説明

半導体集積回路及びその遅延測定方法

【課題】フリップフロップ間のパスの遅延量を測定することのできる半導体集積回路及びこの遅延測定方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る半導体集積回路は、接続された複数のフリップフロップを有する被測定回路部と、複数のフリップフロップの入力及び出力のそれぞれに接続され、フリップフロップの入出力間の遷移を検出し、停止信号を作成する停止信号作成回路部と、停止信号作成回路部に接続される遅延時間測定回路部と、を有し、遅延時間測定回路部は、入力されるクロック信号と停止信号の間の遷移時間を測定する遷移時間測定回路部と、複数の遷移時間の差を測定する遷移時間差測定回路部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路及びその遅延測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路は、半導体材料若しくは絶縁材料の表面又は半導体材料の内部にトランジスターその他の回路素子を生成させ、電子回路の機能を有するよう設計したものであり、パーソナルコンピュータや携帯電話等に用いられており、特に近年、半導体集積回路における微細化技術の進歩によりめざましく高速化が図られている。
【0003】
しかしながら、半導体集積回路の高速化は、トランジスターと配線の加工のばらつきや配線間の容量結合等の増加等に起因する回路における信号の伝播時間のばらつきをもたらし、このばらつきを如何に抑えるかが重要な課題となっている。すなわち高速動作が可能な半導体集積回路を歩留まりよく作製するためには回路における伝播時間及びその統計的なばらつきを把握し、改善していくことが必要である。この伝播時間が必要以上に長くなっていないかを確認する方法として遅延測定がある。
【0004】
遅延測定とは、テスト信号を入力して応答信号を得るまでの時間を計測することをいい、この結果、計測した時間が所定の期間内に納まっているか否かを判定し、不良品であるか否かを判断することができる。
【0005】
半導体集積回路の遅延測定に関する公知の技術として、例えば下記特許文献1及び2に、テスターを用いて半導体集積回路外部から遅延故障をテストする方法が開示されている。また、下記非特許文献1及び2に、遅延時間の異なる2本の遅延ゲートチェーンを用い、この遷移時間の差によって遅延時間の範囲を決定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−174780号公報
【特許文献2】特開2001−264397号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】R.Datta,A.Sebastine,A.Raghunathan,andJ.A.Abraham、“On−Chip Delay Measurement for Silicon Debug”、Proc.of the 14th ACM Great Lakes symposium on VLSI、pp.145−148、2004
【非特許文献2】M.C.Tsai,C.H.Cheng,and C.M.Yang、“An All−Digital High−Precision Built−In Delay Time Measurement Circuit”、Proc.of the 26th IEEE VLSI Test Symposium、pp.249−254、2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載の技術では、フリップフロップ間のパスの遅延測定を行うことが困難である。また上記非特許文献1及び2に記載の技術も、テスト対象の入出力点を直接に遅延故障のテスト対象となる回路に入力するものであり、フリップフロップ間のパスの遅延量を測定することはできない。
【0009】
そこで、本発明は上記課題を鑑み、フリップフロップ間のパスの遅延量を測定することのできる半導体集積回路及びこの遅延測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明の一観点に係る半導体集積回路は、接続された複数のフリップフロップを有する被測定回路部と、複数のフリップフロップの入力及び出力のそれぞれに接続され、フリップフロップの入出力間の遷移を検出し、停止信号を作成する停止信号作成回路部と、停止信号作成回路部に接続される遅延時間測定回路部と、を有し、遅延時間測定回路部は、入力されるクロック信号と停止信号の間の遷移時間を測定する遷移時間測定回路部と、複数の遷移時間の差を測定する遷移時間差測定回路部と、を有する。
【0011】
また、本発明の他の一観点にかかる半導体集積回路は、接続された複数のフリップフロップを有する被測定回路部と、複数のフリップフロップの入力及び出力のそれぞれに接続され、フリップフロップの入出力間の遷移を検出し、停止信号を作成する停止信号作成回路部と、停止信号作成回路部に接続される遅延時間測定回路部と、を有する。
