説明

半導体発光素子

【課題】発光領域への電流注入密度、および発光効率が高められた半導体発光素子を提供する。
【解決手段】半導体発光素子は、支持基板と、第1電極と、第1導電形層と、発光層と、第2導電形層と、第2電極と、を有する。前記第1導電形層は、第1コンタクト層、前記第1コンタクト層の不純物濃度よりも低い不純物濃度を有する窓層、第1クラッド層、を有する。前記第2導電形層は、第2クラッド層、電流拡散層、第2コンタクト層、を有する。前記第2電極は、前記第2コンタクト層の上に延在する細線部と、前記第2コンタクト層の非形成領域に設けられ前記細線部と電気的に接続されたパッド部と、を有する。前記第1コンタクト層および前記窓層のバンドギャップエネルギーは、前記発光層のバンドギャップエネルギーよりもそれぞれ大きい。前記第1コンタクト層は、前記窓層と前記第1電極との間に選択的に設けられ、上方からみて、前記第1コンタクト層と、前記第2コンタクト層と、は、重ならないように設けられたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
照明装置、表示装置、信号機などに用いる発光素子(LED:Light Emitting Diode)には、高出力化が要求される。
【0003】
発光層の下方に、反射金属層を設けて、発光層から下方に向かった放出光を上方に向けて反射すると光取り出し効率を高めることができる。
【0004】
しかしながら、例えば、反射金属層側の電極から注入された電流が横方向に広がりすぎると、発光層での実効的な電流注入密度が低下して発光効率が低下する。このため、高い光出力を得ることが困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−65109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発光領域への電流注入密度、および発光効率が高められた半導体発光素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の半導体発光素子は、支持基板と、前記支持基板の上に設けられた第1電極と、前記第1電極の上に設けられた第1導電形層と、前記第1導電形層の上に設けられた発光層と、前記発光層の上に設けられた第2導電形層と、前記第2導電形層の上に設けられた第2電極と、を有する。前記第1導電形層は、前記第1電極の側から、第1コンタクト層、前記第1コンタクト層の不純物濃度よりも低い不純物濃度を有する窓層、第1クラッド層、をこの順序に少なくとも有する。前記第2導電形層は、前記発光層の側から、第2クラッド層、電流拡散層、第2コンタクト層、をこの順序に少なくとも有する。前記第2電極は、前記第2コンタクト層の上に延在する細線部と、前記第2コンタクト層の非形成領域に設けられ前記細線部と電気的に接続されたパッド部と、を有する。前記第1コンタクト層および前記窓層のバンドギャップエネルギーは、前記発光層のバンドギャップエネルギーよりもそれぞれ大きい。前記第1コンタクト層は、前記窓層と前記第1電極との間に選択的に設けられ、上方からみて、前記第1コンタクト層と、前記第2コンタクト層と、は、重ならないように設けられたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1(a)は第1の実施形態にかかる半導体発光素子の模式平面図、図1(b)はA−A線に沿った模式断面図、である。
【図2】第1の実施形態の変形例にかかる半導体発光素子の模式平面図である。
【図3】図3(a)〜(f)は、第1の実施形態にかかる半導体発光素子の製造方法の工程断面図であり、図3(a)は半導体層の模式図、図3(b)は第1コンタクト層をパターニングした模式図、図3(c)はITOを形成した模式図、図3(d)はウェーハ接着の模式図、図3(e)は第2コンタクト層をパターニングした模式図、図3(f)は分割した素子の模式図、である。
【図4】比較例にかかる半導体発光素子の模式断面図である。
【図5】第2の実施形態にかかる半導体発光素子の模式断面図である。
【図6】図6(a)は第3の実施形態にかかる半導体発光素子の模式平面図、図6(b)はB−B線に沿った模式断面図、である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
図1(a)は第1の実施形態にかかる半導体発光素子の模式平面図、図1(b)はA−A線に沿った模式断面図、である。
