説明

半導体膜の製造方法、半導体膜および色素増感太陽電池

【課題】 半導体膜を曲げても半導体膜の剥がれが生じにくい可撓性を有した半導体膜の製造方法、当該製造方法によって得られる半導体膜および当該製造方法によって得られる半導体膜を具備してなる色素増感太陽電池を提供することを目的とする。
【解決手段】 第1の導電性基材上に、半導体微粒子とバインダーとを含む溶液を塗布し、該塗布液を乾燥させた後、20〜40MPaの圧力を加え、該圧力と並行して130〜300℃の範囲内で加温することにより、半導体層を形成することを特徴とする半導体膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体膜の製造方法、半導体膜および色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
グレッツェルが、非特許文献1に、変換効率7.9% の新しい型の光電池(色素増感光電池)を発表して以来、色素増感太陽電池の研究開発は世界的に行われてきた。グレッツェルの発表した色素増感太陽電池は、TiO(酸化チタン)電極と対向電極とを対峙させ、それらの間に電解質溶液を配置した構造を有するものである。TiO電極としては、フッ素ドープ酸化スズからなる透明導電膜付きのガラス板と、透明導電膜上に設けられ、表面に通常N3と呼ばれるルテニウム増感色素が吸着している多孔質TiO膜とからなるものが使用されている。また、対向電極としては、導電性ガラス基板に白金膜を形成したものが、電解質溶液としてはアセトニトリルなどの溶媒にI/Iを含む酸化還元溶液が使用されている。
【0003】
従来、色素増感太陽電池のTiO電極を製造するためには、例えば、まず、数十nmサイズのTiO粉末をポリエチレングリコールやセルロース系結着剤に分散させてペーストを調製し、そのペーストをガラス基材上の透明導電膜上に塗布して塗膜を形成する。その後、500℃程度の高温で焼成して結着剤を分解し、TiO粉末粒子同士を結合させ、次いで、TiO表面に染料(色素)を吸着させる。
【0004】
近年では、用途拡大のために、電極における基材をプラスチック化して、薄型かつ軽量で、屈曲性を有する光電池を開発することが求められている。また、電極における基材をプラスチック化して可撓性を持たせ、色素増感太陽電池を連続生産することにより、コストダウンを図ることも考えられている。しかしながら、上記のような、TiO粉末を使用した電極の製造方法では、高温で焼結する必要があるため、プラスチックフィルムを基材とした電極を製造することは困難であった。
【0005】
そこで、プラスチックフィルムを基材とした電極を低温で製造する方法として、上記ペーストの代わりに、酸化チタンとバインダーとを含む溶液を透明導電膜上に塗布し、乾燥した後、所定の圧力にて加圧プレスする方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】グレッツェル, 「ネイチャー(Nature)」, 第353 巻, 1991年、p.737
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4086037号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の方法により、可撓性を有するプラスチックフィルム上に酸化チタン膜を形成することができる。しかしながら、得られた酸化チタン膜は、基材との密着が不十分であり剥がれ易いものであった。当該問題は、酸化チタン膜が形成された基材を曲げた時に生じやすいものであった。すなわち、可撓性を有する基材を使用しても、曲げによって酸化チタン膜が剥がれてしまうことから、可撓性を有する基材の利点を充分に発揮させることが困難であった。したがって、特許文献1に記載の方法では、可撓性が不十分であることから、色素増感太陽電池を連続的に生産することが難しいものであった。
【0009】
半導体膜を曲げても半導体膜の剥がれが生じにくい可撓性を有した半導体膜の製造方法、当該製造方法によって得られる半導体膜および当該製造方法によって得られる半導体膜を具備してなる色素増感太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は下記の技術的構成により上記課題を解決できたものである。
【0011】
(1)第1の導電性基材上に、半導体微粒子とバインダーとを含む溶液を塗布し、該塗布液を乾燥させた後、20〜40MPaにて加圧し、該加圧と並行して130〜300℃の範囲内で加温することにより、半導体層を形成することを特徴とする半導体膜の製造方法。
(2)前記加温を、第1の導電性基材側に近づくほど温度が高くなるように行うことを特徴とする前記(1)に記載の半導体膜の製造方法。
