説明

半導体素子の製造方法

【課題】炭化シリコン基板に接するように、オーミック電極となるシリサイド層を形成するに際して、炭化シリコン基板由来の炭素が、オーミック電極内に拡散して表面に析出するのが抑えられ、オーミック電極の上に電極層を密着性良く形成することができる半導体素子の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の半導体素子の製造方法は、炭化シリコン基板2のオーミック電極形成領域2aにシリコン層を形成する第1工程と、シリコン層2上に金属層8を形成する第2工程と、熱処理を行うことによって、シリコン層2に含まれるSiと金属層8の構成元素とを反応させ炭化シリコン基板2と接するシリサイド層41を形成する第3工程と、Siと反応せずに残存した金属層8を除去することによって、シリサイド層41を露出させる第4工程とによってオーミック電極4を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化シリコン(SiC)は、シリコン(Si)に比べて2倍以上のバンドギャップを有するワイドバンドギャップ半導体である。このような特性から、炭化シリコンは、高耐圧デバイス用材料として注目され、パワー素子、耐環境素子、高温動作素子、高周波素子等の種々の半導体素子に応用されている。特に、スイッチング素子(MOSFETやMESFET等)、整流素子(ショットキーダイオードやpnジャンクションダイオード等)などのパワー素子への応用が盛んに検討されている。
【0003】
ところで、これらの半導体素子においては、半導体基板に金属よりなる電極層を直接接続すると、半導体と金属との間に生じるショットキー障壁によって電子やホールの流れが阻害され、所定の機能が得られない。このため、半導体基板とのショットキー障壁が小さい導電層(オーミック電極)を半導体基板と接するように設け、このオーミック電極を介して電極層を半導体基板に接続することが行われている。このオーミック電極としては、例えばシリコンと金属の合金層(シリサイド層)が用いられている。
【0004】
そして、特に、炭化シリコンを用いるパワー素子においては、大電流がオーミック電極を流れるため、オーミック電極の低抵抗化及び信頼性の向上が重要な課題となっている。
炭化シリコンを用いる半導体素子にオーミック電極を形成する方法としては、例えば特許文献1、2等に記載されている方法がある。各文献に記載されているように、オーミック電極を形成するには、炭化シリコン基板の表面に、ニッケル層のような金属層を形成した後、1000℃程度の高温で熱処理する。これにより、炭化シリコン基板に含まれるSiCと金属層の構成元素とが反応し、オーミック電極となるシリサイド層が炭化シリコン基板と接するように形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−243323号公報
【特許文献2】特開2006−24880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述の方法によってオーミック電極を形成すると、SiCと金属層の構成元素との反応過程で炭素が生成され、この炭素がシリサイド層内に拡散して表面に析出してしまう。この析出層は、シリサイド層(オーミック電極)上に形成される電極層の密着性を損ない、電極剥離を引き起こす原因となる。
【0007】
これに対して、特許文献1、2に記載された方法では、熱処理によってシリサイド層を形成した後、プラズマ処理や化学的エッチング処理等を施すことによってシリサイド層表面の析出層、さらには、シリサイド層の表面側の一部を除去することを行っている。しかし、これらの処理を行っても、今度は残存したシリサイド層に拡散する炭素が表面に露出した状態となるため、この炭素によって、その上に形成される電極層の密着性が損なわれ、電極層の剥離を十分に抑えることができないのが実情である。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、炭化シリコン基板に接するように、オーミック電極となるシリサイド層を形成するに際して、炭化シリコン基板由来の炭素が、オーミック電極内に拡散して表面に析出するのが抑えられ、オーミック電極の上に電極層を密着性良く形成することができる半導体素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の半導体素子の製造方法は、炭化シリコン基板と、該炭化シリコン基板に接するように設けられ、シリサイド層よりなるオーミック電極とを有する半導体素子の製造方法であって、前記炭化シリコン基板のオーミック電極形成領域に、前記炭化シリコン基板に接するようにシリコン層を形成する第1工程と、前記シリコン層上に金属層を形成する第2工程と、熱処理を行うことによって、前記シリコン層に含まれるSiと前記金属層の構成元素とを反応させ、前記炭化シリコン基板と接するシリサイド層を形成する第3工程と、Siと反応せずに残存した前記金属層を除去することによって前記シリサイド層の表面を露出させる第4工程と、を有する。