半導体発光素子は、支持基板10と、支持基板10の上に設けられた第1電極20と、第1電極20の上に設けられた半導体層58と、を有する。半導体層58は、発光層40と、窓層34と、第1コンタクト層32と、を少なくとも含む。また、窓層34は、第1電極20の一部と接する。なお、本明細書において、「窓層」とは、発光層40のバンドギャップエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有し、発光層からの光を透過可能な層であるものとする。
【0010】
第1コンタクト層32は、窓層34と第1電極20との間に選択的に設けられる。さらに、第1コンタクト層32は、窓層34および第1電極20に接し、窓層34の導電率よりも高い導電率を有する。このようにすると、第1電極20と第1コンタクト層32とのコンタクト抵抗が、第1電極20と窓層34とのコンタクト抵抗よりも低くできる。このため、第1電極20は、第1コンタクト層32を介して窓層34にキャリアを注入できる。
【0011】
また、図1(b)に示すように、半導体層58は、第1電極20の側から、第1コンタクト層32、窓層34、組成傾斜層36、第1クラッド層38、発光層40、第2クラッド層52、電流拡散層54、第2コンタクト層56などを含むことができる。なお、半導体層58の構造は、これに限定されない。第2電極60は、第2コンタクト層56の非形成領域に設けられたパッド部60aと、パッド部60aと接続された細線部60bと、を有することができる。細線部60bは第2コンタクト層56の上に設けられているが、バッド部60aの近傍部では第2コンタクト層56の非形成領域に細線部60bを設けることができる。バッド部60aの直下近傍には第1コンタクト層が存在しておらず電流注入がなされないので、第2コンタクト層56を設ける必要がないからである。第2電極60が設けられていない半導体層58の表面に凹凸を有する光取り出し面58aを設けると、光取り出し効率を高めることができる。
【0012】
また、支持基板10を導電性とすることにより、第1電極20と支持基板10の裏面に設けられた裏面電極62とを導通させることができる。
【0013】
第1電極20は、半導体層58の側から、例えば、透明導電膜26、反射金属層25、バリア金属層24、第2接合金属層23、第1接合金属層22 、バリア金属層21、などとすることができる。なお、構造はこれに限定されるものではない。
【0014】
図1(a)の模式平面図のように、第2コンタクト層56は、上方からみて、破線で表す第1コンタクト層32とは重ならないように設けられる。また、第1コンタクト層32は、上方からみて、細線部60bの延在する方向に分散して設けられた複数領域を含むことができる。すなわち、電流は、選択的に設けられた第1コンタクト層32を介して第1電極20と第2電極60との間を流れる。また、細線部60bと、第1コンタクト層32と、の間の上方からみた最短距離は、例えば5μmとすることができる。このため、上方からみて、発光層40のうち発光強度が大きい領域と細線部60bとが重ならない様にし、高輝度とすることができる。なお、図1(a)において、第1コンタクト層32は矩形であるが、平面形状はこれに限定されず、円形、楕円形、多角形、などであってもよい。
【0015】
図2は、第1の実施形態の変形例にかかる半導体発光素子の模式平面図である。
第1コンタクト層32は、上方からみて、細線部60bの延在する方向に、幅が数μm、長さが数十μm、の矩形状としてもよい。この場合、上方からみて、破線で表す第1コンタクト層32と、第2コンタクト層56と、は重ならないように設けられる。
【0016】
図3(a)〜(f)は、第1の実施形態にかかる半導体発光素子の製造方法の工程断面図であり、図3(a)は半導体層の模式図、図3(b)は第1コンタクト層をパターニングした模式図、図3(c)はITOを形成した模式図、図3(d)はウェーハ接着の模式図、図3(e)は第2コンタクト層をパターニングした模式図、図3(f)は分割した素子の模式図、である。
【0017】
