説明

半導体磁器組成物の製造方法

【課題】 BaTiOのBaの一部がBi−Naで置換され、結晶粒界にP型半導体を有する半導体磁器組成物に関して、室温抵抗率が50Ω・cm以下と低く、且つジャンプ特性に優れた半導体磁器組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 (BaR)TiO(但しRは希土類元素のうち少なくとも一種)仮焼粉又はBa(TiM)O(但しMはNb、Sbのうち少なくとも一種)仮焼粉からなるBT仮焼粉と(BiNa)TiO仮焼粉からなるBNT仮焼粉とを別々に用意し、該BT仮焼粉と該BNT仮焼粉とを混合した混合仮焼粉から成形体を作製し、該成形体を1vol%以下の酸素濃度中で焼結して焼結体とし、さらに該焼結体を水素含有雰囲気中で熱処理する半導体磁器組成物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、PTCサーミスタ、PTCヒータ、PTCスイッチ、温度検知器などに用いられる、正の抵抗温度を有する半導体磁器組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PTCR特性(正の比抵抗温度係数:Positive Temperature Coefficient of Resistivity)を示す材料としてBaTiOに様々な半導体化元素を加えた組成物が提案されている。これらの組成物は、キュリー温度が120℃前後である。なお、これら組成物は、用途に応じてキュリー温度をシフトさせることが必要になる。
【0003】
例えば、BaTiOにSrTiOを添加することによってキュリー温度をシフトさせることが提案されているが、この場合、キュリー温度は負の方向にのみシフトし、正の方向にはシフトしない。現在、キュリー温度を正の方向にシフトさせる添加元素として知られているのはPbTiOである。しかし、PbTiOは環境汚染を引き起こす元素を含有するため、近年、PbTiOを使用しない材料が要望されている。
【0004】
PTC材料における大きな特徴は、PTC材料の比抵抗値がキュリー点で急激に高くなること(ジャンプ特性=抵抗温度係数α)にあるが、これは、結晶粒界に形成された抵抗(ショットキー障壁による抵抗)が増大するために起こると考えられている。PTC材料の特性としては、この比抵抗値のジャンプ特性が高いものが要求されている。
【0005】
特許文献1のようなPbを含有しないPTC材料は、ジャンプ特性に優れているものは室温比抵抗が高く、ジャンプ特性に劣るものは室温比抵抗が低くなり過ぎるという傾向があり、安定した室温比抵抗と優れたジャンプ特性を両立することができないという問題があった。
【0006】
発明者らは先に、上述した従来のBaTiO系半導体磁器の問題を解決するため、Pbを使用することなく、キュリー温度を正の方向へシフトすることができるとともに、室温抵抗率を大幅に低下させながらも優れたジャンプ特性を示す、BaTiOのBaの一部をBi−Naで置換した材料として、BaTiOのBaの一部がBi−Naで置換され、結晶粒界にP型半導体を有する半導体磁器組成物で組成式を[(Bi0.5Na0.5(Ba1−y1−x]TiOと表し(但しRはLa、Dy、Eu、Gd、Yのうち少なくとも一種)、前記x、yが0<x≦0.14、0.002<y≦0.02を満足する半導体磁器組成物の製造方法であって、焼結を酸素濃度1vol%以下の不活性ガス雰囲気で行う半導体磁器組成物の製造方法を提案した(特許文献2)。
【0007】
これら半導体磁器組成物は、Pbを使用することなくキュリー温度を正の方向にシフトさせ、室温抵抗率を低減しながらも優れたジャンプ特性を示すが、近年ヒータの小型化が進んできており、小型の素子を用いつつも高いヒータ出力を得るために、PTC材料の室温抵抗率をさらに低減したいという要求があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭56−169301号公報
