説明

半導体発光素子の製造方法

【課題】反射電極層の、反射率向上による高輝度化、接触抵抗の低減、剥がれの防止及び経時劣化に対する耐性の向上。
【解決手段】反射電極を有する半導体発光素子の製造方法であって、第1の導電型の第1半導体層、活性層および第2の導電型の第2半導体層を順次積層して半導体膜を形成する工程と、第2半導体層上に金属反射層と半導体膜との格子不整合を緩和する金属バッファ層を形成する工程と、金属バッファ層上に金属反射層を形成する工程と、金属反射層上に金属反射層の脱離を防止する金属パッシベーション層と、金属パッシベーション層上に金属パッシベーション層の酸化を防止する酸化防止層を形成する工程と、金属パッシベーション層と酸化防止層との間で相互拡散が生じるように熱処理を行って、これらの層の界面に合金層を形成する工程と、合金層の少なくとも一部を合金層上に形成された層とともに除去することにより反射電極を形成する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
p型半導体層、活性層、n型半導体層を積層した半導体膜と、半導体膜に反射電極層を介して接合された支持基板とからなる半導体発光素子が知られている。反射電極層は、電極として機能するとともに活性層から発せられた光を光放出面に向けて反射する光反射面を形成し、これによって半導体発光素子の高輝度化が図れている。
【0002】
例えば、特許文献1には、GaN系半導体膜に対してAg膜を有する反射電極層を設ける半導体発光素子が記載されている。非特許文献1にはGaN系半導体膜に対してAg層を有する反射電極層を設ける半導体発光素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許公開2005−175462
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Appl. Phys. Lett. 95, 062108 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
反射電極層の反射特性を向上させて半導体発光素子の高輝度化を達成するべく、p-GaN層上に膜厚1nmのNiからなるバッファ層と、膜厚150nmのAgからなる反射層と、膜厚2nmのNiからなるパッシベーション層とが順次形成された三層反射電極層について検討した。Agからなる反射層の接触抵抗の低減のために、三層反射電極層に熱処理を行った結果、約84%の反射率及び10−5Ωcm程度の接触抵抗が達成された。
【0006】
しかしながら、熱処理後の三層反射電極層の反射率は、熱処理を行っていないAgからなる単層の反射層の反射率95%程度と比較して、10%以上低い。反射電極層は、通常、半導体膜に対してオーミック接触層であると共に反射層の機能をも有するため、低反射率は、光出力の低下に直結して大きな問題となる。Niからなるパッシベーション層の層厚は2nmであり、かかる層厚は、Ni原子の直径(0.25nm)×8個分程度である。よって、積層後に大気に暴露した瞬間にパッシベーション層を構成するNiが酸化されて、酸素と結合してNiO絶縁層が形成され得る。パッシベーション層が酸化された状態で、三層反射電極層に対して熱処理を行った場合、パッシベーション層下のAgからなる反射層に対する酸化を防ぐ機能が低下しているため、Agからなる反射層内にAg酸化物やAgNi酸化物が形成されてしまう。これにより、反射層の反射機能が低下してしまい、熱処理を行っていないAgからなる単層の反射層からなる反射電極層に比べて、さらなる反射率の低下が問題となる。Niからなるパッシベーション層の層厚のみを単純に大きくした場合、反射層を構成するAgよりも低い反射率を有するNiの割合が増大するので、反射率が低下してしまう。一方でAgからなる反射層とNiからなるパッシベーション層の双方の層厚を過大に大きくする場合、パッシベーション層の酸化にともなう反射層の酸化が防止され得る。しかしながら、かかる層厚の増大にともなって、半導体発光素子を構成する別の層の層厚をも増大してしまう。そのため、半導体発光素子の製造プロセスに要する時間的及び経済的コストが増大してしまう。さらに、かかる層厚の増大によって、半導体発光素子の放熱性が低下してしまい、駆動時に生ずる熱に起因する別の問題が生じ得る。
【0007】
さらに、三層反射電極層においては、Niからなるパッシベーション層の表面上に、ヒロックと称される微細な凹凸構造が複数存在することが確認されている。ヒロックの生成機構に関する詳細は不明であるものの、三層反射電極層に対して熱処理後に生ずることから、その機構の1つとして、反射層を構成するAgの熱膨張係数が半導体膜を構成するGaNの熱膨張係数よりも大きい故に、加熱とともに三層反射電極層に対して熱的圧縮応力が印加されて、原子が表面上に拡散して形成されると考えられる。かかる凹凸構造が多数存在すると、支持基板との貼り合せ工程において貼り合せ不良が生ずる。そのため、三層反射電極層においては、半導体発光素子の全体的な貼り合せ強度が低下することが避けられず、剥がれの発生等、貼り合せ工程における歩留まりが低下してしまう。
【0008】
さらに、三層反射電極層において、熱処理後のパッシベーション層のNiは酸化及び絶縁化されてNiO絶縁層となる。三層反射電極層の最表面に酸化物層が存在しているため、反射電極層と、反射電極層上に形成され得る接合層との密着性が低いため、剥がれの要因となる。また、NiO絶縁層により接触抵抗が増大して、半導体発光素子の駆動電圧が増大してしまう。
【0009】