【0012】
また、本発明の他の一観点に係る半導体集積回路の遅延測定方法は、接続された複数のフリップフロップにクロック信号を入力し、複数のフリップフロップのうちいずれかに発生する入出力間の遷移を検出して停止信号を作成し、クロック信号と停止信号の間の遷移時間を測定する工程を複数回行い、複数の遷移時間の差を求める。
【0013】
また、本発明の他の一観点に係る半導体集積回路の遅延測定方法は、接続された複数のフリップフロップにクロック信号を入力し、複数のフリップフロップのうちいずれかに発生する入出力間の遷移を検出して停止信号を作成し、クロック信号と前記停止信号の間の遷移時間を測定する。
【発明の効果】
【0014】
以上、本発明により、フリップフロップ間のパスの遅延量を測定することのできる半導体集積回路及びこの遅延測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係る半導体集積回路の回路概略図である。
【図2】実施形態に係る半導体集積回路のフリップフロップの接続関係の一例と、停止信号作成部の機能ブロックの一例を示す図である。
【図3】実施形態にかかる停止信号作成部の遷移検出回路部の一例を示す図である。
【図4】実施形態にかかる停止信号作成部の信号出力回路部の一例を示す図である。
【図5】実施形態にかかる半導体集積回路の遅延時間測定回路部の一例を示す図である。
【図6】実施形態にかかる第一及び第二の遷移時間計測回路部の一例を示す図である。
【図7】実施形態にかかる遷移時間差計測回路部の一例を示す図である。
【図8】実施形態にかかる遅延時間測定の原理を説明するための図である。
【図9】実施形態にかかる遅延時間測定の原理を説明するための図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施の形態の例に狭く限定されるものでないことはいうまでもない。
【0017】
(回路構成)
図1は、本実施形態に係る半導体集積回路の回路概略図であり、図2は、被測定回路部2と停止信号作成回路部3の具体的な回路図である。図1、2で示すとおり、本実施形態に係る半導体集積回路1(以下「本集積回路1」という。)は、パス22を介して接続された複数のフリップフロップ211〜218を有する被測定回路部2と、被測定回路部2の複数のフリップフロップ211〜218に接続される停止信号作成回路部3と、この停止信号作成回路部3に接続される遅延時間測定回路部4と、を有する。
【0018】
本実施形態の被測定回路部2において、フリップフロップ211〜218は入力される信号を記憶することのできるものであって、この機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、例えばマスターラッチとスレイブラッチとの組合せを備えたものを例示することができる。なお、フリップフロップ211〜218は、クロック信号線CLにそれぞれ接続されており、クロック信号の入力に応じて入力された信号の記憶、フリップフロップ外への記録した値の出力を行なうことができる。
【0019】
本実施形態において、複数のフリップフロップ211〜218は、隣接する他のフリップフロップの出力と自己の入力を接続して(パス22を介して)接続されている。なお、本実施形態においては、説明のためフリップフロップの数を8とした例を示しているが、本実施形態に示す機能を有する限りにおいてこれに限定されない。
【0020】
また本実施形態の停止信号作成回路部3は、複数のフリップフロップ211〜218のそれぞれに対応して設けられ(接続され)ており、フリップフロップ211〜218のいずれかに発生する入出力間の遷移を検出し、停止信号を作成することができるものである。
【0021】
本実施形態に係る停止信号作成回路部3は、上記機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、例えば図2の例で示すように、遷移検出回路部311〜318と、この遷移検出回路部311〜318に接続される信号出力回路部32と、を有していることが好ましい。本実施形態に係る遷移検出回路部311〜318は、複数のフリップフロップのうちのいずれかに発生する遷移を検出することができる限りにおいて限定されないが、図3に、遷移検出回路部311〜318の一つ(例えば311)の詳細な回路構成の一例を示しておく。
【0022】
