説明

半導体装置の評価方法及び半導体装置の設計方法

【課題】 半導体装置の評価方法及び半導体装置の設計方法に関し、シミュレーションにおいて同時に扱うパラメータを見掛け上少なくして、モデル式の見通しを良くするとともに、シミュレーション効率を高める。
【解決手段】 単体のMOSFETにおいて、実効的反転層移動度をμeff 、実効チャネル幅をWeff 、実効チャネル長をLeff 、単位面積当たりのゲート絶縁膜容量をCOX、実効的ゲート電圧をVgeff、Vgeff=0の時の実効的反転層移動度をμ0 とした場合のU0 =μ0 eff OX/Leff で、実効一次移動度減衰係数をΘ1eff、二次移動度減衰係数をΘ2 、しきい値電圧をVth、及び、相補コンダクタンスをgm とした場合に、YをY≡Ids(gm -1/2とするとともに、相関を求める一方の変数として1/Y2 を含むモデル式を用い、見掛け上のフィッティングパラメータを3個以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置の評価方法及び半導体装置の設計方法に関するものであり、特に、MOSFET(MOS型電界効果トランジスタ)の直列寄生抵抗及びチャネル長依存性を有する移動度を、解析時に直接扱うパラメータの数を少なくして精度良く効率的に抽出するための手法に特徴のある半導体装置の評価方法及び半導体装置の設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CMOS等の半導体素子を含む集積回路装置を設計するためには、チャネル領域を走行するキャリアの移動度μやソース・ドレイン領域に起因する直列寄生抵抗Rsdを正しく評価する必要があり、そのために各種のパラメータを予め理論式と対応付けるシミュレーションにより求めることが行われている。
【0003】
この場合、移動度がチャネル長に依らずに一定であると仮定してシミュレーションすることが広く行われており、例えば、シフト・アンド・レシオ法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、半導体素子の微細化に伴って、二次移動度減衰係数Θ2 が無視し得なくなってきており、それを反映するために、Idsをソース・ドレイン電流、gm を相補コンダクタンスとした場合に、 Y≡Ids(gm -1/2
で定義するY値を導入することも提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
非特許文献2に示されたシミュレーションにおいては、
ds/Ids=Vds/Ids0 +Rsd ・・・(1)
ds0 =Weff μeff oxgeffds/Leff (1+Vds/Esat eff )・・(2) μeff =μo /(1+Θ1 geff+Θ2 geff2 ) ・・・(3)
geff=Vg −Vth−Vds/2 ・・・(4)
としいう基本式をモデル式に採用している。
但し、
ox:単位面積当たりのゲート絶縁膜容量
eff :実効チャネル長
eff :実効チャネル幅
sat :速度飽和電界
ds0 :正味(intrinsic)のMOSFETに流れるソース・ドレイン電流
μo :Vgeff=0における実効的な反転層移動度
μeff :実効的な反転層移動度
Θ1 :一次移動度減衰係数
Θ2 :二次移動度減衰係数
sd:直列寄生抵抗
ds:ソース電位を基準としたドレイン電圧
g :ゲート電圧
geff:実効ゲート電圧
th:しきい値電圧
であり、主な未知数は、μo 、Θ1 、Θ2 、Esat 、及び、Rsdの五つとなる。
なお、Esat は速度飽和に関連したパラメータであるが、通常はVdsの絶対値が小さい条件の下では速度飽和の効果が無視できるのでEsat =∞として無視することができる。
【0006】
このようなモデル式を前提とした場合、上述のY値を導入することにより、
Y≡Ids(gm -1/2=〔Gm ds/(1−Θ2 geff2 )〕-1/2geff
但し、Gm =μ0 eff ox/Leff ・・・(5)
で表され、未知数の内のRsd及びΘ1 が消えてなくなるため、シミュレーションが容易になる利点がある。
【0007】
また、近年のMOSFETの微細化にともなって、チャネル領域のポケット注入或いはハロー注入と称するイオン注入が行われており、注入された不純物に起因するキャリア散乱により移動度μがチャネル長依存性を有する現象が分かってきた。
また、ゲート電極を含む能動領域を覆うSiN膜等の保護絶縁膜に起因する機械的ストレスによっても移動度μがチャネル長依存性を有する現象が分かってきた。
【0008】
そこで、この様な移動度μo のチャネル長依存性を前提とした移動度μ(L)と直列寄生抵抗Rsdの抽出方法の課題になっており、短チャネル長での移動度抽出の目的でdR/dL法も提案されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0009】
また、Vg0を変化させながら、1/Ids対1/Vgeffをプロットし、直線に乗るVg0をVthとすることも提案されている(例えば、非特許文献4参照)。
なお、この場合のモデル式は、
ds/Ids=(1/U0 )×(1/Vgeff+Rsd) ・・・(6)
であり、一次移動度減衰係数Θ1 は考慮されていない。
【0010】
しかし、上述のY値を導入したシミュレーションにおいては、しきい値電圧Vthを明確に定めることができないため、充分な精度のシミュレーションを行うことができず、且つ、短チャネル化に伴い移動度がチャネル長依存性を有する場合に適用することができないという問題がある。
【0011】
また、dR/dL法においては、移動度のチャネル長依存性を取り込んでいるものの、確からしいデータを得るためには多数の試料が必要になるとともに、得られる移動度も多数の試料の平均的な値としてしか得られず、詳細なチャネル長依存性の解析は困難であるという問題がある。
【0012】