【特許文献2】WO 2006/106910A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は発明者らによって提案されたBaTiOのBaの一部がBi−Naで置換され、結晶粒界にP型半導体を有する半導体磁器組成物に関して、室温抵抗率が50Ω・cm以下と低くし、且つ抵抗温度係数が7%/℃以上のジャンプ特性に優れた半導体磁器組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する第一の発明は(BaR)TiO(但しRは希土類元素のうち少なくとも一種)仮焼粉又はBa(TiM)O(但しMはNb、Sbのうち少なくとも一種)仮焼粉からなるBT仮焼粉と(BiNa)TiO仮焼粉からなるBNT仮焼粉とを別々に用意し、該BT仮焼粉と該BNT仮焼粉とを混合した混合仮焼粉から成形体を作製し、該成形体を1vol%以下の酸素濃度中で焼結して焼結体とし、さらに該焼結体を水素含有雰囲気中で熱処理することを特徴とする半導体磁器組成物の製造方法である。
この発明で用いる材料は材料中の酸素が欠損することでキャリアが生成して抵抗率が低下する特徴を有しており、水素含有雰囲気中で熱処理を行うことで酸素欠損を積極的に導入し抵抗率を下げ、室温抵抗率が50Ω・cm以下、抵抗温度係数αが7%/℃以上の半導体磁器組成物を得ることができる。そして、この熱処理を行うと、材料中の酸素欠損が増えるため水素雰囲気中で熱処理を行わない素子よりも焼結体の色が黒くなる。
【0011】
ここで抵抗温度係数αは次式で定義される。
α=(lnR−lnR)×100/(T−T
は最大比抵抗、TはRを示す温度、Tはキュリー温度、RはTにおける比抵抗である。
【0012】
さらに好ましくは前記熱処理の雰囲気は水素含有量が0.1vol%以上であることが望ましい。0.1vol%よりも水素の含有量が少ないと還元力が少なく所望の酸素欠損を作り出すことが出来ず、十分に抵抗率を下げることができない。
【0013】
さらに好ましくは前記熱処理は300℃以上600℃未満の温度で0.5時間以上24時間以下の条件で行うことが望ましい。300℃よりも低い熱処理温度では酸素の欠損を生成するのに不十分であり、室温抵抗率を50Ω・cm以下とすることが出来ない。600℃よりも高い温度での熱処理では生成する酸素欠損が多くなりすぎ、抵抗率が下がりすぎてジャンプ特性が劣化してαが7%/℃以下になり、PTCヒータなどに適用することが困難となるため好ましくない。また、0.5時間よりも短くなると酸素欠損を生成するための十分な時間が得られず、24時間以上であると製造上コストが掛かりすぎてしまうため好ましくない。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、Pbを用いずに室温抵抗率を50Ω・cm以下と低く維持しながら、抵抗温度係数が7%/℃以上のジャンプ特性に優れた半導体磁器組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明による残存法で作製した半導体磁器組成物の走査型キャパシタンス顕微鏡による観察画像の組織写真を示す図である。
【図2】この発明による残存法で作製した半導体磁器組成物の走査型キャパシタンス顕微鏡による観察画像の組織写真を示す図である。
【図3】この発明による添加法で作製した半導体磁器組成物の走査型キャパシタンス顕微鏡による観察画像の組織写真を示す図である。
【図4】この発明による不完全焼結法で作製した半導体磁器組成物の走査型キャパシタンス顕微鏡による観察画像の組織写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明による半導体磁器組成物は、BaTiOのBaの一部をBi−Naで置換した組成を含むものであればいずれの組成でも採用できるが、組成式を[(BiNa)(Ba1−y1−x]TiOと表し(但しRは希土類元素のうち少なくとも一種)、0<x≦0.3、0<y≦0.02を満足する組成、あるいは、組成式を[(BiNa)Ba1−x][Ti1−z]Oと表し(但しMはNb、Sbのうち少なくとも一種)、0<x≦0.3、0<z≦0.005を満足する組成が好ましい。以下、本発明をその実施例によって具体的に説明するが、これら実施例により本発明が限定されるものではない。
【0017】
この発明の特徴は、上記のBaTiOのBaの一部をBi−Naで置換した半導体磁器組成物において、結晶粒界にP型半導体が存在することが好ましい。
【0018】
P型半導体が存在することは、例えば、半導体磁器組成物の任意の面を走査型キャパシタンス顕微鏡で観察することで確認できる。図1〜図4はこの発明における半導体磁器組成物の平面を走査型キャパシタンス顕微鏡で観察した組織写真を示す図である。各図において白く表示されている部分が本組成物の主結晶、灰色に表示されている部分が結晶粒界、灰色よりも黒く表示されている部分がP型半導体である。図1〜図4から明らかなように、P型半導体は結晶粒界に存在している。