【0010】
本発明の半導体素子の製造方法によれば、炭化シリコン基板上に形成したシリコン層と、該シリコン層上に形成した金属層との反応によってオーミック電極となるシリサイド層を得る。ここでシリコン層と金属層との反応過程では、炭化シリコン基板と金属層との反応過程で生じるような炭素の生成がないため、シリサイド層内やその表面に炭素が拡散、析出することはない。
また、この場合にも、生成されたシリサイド層の金属元素(金属層からシリサイド層に移行した金属元素)が炭化シリコン基板に含まれるSiCと反応し、この反応過程で生成された炭素が、シリサイド層内に拡散して表面に析出する可能性が考えられる。
しかし、シリコン層と金属層とは、炭化シリコン基板と金属元素よりも反応し易く、炭化シリコン基板と金属元素とが反応しないような比較的低い温度であっても、反応してシリサイド層を生成することができる。このため、このような温度で熱処理を行うことによって、炭化シリコン基板とシリサイド層に含まれる金属元素との反応によって炭素を生じることなく、シリサイド層を得ることができ、炭化シリコン基板由来の炭素がシリサイド層内へ拡散して表面で析出するのを確実に抑えることが可能である。
これにより、製造された半導体素子は、オーミック電極(シリサイド層)上に電極層を密着性よく形成することができ、高い信頼性を得ることができる。
【0011】
また、本発明の半導体素子の製造方法において、前記第3工程における熱処理の温度は、前記シリコン層に含まれるSiと前記金属層の構成元素とが反応し得る温度以上であって、前記炭化シリコン基板に含まれるSiCと前記金属層の構成元素とが実質的に反応しない温度であることが好ましい。
【0012】
この方法によれば、炭化シリコン基板に含まれるSiCとシリサイド層に含まれる金属元素(金属層の構成元素)との反応によって炭素を生じることなく、シリサイド層を形成することができ、炭化シリコン基板由来の炭素がシリサイド層内へ拡散して表面に析出するのを確実に抑えることができる。これにより、製造された半導体素子では、オーミック電極(シリサイド層)上に電極層をより密着性良く形成することができ、オーミック電極からの電極層の剥離をより確実に抑えることが可能である。
【0013】
また、本発明の半導体素子の製造方法において、前記金属層は、前記シリコン層に含まれるSiと反応して前記オーミック電極となるシリサイドを生成し得る金属材料によって構成された第1金属層と、前記第1金属層上に積層された第2金属層とを有する多層構成であることが好ましい。
【0014】
この方法によれば、第2金属層によって第1金属層の酸化を防止する等の効果を得ることができる。
【0015】
また、本発明の半導体素子の製造方法において、前記金属層は、少なくとも前記シリコン層と接する側がニッケル層によって構成されていることが好ましい。
【0016】
この方法によれば、抵抗率の低いオーミック電極を得ることが可能である。
【0017】
また、本発明の半導体素子の製造方法において、前記第3工程における熱処理の温度は、400℃以上800℃未満であることが好ましい。
【0018】
この方法によれば、炭化シリコン基板に含まれるSiCとニッケルシリサイド層に含まれるNiとの反応によって炭素を生じることなく、ニッケルシリサイド層を形成することができ、炭化シリコン基板由来の炭素がニッケルシリサイド層内へ拡散して表面で析出するのを確実に抑えることができる。これにより、製造された半導体素子は、オーミック電極(ニッケルシリサイド層)上に電極層をより密着性良く形成することができ、オーミック電極からの電極層の剥離をより確実に抑えることが可能である。
【0019】
また、本発明の半導体素子の製造方法において、前記第3工程において形成される前記シリサイド層は、主としてNiSiよりなることが好ましい。
【0020】
この方法によれば、より抵抗率の低いオーミック電極を得ることが可能である。
【0021】
また、本発明の半導体素子の製造方法において、前記第1工程において、前記炭化シリコン基板上に、前記シリコン層を形成した後、前記シリコン層を前記オーミック電極形成領域に対応するようにパターニングすることが好ましい。