そこで、本発明者は、上述の問題を解決するために、異なる実効チャネル長Leff を有する少なくとも2個以上のMOSFETの集合に対し、まず、上記の式(5)におけるGm に代えて、U0 =μ0 eff OX/Leff で表されるU0 を含む4つのパラメータ(Θ1eff,Θ2 ,U0 ,Vth)の組の最適解を各実効チャネル長Leff のMOSFETについてそれぞれ求め、次いで、複数のMOSFETにおけるΘ1effとU0 との相関から直列寄生抵抗Rsd及び一次移動度減衰係数Θ1 を求め、求めたRsd及びΘ1 を実効チャネル長Leff に依存しない値として、各実効チャネル長Leff のMOSFETにおけるΘ2 ,U0 ,Vthの3つのパラメータを再抽出し、その結果に基づいて、各実効チャネル長Leff のMOSFETにおけるVgeff=0の時の実効的な反転層移動度μ0 、真性ソース・ドレイン電流Ids0 、及び、移動度のゲート電圧依存性μ(Vg )等を求めることを提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0013】
ここで、図16を参照して、本発明者による従来の提案を説明する。
図16参照
図16は、上述の本発明者の提案による従来のシミュレーション方法のアルゴリズム大枠をフローチャートとして纏めたものであり(詳細は、上述の特許文献1参照)、
(1)まず、各測定デバイスでId −Vg 曲線から(U0 ,Θ1eff,Θ2 ,Vth)の組を抽出し、
(2)全デバイスについての抽出が終了したのち、
(3)多数のデバイスの(U0 ,Θ1eff)相関から(Θ1 ,Rsd)を抽出する。
【特許文献1】特開2004−073724号公報
【非特許文献1】IEEE Electron Device Letters,vol.13,p.267,1992
【非特許文献2】Proceedings of the 2000 International Conference on Microelectronic Test Structures,p.181,2000
【非特許文献3】International Electron Device Meeting Technical Digest,p.43,2002
【非特許文献4】Proceedings of the 2005 International Symposium on Low Power Electronics and Design,p.26−29,Aug.2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、上述の本発明者による従来の提案の場合には、複数のパラメータを同時に扱ってシミュレーションを行う必要があるため、シミュレーションが複雑になるとともに、必ずしも、実測値にあった正しい結果がえられないという問題がある。
【0015】
したがって、本発明は、シミュレーションにおいて同時に扱うパラメータを見掛け上少なくして、モデル式の見通しを良くするとともに、シミュレーション効率を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
図1は本発明の原理的構成図であり、ここで図1を参照して、本発明における課題を解決するための手段を説明する。
図1参照
上記課題を解決するために、本発明は、半導体装置の評価方法であって、単体のMOSFETにおいて、実効的な反転層移動度をμeff 、実効チャネル幅をWeff 、実効チャネル長をLeff 、単位面積当たりのゲート絶縁膜容量をCOX、実効的なゲート電圧をVgeff、Vgeff=0の時の実効的な反転層移動度をμ0 とした場合にU0 =μ0 eff OX/Leff で表されるU0 、実効一次移動度減衰係数をΘ1eff、二次移動度減衰係数をΘ2 、しきい値電圧をVth、及び、相補コンダクタンスをgm とした場合に、YをY≡Ids(gm -1/2とするとともに、相関を求める一方の変数として1/Y2 を含むモデル式を用いることによって、同時に扱う見掛け上のフィッティングパラメータを3個以下とすることによって、少なくともΘ1eff,Θ2 ,U0 及びVthを含む組の最適解を求め、最適解に基づいて、直列寄生抵抗Rsdと一次移動度減衰係数をΘ1 を求めることを特徴とする。
【0017】
このように、相関関係を求める際に、従来のようにY或いは1/Yの形ではなく、1/Y2 を用いることによって、相関関係が直線関係或いは直線に近い関係として現れるので、パラメータを動かしてフィッティングを行う際の見通しを非常に良くなるとともに、同時に扱う見掛け上のフィッティングパラメータを1個乃至3個とすることができ、フィッティングが簡素化されるので、フィッティングに要する時間が短縮される。
【0018】
また、実際に扱っているパラメータは、従来の本発明者の提案と同様に、少なくとも、(Θ1eff,Θ2 ,U0 ,Vth)の組を含んでいるので、解析精度は従来と同様或いはそれ以上に保証されることになる。
【0019】
この場合、相関を、1/Y2 −1/Vgeff2 の相関とすることによって、見掛け上のフィッティングパラメータをVthとして、(Θ1eff,Θ2 ,U0 ,Vth)の組の最適解を求めるようにすれば良い。
【0020】
即ち、1/Y2 ≡Ids2 /gm =(1/U0 ds)(1/Vgeff2 −Θ2 )〔但し、Vdsはソース電位を基準としたドレイン電圧〕となるので、1/Y2 −1/Vgeff2 の相関とすることによって、Vgeffに含まれるVthのみをパラメータとしたy=αx−βの一次式の形になるので、非常に見通しが良くなる。
【0021】
また、式から明らかなように、y切片がΘ2 /U0 dsとなり、また、直線の傾きが1/U0 dsとなるので、上述の相関関係のフィッティングするだけでVth、U0 、Θ2 を導き出すことができる。
【0022】
或いは、相関を、φをφ=Θ2 /(U0 ds)として、(1/Y2 +φ)-1/2−Vgeffの相関とすることによって、見掛け上のフィッティングパラメータをφとして、(Θ1eff,Θ2 ,U0 ,Vth)の組の最適解を求めるようにしても良い。
【0023】
この場合、(1/Y2 +φ)-1/2=(U0 ds1/2 geff=となるので、(1/Y2 +φ)-1/2−Vgeffの相関とすることによって、直線に近い相関関係となるので、非常に見通しが良くなる。
【0024】