本図で示す遷移検出回路部311は、各フリップフロップの入力In及び出力Outにそれぞれ接続されており、XORゲートXOR1と、マスクラッチML1と、NANDゲートNAND1と、を有して構成されており、XORゲートXOR1は接続するフリップフロップに入力される信号及び接続するフリップフロップが出力する信号を受け付けることができるよう構成されており、マスクラッチML1は接続するフリップフロップが出力する信号を受け付けることができるよう構成されており、NANDゲートNAND1はマスクラッチMLとXORゲートXOR1の出力を受け付ける構成となっている。この結果、フリップフロップにおいて遷移が発生した場合、この遷移を検出することができ、信号出力部32に信号を作成するよう信号として指示を出すことができる。なお、マスターラッチML1はマスクラッチ用クロック信号線MLCLに接続されており、他の遷移検出回路部におけるマスクラッチとこのマスターラッチ用クロック信号線MLCLを介して接続されている。
【0023】
なお後述の説明から明らかとなるが、この場合においてマスクラッチは遷移検出の対象となるフリップフロップを特定するために用いられるものであり、このマスクラッチと他の遷移検出回路部のマスクラッチとの値を異ならせることで、対象外のフリップフロップに遷移が生じたとしても遅延測定の遷移として検出させないことが可能となる。
【0024】
また本実施形態における信号出力回路部32は、遷移検出回路部311〜318が遷移を検出した場合、遅延時間測定回路部4に停止信号を出力するためのものである。信号出力部32の構成としては、限定されるわけではないが、複数の遷移検出回路部31に接続され、これらの入力を受け付け、いずれかが遷移を示す信号である場合に信号を出力することのできるOR回路OR1〜OR7を複数接続して構成したものであることは好ましい一例である。この一例を図4に示しておく。
【0025】
以上この構成により停止信号作成回路部3は、複数のフリップフロップのうちのいずれかに発生する遷移を検出し、信号を停止信号として出力することが可能となり、遅延測定を効率よく行なうことができるようになる。
【0026】
また本実施形態において、遅延時間測定回路部4は、クロック信号線CLに接続され、クロック信号の入力を受け付けることができるとともに停止信号作成回路部3に接続されており、この回路部の入力を受け付けて遅延時間を測定することのできるものである。また本実施形態に係る遅延時間測定回路部4は、スタート信号線STに接続されており、スタート信号の入力を受け付けて遅延測定開始の合図とすることができる。図5に、遅延時間測定回路部4の構成の一例を示し、図6に図5の遅延時間測定回路部4における遷移時間測定回路部41の具体的な回路構成を、図7に、遷移時間差測定回路部42の具体的な回路構成をそれぞれ示しておく。
【0027】
図5で示すように、本実施形態に係る遅延時間測定回路部4は、遷移時間を測定する遷移時間測定回路部41と、測定した複数の遷移時間の差を測定する遷移時間差測定回路部42と、を有する。
【0028】
本実施形態に係る遷移時間測定回路部41は、クロック信号線CLからのクロック信号と、停止信号作成回路部3(具体的には信号出力回路部32)からの出力信号を受け付け、その間の時間を遷移時間として計算することができる。
【0029】
遷移時間の測定は、上記機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、例えば図6で示す構成を好ましく用いることができる。本図で示す遷移時間測定回路部41は、第一の時間測定ユニット411と、第二の時間測定ユニット412とを有して構成されている。
【0030】
第一の時間測定ユニット411は、クロック信号線CLに接続され、クロック信号の入力を受け付け、スタート信号線STの値を記憶することのできるフリップフロップ4111と、このフリップフロップ4111の出力を受け付けるNANDゲート4112と、このNANDゲート4112の出力側において直列に接続される複数のバッファ41131〜41135とを有している。なお、複数のバッファのうち最後段のバッファ41135の出力は、第二の時間測定ユニット412に接続されているとともに、上記のNANDゲート4112の入力側にも接続されている。更に、遷移時間測定回路部41の第一の時間測定ユニット411は、接続される複数のフリップフロップ41141〜41146を有して構成されており、NANDゲート4112又は複数のフリップフロップ41131〜41135の出力に接続されている。具体的には、NANDゲート4112の出力は最初のフリップフロップ41141の入力に接続されており、最初のフリップフロップ41141の出力は二番目のフリップフロップ41142の入力にセレクタS11を介して接続されており、二番目のフリップフロップ41142の出力は三番目のフリップフロップ41143の入力にセレクタS12を介して接続されており、三番目のフリップフロップ41143の出力は四番目のフリップフロップ41144の入力にセレクタS13を介して接続されており、四番目のフリップフロップ41144の出力は五番目のフリップフロップ41145の入力にセレクタS14を介して接続されており、五番目のフリップフロップ41145の出力は六番目のフリップフロップ41146の入力にセレクタS15を介して接続されている。なお、各フリップフロップの入力は、セレクタS11〜S15によりバッファの入力又は他のフリップフロップからの入力のいずれかを選択するようになっている。また、クロック信号線CLはセレクタSE1に接続されており、セレクタSE1は停止信号作成回路部3(具体的には信号出力回路部32)からのストップ信号又はクロック信号のいずれかを選択し、フリップフロップ4111及び41141〜41146に入力することができる。なお、本実施形態では、バッファの数が5つの例、フリップフロップの数が6個を示しているがこれに限定されず、適宜調整が可能であることはいうまでもない。