本発明は、反射電極層の反射率のさらなる向上による高輝度化、接触抵抗の低減、経時劣化に対する耐性の向上、剥がれの発生の防止を達成することができる半導体発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の半導体発光素子の製造方法は、半導体膜と、前記半導体膜上に設けられて前記半導体膜から発せられる光の発光波長に対して光反射性を有する金属反射層とを含む反射電極と、を有する半導体発光素子の製造方法であって、第1の導電型の第1半導体層、活性層および第2の導電型の第2半導体層を順次積層して前記半導体膜を形成する工程と、前記第2半導体層上に前記金属反射層と前記半導体膜との格子不整合を緩和する金属バッファ層を形成する工程と、前記金属バッファ層上に前記金属反射層を形成する工程と、前記金属反射層上に前記金属反射層の脱離を防止する金属パッシベーション層を形成する工程と、前記金属パッシベーション層上に前記金属パッシベーション層の酸化を防止する酸化防止層を形成する工程と、前記金属パッシベーション層と前記酸化防止層との間で相互拡散が生じるように熱処理を行って、これらの層の界面に合金層を形成する工程と、前記合金層の少なくとも一部を前記合金層上に形成された層とともに除去することにより前記反射電極を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の半導体発光素子によれば、反射電極層を有する半導体発光素子において、反射率の向上による高輝度、接触抵抗の低減、剥がれの発生の防止及び経時劣化に対する耐性の向上を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施例1に係る半導体発光素子の製造方法のフロー図である。
【図2(a)−2(b−1)】図2(a)乃至(b−1)は、本発明の実施例1に係る半導体発光素子の製造方法を示す断面図である。
【図2(b−2)−2(c)】図2(b−2)及び乃至(c)は、本発明の実施例1に係る半導体発光素子の製造方法を示す断面図である。
【図2(d)−2(e)】図2(d)及び2(e)は、本発明の実施例1に係る半導体発光素子の製造方法を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施例2に係る半導体発光素子の製造方法のフロー図である。
【図4】図4(a)及び(b)は、本発明の実施例2に係る半導体発光素子の製造方法を示す断面図である。
【図5】図5は、本発明の実施例に係る半導体発光素子の反射スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例について図面を参照しつつ説明する。尚、以下に示す図において、実質的に同一又は等価な構成要素、部分には同一の参照符を付している。
【実施例1】
【0014】
本発明の実施例1に係る半導体発光素子1の製造方法について、図1及び図2を参照しつつ以下に説明する。図1は、本発明の実施例1に係る半導体発光素子1の製造工程を示すフロー図である。図2(a)〜(d)は、いくつかの製造工程における半導体発光素子1の断面図である。
【0015】
(S1:半導体膜形成工程)
成長用基板10を準備し、成長用基板10上にn型半導体層21、活性層22及びp型半導体層23を含む半導体膜20を形成する(図2(a))。
【0016】
具体的には、半導体膜20は、例えば、AlInGaN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)から構成される。成長用基板10は、例えば、C面サファイア基板である。
【0017】
n型半導体層21は、成長用基板10上に低温バッファ層、下地GaN層、Siドープされたn型GaN層を積層することにより形成される。具体的には、成長用基板10をMOCVD装置に投入し、基板温度約1000℃とし、水素雰囲気中で約10分程度の熱処理を行う(サーマルクリーニング)。続いて、基板温度(成長温度)を500℃とし、TMG(トリメチルガリウム)(流量10.4μmol/min)及びNH(流量3.3LM)を約3分間供給してGaNからなる低温バッファ層を形成する。次に、基板温度(成長温度)を1000℃まで昇温し、約30秒間保持することで低温バッファ層を結晶化させる。続いて、基板温度(成長温度)を1000℃に保持したままTMG(流量45μmol/min)およびNH(流量4.4LM)を約20分間供給し、厚さ1μm程度の下地GaN層を形成する。次に、基板温度(成長温度)1000℃にてTMG(流量45μmol/min)、NH(流量4.4LM)およびドーパントガスとしてSiH(流量2.7×10-9μmol/min)を約60分間供給し、厚さ4μm程度のn型GaN層を形成する。以上の工程を経ることにより、成長用基板10上にn型半導体層21が形成される。
【0018】
続いて、n型半導体層21の上に活性層22を形成する。本実施例では、活性層22には、InGaN/GaNからなる多重量子井戸構造を適用した。InGaN/GaNを1周期として5周期成長を行う。具体的には、基板温度(成長温度)700℃にてTMG(流量3.6μmol/min)、TMI(トリメチルインジウム)(流量10μmol/min)、NH(流量4.4LM)を約33秒間供給し、厚さ約2.2nmのInGaN井戸層を形成し、続いてTMG(流量3.6μmol/min)、NH(流量4.4LM)を約320秒間供給して厚さ約15nmのGaN障壁層を形成する。かかる処理を5周期分繰り返すことにより活性層22が形成される。
【0019】
p型半導体層23は、p型AlGaNクラッド層、Mgドープされたp型GaN層を積層することにより形成される。具体的には、前工程に引き続き、基板温度(成長温度)を870℃まで昇温し、TMG(流量8.1μmol/min)、TMA(トリメチルアルミニウム)(流量7.5μmol/min)、NH(流量4.4LM)およびドーパントとしてCpMg(bis-cyclopentadienyl Mg)(流量2.9×10-7μmol/min)を約5分間供給し、厚さ約40nmのp型AlGaNクラッド層を形成する。続いて、基板温度(成長温度)を保持したまま、TMG(流量18μmol/min)、NH(流量4.4LM)およびドーパントとしてCpMg(流量2.9×10-7μmol/min)を約7分間供給し、厚さ約150nmのp型GaN層を形成する。以上の工程を経ることにより、活性層22の表面にp型半導体層23が形成される。
(S2:反射電極前駆層形成工程)