また、式から明らかなように、直線近似考えると、x切片がVthとなり、また、直線の傾きが(U0 ds1/2 となるので、上述の相関関係のフィッティングするだけでVth及びU0 を導き出すことがで、また、最適なφからφ=Θ2 /(U0 ds)の関係からΘ2 を求めることができる。
【0025】
また、評価方法において三次移動度減衰係数Θ3 を導入し、特に、三次移動度減衰係数Θ3 をμeff =μ0 /(1+Θ1 geff+Θ2 geff2 +Θ3 geff3 )として導入し、見掛け上のフィッティングパラメータにΘ3 を追加して、(Θ1eff,Θ2 ,Θ3 ,U0 ,Vth)の組の最適解を求めるようにしても良く、それによって、モデルに三次移動度減衰係数Θ3 を取り込むことができるので、より精度の高い解析が可能になる。
【0026】
なお、三次移動度減衰係数Θ3 を導入する場合、モデル式として、上述の三次移動度減衰係数Θ3 を導入した場合に用いるモデル式をゲート電圧Vg で偏微分するとともに、そのモデル式をさらに偏微分で割った式を用いても良いものであり、それによって、モデル式からU0 を見掛け上消去することができるので、フィッティングが容易になる。
【0027】
但し、この場合には、フィッティングパラメータは(Vth,Θ3 )、(φ,Θ3 )、或いは、(Vth,Θ3 ,φ)となって、一つ或いは二つ増えるので、フィッティングが複雑になり、収束が悪くなるので、時間がかかることになる。
【0028】
また、上述のいずれの場合においても、最適解として得たΘ1effとU0 との相関曲線の傾斜から直列寄生抵抗Rsdを求めることができる。
即ち、
Θ1eff=Θ1 +U0 sd であるので、この相関曲線の傾斜が直列寄生抵抗Rsdを表し、U0 =0におけるΘ1effの値がΘ1 となる。
【0029】
上述の半導体装置の評価方法の手順を用いて抽出したモデルパラメータを用いて半導体装置を設計することによって、設計値に近い各種の特性値を有するMOS型半導体装置を実現することができる。
【0030】
上述の半導体装置の評価方法の手順を解析ソフトウエアとして搭載することによって、移動度のチャネル長依存性を反映した各種パラメータを精度良く効率的に抽出することが可能な解析装置を実現することができる。
なお、このような解析装置は高精度のデバイスシミュレータ等に限られず、所謂ポケコンレベルの電子計算器や測定装置に付属のマイクロコンピュータ等も含まれるものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、実効的に解析するパラメータを従来と同様或いはそれ以上としながら、同時に扱う見掛け上のフィッティングパラメータを1個乃至3個とすることができるととも、相関関係の見通しが良くなるため、フィッティングに要する時間が短縮され、実効的な反転層移動度μeff や直列寄生抵抗Rsd等のモデルパラメータを精度良く効率的に抽出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明は、異なる実効チャネル長Leff を有する少なくとも2個以上のMOSFETの集合に対し、まず、U0 =μ0 eff OX/Leff で表されるU0 を含む4つのパラメータ(Θ1eff,Θ2 ,U0 ,Vth)の組の最適解を、YをY≡Ids(gm -1/2とするとともに、相関を求める一方の変数として1/Y2 を含むモデル式を用いることによって、1/Y2 −1/Vgeff2 の相関、或いは、φをφ=Θ2 /(U0 ds)として、(1/Y2 +φ)-1/2−Vgeffの相関とすることによって、相関関係の見通しを良くするとともに見掛け上のフィッティングパラメータをVth或いはφ(したがって、U0 )のみして求めるものである。
【0033】
また、三次移動度減衰係数Θ3 をμeff =μ0 /(1+Θ1 geff+Θ2 geff2 +Θ3 geff3 )の形で導入して導入して、(Θ1eff,Θ2 ,Θ3 ,U0 ,Vth)の組の最適解を求めるようにしても良く、その場合には、フィッティングパラメータは(Vth,Θ3 )、(φ,Θ3 )、或いは、(Vth,Θ3 ,φ)になる。
【実施例1】
【0034】
ここで、図2乃至図8を参照して、本発明の実施例1のシミュレーション法を説明するが、まず、図2及び図3を参照して評価対象となるMOSFETの構成を説明する。
図2参照
図2は、本発明の実施例1においてシミュレーション対象となるMOSFETの概略的断面図であり、STI(Shallow Trench Isolation)による埋込絶縁膜12で分離されたp型半導体領域11にゲート絶縁膜13を介してゲート電極14を設けるととともに、ゲート電極14の両側にサイドウォール15を設ける。
【0035】
次いで、このゲート電極14の両側にn型ソース・ドレイン領域16を設けるとともに、斜めイオン注入によってチャネル領域17の一部にポケット領域(ハロー領域)18を設け、全面をSiN膜からなる保護絶縁膜19で覆った構造とする。
【0036】
このMOSFET10においては、ポケット領域(ハロー領域)18に導入された不純物によってチャネル領域17となる反転層を走行するキャリアが散乱されるため、走行するキャリアの移動度、即ち、反転層移動度μが変化することになる。
また、保護絶縁膜19によってチャネル領域17に機械的ストレスが印加されるが、この機械的ストレスも反転層移動度μに影響を与えることになる。
なお、対象とするMOSFETは、このMOSFETのようなバルク型に限られるものではなく、SOI構造やダブルゲート構造等のMOSFETも対象とするものである。
【0037】
図3参照
図3は、図2に示したMOSFETの等価回路であり、外部の要素から切り離されたMOSFET自体、即ち、正味のMOSFETである真性MOSFET20に対してその両側にソース・ドレイン領域16に起因する直列寄生抵抗が接続された構成となっており、ここでは、左右対称としているの両側の直列寄生抵抗を夫々Rsd/2とする。
【0038】
ついで、本発明の実施例1において用いる基本式を下記に示すが、基本的には上記の従来の式(1)乃至(4)と同様であるが、式(4′)に工夫を持ち込んでいる。
ds/Ids=Vds/Ids0 +Rsd ・・・(1)