【0022】
この方法によれば、シリコン層の成膜条件を、比較的広い範囲から選択することが可能である。
【0023】
また、本発明の半導体素子の製造方法において、前記第1工程に先立って、前記炭化シリコン基板表面のオーミック電極形成領域以外の領域に酸化シリコン層を形成し、前記第1工程において、前記炭化シリコン基板に対する成膜レートと前記酸化シリコン層に対する成膜レートとの差を利用して、前記炭化シリコン基板のオーミック電極形成領域に、シリコン層を選択的に形成することが好ましい。
【0024】
この方法によれば、前記第1工程でシリコン層のパターニングが不要となるため、半導体素子の製造工程を簡易化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態に係る半導体素子の製造方法によって製造される半導体素子の一例を示す概略縦断面図である。
【図2】第1実施形態に係る半導体素子の製造工程のうち、前工程及び第1工程を示す概略縦断面図である。
【図3】第1実施形態に係る半導体素子の製造工程のうち、第2工程〜第4工程を示す概略縦断面図である。
【図4】第2実施形態に係る半導体素子の製造工程のうち、第1工程を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。かかる実施の形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等が異なっている。
【0027】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態に係る半導体素子の製造方法によって製造される半導体素子の一例について説明する。
図1は、第1実施形態に係る半導体素子の製造方法によって製造される半導体素子の一例を示す概略縦断面図である。
図1に示す半導体素子1は、炭化シリコン基板2と、素子分離膜3と、オーミック電極4とを有している。
【0028】
炭化シリコン基板2は、炭化シリコン層を有する半導体基板であり、炭化シリコン層の所定領域に不純物が注入されることで形成された電子素子を有している。
炭化シリコン基板2は、炭化シリコンよりなるベース基板上に、炭化シリコン層をホモエピタキシャル成長させることで得られたものであってもよく、シリコン等の炭化シリコン以外の材料よりなるベース基板上に、炭化シリコン層をヘテロエピタキシャル成長させることで得られたものであっても良い。また、炭化シリコン基板は、バルク成長させた炭化シリコンであっても構わない。
炭化シリコン層(炭化シリコン基板2)の結晶構造としては、例えば立方晶(3C−炭化シリコン)や六方晶(4H−炭化シリコン、6H−炭化シリコン)等が挙げられる。
また、炭化シリコン基板2に形成される電子素子としては、特に限定されないが、例えば、MOSFETやMESFET等のスイッチング素子、ショットキーダイオードやpnジャンクションダイオード等の整流素子等が挙げられる。
【0029】
素子分離膜3は、炭化シリコン基板2の表面のオーミック電極形成領域2aを除いた領域に設けられている。素子分離膜3は、炭化シリコン基板2に設けられた電子素子同士を絶縁分離するものであり、酸化シリコン(SiO)等の絶縁材料によって構成されている。
【0030】
オーミック電極4は、シリサイドによって構成されており、炭化シリコン基板2のオーミック電極形成領域2aにオーミック接触して設けられている。ここで、オーミック電極形成領域2aは、例えば、炭化シリコン基板2に形成された電子素子がMOSFETの場合には、MOSFETを構成するソース領域内やドレイン領域内に設定される。
【0031】
このようなオーミック電極4は、炭化シリコン基板2とのショットキー障壁が非常に小さいもの(オーミック接触した状態)となっている。このため、オーミック電極4からの電子もしくはホールは障壁を透過して炭化シリコン基板2に移動することができ、オーミック電極4の炭化シリコン基板2に対するコンタクト抵抗は、電流の方向に関わらず低い値となる。
【0032】
次に、第1実施形態に係る半導体素子の製造方法について説明する。
図2は、第1実施形態に係る半導体素子の製造工程のうち、前工程及び第1工程を示す概略縦断面図、図3は、第1実施形態に係る半導体素子の製造工程のうち、第2工程〜第4工程を示す概略縦断面図である。
【0033】