【0019】
以下にこの発明による半導体磁器組成物を得るための製造方法の一例を説明する。
【0020】
まず、この発明においては、BaTiOのBaの一部をBi−Naで置換した半導体磁器組成物の製造に際して、(BaR)TiO仮焼粉(半導体磁器組成物が組成式[(BiNa)(Ba1−y1−x]TiOの場合)又はBa(TiM)O仮焼粉(半導体磁器組成物が組成式[(BiNa)Ba1−x][Ti1−z]Oの場合)からなるBT仮焼粉と、(BiNa)TiO仮焼粉からなるBNT仮焼粉を別々に用意し、該BT仮焼粉とBNT仮焼粉を混合した混合仮焼粉を成形して焼結する分割仮焼法を採用する。BT仮焼粉とBNT仮焼粉はそれぞれの原料粉末をそれぞれに応じた適正温度で仮焼することで得られる。
【0021】
上記分割仮焼法を用いることにより、BNT仮焼粉のBiの揮散が抑制され、Bi−Naの組成ずれを防止して異相の生成を抑制することができ、それら仮焼粉を混合して、成形、焼結することにより、室温における抵抗率が低く、キュリー温度のバラツキが抑制された半導体磁器組成物が得られる。
【0022】
上述した分割仮焼法を用いて、本発明による半導体磁器組成物を得るには、以下に示す三つの方法を採用することができる。(1)分割仮焼法においてBT仮焼粉を用意するに際して、BT仮焼粉中にBaCO及びTiOが一部残存するように調製する方法(以下「残存法」と称する)、(2)分割仮焼法にて作製したBT仮焼粉及び/又はBNT仮焼粉にBaCO及び/又はTiOを添加する方法(以下「添加法」と称する)、(3)分割仮焼法にて作製したBT仮焼粉とBNT仮焼粉を焼結する際に、BTとBNTを完全に固溶させずに焼結する方法(以下「不完全焼結法」と称する)である。以下順に説明する。
【0023】
(1)残存法
分割仮焼法においては、BT仮焼粉を用意するに際して、BaCO、TiOと半導体化元素の原料粉末、例えば、LaやNbを混合して混合原料粉末を作製し、仮焼するが、これまでは、完全な単一相を形成させるために、仮焼温度を900℃〜1300℃の範囲で実施していた。これに対して、残存法は、この仮焼温度をこれまでより低い900℃以下で実施し、(BaR)TiO又はBa(TiM)Oを完全に形成させずに、仮焼粉中にBaCO、TiOを一部残存させるものである。
【0024】
残存法によるBaCO、TiOを一部残存させたBT仮焼粉と、別に用意したBNT仮焼粉を混合し、混合仮焼粉を成形、焼結することにより、この発明によるBaTiOのBaの一部がBi−Naで置換され、結晶粒界にP型半導体を有する半導体磁器組成物を得ることができる。
【0025】
BT仮焼粉中におけるBaCO及びTiOの残存量を変化させるには、BT仮焼粉を用意する工程において、仮焼温度を900℃以下で変化させたり、仮焼時間を変化させたり、あるいはBT仮焼粉の配合組成を変化させることにより、BT仮焼粉中におけるBaCO及びTiOの残存量を変化させることができ、これによってP型半導体の存在比率を制御することができる。具体的には仮焼温度を下げる、仮焼時間を短くする、BT仮焼粉の配合組成でBaCOやTiOを多めに秤量するとBaCO及びTiOの残存量が増加し、P型半導体の存在比率を増やすことが出来る。
【0026】
上記残存法において、仮焼温度が900℃を超えると(BaR)TiO又はBa(TiM)O が形成され過ぎ、BaCO、TiOを残存させることができなくなるため好ましくない。仮焼時間は0.5時間〜10時間が好ましく、2〜6時間がより好ましい。
【0027】
BT仮焼粉におけるBaCO及びTiOの残存量は、(BaR)TiO又はBa(TiM)Oと、BaCO及びTiOの合計を100mol%としたとき、BaCOが30mol%以下、TiOが30mol%以下であることが好ましい。
【0028】
BaCOの残存量を30mol%以下としたのは、30mol%を超えるとBaCO以外の異相が生じ、室温比抵抗が上昇するためである。また、焼結工程においてCOガスが発生し、焼結体にクラックが生じるため好ましくない。TiOの残存量を30mol%以下としたのは、30mol%を超えるとBaCO以外の異相が生じ、室温比抵抗が上昇するためである。
【0029】