GaAsからなる結晶成長基板70の上に、n形GaAsの第2コンタクト層56(1×1018cm−3のキャリア濃度、0.1μmの厚さ)、n形In0.5(Ga0.3Al0.70.5Pの電流拡散層54(1.6×1018cm−3のキャリア濃度、3.5μmの厚さ)、n形In0.5Al0.5Pの第2クラッド層52(4×1017cm−3のキャリア濃度、0.6μmの厚さ)、発光層40、p形In0.5Al0.5Pの第1クラッド層38(3×1017cm−3のキャリア濃度、0.6μmの厚さ)、p形In0.5(Ga0.7Al0.30.5Pからp形GaPへ組成を徐々に変化させた組成傾斜層36(0.03μmの厚さ)、p形GaPの窓層34(3×1018cm−3の不純物濃度、0.3μmの厚さ)、p形GaPの第1コンタクト層32(5×1020cm−3の不純物濃度、0.1μmの厚さ)、がこの順に積層された半導体層58が形成される(図3(a))。
【0018】
発光層40は、例えば、In0.5Ga0.5Pからなり、4nmの厚さの井戸層20と、In0.5(Ga0.4Al0.60.5Pからなり、厚さ7nmの障壁層を21と、を有するMQW(Multi Quantum Well)構造とする。発光層40は、例えば、0.61〜0.7μmの赤色光波長範囲の光を放出可能である。なお、半導体層58の構造は、これらに限定されない。また、半導体層58は、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法やMBE(Molecular Beam Epitaxy)法などを用いて結晶成長を行うことができる。
【0019】
続いて、図3(b)のように、第1コンタクト層32のうち、窓層34へ電流注入を行う領域をパターニングにより凸部として残し、他の領域を除去する。除去する方法としては、酸溶液を用いたウェットエッチング法やRIE(Reactive Ion Etching)などのドライエッチング法を用いることができる。
【0020】
続いて、図3(c)のように、パターニングされた第1コンタクト層(凸部)32、および凸部のまわりの底面となる窓層34を含む半導体層58の凹凸面の上に、錫ドープ酸化インジウム(ITO:Indium Tin Oxide)、酸化亜鉛、酸化錫などの透明導電膜26を形成する。
【0021】
さらに、Ag、Ag合金、Auなどのうちの少なくともいずれかを含む反射金属層25、Ti、Pt、Niなどを含むバリア金属層24、AuまたはAuInなどの第2接合金属層23、をこの順序で形成する。他方、導電性Siなどからなる支持基板10に、Ti、Pt、Niなどを含むバリア金属層21、AuInなどの第1接合金属層22、をこの順序で形成する。このようにすると、第1電極20と、半導体層58と、の密着性を高め、かつ凹凸により光取り出し効率を高めることができる。
【0022】
図3(d)のように、結晶成長基板70の上に形成された半導体層58の側の第2接合金属層23の表面と、支持基板10の側の第1接合金属層22とを重ね合わせ、加熱かつ加圧により、ウェーハ接着を行う。
【0023】
続いて、図3(e)のように、結晶成長基板70を除去する。さらに、細線部60bの電流注入を行う領域にのみ第2コンタクト層56を残す。
【0024】
続いて、図3(f)のように、細線部60bがパターニングされた第2コンタクト層56の領域に延在するように、パッド部60aが第2コンタクト層56の非形成領域に、それぞれ形成される。パッド部60aと細線部60bとを含む第2電極60は、半導体層58の側から、例えばAuGe、Auなどをこの順序で積層したものとすることができる。さらに、第2電極60が形成されていない半導体層58の表面にフロスト加工を行い凹凸を形成し、光取り出し面58aとする。また、支持基板10の裏面にはTi/Pt/Auなどからなる裏面電極62を形成する。
【0025】
発光層40が、In(Ga1−yAl1−xP(0≦x≦1、0≦y≦0.6)を含むものとすると、緑〜赤色の波長範囲の光を放出することができる。また、発光層40が、AlGa1−zAs(0≦z≦0.45)を含むものとすると、赤色から近赤外光の波長範囲の光を放出することができる。さらに、発光層40が、InGa1−sAs1−t(0≦s≦1、0≦t≦1)のを含むものとすると、近赤外光の波長範囲の光を放出することができる。
【0026】
p形GaPからなる第1コンタクト層32および窓層34は、発光層40のバンドギャップエネルギーよりも高いバンドギャップエネルギーを有し、約0.55μmより長い波長範囲の光を吸収しない。また、第1コンタクト層32としては、In0.5(Ga1−xAlx0.5P(0.3≦x)やAlGa1−xAs(0.5≦x)としてもよい。
【0027】