ds0 =Weff μeff oxgeffds/Leff (1+Vds/Esat eff )・・(2) μeff =μo /(1+Θ1 geff+Θ2 geff2 ) ・・・(3)
geff=Vg −Vth−Abulkds/2 ・・・(4′)
【0039】
なお、各式における記号の意味は、従来における意味と同じであるが、新たに導入したAbulkは、バックゲートバイアス依存性を表す係数であり、通常の場合には従来と同様にAbulk=1であるが、測定条件としてVd =−Vs =Vds/2とした場合にAbulk=0となり、実測値とシミュレーション結果を比較する場合には、Vd =−Vs =Vds/2の条件で実測を行うのが望ましい。
【0040】
ここで、移動度に影響を与えるパラメータを纏めたU0 を、
0 =μ0 eff OX/Leff ・・・(7)
として定義するとともに、実効一次移動後減衰係数Θ1eff
Θ1eff=Θ1 +U0 sd ・・・(8)
として定義することによって、上記式(1)は、
ds=U0 geffds/(1+Θ1effgeff+Θ2 geff2 ) ・・・(9)
に変換することができる。
【0041】
この式(9)においては、主な未知数は、U0 ,Θ1eff,Θ2 ,Vthの4つとなり、Θ1effはΘ1 とRsdとから成り立っており、一つのMOSFETに対して夫々上記のモデル式が対応するので、各MOSFETに対して、即ち、各実効チャネル長Leff に対して夫々4つのパラメータの組(U0 ,Θ1eff,Θ2 ,Vth)を抽出すれば良いことが分かる。
【0042】
また、式(8)からは、複数のMOSFET間でΘ1effを比較することによって直列寄生抵抗Rsdがでてくることが分かるが、式(8)にはLeff やμ0 が含まれていないので、実効チャネル長Leff の測定誤差やLeff 依存性を有するμ0 の誤差に関係なく、U0 とΘ1effとの相関によりRsdの抽出が可能になる。
【0043】
ここで、本発明の実施例1においては、1/Y2 −1/Vgeff2 相関関係を用いる。
なお、Yは、従来と同様に、Y≡Ids(gm -1/2で定義され、
Y≡Ids(gm -1/2
=〔U0 ds/(1−Θ2 geff2 )〕-1/2geff ・・・(10)
で表されるので、式(10)から、
1/Y2 =(1/U0 ds)×(1/Vgeff2 −Θ2 ) ・・・(11)
に変形する。
【0044】
ここで、式(11)は、1/Y2 −1/Vgeff2 の相関に着目すると、y=αx+βの一次式となるので、シミュレーションにおいてパラメータを変動させた場合に非常に変動を予測し易い関係式であり、且つ、パラメータはVgeffとして含まれるVthの一個だけになるので、シミュレーションが容易になる。
また、Θ2 は直線に対するズレとして現れることになる。
【0045】
図4参照
図4は、本発明の実施例1の半導体装置のシミュレーション法のフロー図であり、まず、第1段階Aとして、各実効チャネル長Leff のMOSFETについてのIds−Vg 曲線から、gm 及びYを計算する。
【0046】
次いで、第2段階Bとして、パラメータVthの初期値をVg0=0として、上記の式(11)を計算する。
【0047】
次いで、第3段階Cとして、1/Y2 −1/Vgeff2 が直線か否かを検証し、直線でない場合には、パラメータVg0を変動させてフィッティングを行い、1/Y2 −1/Vgeff2 が直線に最も近くなった場合、第4段階Dでその直線からVth及びU0 を求める。
【0048】
図5参照
図5の左側は、本発明の実施例1のシミュレーション結果の説明図であり、右図は上述の特許文献1におけるIds−Vg 曲線を互いに逆数にして図示したものである。
ここでは、直線に近いか否かを−□−で示すフィッティングターゲットのレンジにおけ
る微分値で評価しており、フィッティングターゲットのレンジにおいて、Vg0=3.8〔V〕で示す線が最も直線に近いことが分かり、したがって、最適なVthをVth=3.8〔V〕とする。
なお、図における○及び●は実測値を示しているが、○は、予めシミュレーション結果を評価を行うために決定したレンジ(フィッティングターゲット)を示しており、gmmax近傍よりやや大きいVg の範囲の値を採用している。
【0049】
一方、従来例を示す右図においては、Vg0=3.6〜4.0〔V〕の範囲で同じような結果が得られるので、フィッティング結果のバラツキが大きく、精度を保証するのが困難であることが分かる。
【0050】
図6参照
図6は、後述する三次移動度減衰係数Θ3 を考慮に入れたシミュレーション結果と併せて示したものであり、式(11)から明らかなように、本発明の実施例1のシミュレーション結果におけるVth=3.8〔V〕とした直線の傾斜が1/U0 dsを表すので、直線の傾斜1/U0 dsからU0 が求まる。
なお、右図は上述の特許文献1におけるIds−Vg 曲線を互いに逆数にして図示したものである。
【0051】
次いで、第5段階Eにおいて、本発明の実施例1のシミュレーション結果におけるVth=3.8〔V〕とした直線のy切片が、−Θ2 /U0 dsを表すので、第5段階Dで得られたU0 を用いることによって、Θ2 を求めることができる。
【0052】
図7参照
次いで、第6段階Fにおいて、4つのパラメータの組(U0 ,Θ1eff,Θ2 ,Vth)の内の残るΘ1effを、図7に示すIds−Vg 曲線が実測値とモデルとが最も合うように最小二乗法によって決定する。
なお、図7においてはY−Vg 曲線及びgm −Vg 曲線も併せて示しているが、Y値はΘ1effに依存しない。
【0053】
再び、図4参照
以降は、各実効チャネル長Leff のMOSFETの全デバイスについての4つのパラメータの組(U0 ,Θ1eff,Θ2 ,Vth)の抽出が終了するまで第1段階A乃至第6段階Fの工程を繰り返し行い、全て終了した場合に、実効チャネル長Leff の異なる多数のデバイスの(U0 ,Θ1eff)相関から(Rsd, Θ1 )を抽出する。
【0054】
図8参照
図8は、Θ1eff−U0 相関であり、上述の式(8)から、 Θ1eff=Θ1 +U0 sd
