説明

単三形アルカリ電池

【課題】 4本のうち1本をプラスマイナス逆に装填した場合、単三形では、負極端子の大きさの関係から、単一形、単二形アルカリ電池で採用されている負極端子に突起部を設ける手法がとれず、対応がとれていないのが現状である。この発明の目的は、電池4本直列のうち1本逆装された場合であっても電解液の漏出を大幅に改善した単三形アルカリ電池を提供することである。
【解決手段】 負極の主たる活物質として亜鉛を用い、正極の主たる活物質として二酸化マンガンもしくはオキシ水酸化ニッケルを用い、不織布からなるセパレータを用い、電解液として水酸化カリウム水溶液を用いた単三形アルカリ電池であって、この電池中に酸化亜鉛が0.08g以上0.1g以下添加されていることを特徴とする単三形アルカリ電池を提供する。さらに不織布からなるセパレータの透気度は、50ml/sec/cm2以上65ml/sec/cm2以下の範囲であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放電特性および電解液の漏出を改善した単三形アルカリ電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器は小型化、ポータブル化され、アルカリ電池で駆動する商品が増加してきている。このアルカリ電池の電解液には、水酸化カリウム水溶液が用いられているが、この電解液が電池外部に漏出した場合、電子機器や人体に損傷を与える可能性があり問題となっている。特に、本来電池4本直列で使う機器に対して、4本のうち1本をプラスマイナス逆に装填した場合に、電解液が電池外部に漏出しやすく、その改善が求められている。例えば、以下の特許文献1に開示されているようにこのような4本のうち1本をプラスマイナス逆に装填した場合の対策として、単一形、および単二形アルカリ電池では、負極端子に突起部を設け、プラスマイナス逆に装填した場合、電流が流れない方策が採られている。
【0003】
【特許文献1】特開平5−135776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
4本のうち1本をプラスマイナス逆に装填した場合、単三形では、負極端子の大きさの関係から、単一形、単二形アルカリ電池で採用されている負極端子に突起部を設ける手法がとれず、対応がとれていないのが現状である。
【0005】
この発明の目的は、電池4本直列のうち1本逆装された場合であっても電解液の漏出を大幅に改善した単三形アルカリ電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を解決するため、この発明は、負極の主たる活物質として亜鉛を用い、正極の主たる活物質として二酸化マンガンもしくはオキシ水酸化ニッケルを用い、不織布からなるセパレータを用い、電解液として水酸化カリウム水溶液を用いた単三形アルカリ電池であって、この電池中に酸化亜鉛が0.08g以上0.1g以下添加されていることを特徴とする単三形アルカリ電池を提供する。
【0007】
さらに、上記不織布からなるセパレータの透気度は、50ml/sec/cm2以上65ml/sec/cm2以下の範囲であることが好ましい。酸素ガスがセパレータを通して負極に移動する場合、透気度が高すぎても低すぎても良好な結果は得られない。
【0008】
電池4本直列のうち1本逆装した場合、逆装された電池は他の3本の電池によって機器の回路を通して充電される。この逆装され、充電される電池の正極側から発生する酸素ガスが負極側に移動して負極亜鉛を酸化することが、電池4本直列のうち1本逆装した場合の電解液漏出に大きく影響を与える。
【0009】
機器の回路を通して流れる電流が大きい場合には、負極から水素ガス、正極から酸素ガスが発生し、このため電池の内部の圧力は増大し、やがてプラスチックシールの安全弁を動作させ、電池外部に漏出する。この時同時に電解液も漏出してしまう。
【0010】
機器の回路を通して流れる電流が小さい場合には、次の反応が起こり漏液しない。充電反応によって正極から発生する酸素ガスは、セパレータを通して負極に移動し、負極亜鉛を酸化して酸化亜鉛に変えることに消費され、電池内部の圧力を上げることはない。生成した酸化亜鉛は、充電され亜鉛に還元される。この反応が水素ガス発生反応より優先して起こるため、水素ガスが発生せず電池内部の圧力を上げることはない。厳密に言えば、機器の回路を通して流れる電流が大きい場合、充電反応によって正極から発生する酸素ガスは、セパレータを通して負極に移動し、負極亜鉛を酸化して酸化亜鉛に変える。この反応速度より負極での水素発生速度の方が速いと、電池内部圧力が増大して漏液がおきる。
【0011】
したがって、この発明は、あらかじめ酸化亜鉛を電池中に多量配合させることにより、逆装初期の時点において水素ガス発生反応より先に酸化亜鉛の還元反応を先に起こさせるものである。この反応が起こっている間、正極から十分な酸素ガスが発生し、セパレータを通して負極に移動し、十分負極亜鉛を酸化して新たな酸化亜鉛の供給源となる。よって、たとえ初期に配合した酸化亜鉛が消費されても引き続き水素ガスの発生反応は抑制される。
【0012】
また、さらに透気度の高いセパレータ、好適には50ml/sec/cm2以上65ml/sec/cm2以下の範囲のセパレータを用いると、酸素ガスがセパレータを通して負極に移動する速度が速く、亜鉛を速やかに酸化亜鉛に変えることができ、より大きな電流が流れる機器においても電解液は漏出しにくくなる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、単三形アルカリ電池に添加する酸化亜鉛の質量を規定することで放電特性および4本のうち1本をプラスマイナス逆に装填した場合の電解液の漏出防止効果の両方を満足する電池を提供することができる。さらにプラスマイナス逆に装填した場合セパレータの透気度を規定することで、さらに大電流が流れた場合でも電解液の漏出を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施形態として単三形アルカリ電池の一構成例を図1に示す。図1の単三形アルカリ電池は、開口部を有する中空有底円筒状の金属製正極缶2内に中空円筒状の正極4と、正極4に当接されるように配置されて有底円筒状に形成されたセパレータ5と、セパレータ5の内側に配置される負極6と電解液が収納されている。また図1の単三形アルカリ電池は、上記正極缶2の開口部を封口させる封口ユニットを備える。
【0015】
なお、図1の単三形アルカリ電池は、その円筒外周面が外装ラベル11で覆われている。正極4は、二酸化マンガンと黒鉛と水酸化カリウム水溶液からなる正極合剤が中空円筒状に形成されてなり、負極6は、粒状亜鉛と酸化亜鉛、水酸化カリウム水溶液、増粘剤を含有しゲル状とされた負極合剤からなる。この負極合剤は、有底円筒状のセパレータ5の内部に注入されている。セパレータ5は、その材料として例えばポリオレフィン不織布が用いられ、円筒状に形成された正極4の中空部に当節するように配置されており、電解液である水酸化カリウム水溶液が含浸されている。封口ユニットは、封口部材7と補強部材8と集電ピン9と負極端子10からなる。
【0016】
また、封口部材7は、その中央部に貫通孔が設けられ、この貫通孔から釘状の集電ピン9が圧入される。集電ピン9は、その材料として、例えば黄銅等が用いられ、その表面はすずメッキが施されており、上記封口部材7の中央部に設けられた貫通孔内に、外側から圧入されて、負極6に接している。
【0017】
図1の単三形アルカリ電池における充電時の正極、負極で起こる反応を図2〜図7に基づき説明する。まず、図2は、電池負極に規定量の酸化亜鉛を添加し、充電電圧を印加していない状態を表している。ここでは電子移動はなく、この状態を初期状態と称する。図7のグラフでは時間が0の位置2に相当する。
【0018】
図3は、充電開始後およそ30分程度経過した状態である。この状態は、以下の反応式(1)に従う。図4の水素ガス発生反応に先立って、正極で添加した酸化亜鉛の還元反応が始まる。この反応段階は図7のグラフの範囲3に相当する。
【0019】
【化1】