本実施形態では、第2コンタクト層56をGaAsとしているが、第2コンタクト層56はIn(Ga1−yAl1−xP(0≦x≦1、0≦y≦0.6)、AlGa1−zAs(0≦z≦0.5)、InGa1−sAs1−t(0≦s≦1、0≦t≦1)のいずれかとしてもよい。半導体と金属のオーミック接触を考えた場合、一般的に半導体のバンドギャップエネルギーが小さい方が低いコンタクト抵抗が得られる。よって、赤〜緑色(バンドギャップエネルギー:2.0〜2.2eV)の発光波長範囲に対して、第2コンタクト層56としてこれよりバンドギャップエネルギーが小さい材料を用いることによりコンタクト抵抗を下げることができる。例えば、第2コンタクト層56としてGaAs(バンドギャップエネルギーは、1.4eV)を用い、第2コンタクト層56に接する第2電極60の材料としてAuGe合金を用いて、400℃でシンター工程を行なうと、コンタクト抵抗して5×10−5Ω・cmを得ることができる。
【0028】
細線部60bと第2コンタクト層56の接触している面積(電流が注入される面積)は狭いので、動作時の順方向電圧の上昇を引き起こさないためには、コンタクト抵抗を1×10−4Ω・cm以下とすることが望ましい。そのためには、第2コンタクト層56の材料として、発光波長範囲の赤〜緑色に対応するバンドギャップエネルギー(2.0〜2.2eV)よりも小さいバンドギャップエネルギーを持つ、In(Ga1−yAl1−xP(0≦x≦1、0≦y≦0.6)、AlGa1−zAs(0≦z≦0.5)、InGa1−sAs1−t(0≦s≦1、0≦t≦1)のいずれかとすることが有利である。
【0029】
また、発光層40は、InGa1−xN(0≦x≦1)を含み、窓層34および第1コンタクト層32は、AlGa1−yN(0≦y≦1)を含む系からなる半導体層58としてもよい。この場合、発光層40は、紫外〜緑色の波長範囲の光を放出することができる。また、第2コンタクト層56としては、InGa1−xN(0≦x≦1)を含むものとしてもよい。
【0030】
ITOとGaPとは合金層を形成しにくいので、合金層における放出光の吸収がほとんどない。これに対して、ITOを間に介さずに、例えばAuとGaPの窓層、およびAuとGaPの第1コンタクト層と、をそれぞれ接触させると、例えば第2電極60のシンター工程において、GaPとAuとの界面に合金層が形成され、放出光の一部を吸収する。この結果、輝度低下を生じる。
【0031】
また、p形GaPの第1コンタクト層32には、カーボン(C)などが高濃度でドーピングされている。本発明者らの実験により、第1コンタクト層32の不純物濃度が5×1019cm−3よりも高いと、第1コンタクト層32とITOとのコンタクト抵抗を1×10−3W・cmよりも低くできることが判明した。他方、p形GaPからなる窓層34の不純物濃度(活性化率がほぼ1と見なせるので、キャリア濃度と不純物濃度とはほぼ等しい)は、1〜5×1018cm−3などの範囲でドーピングを行う。窓層の不純物としては、カーボンの他にZnを用いることもできる。GaP層の不純物濃度が5×1019cm−3よりも低いと、第1コンタクト層32とITOとのコンタクト抵抗は1×10−3W・cm以上と高くなることも判明した。
【0032】
反射金属層25として、Auを用いることもできる。但し、発光波長が0.6μm以下の場合、Auの光反射率は低下するので、短波長領域においても光反射率の低下が顕著に起こらないAgを用いる方が高輝度とすることができる。また、AgにInなどを添加したAg合金を用いると、耐湿性を含む耐環境性を高めることができる。
【0033】
図4は、比較例にかかる半導体発光素子の模式断面図である。
Siからなる支持基板110の上に第1電極120が設けられている。第1電極120は、支持基板110の側から、バリア金属層121、第1接合金属層122、第2接合金属層123、バリア金属層124、Ag層125、ITO膜126、が積層された構造である。
【0034】
半導体層158は、第2コンタクト層156、電流拡散層154、第2クラッド層152、発光層140、第1クラッド層138、組成傾斜層136、窓層134、第1コンタクト層132、がこの順に積層される。それぞれの層の材質、不純物濃度、厚さ、は、図3(a)に表す第1の実施形態と同じものとする。なお、結晶成長後に第1コンタクト層132の上に電流ブロック層としてSiOなどの絶縁層190が形成され、さらに選択的に開口部190aが設けられる。開口部190aを覆うように、ITO膜126、Ag層125、バリア金属層124、第2接合金属層123が設けられる。そののち、ウェーハ接着工程を経て、図4の構造とすることができる。