BaCO及びTiOの残存量の上限はBaCO30mol%、TiO30mol%の合計60mol%、下限は0を超える量となるが、BaCOが20mol%を超える場合、TiOが10mol%未満になるとBaCO以外の異相が生じ室温比抵抗が上昇するため好ましくない。TiOが20mol%を超え、BaCOが10mol%未満になる場合も同様に好ましくない。よって、BaCO又はTiOの一方が20mol%を超える場合は、他方を10mol%以上にするよう、仮焼温度や温度、配合組成などを調整することが好ましい。
【0030】
上述したBaCO及びTiOが一部残存するBT仮焼粉と混合する、(BiNa)TiO仮焼粉からなるBNT仮焼粉を用意する工程は、まず、原料粉末となるNaCO、Bi、TiOを混合して混合原料粉末を作製する。この時、Biを過剰に(例えば5mol%を超えて)添加すると、仮焼時に異相を生成し、室温比抵抗が高くなり好ましくない。
【0031】
次に、上記混合原料粉末を仮焼する。仮焼温度は700℃〜950℃の範囲が好ましい。仮焼時間は0.5時間〜10時間が好ましく、2時間〜6時間がさらに好ましい。仮焼温度が700℃未満あるいは仮焼時間が0.5時間未満では未反応のNaCOや分解して生成したNaOが雰囲気の水分あるいは湿式混合の場合はその溶媒と反応し、組成ずれや特性のバラツキを生じるため好ましくない。また、仮焼温度が950℃を超えるかあるいは仮焼時間が10時間を超えると、Biの揮散が進み、組成ずれを起こし、異相の生成が促進されるため好ましくない。
【0032】
上述した各々の仮焼粉を用意する工程においては、原料粉末の混合の際に、原料粉末の粒度に応じて粉砕を施してもよい。また、混合、粉砕は純水やエタノールを用いた湿式混合・粉砕または乾式混合・粉砕のいずれでもよいが、乾式混合・粉砕を行うと、組成ずれをより防止することができ好ましい。なお、上記においては、原料粉末として、BaCO、NaCO、TiOなどを例としてあげたが、その他のBa化合物、Na化合物などを用いてもよい。
【0033】
上記の通り、BaCO、TiOが一部残存するBT仮焼粉とBNT仮焼粉を別々に用意し、各仮焼粉を所定量に配合した後、混合する。混合は、純水やエタノールを用いた湿式混合または乾式混合のいずれでもよいが、乾式混合を行うと、組成ずれをより防止することができ好ましい。また、仮焼粉の粒度に応じて、混合の後粉砕、あるいは混合と粉砕を同時に行ってもよい。混合、粉砕後の混合仮焼粉の平均粒度は、0.5μm〜2.5μmが好ましい。
【0034】
上述した、BT仮焼粉を用意する工程及び/又はBNT仮焼粉を用意する工程、あるいは各仮焼粉を混合する工程において、Si酸化物を3.0mol%以下、及びCa酸化物またはCa炭酸塩を4.0mol%以下添加すると、Si酸化物は結晶粒の異常成長を抑制するとともに抵抗率のコントロールを容易にすることができ、Ca酸化物またはCa炭酸塩は低温での焼結性を向上させることができ、また還元性をコントロールすることができ好ましい。いずれも上記限定量を超えて添加すると、組成物が半導体化を示さなくなるため好ましくない。添加は、各工程における混合前に行うことが好ましい。
【0035】
BT仮焼粉とBNT仮焼粉を混合する工程により得られた混合仮焼粉は、所望の成形手段によって成形する。成形前に必要に応じて粉砕粉を造粒装置によって造粒してもよい。成形後の成形体密度は2.5〜3.5g/cmが好ましい。
【0036】
焼結は、大気中または還元雰囲気中、あるいは低酸素濃度の不活性ガス雰囲気で行うことができるが、特に、酸素濃度1vol%未満の窒素またはアルゴン雰囲気中で焼結することが好ましい。焼結温度は1250℃〜1380℃が好ましい。焼結時間は1時間〜10時間が好ましく、2時間〜6時間がより好ましい。いずれも好ましい条件からはずれるに従って、室温比抵抗が上昇し、ジャンプ特性が低下するため好ましくない。
【0037】
他の焼結工程として、温度1290℃〜1380℃、酸素濃度1%未満の雰囲気中において、(1)4時間未満の焼結時間で実行するか、あるいは(2)式:ΔT≧25t(t=焼結時間(hr)、ΔT=焼結後の冷却速度(℃/hr))を満足する焼結時間で実行され、次いで、上記式を満足する冷却速度で焼結後の冷却を実行することにより、室温比抵抗を低く保ったまま、高温域(キュリー温度以上)で抵抗温度係数を向上させた半導体磁器組成物を得ることができる。
【0038】
