。Mgを添加するには、例えばビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)等の添加ガスを用いる。
【0025】
(光反射部の詳細説明)
上述したように、光反射部30は、例えば屈折率のそれぞれ異なる2種類の半導体層を備える。これにより、アンドープAlGaInP活性層42で発生した所定波長の光の一部が光反射部30へと入射してきた際、上記2種類の半導体層間で光干渉を起こさせることで、入射してきた光を反射させる。つまり、複数のペア層33は、所定波長の光に対する分布ブラッグ反射層(DBR:Distributed Bragg Reflector)として機能する。反射
させる光の波長は、各半導体層の屈折率及び厚さを制御することで選択できる。
【0026】
光反射部30を構成する、上述のn型AlAs層31及びn型AlGaAs層32の屈折率は、例えば各層の組成比等をそれぞれ調整することで制御される。
【0027】
また、所定角度で入射する所定波長の光を反射させるn型AlAs層31の厚さT及びn型AlGaAs層32の厚さTは、次式(1)、(2)によりそれぞれ算出することができる。
【0028】
【数2】

【0029】
ここで、式(1)及び式(2)中、λは、アンドープAlGaInP活性層42が発する光のピーク波長である。また、ninは、光反射部30直上のn型AlGaInPクラッド層41の屈折率である。また、nはn型AlAs層31の屈折率であり、nはn型AlGaAs層32の屈折率である。また、θは、n型AlGaInPクラッド層41から、n型AlGaInPクラッド層41に接するn型AlGaAs層32へ、の上記光の入射角である。ここで、入射角は、入射面の法線に対する角度である。
【0030】
上記の特許文献1(特開平05−037017号公報)では、広い反射波長幅と高い反射率とが得られるよう、n型AlAs半導体とn型AlGa1−xAs半導体との単位半導体層(ペア層)の変厚割合、積層数、及び混晶比を相互に規定し、ペア層の層厚を連続的に変化させたチャープ状の光反射層(光反射部)としている。しかしながら、この構造では、光反射部の厚さや層数を増大させずに半導体発光素子の発光出力を向上させることが困難であり、エピタキシャル成長に要する原料ガスの消費量や成長時間が増大して製
造コストがかかってしまう。
【0031】
また、上述したように、特許文献1の構成をはじめ、従来の半導体発光素子が光反射部として備える半導体多層反射層は、垂直方向から入射する光に対して高い反射率が得られるよう設計されていた。しかしながら、例えば斜め方向から入射する光に対しては、設計上の考慮がほとんどなされていないため、光反射部に入射する光の全光量に対する反射量はそれほど高まらず、半導体発光素子の発光出力を大幅に向上させることは困難であった。
【0032】
本実施形態では、入射角θを含む上記の式(1)及び(2)に基づき、n型AlAs層31の厚さT及びn型AlGaAs層32の厚さTを求めることとしたので、複数の入射角θにそれぞれ対応するペア層33を複数積層することで、光反射部に入射する光の全光量に対する反射量を高め、半導体発光素子の発光出力を大幅に向上させることができる。また、入射角θの値を細かく取ったり大きく取ったりすることで、或いは、入射角θにどの値を含めるかを適宜選択することで、対応するペア層33の構成を最適化することができる。したがって、入射角θの値や個数を調整して、ペア層33の厚さや層数を必要最小限に近づけることができる。
【0033】
上記の点から、本実施形態に係る半導体発光素子1においては、3つ以上の入射角θのそれぞれについて、n型AlAs層31の厚さT及びn型AlGaAs層32の厚さTを求め、それぞれの厚さT及びTを備えるn型AlAs層31とn型AlGaAs層32とを各ペアとするペア層33を、各入射角θにつき1ペア以上積層して光反射部30を形成することが好ましい。このとき、3つ以上の入射角θの中に、50°以上の入射角が少なくとも1つ含まれることが好ましい。
【0034】
(電極の形成)