(3)前記半導体微粒子が色素を吸着していることを特徴とする前記(1)に記載の半導体膜の製造方法。
(4)前記第1の導電性基材が、可撓性を有する基材上に透明導電層が形成されたものであることを特徴とする前記(1)に記載の半導体膜の製造方法。
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法によって得られた半導体膜。
(6)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法によって得られた半導体膜を用いて、該半導体膜を構成する半導体層上に、電解質層および第2の導電性基材が順次積層されてなることを特徴とする色素増感太陽電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、半導体膜を曲げても半導体膜の剥がれが生じにくい可撓性を有した半導体膜の製造方法、当該製造方法によって得られる半導体膜および当該製造方法によって得られる半導体膜を具備してなる色素増感太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】色素増感太陽電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<色素増感太陽電池>
本発明の色素増感太陽電池を図を用いて説明する。
本発明を構成する色素増感太陽電池50は、図1に示すように、第1の導電性基材10上に色素を担持させた半導体層20、電解質層40および第2の導電性基材11が順次積層されてなる。後述するホットプレスにて、第1の導電性基材10上に半導体層20を形成したものが、半導体膜30である。電解質層40は図1に示すように、半導体層20と第2の基材11との間に設けてもよいし、多孔質である半導体層20内に毛細管現象を利用して浸透させるものであってもよい。
本発明の色素増感太陽電池50は、半導体層20に電解質を満たした後、色素増感太陽電池全体を樹脂成分で封止することによって、電解質の漏れ・揮発を防ぐことができるため好ましい。
【0015】
<半導体膜の製造方法>
本発明の半導体膜の製造方法は、第1の導電性基材上に、半導体微粒子とバインダーとを含む溶液を塗布し、該塗布液を乾燥させた後、20〜40MPaにて加圧し、該加圧と並行して130〜300℃の範囲内で加温することにより、多孔質状の半導体層を形成するものである。
本発明は、加圧と加温を並行して行うこと(ホットプレス)によって、半導体微粒子の焼結を行う。したがって、従来、半導体微粒子の焼結に必要とされていた500℃程度の高温焼成を行う必要がないため、可撓性を具備するプラスチックフィルム等を基材として使用することができる。
加圧は25〜35MPaであることが好ましい。加圧が20MPa未満では微粒子間のネッキング不良の問題がある。加圧が40MPa超では基材(第一の導電性基材)損傷の問題がある。
加温は130〜160℃であることが好ましく、140〜150℃であることがさらに好ましい。加温温度が130℃未満では微粒子間のネッキング不良の問題がある。加温温度が300℃超では透明プラスチックフィルム等のフレキシブルな基材が損傷する問題がある。
なお、加圧と加温を並行して行うとは、加圧と加温を同時に行うものであってもよいが、加圧中あるいは加圧後に加温を行うものや、加温後に加圧を行うものも含む。本発明においては、加圧と加温を同時に行うこと、または加圧中あるいは加圧後に加温を行うことが好ましい。
【0016】
半導体層を形成するために圧力を加える加圧装置の種類は、所定の圧力を生じさせることができるものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、平板プレス、ロールプレスを使用することができる。ロールプレスは可撓性を有するプラスチックフィルムを基材に使用した場合、ロール・トゥ・ロールで連続生産することができるので好ましい。
【0017】
第1の導電性基材上に、半導体微粒子とバインダーとを含む溶液を塗布し、該塗布液を乾燥させた後、加圧する際には、加圧装置と乾燥させた塗布液との間に離型材を挟むことが好ましい。これによって、形成された半導体層を構成する半導体微粒子が加圧装置に付着しにくくなるため、半導体層から半導体微粒子が剥がれにくくなり、導電性を維持しやすくなるため好ましい。
離型材の材質としては、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、ポリクロロ三フッ化エチレン(PCTFE)、四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、パーフルオロアルコキシフッ化樹脂(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、エチレン四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレンクロロ三フッ化エチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂を好ましく使用することができる。