【0031】
第二の時間測定ユニット412は、第一の時間測定ユニット411における最終段のバッファ41135の出力、複数接続されたフリップフロップ41141〜41146の最終段のフリップフロップ41146の出力に接続されている。また第二の時間測定ユニット412は、クロック信号とストップ信号を選択するセレクタSE1の出力にも接続されている。
【0032】
また本実施形態にかかる第二の時間測定ユニット412において、第一の時間測定ユニット411の最終段のバッファ41135の出力は、並列に接続された遅延回路Tを有するパスと遅延回路を有していないパスに接続し、それぞれの出力をXORゲートXORに入力する。なおXORゲートXORの出力は時間計測フリップフロップ41211に入力される。
【0033】
また本実施形態にかかる第二の時間測定ユニット412は、複数の接続された時間計測フリップフロップ41211〜41216を有して構成されている。本実施形態において複数の時間計測フリップフロップ41211〜41216は数珠繋ぎとなっており、最初の時間計測フリップフロップ41211の出力が二番目の時間計測フリップフロップ41212の入力に接続されており、二番目時間計測のフリップフロップ41212の出力が三番目の時間計測フリップフロップ41213の入力に接続されており、三番目の時間計測フリップフロップ41213の出力が四番目の時間計測フリップフロップ41214の入力に接続されており、四番目の時間計測フリップフロップ41214の出力が五番目の時間計測フリップフロップ41215の入力に接続されており、五番目の時間計測フリップフロップ41215の出力が六番目の時間計測フリップフロップ41216の入力に接続されている。なお六番目の時間計測フリップフロップの出力はセレクタS26を介してしてフリップフロップ41226に入力されている。
【0034】
また本実施形態にかかる第二の時間測定ユニット412は、上記時間計測フリップフロップとは別に、複数のフリップフロップ41221〜41226を有して構成されている。本実施形態において複数のフリップフロップ41221〜41226は、数珠繋ぎに接続されている。具体的に説明すると、最初のフリップフロップ41221には、上記第一の時間測定ユニット411における最終段のフリップフロップ41146の出力と、上記最初の時間計測フリップフロップ41211の出力がセレクタS21を介して入力され、二段目のフリップフロップ41222には、一段目のフリップフロップ41221の出力と、上記二番目の時間計測フリップフロップ41212の出力がセレクタS23を介して入力され、三段目のフリップフロップ41223には、二段目のフリップフロップ41222の出力と、上記三番目の時間計測フリップフロップ41213の出力がセレクタS23を介して入力され、四段目のフリップフロップ41224には、三段目のフリップフロップ41223の出力と、上記四番目の時間計測フリップフロップ41214の出力がセレクタS24を介して入力され、五段目のフリップフロップ41225には、四段目のフリップフロップ41224の出力と、上記五番目の時間計測フリップフロップ41215の出力がセレクタS25を介して入力され、六段目のフリップフロップ41226には、五段目のフリップフロップ41225の出力と、上記六番目の時間計測フリップフロップ41216の出力がセレクタS26を介して入力されている。なお、六段目のフリップフロップ41226の出力は、遷移時間差測定回路部42に入力される。
【0035】
また本実施形態に係る遷移時間測定回路部42は、求めた遷移時間を記憶し、複数回測定した遷移時間の差を求めることのできるものであり、限定されるわけではないが、例えば図7で示すような回路構成を採用することができる。
【0036】
具体的に説明すると、本遷移時間差測定回路部42は、差分計算回路部421と、2回遷移時間測定を行ううち、1回目の遷移時間測定後の遷移時間測定回路部の各フリップフロップの値、及び2回の測定の各フリップフロップの値、及び差分計算結果を格納するためのスキャンレジスタを構成するセレクタ4221〜4228、及びフリップフロップ4231〜4238と、2回目の遷移時間測定後のフリップフロップの値を格納するためのシフトレジスタを構成するフリップフロップ424、423、424のうち最も右側のフリップフロップのそれぞれの入力線とその出力線が、遷移時間測定回路部へ接続される入力とその入力線が接続されている1入力2出力セレクタ425と、を有する。423、424のおのおのの出力線は、421の入力線へ接続されており、421の出力線は422の一方の入力線に接続されている。422のもう一方の入力線は、隣接するフリップフロップの出力線と接続されている。423はシフト動作をするときは422の入力線のうち隣接フリップフロップの出力線に接続されている方を選択し、421の差分計算結果をキャプチャするときは、もう一方の入力線を選択する。
