説明

半導体装置およびその製造方法

【課題】特性の優れた強誘電体キャパシタを有する半導体装置を提供する。
【解決手段】Ir膜117と、IrO膜122と、Ir膜117とIrO膜122との間に設けられたPZT膜120,121と、を含む強誘電体キャパシタを有する、半導体装置を製造する方法であって、
Ir膜117の上に導電膜118を形成し、導電膜118の上にSRO膜119を形成し、SRO膜119を結晶化する第1の熱処理を行い、スパッタ法により、SRO膜119の上にシードPZT膜120を形成し、シードPZT膜120を結晶化する第2の熱処理を行い、CVD法により、シードPZT膜120の上にバルクPZT膜121を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置、さらに詳しくは強誘電体キャパシタを有する半導体装置、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キャパシタを利用したメモリ、例えば強誘電体薄膜を利用した不揮発性メモリである強誘電体メモリ(FeRAM:Ferroelectric Random Access Memory)は、DRAMのキャパシタ部分を強誘電体キャパシタで置き換えたものである。このFeRAMは、以下のような特徴をもっており、次世代メモリとして期待されている。
【0003】
− 書き込み、及び消去が高速である。セルを小型化することで、DRAM並みの書き込み時間(100ns以下)が可能である。
− 不揮発性メモリである。即ち、SRAMやDRAMと異なり、電源を切っても記憶内容が失われない。
− 書き換え可能回数が大きい。強誘電体材料(SBTなど)、電極材料(IrO、RuO、SrRuOなど)を工夫することで、1012回以上の書き換えが可能である。
− 原理的に高密度・高集積化ができ、DRAMと同等の集積度を得ることが可能である。
− 内部の書き込み電圧を2V程度とすることができ、低消費電力で動作することが可能である。
− ランダムアクセスによる情報の書き換えが可能である。
【0004】
上記の利点を有するFeRAMは、キャパシタ部分にPZT(Pb(ZrTi1−x)O)、BIT(BiTi12)、SBT(SrBiTa)などの強誘電体薄膜を使用する。いずれの材料も、酸素八面体を基本構造とするペロブスカイト構造と呼ばれる結晶構造をもつ。このペロブスカイト構造では、立方晶の各頂点(Aサイト)に金属原子A、各面心に酸素原子O、体心(Bサイト)に金属原子Bがそれぞれ配置されている。
【0005】
これらの材料は従来絶縁膜として用いられているシリコン酸化膜とは異なり、アモルファス状態ではこれらの材料の特徴である強誘電性を発現しない。なぜならPZTなどの強誘電体の分極は、陰イオンと陽イオンの電荷中心のズレが2つの準安定状態を持つために発生するものであり、この準安定状態は結晶化することにより発生するからである。
【0006】
よって、良好な特性の強誘電体キャパシタを得るためには、結晶性の良好な強誘電体膜を形成する必要がある。即ち、上記の材料を強誘電体として使用するためには、結晶化するための工程(例えば高温での結晶化熱処理(アニール)、又は高温でのIn−situ結晶化プロセス)が必要となる。結晶化に必要な温度は材料にもよるが、一般的には、少なくとも400℃〜700℃の温度が必要となる。
【0007】
強誘電体膜の成膜方法としては、レーザアブレーション法、真空蒸着法、MBE法など各種の方法が研究されている。実用化されているものでは、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタ法、溶液法(CSD:Chemical Solution Deposition)がある。
【0008】
実際にFeRAMに使用されている強誘電体材料は、PZTやSBTである。PZTは早くから薄膜を形成する方法が検討されており、CVD法、スパッタ法、ゾルゲル法などの手法を用いた研究例も多く、最初にFeRAMとして実用化された材料である。
【0009】
以下、代表的な強誘電体材料であるPZTを例にとって、その特徴について説明する。PZTは以下の利点を有する。
・結晶化温度が比較的低い(600℃程度)。
・分極量が大きい。20μC/cm程度の残留分極値が得られる。
・抗電界が比較的小さい。このため、低電圧で分極反転が可能である。なお、抗電界とはヒステリシス曲線において分極が零となる時の電界値である。
・Zr/Ti組成比を変化させることにより、結晶化温度の他に、構造特性(グレインサイズ、グレイン形状など)、及び強誘電特性(分極量、抗電界、疲労特性、リーク電流など)を制御することが可能である。