p型半導体層23上にバッファ層25、反射層26、パッシベーション層27及び酸化防止層28を順次形成して反射電極前駆層30を形成する(図2(b))。本実施例において、バッファ層25は1nmの層厚を有するNiからなる。反射層26は150nmの層厚を有するAgからなる。パッシベーション層は2nmの層厚を有するNiからなる。酸化防止層28は50nmの層厚を有するAgからなる。
【0020】
反射電極前駆層30のバッファ層25は、p型半導体層23と反射層26との格子不整合性を緩和することができ、電気伝導特性の良い金属層であり得る。さらに、バッファ層25は、後の熱処理工程にて反射層26と相互拡散し得る金属層であり得る。熱処理工程において、バッファ層25と反射層26とが相互拡散してそれら界面付近において合金化することによって、バッファ層25自身による反射率の低下が抑制され得る。さらに、バッファ層25は、反射層26を構成する原子がp型半導体層23へ拡散することを防止し得る。よって、バッファ層25は、反射層26よりも小さい拡散係数を有し得る。バッファ層25の層厚は、p型半導体層23と反射層26との格子不整合性を緩和することができ、反射層26の反射率に対する影響を最小とし、且つ、反射電極層全体の接触抵抗が過大に増大しないよう設定され得る。バッファ層25の層厚が過小である場合は、p型半導体層23と反射層26との格子不整合性を十分に緩和することができず、バッファ層25上に形成される反射層26に格子不整合性に起因して、反射層26を構成する原子が反射層26内のある特定領域において凝集されて密度が高くなった凝集ドメイン構造が生じ得る。かかる構造によって、反射層26の層厚が不均一となったり、その表面に段差が生じてしまう。かかる段差における光の散乱によって高反射率が得られない。逆に、バッファ層25の層厚が過大である場合は、バッファ層25自身による反射率の低下が顕著になり、接触抵抗も増大してしまう。
【0021】
具体的には、バッファ層25の材料としてNiを用い、その層厚を1nmに設定した。Niの層厚は、0.5nm以上であり且つ5nm以下であることが好ましく、1nm以上であり且つ2nm以下であることがさらに好ましい。Niの層厚が薄すぎる場合、熱処理によっても緩和することができない凝集ドメイン構造が、Agからなる反射層26に生じ得る。一方で、Niの層厚が過大である場合、Ni自身の反射率が60−70%であるのでNi自身による反射率の低下分が無視できなくなるのに加え、接触抵抗が増大してしまう。バッファ層25の他の材料候補としては、TiやTiを含む合金等、Ni同様に密着性を向上させる金属であり得る。しかし、他の候補ではNiを用いた場合よりも反射率が低下してしまうため、Niが好ましい。
【0022】
反射電極前駆層30の反射層26は、反射率が高く且つ電気伝導率が高い金属層からなり得る。さらに、反射層26は、後の熱処理工程にてバッファ層25及びパッシベーション層27とのそれぞれの界面付近において相互拡散し得る金属層であり得る。熱処理工程において、バッファ層25及びパッシベーション層27とのそれぞれの界面付近において相互拡散して、それらの界面付近において合金化することによって、バッファ層25における反射率の低下を抑制し、反射層26とバッファ層25及びパッシベーション層27とのそれぞれの界面に生じ得る層厚の不均一性や段差を緩和することができる。反射層26の層厚は、十分な反射率が得られるよう設定される。反射層26の層厚が過小である場合は、反射率が低下してしまう。逆に、反射層25の層厚が過大である場合は、反射率等の素子特性には特に問題ないものの、プロセスに要する時間的及び経済的コストが増大してしまう。
【0023】
具体的には、反射層26の材料として、高反射特性を有するAgを用い、その層厚を150nmに設定した。Agの層厚は、50nm〜200nmであることが好ましく、100nm〜200nmであることがさらに好ましい。Agの層厚が過小である場合、反射率が低下してしまう。我々の実験結果では、Ag単層で70nm未満の層厚になると明らかに反射率が低下し、100nm以上ではほぼ飽和する結果が得られている。Agの層厚を大きくしても反射率等の素子特性には特に問題ないと思われるが、製造工程に要する時間的及び経済的コストを抑えるため、約200nm以下が望ましい。反射層25の別の材料候補としては、Agの反射率と比較して劣るものの比較的高反射率を有するAl、Rh又はこれらを含む合金があげられる。
【0024】
反射電極前駆層30のパッシベーション層27は、反射層26を構成する原子の拡散、脱離を防止し且つ電気伝導特性の良い金属層であり得る。さらに、パッシベーション層27は、後の熱処理工程にて反射層26と相互拡散し得る金属層であり得る。パッシベーション層27と反射層26とが相互拡散してそれら界面付近において双方が合金化することによって、反射層26に生ずる層厚のむらや段差を緩和することができる。これにより、反射層26をより平坦化し、層厚のむらや段差による光散乱を抑制することができる。さらに、パッシベーション層27は、反射層26を構成する原子が熱処理中にパッシベーション層27上の酸化防止層28から脱離することを防止し得る。さらに、パッシベーション層27は、反射層26を構成する原子がパッシベーション層27上に形成されるキャップ層へ拡散することを防止し得る。よって、反射層26を構成する原子が、パッシベーション層27内においてより小なる拡散係数を有し得る。パッシベーション層27の層厚は、反射層26を構成する原子の拡散を防止することができ、反射層26に生じ得る層厚のむらや段差を緩和できるように設定される。パッシベーション層27が過小である場合は、反射層26に対するパッシベーション効果が弱くなり、反射層26の酸化を防止することができない。逆に、パッシベーション層27が過大である場合は、バッファ層25の場合と同様に反射率が低下してしまい、パッシベーション層27にヒロック等の乱反射を生じる凹凸構造が生じてしまう。
【0025】