【0018】
半導体微粒子とバインダーを分散させる溶媒は特に限定されないが、これらの混合材料に加えたときペースト状(エマルジョン)になるものであれば好ましい。分散溶媒としては例えば、水、酢酸、アルコール類、アセトン等を使用することができる。これらの分散溶媒の中でもカルボキシル基を含有しない溶媒を使用すると、吸着反応が色素と競合しないため、発電効率向上の観点から好ましい。
【0019】
加圧と並行して行う加温は、第1の導電性基材側に近づくほど温度が高くなるように行う(温度勾配をつける)と、色素増感太陽電池の発電効率が向上するため好ましい。温度勾配をつけて加温することによって、第1の導電性基材と半導体層の接着能力が向上する。また、半導体層と加圧装置(または離型材)の接着能力が減少するため、半導体層を構成する半導体微粒子が加圧装置(または離型材)に付着しにくくなり、形成された半導体層の表面がより平滑な形状を有することになる。
温度勾配をつける方法として、具体的には例えば、半導体膜を構成する第1の導電性基材側と半導体層側の加温温度を異なるものにしたり、半導体層側を加温せずに第1の導電性基材側のみを加温したり、第1の導電性基材側を加温するとともに半導体層側を冷却する等を行えばよい。
【0020】
温度勾配は、第1の導電性基材側と半導体層側の温度が10〜60℃離れていると好ましく、20〜50℃離れているとさらに好ましい。
10℃未満では半導体層剥離の問題がある。
60℃超では第1の導電性基材側の温度低下および半導体層側の温度上昇による条件不安定化の問題がある。
【0021】
上記の温度勾配をもたせた上で、第1の導電性基材側の温度を130〜300℃とすることが好ましく、130〜160℃とすることがさらに好ましく、140〜150℃とすることが特に好ましい。
130℃未満では第1の導電性基材−半導体層間接着不良の問題がある。
300℃超では第1の導電性基材損傷の問題がある。
【0022】
上記の温度勾配をもたせた上で、半導体層側の温度を100〜130℃とするのが好ましく、110〜120℃とすることがさらに好ましい。
100℃未満では半導体微粒子間のネッキング不良の問題がある。
130℃超では半導体層剥離の問題がある。
【0023】
半導体微粒子への色素の吸着は、半導体層を形成させる前でも、半導体層を形成させた後でもよい。半導体層を形成する前に半導体微粒子に色素吸着を行った方が、ロール・トゥ・ロールで連続生産しやすくなるため好ましい。なお、本発明においては従来必須であった500℃程度の高温焼成を必要としないため、半導体層を形成する前に半導体微粒子に色素吸着を行っても、ホットプレス時における色素分解が少ないため、光変換効率上の問題がないものである。
また、半導体層を形成する前に半導体微粒子に色素吸着を行うことにより、半導体層と第一の導電性基材との密着性が向上するため好ましい。密着性が向上する理由としては、色素吸着により半導体微粒子とバインダーであるNBRのなじみが良くなっているためと推測される。
【0024】
以下、本発明を構成する材料を中心に説明する。
【0025】
<導電性基材>
第1の導電性基材および第2の導電性基材は、導電性を有し、且つ、少なくともどちらか一方が透明性を有することが必要であるが、どちらか一方は透明性を有している必要はない。透明性を有さない導電性基材としては、例えば、金属基材を使用することができる。金属基材を使用することにより、電極の低抵抗化を達成することができるため、半導体層に担持させた色素から生じた電子を損失することなく電力として取り出すことができる。
金属基材としては、具体的には、銅、アルミニウム、金、銀、白金、クロム、ニッケル、タングステン等やこれらの金属から選択される2種以上の金属からなる基材を挙げることができる。
金属基材は第2の導電性基材(対極)に使用することが好ましい。
【0026】
第1の導電性基材および第2の導電性基材は、可撓性を有することが好ましい。これによってロール・トゥ・ロールで連続生産しやすくなる。上記第1の導電性基材および第2の導電性基材の厚さは5μm〜3mmであることが好ましく、10μm〜300μmであることがさらに好ましい。5μm〜3mmの範囲内にすることで、適度な強度と柔軟性を備えさせることができる。
【0027】
第一の導電性基材または第二の導電性基材として、透明基材上に透明導電層または導電層を形成したものを使用してもよい。透明基材としては、入射する光を妨げず適度な強度を有するものであれば特に限定されないが、例えば、ガラスの他、有機フィルムや粘土膜等の可撓性を有する基材等を挙げることができる。ガラスは、板状のガラス板でもよいし、ガラスを繊維として包含するシートでもよいし、渦巻き状に成形したものでもよい。