(2)添加法
添加法において、BT仮焼粉を用意するには、BaCO、TiOと半導体化元素の原料粉末、例えば、LaやNbを混合して混合原料粉末を作製し、仮焼する。仮焼温度は1000℃以上が好ましい。仮焼温度が1000℃未満では(BaR)TiO又はBa(TiM)O の完全な単一相が形成されないため好ましくない。完全な単一相が形成されないと未反応のBaCO、TiOが残存することとなり、BaCO粉及び/又はTiO粉の添加を前提とするためその添加量の予測が困難になるためであるが、若干のBaCOやTiOの残存は許容できる。好ましい仮焼温度は1000℃〜1300℃である。仮焼時間は0.5時間〜10時間が好ましく、2〜6時間がより好ましい。
【0039】
添加法において、BNT仮焼粉を用意する工程、BT仮焼粉とBNT仮焼粉の混合(粉砕)工程などについては、上述した残存法と同様である。
【0040】
上記により用意したBT仮焼粉又はBNT仮焼粉或いはそれらの混合仮焼粉に、BaCO及び/又はTiOを添加することが、添加法の特徴である。添加後の混合仮焼粉を成形、焼結することにより、この発明によるBaTiOのBaの一部がBi−Naで置換され、結晶粒界にP型半導体を有する半導体磁器組成物を得ることができる。
【0041】
BaCO及び/又はTiOの添加量は、(BaR)TiO又はBa(TiM)Oと、BaCO及び/又はTiOの合計を100mol%としたとき、BaCOが30mol%以下、TiOが30mol%以下であることが好ましい。この添加量を変化させることにより、P型半導体の存在比率を制御することができる。特に、添加法によれば、添加量を正確に調整できるため、極めて精度よく室温抵抗率のコントロールが可能になるという効果も有する。
【0042】
BaCOの添加量を30mol%以下としたのは、30mol%を超えるとBaCO以外の異相が生じ、室温比抵抗が上昇するためである。また、焼結工程においてCOガスが発生し、焼結体にクラックが生じるため好ましくない。TiOの添加量を30mol%以下としたのは、30mol%を超えるとBaCO以外の異相が生じ、室温比抵抗が上昇するためである。
【0043】
BaCOとTiOを両方含むとき、添加量の上限はBaCO30mol%、TiO30mol%の合計60mol%、下限は0を超える量となるが、BaCOが20mol%を超える場合、TiOが10mol%未満になるとBaCO以外の異相が生じ室温比抵抗が上昇するため好ましくない。TiOが20mol%を超え、BaCOが10mol%未満になる場合も同様に好ましくない。よって、BaCOまたはTiOの一方が20mol%を超える場合は、他方を10mol%以上にすることが好ましい。
【0044】
なお、BT仮焼粉として(BaR)TiO又はBa(TiM)Oとの完全な単一相が形成されているものが好ましいことは先に述べた通りであるが、完全な単一相が形成されたBT仮焼粉の一部を、上述した残存法によるBaCO、TiOが残存するBT仮焼粉で置換し、さらに、BaCO及び/又はTiOを所定量添加することにより、添加量を変化させることもできる。
【0045】
添加法では、上記の通り、BT仮焼粉とBNT仮焼粉と別々に用意した後、該BT仮焼粉又はBNT仮焼粉或いはそれらの混合仮焼粉にBaCO及び/又はTiOを添加する。次いで、各仮焼粉を所定量に配合した後、混合する。混合は、純水やエタノールを用いた湿式混合または乾式混合のいずれでもよいが、乾式混合を行うと、組成ずれを防止することができ好ましい。また、仮焼粉の粒度に応じて、混合の後粉砕、あるいは混合と粉砕を同時に行ってもよい。混合、粉砕後の混合仮焼粉の平均粒度は、0.5μm〜2.5μmが好ましい。
【0046】
上述した、BT仮焼粉を用意する工程及び/又はBNT仮焼粉を用意する工程、或いはそれらの仮焼粉を混合する工程において、Si酸化物を3.0mol%以下、及びCa酸化物またはCa炭酸塩を4.0mol%以下添加すると、Si酸化物は結晶粒の異常成長を抑制するとともに抵抗率のコントロールを容易にすることができ、Ca酸化物またはCa炭酸塩は低温での焼結性を向上させることができ、また還元性をコントロールすることができ好ましい。いずれも上記限定量を超えて添加すると、組成物が半導体化を示さなくなるため好ましくない。添加は、各工程における混合前に行うことが好ましい。
【0047】
BT仮焼粉とBNT仮焼粉を混合する工程以降の、成形、焼結などの工程は、上述した残存法と同様である。