【0037】
また本実施形態に係る遷移時間測定回路部42は、上記構成のほか更に、基準値データを記録した比較部を設け、求めた遷移時間差が所定の範囲内であれば正常であることを示す信号を出力し、所定の範囲内にない場合は異常があることを示す信号を出力するように構成してもよい。
【0038】
なお、本実施形態において遷移時間測定回路部42は半導体集積回路の一部として記載しているが、この遷移時間測定回路部42は半導体集積回路の外に設ける構成も可能であり、半導体集積回路内に遷移時間差測定回路部42を設けない構成を採用することもできる。この場合、出力端子を外部の回路に接続し、複数回測定を行い、その複数の遷移時間を出力させその差を計算することでどの程度遅延しているかを測定することができる。
【0039】
以上本実施形態に係る遅延時間測定回路部4は、複数回遷移時間の差を測定し、その差分をとることで、いわゆる遅延時間を求めることができ、本実施形態に係る半導体集積回路はフリップフロップ間のパスの遅延量を測定することのできるものとなる。
【0040】
ここで、なぜ本実施形態に係る半導体集積回路を用いて遷移時間の差を測ることで遅延測定を行えることについて説明を行なう。図8、9は、本実施形態に係る遅延測定の原理を説明するために用いる図である。
【0041】
図8で示す経路において、半導体集積回路において、入力した信号から出力を得るまでの時間T1は、(1)クロック信号発生、クロック信号線におけるクロック信号の伝播、フリップフロップへのクロック信号の入力、(2)フリップフロップ間の信号伝播、フリップフロップからの出力、(3)出力線における出力信号の伝播、出力端子からの出力、となっており、遷移時間は上記(1)から(3)までの合計となっている。すなわち、上記(2)のみを観測したいにもかかわらず、全てを足し合わせたものとなってしまっているのである(図8参照)。
【0042】
これに対し、例えば図9で示すフリップフロップ間の信号伝達を0とすることができる経路を選択すれば、上記(2)’を無視することができる。すなわち、この経路の遷移時間T2は、(1)’と(3)の合計となる。
【0043】
ところで、フリップフロップ間の距離が大きくなければ(1)と(1)’の差は十分小さいため、無視することができる。この結果、T1からT2を引くと、フリップフロップ間の信号伝播時間を測定することができる。具体的には下記式で示されるものとなる。
【数1】

【0044】
以上、本実施形態にかかる半導体集積回路を構成することで、フリップフロップ間のパスの遅延量を測定することができるようになる。より詳細な動作については以下の遅延測定方法の説明にて述べる。
【0045】
(遅延測定方法)
ここで、本実施形態に係る半導体集積回路を用いた遅延測定方法について説明する。本実施形態にかかる遅延測定方法は、(1)接続された複数のフリップフロップにクロック信号を入力し、(2)複数のフリップフロップのうちいずれかに発生する入出力間の遷移を検出して停止信号を作成し、(3)クロック信号と停止信号の間の遷移時間を測定し、更に、(4)上記(1)〜(3)を複数回行い、複数の遷移時間の差を求めることを特徴とする。
【0046】
なお、本実施形態にかかる遅延測定方法においては、事前準備として、(0−1)マスクラッチMLの値の設定、(0−2)被測定回路部2の複数のフリップフロップ21〜28の値の設定、(0−3)遅延時間測定回路部4の初期化、を行う。
【0047】
(0−1)マスクラッチMLの値の設定は、測定対象となる被測定回路部におけるフリップフロップを特定するための処理であり、特定のフリップフロップにおいて生じる遷移のみを取り出すことができるようになり、特定されたフリップフロップ以外のフリップフロップで発生する遷移を無視することができるようになる。この限りにおいて限定されるわけではないが、具体的には、遷移時間の測定対象となるマスクラッチMLに1の値を入力し、その他のマスクラッチMLには0を入力する。この結果、測定対象となるマスクラッチ以外のマスクラッチの遷移は検出されなくなる。
【0048】
また、(0−2)フリップフロップ21〜28の値の設定は、測定に必要な遷移形態を実現するために行う設定である。限定されるわけではないが、例えば、最初のフリップフロップ25から六番目のフリップフロップ26にまで遷移を伝達させたい場合、クロック信号が入力された場合、最初のフリップフロップ25に遷移が生じさせ、二番目以降順次遷移が移動し、六番目のフリップフロップ26に伝達するよう各フリップフロップに値を入力させることが考えられる。