本実施形態に係る半導体素子の製造方法は、炭化シリコン基板2と、該炭化シリコン基板2に接するように設けられ、シリサイド層41よりなるオーミック電極4とを有する半導体素子1の製造方法であって、炭化シリコン基板2のオーミック電極形成領域2aに、炭化シリコン基板2に接するようにシリコン層5を形成する第1工程と、シリコン層5上に金属層8を形成する第2工程と、熱処理を行うことによって、シリコン層5に含まれるSiと金属層8の構成元素とを反応させ、炭化シリコン基板2に接するシリサイド層41を形成する第3工程と、Siと反応せずに残存した金属層8を除去し、シリサイド層41を露出させる第4工程とを有している。以下、各工程について順次説明する。
【0034】
[1]炭化シリコン基板作製工程及び素子分離膜形成工程(前工程)
本工程では、第1工程の前工程として炭化シリコン基板2を作製するとともに素子分離膜3を形成する。
まず、図2(a)に示す炭化シリコン基板2を作製する。
炭化シリコン基板2は、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法等を用い、ベース基板上に炭化シリコンをエピタキシャル成長させることによって得られる。
【0035】
次に、常法に従って、炭化シリコン基板2表面へのパターン形成を行った後、図2(b)に示すように、炭化シリコン基板2のオーミック電極形成領域2aを除いた領域に素子分離膜3となるSiO膜を形成する。
素子分離膜3は、例えばLOCOS(Local Oxidation of Silicon)法やSTI(Shallow Trench Isolation)法等を用いて形成することができる。
素子分離膜3の厚さは、電子素子同士を絶縁分離し得る厚さであれば良く、特に限定されない。本実施形態では、500nm程度の厚さで素子分離膜3を形成する。
【0036】
次に、炭化シリコン基板2に電子素子を形成する。
ここで、目的とする電子素子がnチャネルMOSFETの場合には、常法に従って、例えば炭化シリコン基板2のnチャネルMOSFETを形成する領域にpウェルを形成した後、ゲート酸化膜及びゲート電極を形成し、ソース領域及びドレイン領域に対応する領域にn型不純物を注入する。
以上の工程により、電子素子が形成された炭化シリコン基板2及び素子分離膜3を得る。
【0037】
[2]シリコン層形成工程(第1工程)
次に、図2(c)に示すように、炭化シリコン基板2及び素子分離膜3の上に、シリコン層5を全面的に形成する。
シリコン層5の形成方法としては、特に限定されないが、例えばCVD法、スパッタ法のような気相成膜技術等を用いることができる。
【0038】
シリコン層5の厚さtは、10〜100nm程度であるのが好ましく、20〜50nm程度であるのがより好ましい。後述するようにシリコン層5の上に形成する金属層8の適正な膜厚範囲(抵抗率の低いシリサイド層41が得られる膜厚範囲)は、シリコン層5の厚さtによって決まる。このため、シリコン層5の厚さtが10nm未満であると、金属層8の適正な膜厚が薄くなりすぎ、その膜厚で金属層8を形成するのが困難になる。また、シリコン層5の厚さtが100nmを超えると、これに応じて金属層8の膜厚も厚くすることが必要となり、金属層8を形成する際の膜応力によって膜剥れなどの問題が生じる可能性がある。シリコン層5の厚さtを前記範囲とすることにより、膜剥れを生じることなく、金属層8を適正な膜厚で容易に形成することが可能となり、抵抗率の低いシリサイド層41を確実に得ることができる。
本実施形態では、シリコン層5は、CVD法を用い、膜厚20nmのアモルファスシリコン膜として形成する。
【0039】
次に、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用い、オーミック電極形成領域2a以外の領域に形成されたシリコン層5を除去する(図2(d)参照)。
具体的には、オーミック電極形成領域2aに形成されたシリコン層5をフォトレジストで覆い、これをマスクとして、オーミック電極形成領域2a以外の領域に形成されたシリコン層5をエッチング除去した後、フォトレジストを除去する。
シリコン層のエッチング方法としては、反応性イオンエッチング(RIE)法を用いるのが好ましい。これにより、下部の素子分離膜3を残して、シリコン層5のみを選択性良くエッチング除去することが可能である。
【0040】
[3]金属層形成工程(第2工程)
次に、図3(a)に示すように、素子分離膜3及びシリコン層5の上に、金属層8を全面的に形成する。
金属層8は、少なくともシリコン層5と接する側が、シリコン層5に含まれるSiと反応し、オーミック電極4となるシリサイド層41を生成し得る金属材料によって構成されている必要がある。そのような金属としては、Ni、Ti、Co等が挙げられ、中でも、Niは、抵抗率の低いNiSi層を生成し得ることから好ましい。