【0048】
(3)不完全焼結法
不完全焼結法において、BT仮焼粉を用意する工程、BNT仮焼粉を用意する工程、BT仮焼粉とBNT仮焼粉を混合(粉砕)する工程、成形工程については、上述した残存法と同様である。
【0049】
不完全焼結法では、BT仮焼粉とBNT仮焼粉との混合仮焼粉を焼結する際に、BTとBNTを完全に固溶させないで焼結することが特徴である。これにより、この発明によるBaTiOのBaの一部がBi−Naで置換され、結晶粒界にP型半導体を有する半導体磁器組成物を得ることができる。
【0050】
不完全焼結法における焼結温度、焼結時間は、BT仮焼粉の仮焼温度によって異なるが、例えば、BT仮焼粉の仮焼温度が700℃〜1200℃の場合、焼結温度は1250℃〜1380℃、焼結時間は2.5時間以下が好ましい範囲である。但し、焼結温度が比較的低い場合(例えば1300℃の場合)の好ましい焼結時間は3.5時間以下と長くなってもよく、焼結温度が比較的高い場合(例えば1380℃の場合)の好ましい焼結時間は2時間以下となる。焼結温度が高い場合(例えば1400℃以上の場合)や焼結温度が低くても焼結時間が長い場合(例えば5時間以上の場合)は、BTとBNTが完全に固溶してしまうため好ましくない。
【0051】
上記のように、焼結温度と焼結時間を制御することにより、BTとBNTの固溶度を変化させることができ、これによってP型半導体の存在比率を制御することができる。
【0052】
そして、この発明によれば、上述した残存法、添加法、不完全焼結法のいずれかで焼結体を得たあとに水素雰囲気中で熱処理を行うことで酸素欠損を積極的に導入し抵抗率を下げ、室温抵抗率が50Ω・cm以下、抵抗温度係数αが7%/℃以上の半導体磁器組成物を得ることができる。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
残存法を用い次のようにして半導体磁器組成物を得た。BaCO、TiOの原料粉末を準備し、BaTiOとなるように配合し、純水で混合した。得られた混合原料粉末を900℃4時間大気中で仮焼し、BT仮焼粉を用意した。
【0054】
NaCO、Bi、TiOの原料粉末を準備し、(Bi0.5Na0.5)TiOとなるように配合し、エタノール中で混合した。得られた混合原料粉末を、900℃で2時間大気中で仮焼し、BNT仮焼粉を用意した。
【0055】
用意したBT仮焼粉とBNT仮焼粉をモル比で73:7となるように配合し、純水を媒体としてポットミルにより、混合仮焼粉の中心粒径が1.0μm〜2.0μmになるまで混合、粉砕した後、乾燥させた。該混合仮焼粉の粉砕粉にPVAを添加、混合した後、造粒装置によって造粒した。得られた造粒粉を一軸プレス装置で成形し、上記成形体を700℃で脱バインダー後、1360℃、4時間保持で窒素中、酸素濃度0.01vol%の条件にて焼結し、焼結体を得た。
【0056】
得られた焼結体を10mm×10mm×1mmの板状に加工して試験片を作製し、99.5vol%の水素雰囲気中、300℃で0.5時間の熱処理を行った。次いで、ナミックス製のオーミック電極(型番:SR5051)を塗布、さらにナミックス製カバー電極(型番:SR5080)を塗布して180℃で乾燥後600℃、10分保持で焼き付けて電極を形成した。得られた半導体磁器組成物の室温抵抗率は25℃での電気抵抗率を測定し、抵抗温度係数αは恒温槽で260℃まで昇温しながら抵抗−温度特性を測定して算出した。得られた結果を表1に示す。水素雰囲気中での熱処理後の室温抵抗率は49Ω・cm、抵抗温度計数αは9.2%/℃となった。またP型半導体の面積濃度は走査型キャパシタンス顕微鏡によって観察し、そのP型半導体とN型半導体の面積比率から算出した。
【0057】
(実施例2)
実施例2はBaの一部をLaで置換した例である。残存法を用い次のようにして半導体磁器組成物を得た。BaCO、TiO、Laの原料粉末を準備し、(Ba0.994La0.006)TiOとなるように配合し、純水で混合した。得られた混合原料粉末を900℃4時間大気中で仮焼し、BT仮焼粉を用意した。
【0058】
NaCO、Bi、TiOの原料粉末を準備し、(Bi0.5Na0.5)TiOとなるように配合し、エタノール中で混合した。得られた混合原料粉末を、900℃で2時間大気中で仮焼し、BNT仮焼粉を用意した。
【0059】