・ペロブスカイト構造の有する元素許容性により、Aサイトに位置するPbをSr、Ba、Ca、Laなどの元素で、Bサイトに位置するZr,TiをNb、W、Mg、Co、Fe、Ni、Mnなどの元素でそれぞれ置換することが可能である。これにより、結晶構造、構造特性、強誘電特性を大きく変えることができる。
【0010】
上記のように、PZTの結晶化温度は600℃程度であるため、結晶化したPZT膜を得るためには、600℃以上での成膜、または成膜後600℃以上で熱処理することが必要になる。
【0011】
PZTの成膜方法のうち、スパッタ法は実用に最も多く利用されている。スパッタ法を用いる場合、主に2つの方法がある。一つは、in−situ結晶化の可能な高温成膜を行う方法である。もう一つは、室温で成膜した後、結晶化のためのアニールを行う方法がある。
【0012】
前者の高温成膜を行う場合、Pbは揮発性が高いため、成膜されたPZT膜中およびターゲットのPZTからPbが脱離する。よって、組成の制御性に問題がある。なお、高温成膜時のPb脱離を防ぐために、マルチターゲットのスパッタ装置を用いることも考えられる。しかし、ターゲットと基板の距離が大きくなるために成膜速度が低下し、生産性の低下を招いてしまう。
【0013】
後者の成膜後にアニールを行う方法の場合、アニールする際にPbが脱離するため、アニール後に適正なPb組成が得られるように、予めPbの組成を大きくしたPZT膜を成膜しておく。これにより、結晶性に優れたPZT膜が得られる。しかし、厚いPZT膜を形成しようとする場合、Pb組成の制御が困難となり、安定して成膜することができない。即ち、PZT膜におけるPb組成はスパッタ時間とともに変化してしまう。また、アニール時にPbの脱離によるボイド(VOID)が発生するため、PZT膜の膜密度が低下する。Pb脱離により点欠陥が生じると、PZT膜中に固定電荷が発生し、電気特性の劣化を生じることになる。
【0014】
他のPZT成膜方法として、CVD法がある。CVD法によれば、結晶化温度(600℃)以上の成膜温度においても原料の供給量を制御することにより、所望のPb組成を有するPZT膜を形成することが可能である。即ち、CVD法の場合、組成制御が容易である。さらに、Pbの分圧を制御することによって、PZT膜からPbが脱離することを防ぐことも可能である。
【0015】
しかしながら、CVD法の短所として次のような問題が挙げられる。第1に、酸化源(例えばO)を用いるために、PZT膜の下地のとなるIr膜(下部電極)の表面が酸化し、IrOとなるという問題がある。このようにIr膜が酸化すると、FeRAMセルからの読み出し信号量が減少してしまう。なぜなら、Irの(111)配向面を結晶核として利用して、(111)配向のPZT膜を形成することが良好な特性を得る観点から望ましいが、Ir膜が酸化するとそれが困難となるからである。第2に、原料中に含まれる炭素(C)などがPZT膜中不純物として取り込まれることにより結晶化が阻害されるという問題がある。ただし、この問題については、2段階のPZT成膜により回避する方法が知られている。即ち、まず、PZT膜を成膜する初期の段階において、O分圧を下げるとともにPbの濃度を高めることで結晶化を促進し、PZTの薄膜(厚さは数nm程度)を形成する。その後、このPZT薄膜の上に、高O分圧の条件下、ストイキオメトリーのPZTの厚膜を形成する。このPZT厚膜は、ボイドの発生が抑えられ、電気特性に優れた膜である。しかし、この2段階のCVD法によるPZT成膜を行った場合、PZT成膜中に原料ガスの濃度を変化させるときに、前の成膜条件が後の成膜条件に変化を与える、いわゆるメモリー効果が起こり、PZT膜の再現性が悪化するという問題があった。
【0016】
上述したように、スパッタ法によれば、不純物が少なく結晶性に優れたPZT膜を成膜することができ、かつキャパシタの下部電極の酸化を抑えることができる。しかし、成膜後の熱処理により、Pbが脱離しボイドが生じるという問題がある。一方、CVD法によれば、組成制御は比較的容易でありPb脱離も防ぐことができ、また、成膜レートも高速である。しかし、下部電極が酸化してしまうため、特性の優れた(111)配向のPZT膜を形成することが困難となる。
【0017】