以上のように各層が形成されたLED用エピタキシャルウエハを、MOVPE装置から搬出した後、図2(a)に示すように、LED用エピタキシャルウエハの上下面(表裏面)に電極形成を行う。すなわち、例えばマスクアライナ等を用いたフォトリソグラフィプロセスにて、p型GaP層60上に、フォトレジスト等のパターンを形成する。続いて、真空蒸着法により、例えば金・ベリリウム(AuBe)合金、ニッケル(Ni)、金(Au)をこの順に、それぞれ400nm、10nm、1000nmの厚さで蒸着する。蒸着後、リフトオフ法によりフォトレジスト等のパターンを除去することで、例えばワイヤボンディング部分が直径100μmの略円形の表面電極71を素子ごとに形成する。よって、ウエハ上では、それぞれの表面電極71は、p型GaP層60上に例えばマトリクス状に配置される。なお、図2(a)及びこれ以降に示す図においては、マトリクス状に配置された複数の表面電極71のうち1つを示す。
【0035】
次に、LED用エピタキシャルウエハの裏面、すなわち、n型GaAs基板10のエピタキシャル層形成面とは反対側の面の全面に、真空蒸着法により、例えば金・ゲルマニウム(AuGe)合金、Ni、Auをこの順に、それぞれ60nm、10nm、500nmの厚さで蒸着し、裏面電極72を形成する。その後、アロイ工程にて、上記電極71,72が形成されたLED用エピタキシャルウエハを、例えば窒素(N)ガス雰囲気中で5分間、400℃に加熱し、電極71,72を合金化する。
【0036】
(Oプラズマ処理)
次に、半導体発光素子1の光取り出し面となるp型GaP層60の表面への凹凸部61(図3(b)参照)の形成に先駆けて、p型GaP層60の表面をOプラズマに曝す。
【0037】
従来、例えば浸漬法等により、半導体発光素子の光取り出し面に凹凸部を形成すると、
光取り出し効率は向上するものの、半導体発光素子間で発光出力にばらつきが生じてしまう場合があった。本発明者等によれば、これは凹凸部の凹凸のばらつきにより起こることがわかった。
【0038】
このような凹凸部のばらつきを低減するには、例えばフォトレジスト等で凹凸部に対応するパターンを形成した後に、浸漬処理等で凹凸部を形成する方法も考えられる。しかしながら、このようなマスクパターンを用いた方法では、工程数が増え、また、製造コストも増大してしまう。これまで、浸漬法等の簡便な方法で、マスクパターンを用いずに凹凸部の凹凸形状を制御し、半導体発光素子1間での発光出力のばらつきを低減することは困難であった。
【0039】
そこで、本発明者等は、凹凸部の凹凸(粗度)の均一化を図り、発光出力のばらつきを抑える手法について鋭意研究を行った。その結果、以下の手法により、製造コストの増大を招くことなく、凹凸部の凹凸形状を安定して形成でき、凹凸のばらつきが低減できることを見いだした。
【0040】
本実施形態に係る半導体発光素子1の製造方法においては、p型GaP層60の表面に図3(a)及び(b)に示す凹凸部61を形成する前に、図2(b)に示すように、p型GaP層60の表面を酸素(O)プラズマに曝す。
【0041】
プラズマによるp型GaP層60の表面の処理は、例えばバレル型アッシング装置等を用いたバッチ処理にて行う。このとき、Oガスの流量を50sccm以上500sccm以下とし、装置が備える圧力調整用バルブの開度を調整して、処理圧力を例えば50Pa以上120Pa以下とする。印加電力は例えば200W以上800W以下とし、処理時間は例えば1分以上10分以下、好ましくは3分以上5分以下とする。なお、上記処理中、ランプヒータ等を用いてウエハ温度が100℃以上250℃以下となるよう加熱してもよい。ランプ加熱時のウエハ温度は、例えばサーモラベル等を用いて予め測定した結果を基に上記所定値に制御する。
【0042】
(凹凸部の形成)
続いて、Oプラズマによって処理されたp型GaP層60の表面に、凹凸部61(図3(b)参照)を形成する。
【0043】
p型GaP層60の表面への凹凸部61の形成は、例えば酢酸(CHCOOH)系エッチング液を用いた浸漬法により行う。この場合、エッチング液の主成分のエッチャントは、例えば酢酸(CHCOOH)である。処理時間は、例えば15秒以上90秒以下とする。エッチング液を用いた浸漬処理により、表面電極71の形成されていない部分の露出したp型GaP層60の表面が粗化されて、凹凸部61が形成される。
【0044】
次に、凹凸部61が形成された上記ウエハに対し、複数形成した表面電極71のそれぞれが中央部に位置するよう、例えば275μm角のチップ状にダイシングを行って、図3(a)及び(b)に示す半導体発光素子1を複数個得る。以上により、本実施形態に係る半導体発光素子1が製造される。