で定義されるので、従来例と同様にΘ1eff−U0 相関の傾きがRsdを表し、y切片がΘ1 を表すので、Θ1eff−U0 相関から、(Rsd, Θ1 )を抽出し、シミュレーションを終了する。
【0055】
但し、このΘ1eff−U0 相関において、長さLが極端に長いもの、Lが極端に短いもの、及び、幅Wが極端に短いものは抽出が困難で誤差の要因になるので排除することが望ましく、図8は中位のLを用いたものであり、図から明らかなように良好に直線に乗るので、本モデルの妥当性が確認できた。
なお、この場合のデバイスの数は2個でも(Rsd, Θ1 )の抽出は原理的に可能であるが、バラツキが非常に大きくなる。
【0056】
以上、説明したように、本発明の実施例1においては、1/Y2 −1/Vgeff2 の一つの相関関係のみを利用しており、且つ、同時に扱う見掛け上のフィッティングパラメータはVthの一つだけであるのでシミュレーションが容易になり、また、1/Y2 −1/Vgeff2 の相関を取ると一次式になるの式の見通しが非常に良くなり、図4におけるVthの変動は20回程度行うだけで良好な結果が得られる。
【実施例2】
【0057】
次に、図9及び図6を参照して、本発明の実施例2のシミュレーション方法を説明するが、この本発明の実施例2のシミュレーション方法は上述の実施例1のシミュレーション方法で三次移動度減衰係数Θ3 を考慮したものである。
この場合の三次移動度減衰係数Θ3 は、式(9)を変形した下記の式(9′)の形で取り込んだものである。
1/Ids=(1/U0 ds)×(1/Vgeff+Θ1eff+Θ2 geff+Θ3 geff2
・・・(9′)
【0058】
したがって、1/Y2 は、
1/Y2 =gm /Ids2
=(1/U0 ds)×(1/Vgeff2 −Θ2 −2Θ3 geff)・・(11′)となり、1/Y2 −1/Vgeff2 に着目すると完全な直線ではないが直線に近い相関になる。
【0059】
図9参照
図9は、本発明の実施例2の半導体装置のシミュレーション法のフロー図であり、まず、第1段階Aとして、各実効チャネル長Leff のMOSFETについてのIds−Vg 曲線から、gm 及びYを計算する。
【0060】
次いで、第2段階Bとして、パラメータVthの初期値をVg0=0、パラメータΘ3 の初期値を適当に設定して、上記の式(11′)を計算する。
【0061】
次いで、第3段階Cとして、1/Y2 −1/Vgeff2 が実測とモデル式の間で近いか否かを検証し、乖離が大きい場合には、パラメータVg0及びΘ3 を変動させてフィッティングを行い、1/Y2 −1/Vgeff2 が実測とモデル式の間で最も近くなった場合、第4段階Dでその曲線からVth及びU0 を求める。
また、直線からの乖離の程度が、実測及びモデル式の間で一致するように、最適なΘ3 の値を求める。
【0062】
図6参照
図6の左側は、本発明の実施例1のシミュレーション結果の説明図であり、右図は上述の特許文献1におけるIds−Vg 曲線を互いに逆数にして図示したものである。
ここでは、直線に近いか否かを−□−で示すフィッティングターゲットのレンジにおけ
る微分値で評価しており、直線に一番近いと評価した相関曲線を上記の実施例1のVth=3.8〔V〕の場合の相関曲線とともに示している。
【0063】
式(11′)から明らかなように、本発明の実施例2のシミュレーション結果における最適なVthとΘ3 の値の直線の傾斜が1/U0 dsを表すので、直線の傾斜1/U0 dsからU0 が求まる。
【0064】
次いで、第5段階Eにおいて、本発明の実施例2のシミュレーション結果における最適なVthとΘ3 の値の相関曲線に適当な値のVgeffを代入することによって、Θ2 を求めることができる。
【0065】
次いで、第6段階Fにおいて、5つのパラメータの組(U0 ,Θ1eff,Θ2 ,Θ3 ,Vth)の内の残るΘ1effを、上述の図7に示すIds−Vg 曲線が実測値とモデルとが最も合うように最小二乗法によって決定する。
【0066】
以降は、上記の実施例1と全く同様に、各実効チャネル長Leff のMOSFETの全デバイスについての5つのパラメータの組(U0 ,Θ1eff,Θ2 ,Θ3 ,Vth)の抽出が終了するまで第1段階A乃至第6段階Fの工程を繰り返し行い、全て終了した場合に、実効チャネル長Leff の異なる多数のデバイスの(U0 ,Θ1eff)相関から(Rsd, Θ1 )を抽出する。
【0067】
この本発明の実施例2においては、三次移動度減衰係数Θ3 を考慮に入れているので、図6から明らかなように、Idsの曲線とのフィッティング状況は二次移動度減衰係数Θ2 まで考慮した場合より明らかに良くなっており、モデルの精度としては良くなったの言える。
【実施例3】
【0068】
次に、図10乃至図12を参照して、本発明の実施例3のシミュレーション方法を説明する。
この本発明の実施例3のシミュレーション方法においては、各基本式は上記の実施例1と全く同様であるが、ここでは、
φ=Θ2 /(U0 ds) ・・・(12)
で定義されるφを用いて上記の式(11)を、
1/Y2 =(1/U0 ds)×(1/Vgeff2 −Θ2
=1/U0 dsgeff2 −Θ2 /U0 ds
=1/U0 dsgeff2 −φ ・・・(11″)
とし、φを移項するともに、平方根の逆数を取って、
1/(1/Y2 +φ)1/2 =(U0 ds1/2 geff ・・・(13)
としたものである。
【0069】
この本発明の実施例3においては、1/Y2 とVgeffとの相関関係を、1/(1/Y2 +φ)1/2 −Vgeff相関関係として取らえるものであり、仮にφ=0とすると、式(13)は、Y∝Vgeffとなって、比例関係になるので、式の見通しが非常に良くなり、且つ、初期の段階、即ち、後述する第1段階乃至第3段階において着目するパラメータはφとして含まれるφの一個だけになるので、シミュレーションが容易になる。
【0070】
図10参照
図10は、本発明の実施例3の半導体装置のシミュレーション法のフロー図であり、まず、第1段階Aとして、各実効チャネル長Leff のMOSFETについてのIds−Vg 曲線から、gm 及びYを計算する。
【0071】
次いで、第2段階Bとして、パラメータφの初期値を設定して上記の式(13)を計算する。