【0028】
(可撓性を有する基材)
可撓性を有する基材としては、金属基材、有機フィルム、粘土膜等を使用することができる。これらの中でも、有機フィルムや粘土膜はより可撓性に優れるため好ましい。可撓性を有する基材を使用した半導体膜はシート化することができ、ロール・トゥ・ロールで連続生産しやすいため好ましい。
有機フィルムとしては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、トリアセチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアリレート、環状ポリオレフィン、アラミド等の有機フィルムが使用できる。なお、有機フィルムは透明性を有するため透明基材として使用することもできる。
また、可撓性を有する基材として粘土膜を使用してもよい(例えば、特開2009−137833)。当該粘土膜は300℃程度の加温に耐えることができるため、ホットプレス時においても有機フィルムよりも加温温度を高くすることにより、半導体微粒子間のネッキング形成を効果的に行うことができる。なお、粘土膜は透明性を有するため透明基材として使用することもできる。
上記可撓性を有する基材の厚さは5μm〜3mmであることが好ましく、10μm〜300μmであることがさらに好ましい。5μm〜3mmの範囲内にすることで、適度な強度と柔軟性を備えさせることができる。
【0029】
(透明導電層)
透明導電層としては特に限定されるものではないが、光透過率の観点から、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)等の透明な酸化物半導体を使用することが好ましい。これらの酸化物半導体は単独で使用してもよいし、複数を使用してもよい。
【0030】
透明導電層を透明基材上に形成させる方法としては、透明導電層の材質に応じた方法を用いればよいが、例えば、ITOなどの酸化物半導体を透明基材上に形成させる場合、スパッタ法、CVD法、SPD法、蒸着法などの薄膜形成法が挙げられる。透明導電層の厚さは光透過性と導電性を考慮して、0.05〜2.0μmとすることが好ましい。
【0031】
(導電層)
導電層としては、任意の導電性材料を使用することができ、例えば、Cu、Pt、ITO、FTO等の金属や炭素等を使用することができる。導電層を基材に塗布する方法は、スパッタ法、CVD法、SPD法、蒸着法などの薄膜形成法が挙げられる。導電層の厚さは光透過性と導電性を考慮して、0.05〜2.0μmとすることが好ましい。
また、導電層は透明導電層と異なり、必ずしも透明性を有する必要性はない。
【0032】
導電層上には、電極活性物質として、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン及びそれらの誘導体の群から選ばれる1種以上を塗布することが好ましい。
ポリチオフェンの誘導体としては、ポリアルキルチオフェン、PEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)やPEDOT−TsO(p−トルエンスルフォン酸をドープしたPEDOT)、PEDOT−PSS(ポリスチレンスルフォン酸をドープしたPEDOT)が挙げられる。
【0033】
ポリピロールやポリチオフェンを塗布する方法としては、これらの原料モノマーであるピロール、チオフェン、及びその誘導体、並びに重合剤を含むモノマー溶液を被塗布物にスピンコート等により塗布する方法が例示できる。そして、塗布後、例えば加熱によりモノマーを重合させることができる。
【0034】
重合剤としては特に制限はないが、原料モノマーがピロール及びその誘導体である場合には、塩化鉄(III)及びその水和物を用いることができる。また、原料モノマーがチオフェン及びその誘導体である場合には、塩化鉄(III)、トリス−p−トルエンスルホン酸鉄(III)、p−ドデシルベンゼンスルホン酸鉄(III)、メタンスルホン酸鉄(III)、p−エチルベンゼンスルホン酸鉄(III)、ナフタレンスルホン酸鉄(III)(およびその水和物等)を用いることができる。
【0035】
さらに、モノマー溶液に重合速度調整剤を添加してもよい。重合速度調整剤としては、重合剤のFe(III)イオンに対する弱い錯化剤であって重合速度を低減することにより膜形成が容易になるものであれば特に制限はないが、重合剤が塩化鉄(III)およびその水和物である場合、芳香族オキシスルホン酸(5−スルホサリチル酸など)を用いることができる。重合剤がトリス−p−トルエンスルホン酸鉄(III)、p−ドデシルベンゼンスルホン酸鉄(III)、メタンスルホン酸鉄(III)、p−エチルベンゼンスルホン酸鉄(III)、ナフタレンスルホン酸鉄(III)及びその水和物である場合、重合速度調整剤としてイミダゾールなどを用いることができる。