【0020】
図4は、充電開始後およそ30分〜80分程度経過した状態である。この状態は、以下の反応式(2)に従う。正極で添加した酸化亜鉛の還元反応(1)が進行し、酸素ガスがセパレータを通過して負極に移動して負極中の亜鉛を酸化亜鉛に変える反応段階である。この反応は反応式(2)に従う負極での水素発生の反応より早い時期に起こる。この反応段階は、図7のグラフの範囲4に相当する。
【0021】
【化2】

【0022】
図5は、充電開始後およそ80分〜130分程度経過した状態である。この状態は、以下の反応式(3)に従う。セパレータを介して負極に移動した酸素が亜鉛を酸化する反応段階である。この反応段階は、図7のグラフの範囲5に相当する。
【0023】
【化3】

【0024】
図6は、充電開始後130分以上経過した状態を示す。上記図3、図5の反応が起こっている間、正極から十分な酸素がセパレータを介して負極に移動して負極中の亜鉛を酸化し、新たな酸化亜鉛供給源となる。したがって、初期に配合した酸化亜鉛が消費されても水素ガスの発生は抑制される。このときの反応は反応式(4)、(5)に従い、反応段階は、図7のグラフの範囲6に相当する。
【0025】
さらに正極では反応式(6)に従う反応が充電開始より起こる。この発明では、正極の主たる活物質として二酸化マンガンを用いたが、この発明の効果は正極に依存しないので、正極の主たる活物質としてオキシ水酸化ニッケルを用いても同様にこの発明の効果は得られる。
【0026】
【化4】