【0072】
次いで、第3段階Cとして、1/(1/Y2 +φ)1/2 −Vgeffが直線か否かを検証し、直線でない場合には、パラメータφを変動させてフィッティングを行い、1/(1/Y2 +φ)1/2 −Vgeffが直線に最も近くなった場合、第4段階Dでその直線からVth及びU0 を求める。
【0073】
図11参照
図11は、本発明の実施例3のシミュレーション結果の説明図であり、ここでも、直線に近いか否かを右側の縦軸で示す微分値で評価しており、フィッティングターゲットのレンジにおける微分値で評価すると、φ=4.4×104 〔μm/VA〕の場合に最も直線に近いことが分かり、したがって、最適なφをφ=4.4×104 〔μm/VA〕とする。
なお、図11におけるφの変動は20回程度行うだけで良好な結果が得られる。
【0074】
図12参照
図12は、本発明の実施例3のシミュレーション結果のφ=4.4×104 〔μm/VA〕の場合を抜き出して実測値とともに改めて図示したものである。
この場合、上述の式(13)の左辺と右辺を入れ換えた式から分かるように、相関曲線の傾斜が(U0 ds1/2 を表すので、直線の傾斜(U0 ds1/2 からU0 が求まる。
【0075】
また、Θ2 は、上記の式(12)に、φ=4.4×104 〔μm/VA〕及び直線の傾斜(U0 ds1/2 から求めたU0 を代入することによって、得られる。
【0076】
次いで、第5段階Eにおいて、本発明の実施例3のシミュレーション結果におけるφ=4.4×104 の1/(1/Y2 +φ)1/2 −Vg 相関曲線のx切片が、Vthを表す。
即ち、上述の式(4′)におけるAbulk=0となるように、Vd =−Vs =Vds/2の条件で実測を行っているので、上記式(4′)から、
geff=Vg −Vth−Abulkds/2 ・・・(4′)
=Vg −Vth
となり、図12の相関曲線のx切片は、Vgeff=0を意味するので、Vg =Vthとなる。
【0077】
次いで、第6段階Fにおいて、4つのパラメータの組(U0 ,Θ1eff,Θ2 ,Vth)の内の残るΘ1effを、上述の図7に示すIds−Vg 曲線が実測値とモデルとが最も合うように最小二乗法によって決定する。
【0078】
再び、図10参照
以降は、各実効チャネル長Leff のMOSFETの全デバイスについての4つのパラメータの組(U0 ,Θ1eff,Θ2 ,Vth)の抽出が終了するまで第1段階A乃至第6段階Fの工程を繰り返し行い、全て終了した場合に、実効チャネル長Leff の異なる多数のデバイスの(U0 ,Θ1eff)相関から、上記の実施例1と全く同様に(Rsd, Θ1 )を抽出する。
【0079】
以上、説明したように、本発明の実施例3においては、φ=Θ2 /(U0 ds)を導入して1/(1/Y2 +φ)1/2 −Vgeffのみを利用しており、1/(1/Y2 +φ)1/2 はφに対して単調な関係にあるので、式の見通しが非常に良くなり、且つ、同時に扱う見掛け上のフィッティングパラメータはφの一つだけであるのでシミュレーションが容易になる。
【実施例4】
【0080】
次に、図13及び図14を参照して、本発明の実施例4のシミュレーション方法を説明するが、この本発明の実施例4のシミュレーション方法は上述の実施例3のシミュレーション方法で三次移動度減衰係数Θ3 を考慮したものである。
この場合の三次移動度減衰係数Θ3 は、式(9)を変形した下記の式(9′)の形で取り込んだものである。
1/Ids=(1/U0 ds)×(1/Vgeff+Θ1eff+Θ2 geff+Θ3 geff2
・・・(9′)
【0081】
したがって、φ=Θ/(U0 ds)を導入すると、
1/(1/Y2 +φ)1/2 =(U0 ds1/2 geff/(1−2Θ3 geff3 1/2
・・・(13′)
となり、1/(1/Y2 +φ)1/2 −Vgeffの関係に着目すると完全な直線ではないが直線に近い相関になる。
【0082】
図13参照
図13は、本発明の実施例4の半導体装置のシミュレーション法のフロー図であり、まず、第1段階Aとして、各実効チャネル長Leff のMOSFETについてのIds−Vg 曲線から、gm 及びYを計算する。
【0083】
次いで、第2段階Bとして、パラメータφの初期値、パラメータΘ3 の初期値、及び、パラメータVthの初期値を適当に設定して、上記の式(13′)を計算する。
【0084】
次いで、第3段階Cとして、1/(1/Y2 +φ)1/2 −Vgeffが実測とモデル式の間で近いか否かを検証し、乖離が大きい場合には、パラメータφ,Θ3 ,Vthを変動させてフィッティングを行い、1/(1/Y2 +φ)1/2 −Vgeffが実測とモデル式の間で最も近くなった場合、第4段階Dでその曲線からU0 を求める。
また、直線からの乖離の程度が、実測及びモデル式の間で一致するように、最適なΘ3 の値を求める。
【0085】
図14参照
図14は、本発明の実施例4のシミュレーション結果の説明図であり、ここでも、直線に近いか否かを右側の縦軸で示す微分値で評価しており、フィッティングターゲットのレンジにおける微分値で評価すると、直線に一番近いと評価した相関曲線はφ=4.8×104 〔μm/VA〕の相関曲線になる。
【0086】
この最適な相関が得られた場合のVth、Θ3 、及び、φを式(13′)に代入することによって、U0 が求まる。
【0087】
次いで、第5段階Eにおいて、上記の式(12)に、φ=4.8×104 〔μm/VA〕及び式(13′)から求めたU0 を代入することによって、Θ2 が得られる。
【0088】
次いで、第6段階Fにおいて、5つのパラメータの組(U0 ,Θ1eff,Θ2 ,Θ3 ,Vth)うちの残るΘ1effを、上述の図7に示すIds−Vg 曲線が実測値とモデルとが最も合うように最小二乗法によって決定する。
【0089】
以降は、上記の実施例1と全く同様に、各実効チャネル長Leff のMOSFETの全デバイスについての5つのパラメータの組(U0 ,Θ1eff,Θ2 ,Θ3 ,Vth)の抽出が終了するまで第1段階A乃至第6段階Fの工程を繰り返し行い、全て終了した場合に、実効チャネル長Leff の異なる多数のデバイスの(U0 ,Θ1eff)相関から(Rsd, Θ1 )を抽出する。