そこで、次のようなFeRAMの強誘電体キャパシタの製造方法が開示されている(特許文献1)。この方法では、まずスパッタ法によりPZTの薄膜をシード層として形成し、その後、このシード層のPZT膜mp上に、CVD法によりPZT膜(バルク層)を形成する。シード層の形成にスパッタ法を用いるため、下部電極の酸化が抑えられ、且つ結晶性に優れたPZT膜が形成される。そして、バルク層のPZT膜の形成にはCVD法を用いるため、成膜レートが早く、且つ組成制御性に優れている。しかし、下部電極となる導電膜(Pt膜、Ir膜など)とPZT膜は、結晶構造が異なるため、十分な結晶性のPZT膜を得ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2008−124329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は特性の優れた強誘電体キャパシタを有する半導体装置の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の第1の態様によれば、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に設けられた誘電体膜と、を含む強誘電体キャパシタを有する、半導体装置を製造する方法であって、前記下部電極の上に、導電膜を形成し、前記導電膜の上にSRO膜を形成し、前記SRO膜を結晶化させる第1の熱処理を行い、前記SRO膜の上に、スパッタ法により、第1のPZT膜を形成し、前記第1のPZT膜を結晶化させる第2の熱処理を行い、記第1のPZT膜の上に、CVD法により、前第2のPZT膜を形成する、半導体装置の製造方法が提供される。
【0021】
本発明の第2の態様によれば、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に設けられた誘電体膜と、を含む強誘電体キャパシタを有する、半導体装置であって、前記下部電極の上に形成された、導電膜と、前記導電膜の上に形成され、前記導電膜の構成元素を含む、SRO膜と、前記SRO膜の上にスパッタ法により形成された、第1のPZT膜と、前記第1のPZT膜の上にCVD法により形成された、第2のPZT膜と、を備える半導体装置が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、特性の優れた強誘電体キャパシタを有する半導体装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】本発明の実施形態に係るFeRAMの製造工程を示す断面図である。
【図1B】図1Aに続く、本発明の実施形態に係るFeRAMの製造工程を示す断面図である。
【図1C】図1Bに続く、本発明の実施形態に係るFeRAMの製造工程を示す断面図である。
【図1D】図1Cに続く、本発明の実施形態に係るFeRAMの製造工程を示す断面図である。
【図1E】図1Dに続く、本発明の実施形態に係るFeRAMの製造工程を示す断面図である。
【図1F】図1Eに続く、本発明の実施形態に係るFeRAMの製造工程を示す断面図である。
【図1G】図1Fに続く、本発明の実施形態に係るFeRAMの製造工程を示す断面図である。
【図2】シードPZT膜の膜厚と、FeRAMの読み出し信号量との関係を示す図である。
【図3】SRO膜の厚さを変化させたときのPZT(111)強度を示す図である。
【図4】Ti膜の厚さを変化させたときのPZT(111)強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る半導体装置、及びその製造方法について説明する。各図において同等の機能を有する構成要素には同一の符号を付し、詳しい説明は省略する。
【0025】
図1A乃至図1Gを用いて、本実施形態に係るCOP(Capacitor On Plug)型のFeRAMの製造方法について説明する。
【0026】
(1)図1Aからわかるように、p型シリコン基板(半導体基板)100の表面のトランジスタ活性領域を囲う外周部分に、STI(Sallow Trench Isolation)法により素子分離領域101を形成する。より詳細には、素子分離絶縁膜を埋め込むための溝を該外周部分に形成した後、その溝の内部にシリコン酸化膜(SiO)を埋め込むことにより、素子分離領域101を形成する。
【0027】
(2)次に、スイッチ動作を行うためのトランジスタ(MOSFET)をトランジスタ活性領域に作製する。
【0028】
(2−1)熱酸化法により、p型シリコン基板100の全面に、厚さが例えば60Å程度のシリコン酸化膜102を形成する。このシリコン酸化膜102はMOSFETのゲート絶縁膜となるものである。
【0029】
(2−2)シリコン酸化膜102の上に砒素(As)をドープしたn+型多結晶シリコン膜103を形成する。さらに、多結晶シリコン膜103上に、WSi膜104およびシリコン窒化膜(SiN)105を順次形成する。
【0030】
(2−3)多結晶シリコン膜103、WSi膜104,シリコン窒化膜105からなる積層膜を、通常用いられる光リソグラフィー法およびRIE法により加工し、ゲートスタックを形成する。