【0027】
【化5】

【0028】
【化6】

【0029】
なお、電池中に酸化亜鉛を添加する手法として、負極合剤中への添加を用いたが、セパレータに添加する電解液に酸化亜鉛を溶解して用いても良い。また正極中へ酸化亜鉛を添加しても、この発明の効果は得られる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例に基づいてこの発明をさらに具体的に説明するが、この発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例には単三形アルカリ電池を用いたが、この発明の効果を確認すべく、図1に示したような構成の単三形アルカリ電池を作成して、その放電特性と4本のうち1本をプラスマイナス逆に装填した場合の電解液の漏出の有無を評価した。
【0031】
〔実施例1−1〕
正極缶に、二酸化マンガン85.5質量%と黒鉛8質量%と質量濃度37%の水酸化カリウム水溶液6.5質量%の割合で均一に混合して得られた正極合剤3.6gを外径13.2mm、内径9.1mm、高さ15mmのリング状に成形したものを3個挿入した。次に、正極合剤の中空部に、透気度が130ml/sec/cm2の不織布を3巻きして下端を折りたたんだ、総透気度が43ml/sec/cm2である有底円筒状のセパレータを挿入し、セパレータの内部に重量濃度37%の水酸化カリウム水溶液1.12gを滴下し、この中に亜鉛65質量%、酸化亜鉛1.5質量%、ゲル化剤0.5質量%、重量濃度37%の水酸化カリウム水溶液33質量%からなる負極合剤を5.5g装填した。そして正極缶の開口部を負極端子とプラスチックシールと補強板と釘状の真鍮の表面にすずメッキを施した集電ピンからなる封口ユニットで密封して単三形アルカリ電池を作成した。この時の電池中への酸化亜鉛添加量は0.08gとなった。
【0032】
〔実施例1−2〕
透気度が150ml/sec/cm2の不織布を3巻きして下端を折りたたんだ、総透気度が50ml/sec/cm2である有底円筒状のセパレータを用いたこと以外は、実施例1−1と同様の製造方法で単三形アルカリ電池を作成した。この時の電池中への酸化亜鉛添加量は0.08gとなった。
【0033】
〔実施例1−3〕
透気度が130ml/sec/cm2の不織布を2巻きして下端を折りたたんだ、総透気度が65ml/sec/cm2である有底円筒状のセパレータを用いたこと以外は、実施例1−1と同様の製造方法で単三形アルカリ電池を作成した。この時の電池中への酸化亜鉛添加量は0.08gとなった。
【0034】
〔実施例1−4〕
透気度が150ml/sec/cm2の不織布を2巻きして下端を折りたたんだ、総透気度が75ml/sec/cm2である有底円筒状のセパレータを用いたこと以外は、実施例1−1と同様の製造方法で単三形アルカリ電池を作成した。この時の電池中への酸化亜鉛添加量は0.08gとなった。
【0035】
〔実施例2−1〕
負極合剤が亜鉛65質量%、酸化亜鉛1.8質量%、ゲル化剤0.5質量%、重量濃度37%の水酸化カリウム水溶液32.7質量%であること以外は、実施例1−1と同様の製造方法で単三形アルカリ電池を作成した。この時の電池中への酸化亜鉛添加量は0.1gとなった。
【0036】
〔実施例2−2〕
透気度が150ml/sec/cm2の不織布を3巻きして下端を折りたたんだ、総透気度が50ml/sec/cm2である有底円筒状のセパレータを用いたこと以外は、実施例2−1と同様の製造方法で単三形アルカリ電池を作成した。この時の電池中への酸化亜鉛添加量は0.1gとなった。
【0037】
〔実施例2−3〕
透気度が130ml/sec/cm2の不織布を2巻きして下端を折りたたんだ、総透気度が65ml/sec/cm2である有底円筒状のセパレータを用いたこと以外は、実施例2−1と同様の製造方法で単三形アルカリ電池を作成した。この時の電池中への酸化亜鉛添加量は0.1gとなった。
【0038】
〔実施例2−4〕
透気度が150ml/sec/cm2の不織布を2巻きして下端を折りたたんだ、総透気度が75ml/sec/cm2である有底円筒状のセパレータを用いたこと以外は、実施例2−1と同様の製造方法で単三形アルカリ電池を作成した。この時の電池中への酸化亜鉛添加量は0.1gとなった。
【0039】
〔比較例1〕
負極合剤が亜鉛65質量%、酸化亜鉛1.1質量%、ゲル化剤0.5質量%、重量濃度37%の水酸化カリウム水溶液33.4質量%であること以外は、実施例1−1と同様の製造方法で単三形アルカリ電池を作成した。この時の電池中への酸化亜鉛添加量は0.06gとなった。