【0036】
これらの成分を混合したモノマー溶液の溶媒としては特に制限はないが、例えば、原料モノマー、重合剤、重合速度調整剤がそれぞれピロール、塩化鉄(III)、5−スルホサリチル酸である場合には、溶媒として水を用いることができる。原料モノマー、重合剤、重合速度調整剤がそれぞれ3,4−エチレンジオキシチオフェン、トリス−p−トルエンスルホン酸鉄(III)、イミダゾールの組み合わせである場合、溶媒としてノルマルブタノールを用いることができる。
【0037】
モノマー溶液中の原料モノマー、重合剤、及び重合速度調整剤の配合割合は、成分や重合度、重合速度等に応じて適宜調整することができる。
【0038】
重合反応を行う条件としては、例えば加熱温度を25〜120oCとし、加熱時間を5分〜24時間とすることができる。
【0039】
<半導体層>
半導体層は半導体微粒子とバインダーとを含むものである。第1の導電性基材と半導体微粒子がバインダーを介して密着するとともに、形成された半導体層において半導体微粒子同士がバインダーを介して密着する。これによって、半導体膜を曲げても半導体膜の剥がれが生じにくく、可撓性を有した半導体膜を提供することができる。半導体微粒子とバインダーとの配合比は、半導体微粒子100質量部に対して、バインダーを0.1〜10の範囲内にすることが好ましい。
バインダーが0.1質量部未満になるとペーストの分散性の低下および第1の導電性基材−半導体層間接着性低下の問題がある。
バインダーが10質量部超になると半導体微粒子間ネッキングの低下および半導体層の電気抵抗上昇の問題がある。
半導体層の厚さは0.5〜50μm程度の薄膜であることが好ましい。
【0040】
(半導体微粒子)
半導体微粒子は、酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb25)、酸化インジウム(In)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化タンタル(Ta)、酸化ランタン(La)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化イットリウム(Y)、酸化ホルミウム(Ho)、酸化ビスマス(Bi)、酸化セリウム(CeO)、アルミナ(Al)などを使用することができる。これらの半導体微粒子は1種または2種以上を混合して使用してもよい。半導体微粒子は平均粒径1〜1000nmのものを好ましく使用することができる。
【0041】
(バインダー)
バインダーとしては分散剤および接着剤としての性質を有するものを使用することができる。具体的には例えば、カルボキシメチルセルロースを使用することができる。
バインダーの分子内には、カルボキシル基が存在しないことが発電効率を高める点から好ましい。半導体微粒子の表面は水酸基で覆われていると考えられており、この水酸基に対して色素のカルボキシル基が脱水縮合して吸着していると予想されている。したがって、バインダーのカルボキシル基が半導体微粒子の表面に吸着すると、半導体微粒子に吸着する色素量が減少することになるため、発電効率が減少してしまうおそれがある。カルボキシル基を有していないバインダーとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム、ナフタレンブタジエンゴム等のゴム成分が挙げられる。スチレンブタジエンゴムやナフタレンブタジエンゴム等のゴム成分は、加熱しながら加圧することで接着性能が大幅に向上するため、ホットプレス法による半導体膜の密着性の向上において好ましい。
【0042】
半導体層を第1の導電性基材上に形成させる方法としては、例えば、半導体微粒子を所望の分散媒に分散させた分散液、あるいは、ゾル−ゲル法により調整できるコロイド溶液を、必要に応じて所望の添加剤を添加した後、スクリーン印刷法、インクジェットプリント法、ロールコート法、ドクターブレード法、スピンコート法、スプレー塗布法などにより第1の導電性基材上に塗布することができる。また、コロイド溶液中に第1の導電性基材を浸漬し、電気泳動により半導体微粒子を第1の導電性基材上に付着させる泳動電着法を用いてもよい。また、コロイド溶液や分散液にポリマーマイクロビーズを混合して第1の導電性基材上に塗布した後、このポリマーマイクロビーズを加熱処理や化学処理により除去して空隙を形成させ多孔質化する方法を適用してもよい。
【0043】
(色素)