具体的には、パッシベーション層27の材料としてNiを用い、その層厚を1nmに設定した。Niの層厚は、0.5nm以上であり且つ10nm以下であることが好ましく、1nm以上であり且つ3nm以下であることがさらに好ましい。Niの層厚が過小である場合、Agからなる反射層を構成する原子の拡散を防止することができない。一方、Niの層厚が過大である場合、Niからなるバッファ層と同様に自身による反射率の低下が問題になるうえ、ヒロックの幅及び高さが大きくなることが予想されるので、後に行われる反射電極層形成工程S4においてヒロックの除去が困難となる。パッシベーション層27の他の材料候補としては、TiやTiを含む合金等、Ni同様に密着性を向上させる金属であり得る。しかし、他の候補ではNiを用いた場合よりも反射率が低下してしまうため、Niが好ましい。
【0026】
反射電極前駆層30の酸化防止層28は、後の熱処理工程S3中にパッシベーション層27、反射層26及びバッファ層25が酸化されることを防止し、良好な電気伝導特性を有し、パッシベーション層27を形成する際又は熱処理中に形成され得るヒロック等の不要な凹凸構造を覆うための金属層である。さらに、酸化防止層28は、熱処理工程S3においてパッシベーション層27との界面において相互拡散する金属層であり得る。酸化防止層28は、熱処理工程において、パッシベーション層27と相互拡散することによって、パッシベーション層27上に生じ得るヒロック等の凹凸構造を緩和することができる。さらに、かかる相互拡散によって、ヒロック等の凹凸構造を構成する原子のスパッタ率が、酸化防止層28を構成する原子のスパッタ率に比べて小なる場合、酸化防止層28が先に除去されて、ヒロック等の凹凸構造に対応する構造がパッシベーション層27上に残存してしまうことが防止される。酸化防止層28は後の工程において除去されるので、エッチング等によって除去が容易な金属層であり得る。酸化防止層28の層厚が過小である場合、パッシベーション層27上に存在するヒロック等の不要な構造を覆うことができないので、後に行われる酸化防止層28の除去工程において、ヒロック等を十分に除去することができない。逆に、酸化防止層28の層厚が過大である場合、反射電極前駆層30の熱処理工程において、酸化防止層28を構成する金属原子がパッシベーション層27、反射層26及びバッファ層25にまでマイグレーションしてしまい不要な凝集構造が生じてしまい、散乱によって反射率が低下してしまう。
【0027】
具体的には、酸化防止層28の材料としてAgを用い、その層厚を50nmに設定した。Agからなる酸化防止層28の層厚は、5nm以上であり且つ50nm以下であることが好ましく、10nm以上であり且つ30nm以下であることがさらに好ましい。Agからなる酸化防止層28の層厚が5nm未満の場合、Ni層からパッシベーション層表面に生じたヒロックを十分に覆いきれないため、ヒロックを除去しきれなくなる。一方、Agからなる酸化防止層28の層厚が過大である場合、熱処理後に下層のNiからなるパッシベーション層を経てAgからなる反射防止層26まで拡散し、反射防止層26内にAgからなる酸化防止層28からのAg原子が凝集した凝集構造が形成され得る。酸化防止層28の別の候補材料として、Niからなるパッシベーション層27と良く相互拡散し、後の逆スパッタ工程において除去可能な材料があげられる。
【0028】
次に、バッファ層25、反射層26、パッシベーション層27及び酸化防止層28を成膜及びパターニングする手法について説明する。これら成膜構造は、例えば、ドライプロセス若しくはウェットプロセス等の既存の手法又はこれらを組み合わせて成膜される。ドライプロセスとして電子ビーム蒸着やスパッタ法等があげられ、ウェットプロセスとしてメッキ等があげられる。しかし、緻密な膜を形成することによって高反射率が得られることや、nmオーダーの層厚制御性が必要となることから、全てスパッタ法で形成することが好ましい。成膜後、フォトリソグラフィ技術によって反射電極前駆層の一部に開口部を有する所望のレジストマスクを形成する。開口部において露出している反射電極前駆層の一部をエッチングし、レジストマスクを除去して、図2(b)に示すように、p型半導体層23上に、バッファ層25、反射層26、パッシベーション層27及び酸化防止層28が順次積層された反射電極前駆層30が形成される。上記エッチングは、市販されている既存のAgエッチング溶液、硝酸を含む混酸溶液等のエッチング液を用いて行われる。本実施例1においては、純水:硝酸:酢酸:リン酸=1:1:8:10の混酸溶液からなるエッチング液を用いてエッチングされる。反射電極前駆層30の別のパターニング方法として、リフトオフ法によって、反射電極前駆層形成領域に開口部を有する所望のフォトレジストマスクを形成して、その後、フォトレジストマスクの開口部に、バッファ層25、反射層26、パッシベーション層27及び酸化防止層28を順次積層した後、フォトレジストパターンを除去することにより、図2(b)に示すような反射電極前駆層30が形成される。
【0029】
以上の工程を経ることにより、p型半導体層23上に、バッファ層25、反射層26、パッシベーション層27及び酸化防止層28が順次積層された反射電極前駆層30が形成される(図2(b))。
【0030】
尚、バッファ層25の層厚とパッシベーション層27の層厚との和は、反射層26の層厚の1/60以下であるのが好ましい。かかる割合が過大である場合、熱処理でバッファ層25及びパッシベーション27が反射層26に相互拡散して過大に合金化してしまう。かかる合金化によって、反射層26が有する本来の反射率が低下する。
【0031】
(S3:反射電極前駆層の熱処理工程)
反射電極前駆層30に対して熱処理を行う。
【0032】
熱処理工程によって、バッファ層25、反射層26、パッシベーション層27及び酸化防止層28の結晶性が向上する。さらに、熱処理工程において、バッファ層25、反射層26、パッシベーション層27及び酸化防止層28を構成する各原子がそれぞれの層の界面付近において相互拡散することによって、反射電極前駆層形成工程S2において生じ得る層厚の不均一性、凝集構造、各層のボイドが緩和される。これにより、反射層26が平坦化されて層厚の不均一性や段差による散乱が抑制されて、高反射率が達成される。
【0033】