【0035】
比較例において、第1電極120から注入された正孔は、第1コンタクト層132には高濃度にドーピングされており抵抗率が非常に低いので、第1コンタクト層132内を横方向に、内側に向かって広がるキャリアフローF1を生じる。他方、第2電極160の細線部160bから注入された電子は、電流拡散層154により横方向に、外側に向かって広がるキャリアフローF2を生じる。すなわち、発光層140の上方および下方においてキャリアが広がる。このため、発光領域EEGが横方向に広がり、実効的な電流注入密度が低下して発光効率が低下する。
【0036】
これに対して、第1の実施形態では、第1コンタクト層32が除去された領域は、窓層34と透明導電膜26とのコンタクト抵抗が高いため、正孔は注入されない。第1コンタクト層32と透明導電膜26とのコンタクト抵抗は低いので、正孔が注入されキャリアフローF1を生じる。この場合、選択的に設けられた第1コンタクト層32により、正孔は横方向へ広がりにくく、発光領域ERが横方向へ広がることが抑制できる。また、第1コンタクト層32、窓層34、及び第1クラッド層38からなりp形である第1導電形層30の厚さの総和は、第2クラッド層52、電流拡散層54、および第2コンタクト層56からなりn形である第2導電形層50の厚さの総和よりも小さく、かつ正孔の有効質量が電子の有効質量よりも大きいことから、正孔は第1電極20から注入され直上の発光層40に向かって進む。
【0037】
他方、電流拡散層54が低抵抗でありかつ電子の有効質量が小さいことにより、電子は第2電極60から注入されキャリアフローF2を生じ、横方向に広がりつつ発光層40へ流れ込む。この結果、破線で示す発光領域ERは細線部60bの直下へは広がらない。このため、発光層40における電流注入密度が実効的に高められ、高い発光効率とすることができる。発明者らは、第1の実施形態にかかる半導体発光素子の輝度が、比較例の半導体発光素子の輝度よりも20%以上高くすることができることを確認した。この場合、順方向電圧の上昇も抑制され、かつ素子の信頼性を確保できることも確認された。
【0038】
また、第1の実施形態において、発光層40から下方に向かう光Gdは、第1クラッド層38、組成傾斜層36、窓層34、透明導電膜26を通過し、反射金属層25により反射され上方へ向かう反射光Grとなる。反射光Grと、発光層40から上方へ向かう光と、が出力光Goとして、光取り出し面58aから放出される。もし、透明導電膜26が厚すぎると、下方に向かう光Gdと、上方へ向かう反射光Grと、が干渉し、輝度が低下することがある。他方、透明導電膜26が薄すぎると、第1コンタクト層32と透明導電膜26とのコンタクト抵抗が上昇し、順方向電圧が上昇することがある。本発明者らの実験によれば、透明導電膜26の厚さを0.04〜0.09μmの範囲とすると、輝度を高く保ちつつ、順方向電圧を低く保つことができることが判明した。
【0039】
また、第1コンタクト層32が薄すぎると、透明導電膜26と第1コンタクト層32とのコンタクト抵抗が上昇し、順方向電圧の増加を生じる。よって、順方向電圧の増加を生じさせないためには、第1コンタクト層32の厚さを0.03μm以上とする必要がある。一方、GaPからなる第1コンタクト層32の不純物濃度は高いので、バンドギャップ内に不純物準位が形成され、発光層40からの光を吸収することがある。すなわち、第1コンタクト層32が厚が0.2μm、以上の場合には、輝度低下を生じやすい。さらに、第1コンタクト層32をエッチング除去する場合、第1コンタクト層32が厚すぎるとエッチング時間が長くなり、除去された部分の深さの面内分布が大きくなるなどの問題を生じる。このため、第1コンタクト層32の厚さは、0.03〜0.2μmの範囲であることが好ましい。
【0040】
また、窓層34が厚すぎると、窓層34内でも電流が横方向に広がり、発光領域ERが細線部60bの下方まで広がり、輝度の低下を生じる。他方、窓層34が薄すぎると形状の制御が不十分となる。すなわち、第1コンタクト層32が、例えば、0.1μmの場合、電流を注入しない領域の第1コンタクト層を除去するとき、100%のオーバーエッチング条件でエッチングを行うと、エッチング深さが0.2μmとなる。窓層34の厚さが0.2μm以上でないと、組成傾斜層36や第1クラッド層38までエッチングが進むことがある。このため、窓層34の厚さは、0.2〜0.6μmの範囲とすることが好ましい。