【0049】
また、(0−3)遅延時間測定回路部の初期化は、遷移時間を測定するために必要な処理であり、限定されるわけではないが、上記図7で示されるような回路において、リセット信号rstを入力することで、時間測定の基準を0にすることができる。
【0050】
そして、本実施形態に係る遅延測定方法は、(1)接続された複数のフリップフロップにクロック信号を入力する。すると、上記(0−2)で行った設定に基づき、遷移が発生、伝搬し、停止信号回路部3に入力される。
【0051】
そして停止信号回路部3は、(2)複数のフリップフロップのうちいずれかに発生する入出力間の遷移を検出して停止信号を作成する。具体的には、上記マスクラッチの設定により特定されたマスクラッチを有する遷移検出回路部31により検出される停止信号に基づき、停止信号が出力される。
【0052】
そして遅延時間測定回路部は、停止信号の入力を受け付け、(3)クロック信号と停止信号の間の遷移時間を測定する。以上、この一連の動作により、遷移時間T1を測定することができる。
【0053】
また本実施形態に係る遅延時間測定方法では、別途遷移時間T2を測定し、上記で求めた遷移時間T1との差を求め、遅延時間として計算する。なお今回の遷移時間の測定において、(0−1)、(0−3)、(2)、(3)は同様であるが、(0−2)におけるフリップフロップの値の設定のみが異なる。
【0054】
今回の測定においては、測定対象となる被測定回路部におけるフリップフロップは、クロック信号の入力があれば直ちに遷移が発生するよう設定される。つまりクロック信号が入力されるとすぐに遷移が発生するようフリップフロップに信号を入力しておく。
【0055】
そして、遅延時間測定部4の遷移時間差測定部42により、複数の前記遷移時間の差を求めることができる。
【0056】
以上、本実施形態により、フリップフロップ間のパスの遅延量を測定することのできる半導体集積回路及びこの遅延測定方法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、少なくとも半導体集積回路として産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0058】
1…半導体集積回路、2…被測定回路部、3…停止信号作成回路部、4…遅延時間測定回路部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続された複数のフリップフロップを有する被測定回路部と、
前記複数のフリップフロップの入力及び出力のそれぞれに接続され、前記フリップフロップの入出力間の遷移を検出し、停止信号を作成する停止信号作成回路部と、
前記停止信号作成回路部に接続される遅延時間測定回路部と、を有し、
前記遅延時間測定回路部は、入力されるクロック信号と前記停止信号の間の遷移時間を測定する遷移時間測定回路部と、複数の遷移時間の差を測定する遷移時間差測定回路部と、を有する半導体集積回路。
【請求項2】
接続された複数のフリップフロップを有する被測定回路部と、
前記複数のフリップフロップの入力及び出力のそれぞれに接続され、前記フリップフロップの入出力間の遷移を検出し、停止信号を作成する停止信号作成回路部と、
前記停止信号作成回路部に接続される遅延時間測定回路部と、を有する半導体集積回路。
【請求項3】
接続された複数のフリップフロップにクロック信号を入力し、前記複数のフリップフロップのうちいずれかに発生する入出力間の遷移を検出して停止信号を作成し、前記クロック信号と前記停止信号の間の遷移時間を測定する工程、を複数回行い、複数の前記遷移時間の差を求める半導体集積回路の遅延測定方法。
【請求項4】
接続された複数のフリップフロップにクロック信号を入力し、前記複数のフリップフロップのうちいずれかに発生する入出力間の遷移を検出して停止信号を作成し、前記クロック信号と前記停止信号の間の遷移時間を測定する、半導体集積回路の遅延測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−113984(P2011−113984A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265825(P2009−265825)
【出願日】平成21年11月23日(2009.11.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年6月12日社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術報告 信学技報 FIIS09 No.254」に発表
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】