熱処理時の温度は、前駆反射電極層30のバッファ層25、反射層26、パッシベーション層27及び酸化防止層28の融点未満とし、バッファ層25、反射層26、パッシベーション層27及び酸化防止層28が互いに相互拡散し得る温度において行われる。さらに、熱処理温度は、半導体膜20の素子構造に対して影響を及ぼさないような温度にて行われる。熱処理温度が低すぎる場合、バッファ層25、反射層26、パッシベーション層27及び酸化防止層28に生じた凝集構造やボイドを緩和することができず、結晶性や接触抵抗の改善が得られない。逆に、熱処理温度が高すぎる場合、バッファ層25、反射層26、パッシベーション層27及び酸化防止層28が界面付近以外においても拡散してしまい、反射率が低下し得る。
【0034】
具体的な熱処理条件について説明する。バッファ層25、反射層26、パッシベーション層27及び酸化防止層28に対して、低接触抵抗を実現する条件として、熱処理は、少なくとも酸素を含む雰囲気下において400℃以上の温度にて行われる。酸素を含む雰囲気下で温度450〜550℃にて加熱時間30〜120秒であることがさらに好ましい。かかる条件に対して加熱温度が過度に低く且つ加熱時間が過度に短い場合、酸化防止層28を構成するAgとパッシベーション層27を構成するNiと相互拡散して界面付近で形成されるNiAg合金が不十分となる。一方、加熱温度が過度に高く且つ加熱時間が過度に長い場合、反射層26を構成するAgの酸化を抑制することが困難となる。酸素濃度に対する検討は行っていないが、大気雰囲気にて加熱温度500℃にて加熱時間1分の熱処理を実行することにより、10−4[Ωcm]より低い接触抵抗と93%以上の高い反射率が達成される。更に不活性ガス(N、Ar等)雰囲気中で300℃以上の追加アニールを行うことにより、最大で97%程度のより高い反射率も達成される。しかし、この不活性ガス中の追加熱処理により、接触抵抗が増大する傾向があるため、素子形状及びバッファ層25を構成するNiの層厚に応じて所望の接触抵抗と反射率が得られるよう熱処理条件を調整する必要がある。本実施例1の製造方法においては、後の支持基板接合工程S7において、N雰囲気下で340℃/10分以上の熱処理が実行されて、反射率が改善するため、この反射電極前駆層熱処理工程S3において追加熱処理は実行していない。
【0035】
具体的に、熱処理後においで図2(b−1)に示すように、熱処理後の反射電極前駆30´として、p型半導体層23上に、Niバッファ25とAg反射層26とにより形成されたNiAg合金層25A、合金化されずに残ったAg反射層26の一部であるAg反射層26A、Ag反射層26とNiバッジペーション層27とAg酸化防止層28とにより形成されたNiAg合金層27A、合金化も酸化もされずに残ったAg酸化防止層28B、Ag酸化防止層28の表面側が酸化されてできたAg酸化物層28Bが形成されると考えられる。あるいは、図2(b−2)に示すように、NiAg合金層27A上には、NiAg合金層27Aの一部が酸化されたNiAg酸化物層28C、Ag酸化防止層28が酸化されてできたAg酸化物層28Aが形成されると考えられる。
【0036】
(S4:反射電極層形成工程)
熱処理後の前駆反射電極前駆層30´のAg酸化防止層28Aを、NiAg合金層27Aの一部または全部とともに除去して、図2(c)に示すような反射電極層31を形成する。このとき、上記した熱処理後の反射電極前駆層30´の構成に応じて、Ag酸化防止層28B又はNiAg酸化物層28Cも除去される。
【0037】
酸化物層28Aの除去方法について具体的に説明する。酸化物層28Aの除去は、逆スパッタ法により行われる。逆スパッタ法とは、スパッタ対象基板の近傍に不活性ガスイオンからなるプラズマを生じさせ、スパッタ対象基板材料の表面結合エネルギーに応じた負の加速電圧を印加して、不活性ガスイオンをスパッタ対象基板に対して照射することによって、スパッタ対象基板からその構成原子を飛出させる手法である。逆スパッタ法を用いれば、イオン化原子の照射範囲に限界があるスパッタガンを用いるよりも、大面積のスパッタ対象ウェハを同時にスパッタリングすることができる。よって、複数の素子構造が形成されたウェハにおいては、素子構造間のバラツキを抑えることができ、さらに、高速でスパッタリングすることができる。本実施例においては、不活性ガスとしてArを採用し、真空度0.5PaのAr雰囲気下にて、10nm/分程度のエッチングレートでAgからなる酸化防止層28が酸化されてできたAg酸化物層28Aをエッチングした。AgからなるAg酸化物層28AとNiからなるパッシベーション層27との界面に熱処理工程S3において形成されるNiAg合金層は、Agからなる酸化防止層28よりも逆スパッタによるエッチングレートが低いため、酸化防止層28を構成するAgの層厚よりも少し厚めのAg酸化物層28Aをエッチングする条件を選択することによって、効果的にヒロックを含むNiAg合金層27Aの一部を除去してパッシベーション層27の表面を露出させることが可能である。または、NiAg合金層27Aの全部を除去して(この場合において、Ag層26Aの一部が除去されてもよい)、Agからなる表面を露出されることができる。
【0038】
ここで、パッシベーション層27の膜厚が比較的小さい場合、熱処理工程S3においてパッシベーション層27を構成するNi原子が全体的に反射層26及び酸化防止層28を構成するAg原子と相互拡散して、パッシベーション層27が全体的にNiAg合金層27Aに変化している。そして、AgのエッチングレートがNiAg合金のエッチングレートよりも速いため、NiAg合金層27Aの全てを除去するのではなく、合金化する前のパッシベーション層27の膜厚と同程度となるよう、NiAg合金層27Aを除去して、NiAg合金表面を露出することが好ましい。
【0039】
(S5:キャップ層形成工程)
図2(c)に示す構造体に対して、反射電極層31を覆うようにキャップ層32を形成する。
【0040】