半導体微粒子には、半導体層の形成前または半導体層の形成後に色素を吸着させる。半導体層に担持させる色素は、可視光を吸収するものであれば特に制限されるものではないが、例えば、ビピリジン構造、ターピリジン構造などを含む配位子を有するルテニウム錯体や鉄錯体、ポルフィリン系やフタロシアニン系の金属錯体、エオシン、ローダミン、メロシアニン、クマリンなどの有機色素等から、用途や半導体層の材料に応じて適宜選択して用いることができる。
色素の添加量は、半導体微粒子100質量部に対して0.1〜10質量部配合することが好ましい。
0.1質量部未満では光吸収効率低下の問題がある。
10質量部超では多層吸着による光電変換効率低下の問題がある。
色素を半導体層に吸着させる方法としては、透明導電層上の半導体層を色素の溶液に含浸させる方法や、半導体微粒子に色素溶液を含浸させる方法等が挙げられる。
【0044】
デオキシコール酸やケノデオキシコール酸等のコール酸の共存下で色素を半導体層に吸着させること(共吸着)により、低温焼成で高い密着性をもつ半導体膜を作製することができるため、光電変換効率をさらに高めることができる。また、共吸着物の存在により、色素同士の凝集・半導体微粒子への多層吸着を防ぐことができるため好ましい。
【0045】
<電解質層>
電解質層は必ずしも明確な層である必要はなく、半導体膜表面に電解質溶液を浸漬したものであってもよく、電解質溶液をゲル化剤によって半固体化したものであってもよい。また、上記電解質層としては、電子、ホール、イオン等を輸送できる物質であれば特に限定されず、例えば、CuI、CuSCN、NiO、CuO、KI等のp型半導体固体ホール輸送材料、ヨウ素/ヨウ化物、臭素/臭化物等の酸化還元電解質を有機溶媒に溶解した溶液を用いることができる。
上記有機溶媒としては、例えば、ニトリル系のアセトニトリル、メトキシプロピオニトリルや炭化水素系のプロピレンカルボナート、ジエチルカルボナート、γ−ブチロラクタンやポリエチレングリコール等の多価アルコールが挙げられる。
これらの中では、嵩高く、金属酸化物半導体多孔質層に吸着させた色素が脱離しにくいことから、酸化還元電解質を有機溶媒に溶解した溶液が好ましい。
【0046】
以下、本発明を実施例を用いて説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0047】
(製造例1:色素溶液の調製)
Eosin Y色素(Aldrich社製)3.0mgにエタノール40mlを加え、遮光条件で30分間超音波攪拌して5×10−4mol/lのEosin Y色素溶液を調製した。Eosin Yの構造を化1に示した。
【0048】
【化1】

【0049】
(製造例2:先染め酸化亜鉛の作製)
酸化亜鉛粉末(製品名:Nanofine−50 堺化学工業社製;表面未処理品、平均粒径20nm)1gに、上記製造例1で作製したEosin Y色素溶液を加え、マグネティックスターラーを用いて遮光・密閉条件で24時間攪拌した。このコロイド溶液を5種Cのろ紙と桐山ロートで吸引ろ過し、ドライヤーで乾燥させて色素吸着した酸化亜鉛粉末(以下、先染め酸化亜鉛という)を得た。
【0050】
(製造例3:NBRエマルションを用いた酸化亜鉛ペーストの作製)
エタノール3mlとアセチルアセトン0.1mlを乳鉢に入れ、よく混合した。これに上記製造例2で得た先染め酸化亜鉛1gを加え、さらに混合した後、NBRエマルション(製品名:1562 日本ゼオン社製)0.1mlを加え、さらに混合してペーストを作製した。
【0051】
(製造例4:電解液の作製)
テトラ−n−プロピルアンモニウムヨージド3.1gおよびヨウ素0.25gを、アセトニトリル:エチレンカーボネートの体積比1:4混合溶媒20mlに溶かして電解液とした。
【実施例1】
【0052】
第1の導電性基材として、ITOコートしたPETシート(トービ社製、30〜50Ω/□)を約10×2.5mmに切り出し、エタノール(関東化学)で表面を洗浄した後乾燥させたものを用いた。該PETシート上の長辺にセロテープ(登録商標)2枚をスペーサーとして貼り、スキージ法で上記製造例3で作製したペーストを塗布した。上記ペーストに含まれる溶媒をドライヤーで乾燥させ、セロテープ(登録商標)を剥がした後、該PETシート、テフロン(登録商標)テープ及びろ紙を順次重ねた積層体を、熱加圧装置(製品名:AH−1T 松浦製作所社製)を構成する2つの加熱加圧用金属プレートの間に置き、150℃/30MPaで15分間ホットプレスを行い、フレキシブルな半導体膜を作製した。
【0053】
得られた半導体膜の面積を0.25cm(0.5cm×0.5cm)になるよう削り取った。半導体膜と第2の導電性基材との直接的な接触を防ぐため、スペーサーとしてポリマーフィルム(Surlyn 膜厚25μm)を凹字型に切り取って半導体膜上に載せた。半導体膜表面に製造例4で作製した電解液を滴下し、毛細管現象により多孔質状の半導体膜に浸透させた。第2の導電性基材として白金をスパッタしたFTOガラス基板を使用し、電解液を浸透させた半導体膜上に重ねてクリップで固定し、色素増感太陽電池を作製した。