【0045】
(半導体発光素子の実装)
その後、半導体発光素子1の実装を行う。すなわち、ダイシングにより複数切り出された個々の半導体発光素子1を、例えばTO−18ステム上にマウントしてダイボンディングを行い、さらにワイヤボンディングを施す。
【0046】
(2)本発明の一実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示すひとつ又は複数の効果が得られる。
【0047】
(a)本実施形態によれば、凹凸部61を形成する工程の前に、p型GaP層60の表面をOプラズマに曝す工程を行う。これにより、凹凸部61の凹凸の均一化を図り、半導体発光素子1間での発光出力のばらつきを抑えることが可能となる。よって、半導体発光素子1の歩留まりを向上させ、製造コストを低減することができる。
【0048】
(b)また、本実施形態によれば、p型GaP層60の表面への凹凸部61の形成は、酢酸系エッチング液を用いた浸漬法により行い、ばらつきの少ない凹凸部61を形成する。よって、浸漬法による簡便な方法であっても、マスクパターン等を用いずにばらつきを抑えて凹凸部61を形成することができ、工程数や製造コストを低減することができる。
【0049】
(c)また、本実施形態によれば、50°以上の入射角が少なくとも1つ含まれる3つ以上の入射角θのそれぞれについて、上記の式(1)よりそれぞれ求められる厚さTのn型AlAs層31と、上記の式(2)よりそれぞれ求められる厚さTのn型AlGaAs層32と、を各ペアとするペア層33を各入射角θにつき1ペア以上積層する。これにより、複数の入射角θにそれぞれ対応するペア層33を複数積層することができ、光反射部に入射する光の全光量に対する反射量を高め、半導体発光素子の発光出力を大幅に向上させることができる。
【0050】
(d)また、本実施形態によれば、上記の式(1)及び(2)に任意の入射角θを代入して所定のペア層33の構成を選定する。これにより、採択すべき入射角θの値及び個数を調整することができ、ペア層33の厚さや層数を必要最小限に近づけることができる。よって、光反射部30の厚さを低減することができる。
【0051】
(e)また、本実施形態によれば、Oプラズマによる処理をバッチ処理としている。これにより、多数枚のウエハの処理を短時間で一括して行うことができ、製造コストの増大を抑えることができる。
【0052】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0053】
例えば、上述の実施形態においては、Oプラズマ処理をした後に、p型GaP層60の表面をエッチングして凹凸部61を形成することとしたが、Oプラズマに曝す工程の後であって、凹凸部を形成する工程の前に、p型GaP層60のOプラズマに曝した表面に、さらに紫外線を照射し、紫外線の改質作用によりウエハ表面の有機物を分解除去するなどのクリーニングの工程を行ってもよい。
【0054】
また、上述の実施形態においては、p型GaP層60の表面の凹凸部61は浸漬法により形成することとしたが、凹凸部の形成手法はこれに限られない。例えば、サンドブラストやプラズマ処理等で表面を粗化して凹凸部を形成してもよい。
【0055】
また、上述の実施形態においては、マスクパターン等を用いずに凹凸部61を形成することとしたが、フォトレジスト等によりパターンを形成したうえで、凹凸部を形成してもよい。マスクパターン等を用いた上記手法では、比較的高精度に形状を制御することが可能である。係る手法に本発明を適用することで、より一層、凹凸部の凹凸形状の制御性が増し、半導体発光素子間での発光出力のばらつきを低減することができる。
【0056】
また、上述の実施形態においては、凹凸部61を形成する光取り出し面は、p型GaP
層60の表面としたが、光取り出し面となる電流分散層は、GaP以外の材質よりなる層であってもよい。具体的には、GaAs、AlGaAs、GaAsP、AlGaInP等の材質も用いることができる。また、上下の各クラッド層と電流分散層の導電型(n型、p型)を逆にして、光取り出し面側をn型としてもよい。
【0057】