用意したBT仮焼粉とBNT仮焼粉をモル比で73:7となるように配合し、純水を媒体としてポットミルにより、混合仮焼粉の中心粒径が1.0μm〜2.0μmになるまで混合、粉砕した後、乾燥させた。該混合仮焼粉の粉砕粉にPVAを添加、混合した後、造粒装置によって造粒した。得られた造粒粉を一軸プレス装置で成形し、上記成形体を700℃で脱バインダー後、1360℃、4時間保持で窒素中、酸素濃度酸素濃度0.01vol%の条件にて焼結し、焼結体を得た。
【0060】
得られた焼結体を実施例1と同様の方法で加工、水素中熱処理、電極形成、特性評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0061】
実施例3〜17は実施例2を元に水素濃度、熱処理温度、熱処理時間を変えた例である。その他の半導体磁器組成物の作製方法や評価方法は実施例1と同様の方法で行った。得られた結果を表1に示す。
【0062】
実施例18〜22はBT仮焼粉とBNT仮焼粉のモル比を変化させた例である。その他の半導体磁器組成物の作製方法や評価方法は実施例1と同様の方法で行った。得られた結果を表1に示す。
【0063】
(実施例23)
実施例23はTiの一部をNbで置換した例である。BaCO、TiO、Nbの原料粉末を準備し、Ba(Ti0.997Nb0.003)Oとなるように配合し、純水で混合した。得られた混合原料粉末を900℃4時間大気中で仮焼し、BT仮焼粉を用意した。
【0064】
NaCO、Bi、TiOの原料粉末を準備し、(Bi0.5Na0.5)TiOとなるように配合し、エタノール中で混合した。得られた混合原料粉末を、900℃で2時間大気中で仮焼し、BNT仮焼粉を用意した。
【0065】
用意したBT仮焼粉とBNT仮焼粉をモル比で73:7となるように配合し、純水を媒体としてポットミルにより、混合仮焼粉の中心粒径が1.0μm〜2.0μmになるまで混合、粉砕した後、乾燥させた。該混合仮焼粉の粉砕粉にPVAを添加、混合した後、造粒装置によって造粒した。得られた造粒粉を一軸プレス装置で成形し、上記成形体を700℃で脱バインダー後、1360℃、4時間保持で窒素中にて焼結し、焼結体を得た。得られた焼結体を300℃、3時間水素中で熱処理を行い実施例1と同様の方法で電極を形成し、半導体磁器組成物を得た。評価方法は実施例1と同様の方法で行った。得られた結果を表2に示す。
【0066】
実施例24〜28はTiの一部をNbで置換し、熱処理条件を変えた例である。その他の半導体磁器組成物の作製方法や評価方法は実施例23と同様の方法で行った。得られた結果を表2に示す。
【0067】
実施例29はTiの一部をSbで置換した例である。Nbの代わりにSbを使用した以外は実施例23と同様の方法で試料を作製、特性評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0068】
実施例30は添加法を用いた例である。試料は次のようにして作製した。BaCO、TiO、Laの原料粉末を準備し、(Ba0.994La0.006)TiOとなるように配合し、純水で混合した。得られた混合原料粉末を1100℃、4時間大気中で仮焼した。その仮焼粉に30mol%BaCOとTiOをそれぞれ添加してBT仮焼粉を用意した。その他の半導体磁器組成物の作製方法や評価方法は実施例2と同様の方法で行った。得られた結果を表2に示す。
【0069】
実施例31〜45は添加法を用い、水素中熱処理の条件を変えた例である。半導体磁器組成物の作製方法や評価方法は実施例2と同様の方法で行った。水素中熱処理の条件と得られた結果を表2に示す。
【0070】
実施例46は不完全焼結法を用いた例である。焼結温度を1280℃とした以外は半導体磁器組成物の作製方法と評価方法は実施例2と同様の方法で作製した。得られた結果を表3に示す。
【0071】
実施例47〜61は不完全焼結法を用いて水素中熱処理の条件を変えた例である。半導体磁器組成物の作製方法や評価方法は実施例2と同様の方法で行った。水素中熱処理の条件と得られた結果を表3に示す。
【0072】
実施例62〜64は残存法を用いて焼結時の酸素濃度を変えた例である。実施例62では焼結時の酸素濃度を0.98vol%、実施例63では0.3vol%、実施例62では0.03vol%にして焼結を行った以外は半導体磁器組成物の作製方法と評価方法は実施例9と同様の方法で行った。得られた結果を表3に示す。
【0073】