【0031】
(2−4)このゲートスタック及びp型シリコン基板100上に、シリコン窒化膜を堆積した後、RIEによる側壁残しの手法によって、ゲートスタックの側壁に側壁絶縁膜(スペーサ部)106を形成する。
【0032】
(2−5)その後、詳細なプロセスの説明は省略するが、公知のイオン注入法および熱処理によって、ソース・ドレイン領域107を形成する。
【0033】
上記の工程によりトランジスタ(MOSFET)10が完成する。
【0034】
(3)図1Bからわかるように、トランジスタ活性領域及び素子分離領域101に、CVD法によりシリコン酸化物からなる層間絶縁膜108を堆積し、トランジスタ10を埋め込む。その後、CMP法により層間絶縁膜108の平坦化を行う。
【0035】
(4)図1Bからわかるように、層間絶縁膜108にコンタクトホール109を形成する。このコンタクトホール109の底面には、トランジスタ10のソース・ドレイン領域107の一方が露呈している。
【0036】
(5)図1Bからわかるように、スパッタ法又はCVD法により、コンタクトホール109の内壁に薄いチタン膜を堆積し、その後、フォーミングガス中で熱処理を行うことによってTiN膜110を形成する。
【0037】
(6)図1Bからわかるように、CVD法により、タングステン111をコンタクトホール109の内部に堆積する。その後、CMP法により層間絶縁膜108の表面を平坦化し、コンタクトホール109の外部に堆積されたタングステン111を除去する。これにより、コンタクトホール109内に埋め込まれたタングステンを有するコンタクトプラグ30が形成される。
【0038】
(7)図1Bからわかるように、層間絶縁膜108、コンタクトプラグ30の上に、CVD法によりシリコン窒化膜(SiN)112を堆積する。
【0039】
(8)図1Bからわかるように、シリコン窒化膜112及び層間絶縁膜108を貫通するコンタクトホール113を形成する。その後前述の方法と同様にして、TiN膜114、タングステン115をコンタクトホール113内に埋め込み、CMP法によりシリコン窒化膜を平坦化する。これにより、コンタクトホール113内に埋め込まれたタングステンを有するコンタクトプラグ40が形成される。このコンタクトプラグ40の底面には、トランジスタ10のソース・ドレイン領域107の他方が露呈している。なお、コンタクトプラグ40は、後述の強誘電体キャパシタ20とソース・ドレイン領域107を電気的に接続するものである。
【0040】
(9)図1Cからわかるように、スパッタ法により、TiAlN膜116(例えば厚さ30nm)を、シリコン窒化膜112及びコンタクトプラグ40の上に堆積する。このTiAlN膜116は、後述の熱処理の際にコンタクトプラグ40のタングステン115が酸化するのを防止するための酸化バリア膜である。
【0041】
(10)図1Cからわかるように、スパッタ法により、Ir膜117(例えば厚さ30nm程度)をTiAlN膜116の上に堆積する。なお、このIr膜117の形成条件は以下の通りである。イリジウムターゲットを用いたDCスパッタ法を用い、例えば、パワー0.2〜3kW、圧力0.5〜2Paの条件下で60秒間成膜を行うことにより100nmの膜を形成した。
【0042】
(11)図1Cからわかるように、スパッタ法により、Ir膜117の上に導電膜118と、PZTと同じペロブスカイト構造をとるSrRuOからなるSRO膜119とを順次形成する。この導電膜118はチタン(Ti)からなり厚さは例えば1.5nmである。SRO膜119の厚さは例えば2.5nmである。
【0043】
(12)酸素雰囲気中でRTA(Rapid Thermal Annealing)を行い、SRO膜119を結晶化させる。
【0044】
このRTAの際、導電膜118のTi原子がSRO膜119中に拡散することによって、SRO膜119の結晶化が促進され、SRO膜119を十分に結晶化させることができる。RTAの条件については、例えば550℃で30秒間行うことにより、結晶性に優れたSRO膜119を容易に形成することが可能である。このように、下地としてのSRO膜の結晶性を向上させることにより、後述のシードPZT膜120の結晶性も向上させることができる。
【0045】
Ti原子の拡散によりSROの結晶性が向上する理由は次のように考えられている。即ち、RTAによって拡散したTi原子は、ペロブスカイト構造のSROのBサイトに配置されたRu原子を置換する。このRu原子を置換したTi原子は、ペロブスカイト結晶構造の面心に位置するO原子を引きつける。これにより、SRO膜の結晶化が促進されるものと考えられている。
【0046】
