説明

半導体装置とその製造方法

【課題】Sn-Sb系はんだ合金を用いた半導体装置であって、ヒートサイクル時の耐クラック性をより向上した半導体装置とその製造方法を提供する。
【解決手段】はんだ合金により導電性部材間を接合してなる半導体装置において、前記はんだ合金は、主成分としてSnおよびSbを含有するものとし、前記SnとSbとから生成される金属間化合物の粒径サイズを20μm以上とする。半導体装置の製造方法としては、はんだ合金による接合時に、はんだ合金を溶融した後の冷却速度、即ち、はんだ合金の液相線から固相線を通過する冷却勾配(℃/sec)を、2.5〜0.1とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体装置とその製造方法、特に、半導体素子と導電性部材とを、はんだ合金により接合してなる半導体装置とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置としては、用途に応じて種々の構成を有するものが知られているが、通常、半導体素子、リード端子、放熱板などを有し、導電性部材間を、はんだ合金により接合してなるものが知られている。このような半導体装置の一例として、大容量インバータや高圧インバータ装置に用いられるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールについて以下に述べる(詳細は、非特許文献1参照)。
【0003】
図1はIGBTモジュールの模式的断面図を示す。図1に示す半導体装置は、半導体素子1、絶縁基板2、放熱ベース3、ボンディングワイヤ4とを有し、導電性部材間を、はんだ合金などの接合材料5により接合した構成を備える。なお、上記絶縁基板2は、中央の絶縁板を銅などの導電性部材で挟んだ構造を有する。
【0004】
上記のような半導体装置は、通電時の半導体素子の発熱により、半導体素子1と絶縁基板2間のはんだ接合部、及び絶縁基板2と放熱ベース3間のはんだ接合部に大きな熱ひずみが発生するため、熱疲労特性に優れたはんだ合金による接合が求められる。また、環境配慮の点からPb(鉛)を含有しない、いわゆる鉛フリーはんだ合金の使用が望まれている。
【0005】
これらに対応したはんだ合金として、主に、一般にSn-Ag(銀)系やSn-Sb系のはんだ合金が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−221330号公報
【特許文献2】特開2002−321084号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】山本 拓也、外1名、“新型大容量2in1 IGBTモジュール”、富士時報 Vol.83 No.6 2010、P388-392
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
半導体装置の開発においては、小型化や高出力化に伴うチップの発熱密度上昇や、高温環境下への設置等への対応が望まれており、半導体装置に用いられるはんだ合金も、高温動作、及び高温環境下に優れることが望まれている。これらに対応したはんだ合金としては、高融点のはんだが理想的であり、融点(共晶温度221℃)のSn-Ag系はんだ合金に比べて、融点の高いSn-Sb系はんだ合金(包晶点245℃)が好適である。
【0009】
上記のSn-Sb系のはんだ合金に関しては、種々の特許提案がなされている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0010】
上記のようなSn-Sb系はんだ合金を用いたとしても、半導体装置の絶縁基板や放熱ベースの材質やサイズにより、はんだ接合部に発生する熱ひずみが大きくなると、クラック(き裂)が進行し、半導体装置のヒートサイクル時の信頼性が低下するという問題点があった。
【0011】
この発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、本発明の課題は、Sn-Sb系はんだ合金を用いた半導体装置において、ヒートサイクル時の耐クラック性をより向上した半導体装置とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題を達成するために、この発明によれば、はんだ合金により導電性部材間を接合してなる半導体装置において、前記はんだ合金は、主成分としてSnおよびSbを含有するものとし、前記SnとSbとから生成される金属間化合物の粒径サイズを20μm以上とすることを特徴とする。
【0013】
上記において、粒径サイズの上限値は、半導体装置の製造上の理由から必然的に決まる。通常、はんだ接合部の厚さは150〜200μmである。また、前記金属間化合物の結晶成長速度を考慮すると、概ね、粒径サイズの上限は200μmである。
【0014】
また、前記半導体装置において、前記はんだ合金のSb含有量を、包晶点で決まる組成比に基づき8.5重量%以上とし、半導体装置の各部材の温度保障及びはんだ材料の加工性の点から30重量%以下とすることが好ましい。
【0015】
また、上記半導体装置の製造方法の発明としては、はんだ合金による接合時に、はんだ合金を溶融した後の冷却速度、即ち、はんだ合金の液相線から固相線を通過する冷却勾配(℃/sec)を、2.5〜0.1とすることを特徴とする。これにより、ヒートサイクル時の耐クラック性をより向上する上で好適な前記金属間化合物の粒径サイズが得られる。
【0016】
上記において、冷却速度の上限は、後述するき裂進展距離に基づいて定めた値であり、下限は、はんだ接合用の加熱炉の徐冷速度から必然的に決まる値である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、主成分としてSnおよびSbを含有するはんだ合金を用いてはんだ接合する場合において、はんだ合金溶融後の冷却速度(℃/sec)を、2.5〜0.1とすることにより、前記SnとSbとから生成される金属間化合物の粒径サイズを20μm以上とし、これにより、半導体装置のヒートサイクル時の耐クラック性をより向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施形態に係るIGBTモジュールの模式的断面図。
【図2】従来の冷却速度が比較的早い場合のき裂進展経路の模式的説明図。
【図3】本願発明に係り、冷却速度が比較的遅い場合のき裂進展経路の模式的説明図。
【図4】冷却速度とSn-Sb金属間化合物の粒径サイズとの関係を示す図。