【0090】
この本発明の実施例4においては、三次移動度減衰係数Θ3 を考慮に入れているので、モデルの精度をより高くすることができる。
但し、この場合はシミュレーションがかなり複雑になるので、実際には、Θ3 =−0.03〔V-3〕程度の値に固定してフィッティングを行うのが現実的である。
【実施例5】
【0091】
次に、図15を参照して、本発明の実施例5のシミュレーション方法を説明するが、この本発明の実施例5のシミュレーション方法は上述の実施例4のシミュレーション方法と同様に三次移動度減衰係数Θ3 を考慮するとともに、モデル式からU0 dsのファクターを消去したものである。
【0092】
即ち、上記の式(13′)のVg についての偏微分を取るとともに、その値で式(13′)を割ったものであり、
1/(1/Y2 +φ)1/2 /{Δ〔1/(1/Y2 +φ)1/2 〕/ΔVg
=(1−2Θ3 geff3 )Vgeff/(1+3Θ3 geff2 −2Θ3 geff3
・・・(14)
となる。
なお、ここでは、明細書の作成の都合上、偏微分をΔy/Δxの形で表している。
【0093】
この式(14)においては、左辺は測定データと一つのフィッティングパラメータφのみから表され、一方、右辺はΘ3 とVgeff(従って、Vth)の二つのフィッティングパラメータで表されることになり、フィッティングパラメータU0 が見掛け上消える。
【0094】
図15参照
図15は、本発明の実施例5のシミュレーション結果の説明図であり、シミュレーション法のフロー自体は、図13に示したフロー図におけるモデル式(13′)を式(14)に置き換えたものである。
図15においては、下側に図14を併せて示しており、φ=4.8×104 〔μm/VA〕でΘ3 =−0.03〔V-3〕の場合に比較的良い結果が得られる。
【0095】
この実施例5においてはU0 が独立のパラメータとして見掛け上現れないので、実施例4に比べてフィッティング操作が容易になる。
但し、直線性を評価する場合に微分が2回入るので、測定ノイズの影響を若干受けやすくなる。
【0096】
なお、フィッティングを簡単にするためには、上記の実施例4の場合と同様に、Θ3 =−0.03〔V-3〕程度の値に固定してフィッティングを行うとフィッティングパラメータはVthとφの2つになるが、これをself−consistent(自己無撞着)に解いても良いし、或いは、多変数の非線形方程式として多くのCPUコストを費やして数値解法で解いても良い。
【0097】
以上、本発明の各実施例を説明してきたが、解析の最終段階において、必要な実効チャネル長Leff を、上述の特許文献1における実施例2と全く同様にシミュレータBSIM3のC−V特性に関するモデル式を導入しても良いものである。
【0098】
この場合のモデル式としては、Cinv を反転層容量、COVはオーバラップ容量、Qinv を反転層電荷量とした場合、
inv −COV=Leff eff OX ・・・(15)
inv (Vg )=∫Cinv (Vg ′)dVg ′〔Vg ′=Vth→Vg 〕・・(16)で定義されるCinv −Vg 曲線及びQinv −Vg 曲線を用いる。
【0099】
なお、式(15)は、実験値のCinv 及びCOVをモデル化した式の内で最も簡単なもので、モデルパラメータLeff ,Weff 、COXとの対応関係を示す式となってる。
一方、式(16)は、それを積分して反転層電荷量Qinv として示したものである。
【0100】
そして、実測値のCinv −Vg 曲線或いはQinv −Vg 曲線に一致するように、他のIds−Vg 曲線等を同時参照しながらフィッティングを行ってモデルパラメータLeff ,Weff 、COXの抽出を行うことによってパラメータ抽出精度を高めることができる。
【0101】
以上のような形態により、MOSFETの高精度なモデル化を行うことができる。
即ち、抽出したパラメータは実体のMOSFETの線型領域における電気的な振る舞いを物理的な意味付けを正しく伴って精度良く抽出されている。
【0102】
本発明の手法によって実現したモデルは、回路シミュレータに取り込んで回路設計に用いても良いし、或いは、実効的な反転層移動度μeff 、直列寄生抵抗Rsdなどのモデルパラメータに着目し、MOSFETの製造プロセス開発における指標として、プロセス設計に用いても良い。
【0103】
ここで再び図1を参照して、本発明の詳細な特徴を改めて説明する。
再び、図1参照
(付記1) 単体のMOSFETにおいて、実効的な反転層移動度をμeff 、実効チャネル幅をWeff 、実効チャネル長をLeff 、単位面積当たりのゲート絶縁膜容量をCOX、実効的なゲート電圧をVgeff、Vgeff=0の時の実効的な反転層移動度をμ0 とした場合にU0 =μ0 eff OX/Leff で表されるU0 、実効一次移動度減衰係数をΘ1eff、二次移動度減衰係数をΘ2 、しきい値電圧をVth、及び、相補コンダクタンスをgm とした場合に、YをY≡Ids(gm -1/2とするとともに、相関を求める一方の変数として1/Y2 を含むモデル式を用いることによって、同時に扱う見掛け上のフィッティングパラメータを3個以下とすることによって、少なくともΘ1eff,Θ2 ,U0 及びVthを含む組の最適解を求め、前記最適解に基づいて、直列寄生抵抗Rsdと一次移動度減衰係数をΘ1 を求めることを特徴とする半導体装置の評価方法。
(付記2) 上記相関を、1/Y2 −1/Vgeff2 の相関とすることによって、上記見掛け上のフィッティングパラメータをVthとして、(Θ1eff,Θ2 ,U0 ,Vth)の組の最適解を求めることを特徴とする付記1記載の半導体装置の評価方法。
(付記3) 上記相関を、φをφ=Θ2 /(U0 ds)〔但し、Vdsはソース電位を基準としたドレイン電圧〕として、(1/Y2 +φ)-1/2−Vgeffの相関とすることによって、上記見掛け上のフィッティングパラメータをφとして、(Θ1eff,Θ2 ,U0 ,Vth)の組の最適解を求めることを特徴とする付記1記載の半導体装置の評価方法。