【0041】
図5は、第2の実施形態にかかる半導体発光素子の模式断面図である。
第2の実施形態では、窓層34の表面のうち、第1コンタクト層32が設けられていない領域に、SiOなどの絶縁膜90を設ける。絶縁膜90には開口部90aが設けられ、透明導電膜26は、開口部90aに露出した第1コンタクト層32と、開口部90aの非形成領域となる絶縁膜90と、を覆うように設けられる。さらに透明導電膜26の上に第1電極20が設けられる。正孔は、電流ブロック層90でブロックされるので、第1コンタクト層32を通って窓層34へ注入される。
【0042】
第2の実施形態においても、第1導電形層30の厚さは、第2導電形層50の厚さよりも小さく、正孔の有効質量は電子の有効質量よりも重いので、正孔は第1導電形層30内で横方向へ広がらないで第1コンタクト層32の直上の発光層40へ注入される。このため、図5のように、発光領域は第1コンタクト層32の直上となり、電流注入密度を高く保つことができる。第2の実施形態にかかる半導体発光素子は、比較例に対して、輝度を約20%以上高めることができる。
【0043】
絶縁膜90として、SiO、SiON、SiN(Siを含む)を用いると、発光層40からの光の吸収を抑制できる。また、窓層34と、透明導電膜26と、の間の電気的な絶縁をより確実にすることができる。動作電流密度が高く、例えば1Aよりも高い高電流駆動の出力LEDの場合、このように絶縁膜を設けることが好ましい。
【0044】
図6(a)は第3の実施形態にかかる半導体発光素子の模式平面図、図6(b)はB−B線に沿った模式断面図、である。
半導体層58は、第2コンタクト層56、電流拡散層54、第2クラッド層52、発光層40、第1クラッド層38、組成傾斜層36、窓層34、第1コンタクト層32、がこの順に積層される。それぞれの層の材質、不純物濃度、厚さ、は、図3(a)に表す第1の実施形態と同じものとする。
【0045】
第1コンタクト層32は、図1(a)および(b)のように上方からみて、細線部60bの方向に分散して設けられている。他方、電流拡散層54の上に設けられ、GaAsなどからなる第2コンタクト層56も、細線部60bに沿って分散して設けられている。細線部60bは、分散して設けられた第2コンタクト層56の上および電流拡散層54の上に延在する。
【0046】
細線部60bと第2コンタクト層56とのコンタクト抵抗は、細線部60bとn形In0.5(Ga0.3Al0.70.5Pの電流拡散層54とのコンタクト抵抗よりも低い。このため、図6(b)のように、電子は、細線部60bから第2コンタクト層56へ注入され、第2コンタクト層56を介して電流拡散層54へ流れ込む。電子は、電流拡散層54を横方向へ広がりつつ発光層40へ向かって進むキャリアフローF2を生じる。他方、正孔は第1コンタクト層32から直上の発光層40へ向かって進む。この場合、第2コンタクト層56が設けられた領域は、第1コンタクト層32の上の発光領域ERまでの距離が長くなるので、第2コンタクト層56での光吸収が低減され、光取り出し効率をさらに高めることができる。なお、第2コンタクト層56のみを分散し、第1コンタクト層32が連続して設けられていても光吸収を低減することができる。
【0047】
第1〜第3の実施形態およびこれらに付随した変形例にかかる半導体発光素子は、発光層を挟んで設けられた第1および第2のコンタクト層のうち、少なくともいずれかを除去し、第1コンタクト層32と第2コンタクト層56を、上方から見て重ならないように設ける。また、上方からみて、発光強度の高い領域と細線電極60bとが重ならないように設ける。このため、発光層への電流注入密度および発光効率を高め、光取り出し効率を高めることができる。この様にして得られた高出力LEDは、照明装置、表示装置、信号機などに広く用いられる。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
10 支持基板、20 第1電極、25 反射金属層、26 透明導電膜、32 第1コンタクト層、34 窓層、40 発光層、56 第2コンタクト層、58 半導体層、60 第2電極、60a パッド部、60b 細線部、90 絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板の上に設けられた第1電極と、