【実施例2】
【0054】
実施例1にて作製した積層体を、熱加圧装置(製品名:AH−1T 松浦製作所社製)を構成する2つの加熱加圧用金属プレートの間に置き、ITOコートしたPETシートと接する加熱加圧用金属プレートの温度を150℃とし、ろ紙と接する加熱加圧用金属プレートの温度を100℃とし、30MPaのプレスを行った以外は実施例1と同様にして、フレキシブルな半導体膜を作製した。
得られた半導体膜を用いた以外は実施例1と同様にして、色素増感太陽電池を作製した。
【0055】
[比較例1]
第1の導電性基材として、実施例1で使用したITOコートしたPETシートを用いた。該PETシート上の長辺にセロテープ(登録商標)2枚をスペーサーとして貼り、スキージ法で上記製造例3で作製したペーストを塗布した。ドライヤーで乾燥させセロテープ(登録商標)を剥がした後、該ガラス基板をホットプレートに載せ、150℃で15分間焼結して、ホットプレスを行わないフレキシブルな半導体膜を作製した。
得られた半導体膜を用いた以外は実施例1と同様にして、色素増感太陽電池を作製した。
【0056】
<評価>
太陽電池特性測定システム(分光計器)を用いて擬似太陽光(AM−1.5、100mW/cm)照射下にて、光起電力特性として短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、形状因子(FF)および光電変換における量子収率(Eff)を測定した。
得られた結果を表1にまとめた。
【0057】
【表1】

【0058】
比較例1は第一の導電性基材として、フレキシブル性を有するITOコートしたPETシートを使用したものであるが、酸化亜鉛がITOに全くといっていいほど吸着していなかったため、電池といえないレベルまで変換効率が低下した。
一方、実施例1はホットプレスを行ったことにより比較例1と比べ変換効率は上昇したが、ホットプレスした際に膜の一部あるいは膜全体がテフロン(登録商標)テープ側に吸着することが観察された。また、実施例1の半導体膜はフレキシブル性を有しているものであった。
【0059】
実施例2は温度勾配を生じさせてホットプレスを行ったことにより、酸化亜鉛がITOに吸着し、高い変換効率を示すものであった。なお、実施例2にて作製した半導体膜はフレキシブル性を有しているとともに、多少の屈曲では酸化亜鉛が剥離することがなかった。
【0060】
本発明によれば、半導体膜を曲げても半導体膜の剥がれが生じにくい可撓性(フレキシブル性)を有した半導体膜の製造方法、当該製造方法によって得られた半導体膜および当該半導体膜を具備してなる色素増感太陽電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0061】
10 第1の導電性基材
11 第2の導電性基材
20 半導体層
30 半導体膜
40 電解質層
50 色素増感太陽電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の導電性基材上に、半導体微粒子とバインダーとを含む溶液を塗布し、該塗布液を乾燥させた後、20〜40MPaにて加圧し、該加圧と並行して130〜300℃の範囲内で加温することにより、半導体層を形成することを特徴とする半導体膜の製造方法。
【請求項2】
前記加温を、第1の導電性基材側に近づくほど温度が高くなるように行うことを特徴とする請求項1に記載の半導体膜の製造方法。
【請求項3】
前記半導体微粒子が色素を吸着していることを特徴とする請求項1に記載の半導体膜の製造方法。
【請求項4】
前記第1の導電性基材が、可撓性を有する基材上に透明導電層が形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の半導体膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法によって得られた半導体膜。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法によって得られた半導体膜を用いて、該半導体膜を構成する半導体層上に、電解質層および第2の導電性基材が順次積層されてなることを特徴とする色素増感太陽電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−40288(P2011−40288A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186993(P2009−186993)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】