(付記4) 上記評価方法において三次移動度減衰係数Θ3 を導入し、上記見掛け上のフィッティングパラメータにΘ3 を追加して、(Θ1eff,Θ2 ,Θ3 ,U0 ,Vth)の組の最適解を求めることを特徴とする付記1に記載の半導体装置の評価方法。
(付記5) 上記モデル式として、付記4に用いるモデル式をゲート電圧Vg で偏微分するとともに、付記4に用いるモデル式を偏微分で割った式を用いることを特徴とする付記4記載の半導体装置の評価方法。
(付記6) 上記三次移動度減衰係数Θ3 を、μeff =μ0 /(1+Θ1 geff+Θ2 geff2 +Θ3 geff3 )として導入することを特徴とする付記4また5に記載の半導体装置の評価方法。
(付記7) 複数の実効ゲート長に対する、上記最適解としてΘ1effとU0 との相関曲線の傾斜から直列寄生抵抗Rsdを求めることを特徴とする付記2乃至6のいずれか1に記載の半導体装置の評価方法。
(付記8) 付記1乃至7のいずれか1に記載の半導体装置の評価方法の手順を用いて抽出したモデルパラメータを使用することを特徴とする半導体装置の設計方法。
(付記9) 付記1乃至7のいずれか1に記載の半導体装置の評価方法の手順を解析ソフトウエアとして搭載したことを特徴とする半導体装置の解析装置。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の活用例としては、MOS型半導体集積回路装置のデバイス設計、回路設計におけるシミュレーションが典型的であるが、実デバイスのリバースエンジアリングにも適用できるものであり、そのシミュレーション結果に基づいて実デバイスにおける製造欠陥等を推測することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の原理的構成の説明図である。
【図2】本発明の実施例1においてシミュレーション対象となるMOSFETの概略的断面図である。
【図3】図2に示したMOSFETの等価回路図である。
【図4】本発明の実施例1の半導体装置のシミュレーション法のフロー図である。
【図5】本発明の実施例1のシミュレーション結果の説明図である。
【図6】三次移動度減衰係数Θ3 を考慮に入れたシミュレーション結果の説明図である。
【図7】本発明の実施例1のシミュレーションにおけるΘ1effのフィッティング結果の説明図である。
【図8】Θ1eff−U0 相関の説明図である。
【図9】本発明の実施例2の半導体装置のシミュレーション法のフロー図である。
【図10】本発明の実施例3の半導体装置のシミュレーション法のフロー図である。
【図11】本発明の実施例3のシミュレーション結果の説明図である。
【図12】本発明の実施例3のシミュレーション結果のφ=4.4×104 〔μm/VA〕の場合の説明図である。
【図13】本発明の実施例4の半導体装置のシミュレーション法のフロー図である。
【図14】本発明の実施例4のシミュレーション結果の説明図である。
【図15】本発明の実施例5のシミュレーション結果の説明図である。
【図16】本発明者の提案による従来のシミュレーション方法のアルゴリズム大枠の説明図である。
【符号の説明】
【0106】
10 MOSFET
11 p型半導体領域
12 埋込絶縁膜
13 ゲート絶縁膜
14 ゲート電極
15 サイドウォール
16 n型ソース・ドレイン領域
17 チャネル領域
18 ポケット領域
19 保護絶縁膜
20 真性MOSFET

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単体のMOSFETにおいて、実効的な反転層移動度をμeff 、実効チャネル幅をWeff 、実効チャネル長をLeff 、単位面積当たりのゲート絶縁膜容量をCOX、実効的なゲート電圧をVgeff、Vgeff=0の時の実効的な反転層移動度をμ0 とした場合にU0 =μ0 eff OX/Leff で表されるU0 、実効一次移動度減衰係数をΘ1eff、二次移動度減衰係数をΘ2 、しきい値電圧をVth、及び、相補コンダクタンスをgm とした場合に、YをY≡Ids(gm -1/2とするとともに、相関を求める一方の変数として1/Y2 を含むモデル式を用いることによって、同時に扱う見掛け上のフィッティングパラメータを3個以下とすることによって、少なくともΘ1eff,Θ2 ,U0 及びVthを含む組の最適解を求め、前記最適解に基づいて、直列寄生抵抗Rsdと一次移動度減衰係数をΘ1 を求めることを特徴とする半導体装置の評価方法。
【請求項2】
上記相関を、1/Y2 −1/Vgeff2 の相関とすることによって、上記見掛け上のフィッティングパラメータをVthとして、(Θ1eff,Θ2 ,U0 ,Vth)の組の最適解を求めることを特徴とする請求項1記載の半導体装置の評価方法。
【請求項3】
上記相関を、φをφ=Θ2 /(U0 ds)〔但し、Vdsはソース電位を基準としたドレイン電圧〕として、(1/Y2 +φ)-1/2−Vgeffの相関とすることによって、上記見掛け上のフィッティングパラメータをφとして、(Θ1eff,Θ2 ,U0 ,Vth)の組の最適解を求めることを特徴とする請求項1記載の半導体装置の評価方法。
【請求項4】
上記評価方法において三次移動度減衰係数Θ3 を導入し、上記見掛け上のフィッティングパラメータにΘ3 を追加して、(Θ1eff,Θ2 ,Θ3 ,U0 ,Vth)の組の最適解を求めることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の評価方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の半導体装置の評価方法の手順を用いて抽出したモデルパラメータを使用することを特徴とする半導体装置の設計方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2008−117802(P2008−117802A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−296896(P2006−296896)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】