ここで、良好なキャパシタ特性を得るための、SRO膜119の厚さ及び導電膜118(Ti膜)の厚さについて説明する。
【0047】
図3は、SRO膜119の厚さを変化させたときの、後述のシードPZT膜120の(111)強度を示している。導電膜118(Ti膜)の厚さは3nmである。図3からわかるように、3nm程度より厚くなると、この(111)強度は大きく低下する。よって、SRO膜119の厚さは、3nm以下であることがより望ましい。また、SRO膜を設けない場合にはキャパシタ特性は劣化するため、SRO膜119の厚さの下限はSRO膜の1分子層の厚さであることが望ましい。具体的には、SRO膜119の厚さは、0.4nm以上であることが望ましい。
【0048】
図4は、導電膜118(Ti膜)の厚さを変化させたときのシードPZT膜120の(111)強度を示している。SRO膜119の厚さは2.5nmである。図4からわかるように、Ti膜が3nm程度より厚くなると、この(111)強度は大きく低下する。よって、Ti膜の厚さは3nm以下であることが望ましい。また、Ti膜を設けない場合にはキャパシタ特性は劣化するため、Ti膜の厚さの下限はTi膜の1分子層の厚さであることが望ましい。具体的には、Ti膜の厚さは、0.06nm以上であることが望ましい。なお、上述した厚さは、後述するチタン以外の金属元素からなる導電膜118についても同様にあてはまる。
【0049】
導電膜118及びSRO膜119を上記の範囲の厚さに形成することにより、SRO膜119の上に形成されるシードPZT膜120の(111)強度が高まる。即ち、特性の良いシードPZT膜120が得られる。さらに、この特性の良いシードPZT膜120を下地としてPZT膜(後述のバルクPZT膜121)を形成することで、特性の良好な強誘電体キャパシタを得ることができる。
【0050】
ところで、SROに含まれるTiの量が増加すると、SRO膜の抵抗は増大する。SRO膜の抵抗が大きい場合、PZT膜に十分な電圧が印加されず、従って信号量が低下するという問題が生じる。よって、導電膜118の厚さは、RTA後のSRO膜119が結晶性と導電性を両立し得るように決めることが好ましい。即ち、導電膜118の厚さには、SRO膜119の膜厚に応じた最適値が存在する。具体的には、前述のように、2.5nmのSRO膜119を形成する場合、Tiからなる導電膜118の膜厚は1.5nmとすることが好ましい。
【0051】
(13)図1Cからわかるように、スパッタ法により、シードPZT膜120(例えば厚さ15nm)をSRO膜119の上に形成する。なお、この後の熱処理工程(RTA)によりPbが脱離するため、シードPZT膜120として、Pb過剰のPZT膜を形成しておくことが好ましい。また、詳細は後述するが、シードPZT膜120の膜厚を10nmから20nmの範囲にすることにより、従来に比べて大きな信号量が得られる。
【0052】
(14)酸素雰囲気中でRTAを行い、シードPZT膜120を結晶化させる。このRTAは、例えば、600℃〜700℃(好ましくは650℃)、30秒間の条件で行った。このRTAにより、ペロブスカイト構造のPZT膜が得られる。なお、熱処理の温度が低い場合、シードPZT膜120は常誘電体のパイロクロア構造をとる。PZTの結晶構造をパイロクロア構造から強誘電体のペロブスカイト構造に変化させるには大きなエネルギーを要する。よって、上記のように600℃以上の温度でRTAを行い、パイロクロア構造を介さず一気にペロブスカイト構造のPZTを形成することが望ましい。
【0053】
なお、Pb過剰のシードPZT膜120を成膜していた場合、酸素雰囲気中でRTAを行うと、Pbが脱離すると同時に、結晶化を促進する融点の低いPbOがシードPZT膜120に添加される。その結果、ストイキオメトリーが維持され、結晶性のよいPZT膜が得られる。
【0054】
(15)図1Cからわかるように、シードPZT膜120とともにキャパシタの誘電体膜となるバルクPZT膜121を、CVD法によりシードPZT膜120の上に形成する。このバルクPZT膜121は、その膜厚がシードPZT膜120と合わせて例えば100nmになるように形成される。成膜条件として、温度は600℃、圧力は5torrで行った。このように温度はPZTの結晶化温度以上の温度で行う。また、酸化源にはOを用い、その流量は2SLMとした。
【0055】
なお、このバルクPZT膜121の成膜において、CVDの原料には、Pb(DPM)、Ti(iOPr)(DPM)及びZr(DiBM)を用いた。ここで、DPMはジピバロイルメタナート(化学式(CH3)3CCOCHCOC(CH3)3)、iOPrはイソプロポキサイド(化学式OCH(CH3)2)、DiBMはジイソブチルメタナート(化学式(CH3)2CH(CO)CH(CO-)CH(CH3)2))である。