キャップ層32は、自身がマイグレーションしにくく、更に、反射電極層31の構成材料のマイグレーションを防止し得る材料を採用する。キャップ層32の材料として、Ti又はTiW等があげられる。所望のパターンはp電極の場合と同様にリフトオフ法やエッチングを用いて形成することができるが、キャップ層の材料は残存無くエッチングすることが困難な材料系となるため、リフトオフ法で形成することが望ましい。成膜方法は、電子ビーム蒸着に比べて段差部分の被覆率が良いことからスパッタ法を用いることが望ましい。スパッタ法を用いるのは、反射電極層形成工程S4で用いる逆スパッタ法と同一の処理装置内でキャップ層32を形成することができるからである。
【0041】
(S6:接続金属形成工程)
ステップS6において形成されたキャップ層32上に接合金属層33を形成する(図2(d))。
【0042】
接合金属層33は、支持基板50を半導体膜に接合するための金属層である。接合金属層33は、拡散防止層(図示せず)と接合層(図示せず)とをキャップ層32上に順次形成される。具体的には、拡散防止層としてPtを用いて、接合層としてAu又はAuSnを用いた。別の構成の接合金属層33として、キャップ層32と拡散防止層との間に追加の金属層を挿入し得る。これにより、キャップ層32との密着性がさらに向上され得る。キャップ層32との密着性を向上せしめる金属層としては、Ti又はNiからなる金属層があげられる。
【0043】
(S7:支持基板接合工程)
接合金属層33と支持基板50とを接合する。
【0044】
支持基板50は、成長基板10又は半導体膜20と同程度の熱膨張係数を有し得る。これには、半導体発光素子1の駆動時に生ずる熱によって、成長基板10、半導体膜20又は支持基板50に圧縮応力又は伸縮応力が印加され、半導体発光素子1全体として歪が生じたりクラックが生ずることを防止するためである。さらに、支持基板50は、高熱伝導率を有し得る。駆動時に生ずる熱を放熱するためである。具体的には、支持基板は、表面にAuSn等が形成されたSiであるメタライズドSiである。なお、支持基板は、Siからなる半導体基板に限られず、Ge、GaAs,もしくはGaP等からなる半導体基板、Fe,Geの合金、Cu,Cu合金、Al、Al合金等からなる金属基板であってもよい。
【0045】
(S8:成長用基板除去ステップS8)
成長用基板10の一部を除去してn型半導体層21の一部を表出させる。n電極40を形成するための開口部を設けるためである。
【0046】
具体的には、成長基板10の表面にフォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィ技術を用いて所望の形状にパターンニングする。次に反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)装置に投入し、n型半導体層21の一部が表出するまでエッチングすることによって、成長基板10の一部が除去される。尚、成長用基板10の全てを除去してn型半導体層21の全てを表出することもできる。除去手法としては、レーザリフトオフや、半導体膜形成途中に剥離用の犠牲層を挟み機械的・化学的手法により基板剥離する等、既存の剥離方法を用いて成長基板10の全部が剥離される。
【0047】
(S9:n電極形成工程)
n型半導体層21の露出表面上に、n電極40を形成する。
【0048】
具体的には、既存の電子ビーム蒸着法を用いてn型半導体層21の露出面上に1nmの層厚を有するTiと1000nmの層厚を有するAlとを順次成膜し、n電極パターンをリフトオフ法により形成して、n電極40が形成される。
【0049】
(S10:素子分離工程)
半導体膜20及び支持基板80を切断し、半導体発光素子を個片化する。具体的には、例えば、既存のレーザスクライブ/ブレイキング、ポイントスクライブ/プレイキング、ダイシング等を利用して行われた。以上の各工程を経ることにより、図2(e)に示すような半導体発光素子1が完成する。
【実施例2】
【0050】
本発明の実施例2に係る半導体発光素子1の製造方法について、図3及び図4を参照しつつ以下に説明する。図3は、本発明の実施例2に係る半導体発光素子1の製造工程を示すフロー図である。図4(a)及び(b)は、いくつかの製造工程における半導体発光素子1の断面図である。なお、図3に示した実施例2の製造工程S21乃至S26は、図1に示した実施例1の製造工程S1乃至S6と同様であるので詳細な説明は省略する。実施例1においては、図2(d)に示すように、キャップ層32はp型半導体層23が露出しないように形成された。実施例2においては、図4(a)に示すように、p型半導体層23の一部が露出するようにキャップ層32を形成しており、この点で実施例1とは異なることに留意すべきである。
【0051】
(S27:n型半導体露出工程)
図4(a)に示す構造体のp型半導体層23及び活性層22の一部を除去して、n型半導体層21の一部を露出させる。
【0052】
具体的には、半導体層20の表面にフォトレジストを塗布し、フォトリングラフイ技術を用いて所望の形状にパターンニングする。次に、反応性イオンエッチング(RIE)装置に投入し、半導体層20が表出している領域(凹部を形成したい領域)をn型半導体層21の一部が表出するまでエッチングする。
【0053】
(S28:n電極形成工程)
n型半導体露出工程S22において露出されたn型半導体層21の表面上にn電極40を形成する。
【0054】
具体的には、n電極40は、1nmの層厚を有するTiと、1000nmの層厚を有するAlとを電子ビーム蒸着を用いて順次形成し、リフトオフ法によりパターニングを行った。
【0055】
(S29:接合金属層形成工程)
ステップS21において形成されたn電極40上に接合金属層60を形成する。
【0056】
接合金属層60は、n電極40と支持基板50とを貼り合わせるための金属層である。接合金属層60は、拡散防止層(図示せず)と接合層(図示せず)とをn電極40上に順次形成される。具体的には、拡散防止層としてPtを用いて、接合層としてAu又はAuSnを用いている。別の構成の接合金属層60は、n電極40との密着性を向上せしめる金属層、拡散防止層及び接合層をn電極40上に順次形成される。n電極40との密着性を向上せしめる金属層としては、Ti又はNiからなる金属層があげられる。