【0041】
また、金属層8は、単層構成であってもよく、前述のような金属材料(オーミック電極となるシリサイド層を生成し得る金属材料)によって構成された第1金属層と、第1金属層上に積層された第2金属層よりなる多層構成であっても構わない。多層構成とすることにより、第2金属層によって第1金属層の酸化を防止する等の効果を得ることができる。このような第2金属層としては、例えばTiN(窒化チタン)層やTi層等が挙げられる。なお、多層構成の場合、第2金属層は2層以上の金属層によって構成されていても構わない。
【0042】
本実施形態では、金属層8として、ニッケル層(第1金属層)6と窒化チタン層(第2金属層)7の積層膜を形成する。このうち、ニッケル層6に含まれるNiは、次工程で行う熱処理によってシリコン層5のSiと反応し、ニッケルシリサイド層41を生成する。また、窒化チタン層7は、ニッケル層6の酸化等を防止する目的で必要に応じて設けられる保護膜であり、熱処理の条件によっては省略することもできる。
ニッケル層6及び窒化チタン層7の形成方法としては、特に限定されず、例えばスパッタ法のような気相成膜技術等を用いることができる。
【0043】
ニッケル層6の厚さtは、シリコン層5の厚さをtとしたとき、0.25t≦t≦1.1tの範囲とするのが好ましい。ニッケル層6の厚さtを前記範囲とすることにより、次工程において、NiSi、NiSi、NiSiの少なくともいずれかよりなるシリサイド層41を確実に得ることができる。
【0044】
また、オーミック電極4は、これらシリサイド層のうち最も抵抗率が低いNiSi層によって構成されるのが好ましい。ここで、シリコン層5及びニッケル層6の熱処理によって得られるシリサイド層41の組成比は、ニッケル層6の厚さtと熱処理の温度によって制御することができ、例えばニッケル層6の厚さtを0.55tとすることにより、後述する適正な熱処理条件を用いてNiSi層を確実に得ることが可能となる。
本実施形態では、ニッケル層6は、スパッタ法によって11nm(0.55tに相当)の厚さで形成し、窒化チタン層7は、スパッタ法によって10nmの厚さで形成する。
【0045】
[4]熱処理工程(第3工程)
次に、各層が形成された炭化シリコン基板2を、シリコン層5に含まれるSiと金属層8の構成元素とが反応し得る温度以上に加熱し、熱処理を行う。
これにより、シリコン層のSiの一部と金属層8の構成元素の一部が、それぞれ他方の層に拡散し、Siと金属層の構成元素とが反応(シリサイド化)する。その結果、図3(b)に示すように炭化シリコン基板2に接するシリサイド層41が得られる。
【0046】
熱処理の温度は、シリコン層5に含まれるSiと金属層8の構成元素とが反応し得る温度以上であって、炭化シリコン基板2に含まれるSiCと金属層8の構成元素とは実質的に反応しない温度とするのが好ましい。
【0047】
これにより、炭化シリコン基板2に含まれるSiCとシリサイド層41に含まれる金属元素(金属層8の構成元素)との反応によって炭素を生じることなく、シリサイド層41を形成することができ、炭化シリコン基板2由来の炭素がシリサイド層41内へ拡散して表面で析出するのを確実に抑えることができる。これにより、製造された半導体素子1は、オーミック電極4上に電極層をより密着性良く形成することができ、オーミック電極4からの電極層の剥離を確実に抑えることが可能である。
熱処理の温度は、具体的には、本実施形態のようにシリコン層5と反応させる金属層がニッケル層6である場合には400℃以上800℃未満とするのが好ましい。
【0048】
また、熱処理の時間は、1〜10分であるのが好ましい。熱処理の時間が1分より短い場合には、各層5、6の厚さt、tや熱処理の温度によっては、炭化シリコン基板2との界面付近に未反応のシリコン層が残存し、抵抗率の低いオーミック電極が得られない可能性がある。
本実施形態では、500℃で1分間の熱処理を行う。これにより、シリコン層5のSiとニッケル層6のNiとが反応し、炭化シリコン基板2に接するNiSi層41が得られる。
【0049】
[5]未反応金属層の除去工程(第4工程)
そして最後に、Siと反応せずに残存した金属層8を除去し、シリサイド層41を露出させることでオーミック電極4を得る。
金属層8を除去する方法としては、該金属層8を、素子分離膜3及びシリサイド層41に対して選択的にエッチングし得るエッチング方法が用いられる。