(16)図1Cからわかるように、スパッタ法により、上部電極としてIrO膜122をバルクPZT膜121の上に形成する。なお、このIrO膜122の形成条件は以下の通りである。イリジウムターゲットを用いた化成スパッタ法を用い、例えば、パワー0.2〜2kW、圧力0.5〜2Paの条件下で90秒成膜を行うことにより、100nmの厚さに形成した。
【0056】
(17)図1Cからわかるように、スパッタ法により、IrO膜122の上に第1の保護膜としてAl膜123(例えば、厚さ50Å)を形成する。このAl膜123は、後段のRIE等のプロセスにおいて発生する水素などがPZT膜に拡散することにより、PZT膜の特性が劣化することを防ぐために設けられる。後述のAl膜124(第2の保護膜)、Al膜129(第3の保護膜)及びAl膜131(第4の保護膜)も同様の目的で形成される。
【0057】
(18)公知の方法により、Al膜123の上に加工マスク材(図示せず)を形成する。より詳細には、例えばCVD法により、Al膜123の上に加工マスク材となるシリコン酸化膜及びフォトレジストを順次堆積する。その後、光リソグラフィー法とRIE法を用いてこのフォトレジストをパターニングする。パターニングされたフォトレジストをマスクとして、Al膜123の上に形成されたシリコン酸化膜をエッチングする。その後フォトレジストを除去し、所望のパターンを有する加工マスク材を得る。
【0058】
(19)図1Cからわかるように、この加工マスク材をマスクとして、Al膜123、IrO膜122、バルクPZT膜121、シードPZT膜120、SRO膜119及び導電膜118を、RIE法によりエッチング加工する。
【0059】
(20)図1Cからわかるように、スパッタ法により、第2の保護膜としてAl膜124(例えば、厚さ100Å)を、導電膜118、SRO膜119、シードPZT膜120、バルクPZT膜121、IrO膜122及びAl膜123の側面と、Al膜123の上面と、Ir膜117の上面とに形成する。
【0060】
(21)図1Dからわかるように、CVD法により、積層膜(TiAlN膜116〜SRO膜119)を加工するためのマスク材としてマスク酸化膜127を、Al膜124の上に堆積する。その後、このマスク酸化膜127の上にフォトレジストを形成し、光リソグラフィー法により所望のパターンに加工されたレジストマスク128を形成する。RIE法により、レジストマスク128をマスクとして、マスク酸化膜127を加工する。
【0061】
なお、このマスク酸化膜127は、成膜温度420℃、TEOSと酸素(O)を原料に用いたプラズマCVD法により成膜した。プラズマCVD法の代わりにCVD法を用いても良い。その場合、原料ガスとして酸素ではなくオゾン(O)を用いて、成膜温度350℃〜500℃(特に好ましくは460℃)の条件で成膜する。
【0062】
(22)図1Eからわかるように、加工されたマスク酸化膜127をマスクとして、Al膜124、Ir膜117、TiAlN膜116の順にパターニング加工を行う。これにより、強誘電体キャパシタ20の形成を完了する。
【0063】
(23)図1Fからわかるように、ALD(Atomic Layer Deposition)法により、第3の保護膜としてAl膜129を、強誘電体キャパシタ20及びシリコン窒化膜112の上に形成する。原料としてTMAとOを用い、成膜温度は200℃、膜厚は100Åとした。
【0064】
(24)図1Fからわかるように、CVD法により、シリコン酸化膜130(例えば、厚さ500Å)をAl膜129の上に堆積する。その後、ALD法により、第4の保護膜としてAl膜131をシリコン酸化膜130の上に形成する。原料としてTMAとOを用い、成膜温度は200℃、膜厚は100Åとした。
【0065】
なお、第1と第2の保護膜についてはPZT膜に比較的近いため、水素等のPZT膜を劣化させるガスを排出しないスパッタ法で成膜することが望ましい。一方、第3と第4の保護膜についてはPZT膜から比較的遠いため、水素等を出すものの、稠密に成膜でき且つ高いステップカバレッジを確保可能なALD法又はCVD法を用いて成膜することが好ましい。
【0066】
(25)図1Fからわかるように、CVD法により、Al膜131の上に強誘電体キャパシタ20を埋め込むように、層間絶縁膜132を堆積する。その後、CMP法により、この層間絶縁膜132を平坦化する。
【0067】
(26)図1Fからわかるように、光リソグラフィー法とRIE法によって層間絶縁膜132の所定の位置を開口し、コンタクトホール133及びコンタクトホール134を形成する。コンタクトホール133の底面には、上部電極であるIrO膜122が露呈している。コンタクトホール134の底面には、コンタクトプラグ30が露呈している。