【0057】
(S30:支持基板接合工程)
接合金属層33及び接合金属層60と、支持基板50と、を接合する。
【0058】
支持基板50は、成長基板10又は半導体膜20と同程度の熱膨張係数を有し得る。これは、半導体発光素子1の駆動時に生ずる熱によって、成長基板10、半導体膜20又は支持基板50に圧縮応力又は伸縮応力が印加され、半導体発光素子1全体として歪が生じたりクラックが生ずることを防止するためである。さらに、支持基板50は、高熱伝導率を有し得る。駆動時に生ずる熱を放熱するためである。具体的には、支持基板50の材料は、表面にAuSn等が形成されたSiであるメタライズドSiである。なお、支持基板は、Siからなる半導体基板に限られず、Ge、GaAs,もしくはGaP等からなる半導体基板、Fe,Geの合金、Cu,Cu合金、Al、Al合金等からなる金属基板であってもよい。支持基板50には、反射電極31の上方に形成された接続金属層33とn電極40上に形成された接続金属層60とにそれぞれ接続されるp電極用配線とn電極用配線とが電気的に絶縁された配線が設けられている。p電極用配線とn電極用配線とが、それぞれ金属層33と接続金属層60と配置されるように、支持基板50が成長基板10に対して位置合わせされた状態で接合される。接合手法は、共晶接合等の既存の手法を用いる。
【0059】
(S31:素子分離工程)
半導体膜20及び支持基板80を切断し、半導体発光素子を個片化する。具体的には、例えば、既存のレーザスクライブ/ブレイキング、ポイントスクライブ/プレイキング、ダイシング等を利用して行われた。以上の各工程を経ることにより、図4(b)に示すような半導体発光素子2が完成する。
【0060】
尚、上記実施例2においても、上記支持基本接合工程30と上記素子分離工程31との間に任意に成長用基板除去工程を用いて、成長基板を除去してもよい。また、上記実施例1又は2において、光取り出し面に光取り出しを向上するための凹凸を形成する工程などを適宜追加することができる。
【0061】
上記実施例1又は2において、接合金属層形成工程S6又はS29、および、支持基板接合工程S7又はS30を経て、半導体膜に支持基板を貼り合わせて支持基本を形成しているが、本発明において、支持基板として金属基板を形成する場合には、接合金属層形成工程と支持基板接合工程の代わりに、めっき法を用いて金属を積層することにより支持基板を形成することができる。たとえば、電解めっき法により、Cuを積層して、Cu基板を形成することができる。
【0062】
上記実施例1又は2において、成長基板としてサファイア基板を用いているが、成長基板としてGaN基板などを用いることができ、この場合においても、成長基板は、態様に応じて、除去することもできるし、半導体発光素子を構成する一部として残すこともできる。
【0063】
図5は、本発明の実施例1又は2の製造方法を用いて形成された半導体発光素子1又は2の反射スペクトルを示すグラフ図である。縦軸が反射率(%)であり、横軸が波長(nm)である。図5において、実線は、層厚1nmのNiからなるバッファ層25、層厚150nmのAgからなる反射層26、層厚2nmのNiからなるパッシベーション層27、層厚50nmのAgからなる酸化防止層28を有する反射電極前駆層31に対して熱処理を行った本発明の実施例に係る半導体発光素子(以下、サンプルAと称する)の反射率を示している。一方、点線は、層厚1nmのNiからなるバッファ層25、層厚200nmのAgからなる反射層26、層厚2nmのNiからなるパッシベーション層27を有するものの、酸化防止層28を有しない場合の反射電極前駆層に対して熱処理を行った場合の比較例に係る半導体発光素子(以下、サンプルBと称する)の反射率を示している。サンプルA及びサンプルBの反射スペクトルは、バルクAg同様に光の波長が短くなるにつれて低下している。サンプルA及びサンプルBの反射スペクトルを比較すると、350nmから550nmの波長範囲において、サンプルAの反射スペクトルがサンプルBのものに比べて高くなっていることが分かる。特に、半導体発光素子が発する光の波長付近の450nmに着目すると、サンプルAは93.3%の反射率を有し、サンプルBは450nmにて89.7%の反射率を有する。200nmの層厚を有する熱処理前のAg層の反射率が96.3%であることを考慮すると、本発明の製造方法を用いることによって、半導体発光素子がより理想値に近い反射率を達成できることを示している。
【0064】
接触抵抗についてTLM(Transmission Line Model)測定を用いて調べた結果、上記サンプルAの反射スペクトルが得られた反射電極層の接触抵抗は、10−4[Ωcm]以下であった。一方、上記サンプルBの反射スペクトルが得られた反射電極層の接触抵抗は、10−3〜10−4[Ωcm]であり、本発明の製造方法を用いて製造された反射電極層は、一桁近く低い接触抵抗を有する結果となった。
【0065】
本発明の半導体発光素子の製造方法によれば、半導体膜において生成された光の波長において高反射率を有する反射電極層を形成することができる。かかる光を反射電極層にて高反射率にて反射して、反射光をも光取出し面を介して出射することができるので、高輝度半導体発光素子を製造することができる。
【0066】
本発明の半導体発光素子の製造方法によれば、反射電極層の金属パッシベーション層の表面が酸化防止層によって覆われた状態において、熱処理工程が実施されるので、金属パッシベーション層は、熱処理工程において酸化されて絶縁化されないので、低接触抵抗を有する反射電極層を形成することができる。かかる低接触抵抗によって、反射電極層の下層に形成される半導体膜の半導体層に印加される電位の低下が抑制されるので、半導体発光素子の駆動電圧を低減することができる。
【0067】