また、上述の実施形態においては、MOVPE法による各層の形成にあたり、n型の添加ガスとしてHSeを用いることとしたが、n型添加物原料ガス(n型添加ガス)としては、ジシラン(Si)や、モノシラン(SiH)、ジエチルテルル(DETe)、ジメチルテルル(DMTe)等を用いることもできる。また、p型の添加ガスとしてCpMgを用いることとしたが、p型添加物原料ガス(p型添加ガス)としては、ジメチルジンク(DMZn)やジエチルジンク(DEZn)等を用いることもできる。
【0058】
また、上述の実施形態においては、略円形の表面電極71を形成することとしたが、この他、四角形、菱形、多角形等、表面電極は種々の形状とすることができる。
【実施例】
【0059】
次に、本発明に係る実施例について比較例とともに説明する。
【0060】
(LED用エピタキシャルウエハの製作)
まずは、上述の実施形態と同様の手法で、上述の実施形態に係るLED用エピタキシャルウエハと同様の構成を備えたLED用エピタキシャルウエハを製作した。具体的には、オフ角が15°のn型GaAs基板上に、MOVPE法により各層を積層してLED用エピタキシャルウエハを製作した。各層の形成時の際の、各層の組成比、層厚、成長条件等を以下に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
また、表1において、n型AlAs層及びn型Al0.5Ga0.5As層を1つのペアとするペア層は、複数の入射角θに応じて複数形成されている。具体的には、バッファ層としてのn型GaAs層上に、入射角θを70°として、上記の式(1)及び(2)により求めた厚さT及びTの各半導体層を備えるペア層(70°DBR層と呼ぶ)を2ペア(2層)形成し、以降、次第に小さくなる入射角θに対応するペア層を順次積層した。詳細の構成を、以下の表2に示す。各ペア層は、表2の下から上へと積層した。つまり、表中、最下段の70°DBR層がn型GaAs層直上に形成されたペア層であり、最上段の0°DBR層がn型(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pクラッド層と接す
るペア層である。
【0063】
【表2】

【0064】
以上のように製作したLED用エピタキシャルウエハが備えるアンドープ(Al0.1Ga0.90.5In0.5P活性層は、631nm付近の発光ピーク波長を有する。したがって、上記の式(1)及び(2)において、λは631nmとした。また、n型(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pクラッド層の屈折率ninは3.127であり、n型AlAs層の屈折率nは3.114、n型Al0.5Ga0.5As層の屈折率nは3.057である。
【0065】
以上により、631nm付近の発光ピーク波長を有する赤色LED用エピタキシャルウエハを得た。
【0066】
(電極の形成)
次に、上述の実施形態と同様の手法で、表面電極および裏面電極を形成した。
【0067】
(Oプラズマ処理・凹凸部の形成)
続いて、表面電極および裏面電極を形成した上記ウエハを劈開して2分割し、1/2サイズとなったウエハそれぞれに対して凹凸部を形成した。このとき、一方のウエハにはOプラズマ処理を施したうえで凹凸部を形成し、もう一方のウエハにはOプラズマ処理を施さずに凹凸部を形成した。Oプラズマ処理の条件は、Oガスの流量を300sccmとし、処理圧力を80Paとした。また、印加電力を400W、処理時間を5分とした。また、酢酸系エッチング液による処理時間は、30秒とした。
【0068】
続いて、上述の実施形態と同様の手法で、上記のそれぞれのウエハのダイシングを行い、Oプラズマ処理を施した実施例に係る半導体発光素子と、Oプラズマ処理を施さない比較例に係る半導体発光素子と、をそれぞれ複数個製作した。実施例及び比較例のそれぞれの半導体発光素子は、631nm付近の発光ピーク波長を有する赤色LEDとして構成されている。
【0069】
(半導体発光素子の実装)
その後、上述の実施形態と同様の手法で、上記それぞれの半導体発光素子の実装を行った。
【0070】
(半導体発光素子の測定)
上記のように製作された、実施例および比較例に係る半導体発光素子について、発光出力、発光波長、順方向電圧等の初期特性の測定を行った。測定時の評価電流は20mAと