【0068】
(27)図1Gからわかるように、コンタクトホール133およびコンタクトホール134をアルミニウム(Al)で埋め込み、その後、CMP法により層間絶縁膜132の表面を平坦化する。これにより、コンタクトプラグ50が完成する。なお、このコンタクトプラグ50は、コンタクトホール133,134の内壁にNb/NbN膜をバリア膜として成膜した後、Alを埋め込んで形成してもよい。
【0069】
(28)図1Gからわかるように、シリコン酸化膜141を層間絶縁膜132及びコンタクトプラグ50の上に堆積する。
【0070】
(29)図1Gからわかるように、リソグラフィー法とRIEを用いてシリコン酸化膜141に配線溝を形成する。この配線溝にAlを埋め込んだ後、CMP法によりシリコン酸化膜141の表面を平坦化する。これにより、第1の上部配線135が形成される。
【0071】
(30)図1Gからわかるように、シリコン酸化膜141及び第1の上部配線135の上に層間絶縁膜142を堆積する。その後、リソグラフィー法とRIEにより、この層間絶縁膜142にビアホールを形成し、このビアホールにAlを埋め込む。その後、CMP法により層間絶縁膜142の表面を平坦化する。これにより、ビア136が形成される。このビア136は、後述の第2の上部配線137と第1の上部配線135を電気的に接続するものである。
【0072】
(31)図1Gからわかるように、層間絶縁膜142及びビア136の上にシリコン酸化膜143を堆積する。その後、リソグラフィー法とRIEにより、このシリコン酸化膜143に配線溝を形成し、この配線溝にAlを埋め込む。その後、CMP法によりシリコン酸化膜143の表面を平坦化する。これにより、第2の上部配線137を形成する。
【0073】
この後、詳細な説明は省略するが、上部配線層を順次形成し、FeRAMが 完成する。
【0074】
次に、図2を用いて、本発明の実施形態に係る方法で形成されたFeRAMの特性について説明する。図2は、シードPZT膜の膜厚とFeRAMの読み出し信号量との関係を示すグラフである。
【0075】
実線は本発明の実施形態に係る方法で形成されたFeRAMの読み出し信号量を、破線は比較例に係るFeRAMの読み出し信号量をそれぞれプロットしたものである。ここで、比較例に係る強誘電体キャパシタの誘電体膜は、前述の2段階のCVD法によるシードPZT膜およびバルクPZT膜を、下部電極(Ir膜)の上に形成したものである。
【0076】
なお、本実施形態及び比較例のいずれのサンプルも、PZT膜のトータルの膜厚(シードPZT膜の膜厚+バルクPZT膜の膜厚)は100nmに固定した。
【0077】
この図2からわかるように、シードPZT膜の膜厚が10nm〜20nm(100Å〜200Å)の範囲においては、本実施形態に係るFeRAMは比較例のFeRAMよりも大きな読み出し信号量を得ることができる。よって、シードPZT膜120は10nm〜20nmの膜厚に形成することが好ましい。特に好ましい膜厚は15nmである。
【0078】
このようにシードPZT膜の膜厚がある範囲にあるときに、比較例よりも大きな信号量を得られる理由として、以下が考えられる。
【0079】
シードPZT膜120の膜厚が薄すぎる場合(ある範囲の下限よりも小さい場合)、シードPZT膜120はSRO膜119の全面を十分に覆うことができず、従って結晶性の不十分な部分が発生する。その結果、特性の劣化(信号量の減少)が起こるものと考えられる。
【0080】
一方、シードPZT膜120の膜厚が厚すぎる場合(ある範囲の上限よりも大きい場合)、シードPZT膜120形成後の熱処理により発生するPb脱離が、シードPZT膜120の厚さ方向に対して分布をもつことになる。その結果、特性の劣化(信号量の減少)が起こるものと考えられる。
【0081】
換言すれば、シードPZT膜120の膜厚がある範囲内の場合、成膜後の熱処理によってPb脱離は発生するものの、それ以外のPb脱離が発生しなかった部分には非常に結晶性の優れたPZTが形成されている。これは、前述のように、シードPZT膜120の下地であるSRO膜119の結晶性がPZTと同じペロブスカイト構造を有し、また、Tiを拡散させることで結晶性が向上しているからである。この非常に結晶性の優れたPZTを結晶核とすることで、結晶性を維持しながらバルクPZT膜121を成膜することができる。
【0082】
以上説明したように、本実施形態によれば、結晶性の優れたPZT膜を組成制御性良く製造でき、従って特性の良い強誘電体キャパシタを安定して得ることができる。また、シードPZT膜の膜厚を調整することで、比較例に係るFeRAMよりも大きな読み出し信号量が得られる。これにより、FeRAMをより小型化・高集積化することが可能となる。