実施例65〜69は電極形成後に水素中熱処理を行った例である。水素中熱処理を電極形成後に行った以外は半導体磁器組成物の作製方法と評価方法は実施例2〜6と同様の方法で行った。水素中熱処理の条件と得られた結果を表4に示す。
【0074】
実施例70〜80は希土類元素Rを変えた例である。実施例70ではPr、以後実施例番号が大きくなる順にNd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Tm、Yb、Luを希土類元素として用いた。それ以外の半導体磁器組成物の作製方法と評価方法は実施例2と同様の方法で行った。得られた結果を表4に示す。
【0075】
比較例1は水素中で熱処理を行わない例である。熱処理を行わないこと以外は実施例2と同様の作製方法で試料を得て、特性評価を行った。得られた結果を表4に示す。
【0076】
比較例2〜6は水素中での熱処理条件を本発明の範囲外で行った例である。熱処理の条件以外は実施例と同様の作製方法で試料を得て、特性評価を行った。得られた結果を表4に示す。
【0077】
比較例7は焼結時の酸素濃度を1.05vol%とした例である。それ以外の半導体磁器組成物の作製方法や評価方法は実施例9と同様の方法で行った。得られた結果を表4に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【0082】
表1〜表4より、本発明の実施例によればいずれの構成であっても室温抵抗率が50Ω・cm以下と低く、抵抗温度係数が7.0%/℃以上のジャンプ特性に優れた半導体磁器組成物を得られることが分かる。また、実施例1と比較例2より、熱処理温度が300℃以上でないと室温抵抗率が50Ω・cm以下に低減できず、実施例15と比較例3より、熱処理温度が600℃よりも高くなると抵抗温度係数が7.0%/℃以下になってしまい、ジャンプ特性に優れた半導体磁器組成物を得ることができないことが分かる。また、実施例7〜10と比較例4を比較すると熱処理時間は0.5時間以上であれば良いことが分かる。ただし、熱処理時間が24時間を越えると製造上コストが掛かりすぎるため好ましくない。また、実施例13と比較例5、6より水素中熱処理の際の水素濃度は0.1vol%以上であれば良いことが分かる。実施例9、62、63、64及び比較例7から、焼結時の酸素濃度は1vol%以上では室温抵抗率が50Ω・cm以下に低減できないことが分かる。
【0083】
また、全ての実施例と比較例において得られた熱処理後の半導体磁器組成物は、結晶粒界にP型半導体を有しており、その面積濃度は0.01〜10%の範囲内であった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
この発明により得られる半導体磁器組成物は、PTCサーミスタ、PTCヒータ、PTCスイッチ、温度検知器などの材料として最適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(BaR)TiO(但しRは希土類元素のうち少なくとも一種)仮焼粉又はBa(TiM)O(但しMはNb、Sbのうち少なくとも一種)仮焼粉からなるBT仮焼粉と(BiNa)TiO仮焼粉からなるBNT仮焼粉とを別々に用意し、該BT仮焼粉と該BNT仮焼粉とを混合した混合仮焼粉から成形体を作製し、該成形体を1vol%以下の酸素濃度中で焼結して焼結体となし、さらに該焼結体を水素含有雰囲気中で熱処理することを特徴とする半導体磁器組成物の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理の雰囲気は水素濃度0.1vol%以上であることを特徴とする請求項1記載の半導体磁器組成物の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理は300℃以上600℃未満の温度で0.5時間以上24時間以下おこなうことを特徴とする請求項1又は2記載の半導体磁器組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−168265(P2010−168265A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184289(P2009−184289)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】