【図5】冷却速度と、ヒートサイクル試験におけるき裂進展長さとの関係を示す図。
【図6】冷却速度と、はんだ接合部におけるSn相の硬さとの関係を示す図。
【図7】冷却速度と、はんだ接合部におけるSn-Sb金属間化合物の硬さとの関係を示す図。
【図8】Sn-Sbの二元状態図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施形態について、図を参照しながら説明する。図1は前述のようにこの発明が適用される半導体装置としての一例としてのIGBTモジュールの模式的断面図を示し、その説明は省略する。
【0020】
図2および図3は、はんだ接合部に発生するき裂進展経路に関する概念的説明に関わる模式的説明図を示し、図2は従来の冷却速度が比較的早い場合のき裂進展経路の模式的説明図、図3は本願発明に係り、冷却速度が比較的遅い場合のき裂進展経路の模式的説明図である。
【0021】
この発明は、「半導体装置のはんだ接合部における主としてヒートサイクルによる熱疲労寿命は、はんだ接合部に発生する繰り返し応力によるき裂進展距離に支配される」という着眼に基づく。
【0022】
前記特許文献1や2等の従来のSn-Sb系のはんだ合金においては、SnとSbとから生成される金属間化合物の粒径サイズが粗大となると、クラックが発生する問題があり、金属間化合物を微細化して分散させる方がよいとされていた(例えば、特許文献1の段落[0021]および特許文献2の段落[0014]参照)。
【0023】
この発明においては、上記従来の通念とは異なり、金属間化合物の粒径サイズを粗大化することにより、前記き裂進展経路が金属間化合物の粒子を迂回するようにして、き裂進展長さ、即ち、き裂進展距離を短くすることをねらいとしている。これについて、図2および図3に基づいて以下に詳述する。
【0024】
図2に示すように、冷却速度が2.5℃/secより早い場合のはんだ組織のき裂進展経路は、Sn相内を、略直線的に進む。これに対し、冷却速度が2.5℃/sec以下の場合のはんだ組織のき裂経路は、図3に示すように、Sn相をき裂進展するが粗大SnSb金属間化合物粒子を避けてSn相を蛇行するように進展するため、き裂進展距離(き裂進展長さ)が短くなる。
【0025】
また、冷却速度を遅くすることにより、はんだ接合層に発生する残留応力を小さくすることができるため、上記のき裂進展距離が短くなる利点の他に、き裂が発生するまでのサイクルを延ばすことができる。また、き裂発生後の進展速度を抑制することができる利点もある。
【0026】
次に、図4および図5に基づいて、はんだ接合時の冷却速度とSn-Sb金属間化合物の粒径サイズとの関係、および、はんだ接合時の冷却速度とヒートサイクル試験におけるき裂進展長さとの関係について実験した結果の一例を述べる。これは、Sn-13重量%Sbはんだ合金にて接合した半導体装置の絶縁基板と放熱ベース間のはんだ接合部の実験結果の一例である。
【0027】
図4から明かなように、冷却速度が早くなるほど金属間化合物の微細化が見られる。そして、冷却速度(℃/sec)を、2.5〜0.1とすることにより、前記SnとSbとから生成される金属間化合物の粒径サイズを20μm以上とすることができる。これにより、半導体装置のヒートサイクル時の耐クラック性をより向上することができる。
【0028】
また、図5の冷却速度とヒートサイクル試験におけるき裂進展長さとの関係についての実験結果によれば、き裂進展長さは、冷却速度が2.5℃/sec以下になると5.5℃/sec以上に比べて短くなっていることがわかる。なお、図5のヒートサイクル試験の条件は、(-40℃⇔105℃、1時間/サイクル、1500サイクル)である。
【0029】
前述のように、はんだ合金のSb含有量は、包晶点で決まる組成比に基づき8.5重量%以上とし、半導体装置の各部材の温度保障及びはんだ材料の加工性の点から30重量%以下することが好ましいが、前記図4および図5の結果は、Sn-13重量%Sb以外の組成比の場合にも略同様の結果が得られる。
【0030】
ところで、図8に示すSn-Sbの二元状態図に基づき、前記組成比の好適範囲について以下に詳述する。なお、図8(b)図は、(a)図の一部拡大図を示す。図8から明かなように、包晶点(245℃)におけるSb含有量は約8.5重量%であり、金属間化合物を得る観点から、これをSb含有量の下限とする。一方、上限値30重量%は、半導体装置としての加熱上限許容温度(約400℃)と、Sb含有量が多い場合のはんだ合金の溶融温度との兼ね合いから、決定している。また、はんだ合金は、主成分としてSnおよびSbを含有するものとし、添加物は、できる限り少ない方が好ましい。その理由は、添加物により、金属間化合物の好適な成長が抑制される可能性があるからである。
【0031】
次に、図6および7について述べる。図6および7は、冷却速度とはんだ接合部におけるSn相の硬さ、および、冷却速度とはんだ接合部におけるSn-Sb金属間化合物の硬さとの関係について、参考までに実験した結果を示す図である。各組織の硬さは冷却速度によらず一定であり、耐クラック性には影響しない。
【符号の説明】
【0032】
1:半導体素子、2:絶縁基板、3:放熱ベース、4:ボンディングワイヤ、5:接合材料(はんだ合金)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
はんだ合金により導電性部材間を接合してなる半導体装置において、前記はんだ合金は、主成分としてSnおよびSbを含有するものとし、前記SnとSbとから生成される金属間化合物の粒径サイズを20μm以上とすることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1記載の半導体装置において、前記はんだ合金のSb含有量を、8.5重量%以上、30重量%以下とすることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の半導体装置の製造方法であって、はんだ合金による接合時に、はんだ合金を溶融した後の冷却速度、即ち、はんだ合金の液相線から固相線を通過する冷却勾配(℃/sec)を、2.5〜0.1とすることを特徴とする半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−89809(P2013−89809A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229845(P2011−229845)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】