本発明の半導体発光素子の製造方法によれば、反射電極層の金属パッシベーション層と酸化防止層との界面に形成され得るヒロックは、酸化防止層と合金化してそのサイズを緩和することができ、ヒロックを含む合金層とともに酸化防止層を除去することができる。ヒロックが軽減されて金属パッシベーション層が平坦化され得る。ヒロックに起因する段差が貼り合わせ工程で軽減される。その結果、支持基板との貼り合わせ不良、剥がれ等の歩留まりの低下が改善することができる。さらに、さらに、ヒロックに起因する段差が軽減されるので、反射電極層と貼り合わせ用の接合層が全体的に接着するので、反射電極層と接合層との間の電流パスが広くなる。これにより、反射電極層の下層に形成される半導体膜の半導体層に対して均一な電位が印加される。
【0068】
本発明の半導体発光素子の製造方法によれば、反射電極層の反射率に対して支配的な反射層は、金属パッシベーション層によって酸化防止されている。反射層を構成する原子が酸素と結合して低反射率を有し且つ絶縁化された酸化物に変化されにくくなり、高温で長時間の熱処理においても反射率低下及び接触抵抗劣化が軽減される。このことは、本発明の半導体発光素子が、長期的に駆動されて発熱する場合であっても、反射率低下による光出力の劣化及び酸化絶縁化による接触抵抗の増大にともなう駆動電圧の劣化も抑制することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体膜上に反射電極を有する半導体発光素子の製造方法であって、
第1の導電型の第1半導体層、活性層および第2の導電型の第2半導体層を順次積層して前記半導体膜を形成する工程と、
前記第2半導体層上にNi、Ti又はこれらの合金のいずれかからなる第1の金属層を形成する工程と、
前記第1の金属層の上にAg、Al、Rh又はこれらを含む合金のいずれかからなる第2の金属層を形成する工程と、
前記第2の金属層の上にNi、Ti又はこれらの合金のいずれかからなる第3の金属層を形成する工程と、
前記第3の金属層の上にAgからなる第4の金属層を形成する工程と、
前記第3の金属層と前記第4の金属層との間で相互拡散が生じるように熱処理を行って、これらの層の界面に合金層を形成する工程と、
前記合金層の少なくとも一部を前記合金層上に形成された層とともに除去することにより前記反射電極を形成する工程と、を含むことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1の金属層の層厚と前記第3の金属層の層厚との和が前記第2の金属層の1/60以下であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1の金属層は、0.5nm以上であり且つ5nm以下の層厚を有するNiからなり、
前記第2の金属層は、50nm以上であり且つ200nm以下の層厚を有するAgからなり、
前記第3の金属層は、0.5nm以上であり且つ10nm以下の層厚を有するNiからなり、
前記第4の金属層は、5nm以上であり且つ50nm以下の層厚を有するAgからなることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
半導体膜と、前記半導体膜上に設けられて前記半導体膜から発せられる光の発光波長に対して光反射性を有する金属反射層とを含む反射電極と、を有する半導体発光素子の製造方法であって、
第1の導電型の第1半導体層、活性層および第2の導電型の第2半導体層を順次積層して前記半導体膜を形成する工程と、
前記第2半導体層上に前記金属反射層と前記半導体膜との格子不整合を緩和する金属バッファ層を形成する工程と、
前記金属バッファ層上に前記金属反射層を形成する工程と、
前記金属反射層上に前記金属反射層の脱離を防止する金属パッシベーション層を形成する工程と、
前記金属パッシベーション層上に前記金属パッシベーション層の酸化を防止する酸化防止層を形成する工程と、
前記金属パッシベーション層と前記酸化防止層との間で相互拡散が生じるように熱処理を行って、これらの層の界面に合金層を形成する工程と、
前記合金層の少なくとも一部を前記合金層上に形成された層とともに除去することにより前記反射電極を形成する工程と、を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項5】
前記金属バッファ層の層厚と前記金属パッシベーション層の層厚との和は、前記金属反射層の1/60以下であることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記金属バッファ層は、Ni、Ti又はこれらの合金のいずれかからなり、
前記金属反射層は、Ag、Al、Rh又はこれらを含む合金のいずれかなり、
前記金属パッシベーション層は、Ni、Ti又はこれらを含む合金からなるからなり、
前記酸化防止層は、Agからなることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記金属バッファ層は、0.5nm以上であり且つ5nm以下の層厚を有するNiからなり、
前記金属反射層は、50nm以上であり且つ200nm以下の層厚を有するAgからなり、
前記金属パッシベーション層は、0.5nm以上であり且つ10nm以下の層厚を有するNiからなり、
前記酸化防止層は、5nm以上であり且つ50nm以下の層厚を有するAgからなることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。

【図1】
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【図2(a)−2(b−1)】
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【図2(b−2)−2(c)】
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【図2(d)−2(e)】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−195407(P2012−195407A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57742(P2011−57742)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】