前記第1電極の上に設けられ、前記第1電極の側から、第1コンタクト層、前記第1コンタクト層の不純物濃度よりも低い不純物濃度を有する窓層、第1クラッド層、をこの順序に少なくとも有する第1導電形層と、
前記第1導電形層の上に設けられた発光層と、
前記発光層の上に設けられ、前記発光層の側から、第2クラッド層、電流拡散層、第2コンタクト層、をこの順序に少なくとも有する第2導電形層と、
前記第2導電形層の上に設けられ、前記第2コンタクト層の上に延在する細線部と、前記第2コンタクト層の非形成領域に設けられ前記細線部と電気的に接続されたパッド部と、を有する第2電極と、
を備え、
前記第1コンタクト層および前記窓層のバンドギャップエネルギーは、前記発光層のバンドギャップエネルギーよりもそれぞれ大きく、
前記第1コンタクト層は、前記窓層と前記第1電極との間に選択的に設けられ、
上方からみて、前記第1コンタクト層と、前記第2コンタクト層と、は、重ならないように設けられたことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記第1コンタクト層は、上方からみて、前記細線部の延在する方向に分散した領域を含むことを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記第2コンタクト層は、上方からみて、前記細線部の延在する方向に分散して設けられたことを特徴とした請求項1または2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記発光層は、In(Ga1−yAl1−xP(0≦x≦1、0≦y≦0.6)、AlGa1−zAs(0≦z≦0.5)、InGa1−sAs1−t(0≦s≦1、0≦t≦1)のいずれかを含み、
前記第1コンタクト層および前記窓層は、GaPをそれぞれ含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記第2コンタクト層は、In(Ga1−yAl1−xP(0≦x≦1、0≦y≦0.6)、AlGa1−zAs(0≦z≦0.5)、InGa1−sAs1−t(0≦s≦1、0≦t≦1)のいずれかを含むことを特徴とする請求項4記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記発光層は、InGa1−xN(0≦x≦1)を含み、
前記窓層および前記第1コンタクト層は、AlGa1−yN(0≦y≦1)を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記窓層と前記第1電極との間の前記第1コンタクト層が設けられていない領域に前記窓層および前記第1電極に接するように設けられた絶縁層をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
【請求項8】
前記第1導電形層の厚さは、前記第2導電形層の厚さよりも小さいことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
【請求項9】
前記第1電極は、前記第1コンタクト層と接する錫ドープ酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化錫のいずれかを含む透明導電膜と、前記透明導電膜と前記支持基板との間に設けられ、前記発光層からの光を反射可能な反射金属層と、を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
【請求項10】
前記透明導電膜の厚さは、0.04μm以上、0.09μm以下、であることを特徴とする請求項9記載の半導体発光素子。
【請求項11】
前記第1電極と接する側の前記第1導電形層の面は、選択的に設けられた前記第1コンタクト層からなる凸部と、前記凸部のまわりの底面となる前記窓層と、を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−231014(P2012−231014A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98374(P2011−98374)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】