した。
【0071】
図4に、実施例および比較例に係る半導体発光素子の発光出力の分布を示す。図4の横軸は、発光出力(mW)であり、縦軸は、測定した半導体発光素子のうち、各々の発光出力値を示した素子数(個)である。また、図中、実施例に係る半導体発光素子の測定値を実線で示し、比較例に係る半導体発光素子の測定値を一点鎖線で示す。
【0072】
個々の半導体発光素子の上記測定値から求めた平均発光出力は、実施例が2.72mW、比較例が2.71mWであり、実施例と比較例とで差は生じていなかった。しかし、実施例における発光出力のばらつきは±0.25mWであり、図4からも読み取ることができるように、比較例に対して半分程度のばらつきであった。その他、発光波長、順方向電圧については、実施例と比較例とで差は生じていなかった。
【0073】
以上により、凹凸部を形成する際にOプラズマ処理を施すと、発光出力のばらつきが大幅に改善されることがわかった。
【符号の説明】
【0074】
1 半導体発光素子
10 n型GaAs基板(半導体基板)
30 光反射部
31 n型AlAs層(第1半導体層)
32 n型AlGaAs層(第2半導体層)
33 ペア層
40 発光部
41 n型AlGaInPクラッド層(第1クラッド層)
42 アンドープAlGaInP活性層(活性層)
43 p型AlGaInPクラッド層(第2クラッド層)
60 p型GaP層(電流分散層)
61 凹凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の上に、屈折率のそれぞれ異なる第1半導体層及び第2半導体層を1つのペアとする複数のペア層を積層して光反射部を形成する工程と、
前記半導体基板に形成された前記光反射部の上に、第1導電型の第1クラッド層と、活性層と、前記第1導電型とは異なる第2導電型の第2クラッド層と、をこの順に積層して発光部を形成する工程と、
前記発光部の上に、電流分散層を形成する工程と、
前記電流分散層の表面に凹凸部を形成する工程と、を有し、
前記凹凸部を形成する工程の前に、前記電流分散層の表面をOプラズマに曝す工程を行う
ことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記Oプラズマに曝す工程の後であって、前記凹凸部を形成する工程の前に、前記電流分散層の前記Oプラズマに曝した表面に紫外線を照射する工程を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記凹凸部を形成する工程は、エッチング液を用いた浸漬法により行い、
前記エッチング液の主成分のエッチャントは酢酸である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記光反射部を形成する工程では、
前記第1クラッド層から、前記第1クラッド層に接する前記第2半導体層へ、の前記活性層が発する光の入射角をθとした場合、50°以上の入射角が少なくとも1つ含まれる3つ以上の入射角θのそれぞれについて、
次式(1)よりそれぞれ求められる厚さTの前記第1半導体層と、次式(2)よりそれぞれ求められる厚さTの前記第2半導体層と、を各ペアとする前記ペア層を前記各入射角θにつき1ペア以上積層する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
【数1】

(ここで、式(1)及び式(2)中、λは前記活性層が発する光のピーク波長であり
、ninは前記第1クラッド層の屈折率であり、nは前記第1半導体層の屈折率であり、nは前記第2半導体層の屈折率である。)
【請求項5】
前記電流分散層の表面上の一部に電極を形成する工程を有し、
前記電極を形成する工程の後に、前記Oプラズマに曝す工程と前記凹凸部を形成する工程とを行う
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−190905(P2012−190905A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51566(P2011−51566)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】