【0040】
〔比較例2〕
負極合剤が亜鉛65質量%、酸化亜鉛2.2質量%、ゲル化剤0.5質量%、重量濃度37%の水酸化カリウム水溶液32.3質量%であること以外は、実施例1−1と同様の製造方法で単三形アルカリ電池を作成した。この時の電池中への酸化亜鉛添加量は0.12gとなった。
【0041】
以上のようにして、実施例1−1〜1−4、実施例2−1〜2−4、および比較例1〜2の電池をそれぞれ60個づつ作成した。そしてこの発明の効果を確認するために、各々電池10個を1000mAの定電流で放電し、 0.9Vまでの放電時間を測定する試験を行った。また各々電池10個を40Ωの定電流で放電し、0.9Vまでの放電時間を測定する試験を行った。さらに40Ωの抵抗を介して電池4本直列のうち1本逆装して、その時の電解液の漏出の有無を調査する40Ω逆装試験5セット及び30Ωの抵抗を介して電池4本直列のうち1本逆装して、その時の電解液の漏出の有無を調査する30Ω逆装試験5セットを行った。これらの結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示されるように比較例2以外の電池は、1000mAの定電流放電で50分以上の放電時間を示している。比較例2の電池は酸化亜鉛添加が多すぎるために十分な放電容量が得られなかった。また実施例1−4および実施例2−4の電池はセパレータの透気度が高すぎて、40Ω定抵抗放電で内部短絡による容量低下が観察された。40Ω逆装試験では、上記実施例の電池と比較例2の電池は、酸化亜鉛が多いため、酸化亜鉛から亜鉛に変えるために多くの電気エネルギーが使われ水素ガス発生が抑制される。このため電解液の漏出は観察されなかった。
【0044】
さらに流れる電流が大きい30Ω逆装試験の場合、実施例電池1−2、実施例電池1−3、実施例1−4、実施例2−2、実施例2−3、実施例2−4は、セパレータの透気度が高く、正極で発生した酸素が負極へ速やかに移動し、亜鉛を酸化亜鉛に化学酸化しやすい。この生成した酸化亜鉛を亜鉛に変えるために多くの電気エネルギーが使われ水素ガス発生が抑制される。このためさらに電解液の漏出は抑制できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明に係わる単三形アルカリ電池の一構成例を示す図である。
【図2】この発明にかかわる単三形アルカリ電池の初期状態を示す図である。
【図3】この発明にかかわる単三形アルカリ電池の30分充電経過後の状態を示す図である。
【図4】この発明にかかわる単三形アルカリ電池の30分〜80分充電後の状態を示す図である。
【図5】この発明にかかわる単三形アルカリ電池の80分〜130分充電後の状態を示す図である。
【図6】この発明にかかわる単三形アルカリ電池の130分充電後の状態を示す図である。
【図7】この発明にかかわる単三形アルカリ電池の充電時の正極、負極の電位状態を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 単三形アルカリ電池
2 正極缶
3 導電性塗料
4 正極
5 セパレータ
6 負極
7 封口部材
8 補強部材
9 集電ピン
10 負極端子
11 外装ラベル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極の主たる活物質として亜鉛を用い、正極の主たる活物質として二酸化マンガンもしくはオキシ水酸化ニッケルを用い、不織布からなるセパレータを用い、電解液として水酸化カリウム水溶液を用いた単三形アルカリ電池であって、この電池中に酸化亜鉛が0.08g以上0.1g以下添加されていることを特徴とする単三形アルカリ電池。
【請求項2】
不織布からなるセパレータの総透気度が50ml/sec/cm2以上65ml/sec/cm2以下の範囲にある請求項1記載の単三形アルカリ電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−156158(P2006−156158A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345760(P2004−345760)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】