例えば、金属層8がニッケル層6と窒化チタン層7の積層膜である場合には、硫酸過水溶液や塩酸過水溶液をエッチング液とするウェットエッチング法等を用いることができる。
以上の工程により、図3(c)に示す半導体素子1が得られる。
【0050】
このように本発明の半導体素子の製造方法では、炭化シリコン基板2上に形成したシリコン層5と、該シリコン層5上に形成した金属層8との反応によってオーミック電極4となるシリサイド層41を得る。ここでシリコン層5と金属層8との反応過程では、炭化シリコン基板2と金属層8との反応過程で生じるような炭素の生成がないため、シリサイド層41内やその表面に炭素が拡散、析出することはない。
また、この場合にも、生成されたシリサイド層41の金属元素(金属層8からシリサイド層41に移行した金属元素)が炭化シリコン基板2に含まれるSiCと反応し、この反応過程で生成された炭素が、シリサイド層41内に拡散して表面に析出する可能性が考えられる。
しかし、シリコン層5と金属層8とは、炭化シリコン基板2と金属元素よりも反応し易く、炭化シリコン基板2と金属元素とが反応しないような比較的低い温度であっても、反応してシリサイド層41を生成することができる。このため、このような温度で熱処理を行うことによって、炭化シリコン基板2とシリサイド層41に含まれる金属元素との反応によって炭素を生じることなく、シリサイド層41を得ることができ、炭化シリコン基板2由来の炭素がシリサイド層41内へ拡散して表面で析出するのを確実に抑えることができる。
これにより、製造された半導体素子1は、オーミック電極4(シリサイド層41)上に電極層を密着性良く形成することができ、高い信頼性を得ることが可能である。
【0051】
また、本実施形態では、前記第1工程において、炭化シリコン基板2上に、シリコン層5を全面的に形成した後、シリコン層5をオーミック電極形成領域2aに対応するようにパターニングするため、シリコン層の成膜条件は、比較的広い範囲から選択することが可能である。
【0052】
また、本実施形態では、金属層8として、ニッケル層6及び窒化チタン層7よりなる積層膜を形成しているため、窒化チタン層7によってニッケル層6の酸化が防止され、ニッケルシリサイドによって構成された抵抗率の低いオーミック電極を得ることができる。
【0053】
また、本実施形態では、前記第3工程における熱処理の温度を400℃以上800℃未満としているため、炭化シリコン基板2に含まれるSiCとシリサイド層41に含まれるNiとの反応によって炭素を生じることなく、シリサイド層41を形成することができ、炭化シリコン基板2由来の炭素がシリサイド層41内へ拡散して表面で析出するのを確実に抑えることができる。これにより、製造された半導体素子1は、オーミック電極4(シリサイド層41)上に電極層をより密着性良く形成することができ、オーミック電極からの電極層の剥離を確実に抑えることが可能である。
【0054】
また、本実施形態では、前記第3工程において形成されるシリサイド層が、NiSiを主体としているため、より抵抗率の低いオーミック電極を得ることが可能である。
【0055】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る半導体素子の製造方法について説明する。
なお、第2実施形態においては、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
第2実施形態の半導体素子の製造方法は、シリコン層形成工程(第1工程)が異なる以外は、前記第1実施形態と同様の工程とされている。以下、本実施形態におけるシリコン層形成工程について説明する。
【0056】
図4は、第2実施形態に係る半導体素子の製造工程のうち、第1工程を示す概略縦断面図である。
まず、前記工程[1]と同様にして素子分離膜3及び電子素子が形成されたシリコン基板2を用意する(図2(b)参照)。
そして、図4に示すように、炭化シリコン基板2のオーミック電極形成領域(素子分離膜から露出する炭化シリコン基板の表面)2aに、シリコン層5を選択的に形成する。
【0057】
シリコン層5は、例えばCVD法を用い、基板を600℃程度に加熱しつつ、成膜チャンバー内にSiガスおよびClガスを同時に供給することによって形成することができる。このような成膜条件では、シリコン層5はSiOよりなる素子分離膜3の表面には成長し難く、素子分離膜が形成されていない炭化シリコン基板2の表面(オーミック電極形成領域2a)に優先的に成長する。その結果、オーミック電極形成領域2aにのみ選択的にシリコン層5が形成される。また、このようにして形成されたシリコン層5は、炭化シリコン基板2との界面が良好であり、これによって最終工程でコンタクト抵抗の低いオーミック電極4を得ることが可能となる。