【0083】
なお、上述した本発明の実施形態は、以下のような種々の変更が可能である。
【0084】
上記の実施形態では、COP型FeRAMについて説明したが、本発明はこれに限るものではなく、他の強誘電体キャパシタを用いた半導体装置にも適用することができる。
【0085】
また、上記の実施形態では、導電膜118とSRO膜119を積層した積層膜をシードPZT膜120の下地として形成したが、この積層膜の代わりにTiをドーピングしたSRO膜を形成してもよい。
【0086】
また、上記の実施形態では、SRO膜119の結晶化を促進するためにTiからなる導電膜118を形成したが、導電膜118はTi以外の元素を用いて成膜してもよい。具体的には、V、W、Zr、Cr、Mg、Hf、Mo、Mn、Ta又はNbを用いてもよい。
【0087】
また、上記の実施形態では、バルクPZT膜121のシード層としてPZTからなるシードPZT膜120を形成したが、シード層として、PLZT((PbLa)(ZrTi1−z)O)膜を形成してもよい。さらに、このPLZT膜に、カルシウム(Ca)又はストロンチウム(Sr)をドーピングしてもよい。
【0088】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0089】
10 トランジスタ(MOSFET)
20 強誘電体キャパシタ
30、40、50 コンタクトプラグ
100 p型シリコン基板
101 素子分離領域
102、127、141、143 シリコン酸化膜
103 多結晶シリコン膜
104 WSi
105、112 シリコン窒化膜
106 側壁絶縁膜(スペーサ部)
107 ソース・ドレイン領域
108、132、142 層間絶縁膜
109、113 コンタクトホール
110、114 TiN膜
111、115 タングステン
116 TiAlN膜
117 Ir膜
118 導電膜
119 SRO膜
120 シードPZT膜
121 バルクPZT膜
122 IrO
123、124、129、131 Al
127 マスク酸化膜
128 レジストマスク
130 シリコン酸化膜
133、134 コンタクトホール
135 第1の上部配線
136 ビア
137 第2の上部配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に設けられた誘電体膜と、を含む強誘電体キャパシタを有する、半導体装置を製造する方法であって、
前記下部電極の上に導電膜を形成し、
前記導電膜の上にSRO膜を形成し、
前記SRO膜を結晶化させる第1の熱処理を行い、
前記SRO膜の上に、スパッタ法により、第1のPZT膜を形成し、
前記第1のPZT膜を結晶化させる第2の熱処理を行い、
記第1のPZT膜の上に、CVD法により、前第2のPZT膜を形成する、
ことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記第1のPZT膜の膜厚は、10nm乃至20nmであることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記導電膜はTiからなり、前記導電膜の膜厚は0.06nm以上3nm以下、かつ前記SRO膜の膜厚は0.4nm以上3nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記導電膜は、Ti、V、W、Zr、Cr、Mg、Hf、Mo、Mn、Ta又はNbからなることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に設けられた誘電体膜と、を含む強誘電体キャパシタを有する、半導体装置であって、
前記下部電極の上に形成された、導電膜と、
前記導電膜の上に形成され、前記導電膜の構成元素を含む、SRO膜と、
前記SRO膜の上にスパッタ法により形成された、第1のPZT膜と、
前記第1のPZT膜の上にCVD法により形成された、第2のPZT膜と、
を備えることを特徴とする半導体装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図1G】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−124497(P2011−124497A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283006(P2009−283006)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】