なお、シリコン層5の適正な厚さ範囲は、前記第1実施形態の場合と同様である。
【0058】
この第2実施形態においても、前記第1実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
また、第2実施形態では、特に、シリコン層のパターニング工程が不要となるため、半導体素子の製造工程を簡略化できるという効果が得られる。
【0059】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各工程は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…半導体素子、2…炭化シリコン基板、2a…オーミック電極形成領域、3…素子分離膜、4…オーミック電極、41…シリサイド層、5…シリコン層、6…ニッケル層(第1金属層)、7…窒化チタン層(第2金属層)、8…金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化シリコン基板と、該炭化シリコン基板に接するように設けられ、シリサイド層よりなるオーミック電極とを有する半導体素子の製造方法であって、
前記炭化シリコン基板のオーミック電極形成領域に、前記炭化シリコン基板に接するようにシリコン層を形成する第1工程と、
前記シリコン層上に金属層を形成する第2工程と、
熱処理を行うことによって、前記シリコン層に含まれるSiと前記金属層の構成元素とを反応させ、前記炭化シリコン基板と接するシリサイド層を形成する第3工程と、
Siと反応せずに残存した前記金属層を除去することによって前記シリサイド層の表面を露出させる第4工程と、を有することを特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記第3工程における熱処理の温度は、前記シリコン層に含まれるSiと前記金属層の構成元素とが反応し得る温度以上であって、前記炭化シリコン基板に含まれるSiCと前記金属層の構成元素とが実質的に反応しない温度であることを特徴とする請求項1に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記金属層は、前記シリコン層に含まれるSiと反応して前記オーミック電極となるシリサイドを生成し得る金属材料によって構成された第1金属層と、前記第1金属層上に積層された第2金属層とを有する多層構成であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記金属層は、少なくとも前記シリコン層と接する側がニッケル層によって構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記第3工程における熱処理の温度は、400℃以上800℃未満であることを特徴とする請求項4に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記第3工程において形成される前記シリサイド層は、主としてNiSiよりなることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記第1工程において、前記炭化シリコン基板上に、前記シリコン層を形成した後、前記シリコン層を前記オーミック電極形成領域に対応するようにパターニングすることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記第1工程に先立って、前記炭化シリコン基板表面のオーミック電極形成領域以外の領域に酸化シリコン層を形成し、
前記第1工程において、前記炭化シリコン基板に対する成膜レートと前記酸化シリコン層に対する成膜レートとの差を利用して、前記炭化シリコン基板の前記オーミック電極形成領域に、前記シリコン層を選択的に形成することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の半導体素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−58587(P2013−58587A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195743(P2011−195743)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】